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明細書 :Tol1因子のトランスポザーゼ及びそれを用いたDNA導入システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5320546号 (P5320546)
登録日 平成25年7月26日(2013.7.26)
発行日 平成25年10月23日(2013.10.23)
発明の名称または考案の名称 Tol1因子のトランスポザーゼ及びそれを用いたDNA導入システム
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 9/10 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
請求項の数または発明の数 32
全頁数 64
出願番号 特願2008-549271 (P2008-549271)
出願日 平成19年12月6日(2007.12.6)
国際出願番号 PCT/JP2007/073565
国際公開番号 WO2008/072540
国際公開日 平成20年6月19日(2008.6.19)
優先権出願番号 2006335786
2007253321
優先日 平成18年12月13日(2006.12.13)
平成19年9月28日(2007.9.28)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成22年11月27日(2010.11.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】古賀 章彦
【氏名】濱口 哲
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 蛋白質核酸酵素,2004年,Vol.49, No.13,p.2103-2109
Zoological Science,2002年,vol.19,p.1-6
Pigment Cell Res.,2006年 8月,vol.19,p.243-247
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのタンパク質からなる、Tol1因子のトランスポザーゼ:
(a)配列番号1で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ配列番号10~12のいずれかで示されるDNAからなるTol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかの塩基配列からなる、Tol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列;
(b)配列番号1、配列番号3又は配列番号4で示される塩基配列;
(c)(b)の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、又は(b)の塩基配列を基準として1~40個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列であって、且つ配列番号10~12のいずれかで示されるDNAからなるTol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクト。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、請求項3に記載の発現コンストラクト。
【請求項5】
下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、請求項3又は4に記載の発現コンストラクト。
【請求項6】
(a)トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に目的のDNAが挿入された構造のドナー要素と、
(b)請求項1に記載のトランスポザーゼ、又は請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むヘルパー要素と、
を含む、DNA導入システム。
【請求項7】
前記Tol1因子が、配列番号5で示される逆方向反復配列を5’側末端部に備え、且つ配列番号6で示される逆方向反復配列を3’側末端部に備える、請求項6に記載のDNA導入システム。
【請求項8】
前記Tol1因子が、以下の(a)又は(b)のDNAからなる、請求項6に記載のDNA導入システム:
(a)配列番号10~12のいずれかで示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号10~12のいずれかで示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、又は(a)の塩基配列を基準として1~10個の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、且つ配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するトランスポザーゼが末端に結合するDNA。
【請求項9】
前記Tol1因子が、配列番号10で示される塩基配列の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAからなる、請求項6に記載のDNA導入システム。
【請求項10】
前記Tol1因子が、配列番号21で示される塩基配列からなるDNAと、配列番号22で示される塩基配列からなるDNAとからなる、請求項6に記載のDNA導入システム。
【請求項11】
前記Tol1因子の5’末端及び3’末端に標的部位重複配列が連結されている、請求項8~10のいずれかに記載のDNA導入システム。
【請求項12】
前記標的部位重複配列が配列番号13~15のいずれかで示される配列からなる、請求項11に記載のDNA導入システム。
【請求項13】
前記目的のDNAが遺伝子である、請求項6~12のいずれかに記載のDNA導入システム。
【請求項14】
前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に目的のDNAが挿入されたベクターであり、
前記ヘルパー要素が、請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、請求項6~13のいずれかに記載のDNA導入システム。
【請求項15】
ヘルパー要素である前記ベクターが、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、請求項14に記載のDNA導入システム。
【請求項16】
ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、請求項14又は15に記載のDNA導入システム。
【請求項17】
ヒト個体を構成した状態の細胞以外の脊椎動物細胞からなる標的細胞に対して、請求項6~16のいずれかに記載のDNA導入システムを導入するステップを含む、DNA導入法。
【請求項18】
前記DNA導入システムによって導入される前記目的のDNAと異なるDNAを、Tol2因子を利用して前記標的細胞に導入するステップを更に含む、請求項17に記載のDNA導入法。
【請求項19】
請求項18に記載のDNA導入法を用いて遺伝子操作された、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の細胞に対して、Tol1因子又はTol2因子に対応したトランスポザーゼを供給するステップを含む、ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法。
【請求項20】
トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子をゲノムDNA上に保有する、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の細胞に、請求項1に記載のトランスポザーゼ、又は請求項2に記載のポリヌクレオチドを導入するステップを含む、ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法。
【請求項21】
前記Tol1因子に他のポリヌクレオチド配列が挿入されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ挿入部位を有するTol1因子を含む発現コンストラクトからなるドナー要素と、
請求項1に記載のトランスポザーゼ、又は請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクトからなるヘルパー要素と、
を含むDNA導入用キット。
【請求項23】
前記Tol1因子が、配列番号10で示される塩基配列の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAの間に挿入部位が形成された構造からなる、請求項22に記載のDNA導入用キット。
【請求項24】
前記Tol1因子が、配列番号21で示される塩基配列からなるDNAと、配列番号22で示される塩基配列からなるDNAとの間に挿入部位が形成された構造からなる、請求項22に記載のDNA導入用キット。
【請求項25】
前記挿入部位が、種類の異なる複数の制限酵素認識部位からなる、請求項2224のいずれかに記載のDNA導入用キット。
【請求項26】
前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ挿入部位を有するTol1因子を含むベクターであり、
前記ヘルパー要素が請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、請求項2225のいずれかに記載のDNA導入用キット。
【請求項27】
ヘルパー要素である前記ベクターが、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、請求項26に記載のDNA導入用キット。
【請求項28】
ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、請求項26又は27に記載のDNA導入用キット。
【請求項29】
トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に対して、請求項2に記載のポリヌクレオチドが挿入された構造を有する、再構築されたトランスポゾン。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを含む、請求項29に記載のトランスポゾン。
【請求項31】
下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を含む、請求項29又は30に記載のトランスポゾン。
【請求項32】
請求項2931のいずれかに記載のトランスポゾンを含む、DNA導入システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はトランスポゾンの転移を触媒する酵素(以下、トランスポザーゼ)及びその利用に関する。詳しくは、本発明はメダカ由来のトランスポゾンTol1因子(Transposable element of Oryzias latipes, no. 1)のトランスポザーゼ及びそれをコードするポリヌクレオチド、当該トランスポザーゼを利用したDNA導入システム及びDNA導入法、並びに当該システムなどに用いられるDNA導入キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA型転移因子は、生物のゲノムを構成する反復配列の一種であり、脊椎動物のゲノムにも大量に存在する。ただし、脊椎動物のDNA型転移因子は、転移活性を失って残骸となったものがほとんどである。転移の直接の証明がなされている、脊椎動物のDNA型転移因子は、ゼブラフィッシュのTzf因子 (Lam WL, Lee TS, Gilbert W (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93: 10870-10875.) とメダカのTol2因子(Transposable element of Oryzias latipes, no. 2)(Koga A, Suzuki M, Inagaki H, Bessho Y, Hori H. (1996) Transposable element in fish. Nature 383: 30)のみである。
【0003】
Tol1因子は、メダカのゲノムに100~200コピー存在するDNA型因子である(Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6.(非特許文献1))。この因子は、完全なアルビノの体色を示す突然変異体のチロシナーゼ遺伝子に挿入している断片として発見された(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 400-405.(非特許文献2))。チロシナーゼは、黒色素メラニンの生合成に必須の酵素である。その後にみつかったTol2では、転移活性は容易に証明された。これとは異なり、Tol1因子は、エクシジョンやインサーションを直接検出することができなかったため、すでに転移活性を失った因子であると当初は考えられた。最初にチロシナーゼ遺伝子の中で見つかったコピーに加えて、他のコピーも単離して調べたが、遺伝子とみられる構造はなかった(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 400-405.(非特許文献2))。このことも、すでに転移活性を失った因子であると考えられた理由である。
2001年、アルビノのサブ系統の一つとして、体に部分的に着色のある個体、すなわちモザイク着色の個体が見出された。この個体を分析した結果、Tol1因子が体細胞でその挿入部位から抜け出すことが証明された(Tsutsumi M, Imai S, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hori H (2006) Pigment Cell Res 19: 243-247.(非特許文献3))。抜けるという現象が起こることは、Tol1は転移活性を失っていないDNA型転移因子であることを意味する。しかしながら、この因子の染色体へのde novo挿入が観察されたことはない。また、転移酵素(トランスポザーゼ)も見つかっていない。
ところで、転移因子は遺伝子工学的手法や分子学的手法に利用される。例えば、突然変異誘発、遺伝子、プロモーター、エンハンサー等のトラッピング、遺伝子治療等への転移因子の利用・応用が期待されている。メダカのゲノムに存在する因子としてみつかったTol2因子は、このような応用にすでに供されている(Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.(非特許文献4)、Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.(非特許文献5)、Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.(非特許文献6)、特開2001-218588号公報(特許文献1))。Tol2因子の他にも、サケのゲノムにある残骸から人工的に再構築したSleeping Beauty 因子(Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.(非特許文献7)、特表2001-523450号公報(特許文献2))、カエルから同様に再構築したFrog Prince 因子(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.(非特許文献8)、特表2005-527216号公報(特許文献3))、昆虫から単離したpiggyBac因子(Wu SC, Meir YJ, Coates CJ, Handler AM, Pelczar P, Moisyadi S, Kaminski JM (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103: 15008 ?15013.(非特許文献9))が遺伝子導入等へ利用されている。これらの因子は転移頻度が高いという特徴をもつ。この特徴は、遺伝子工学的手法や分子生物学的手法への利用・応用を考えた場合、極めて重要である。Tol1についても、本発明者らが発見したメダカでは着色している細胞の数が多いため、転移頻度が高いと推測される。

【特許文献1】特開2001-218588号公報
【特許文献2】特表2001-523450号公報
【特許文献3】特表2005-527216号公報
【非特許文献1】Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6.
【非特許文献2】Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 400-405.
【非特許文献3】Tsutsumi M, Imai S, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hori H (2006) Pigment Cell Res 19: 243-247.
【非特許文献4】Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.
【非特許文献5】Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.
【非特許文献6】Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.
【非特許文献7】Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.
【非特許文献8】Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.
【非特許文献9】Wu SC, Meir YJ, Coates CJ, Handler AM, Pelczar P, Moisyadi S, Kaminski JM (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103: 15008-15013.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新規な転写因子としてその利用・応用が大いに期待されるTol1因子ではあるが、これまでにみつかっているTol1因子は全て内部が欠失したコピーであり、完全長のコピーがもつと考えられるトランスポザーゼ及びその遺伝子は同定されていない。
遺伝子工学的手法や分子生物学的手法に転移因子を利用するためには、ベクターとなる因子に加えて、それを転移させる要素であるトランスポザーゼが必要である。
そこで本発明は、遺伝子工学的手法などにTol1因子を利用するため、Tol1因子のトランスポザーゼを提供することを目的とする。また、Tol1因子の用途(DNA導入システムやDNA導入法など)を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記のモザイク着色の個体(メダカ)を実験材料として用いTol1因子のトランスポザーゼ遺伝子を同定することを試みた。まず、データベースの検索を繰り返し行うことによって、トランスポザーゼ遺伝子の塩基配列であると予想される配列を組み上げた。続いて、モザイク着色の個体のmRNAを分析することなどを通して、2.9 kbのcDNAを同定することに成功した。このcDNAの配列を調べた結果、851アミノ酸に相当する配列が内部に存在することが判明した。一方、このcDNAがコードするタンパク質は、ヒト細胞及びマウス細胞の両者でTol1の転移を引き起こすことが確認された。また、転移頻度を調べた結果、Tol2に匹敵する高い値を示した。このことは、Tol1因子がトランスポゾンとしてTol2因子と同様の利用価値及び将来性を有することを意味する。Tol1因子はTol2因子の代替手段となり得る点でもその利用価値が高い。即ち、Tol2因子によっては十分な転移頻度が得られない細胞系列や生物種に対してTol1因子が有効に作用する可能性がある。
更なる検討の結果、Tol1とTol2は、相互の転移を誘発することがない(即ち、Tol1のトランスポザーゼがTol2の転移を誘発せず、その逆も同様であること)という、注目すべき知見も得られた。この知見に基づけば、Tol1因子とTol2因子の両者を利用して標的細胞に2種類のDNAを続けて導入することが可能といえる。また、このようにして2種類のDNAを導入した後、片方の因子に対応するトランスポザーゼを供給することによって、いずれかのDNAのみを特異的に転移させることができる。このように、Tol1因子とTol2因子が互いの転移に影響しないという事実はTol1因子の有用性・利用価値を格段に高める。
更に検討を進めた結果、18kbや20kbの長さのTol1因子の存在が明らかとなった。このことは、サイズの大きなDNA断片の導入手段(運搬手段)としてTol1因子が有用であることを示唆する。この点に注目して2種類の実験を施行した。第1の実験として、チロシナーゼ遺伝子に挿入した断片として発見されたTol1因子(Tol1-tyr、1,855塩基対、配列番号10)において、転移に不要な内部領域の除去を試みた。その結果、左端(5’末端部分)157bpと右端(3’末端部分)106bpの部分さえあれば、Tol1因子は転移効率を損なうことなく転移することが判明した。第2の実験として、上記の通り内部領域を欠失させた短いTol1因子に様々なサイズのDNA断片を挿入した場合の転移効率を測定した。その結果、挿入するDNA断片のサイズが大きいほど(即ちTol1因子の左端から右端までの距離が長いほど)転移頻度が低下した。しかしながら、挿入するDNA断片のサイズが最大であり、Tol1因子の左端から右端までの距離が22.1kbとなる場合であっても、依然としてその転移頻度は、転移によらないランダムな染色体への組込みの頻度より有意に高いものであった。哺乳類で使用されているDNA型転移因子は複数存在するが、22.1kbという因子の長さはこれまでの報告の中では最長となる。以上のように、本発明者らの検討の結果、Tol1因子はその積載能力に優れ、サイズの大きなDNA断片の導入手段(運搬手段)として極めて有用であることが証明された。
