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明細書 :広範な病害抵抗性を付与するイネ遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5591703号 (P5591703)
登録日 平成26年8月8日(2014.8.8)
発行日 平成26年9月17日(2014.9.17)
発明の名称または考案の名称 広範な病害抵抗性を付与するイネ遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01G  16/00        (2006.01)
A01G   7/06        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01H 5/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01G 16/00 Z
A01G 7/06 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願2010-526583 (P2010-526583)
出願日 平成21年3月4日(2009.3.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会講演要旨集(平成20年3月5日)社団法人日本農芸化学会発行第65頁に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、平成20年3月26日名城大学において開催された社団法人日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会で発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、第49回日本植物生理学会年会要旨集(平成20年3月15日)第49回日本植物生理学会年会委員会発行第335頁に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、平成20年3月20日札幌コンベンションセンターにおいて開催された第49回日本植物生理学会年会でポスター発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、第49回日本植物生理学会年会要旨集(平成20年3月15日)第49回日本植物生理学会年会委員会発行第336頁に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、平成20年3月20日札幌コンベンションセンターにおいて開催された第49回日本植物生理学会年会でポスター発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、第49回日本植物生理学会年会要旨集(平成20年3月15日)第49回日本植物生理学会年会委員会発行第89頁に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、平成20年3月22日札幌コンベンションセンターにおいて開催された第49回日本植物生理学会年会で口頭発表
国際出願番号 PCT/JP2009/054081
国際公開番号 WO2010/023974
国際公開日 平成22年3月4日(2010.3.4)
優先権出願番号 2008217603
優先日 平成20年8月27日(2008.8.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年2月24日(2012.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】森 昌樹
【氏名】林 長生
【氏名】菅野 正治
【氏名】高辻 博志
【氏名】廣近 洋彦
【氏名】小田 賢司
【氏名】松井 南
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100114340、【弁理士】、【氏名又は名称】大関 雅人
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 米国特許出願公開第2004/0123343(US,A1)
米国特許出願公開第2006/0123505(US,A1)
国際公開第2003/000898(WO,A1)
調査した分野 C12N 15/09
A01G 7/06
A01G 16/00
A01H 5/00
C12N 5/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)及び(b)の工程を含む、植物に病原細菌及び病原糸状菌の両方に対する抵抗性を付与する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において5以内のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAであって、植物に病原細菌及び病原糸状菌の両方に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に病原細菌及び病原糸状菌の両方に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
病原細菌がトマト斑葉細菌病細菌、イネ白葉枯病菌、イネ立枯れ病菌、籾枯れ細菌病菌からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
病原糸状菌がアブラナ科野菜類炭そ病菌、いもち病菌、うどんこ病菌からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
病原細菌がトマト斑葉細菌病細菌であり、病原糸状菌がアブラナ科野菜類炭そ病菌である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
下記(a)から(c)の工程を含む、植物に病原細菌及び病原糸状菌の両方に対する抵抗性を付与する薬剤の候補化合物のスクリーニング方法;
(a)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAとレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞と、被検化合物を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、及び
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを増加させる化合物を選択する工程。
【請求項6】
