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明細書 :植物用抵抗性誘導剤、植物の抵抗性誘導方法、及び植物病害の予防方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5807955号 (P5807955)
公開番号 特開2013-124241 (P2013-124241A)
登録日 平成27年9月18日(2015.9.18)
発行日 平成27年11月10日(2015.11.10)
公開日 平成25年6月24日(2013.6.24)
発明の名称または考案の名称 植物用抵抗性誘導剤、植物の抵抗性誘導方法、及び植物病害の予防方法
国際特許分類 A01N  43/16        (2006.01)
A01N  43/40        (2006.01)
A01N  33/26        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
A01G   7/06        (2006.01)
FI A01N 43/16 C
A01N 43/40 101D
A01N 33/26
A01P 3/00
A01G 7/00 604Z
A01G 7/06 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2011-274486 (P2011-274486)
出願日 平成23年12月15日(2011.12.15)
審査請求日 平成26年12月8日(2014.12.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
発明者または考案者 【氏名】平塚 和之
【氏名】尾形 信一
【氏名】小倉 里江子
【氏名】草間 勝浩
【氏名】原 裕芽子
【氏名】牧野 美保
【氏名】梶 翔太
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100108578、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 詔男
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100107836、【弁理士】、【氏名又は名称】西 和哉
【識別番号】100108453、【弁理士】、【氏名又は名称】村山 靖彦
審査官 【審査官】水島 英一郎
参考文献・文献 国際公開第2009/119915(WO,A1)
特開2013-043844(JP,A)
特表2009-539817(JP,A)
特表2006-524196(JP,A)
特開平09-255751(JP,A)
調査した分野 A01N 43/16
A01N 33/26
A01N 43/40
A01P 21/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(C)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物抵抗性誘導剤。
【化1】
JP0005807955B2_000008t.gif
(一般式(C)中、Xはハロゲンを表す。)
【請求項2】
下記一般式(B)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物抵抗性誘導剤。
【化2】
JP0005807955B2_000009t.gif
(一般式(B)中、Xはハロゲンを表す。)
【請求項3】
下記一般式(A)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物抵抗性誘導剤。
【化3】
JP0005807955B2_000010t.gif
(一般式(A)中、X,Xは各々独立にハロゲンを表し、Rは炭素原子数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を表す。)
【請求項4】
抗菌性物質を誘導することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の植物抵抗性誘導剤。
【請求項5】
病原性糸状菌に対する抵抗性を誘導することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の植物抵抗性誘導剤。
【請求項6】
アブラナ科植物に対して使用されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の植物抵抗性誘導剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の植物抵抗性誘導剤を植物に曝露することを特徴とする植物の抵抗性誘導方法。
【請求項8】
請求項7に記載の植物の抵抗性誘導方法を使用することを特徴とする植物病害の予防方法。
【請求項9】
病原性糸状菌の感染による病害を予防することを特徴とする請求項8に記載の植物病害の予防方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害の原因となる菌類の増殖を抑制する植物抵抗性誘導剤、植物の抵抗性誘導方法、及び植物病害の予防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物や園芸用植物において、病原菌による病害を低減するために農薬が使用されている。しかし、人々の健康に対するリスクや環境負荷を低減するために、従来の農薬の使用量を減らし、より安全性の高い農薬の使用が求められている。この社会的要請に応える農薬として、植物抵抗性誘導剤の開発が進められている。
【0003】
植物抵抗性誘導剤は、それ自体が病原体を死滅させる作用は殆ど無く、植物が本来有する防御機構を活性化することにより、植物自身が病原体を退けることを促す作用を有するものである。例えば、サリチル酸(SA)、プロベナゾール、バリダマイシンA、アシベンゾラルSメチル(ASM)等が知られる。これらの植物抵抗性誘導剤は、植物の全身獲得抵抗性(SAR)モデルとして知られる防御機構を活性化する。具体的には、植物体の一部分が病原体の攻撃を感知すると、植物体中のサリチル酸濃度が高まり、次いで転写制御因子であるNPR1を介してPR遺伝子群を発現するというシグナル伝達経路によって、病原体に対する抵抗性を当該植物体の全身において獲得させる(図1参照)。上記の植物抵抗性誘導剤は既に実用化されて世界中で使用されている。
