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明細書 :新規なCa2+シグナル伝達阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5590286号 (P5590286)
公開番号 特開2011-057556 (P2011-057556A)
登録日 平成26年8月8日(2014.8.8)
発行日 平成26年9月17日(2014.9.17)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 新規なCa2+シグナル伝達阻害剤
国際特許分類 A61K  35/10        (2006.01)
A61K  31/045       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61P   9/12        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
C07C  29/86        (2006.01)
C07C  33/34        (2006.01)
FI A61K 35/10
A61K 31/045
A61P 43/00 111
A61P 37/08
A61P 37/06
A61P 35/00
A61P 25/28
A61P 3/10
A61P 9/12
A61P 9/10
C07C 29/86 CSP
C07C 33/34 B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 18
出願番号 特願2009-205207 (P2009-205207)
出願日 平成21年9月4日(2009.9.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成21年3月5日 社団法人日本農芸化学会が発行する「日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集」に発表
審査請求日 平成24年7月5日(2012.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
【識別番号】502391079
【氏名又は名称】久慈琥珀株式会社
発明者または考案者 【氏名】木村 賢一
【氏名】越野 広雪
【氏名】宮川 都吉
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】上條 のぶよ
参考文献・文献 特開2006-151926(JP,A)
特開2006-083077(JP,A)
国際公開第02/087559(WO,A1)
国際公開第2007/040005(WO,A1)
国際公開第2007/040006(WO,A1)
特開昭62-063518(JP,A)
国際公開第92/018119(WO,A1)
特開2008-266260(JP,A)
特開2007-314522(JP,A)
特開2001-131048(JP,A)
調査した分野 A61K 35/00-76
A61K 31/00-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の構造式(1)で表される化合物は含むが、デヒドロアビエチン酸およびピマール酸は含まない琥珀の抽出物を有効成分とすることを特徴とするCa2+シグナル伝達阻害剤
【化1】
JP0005590286B2_000011t.gif

【請求項2】
琥珀からの有機溶媒を用いた抽出操作によって下記の構造式(1)で表される化合物を単離取得することを特徴とするCa2+シグナル伝達阻害剤の調製方法。
【化2】
JP0005590286B2_000012t.gif

【請求項3】
下記の構造式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするCa2+シグナル伝達阻害剤。
【化3】
JP0005590286B2_000013t.gif

【請求項4】
下記の構造式(1)で表される化合物。
【化4】
JP0005590286B2_000014t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰免疫反応をはじめとする種々の疾患の予防や改善や治療に有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の反応は、Ca2+によって活性化されたカルシニューリン(セリン・スレオニンフォスファターゼ2B)により、転写因子NF-AT(Nuclear Factor of Activated T cell)が脱リン酸化されて核内に移行し、IL-2に代表されるサイトカインの転写を活性化し、産生されたサイトカインにより免疫細胞が増殖して引き起こされることが明らかにされている。従って、亢進したCa2+シグナル伝達を抑制する物質は、カルシニューリンの活性化を抑制し、過剰免疫反応やアレルギー症状などに対する予防薬や治療薬として有用である。
また、Ca2+の細胞内への流入の調節機能の一つに、電位依存型L型Ca2+チャネルがある。このチャンネルに結合してCa2+の細胞内への流入を抑制する物質は、心筋や血管などの平滑筋細胞でCa2+と拮抗し、虚血性心疾患、高血圧、末梢血管障害、脳血管障害、心不整脈などに対する予防薬や治療薬として有用である。
さらに、Ca2+シグナル伝達系は、MAPキナーゼ(Mitogen Activated Protein kinase)であるMpk1を活性化することから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、その活性化調節が異常となった各種の癌に対する予防薬や治療薬として有用である。また、Ca2+シグナル伝達系は、グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3(GSK-3:Glycogen Synthase Kinase-3)と関連していることから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、糖尿病、認知症などに対する予防薬や治療薬として有用である。
このように、生命の根幹を成すシグナル伝達系の一つであるCa2+シグナル伝達系を抑制する物質は、Ca2+シグナル伝達の亢進により引き起こされる様々な疾病(過剰免疫反応、アレルギー、癌、認知症、2型糖尿病、高血圧、狭心症など)を、そのシグナルを阻害することで、予防や改善や治療できることから注目されている。Ca2+シグナル伝達阻害剤の、免疫抑制剤や抗アレルギー剤への適用例としては、サイクロスポリンA、FK506がある。また、Ca2+シグナル伝達阻害剤の、高血圧や狭心症に対する予防薬や治療薬への適用例としては、ニフェジピン、バラパミル、ジルチアゼムがある。しかしながら、これらは活性の点においては満足できるものの、副作用の点において改善の余地があり、副作用が少ないまたは皆無のCa2+シグナル伝達阻害剤の天然資源からの探索はたいへん意義深い活動である。
【0003】
本発明者らは、以上の観点からの研究を精力的に行っており、これまでに、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有する物質を、モクレン科植物、セリ科植物、ウコギ科植物、マツ科植物などから見出すとともに(例えば特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2)、微生物からも見出している(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2006-225361号公報
【特許文献2】特開2006-225362号公報
【特許文献3】特開2007-197354号公報
【0005】

