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明細書 :JAK2遺伝子の変異解析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5787304号 (P5787304)
公開番号 特開2012-034580 (P2012-034580A)
登録日 平成27年8月7日(2015.8.7)
発行日 平成27年9月30日(2015.9.30)
公開日 平成24年2月23日(2012.2.23)
発明の名称または考案の名称 JAK2遺伝子の変異解析方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAZ
C12N 15/00 A
G01N 33/53 M
G01N 33/542 A
G01N 21/78 C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 12
出願番号 特願2010-174571 (P2010-174571)
出願日 平成22年8月3日(2010.8.3)
審査請求日 平成25年8月5日(2013.8.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
発明者または考案者 【氏名】野田 尚宏
【氏名】関口 勇地
【氏名】森下 総司
【氏名】常田 聡
【氏名】小松 則夫
【氏名】蓮沼 彩
【氏名】桐戸 敬太
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100157196、【弁理士】、【氏名又は名称】漆戸 智恵
審査官 【審査官】吉岡 沙織
参考文献・文献 Leukemia Research,2008年,Vol.32,P.1462-1467
Biotechnology letters,2005年,Vol.27,P.1349-1354
Nucleic Acids Research,2001年,Vol.29, No.6,e34 P.1/5-5/5
調査した分野 C12Q
C12N 15/
G01N 21/
G01N 33/48-98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)


