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明細書 :熱電変換素子及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5578665号 (P5578665)
公開番号 特開2011-243809 (P2011-243809A)
登録日 平成26年7月18日(2014.7.18)
発行日 平成26年8月27日(2014.8.27)
公開日 平成23年12月1日(2011.12.1)
発明の名称または考案の名称 熱電変換素子及びその製造方法
国際特許分類 H01L  35/24        (2006.01)
H01L  35/32        (2006.01)
H01L  35/34        (2006.01)
H02N  11/00        (2006.01)
H01L  51/05        (2006.01)
FI H01L 35/24
H01L 35/32 A
H01L 35/34
H02N 11/00 A
H01L 29/28 100
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2010-115636 (P2010-115636)
出願日 平成22年5月19日(2010.5.19)
審査請求日 平成25年5月13日(2013.5.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】隅野 真央
【氏名】原田 健太郎
【氏名】安達 千波矢
個別代理人の代理人 【識別番号】100114627、【弁理士】、【氏名又は名称】有吉 修一朗
審査官 【審査官】安田 雅彦
参考文献・文献 特開2000-323758(JP,A)
特開2008-305831(JP,A)
特表2009-533873(JP,A)
調査した分野 H01L 35/24-26
H01L 35/32-34
H01L 51/05
H02N 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
真性有機半導体材料から構成されたキャリア輸送層と、
該キャリア輸送層に隣接して設けられると共に、前記キャリア輸送層に所定のキャリアを供給可能なキャリア発生層とを備える
熱電変換素子。
【請求項2】
前記キャリア輸送層及び前記キャリア発生層は、低分子材料によって構成された
請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記キャリア輸送層は、その材料のキャリア移動度が0.1cm/Vs以上であると共に、前記キャリア発生層からキャリアが供給された際の電気伝導率が0.1S/cm以上である
請求項1または請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記キャリア発生層は、
その材料と前記キャリア輸送層材料との電荷移動量が0.5以上であると共に、ドナー型有機材料の場合はHOMO準位が-4eV以上であり、アクセプター型有機材料の場合はLUMO準位が-5eV以下である
若しくは、
その材料と前記キャリア輸送層材料との電荷移動量が0.5以上であると共に、ドナー型無機材料の場合はフェルミ準位が-4eV以上であり、アクセプター型無機材料の場合はフェルミ準位が-5eV以下である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記キャリア輸送層材料は、アントラセン若しくはその誘導体、テトラセン若しくはその誘導体、ペンタセン若しくはその誘導体、ルブレン若しくはその誘導体、フラーレン若しくはその誘導体、グラフェン若しくはその誘導体、ピセン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリアセチレン若しくはその誘導体、ポリジアセチレン若しくはその誘導体のいずれかである
請求項1、請求項3または請求項4に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記キャリア発生層は、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、ジクロロジシアノベンゾキノン、三酸化モリブデン、三酸化タングステン、ジベンゾテトラチアフルバレン、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン、ビスシクロペンタジエニルの金属錯体若しくはその誘導体、アクリジンオレンジベース、炭酸セシウム、フッ化リチウムのいずれかである
請求項1、請求項3、請求項4または請求項5に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
真性有機半導体材料によりキャリア輸送層を形成すると共に、該キャリア輸送層に隣接して同キャリア輸送層に所定のキャリアを供給可能なキャリア発生層を形成する工程を備える
熱電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記キャリア輸送層及び前記キャリア発生層は、低分子材料を真空蒸着することにより形成する
請求項7に記載の熱電変換素子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換素子及びその製造方法に関する。詳しくは、素子の両端に温度差を与え、その温度勾配に起因する起電力を取り出すことができる熱電変換素子に係るものである。
【背景技術】
【0002】
所望の起電力の取り出しに必要な温度勾配を保持するためには、熱電変換素子の熱伝導率(単位:W/mK)は低い方が好ましい。そして、一般に、有機物は無機物に比べて熱伝導率が低く、低コストで製作できるために、熱電変換素子への応用という点では非常に有利である。