また、新たな植物抵抗性誘導剤を探索するために、SARモデルに基づき、PR-1α遺伝子の発現モニタリング系を利用したスクリーニング方法の開発も盛んである(非特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Evaluation of the Use of the Tobacco PR-1α Promoter to Monitor Defense Gene Expression by the Luciferase Bioluminescence Reporter System, Biosci. Biotechnol. Biochem., 75(9), 1796-1800 (2011)
【非特許文献2】Non-destructive bioluminescence detection system for monitoring defense gene expression in tobacco BY-2 cells, Plant Biotechnology, 28, 295-301 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の植物抵抗性誘導剤には、植物の生育を阻害してしまう問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、植物の病害に対する抵抗性を高めるとともに、植物の生育阻害を低減することができる植物抵抗性誘導剤、該植物抵抗性誘導剤を用いた植物の抵抗性誘導方法、及び該抵抗性誘導方法を使用した植物病害の予防方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の植物抵抗性誘導剤は、下記一般式(C)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【0007】
【化1】
JP0005807955B2_000002t.gif
(一般式(C)中、Xはハロゲンを表す。)
【0008】
本発明の請求項2に記載の植物抵抗性誘導剤は、請求項1において、下記一般式(B)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【0009】
【化2】
JP0005807955B2_000003t.gif
(一般式(B)中、Xはハロゲンを表す。)
【0010】
本発明の請求項3に記載の植物抵抗性誘導剤は、下記一般式(A)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【0011】
【化3】
JP0005807955B2_000004t.gif
(一般式(A)中、X,Xは各々独立にハロゲンを表し、Rは炭素原子数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を表す。)
【0012】
本発明の請求項4に記載の植物抵抗性誘導剤は、請求項1~3のいずれか一項において、抗菌性物質を誘導することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の植物抵抗性誘導剤は、請求項1~4のいずれか一項において、病原性糸状菌に対する抵抗性を誘導することを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の植物抵抗性誘導剤は、請求項1~5のいずれか一項において、アブラナ科植物に対して使用されることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の植物の抵抗性誘導方法は、請求項1~6のいずれか一項に記載の植物抵抗性誘導剤を植物に曝露することを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の植物病害の予防方法は、請求項7に記載の植物の抵抗性誘導方法を使用することを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の植物病害の予防方法は、請求項8において、病原性糸状菌の感染による病害を予防することを特徴とする。
本明細書における「植物抵抗性誘導剤」の用語は、「植物用抵抗性誘導剤」の意味である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる植物抵抗性誘導剤によれば、植物病害を低減することができると共に、植物の生育速度の低下を抑制することができる。また、本発明にかかる植物抵抗性誘導方法によれば、対象となる植物に植物抵抗性誘導剤を曝露するという簡易な方法で、植物病害を低減することができると共に、植物の生育速度の低下を抑制することができる。また、この方法によって、対象となる植物が病原菌に感染することを予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】植物の全身獲得性モデル(SAR)を表す模式図である。
【図2】本発明にかかる植物病害の予防方法を表した模式図である。
【図3】本発明にかかる植物抵抗性誘導剤のPR-1α遺伝子発現の誘導変移を調べた結果の一例である。
【図4】実施例のRT-PCRで使用したプライマーの配列である。
【図5】本発明にかかる植物抵抗性誘導剤の感染抑制活性を調べた結果の一例である。
【図6】本発明にかかる植物抵抗性誘導剤が植物の成長に与える影響を調べた結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
<第一実施形態>
本発明の植物抵抗性誘導剤の第一実施形態は、下記一般式(C)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むものである。