更なる検討の結果、脊椎動物の遺伝および発生の研究のモデルとして重要なアフリカツメガエル(Xenopus laevis)においてもTol1因子のエクシジョンが起こることが判明し、Tol1因子がアフリカツメガエルの細胞内でも転移因子として機能することが示唆された。このことは、Tol1因子の汎用性の高さを裏付ける重要な知見といえる。
一方、Tol1因子が昆虫においても機能することを確認した。まず、Tol1因子の非自律的コピーを含むドナープラスミドを、Tol1因子の転移酵素をコードするRNAとともに、カイコの受精卵に注入した。それを保温して発生を進行させた後、胚からプラスミドDNAを回収した。続いて、その構造をPCRで分析した。その結果、Tol1因子の部分が抜け出している分子があることがわかった。また、胚からゲノムDNAを抽出し、逆向きPCRの手法で分析した。これから、Tol1因子が染色体に入り込んでいることが判明した。このように、転移反応の2つの段階であるエクシジョンとインサーションの両方がカイコで起こっていた。この結果には、つぎの3つの意義がある。(1)Tol1因子の転移反応には、ホスト(宿主)の生物からの要因を必要としないか、必要とするにしても、それは旧口動物と新口動物の生物種が共通にもつものである。(2)カイコで利用できる遺伝子導入・遺伝子トラップ・突然変異誘発等の系を、Tol1因子を利用して構築できる。(3)広い範囲の動物で利用できる同様の系を構築できる。
以上のように、Tol1因子のトランスポザーゼの同定に成功するとともに、遺伝子工学的手法に利用される転移因子として好ましい性質をTol1因子が備えることが明らかとなった。本発明は当該成果に基づくものであり、以下のトランスポザーゼやDNA導入システム等を提供する。
[1]以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのタンパク質からなる、Tol1因子のトランスポザーゼ:
(a)配列番号1で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有し、且つTol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質。
[2]以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかの塩基配列からなる、Tol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列;
(b)配列番号1、配列番号3又は配列番号4で示される塩基配列;
(c)(b)の塩基配列と相同な塩基配列であって、且つTol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
[3][2]に記載のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクト。
[4]前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、[3]に記載の発現コンストラクト。
[5]下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、[3]又は[4]に記載の発現コンストラクト。
[6](a)トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に目的のDNAが挿入された構造のドナー要素と、
(b)[1]に記載のトランスポザーゼ、又は[2]に記載のポリヌクレオチドを含むヘルパー要素と、
を含む、DNA導入システム。
[7]前記Tol1因子が、配列番号5で示される逆方向反復配列を5’側末端部に備え、且つ配列番号6で示される逆方向反復配列を3’側末端部に備える、[6]に記載のDNA導入システム。
[8]前記Tol1因子が、以下の(a)又は(b)のDNAからなる、[6]に記載のDNA導入システム:
(a)配列番号10~12のいずれかで示される塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号10~12のいずれかで示される塩基配列と相同な塩基配列からなり、且つ配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するトランスポザーゼが末端に結合するDNA。
[9]前記Tol1因子が、配列番号10で示される塩基配列の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAからなる、[6]に記載のDNA導入システム。
[10]前記Tol1因子が、配列番号21で示される塩基配列からなるDNAと、配列番号22で示される塩基配列からなるDNAとからなる、[6]に記載のDNA導入システム。
[11]前記Tol1因子の5’末端及び3’末端に標的部位重複配列が連結されている、[8]~[10]のいずれかに記載のDNA導入システム。
[12]前記標的部位重複配列が配列番号13~15のいずれかで示される配列からなる、[11]に記載のDNA導入システム。
[13]前記目的のDNAが遺伝子である、[6]~[12]のいずれかに記載のDNA導入システム。
[14]前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に目的のDNAが挿入されたベクターであり、
前記ヘルパー要素が、[2]に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、[6]~[13]のいずれかに記載のDNA導入システム。
[15]ヘルパー要素である前記ベクターが、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、[14]に記載のDNA導入システム。
[16]ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、[14]又は[15]に記載のDNA導入システム。
[17]脊椎動物細胞からなる標的細胞に対して、[6]~[16]のいずれかに記載のDNA導入システムを導入するステップを含む、DNA導入法。
[18]前記標的細胞が、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の脊椎動物細胞である、[17]に記載のDNA導入法。
[19]前記DNA導入システムによって導入される前記目的のDNAと異なるDNAを、Tol2因子を利用して前記標的細胞に導入するステップを更に含む、[17]又は[18]に記載のDNA導入法。
[20][19]に記載のDNA導入法を用いて遺伝子操作された細胞に対して、Tol1因子又はTol2因子に対応したトランスポザーゼを供給するステップを含む、ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法。
[21]トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子をゲノムDNA上に保有する細胞に、[1]に記載のトランスポザーゼ、又は[2]に記載のポリヌクレオチドを導入するステップを含む、ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法。
[22]前記Tol1因子に他のポリヌクレオチド配列が挿入されている、[21]に記載の方法。
[23][6]~[16]のいずれかに記載のDNA導入システム、[17]~[19]のいずれかに記載のDNA導入法、又は[20]~[22]のいずれかに記載の方法によって遺伝子操作された細胞。
[24]トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ挿入部位を有するTol1因子を含む発現コンストラクトからなるドナー要素と、
[1]に記載のトランスポザーゼ、又は[2]に記載のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクトからなるヘルパー要素と、
を含むDNA導入用キット。
[25]前記Tol1因子が、配列番号10で示される塩基配列の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAの間に挿入部位が形成された構造からなる、[24]に記載のDNA導入用キット。
[26]前記Tol1因子が、配列番号21で示される塩基配列からなるDNAと、配列番号22で示される塩基配列からなるDNAとの間に挿入部位が形成された構造からなる、[24]に記載のDNA導入用キット。
[27]前記挿入部位が、種類の異なる複数の制限酵素認識部位からなる、[24]~[26]のいずれかに記載のDNA導入用キット。
[28]前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ挿入部位を有するTol1因子を含むベクターであり、
前記ヘルパー要素が[2]に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、[24]~[27]のいずれかに記載のDNA導入用キット。
[29]ヘルパー要素である前記ベクターが、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、[28]に記載のDNA導入用キット。
[30]ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む、[28]又は[29]に記載のDNA導入用キット。
[31]トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に対して、[2]に記載のポリヌクレオチドが挿入された構造を有する、再構築されたトランスポゾン。
[32]前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを含む、[31]に記載のトランスポゾン。
[33]下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を含む、[31]又は[32]に記載のトランスポゾン。
[34][31]~[33]のいずれかに記載のトランスポゾンを含む、DNA導入システム。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】モザイク着色のあるさかな。パネルA~Cは同一のさかなである。片方の目が黒でもう一方が赤のさかな1匹を右側(パネルA)、正面(パネルB)、左側(パネルC)から撮影した。パネルDのさかなは、目に広範囲の着色があり、背中の皮膚にも着色した点が多数ある。背中の点を三角で示した。パネルEは、目にスポーク状の着色のある個体である。パネルFは腹膜である。腹膜は、野生型のさかなでは密に着色しており、アルビノのさかなでは着色は認められない。
【図2】Tol1の非自律的コピーと自律的コピーの構造。Tol1-tyrは、最初に見つかったTol1の非自律的コピーであり、さかなAのチロシナーゼ遺伝子に挿入されていた。Tol1-L1は今回同定に成功した完全型の自律的コピーであり、機能のあるトランスポザーゼ遺伝子を内部に有する。さかなBのゲノムDNAを剪断して36-48 kbの断片を取り出し、これをフォスミドベクターpCC1FOSに挿入してゲノムライブラリーとした。このライブラリーをスクリーニングしてTol1-L1が得られた。内部のトランスポザーゼ遺伝子(エクソン)を棒状に示した。この遺伝子の開始コドン(ATG)と終止コドン(TAG)も示してある。下線をつけてa~eと記してある部分は、ハイブリダイゼーションのプローブを作製するために使用した部分である。xとyは、3'RACEのプライマーと5'RACEのプライマーの位置を示す。これらのプライマーの配列(プライマーx:配列番号16、プライマーy:配列番号17)は、DDBJ/EMBL/GeneBankにアクセッション番号AB264112で登録された塩基配列(配列番号3)の塩基152-181の位置と、457-332の位置に相当する。
【図3】RACE解析の結果。さかなAとさかなBの受精後7日の胚からRNAを抽出し、オリゴ-dTプライマーからのcDNA1本鎖の合成を行った。次に、プライマーxと、RACEキットに含まれている3' アダプタープライマーを使って、このcDNA1本鎖の3' RACEを行った。PCR産物を1.0%のアガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜に転写した後、プローブbとのハイブリダイゼーションを行った。左のパネルは電気泳動直後の写真で、右のパネルはハイブリダイゼーションの結果の写真である。シグナルとしてのバンドが、さかなBでのみ1本出ていることがわかる。続いて、ゲルのシグナルに相当する部分を切り出し、その中に含まれるDNA断片を回収し、そのDNA断片をプラスミドベクターに連結し、プローブbが結合するクローンをコロニーハイブリダイゼーションで単離した。5' RACEはさかなBのRNAについてのみ行った。使ったプライマーはyと、キットに含まれている5' アダプタープライマーである。PCR以降の操作は、ハイブリダイゼーションのプローブにeを使用したことを除いて3'RACEの場合と同一とした。ハイブリダイゼーションの結果バンドが1本現れ、それを同様の方法で単離した。
【図4】Tol1とその他のhATファミリーのトランスポザーゼの一部をClustal Xプログラムで照合した結果。hATファミリーの因子には、アミノ酸配列が保存された領域がいくつかあることが知られている。その領域はA~Fと表記されている(引用文献27)。A~FのうちD~Fは比較的短い領域内に位置しており、タンパク質の二量体化に関係すると考えられている。hATファミリーとして登録されている因子(GenBankアクセッション番号PF05699、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html)から、Tol1との相同性の高い因子を、いろいろなホスト生物種が含まれるようにとの観点から選び、配列の照合を行った。その結果を示す。個々の因子の名前として、UniProtKBで記号化された名称を使用した。名前には、ホスト生物種を示す5文字を付加している。また、照合に使った部分のアミノ酸を、その位置を示す番号で示してある。アミノ酸の色づけは、Clustal X のデフォルトの方式をそのまま採用したものである。
【図5】メダカのゲノムに含まれるTol1のコピーのサザンブロット分析。さかなA、さかなB、HNI、Hd-rRの各1匹からゲノムDNAを抽出した。HNIとHd-rRは、メダカの研究でよく使われる近交系である。ゲノムDNAを各さかなにつき8.0μg用意し、制限酵素PvuIIで完全に切断し、1.0% のアガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜に転写した後、プローブa~d(位置については図2を参照)とのハイブリダイゼーションに供した。写真の左側に大きさが既知のDNA断片(分子量マーカー)の位置を示した。ここで示した結果より、メダカのゲノムにあるTol1のコピーのほとんどに内部欠失が認められることがわかる。
【図6】転移頻度測定に用いたプラスミド。Tol1-tyr(GenBankアクセッション番号D42062、配列番号10)を、隣接する8 bpのTSD(CCTTTAGC(配列番号13))とともに、さかなAのゲノムDNAから増幅し、プラスミドpUC19に入れてクローンとした。続いて、プラスミドpCMV-Tag1の一部(GenBankアクセッション番号AF025668の塩基配列の塩基1,675-3,474、配列番号18)をPCRで増幅して、Tol1-tyrに1か所あるSalIの認識部位(GenBankアクセッション番号D42062の塩基配列の塩基706-711)に挿入した。pCMV-Tag1のこの部分にはネオマイシン耐性遺伝子が含まれている。このようにして作製したプラスミドをドナーとして用いた。ヘルパーは、Tol1 cDNA(GenBankアクセッション番号AB264112の塩基配列、配列番号3)の塩基31-2,817(配列番号19)をプラスミドpCIのマルチクローニングサイトに挿入することによって作製した。このマルチクローニングサイトは、CMVプロモーターとポリA付加シグナルの間にある。欠損型ヘルパーは、ヘルパーの塩基配列にPCRで修正を加えることによって作製した。ヘルパーの塩基996-1,001はATGAAAであり、これはアミノ酸のメチオニンとリジンに対応する。この配列をTAGTAAに変更した。この変更の結果、トランスポザーゼのORFの中ほどに終止コドンが2個続けて生じる。フィラープラスミドは、2.8 kbのλDNAの断片を、トランスポザーゼcDNAの代わりにプラスミドpCIに挿入することによって作製した。
【図7】哺乳類細胞でのTol1の転移。HeLa細胞とNIH/3T3細胞に、ドナーとヘルパー、ドナーと欠損型ヘルパー、又はドナーのみを取り込ませた。ただし、必要に応じてフィラーを加えた。続いてG418での選抜を施した。ギムザ染色液で染色した60 mmディッシュの写真を示す。ドナーとヘルパーを取り込ませた場合のみ、多数のG418耐性のコロニーが生じている。
【図8】挿入されたTol1コピーの挿入点の塩基配列。ドナーとヘルパーを導入して得たG418耐性の細胞からゲノムDNAを抽出し、EcoRIまたはPstIで切断した。当該二つの制限酵素はドナーを切断しない。続いて、1.0%のアガロースゲルで電気泳動した後、3.7-9.0 kbの大きさのDNA断片をゲルから回収し、低DNA濃度の状態(500 ng/ 2.0 ml)でT4 DNAリガーゼを使って末端を結合させた。得られたDNAに対してインバースPCRを実施した。ここで用いたプライマーは、Tol1-tyrの端部(GenBankアクセッション番号D42062の塩基配列(配列番号10)の塩基162-133(配列番号20))である。PCR産物を電気泳動すると、反応1つあたり10以上のバンドが生じた。PCR産物をプラスミドに入れてクローンとし、インバースPCRのプライマーと同じプライマーを使ってその塩基配列を調べた。これらのゲノムDNAクローンの挿入点付近の塩基配列を示した。参考のために、ドナープラスミドの対応する領域の配列も示した。すべての挿入点で8 bpのTSDがみられる。
【図9】HeLa 細胞でのTol1とTol2の転移頻度。ドナーとヘルパーの量を様々な組合せにし、Tol1(左のパネル)とTol2(右のパネル)について、転移頻度の測定を行った。Tol2のドナープラスミドは、Tol1のドナープラスミドをもとにして作製した。具体的には、Tol1のドナープラスミドにおいてTol1の左腕をTol2の塩基配列(GenBankアクセッション番号D84375、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html、配列番号9)の塩基1-755で、また右腕を同4,147-4,682で置き換えた。Tol2のヘルパープラスミドは、引用文献33のpHel03を使用した。各測定において、プラスミドDNAの全量を1,000 ngとした。ドナープラスミドとヘルパープラスミドの量をグラフの下に示した。1,000 ngからの不足分はフィラープラスミドで補った(フィラープラスミドの量の記載は省略した)。3つの独立した測定から求めたコロニー数の平均値(±標準誤差)をグラフに示した。
【図10】Tol1とTol2の相互の影響に関するHeLa細胞を使った試験。プラスミドDNAを組み合わせて、転移頻度の測定を行った。グラフの下に記す6種類の組合せを用意した。各測定でのプラスミドDNAの全量は1,000 ngとした。フィラープラスミドの量の記載は省略した。グラフより、Tol1のトランスポザーゼとTol2のトランスポザーゼはそれぞれ対応する因子のみを転移させることがわかる。
【図11】Tol1トランスポザーゼのcDNA(全長2,900bp)の塩基配列(DDBJ/EMBL/GenBankでのアクセッション番号AB264112、配列番号3)、及び推定アミノ酸配列(全長851aa、配列番号2)。
【図12】図11の続き。
【図13】図12の続き。
【図14】自然に存在するTol1因子の長さの変異。Tol1の両方の末端部とハイブリダイズするゲノムDNAのクローン130個につき、内部のTol1の部分を増幅するためのPCRを行った。使ったプライマーは、Tol1の左端の30 bp(1~30番塩基) と右端の30 bp(1855~1826番塩基)で、鋳型にはバクテリアのコロニーのかけらを用いた。PCRの条件は次の通りである。[94℃, 2分]、30 x [94℃, 20秒; 64℃, 20秒; 72℃, 2分], [72℃, 5分]。PCR後の反応液を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、増幅が起こっていたクローンについて、産物の長さを記録した。続いて、増幅が起こっていなかったクローンについて、伸長反応の部分を長く(前回2分のところを8分)して、PCRを行った。そして0.8%アガロースゲルで電気泳動して、産物の長さを記録した。同様に、3回目のPCRとして、伸長反応をさらに長く(20分)して行い、0.6%アガロースゲルで電気泳動した。このようにして、計114個のTol1因子についてその長さを明らかにし、その分布を図示した。
【図15】ドナープラスミドおよびヘルパープラスミド。a:短いドナープラスミドの作製の手順。pDon1855は、pUC19をベクターとし、Tol1-tyr因子の全域と8 bpの標的部位重複(塩基配列はCCTTTAGC)を含むクローンである。これを鋳型にして、短いドナーを作るためのPCRを行った。プライマーは、Tol1の端部の配列に合致し、互いに外側を向き、5'末端にSalIの切断部位をもつように設計した。産物のDNA断片をSalIで切断し、両端をT4 DNAライゲースで連結し、いったん環状のプラスミドとした。そのプラスミドのSalIサイトにネオマイシン耐性遺伝子を挿入した。ネオマイシン耐性遺伝子は、プラスミドpCMV-Tag1の一部(DDBJファイルAF025668の1675~3474番塩基)を、SalIサイトをつけたプライマーで増幅して得られたものである。図中の黒い三角は末端逆向き反復配列、白い三角は標的部位重複、灰色の三角はPCRプライマーを示す。b:ヘルパープラスミド。pHel851aaは完全型のヘルパーである。Tol1転移酵素をコードする配列の全域(851アミノ酸(配列番号2)、DDBJファイルAB264112の31-2817番塩基)を、プラスミドpCI(Promega Corp., Madison, WI, USA)のCMVプロモーターとポリA付加シグナルの間に挿入して作製した。pHel316aaは欠損型のヘルパーである。pHel851aaの塩基配列の一部にPCRで改変を加えて、作製した。AB264112の996~1001番塩基の部分の配列はATGAAAで、これは転移酵素中のアミノ酸メチオニンとリジンに対応する。この部分をTAGTAAにして、転移酵素の読み枠の途中に終止コドンが2個入るようにした。