病原細菌がトマト斑葉細菌病細菌、イネ白葉枯病菌、イネ立枯れ病菌、籾枯れ細菌病菌からなる群より選択される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
病原糸状菌がアブラナ科野菜類炭そ病菌、いもち病菌、うどんこ病菌からなる群より選択される、請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
病原細菌がトマト斑葉細菌病細菌であり、病原糸状菌がアブラナ科野菜類炭そ病菌である、請求項からのいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性を与える植物体の製造方法及びこれを用いて得られる植物体、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
病害がイネの生産に与える被害は大きい。農業の現場では農薬を用いて防除しているが、農薬にかかるコストおよび農薬が人体および環境に及ぼす影響への懸念から、無農薬または低農薬での稲作が望まれる。特に遺伝子を用いる方法が有効と考えられ、近年、モデル植物であるシロイヌナズナなどから病害抵抗性遺伝子が単離されている。しかしながら、病害抵抗性遺伝子のスクリーニングは主にloss-of-function(機能欠損)を指標に行われてきたため、多くの重要遺伝子が見逃されていると考えられる。
【0003】
一方シロイヌナズナの病害応答において、サリチル酸(SA)がシグナル分子として働くシグナル伝達経路が存在し、その分子機構が詳細に研究されている。病原体がシロイヌナズナに感染すると細胞内SA濃度が上昇し、それにより、シグナル伝達経路においてSAの下流で制御されるPR遺伝子など多数の遺伝子の発現変化を含む病害応答反応が誘導される。また、SAやその誘導体であるINA(2,6-dichloroisonicotinic acid)を外部から処理することにより、SAシグナル伝達系が活性化され、下流で制御される病害抵抗性遺伝子やPR遺伝子の発現が誘導される。
【0004】
SAシグナル伝達系においては、NPR1タンパク質が重要な役割を果たしている(非特許文献2)。シロイヌナズナのnpr1変異体では、SAやINAなどによる病害抵抗性遺伝子及びPR遺伝子の発現の誘導が見られなくなると同時に、SAを含む培地上で生育出来なくなることが知られている。しかしながらイネに関しては、SAシグナル伝達経路およびこの経路に関わるシグナル伝達因子に関する知見が極めて乏しい。
【0005】
本発明の先行技術文献を以下に示す。

【非特許文献1】Becker, D et al., (1990) Nucleic Acid Res., 18(1): 203
【非特許文献2】Cao, H et al (1997) Cell 88:57-63
【非特許文献3】Ichikawa, T et al., (2006) Plant J. 48: 974-985
【非特許文献4】Kikuchi, S et al., (2003) Science 301: 376-379
【非特許文献5】Mori, M et al., (2007) Plant Mol. Biol., 63:847-860
【非特許文献6】Nakamura, H et al., (2007) Plant Mol Biol. 65:357-371
【非特許文献7】Taji, T et al., (2002) Plant J., 29(4): 417-426,
【非特許文献8】Toki, S et al., (2006) Plant J. 47:969-76.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明は、広範な病害抵抗性を付与する新規な遺伝子を単離することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは、loss-of-functionに代わる指標としてgain-of-function(機能獲得)に基づくスクリーニングにより、病原細菌及び病原糸状菌に抵抗性である遺伝子の同定を試みた。具体的には本発明者らは、FOX hunting systemを用いて作製されたイネ完全長cDNA高発現系統シロイヌナズナ(イネ-ナズナFOX系統)を対象に、病原細菌感染抵抗性選抜、病原糸状菌感染抵抗性選抜、及びサリチル酸感受性選抜の3段階のスクリーニングを試みた。その結果本発明者らは、これら3種類のスクリーニングのいずれにおいても選抜されたシロイヌナズナ1系統(K15424系統)を見出すことに成功した。K15424系統はイネの完全長cDNA(AK070024、新規なタンパク質リン酸化酵素遺伝子)を有する。本発明者らはAK070024を過剰発現するイネを作製し、T1世代でイネ白葉枯病抵抗性検定を行った。その結果、AK070024過剰発現イネは白葉枯病及びいもち病に抵抗性であることが確認された。
【0008】
本発明は、病原細菌及び病原糸状菌に抵抗性であるという前例を見ない遺伝子及び当該遺伝子が導入された植物体に関するものであり、より詳しくは、以下の〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕下記(a)及び(b)の工程を含む、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
〔2〕下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターが導入された植物細胞であって、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体を再生しうる植物細胞;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
〔3〕〔2〕に記載の植物細胞から再生された、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体、
〔4〕〔3〕に記載の植物体の子孫またはクローンである、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体、
〔5〕〔3〕または〔4〕に記載の病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体の繁殖材料、
〔6〕下記(a)及び(b)の工程を含む、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体の製造方法;
(a)下記(i)から(iv)からなる群より選択されるDNA又は該DNAを含むベクターを植物細胞に導入する工程、及び
(b)工程(a)においてDNA又はベクターが導入された植物細胞から植物体を再生する工程、