【0016】
【化4】
JP0005807955B2_000005t.gif
(一般式(C)中、Xはハロゲンを表す。)

【0017】
一般式(C)のXは、Cl, Br, I,等の周期表において第17族に属する元素であり、Cl又はBrが好ましく、Clがより好ましい。
XがClの場合、一般式(C)で表される化合物は、
6-Chloro-4-hydroxycoumarin(IUPAC Name: 6-chloro-2-hydroxychromen-4-one)である。
以下では、XがClの化合物を化合物C1という。

【0018】
<第二実施形態>
本発明の植物抵抗性誘導剤の第一実施形態は、下記一般式(B)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むものである。

【0019】
【化5】
JP0005807955B2_000006t.gif
(一般式(B)中、Xはハロゲンを表す。)

【0020】
一般式(B)のXは、Cl, Br, I,等の周期表において第17族に属する元素であり、Cl又はBrが好ましく、Brがより好ましい。
XがBrの場合、一般式(B)で表される化合物は、
5-Bromonicotinic acid (IUPAC Name: 5-bromopyridine-3-carboxylic acid)である。
以下では、XがBrの化合物を化合物B1という。

【0021】
<第三実施形態>
本発明の植物抵抗性誘導剤の第三実施形態は、下記一般式(A)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むものである。

【0022】
【化6】
JP0005807955B2_000007t.gif
(一般式(A)中、X,Xは各々独立にハロゲンを表し、Rは炭素原子数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を表す。)

【0023】
一般式(A)のX,Xは各々独立にCl, Br, I,等の周期表において第17族に属する元素であり、Cl又はBrが好ましく、Clがより好ましい。X,Xは同じであっても異なっていてもよい。
Rは炭素原子数1~6の直鎖状のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~5の直鎖状のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~4の直鎖状のアルキレン基が更に好ましく、炭素原子数1~3の直鎖状のアルキレン基が特に好ましく、メチレン基(-CH2-)又はエチレン基(-CH2-CH2-)が最も好ましい。
X,Xが共にClであり、Rがエチレン基の場合、一般式(A)で表される化合物は、
3,5-dichloro-2-hydroxy benzaldehyde N-(2-hydroxyethyl) hydrazone
(IUPAC Name: 2,4-dichloro-6-[(1E)-[2-(2-hydroxyethyl)hydrazin-1-ylidene]methyl]phenol)である。以下では、X,Xが共にClであり、Rがエチレン基の化合物を化合物A1という。

【0024】
一般式(A), (B), (C)で表される化合物は塩であってもよく、その塩は農業上許容可能な塩であることが好ましい。すなわち、当該塩のうちで、カチオンの形態が公知のものであり、農業用又は園芸用の塩を形成するために許容されているもの、例えばNa+やK+等のカチオンとの塩であることが好ましい。また、当該塩は水溶性であることが好ましい。

【0025】
本発明にかかる一般式(A), (B), (C)で表される化合物又はその塩は、後述の実施例で示すように、対象となる植物において従来の植物抵抗性誘導剤であるASMと同等以上にPR-1α遺伝子の発現を誘導することができる。また、ASMと比べて植物の生育阻害の程度が少なくなっている。したがって、一般式(A), (B), (C)で表される化合物又はその塩のうち、1種以上を有効成分として含む薬剤は、優れた植物抵抗性誘導剤となる。

【0026】
本発明にかかる植物抵抗性誘導剤によって、病原菌の感染を受けた植物体のPR-1α遺伝子の発現が増強することから、本発明にかかる植物抵抗性誘導剤は図1に示したSA、NPR1、及びPR-1α遺伝子のシグナル伝達経路を正に調節して(活性化して)、対象となる植物に全身獲得性抵抗を付与するものと考えられる。

【0027】
本発明にかかる植物抵抗性誘導剤は、植物の防御応答を活性化することによって、PRタンパク質(pathogenesis-related proteins)等の発現を誘導又は促進することができる。ここでPRタンパク質は、それ自身が抗菌活性を有するタンパク質、及び他の抗菌性物質を生成しうるタンパク質の総称である。

