TOP > 国内特許検索 > 間葉系幹細胞およびその生産方法 > 明細書

明細書 :間葉系幹細胞およびその生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5429755号 (P5429755)
登録日 平成25年12月13日(2013.12.13)
発行日 平成26年2月26日(2014.2.26)
発明の名称または考案の名称 間葉系幹細胞およびその生産方法
国際特許分類 C12N   5/0775      (2010.01)
C12N   5/077       (2010.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
A61K  35/12        (2006.01)
A61K  35/32        (2006.01)
A61K  35/34        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202H
C12N 5/00 202G
C12N 5/00 202C
C12N 5/00 102
A61L 27/00 V
A61K 35/12
A61K 35/32
A61K 35/34
A61P 43/00 105
A61P 21/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 24
出願番号 特願2010-508259 (P2010-508259)
出願日 平成21年4月17日(2009.4.17)
国際出願番号 PCT/JP2009/057766
国際公開番号 WO2009/128533
国際公開日 平成21年10月22日(2009.10.22)
優先権出願番号 2008109002
優先日 平成20年4月18日(2008.4.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月13日(2012.3.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】鳥橋 茂子
【氏名】蜷川 菜々
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 蜷川菜々ら,ES細胞を用いた間葉系幹細胞の形成と脂肪・骨細胞への分化誘導,理学療法学,2008年 4月20日,Vol.35, No.Suppl.2,p.45
蜷川菜々ら,マウスES細胞由来の間葉系幹細胞,再生医療,2009年 2月 5日,Vol.8 増刊号,p.222
蜷川菜々、鳥橋茂子,マウスES細胞由来の間葉系幹細胞とその分化能,解剖学雑誌,2009年 3月,Vol.84, No.Suppl.,p.176
DANI,C. et al.,Differentiation of embryonic stem cells into adipocytes in vitro.,J. Cell Sci.,1997年 6月,Vol.110, No.11,pp.1279-85
PHILLIPS,B.W. et al.,Differentiation of embryonic stem cells for pharmacological studies on adipose cells.,Pharmacol. Res.,2003年 4月,Vol.47, No.4,pp.263-8
TAKASHIMA,Y. et al,Neuroepithelial cells supply an initial transient wave of MSC differentiation.,Cell,2007年 6月29日,Vol.129, No.7,pp.1377-88
江良択実ら,間葉系幹細胞の発生と分化,Medical Bio,2007年11月,Vol.4, No.7,pp.84-8
NINAGAWA,N. et al.,Mesenchymal stem cells originating from ES cells show high telomerase activity and therapeutic benefits.,Differentiation,2011年10月,Vol.82, No.3,pp.153-64
調査した分野 C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒト又は動物由来の多能性幹細胞を培養して筋芽細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞を生産する方法であって、
i)凍結保存された前記多能性幹細胞を用意すること、
ii)前記用意した多能性幹細胞を未分化の状態で8~12回数継代すること、
iii)前記継代した前記多能性幹細胞を、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件で培養すること、及び
iv)前記培養過程において、CD105陽性である細胞を分離回収すること、
を包含する生産方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞としてES細胞またはiPS細胞を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分化誘導可能な条件として、レチノイン酸を添加した培養液で浮遊培養した後、インシュリンおよびトリヨードサイロニンを添加した培養液で培養する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記継代した後の前記多能性幹細胞の分化誘導可能な条件での培養は、21日を超えない期間行う、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
セルソーティング法を用いて前記CD105陽性である細胞を分離回収する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヒト又は動物由来の多能性幹細胞を培養して筋芽細胞を生産する方法であって、
i)凍結保存された前記多能性幹細胞を用意すること、
ii)前記用意した多能性幹細胞を未分化の状態で8~12回数継代すること、
iii)前記継代した前記多能性幹細胞を、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件で培養すること、
iv)前記培養過程において、CD105陽性である間葉系幹細胞を分離回収すること、及び
v)前記分離回収したCD105陽性細胞を、生体外で筋芽細胞へ分化誘導可能なそれぞれの条件で更に培養すること、
を包含する生産方法。
【請求項7】
前記多能性幹細胞としてES細胞またはiPS細胞を使用する、請求項6に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞から脂肪細胞への分化誘導過程において得られる間葉系幹細胞とその生産方法に関する。詳しくは、高率に筋芽細胞へ分化し得るCD105陽性の間葉系幹細胞とその生産方法に関する。
なお、本国際出願は2008年4月18日に出願された日本国特許出願第2008-109002号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
再生医療において、人工的に培養した細胞や組織を用いて、病気や事故などによって失われた細胞、組織、器官の再生や機能の回復させる取り組みが進められている。特に、動脈硬化症・心筋梗塞・肝硬変・糖尿病等の生活習慣病や、有効な治療薬のないパーキンソン病・筋ジストロフィーなどの難病に対する治療として、移植に適合する安全且つ効果的な細胞の探索が行われている。
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cells;MSC)は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、及び筋芽細胞等の、種類の異なるさまざまな間葉系の細胞へ分化する能力を持つ細胞で、自家移植が可能であることから、再生医療への応用が期待されている細胞の一つとして挙げられる。