【図16】内部が欠失したTol1因子の転移頻度。調べたTol1因子に関して、Tol1の腕の部分のみを左端に図示してある。ただし、縮尺は全域で統一しているわけではない。これらをドナーとし、完全型ヘルパーpHel851aa(網かけ長方形)又は欠損型ヘルパーpHel316aa(白の長方形)とともに細胞に導入して転移頻度を調べた。3回の測定での平均のコロニー数をグラフで示した。グラフ中の横線は、平均値の標準誤差である。
【図17】異なる長さのTol1因子をもつドナープラスミド。最下部に示すpDon263Mcsは、クローニング部位をもつ基本のベクターである。pUC19が本来もっている制限酵素サイトすべてを予め取り除いてある。ただし、HindIIIサイトだけは残した。Tol1の左腕と右腕の結合部には、図に示すように6種類の制限酵素サイトを設けた。以上の改変はすべて、各段階の目的を達成できるように5'末端を修飾したプライマーを準備し、PCRで行った。中断に示すpDon263McsNeoは、pDon263McsのKpnIサイトとPstIサイトにネオマイシン耐性遺伝子を挿入したものである。上段に示す長方形は、長いTol1因子を作るために詰め込んだDNA断片を示す。これらの断片は、バクテリオファージλ(DDBJファイル J02459)の様々な部分をPCRで増幅して作製した。長方形の下にある数字は、増幅した部分のヌクレオチドの番号である。増幅に使ったPCRプライマーにはその5'末端にEcoRIまたはHindIIIサイトを設けておいた。増幅産物をEcoRIまたはHindIIIで切断した後、pDon263McsNeoの各サイトに挿入した。
【図18】長いTol1因子の転移頻度。完全型ヘルパーpHel851aa(網かけ長方形)を組み合わせた場合と、欠損型ヘルパーpHel316aa(白の長方形)を組み合わせた場合について転移頻度を測定した。ドナーは、ExHyの形式で、長方形の下部に示す。3回の測定での平均のコロニー数をグラフで示す。縦線は、平均値の標準誤差である。
【図19】挿入点の近辺の塩基配列。ネオマイシン耐性となった2つのコロニー(N1とN2)に由来する系統から、ゲノムDNAを抽出し、それをHindIIIで消化した。ドナープラスミドのTol1因子の内部には、HindIIIサイトがないため、Tol1因子が分断されることはないと考えられる。消化したDNAを0.8%アガロースゲルで電気泳動し、10~30 kbに相当する部分のDNA断片を回収した後、低濃度の状態(100 ng/500μl)でT4 DNAライゲースで末端を結合させた。このDNAを鋳型として逆向きPCRを行った。用いたプライマーは、Tol1の各腕の一部に相当する部分(D42062の130~101番塩基と1758~1787番塩基)である。PCRの条件は次の通りとした。[94℃, 2分], 36 x [94℃, 20秒; 64℃, 20秒; 72℃, 5分], [72℃, 5分]。PCR産物をプラスミドにいったんクローニングして、逆向きPCRのプライマーと同じプライマーで 、塩基配列を調べた。挿入点の近辺の塩基配列を示した。また、ドナープラスミドの対応する部分の塩基配列を、参照のために並べて示した。ホストの挿入点には、8 bpの標的部位重複が形成されていることがわかる。枠で囲んだ部分は、後に行ったTol1因子の解析(図20に詳細を記す)でPCRプライマーとして用いた部分である。
【図20】取り込まれたTol1因子の解析。a:Tol1因子の増幅。PCRの鋳型として用いたDNAは、pDon263McsNeoE20(pDon)、および2つ形質転換体系統(N1とN2)のゲノムDNAである。図19に枠で囲んで示した部分をプライマーに使用した(P0はプラスミドpDon、P1は細胞系統N1、P2は細胞系統N2に対応する配列を表す)。電気泳動のレーンの上部に記す組合せで、PCRを行った。PCRの条件は次の通りとした。[94℃, 2分], 30 x [98℃, 10秒; 68℃, 20分], [68℃, 10分]。電気泳動は0.8%アガロースゲルで行い、20 μlの反応液のうちの2μlを流した。PCR産物としてのDNA断片は、鋳型とプライマーの正しい組合せの場合にのみ生じた。b:制限酵素切断パターンの比較。PCR産物をエタノールで沈殿させた後、最終DNA濃度がほぼ同じになるように計算した量の蒸留水に溶解させた。これを制限酵素BamHIとKpnIで切断し、1.0%アガロースゲルで電気泳動した。pDon263McsNeoE20は全域の塩基配列がわかっており、BamHIとKpnIで切断すると、1.5 kbから11.7 kbの間の5つの断片が生じる。形質転換体の細胞系統からのPCR産物でみられた切断パターンは、ドナープラスミドの場合と同じものであった。
【図21】インディケーターとヘルパーの構成。pInd263GFPはインディケーターであり、最初にみつかったTol1因子(Tol1-tyr、1855 bp、配列番号10)の両末端の部分と、その間に挿入したGFP遺伝子から成る。これらを保持しているプラスミドはpUC19である。pHel851aaは完全型ヘルパーで、Tol1転移酵素(851アミノ酸、配列番号2)をコードする配列を、プラスミドpCI(Promega, Madison, WI, USA)のCMVプロモーターとポリA付加シグナルとの間に挿入して作製した。pHel316aaは、PCRで一部のヌクレオチドを変更して作った欠損型ヘルパーである。996~1,001番塩基の部分の配列はATGAAAで、これは転移酵素のアミノ酸メチオニンとリジンに対応する。この配列をTAGTAAに変え、転移酵素のORFの途中で終止コドンが2個現れるようにした。図では、プラスミドを構成している各部に、GenBankファイルを示す略号とヌクレオチドの番号を説明として加えてある。略号は次の通りである。[Tol1] D84375 (Tol1-tyr因子)、[TPase] AB264112(転移酵素遺伝子)、[pEGFP] U55763(プラスミドpEGFP-C1; Clontech Laboratories, Mountain View, CA, USA)。TSDは標的部位重複を示しており、その配列はCCTTTAGCであるPCMVはCMVプロモーター、PAはポリA付加シグナルを表す。右端がとがった太線は、完全型および欠損型ヘルパーに含まれる読み枠である。黒い三角は、Tol1-tyr因子にある末端逆向き反復配列を示す。小さい白い三角は、エクシジョンの検出に用いたPCRプライマーの位置と向きを示す。
【図22】X.laevisの胚で起こったエクシジョンのPCRでの検出。A1-12は、PCR解析に使用した、Aのセットからの12個の胚である。B1-12は同様にBのセットからの12個の胚である。上段は、Tol1因子の全域を増幅するPCRを行った後、反応液を電気泳動した結果である。PCRの条件は次の通りとした。[94℃, 120秒], 33x [94℃, 20秒; 64℃, 20秒; 68℃, 150秒], [68℃, 60秒]。20μlの反応液の内5μlを電気泳動に供した。アガロースの濃度は1.0%である。AとBのすべてのサンプルで2.4 kbのバンドがみられる。下段は、エクシジョンの産物を効率よく増幅するPCRの結果である。伸長反応の部分の時間を40秒に縮めたこと以外、条件は1回目のPCRと同じである。尚、電気泳動におけるアガロースの濃度は2.0%とした。535 bpに近い大きさのバンドがA1-12のサンプルに認められる。B1-12のサンプルには同バンドは認められない。
【図23】エクシジョンの切断点付近の塩基配列。最上段のpIndは、参照のために示すpInd263GFPの配列である。TSDは標的部位重複を示す。これはpInd263GFPに始めから含まれていたものである。枠で囲んだヌクレオチドは、pInd263GFPにはなかったヌクレオチドである。図に入りきれないために長さのみを[ ]で示した部分もある。該当する部分の配列は次の通りである。[60 bp], L09137 (pUC19)の504~445番塩基、[30 bp], D84375 (Tol-tyr)の1,821~1,850番塩基。
【図24】動物界の系統樹。門または亜門を単位とした標準的な系統樹を図示した。
【図25】実験の全体の流れ。途中から2つの経路に分かれている。左側がエクシジョンの検出、右側がインサーションの検出である。
【図26】RNA合成の鋳型としたプラスミド。プラスミドpTem851aaは、pSP64 Poly(A) Vector (Promega corp.)に、Tol1転移酵素をコードする配列(DDBJのファイルAB031079のnt 31-2,817)をはさんで作製した。「Pro」はSP6プロモーター、「An」はポリ(A)配列を示す。pTem851aaを鋳型としてRNA合成の反応を行うと、約2,900ヌクレオチドからなるRNA(mRNA851aa)が作られる。このRNAは完全長の転移酵素をコードする。途中の6塩基の部分(ATGAAA)は、アミノ酸のメチオニンとリジンに対応する。プラスミドpTem316aaは、6塩基の部分を2個の終止コドン(TAGTAA)に変更したものである。このプラスミドからは、同じ長さのRNA(mRNA316aa)が作られ、そのRNAは、終止コドンの直前までのアミノ酸をコードする。
【図27】ドナープラスミド。白い部分は、メダカのチロシナーゼ遺伝子(DDBJのファイルAB010101)の一部である。黒い部分は、Tol1因子(DDBJのファイルD84375)である。三角形は、エクシジョンを検出するためのプライマーの位置と向きを示す。塩基配列は、つぎの通りである。Pex1:AB010101の3,594-3,623; Pex2:AB010101の3,866-3,895; Pin1:D84375の1,758-1,787; Pex2:D84375の101-130。
【図28】エクシジョンを検出するPCR。それぞれのレーンに記すDNAを鋳型としてPCRを行った。鋳型のDNA量は、ドナープラスミドは10 pg、胚から回収したDNAは胚1個に相当する分とした。プライマーは、Pex1とPex2である。上段は、ドナープラスミドが回収されていることを確認するためのPCRである。条件は[94℃で120秒]、25 x [94℃で20秒; 64℃で20秒; 72℃で150秒]、[72℃で150秒]とした。下段は、エクシジョンを検出するためのPCRである。条件は、[94℃で120秒]、40 x [94℃で20秒; 64℃で20秒; 72℃で20秒]、[72℃で20秒]とした。
【図29】エクシジョン検出のPCR産物の塩基配列。「ドナー」は、ドナープラスミド上での、Tol1因子の両端部およびそれに続く部分の塩基配列である。「Tol1」はTol1因子、「チロシナーゼ」はメダカのチロシナーゼ遺伝子に由来する部分、「TSD」は標的部位重複を示す。「A1」、「A2」、「A3」は、それぞれの処理区のPCR産物である。3つのサンプルとも、Tol1因子の全域が消失しており、その部分に別の配列が入っている。図中にその長さを記し、それぞれの塩基配列を下部に示している。
【図30】インサーションとして検出されたクローンの塩基配列。「ドナー」は、ドナープラスミド上でのTol1因子の両端部及びそれに続く部分の塩基配列である。「クローン1」と「クローン2」は、逆向きPCRの手法で得た2個のクローンの、対応する部分の塩基配列である。Tol1因子の部分を白抜きの文字で示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
説明の便宜上、本明細書中で使用する用語の一部についてその定義・意味を以下にまとめて記す。
本明細書において用語「~を含む」又「~含んでなる」等の包括的な表現は、「~からなる」や「~である」の意味をも含む表現として使用される。
本発明において「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドを発現させた場合に当該アミノ酸配列を有するタンパク質が得られることになる塩基配列をいう。従って、アミノ酸配列に対応する配列を有する限り、アミノ酸配列に対応しない配列部分を有する塩基配列であってもよい。また、コドンの縮重も当然に考慮される。尚、「塩基配列がコードするアミノ酸配列」との表現においても当然にコドンの縮重が考慮される。
用語「ポリヌクレオチド」は、DNA及びPNA(peptide nucleic acid)、RNA等、任意の形態のポリヌクレオチドをいう。本発明でのポリヌクレオチドは好ましくはDNA又はmRNAである。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。本発明のトランスポザーゼに関して使用する場合の「単離された」とは、本発明のトランスポザーゼが天然材料に由来する場合、当該天然材料の中で当該酵素以外の成分を実質的に含まない(特に夾雑タンパク質を実質的に含まない)状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたトランスポザーゼでは、夾雑タンパク質の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。一方、本発明のトランスポザーゼが遺伝子工学的手法によって調製されたものである場合の用語「単離された」とは、使用された宿主細胞に由来する他の成分や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたトランスポザーゼでは夾雑成分の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「トランスポザーゼ」と記載した場合は「単離された状態のトランスポザーゼ」を意味する。トランスポザーゼの代わりに使用される用語「酵素」についても同様である。
ポリヌクレオチドについて使用する場合の「単離された」とは、もともと天然に存在しているポリヌクレオチドの場合、典型的には、天然状態において共存するその他の核酸から分離された状態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモーター領域の配列やターミネーター配列など)など一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。例えばゲノムDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、天然状態において共存する他のDNA成分を実質的に含まない。一方、cDNA分子など遺伝子工学的手法によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「ポリヌクレオチド」と記載した場合には単離された状態のポリヌクレオチドを意味する。
本明細書において用語「DNA導入」は、目的の如何を問わず、標的細胞中へDNAを導入することを意味する。従って、遺伝子改変(突然変異誘発や遺伝子ターゲッティングなど)もDNA導入の概念に含まれる。
【0008】
(Tol1因子のトランスポザーゼ)
本発明の第1の局面は、Tol1因子のトランスポザーゼの同定に成功したという成果に基づき、Tol1因子のトランスポザーゼを提供する。「Tol1因子のトランスポザーゼ」とは、メダカより見出されたトランスポゾンであるTol1因子を転移させ得る酵素をいう。尚、以下では、特に言及しない場合の用語「トランスポザーゼ」は「Tol1因子のトランスポザーゼ」を意味する。
一態様において本発明のトランスポザーゼは、配列番号1で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する。後述の実施例で示す通り、当該塩基配列はTol1因子のトランスポザーゼをコードするORF(オープン・リーディング・フレーム)の塩基配列(終止コドンを含む)である。このORFがコードする推定アミノ酸配列として、配列番号2で示されるアミノ酸配列(851アミノ酸)が得られた。この事実に基づき本発明の他の一態様は、配列番号2のアミノ酸配列(図11~13)を有するタンパク質からなる。尚、当該アミノ酸配列に対応するcDNA配列(ポリAを含む、図11~13、配列番号3)はアクセッション番号AB264112でDDBJ/EMBL/GenBankに登録されている(2006年12月13日の時点では未公開)。
本発明のトランスポザーゼは、基質DNAの塩基配列に関する特異性特異性が高く、Tol1因子と同様にメダカより見出されたトランスポゾンであるTol2因子に対しては実質的な作用を有しない。
【0009】
一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配列の改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号2で示されるアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有し、Tol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質(以下、「相同タンパク質」ともいう)を提供する。ここでの「相同なアミノ酸配列」とは、配列番号2で示されるアミノ酸配列と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではTol1因子を転移させる酵素活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1~数個のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違は、Tol1因子を転移させる酵素活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち相同タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。
【0010】
好ましくは、Tol1因子を転移させる酵素活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換を生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0011】
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの塩基配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。特定のアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。特定の塩基配列に相同的な塩基配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0012】
本発明のトランスポザーゼは、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本発明のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本発明のトランスポザーゼを得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本発明のトランスポザーゼをコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなるトランスポザーゼを得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
尚、本発明のトランスポザーゼの調製法は遺伝子工学的手法によるものに限られない。例えば天然に存在するものであれば、天然材料から標準的な手法(破砕、抽出、精製など)によって本発明のトランスポザーゼを調製することもできる。尚、本発明のトランスポザーゼは、通常、単離された状態に調製される。
【0013】
(Tol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド)
本発明の第2の局面は本発明のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。一態様において本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる。当該塩基配列の具体例を配列番号1、配列番号3及び配列番号4に示す。配列番号1の塩基配列は、Tol1因子のトランスポザーゼをコードするORFとして見出された配列である。また、配列番号3の塩基配列は、Tol1因子のトランスポザーゼをコードする全長cDNAとして見出された配列に相当する。配列番号4の塩基配列は、当該全長cDNAに対するゲノムDNA配列(4,355塩基対、標的部位重複配列(TSD)を含まない)に相当する。
【0014】
ここで、一般に、あるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部に改変を施した場合において、改変後のポリヌクレオチドがコードするタンパク質が、改変前のポリヌクレオチドがコードするタンパク質と同等の機能を有することがある。即ち塩基配列の改変が、コードするタンパク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号1、配列番号3及び配列番号4のいずれかで示される塩基配列と相同な塩基配列であって、Tol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(以下、「相同ポリヌクレオチド」ともいう)を提供する。ここでの「相同な塩基配列」とは、配列番号1、配列番号3及び配列番号4のいずれかで示される塩基配列と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(ここではTol1因子を転移させる酵素活性)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。