【0028】
一般に、植物が生成するPRタンパク質は非常に広い抗菌スペクトルを有する。本発明にかかる植物抵抗性誘導剤は、対象となる植物がPRタンパク質を生成するように誘導又は促進するものであるから、本発明にかかる植物抵抗性誘導剤の抗菌スペクトルは、当該植物のPRタンパク質が有する抗菌スペクトルと同様に非常に広いものとなる。例えば、病原性の糸状菌(例えばColletotrichum属)や細菌(例えばPseudomonas属)等に対して有効である。また,全身獲得抵抗性の誘導により,各種ウイルス病にも有効であると考えられる。

【0029】
前記病原性の糸状菌としては、例えば、青かび病、赤枯病、溝腐病、糸状菌性やさび病菌による赤衣病、赤星病、灰色かび病、赤焼病、イエローパッチ、萎黄病、萎凋病、うどんこ病、紫かび病、輪紋病、灰斑病、角斑病、糸状菌性による褐色腐敗病、褐色円斑病、褐色円星病、褐点病、褐斑病、せん孔褐斑病、褐変病、褐紋病、株腐病などを引き起こす糸状菌が好ましく、Colletotrichum属の糸状菌がより好ましく、Colletotrichum higginsianum(以下、C. higginsianumという。)がさらに好ましい。細菌病としては黒腐病,軟腐病,斑点細菌病などを引き起こす細菌が好ましい。

【0030】
本発明にかかる植物抵抗性誘導剤の使用対象となる植物の種類は、前記SARモデルにより抵抗性を獲得できる植物であれば特に制限されず、陸上植物であっても水生植物であってもよい。陸上植物としては、被子植物、裸子植物が好適であり、キク科、ラン科、ユリ、科、マメ科、イネ科、アカネ科、トウダイグサ科、カヤツリグサ科、セリ科、シソ科、ウリ科、ナス科、及びアブラナ科がより好適であり、ナス科及びアブラナ科が更に好適である。

【0031】
前記ユリ科の植物としては、タマネギが例示できる。前記マメ科の植物としては、大豆が例示できる。前記セリ科の植物としては、ニンジンが例示できる。前記イネ科の植物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、ムギ等が挙げられる。前記ウリ科の植物としては、例えばメロン、スイカ、冬瓜、キュウリ、カボチャなどが挙げられる。前記ナス科の植物としては、例えばタバコ、トマト、ジャガイモ、ナス、ピーマンなどが挙げられる。前記アブラナ科の植物としては、例えばナズナ、アブラナ、キャベツ、ケール、ハクサイ、カブ、ダイコン、ワサビ、カラシなどが挙げられる。

【0032】
後述する実施例ではアブラナ科植物であるシロイヌナズナにおいて、病害に対する抵抗性の指標となるPR-1α遺伝子の発現が向上していた。故に、本発明の植物抵抗性誘導剤はアブラナ科植物に対して使用されることが特に好ましい。また、同じ理由から、本発明の植物の抵抗性誘導方法もアブラナ科植物に対して行われることが特に好ましい。

【0033】
本発明にかかる植物の抵抗性誘導方法は、一般式(A), (B), (C)で表される化合物又はその塩のうち、1種以上を有効成分として含む植物抵抗性誘導剤を、対象となる植物に曝露する方法である。当該方法によって、対象となる植物に、病害に対する抵抗性を誘導することができる。なお、前記植物抵抗性誘導剤の調製(調剤)は、従来の植物抵抗性誘導剤と同様に公知の方法で行うことができる。調製に用いる溶媒は、本発明にかかる植物抵抗性誘導剤を、有効成分となりうる濃度で溶解できるものであれば特に制限されず、公知の溶媒を用いることができる。前記溶媒は植物に対して害が無い又は害が少ないものが好ましい。前記有効成分となりうる濃度は、例えば後述の実施例で説明する植物抵抗性誘導方法により検討して決定することができ、例えば0.1μM~100mMの濃度範囲で検討することができる。ただし、この濃度範囲に限定されるものではない。