(i)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(ii)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(iii)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、及び
(iv)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
〔7〕下記(a)から(c)の工程を含む、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する薬剤の候補化合物のスクリーニング方法;
(a)配列番号:3に記載の塩基配列の全部又は一部とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程、
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、及び
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを増加させる化合物を選択する工程。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】イネ-ナズナFOX系統のPst3000 による選抜法(改良型Dip法)と選抜例を示す写真である。選抜例のWild typeはColumbia(Col-0)を使用した。Cpr5-2は既知の耐病性変異体をコントロールとして使用した。
【図2】イネ-ナズナFOX系統のSA感受性選抜例(二次スクリーニング)結果を示す写真である。0.05 mM SAを含む培地(+SA)および含まない培地(-SA)上でのFOX系統の生存を調べた。対照として野生型(Wt)およびSA高感受性の変異体(npr1)を用いた。
【図3】OsPSR5過剰発現イネにおけるイネ白葉枯病抵抗性を示すグラフ及び写真である。葉身の先端部(写真右端)に白葉枯病菌を接種後、2週間後の結果を示す。あそみのりは白葉枯病に高度抵抗性を有する品種である。日本晴はWt。ベクターコントロールはpRiceFOXのみを導入したもの。OsPSR5:OXはOsPSR5を過剰発現するイネ。
【図4】OsPSR5過剰発現イネにおけるいもち病抵抗性を示す写真である。いもち病菌を噴霧接種後8日目の写真。OsPSR5:OXはOsPSR5を過剰発現するイネ。日本晴はWt。
【図5】OsPSR5 過剰発現イネにおけるいもち病抵抗性を示すグラフである。黄金錦は日本晴(Wt)よりやや抵抗性の強い系統である。第6葉展開時に菌を接種した。病斑数は接種6日後の5葉、6葉の罹病性病斑の合計値を示す。

【0010】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、タンパク質リン酸化酵素遺伝子(DDBJ Accession No: AK070024)を用いた植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する方法を提供する。
本発明における病原細菌としてはトマト斑葉細菌病細菌、イネ白葉枯病菌、イネ立枯れ病菌、籾枯れ細菌病菌などが挙げられるがこれらに限定されない。また本発明における病原糸状菌としてはアブラナ科野菜類炭そ病菌、いもち病菌、うどんこ病菌などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0011】
植物が病原細菌や病原糸状菌に抵抗性を有するか否かは、病原細菌や病原糸状菌を培養した後、植物体を菌液に浸したり、菌液を植物体にスプレーしたりすることにより評価することができる。
【0012】
本発明に用いるDNAの形態に特に制限はなく、cDNAであってもゲノムDNAであってもよい。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。例えば、ゲノムDNAはタンパク質リン酸化酵素遺伝子(DDBJ Accession No: AK070024)の公知の塩基配列情報(配列番号:1)から適当なプライマー対を設計して、目的の植物から調製したゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとしてゲノミックライブラリーをスクリーニングすることによって調製することができる。また、同様にプライマー対を設計して、目的の植物から調製したcDNAまたはmRNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、本発明のタンパク質リン酸化酵素をコードするcDNAを調製することができる。さらに市販のDNA合成機を用いれば、目的のDNAを合成により調製することも可能である。
【0013】
本発明のDNAは、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する機能を有している限り、イネ由来のタンパク質リン酸化酵素(配列番号:2)をコードするDNAのみならず、該タンパク質に構造的に類似したタンパク質をコードするDNA(例えば、変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログ)を用いることもできる。このようなDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0014】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W. and Fritz, H.J. Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA. Methods in Enzymology. 154, 1987, 350-367.)が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型のタンパク質リン酸化酵素のアミノ酸配列(配列番号:2)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する機能を有している限り、本発明のDNAに含まれる。
【0015】
改変されるアミノ酸の数は、特に制限はないが、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。アミノ酸の改変は、好ましくは保存的置換である。改変前と改変後の各アミノ酸についてのhydropathic index(Kyte, J. and Doolittle, R.F. J Mol Biol. 157(1), 1982, 105-132.)やHydrophilicity value(米国特許第4,554,101号)の数値は、±2以内が好ましく、さらに好ましくは±1以内であり、最も好ましくは±0.5以内である。