【0015】
相同ポリヌクレオチドの具体例は、配列番号1、配列番号3及び配列番号4のいずれかで示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃~約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃~約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
【0016】
相同ポリヌクレオチドの他の具体例として、配列番号1、配列番号3及び配列番号4のいずれかで示される塩基配列を基準として1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、Tol1因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該ポリヌクレオチドがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2~40塩基、好ましくは2~20塩基、より好ましくは2~10塩基である。以上のような相同ポリヌクレオチドは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように配列番号1、配列番号3及び配列番号4のいずれかで示される塩基配列を有するポリヌクレオチドを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同ポリヌクレオチドを得ることができる。
相同ポリヌクレオチドの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0017】
本発明のポリヌクレオチドは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって単離された状態に調製することができる。具体的には、メダカ(Oryzias latipes)ゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリー、或はメダカの細胞抽出液から、本発明のポリヌクレオチドに対して特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用して調製することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは、市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。尚、本発明のポリヌクレオチドを調製するために用いるライブラリーの作製方法については、例えばMolecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる。
例えば、配列番号3で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドであれば、当該塩基配列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用してメダカcDNAライブラリーより単離することができる。また、当該塩基配列の一部に特異的にハイブリダイズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅反応(例えばPCR)を利用して増幅及び単離することができる。
【0018】
(Tol1因子のトランスポザーゼを含む発現コンストラクト)
本発明のさらなる局面は本発明のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクトに関する。好ましくは、本発明の発現コンストラクトにはプロモーターが組み込まれる。但し、発現コンストラクトが含有するポリヌクレオチドが本来的にプロモーター領域を有している場合には、プロモーターを省略することができる。
プロモーターは、本発明のポリヌクレオチドに作動可能に連結している。当該構成の発現コンストラクトではプロモーターの作用によって、本発明のポリヌクレオチドを標的細胞内で強制発現させることが可能となる。ここで、「プロモーターが特定のポリヌクレオチド配列に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下に特定のポリヌクレオチド配列が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介して特定のポリヌクレオチド配列が連結されることになる。
【0019】
プロモーターには、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTP、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等を使用可能である。アセチルコリンレセプタープロモーター、エノラーゼプロモーター、L7プロモーター、ネスチンプロモーター、アルブミンプロモーター、アルファフェトプロテインプロモーター、ケラチンプロモーター、インスリンプロモーター等、哺乳動物組織特異的プロモーターを使用してもよい。
【0020】
本発明の発現コンストラクト内にポリA付加シグナル配列、ポリA配列、エンハンサー配列、選択マーカー配列等を配置することもできる。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列の使用によって、発現コンストラクトから生ずるmRNAの安定性が向上する。ポリA付加シグナル配列又はポリA配列は、下流側において本発明のポリヌクレオチドに連結される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。また、選択マーカー配列を含有する発現コンストラクトを使用すれば、選択マーカーを利用して発現コンストラクトの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0021】
尚、プロモーター、本発明のポリヌクレオチド配列、エンハンサー配列(必要な場合)、及び選択マーカー配列(必要な場合)の挿入操作等は、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた方法等、標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる)によって行うことができる。
【0022】
本発明の発現コンストラクトは、本発明のポリヌクレオチド配列を標的細胞内へ導入するために使用することができる。このような目的に使用可能な限り発現コンストラクトの形態は特に限定されないが、好ましくは発現ベクターの形態をとる。ここでの「発現ベクター」とは、それに挿入されたポリヌクレオチドを目的の細胞(標的細胞)内に導入し且つ当該細胞内において発現させることが可能な核酸性分子をいい、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターを含む。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。この中でアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。レトロウイルスベクターの場合はウイルスゲノムの宿主染色体への組み込みには細胞の分裂が必要であることから非分裂細胞への遺伝子導入には適さない。一方、レンチウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターは非分裂細胞においても感染後に外来遺伝子の宿主染色体への組み込みが生ずる。従って、これらのベクターは神経細胞や肝細胞などの非分裂細胞において安定かつ長期的に外来遺伝子を発現させるために有効である。
【0023】
各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。例えば、アデノウイルスベクターの作製はCOS-TPC法や完全長DNA導入法などで行うことができる。COS-TPC法は、目的のcDNA又は発現カセットを組み込んだ組換えコスミドと、親ウイルスDNA-末端タンパク質複合体(DNA-TPC)を293細胞に同時トランスフェクションし、293細胞内でおこる相同組換えを利用して組換えアデノウイルスを作製する方法である(Miyake,S., Makimura,M., Kanegae,Y., Harada,S., Takamori,K., Tokuda,C., and Saito,I. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 1320.)。一方、完全長DNA導入法は、目的の遺伝子を挿入した組換えコスミドを制限消化処理した後、293細胞にトランスフェクションすることによって組換えアデノウイルスを作製する方法である(寺島美保、近藤小貴、鐘ヶ江裕美、斎藤泉(2003)実験医学 21(7)931.)。COS-TPC法はAdenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)、Adenovirus genome DNA-TPC(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。また、完全長DNA導入法は、Adenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。
【0024】
一方、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウイルスゲノムの両端に存在するLTR(Long Terminal Repeat)の間のパッケージングシグナル配列以外のウイルスゲノム(gag、pol、env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子を挿入する。このようにして構築したウイルスDNAを、gag、pol、env遺伝子を構成的に発現するパッケージング細胞に導入する。これによって、パッケージングシグナル配列をもつベクターRNAのみがウイルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産生される。
【0025】
アデノベクターを応用ないし改良したベクターとして、ファイバータンパク質の改変により特異性を向上させたもの(特異的感染ベクター)や目的遺伝子の発現効率向上が期待できるguttedベクター(ヘルパー依存性型ベクター)などが開発されている。本発明の発現ベクターをこのようなウイルスベクターとして構築してもよい。
【0026】
非ウイルスベクターとしてリポソーム、正電荷型リポソーム(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R., Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。本発明の発現ベクターをこのような非ウイルス性ベクターとして構築してもよい。
【0027】
(Tol1因子を利用したDNA導入システム)
本発明の他の局面は、Tol1因子を利用したDNA導入システムに関する。本発明のDNA導入システムは標的細胞へ特定のDNAを導入することに利用される。換言すれば、本発明のDNA導入システムを用いれば標的細胞のゲノムDNA内へ特定のDNAを導入することができる。このように本発明のDNA導入システムは、遺伝子導入や遺伝子改変等、遺伝子操作の手段として利用される。
本発明のDNA導入システムはドナー要素とヘルパー要素を含む。ドナー要素とヘルパー要素は、好ましくは別の構成要素としてシステム中に存在する。即ち、ドナー要素とヘルパー要素が物理的に分離された状態であることが好ましい。但し、ドナー要素とヘルパー要素を単一の構成体中に併存させることにしてもよい。
ドナー要素は標的細胞内へ目的のDNAを供給するものであり、トランスポザーゼ遺伝子を欠損したTol1因子に目的のDNAが挿入された構造を有する。
「標的細胞」とは、本発明のDNA導入システムが適用される細胞、即ち本発明のDNA導入システムを用いた遺伝子操作の対象となる細胞をいう。ここでの「標的細胞」は脊椎動物細胞であり、具体的には例えば哺乳動物(ヒト、サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)、鳥類(ニワトリ、ウズラ等)、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュ等)、両生類(カエルなど)等の各種細胞、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、又はこれらの前駆細胞、或いは間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、成体幹細胞、受精卵などを使用することができる。また、正常細胞の他、癌細胞など何らかの異常を来した細胞、或いはHeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞などの株化された細胞等を標的細胞として使用することができる。
【0028】
単離された状態の標的細胞、又は生物個体を構成した状態の標的細胞に対して本発明のDNA導入システムが適用される。従って、in vitro、in vivo及びex vivoのいずれの環境下でも本発明を実施することが可能である。ここでの「単離された」とは、その本来の環境(例えば生物個体を構成した状態)から取り出された状態にあることをいう。従って通常は、単離された標的細胞は培養容器内又は保存容器内に存在し、それへのin vitroでの人為的操作が可能である。具体的には、生体から分離され、生体外で培養状態にある細胞(株化された細胞を含む)は、単離された標的細胞としての適格を有する。尚、上記の意味において単離された状態にある限り、組織体を形成した状態であっても単離された細胞である。
「単離された標的細胞」は生物個体より調製することができる。一方、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人 製品評価技術基盤機構、ATCC (American Type Culture Collection)、DSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)などより入手した細胞を、単離された標的細胞として使用することもできる。
本発明の一態様では、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の脊椎動物細胞に対して本発明のDNA導入システムが適用される。つまり、この態様では、DNA導入システムを実施する際、ヒト個体から単離された状態にある細胞、又はヒト以外の脊椎動物の細胞(個体を構成した状態であるか否かを問わない)が標的細胞となる。
【0029】
ドナー要素に用いられるTol1因子はトランスポザーゼ遺伝子を欠損している。「トランスポザーゼ遺伝子を欠損している」とは、機能的なトランスポザーゼ遺伝子が含まれないことを意味し、トランスポザーゼ遺伝子が完全に欠失している状態に限らず、遺伝子としての機能を発揮しない限りにおいてトランスポザーゼ遺伝子が部分的に残存している状態をも含む。即ち、配列の一部が変更された結果、その機能は失っているものの、変更に係る部分以外の配列は残存した状態のトランスポザーゼ遺伝子が存在する状態も「トランスポザーゼ遺伝子を欠損している」といえる。
Tol1因子はメダカのゲノム中に100~200コピー程度存在するDNA型因子であり(Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6.(引用文献10))、チロシナーゼ遺伝子に挿入した断片として発見された(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 400-405.(引用文献11))。この断片(Tol1-tyr、1,855塩基対、標的部位重複配列(TSD)を含まない)の配列(配列番号10)は、アクセッション番号D42062でGenBankに登録されている。Tol1-tyrの解析から、Tol1因子に特徴的な逆方向反復配列が同定された(Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6.(引用文献10))。この知見に鑑み、本発明の好ましい一態様では、配列番号5で示される逆方向反復配列を5’側末端部に備え、且つ配列番号6で示される逆方向反復配列を3’側末端部に備えるTol1因子が用いられる。即ちこの態様のTol1因子では、そのセンス鎖の5’末端部に5'-cagtagcggttcta-3'(配列番号5)からなる配列が存在し、同様にセンス鎖の3’末端部に5'-tagaaccgccactg-3'(配列番号6)からなる配列が存在する。尚、Tol1-tyrを含め、これまでに報告されたTol1因子は全てトランスポザーゼ遺伝子を欠損しており、本発明におけるTol1因子としての適格を有する。本発明で使用可能なTol1因子の具体的な例としてその塩基配列を配列番号10~12に示す。尚、配列番号11で示す塩基配列は、Tol1-tyrの内部886塩基対を取り除いたクローンの配列(969塩基対)であり、Tol1-tyrと同様に転移することを確認できている。また、配列番号12で示す塩基配列は、Tol1-tyrの内部1,576塩基対を取り除き、他のDNA断片を挿入するための制限酵素6種の認識配列を加えたクローンの配列(297塩基対)であり、Tol1-tyrと同様に転移することを確認できている。
これらの中のいずれかの改変体を用いることもできる。ここでの「改変体」とは、配列番号10~12のいずれかで示される塩基配列と相同な塩基配列からなり、改変前のポリヌクレオチド分子と同様にトランスポゾンとして機能するポリヌクレオチド分子をいう。改変体の末端には、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するトランスポザーゼが結合し得る。尚、用語「相同」については、上記の「Tol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド」の欄における説明が援用される。
【0030】
後述の実施例に示す通り、本発明者らの更なる検討によって、Tol1-tyrの内部1,592塩基対(5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基まで)を欠失させた場合においても、転移効率を損なわないことが判明した。この知見に基づき本発明の一態様では、Tol1-tyrの塩基配列(配列番号10で示される塩基配列)の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基まで(1592塩基対)を少なくとも欠失させることによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAからなるTol1因子を用いる。換言すれば、配列番号10で示される塩基配列の5’末端部(最長157塩基対)のDNAと、配列番号10で示される塩基配列の3’末端部(最長106塩基対)のDNAの間に目的のDNAが挿入された構造のドナー要素が使用されることになる。転移能に不要な内部領域を可能な限り欠失させることによって、搭載可能なDNAのサイズの最大化が図られる。上記の通り内部領域1592塩基対を欠失させた場合、20kbを越えるサイズのDNAを導入可能であることが示された(後述の実施例)。尚、ここでの5’末端側DNAの具体例は、配列番号21で示される塩基配列からなるDNA(157塩基対)であり、3’末端側DNAの具体例は、配列番号22で示される塩基配列からなるDNA(106塩基対)である。
【0031】
Tol1因子は、メダカゲノムDNAを鋳型とし、Tol1因子に特異的なプライマー(後述の実施例を参照)を用いたPCR等によって容易に調製することができる。調製法の詳細については後述の実施例や、Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6.、Tsutsumi M, Imai S, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hori H (2006) Pigment Cell Res 19: 243-247.等を参考にすることができる。
【0032】
ドナー要素に含まれる「目的のDNA」とは、本発明のDNA導入システムによって標的細胞のゲノムDNAに導入されるDNAをいう。本発明のDNA導入システムは、遺伝子の機能解析、特定機能の改善ないし回復(治療)、新たな形質の付加、分化誘導、有用タンパク質(インターフェロン、インスリン、エリスロポエチン、抗体など)の産生、トランスジェニック動物の作出等を目的とした遺伝子導入用のツールとして利用することができる。本発明のDNA導入システムを当該ツールとして利用する場合には、「目的のDNA」として特定の遺伝子が用いられる。ここでの遺伝子の例として、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子、第IX因子遺伝子、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子、p53癌抑制遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子、血管内皮成長因子(VEGF)遺伝子、肝細胞成長因子(HGF)等の遺伝子疾患関連遺伝子、インスリン、エリスロポエチン等のホルモンをコードする遺伝子、インターフェロン、インスリン様成長因子、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン類等の増殖因子をコードする遺伝子、抗体(治療用、診断用、検出用など)をコードする遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、βガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコール耐性(CAT)遺伝子、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子等のマーカー遺伝子、及び機能未知の遺伝子などを挙げることができる。天然に存在する遺伝子の他、人為的操作の結果得られた遺伝子(人工遺伝子)を用いることもできる。また、使用する遺伝子は標的細胞に対して同種であっても異種であってもよい。目的のDNAとして二種類以上の遺伝子をコードするものを採用してもよい。