【0003】
しかし、有機半導体は無機半導体に比べて電気伝導率(単位:S/cm)が小さいため、換言すると電気抵抗値が高いため、無機半導体から構成される熱電変換素子と比較すると、有機半導体から構成される熱電変換素子から大きな起電力を取り出すことは困難であった。
【0004】
そのため、有機半導体を熱電変換素子に応用するにあたっては、いかにして有機材料の電気伝導率を増大するかという点が、技術的に極めて重要となってくる。
なお、電気伝導率を増大するためには、(1)移動度(単位:cm/Vs)の高い材料を用いること、(2)材料中のキャリア濃度(単位:1/cm)を高めてやることが必要となる。
【0005】
ところで、高効率な熱電変換素子に重要なファクターは上述した熱伝導率と電気伝導率だけではなく、最終的な材料の熱電変換素子としての特性評価を示す指標として、(式1)で示す熱電性能指数Zが用いられている。なお、σは電気伝導率、Sはゼーベック係数、κは熱伝導率である。
Z=σS/κ (式1)
【0006】
式1中のゼーベック係数(単位:μV/K)は、いかに大きな起電力を得られるかを示す指標である。なお、ゼーベック係数はキャリア濃度によって変化する量であり、一般に半導体においては、キャリア濃度の増加によってゼーベック係数は低下することとなる。
【0007】
また、σSはパワーファクター(単位:μW/mK)と呼ばれており、熱電材料特性の良し悪しの議論に頻繁に用いられるものである。
【0008】
ここで、半導体中のキャリア濃度の増加は、上述した電気伝導率の増大とゼーベック係数の減少といった、熱電特性にとっては相反する効果をもたらすこととなる。そのため、熱電変換素子の熱電特性を向上させるためには、単にキャリア濃度を高めさえすれば良いということではなく、最適なパワーファクターを得るためには、慎重な考察が必要となる。
【0009】
ところで、有機半導体の電気伝導率を向上させる手段として、導電性高分子等にドーピングを施す技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。なお、ドーピングにより材料中のキャリア濃度が高くなるために、電気伝導率が向上することとなる。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2006-128444号公報
【特許文献2】特開2006-323758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電気伝導率を向上させるべく導電性高分子等の半導体にドーピングを施した場合には、不純物による散乱でキャリアの移動が妨げられたり、高濃度のドーピングにより金属的伝導性が発現してゼーベック係数が著しく低下したりするといった懸念が生じる。
【0012】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、高いパワーファクターを実現することが可能な熱電変換素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明に係る熱電変換素子では、真性有機半導体材料から構成されたキャリア輸送層と、該キャリア輸送層に隣接して設けられると共に、前記キャリア輸送層に所定のキャリアを供給可能なキャリア発生層とを備える。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る熱電変換素子の製造方法では、真性有機半導体材料によりキャリア輸送層を形成すると共に、該キャリア輸送層に隣接して同キャリア輸送層に所定のキャリアを供給可能なキャリア発生層を形成する工程を備える。
【0015】
ここで、キャリア輸送層が真性半導体材料から構成されたことによって、キャリアの移動が不純物で妨げられることがなく、また、通常のドーピングと違って過剰な濃度のキャリアが注入されることが無いためゼーベック係数の低下も抑制することが可能となる。
【0016】
また、キャリア輸送層が有機材料で構成されたことによって、希少元素や有害元素を含まずに環境負荷が小さく、また、低コストで平易なプロセスで製造が可能となる。
【0017】
ここで、本発明の熱電変換素子は導電性高分子も含む有機材料全般や一部の無機材料を使用した熱電変換素子の製造に応用できるが、特に有機低分子等を使用した真空蒸着法での熱電変換素子に有利である。なお、キャリア輸送層及びキャリア発生層を低分子材料を真空蒸着することで形成した場合には、高精度な膜厚制御、材料の高純度化、微小な集積回路の作り込みが実現することとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱電変換素子では、高いパワーファクターを実現することができる。また、本発明の熱電変換素子の製造方法では、高いパワーファクターを実現できる熱電変換素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した熱電変換素子の一例を説明するための模式図である。
【図2】キャリア輸送層の厚さとゼーベック係数、シートコンダクタンス、電気伝導率及びパワーファクターとの関係を示すグラフである。
【図3】キャリア輸送層のAFM写真である。
【図4】ペンタセン薄膜にキャリアを通常ドーピングした熱電変換素子の熱電特性を示すグラフである。
【図5】ペンタセン薄膜にキャリアを通常ドーピングした熱電変換素子の構成を説明するための模式図である。
【図6】熱電変換素子の変形例を説明するための模式図である。
【図7】熱電変換素子の熱電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と称する)について図面を参酌しながら説明する。

