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明細書 :ジスルホン酸化合物の製法、不斉マンニッヒ触媒、β-アミノカルボニル誘導体の製法及び新規なジスルホン酸塩

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5408662号 (P5408662)
登録日 平成25年11月15日(2013.11.15)
発行日 平成26年2月5日(2014.2.5)
発明の名称または考案の名称 ジスルホン酸化合物の製法、不斉マンニッヒ触媒、β-アミノカルボニル誘導体の製法及び新規なジスルホン酸塩
国際特許分類 C07C 303/16        (2006.01)
C07C 271/22        (2006.01)
C07C 309/38        (2006.01)
C07C 269/06        (2006.01)
C07C 271/18        (2006.01)
B01J  23/04        (2006.01)
B01J  31/02        (2006.01)
B01J  37/14        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
C07B  53/00        (2006.01)
FI C07C 303/16
C07C 271/22
C07C 309/38
C07C 269/06
C07C 271/18
B01J 23/04 Z
B01J 31/02 103Z
B01J 37/14
C07B 61/00 300
C07B 53/00 B
請求項の数または発明の数 16
全頁数 22
出願番号 特願2009-538039 (P2009-538039)
出願日 平成20年10月1日(2008.10.1)
国際出願番号 PCT/JP2008/067854
国際公開番号 WO2009/054240
国際公開日 平成21年4月30日(2009.4.30)
優先権出願番号 2007276589
2007276590
優先日 平成19年10月24日(2007.10.24)
平成19年10月24日(2007.10.24)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成23年9月30日(2011.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石原 一彰
【氏名】波多野 学
【氏名】牧 利克
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】前田 憲彦
参考文献・文献 国際公開第2005/070875(WO,A1)
特開2005-132815(JP,A)
特開2002-332272(JP,A)
特開平08-225516(JP,A)
特開平06-271520(JP,A)
調査した分野 C07C 303/00
B01J 23/00
B01J 31/00
B01J 37/00
C07C 269/00
C07C 271/00
C07C 309/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
軸不斉を有する光学活性な1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を強塩基の存在下、加圧酸素で酸化することにより、対応する光学活性なジスルホン酸化合物の塩を得る、
ジスルホン酸化合物の製法。
【請求項2】
前記強塩基は、アルカリ金属の水酸化物であり、前記ジチオール化合物に対して3当量以上用いる、
請求項1に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項3】
前記加圧酸素は、5気圧以上の酸素である、
請求項1又は2に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項4】
前記1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を極性非プロトン溶媒中で酸化する、
請求項1~3のいずれか1項に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項5】
反応温度を50~100℃とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項6】
前記ジスルホン酸化合物の塩をカラムを通して精製したあと陽イオン交換樹脂を通すことによりフリーの前記ジスルホン酸化合物を得る、
請求項1~5のいずれか1項に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項7】
前記1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物は、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジチオール化合物である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のジスルホン酸化合物の製法。
【請求項8】
光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジン(置換基はアリール基又は分岐を有するアルキル基)とをモル比で1:0.75~3となるように混合した混合物である、
不斉マンニッヒ触媒。
【請求項9】
前記モル比は1:1~2.5である、
請求項8に記載の不斉マンニッヒ触媒。
【請求項10】
記2,6-二置換ピリジンは、2,6位の置換基が、フェニル基であるか、分岐を有していてもよいアルキル基を有するフェニル基であるか、フェニル基を有するフェニル基である、
請求項8又は9に記載の不斉マンニッヒ触媒。

【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の不斉マンニッヒ触媒の存在下、Ar-CH=NR1(Arはアリール基であり、R1はtert-ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)又は2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc))で表されるアルジミン化合物とカルボニル化合物とのマンニッヒ反応により、光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体を得る、
β-アミノカルボニル誘導体の製法。
【請求項12】
前記カルボニル化合物は、1,3-ジケトン又は1,3-ケトエステルである、
請求項11に記載のβ-アミノカルボニル誘導体の製法。
【請求項13】
前記マンニッヒ反応では、反応溶媒としてハロゲン化炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒又は環状エーテル系溶媒を用いる、
請求項11又は12に記載のβ-アミノカルボニル誘導体の製法。
【請求項14】
前記マンニッヒ反応では、反応温度を-40~50℃に設定する、
請求項11~13のいずれか1項に記載のβ-アミノカルボニル誘導体の製法。
【請求項15】
前記マンニッヒ反応は、乾燥剤の存在下で行われる、
請求項11~14のいずれか1項に記載のβ-アミノカルボニル誘導体の製法。
【請求項16】
光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジン(置換基はアリール基又は分岐を有するアルキル基)との塩である、