遺伝子改変を目的とする場合には「目的のDNA」として、例えば標的遺伝子の改変体など、標的遺伝子を破壊ないし不活化し得る任意のDNAが用いられる。
【0033】
「目的のDNA」の挿入位置は、Tol1因子のトランスポゾンとしての機能(転移機能)に影響を与えない限り、特に限定されるものではない。つまり、トランスポザーゼの作用部位である両末端以外の位置に「目的のDNA」を挿入すればよい。具体的には例えば、Tol1因子において両末端以外の領域に存在する内在性の制限酵素認識部位(例えばSalI)を挿入部位として利用すればよい。内在性の制限酵素認識部位を利用するのではなく、人工的に挿入用の部位を形成することにしてもよい。
【0034】
本発明の好ましい一態様では、Tol1因子の5’末端及び3’末端に標的部位重複配列が連結されている。「標的部位重複配列」、即ちTSD(Target site duplication)とは、転移の際に形成される直列反復配列である。トランスポゾンが挿入の際、二本鎖DNAを異なる位置で切断することからその間の配列が重複し、その結果TSDが形成される。Tol1因子の場合、片側8bpのTSDが形成されることになる。本発明では例えば、配列番号13~15のいずれかで示される配列のTSDを用いることができる。尚、配列番号13の配列はTol1-tyrのTSDに、配列番号14の配列はTol1-L1のTSDに、配列番号15の配列はTol1-L2のTSDにそれぞれ相当する。
【0035】
高い導入効率を達成するため、好ましくは、目的のDNA、Tol1因子等を発現カセットとして組み込んだベクターをドナー要素として用いる。ここでのベクターの種類は特に限定されない。尚、ベクターの種類、作製法などについては上記の説明(本発明の発現コンストラクトの欄)が援用される。
【0036】
ヘルパー要素は、標的細胞内へトランスポザーゼを供給するものであり、本発明のトランスポザーゼ(即ちTol1因子のトランスポザーゼ)又は本発明のポリヌクレオチド(即ちTol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド)を含む。本発明のDNA導入システムを標的細胞内へ導入すれば、ヘルパー要素によって供給されたトランスポザーゼが、ドナー要素によって供給されたTol1因子に作用する。その結果、Tol1因子に挿入された目的のDNAが標的細胞のゲノムDNA内へと組み込まれることになる。
【0037】
ドナー要素と同様、高い導入効率を達成するため、ヘルパー要素もベクターとして構築することが好ましい。即ち、Tol1因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを組み込んだベクターをヘルパー要素として用いることが好ましい。
【0038】
標的細胞へのドナー要素及びヘルパー要素の導入は、標的細胞の種類、ドナー要素及びヘルパー要素の形態などを考慮して、リン酸カルシウム共沈殿法、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))、HVJリポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann,M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、遺伝子銃法、超音波遺伝子導入法等によって実施することができる。発現コンストラクトとしてウイルスベクターを使用する場合には感染によって標的細胞への導入が行われる。
ドナー要素及びヘルパー要素は、必ずしも同時に標的細胞へ導入される必要はない。但し、操作性や両要素の相互作用の観点から、両要素を同時に共導入することが好ましいといえる。
【0039】
本発明は更に、本発明のDNA導入システムの用途を提供する。当該用途の一つは、DNA導入法である。本発明のDNA導入法では、脊椎動物細胞からなる標的細胞に対して、本発明のDNA導入システムを導入するステップが実施される。また、Tol1因子とTol2因子は互いの転移に影響しないという知見に基づき、次のステップ、即ち、Tol1因子を利用して導入される、目的のDNAと異なるDNAを、Tol2因子を利用して前記標的細胞に導入するステップを更に含むことを特徴とするDNA導入法が提供される。Tol2因子を利用したDNA導入法についてはKoga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.(引用文献13)、Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.(引用文献14)、Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.(引用文献15)等を参考にして実施することができる。尚、引用文献13はTol2因子を利用した遺伝子導入について、引用文献14はTol2を利用した突然変異誘発について、引用文献15はTol2を利用した遺伝子やプロモーター或いはエンハンサーのトラップについてそれぞれ報告している。
【0040】
トランスジェニックフィッシュやトランスジェニックマウス、又はノックアウトマウスなど、遺伝子改変動物を作製する目的で本発明のDNA導入システムを使用することもできる。例えば、ゼブラフィッシュやメダカ等の受精卵の細胞質や卵黄或いは核にマイクロインジェクション等の方法で本発明のDNA導入システムを導入し、トランスジェニックフィッシュを発生させることができる。
一方、本発明のDNA導入システムを用いることによって、特定の遺伝子が導入された受精卵母細胞又は胚性幹細胞を作製し、これからトランスジェニック非ヒト哺乳動物を発生させることができる。トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、ES細胞を利用する方法などを用いて作製することができる。以下、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法の一例として、マイクロインジェクション法を利用した方法を説明する。
マイクロインジェクション法では、まず交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し、そして培養した後にその前核に本発明のDNA導入システムを導入する。導入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定期間飼育して仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込まれていることを確認するために、仔マウスの尾などからDNAを抽出し、導入遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR法や導入遺伝子に特異的なプローブを用いたドットハイブリダイゼーション法等を行う。本明細書における「トランスジェニック非ヒト哺乳動物」の種は特に限定されないが、好ましくはマウス、ラットなどの齧歯類である。
【0041】
(ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法)
本発明の更に他の局面は、本発明のトランスポザーゼ又はそれをコードするポリヌクレオチドを用いることによって、標的細胞のゲノムDNA上の特定DNA部位を移転させる方法を提供する。この局面の一態様では、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損したTol1因子をゲノムDNA上に保有する細胞(標的細胞)に、本発明のトランスポザーゼ又は本発明のポリヌクレオチドが導入される。導入されたトランスポザーゼ(又は導入されたポリヌクレオチドから発現したトランスポザーゼ)が標的細胞の保有するTol1因子に作用し、転移を生じさせる。人為的な操作によってTol1因子を保有するようになった細胞に限らず、本来的に(即ち内在性因子として)Tol1因子を保有する細胞をここでの「標的細胞」として用いることができる。つまり、本発明の方法が適用可能な細胞は、Tol1因子の導入操作を経た後の細胞に限られるものではない。
他のポリヌクレオチド配列が挿入されたTol1因子に対して本発明の方法を適用すれば、当該ポリヌクレオチド配列が転移することによる影響・効果を調べることができ、当該ポリヌクレオチド配列の機能に関する有益な情報が得られる。このように本発明の方法は、遺伝子を始め様々なポリヌクレオチドの機能の解析に有用である。一方、他のポリヌクレオチド配列が挿入されていないTol1因子に対して本発明の方法を適用した場合、Tol1因子自体の機能や、それが挿入されることによる影響などを調べることができる。このように、本発明の方法はTol1因子の研究においても有用である。
【0042】
Tol1因子とTol2因子を利用して2種類のDNAが導入された細胞ではTol1因子又はTol2因子のいずれかに対応したトランスポザーゼによって、当該2種類のDNAの片方を選択的に転移させることが可能である。つまり、2種類の導入DNAを独立して制御することが可能となる。そこで本発明は、Tol1因子及びTol2因子を利用したDNA導入法を用いて遺伝子操作された細胞に対して、Tol1因子又はTol2因子に対応したトランスポザーゼを供給するステップを含む、ゲノムDNA上の特定DNA部位を転移させる方法を提供する。トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを標的細胞に導入することによって、標的細胞内でトランスポザーゼを強制発現させることにしてもよい。Tol2因子のトランスポザーゼの導入についてはKoga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.(引用文献13)、Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.(引用文献14)、Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.(引用文献15)等が参考になる。Tol2因子のトランスポザーゼのアミノ酸配列を配列番号7に示す。また、当該トランスポザーゼをコードするcDNA配列(ポリAを含まない)及びゲノムDNA配列(TSDを含まない)をそれぞれ配列番号8及び配列番号9に示す。
【0043】
(遺伝子操作された細胞)
本発明のDNA導入システム又はDNA導入法を実施すれば、遺伝子操作された細胞が生ずる。そこで本発明は、このようにして得られる遺伝子操作された細胞をも提供する。本発明の細胞は、遺伝子操作の結果として新たな形質や機能を発揮することができる。このような細胞は、導入されたDNAに応じて、特定の物質の生産や特定の疾患の治療等へその利用が図られる。また、導入されたDNAの機能を調べるための研究材料としても当該細胞は有用である。
【0044】
(DNA導入用キット)
本発明は更に、本発明のDNA導入用システムやDNA導入法などに用いられるDNA導入用キットを提供する。DNA導入用キットは、目的のDNAの運搬体としてのドナー要素と、トランスポザーゼ源としてのヘルパー要素を必須の構成要素とする。具体的にはドナー要素は、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損し、且つ挿入部位を有するTol1因子を含む発現コンストラクトからなる。他方のヘルパー要素は、本発明のトランスポザーゼ又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む発現コンストラクトからなる。ここでの「挿入部位」とは、導入目的のDNAが挿入される部位である。Tol1因子に内在する制限酵素認識部位を「挿入部位」として利用することができる。例えば、配列番号10の塩基配列で示されるTol1因子(Tol1-tyr、1,855塩基対、TSDを含まない)はSalIサイトを有し、当該制限酵素認識部位を挿入部位として利用できる。遺伝子工学的手法によって、制限酵素認識部位や、組換え反応のための塩基配列を作製し、これを挿入部位として利用してもよい。組換え反応のための塩基配列とは、例えばGateway(登録商標、インビトロジェン社)テクノロジーで使用されるattR配列を指す。
挿入部位として、種類の異なる複数の制限酵素認識部位を形成することにしてもよい。即ち、マルチクローニングサイト(MCS)を有するドナー要素を用いることにしてもよい。マルチクローニングサイトを構成する各制限酵素認識部位の種類は特に限定されないが、HindIII、BamHI、EcoRI等、頻用される制限酵素認識部位を採用することが好ましい。汎用性の高いキットを構築するためである。尚、後述の実施例に示すドナー要素(pDon253Mcs)は、BamHI、EcoRI、EcoRV、KpnI、PstI、XbaIからなるマルチクローニングサイトを有する。
【0045】
上記の通り、Tol1-tyrの内部1,592塩基対(5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基まで)を取り除いた場合においても、転移効率を損なわないことが判明した。この知見に基づき本発明の一態様では、Tol1-tyrの塩基配列(配列番号10で示される塩基配列)の内、5’末端から数えて158番目の塩基から1749番目の塩基までを少なくとも取り除くことによって得られる、5’末端側DNA及び3’末端側DNAの間に挿入部位が形成された構造のTol1因子を用いる。換言すれば、配列番号10で示される塩基配列の5’末端部(最長157塩基対)のDNAと、配列番号10で示される塩基配列の3’末端部(最長106塩基対)のDNAの間に目的のDNAが挿入された構造のドナー要素が使用されることになる。ここでの5’末端側DNAの具体例は、配列番号21で示される塩基配列からなるDNA(157塩基対)であり、3’末端側DNAの具体例は、配列番号22で示される塩基配列からなるDNA(106塩基対)である。
【0046】
好ましい態様では、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損し、且つ挿入部位を有するTol1因子を含むベクターをドナー要素とし、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)を含むベクターをヘルパー要素とする。このようなキットは利便性が高く、且つその使用によって高いDNA導入効率を期待できる。この場合のヘルパー要素は、好ましくは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーター、及び/又は下流側で当該ポリヌクレオチドに連結したポリA付加シグナル配列又はポリA配列を更に含む。
【0047】
(再構築されたトランスポゾン)
本発明の更なる局面は、再構築されたトランスポゾンを提供する。本発明の再構築されたトランスポゾンは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損したTol1因子に対して、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(即ち本発明のポリヌクレオチド)が挿入された構造を有する。好ましくは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結するようにプロモーターも挿入されている。もっとも、プロモーターの挿入は必須ではなく、挿入される「トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド」がプロモーター領域の配列を含み、それ自体で十分な転写活性が得られる場合にはプロモーターの挿入を省略することができる。一方、転写産物(mRNA)の安定性を高めるためにポリA付加シグナル配列又はポリA配列も挿入されていることが好ましい。即ち、本発明の再構築されたトランスポゾンの好ましい一態様では、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの下流側にポリA付加シグナル配列又はポリA配列が連結されている。
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド等の挿入操作は常法(Molecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)等を参照)に従えばよい。また、「作動可能に連結した」や「プロモーター」等の各用語については、上記の説明(Tol1因子のトランスポザーゼを含む発現コンストラクトの欄)が援用される。
再構築されたトランスポゾンの具体的な例は、配列番号10~12のいずれかで示す塩基配列に、配列番号3又は配列番号4で示す塩基配列が挿入された配列を有する。
再構築されたトランスポゾンは、標的細胞内で発現可能な状態でトランスポザーゼを含み、自律性転移因子として機能する。従って、単独でDNA導入用のツールとして使用され得る。このように本発明は、再構築されたトランスポゾンを用いたDNA導入システムをも提供する。ここでの「単独で」とは、別に用意したトランスポザーゼを併用する必要がないことを意味し、再構築されたトランスポゾンの機能を発揮させるために必要な成分・要素(例えばベクター骨格、試薬など)の併用を排除するものではない。
【0048】
本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えばよく、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)等を参考にすることができる。
【実施例1】
【0049】
1.材料と方法
(1)魚
完全アルビノの表現型のメダカは、商業用に繁殖している集団から30年以上前に見つかったものである(引用文献27)。この個体から系統を確立し、実験室で維持している。このアルビノ突然変異体ではチロシナーゼ遺伝子の第1エクソンに1.9 kbのTol1因子の挿入がある(引用文献11)。2001年、新潟大学で維持していたサブ系統の中にモザイク着色を示す個体が現れた。名古屋大学で維持していた本来の系統では、着色は起こっていない。本来の系統をi 1-Tomita、着色のあるサブ系統をi 1-Niigataと呼ぶことにした(引用文献12)。ここでは簡略化してそれぞれをサブ系統A及びサブ系統Bと記す。どちらのサブ系統についても、これまでに他の系統と交配をしたことはない。
【0050】
(2)データベース
公共の利用に供されている下記のデータベースを使用した。完全長のTol1因子と考えられる塩基配列を組み上げるために使用したデータベース:メダカのゲノムプロジェクト(http://shigen.lab.nig.ac.jp/medaka/genome/)。モチーフを検索するために使用したデータベース:MOTIF (http://motif.genome.jp/)。hATファミリーの転移酵素の配列を集めるために使用したデータベース:Pfam (http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)。アミノ酸配列の照合をするために使用したデータベース:Clustal X (http://bips.u-strasbg.fr/fr/Documentation/ClustalX/)。
【0051】
(3)試薬及びキット
下記の分子生物学用の試薬やキットを、製造会社の説明書に従って使用した。PCRでのDNA増幅:PCR enzyme ExTaq (Takara Bio Inc., Otsu, Japan)。ゲノムライブラリーの作製:フォスミドベクターpCC1FOS (EPICENTRE Biotechnologies, Madison, USA)。プローブの標識とハイブリダイゼーション分析:AlkPhos Direct Labelling and Hybridization System (GE Healthcare, Chalfont St. Giles, UK)。RNAの抽出:RNeasy kit (QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)。RACE分析:FirstChoice RLM-RACE Kit (Ambion, Austin, USA)。細胞へのDNAの取り込み:PolyFect Transfection Reagent (QIAGEN GmbH)。G418耐性細胞の選抜:G418 (Invitrogen Corp., Carlsbad, USA)。尚、個々の実験条件は実験結果の欄や図面の説明の欄に記載した。
【0052】
(4)哺乳類培養細胞での転移の分析
ヒトのHeLa細胞と、マウスのNIH/3T3細胞を用いた。細胞の維持は、10%ウシ血清と抗生物質を含むDMEM培養液を用いて37℃、5.0% CO2の恒温器で行った。
35 mmのディッシュに、1枚あたり1 x 105個の細胞を播種し、24時間保温した。プラスミドDNAの混合物を、ディッシュ1枚あたり1,000 ngとなるように調整し、PolyFect試薬を用いて、細胞に取り込ませた。さらに24時間保温した後、細胞をPBSで2回洗浄し、プラスミドDNAや取り込み試薬を含まない新しい培養液を加えて保温した。24時間後、トリプシン処理で細胞をディッシュ底面から剥離し、2.0 mlの培養液に懸濁した。その懸濁液100μlずつを、異なる大きさ(35 mm、60 mm、90 mm)のディッシュに移した。培養液には500μg/mlとなるようにG418を加えた。G418での選抜を12日間続けた後、20%ホルマリンで細胞を固定して、ギムザ染色液で染色した。コロニーの数が100に最も近いディッシュを選び、コロニーを数えた。その結果から、最初に播種した細胞105個あたりのコロニー数を推定した。以上の分析は全て、個々の測定系を同時に3組作って行った。
【0053】
2.実験結果
(1)材料とする魚の改良
2001年に発見したときのモザイク着色の系統では、全個体のうちでの着色のある個体の割合、すなわち着色の浸透度はおよそ20%であった。分子レベルでの分析に適した材料に改良するために、着色の濃い雌と雄各1匹を選抜して交配するという作業を、5世代にわたって行った。その結果、浸透度は90%以上となり、黒い斑点も大きくなった(図1)。
