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明細書 :熱蛍光体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5835539号 (P5835539)
公開番号 特開2012-052070 (P2012-052070A)
登録日 平成27年11月13日(2015.11.13)
発行日 平成27年12月24日(2015.12.24)
公開日 平成24年3月15日(2012.3.15)
発明の名称または考案の名称 熱蛍光体及びその製造方法
国際特許分類 C09K  11/63        (2006.01)
C09K  11/08        (2006.01)
G01T   1/02        (2006.01)
FI C09K 11/63
C09K 11/08 B
G01T 1/02 B
請求項の数または発明の数 9
全頁数 26
出願番号 特願2010-197876 (P2010-197876)
出願日 平成22年9月3日(2010.9.3)
審査請求日 平成25年9月3日(2013.9.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
発明者または考案者 【氏名】漆山 秋雄
【氏名】冨澤 祐司
個別代理人の代理人 【識別番号】100085419、【弁理士】、【氏名又は名称】大垣 孝
【識別番号】100141955、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 宏之
審査官 【審査官】▲吉▼澤 英一
参考文献・文献 特許第4431701(JP,B2)
特開2010-127930(JP,A)
特開2003-183637(JP,A)
特開2007-183149(JP,A)
米国特許第04248731(US,A)
調査した分野 C09K 11/63
C09K 11/08
G01T 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
母体としての七ホウ酸リチウムと、前記母体中に存在する発光中心としての銅とを含み、
熱蛍光の波長に対する発光強度分布が唯一かつ単峰型であり、及び600nmよりも短波長の可視領域内に存在する
ことを特徴とする熱蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の熱蛍光体であって、
前記波長に対する発光強度分布が400~550nmの範囲内の波長領域に存在する
ことを特徴とする熱蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱蛍光体であって、
熱蛍光の温度に対する発光強度分布が、45~130℃の範囲内において唯一かつ単峰型である
ことを特徴とする熱蛍光体。
【請求項4】
四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する第1工程と、
該混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、該混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、前記母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える第2工程と
を含み、
前記第1工程において、前記四ホウ酸リチウムと前記酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合する
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
【請求項5】
四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する第1工程と、
該混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、該混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、前記母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える第2工程と
を含み、
前記第1工程において、前記四ホウ酸リチウムと前記酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=6:1のモル比で混合する
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
【請求項6】
四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する第1工程と、
該混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、該混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、前記母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える第2工程と
を含み、
前記第1工程において、前記四ホウ酸リチウムと前記酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=2:1のモル比で混合する
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の熱蛍光体の製造方法であって、
前記第2工程において、前記熱処理を850℃の温度で行う
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項4~のいずれか一項に記載の熱蛍光体の製造方法であって、
前記第1工程において、前記酸化銅(II)を前記混合体に対して0.1~0.35wt%の範囲内の割合で混合する
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項4~のいずれか一項に記載の熱蛍光体の製造方法であって、
前記第1工程において、前記四ホウ酸リチウム、前記酸化ホウ素、及び前記酸化銅(II)の各重量を調整して混合することによって、当該熱蛍光体の実効原子番号を調整する
ことを特徴とする熱蛍光体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、熱蛍光体及びその製造方法に関し、特に放射線の3次元線量分布を取得するための線量計であって、人体と組織等価な当該線量計の材料として使用可能な熱蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、近年の放射線治療では、放射線として例えば硬X線、電子線、または加速粒子線等を、照射する放射線の形状及び線量の大小を適宜設定して照射する3次元原体照射(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)などの、高度な定位放射線照射が注目されている(例えば、非特許文献1参照)。これらの治療方法では、例えば治療計画装置を利用して放射線の照射位置や範囲、または出力等の種々のパラメータを設定して、放射線の照射を行う。これによって、例えば、病巣に近接する重要な臓器を避けて、病巣のみに高線量で放射線を照射する等の、精密な治療を実現させる努力がなされている。従って、このような放射線治療では、上述した各種パラメータを好適な値に決定することが重要である。そして、照射装置自体の機械的精度、装置が具える各種フィルタや線幅拡大器等の管理には、高い精度が求められる。
【0003】
そこで、このような放射線治療では、実施に際して、治療に用いる放射線の線量測定を行うことによって、上述した各種パラメータ値の決定や精度の検証を行う必要がある。特に、放射線を照射すべき病巣近傍における、放射線の立体的な線量分布に関しては、多くの経験的なデータを得る必要がある。
【0004】
ここで、放射線の立体的な線量分布、すなわち3次元線量分布を測定するための線量計として、熱蛍光板状体が立体的に複数枚積層されて構成された熱蛍光積層体が周知である(例えば特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1によれば、熱蛍光積層体を構成する熱蛍光板状体は、平板状の板状体であり、かつ熱蛍光物質、すなわち四ホウ酸リチウム等を母体とし、この母体に発光中心としてのマンガンが添加された熱蛍光物質を材料として形成されている。そして、この熱蛍光板状体によって構成された熱蛍光積層体に放射線照射を行えば、放射線の3次元線量分布を得ることができる。
【0006】
より詳細には、熱蛍光積層体に対する放射線照射後に、それぞれの熱蛍光板状体にバラしてから、各熱蛍光板状体を加熱する。そして、各熱蛍光板状体から、この加熱により発生する熱蛍光の光強度分布を取得する。周知の通り熱蛍光の光強度と被曝線量とには一定の対応関係があるため、取得された光強度分布情報から、放射線が照射された面に沿った放射線の平面的な被曝線量分布(以下、単に線量分布とも称する)、すなわち2次元線量分布の情報を得ることができる。そして、これら得られた各線量分布情報を、元の熱蛍光積層体に照射した放射線の線量分布情報として復元すれば、立体的な、すなわち3次元線量分布を取得できる。
【0007】
また、特許文献1によれば、熱蛍光積層体を構成する熱蛍光板状体は、人体を構成する生体組織(例えば筋肉組織)と組織等価な、すなわち実効原子番号が同程度に調整されている。
【0008】
そのため、特許文献1による熱蛍光積層体では、放射線が照射された場合に、例えば光電作用、コンプトン効果、電子対生成作用等の作用が、人体と同程度に生じる。従って、このような熱蛍光積層体を線量計として用いる場合には、種々の補正を行うことなく、得られた測定値を以って、人体に対する放射線の被曝線量に関するデータを取得することができる。
【0009】
ここで、上述した特許文献1に開示されているマンガン含有の四ホウ酸リチウム(Li)の他に、線量計の材料として使用することが可能な熱蛍光物質として、例えば以下の熱蛍光物質が周知である(例えば、非特許文献2、非特許文献3、及び非特許文献4参照)。
【0010】
すなわち、非特許文献2及び非特許文献3によれば、銅を含有した三ホウ酸リチウム(LiB)が熱蛍光を示す熱蛍光物質であることが開示されている。
【0011】
また、非特許文献4には、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)の熱反応合成物として熱蛍光物質が得られることが開示されている。そして、この非特許文献4では、これら四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)の混合比を変更することによって、この混合比に応じた様々な特性を有する熱蛍光物質を形成することが開示されている。
【0012】
なお、これら非特許文献2、非特許文献3、または非特許文献4に係る熱蛍光物質を材料として3次元線量分布を測定するための線量計を作成するためには、まず、例えば特許文献2に開示されているように、樹脂をバインダとして用いて熱蛍光物質を平板状の板状体に成型する。そして、この板状体を上述した特許文献1に開示されている熱蛍光板状体と同様に、複数枚積層することによって、熱蛍光積層体を作成できると考えられる。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特開2010-127930号公報
【特許文献2】特開昭61-269100号公報
【0014】

