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明細書 :ピルビン酸低生産酵母の育種方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5413847号 (P5413847)
登録日 平成25年11月22日(2013.11.22)
発行日 平成26年2月12日(2014.2.12)
発明の名称または考案の名称 ピルビン酸低生産酵母の育種方法
国際特許分類 C12N   1/16        (2006.01)
C12G   3/02        (2006.01)
FI C12N 1/16 B
C12N 1/16 G
C12G 3/02 119G
請求項の数または発明の数 8
全頁数 8
出願番号 特願2010-111263 (P2010-111263)
出願日 平成22年5月13日(2010.5.13)
優先権出願番号 2009126510
優先日 平成21年5月26日(2009.5.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年3月28日(2011.3.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
発明者または考案者 【氏名】北垣 浩志
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100190779、【弁理士】、【氏名又は名称】神谷 昌男
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
特許請求の範囲 【請求項1】
ethyl methane sulfonateで処理した酵母を、ピルビン酸輸送阻害剤の存在下で培養し、当該阻害剤に耐性の酵母を分離することを特徴とする、ピルビン酸の生産能が低下した酵母の育種方法。
【請求項2】
ピルビン酸の生産能が低下した酵母は、より酸味の感じられる酒類を製造することができるものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵母がサッカロマイセス・セレビシアエである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ピルビン酸輸送阻害剤がα-シアノ桂皮酸である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法によって分離された、ピルビン酸の生産能が低下した酵母。
【請求項6】
受託番号がNITE P-761又は受託番号がNITE P-904である、ピルビン酸の生産能が低下した酵母。
【請求項7】
より酸味の感じられる酒類を製造することができる請求項5又は6に記載の酵母。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の酵母を用いてアルコール発酵を行うことを特徴とする酒類の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ピルビン酸を低生産しかつよい酸味の感じられる酒類を製造できる酵母及びその育種方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酒類醸造中において残存するピルビン酸は、つわり香を発生させる。つわり香は、ダイアセチルという物質が原因で生じる匂いであり、清酒、焼酎、ビール、ワインなど多くの酒類でオフフレーバーとして認識される物質である。ダイアセチルは乳酸菌の汚染によって発生するが、酵母自身によっても、ピルビン酸からαアセト乳酸を経て生産される。
このため、ピルビン酸の低減を図るべく、ピルビン酸の生産量が低い酵母の開発が求められていた。
【0003】
ピルビン酸を低減するため、従来、発酵期間を長引かせ酵母に資化させる方法が採用されてきた。しかしながら、この方法は、発酵期間が長くなるため処理が煩雑である。また、発酵タンクを回転させることができない等の不都合がある。
また、従来、ピルビン酸低生産性の清酒酵母について育種が行われ、ピルビン酸輸送阻害剤として「α- シアノ桂皮酸とその誘導体」の作用が知られている(非特許文献1~5)。
しかし、上記文献には、ピルビン酸輸送阻害剤に耐性を有する酵母について記載されていない。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】関東東海北陸農業研究成果情報、Vol.2003 No.2 Page. 220-221 (2004)
【非特許文献2】日本農芸化学会大会講演要旨集、Vol.2002 Page.57 (2002)
【非特許文献3】KONG Qing-Xue et. al., Appl Microbiol Biotechnol: Vol. 75 No.6 Page. 1361-1366 (2007)
【非特許文献4】KONG Qing-Xue et. al., Appl Microbiol Biotechnol: Vol.73 No. 6 Page. 1382-1386 (2007)
【非特許文献5】久保義人, 食品加工に関する試験成績: Vol.1999 Page.9 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発酵期間を長引かせることなくピルビン酸を低減せしめる酵母を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、α-シアノ桂皮酸(Ethyl α-transcyanocinnamate)に耐性の酵母はピルビン酸生産量が低いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)酵母を、ピルビン酸輸送阻害剤の存在下で培養し、当該阻害剤に耐性の酵母を分離することを特徴とする、ピルビン酸の生産能が低下した酵母の育種方法。
酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビシアエが挙げられる。また、使用するピルビン酸輸送阻害剤は、α-シアノ桂皮酸(Ethyl trans-α-cyanocinnamate)であることが好ましい。ピルビン酸の生産能が低下した酵母は、よい酸味の感じられる酒類を製造することができる。
(2)前記(1)に記載の方法によって分離された、ピルビン酸の生産能が低下し酵母。本発明の酵母は、よい酸味の感じられる酒類を製造することができる。本発明において、この性質を持つ酵母は、例えば受託番号がNITE P-761又は受託番号がNITE P-904のものが挙げられる。
(3)前記酵母を用いてアルコール発酵を行うことを特徴とする酒類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ピルビン酸の生産能が低下した酵母及びその育種方法が提供される。本発明によれば、発酵期間を長引かせることなく、短期間発酵によりピルビン酸を低減させかつよい酸味をもつ酒類を製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】清酒酵母とそれから育種した株(TCR6)の清酒醸造中のピルビン酸の濃度の推移を示す図である。
【図2】清酒酵母とそれから育種した株(TCR7)の清酒醸造中のピルビン酸の濃度の推移を示す図である。**; p<0.005【0010】
本発明者は、アルコール醸造において酵母ミトコンドリアが醸造の最後まで存在するという知見に基づき、ミトコンドリアの輸送担体を介して酵母を育種する方法を検討した。その結果、ピルビン酸のミトコンドリアへの輸送阻害剤であるα-シアノ桂皮酸(Ethyl trans-α-cyanocinnamate)等に耐性の酵母を選抜することで、ピルビン酸を低生産する酵母の育種に成功した。