【0021】
図1は本発明を適用した熱電変換素子の一例を説明するための模式図であり、ここで示す熱電変換素子1は、主として支持基板2と、キャリア輸送層3と、キャリア発生層4と、電極5を有している。

【0022】
支持基板2は、ガラスや二酸化ケイ素から構成されている。なお、支持基板2の表面は平坦である方が好ましい。これは、支持基板2上に有機分子を積層していく際に、ナノレベルで分子が規則正しく配列している方が移動度の高い高性能な薄膜が得られるからである。なお、同じ材質の支持基板2であったとしても、乱雑な配列の場合には移動度の低い薄膜となってしまう。
即ち、ナノレベルで平坦な支持基板2の表面上には分子が規則正しく配列し易く移動度の高い高性能な薄膜を得ることができ、反面、乱雑な凹凸のある支持基板2の表面上に積層した分子は乱雑な配列になる傾向があり移動度の低い薄膜となってしまうために、支持基板2の表面は平坦度が高い方が好ましいのである。

【0023】
また、支持基板2の表面には、密着性向上塗布剤としてHMDS(ヘキサメチルジンラザン)被膜6が形成されている。具体的には、例えば、支持基板2を自己集積化機能を有するHMDSの分子の溶液の蒸気にさらすことで、HMDS被膜6が形成されている。

【0024】
ここで、HMDS被膜6が形成されることによって、支持基板2の上層に有機薄膜を積層した場合に、有機薄膜と支持基板との化学反応が抑制され、また表面エネルギーの減少等の効果によって、有機薄膜中の分子配列が規則正しくなり易い傾向がある。そのため、移動度の高い高品質な有機薄膜を得やすいこととなる。

【0025】
なお、本実施の形態では、支持基板2にHMDS被膜6が形成された場合を例に挙げて説明を行っているが、HMDSの代わりにOTS(Octadecyltrichlorosilane)等の自己集積化機能を有する分子の溶液に支持基板2をディッピングしたりして、支持基板2上に単分子膜を形成しても良いし、BCB(ベンゾシクロブテン誘導体)樹脂等をコートして被膜を形成しても良い。

【0026】
また、本実施の形態では、支持基板2にHMDS被膜6が形成された場合を例に挙げて説明を行っているが、HMDS被膜6は必ずしも形成される必要はなく、支持基板2上に直接有機薄膜を積層しても良い。但し、上記した様に、HMDS被膜6を形成することによって、移動度の高い高品質な有機薄膜を得やすいこととなるため、支持基板2上にHMDS被膜6が形成された方が好ましい。

【0027】
本発明におけるキャリア輸送層3は、高いキャリア移動度を有する真性有機半導体材料からなる必要がある。本実施の形態ではその一例であるペンタセンからキャリア輸送層3が構成されており、具体的には、真空蒸着法で積層されたペンタセン薄膜によって構成されている。なお、本実施の形態のキャリア輸送層3は、キャリア移動度が概ね0.1cm/Vs以上であり、キャリア発生層4からキャリアが供給された際の電気伝導率が概ね0.1S/cm以上である。

【0028】
ここで、本実施の形態では、キャリア輸送層3がペンタセンから構成された場合を例に挙げて説明を行っているが、キャリア輸送層3を構成する材料としては、アントラセン若しくはその誘導体、テトラセン若しくはその誘導体、ペンタセンの誘導体、ルブレン若しくはその誘導体、フラーレン若しくはその誘導体、グラフェン若しくはその誘導体、ピセン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリアセチレン若しくはその誘導体、ポリジアセチレン若しくはその誘導体であっても良い。

【0029】
上記で例示したキャリア輸送層3を構成する材料は、いずれもキャリア移動度が概ね0.1cm/Vs以上であると共に、キャリア発生層4からキャリアが供給された際の電気伝導率が概ね0.1S/cm以上であり、こうした材料でキャリア輸送層3を構成することによって、パワーファクターが1.0μW/mK程度以上、膜厚等の条件によっては2.0μW/mK以上を実現することが可能となる。

【0030】
キャリア発生層4は、キャリア輸送層3に所定のキャリアを供給するものであり、本実施の形態ではテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F-TCNQ)から構成されており、具体的には、真空蒸着法で積層された2nm厚のF-TCNQによって構成されている。なお、本実施の形態のキャリア発生層4は、キャリア輸送層との電荷移動量が概ね0.5以上であり、LUMO準位が概ね-5eV以下の深い準位である。

【0031】
ここで、本実施の形態では、キャリア発生層4がF-TCNQから構成された場合を例に挙げて説明を行っているが、キャリア発生層4を構成する材料としては、アクセプター型材料としてであれば、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、三酸化モリブデン(MoO)、三酸化タングステン(WO)、ドナー型材料としてであれば、ジベンゾテトラチアフルバレン(DB-TTF)、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン(BEDT-TTF)、ビスシクロペンタジエニルの金属錯体若しくはその誘導体、アクリジンオレンジベース(AOB)、炭酸セシウム(CsCO)、フッ化リチウム(LiF)であっても良い。