新規なジスルホン酸塩。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスルホン酸化合物の製法、不斉マンニッヒ触媒、β-アミノカルボニル誘導体の製法及び新規なジスルホン酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸の有用性が知られている。例えば、特許文献1には、光学活性アミンへの不斉補助基導入剤として利用できることが開示されている。すなわち、(S)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸を塩化チオニルによりジスルホン酸クロリドに誘導し、これとアセトニトリルに溶解させたラセミの1-フェニルエチルアミンとを反応させ、得られたN-(1-フェニルエチル)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸アミドのジアステレオマー混合物をNMR測定したところ、各ジアステレオマーのアミド部分のフェニル基のα位プロトンに由来する非等価なピークが検出されることを確認している。この特許文献1には、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸の製法として、1,1’-ビナフチルの2,2’位に-SC(=O)NR2が結合した化合物とN-ブロモスクシミドとを第3級アルコールの存在下で反応させて2,2’位に-SO2Brが結合した化合物に誘導し、これを加水分解処理する手順が記載されている。
【0003】
一方、アルジミン化合物とカルボニル化合物とのマンニッヒ(Mannich)反応により、β-アミノカルボニル誘導体が得られることが知られている。β-アミノカルボニル誘導体は、医農薬をはじめ多くの分野で利用されている。近年、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジオールから誘導される光学活性なリン酸誘導体を触媒としてマンニッヒ反応を行うことにより、光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体を高い鏡像体過剰率(ee)で得る方法も提案されている(非特許文献1参照)。具体的には、リン酸誘導体のナフタレン環が無置換の場合には反応生成物である光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体の鏡像体過剰率は12%eeと低いが、リン酸誘導体のナフタレン環の3,3’-にフェニル基を有する場合には56%eeまで上昇し、3,3’-にビフェニル基を有する場合や3,3’-に4-(β-ナフチル)フェニル基を有する場合にはそれぞれ90%ee、95%eeと高い値を得ている。

【特許文献1】特開2005-132815号公報
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., vol. 126(2004), No.17, p5356-5357
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸の製法が記載されているものの、臭素化反応を経由するため好ましいとは言い難い。また、この特許文献1には、反応に用いる各試薬の使用量や反応条件、収率に関して詳しい記載がないため、当業者といえども容易に再現できない。
【0005】
一方、有機合成一般において、ジチオールの酸化によるジスルホン酸の合成例はあまり知られていない。例えば、酸化反応としては、クロム酸酸化や過ヨウ素酸酸化、ヨウ素酸化、オキソン(Oxone,デュポン(株)の商品名)(2KHSO5・K2SO4・KHSO4)水溶液を用いる酸化などが考えられるが、これらを用いてジチオールの酸化によるジスルホン酸の合成に成功した例は、本発明者らは知らない。また、ジチオールの酸化に関し、例えば、ジチオールのヨウ素酸化を行ったときにはジスルフィドが収率90%で得られることが報告されている(J. Org. Chem., vol.58, p1748-1750(1993))。それ以外に、モノチオールを酸素酸化によりモノスルホン酸に誘導した例が報告されているが、この場合にもジスルフィドが副生成している(Tetrahedron, vol.21, p2271-2280(1965))。これらの事例をもとに類推すれば、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジチオールのようにビナフチル骨格の2,2’位という立体的に隣接する位置にチオール基がある場合には、酸化反応において2,2’位の二つの硫黄原子が結合して分子内ジスルフィド体となる可能性が高いと類推される。実際に、本発明者らは1,1’-ビナフチル-2,2’-ジチオールのクロム酸酸化や過ヨウ素酸酸化、オキソン酸化を試してみたが、これらの酸化反応ではジスルホン酸はほとんど得られなかった。その一因として、分子内ジスルフィド体が副生成していると思われるが、確認は行っていない。
【0006】
また、上述した非特許文献1に記載されたリン酸誘導体をマンニッヒ反応の触媒として用いる場合、マンニッヒ反応の基質(アルジミン化合物やカルボニル化合物)に対して最適な触媒を探索するチューニングを行おうとすると、リン酸誘導体のナフタレン環の3,3’-に種々の置換基を導入したものを検討する必要がある。しかしながら、こうした置換基の導入は容易ではないため、チューニングを行うことが難しいという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、軸不斉を有する光学活性な1,1’-ビアリール-2,2’-ジスルホン酸化合物を高収率で得ることを目的とする。また、光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体が高い鏡像体過剰率で得られると共に基質に対するチューニングを容易に行うことができる不斉マンニッヒ触媒及びこれを用いたβ-アミノカルボニル誘導体の製法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジチオールと水酸化カリウムを入れた反応容器にヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)を加え、加圧酸素で酸化したところ、対応するジスルホン酸のカリウム塩が高収率で得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のジスルホン酸化合物の製法は、軸不斉を有する光学活性な1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を強塩基の存在下、加圧酸素で酸化することにより、対応する光学活性なジスルホン酸化合物の塩を得るものである。
【0009】
本発明のジスルホン酸化合物の製法によれば、光学活性な1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を環境に優しい酸素で酸化することにより、光学活性を維持したままの1,1’-ビアリール-2,2’-ジスルホン酸化合物の塩を高収率で得ることができる。また、得られた塩は、例えばカラムを通して精製したあと陽イオン交換樹脂を通すことにより定量的にフリーのジスルホン酸化合物に導くことができる。このようにして得られるジスルホン酸化合物は、種々の用途に利用可能である。例えば、特許文献1に開示されているように光学活性アミンへの不斉補助基導入剤として利用することもできるし、後述する実施例で示すようにアンモニウム塩とすることで不斉マンニッヒ触媒として利用することもできる。
【0010】
また、本発明者らは、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸と2,6-ジフェニルピリジンとをモル比で1:2となるように混合した混合物の存在下、窒素が保護されたベンズアルデヒドイミンとアセチルアセトンとのマンニッヒ反応により光学活性なβ-アミノ-α-アシルカルボニル誘導体が高い鏡像体過剰率で得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の不斉マンニッヒ触媒は、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジン(置換基はアリール基又は分岐を有するアルキル基)とをモル比で1:0.75~3となるように混合した混合物である。
【0011】
また、本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法は、前記不斉マンニッヒ触媒の存在下、Ar-CH=NR1(Arはアリール基であり、R1はtert-ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)又は2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc))で表されるアルジミン化合物とカルボニル化合物とのマンニッヒ反応により、光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体を得るものである。