特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ:
(a)配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているプローブ、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されているプローブを準備するステップ、
(b)サンプル由来の核酸のJAK2遺伝子エキソン14中の、ステップ(a)のプローブと相補的な配列を含む領域を増幅するステップ、
(c)ステップ(b)の前、その途中、又は後に、サンプル由来の核酸又はその増幅産物にステップ(a)のプローブを添加して、増幅配列にプローブをハイブリダイズさせるステップ、及び
(d)第1の標識物質からのシグナルを検出するステップ
を含み、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異の解析方法。
【請求項2】
前記プローブが、配列番号2の49位から5’側の16~44塩基長の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の16~46塩基長の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プローブが、配列番号3の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の標識物質が、BODIPY FL(商標)、TAMRA(商標)、FAM(商標)、ローダミン6G、又はパシフィック・ブルー(商標)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記プローブが、第1の標識物質と反対側の末端で、第1の標識物質とは異なるシグナルを生成する第2の標識物質により標識されており、ステップ(d)で第2の標識物質からのシグナルを第1の標識物質からのシグナルの検出と逐次的又は同時に検出し、その後、第1と第2の標識物質からのシグナルの比を算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)での増幅を、PCR法、LAMP法、NASBA法、RCA法、ICAN法、又はHDA法により行なう、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
サンプルが血液、骨髄液又はそれらの処理物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されており、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異解析用プローブ。
【請求項9】
配列番号2の49位から5’側の16~44塩基長の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の16~46塩基長の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されている、請求項8に記載のプローブ。
【請求項10】
前記プローブが、配列番号3の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されている、請求項8に記載のプローブ。
【請求項11】
第1の標識物質と反対側の末端で、第1の標識物質とは異なるシグナルを生成する第2の標識物質により標識されている、請求項8~10のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載のプローブを少なくとも含む、JAK2遺伝子変異解析用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、JAK2遺伝子の変異解析方法、特に、個体由来サンプル中の特定の変異を有するJAK2遺伝子の割合を解析する方法に関する。本発明はまた、該方法に有用な核酸プローブにも関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄増殖性疾患(cMPD;chronic myeloproliferative disorder)は、造血幹細胞レベルでの異常が認められるクローナルな疾患である。該疾患には、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、及び原発性骨髄線維症が含まれる。
【0003】
これら3種類の疾患の発症メカニズムは長らく不明であったが、2005年に、これらの3種類の疾患において、ヤーヌスキナーゼ(Janus kinase;JAK2)遺伝子のエキソン14の73番目のグアニン塩基がチミン塩基に置換される遺伝子変異(JAK2V617F)が高頻度に観察されることが報告された(非特許文献1)。このことから、当該JAK2遺伝子変異(JAK2V617F)の検出は、cMPDの診断及び治療計画において重要な役割を果たすと考えられる。
【0004】
実際には、一個体由来の血液試料であっても、変異型JAK2遺伝子を有する血液細胞と正常型JAK2遺伝子を有する血液細胞の両方が含まれる。このことが、JAK2遺伝子変異の検出を利用したcMPDの診断を複雑にしている。一方で、トランスジェニックマウスを用いた実験により、変異型JAK2遺伝子の含有割合(アレルバーデン;allele burden)とcMPDの病態との間に関連性が存在することが示唆されており、変異型JAK2遺伝子のアレルバーデン解析はcMPDの診断において極めて重要である(非特許文献2)。
【0005】
これまでに開発されているJAK2遺伝子変異の検出及びアレルバーデン解析に関する手法としては、直接シーケンス法、アリル特異的PCR法、及び解離曲線解析法が挙げられる。
【0006】
直接シーケンス法では、変異部位を含む領域をPCRで増幅し、その増幅産物についてサンガー法を利用したDNAシーケンサーを用いて塩基配列を解析する(非特許文献3)。この方法では、変異部位のシグナルの状態から、変異型遺伝子の検出及びアレルバーデン解析を行うことができる。この方法は操作が煩雑な上、臨床検体を対象とする場合にはバックグラウンドノイズの影響などにより正確なアレルバーデンの判定が困難であるという問題がある。
【0007】
アリル特異的PCR法では、PCRプライマーの3’末端付近に鋳型の塩基配列とのミスマッチが存在すると伸長反応が進まないことを利用して変異を検出する(非特許文献4)。この方法の特徴は感度が高いことであり、1%程度のアレルバーデンであっても検出することが可能である。しかしながら、この方法は、1つの検体に対して2回の反応(変異型遺伝子検出のための反応及び正常型遺伝子検出のための反応)を行なう必要があり、時間と労力を要する。また、臨床検体を対象とする場合、擬陽性を生じ易いという問題がある。
【0008】
解離曲線解析法では、まず遺伝子の変異部位を含む領域をPCRなどで増幅し、次に変異部位を含む領域に相補的なプローブを用いて、試料中の核酸由来の増幅産物とプローブとのハイブリッド(二本鎖核酸)を形成させる。続いて、得られたハイブリッド核酸を加熱し、温度上昇に伴うハイブリッドから一本鎖核酸への解離を、蛍光シグナル測定などにより検出する。このときの温度変化による蛍光値のシグナルの形状により、試料中の核酸が変異型遺伝子であるか正常型遺伝子であるかを判別する。解離曲線解析は、簡便ではあるが、変異型遺伝子の存在の有無を検出することができるのみであり、定量性が低いためアレルバーデン解析に用いることは困難である。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】James C.,Ugo V.,Le Couedic,J-P.ら,Nature,2005;434:1144-1148
【非特許文献2】Tiedt R.,Hao-shen H.,Sobas M.A.,ら,Blood,2008;111:3931-3940
【非特許文献3】Levine R.L.,Wernig G.,Hematology Am.Soc.Hematol.Educ.Program,2006;233-239
【非特許文献4】Larsen T.S.,ら,British Journal of Haematology,2007;136:745-751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、変異型JAK2遺伝子のアレルバーデン解析はcMPDの診断において極めて重要であるが、そのための十分な感度及び定量性を有する簡便な方法は未だ開発されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、簡便で定量性の高い変異型JAK2遺伝子のアレルバーデン解析のための方法を開発することを目標として、塩基による蛍光色素の消光現象に着目し、本発明を完成させた。
【0012】
具体的には、本発明は、以下の特徴を有する。
〔1〕以下のステップ:
(a)配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているプローブ、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されているプローブを準備するステップ、
(b)サンプル由来の核酸のJAK2遺伝子エキソン14中の、ステップ(a)のプローブと相補的な配列を含む領域を増幅するステップ、
(c)ステップ(b)の前、その途中、又は後に、サンプル由来の核酸又はその増幅産物にステップ(a)のプローブを添加して、増幅配列にプローブをハイブリダイズさせるステップ、及び
(d)第1の標識物質からのシグナルを検出するステップ
を含み、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異の解析方法。
【0013】
〔2〕前記プローブが、配列番号2の49位から5’側の16~44塩基長の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の16~46塩基長の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されている、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記プローブが、配列番号3の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されている、上記〔1〕に記載の方法。
【0014】
〔4〕第1の標識物質が、BODIPY FL、TAMRA、FAM、ローダミン6G、又はパシフィック・ブルーである、上記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の方法。
〔5〕前記プローブが、第1の標識物質と反対側の末端で、第1の標識物質とは異なるシグナルを生成する第2の標識物質により標識されており、ステップ(d)で第2の標識物質からのシグナルを第1の標識物質からのシグナルの検出と逐次的又は同時に検出し、その後、第1と第2の標識物質からのシグナルの比を算出する、上記〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
〔6〕ステップ(b)での増幅を、PCR法、LAMP法、NASBA法、RCA法、ICAN法、又はHDA法により行なう、上記〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の方法。
〔7〕サンプルが血液、骨髄液又はそれらの処理物である、上記〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の方法。
【0016】
〔8〕配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されており、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異解析用プローブ。
〔9〕配列番号2の49位から5’側の16~44塩基長の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の16~46塩基長の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されている、上記〔8〕に記載のプローブ。
【0017】
〔10〕前記プローブが、配列番号3の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されている、上記〔8〕に記載のプローブ。
〔11〕第1の標識物質と反対側の末端で、第1の標識物質とは異なるシグナルを生成する第2の標識物質により標識されている、上記〔8〕~〔10〕のいずれか1つに記載のプローブ。
〔12〕上記〔8〕~〔11〕のいずれか1つに記載のプローブを少なくとも含む、JAK2遺伝子変異解析用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便で定量性の高い変異型JAK2遺伝子のアレルバーデン解析のための方法が提供され、これにより、骨髄増殖性疾患の正確な遺伝子診断を低コストで簡便に行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の測定原理を表す模式図である。
【図2】標準サンプルを用いた本発明の方法によるアレルバーデン解析の標準曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、以下のステップ:
(a)配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているプローブ、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されているプローブを準備するステップ、
(b)サンプル由来の核酸のJAK2遺伝子エキソン14中の、ステップ(a)のプローブと相補的な配列を含む領域を増幅するステップ、
(c)ステップ(b)の前、その途中、又は後に、サンプル由来の核酸又はその増幅産物にステップ(a)のプローブを添加して、増幅配列にプローブをハイブリダイズさせるステップ、及び
(d)第1の標識物質からのシグナルを検出するステップ
を含み、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異の解析方法に関する。