【0034】
本発明にかかる植物抵抗性誘導剤を対象となる植物に曝露する具体的な操作や手段は特に制限されない。例えば一般式(A), (B), (C)で表される化合物又はその塩のうち1種以上を、有効成分となりうる濃度で溶解させた薬液を調製し、該薬液を霧吹き等で植物体に噴霧したり、該薬液を浸みこませたガーゼを植物体に密着させたり、該薬液を注射器によって植物体の茎に注入したり、点滴器具を用いて該薬液を植物体の根に点滴したりする操作が例示できる。

【0035】
本発明にかかる植物の抵抗性誘導方法において、前記薬液を噴霧する植物体の部位は特に制限されない。例えば、植物体が有する全ての葉や茎の全体に噴霧しても良いし、一部の葉や一部の茎だけに噴霧してもよい。植物体全体に噴霧しない場合にも、噴霧された部位において生産された二次代謝物が、植物体の必要な箇所へ行き渡って、噴霧されていない部位においても病害に対する抵抗性が獲得されうる。

【0036】
図2は、本発明にかかる植物病害の予防方法を表した模式図である。該予防方法は、対象となる植物体が病原菌に感染する前に、本発明の植物体抵抗性誘導剤及び抵抗性誘導方法によって、植物体に一次刺激を与える(プライミング処理を行う)方法である。その後、当該植物体が病原菌による侵入や攻撃を受けた際、これが二次刺激となって、プライミング処理を行っていない場合に比べて、より迅速かつ強力な防御応答を生じさせることができる。

