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明細書 :ウイルス感染細胞の検出・同定法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5429679号 (P5429679)
登録日 平成25年12月13日(2013.12.13)
発行日 平成26年2月26日(2014.2.26)
発明の名称または考案の名称 ウイルス感染細胞の検出・同定法及びキット
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/70        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/70
C12Q 1/68 A
G01N 33/48 P
G01N 33/53 Y
G01N 33/569 L
請求項の数または発明の数 12
全頁数 22
出願番号 特願2010-503771 (P2010-503771)
出願日 平成21年3月17日(2009.3.17)
国際出願番号 PCT/JP2009/001173
国際公開番号 WO2009/116266
国際公開日 平成21年9月24日(2009.9.24)
優先権出願番号 2008073384
優先日 平成20年3月21日(2008.3.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月12日(2012.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】木村 宏
【氏名】西山 幸廣
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】柴原 直司
参考文献・文献 特表2004-533625(JP,A)
Cytometry, (1997), 29, [1], p.50-57
J. Virol. Methods, (1998), 73, [3], p.163-174
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12Q 1/68
G01N 33/569
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)~(5)、即ち、
(1)標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する、第1標識物質で標識された第1標識抗体を検体に添加し、反応させるステップ;
(2)酢酸の存在下、タンパク質を固定化するステップ;
(3)界面活性剤で処理するステップ;
(4)標的ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブを添加し、ハイブリダイゼーションさせるステップ;
(4-1)標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された第2標識抗体を添加し、反応させるステップ;
(4-2)第2標識抗体に対する、第2標識物質と同一の第3標識物質で標識された第3標識抗体を添加し、反応させるステップ;
(5)フローサイトメトリーによって、第1標識抗体と第2標識物質の両方で標識された細胞を検出するステップ、
を含む、ウイルス感染細胞を検出及び同定する方法であって、
ステップ(2)を、酢酸濃度が0.5 %(v/v)~2.0 %(v/v)の条件下で実施し、
ステップ(4)を、ホルムアミド濃度が15 %(v/v)~25 %(v/v)の条件下で実施する、方法
【請求項2】
ステップ(2)における酢酸濃度が1%(v/v)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(4)におけるホルムアミド濃度が20%(v/v)である、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
標的ウイルスがエプスタイン・バール・ウイルスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
標的ウイルスに特異的な核酸が、エプスタイン・バール・ウイルスがコードする小RNA(EBER)である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
標的細胞がB細胞、T細胞又はNK細胞である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
検体が血液検体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(2)における固定化剤としてパラホルムアルデヒドを用いる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
標識核酸プローブが標識ペプチド核酸(PNA)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第2標識物質がAlexa Fluor(登録商標)488、Oregon Green(登録商標)-488、Rhodamine-123、Cy2、CYBR(登録商標) Green I、及びEGFPからなる群より選択される蛍光色素であ、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に使用されるキットであって、標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する、第1標識物質で標識された第1標識抗体と、
エプスタイン・バール・ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブと、
標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された第2標識抗体と、
第2標識抗体に対する、第2標識物質と同一の第3標識物質で標識された第3標識抗体と、
を含む、エプスタイン・バール・ウイルス感染細胞の検出及び同定用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染細胞を検出・同定する方法及び当該方法用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
エプスタイン・バール・ウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)は日和見リンパ腫、悪性リンパ腫、白血病などの原因となる。EBVは、感染細胞核内でウイルス特異的なmRNAであるEBV encoded small RNA1 (EBER-1)を発現している。病理組織ではin situハイブリダイゼーション(ISH)法を用いたEBER-1の検出と表面抗原染色によるEBV感染細胞同定法が確立されている。しかし、EBV感染細胞が少ない血液・浮遊細胞系では感染細胞の同定は困難であり、診断に難渋することが多い。