【0021】
本発明は、ヌクレオチド塩基との近接による蛍光色素の消光現象に基づく。この現象の詳細については、Torimuraら,Anal.Sci.,2001,17,155-160を参照されたい。一部の蛍光色素は、酸化能の高い塩基(例えば、グアニン)との光誘導性電子移動により消光し得ることが示されている。本発明の方法では、グアニンとチミンとの間のこの消光現象を誘導する能力の差を利用して、JAK2遺伝子中のエキソン14の73番目の塩基のG→Tの点突然変異(JAK2V617F変異)の解析を行う。

【0022】
本発明の一実施形態の測定原理を、図1に示す。第1ステップでは、サンプル中の野生型JAK2遺伝子及び変異型JAK2遺伝子を、両者に共通のプライマーセットを用いて競合的に増幅させる。増幅手法は特に限定されないが、PCR法が好ましい。この過程で、サンプル中の野生型遺伝子及び変異型遺伝子は、アレルバーデンを保ったまま増幅される。第2ステップでは、増幅反応前、反応中又は反応後の反応液に、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素で標識した蛍光プローブを添加し、増幅核酸中のJAK2遺伝子の変異部分近傍にハイブリダイズさせる。蛍光プローブは変異部位の塩基を含まないため、野生型及び変異型遺伝子核酸の双方に等しい親和力で結合する。蛍光プローブは増幅反応に影響を与えないので、反応前に予め反応液に添加することができる。第3ステップでは、蛍光プローブの非結合時と結合時のそれぞれの蛍光強度を測定し、蛍光変化率(例えば、蛍光消光率)を算出する。このとき、蛍光プローブが野生型JAK2遺伝子核酸に結合した場合には、プローブに標識された蛍光色素からのシグナルが、近傍に存在するグアニン塩基の影響で変化(例えば、消光)する。一方、蛍光プローブが変異型JAK2遺伝子核酸に結合した場合は、JAK2変異の点突然変異部位がグアニン塩基からチミン塩基に変換されているため、蛍光色素近傍にグアニン塩基が存在せず、蛍光色素からのシグナルは変化(例えば、消光)しない。この蛍光変化率(例えば、蛍光消光率)の差から、サンプル中のアレルバーデンを定量することができる。