【0054】
(2)完全長のTol1因子と考えられる配列の、データ解析からの組み立て
チロシナーゼ遺伝子の内部への挿入として最初に単離されたTol1のコピー(Tol1-tyr)は、長さが1.9 kb(配列番号10、TSDを含まない)である。Tol1-tyrの5’側末端及び3’側末端にはそれぞれ逆方向反復配列が存在する。尚、センス鎖の5’末端部における逆方向反復配列の配列(5’末端から3’末端方向)を配列番号5で示し、同様にセンス鎖の3’末端部における逆方向反復配列(5’末端から3’末端方向)を配列番号6で示す。DNA型因子では、内部が欠失することで非自律的コピーが形成されることが多い(引用文献19)。これを考慮して、Tol1-tyrをもとに、より長いコピーを塩基配列データベースから探すという作業を繰り返し行った。各回の検索では、もとにした配列と新たに加わった配列を合わせたものがデータベースに複数みられたときに、それは完全長のTol1の一部であるとみなした。そしてそれをもとにして、次の回の検索を行った。この作業を繰り返しているうちに、Tol1-tyrにはなかった部分がしだいに伸び、最終的に4.3 kbの配列となった。その後あらためて、この4.3 kbの配列をデータベースと照合した。そして、4.3 kbの個々の塩基の場所につき、出現頻度の最も高い塩基を採用した。その結果、2.3 kbのオープンリーディングフレーム(ORF)をもつ4.3 kbの配列が得られた。これをTol1-L0と記すことにした。
【0055】
(3)自律的なTol1因子の同定
Tol1-L0の配列の内部1.2 kbの部分(図2のbの部分)を、モザイク着色のサブ系統(さかなBと表記)のゲノムDNAからPCRで増幅する作業を行った。増幅で得られた断片をプローブとして、さかなBのゲノムライブラリーに対するコロニーハイブリダイゼーションを行い、2つのクローンを得た。これらをTol1-L1、Tol1-L2とよぶ。この2つはどちらも4.3 kbで、5種類の制限酵素を用いて作成した制限酵素地図に違いはみられなかった(データは省略)。このためTol1-L1のみを用いて、塩基配列を調べた。その結果、Tol1-L1の塩基配列(配列番号4)及び構造が決定された(図2)。以降に記述するさらなる解析からの情報、及びTol1-L1とTol1-tyrの構造に関する比較も図2に示す。
【0056】
(4)Tol1のトランスポザーゼをコードすると考えられる完全長cDNAの同定
着色のないアルビノ系統(さかなA)及びモザイク着色のサブ系統(さかなB)から抽出したRNAを用いて、Tol1のトランスポザーゼ遺伝子からの転写産物を同定するための3'RACE(rapid amplification of cDNA ends)を行った。増幅産物をサザンブロットで分析したところ、さかなBではシグナルが1つ認められ、さかなAではシグナルが認められなかった(図3)。この結果は、ORFからのTol1転写産物がさかなBには存在するが、さかなAには存在しないか、存在するとしてもきわめて少量であることを示す。続いて、さかなBの5'RACEを行い、シグナルが1つ出ることを確認した(図3)。これらのシグナルをもたらしているRACE産物のクローンを得て塩基配列を調べたところ、ORF(配列番号1)をもつ2.9 kbのcDNA配列(配列番号3)が得られた(図11~13)。この配列をDDBJ/EMBL/GenBankに登録した。アクセッション番号はAB264112である。この完全長cDNAの配列とTol1-L1の配列(配列番号4)を比較することで、Tol1トランスポザーゼ遺伝子は3つのエクソンからなることが判明した(図2)。
【0057】
Tol1 ORFから推定されたアミノ酸配列(配列番号2、図11~13)を用いてBLAST検索を行ったところ、主にhATファミリーの転移因子からなるリストが作成された。リストアップされた配列の中で類似性が最も高かったものはイネとアラビドプシスのhATファミリーの因子である(データは省略)。さらに、アミノ酸配列のモチーフの検索を行ったところ、Pfamデータベースに登録されているhATファミリーの二量体化ドメイン(PF05699)の存在が予測された。また、Tol1及び種々の生物種のhAT因子のアミノ酸配列を照合して、このファミリーで保存されているアミノ酸ブロックがTol1 ORFにあることを確認した(図4)。Tol2に対するアミノ酸配列の類似性は、図4に含めた因子との類似性よりは低いものであった(データは省略)。
【0058】
(5)メダカのゲノムに存在するTol1のコピーの構成
先に行ったデータベース検索は、メダカのゲノム中ではTol1の内部の領域の存在頻度が端部の領域のそれよりも少ないことを示唆するものであった。このことは、数種類のメダカ系統のサザンブロット分析によって確認された。用いたプローブは、完全長のTol1-L1の様々な部分に対応するものである。端部領域に対するプローブを使用した場合は100個以上のバンドが現れたのに対して、中央領域に対するプローブを使用した場合のバンドの数は0から5個であった(図5)。このような現象は、トウモロコシのActivator因子(引用文献19)や、ショウジョウバエのP因子(引用文献20)、その他のDNA型因子についても共通して見られる。この現象について広く受け入れられている説明は、内部の欠失が、自律的因子から非自律的因子が生じるための中心的な機構である、というものである(引用文献19、20)。この説明はTol1の場合にも妥当と思われる。
【0059】
(6)哺乳類細胞でのTol1の転移の証明
Tol1 ORFがトランスポザーゼをコードし、そして当該トランスポザーゼがTol1因子の転移を介在する機能をもつかどうかを調べるために、まず、ドナープラスミド(以下、「ドナー」ともいう)とヘルパープラスミド(以下、「ヘルパー」ともいう)を作製した。ドナープラスミドは、1.9 kbのTol1-tyrを有し、Tol1-tyrの内部にはネオマイシン耐性遺伝子が組み込まれている。ヘルパープラスミドはTol1 ORFを有する。当該ORFの上流側には、制御のためのCMVプロモーターが連結され、同様に下流側には安定化のためのポリA付加シグナルが連結されている(図6)。また、陰性対照(ネガティブ・コントロール)のための欠損型ヘルパープラスミドを作製した。これは、ORFの内部の2つのコドンを終止コドンに改変したものである。さらに、Tol1 ORFと同じ長さの無関係なDNA断片をもつフィラープラスミドを作製した。フィラープラスミドは、遺伝子導入実験において、全DNA量を一定にすることでDNAの取り込み効率を一定にするために使用されものである。これらのプラスミドを組み合わせて、ヒトのHeLa細胞およびマウスのNIH/3T3細胞に導入し、G418耐性を獲得した細胞の選抜を行った。ドナーとヘルパーを導入した細胞では、ドナーと欠損型ヘルパーを導入した場合やドナーとフィラーを導入した場合と比較して、G418耐性のコロニーが多数生じた(図7)。耐性の獲得が宿主細胞のゲノムDNAへのTol1の転移(組み込み)の結果であることを確認するために、ドナーとヘルパーを導入した場合に得られた耐性獲得細胞から、Tol1を含むDNA断片をクローニングし、Tol1の端部とそれに隣接する部分の塩基配列を調べた。8個のクローンを調べたところ、隣接部分の配列はすべて異なるものであった(図8)。8 bpの標的部位重複(Target site duplication = TSD)も全てのクローンで見つかった。これは、ドナープラスミドのTol1の部分が染色体に組み込まれたのは転移反応の結果であることを示す。以上の結果より、Tol1 ORFが機能型Tol1トランスポザーゼをコードしていることが証明された。
【0060】
(7)Tol1とTol2の転移頻度の比較
Tol1とTol2の転移頻度をHeLa細胞を用いて調べた。対応するドナーとヘルパーをそれぞれ用意し、所定の導入量でHeLa細胞へ共導入した。ドナーとヘルパーの量の比は、1:0.5~1:9の範囲(ドナー100 ngの場合)、及び1:0.5~1:4の範囲(ドナー200 ngの場合)とした。これらの範囲内では、どちらの因子についても転移頻度はヘルパーの量と正の相関を示した(図9)。「正味のコロニー数」は、「コロニー数の観察値」から「ヘルパーがないときのコロニー数」を差し引くことで求められる。最大の「正味のコロニー数」は、Tol1では3,780 - 120 = 3,660(ドナー200 ng、ヘルパー800 ngのとき)、Tol2では3,393 - 287 = 3,106(ドナー200 ng、ヘルパー400 ngのとき)であった。最大値の比(Tol1の最大値/Tol2の最大値)は1.18である。このように、転移頻度の最大値はTol1とTol2で同等であった。
【0061】
(8)Tol1とTol2の転移誘発に関する不干渉
Tol1とTol2は、どちらもhATファミリーの因子であり、しかも同じ魚種のゲノムに存在する因子である。そこで、Tol1のトランスポザーゼがTol2の転移を、またTol2のトランスポザーゼがTol1の転移を誘発するかどうかを調べることにした。この実験では、ドナーとヘルパーの比を1:4にしてHeLa細胞に導入することにした。尚、当該量比は、高い頻度で転移を生じさせることが過去の実験によって示されたものである。
実験の結果は、Tol1のトランスポザーゼはTol2の転移を誘発せず、またTol2のトランスポザーゼはTol1の転移を誘発しないことを明確に示すものであった(図10)。このように、これら2種類のトランスポザーゼはそれぞれ、対応する因子に特化した機能を有することが明らかとなった。
【0062】
3.考察
従来、脊椎動物のゲノム中に存在し且つ転移活性を保持している転移因子として2種類の転写因子が知られていた。ゼブラフィッシュのTzf因子とメダカのTol2因子である。Tol1因子はメダカのアルビノ系統(サブ系統A)の突然変異の原因となっている挿入として、これら二つの因子よりも先に見つかったもの(引用文献21)であるが、発見当時その転移の直接の証明はできなかった。その理由は、当時見つかったコピー及びゲノムに存在するであろう他のコピーのほとんど全てに内部の崩壊や欠失が生じていることにあると推測される。本発明者らは今回、データベースの解析、及びモザイク着色という独特の形質をもつサブ系統(サブ系統B)の分析を通して、高頻度の転移を引き起こすことのできる完全型のTol1因子が存在することを証明した。
【0063】
Tol1とTol2はどちらもhATファミリーに属する。しかし、分子レベルでの構造や種間での分布には大きな違いがみられる。Tol1の多くのコピーには様々な大きさの内部欠失があり、Tol1に相同性のある反復配列はメダカ属に広く分布している(引用文献10)。これとは対照的にTol2のコピーは塩基配列のレベルでも構造が均一で、メダカ(O. latipes)とその近縁種(O. curvinotus)のみでみられる(引用文献23)。このような状況から、Tol1はメダカ属に古くから存在する因子であり、一方のTol2はメダカにつながる系列に最近侵入した因子であると本発明者らは推測している(引用文献23)。この2つの因子は現在のメダカに偶然共存しているだけで、それまでに十分に長い時間が経過し、そのため今では別々の転移反応の系を確立しているものであると考えられる。
【0064】
Tol1-tyrのエクシジョンで引き起こされるモザイク着色は、本発明者らが別の対立遺伝子で最近みつけた不安定な体色突然変異の現象(引用文献9)と類似している。不安定な体色突然変異を示す系統では、チロシナーゼ遺伝子からのTol2のエクシジョンが高頻度で起こるうえに、ゲノムのいろいろな場所にTol2の挿入もある。転移因子が突然活発な転移を始めること、すなわちトランスポジションバーストは脊椎動物以外のモデル生物でよくみられることであるが、上記のメダカのTol2の現象は脊椎動物で初のトランスポジションバーストの例となった。Tol1について挿入を調べることは今のところ難しい。Tol1のメダカのゲノム中でのコピー数はTol2に比較してはるかに多く、このために現在の解析方法の限界を超えるためである。もしTol1でもトランスポジションバーストが起きているのであれば、DNA型因子が脊椎動物のゲノム進化へ大きな影響を与えている可能性があり、したがってその影響の程度について再検討を要することになる。
【0065】
モザイク着色のメダカ個体が発見されるまではTol1はすでに機能を失った因子であると考えられていた。100を超える数のTol1のコピーを調べたにもかかわらず遺伝子と思われる構造が見つからなかったためである(引用文献10)。ヒトやその他のゲノムプロジェクトの結果から、脊椎動物のゲノムにはかなりの量のDNA型転移因子が存在することが明らかとなった。但し、そのほとんどは転移活性を失っている(引用文献4)。本発明者らの今回の結果は、それらのうちに再び活性化され得るものがあるかどうかという疑問を提示するものである。とくに、さかなAに潜在的な自律的コピーがあるというサザンブロットの結果のもつ意義は大きい。
【0066】
Tol1とTol2の転移頻度の比較実験では、導入するドナーとヘルパーの量を変化させた。このときに設定したプラスミド量は重量ベースであった。結果として、Tol1とTol2の導入に用いたプラスミドのモル数の比、すなわち分子数の比は同一とならない。ドナー中の転移因子の大きさや、ヘルパー中のcDNAの大きさが、2つの因子の間で異なるからである。ドナープラスミドの場合、ネオマイシン耐性遺伝子を含んだ因子全体の大きさはTol1で3.7 kb、Tol2で3.1 kbである。ヘルパープラスミドでのコード領域の大きさはTol1で2.8 kb、Tol2で2.0 kbである(詳細は図5と図9の説明を参照)。このような違いはあるものの、実験結果からTol1とTol2の相対的な転移効率を読み取ることはできる。とくに重要な点として、Tol1の転移頻度の最大値はTol2の最大値と同等であった。Tol2は遺伝子導入(引用文献13)、突然変異誘発(引用文献14)、遺伝子やプロモーター或いはエンハンサーのトラップ(引用文献15)といった遺伝子改変系を脊椎動物用に開発することに最近活用されている因子である。したがって、Tol1も同様な可能性を秘めていると思われる。ここで、2種類の因子が互いの転移に影響しないという事実は極めて重要である。独立した制御が可能な二つのDNA導入系が二つ存在することは、1つの細胞株や個体に2種類のDNAを続けて導入することが必要な状況において特に有益である。これら二つのDNA導入系の利用形態の一つとして、導入済みの2種類のDNAのうちの一方を、それに対応する因子のトランスポザーゼを供給することで移動させるということも想定される。
【0067】
Tol1とTol2がどちらもhATファミリーの因子であるのに対して、DNA分子の加工で再構築したSleeping BeautyとFrog Princeは、mariner/Tc1ファミリーに属する。昆虫に由来するpiggyBacは更に別のタイプである。これらの転位因子グループ間に認められる顕著な相違点として因子の大きさがある。mariner/Tc1ファミリーの因子はほとんどが1-2 kbであり、piggyBacは2.5 kbである。これに対してhATファミリーの完全長の因子は典型的なもので4-6 kbである。因子の大きさと転移頻度の間には負の相関が存在することが多い(引用文献24)ため、hATファミリーに属する因子のサイズが大きいことは、大きなDNA断片を移動させるのに有利な性質であると考えられる。実際にTol2は9.0 kbもの大きさでも転移できることを本発明者らは報告している(引用文献13)。因子のサイズ以外にも転移因子グループ間に認められる相違点として重要なものがある。「発現過多に伴う抑制」の現れ方である。トランスポザーゼの存在量が過大であると転移頻度が減少することがSleeping Beauty(引用文献24)、ショウジョウバエのmariner(引用文献25)、piggyBac(引用文献25)で知られている。しかし、Tol1とTol2に関する今回の実験ではそのような現象は現れなかった。また、Tol2に関する別の研究においても同様に認められていない(引用文献26)。独立して機能し、そして転移頻度の高いhATファミリーの因子を2つ使用できるようになったことは、脊椎動物を対象とした遺伝子操作技術の拡張・発展につながる。
【0068】
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【実施例2】
【0069】
いまや、Tol1因子の自律的コピー(Tol-L1、長さ4355 bp、DDBJ AB288091、配列番号4)と転移酵素遺伝子(長さ2900 bp、DDBJ AB264112、配列番号3)は、クローンとして手中にある(実施例1)。従って、哺乳類に適用可能な遺伝学的ツールとしてTol1因子を利用可能な状態といえる。
因子の大きさが増加すると転移頻度が低下するのは、転移因子に共通の特徴である。このため、使用する因子を選ぶ際、「積載能力」が重視されることになる。ここで積載能力とは、「因子が運ぶことのできるDNA断片の最大長」を意味する。Tol1因子は、この点で有用性が高いと期待される。その第1の理由はTol1因子がhATファミリーに属していることである。hATファミリーとは、ショウジョウバエのhobo因子、トウモロコシのActivator因子、金魚草のTam3因子に代表される転移因子のグループである(引用文献2、16)。このファミリーの際だった特徴として、他の主要なファミリーと比較して完全型コピーが長いことが挙げられる。具体的には、hATファミリーの因子は4~6 kbの長さがあるのに対して、mariner/Tc1ファミリーはほとんどが1~2 kb、piggyBAac因子は2.5 kbであり、比較的短い。第2の理由は、本研究に先立つ本発明者らの予備調査の結果による。即ち、メダカのゲノムには15 kbを超えるTol1因子が存在することが示唆された。これらの知見に基づき本発明者らは、Tol1因子は全長が15 kbを超えても転移すると推察した。Tol2因子もまたhATファミリーの因子である(引用文献7)。しかし、この因子はコピー間に構造の違いがなく、ほぼ全てのコピーが4.7 kbである。本発明者らはこれまでに、自然に存在するTol2因子について大規模な調査をしたが、4.7 kbを超えるものは見つかっていない(引用文献7、8)。
本研究では、まず、自然界に存在するTol1因子の長さ調査した。その結果、約18 kbと約20 kbの長さのコピーが存在することが判明した。次に、本研究の主な目的である「長いDNAを染色体に組み込む能力をもつ遺伝子導入ベクターの開発」を行った。まず、1.9 kbの因子から転移反応に不要な内部領域を除去して、全長0.3 kbの短いベクターを作製した。次に、基本となるこのベクターに、別のDNA断片を挿入し、様々な長さのTol1因子を作製した。そして、各Tol1因子をリポフェクション法で細胞に取り込ませた。続いて抗生物質G418で選択培養を行った後、残存コロニー数を計測し、転移頻度を算出した(実験手法については実施例1を参照)。ただし、リポフェクション法でのDNAの取り込み効率が最終の結果に影響を与えることが懸念されたことから、取り込み効率の影響を排除するための対策を講じた。即ち、Tol1因子の長さが異なっていてもプラスミド全体の大きさは揃うようにした上で比較する、という対策である。得られた結果から、Tol1因子は全長が22.1 kbと長くても効率よく転移することが明らかになった。この長さは、哺乳類で使われている他のDNA型転移因子と比べて、報告されている値としては最長である。
【0070】
1.材料と方法
(1)ゲノムライブラリー
以前の研究で、メダカのゲノムライブラリーを作製した(引用文献10)。本研究では、Tol1因子を含むゲノムDNAのクローンを得るために当該ライブラリーを使用した。ライブラリーのもとになったメダカのゲノムDNAは、皮膚と目に部分的なメラニン沈着のあるアルビノメダカから抽出したものである。ベクターはフォスミドpCC1FOS(EPICENTRE Biotechnologies, Madison, WI, USA)であり、33 kb~48 kbの機械的な剪断をかけたDNAが内部に含まれている。
【0071】
(2)プラスミド
2種類のプラスミド、即ちドナーとヘルパーを使用した。細胞内では、ヘルパーから作られた転移酵素の作用によって、Tol1因子がドナーから切り出されて染色体に入り込むことになる。
今回使ったドナーの構成を、図15と図17に示す。ヘルパーは、上記実施例1で使用したものと同じであり、基本的な構造を図15に示した。完全型ヘルパーのほか、欠損型ヘルパーを用意した。これは、転移酵素の作用に関する対象区としての役割を果たす。
【0072】
(3)転移頻度測定系
ヒトのHeLa細胞と、マウスのNIH/3T3細胞を、10% FBSを含むDMEM培地で培養した。培養温度は37℃、CO2濃度は5.0%とした。
12穴プレート(直径22 mm)に、1穴あたり2x105個の細胞を播種した。24時間後に、ドナー100 ngとヘルパー900 ngを、Lipofectamine LTX試薬(Invitrogen Corp., Carlsbad, NM, USA)を使って、細胞に取り込ませた。8時間後に、細胞をPBSで2回洗って新しい培地に替えた。24時間後に、トリプシンで細胞をディッシュからはがして、2.0 mlの培地に懸濁した。異なる大きさのディッシュ(35 mm, 60 mm, and 90 mm)に、濃度500μg/mlでG418を含む培地を入れ、続いて懸濁液400μlを入れた。ここからがG418で選択するための培養である。12日間の選択培養の後、細胞を20%ホルマリンで固定し、ギムザ染色液で染色した。3種類の大きさのデイッシユのうちで、コロニー数が100に最も近いものを選び、コロニー数を数えた。その数と希釈率を基に、最初に播種した細胞105個あたりのコロニー数を求めた。以上が1回の試行の過程である。この試行を、ドナーとヘルパーの各組合せにつき3回ずつ行った。
【0073】
(4)分子レベルの操作の手法
本研究は、上記実施例1に示した研究の延長である。ゲノムDNAの調整、PCR、PCR産物のクローニング、塩基配列の決定、コロニーハイブリダイゼーションについては同様の方法・手順で行った。ただし、PCR用の酵素には、前回のEx Taq(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)ではなく、長いDNAの増幅を高率的に行うLA Taq(Takara Bio Inc.)を使用した。PCRの条件は、該当する箇所に記す。