【0012】
また、本発明の新規なジスルホン酸塩は、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジン(置換基はアリール基又は分岐を有するアルキル基)との塩である。
【0013】
本発明の不斉マンニッヒ触媒によれば、不斉マンニッヒ反応において光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体が高い鏡像体過剰率で得られる。また、反応基質であるアルジミン化合物とカルボニル化合物に対するチューニングを容易に行うことができる。具体的には、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と種々の2,6-二置換ピリジンとを混合するだけで種々の構造を持つ触媒が得られるため、非特許文献1のようにナフタレン環に種々の置換基を導入することで種々の構造を持つ触媒を得る場合に比べて、構造の異なる触媒を容易に調製することができ、ひいては反応基質ごとにどのような構造の触媒が適するかを決めるチューニングを容易に行うことができる。この点は、工業的見地からみて非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸カリウム塩のX線データである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[ジスルホン酸化合物の製法]
本発明のジスルホン酸化合物の製法に用いられる光学活性な1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物は、軸不斉を持つ1,1’-ビアリールの立体化学によってR体とS体とが存在する。ここでは、(R)-1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を用いてもよいし、(S)-1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物を用いてもよい。ここで、1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物のビアリールは、芳香族炭化水素環骨格を有するものであればよく、例えばビフェニル、ビナフチル、ビフェナントリルなどが挙げられる。このうち、ビナフチルが好ましい。なお、ビアリールは、置換基を有していても有していなくてもよいが、例えばビナフチルが置換基を有する場合には3,3’,6,6’位の少なくとも1つに置換基を有していてもよい。
【0016】
本発明のジスルホン酸化合物の製法に用いられる強塩基は、特に限定されるものではないが、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物が好ましい。また、強塩基の使用量は、ジチオール化合物に対して2当量を超える量であることが好ましく、3当量以上であることがより好ましく、6当量以上であることがジスルホン酸塩を再現性よく安定して高収率で得られる点で更に好ましい。なお、強塩基の使用量の上限は、特に限定されるものではないが、経済的な見地から10当量以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明のジスルホン酸化合物の製法に用いられる加圧酸素は、特に限定されるものではないが、5気圧以上の酸素とすることがジスルホン酸塩を再現性よく安定して高収率で得られるため好ましい。特に7気圧以上の酸素を用いると、収率が一層向上するためより好ましい。なお、加圧酸素の圧力の上限は、特に限定されるものではないが、設備の安全性や経済的な見地から20気圧以下とすることが好ましく、10気圧以下とすることがより好ましい。
【0018】
本発明のジスルホン酸化合物の製法では、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、極性非プロトン溶媒が好ましい。極性非プロトン溶媒としては、例えばヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)などのリン酸アミド系溶媒やN,N-ジメチルホルムアミドなどのカルボン酸アミド系溶媒、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのテトラアルキル尿素系溶媒などが挙げられるが、HMPAが好ましい。
【0019】
本発明のジスルホン酸化合物の製法では、反応温度は特に限定されるものではないが、反応温度が低すぎると酸化反応の進行が遅くなり過ぎるおそれがあり、反応温度が高すぎると副生成物が多く発生するおそれがあることを考慮して、50~100℃とすることが好ましい。反応時間は、ジチオール化合物が消失するか反応の進行が止まるまでの時間とすればよいが、通常は数時間~数日間の範囲で設定する。
【0020】
本発明のジスルホン酸化合物の製法では、1,1’-ビアリール-2,2’-ジチオール化合物の酸化によって得られるジスルホン酸化合物の塩を、カラムを通して精製したあと陽イオン交換樹脂を通すことによりフリーのジスルホン酸化合物に誘導してもよい。ここで、カラムとしては、例えばシリカゲルを用いることができ、カラムを通すときの溶離液としては、例えばクロロホルム、メタノールを用いることができる。陽イオン交換樹脂としては、例えばアンバーライト(ローム&ハース社)を用いることができ、陽イオン交換樹脂を通すときの溶離液としては、例えば水、メタノールを用いることができる。
【0021】
[不斉マンニッヒ触媒]
本発明の不斉マンニッヒ触媒に用いられる光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物は、不斉軸(キラル軸)を持つ1,1’-ビナフチルの立体化学によってR体とS体とが存在する。ここでは、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸を用いてもよいし、(S)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸を用いてもよいし、これらのナフタレン環に置換基を有するものを用いてもよい。こうした光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物は、例えば、光学活性な1,1’-ビナフトールを出発物質とし、そのジオール部位をジチオールに変換した後、そのジチオールをジスルホン酸に酸化することにより得られる。ジチオールの酸化は、重クロム酸カリウムなどの重金属を含む酸化剤を用いても進行する可能性があるが、こうした酸化剤は環境への負荷が高く廃液処理上の問題があるため好ましくない。一方、一般的に使用される種々の酸化剤によるジチオールの酸化を試みたところ、空気酸化(O2酸化)を除き、ほとんど反応が進行しないか多数の生成物が得られ単離できなかった。このため、ジチオールは空気酸化によりジスルホン酸に変換することが好ましい。なお、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸のナフタレン環は置換基を有していてもよいが、触媒の構造をできるだけシンプルにすることを考慮すればナフタレン環は無置換であることが好ましい。
【0022】
本発明の不斉マンニッヒ触媒に用いられる2,6-二置換ピリジンは、ピリジンの2,6位にそれぞれ置換基が結合したものである。ここで、置換基としては、アリール基であってもよいし、分岐を有するアルキル基であってもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラニル基などの無置換の芳香族炭化水素基であってもよいし、これらの芳香族炭化水素基の環上に置換基を有するものであってもよい。芳香族炭化水素基の環上の置換基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられる。ここで、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基やシクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ビナフチル基、アントリル基などが挙げられる。
【0023】