【0023】
JAK2遺伝子中のエキソン14の73番目の塩基は、登録番号AL161450としてGenBankに登録されているヒトゲノム配列の55061番目の塩基に相当し、本願の配列番号1の73番目の塩基、相補配列である配列番号2では50番目の塩基に相当する。

【0024】
本発明の方法で用いるプローブは、配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているプローブ(以下、「5’側プローブ」と称することもある。)、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されているプローブ(以下、「3’側プローブ」と称することもある。)であって、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である。

【0025】
プローブの塩基長は、ハイブリダイゼーションを利用した解析が可能であれば特に制限されないが、特異性の観点から、好ましくは15塩基長以上であり、より好ましくは16塩基長以上であり、最も好ましくは19塩基長以上である。また、融解温度又はTm値が一定の値を超えると、解析の条件設定が困難になる、増幅反応において共存させることができないなどの問題を生じるため、塩基長は好ましくは、50塩基長以下であり、より好ましくは、Tm値が75℃程度である44塩基長(5’側プローブ)又は46塩基長(3’側プローブ)以下である。最も好ましくは、プローブは、配列番号3に示す配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されている。

【0026】
第1の標識物質は、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素であり、好ましくは、上記の消光現象を呈する蛍光色素である。そのようなものとしては、例えば、BODIPY FL、TAMRA、FAM、ローダミン6G、及びパシフィック・ブルーが挙げられる。上記で具体的に挙げたもの以外でも、上記の消光現象を呈することが示されている蛍光色素であれば、本発明において用いることができる。

【0027】
例えば、第1の標識物質からのシグナルを、ハイブリダイゼーションの前後で測定するか、又はハイブリダイゼーション反応の間、リアルタイムで検出することにより、ハイブリダイゼーションによる標識物質のシグナルの変化を検出して、ハイブリダイゼーションしたプローブのうち、第1の標識物質のグアニンへの近接によりシグナルが変化したプローブの割合、すなわち、サンプル中に存在する核酸中の変異遺伝子の割合(アレルバーデン)を定量する。

【0028】
プローブは、第1の標識物質と反対側の末端で、第1の標識物質とは異なるシグナルを生成する第2の標識物質で標識されていてもよい。この場合、ステップ(d)で、第2の標識物質からのシグナルを第1の標識物質からのシグナルの検出と逐次的又は同時に検出し、その後、第1と第2の標識物質からのシグナルの比を算出する。これにより、アレルバーデン定量の精度を上げることができる。

【0029】
好ましくは、第2の標識物質もまた、第1の標識物質と同様にグアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素であり、ハイブリダイゼーションによって第2の標識物質がグアニンの近傍に位置するようにプローブの配列を設定する。そして、ハイブリダイゼーション後のシグナルについて、次式:
(Fsample-Fcontrol)/(Scontrol-Ssample
(式中、Fsample=サンプルの第1の標識物質からのシグナル、Fcontrol=陰性対照の第1の標識物質からのシグナル、Scontrol=陰性対照の第2の標識物質からのシグナル、Ssample=サンプルの第1の標識物質からのシグナル)
を用いて相対蛍光強度を算出する。標準サンプルについて上記の式により得られた相対蛍光強度から標準曲線を作成し、被験サンプルについての相対蛍光強度から、被験サンプルのアレルバーデンを求めることができる。