【0032】
上記で例示したキャリア発生層4を構成する材料は、いずれもキャリア輸送層との電荷移動量が概ね0.5以上であると共に、アクセプター型材料の場合にはLUMO準位が概ね-5eV以下であり、ドナー型材料の場合にはHOMO準位が概ね-4eV以上の浅い準位であり、高い電荷移動量を実現することが可能となる。

【0033】
ここで、電荷移動量とは、キャリア発生層4からキャリア輸送層3にどの程度のキャリアが供給されるかを示す値であり、0から1の範囲で定義され、理想的には電荷移動量が1の時に最大のキャリアが供給されることとなる。そして、この電荷移動量が大きくなる素因の一つにキャリア輸送層3とキャリア発生層4との間のエネルギー準位の関係がある。

【0034】
即ち、キャリア発生層4がドナー型有機材料である場合には、HOMO準位が概ね-4eV以上であると電荷移動量が大きくなる可能性が高まり、アクセプター型有機材料である場合には、LUMO準位が概ね-5eV以下であると電荷移動量が大きくなる可能性が高まる。同様に、キャリア発生層4がドナー型無機材料である場合には、フェルミ準位が概ね-4eV以上であると電荷移動量が大きくなる可能性が高まり、アクセプター型無機材料である場合には、フェルミ準位が概ね-5eV以下であると電荷移動量が大きくなる可能性が高まる。なお、こうしたエネルギー準位条件を満たさない場合には、大きな電荷移動量は見込めず、そのためにキャリア発生層4からのキャリアの供給量も増加し難くなる。

【0035】
電極5は、発生した起電力を取り出すためのものであり、本実施の形態では、50nm厚のAuから構成されているが、本発明においてその形状と材質は限定されるものではない。

【0036】
図2(a)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「キャリア輸送層3の厚さ」と「ゼーベック係数」との関係を示したものである。ここでゼーベック係数はキャリア輸送層3の厚さによらず一定で200μV/K程度の高い値を保っている。これは、キャリア発生層4からキャリア輸送層3へのキャリアの供給量が一定で、またキャリア輸送層3に存在するキャリア濃度が過剰ではなく適切な量であるからと考えられる。

【0037】
また、本発明を適用した熱電変換素子1では、キャリア発生層4から供給されたキャリアのほとんどがキャリア発生層4とキャリア輸送層3との界面近傍にとどまっており、一方、キャリア輸送層3の中でもキャリア発生層4との界面から離れた領域ではキャリア濃度が非常に小さくなっていることから、ゼーベック係数の低下を抑えることの一因になっているものと考えられる。

【0038】
また、図2(b)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「キャリア輸送層3の厚さ」と「シートコンダクタンス」との関係を示したものである。
ここで、シートコンダクタンスとは、支持基板2と平行な2次元平面上での電気の流れやすさを表現する尺度である。

【0039】
図2(b)から明らかな様に、本実施の形態の熱電変換素子1では、キャリア輸送層3の厚さが2nmから8nmへと増すにしたがい、その厚み分のシートコンダクタンスが増加しているものの、キャリア輸送層3の厚さが10nm以上の場合にはシートコンダクタンスが飽和していることが分かる。
この理由はキャリア発生層4からキャリア輸送層3へ供給されたキャリアの大多数がキャリア発生層4とキャリア輸送層3との界面近傍10nm程度の範囲に分布しているからと考えられる。

【0040】
また、図2(c)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「キャリア輸送層3の厚さ」と「電気伝導率」との関係を示したものである。

【0041】
また、図2(d)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「キャリア輸送層3の厚さ」と「パワーファクター」との関係を示したものである。

【0042】
更に、図3は上記の様に構成された熱電変換素子1について、キャリア輸送層3のキャリア発生層4との界面状態の情報を得るために、ペンタセン薄膜表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で撮影した画像である。なお、図3(a)はペンタセン薄膜が2nm厚さの場合、図3(b)はペンタセン薄膜が6nm厚さの場合、図3(c)はペンタセン薄膜が10nm厚さの場合、図3(d)はペンタセン薄膜が20nm厚さの場合の顕微鏡写真である。

【0043】
図3において、6nmの膜厚時は表面粗さ(rms)が3.75nmと最低値となっており、その他の膜厚時に比べペンタセン薄膜の表面状態が平滑化していることが分かる。(図3(a)及び図3(b)参照)。
一方、10nmの膜厚時には表面粗さ(rms)が4.84nm、20nmの膜厚時には表面粗さ(rms)が6.58nmといった具合に、6nmから10nm、20nmと膜厚を更に大きくしていくと、ペンタセン薄膜の表面は粗くなっていることが分かる(図3(c)及び図3(d)参照)。