【非特許文献1】日本放射線技術学会雑誌 第58巻 第6号 IMRT(強度変調放射線治療)における線量検証 2002年 6月 p.761~772
【非特許文献2】Zeynep Ozdemir Jemir, Gulhan Ozbayoglu, and Aysen Yilmaz, J.Mater Sci(2007)42:8501-8508
【非特許文献3】CDPS-ICCD Card No.32-549
【非特許文献4】V.W.Holovey, V.I.Lyamayev, A.M.Solomon, N.N.Birov, P.P.Puga, and V.T.Maslyuk, Neorganicheskie Materialy(Inorganic Materials),2006,Vol.42,No.11,pp1384-1392:Inorganic Materials,2006,Vol.42,No.11,pp1265-1272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示のマンガン含有の四ホウ酸リチウムにより構成された熱蛍光板状体及び熱蛍光積層体は、熱蛍光の発光強度分布が550~750nmの波長領域に存在する。
【0016】
ここで、一般に熱蛍光特性を有する物体を加熱し高温状態とした際には、周知の通りこの加熱に起因してその物体自体が発光する。この物体をマンガン含有の四ホウ酸リチウムとする場合は、加熱に起因するマンガン含有四ホウ酸リチウム自体の発光強度分布は、短波長側のボトムが600nm付近の波長領域に存在する。従って、加熱に起因する発光強度分布の波長領域と熱蛍光による発光強度分布の波長領域とが部分的に重複する。
【0017】
そして、特許文献1による熱蛍光板状体及び熱蛍光積層体は、熱蛍光を発生させるために、上述した加熱に起因する発光が発生しうる温度まで加熱を行う必要がある。
【0018】
そのため、熱蛍光による発光強度を正確に測定するために、例えば近赤外線カットフィルタを用いて熱蛍光による発光と加熱に起因する発光とを分離する必要がある。
【0019】
また、非特許文献2及び非特許文献3による銅含有の三ホウ酸リチウムでは、熱蛍光の発光強度が低いという問題がある。
【0020】
また、非特許文献4による熱蛍光物質は、波長に係る熱蛍光の発光強度分布が紫外領域に存在する。
【0021】
既に説明したように、非特許文献4による熱蛍光物質を利用して3次元線量分布を測定するための線量計を作成するためには、樹脂をバインダとして用いて熱蛍光物質を板状体に成型する必要がある。特に、人体と組織等価な線量計を作成するためには、実効原子番号が人体と同程度の樹脂、すなわち例えばエポキシ樹脂をバインダとして板状体を形成することが好ましい。より具体的には、バインダとして用いるに当たり、好適な実効原子番号が人体と同程度のエポキシ樹脂として、例えばブレニー技研のGM-9005が周知である。
【0022】
しかしながら、このようなバインダとして用いるエポキシ樹脂は紫外光を吸収する性質を有する。そのため、非特許文献4による熱蛍光物質では、3次元線量分布測定を目的とした線量計の材料として利用する場合には、熱蛍光が樹脂に吸収され、その結果、熱蛍光の発光強度が低くなるという問題がある。
【0023】
また、非特許文献4では、上述した紫外領域に熱蛍光の発光強度分布が存在する熱蛍光物質とは別に、410nm付近の波長領域に熱蛍光の発光強度分布が存在する熱蛍光物質(以下、非特許文献4による第2の熱蛍光物質とも称する)も開示されている。
【0024】
この非特許文献4による第2の熱蛍光物質は、温度に係る熱蛍光の発光強度分布が低温部すなわち94~124℃程度の温度範囲内と高温部すなわち172~186℃程度の温度範囲内とにそれぞれ存在する。
【0025】
ここで、温度に係る熱蛍光の発光強度分布が複数存在することは、放射線の照射を受けた際にその熱蛍光物質がエネルギーを蓄積する準安定状態が異なる温度に複数存在することを意味する。そして、このような熱蛍光物質では、熱蛍光を観測するための加熱を行った際に、各準安定状態間においてエネルギーの移動が起こる。その結果、ある準安定状態で熱蛍光物質に蓄積されたエネルギーが、複数の温度領域における異なる熱蛍光の発光強度分布に関与することとなる。そのため、被曝線量と熱蛍光の発光強度との関係が複雑化し、その結果、測定された熱蛍光の発光強度から被曝線量を算出する際に種々の補正を行う必要がある。
【0026】
また、このような温度に係る熱蛍光の発光強度分布が複数存在する熱蛍光物質を繰り返し線量計として使用する場合には、先の測定における放射線照射によって蓄積されたエネルギーを放出させるために、次の測定を行う前に少なくとも高温部の熱蛍光の発光強度分布が存在する温度範囲よりも高い温度まで熱蛍光物質を加熱する必要がある。
【0027】
しかしながら、上述したエポキシ樹脂すなわち例えばGM-9005は180℃以上の温度における光学的な耐熱性を有していない。すなわち、GM-9005は、180℃以上に加熱することによって変色する。そのため、GM-9005は、180℃以上の温度下において熱蛍光による発光を吸収してしまう。従って、この非特許文献4による第2の熱蛍光物質を材料として3次元線量分布測定を目的とした線量計を作成する場合、高温部の熱蛍光の発光強度分布を十分な発光強度で測定することができないという問題がある。
【0028】
この出願に係る発明者らは、研究を重ねた結果、銅含有の七ホウ酸リチウム(Li12)を熱蛍光物質として含む熱蛍光体が、可視領域でありかつ600nmよりも短波長である範囲内の波長領域に熱蛍光の強度の発光強度分布を有し、さらにこの発光強度分布が樹脂の耐熱可能な温度の範囲内に一つ存在することを見出した。
【0029】
また、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を材料として、これらの混合比、及びこれら各材料を混合して形成した混合体を熱処理する温度を調整することによって、銅含有の七ホウ酸リチウムを含む熱蛍光体を形成できることを見出した。
【0030】
この発明は、上述した従来の諸問題の解決を図るためになされたものである。
【0031】
従って、この発明の第1の目的は、3次元線量分布を測定するための線量計の材料として用いることが可能な熱蛍光体であって、熱蛍光の波長に対する発光強度分布が、上述した加熱による発光の強度分布と重複しない可視領域に存在し、かつ上述した銅含有の三ホウ酸リチウムと比して熱蛍光の発光強度が高い熱蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【0032】
また、この発明の第2の目的は、上述した第1の目的を達成した上で、さらに熱蛍光の温度に対する発光強度分布が、バインダとして用いる樹脂が光学的に耐えうる、すなわち変色しない温度範囲に唯一かつ単峰型で存在する熱蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【0033】
また、この発明の第2の目的は、上述した第1及び第2の目的を達成した上で、さらに人体と組織等価な実効原子番号を有する発光強度が高い熱蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
そこで、上述の目的を達成するために、この発明による熱蛍光体は、以下の特徴を有している。
【0035】
すなわち、この発明による熱蛍光体は、母体としての七ホウ酸リチウムと、この母体中に存在する発光中心としての銅とを含み、熱蛍光の波長に対する発光強度分布が唯一かつ単峰型であり、及び600nmよりも短波長の可視領域内に存在する。
【0036】