【非特許文献1】日本農芸化学会2004年度大会講演要旨集p123「2B05p24 ホオノキに含まれるCa2+シグナル伝達阻害物質honokiol,magnolol」
【非特許文献2】平成18年度日本農芸化学会北海道支部・東北支部合同支部会講演要旨集p52「C9 アカマツに含まれるCa2+シグナル伝達阻害物質の単離精製と生物活性」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、天然には更なる新規なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する素材や物質が存在することが考えられる。
そこで本発明は、新規なCa2+シグナル伝達阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、琥珀の抽出物にCa2+シグナル伝達阻害作用を有することを見出した。
【0008】
上記の知見に基づいてなされた本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、請求項1記載の通り、下記の構造式(1)で表される化合物は含むが、デヒドロアビエチン酸およびピマール酸は含まない琥珀の抽出物を有効成分とすることを特徴とする
【化1】
JP0005590286B2_000002t.gif
た、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤の調製方法は、請求項記載の通り、琥珀からの有機溶媒を用いた抽出操作によって上記の構造式(1)で表される化合物を単離取得することを特徴とする
た、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、請求項記載の通り、上記の構造式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする
た、本発明の化合物は、請求項記載の通り、上記の構造式(1)で表されることを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、過剰免疫反応、アレルギー、癌、認知症、2型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】遺伝子破壊酵母を用いたCa2+シグナル伝達阻害評価系の原理図である。
【図2】遺伝子破壊酵母におけるCa2+シグナル伝達経路と期待できる活性を示す図である。
【図3】実施例2におけるロシア産の琥珀のメタノール抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分についてのHPLC分析チャートである。
【図4】実施例3における久慈産の琥珀のメタノール抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分についてのHPLC分析チャートである。
【図5】実施例3における久慈産の琥珀のメタノール抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分のUVスペクトルのチャートである。
【図6】同、1H-NMRスペクトルのチャートである。
【図7】同、13C-NMRスペクトルのチャートである。
【図8】同、EI-MSスペクトルのチャートである。
【図9】同、1H-NMRスペクトルの帰属結果である。
【図10】同、13C-NMRスペクトルの帰属結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、琥珀の抽出物を有効成分とすることを特徴とするものである。本発明において琥珀とは、植物の樹脂が化石化したものを意味する。その産地としては、ロシア、ポーランド、ドミニカなどの他、日本国内では岩手県久慈市近辺がよく知られている。琥珀の抽出物が有する生理活性作用については、例えば特開2007-314522号公報において皮膚のターンオーバー促進作用が、特開2008-266260号公報においてヒアルロン酸産生促進作用が報告されている。しかしながら、琥珀の抽出物がCa2+シグナル伝達阻害作用を有することの報告は、本発明者らが知る限りにおいてこれまでに存在しない。

【0012】
琥珀の抽出物は、一般的な天然有機成分の抽出方法に従って、例えば粉末化した琥珀に有機溶媒を加えて抽出操作を行った後、得られた濾液から有機溶媒を除去することで得ることができる。用いることができる有機溶媒としては、アルコール(メタノールやエタノールやイソプロパノールなど)、ベンゼン、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタンなどが挙げられる。抽出操作は、単一の有機溶媒を用いて行ってもよいし、複数の有機溶媒を混合して用いて行ってもよい。また、抽出操作を、例えばアルコールで抽出した後、さらに酢酸エチルで抽出するといったように多段階で行い、抽出物の精製度を高めてもよい。さらに、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結乾燥操作などの各種操作を適宜組み合わせてもよい。