間葉系幹細胞としては、ヒトの骨髄中に骨髄由来の間葉系幹細胞として存在しているものが知られているが、骨髄から分離して精製される量が非常に少ないため、他の生体組織から、特に脂肪組織から間葉系幹細胞(Adipose-derived Stem Cells;以下「ADSCs」という。)を大量に得る方法が注目されている。脂肪組織から分離されたADSCsは、脂肪細胞や骨細胞への多分化能力を持ち、また、免疫寛容性を持つことが報告されている(非特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Zuk,P.A.et al. Mol.Biol.Cell. 13: 4279-4295, 2002
【非特許文献2】Zuk,P.A.et al. Tissue Eng. 7: 211-228, 2001
【非特許文献3】Rodriguez,A.M.et al. J.Exp.Med. 201: 1397-1405, 2005
【非特許文献4】Qu-Petersen.et al. J. Cell Biol. 157: 851-864, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒトの脂肪組織中には、ADSCsの他にも神経、血管、及び脂肪細胞等のさまざまな細胞種が混在しており、その中からADSCsを効率良く分離することは困難である。
また、脂肪組織中から分離したADSCsは、多分化能力を有するものの、ADSCsから脂肪細胞又は骨細胞へと分化誘導するのに比べて、筋芽細胞には極めて分化誘導され難いことが知られている。筋芽細胞は、筋芽細胞同士が融合して管状の筋管を形成し、さらに分化を続けると最終的に骨格筋を形成する前駆細胞であり、再生医療において有用な細胞である。
従って、ADSCsに代わって、如何にして筋芽細胞へと分化する間葉系幹細胞を効率良く大量に分離回収するかが本発明の課題として挙げられる。
【0005】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、多能性幹細胞から脂肪細胞への分化誘導過程において、筋芽細胞へ分化し得る間葉系幹細胞を効率良く且つ大量に生産する方法を提供することである。また、当該生産方法により得られる細胞培養物であって、筋芽細胞へ分化し得る間葉系幹細胞を高率に含有する細胞培養物を提供することを他の目的とする。また、そのような方法及び/又は細胞培養物の利用により、多能性幹細胞から効率よく目的の形態に分化した細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞)を生産する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明によって提供される細胞培養物は、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞から分化したCD105陽性の間葉系幹細胞を含む細胞培養物であって、該培養物に含まれる細胞の少なくとも一部は、上記多能性幹細胞を脂肪細胞へ分化誘導可能な条件での培養によって筋芽細胞へ分化する能力を有する細胞であることを特徴とする。
【0007】
なお、本明細書において「多能性幹細胞」とは、成体を構成する種々の組織に分化できる多能性と自己複製能を有する未分化細胞をいい、例えば、EC細胞(Embryonal Carcinoma cell;胚性癌種細胞)、ES細胞(Embryonic Stem cell;胚性幹細胞)、EG細胞(Embryonic Germ cell;胚性生殖細胞)、及びiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell;人工多能性幹細胞)等は、ここでいう多能性幹細胞の典型例である。また、本明細書においては、ヒト又は動物(典型的には哺乳動物)に由来する多能性幹細胞をいう。
また、本明細書において「間葉系幹細胞」とは、未分化な細胞で、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、ストローマ細胞、及び腱細胞等のさまざまな間葉系の細胞へ分化する能力を持ち、且つ自己複製の能力を持つ細胞をいう。生体内においては骨髄に存在する間葉系幹細胞がその代表的なものであるが、他の組織、例えば脂肪組織、臍帯血、歯髄等から分離されたさまざまな組織由来の間葉系幹細胞が存在する。
また、本明細書において「CD105」とは、成長及び分化因子であるTGF-βのレセプターであって、ADSCsの細胞表面や、血管や血球の前駆細胞、骨髄由来幹細胞等で発現する糖タンパク質である。
【0008】
本発明者らは、多能性幹細胞のさまざまな間葉系の細胞へと分化する多能性と自己複製能を利用することによって、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞から、脂肪細胞へ分化誘導する過程において、CD105陽性の間葉系幹細胞を含む細胞培養物を生産したところ、上記間葉系幹細胞には筋芽細胞に分化する能力を有する細胞が含まれることを見出し、本発明を完成するに至った。従って、上記間葉系幹細胞を分離回収し、目的の細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)への分化誘導可能なそれぞれの条件で更に培養すると、目的の形態に分化した細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)が得られる。例えば、上記CD105陽性の細胞培養物を筋芽細胞への分化誘導可能な条件で培養することにより、紡錘形状の筋芽細胞が得られる。
高度な機能を有する骨格筋の前駆体である筋芽細胞は、脂肪細胞や骨細胞へ分化誘導するのと比較して、間葉系幹細胞から分化誘導するのが困難である。しかしながら、ここで開示される本発明によると、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞から脂肪細胞への分化誘導過程において、筋芽細胞に分化する能力を有する細胞を高率に含む細胞培養物を容易且つ大量に得ることができる。
即ち、本発明は、筋芽細胞へ分化する能力を有する細胞を移植細胞として提供する。本発明によると、再生医療において、広範な筋肉の欠損部位や機能損傷部位の機能改善や組織形成に寄与し得る細胞培養物を好適に提供することができる。
【0009】
ここで開示される細胞培養物の好ましい一態様では、上記ヒト又は動物由来の多能性幹細胞はES細胞である。
かかるES細胞は、高い増殖能とさまざまな細胞へと分化できる多能性を持つことから本発明に係る多能性幹細胞として有用であり好ましい。
また、ここで開示される細胞培養物の他の好ましい一態様では、上記ヒト又は動物由来の多能性幹細胞はiPS細胞である。iPS細胞は、ES細胞と同様の特性を持ちつつ、且つ体細胞から作製され倫理的な問題が絡まない点において、本発明にかかる目的を達成する上で特に好ましい多能性幹細胞である。
【0010】
また、ここで開示される細胞培養物の他の好ましい一態様では、上記間葉系幹細胞から分化した筋芽細胞を含むことを特徴とする。かかる態様の細胞培養物により、上記幹細胞から分化した筋芽細胞を提供することができる。
また、ここで開示される細胞培養物の他の好ましい一態様では、少なくとも50%以上(特に好ましくは80%以上)の細胞が上記間葉系幹細胞であることを特徴とする。かかる態様の細胞培養物によると、高率に上記幹細胞から分化した筋芽細胞を提供することができる。
【0011】
さらに、本発明は、上記目的を実現する他の側面として、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞を培養して筋芽細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞を生産する方法を提供する。
ここで開示される方法は、i)凍結保存された上記多能性幹細胞を用意すること、ii)上記用意した多能性幹細胞を未分化の状態で所定回数継代すること、iii)上記継代した上記多能性幹細胞を、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件で培養すること、及びiv)上記培養過程において、CD105陽性である細胞を分離回収すること、を包含する。
