TOP > 国内特許検索 > 球形あるいは非球形ポリマー粒子の合成方法 > 明細書

明細書 :球形あるいは非球形ポリマー粒子の合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5843089号 (P5843089)
公開番号 特開2012-172028 (P2012-172028A)
登録日 平成27年11月27日(2015.11.27)
発行日 平成28年1月13日(2016.1.13)
公開日 平成24年9月10日(2012.9.10)
発明の名称または考案の名称 球形あるいは非球形ポリマー粒子の合成方法
国際特許分類 C08J   3/09        (2006.01)
FI C08J 3/09 CER
C08J 3/09 CEZ
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2011-034052 (P2011-034052)
出願日 平成23年2月19日(2011.2.19)
審査請求日 平成26年2月10日(2014.2.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
発明者または考案者 【氏名】関 実
【氏名】山田 真澄
【氏名】鈴木 悠介
個別代理人の代理人 【識別番号】100121658、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 昌義
審査官 【審査官】中山 基志
参考文献・文献 特開2006-343627(JP,A)
特開2004-202476(JP,A)
調査した分野 C08J3/00-3/28;99/00
B01J10/00-12/02;14/00-19/32
G03G9/00-9/113;9/16
特許請求の範囲 【請求項1】
ギ酸、酢酸及びプロピオン酸の少なくともいずれかのカルボン酸と、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールの少なくともいずれかのアルコールによって形成されたエステルを含む水溶性有機溶媒に対し、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン-co-ジビニルベンゼン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル又はこれらの任意の共重合体を含むポリマーを溶解することで、ポリマー溶液を調製し、
前記ポリマー溶液及び水溶液を、それぞれマイクロ流路に連続的に導入することで、マイクロ流路内において液滴を形成し、
前記液滴中に含まれる前記水溶性有機溶媒が、前記水溶液中に溶解することによって、ポリマー粒子が形成される、非球形ポリマー粒子の合成方法であって、
前記水溶液及び前記ポリマー溶液の少なくともいずれかに、あらかじめ界面活性剤及び分散安定剤の少なくともいずれかが溶解されており、
前記マイクロ流路は、前記水溶性有機溶媒を導入するための入口、前記水溶液を導入する複数の入口、部分的に細くなっている合流部付近に設けられるオリフィス部、前記オリフィス部の下流の流路部、及び出口と、を備えて構成されており、
前記ポリマー粒子の形状は、半球形、あるいは球に対しクレーター状の欠落を有する形状のいずれかである非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項2】
形成された前記ポリマー粒子を含む混合溶液に対し、大量の希釈水溶液を加えた後に、前記水溶液、前記希釈水溶液、および前記水溶性有機溶媒を除去する請求項1に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒とは、室温において、純水に対し1から100重量%の範囲で溶解する有機溶媒である請求項1又は2に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項4】
前記水溶性有機溶媒とは、溶解パラメーターが15から25(MPa1/2)の範囲にある有機溶媒である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項5】
前記ポリマー溶液中に含まれるポリマー濃度は、10重量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項6】
前記ポリマー粒子の平均直径は、10ミクロン以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
【請求項7】