また、この発明による熱蛍光体において、熱蛍光の温度に対する発光強度分布が、45~130℃の範囲内において唯一かつ単峰型であるのが好ましい。
【0037】
また、この発明による熱蛍光体の製造方法は、以下の第1工程及び第2工程を含んでいる。
【0038】
すなわち、まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する。
【0039】
この第1工程では、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合する。
【0040】
次に、第2工程では、混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、この混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える。
【0041】
また、この発明による熱蛍光体の製造方法は、以下の第1工程及び第2工程を含んでいる。
【0042】
すなわち、まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する。
【0043】
この第1工程では、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=6:1のモル比で混合する。
【0044】
次に、第2工程では、混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、この混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える。
【0045】
また、この発明による熱蛍光体の製造方法は、以下の第1工程及び第2工程を含んでいる。
【0046】
すなわち、まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)を混合することによって混合体を形成する。
【0047】
この第1工程では、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=2:1のモル比で混合する。
【0048】
次に、第2工程では、混合体を800~850℃の範囲内の温度で熱処理することによって、この混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える。
【0049】
また、この発明による熱蛍光体の製造方法では、第1工程において、四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)の各重量を調整して混合することによって、形成する当該熱蛍光体の実効原子番号を調整するのが好ましい。
【発明の効果】
【0050】
この発明による熱蛍光体では、母体として七ホウ酸リチウムを含むことによって、熱蛍光の波長に関する発光強度分布が、600nmよりも短波長である可視領域に存在する。そのため、この発明による熱蛍光体の熱蛍光では、上述した加熱に起因する発光を考慮する必要がなく、そのため例えば近赤外線カットフィルタを用いる必要がない。
【0051】
また、この発明による熱蛍光体では、熱蛍光の温度に関する発光強度分布が40~130℃の温度の範囲内に唯一かつ単峰型で存在する構成とした場合、熱蛍光の熱蛍光の発光強度分布が、実効原子番号が人体と同程度である上述した例えばエポキシ樹脂が光学的に耐熱可能な、すなわち変色しない温度範囲に存在する。
【0052】
そのため、3次元線量分布を測定するための線量計を作成するために、上述したエポキシ樹脂、すなわち例えばGM-9005をバインダとして用いて板状体を形成することができる。
【0053】
従って、この発明による熱蛍光体は、3次元線量分布を測定するための線量計であって、かつ人体と組織等価な線量計の材料として使用することが可能である。
【0054】
また、この発明による熱蛍光体では、熱蛍光の熱蛍光の発光強度分布が唯一かつ単峰型であるため、熱蛍光の発光強度分布が複数存在する熱蛍光体と比して、被曝線量と熱蛍光の発光強度との関係が単純となる。その結果、測定された熱蛍光の発光強度から被曝線量を算出する際に複雑な補正を行う必要がない。
【0055】
また、この発明による熱蛍光体では、七ホウ酸リチウムを母体として熱蛍光体を構成することによって、四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムを母体とする場合と比して高い発光強度で熱蛍光を示す。
【0056】
また、この発明による熱蛍光体の製造方法では、上述したように、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1、6:1、または2:1のいずれかのモル比で混合する。
【0057】
その結果、製造される熱蛍光体に母体としての七ホウ酸リチウムを含有させることができる。
【0058】
さらに、この発明によるこの発明による熱蛍光体の製造方法では、上述した四ホウ酸リチウム、酸化ホウ素、及び酸化銅(II)の各重量を調整して混合する各重量を調整することによって、人体と組織等価な、すなわち実効原子番号が同程度の熱蛍光板状体及び熱蛍光積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1の実施の形態による熱蛍光体の製造方法を示すフローチャートある。
【図2】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体における熱蛍光の発光強度を比較する図である。
【図3】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図4】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図5】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図6】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図7】第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図8】第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図9】第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図10】第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図11】第1の実施の形態による熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。
【図12】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体における熱蛍光の発光強度を比較する図である。
【図13】第1の実施の形態による熱蛍光体の温度特性を示す図である。
【図14】(A)及び(B)は、第1の実施の形態による熱蛍光体と従来技術による熱蛍光体との波長特性及び温度特性を比較する図である。
【図15】第1の実施の形態による熱蛍光体における、熱蛍光の発光強度と被曝線量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に概略的に示してあるに過ぎない。また、以下に説明する実施の形態は、単なる好適例にすぎず、従って、この発明の構成は、以下に説明する図示の構成例のみに何ら限定されるものではなく、この発明の範囲を逸脱することなく、多くの変形や変更を行い得ることが明らかである。