【0074】
2.実験結果
(1)Tol1のコピーにみられる長さの変異
メダカのゲノムには、100~200コピーのTol1が存在し、長さは一様ではない(引用文献9)。長さの変異の程度を知るために、また長いコピーを同定することに特に注意をして、ゲノムライブラリーのスクリーニングを行った。スクリーニングでは2回のハイブリダイゼーションを行い、Tol1の両方の末端部を含む染色体断片を回収した。1回目のスクリーニングでは、Tol1-tyrの左端の領域(配列番号10の1~500番塩基)とハイブリダイズするクローンを選んだ。スクリーニングの対象としたコロニーの数は4 x 104(半数体ゲノムの約2倍のDNA量に相当)であり、プローブはアルカリフォスファターゼでラベルしたものを用いた。このスクリーニングでは、161個の陽性シグナルを検出した。続いて、それぞれの陽性シグナルに対応するコロニーを対象として、2回目のスクリーニングを行った。このときのプローブに使用した領域は、Tol1-tyrの右端の部分(配列番号10の1356~1855番塩基)である。このスクリーニングで、161個のコロニーのうちの130個が選抜された。
スクリーニングで得たクローンに対して、Tol1の両端の部分をプライマーとするPCRを行った。個々のクローンに含まれるTol1部分を増幅するためである。130個のクローンのうちの114個で増幅が認められた。因子の長さの分布は、ほぼ山型で、1~2kbに鋭いピークがある(図16)。特筆すべきことに、18 kbと20 kbのクローンが見つかった。後に示すように、Tol1因子は、末端部をもってさえいれば、内部の塩基配列には関わりなく転移する。したがって、今回見つかった2つの長いTol1も、転移能を有すると予想される。
【0075】
(2)Tol1の短いクローンの転移活性
DNA型転移因子では、内部が部分的に欠けても、転移酵素が存在する限りはその因子は転移活性を失わないという現象が頻繁に観察される(引用文献15)。これはTol1にも当てはまると考えられる。1.9 kbのTol1-tyr因子は、4.4 kbのTol1-L1因子の内部が欠けた構造をしており、そのTol1-tyr因子は、転移酵素の供給によって転移する(引用文献10) からである。メダカのゲノムには1.9 kbより短い因子も多数存在する(図16)ことから、この1.9 kbの因子には転移に不要な部分が未だ存在すると考えられる。この推測に基づき、より短いクローンを多数作製し、それぞれの転移活性を調べた。方法は、上記実施例1と同様、形成されたコロニーの数を計測する方法である。短い因子の作製には、Tol1-tyr の端部に外向きになるように設計したプライマーを使用した。まずPCRでTol1の腕部分とそれを保持しているプラスミドを、ひとつながりの断片として増幅し、その断片の両端をつないだ。続いて、その結合部分に、ネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだ(図15)。このようにして得られたドナープラスミドを、完全型又は欠損型のヘルパー(図15)とともに、マウスの培養細胞に取り込ませた。その結果、157 bpの左腕と106 bpの右腕からなるクローンがTol1-tyrと同等あるいはそれ以上の転移頻度を示したという、重要な知見が得られた(図16)。このクローンのどちらかの腕をさらに削って26 bp にした場合は、転移活性の極端な低下、場合によっては転移活性の喪失、という事態になった(図16)。
【0076】
(3)クローニング部位をもつ短いベクターの作製
これまでの実験の結果に基づいて新たなクローンを作製した。新たなクローンpDon263Mcsは、Tol1因子の157 bpの左腕と106 bpの右腕をもつ。両腕の間には、頻用される6種類の制限酵素(BamHI, EcoRI, EcoRV, KpnI, PstI, XbaI)に対応するクローニング部位(multiple cloning site, MCS)がある(図17)。Tol1因子のすぐ外側にはHindIIIサイトがある。このサイトは、以降に記載するように、転移頻度の正確な測定に利用するためのものである。
【0077】
(4)全長は一定で内部に異なる大きさのTol1因子をもつプラスミドの作製
PCRを利用して、長さがx kb(x = 0, 5, 10, 15, 20)のDNA断片と、y kb(y = 20-x)の別の断片を作製した。そして前者をpDon263McsNeoのEcoRIサイト(Tol1の内部)に、後者をHindIIIサイト(Tol1の外部)に挿入した(図17)。このようにしてできたクローンをpDon263McsNeoExHyと名付けた。各部の長さは、Tol1の腕が0.3 kb、ネオマイシン耐性遺伝子が1.8 kb、プラスミドベクターの部分が2.7 kbである。したがって、pDon263McsNeoExHyでのTol1の左端から右端までの距離は、(x + 2.1) kbである。プラスミド全体の大きさは、xの値に関わらず24.8 kbとなる。
リポフェクション法でのDNAの取り込みの際、プラスミドの大きさが取り込み効率に影響することが知られている。Tol1の内部に加えて外部にもDNA断片を挿入し、プラスミド全体の大きさを揃えることにし、大きさの影響を排除した。これによって、異なる大きさのドナーの間での転移頻度の正確な比較が可能になる。
【0078】
(5)転移頻度の比較
5種類のドナーのそれぞれについて、完全型のヘルパー又は欠損型のヘルパーと組み合わせて、転移頻度を測定した(図18)。ヒト細胞とマウス細胞のいずれでも、因子の大きさと転移頻度は負の相関関係であった。完全型のヘルパーとともに取り込ませた場合における、最も長い因子(pDon263McsNeoE20)と最も短い因子(pDon263McsNeoH20)の転移頻度の比は、ヒト細胞で0.21、マウス細胞で0.28であった。ヒト細胞では、最も長い因子を使用した場合、完全型のヘルパーを組み合わせたときの転移頻度は、欠損型ヘルパーのそれの8倍であった(マウス細胞では10倍)。
【0079】
(6)転移の証明
次に、Tol1因子の染色体への取り込みが転移反応によるものであることの証明を試みた。まず、最も長い因子(pDon263McsNeoE20)での試行で得られたマウス細胞のコロニーを2個単離し、系統を確立した。これらの系統(N1とN2。ここでNは、ネオマイシン耐性形質転換体を意味する)をそれぞれ増殖させ、ゲノムDNAを抽出した。得られたDNAを鋳型にして、Tol1の端部とそれに隣接する染色体領域を増幅した。増幅は逆向きPCRで行った。そして、得られたDNA断片の塩基配列を調べた。得られた塩基配列から、2つの細胞系統のどちらの場合も、8 bpの標的部位重複が生じていることがわかった(図19)。標的部位重複が生じたことは、ドナーがDNAに組み込まれた反応が転移反応であったことを意味する。マウスの塩基配列データベースに対するBLAST検索より、組み込まれた場所は15番染色体と5番染色体であることが判明した。
このように、転移によって染色体に組み込まれたことが確認された。しかし、これらの結果からは、内部のDNA断片も含めたTol1因子全体が、部分的な欠失や崩壊を起こすことなく染色体に組み込まれたかどうかは不明である。そこで、更なる検討のため、Tol1の端部と隣接する染色体領域にまたがるプライマーを用意し、PCRを行った。ここで、培養細胞は2倍体であり、Tol1の挿入は2本の相同染色体のうちの片方のみに起こったと考えられることに注意した。上記のように設計したプライマーでは、組み込まれたTol1因子は増幅される。そしてもう一方の染色体の対応する部位が増幅されることは、ない。プライマーがTol1因子の一部の塩基配列をその3'末端にもち、これがその部位には適合しないためである。PCRでは、細胞系統とプライマーの正しい組合せのときにのみ増幅がみられた(図20)。増幅産物の長さは期待されるとおり(22.1 kb)であり、それを制限酵素で切断して得られる電気泳動パターンも、期待通りであった(図20)。これらの結果から、22.1 kbのTol1因子の全域が、欠失や崩壊を起こすことなく、転移反応によって染色体へ組み込まれたことが証明された。
【0080】
3.考察
(1)Tol1因子の長さの変異
本研究では、最初にTol1因子の長さの変異を調べ、メダカのゲノムに約18 kbと約20 kbのコピーが存在することを、見いだした。この結果は、Tol1因子は15 kbを超えていても転移するという本発明者らの推察を間接的に支持するものである。
長さの変異を調べるために用いた方法は、2回にわたるゲノムライブラリーのスクリーニングと、個々のクローンを対象とした3回のPCRである。他に考えられる方法としては、(1)メダカの塩基配列データベースの解析、(2)ゲノムDNAをそのまま用いたPCR、の2つがある。しかし、本発明者らはこれらの方法を採用しなかった。メダカの塩基配列データベースは年々充実の度を増している。しかし、転移因子のような長い散在反復配列については未だに、正確に取り込まれているとはいえない。コンティグやスカホールドといった連続配列は、コンピュータで編集して作るものであるが、これらが長い反復配列の内部で途切れていることは多く経験されるところである。実際に、本発明者らが以前の研究(引用文献10)で同定した4.4 kbの自律的Tol1因子は、いまだに、ひとつながりの配列としてはデータベースに現れていない(2007年8月に公開のversion 46)。
ゲノムDNAをそのまま用いたPCRを利用する方法も有用と言えない。Tol1では、1~2 kbという小さいコピーが、長いコピーよりはるかに数が多く、その短いコピーがPCRでは優先的に増幅されるからである。本研究では、大量のクローニングと、それに続く個々のクローンのPCR解析が、唯一の可能な手段であった。
【0081】
(2)不要な内部領域の除去
本発明者らは、157 bpの左腕と106 bpの右腕からなる基本的なTol1ベクターを構築した。そしてこのベクターは、元の因子(1855 bp)と同等の高い効率で転移した。このように本発明者らは、内部の1592 bpの領域を除去することに成功した。この改変によって、内部にDNA断片を搭載するための余地が増大したといえる。また、搭載したDNAやホストの細胞に影響を与える可能性のあるシグナルや、シグナルに類似する配列の除去という面でも、この改変の意義は大きい。
さらなる詳細な解析を行えば、ベクターの腕をより短く切り詰めることが可能と考えられる。今回の研究では、そのような解析は行わなかった。その理由の一つは、どちらかの腕を26 bpにすると転移頻度が極端に減少する(図16)ことを考慮すれば、積載能力の大幅な増大は望めないと判断したからである(増加分は、最大でも (157-26) + (106-26) = 211 bp となる)。もう1つの理由は、ある程度の長さの腕を残しておけば、転移で取り込まれた因子の解析にそれを利用することができるからである。多くの場合、そのような解析の最初の作業は、隣接する染色体領域のクローニングである。そしてその主たる手法は逆向きPCRであり、それには腕の一部をプライマーの領域として使用する必要がある。さらに、ときには、2回以上の入れ子形式のPCRが必要なこともあり、その場合は、腕の中の異なる部分をプライマーとして使うことになる。このような事態を考慮して、本発明者らは、PCRプライマーに使うことのできる部分を残した。基本のベクターの腕の長さ(157 bp と 106 bp)は、このような考慮に基づいて決定したものである。
【0082】
(3)因子の大きさの転移頻度への影響
完全型ヘルパーと欠損型ヘルパーの両方の場合について転移頻度を測定した。コロニーの形成は欠損型ヘルパーの場合でも認められた。ただし、上記実施例1で示した通り、欠損型ヘルパーで生じたコロニーのTol1因子は標的部位重複を伴っておらず、したがって転移ではなくランダムな挿入で生じたものである。5種類のドナーの間で、欠損型ヘルパーの場合でのコロニーの数がほぼ同じであったことは、この説明に符合する。またこの結果は、リポフェクション法でのDNA取り込み効率へのプラスミドの大きさの影響が、本発明者らの測定法では十分に排除できていたことをも示す。
形質転換体の細胞の解析からは、Tol1因子の全域が転移反応で染色体に取り込まれたことが明らかになった。そして取り込みの頻度は、最も長いTol1因子(pDon263McsNeoE20)の場合でさえも、ランダムな取り込みの頻度に比して有意に高いものであった。このドナープラスミドのTol1因子の長さは22.1 kbであり、そのうちの0.3 kbがTol1の腕である。したがって、今回作製した基本のベクター(pDon263Mcs)は、21.8 kbまでの長さのDNAを染色体に送り込む能力がある。送り込んだDNA断片が内部の欠失や崩壊などを起こしていなかったことも重要な知見である。
【0083】
(4)他の転移因子との比較
Sleeping Beauty因子について、全長が9.1 kbを超えると転移効率が消失することが知られている(引用文献6)。piggyBac因子は全長を14.3 kbとしても遺伝子導入ベクターとして機能することがわかっている(引用文献3)。Tol2因子の場合、これまでに報告されている最大の長さは10.2 kbである(引用文献1)。piggyBac因子とTol2因子に限れば、報告されている長さより長くても転移活性が保持される可能性はある。現在のところ、本発明者らがTol1で今回示した22.1 kbという値は、哺乳類で使われているDNA型転移因子の中では最大である。加えて、本発明者らが作った基本的なベクターは、Tol1の腕として使われる部分は0.3 kbと短い。以上から、Tol1は長いDNAを哺乳類の染色体に取り込ませるための有用な遺伝子導入ベクターであるといえる。
【0084】
引用文献
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【実施例3】
【0085】
上記実施例2において、Tol1は、長いDNA断片を染色体に運び込むことができるという特性を備え、優れた遺伝学のツールであることが示された。具体的には、全長が22.1kbと長くても効率よく転移する点と、腕の長さが左右の計でわずか263 bpあればベクターとして機能するという点が明らかとなった。また、メダカに加えて、ヒトとマウスでも転移することがすでに証明されている(上記実施例1、引用文献15)。このため、広い範囲の脊椎動物で転移活性があることが期待できる。
DNA型転移因子は、主に「カット・アンド・ペースト」の様式で転移する。「カット」は、因子が現在乗っている染色体などのDNA分子から因子が抜け出す過程を指す。「ペースト」は、抜け出した因子が同じまたは他のDNA分子に入り込むことである。ここで「カット」が生じた場合、その検出は容易である。特定の因子に注目したPCRでの解析で十分な情報が得られるからである。これに対して入り込むほうの証明は、どこに入るかを事前に知ることはできず、マーカー遺伝子や複雑な検出系が必要となることから、容易ではない。
本研究の目的は、X. laevisでTol1因子のエクシジョンが起こるかどうかを調べることである。この目的のために、Tol1因子を内部に埋め込んだインディケータープラスミドと、細胞の中で転移酵素を供給するためのヘルパープラスミドを作製した。そしてこれらを発生の初期段階のカエルの胚に注入し、細胞分裂のための時間が経過した後に胚から回収した。続いてインディケータープラスミドをPCR、クローニング、および塩基配列解読の方法で解析した。結果は、Tol1因子がプラスミドからのエクシジョンを起こしたことを示した。切断点には、痕跡としての多様な配列も観察された。以上の結果より、Tol1因子がこのモデル生物においても転移能を示すことが判明するとともに、ゲノム操作のツールとしてTol1因子が汎用性に優れることが示唆された。
痕跡の配列は、魚や哺乳類でみられるものと類似していた。ただし、切断点に特定のヌクレオチドが現れるという傾向が観察された。これについては、このカエルまたは両生類に特有な何らかのDNA修復機構があって、それを反映した結果であるということも考えられる。
【0086】
1.材料と方法
(1)プラスミド
2種類のプラスミドを用いた。インディケーターとヘルパーである。前者は非自律的なTol1因子をもつプラスミド、後者はCMVプロモーターに制御された転移酵素遺伝子をもつプラスミドである。細胞の中で、ヘルパーが転移酵素を供給し、それがインディケーターの中にあるTol1因子の転移を触媒することが、期待される。
完全型のヘルパーに加え、転移酵素の機能の対照区とするための欠損型ヘルパーも用意した。これは、転移酵素の途中のアミノ酸にあたるコドン2か所を、終止コドンに替えたものである。
インディケーターpInd263GFPは、263 bpのTol1因子の腕及びGFP遺伝子を含む。完全型ヘルパーpHel851aaは、851アミノ酸からなる転移酵素をコードする。欠損型ヘルパーpHel316aaは、316アミノ酸のみをもつ途切れたタンパクをコードする。それぞれの構造を図21に示した。pInd263GFPの中のGFP遺伝子は、CMVプロモーター、EGFPのコーディング配列、ポリA付加シグナルで構成されている。このGFP遺伝子は、胚の細胞に注入したDNAが核に取り込まれたことを確認するためのマーカー遺伝子の役目を果たす。
【0087】
(2)カエルの胚およびDNAの注入
カエルの雌に600ユニット、雄に300ユニットのchorionic gonadotropin(Aska Pharmaceutical, Tokyo, Japan)を注射し、自然交配をさせ、受精卵を得た。3% cystein(pH 7.9)中でゼリー層を除き、0.1x Steinberg's solution(引用文献12)で洗った後、[3% Ficoll, 0.1x Steinberg's solution]に移した。2細胞から4細胞の胚となったときに、5 nlのプラスミドDNAを注入した。DNAは、インディケーターの濃度が5 μg/ml、ヘルパーの濃度が50 μg/mlとなるように[88 mM NaCl, 15 mM Tris-HCl (pH 8.0)]に溶解させておいた。注入を終えた胚は、0.1x Steinberg's solution中で20℃で培養した。なお、インディケーターとヘルパーの比は1:10であるが、これは上記実施例1の結果を参考にして決定したものである(いろいろな比を設定して哺乳類培養細胞での転移頻度を調べ、1:9の場合に最も高い頻度が得られた。今回の1:10は、これに近い値である)。
【0088】
(3)PCRでの解析
尾芽胚となったときにGFPの発光がみられる胚からプラスミドDNAを回収した。回収は、胚を100μlの[10 mM Tris-HCl, 10 mM EDTA (pH 8.0), 200 μg/ml proteinase K]に入れて砕き、続いて50℃で12時間以上保温するという処理で行った。そのうちの2 μlを鋳型として使い、エクシジョンを検出するためのPCRを行った。使った酵素は、KOD Plus polymerase (Toyobo, Osaka, Japan)である。プライマーは、プラスミドpUC19の一部に相当するもので、P1L(GenBank ファイル L09137の208~237番塩基)とP1R(770~741番塩基)である。Tol1因子が入っているのは、これらにはさまれた400~441番塩基の場所である。dNTPs、MgSO4、プライマーの濃度は、それぞれ0.2 mM、2 mM、0.5 μMとした。PCRの条件は、該当する箇所に記す。
【0089】
(4)クローニングと塩基配列の解読
PCRが終了した反応液を水で1/500に希釈し、そのうちの1 μlを鋳型として第2次PCRを行った。使ったプライマーはP2L(L01937の338~367番目塩基)とP2R(650~621番塩基)である。この入れ子形式のPCRは、第1次PCRの産物のクローニングを容易にするための処置である。第2次PCRの産物をプラスミドpBluescript II KS(-) (Stratagene, La Jolla, CA, USA)のEcoRVサイトにクローニングし、T3プライマーとT7プライマーを使って塩基配列を調べた。装置はABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用した。
【0090】
2.実験結果
(1)プラスミドの胚への注入および回収
実験は2つのセットAおよびBから成る。Aではインディケーター(pInd263GFP)と完全型ヘルパー(pHel851aa)を、2細胞から4細胞の時期のX.laevisの胚に注入した。Bは転移酵素の機能に関する対照区であり、完全型ヘルパーではなく欠損型ヘルパー(pHel316aa)をインディケーターとともに注入した。Aでは154個、Bでは168個の胚にDNAの注入を行い、それぞれ112個と136個の胚が尾芽胚まで生存した。AとBの間で生存率に明らかな差異はみられなかった(χ2=3.07, DF=1, P>0.1)。
注入したDNAの分子が核に取り込まれることは、エクシジョン検出の実験が成立するための前提条件である。転写は核内で起こり、ヘルパープラスミドに乗っている転移酵素遺伝子が転写されたときのみ、転移酵素が供給されるからである。この前提が成り立っていることを確認するために、インディケータープラスミドに乗せてあるGFP遺伝子を利用した。GFPが発現していれば、DNA型が核に取り込まれていることになる。GFPが発現している胚の割合は、Aで57%(64/112)、Bで65%(88/136)であった。これらの頻度の間に明らかな差異はない(χ2=1.48, DF=1, P>0.4)。胚を顕微鏡で観察したときのGFPの発現の空間パターンにも明らかな違いは認められなかった。Aの胚のうちでGFPの発現が強いものから12個(A1-12)、Bの胚からも同様に12個を選び(B1-12)、これらの計24個の胚から個別にプラスミドDNAを回収した。
【0091】
(2)回収したプラスミドのPCRでの解析
回収したDNAを鋳型として2種類の様式のPCRを行った。使用したプライマーは、P1LとP1R(pInd263GFPでTol1因子をはさむ位置にある)である。