前記ポリマー粒子は、その直径の変動係数が10%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の非球形ポリマー粒子の合成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、球形あるいは非球形のポリマー粒子の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子は精密機械、分析化学、塗料、化粧品などの幅広い分野で使用される材料である。一般的にポリマー微粒子は、その単分散性が上がるほど、つまり粒子径が均一になるほど、その物理的な性質が均一になるため、有用性が上がる。そのため、単分散なポリマー微粒子は、クロマトグラフィー用のカラム充填剤や液晶ディスプレイ用のスペーサーなどとして必須であり、様々な産業分野において不可欠である。
【0003】
上記のような単分散なポリマー微粒子は、通常、懸濁重合や乳化重合などの合成法を用いてモノマーを重合した後、必要に応じて沈降分離などの分級操作を行うことによって得られているが、それらの操作は煩雑であり、時間・コストがかかる、といった問題がある。
【0004】
一方近年、単分散なポリマー微粒子を作製する手法として、マイクロ流体デバイスによる微小液滴生成法が注目を集めている。マイクロ流体デバイスとは、主に微細加工技術を利用して作製された、数マイクロ~数百マイクロメートルサイズの流路構造を有する微小チップの総称である。マイクロ流体デバイスを用いてポリマー微粒子を作製する場合、マイクロ流路にポリマー微粒子の元となるモノマー液滴を形成するための分散相(重合開始剤を含む)と、媒体としての役割を果たす連続相(主に水)の二つの溶液をそれぞれ連続的に導入することで、流路のサイズに応じた微小かつ単分散な直径数μm~数百μmのモノマー液滴を形成する。そして、そのモノマー液滴に熱や光を作用させて重合反応を行うことによって、単分散なポリマー微粒子を調製することが可能となる。なおマイクロ流体デバイスを用いた手法では、一般的に、分散相と連続相の導入流量を調節することで、生成液滴径および粒子径をある程度コントロールすることが可能であり、単分散微粒子を容易に作製可能な新手法として、産業分野において利用され始めている。
【0005】
また、マイクロ流体デバイスを用いることで、単分散な球形のポリマー微粒子のみならず、非球形なポリマー微粒子を作製する手法も提案されている。たとえば、形成した液滴を細い流路に導入しつつ重合することで、長細い微粒子を作製する手法や、モノマー溶液と、モノマー溶液と相溶性の低い溶媒の2種の溶液からなる液滴を形成し、モノマー溶液部分を重合することで、半球状の微粒子やクレーター状の欠損をもつ微粒子を作製する手法などが開発されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許公開2004-67953号公報
【特許文献2】特許公開2008-239902号公報
【0007】

【非特許文献1】「ラングミュア(Langmuir)」21,2113-2116,2005.
【非特許文献2】「アドバンスド・マテリアルズ(Advanced Materials)」19,1489-1493,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したマイクロ流体デバイスによる液滴形成を利用した従来手法では、単分散なポリマー微粒子を合成可能ではあるものの、形成可能な液滴径および粒子径は流路構造の大きさに依存してしまう、という問題点があった。つまり、流路サイズよりもはるかに小さいサイズの微粒子を作製することは通常非常に困難であった。特に、直径1μm~10μmの粒子は、クロマトグラフィーのためのカラム充填材や液晶のスペーサーとして非常に有用であるが、その程度の大きさの液滴を作製するためには、数μm~10μm程度の幅・深さを有する流路構造を使用せねばならない。そのような流路構造を作製することはコスト的にも不利であり、また、径が細い流路構造では圧力損失が高くなるため、導入流速を上げることは困難である。そのため、マイクロ流路を用いた直径数μmの粒子合成は、現時点では実用的なプロセスであるとは言い難い。
【0009】
また、上記した手法では、モノマー液滴からポリマー微粒子を得る際に重合操作が必要となる。そのため、重合速度が遅いモノマーあるいは開始剤の系では、液滴中のモノマーの溶解・蒸発、あるいは液滴の合一等の問題が起きる。つまり、たとえ大きさの揃った液滴が生成されたとしても、得られる粒子径にはばらつきが生じやすい、という問題点があった。
【0010】
さらに、上記した手法では、球形の微粒子のみならず、非球形な微粒子を作製することも可能ではあるが、モノマー溶液と水溶液のどちらとも混ざらない第3の液体を導入する、あるいは、液滴径よりも小さな流路構造を用いねばならず、非常に複雑な操作が必要となり、操作性が悪い、といった問題点があった。