【0061】
〈第1の実施の形態〉
第1の実施の形態では、銅含有の七ホウ酸リチウムを熱蛍光物質として含む熱蛍光体、及びその製造方法について説明する。この製造方法は、第1工程及び第2工程を含んでいる。以下、第1工程から順に各工程につき説明する。

【0062】
図1は、この発明の第1の実施の形態を説明するための図であり、第1の実施の形態に係る熱蛍光体の製造方法のフローチャートある。

【0063】
まず、第1工程では、四ホウ酸リチウム(Li)、酸化ホウ素(B)、及び酸化銅(II)(CuO)を粉砕混合することによって混合体を形成する(S1)。

【0064】
この第1の実施の形態では、上述した混合体の各材料のうちの四ホウ酸リチウム及び酸化ホウ素から、製造すべく熱蛍光体の母体となる七ホウ酸リチウムを形成する。

【0065】
そして、四ホウ酸リチウム及び酸化ホウ素を材料として用いて七ホウ酸リチウムを収率良く、すなわち四ホウ酸リチウム及び酸化ホウ素から形成される七ホウ酸リチウムとは別の不純物の含有量を抑えて形成するために、これら四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、好ましくは例えば四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1、6:1、または2:1のいずれかのモル比で混合する。より好ましくは、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合することによって、他のモル比で混合した場合と比して良好な収率で七ホウ酸リチウムを形成することができる。

【0066】
表1に、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とのモル比の各好適例における四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素の添加量を示す。なお、表1には、それぞれ後述する、各モル比における酸化銅(II)の添加量の好適例、及び各モル比で熱蛍光体を製造した際の実効原子番号についても並べて示してある。

【0067】
【表1】
JP0005835539B2_000002t.gif

【0068】
四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合するために、例えば507.3gの四ホウ酸リチウムと69.6gの酸化ホウ素とを混合するのが好ましい。

【0069】
また、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=6:1のモル比で混合するために、例えば1014.6gの四ホウ酸リチウムと69.6gの酸化ホウ素とを混合するのが好ましい。

【0070】
また、四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=2:1のモル比で混合するために、例えば338.2gの四ホウ酸リチウムと69.6gの酸化ホウ素とを混合するのが好ましい。