こうした2,6-二置換ピリジンのうち、置換基がアリール基の場合(2,6-ジアリールピリジン)の具体例としては、例えば、2,6-ジフェニルピリジンのほか、2,6-ジ(4-メチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-エチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-n-プロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-イソプロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-n-ブチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-tert-ブチルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(4-アルキルフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(4-フェニルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(4-アリールフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(4-メトキシフェニル)ピリジン、2,6-ジ(4-エトキシフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(4-アルコキシフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(3-メチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-エチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-n-プロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-イソプロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-n-ブチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-tert-ブチルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(3-アルキルフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(3-フェニルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(3-アリールフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(3-メトキシフェニル)ピリジン、2,6-ジ(3-エトキシフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(3-アルコキシフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(2-メチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-エチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-n-プロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-イソプロピルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-n-ブチルフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-tert-ブチルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(2-アルキルフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(2-フェニルフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(2-アリールフェニル)ピリジン類;2,6-ジ(2-メトキシフェニル)ピリジン、2,6-ジ(2-エトキシフェニル)ピリジンなどの2,6-ジ(2-アルコキシフェニル)ピリジン類;2,6-ビス(3,4-ジメチルフェニル)ピリジン、2,6-ビス(3,4-ジエチルフェニル)ピリジン、2,6-ビス(3,5-ジメチルフェニル)ピリジン、2,6-ビス(3,5-ジエチルフェニル)ピリジン、2,6-ビス(3,5-ジメトキシフェニル)ピリジン、2,6-ビス(3,5-ジエトキシフェニル)ピリジンなどの2,6-ビス2置換フェニルピリジン類などが挙げられる。このような2,6-ジアリールピリジンのうち、2,6位のアリール基が、フェニル基であるか、アルキル基(分岐を有していてもよい)が結合したフェニル基であるか、フェニル基が結合したフェニル基であることが好ましい。これらを用いた場合には、不斉マンニッヒ反応の収率が比較的高いうえに鏡像体過剰率も良好であるため、好ましい。また、2,6-二置換ピリジンのうち置換基が分岐を有するアルキル基のものの具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、2,6-ジ-sec-ブチルピリジン、2,6-ジイソブチルピリジン、2,6-ジイソプロピルピリジン、2,6-ジ(2,4,6-メシチル)ピリジンなどが挙げられる。
【0024】
本発明の不斉マンニッヒ触媒において、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物に対する2,6-二置換ピリジンのモル比は0.75~3に設定する必要がある。このモル比が0.75未満になると光学活性なβ-アミノカルボニル誘導体の鏡像体過剰率が低下するため好ましくなく、このモル比が3を超えると酸性度が低下してβ-アミノカルボニル誘導体の収率が低下するため好ましくない。β-アミノカルボニル誘導体の収率と鏡像体過剰率の両方をより良好にするためには、このモル比を1~2.5に設定することが好ましい。
【0025】
本発明の不斉マンニッヒ触媒は、光学活性な1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジンとを溶媒中で混合した混合液として提供してもよいし、混合液の溶媒を蒸発留去して得られる混合物として提供してもよい。例えば、不斉マンニッヒ反応の溶媒と同じ溶媒を用いる場合には混合液のまま提供してもよく、不斉マンニッヒ反応の溶媒と異なる溶媒を用いる場合には混合液の溶媒を蒸発留去したあと不斉マンニッヒ反応の溶媒に置き換えてもよい。触媒調製時の溶媒としては、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸化合物と2,6-二置換ピリジンとが溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒やジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0026】
[β-アミノカルボニル誘導体の製法]
本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法で用いられる不斉マンニッヒ触媒の使用量は特に限定されるものではないが、例えば反応基質に対して0.1~10モル%とすることが好ましい、1~5モル%とすることがより好ましい。0.1モル%未満では鏡像体過剰率が低下するおそれがあるため好ましくなく10モル%を超えても収率や鏡像体過剰率が大きく向上することがなく経済的でないため好ましくない。但し、反応基質と不斉マンニッヒ触媒との組み合わせによってはこの数値を外れても良好な結果が得られることがある。
【0027】