【0030】
ステップ(b)で増幅する核酸としては、細胞から抽出したトータルDNA、ゲノムDNA、cDNAなどのDNA、又はトータルRNA、mRNAなどのRNAが挙げられる。本発明の方法の対象となるサンプルとしては、上記のような核酸を含むものであれば特に制限されないが、血液、骨髄液、バフィーコートなどの核酸を含む血液処理物等が挙げられる。そのようなサンプルからの核酸の調製方法は、当該技術分野で周知である。

【0031】
本発明の方法におけるステップ(b)での対象核酸領域の増幅は、好ましくは、PCR法、LAMP法、NASBA法、RCA法、ICAN法、又はHDA法により行ない、最も好ましくは、PCR法により行なう。上記の各手法は、当該技術分野において周知である。

【0032】
核酸の増幅の前、その途中、又は後に、サンプル由来の核酸又はその増幅産物に、上記プローブを添加して、増幅配列にプローブをハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜設定することができる。好ましくは、増幅反応の前にサンプル由来の核酸を含む反応溶液にプローブを添加し、ハイブリダイゼーションを、増幅反応後、増幅反応溶液中で、プローブのTm値-10℃~-5℃の温度で行なう。ハイブリダイゼーションは、好ましくは50~70℃、より好ましくは55~65℃で行なう。プローブのTm値は、最近接塩基対法(Nearest Neighbor Method)等により算出することができる。

【0033】
本発明は、配列番号2の49位から5’側の配列を有し、3’末端が第1の標識物質により標識されているか、又は配列番号2の51位から3’側の配列を有し、5’末端が第1の標識物質により標識されており、第1の標識物質が、グアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素である、JAK2遺伝子変異解析用プローブにも関する。当該プローブの特徴は、上記で説明した通りである。

【0034】
また、本発明は、上記プローブを少なくとも含むJAK2遺伝子変異解析用キットにも関する。当該キットの追加の構成要素としては、被験核酸領域増幅用のプライマー、核酸増幅用の酵素及び反応バッファー等の試薬などが挙げられる。

【0035】
また、本発明の上記JAK2遺伝子変異解析用プローブは、全自動JAK2遺伝子変異解析装置での解析にも利用することができる。したがって、本発明は、全自動JAK2遺伝子変異解析装置にも関する。当該解析装置は、BODIPY FL、TAMRA、FAM、ローダミン6G及びパシフィック・ブルーなどのグアニンへの近接によりシグナルが変化する蛍光色素の蛍光強度を測定することができる蛍光測定デバイス、自動分注デバイス、遺伝子増幅デバイス等により構成される。

【0036】
さらに、本発明を利用して、JAK2遺伝子をバイオマーカーとするcMPD創薬のためのスクリーニングを行なうことも可能である。すなわち、本発明を用いて被験体のJAK2V617Fのアレルバーデンを正確に判定することにより被験体をスクリーニングし、種々の重症度を有するcMPD被験体による候補薬物への反応を調べることにより、cMPDに有効な薬物を取得することができる。