ペプチド核酸(Peptide nucleic acid:PNA)はグリシン骨格が塩基に共有結合した構造をとり、DNA・RNAより安定であり且つ核酸にハイブリダイズできる。このPNAを蛍光標識してプローブとして用い、フローサイトメトリー(FCM)でEBV感染細胞を検出する技術が報告されている(非特許文献1)。このPNAプローブは病理組織診断キットとして市販されており、現在では臨床にて広く用いられている(Epstein-Barr Virus (EBER) PNA Probe/Fluorescein、Code No. Y5200、Dako社)。EBV特異的PNAプローブを用いた上記キットは、スライドに固定した病理組織に用いるために開発されたものであり、血液や浮遊細胞を検体とした検出・診断に適したものではない。また、そのような使用は予定されていない。

【非特許文献1】T. Just et al., J Virol Methods 73(1998) 163-174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、浮遊細胞系において、ウイルス感染細胞を簡便な操作で特異的且つ高感度に検出且つ同定する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、ISH法とFCMを組み合わせた手法(FCM/ISH法)が、浮遊細胞系においてEBV感染細胞を検出且つ同定する手段として有効であると考え、種々の検討を行った。まず、当該手法がこれまでに実用化されていない理由が以下の問題点にあると考えた。(1)表面抗原というタンパク質への抗体反応と、EBER-1というRNAへのハイブリダイゼーションを連続して行うために、タンパク質とRNAの両方を安定化する固定条件が必要となる。(2)表面タンパクの抗原性を残しつつ、核酸プローブがEBER-1に安定してハイブリダイゼーションする反応液の条件設定が難しい。(3)既存の核酸プローブ(上記キットの成分)は蛍光の弱いFITCを用いているためシグナルは弱く、FCMでも検出が難しい。従って、EBER-1発現量の少ない、ヒトの臨床検体に応用した際には検出が困難であると予想される。
これらの問題点を解決すべく各種実験を施行した。まず、タンパク質用の様々な固定溶液を比較し、最適な固定条件を見出した。一方、ホルムアミドの濃度に注目して検討を行い、最適なハイブリダイゼーション条件を見出した。また、蛍光強度の増幅を図ることによって、検出感度を改善することに成功した。さらに、EBV陽性B細胞株、T細胞株、NK細胞株、臨床検体(末梢血単核球)にFCM/ISH法を適用し、EBER-1と細胞表面抗原の多重染色に成功した。
本発明は主として以上の成果・知見に基づき、次の通りである。
[1] 以下のステップ(1)~(5)を含む、ウイルス感染細胞を検出及び同定する方法:
(1)標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する、第1標識物質で標識された第1標識抗体を検体に添加し、反応させるステップ;
(2)RNA安定化剤の存在下、タンパク質を固定化するステップ;
(3)界面活性剤で処理するステップ;
(4)標的ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブを添加し、ハイブリダイゼーションさせるステップ;
(5)フローサイトメトリーによって、第1標識抗体と標識核酸プローブの両方で標識された細胞を検出するステップ。
[2] 標的ウイルスがエプスタイン・バール・ウイルスである、[1]に記載の方法。
[3] 標的ウイルスに特異的な核酸が、エプスタイン・バール・ウイルスがコードする小RNA(EBER)である、[2]に記載の方法。
[4] 標的細胞がB細胞、T細胞又はNK細胞である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 検体が血液検体である、[4]に記載の方法。
[6] RNA安定化剤が酢酸である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] ステップ(2)を、酢酸濃度が0.5 %(v/v)~2.0 %(v/v)の条件下で実施する、[6]に記載の方法。
[8] ステップ(2)における固定化剤としてパラホルムアルデヒドを用いる、[6]又は[7]に記載の方法。
[9] 界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] ステップ(4)を、ホルムアミド濃度が15 %(v/v)~25 %(v/v)の条件下で実施する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 標識核酸プローブが標識ペプチド核酸(PNA)である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12] ステップ(4)に続いて、
(4-1)標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された第2標識抗体を添加し、反応させるステップを行い、
ステップ(5)では、第1標識抗体と第2標識物質の両方で標識された細胞が検出される、[1]~[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13] ステップ(4)に続いて、
(4-1)標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された第2標識抗体を添加し、反応させるステップと、
(4-2)第2標識抗体に対する、第3標識物質で標識された第3標識抗体を添加し、反応させるステップを行い、
ステップ(5)では、第1標識抗体と第3標識物質の両方で標識された細胞が検出される、[1]~[11]のいずれか一項に記載の方法。
[14] 第2標識物質が、Alexa Fluor(登録商標)488、Oregon Green(登録商標)-488、Rhodamine-123、Cy2、CYBR(登録商標) Green I、及びEGFPからなる群より選択される蛍光色素であり、
第3標識物質が、Alexa Fluor(登録商標)488、Oregon Green(登録商標)-488、Rhodamine-123、Cy2、CYBR(登録商標) Green I、及びEGFPからなる群より選択される蛍光色素である、[13]に記載の方法。
[15] 第2標識物質と第3標識物質が同一である、[13]又は[14]に記載の方法。
[16] 標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する、第1標識物質で標識された第1標識抗体と、
エプスタイン・バール・ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブと、
標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された第2標識抗体と、
第2標識抗体に対する、第3標識物質で標識された第3標識抗体と、
を含む、エプスタイン・バール・ウイルス感染細胞の検出及び同定用キット。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】蛍光強度増幅実験の結果。蛍光標識二次抗体と蛍光標識三次抗体を使用し、蛍光強度の増幅を試みた。左:Rajiについてのフローサイトメトリー解析結果、右:BJABについてのフローサイトメトリー解析結果。