【0011】
本発明は、従来技術の有する上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来数μm程度の粒子径を持つ単分散な微粒子を作製するために必要であった、数μm~10μm程度の流路構造を必要とすることなく、簡便な操作のみで、再現性良く直径数μm以下の単分散な微粒子を作製するための新規手法を提供するものである。
【0012】
また本発明は、微粒子を合成する際に重合操作を必要としない手法を提供するものである。
【0013】
さらに本発明は、複雑な操作や、粒子径より小さな流路構造を必要とせずに、球形あるいは非球形の粒子を簡便かつ正確に合成することを可能とする新手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の一観点に係る発明は、水に溶解する水溶性有機溶媒に対し、水に不溶なポリマーを溶解することで、ポリマー溶液を調製し、前記ポリマー溶液を、水溶液中に分散することによって液滴を形成し、前記液滴中に含まれる前記水溶性有機溶媒が、前記水溶液中に溶解することによって、ポリマー粒子が形成される、球形あるいは非球形ポリマー粒子の合成方法である。これにより、重合操作を必要とせずに、形成された液滴よりも遥かに小さいサイズのポリマー微粒子の作製が可能となる。
【0015】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、形成された前記ポリマー粒子を含む混合溶液に対し、大量の希釈水溶液を加えた後に、前記水溶液、前記希釈水溶液、および前記水溶性有機溶媒を除去することが好ましい。このようにすることで、ポリマー粒子中に含まれる水溶性有機溶媒を完全に除去することが可能となる。
【0016】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマー溶液および前記水溶液を、それぞれマイクロ流路に連続的に導入することで、マイクロ流路内において前記液滴を形成することが好ましい。このようにすることで、単分散な液滴を簡便かつ再現性良く形成することが可能となる。
【0017】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、多孔質膜を利用した膜乳化によって、前記液滴を形成しても良い。このようにすることで、単分散な液滴を比較的大量かつ簡便に調製することが可能となる。
【0018】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶液および/あるいは前記ポリマー溶液に、あらかじめ界面活性剤および/あるいは分散安定剤が溶解されていることが好ましい。このようにすることで、形成された液滴が安定化するため、液滴同士の合一を防ぐことが可能となり、より単分散なポリマー粒子の作製が可能となる。
【0019】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、室温において、純水に対し1から100重量%の範囲で溶解する有機溶媒であることが好ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、重合を伴わない球形あるいは非球形のポリマー粒子の調製が可能となる。
【0020】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、溶解パラメーターが15から25 (MPa)1/2の範囲にある有機溶媒であることが好ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、重合を伴わない球形あるいは非球形のポリマー粒子の調製が可能となる。
【0021】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸のうちのいずれかのカルボン酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールのうちのいずれかのアルコールによって形成されたエステルである、あるいは、前記エステルの複数種類の混合物であることが好ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、重合を伴わない球形あるいは非球形のポリマー粒子の調製が可能となる。
【0022】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマー溶液中に含まれるポリマー濃度は、10重量%以下であることが好ましい。このようにすることで、形成された液滴と比べて、遥かに小さいサイズのポリマー粒子の合成が可能となる。