【0011】
本発明は、ピルビン酸輸送阻害剤の存在下で酵母を培養し、当該阻害剤に耐性の酵母を分離することを特徴とする酵母の育種方法に関する。このように分離選抜された酵母は、ピルビン酸の生産能が低く抑えられている。

【0012】
従って、本発明の酵母を使用すれば、ピルビン酸が原因で生じるつわり香を無くすために発酵期間を長引かせる必要がなく、簡便にアルコール発酵を行うことができる。

【0013】
本発明において、親株として用いる酵母としては特に制限はなく、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属又はクリベロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母が挙げられが、好ましくは、サッカロマイセス属に属する酵母である。サッカロマイセス属に属する酵母としては、好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。

【0014】
ピルビン酸輸送阻害剤は、特に限定されるものではく、α-シアノ桂皮酸、alpha-cyano-h-(1-phenylindol-3-yl)-acrylate、UK5099(alpha-cyano-beta-(1-phenylindol-3-yl)acrylate)、GW604714X、GW450863X等が挙げられるが、α-シアノ桂皮酸が好ましい。なお、GW604714X及びGW450863Xは、いずれも公知のチアゾリジン化合物である(Biochimica et biophysica acta 2005; 1707(2-3): 221-30)。
本発明においては、ピルビン酸輸送阻害剤の存在下で酵母を培養する。
培養条件は特に限定されるものではなく、使用される酵母やピルビン酸輸送阻害剤の種類により適宜設定することができる。

【0015】
例えば、酵母としてサッカロマイセス・セレビシエを用いるときは、通常の酵母培養用培地にピルビン酸輸送阻害剤を添加してピルビン酸輸送阻害剤含有培地とし、この培地を用いて培養する。ピルビン酸輸送阻害剤の濃度は、例えば0.3mg/ml~0.6mg/mlであり、好ましくは 0.3 mg/mlである。培養時間は、例えば15日~20日であり、好ましくは19日である。培養温度は例えば25℃~37℃であり、好ましくは30℃である。

【0016】
培養後、ピルビン酸輸送阻害剤に耐性の株を分離する。「耐性」とはピルビン酸輸送阻害剤の存在下でも増殖できる性質を意味する。ピルビン酸輸送阻害剤耐性株であってピルビン酸低生産性の株を選択するためには、ピルビン酸輸送阻害剤の存在下で培養後、生存した株について、酵素試験によりピルビン酸濃度を測定し、親株又は野生型酵母よりもピルビン酸の生産性が低下した株を目的の菌株として選択すればよい。酵素試験は公知方法を用いることができ、また、市販のキット(例えばJK International社F-kitピルビン酸)を使用してもよい。

【0017】
本発明のピルビン酸低生産性株の一つは、「TCR6」と称し、2009年5月21日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒 292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)に寄託した。その受託番号(受託証に記載)は、「NITE P-761」である。「NITE P-761」は、実施例1で「TCR6」として樹立した株である。