本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法で用いられるアルジミン化合物は、Ar-CH=NR1(Arはアリール基であり、R1はtert-ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)又は2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc))で表されるものである。ここで、アリール基とは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラニル基などが挙げられる。また、芳香族炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられる。ここで、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基やシクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ビナフチル基、アントリル基などが挙げられる。R1は保護基であり、保護基としてBocを採用した場合にはトリフルオロ酢酸や塩酸-酢酸エチル溶液などの強酸性条件下で脱保護が可能であり、Cbzを採用した場合にはパラジウムを触媒とした水素添加反応やバーチ還元により脱保護が可能であり、Trocを採用した場合には亜鉛粉末-酢酸などを作用させることにより脱保護が可能である。なお、保護基としてベンゾイル基を採用した場合には、鏡像体過剰率が極めて低くなる。一方、本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法で用いられるカルボニル化合物は、α位に水素原子を有するカルボニル化合物であれば特に限定されないが、例えば1,3-ジケトンや1,3-ケトエステル、1,3-ケトアミドなどの1,3-ジカルボニル化合物が好ましい。こうした1,3-ジカルボニル化合物は、分子内に環状ケトンを有していてもよい。アルジミン化合物に対するカルボニル化合物の使用量は、反応条件によっても異なるが、例えば、アルジミン化合物に対してカルボニル化合物を0.67~1.5当量とすることが好ましい。
【0028】
本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法において、反応溶媒は、特に限定されるものではないが、ハロゲン化炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒又は環状エーテル系溶媒を用いることが好ましい。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば塩化メチレンや1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタンなどが挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えばアセトニトリルやプロピオニトリルなどが挙げられる。環状エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)や1,4-ジオキサンなどが挙げられる。このうち、塩化メチレンやアセトニトリル、THFが特に好ましい。
【0029】
本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法において、反応温度は、特に限定されるものではないが、-40~50℃とすることが好ましく、0~30℃とすることがより好ましい。また、反応時間は、反応基質が消失するか反応の進行が止まるまでの時間とすればよいが、通常は数分~数10時間の範囲で設定する。
【0030】
本発明のβ-アミノカルボニル誘導体の製法において、反応系内に水分が混入すると収率や鏡像体過剰率が低下するおそれがあることから、乾燥剤の存在下で反応させることが好ましい。このような乾燥剤としては、硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【実施例】
【0031】
A.ジスルホン酸の製法
[実施例A-1]
下記化1のフローにしたがって、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(化合物5)を合成した。以下、その合成手順について詳説する。
【化1】
JP0005408662B2_000002t.gif

【0032】
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(4.4g,110mmol;60%オイルディスパージョン)を入れた反応容器に脱水したジメチルホルムアミド(DMF)(100mL)を加え、同懸濁液を0℃に冷却し、(R)-ビナフトール(14.3g,50mmol)を加えた。この混合液を室温まで昇温し、1時間撹拌した。その後、ジメチルチオカルバモイルクロリド(13.6g,110mmol)を加え、85℃で2時間撹拌した。反応終了をTLCで確認のうえ、室温に冷却した後、1重量%水酸化カリウム水溶液(300mL)を加え、生じた白色沈殿をろ別し、ろ別した固体を水で洗浄し、減圧下乾燥した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム又はヘキサン/酢酸エチル)を通して精製し、次いで再結晶(クロロホルム,ヘキサン)を行い、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジイル-O,O’-ビス(N,N-ジメチルチオカーバメート)(化合物1)を収率88%(20.2g)で得た。
【0033】
反応容器に化合物1(8.0g,17.3mmol)を入れ、200℃にて300W出力のマイクロウェーブを20分間照射した。反応終了をTLCで確認のうえ、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム又はヘキサン/酢酸エチル)を通して精製し、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジイル-S,S-ビス(N,N-ジメチルチオカーバメート)(化合物2)を収率75%(5.97g)で得た。
【0034】
窒素雰囲気下、還流管を装着させた反応容器に水素化リチウムアルミニウム(0.68g,18mmol)を加えた。反応容器を0℃に冷却した後、脱水したテトラヒドロフラン(THF)(10mL)を加えた。次いで、化合物2(1.38g,3.0mmol)のTHF溶液(10mL)を滴下した。滴下後、0℃で12時間撹拌した後、更に50℃で12時間撹拌した。反応終了をTLCで確認のうえ、0℃に冷却した後に激しく撹拌しながら飽和硫酸ナトリウム水溶液を注意深く滴下した。滴下後0℃で30分間撹拌した後、セライトを用いてろ過を行い、残渣をジエチルエーテルで洗浄した後、併せた有機層を減圧留去した。得られた濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム又はヘキサン/酢酸エチル)を通して精製し、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジチオール(化合物3)を収率95%(0.907g)で得た。
【0035】
化合物3(0.477g,1.5mmol)と水酸化カリウム(0.504g,9.0mmol)を入れた反応容器にヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)(10mL)を加えた。次いで、酸素で容器内をパージして、7気圧の酸素下80℃で5日間撹拌した。室温まで冷却した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム/メタノール=1/1)を通して精製し、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸カリウム(化合物4)を収率82%(0.602g)で得た。化合物4のX線データを図1に、NMRデータを以下に示す。なお、NMRの化学シフトの単位はppmである(以下、同じ)。
【0036】
1H NMR (300 MHz, CD3OD) δ 6.98 (dd, J = 8.4, 0.9 Hz, 2H), 7.18 (ddd, J = 8.6, 6.9, 1.2 Hz, 2H), 7.44 (ddd, J = 8.1, 6.9, 0.9 Hz, 2H), 7.89 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.99 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 8.14 (d, J = 9.0 Hz, 2H). HRMS calcd for C20H13K2O6S2 [M+H]+ 490.9428, found 490.9423.