【0013】
琥珀の抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分の全容は、現時点では必ずしも明確ではない。しかしながら、後述する実施例から明らかなように、本発明者らは、ロシア産の琥珀の抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分が、松に含まれるジテルペノイド化合物であって、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有することが本発明者らのこれまでの研究成果として非特許文献2によって既に知られている下記の構造式で表されるデヒドロアビエチン酸(Dehydroabietic acid)およびピマール酸(Pimaric acid)であることを特定している一方で、久慈産の琥珀の抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分が、下記の構造式(1)で表される新規なラブダン型様化合物であることを特定している。このように、産地が異なった琥珀の抽出物が同じCa2+シグナル伝達阻害作用を有していても、その有効成分が産地によって異なることは、非常に興味深い。
【化4】
JP0005590286B2_000003t.gif
【化5】
JP0005590286B2_000004t.gif

【0014】
上記の知見に基づいて、本発明は、琥珀からの抽出操作により、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有するデヒドロアビエチン酸、ピマール酸、下記の構造式(1)で表される化合物を単離取得することによるCa2+シグナル伝達阻害剤の調製方法を提供するとともに、下記の構造式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするCa2+シグナル伝達阻害剤、下記の構造式(1)で表される化合物を提供する。ここで薬学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどとの無機塩、低級アルキルアミン、低級アルコールアミンなどとの有機塩、リジン、アルギニン、オルニチンなどとの塩基性アミノ酸塩の他、アンモニウム塩などの公知のものが挙げられる。
【化6】
JP0005590286B2_000005t.gif

【0015】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤を、医薬品としてヒトや動物に対して投与する場合の投与方法は、経口的な投与方法であってもよいし、非経口的な投与方法であってもよい。非経口的な投与方法としては、例えば、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与などが挙げられ、この場合、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、これらの投与方法に適した形態に自体公知の方法で製剤化されて投与される。製剤形態としては、例えば、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収テープ、点眼剤、点鼻剤などが挙げられる。注射剤を調製する場合、適宜、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して注射剤とする。経口投与製剤としては、例えば、錠剤(糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠を含む)、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、顆粒剤(コーティングしたものを含む)、丸剤、トローチ剤、液剤、これらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤などが挙げられる。液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤(ドライシロップを含む)、エリキシル剤などを含む。例えば、錠剤は、公知の製剤学的製造法に準じ、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などとともに調製することができる。この場合、担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを用いることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボシキメチルセルロースなどを用いることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどを用いることができる。着色剤としては、医薬品に添加することが許容されているものを用いることができる。錠剤や顆粒剤は、必要に応じ、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜してもよいし、2層以上の層で被膜してもよい。さらにエチルセルロースやゼラチンなどを用いてカプセル化してもよい。

【0016】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤が有効に作用する疾患としては、過剰免疫反応、アレルギー、癌、認知症、2型糖尿病、高血圧、狭心症などが挙げられる。本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤を患者に投与する場合、その投与量は、患者の年齢や体重、症状の程度、健康状態などの条件によって適宜設定すればよいが、標準的には、成人1日当たり約10mg~約10gを、経口的または非経口的に1日1回~数回にて投与すればよい。点眼剤の場合、有効成分の濃度が0.003~5(w/v)%の点眼剤を、1日数回、1回数滴投与すればよい。