本発明に係る生産方法では、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞から脂肪細胞へ分化誘導する過程において、脂肪細胞の形成以前に出現する細胞の中から、CD105を発現した間葉系幹細胞のみを分離回収する。従って、ADSCsのように、神経、血管、及び脂肪細胞等のさまざまな細胞種が混在する脂肪組織の中からADSCsのみを取り出すような複雑な処理を伴わない。即ち、多能性幹細胞を脂肪細胞に分化誘導する培養の過程の中で、効率的且つ大量に間葉系幹細胞を生産することができる。
【0012】
本発明の生産方法では上記凍結保存された多能性幹細胞は、脂肪細胞への分化誘導を行う前に自己複製、即ち未分化の状態で所定回数継代する。これにより、間葉系幹細胞から筋芽細胞への分化誘導効率を向上させることができる。
例えば、ES細胞の場合、凍結保存されたES細胞(胞胚内の内部細胞塊より新たに樹立したES細胞、或いは、既に樹立されたES細胞のいずれも限定しない)を白血病抑制因子であるLIF(Leukemia Inhibitory Factor)の存在下で継代を繰り返した後、脂肪細胞への分化誘導を行う。このように未分化の状態で継代を行うことにより、凍結保存された多能性幹細胞を分化誘導に適する細胞数まで増やすことができる。
また、ここで開示される方法の好ましい一態様では、上記継代は未分化の状態で8~12回(特に好ましくは9~11回)行うことを特徴とする。8~12回継代した多能性幹細胞を用いて脂肪細胞へ分化誘導する条件の培養を行うことによって、得られるCD105陽性の間葉系幹細胞の筋芽細胞への分化能力を顕著に向上させることができる。
即ち、本態様の生産方法によると、凍結解凍後の多能性幹細胞の継代を8~12回(特に好ましくは9~11回)行うことによって、筋芽細胞へと分化誘導することができる能力を有する間葉系幹細胞を大量に得ることができる。その結果、かかる態様の方法では、再生医療において非常に有用な医療材料としての役割を担い得る間葉系幹細胞を提供することができる。
【0013】
ここで開示される方法の他の好ましい一態様では、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件下で培養を行う。典型的な分化誘導可能な条件として、レチノイン酸を添加した培養液で浮遊培養した後、インシュリンおよびトリヨードサイロニン(T3)を添加した培養液で培養することが挙げられる。例えば、レチノイン酸を添加した培養液での浮遊培養は、数日間(例えば、2~3日間、特に好ましくは2日間)行うことが好ましい。生体外で上記培養液を用いて分化誘導を行うと、多能性幹細胞の分化が促進され、培養過程において間葉系幹細胞を高率に発現させることができる。
また、ここで開示される方法の他の好ましい一態様では、上記継代した後の上記多能性幹細胞の分化誘導可能な条件での培養は、21日を超えない期間行うことを特徴とする。21日以上の期間培養すると多能性幹細胞のうち脂肪細胞に分化する確率が高まるため、脂肪細胞の分化以前に発現する間葉系幹細胞の分離回収効率が低下するため好ましくない。従って、継代後の培養開始から21日を超えない期間(典型的には7~21日間、好ましくは7~14日間、特に好ましくは12~14日間)培養し、後述するCD105陽性である細胞を分離させる処理を行うことが好ましい。
【0014】
さらに、ここで開示される方法の他の好ましい一態様では、CD105陽性である細胞を分離する手段として、種々のセルソーティング法が用いられる。特に、好ましい態様として、マグネティックセルソーティング法(MACS法)が挙げられる。例えば、かかる方法の一例として、抗CD105抗体にあらかじめ磁気を帯びたビーズを担持させた修飾分子を用意し、細胞表面にCD105を発現している細胞に抗原抗体反応により該修飾分子を結合させて、該修飾分子が結合したCD105陽性の細胞のみを磁石により分離するという方法が挙げられる。このように、本態様の方法によると、煩雑で手間のかかる操作を行うことなく、CD105を細胞表面に発現しているCD105陽性の細胞(即ち間葉系幹細胞)を効率良く大量に得る(分離回収する)ことができる。
【0015】
また、本発明は、上記目的を実現する他の側面として、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞を培養して目的の形態に分化した細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)を生産する方法を提供する。
この方法は、i)凍結保存された上記多能性幹細胞を用意すること、ii)上記用意した多能性幹細胞を未分化の状態で所定回数継代すること、iii)上記継代した上記多能性幹細胞を、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件で培養すること、iv)上記培養過程において、CD105陽性である間葉系幹細胞を分離回収すること、及び、v)上記分離回収したCD105陽性細胞を、生体外で目的の細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)へ分化誘導可能なそれぞれの条件で更に培養すること、を包含する。
好ましくは、上記多能性幹細胞としてES細胞を使用する。
また、好ましくは、上記多能性幹細胞を未分化の状態で8~12回(特に好ましくは9~11回)継代する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、多能性幹細胞を脂肪細胞に分化誘導可能な条件下で培養し、培養後13日目の細胞をCD105蛍光免疫染色した蛍光顕微鏡写真である。
【図2】図2は、多能性幹細胞を脂肪細胞に分化誘導可能な条件下で培養し、培養後13日目の細胞をCD105蛍光免疫染色した位走査顕微鏡写真である。
【図3】図3は、多能性幹細胞の継代数に対するCD105陽性細胞の収率を示したグラフである。
【図4】図4は、MACS法による分離を行っていない細胞群のFACSによる解析結果を示す。
【図5】図5は、MACS法により分離した細胞群(CD105陽性細胞群)のFACSによる解析結果を示す。
【図6】図6は、MACS法により分離した細胞群を位走査顕微鏡で観察した写真である。
【図7】図7は、脂肪細胞へ分化誘導したCD105陽性細胞をOil Red O染色した細胞の観察写真である。
【図8】図8は、脂肪細胞へ分化誘導したCD105陰性細胞をOil Red O染色した細胞の観察写真である。
【図9】図9は、骨細胞へ分化誘導したCD105陽性細胞をAlizarin red染色した細胞の観察写真である。
【図10】図10は、骨細胞へ分化誘導したCD105陰性細胞をAlizarin red染色した細胞の観察写真である。
【図11】図11は、軟骨細胞へ分化誘導したCD105陽性細胞をAlcian blue染色した細胞の観察写真である。
【図12】図12は、軟骨細胞へ分化誘導したCD105陰性細胞をAlcian blue染色した細胞の観察写真である。
【図13】図13は、筋芽細胞へ分化誘導したCD105陽性細胞をM-cadherin免疫蛍光染色した細胞の観察写真である。
【図14】図14は、筋芽細胞へ分化誘導したCD105陽性細胞をMHC免疫蛍光染色した細胞の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、間葉系幹細胞を生産する方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、多能性幹細胞の継代方法、脂肪細胞への分化誘導条件、骨細胞への分化誘導条件、軟骨細胞への分化誘導条件、筋芽細胞への分化誘導条件)は、医学、薬学、生化学、有機化学、タンパク質工学、分子生物学、獣医学、衛生学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。