【0037】
5%メタノール水溶液に溶解した化合物4(0.735g,1.5mmol)を陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120H)(100cm3)に通した。次いで、回収液から溶媒(水、メタノール)を減圧留去し、トルエンにて共沸脱水を行った。その後、1-2Torrにて減圧乾燥し、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(化合物5)を収率100%(0.621g)で得た。化合物5のスペクトルデータを以下に示す。
【0038】
1H NMR (300 MHz, CD3CN) δ6.40 (br, 2H), 6.90 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.27 (m, 2H),7.56 (m, 2H), 8.02 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 8.16 (d, J = 2.1 Hz, 4H). 1H NMR (CD3OD, 300 MHz) δ 7.01 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.18 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.43 (t, J = 8.1 Hz, 2H), 7.90 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 8.00 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 8.14 (d, J = 8.7 Hz, 2H). HRMS calcd for C20H13O6S2 [M-H]- 413.0154, found 413.0154. HRMS calcd for C20H14O6S2 [M]+ 414.0232, found 414.0230.
【0039】
[実施例A-2]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、化合物3に対して6当量の水酸化カリウムを用いる代わりに3当量の水酸化カリウムを用いた以外は、実施例A-1と同様にして反応を行った。そうしたところ、化合物4が収率66%で得られた。
【0040】
[実施例A-3]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、7気圧の酸素下の代わりに5気圧の酸素下という条件を採用した以外は、実施例A-1と同様にして反応を行った。そうしたところ、化合物4が収率55%で得られた。
【0041】
[比較例A-1]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、7気圧の酸素下で5日間という条件の代わりに1気圧の酸素下で8日間という条件を採用した以外は、実施例A-1と同様にして反応を行った。この実験を繰り返し行ったところ、化合物4が収率42%で得られたときもあったが、5%未満しか得られないときもあった。なお、この酸化条件は、Tetrahedron, vol.21, p2271-2280(1965)におけるモノチオール酸化の条件と略同じである。
【0042】
[比較例A-2]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、酸素を用いる代わりにオキソン(Oxone,デュポン(株)の商品名)を用いた。すなわち、アセトニトリルと水との混合溶媒(体積比2:1)に、化合物3とオキソン(化合物3に対して20当量)とを加え、室温で24時間反応させた。そうしたところ、化合物4は約10%しか得られなかった。
【0043】
[比較例A-3]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、酸素を用いる代わりにクロム酸(CrO3)を用いた。すなわち、酢酸と水との混合溶媒(体積比2:1)に、化合物3とクロム酸(化合物3に対して10当量)とを加え、室温で14時間反応させた。そうしたところ、反応生成物は多数の混合物となり、化合物4を単離することはできなかった。
【0044】
[比較例A-4]
実施例A-1の化合物3から化合物4への酸化において、酸素を用いる代わりに過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)を用いた。すなわち、四塩化炭素とアセトニトリルと水との混合溶媒(体積比2:2:3)に、化合物3と過ヨウ素酸ナトリウム(化合物3に対して10当量)と三塩化ルテニウム(RuCl3)(化合物3に対して5mol%)を加え、室温で24時間反応させた。そうしたところ、反応生成物は多数の混合物となり、化合物4を単離することはできなかった。
【0045】
B.不斉マンニッヒ触媒及びβ-アミノカルボニル誘導体の製法
[実施例B-1]
不斉マンニッヒ触媒を以下のようにして調製し、単離した(化2参照)。すなわち、窒素雰囲気下、化合物5(0.414g,1mmol)と2,6-ジフェニルピリジン(0.462g,2mmol)を入れた反応容器に脱水したアセトニトリル(10mL)を加え、この溶液を室温にて2時間撹拌した。その後、溶媒を減圧留去し、1-2Torrに減圧乾燥することにより、光学活性1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸アンモニウム塩(化合物6)を収率100%(0.87g)で得た。化合物6のスペクトルデータを以下に示す。
【0046】
1H NMR (300 MHz, CD3CN) δ 6.00 (br, 2H), 6.86 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 2H), 7.23 (m, 2H), 7.48-7.62 (m, 14H), 7.92-8.23 (m, 20H). LRMS calcd for C54H41N2O6S2 [M+H]+ 877, found 877.
【化2】
JP0005408662B2_000003t.gif
[実施例B-2]
実施例B-1の2,6-ジフェニルピリジンの使用量を1mmolとした以外は、実施例B-1と同様にして不斉マンニッヒ触媒(化合物7)を単離した(化2参照)。化合物7のスペクトルデータを以下に示す。
【0047】
1H NMR (300 MHz, CD3CN) δ 6.00 (br, 2H), 6.86 (dd, J = 8.4, 1.2 Hz, 2H), 7.23 (m, 2H), 7.48-7.62 (m, 8H), 7.92-8.23 (m, 13H). LRMS calcd for C37H28NO6S2 [M+H]+ 646, found 646.