【0023】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマーとは、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン-co-ジビニルベンゼン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、あるいはこれらの任意の共重合体、さらにあるいはこれらの任意の混合物、のいずれかであることが好ましい。このようにすることで、産業上有用な、汎用性ポリマーを材料として用いたポリマー粒子の合成が可能となる。
【0024】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマー粒子の形状は、球形、半球形、あるいは球に対しクレーター状の欠落を有する形状のいずれかであることが好ましい。このようにすることで、産業上有用な球形のポリマー粒子の作製が可能となるほか、マイクロ流路を用いて初めて作製可能となる、非球形の形状を有する粒子の作製も可能となる。
【0025】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマー粒子の平均直径は、10ミクロン以下であることが好ましい。このようにすることで、産業上重要であるが、従来のマイクロ流路を用いた手法では困難であった、10ミクロン以下のポリマー微粒子を簡便に合成することが可能となる。
【0026】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記ポリマー粒子は、その直径の変動係数が10%以下であることが好ましい。このようにすることで、単分散なポリマー微粒子の作製が可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、以上に述べられたように構成されるため、従来のマイクロ流体デバイスを用いたポリマー微粒子の合成において必要であった数μm程度のサイズの流路構造および、煩雑な重合操作を必要とせずに、球形または非球形ポリマー粒子を合成する新規手法を提供することが可能となる。
【0028】
また本発明は、以上に述べられたように構成されるため、従来のバルクスケールのポリマー粒子合成法である懸濁重合や乳化重合、あるいは、従来のマイクロ流体デバイスを用いた手法では困難であった、直径数μmかつ単分散なポリマー微粒子を、簡便かつ大量に調製する新規手法の提供が可能となり、産業上の有用性が高い。
【0029】
さらに本発明は、以上に述べられたように構成されるため、非球形粒子の合成を可能とする従来のマイクロ流路構造を用いた手法において必要であった、煩雑かつ複雑なプロセスが不要になる、という優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による球形または非球形ポリマー微粒子の合成方法の最適な形態に係る、最も基本的な原理図例である
【図2】本発明による球形または非球形ポリマー粒子の合成に係る、マイクロ流路内においてポリマー溶液の液滴を形成し、単分散なポリマー粒子を合成するプロセスの概略図例である。
【図3】本発明による球形または非球形ポリマー粒子の合成に係る、液滴を形成するために膜乳化法を用いる場合の、液滴形成の概略図例である。
【図4】球形または非球形ポリマー粒子の合成をするために用いた、マイクロ流路構造を有するマイクロ流体デバイスの概略図であり、図4(a)は、平面的に構成された流路構造および流路構造を含むデバイスを上面から観察した様子を示した概略図であるとともに、図4(b)乃至(d)におけるB矢視図である。図4(b)乃至(d)はそれぞれ、図4(a)におけるA0-A1線、A2-A3線、A4-A5線における、マイクロ流路構造を含むデバイスの断面図を表している。また図4(e)は、図4(a)における部分Cの拡大図である。
【図5】ポリマーとして分子量20万のポリスチレンを1重量%含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から50μL/minでそれぞれ連続的に導入した際の、マイクロ流路内の流れの様子および回収したポリマー微粒子の顕微鏡写真が示されており、(a)は合流点付近におけるオリフィス部において形成された液滴の顕微鏡写真であり、(b)は出口近傍における液滴の様子を示した顕微鏡写真であり、(c)は合成され回収されたポリスチレン粒子の光学顕微鏡写真であり、(d)は回収されたポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真である。