【0018】
ここで開示される方法は、上述のとおり、多能性幹細胞から脂肪細胞への分化誘導過程において、筋芽細胞へ分化し得る間葉系幹細胞を効率良く且つ大量に生産する方法であり、以下の工程を含む。
本発明に係る間葉系幹細胞の生産方法は、i)凍結保存された上記多能性幹細胞を用意すること、ii)上記用意した多能性幹細胞を未分化の状態で所定回数継代すること、iii)上記継代した前記多能性幹細胞を、生体外で脂肪細胞へ分化誘導可能な条件で培養すること、iv)上記培養過程において、CD105陽性である間葉系幹細胞を分離回収すること、を含む。
さらに、v)上記分離回収したCD105陽性細胞を生体外で目的の細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)へ分化誘導可能なそれぞれの条件で更に培養することによって、目的の形態に分化した細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)を生産することができる。
以下、本発明に係る間葉系幹細胞の生産方法、及び該間葉系幹細胞を分化誘導させて筋芽細胞その他の目的の細胞を生産する方法について詳細に説明する。

【0019】
本発明の目的を実現する限り、使用する多能性幹細胞は特に制限されない。成体を構成する種々の組織に分化できる多能性と自己複製能を有する細胞であって、例えば、EC細胞、ES細胞、EG細胞、及びiPS細胞等が挙げられるが、ここに開示される技術が好ましく適用される典型例として、ヒト又は動物由来のES細胞またはiPS細胞が挙げられる。
ES細胞としては、内部細胞塊(哺乳動物における受胎後14日以内の胚)から多能性幹細胞を取り出し、生体外で培養できるように株化したものが挙げられる。ES細胞の培養については、例えばLIFの存在下では未分化性を維持し増殖させることができる。その一方、LIFの非存在下では初期胚同様の細胞分化誘導を起こすことができる。本発明において使用されるES細胞は、胞胚内の内部細胞塊より新たに樹立したES細胞、又は既に樹立されたES細胞のいずれに限定するものではない。
また、ES細胞の由来としては、ヒト又は動物に由来するものであることが好ましい。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタなどの哺乳動物由来のものが好ましく使用され得る。動物由来ES細胞としては、細胞バンクに登録されたES細胞株又は市販のES細胞株を使用することができる。しかしながら、ヒトの治療には、ヒト由来のES細胞を用いることが好ましい。尚、ヒト由来ES細胞としては、胚が人の生命の萌芽であること及びヒト由来ES細胞がすべての細胞に分化する可能性があることに配慮し、人の尊厳を侵すことのないよう誠実かつ慎重に取扱いを行うことが要請される。
本発明の実施に好適な他の多能性幹細胞として、iPS細胞が挙げられる。iPS細胞は、ES細胞のように受精卵を用いることなく、いずれかの体組織(例えば皮膚組織)に由来する体細胞(典型的には線維芽細胞)から多能性を有する細胞へと人工的に構築された細胞である。即ち、患者本人の細胞から作れるため、拒絶反応を生じずに組織の欠損部位や機能損傷部位の機能改善や組織再生を目的とする治療の一つとして、再生医療への応用が期待される細胞である。

【0020】
また、本発明に係る多能性幹細胞としては、凍結保存された上記ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞を好適に用いることができる。そして、用意した多能性幹細胞は、脂肪細胞への分化誘導を行う前に未分化の状態で継代することが好ましい。所定回数継代することによって、凍結保存された多能性幹細胞を分化誘導に適する細胞数まで増殖させることができる。また、所望する細胞種への分化誘導効率を向上させることができる。
継代の回数としては、5~17回が一般的に広く行われている継代回数であるが、本発明においては継代を8~12回(特に好ましくは9~11回)行うことが好ましい。凍結保存された多能性幹細胞を解凍後に8~12回(特に好ましくは9~11回)継代した多能性幹細胞を用いて脂肪細胞へ分化誘導する条件の培養を行うとよい。このことによって、得られるCD105陽性の間葉系幹細胞の筋芽細胞への分化能力(確率)を顕著に向上させることができる。

【0021】
生体外での脂肪細胞への分化誘導方法としては、従来から用いられている如何なる誘導方法を用いてもよく、特に限定されないが、典型的には、レチノイン酸を添加した培養液で数日間(例えば2~3日間、特に好ましくは2日間)浮遊培養した後、インシュリンおよびトリヨードサイロニン(T3)を添加した培養液で培養する。以下の実施例に記載される培養液組成は、好適な一例である。
また、本発明の目的を実現する限り、従来この種の細胞の培養に用いられる培養条件を利用することができ、例えば、培地の種類、組成物の内容、組成物の濃度、及び培養温度等に関して特に制限はない。
また、培養期間は、典型的には21日を超えない期間培養をするのが好ましい。脂肪細胞へと分化誘導させた多能性幹細胞は、21日以上のような長期間培養を続けると脂肪細胞へ分化した細胞が大勢を占めるため好ましくない。従って、培養開始から21日を超えない期間(典型的には7~21日間、好ましくは7~14日間、特に好ましくは12~14日間)のうちに、後述する分離方法を用いて、CD105陽性の細胞を分離回収するのが好ましい。

【0022】
発現したCD105陽性細胞を分離回収する手段としては、従来知られた種々の方法が採用され得るが、好ましい手法として種々のセルソーティング法を用いることができる。例えば、FACS法(Fluorescence Activated Cell Sorting)を用いたセルソーターやフローサイトメーターによる分離法や、MACS法(Magnetic Cell Sorting)、等が挙げられる。本発明においては、多能性幹細胞から分化誘導させる方法を用いているため、生体組織から単離するような方法と異なり、細胞培養物中における間葉系幹細胞の発現量は比較的多い。従って、大量に発現した間葉系幹細胞(即ちCD105陽性細胞)を簡易かつ効率良く分離するためMACS法を好ましく用いることができる。
具体的には、CD105に特異的に結合する抗CD105抗体(或いは該抗体に特異的に結合する二次抗体)に磁気ビーズを担持させたものを利用することにより、MACS法によりCD105陽性細胞を選択的に分離・回収することができる。
また、MACS法によって分離収集した細胞の精製率を上げるために、MACS法によって分離した細胞を、さらにセルソーターやフローサイトメーター等のFACS法を用いて精製することができる。

【0023】
また、ここで開示される生産方法により得られる細胞培養物は、ヒト又は動物由来の多能性幹細胞から脂肪細胞に分化誘導する条件の培養によって発現するCD105陽性の間葉系幹細胞を含む(好ましくは総細胞数の50%以上の割合で含む)細胞培養物であればよく、その他の細胞を含有していてもよい。例えば、好適な一態様では、当該培養物中の細胞の少なくとも一部として筋芽細胞へ分化する能力を有する細胞を含む。この態様においても、細胞培養物には、筋芽細胞への分化誘導を阻害しない限りにおいて、上記細胞以外の種々の細胞が含まれていてもよい。
当該細胞培養物に含まれる上記CD105陽性の間葉系幹細胞は、例えばCD105蛍光免疫染色によって確認することができる。細胞培養物中の全細胞(生存細胞)のうち少なくとも50%以上(特に好ましくは80%以上)がCD105陽性の間葉系幹細胞として観察される細胞培養液は、本発明に係る細胞培養液として好適な一態様であって、間葉系幹細胞を目的の細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)へ分化誘導可能なそれぞれの条件の下で培養することにより、高率に目的の形態に分化した細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、或いは筋芽細胞、典型的には筋芽細胞)を提供することができる。

【0024】
上記細胞培養物中に目的の細胞へと分化誘導し得る細胞が存在することは、上記のようにしてCD105陽性細胞を分離・回収した後、当該分離した細胞をそれぞれの培養条件下で培養を続ける過程において種々の生化学的アプローチ或いは形態観察により確認することができる。
例えば、顕微鏡による細胞観察、種々の細胞染色法、ハイブリダイゼーションを用いたノーザンブロット法、RT-PCR法等のさまざまな確認方法によって分化した細胞の種類を特定することができる。特に、筋芽細胞は、細胞の外形が紡錘形であり、且つ、その形状が特徴的であることから、細胞の形状を観察することによっても容易に判定することができる。或いは、細胞を抗M-cadherin抗体を使用する免疫蛍光染色および抗Myosin Heavy Chain(MHC)抗体を使用する免疫蛍光染色を行うことにより筋芽細胞の存在を確認することができる。
一方、脂肪細胞、骨細胞及び軟骨細胞は、その細胞の形状からは判定が困難であるが、細胞内脂質を染色する(例えばOil Red O染色法により赤く染色できる。)ことにより脂肪細胞の存在を確認することができる。また、細胞をアリザリンレッド(Alizarin red)染色を行うことにより骨細胞の存在を確認することができる。また、細胞をアルシアンブルー(Alcian blue)染色を行うことにより軟骨細胞の存在を確認することができる。