【0016】
また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0017】
イネ由来のタンパク質リン酸化酵素(配列番号:2)に構造的に類似したタンパク質をコードするDNAとしては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. Journal of Molecular Biology. 98, 1975, 503.)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R.K. et al. Science. 230, 1985, 1350-1354.; Saiki, R.K. et al. Science, 239, 1988, 487-491.)を利用して調製したものを用いることも可能である。即ち、本発明のDNAには、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。本発明において「ストリンジェントな条件」とは、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指すが、特にこれらの条件に限定されるものではない。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。
【0018】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられるが、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、イネ由来のタンパク質リン酸化酵素のアミノ酸配列(配列番号:2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin, S. and Altschul, S.F. Proc Natl Acad Sci U S A. 87(6), 1990, 2264-2268.; Karlin, S. and Altschul, S.F. Proc Natl Acad Sci U S A. 90(12), 1993, 5873-5877.)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, S.F. et al. J Mol Biol. 215(3), 1990, 403-410.)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0019】
本発明のDNAは、ベクターに挿入された形態であってもよい。ベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、ジャガイモ・キチナーゼ遺伝子SK2のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。
【0020】
なお、配列番号:1に記載の塩基配列におけるタンパク質のコード領域は、34番目の塩基から1251番目の塩基である。配列番号:1に記載の塩基配列のうち34番目の塩基から1251番目の塩基から生成されるアミノ酸配列は、配列番号:2に示される。
【0021】
植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する機能を有する上記のDNAや該DNAを含むベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生することにより、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体を製造することができる。従って本発明は、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に抵抗性である植物体の製造方法を提供する。
【0022】
上記DNAやベクターを導入する植物細胞の種類としては、例えば、イネ、小麦、大麦、トウモロコシ、ソルガム等の単子葉植物、シロイヌナズナ、ナタネ、トマト、大豆、ジャガイモ等の双子葉植物等があげられるがこれらに限定されない。
【0023】
上記DNAやベクターが導入される植物細胞の形態は、植物体を再生しうるものであれば、特に制限はなく、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0024】
上記DNAやベクターの植物細胞への導入は、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって実施することができる。アグロバクテリウムを介する方法においては、例えばNagelらの方法(Nagel, R. et al. FEMS Microbiol Lett. 67, 1990, 325-328.)にしたがって、上記DNAが挿入された発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを直接感染法やリーフディスク法で植物細胞に感染させることにより、上記DNAを植物細胞に導入することができる。
【0025】
植物細胞からの植物体の再生は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、イネであればFujimuraら(Fujimura. et al. Tissue Culture Lett. 2, 1995, 74.)の方法が挙げられ、小麦であればHarrisら(Harris, R. et al. Plant Cell Reports. 7, 1988, 337-340)の方法やOzgenら(Ozgen, M. et al. Plant Cell Reports. 18, 1998, 331-335)の方法が挙げられ、大麦であればKiharaとFunatsuki(Kihara, M. and Funatsuki, H. Breeding Sci. 44, 1994, 157-160.)の方法やLursとLorz(Lurs, R. and Lorz, H. Theor. Appl. Genet. 75, 1987, 16-25.)の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Shillito, R.D., et al. Bio/Technology, 7, 1989, 581-587.)の方法やGordon-Kammら(Gordon-Kamm, W.J. et al. Plant Cell. 2(7), 1990, 603-618.)の方法が挙げられ、ソルガムであればWenら(Wen, F.S., et al. Euphytica. 52, 1991, 177-181.)の方法やHagio(Hagio, T. Breeding Sci. 44, 1994, 121-126.)の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