【図2】EBV陽性B細胞株(Daudi及びLCL)、EBV陽性T細胞株(STN13及びSNT16:清水則夫博士から供与)及びEBV陽性NK細胞株(SNK6及びSNK10:清水則夫博士から供与)についてのフローサイトメトリー解析結果。
【図3】FCM/ISH法の検出限界を検討した結果。
【図4】FCM/ISH法によりEBV陽性B細胞株Rajiを三重染色した結果。
【図5】FCM/ISH法によりEBV陽性NK細胞株SNK6を三重染色した結果。
【図6】FCM/ISH法によりヒト臨床検体(末梢血)を二重染色した結果。上段:患者A、下段:患者B。
【図7】ヒト臨床検体(種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者3例)についてのFCM/ISH法による検出結果。患者1(下左)、患者2(下中)及び患者3(下右)ではEBER感染細胞を認める(それぞれ1.7%、4.8%及び25.9%)。コントロール(上)では陽性細胞率は0.01%未満。
【図8】FCM/ISH法によるEBV感染細胞の同定。種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者(患者1)についてのフローサイトメトリー解析の結果を示す。
【図9】FCM/ISH法によるEBV感染細胞の同定。種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者(患者2)についてのフローサイトメトリー解析の結果を示す。
【図10】EBV感染細胞の同定。ヒト臨床検体(種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者3例、移植後Bリンパ増殖症患者1例)について、TCR遺伝子再構成/磁気ビーズ法によりEBV感染細胞の同定を行った。

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の第1の局面はウイルス感染細胞を検出及び同定する方法(以下、「検出・同定法」ということがある)に関する。本明細書において「ウイルス感染細胞を検出及び同定する」とは、ウイルス感染細胞を検出するとともに同定することをいう。また、ここでの「同定する」とは、検出された細胞の種類を特定することをいう。従って、本発明の検出・同定法によれば、ウイルス感染細胞を検出できるとともに、検出された細胞の種類に関する情報が得られる。
【0007】
本発明における「ウイルス」は特に限定されない。ウイルスとして例えば、ヘルペス科に属するウイルス(単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1:herpes simplex virus-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2:herpes simplex virus-2)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:varicella zoster virus)、サイトメガロウイルス(CMV:cytomegalovirus)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、ヒトヘルペスウイルス7型(HHV-7)、エプスタイン・バール・ウイルスウイルス(EBV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV:Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus))、レトロウイルス科に属するウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、Human T lymphotropic virus(HTLV)など)、パルボウイルスB19を挙げることができる。好ましい「ウイルス」はEBVである。つまり、好ましくはEBV感染細胞の検出・同定に本発明が適用される。
【0008】
本発明の検出・同定法では以下のステップ(1)~(5)がこの順で実施される。
(1)標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する、第1標識物質で標識された第1標識抗体を検体に添加し、反応させるステップ;
(2)RNA安定化剤の存在下、タンパク質を固定化するステップ;
(3)界面活性剤で処理するステップ;
(4)標的ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブを添加し、ハイブリダイゼーションさせるステップ;
(5)フローサイトメトリーによって、第1標識抗体と標識核酸プローブの両方で標識された細胞を検出するステップ。
【0009】
ステップ(1)
ステップ(1)では所定の抗体を用意して抗原抗体反応を行い、抗原抗体複合体を形成させる。標的細胞特異的な細胞表面抗原に対する標識抗体が用いられる。「標的細胞特異的な細胞表面抗原」とは、標的細胞の細胞表面に発現し、当該細胞であることを確認するための指標として利用可能な抗原タンパク質のことをいう。細胞表面抗原の例を挙げると、CD2(T細胞、NK細胞)、CD3(T細胞)、CD4(ヘルパーT細胞)、CD8(キラーT細胞)、CD16(NK細胞)、CD19(B細胞)、CD20(B細胞)、CD21(B細胞)、CD34(骨髄幹細胞)、CD40(B細胞)、CD40L(T細胞)、CD80(B細胞、樹状細胞、マクロファージ)、HLAクラスII抗原(B細胞、マクロファージ、T細胞など)、CD56(NK細胞)、CD86(B細胞、樹状細胞、マクロファージ)、CD161(NK細胞、T細胞)、TCRαβ(T細胞)、TCRγδ(T細胞)、iNKT(NKT細胞)である。細胞表面抗原については例えばZola H, Swart B, Banham A, et al. "CD molecules 2006 - Human cell differentiation molecules." Journal of Immunological Methods, 2006.、Zola H, Swart B, Boumsell L, et al. "Human Leucocyte Differentiation Antigen nomenclature: update on CD nomenclature. Report of IUIS/WHO Subcommittee." Journal of Immunological Methods, 275, 2004, p.p. 1-8.、Human Cell Differentiation Moleculesの公式サイト(ウェブページ)等に詳しい。尚、説明の便宜上、「標的細胞特異的な細胞表面抗原」のことを以下では「標的抗原」と略称する。「標的細胞」は、標的ウイルスの種類や検出・同定結果の用途等に応じて適宜選択される。標的細胞の例はB細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、樹状細胞、赤芽球、骨髄幹細胞、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、多核白血球、及び巨核芽球である。