【0071】
また、酸化銅(II)に含まれる銅は、製造される熱蛍光体において、母体中に存在する発光中心として作用する。

【0072】
ここで、この第1の実施の形態において製造する熱蛍光体は、この第1工程において混合する酸化銅(II)の添加量に応じて熱蛍光の発光強度が変化する。

【0073】
そこで、熱蛍光の発光強度を高くするために酸化銅(II)を、混合体(すなわちこの酸化銅(II)と四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素との混合体)に対して例えば0.10~0.35wt%の範囲内の割合となるように混合するのが好ましい。

【0074】
従って、混合体を形成するために上述したように例えば507.3gの四ホウ酸リチウム及び69.6gの酸化ホウ素を添加する場合には、酸化銅(II)を例えば0.58~2.02gの範囲内の重量で混合するのが好ましい。

【0075】
また、1014.6gの四ホウ酸リチウム及び69.6gの酸化ホウ素を添加する場合には、酸化銅(II)を例えば1.08~3.79gの範囲内の重量で混合するのが好ましい。

【0076】
また、338.2gの四ホウ酸リチウム及び69.6gの酸化ホウ素を添加する場合には、酸化銅(II)を例えば0.41~1.42gの範囲内の重量で混合するのが好ましい。

【0077】
次に、第2工程では、上述した第1工程において得た混合体を熱処理することによって、この混合体に含まれている四ホウ酸リチウム及び酸化ホウ素から七ホウ酸リチウムを形成する。その結果、混合体を、母体としての七ホウ酸リチウムと、前記母体中に存在する発光中心としての銅とを含む熱蛍光体に変える(S2)。

【0078】
この熱処理の温度は、この混合体から七ホウ酸リチウムが生成される温度であれば良く、例えば800~850℃の範囲内の温度で、より好適には850℃の温度で6時間程度熱処理を行うのが好ましい。ここで得られた七ホウ酸リチウムには、発光中心としての銅が含まれている。

【0079】
その結果、四ホウ酸リチウム及び酸化ホウ素から形成された母体としての七ホウ酸リチウムと、酸化銅(II)由来の、母体中に存在する発光中心としての銅とを含む粉末状の熱蛍光物質、すなわち熱蛍光体を得ることができる。

【0080】
なお、発光中心である銅は、例えば、単体の銅としてのみではなく、酸化物の状態で、または熱蛍光体に含まれるその他の物質との化合物等の状態で含まれている場合もあり得る。

【0081】
ここで、人体の筋肉組織の実効原子番号は、7.42程度である(例えば、「医療科学社 改訂版 放射線計測学 日本放射線技術学会監修 P.136(ファイルNo.1-2)」参照)。

【0082】
従って、熱蛍光体を、人体に対する放射線の被曝線量に関するデータを取得するための線量計の材料として利用するためには、熱蛍光体の実効原子番号Zeffが人体の実効原子番号と近似な値に調整されているのが好ましい。より具体的には、実効原子番号の算出方法や、その決定時のバラツキを考慮すると、第1の実施の形態による熱蛍光板状体を、実効原子番号が7.3~7.6程度までの範囲内の値、またはその近傍の値に調整されているのが好ましい。

【0083】
そして、この第1の実施の形態では、上述した第1工程において、507.3gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.10wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.32に調整された熱蛍光体が得られる。

【0084】
また、上述した第1工程において、507.3gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.35wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.59に調整された熱蛍光体が得られる。

【0085】
従って、第1の実施の形態によって製造された熱蛍光体は、第1工程において四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で形成した混合体に対して0.10wt%の割合で酸化銅(II)を混合した場合、及び混合体に対して0.35wt%の割合で酸化銅(II)を混合した場合において、実効原子番号が人体に近似な値として望まれる7.3~7.6の範囲内に収まる。

【0086】
また、表1に示すように、上述した第1工程において、1.014.6gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.10wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.32に調整された熱蛍光体が得られる。

【0087】
また、上述した第1工程において、1014.6gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.35wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.59に調整された熱蛍光体が得られる。

【0088】
また、上述した第1工程において、338.2gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.10wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.33に調整された熱蛍光体が得られる。

【0089】
また、上述した第1工程において、338.2gの四ホウ酸リチウム、69.6gの酸化ホウ素、及び混合体に対して0.35wt%の酸化銅(II)を混合して混合体を形成した場合には、実効原子番号が約7.60に調整された熱蛍光体が得られる。

【0090】
なお、熱蛍光体の実効原子番号Zeffは、例えば「福田覚、前川昌之著、放射線物理学演習(第2版)P63-64、東洋書店、2005年」等に記載されている、下式(1)から算出することができる。

【0091】
eff=(a2.94+a2.94+a2.94+…)1/2.94=(ΣaiZi2.941/2.94 ・・・(1)
この式(1)において、a、a、a、…は、化合物または混合物に含まれる各原子の原子番号Z、Z、Z、…に属する電子の全電子数に対する割合を示す。

【0092】
ここで、発明者らは、上述した第1工程において混合体を形成する際の四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とのモル比、及び上述した第2工程において混合体を熱処理する際の温度について、それらの好適値を確認するための実験を行った。

【0093】
この実験では、第1工程における混合体を、四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とのモル比をそれぞれ異なる値として製造した複数の熱蛍光体、または、第2工程における熱処理を互いに異なる温度で行って製造した複数の熱蛍光体を試料として用意した。