【0025】
以下の実施例によって、本発明に係る筋芽細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞を効率的に生産し得る方法(換言すれば筋芽細胞を効率的に生産する方法)の好例を詳細に説明するが、本発明を以下の実施例に限定することを意図したものではない。

【0026】
[多能性幹細胞の継代]
本実施例では、多能性幹細胞としてマウス由来のES細胞を用いた。
ES細胞の培養液(ES-DMEM)は、4500mg/lグルコースを含むDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM;D-5796、Sigma社製品)に、10%fetal bovine serum(FBS;VMS1500、Vitromex社製品)、1%non-essential amino acids(NEAA;11140-50、GIBCO社製品)、1%sodium pyruvate(11360-070、GIBCO社製品)、7×10-6%2-mercaptoethanol(M3148、Sigma社製品)、0.5%antibiotic antimycotic(15240-096、GIBCO社製品)を添加して調製した。
ES細胞の培養には、0.1%gelatin(G-1890、Sigma社製品)を含むDulbecco's Phosphate Buffered Saline(PBS;D5652-10XIL、Sigma社製品)でコートされた直径100mm培養皿(353003、FALCON社製品)を用いた。未分化を維持したES細胞の培養のために、ES-DMEMに10unitsのLeukemia Inhibitory Factor(LIF;ESGRO ESG1107、Chemicon社製品)を添加した培養液を使用した。
凍結保存されたマウス由来のES細胞を解凍後、培養皿に播種し、ES-DMEMにLIFを添加した培養液を加えて培養した。未分化のES細胞が培養皿の7割程度に増殖したところでPBSで2回洗浄し、PBSで3倍希釈した0.25%Trypsin/1mM-EDTA(L7K5399、Nakalai社製品)を加えて細胞を剥離した。1200rpmで5分間遠心分離し、細胞数をカウントして、細胞数が約5×10cells/dishの濃度になるように新しい培養皿に播種した。継代の培養は、37℃、5%COの条件下で行った。これを継代1回目とし、この継代を7~18回繰り返した。詳しくは、サンプル1の未分化の多能性幹細胞は7~18回継代し、サンプル2は9~14回継代し、サンプル3は8~15回継代し、サンプル4は7、10~12、14回継代した。

【0027】
[脂肪細胞へ分化誘導可能な条件下での培養]
上記継代した未分化ES細胞を、脂肪細胞へ分化誘導可能な条件下で培養を行った。
まず、分化を開始するために、LIFを含まないES-DMEM培養液を使用し、径100mmの培養皿の蓋に100cells/μlの濃度で細胞を含む細胞混濁液を10μlずつ滴下するHanging drop法により、胚様体(embryoid body;EB)を作製した。
その後2日間、ES-DMEMに、0.02% all-trans retinoic acid(レチノイン酸の一種である全トランス型レチノイン酸:R2625、Sigma社製品)を添加した培養液で浮遊培養させ、さらに2日間、ES-DMEMで浮遊培養させた。
その後、細胞をgelatinでコートされた培養皿に播種し、ES-DMEMに0.005%インシュリン(I-1882、Sigma社製品)と、0.007%3,3,5-Triiodo-L-thyronine(トリヨードサイロニン(T3);T5516、Sigma社製品)を添加した培養液で培養した。培養液は2日おきに交換した。

【0028】
上記培養13日目に、培養された細胞をCD105蛍光免疫染色することによって、CD105陽性細胞の発現を確認した。
まず、培養細胞をPBSで2回洗浄したあと、PBSで100倍に希釈したラット抗マウスCD105モノクローナル抗体(clone:209701、R&D社製品)を培養細胞に添加し、37℃で、15分間の抗原抗体反応を行った。反応終了後、供試細胞をPBSで2回洗浄し、4%Paraformaldehydeに15分間浸漬することにより、供試細胞を固定した。固定後の供試細胞をPBSで10分間の洗浄を計5回行い、次いで、400倍希釈した二次抗体であるAlexa Fluor(登録商標)色素標識ヤギ抗ラットIgG抗体(A-11007、Molecular Probes社製品)を供試細胞に添加し、室温で1時間の抗原抗体反応を行った。かかる反応後、供試細胞をPBSで30分間の洗浄を計2回行った。こうして得られた細胞を、蛍光退色を防止する水溶性封入剤である「PermaFluor(登録商標)(43499,Thermo社製品)」で封入し、次いで、蛍光顕微鏡により観察した。
かかる観察時に撮影した写真を図1及び図2にそれぞれ示す。図1は、蛍光顕微鏡で撮影した写真である。また、図2は、位走査顕微鏡で撮影した写真であって、いずれも同一視野を撮影したものである。
図1及び図2に示されるように、球形の細胞が赤く染色されていることが確認された。また、染色された細胞は、全体の50%以上存在することを確認した。従って、培養13日目の細胞培養物中には、全細胞中の50%以上の割合でCD105陽性細胞が存在していることが確認された。

【0029】
[マグネティックセルソーティング法によるCD105陽性細胞の分離]
上記確認後、培養皿に接着させて脂肪誘導培地で培養した細胞をMACS(Magnetic Cell Sorting)法を用いて分離・回収した。
まず、培養皿をPBSで2回洗浄した後、PBSで希釈した5mMのethylene diamine tetra acetic acid(EDTA:E-7889、Sigma社製品)を培地に加え、37℃で15分間反応させ、細胞を剥離した。次に、細胞を4℃のPBS中に0.5%bovine serum albumin(BSA:A2934-25G、Sigma社製品)と2mMのEDTA(E-7889、Sigma社製品)を加えたMACS Buffer中に移し、該細胞懸濁液を1000rpmで5分間遠心分離し、上澄みをアスピレーターで吸い、細胞数をカウントした。
さらに、該細胞に対して、一次抗体としてPBSで100倍希釈したラット抗マウスCD105モノクローナル抗体(clone:209701、R&D社製品)を加え、4℃で5分間の抗原抗体反応を行った。次に、供試細胞に上記MACS Bufferを加え、1000rpmで5分間遠心することによって洗浄し、余剰の一次抗体を除去した。その後、二次抗体としてPBSで400倍希釈したヤギ抗ラットIgG結合マイクロビーズ(130-048-501,Miltenyi Biotech社製品)を上記洗浄後の供試細胞に添加し、4℃で15分間の抗原抗体反応を行った。その後、上記一次抗体との反応後と同様の洗浄を行い、余剰の二次抗体を除去した。
こうして得られた上記マイクロビーズでラベルされた細胞を含む細胞懸濁液を、製造元が供給しているマニュアルに従ってmini-MACS separation column(Miltenyi Biotech社製品)に通した。これにより、CD105陽性細胞の選択的な分離を行った。なお、mini-MACS separation columnによる分離は、細胞の純度を高めるために連続して二度行った。