【0010】
標的抗原に対する抗体は免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。標的抗原に対する抗体はポリクローナルであってもモノクローナルであってもよい。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行うことができる。標的抗原(又はその一部)を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。標的抗原(又はその一部)としては、生体材料から調製したもの(天然抗原)又は組換え抗原を用いることができる。免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としてはKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用される。キャリアタンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタールアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法などを使用できる。一方、CD46(又はその一部)を、GST、βガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク、又はヒスチジン(His)タグ等との融合タンパク質として発現させた抗原を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用的な方法により簡便に精製することができる。
【0011】
必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。
一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。
【0012】
ステップ(1)に使用する抗体は標識化されている。説明の便宜上、当該抗体のことを以下では「第1標識抗体」と呼ぶことがある。また、当該抗体の標識に使用する標識物質のことを本明細書では「第1標識物質」と呼ぶ。第1標識物質の種類は特に限定されない。好ましくは、後述するステップ(4)において、第1標識抗体で標識された細胞を直接検出できるように、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC、APC-CyTM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドット等の蛍光色素を用いる。また、ステップ(1)で使用する抗体にビオチン標識抗体を用い、蛍光標識ストレプトアビジンを反応させ二段階で細胞表面抗原を染めても良い。ステップ(4)において第1標識抗体で標識された細胞を間接的に検出する場合には、蛍光色素以外の標識物質(例えばビオチン)を用いることもできる。ここでの「間接的に検出する場合」とは、例えば、第1標識物質を特異的に認識する抗体や第1標識抗体の抗体部分(例えばFc領域)を特異的に認識する抗体(二次抗体)等を併用し、二次抗体を検出する場合や更に二次抗体に対する抗体(三次抗体)を使用し三次抗体を検出する場合などをいう。このような二次抗体等の併用によれば検出感度の向上を図ることができる。
尚、標的抗原に対する抗体が市販されている場合、これを利用することにしてもよい。
【0013】
二つ以上の細胞表面抗原を標的にしてもよい。この場合、認識する細胞表面抗原が異なる、二つ以上の標識抗体を用いる。例えば、ある種類の細胞に特異的な二つ以上の細胞表面抗原を標的にすれば、二つ以上の細胞表面抗原の発現を指標として、ステップ(5)における検出が行われることになり、信頼性の一層高い検出・同定結果が得られる。一方、ある種類の細胞に特異的な細胞表面抗原(一つ又は二つ以上)と、別の種類の細胞に特異的な細胞表面抗原(一つ又は二つ以上)を標的にすれば、同時に2種類の細胞に関する検出・同定結果が得られる。例えば、B細胞に特異的な細胞表面抗原と、T細胞に特異的な細胞表面抗原を標的にすれば、ステップ(5)の検出・同定結果より、ウイルス感染細胞がB細胞であるか、T細胞であるか或いはそのどちらでもないかを判定することができる。標的となる細胞表面抗原の数を増加させることにより、同様にして三種以上の細胞種について判定することも可能である。
【0014】
検体は特に限定されないが、好ましくは血液(例えば末梢血、骨髄液)、髄液、胸水、腹水中の単核球画分を検体とする。検体の調製法は常法に従えばよい。
特定のウイルス疾患の罹患可能性を調べる目的において広く本発明を適用可能であり、被検者も特に限定されない。例えば特定のウイルス疾患に罹患していることが疑われる者、他の方法により特定のウイルス疾患に罹患していると判断された者、特定のウイルス疾患の患者、骨髄移植を受けた者、健常者などが被検者となる。尚、ここでの「健常者」とは、本発明の検出・同定法を適用する時点において、特定のウイルス疾患に罹患しているとの判断が行われていない者のことをいう。
【0015】
ステップ(1)における操作、その他の反応条件等は常法に従えばよい。例えば、染色・バイオイメージング実験ハンドブック(羊土社)、The Handbook. A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies. 10th ed. 2005 (Molecular Probes)等を参照することができる。尚、操作や反応条件等の具体例は後述の実施例の欄に示す。
【0016】
ステップ(2)
ステップ(1)に続くステップ(2)では、RNA安定化剤の存在下、タンパク質を固定化する。尚、原則として、洗浄処理後にステップ(2)を行う。
「RNA安定化剤」は、タンパク質の固定に伴うRNAの分解を防止する目的で添加される。RNA安定剤として好ましくは酢酸を用いる。タンパク質の固定化への影響を考慮して酢酸濃度が設定される。本発明者らの検討の結果、酢酸濃度が0.5 %(v/v)~2.0 %(v/v)のときに良好な結果がもたらされることが判明した。そこで、好ましくは当該濃度範囲を採用する。また、最適な酢酸濃度は1%(v/v)であった。そこで、更に好ましくは当該酢酸濃度で固定化を実施する。
【0017】
固定化用の試薬(固定化剤)は特に限定されないが、好ましくはパラホルムアルデヒドを用いる。固定化剤の濃度は、使用する固定化剤に応じて決定すればよいが、パラホルムアルデヒドを採用する場合には3 %(w/v)~5 %(w/v)にするとよい。
【0018】
ステップ(3)
ステップ(2)に続くステップ(3)では界面活性剤で処理する。即ち、膜透過処理を行う。尚、原則として、洗浄処理後にステップ(3)を行う。