【0017】
また、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、Ca2+シグナル伝達阻害作用を発揮するに足る有効量を添加して食してもよい(体重1kg当たり0.1mg~100mgの摂取が標準的である)。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0019】
この実施例において、Ca2+シグナル伝達阻害作用の評価は、遺伝子zds1Δ破壊酵母(Saccharomyces cerevisiae)がCa2+超感受性を示し、高濃度Ca2+を含む培地では増殖がG2期停止する表現型(Nature, 392, 303-306, 1998)を改良した系を用いて行った。
基本となる系の有用性は、微生物培養液や合成化合物ライブラリーを用いて既に実証済みであり、既知化合物であるラディシコールのCa2+シグナル伝達阻害作用がこの系により発見されている(生物工学, 77, 406-408, 1999)。この系は、高濃度のCa2+を含む培地では、Ca2+シグナルが超活性化され酵母は生育しないが、培地中にその経路を阻害する物質が含まれている場合には、酵母を生育させる(酵母の生育円が生じる)というポジティブスクリーニングである(図1参照)。そのため、毒性が無く、特異性の高い化合物の発見が可能である(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(9), 1942-1946, 2000)。実際に、この系を用いて、医薬品として実用化されている免疫抑制剤のFK506やサイクロスポリンA、Ca2+拮抗剤のニフェジピンなどのCa2+シグナル伝達阻害作用が確認されている。さらに、図2に示した通り、この系によれば、Ca2+拮抗剤やカルシニューリン阻害剤以外にも、論理的にはMpk1阻害剤、GSK-3阻害剤も選択が可能であり、実際に、GSK-3β阻害剤は、酵母の生育円を生じさせることから、本発明者らは、この系を用いて、GSK-3阻害剤の評価を行えることを確認している(J. Antibiotics., 61(8), 496-502, 2008)。
この実施例において用いた改良系は、遺伝子zds1Δerg3Δpdr1/3Δ破壊酵母を用いたものである。この遺伝子4重破壊酵母は、遺伝子1重破壊酵母の薬剤の膜透過性を高めるために、さらに膜成分と薬剤排出ポンプの遺伝子を自体公知の方法で破壊したものであり、薬剤感受性に優れることから、遺伝子1重破壊酵母を用いた基本系よりも精度よくCa2+シグナル伝達阻害作用の評価を行うことができる。
【実施例】
【0020】
参考例1:評価系の詳細
遺伝子4重破壊酵母をYPD培地(イーストエキストラクト10g/l、ペプトン20g/l、デキストロース20g/l、pH6.5)で28℃、一晩前培養し、A590=1.0の培養液を6ml、5MのCaCl2を3ml、YPD寒天培地41mlをよく懸濁し、シャーレに12.5mlずつ分注した。測定用の各種濃度のサンプルをペーパーディスク(8mm、thick)に40μlしみ込ませてシャーレの上に載せ、28℃で3日間培養した後、生育円の大きさを測定し、Ca2+シグナル伝達阻害活性を評価した。
【実施例】
【0021】
実施例1:ロシア産と久慈産のそれぞれの琥珀の抽出物のCa2+シグナル伝達阻害作用
ロシア産と久慈産のそれぞれの琥珀を粉末化し、メタノールを加えて抽出操作を行った後、濾液からメタノールを除去することで、油状のメタノール抽出物を得た。このメタノール抽出物にメタノールを加えて10mg/ml溶液を調製した後、さらにメタノールで希釈して調製した種々の濃度の溶液をペーパーディスクにしみ込ませ、そのCa2+シグナル伝達阻害活性を酵母の生育円の大きさで評価した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0022】
【表1】
JP0005590286B2_000006t.gif
【実施例】
【0023】
表1から明らかなように、ロシア産と久慈産のいずれの琥珀のメタノール抽出物も、強力にCa2+シグナル伝達を阻害する結果、幅広い濃度範囲で生育円を生じさせた。
【実施例】
【0024】
実施例2:ロシア産の琥珀のメタノール抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分の単離精製
ロシア産の琥珀の粉末60.80 gからメタノール抽出物を12.09 g得、得られたメタノール抽出物に水と酢酸エチルを加えて抽出操作を行った後、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することで、油状の酢酸エチル抽出物を5.95 g得た。こうして得られた酢酸エチル抽出物にメタノールを加えて100mg/ml溶液を調製した後、ヘキサン:酢酸エチル=3:1の展開溶媒を用いてシリカゲルTLCで展開し、活性バンドをRf=0.38近辺に得た。活性バンドをかきとり、メタノールで活性成分を溶出した後、いったんメタノールを除去してから再びメタノールを加えて100mg/ml溶液を調製し、その一部をHPLC分析した(カラム:CAPCELL PAK C18 UG120, 5 μm (4.6 φ x 150 mm)、溶媒:80 % MeOH-0.1 % CH3COOH、流速:1 ml/min)。HPLC分析チャートを図3に示す。このチャートにおいて特徴的な約15分の時点で溶出するピークAと約24分の時点で溶出するピークBのそれぞれの単離精製を行い(溶媒:80 % MeOH-0.1 % CH3COOH)、その構造をUV測定、1H-NMR測定、13C-NMR測定、質量分析によって解析した。その結果、前者がデヒドロアビエチン酸、後者がピマール酸であることを同定するとともに、それぞれのCa2+シグナル伝達阻害作用を確認した。