【図6】濃度の異なるポリマーを用いて合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真である。これらは、ポリマーとして分子量20万のポリスチレンを含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から25μL/minでそれぞれ導入し、合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真であり、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、酢酸エチル中のポリマー濃度が、1、2、3、4、5重量%の場合に得られたポリスチレン粒子である。
【図7】分子量の異なるポリマーを用いて合成したポリスチレン粒子の顕微鏡写真である。これらは、1重量%のポリスチレンを含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から25μL/minでそれぞれ導入し、合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、ポリスチレン分子の平均分子量が、1万3千、20万、98万の場合に得られた微粒子である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る球形または非球形ポリマー粒子の合成方法の最良の形態を詳細に説明するものとする。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものでは無い。
【0032】
図1には、球形または非球形ポリマー微粒子の合成方法の最適な形態に係る、最も基本的な原理図例が示されている。
【0033】
図1において、水溶液を保持した容器中に、ポリマー分子を溶解させた水溶性有機溶媒を分散させることで、ポリマー溶液の液滴を形成させる。液滴に含まれる水溶性有機溶媒が水溶液中に徐々に溶解していく一方で、ポリマー分子は水溶液中にほとんど溶解しないため、不溶性成分であるポリマーが析出し、ポリマー微粒子が形成される。
【0034】
さらに、必要に応じて、合成されたポリマー粒子を含む混合溶液に対し大量の希釈水溶液を加え、洗浄することで、水溶性有機溶媒を完全に除去することが可能であり、ポリマー微粒子を回収することができる。
【0035】
なお、形成されるポリマー微粒子の大きさは、最初に形成された液滴の大きさ及び、液滴中のポリマー分子の濃度を調整することによって、任意に調整することが可能である。つまりたとえば、水溶性有機溶媒中のポリマー分子の濃度が十分に低い場合は、初期液滴径に対してはるかに小さなポリマー微粒子を形成することが可能である。
【0036】
水溶性有機溶媒としては、純水に対し室温で1~100%溶解するものであればよい。ただし、ポリマーを溶解した水溶性有機溶媒が、水との間に、少なくとも瞬間的に液滴を形成する条件である必要がある。代表的な例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メチル等のエステルを使用することができる。
【0037】
ポリマー分子としては、水溶性有機溶媒に可溶であって、さらに水に対して溶解度が低いものであれば、任意のポリマーを使用することが可能である。代表的な例としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン-co-ジビニルベンゼン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等を使用することが可能である。なお、これらの任意の混合物を溶解させた水溶性有機溶媒を用いることで、それらの混合物からなるポリマー微粒子を合成することが可能である。
【0038】
また、必要に応じて、水溶液中あるいはポリマー溶液中に分散安定剤あるいは界面活性剤を加えることにより、ポリマー微粒子が形成される過程において、液滴の合一を防ぐことが可能となる。分散安定剤および界面活性剤としては、通常のモノマー重合による微粒子合成において一般的に用いられる分子を使用することが可能であり、代表的な例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
なお、得られる粒子の形状は、ポリマー・水溶性有機溶媒・分散安定剤・界面活性剤の種類と濃度、液滴のサイズ、ポリマーの分子量、温度、装置のスケール、撹拌状態等によって影響を受ける。つまりこれらの要因を調整することによって、球形あるいは非球形の粒子を作り分けることが可能である。
【0040】
なお、水溶液中にポリマー溶液を分散させ液滴を形成するためには、滴下、噴霧、単純撹拌、ノズルからの押出し、などの操作の少なくともいずれかを行うことが必要となる。しかしながら、単分散な液滴を形成し、単分散なポリマー微粒子を合成するためには、以下に説明するように、マイクロ流路による液滴形成、あるいは、多孔質膜を利用した膜乳化技術を利用することが好ましい。