【0030】
[CD105陽性細胞の収率]
上記MACS法を用いて分離収集したCD105陽性細胞の収率について、多能性幹細胞の継代数との相関を調べた。即ち、凍結保存された未分化の多能性幹細胞を解凍後、7~18回継代したサンプル1、9~14回継代したサンプル2、8~15回継代したサンプル3、及び7、10~12、14回継代したサンプル4のそれぞれについて、上記脂肪細胞へ分化誘導を行い、培養過程過においてCD105陽性である細胞を分離し収率を求めた。図3は、各サンプルの継代数に対するCD105陽性細胞の収率を示したグラフである。横軸は継代数を、縦軸は分離したCD105陽性細胞の収率を表す。
図3から明らかなように、サンプル1、3、及び4は、継代10回の多能性幹細胞を用いた場合、分離したCD105陽性細胞の収率が最も高く、サンプル2では、12回継代した多能性幹細胞を用いた場合、分離したCD105陽性細胞の収率が最も高かった。また、いずれのサンプルでも継代数8~12回の多能性幹細胞を用いた場合、高収率でCD105陽性細胞を分離することができることが確認された。

【0031】
[CD105陽性細胞のFACS解析]
次いで、蛍光標識された抗マウスCD105モノクローナル抗体を用いて、MACS法により分離したCD105陽性細胞の純度をFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)により解析し、分離性能を評価した。

【0032】
即ち、CD105陽性細胞の収率の最も高い継代数10回の多能性幹細胞を脂肪細胞へ分化誘導し、培養皿に接着させて脂肪誘導培地で培養した細胞を剥離した。そして、上記MACS Bufferで懸濁した懸濁培養液から上澄みを除去し細胞を得た。
そして、該細胞に対して、一次抗体として蛍光物質フィコエリスリン(PE)標識された抗マウスCD105モノクローナル抗体(clone:209701、FAB1320P、R&D社製品)をPBSで10倍希釈して加え、4℃で10分間の抗原抗体反応を行った。次に、供試細胞に上記MACS Bufferを加え、1000rpmで10分間遠心することによって洗浄し、余剰の一次抗体を除去した。その後、二次抗体としてPBSで8倍希釈した抗PEマイクロビーズ(130-048-801,Miltenyi Biotech社製品)を上記洗浄後の供試細胞に添加し、4℃で15分間の抗原抗体反応を行った。上記一次抗体との反応後と同様の洗浄を行い、余剰の二次抗体を除去した。
こうして得られた上記マイクロビーズでラベルされた細胞を含む細胞懸濁液を、製造元が供給しているマニュアルに従ってmini-MACS separation column(Miltenyi Biotech社製品)に通した。これにより、CD105陽性細胞の選択的な分離を行った。なお、mini-MACS separation columnによる分離は、細胞の純度を高めるために連続して二度行い、CD105陽性細胞を分離した。

【0033】
上記蛍光標識された抗マウスCD105モノクローナル抗体を用いてMACS法により分離した細胞群(CD105陽性細胞群)およびMACS法による分離を行っていない細胞群を、FACSCalibur フローサイトメーター(BD社製品)を用いて、PE陽性の細胞について解析した。図4は、MACS法による分離を行っていない細胞群を示し、図5は、MACS法で分離したCD105陽性細胞群を示す。なお、EGFP(Enhanced GFP)の波長で定量解析に必須な画像の補正を行った。
FACS解析の結果、図4に示されるように、MACS法による分離を行っていない細胞群には、PE陽性のCD105陽性細胞が34.4%含むことが確認された。また、図5に示されるように、MACS法による分離を行った細胞群は、91.4%がPE陽性のCD105陽性細胞であることが確認された。以上の結果から、MACS法を用いることにより、培養細胞からCD105陽性細胞を高純度で分離し、収集できることが示された。

【0034】
さらに、上記MACS法により分離した細胞群を位走査顕微鏡で観察した。図6は、位走査顕微鏡で撮影したCD105陽性細胞の写真である。
図6に示されるように、CD105陽性細胞は、脂肪組織中から分離したADSCsの細胞形状と極めてよく似た紡錘状の形状を有することが確認された。

【0035】
[分化誘導で発現した細胞の確認]
上記MACS法によって分離したCD105陽性細胞を、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞に分化誘導可能なそれぞれの条件下で培養することにより、該CD105陽性細胞が目的の形態に分化した脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞へ分化誘導される否かを確認した。

【0036】
即ち、上記MACS法によって分離したCD105陽性細胞を、gelatinでコートされた培養皿に低密度(1×10~2.5×10cells/cm)で播種し、それぞれの細胞への分化誘導可能なES-DMEM培養液で2~3週間培養した。ES-DMEM培養液は2日おきに交換し、それぞれ以下の組成のものを使用した。
なお、MACS法により分離されない細胞群(以下、「CD105陰性細胞」という)を同様の方法を用いて、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞に分化誘導可能なそれぞれの条件下で2~3週間培養することにより、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞へ分化誘導される否かを確認した。

【0037】
脂肪細胞への分化誘導は、従来公知の種々の脂肪細胞分化誘導用の培養液を採用することができるが、ここでは、ES-DMEMに0.005%インシュリン(I-1882、Sigma社製品)、0.007%3,3,5-Triiodo-L-thyronine(トリヨードサイロニン(T3);T5516、Sigma社製品)、1μM Dexamethasone(D4902-25MG、Sigma社製品)、500μM 3-Isobutyl-1-methyl-xanthin (IBMX;I5879-100MG、Sigma社製品)を加えたES-DMEM培養液を用いた。
骨細胞への分化誘導は、従来公知の種々の骨細胞分化誘導用の培養液を採用することができるが、ここでは、ES-DMEMに0.1μMのDexamethasone(D4902-25MG、Sigma社製品)、10mM β-glycerol phosphate (37177-30 、KANTO CHEMICAL社製品)、200μM ascorbic acid(A4544-25G、Sigma社製品)を加えたES-DMEM培養液を用いた。
軟骨細胞への分化誘導は、従来公知の種々の軟骨細胞分化誘導用の培養液を採用することができるが、ここでは、無血清のES-DMEMに10ng/mL TGFβ3(243-B3、Sigma社製品)、100nM PTH(parathyroid hormone、12583-68-5、Sigma社製品)、1% FBSを加えた培養液を用いた。
筋芽細胞への分化誘導は、従来公知の種々の筋芽細胞分化誘導用の培養液を採用することができるがここでは、無血清のES-DMEMに5%血清代替物(KSR:KNOCKOUT(登録商標)Serum Replacement(10828-028、Invitrogen社製品)を加えた培養液を用いた。