【0094】
表2に各試料の作成条件を示す。

【0095】
【表2】
JP0005835539B2_000003t.gif

【0096】
試料a1、a2、a3、a4、a5、及びa6は、第2工程において混合体に対して700℃の熱処理を行って作成した。

【0097】
また、試料b1、b2、b3、b4、b5、及びb6は、第2工程において混合体に対して750℃の熱処理を行って作成した。

【0098】
また、試料c1、c2、c3、c4、c5、及びc6は、第2工程において混合体に対して800℃の熱処理を行って作成した。

【0099】
また、試料d1、d2、d3、及びd4は、第2工程において混合体に対して850℃の熱処理を行って作成した。

【0100】
また、試料e1及びe2は、第2工程において混合体に対して900℃の熱処理を行って作成した。

【0101】
また、試料a1、b1、c1、d1、及びe1は、第1工程において酸化ホウ素を添加せず、四ホウ酸リチウム及び酸化銅(II)のみを混合して混合体を形成して作成した。

【0102】
また、試料a2、b2、c2、d2、及びe2は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=6:1のモル比で混合して作成した。

【0103】
また、試料a3、b3、c3、及びd3は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合して作成した。

【0104】
また、試料a4、b4、c4、及びd4は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=2:1のモル比で混合して作成した。

【0105】
また、試料a5、b5、及びc5は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:1のモル比で混合して作成した。

【0106】
また、試料a6、b6、及びc6は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:2のモル比で混合して作成した。

【0107】
なお、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して900℃の熱処理を行って作成した試料、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=2:1のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して900℃の熱処理を行って作成した試料、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:1のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して850℃の熱処理を行って作成した試料、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:1のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して900℃の熱処理を行って作成した試料、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:2のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して850℃の熱処理を行って作成した試料、及び第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=1:2のモル比で混合し、かつ第2工程において混合体に対して900℃の熱処理を行って作成した試料については、第2工程における熱処理において生成物が融解したため、これら試料を熱蛍光体として得ることができないことが確認された。その他の試料は融解しなかった。

【0108】
そして、これら各試料に対してX線管電圧を6MVとした照射装置を用いて1GyのX線を照射した。その後、暗箱中に収容し、CCDカメラの露光を開始してから、20秒で135℃まで加熱し、135℃の温度を保った状態で280秒間それぞれの発光強度を観測した。なお、X線照射装置としてElekta社製のSYNERGY型リニアックを用いた。

【0109】
なお、この実験では、用意した各試料を一つの金属板(例えばアルミ製)上に並べて載置し、上述したX線の照射、加熱、及び熱蛍光の観測を各試料に対して同一条件で(一括して)同時に行った。また、各試料は、それぞれ第1工程において混合体に対して0.35wt%の割合で酸化銅(II)を混合して作成した。

【0110】
以下、この実験の結果につき説明する。

【0111】
図2(A)及び(B)は、この実験の結果を示す図である。

【0112】
図2(A)は、上述した各試料の熱蛍光による発光の様子を撮影した画像である。

【0113】
なお、図2(A)にa1~a6、b1~b6、c1~c6、d1~d4、e1、及びe2の各符号を付して示した各発光は、上述した各試料a1~a6、b1~b6、c1~c6、d1~d4、e1、及びe2の発光に各々対応している。すなわち、この実験を行うに当たり金属板に載置した各試料の配置関係は、図2(A)に示す各符号の配置に対応している。

【0114】
また、図2(B)は、各試料の熱蛍光による発光強度を比較する図であり、この図2(B)において、縦軸は発光強度の相対値を示し、また、横軸は図2(A)に各々符号を付して示してある各試料の配列方向の距離に対応している。すなわち、図2(B)に示す強度分布線11は試料a1~a6の発光強度に係る強度分布を、強度分布線13は試料b1~b6の発光強度に係る強度分布を、強度分布線15は試料c1~6の発光強度に係る強度分布を、強度分布線17は試料d1~d4の発光強度に係る強度分布を、強度分布線19は試料e1及びe2の発光強度に係る強度分布を、それぞれ示している。なお、これらの発光強度は、冷却CCDカメラ(ATIK Instruments社製のATK-314L)を用い撮影した熱蛍光を、周知の画像ソフトであるImageJ(登録商標)を用いて画像解析することによって得た。

【0115】
図2(A)の結果から明らかなように、試料c2、c3、c4、d2、d3、及びd4は、他の試料と比して著しく高い発光強度で発光していることが確認できる。

【0116】
また、図2(B)の各強度分布線から明らかなように、試料c2の発光強度を示すピーク10、試料c3の発光強度を示すピーク12、試料c4の発光強度を示すピーク14、試料d2の発光強度を示すピーク16、試料d3の発光強度を示すピーク18、及び試料d4の発光強度を示すピーク20は、他の試料と比して高い発光強度を示している。そして、この図2(A)から、特に試料d3の発光強度のピークが最も高い発光強度を示していることが確認できる。

【0117】
この結果から、第1の実施の形態では、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1、6:1、または2:1のいずれかのモル比で混合し、第2工程において、800~850℃の範囲内の任意の温度で熱処理を行うことによって、製造する熱蛍光体の熱蛍光の強度を高めることができることが確認された。

【0118】
特に、第1の実施の形態では、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合し、第2工程において、850℃の温度で熱処理を行うことによって、製造される熱蛍光体の熱蛍光の強度が最も高くなることが確認された。