【0048】
[実施例B-3]
β-アミノカルボニル誘導体を不斉マンニッヒ反応により合成した(化3参照)。すなわち、窒素雰囲気下、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(5.2mg,0.0125mmol)と2,6-ジフェニルピリジン(5.8mg,0.025mmol)を入れたシュレンク反応管に、蒸留したアセトニトリル(2mL)を加え、室温にて15分撹拌した。その後、溶媒を減圧留去し、1-2Torrにて1時間乾燥した。その後、蒸留したCH2Cl2(1.5mL)を加え、室温にて30分撹拌した。この溶液を0℃に冷却し、窒素がCbzで保護されたベンズアルデヒドイミン(化合物8)(59.8mg,0.25mmol in 0.5mL of CH2Cl2)、次いでアセチルアセトン(27.5mg,0.275mmol in 0.5mL of CH2Cl2)を1時間かけて滴下し、滴下後さらに0℃にて30分撹拌した。反応終了をTLCで確認の上、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)を加え、室温に戻した。この溶液から酢酸エチル(15mL×2)で抽出を行い、抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(10mL)で洗浄し、次いで無水硫酸ナトリウムで乾燥し、乾燥後の有機層をセライトを用いてろ過した後、溶媒を減圧留去した。得られた濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)を通して精製し、化3に示すβ-アミノカルボニル誘導体(化合物9)を収率74%で得た。さらに、キラルカラム(AD-H)を充填した高速液体クロマトグラフィ(ヘキサン/エタノール=9/1,1.0mL/min)により、生成物の鏡像体過剰率を92%eeと決定した。化合物9のスペクトルデータを以下に示す。
【0049】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.10 (s, 3H), 2.19 (brs, 3H), 4.24 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 5.07 (s, 2H), 5.55 (br, 1H), 6.11 (br, 1H), 7.23-7.36 (m, 10H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 30.0, 30.4, 54.2, 67.0, 71.4, 126.3 (2C), 127.8 (2C), 127.9, 128.1, 128.4 (2C), 128.8 (2C), 136.0, 139.3, 155.7, 202.2, 204.4. IR (KBr) 3362, 1730, 1692, 1530, 1254, 1026, 757, 701 cm-1. [α]D23.7 = -3.2 (c 0.5, CHCl3). C20H21NNaO4 [M+Na]+ 362.1368, found 362.1374. HPLC (Daicel Chiralpack AD-H, Hexane:EtOH = 9:1, flow rate = 1 mL/min) tR = 47.3 min (minor, S), 52.3 min (major, R).
【化3】
JP0005408662B2_000004t.gif

【0050】
なお、化合物8は、J. Am. Chem. Soc., vol.124, p12964-12965(2002), J. Org. Chem., vol.59, p1238-1240(1994)に記載された方法に準じて合成した。また、化合物9は、化4の式(1)にしたがってメチルエステル体(化合物10)に誘導した。一方、市販の(S)-フェニルグリシンから(S)-メチルエステル体を、市販の(R)-フェニルグリシンから(R)-メチルエステル体をそれぞれ式(2)及び式(3)にしたがって調製し、これらを標品とした。そして、化合物10と(S)-メチルエステル体(標品)と(R)-メチルエステル体(標品)とをキラル高速液体クロマトグラフィによって分析し、化合物10を(S)-メチルエステル体(92%ee)と決定した。遡って、化合物9の絶対立体配置をR体と決定した。なお、化4はJ. Am. Chem. Soc., vol.126, p5356(2004)を参考にした。
【化4】
JP0005408662B2_000005t.gif

【0051】
[実施例B-4]
実施例B-3ではアルジミン化合物として窒素がCbzで保護されたベンズアルデヒドイミン(化合物8)を用いたが、その代わりに、窒素がBocで保護されたベンズアルデヒドイミンを用いた以外は、実施例B-3と同様にして不斉マンニッヒ反応を行った。その結果、対応するβ-アミノカルボニル誘導体(化合物9のCbzの代わりにBocが窒素に結合したもの)を収率83%、鏡像体過剰率85%eeで得た。化合物11のスペクトルデータを以下に示す。
【0052】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 1.40 (s, 9H), 2.12 (s, 3H), 2.20 (brs, 3H), 4.22 (d,J = 6.6 Hz, 1H), 5.50 (br, 1H), 5.80 (br, 1H), 7.23-7.36 (m, 5H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 28.2 (3C), 30.1, 30.5, 53.7, 71.6, 80.1, 126.3 (2C), 127.7, 128.8(2C), 139.8, 155.1, 202.6, 204.7. IR (KBr) 3397, 2976, 2926, 1730, 1692, 1517,1362, 1288, 1169, 1048, 754, 704 cm-1. [α]D22.9 = +20.8 (c 0.5, CHCl3). HRMScalcd for C17H23NNaO4 [M+Na]+ 328.1525, found 328.1525. HPLC (Daicel Chiralpack AD-H, Hexane:EtOH = 9:1, flow rate = 1 mL/min) tR = 11.5 min (minor, S), 14.8 min (major, R).