【0037】
以下で、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1:新規蛍光プローブを用いた標準曲線の作成
新規蛍光プローブを用いて、JAK2V617F突然変異のアレルバーデンについての標準曲線を作成した。
【実施例】
【0039】
プローブ(ABQP-JAKd-1)の配列を、以下に示す。
TAMRA-cctgtagttttacttactctcgtctccacaga-BODIPY-FL(配列番号3)
方法は以下の通りである。野生型JAK2遺伝子及び変異型JAK2遺伝子に由来する、常法に従い調製した濃度既知のゲノム配列PCR産物を、アレルバーデン(変異型の割合)が0%、20%、40%、60%、80%又は100%となるように混合し、鋳型として用いた。初期鋳型量は、10コピーとした。増幅反応に用いたプライマーの配列を、以下に示す:
フォワードプライマー(F-JAKd-1):5’-atctatagtcatgctgaaagtaggagaaag-3’(配列番号4)
リバースプライマー(R-JAKd-1):5’-ctgaatagtcctacagtgttttcagtttca-3’(配列番号5)
(共に、Baxter E.J.ら,Lancet,2005,365:1054-1061を参照されたい。)
【実施例】
【0040】
反応液の組成は以下の通りである:10コピー/反応 鋳型DNA、120nM プローブ(ABQP-JAKd-1)、500nM フォワードプライマー(F-JAKd-1)、150nM リバースプライマー(R-JAKd-1)、0.2mM dNTPミックス、1×TITANIUM Taq PCRバッファー(タカラバイオ株式会社)、1×TITANIUM Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)。反応温度条件は、94℃、3分(解離反応)の後、94℃、30秒→62℃、30秒→72℃、30秒を50サイクル、72℃、2分(伸長反応)とした。PCR反応後、95℃、2分、及び55℃、2分の2点においてBODIPY-FL及びTAMRAからの蛍光強度を測定し、それぞれの温度における蛍光強度から以下の式により表される相対蛍光強度を算出した。蛍光強度の測定は、LightCycler480(Roche社)を用いて行なった。相対蛍光強度は、各サンプルのBODIPY-FLの蛍光強度をBs、TAMRAの蛍光強度をTs、陰性対照(鋳型なし)のBODIPY-FLの蛍光強度をBp、TAMRAの蛍光強度をTpとしたとき、(Bs-Bp)/(Tp-Ts)から算出される。
【実施例】
【0041】
算出した相対蛍光強度をサンプルのアレルバーデンに対してグラフ化したものを、図2に示す。図2から明らかなように、測定結果からは直線性が得られ、相関係数R=0.996であった。測定を3連で3回実施し、いずれの場合にも同様の結果を得た。
【実施例】
【0042】
実施例2:新規蛍光プローブを用いたJAK2アレルバーデン定量の正確性確認試験
細胞から抽出したDNAのJAK2アレルバーデンを上記の新規蛍光プローブを用いて定量し、アッセイの正確性を試験した。
【実施例】
【0043】
JAK2野生型株(UT-7/Epo株)及びJAK2変異型株(HEL株)からトータルDNAを抽出し、260nm及び280nmにおける吸光度の比から、各DNAサンプルの濃度を決定した。得られた濃度に基づき、野生型DNAと変異型DNAとを、アレルバーデンが50%、10%、5%又は1%となるように混合し、正確性試験のための定量用サンプルとした。反応液組成、反応温度条件、及び蛍光強度の測定条件は実施例1に記載の通りとした。試験を3連で3回実施し、3回の定量結果からRSD(残差標準偏差)値を算出し、アッセイの正確性を評価した。
【実施例】
【0044】
結果を表1に示す。結果から、アレルバーデンが5%以上の場合、RSD値は25%を下回り、極めて正確に、サンプル中のJAK2アレルバーデン定量が可能であることが示された。
【実施例】
【0045】
【表1】
JP0005787304B2_000002t.gif
【実施例】
【0046】
実施例3:新規蛍光プローブを用いた臨床サンプルのJAK2アレルバーデン定量試験
上記の新規蛍光プローブを用いて、臨床サンプル中のJAK2アレルバーデンの定量を行なった。
【実施例】
【0047】
山梨大学医学部附属病院血液腫瘍内科を受診中のcMPD患者の末梢血から抽出したDNAサンプルのうち、直接シーケンス法を用いて変異の有無が判明しているものをサンプルとして用いた。反応液組成、反応温度条件、及び蛍光強度の測定条件は実施例1に記載の通りとした。測定は3連で3回実施した。
【実施例】
【0048】
結果を表2に示す。表中、PVは真性赤血球増加症(polycythemia vera)、ETは本態性血小板血症(essential thrombocytosis)、PMFは原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis)を意味する。
【実施例】
【0049】
【表2】
JP0005787304B2_000003t.gif
【実施例】
【0050】
結果から、本発明の方法を用いたJAK2アレルバーデンの定量結果と、直接シーケンス法を用いた判定結果とが、良好な相関を有していることが明らかとなった。直接シーケンス法の判定結果でそれぞれヘテロ型又はホモ型と判定されたサンプルが、本発明の方法のアレルバーデン定量では同程度の値となっているケースも存在した(表2、サンプルNo.3及び5)。このことから、本発明の方法によるアレルバーデン定量の重要性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、医学的診断、特に骨髄増殖性疾患の診断及び治療設計において有用性を有する。
図面
【図1】
0
【図2】
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