【0119】
次に、発明者は、上述した図2(A)及び(B)に係る実験において用意した試料a1、b5、c2、c3、c4、d2、d3、d4、及びe2について、これら各熱蛍光体がどのような物質で構成されているかを確認するための実験を行った。

【0120】
この実験では、これら試料a1、b5、c2、c3、c4、d2、d3、d4、及びe2に対してXRD(X-ray diffraction:X線回折)測定を行い、得られたスペクトルからこれら各熱蛍光体に含まれる物質を特定した。用いたX線回折装置はRIGAKU社製のRINT2000型である。

【0121】
図3(A)及び(B)は、上述した試料d3の熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。

【0122】
図3(A)は、試料d3のXRDスペクトルを示す図である。また、図3(B)は、例えば「J.Aidong,L.Shirong,H.Qingzhen,C.Tianbin,and Acta Crystallogr.,Sec.C,.46,1999(1990)」に開示されている七ホウ酸リチウムのXRDスペクトルを示す図である。そして、これら各図の縦軸は回折強度の相対値を示し、また、横軸は回折角度を°単位で目盛ってある。

【0123】
これら図3(A)及び(B)から明らかなように、各XRDスペクトルにおけるピークの存在する回折角度及び各ピークの相対回折強度が実験的に一致していることがわかる。

【0124】
この結果から、試料d3は七ホウ酸リチウムを主な構成物質として含有した熱蛍光体であることが確認された。

【0125】
また、図4(A)及び(B)は、上述した試料a1の熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。

【0126】
図4(A)は、試料a1のXRDスペクトルを示す図である。また、図4(B)は、例えば「JCPDS-ICDD Card No.18-717」に開示されている四ホウ酸リチウムのXRDスペクトルを示す図である。そして、これら各図の縦軸は回折強度の相対値を、また、横軸は回折角度を°単位で目盛ってある。

【0127】
これら図4(A)及び(B)から明らかなように、各XRDスペクトルにおけるピークの存在する回折角度及び各ピークの相対回折強度が実験的に一致していることがわかる。

【0128】
この結果から、試料a1は四ホウ酸リチウムを主な構成物質として含有した熱蛍光体であることが確認された。

【0129】
また、図5(A)及び(B)は、上述した試料e2の熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。

【0130】
図5(A)は、試料e2のXRDスペクトルを示す図である。また、図5(B)は上述した図4(B)と同じ四ホウ酸リチウムのXRDスペクトルを示す図である。そして、これら各図の縦軸は回折強度の相対値を示し、また、横軸は回折角度を°単位で目盛ってある。

【0131】
これら図5(A)及び(B)から明らかなように、各XRDスペクトルにおけるピークの存在する回折角度及び各ピークの相対回折強度が実験的に一致していることがわかる。

【0132】
この結果から、試料e2は四ホウ酸リチウムを主な構成物質として含有した熱蛍光体であることが確認された。

【0133】
また、図6(A)及び(B)は、上述した試料b5の熱蛍光体を構成する物質を特定するための図である。

【0134】
図6(A)は、試料b5のXRDスペクトルを示す図である。また、図6(B)は例えば「JCPDS-ICDD Card No.32-549」に開示されている三ホウ酸リチウムのXRDスペクトルを示す図である。そして、これら各図の縦軸は回折強度の相対値を示し、また、横軸は回折角度を°単位で目盛ってある。

【0135】
これら図6(A)及び(B)から明らかなように、各XRDスペクトルにおけるピークの存在する回折角度及び各ピークの相対回折強度が実験的に一致していることがわかる。

【0136】
この結果から、試料b5は三ホウ酸リチウムを主な構成物質として含有した熱蛍光体であることが確認された。

【0137】
また、図7は試料c2のXRDスペクトルを、図8は試料c3のXRDスペクトルを、図9は試料c4のXRDスペクトルを、図10は試料d2のXRDスペクトルを、及び図11は試料d4のXRDスペクトルを、それぞれXRDスペクトルを示す図である。これら各図の縦軸は回折強度の相対値を示し、また、横軸は回折角度を°単位で目盛ってある。

【0138】
そして、図7、図8、図9、図10、及び図11のXRDスペクトルでは、上述した図3(B)に示す七ホウ酸リチウムのXRDスペクトル、図4(B)に示す四ホウ酸リチウムのXRDスペクトル、及び図6(B)に示す三ホウ酸リチウムのXRDスペクトルに基づいて、七ホウ酸リチウムのピークには○を、四ホウ酸リチウムのピークには×を、及び三ホウ酸リチウムのピークには△を、それぞれ付してある。

【0139】
これら図7、図8、図9、図10、及び図11から、試料c2、c3、c4、d2、及びd4の各XRDスペクトルでは、いずれも七ホウ酸リチウムのピークが四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムのピークと比して高い回折強度を示している。

【0140】
従って、試料c2、c3、c4、d2、及びd4は、七ホウ酸リチウムを最も含有量の多い主な構成物質として含有し、四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムの一方または双方を含む熱蛍光体であることが確認された。

【0141】
そして、図8に係る試料c3、図10に係る試料d2、及び図11に係る試料d4では、特に七ホウ酸リチウムのピークが四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムと比して高い回折強度を示していることから、熱蛍光体を構成する七ホウ酸リチウムの含有量が多いことがわかった。