【0037】
前記予防方法が対象とする病害の種類および病原菌の種類は特に制限されない。後述する実施例ではアブラナ科植物であるシロイヌナズナにおいて、病原性糸状菌である炭疽病菌を感染させた場合に、植物の抵抗性獲得の指標となるPR-1α遺伝子の発現が向上していた。故に、本発明にかかる植物病害の予防方法は、病原性糸状菌の感染による病害を予防する目的で行われることが好ましい。
【実施例】
【0038】
[参考試験]
ジメチルスルホキシド水溶液(約3%)を溶媒として、化合物A1を100μMで含む薬液a1、化合物B1を100μMで含む薬液b1、化合物C1を100μMで含む薬液c1、を準備した。C. higginsianumが胞子濃度105 spores/シャーレ1枚となるように播種されたPDA培地上に、各薬液10μlを含ませた濾紙を載せて、24℃で約2週間静置した。
その結果、いずれの薬液を含ませた濾紙の周辺においても、C. higginsianumが増殖していたことから、化合物A1,B1,C1はいずれもC. higginsianumに対する直接の殺菌性は有さないことが確認された。なお、同様の方法で行ったポジティブコントロールであるHygromycinを含む濾紙の周辺では、C. higginsianumの増殖は顕著に抑制されていた。
【実施例】
【0039】
対象植物としてシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana ecotype Columbia)を使用し、化合物A1,B1,C1を曝露することによって、病原性糸状菌である炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)(NIAS Genebanke: MAFF305635)に対する抵抗性の獲得を調べた。対照化合物として、公知の植物抵抗性誘導剤であるASMを用いた。
【実施例】
【0040】
<プライミング効果の評価>
[実施例1]
PR-1a遺伝子プロモーターの下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結したプラスミドコンストラクト(PR-1a::Fluc+)を導入したシロイヌナズナ種子を100μlの滅菌水とともに96Wellプレートに播種し、5日間の春化処理をした後に終濃度0.1mMのルシフェリンを添加し、バイオトロン(明条件12時間、暗条件12時間、相対湿度100%)に置いた。その24時間後、化合物A1を2mMで含むジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を各Wellに添加して、化合物A1の終濃度が約28μMとなるように調整した。化合物A1を添加した48時間後に、プライミングの効果を検証するために、各Wellに終濃度2mMとなるようにサリチル酸(SA)を添加して二次刺激を与え、PR-1a遺伝子発現誘導活性をルシフェラーゼ活性の測定によって調べた。この際、化合物A1を含まないDMSOをネガティブコントロールとし、化合物A1と同じ濃度で使用したASMのDMSO溶液をポジティブコントロールとした。その結果を図3(a)のグラフに示す。
グラフから明らかなように、化合物A1はASMと同等の発光量を示していることから、化合物A1はASMと同等のプライミングの効果を有する。
【実施例】
【0041】
[実施例2]
化合物A1の代わりに化合物B1を使用した以外は、実施例1と同様に試験した。その結果を図3(b)のグラフに示す。
グラフから明らかなように、化合物B1はASMより劣るものの、ネガティブコントロールと比べて有意に高い発光量を示していることから、化合物B1はプライミングの効果を有する。
【実施例】
【0042】
[実施例3]
化合物A1の代わりに化合物C1を使用した以外は、実施例1と同様に試験した。その結果を図3(c)のグラフに示す。
グラフから明らかなように、1日目(化合物処理後48時間)~5日目までは、化合物C1はASMよりも高い発光量を示しており、この期間においてはASMよりも優れたプライミングの効果を有する。また、9日目以降の期間においてはASMよりも発光量が少ないが、ASMとほぼ同等のプライミングの効果を有するといえる。
【実施例】
【0043】
実施例1~3の結果から、各化合物A1,B1,C1は、全身獲得抵抗性(SAR)に関するシグナル伝達経路を活性化してプライミングの効果を発揮しうるので、植物病害の予防に有用であり、植物病害に対する抵抗性を誘導することができる。
【実施例】
【0044】
<病原菌に対する抵抗性の評価>
[実施例4]
化合物A1が有する病原体に対する抵抗性誘導能を評価するため、RT-PCRによってシロイヌナズナのAt-CBP20遺伝子とC. higginsianum のCh-ACT遺伝子の発現量とをそれぞれ定量し、At-CBP20遺伝子発現量に対するCh-ACT遺伝子の発現量を求めることにより、C. higginsianumの増殖、すなわち炭疽病の感染抑制活性を評価した。この際、下記参考文献に記載された具体的方法を適宜参考にして行った。なお、各遺伝子はハウスキーピング遺伝子である。
(参考文献:Monitoring fungal viability and development in plants infected with Colletorichum higginsianum by quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction. J. Gen. Plant Pathol., 76: 1-6 (2010))
【実施例】
【0045】