所期の目的、即ち細胞の形態を保持しつつ細胞膜及び核膜の透過性が増大し、標識核酸プローブの取り込みが可能になること、を達成可能な限り、界面活性剤の種類や濃度などは特に限定されない。このような目的の膜透過処理には非イオン系界面活性剤が適する。非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられ、具体的にはTWEEN(登録商標)20、NP-40(Nonidet P-40)、Triton(登録商標) X-100を例示することができる。界面活性剤の濃度は例えば0.1%(v/v)~1.0%(v/v)とする。
【0019】
ステップ(4)
ステップ(3)に続くステップ(4)では、標的ウイルスに特異的な核酸に対する標識核酸プローブを添加し、ハイブリダイゼーションさせる。尚、原則として、洗浄処理後にステップ(4)を行う。
標識核酸プローブは、標的ウイルスに特異的な核酸に対して特異的にハイブリダイズする限り、配列、構成分子の種類などは特に限定されない。「標的ウイルスに特異的な核酸」とは、当該ウイルスに固有の配列からなり、当該ウイルスの検出に利用可能な核酸のことをいう。例えば、標的ウイルスがEBVであれば、EBVがコードする小RNA(EBER)が「標的ウイルスに特異的な核酸」に該当する。尚、EBERにはEBER-1とEBER-2があるが、好ましくはEBER-1である。EBER-1の方が約10倍発現量が多いからである。
【0020】
各種EBVウイルス株のEBER遺伝子の配列を以下に示す(EBER遺伝子の位置や公共のデータベースでの登録状況等については後掲の表1、2を参照のこと)。
RajiのEBER遺伝子(EBER-1):配列番号1
B95-8のEBER遺伝子(EBER-1):配列番号2
GDIのEBER遺伝子(EBER-1):配列番号3
AG876のEBER遺伝子(EBER-1):配列番号4
SNU-265のEBER遺伝子(EBER-1):配列番号5
SNU-20のEBER遺伝子(EBER-1):配列番号6
AkataのEBER遺伝子(EBER-1):配列番号7
【0021】
「標的ウイルスに特異的な核酸」がEBERの場合の標識核酸プローブ(アンチセンスプローブ)の配列の一例を以下に示す。
GGCAGCGTAGGTCCT(配列番号8)
このプローブ配列の位置を表1に示す。また、このプローブ配列は表2に示すように、他のEBVウイルス株でも保存されていた。
【表1】
JP0005429679B2_000002t.gif

【0022】
【表2】
JP0005429679B2_000003t.gif

【0023】
安定性の観点から、標識核酸プローブとして好ましくは標識ペプチド核酸(PNA)を用いる。但し、標識DNAプローブや標識RNAプローブ等の使用を妨げるものではない。標識核酸プローブは標的配列(即ち、標的ウイルスに特異的な核酸)に相補的な配列を有するように設計される。これによって、適切な条件下で標的配列とハイブリダイズすることが可能となる。標的配列に対する核酸プローブの配列の相補性は一般に高いほどよい。好ましくは相補性が90%以上、更に好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%となるように核酸プローブを設計する。
尚、EBERを標的とした標識PNAプローブ(Epstein-Barr Virus (EBER) PNA Probe/Fluorescein、Code No. Y5200、Dako社)が市販されている。標的ウイルスがEBVのときには当該プローブを「核酸標識プローブ」として用いることができる。
【0024】
ここで、「ペプチド核酸(PNA)」とは、ポリペプチド骨格に核酸塩基が結合した構造を有する化合物である。ポリペプチド骨格の例として2-アミノエチルグリシンを骨格単位とするものが挙げられるが、本発明におけるPNAはこれに限定されるものではない。PNAは核酸分解酵素に耐性を示し、DNAやRNAよりも安定性が高い。また、一般に、ペプチド分解酵素に対しても高い耐性を示す。PNAは、DNA又はRNAとハイブリダイズすることができる。一般に、PNA-DNA又はPNA-RNA複合体は、DNA-DNA複合体やDNA-RNA複合体よりも安定性が高い。従って、検出までに様々な処理を行う本発明の場合、PNAプローブが好適である。
【0025】
核酸プローブの標識に使用する標識物質は特に限定されないが、次のステップ(5)において標識核酸プローブをフローサイトメトリーで直接検出するのであれば(即ち、標識核酸プローブに使用した標識物質をフローサイトメトリーで検出し、これによって標識核酸プローブで標識された細胞が検出されることになる場合)、標識物質として蛍光色素を選択する。蛍光色素の例は7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC、APC-CyTM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドットである。
次のステップ(5)において標識核酸プローブをフローサイトメトリーで直接検出しない場合(例えば、後述のステップ(4-1)を行う態様の場合)、蛍光色素以外の標識物質(例えばビオチン)を用いてもよい。
【0026】
後述の実施例に示す通り、本発明者らの検討の結果、ホルムアミド濃度が15 %(v/v)~25 %(v/v)の条件下でハイブリダイゼーション反応実施すると良好な結果がもたらされることが判明した。そこで、好ましくはホルムアミド濃度が当該濃度範囲の条件下でハイブリダイゼーション反応を実施する。また、最適なホルムアミド濃度は20%(v/v)であった。そこで、更に好ましくは当該ホルムアミド濃度でハイブリダイゼーション反応を実施する。尚、ホルムアミド濃度が高すぎるとステップ(1)で形成させた抗原抗体複合体が脱落・変性し、ホルムアミド濃度が低すぎるとハイブリダイゼーションの特異性が損なわれる。
【0027】
尚、ステップ(2)~(4)における操作、その他の反応条件等は常法に従えばよい。例えば、T. Just et al., J Virol Methods 73(1998) 163-174、The Handbook. A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies. 10th ed. 2005 (Molecular Probes)等を参照することができる。尚、操作や反応条件等の具体例は後述の実施例の欄に示す。
【0028】
ステップ(5)
ステップ(4)に続くステップ(5)では、フローサイトメトリー(FCM)によって、第1標識抗体と標識核酸プローブの両方で標識された細胞を検出する。尚、原則として、洗浄処理後にステップ(5)を行う。
ステップ(5)の結果、第1標識抗体と標識核酸プローブの両方で標識された細胞が検出されれば、検体中にウイルス感染細胞が存在し、且つその細胞種が標的細胞と同一であることになる。一方、標識核酸プローブで標識された細胞が検出されるものの、第1標識抗体で標識された細胞が検出されなければ、検体中にウイルス感染細胞が存在するが、その細胞種が標的細胞と異なることになる。また、標識核酸プローブで標識された細胞が検出されないとの検出結果は(第1標識抗体で標識された細胞の検出結果に拘わらず)、検体中にウイルス感染細胞が存在しないことを示す。
上述のように、ステップ(1)において二つ以上の細胞表面抗原を標的にすれば、二つ以上の細胞表面抗原の発現を指標として細胞種の判別を行うことができる。
【0029】