またシロイヌナズナであればAkamaら(Akama. et al. Plant Cell Reports. 12, 1992, 7-11.)の方法が挙げられ、ナタネであればWangら(Wang, Y.P. et al. Plant Breeding. 124, 2005, 1-4.)の方法が挙げられ、トマトであればKoblitzとKoblitz(Koblitz, H and Koblitz, D. Plant Cell Reports. 1, 1982, 143-146.)の方法やMorganとCocking(Morgan, A. and Cocking, E.C. Z.Pflanzenpysiol. 106, 1982, 97-104.)の方法が挙げられ、大豆であればLazzeriら(Lazzeri, P.A. et al., Plant Mol. Biol. Rep. 3, 1985, 160-167.)の方法やRanchら(Ranch, J.P. et al., In Vitro Cell Dev. Biol. 21, 1985, 653-658.)の方法が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Visser, R.G.F. et al. Theor. Appl. Genet. 78, 1989, 594-600.)の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
一旦、ゲノム内に上記DNAやベクターが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫あるいはクローンを得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0027】
植物が病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を有するか否かは、対照と比較することによって判断することが出来る。本発明において対照とは、本発明の植物体と同じ種の植物体であって、本発明のDNAが過剰発現していない植物体を意味する。本発明における対照は、本発明の植物体と同じ種の植物体であって本発明のDNAが過剰発現していないものである限り何ら限定されない。従って本発明の対照には、例えば本発明のイネ由来のタンパク質リン酸化酵素をコードするDNA以外のDNAが導入された植物体も含まれる。このような植物体の例としては、例えば、本発明の形質転換植物体と同じ種の植物体であって、本発明のDNA以外のDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能欠失変異導入のDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能抑制型に変換されたDNAで形質転換された植物体、本発明のDNAの機能発現に不十分な領域のDNA断片で形質転換された植物体などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0028】
このように本発明は、病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を示す植物体、該植物体を再生しうる植物細胞、該植物体の子孫あるいはクローンである植物体、および上記植物体の繁殖材料をも提供する。
なお本発明の植物体、植物細胞、子孫あるいはクローンである植物体、繁殖材料は、さらにサリチル酸に対する感受性を有していてもよい。
【0029】
また本発明は、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する薬剤の候補化合物のスクリーニング方法を提供する。
本方法においては、まず、AK070024遺伝子の転写調節領域を含むAK070024遺伝子の上流2000bpの全部又は一部を含むDNAとレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、AK070024遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、AK070024遺伝子の転写調節領域を含むAK070024遺伝子の上流2000bpの全部又は一部を含むDNAとレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、AK070024遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
なおAK070024遺伝子の上流2000bpの塩基配列を配列番号:3に示す。
【0030】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「AK070024遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「AK070024遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法により行うことができる。
【0031】
「AK070024遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、AK070024遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0032】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本方法における「接触」は、「AK070024遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0034】
本方法においては、次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0035】
本方法においては、次いで、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを増加させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、植物に病原細菌及び病原糸状菌のいずれか又は両方に対する抵抗性を付与する薬剤の候補化合物となる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例になんら制限されるものではない。
【0037】
1.材料と方法
1-1.イネ-ナズナFOX系統