発芽8日後のシロイヌナズナ成熟植物体(Col-0)に、DMSO水溶液(約3%)を用いて100μMに調製した化合物A1をスプレー噴霧し、その48時間後に、胞子濃度106 spores/mlに調製したC. higginsianum を含む滅菌水をスプレーで接種した。接種4日後に植物体の地上部を採取し、抽出したRNAから作成したcDNAを用いて定量RT-PCRを公知の方法で行った。プライマーは、図4に示す配列のものを使用した。
また、化合物A1を含まないDMSO水溶液をネガティブコントロール(図中、「Control」と表記した。)とし、化合物A1と同じ濃度で使用したASMのDMSO水溶液をポジティブコントロール(図中、「ASM」と表記した。)とした。これらの結果を図5(a)のグラフに示す。なお、図5において、「a,b」の符号は、同じ符号を付した棒同士は有意差が無いことを示す。
グラフから明らかなように、化合物A1はASMと同等の感染抑制活性を示した。
【実施例】
【0046】
[実施例5]
化合物A1の代わりに化合物B1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例4と同様に試験した。その結果を図5(b)のグラフに示す。
グラフから明らかなように、化合物B1はASMと同等の感染抑制活性を示した。
【実施例】
【0047】
[実施例6]
化合物A1の代わりに化合物C1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例4と同様に試験した。その結果を図5(c)のグラフに示す。
グラフから明らかなように、化合物C1はASMと同等以上の感染抑制活性を示した。
【実施例】
【0048】
<植物の生育阻害活性の評価1>
[実施例7]
発芽8日後のシロイヌナズナ成熟植物体(Col-0)に、DMSO水溶液(約3%)を用いて100μMに調製した化合物A1をスプレー噴霧し、その48時間後に、胞子濃度102 spores/mlに調製したC. higginsianum を含む滅菌水をスプレーで接種した。接種14日後に植物体の地上部を採取し、植物体の地上部の生重量を測定した。また、化合物A1を含まないDMSO水溶液を用いた場合をネガティブコントロール(図中、「Control」と表記した。)とし、ASMを同濃度で含むDMSO水溶液を用いた場合をポジティブコントロール(図中、「ASM」と表記した。)とした。その結果を図6のグラフ(左)に示す。なお、図6において、「A,B,C,D,a,b」の符号は、同じ符号を付した棒同士は有意差が無いことを示す。
グラフから明らかなように、化合物A1はASMよりも生育阻害の程度が低かった。つまり、化合物A1を用いた場合の方が、シロイヌナズナがより大きく成長していた。
【実施例】
【0049】
[実施例8]
化合物A1の代わりに化合物B1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例7と同様に試験した。その結果を図6のグラフ(左)に示す。
グラフから明らかなように、化合物B1は化合物A1及びASMよりも生育阻害の程度が低かった。つまり、化合物B1を用いた場合の方が、シロイヌナズナがより大きく成長していた。
【実施例】
【0050】
[実施例9]
化合物A1の代わりに化合物C1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例7と同様に試験した。その結果を図6のグラフ(左)に示す。
グラフから明らかなように、化合物C1は、化合物A1、化合物B1及びASMよりも生育阻害の程度が低かった。つまり、化合物C1を用いた場合の方が、シロイヌナズナがより大きく成長していた。
【実施例】
【0051】
<植物の生育阻害活性の評価2>
[実施例10]
発芽8日後のシロイヌナズナ成熟植物体(Col-0)に、DMSO水溶液(約3%)を用いて100μMに調製した化合物A1をスプレー噴霧し、その48時間後に、単なる滅菌水をスプレーで噴霧した。その14日後に植物体の地上部を採取し、植物体の地上部の生重量を測定した。また、化合物A1を含まないDMSO水溶液を用いた場合をネガティブコントロール(図中、「Control」と表記した。)とし、ASMを同濃度で含むDMSO水溶液を用いた場合をポジティブコントロール(図中、「ASM」と表記した。)とした。その結果を図6のグラフ(右)に示す。
グラフから明らかなように、化合物A1はASMと同等の生育阻害を示した。
【実施例】
【0052】
[実施例11]
化合物A1の代わりに化合物B1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を図6のグラフ(右)に示す。
グラフから明らかなように、化合物B1は化合物A1及びASMと同等の生育阻害を示した。
【実施例】
【0053】
[実施例12]
化合物A1の代わりに化合物C1を300μMの濃度で使用し、ASMの濃度も300μMに変更した以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を図6のグラフ(右)に示す。
グラフから明らかなように、化合物C1は、化合物A1、化合物B1及びASMよりも生育阻害の程度が低かった。また、化合物C1は、化合物を含まないDMSO水溶液を噴霧した場合と生育阻害活性が同等であることから、化合物C1は実質的に植物の生育を阻害しないことが明らかである。
【実施例】
【0054】
実施例4~12の結果から、各化合物A1,B1,C1は、従来のASMと同等レベルで病害に対する抵抗性を誘導し、且つ従来のASMよりも植物の生育阻害の程度が少ないという、優れた植物抵抗性誘導剤であることが明らかである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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