フローサイトメトリー解析のための装置は例えばベックマン・コールター株式会社、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社などから販売されており、本発明ではこれらを利用することができる。基本的な操作法、解析条件などは装置に添付の取扱説明書に従えばよい。また、フローサイトメトリー解析に関する論文や成書も数多く存在し、例えば、Cao TM, et al. Cancer. 2001 Jun 15;91(12):2205-13.、Storek KJ, et al. Blood 97: 3380-3389、WEIR’S HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY Vol.II <Blackwell Science>、Little MT and R. Storb Nture Reviews Cancer 2002 2: 231-238、等が参考になる。
【0030】
第1標識抗体として蛍光標識抗体を用いた場合は、蛍光標識抗体が発する蛍光を直接検出することによって、第1標識抗体で標識された細胞の有無の判別及び/又は定量を行うことができる。同様に、標識核酸プローブとして蛍光標識核酸プローブを用いた場合も、蛍光標識核酸プローブが発する蛍光を直接検出することによって、標識核酸プローブで標識された細胞の有無の判別及び/又は定量を行うことができる。このように標識核酸プローブを直接検出するのではなく、以下に示す態様のように間接的な検出を行うことにしてもよい。
【0031】
本発明の一態様では、ステップ(4)に続いて(ステップ(5)に先行して)、標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された抗体(第2標識抗体)を添加し、反応させるステップ(ステップ(4-1))を行う。そして、続くステップ(5)では、標識核酸プローブで標識された細胞を検出するために、第2標識抗体に使用した標識を利用する。従って、この態様では第1標識物質(第1標識抗体で標識された細胞の検出用)と第2標識物質(標的核酸プローブで標識された細胞の検出用)が検出対象となる。
このように第2標識抗体を用いて間接的な検出を行うことにすると、シグナルが増強し、検出感度やS/N比の向上が図られる。
【0032】
第2標識抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。第2標識物質としては、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC、APC-CyTM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドット等が用いられる。好ましくは、第2標識物質として、Alexa Fluor(登録商標)488、Oregon Green(登録商標)-488、Rhodamine-123、Cy2、CYBR(登録商標) Green I、及びEGFPからなる群より選択される蛍光色素を用いる。
【0033】
本発明の他の一態様では、ステップ(4)に続いて(ステップ(5)に先行して)、標識核酸プローブの標識部分に対する、第2標識物質で標識された抗体(第2標識抗体)を添加し、反応させるステップ(ステップ(4-1))と、第2標識抗体に対する、第3標識物質で標識された抗体(第3標識抗体)を添加し、反応させるステップ(ステップ(4-2))を行う。そして、続くステップ(5)では、標識核酸プローブで標識された細胞を検出するために、第3標識抗体に使用した標識を利用する。従って、この態様では第1標識物質(第1標識抗体で標識された細胞の検出用)と第3標識物質(標的核酸プローブで標識された細胞の検出用)が検出対象となる。この態様によれば、シグナルが段階的に増強し、検出感度やS/N比の更なる向上が図られる。
【0034】
第3標識抗体は第2標識抗体を特異的に認識する。例えば、第2標識抗体としてウサギ抗体を使用する場合、第3標識抗体としては抗ウサギ抗体を使用すればよい。第2標識抗体と同様、第3標識抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。第3標識物質としては、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC、APC-CyTM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドット等が用いられる。好ましくは、第3標識物質としてAlexa Fluor(登録商標)488、Oregon Green(登録商標)-488、Rhodamine-123、Cy2、CYBR(登録商標) Green I、及びEGFPからなる群より選択される蛍光色素を用いる。
【0035】
ここで、好ましくは第2標識物質と第3標識物質を同一とする。つまり、同一の標識物質で標識された第2標識抗体及び第3標識抗体を用いる。このようにすればシグナルの更なる増強が図られる。
【0036】
本発明の検出・同定法によればウイルス感染細胞を検出できるとともに、感染細胞の種類に関する情報が得られる。検出・同定結果はウイルス疾患の診断、罹患予測、治療効果の確認などに利用できる。例えば、EBVウイルス感染細胞の検出・同定に本発明を適用し、検体中にウイルス感染細胞としてB細胞が存在することが判明した場合、被検者が日和見リンパ腫、ホジキンリンパ腫等に罹患している又は罹患する可能性が高いと判断することができる。一方、検体中にウイルス感染細胞としてT細胞が存在するとの検出・同定結果は、T細胞リンパ腫、T細胞白血病の診断や罹患予測を可能とする。同様に、検体中にウイルス感染細胞としてNK細胞が存在するとの検出・同定結果は、鼻NKリンパ腫、NK白血病の診断や罹患予測を可能とする。
特に、ウイルス疾患の早期診断に利用可能であるという点において本発明の検出・同定法はその有用性が高い。早期診断が可能になれば、早い段階での医療介入が可能となり、治療効果の向上や予後の改善などがもたらされる。
【0037】
本発明の第2の局面は、本発明の検出・同定法に利用されるキットに関する。本発明のキットは、必須の構成要素として第1標識抗体及び標識核酸プローブを含む。一態様では、第2標識抗体及び/又は第3標識抗体を含む。各操作・反応(抗原抗体反応、固定化、膜透過処理、ハイブリダイゼーション反応など)に必要な試薬(緩衝液、洗浄液、固定剤、RNA安定化剤、界面活性剤、ハイブリダイゼーション用溶液など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置など)をキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0038】
浮遊細胞系においてEBV感染細胞を検出・同定する方法の確立を目指し、以下の検討を行った。
【0039】
1.固定条件の決定(酢酸濃度の検討)
表面抗原というタンパク質への抗原抗体反応と、EBER-1というRNAへのハイブリダイゼーション反応を連続して行うため、タンパク質・RNAの両方を安定化する固定条件が重要となる。