【0053】
[実施例B-5]
実施例B-3ではアルジミン化合物として窒素がCbzで保護されたベンズアルデヒドイミン(化合物8)を用いたが、その代わりに、窒素がTrocで保護されたベンズアルデヒドイミンを用いると共に2,6-ジフェニルピリジンを1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸に対して2.6当量用いた以外は、実施例B-3と同様にして不斉マンニッヒ反応を行った。その結果、対応するβ-アミノカルボニル誘導体(化合物9のCbzの代わりにTrocが窒素に結合したもの)を収率87%、鏡像体過剰率58%eeで得た。
【0054】
[比較例B-1~3,実施例B-6~10]
実施例B-3では1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸に対して2,6-ジフェニルピリジンを2当量用いたが、比較例B-1~3,実施例B-6~10ではこの当量数nを表1に示す値として不斉マンニッヒ反応を行った。その結果を表1に示す(表1には実施例B-3の結果も加えた)。表1から明らかなように、1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸のみを用いた場合(比較例B-1)や当量数nが0.25や0.5の場合(比較例B-2,3)には、β-アミノカルボニル誘導体が高収率で得られるものの鏡像体過剰率はきわめて低かった。これに対して、当量数nが0.75以上3以下の場合(実施例B-3,6~10)には、β-アミノカルボニル誘導体が高い収率で得られ、しかも鏡像体過剰率も高かった。なお、当量数nが3の場合(実施例B-10)には、収率が低下する傾向が見られた。その原因は、アミン(2,6-ジフェニルピリジン)が多すぎて酸性度が低下したことにあると推察される。
【表1】
JP0005408662B2_000006t.gif

【0055】
[実施例B-11,12]
実施例B-3では不斉マンニッヒ反応の溶媒として塩化メチレンを用いたが、実施例B-11ではTHF、実施例B-12ではアセトニトリルを用いた。その結果、表2に示すように、いずれもβ-アミノカルボニル誘導体が高い収率で得られ、しかも鏡像体過剰率も高かった。
【表2】
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【0056】
[実施例B-13~21]
実施例B-4では1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸と2当量の2,6-ジフェニルピリジンを用いて不斉マンニッヒ触媒を調製したが、実施例B-13~21では表3に示す種々のアミンをn当量用いて不斉マンニッヒ触媒を調製した以外は、実施例B-4と同様にして、窒素がBocで保護されたベンズアルデヒドイミンを基質とする不斉マンニッヒ反応を行った。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、実施例B-13~21によればβ-アミノカルボニル誘導体が高い収率で得られ、また鏡像体過剰率も良好であった。
【表3】
JP0005408662B2_000008t.gif

【0057】
[実施例B-22]
実施例B-3のアセチルアセトンの代わりにアセト酢酸メチルを用いた以外は、実施例B-3と同様にして、窒素がCbzで保護されたベンズアルデヒドイミンを基質とする不斉マンニッヒ反応を行った(化5参照)。その結果、対応するβ-アミノカルボニル誘導体が収率58%で得られた。このときのジアステレオ比(dr)と鏡像体過剰率(ee)を化5に示す。
【化5】
JP0005408662B2_000009t.gif

【0058】
[実施例B-23]
(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(0.0025mmol)と2,6-ジフェニルピリジン(0.005mmol)とをアセトニトリル中で撹拌した後、溶媒を減圧留去した。その後、硫酸マグネシウム(0.42mmol)と蒸留したCH2Cl2を加え、室温にて30分撹拌した。この溶液を0℃に冷却し、窒素がCbzで保護されたベンズアルデヒドイミン(0.375mmol in 0.5mL of CH2Cl2)、次いでアセチルアセトン(0.25mmol in 0.5mL of CH2Cl2)を1時間かけて滴下し、滴下後さらに0℃にて30分撹拌した。これにより、対応するβ-アミノカルボニル誘導体を収率91%、鏡像体過剰率90%eeで得た。
【0059】
[実施例B-24~32]
実施例B-23に準じて実施例B-24~32の反応を行った。すなわち、表4に示す各種の基質(アルジミン化合物及びカルボニル化合物)を用いて不斉マンニッヒ反応を行った。その結果を表4に示す(表4には、実施例B-23の結果も併せて示した)。なお、収率はカルボニル化合物を基準に算出した。表4から明らかなように、いずれの実施例においても、対応するβ-アミノカルボニル誘導体が高い収率で得られ、しかも鏡像体過剰率も高かった。
【表4】
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【0060】
[実施例B-33]
実施例B-3の2,6-ジフェニルピリジンの代わりに2,6-ジ-tert-ブチルピリジンを用いた以外は、実施例B-3と同様にして不斉マンニッヒ反応を行った。その結果、対応するβ-アミノカルボニル誘導体(化合物9)を収率32%、鏡像体過剰率76%eeで得た。
【0061】
[実施例B-34,35]
表5に併せて示した式のように、ベンズアルデヒドイミン(化合物8)とオキサゾリジノン誘導体(ケトアミド、化合物12)との反応を行った。前者は後者の1.5当量使用した。また、実施例B-34では、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(5mol%)と2,6-ジフェニルピリジン(10mol%)を使用し、実施例B-35では、(R)-1,1’-ビナフチル-2,2’-ジスルホン酸(5mol%)と2,6-ジ(2,4,6-メシチル)ピリジン(10mol%)を使用した。その結果を表5に示す。
【表5】
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【0062】
本出願は、2007年10月24日に出願された日本国特許出願第2007-276589号及び2007年10月24日に出願された日本国特許出願第2007-276590号を優先権主張の基礎としており、引用によりそれらの内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のジスルホン酸化合物の製法によって得られる1,1’-ジアリール-2,2’-ジスルホン酸は、例えば、光学活性アミンへの不斉補助基導入剤として利用したり、不斉マンニッヒ触媒の合成中間体として利用したりすることができる。また、本発明の不斉マンニッヒ触媒は、主に薬品化学産業に利用可能であり、例えば医薬品や農薬、化粧品の中間体として利用される種々のβ-アミノカルボニル化合物を製造する際に利用することができる。
図面
【図1】
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