【0041】
図2には、マイクロ流路内においてポリマー溶液の液滴を形成し、単分散なポリマー粒子を合成するプロセスの概略図が示されている。
【0042】
図2におけるマイクロ流路構造は、ポリマーを溶解させた水溶性有機溶媒を導入するための入口1、水溶液を導入するための入口2および3、部分的に細くなっている合流部付近のオリフィス部、その下流の流路部、および出口から構成されている。流路深さは均一であり、また、流路は平面的に形成されており、その断面形状は矩形である。これらの溶液を連続的に一定の流速で導入することにより、オリフィス部において、一定の大きさのポリマー液滴が形成される。
【0043】
なお流路の形状としては、図2に示す軸対称な流路構造ではなく、合流部がT字型あるいはY字型であるもの、複数の分岐部および合流部を備えることで並列的に液滴を形成することの可能なもの、平面的ではなく3次元的に形成され、深さが部分的に異なるもの、垂直方向に貫通孔を有するものなど、水溶液とポリマー溶液が合流する構造であって、単分散なポリマー溶液の液滴を形成することのできる構造であれば、どのような流路構造を用いても構わない。また、キャピラリー管等の管を多重にすることによって形成した多重管を用いても構わない。
【0044】
そして、オリフィス部において形成された液滴は、マイクロ流路下流部を流れるうちに、徐々に水溶性有機溶媒が水溶液中に溶解することによって、縮小していく。そして、水溶液に不要なポリマーが析出することによって、粒子が形成される。
【0045】
さらに、形成された粒子を含む混合溶液を、必要に応じて流路外部に設置した希釈水溶液中に導入することで、水溶性有機溶媒をさらに希釈し、除去することが可能である。なお、混合溶液を希釈水溶液に導入するためには、流路出口に管あるいはチューブを接続し、一端を希釈水溶液中に浸しても良く、あるいは重力によって滴下しても良く、さらには、流路出口付近に設けた溶液だめに一旦粒子を含む混合溶液を溜めた後に、希釈水溶液中に導入してもよい。
【0046】
図3には、液滴を形成するために膜乳化法を用いる場合の、液滴形成の概略図例が示されている。
【0047】
図3に示すように、多孔質膜を介してポリマー溶液を水溶液中に導入することによって、単分散な液滴を形成することができ、単分散なポリマー微粒子を調製することが可能になる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明に係る球形または非球形ポリマー粒子合成法を実際に行うことで、本発明の効果を確認した。以下説明する。
【0049】
図4は、球形または非球形ポリマー粒子の合成をするために用いた、マイクロ流路構造を有するマイクロ流体デバイスの概略図であり、図4(a)は、平面的に構成された流路構造および流路構造を含むデバイスを上面から観察した様子を示した概略図であるとともに、図4(b)乃至(d)におけるB矢視図である。図4(b)乃至(d)はそれぞれ、図4(a)におけるA0-A1線、A2-A3線、A4-A5線における、マイクロ流路構造を含むデバイスの断面図を表している。また図4(e)は、図4(a)における部分Cの拡大図である。
【0050】
図4に示した、本実施例に係る球形または非球形ポリマー粒子合成のためのマイクロ流路構造を含むデバイスは、微細な溝構造を有する平板状の基板と、溝構造を有さない平板状の基板を上下にボンディングすることにより形成されている。なお、基板の素材は、たとえば上側はPDMS(ポリジメチルシロキサン)、下側はガラスを用いることが可能であるが、用いる水溶性有機溶媒に溶解しない素材であれば、ガラス、金属、ポリマー、セラミクス、あるいはこれらの任意の組み合わせであってもよい。ただし、安定なポリマー液滴を形成するために、表面が少なくとも部分的に親水的な素材である、あるいは、親水化処理が施された素材であることが望ましい。
【0051】
上部基板の下面に形成された流路構造の幅は50~200μmの範囲にあり、深さは50μm程度である。この流路幅および深さは、安定な送液を容易に可能とし、さらに、安定な層流の形成を容易に可能とするものであればどのような値であっても構わないが、実用的な観点上、1μm以上5mm以下であることが好ましく、10μm以上1mm以下であることがより好ましい。なお、これらの値が小さくなればなるほど、形成される液滴および微粒子のサイズは小さくなる傾向がある一方で、送液時に必要となる圧力は高くなる傾向がある。
【0052】