タンパク質用の固定溶液(ホルマリン、パラホルムアルデヒド、市販の固定溶液など)を数多く試すとともに、温度条件や反応時間などを検討した結果、1%(v/v)酢酸/4%(w/v)パラホルムアルデヒド/PBSを使用し、4℃、40分間固定したときが最適であることを最終的に見出した。根拠となった結果を以下に示す。
EBV感染細胞株であるRaji細胞を、PE標識した抗CD21抗体(Raji細胞はB細胞であるから表面抗原CD21陽性)と反応させ、その後、種々の条件で細胞を固定し(パラホルムアルデヒドは4%(w/v)とし、酢酸濃度を1%刻みで変化させた)、続いてFITC標識EBER-1-PNAプローブ(Dako社、Y5200)を用いin situハイブリダイゼーションを実施した。その後、フローサイトメトリー(ベクトン・ディッキンソン社、FACSCaliberを使用)で蛍光強度を測定した。酢酸濃度が1%の時のPEの蛍光強度が最も高かった(表3)。酢酸濃度の上昇に伴いFITCの蛍光強度は増したが、酢酸濃度1%でも十分な蛍光強度が得られた(表3)。ここには示していないが、酢酸濃度を0.5%刻みで同様の検討を行った結果、酢酸濃度が0.5%(v/v)~2%(v/v)の範囲にあるとき、タンパク質・RNAの両方が良好に検出できた。
【表3】
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【0040】
2.ハイブリダイゼーション条件の決定(ホルムアミド濃度の検討)
フローサイトメトリーとin situハイブリダイゼーションを組み合わせた検出・同定法(FCM/ISH法)の確立のためには、PNAプローブが特異的にEBER-1にハイブリダイズし、且つ表面抗原抗体複合体が脱落・変性しないという条件を決定することも重要である。鋭意検討の末、ハイブリダイゼーション反応の最適な条件として、10 mM NaCl、5 mM Na2EDTA、50 mM Tris-HCl(pH 7.5)、20%(v/v)ホルムアミド存在下で、56℃、60分反応させる条件を見出した。根拠となった結果を以下に示す。
EBV感染細胞株であるRaji細胞を、PE標識した抗CD21抗体と反応させた後、種々の条件で細胞を固定した。続いてin situハイブリダイゼーションを行い、フローサイトメトリーで蛍光を測定した。バックグラウンドの減少に最も影響を与えるホルムアミド濃度について0%(v/v)~30%(v/v)まで5%刻みで検討した。以下に示したごとく、ホルムアミドが25%(v/v)以上の場合には、PE標識抗CD21抗体の検出が顕著に不良となり、表面抗原抗体複合体が脱落・変性していることが明らかであった(表4)。尚、ホルムアミド濃度が15%(v/v)~25%(v/v)の範囲にあるとき、表面抗原とEBER-1の双方が良好に検出でき、20%(v/v)の時が最もバランスがよかった。
【表4】
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*蛍光の増幅を行っていないため、FITCの蛍光強度は低い。
【0041】
3.蛍光強度の増幅による検出感度の改善
市販のPNAプローブ(FITC標識EBER-1-PNAプローブ(Dako社、Y5200))は蛍光の弱いFITCを用いているためシグナルは弱く、フローサイトメトリーでも検出が難しい。
FITCにて標識されたPNAプローブのシグナルを増強するため、ハイブリダイゼーション反応後、二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-FITC rabbit IgG(Invitrogen社:A11090)、次いで三次抗体Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-rabbit goat IgG(Invitrogen社:A11034)と、それぞれ室温、20分反応させた。その結果、二次抗体、三次抗体の濃度がいずれも2.5μg/mLの時にシグナル/バックグランド比が高くなり、極めて強いシグナルが得られることがわかった。この根拠となった結果の一部を以下に示す。
EBV陽性のRaji細胞およびEBV陰性のBJAB細胞を固定し、FITC標識EBER-1-PNAプローブ(Dako社、Y5200)を用いin situハイブリダイゼーションを行い、二次抗体のみ又は二次抗体と三次抗体の両者で増幅したときの蛍光強度と、増幅前の蛍光強度を比較した。Raji細胞では、三次抗体を用いたときにシグナルの顕著な増幅を認めた(図1、左)。一方、BJAB細胞では蛍光強度の増幅は認められなかった(図1、右)。
【0042】
また、PNAプローブのシグナルの増強によって、他のEBV陽性B細胞株(Daudi及びLCL)、EBV陽性T細胞株(STN13及びSNT16:清水則夫博士から供与)及びEBV陽性NK細胞株(SNK6及びSNK10:清水則夫博士から供与)においてもEBV感染細胞を高感度で検出できることが示された(図2)。
【0043】
4.EBV陽性細胞の検出限界の検討
EBV陽性B細胞株Raji、EBV陰性B細胞株BJABを様々な比率(Raji 100%, 10%, 1%, 0.1%, 0.01%, 0.001%)で混ぜたサンプルを用いてFCM/ISH法を行い、EBV陽性細胞の検出限界を検討した。図3に示したごとく、EBV陽性細胞混合比率0.01%まで検出できた(0.001%では0%[BJAB100%]との間に差を認めていない)。このことは末梢血単核球1万個に1個のEBV感染細胞があれば、このシステムで検出できることを示している。
【0044】
5.FCM/ISH法による多重染色
各反応について、以上の検討によって見出された最適条件を採用し、EBV陽性B細胞株、T細胞株、NK細胞株、臨床材料(末梢血単核球)を検体として、FCM/ISH法で細胞表面抗原とウイルス特異的mRNAであるEBER-1との多重染色を試みた。表面抗原に関しては、2種類の蛍光色素PE及びPC5を用いて染色した。EBER-1の標識に関しては、FITC標識EBER-1-PNAプローブによるハイブリダイゼーション反応の後、二次抗体Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-FITC rabbit IgG(Invitrogen社:A11090)、次いで三次抗体Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-rabbit goat IgG(Invitrogen社:A11034)を反応させた。このようにして、PE、PC5及びAlexa Fluor(登録商標)488による多重染色を行った。具体的な操作手順を以下に示す。
(1)細胞数の調整
1mlあたり1×106個となるようPBS/2%FCSで細胞数を調整した。200μlずつ1.5mlチューブに移した(チューブあたり2×105個)。遠心処理後(5000rpm、1分)、上清を吸引除去した。臨床材料として用いた患者末梢血は、患者および親権者から同意を得た後に採血し、常法に従い単核球を分離し実験に用いた。尚、以下の操作は部屋を暗くして行なった。
(2)抗原抗体反応
細胞をPBS/2%FCS 40μlに再浮遊させた後、蛍光標識(PE又はPC5)抗体10μlを加え、4℃、60分間、反応させた。1ml PBS/2%FCSを添加した後、遠心(5000rpm、1分)し、上清を捨てた。この洗浄操作を合計2回行った。