スクリーニングには約20,000系統(理研15,000系統+岡山5,000系統)のイネ-ナズナFOX系統を用いた。イネ-ナズナFOX系統は以下のようにして作製された。独立したイネ完全長cDNA(Kikuchi et al. 2003)約13,000種類をcDNAの等量比のプールとして調製し(標準化という)、cDNAをシロイヌナズナの発現ベクターに組み込んだ。発現ベクターには、pBIG2113N (Taji et al. 2002, Becker et al. 1990)にSfiIクローニングサイトを導入したpBIG2113SFを用いた。上記のように標準化したcDNAを用いてcDNAライブラリーをアグロバクテリア(Agrobacterium GV3101)で作成し、これらのアグロバクテリアを用いて花感染法によってシロイヌナズナColumbia(Col-0)の形質転換を行い、独立した植物体から成るイネ-ナズナFOX系統が作製された。スクリーニングにはT2種子を使用した。
【0038】
1-2. 病原細菌感染抵抗性選抜
トマト斑葉細菌病の病原細菌であるPseudomonas syringae pv. tomato strain DC3000(Pst3000)を用いて、改良型Dip法(図1)により(0.5~2)×108 CFU/mlの菌濃度で接種した。播種後3週間後のFOX系統を上記の菌液に浸し、6日後に生存の有無で選抜した。
【0039】
1-3. 病原糸状菌感染抵抗性選抜
アブラナ科野菜類炭そ病菌(Colletotrichum higginsianum, Ch)はいもち病菌同様に付着器、貫入菌糸を用いて感染する糸状菌で、シロイヌナズナにも感染できるため、この菌を病原糸状菌感染抵抗性選抜に用いた。感染はPst3000による選抜にも用いた改良型dip法で行った。感染液の分生子濃度は105~106 conidia/mlで、感染6日後に生存の有無で選抜した。
【0040】
1-4.サリチル酸(SA)感受性選抜
0.05mM SAを含むMS培地(+SA培地)および含まないMS培地(-SA培地)にFOX系統を播種し、-SA培地上では生育するが+SA培地上では発芽後死滅する系統を選抜した。
【0041】
1-5.形質転換イネの作製
イネの品種は日本晴を用いた。イネでの発現ベクターはpRiceFOX (Nakamura et al. 2007)を用いた。イネの形質転換はアグロバクテリウムEH105株を用いて高速形質転換法(Toki et al. 2006)で行った。
【0042】
1-6.イネ白葉枯病抵抗性検定
イネ白葉枯病菌レースT7174を用いて、森らの方法(Mori et al. 2007)を改変して検定した。主な改変点はイネの若い葉身の先端から約5cmを切断した点、接種は切断面を菌液に浸すことにより行った点である。
【0043】
1-7.イネいもち病抵抗性検定
イネいもち病菌Kyu89-246(MAFF101506,レース003.0)を用いて噴霧接種法(Mori et al. 2007)で行った。菌濃度は2 x 105 spore/mlで行った。
【0044】
2.結果
2-1. 病原性細菌感染抵抗性選抜
イネ-ナズナFOX系統約2万系統を対象に1次、2次、3次のスクリーニングを行い、最終的にPst3000抵抗性を示す72系統を選抜した。選抜した全系統についてゲノムDNAを抽出し、挿入されているイネ完全長cDNAをPCRで増幅して末端の塩基配列を決定することにより遺伝子を同定した。
【0045】
2-2.病原性糸状菌感染抵抗性選抜
上記の72系統について更にCh抵抗性検定を行い、両菌に対して複合抵抗性を示す系統があるかどうか調べた結果、21系統(29%)で複合抵抗性を示した。
【0046】
2-3.サリチル酸感受性選抜
イネ-ナズナFOX系統約2万系統を対象にまず+SA培地で死滅する系統を選抜(1次スクリーニング)した。選抜された系統について、+SA培地では発芽後死滅し、-SA培地では野生型とほぼ同程度の生育をする系統を選抜する二次スクリーニングを行い(図2)、95系統を選抜した。これらの系統について、挿入されているイネ完全長cDNAをPCR増幅後、部分塩基配列を決定した。
【0047】
2-4.3種類のスクリーニングで共に選抜された系統とその原因遺伝子
上記3種類のスクリーニングのいずれにおいても選抜された系統が1系統(K15424)存在した。この系統は、SAシグナル伝達系が関わる防御応答機構の増強により病原性細菌および病原性糸状菌に対する抵抗性を獲得した可能性が高い。K15424系統にはイネの完全長cDNA(AK070024)が挿入されていた。AK070024の系統樹解析を行うと、NAK(Novel Arabisopsis protein Kinase)遺伝子と近縁で、新規のタンパク質リン酸化酵素遺伝子であることが明らかになった。更にAK070024を有する他の独立のFOX系統やcDNA再導入シロイヌナズナの解析から、AK070024のシロイヌナズナでの過剰発現がPst3000抵抗性、Ch抵抗性、及びSA感受性を付与することを確認した。
【0048】
2-5.過剰発現イネの作製及び病害抵抗性検定
AK070024遺伝子(別名OsPSR5)を過剰発現するイネを作製し、T1世代でイネ白葉枯病抵抗性検定を行った。その結果、OsPSR5過剰発現イネは、白葉枯病に対して高度抵抗性を有する品種あそみのりと同等の、強い白葉枯病抵抗性を示した(図3)。同様にOsPSR5過剰発現イネのいもち病抵抗性検定を行ったところ、接種後、WTの日本晴では病斑が拡大していくのに対し(進展型病斑)、過剰発現体では褐点型病斑が認められたが、一定の大きさ以上に病斑が拡大しなかったことから、いもち病にも抵抗性であることが示された(図4)。抵抗性の程度は、日本晴よりも抵抗性の黄金錦よりも更に強い抵抗性を示した(図5)。
【0049】
本発明では、イネFOX系統シロイヌナズナのスクリーニングにより、病原細菌(Pst3000)抵抗性および病原糸状菌(Ch)抵抗性、サリチル酸高感受性の3種の形質を与える新規遺伝子(AK070024)を見出した。本遺伝子を過剰発現したイネは、白葉枯病およびいもち病に抵抗性を示した。以上の結果から、本遺伝子を過剰発現させた植物は、双子葉植物、単子葉植物を問わず、複数の病害に抵抗性になることが示された。本遺伝子は、遺伝子組換え技術により、様々な作物に複合病害抵抗性を付与するための素材となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、病原細菌及び病原糸状菌に抵抗性である植物体が提供された。本発明にて同定された遺伝子を過剰発現させた植物は、双子葉植物、単子葉植物を問わず、複数の病害に抵抗性を有する。従って本発明にて同定された遺伝子は、様々な作物に複合病害抵抗性を付与するための材料として有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4