図4に示したマイクロ流体デバイスは、それぞれ直径2mmの開口部を有する2つの入口1および2、直径1mmの開口部を有する出口、幅150μmの入口流路、幅50μmのオリフィス部、幅200μmのオリフィス部下流の流路部分から構成されている。入口2に接続される入口流路は、途中における分岐点において分岐しており、入口から導入された流量は50%ずつがそれぞれの分岐に分配され、再合流点であるオリフィス部手前において合流する設計となっている。このようにすることで、流路構造の入口の数を減らし、流路構造をよりコンパクトな構造にすることが可能となるとともに、操作性の向上が可能となる。
【0053】
図4に示したマイクロ流路構造において、導入口から溶液を連続的に供給するために、入口1と2における貫通孔に対して、それぞれ外径2mm、内径1mmのチューブが接続されている。また、形成されたポリマー液滴を連続的に回収するために、出口には外径1mm、内径0.5mmのチューブが接続されており、そのチューブの先端は、希釈水溶液の入った容器に浸してある。
【0054】
以上の構成を有する、球形または非球形ポリマー粒子の合成するための流路構造を有するデバイスを用いて、球形または非球形ポリマー粒子を合成する方法を説明する。
【0055】
ポリマーとしては、ポリスチレン(分子量1万3000、20万、あるいは98万)あるいはポリメタクリル酸メチルを用い、水溶性有機溶媒としては酢酸エチル(純度99.9%以上)あるいは酢酸メチル(純度97%)を用いた。水溶性有機溶媒に対するポリマーの濃度は、0.1~10%の範囲で変化させた。
【0056】
なお、合成する対象となるポリマー微粒子の素材としては、上記のもの以外にも、ポリ塩化ビニルやポリウレタンといった、水溶性有機溶媒に可溶であり、水に不溶なポリマーであれば、本発明の適用が可能である。
【0057】
また、水溶性有機溶媒としては、上記のもの以外にも、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、ギ酸エチル、アセトンなどを用いることができる。これらのうち、上記の酢酸エチル及び酢酸メチル、あるいは酢酸プロピル等のエステル系溶媒は、ポリマーを含まない場合であっても、流路内で一時的に、水溶液に分散した液滴を形成可能であるため、ポリマー濃度が低い条件で粒子合成を行う際に適している。
【0058】
また、水溶液および希釈水溶液としては、分散安定剤としてポリビニルアルコールを2.5重量%含む精製水を用いた。分散安定剤の種類および濃度は、流路のスケール、ポリマー溶液の濃度、水溶性有機溶媒の種類・物性などに応じて、あらかじめ最適な値に設定しておくことが望ましい。
【0059】
水溶性有機溶媒は入口1から、水溶液は入口2から、それぞれシリンジポンプを用いて導入した。これらの溶液の導入流量は、例えばそれぞれ、5μL/min、50μL/minであったが、これらの値に関しては、ポリマー溶液および水溶液が合流点(オリフィス部)において合流し、単分散な液滴が安定して形成される条件であれば良いため、流路スケールおよび作製目的となる球形または非球形ポリマー粒子の大きさに応じて、適切な値に設定することが可能である。
【0060】
図5には、ポリマーとして分子量20万のポリスチレンを1重量%含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から50μL/minでそれぞれ連続的に導入した際の、マイクロ流路内の流れの様子および回収したポリマー微粒子の顕微鏡写真が示されており、(a)は合流点付近におけるオリフィス部において形成された液滴の顕微鏡写真であり、(b)は出口近傍における液滴の様子を示した顕微鏡写真であり、(c)は合成され回収されたポリスチレン粒子の光学顕微鏡写真であり、(d)は回収されたポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真である。
【0061】
図5に示すように、オリフィス部において、単分散な液滴が形成され、出口付近ではその大きさが縮小している様子が観察された。また、単分散な微粒子が再現性良く合成されることも確認された。なお、オリフィスにおいて形成された液滴の平均直径は27.9μmであったが、得られた微粒子の平均直径は7.35μm(CV値3.3%)であった。また、その形状は一様にクレーター状の欠落を有しており、得られた粒子の70%以上は、大きな欠落を1か所有していた。
【0062】
図6には、濃度の異なるポリマーを用いて合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真が示されている。これらは、ポリマーとして分子量20万のポリスチレンを含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から25μL/minでそれぞれ導入し、合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真であり、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、酢酸エチル中のポリマー濃度が、1、2、3、4、5重量%の場合に得られたポリスチレン粒子である。