(3)固定化
300μlの1%(v/v)酢酸/4%(w/v)パラホルムアルデヒド/PBSを加え、軽くピペッティングし、4℃、40分間、反応させた。
(4)細胞の洗浄
遠心(6000rpm、2分)した後、上清を捨てた。1ml PBS加え撹拌した後、遠心し(6000rpm、2分)、上清を吸引除去した。
(5)膜透過処理
0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを50μl入れた後、10分間、室温で放置した。
(6)ハイブリダイゼーション
遠心(5000rpm、1分)後、上清を吸引除去した。バッファー(最終濃度が10 mM NaCl, 5 mM Na2EDTA, 50 mM Tris-HCl(pH 7.5), 20% (v/v)ホルムアミド)12.5μlとプローブ(Epstein-Barr Virus (EBER) PNA Probe/Fluorescein(Code No. Y5200、Dako社)又は当該プローブに添付の陰性コントロールPNAプローブ)25μlを添加し、細胞を再浮遊させた後、56℃、60分、反応させた。
(7)細胞の洗浄
1mlの0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを加え撹拌した後、56℃、10分、反応させた。遠心(5000rpm、1分)後、上清を捨てた。1mlの0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを加え撹拌した後、56℃、30分、反応させた。
(8)Alexa標識二次抗体の反応
Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-FITC rabbit IgG (Invitrogen社:A11090)を200μl加えた。室温で20分、反応させた(抗体の最終濃度は2.5μg/ml)。1mlの0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを加え撹拌した後、遠心(5000rpm、1分)し、上清を捨てた。この洗浄操作を合計2回行った。
(9)Alexa標識三次抗体の反応
Alexa Fluor(登録商標)488標識Anti-rabbit goat IgG (Invitrogen社:A11034)を200μl加えた。室温で20分、反応させた(抗体の最終濃度は2.5μg/ml)。1mlの0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを加え撹拌した後、遠心(5000rpm、1分)し、上清を捨てた。この洗浄操作を合計2回行った。
(10)フローサイトメトリー解析
0.5mlの0.5%(v/v)TWEEN(登録商標)20/PBSを加え撹拌した後、フローサイトメトリー解析に供した(ベクトン・ディッキンソン社、FACSCaliberを使用)。
【0045】
Rajiについての検出結果を図4に示す。EBV陽性B細胞株であるRajiは表面抗原のCD19、HLA-DRが陽性であり、CD2、CD3、CD16、CD56は陰性であった。
SNK6についての検出結果を図5に示す。EBV陽性NK細胞株であるSNK6は表面抗原のCD2、CD56、HLA-DRが陽性であり、CD3、CD16、CD19が陰性であった。
ヒト臨床検体についての検出結果を図6に示す。ヒト臨床検体(慢性活動性EBV感染症患者の末梢血)についてもEBER-1と細胞表面抗原の多重染色が可能であり、EBV感染細胞の同定できた。患者A・Bの末梢血それぞれ約8%・7%がEBVに感染しており、感染細胞はいずれもCD3陽性のT細胞と考えられた。
【0046】
ヒト臨床検体(種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者3例、移植後Bリンパ増殖症患者1例、及びEBV既感染健常人5例)を用い、ヒト末梢単核球柱のEBER陽性細胞の検出及び同定を試みた。尚、種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症は、日光過敏症を伴うEBV関連リンパ増殖性疾患であり、稀だが日本・ラテンアメリカの小児にみられる。特徴として、丘疹・水疱が出現し、潰瘍・瘢痕化する。時に、発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫などの全身症状を伴う。また、皮下にEBER陽性リンパ球(諸説あるがT細胞が主)が集結する。
図7に示す通り、種痘様水疱症を伴う慢性活動性EBV感染症患者末梢血中に1.7~25.9%のEBER陽性細胞を認めた。また、これらの患者ではCD3+CD4-CD8-TCRγδ+T細胞にEBVが感染していた(図8~10)。このように、本願発明の方法がEBV関連疾患の診断のみならず発症病理の解明に役立つことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の検出・同定法によれば、浮遊細胞系において特異的かつ高感度にウイルス感染細胞を検出・同定できる。即ち、検体中のウイルス感染細胞の検出のみならず、感染細胞の種類の特定も可能となる。一方、本発明の検出・同定法では一連のプロセスに要する時間が短く、従来の方法よりも迅速性の点で優れる。さらに、基本的にはフローサイトメトリー用の機器があれば実施可能なため、汎用性も高い。
本発明は特にEBV感染細胞の検出・同定に有用である。ここで、日和見リンパ腫はAIDSや臓器・骨髄移植に合併する致死的なEBV関連疾患である。日和見リンパ腫は、末梢血中のEBV感染細胞の増加と、感染細胞がB細胞であることが診断根拠となる。従来は、リンパ節を生検し組織中のEBV感染細胞を同定していたため、侵襲が強い上に診断にも時間がかかった。末梢血を検体として本発明を適用すれば、侵襲がない上に極めて短時間で感染細胞の定量と同定が同時に可能である。ところで、近年、日和見リンパ腫の治療にはB細胞モノクローナル抗体であるリツキシマブ(Rituximab)が用いられている。本発明の検出・同定法の結果を利用すれば日和見リンパ腫の早期診断が可能となり、より早い段階で治療を開始することができる。また、本発明の検出・同定法は治療効果の判定にも有用である。本発明の検出・同定法の適用が想定されるEBV関連疾患は、日和見リンパ腫以外にも、鼻性NKリンパ腫、ホジキンリンパ腫、NK白血病、T細胞性リンパ腫、慢性活動性EBV感染症、伝染性単核球症など多岐にわたる。
使用する核酸プローブを適宜選択・変更すれば、様々なウイルス疾患(HIV感染症、サイトメガロウイルスなど血液細胞に感染するウイルス疾患)へ本発明を適用可能である。このように本発明はその汎用性及び応用可能性が極めて高く、ウイルス関連疾患の診断・治療分野での多大な貢献が期待される。
【0048】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図10】
0
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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