【0038】
そして、分化誘導により生じた細胞を観察し、細胞の種類を判定した。細胞の種類の判定は、以下の方法により行った。

【0039】
脂肪細胞へ分化誘導された細胞は、Oil Red O染色により判定を行った。0.3%Oil Red O(115K0683、Sigma社製品),1-Propanol(24-6070-5、Sigma社製品)溶液を保存液とし、保存液を蒸留水と6:4の割合で希釈し、ろ過したものをOil Red O染色液として使用した。また、同時に細胞の核を染色するためにHematoxylin液を使用した。
まず、培養細胞をPBSで2回洗浄し、PBSに溶解した4%Paraformaldehye(24-0630-5、Sigma社製品)に30分間浸漬することにより細胞を固定した。次に,固定された供試細胞をPBSで30分間洗浄し、次に60%1-Propanolで1分間反応させた。上記Oil Red O染色液を添加後、37℃で15分間反応させた。その後、60%1-Propanolで2分間反応させ、次いで蒸留水で2分間洗浄した。
その後、Hematoxylin液で5分間核を染色し、蒸留水で2分間洗浄した。最後にPBSで希釈した80% Glycerol(12-1120-5、Sigma社製品)で封入した。
上記Oil Red O染色した細胞の観察写真を図7および図8に示す。図7は、CD105陽性細胞を、図8は、CD105陰性細胞を示す。

【0040】
骨細胞へ分化誘導し発現した細胞は、Alizarin red染色を用いて確認した。まず、1% Alizarin red S水溶液(A5533-25G、Sigma社製品)に28%アンモニア水溶液(MKD1711、米山薬品工業株式会社製品)をゆっくりと加え、pH6.36~6.40に調整したものをAlizarin red染色液として使用した。そして、細胞をPBSで2回洗浄し、4%Paraformaldehyde(24-0630-5,Sigma社製品)で30分間固定した。これをさらに蒸留水で数回洗浄し、Alizarin red染色液を加え、5分間反応させた。最後に蒸留水で数回洗浄後、Glycerolで封入した。
上記Alizarin red染色した細胞の観察写真を図9および図10に示す。図9は、CD105陽性細胞を、図10は、CD105陰性細胞を示す。

【0041】
また、軟骨細胞へ分化誘導し発現した細胞は、Alcian blue染色を用いて確認した。まずPBSで2回洗浄したのち、PBSに4%Paraformaldehyde(24-0630-5,Sigma社製品)を含む固定液で15分間固定した。その後、PBSで15分間洗浄し、さらに3%酢酸水溶液で5分間洗浄した。洗浄後、Alcian blue8GX 1gを3%酢酸溶水溶液100mlに溶解したものをAlcian blue染色液として調製し、該染色液を添加して30分間染色した。そして、3%酢酸溶水溶液で5分間洗浄し、さらに蒸留水で5分間洗浄した。最後にPBSで希釈した80% Glycerol (12-1120-5、Sigma社製品)で封入した。
上記Alcian blue染色した細胞の観察写真を図11および図12に示す。図11は、CD105陽性細胞を、図12は、CD105陰性細胞を示す。

【0042】
さらに、筋芽細胞へ分化誘導し発現した細胞は、抗M-cadherin抗体を使用する免疫蛍光染色および抗Myosin Heavy Chain(MHC)抗体を使用する免疫蛍光染色によりそれぞれ確認した。まず、PBSで2回洗浄したのち、PBSに4%Paraformaldehyde(24-0630-5,Sigma社製品)を含む固定液で15分間固定した。その後、PBSで15分間洗浄し、正常ヤギ血清(G9023,Sigma社製品)を0.1%Triton PBSで10%に希釈したブロッキング液を加えて、37℃で30分間非特異反応を抑制した。次いで、一次抗体である抗Myosin Heavy Chain抗体(MHC;clone A4.1025,Upstate社製品)および抗M-cadherin抗体(clone 12G4,Nanotools社製品)を0.1%Triton PBSでそれぞれ200倍、100倍希釈したものを加え、37℃で1時間の抗原抗体反応を行った。かかる反応後、PBSで15分間洗浄した。さらに、二次抗体であるヤギのAlexa594標識抗マウスIgG抗体(A11001,Molecular Probes社製品)を0.1%%Triton PBSで200倍希釈したものを添加し、37℃で1時間抗原抗体反応を行った。その後、室温でPBSにより15分間洗浄し、蛍光退色防止封入剤PermaFluor(登録商標)(43499,Thermo社製品)で封入した。上記M-cadherin免疫蛍光染色およびMHC免疫蛍光染色したCD105陽性細胞の観察写真を、それぞれ、図13および図14に示す。

【0043】
上記目的の脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞へ分化誘導可能な条件で発現した各細胞の判定結果を以下に述べる。
まず、脂肪細胞への分化誘導においては、図7および図8に示されるように、図7のCD105陽性細胞は、Oil Red O染色により脂肪細胞が確認された。一方、図8のCD105陰性細胞は、脂肪細胞へ分化誘導を行っても脂肪細胞は発現していないことが確認された。
また、骨細胞への分化誘導では、図9および図10に示されるように、図9のCD105陽性細胞は、Alizarin red染色により骨細胞が確認された。一方、図10のCD105陰性細胞は、骨細胞へ分化誘導を行っても骨細胞は発現していないことが確認された。
また、軟骨細胞への分化誘導では、図11および図12に示されるように、図11のCD105陽性細胞は、Alcian blue染色により軟骨細胞が確認された。一方、図12のCD105陰性細胞は、軟骨細胞へ分化誘導を行っても軟骨細胞は発現していないことが確認された。
さらに、筋芽細胞への分化誘導では、図13および図14に示されるように、図13のM-cadherin免疫蛍光染色および図14のMyosin Heavy Chain(MHC)免疫蛍光染色ともに、CD105陽性細胞は筋芽細胞が確認された。また、図示しないが、CD105陰性細胞は、筋芽細胞へ分化誘導を行っても筋芽細胞は発現していないことが確認された。

【0044】
[RT-PCR解析]
次いで、上記MACS法によって分離したCD105陽性細胞を、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞に分化誘導可能なそれぞれの条件下で培養することにより、該CD105陽性細胞が目的の細胞へ分化誘導されたか否かをRT-PCR法を用いて解析した。