【実施例】
【0025】
実施例3:久慈産の琥珀のメタノール抽出物が有するCa2+シグナル伝達阻害作用の有効成分の単離精製
久慈産の琥珀の粉末64.20 gからメタノール抽出物を7.39 g得、得られたメタノール抽出物に水と酢酸エチルを加えて抽出操作を行った後、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することで、油状の酢酸エチル抽出物を5.24 g得た。こうして得られた酢酸エチル抽出物にメタノールを加えて100mg/ml溶液を調製した後、ヘキサン:酢酸エチル=3:1の展開溶媒を用いてシリカゲルTLCで展開し、活性バンドをRf=0.38近辺に得た。活性バンドをかきとり、メタノールで活性成分を溶出した後、いったんメタノールを除去してから再びメタノールを加えて100mg/ml溶液を調製し、その一部をHPLC分析した(カラム:CAPCELL PAK C18 UG120, 5 μm (4.6 φ x 150 mm)、溶媒:80 % MeOH-0.1 % CH3COOH、流速:1 ml/min)。HPLC分析チャートを図4に示す。このチャートにおいて特徴的な約12分の時点で溶出するピークCの単離精製を行い(溶媒:75 % MeOH-0.1 % CH3COOH)、その構造をUV測定、1H-NMR測定、13C-NMR測定、質量分析によって解析した。UVスペクトルのチャートを図5に(50 μg/ml in MeOH)、1H-NMRスペクトルのチャートを図6に(CDCl3、600MHz)、13C-NMRスペクトルのチャートを図7に(CDCl3、150MHz)、EI-MSスペクトルのチャートを図8にそれぞれ示す。構造解析の結果から、このピークが下記の構造式(1)で表される新規なラブダン型様化合物に由来することを明らかにするとともに(HREI-MSにて分子量260、C18H28O、Calcd. 260.2141, Obsrb. 260.2140、1H-NMRスペクトルと13C-NMRスペクトルの帰属をそれぞれ図9と図10に示す)、そのCa2+シグナル伝達阻害作用を確認した(酵母の生育円の大きさで評価した結果を表2に示す)。
【化7】
JP0005590286B2_000007t.gif
【実施例】
【0026】
【表2】
JP0005590286B2_000008t.gif
【実施例】
【0027】
製剤例1:注射剤
下記の構造式(1)で表される化合物のナトリウム塩1.5gを生理食塩水100mlに溶解し(合計1.5g/100ml)、バイアルに充填した後、加熱殺菌を行って、静注用注射剤を製造した。
【化8】
JP0005590286B2_000009t.gif
【実施例】
【0028】
製剤例2:錠剤
以下の組成で各成分を混合し、打錠して、実施例1で得たロシア産の琥珀のメタノール抽出物を50mg含む500mgの錠剤400個を製造した。
ロシア産の琥珀のメタノール抽出物 ・・・ 20g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 6g
ステアリン酸タルク ・・・ 4g
6%HPC乳糖 ・・・ 170g
(合計200g)
【実施例】
【0029】
製剤例3:顆粒剤
以下の組成で各成分を混合し、圧縮成形し、粉砕し、整粒して、20~50メッシュの5%顆粒剤を製造した。
久慈産の琥珀のメタノール抽出物 ・・・ 10g
乳糖 ・・・ 187g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 3g
(合計200g)
【実施例】
【0030】
製剤例4:カプセル剤
以下の組成で各成分をよく混合し、混合物を1号カプセルに充填して、カプセル剤300個を製造した。
久慈産の琥珀のメタノール抽出物 ・・・ 5g
乳糖 ・・・ 40g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 50g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース ・・・ 3.5g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 1.5g
(合計100g)
【実施例】
【0031】
製剤例5:点眼剤
以下の各成分を滅菌精製水100mlに溶解し、常法により点眼剤を製造した。
下記の構造式(1)で表される化合物 ・・・ 0.1g
塩化ナトリウム ・・・ 0.9g
塩化ベンザルコニウム ・・・ 微量
1N水酸化ナトリウム ・・・ 適量
1N塩酸 ・・・ 適量
【化9】
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【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、過剰免疫反応、アレルギー、癌、認知症、2型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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