【0063】
図6に示すように、本発明を用いて作製した粒子の形状は水溶性有機溶媒中のポリマー濃度に大きく影響を受け、濃度が高くなるにしたがって半球形から球形に変化していくことが確認された。また得られた粒子径は、これらの場合は直径10μm前後であったが、流量を調整し、また深さ・幅の異なる流路を用いることで、最小で1μm程度の単分散な粒子を作製することも可能であった。
【0064】
図7には、分子量の異なるポリマーを用いて合成したポリスチレン粒子の顕微鏡写真が示されている。これらは、1重量%のポリスチレンを含む酢酸エチルを入口1から5μL/minで、ポリビニルアルコール水溶液を入口2から25μL/minでそれぞれ導入し、合成したポリスチレン粒子の電子顕微鏡写真であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、ポリスチレン分子の平均分子量が、1万3千、20万、98万の場合に得られた微粒子である。
【0065】
図7に示すように、本発明を用いて作製した粒子の形状は、用いるポリマーの分子量に大きく影響を受け、濃度が高くなるにしたがって、球形あるいはクレーター状の欠落が小さくなり、非球形から球形に変化していくことが確認された。
【0066】
また同様に、ポリメタクリル酸メチルを用いた平均直径5μm程度の微粒子の合成も可能であったほか、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルの混合物からなる平均直径5μm程度のポリマー微粒子の合成も可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によるポリマー粒子の合成手法は、従来の、モノマーを重合しながらポリマー微粒子を作製する重合プロセスとは全く異なり、重合操作を必要とせずにポリマー微粒子の作製を可能とするため、任意の分子量からなるポリマー粒子を簡便に合成することが可能となる。そのため、ポリマー微粒子合成プロセスにおける、簡便かつ革新的な新手法として広く利用可能であると考えられる。
【0068】
また本手法では、ポリマー溶液に含まれるポリマー濃度を調節することによって、液滴の縮小の度合を制御することができ、初期液滴サイズよりもはるかに小さいポリマー微粒子を得ることができる。たとえば従来のマイクロ流体デバイスを用いたポリマー微粒子合成法では、単分散な微粒子の合成が可能であったものの、使用する流路構造の大きさによって形成可能な液滴のサイズが制限されてしまうため、合成可能なポリマー微粒子の大きさも限られてしまい、流路サイズよりもはるかに小さいポリマー微粒子の合成は困難であった。しかし、本発明を利用することによって、比較的大きな、最小径が50~500μm程度のマイクロ流路を用いた場合でも、直径数μm程度のポリマー微粒子を簡便に合成可能であり、さらに、その大きさを任意に調節することが可能である。その程度の大きさの単分散な微粒子は、精密機械や分析化学等の産業分野において重要であるにも関わらず、簡便に調製することは困難であったため、本発明は非常に有用性が高いものと考えられる。
【0069】
また、本発明を用いることで、従来のマイクロ流路技術を利用して作製された非球形なポリマー微粒子を、より簡便かつ効率的に作製することが可能となる。従来の手法において必要であった、油相と水相のどちらにも溶解しない第3の液体の導入や、液滴サイズよりもはるかに小さく細い流路構造の使用などを全く必要としない、新しい非球形粒子の合成手法として、幅広く利用可能であると考えられる。
【0070】
さらに本発明では、複数種類のポリマーをブレンドすることで、それぞれのポリマーの性質を兼ね備えた微粒子を調製することも可能である。通常、複数種のモノマーからなる共重合ポリマーは、そのモノマー構成比やブロックの配列などを制御することが困難であり、また、反応性の極端に異なるモノマーの共重合体を得るには、グラフト共重合などの特殊な手法を用いる必要があった。さらに、それらの共重合体によって構成されるポリマー粒子を合成する場合、粒子径、各モノマーの組成比、分子量をそれぞれ独立に制御したポリマー粒子の合成は、ほぼ不可能に近いといえる。それらに対し、本発明を利用すると、複数のポリマーを任意の割合でブレンドした微粒子を容易に調製可能であるため、高機能微粒子を調製する新手法として、本発明は広く利用可能であると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6