最初のPCRは、インディケータープラスミドのDNA分子が回収されていることを確認するためのものである。pInd263GFPの上での2つのプライマーの距離は、2.4 kbであり、すべてのサンプルで、この長さの産物が確認された(図22、上段)。産物の量には個々のサンプルの間で違いがあったものの、AとBの間でばらつきの程度には明確な違いはみられなかった。このように、インディケータープラスミドが回収されていることが確認された。pInd263GFPからTol1因子の部分のエクシジョンが正確に起こったとすると、535 bpの断片がPCRで増幅されるはずであるが、この大きさの産物はどのサンプルにもみられなかった。
もう1つのPCRは、伸長反応の部分の時間を短く(1回目に150秒であったところを、40秒)して行った(図22、下段)。40秒ではTol1因子の全域を増幅するには十分ではなく、このためにエクシジョンの産物が効率よく増幅されると期待できるからである。このような処置を施したところ、Aのすべてのサンプル(A1-12)で、535 bpに近い大きさの断片が観察された。Bでは、産物としての断片はみられなかった。以上の結果から、Aの胚ではpInd263GFPからのTol1因子の脱落が起きていて、Bの胚では起きていなかったことが推察される。
【0092】
(3)PCR産物の塩基配列の解析
pInd263GFPに生じたDNAの変化に関して、その切断点の位置や形状を調べるために、Aの12個の胚から得られたPCR産物の塩基配列を、解析することにした。そのための準備として、まず、PCR産物を、入れ子形式のPCRで改めて増幅した。使用したプライマーは、P2LとP2Rである。続いて、この増幅で得られた断片をプラスミドにクローニングした。このとき、それぞれの胚について、生じたコロニーのうちから1個のみを無作為に選んだ。したがって、この段階での12個のサンプルは全てが別々のエクシジョンで生じたものであるといえる。図23は、これらの12個から得られた塩基配列をつき合わせたものである。すべてのサンプルで、Tol1因子の配列の全体またはほとんどが消失していた。この結果から、インディケーターがカエルの細胞中に存在していた間にTol1因子のエクシジョンが起こったことが明らかとなった。12個のサンプルのうちの11個(A1-6および8-12)でTol1因子の全域が抜け、TSDの一部に該当する1~7ヌクレオチドが残されていた。サンプルA7ではTol1の右端39ヌクレオチドが残り、Tol1の左側に隣接する染色体領域の77ヌクレオチドが消失していた。この77ヌクレオチドにはTSDの1つ分も含まれている。また、12個のサンプルのうちの7個で、新しいG残基が生じていたことがわかった。これは、Gが付加されたと考えることもできるし、Gへの変更があったと考えることもできる。
【0093】
3.考察
本研究ではインディケーター(pInd256GFP)を、完全型ヘルパー(pHel851aa)又は欠損型ヘルパー(pHel316aa)とともに、2細胞から4細胞の時期の胚に注入した。AとBの間で、尾芽胚の時期でのGFPの発現頻度やパターンに明らかな差異はなかった。したがって、DNAの核への取り込みの効率についてはAとBの間に明確な違いはないといえる。これに加えて、胚から回収したインディケーターの量も、AとBとで同等であった。このような状況において、エクシジョンを検出するPCRではAとBとで明確な違いが認められた。したがって、この違いの原因は2種類のヘルパーの塩基配列の違いであるということができる。違いがあるのは、内部の6ヌクレオチドの領域のみである。この部分は、pHel851aaでは317番めと318番めのアミノ酸に対するコドンであり、pHel316aaでは2個の終止コドンとなっている。以上から、インディケーターからのTol1の部分の脱落はpHel851aaから作られる酵素が触媒したものであり、pHel316aaから作られるタンパクにはその作用はない、との結論が導かれる。
上記の結論の重要な意義は、Tol1因子がX. laevisの細胞でエクシジョンを起こすということである。Tol1の脱落に様々な痕跡が伴っていたことは、これを補強するものとなる。エクシジョンに痕跡が伴うのは、多くのDNA型転移因子でみられるものだからである。ショウジョウバエのhobo(引用文献1)、トウモロコシのActivator(引用文献17)、金魚草のTam3(引用文献4)、ショウジョウバエのmariner(引用文献2), 線虫のTc1(引用文献13)など、数多くの例がある。
7つのサンプルでG残基(もう一方の鎖ではC残基)が生じていたことは、興味深い現象である。塩基配列の解析は両方の鎖で行っているため、実験の方法等の人為的な原因でこの現象が生じたとは考え難い。7個もの別々のエクシジョンで生じていることから、このカエルもしくは両生類一般に特有の何らかのDNA修復機構があり、それを反映しているという可能性もある。本発明者らはこれまでに、メダカで20以上、哺乳類培養細胞で20以上のPCR産物の解析をしているが、このような事例が観察されたことはない。
エクシジョンは、DNA型転移因子の転移反応の一部でしかない。とはいえ、hATファミリーの因子は非複製様式、すなわち切り出された断片そのものが別の場所に挿入するという様式で転移するとされており(引用文献10)、転移反応全体がX. laevisの細胞で成立することは確実と考えられる。
調べた12個のエクシジョンのうちで、塩基配列がもとの状態に正確に戻ったものは、一つもなかった。だからといって、抜けた因子が染色体に入るときも同様に不正確であるということにはならない。因子は末端で正確に切り出されて新しい場所に入り込むが、抜けたあとの腔所にはヌクレオチドの付加や脱落が起こるというのは、DNA型転移因子で頻繁にみられる現象である。その原因は、2本鎖切断の修復で反応が中断されること(引用文献13)や、非相同組換え(引用文献16)などであろうと考えられている。本発明者らは最近、マウスの染色体に新しく挿入したTol1因子を2個クローニングして調べた。そして、因子の最初のヌクレオチドから最後のヌクレオチドまでが、8 bpのTSDとともに正確に入っているという結果が、得られている。
カエルでは、Sleeping BeautyやTol2などDNA型転移因子が、ゲノムの操作のツールとして使われている(引用文献14、5)。しかし、Tol1はこれらに勝る特性をもっている。長いDNA断片を運び込むことができるという点である(実施例2を参照)。したがって、Tol1はカエルを対象とした遺伝子工学的手段の単なる追加ではなく、新しい展開への道を拓く有用なツールとして認識されるべきである。
【0094】
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【実施例4】
【0095】
転移反応は、DNAの非相同組換えの一種であるとみなすことができ、エンドヌクレアーゼ、ポリメラーゼ、リガーゼなどの作用の組合せで進行するものと思われる。これらの機能を転移酵素がすべてもっているかどうかは現在でも不明である。すなわち、必要な作用の一部をホストの細胞に依存していることが、可能性として考えられる。もしそのようなホスト要因を必要とする場合、それがホストの生物種に固有のものであるか、或いは広範囲の生物に共通するものであるかを探ることは、生物進化およびバオテクノロジーの両方の面で意義がある。進化の面では、転移因子の種間での移動、すなわち水平伝播がどの程度頻繁に起こり得るかをこれが規定するからである。水平伝播は、もし頻繁であれば、生物の進化に大きく寄与する要因とみなすことが必要となる。バオテクノロジーの観点からは、開発した遺伝子導入ベクター等が適用できる生物種の範囲が重要である。必要なホスト要因のうち、生物種に固有のものが少ないほど、適用できる範囲は広いことが期待できる。上で示した結果(実施例1~3)より、Tol1因子は脊椎動物全般で転移活性をもつものと推測される。
高等動物は、図24に示すように、進化の早い段階で2つの大きな系統に分岐している。発生初期に生じる原口やその近辺が口になる旧口動物と、肛門になる新口動物である。脊椎動物は後者に属する。前者でもTol1因子が転移するかどうかを、昆虫のカイコを用いて調べることにした。
【0096】
1.材料と方法
(1)方法の概略
全体の流れは図25の通りである。用いたDNAやRNA、および各段階の詳細を、以下に記す。
【0097】
(2)転移酵素RNA
図26に示す2種類のプラスミド(pTem851aa と pTem316aa)を構築した。それぞれを鋳型にして、RiboMAX Large Scale RNA Production System (Promega Corp., Madison, WI, USA)を用いて、RNA(mRNA851aaとmRNA316aa)を合成した。mRNA851aaは、851アミノ酸からなるTol1転移酵素の全域をコードする。mRNA316aaは、先頭から316番めまでのアミノ酸をコードする。後者は、転移酵素の機能に関するネガティブコントロールとしての役目をもつ。この2種類のRNAは、全長は同じである。塩基配列は、途中の6塩基の部分のみが異なっている。
【0098】
(3)ドナープラスミド
図27に示すプラスミドを構築した。これは、アルビノメダカのチロシナーゼ遺伝子の一部をクローンにしたものであり、1,855 bpのTol1因子が含まれている。カイコの細胞内で転移酵素が作用し、Tol1因子が切り出されてそれがカイコの染色体に転移することを想定している。なお、この1,855 bpの因子は、転移酵素遺伝子はもっていない(引用文献5)。ドナープラスミドを含むバクテリアを液体培地で増殖させ、それからプラスミドDNAを抽出し、QIAGEN Plasmid Maxi Kit (QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)用いて精製した。
【0099】
(4)処理区の設定
3つの処理区(A・B・C)を設定した。Aは、転移が起こることを想定するものであり、ドナープラスミドにmRNA851aaを加えてカイコ受精卵に注入した。Bは、転移酵素が不完全であれば転移が起こらないことを確認するためのものであり、ドナープラスミドにmRNA316aaを加えてカイコ受精卵に注入した。Cは、転移検出方法に関するネガティブコントロールである。そのために、受精卵へのDNAやRNAの注入を行わなかった。
【0100】
(5)カイコへの注入
処理区AとBでは、ドナープラスミドとRNAを、最終濃度が40 ng/μl及び160 ng/μlとなるように混合し、ガラス針を用いて、産卵後40分以内の受精卵に注入した。Aでは250個、Bでは50個の受精卵に注入を施し、注入が終了した受精卵をプラスチック箱1個に収めた。処理区Cとしては、50個の受精卵を、注入の処理をせずに同じプラスチック箱に収めた。続いて、プラスチック箱を25℃に保温し、発生を進行させた。
【0101】
(6)プラスミドDNAの回収
保温開始から5~6時間後に、処理区A、B、Cから、それぞれ75個、25個、25個の胚を取り分け、25個ずつを遠心チューブに入れた。Aからは3組作ったため、これらをA1、A2、A3と称することにする。残りの胚は、そのまま25℃での保温を続けた。取り分けた計5組の胚から、Hirtの方法(引用文献3)でDNAを抽出した。この方法では、環状のDNAが効率よく抽出される。
【0102】
(7)エクシジョンの検出
回収したドナープラスミドのDNAの分子から、Tol1因子のエクシジョンが起こっているかどうかをPCRで調べた。ドナープラスミド上での、プライマーPex1とPex2の距離は2.2 kbである。ドナープラスミドがカイコの細胞内に存在した間にTol1因子のエクシジョンが起こったとすると、そのDNA分子では、Pex1とPex2の距離は小さくなる。したがって、PCRで2.2 kbより短い産物が生じた場合は、エクシジョンが起こった分子があることが示唆される。Tol1因子の部分のみが正確に抜けた場合は、Tol1因子は1.9 kbであるため、PCR産物の大きさは0.3 kbとなる。
【0103】
(8)ゲノムDNAの抽出
25℃での保温の開始から96~97時間後に、処理区Aから100個の胚をとり、ゲノムDNAを抽出した。抽出法は、SDSおよびProteinase Kで処理した後に、塩析およびエタノール沈殿法でDNAを精製するという、標準的な方法(引用文献7)である。得られたDNAをインサーションの検出に使用した。エクシジョンの検出と同時ではなく、それより遅くDNA抽出を行ったのは、時間がたつほどドナープラスミドの崩壊が進むことを期待してのことである。ドナープラスミドは、インサーション検出に使用するPCRプライマーに相当する領域をもっている。このため、インサーションに由来しないPCR産物を生じさせてしまう。したがって、ドナープラスミドの崩壊が進んでいるほど、すなわち、より遅い時期の胚を使うほど、インサーション検出の感度が上がることが期待できる。
【0104】
(9)インサーションの検出
逆向きPCRの手法でインサーションの検出を行った。ドナープラスミドに含めたTol1因子には、制限酵素EcoRIの切断部位はない。カイコの染色体にTol1因子が転移していた場合、ゲノムDNAをEcoRIで切断すると、Tol1因子の両側に染色体領域がつながり、かつ両端にEcoRIの切断端をもつDNA断片が生じる。これにT4 DNAリガーゼを作用させると、自身の両端がつながった環状DNAが生じる。プライマーPin1とPin2はTol1因子の両端部に位置し、Tol1因子の外側を向いている。これらのプライマーを用いてPCRを行うと、この環状DNAが鋳型となった場合は、含まれる染色体部分の長さに応じたPCR産物が生じる。以上の一連の操作を行い、Tol1因子の染色体へのインサーションが起こっているかどうかを調べた。
【0105】
(10)クローニングおよび塩基配列解読
エクシジョンの検出、およびインサーションの検出で得られたPCR産物は、必要な数のDNA分子をプラスミドにクローニングし、塩基配列を解読した。クローニングに用いたプラスミドはpT7Blue-2(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)である。クローニングの地点から約100 bp上流の部分に対応する合成1本鎖DNAを、塩基配列解読のプライマーに用いた。
【0106】
(11)PCRの条件
以上の解析で、PCRを多用している。DNAポリメラーゼには、Ex Taq (Takara Bio Inc.)を使用した。温度設定等の個々の条件は、それぞれの箇所に記す。
【0107】
2.結果
(1)エクシジョンの検出
5~6時間保温した胚から抽出したDNAを鋳型にし、ドナープラスミド上でTol1因子をはさむように位置するプライマー(Pex1 と Pex2)を用いてPCRを行った。PCRの後の電気泳動の結果を図28に示す。PCRでの伸長反応の時間は、150秒および20秒の2種類とした。150秒は、ドナープラスミド上でTol1因子の全域を含む部分2.2 kbを増幅するのに十分な長さの時間である。2.2 kbのDNA断片が、処理区AとBでは生じており、処理区Cではみられない。この結果は、2.2 kbのDNA断片が、カイコのゲノムDNAではなく、注入したドナープラスミドに由来することを示す。また、処理区AとBの両方でドナープラスミドが回収されていることも示す。
伸長反応の時間を20秒としたPCRは、エクシジョンが起こったDNA分子からの産物を効率よく増幅するために行ったものである。電気泳動で、処理区Aの3つのレーンに、0.3 kb付近にDNA断片が現れている。処理区BとCでは、この大きさの近辺には産物のDNA断片はみられない。この結果から、処理区AのみでTol1因子のエクシジョンが起こっていることが示唆される。
【0108】
(2)エクシジョンの確認
A1、A2、A3のそれぞれのDNA断片を、エタノール沈殿法で精製した後、プラスミドベクターに結合してクローンとした。それぞれから各1個のクローンを無作為に選び、その塩基配列を調べた。その結果を、対応する部分が並ぶようにまとめたものが図29である。これからわかるように、3つのクローンのすべてで、Tol1因子の領域は消失している。また、両側の標的部位重複(TSD)の領域は一部が残っている。そして、8~80 bpの断片が間に加わっている。新たに加わった部分の塩基配列を、Tol1因子の全塩基配列と照合してみたが、一致する部分はなかった。TSDの塩基配列はCCTTTAGCで、これに相補的な配列はGCTAAAGGとなる。新たに加わった部分の多くで、この相補的な配列の全部または一部が連続しているように見受けられる。
PCR産物のクローニングおよび塩基配列解読から、Tol1因子の全域が消失したことが明確に示された。このように、ドナープラスミドからのTol1因子のエクシジョンが起こったことが確認された。
【0109】
(3)インサーションの検出と確認
96~97時間保温した処理区Aの胚からゲノムDNAを抽出した。これに、先に記した切断と環状化の操作を施した後、逆向きPCRを行い、その産物をプラスミドにクローニングした。クローンがバクテリアのコロニーとして数十個得られた段階で、無作為に2個を選んだ。そのプラスミドDNAを抽出して塩基配列の解読を行った。その結果を、対応する部分が並ぶようにまとめたものが、図30である。
3つのサンプルで、Tol1因子の部分の塩基配列は一致しており、Tol1因子の外側の部分は異なっている。カイコからのクローンの、この部分の配列のみを取り出して、カイコの塩基配列データベース(KAIOKOBLAST; http://kaikoblast.dna.affrc.go.jp/)と照合したところ、90%以上の相同性をもつ配列がカイコにあることが示された。なお、TSDは作られていないように思われる。
逆向きPCRの産物の塩基配列の解析から、Tol1因子の部分がカイコの染色体につながっていることが明確に示された。このように、カイコでTol1因子のインサーションが起こったことが確認された。
【0110】
3.考察
高等動物は、進化の早い段階で旧口動物と新口動物の2つの大きな系統に分岐している。ヒトやメダカなどの脊椎動物は、新口動物の方に属する。Tol1因子は、メダカのゲノムに存在するDNA型転移因子であり、脊椎動物全般で転移活性をもつものと推測されている。そのTol1因子が旧口動物でも転移するかどうかを、カイコを材料として、今回の研究で調べた。結果は、転移が起こることを明確に示すものであった。
Tol1因子の転移を触媒する酵素は、Tol1因子の転移酵素である。しかし、転移反応はこの酵素のみで進行するものであるのか、あるいはホスト生物に由来する何らかの要因が必要であるのかの疑問には、答えは得られていない。今回得られた「新口動物のヒトやメダカで転移するTol1因子が、旧口動物のカイコでも転移する」という結果は、ホスト生物からの要因に関して、答えに近づく情報をもたらすことになった。すなわち、「Tol1因子の転移反応には、ホストの生物からの要因を必要としないか、必要とするにしても、それは旧口動物と新口動物が共通にもつものである」との知見である。
今回の結果は、バイオテクノロジーの面でも大きな意義がある。まず、Tol1因子がカイコで転移することは、「カイコで利用できる遺伝子導入・遺伝子トラップ・突然変異誘発等の系を、Tol1因子を利用して構築できる」ことを意味する。また、以下に記すように、「Tol1因子を用いて開発する系は、これまでに開発されている系に勝る特性を備えたものとなる」ことが期待できる。
カイコでは、piggyBac因子を用いた系(引用文献9)とMinos因子を用いた系(引用文献11)がこれまでに開発されている。この2種類の因子はいずれもmariner/Tc1ファミリーに属する因子である。mariner/Tc1ファミリーは、広い範囲の生物に分布する転移因子のグループであり、構造や転移機構などに共通性や類似性がある。ショウジョウバエのmariner因子と線虫のTc1因子を代表とみなして、その名称がつけられた。転移因子には、これとは別にもう1つの大きなグループがある。hATファミリーとよばれるもので、ショウジョウバエのhobo因子、トウモロコシのActivator因子、キンギョソウのTam3因子が含まれる(引用文献1)。今回カイコでの転移を証明した、メダカのTol1因子は、このhATファミリーに属する因子である(引用文献6)。mariner/Tc1ファミリーと比較した場合のhATファミリーの特性として、「全長が大きくても転移する」という点がある。たとえば、マウスの培養細胞を用いた実験で、mariner/Tc1ファミリーの因子であるSleeping Beauty因子は、全長が9.1 kbを超すと転移活性をほぼ失うことが示されている(引用文献12)。これに対して、Tol1因子は、全長が22.1 kbであっても、マウスの培養細胞で高い頻度で転移する(引用文献4)。このことから、長いDNA断片を染色体に導入するためのベクターとしての利用が特に強く期待される。カイコやその近縁種には、フィブロイン遺伝子のように、産業上有用な遺伝子で全長の大きいものが知られている(引用文献8)。このような遺伝子を扱う際に、Tol1因子は有力なベクターとなることが期待できる。
今回の結果の、バイオテクノロジーの面での意義は、カイコのみにとどまらない。旧口動物のうちでカイコのみが、Tol1因子の転移に関して特殊な状況にあるとは考えにくいからである。今回の結果から、「カイコ以外の多くの旧口動物でもTol1因子は転移するであろう」との予測が立つ。Tol1因子を用いて開発する遺伝子導入・遺伝子トラップ・突然変異誘発等の系は、広い範囲の生物に適用できるものとなることが期待できる。
【0111】
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【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明はTol1因子のトランスポザーゼ及びそれを用いたDNA導入システムなどを提供する。本発明は遺伝子導入、遺伝子ターゲティング、突然変異誘発、遺伝子やプロモーター、エンハンサー等のトラッピングなどへの利用が図られる。
【0113】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図8】
0
【図9】
1
【図10】
2
【図11】
3
【図12】
4
【図13】
5
【図14】
6
【図23】
7
【図24】
8
【図25】
9
【図26】
10
【図27】
11
【図29】
12
【図30】
13
【図1】
14
【図2】
15
【図3】
16
【図4】
17
【図5】
18
【図6】
19
【図7】
20
【図15】
21
【図16】
22
【図17】
23
【図18】
24
【図19】
25
【図20】
26
【図21】
27
【図22】
28
【図28】
29