【0044】
よって、本実施の形態の熱電変換素子1では、キャリア輸送層3の厚さが6nm以上の場合にキャリア輸送層3の表面、すなわちキャリア発生層4との界面状態が最も平滑化し、キャリアの電気伝導が最もスムーズに起こるものと考えられる。
そのために、キャリア輸送層3の厚さが6nmである場合に、電気伝導率が最大値を有することとなる。なお、このことは、図2(c)からも明らかである。

【0045】
図2(d)から明らかな様に、本実施の形態の熱電変換素子1では、200μV/K程度の高いゼーベック係数を保持しているために、1.0μW/mK以上の高いパワーファクターを得る事が出来る。中でもとりわけ電気伝導率が最大値を示す、キャリア輸送層3の厚さが6nm以上の場合に、最も高いパワーファクター2.0μW/mKを実現できることが分かる。

【0046】
ところで、図4はペンタセン薄膜にキャリアを通常ドーピングした熱電変換素子について熱電性能を示したものであり、具体的には、図5で示す様に、HMDS被膜6が形成された支持基板2にF-TCNQが注入された50nm厚のペンタセン薄膜7からなる熱電変換素子1についての「ドーピング濃度」と「熱電性能」との関係を示したものである。

【0047】
図4(a)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「ドーピング濃度」と「ゼーベック係数」との関係を示したものである。ここで、比較的多量のドーピングを施した場合には、ゼーベック係数が150μV/K程度まで減少してしまうことがわかる。

【0048】
また、図4(b)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「ドーピング濃度」と「電気伝導率」および「キャリア移動度」との関係を示したものである。図4(b)から、ドーピング量が増えるにしたがって、不純物散乱に伴うキャリア移動度の低下が起こり、結果として電気伝導率を制限していることが明らかである。

【0049】
また、図4(c)は上記の様に構成された熱電変換素子1について、「ドーピング濃度」と「パワーファクター」との関係を示したものである。薄膜にキャリアをドーピングした熱電変換素子では、ゼーベック係数の低下と電気伝導率の制限の影響で、パワーファクターは0.16程度にとどまってしまっている。

【0050】
本発明を適用した熱電変換素子1では、キャリア輸送層3とキャリア発生層4とを分離した構造を採用しており、こうした構造を採用することで、キャリアの移動が不純物散乱で妨げられることがなくなると共に、ゼーベック係数の低下をも抑制することが可能となる。
よって、通常ドーピングを施した熱電変換素子よりも、本発明を適用した熱電変換素子のほうが高いパワーファクターを得られることが明白である。

【0051】
ここで、本実施の形態では、キャリア発生層4の上層に電極5が形成された場合を例に挙げて説明を行っているが、図6(a)で示す様に、支持基板2上にキャリア輸送層3及びキャリア発生層4と接する様に電極5が形成された構成としても良い。

【0052】
また、本実施の形態では、キャリア輸送層3及びキャリア発生層4が1層ずつ形成されて構成された場合を例に挙げて説明を行っているが、図6(b)や図6(c)で示す様に、キャリア輸送層3及びキャリア発生層4の2層を1組(最小単位)として、複数組が積層された構成としても良い。

【0053】
なお、ペンタセンからキャリア輸送層3が構成され、F-TCNQからキャリア発生層4が構成された熱電変換素子1について、通常ドーピングを施した熱電変換素子よりも高いパワーファクターを得られることは上述した通りであるが、他の材料でキャリア輸送層3及びキャリア発生層4が構成された場合であっても同様の効果を奏することとなる。

【0054】
例えば、図7(a)はフラーレンC60に炭酸セシウム(CsCO)をドーピングした共蒸着膜から成る熱電変換素子における、「CsCOドーピング濃度」と「パワーファクター」との関係を示している。図7(a)から明らかな様に、フラーレンC60にCsCOをドーピングした共蒸着膜から成る熱電変換素子から得られるパワーファクターは最大で0.3μW/mK程度に留まっている。

【0055】
一方、図7(b)はフラーレンC60をキャリア輸送層3に用い、CsCOをキャリア発生層4とした二層積層型の構造からなる熱電変換素子における、「フラーレンC60膜厚」と「パワーファクター」との関係を示している。図7(b)から明らかな様に、フラーレンC60をキャリア輸送層3に用い、CsCOをキャリア発生層4とした二層積層型の構造からなる熱電変換素子から得られるパワーファクターは最大で3μW/mK程度を実現できることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1熱電変換素子
2支持基板
3キャリア輸送層
4キャリア発生層
5電極
6HMDS被膜
7ペンタセン薄膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図3】
6