【0045】
RT-PCR解析は、従来公知の一般的な方法を採用することができるが、ここでは、以下の方法により行った。
即ち、培養皿に接着している分化誘導した細胞をCell Scraperを用いて剥離し、超音波破砕機(Handy Sonic ,TOMY SEIKO社製品)によって細胞を破砕した。RNA抽出キット(RNeasy, Quiagen社製品)を用いてmRNAのみを収集し、吸光度計(Nanodrop社製品)により計量した。そして、収集したRNAから、Oligo (dT) Primer(18418-012、Invitrogen社製品)を用いて、逆転写酵素Superscript reverse transcriptase II(Invitrogen社製品)によりテンプレートとなるcDNAを合成した。PCRでは、Taq DNA polymeraseとしてBlend Taq(登録商標)(Toyobo社製品)と、付属のBuffer(BTQ-101、Toyobo)、及び各細胞の遺伝子に特異的な以下のプライマーをそれぞれ使用した。脂肪細胞のプライマーとしては、PPARγおよびLPLを使用し、骨細胞のプライマーとしては、Runx 2およびOsterixを使用した。また、軟骨細胞のプライマーとしては、Collagen 2alおよびAgglycanを使用し、筋芽細胞のプライマーとしては、M-cadherin、MHC,MyoD、およびMyf5を使用した。また、PCR反応のサイクル条件は、95℃ 60秒間、60℃ 30秒間、70℃30秒間で合計36サイクル行った。サイクル後、PCR産物を2%アガロースゲル(800171、NIPPON GENE社製品)に装填し、Mulpid-2plus(100V、45分;ADVANCE社製品)で電気泳動した。電気泳動したアガロースゲルは、CYBR safe DNA gel stain(54022A、invitrogen社製品)を用いて染色し、FAS-III(Toyobo社製品)でそれぞれの特異的バンドを検出した。

【0046】
RT-PCR解析の結果、脂肪細胞へ分化誘導された細胞には、脂肪細胞で特異的に発現するPPARγおよびLPLのmRNAのバンド(図示しない)を確認した。また、骨細胞へ分化誘導された細胞には、骨細胞で特異的に発現するRunx 2およびOsterixのmRNAのバンド(図示しない)を確認した。軟骨細胞へ分化誘導された細胞には、軟骨細胞で特異的に発現するCollagen 2alおよびAgglycanのmRNAのバンド(図示しない)を確認した。さらに、筋芽細胞へ分化誘導された細胞には、筋芽細胞で特異的に発現するM-cadherin、MHC,MyoD、およびMyf5のmRNAバンドのバンド(図示しない)を確認した。

【0047】
以上の結果から、上記MACS法によって分離したCD105陽性細胞は、目的の形態に分化した細胞(脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、または筋芽細胞)を高効率に発現する能力を備えた間葉系幹細胞であることが示された。また、ここで開示される生産方法および細胞培養物によって、多能性幹細胞由来の脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞または筋芽細胞を提供することができることが確認された。

【0048】
[継代数の異なる多能性幹細胞による分化能の確認]
さらに、継代数の異なる多能性幹細胞を用いて脂肪細胞への分化誘導を行い、CD105陽性細胞を分離した。そして、それぞれ分離したCD105陽性細胞を、脂肪細胞または筋芽細胞へ分化誘導し細胞を観察した。

【0049】
<サンプルA>
多能性幹細胞として、上記実施の形態と同様に未分化の凍結保存されたマウス由来のES細胞を用いて10回継代した。これをサンプルAとし、ES細胞を10回継代した後、上述と同様の方法を用いて生体外で脂肪細胞への分化誘導を行い、MACS法を用いてCD105陽性細胞を分離した。さらに、分離したCD105陽性細胞を生体外で筋芽細胞へ分化誘導可能な条件でさらに20日間培養し、分化誘導により生じた細胞を観察した。

【0050】
<サンプルB>
サンプルBでは、上述のサンプルAと同様の凍結保存されたマウス由来のES細胞を多能性幹細胞として用いて継代した。ただし、継代回数を5回と変更した。
それ以外は、サンプルAと同様の手順で、継代した多能性幹細胞を用いて脂肪細胞への分化誘導を行い、MACS法を用いてCD105陽性細胞を分離した。
さらに、分離したCD105陽性細胞をサンプルAと同様に生体外で筋芽細胞へ分化誘導可能な条件でさらに20日間培養し、分化誘導により生じた細胞を観察した。

【0051】
<サンプルC>
サンプルCでは、上述のサンプルAと同様の凍結保存されたマウスのES細胞を多能性幹細胞として用いて継代した。ただし、継代回数を17回と変更した。
それ以外は、サンプルAと同様の手順で、継代した多能性幹細胞を用いて脂肪細胞への分化誘導を行い、MACS法を用いてCD105陽性細胞を分離した。
さらに、分離したCD105陽性細胞をサンプルAと同様に生体外で筋芽細胞へ分化誘導可能な条件でさらに20日間培養し、培養過程で分化した細胞を観察した。

【0052】
而して、顕微鏡による観察の結果、サンプルAでは、筋芽細胞へ分化誘導した細胞は、紡錘形の筋芽細胞(図示しない)が確認された。従って、サンプルAに係る細胞培養物に含まれるCD105陽性の細胞は高効率に筋芽細胞へ分化し得る能力を備えた間葉系幹細胞であることが示された。また、ここで開示される生産方法および細胞培養物によって、多能性幹細胞由来の筋芽細胞を提供することができることが確認された。
一方、サンプルB及びサンプルCでは、筋芽細胞へ分化誘導した細胞を顕微鏡観察したが、紡錘形の細胞の存在が確認されなかった。そこで、サンプルBおよびサンプルCの多能性幹細胞を脂肪細胞へ分化誘導し、Oil Red O染色を行ったところ、サンプルBおよびサンプルC(図示しない)の分化誘導後に生じた細胞は赤く染まったことから、脂肪細胞であることが確認された。従って、サンプルAと継代回数の異なるサンプルB及びサンプルCに係るCD105陽性の細胞は、高確率で脂肪細胞へ分化し得る間葉系幹細胞であることが示された。このことから、継代回数が10回の多能性幹細胞を脂肪細胞へ分化誘導し分離したCD105陽性細胞は、高効率で筋芽細胞へ分化誘導することが確認された。また、継代回数が5回または17回の多能性幹細胞を脂肪細胞へ分化誘導すると、CD105陽性細胞を僅かに収集することはできた。しかしながら、筋芽細胞へ分化誘導した細胞は顕微鏡観察では筋芽細胞を確認できなかったが、脂肪細胞へ分化誘導すると脂肪細胞を発現することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上の実施の形態から明らかなように、本発明よると、多能性幹細胞から脂肪細胞への分化誘導過程において、筋芽細胞或いはその他の目的の細胞へ分化し得る間葉系幹細胞を効率良く且つ大量に生産する方法を提供することができる。従って、本発明の実施によって、従来は間葉系幹細胞から分化誘導され難い細胞種であった筋芽細胞を多能性幹細胞から大量に生産することができる。
図面
【図3】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13