【0018】
また、本発明のピルビン酸低生産性株の一つは、「TCR7」と称し、2010年2月24日付で、上記特許微生物寄託センターに寄託した。その受託番号(受託証に記載)は、「NITE P-904」である。「NITE P-904」は、実施例1で「TCR7」として樹立した株である。
このようにして選択されたピルビン酸輸送阻害剤耐性株は、ピルビン酸生産能が低下した性質を有するとともに、それを用いて酒類を醸造したときに、よい酸味を付与できる性質を有する。従って、本発明の株は、ピルビン酸が低下し、かつ、良い酸味の感じられる種類の製造に有用である。

【0019】
「生産能が低下した」又は「低生産性」とは、親株又は野生株と比較してピルビン酸の生産量が少ないことを意味し、
(i) 親株又は野生株と比較して10%以下、好ましくは5%以下のピルビン酸しか生産できないこと、及び
(ii) ピルビン酸の量は発酵の推移に依存するので、14日の発酵期間中1日又は2日以上ピルビン酸が早く低減すること
のいずれか一方又は両者を意味するものである。
本発明の酵母を用いてアルコール発酵を行い、常法に従って酒類を製造すると、ピルビン酸が低下し、かつよい酸味の感じられる酒類が得られる。「よい酸味」とは、キレの感じられる酸味である。

【0020】
アルコール発酵は常法に従って行うことができる。例えば、穀類(例えば米)と麹を混合し、アルコール存在下で糖化させる方法、あるいは麦芽を40-100℃の間の適温で糖化する方法などにより所望の糖化液を得る。ワインを製造する場合は、ぶどうの絞汁液を準備する。

【0021】
次に上記糖化液又は絞汁液に対して本発明の酵母を添加して発酵することにより4℃から40℃の間の適温において、4日から70日の適当な期間でアルコール発酵を行う。蒸留酒を製造するときは、アルコール発酵後の発酵液(発酵醪)を蒸留すればよい。
酒類は特に限定されるものではなく、清酒、焼酎、ワイン、ビール、ウィスキー、ブランデーなどが挙げられる。

【0022】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
清酒酵母協会7号をOD600=3.3にまでYPD培地で30℃において振とう培養した。その3mlを取り、1.7 mlの0.1MK-P buffer (pH7.0)に溶かし、ethyl methane sulfonate を50μl加え、30℃で60分ゆっくり振とうした。これに8mlのsodium thiosulfateを加え、遠心して水で洗う操作を2回行い、300μlの滅菌水に溶かし、100μlを 0.3 mg/mlのα-シアノ桂皮酸を含むYPD培地に塗布し30℃で19日間培養した。
培養後、酵素試験キット(JK International社F-kitピルビン酸)を用いてピルビン酸輸送阻害剤に耐性の10種の株を分離し、そのうち2株を「TCR6」(NITE P-761)及び「TCR7)(NITE P-904)と命名した。
【実施例】
【0024】
TCR6による清酒醸造及びピルビン酸生産能の試験を行った結果、図1に示す通り、TCR6は清酒醸造中においてピルビン酸の生産量が低いことが明らかとなった。また、TCR7についても上記と同様の試験を行った結果、図2に示す通り、TCR7は清酒醸造中においてピルビン酸の生産量が低いことが明らかとなった。
図2は、前培養から独立した各々6回の仕込みにより実施した結果を示すものである。
【実施例】
【0025】
本発明のTCR7株を用いて清酒醸造を行なった。得られた香味について、5名の訓練されたパネルにより官能評価を行なった。比較対照として、親株である協会7号を用いて醸造した酒を用いた。
官能評価項目は自由記述とした。
その結果、本発明の株で醸造した酒について、「よい酸味」と指摘した人は5人中3人であった。
一方、親株である協会7号で醸造した酒では、「よい酸味」と指摘した人は5人中0人でした。
従って、本発明の株を用いて醸造された酒は、親株よりも有意に(χ検定、危険率5%)酸味が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、発酵期間を長引かせることなく、短期間発酵によりピルビン酸を低減させることができ、効率よく酒類を製造することができ、さらによい酸味をもつ酒類を製造することができる。
【0027】
NITE P-761:2009年5月21日で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒 292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)に寄託した。識別の表示:TCR6。
NITE P-904:2010年2月24日で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒 292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)に寄託した。識別の表示:TCR7。
図面
【図1】
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【図2】
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