【0142】
図3(A)及び(B)、図4(A)及び(B)、図5(A)及び(B)、図6(A)及び(B)、図7、図8、図9、図10、及び図11の結果から、第1の実施の形態では、試料c2、c3、c4、d2、d3、d4に係る製造条件、すなわち第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1、6:1、または2:1のいずれかのモル比で混合し、第2工程において、800~850℃の範囲内の温度で熱処理を行うことによって、七ホウ酸リチウムを構成物質に含む熱蛍光体を製造できることが確認された。

【0143】
さらに、試料c3、d2、d3、d4、特に試料d3において七ホウ酸リチウムの収率が高くなることから、第1の実施の形態では、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合し、第2工程において、850℃の温度で熱処理を行うことによって、七ホウ酸リチウムの収率を向上できることが確認された。

【0144】
また、既に説明したように、試料c2、c3、c4、d2、d3、及びd4、特に試料d3の熱蛍光体に係る熱蛍光の発光強度が高い値を示すことから(図1(A)及び(B)参照)、熱蛍光体の構成物質として七ホウ酸リチウムの含有率を大きく調製することで、四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムの含有率が大きい場合と比して熱蛍光の発光強度を向上させられることが確認された。

【0145】
特に、四ホウ酸リチウムを主な構成物質とする試料a1及びe2、または三ホウ酸リチウムを主な構成物質とする試料b5と、七ホウ酸リチウムを主な構成物質とするd3との各発光強度を比較した場合、上述した図2(A)及び(B)から試料d3が高い発光強度を示していることが明らかである。

【0146】
従って、七ホウ酸リチウムを母体として熱蛍光体を構成することは、四ホウ酸リチウム及び三ホウ酸リチウムを母体とする場合と比して有利である。

【0147】
また、発明者らは、上述した第1工程において混合体を形成する際に、材料として混合する酸化銅(II)の好適な添加量を確認するための実験を行った。

【0148】
以下、この実験につき図12を参照して説明する。

【0149】
この実験では、第1工程において、混合体に対して互いに異なる割合となるように酸化銅(II)を混合して製造した複数の熱蛍光体を試料として用意した。

【0150】
具体的には、試料f1は、第1工程において酸化銅(II)を添加せずに混合体を形成した。また、試料f2は混合体に対して0.01wt%の割合で、試料f3は混合体に対して0.03wt%の割合で、試料f4は混合体に対して0.05wt%の割合で、試料f5は混合体に対して0.07wt%の割合で、試料f6は混合体に対して0.10wt%の割合で、試料f7は試料f6と同様に混合体に対して0.10wt%の割合で、試料f8は混合体に対して0.35wt%の割合で、試料f9は混合体に対して0.70wt%の割合で、試料f10は混合体に対して1.00wt%の割合で、試料f11は混合体に対して2.00wt%の割合で、及び試料f12は混合体に対して5.00wt%の割合で、各々酸化銅(II)を添加して混合体を形成した。

【0151】
また、これら各試料は、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で混合し、第2工程において混合体に対して850℃の熱処理を行って作成した。

【0152】
そして、これら各試料に対してX線管電圧を6MVとした照射装置を用いて1GyのX線を照射した。その後、暗箱中に収容し、CCDカメラの露光を開始してから、20秒で135℃まで加熱し、135℃の温度を保った状態で280秒間それぞれの発光強度を観測した。

【0153】
なお、この実験では、試料f1~f6を一つの金属板上に並べて載置して、上述したX線の照射、加熱、及び熱蛍光の観測を各試料に対して同時に行った。同様に、試料f7~f12を一つの金属板上に並べて載置して、X線の照射、加熱、及び熱蛍光の観測を各試料に対して同時に行った。

【0154】
図12(A)及び(B)は、この実験の結果を示す図である。

【0155】
図12(A)は、上述した各試料の熱蛍光による発光の様子を撮影した画像である。なお、これら画像を撮影するために冷却CCDカメラ(ATIK Instruments社製のATK-314L)を用いた。

【0156】
なお、図12(A)にf1~f12の各符号を付して示した各発光は、上述した各試料f1~f12の発光に各々対応している。すなわち、この実験を行うに当たり金属板に載置した各試料の配置関係は、図12(A)に示す各符号の配置に対応している。

【0157】
また、図12(B)は、各試料の熱蛍光による発光強度を比較する図であり、この図12(B)において、縦軸は発光強度の相対値を示し、また、横軸は図12(A)に各々符号を付して示してある各試料の配列方向の距離に対応している。すなわち、図12(B)の上図に示す強度分布線111は試料f1~f6の発光強度に係る強度分布を、また、図12(B)の下図に示す強度分布線113は試料f7~f12の発光強度に係る強度分布をそれぞれ示している。なお、これらの発光強度は、上述した冷却CCDカメラ(ATIK Instruments社製のATK-314L)を用いて撮影した熱蛍光を、周知の画像ソフトであるImageJ(登録商標)を用いて画像解析することによって得た。

【0158】
なお、既に説明したように、試料f6及び試料f7は、第1工程及び第2工程ともに同一条件において作成されている。従って、試料f6の発光強度を示すピーク115と試料f7の発光強度を示すピーク117とは、実質的に同程度の発光強度である。

【0159】
図12(A)の結果から明らかなように、試料f6、f7、及びf8は、他の試料と比して高い発光強度で発光していることが確認できる。

【0160】
また、図12(B)の各強度分布線から明らかなように、試料f6の発光強度を示すピーク115、試料f7の発光強度を示すピーク117、及び試料f8の発光強度を示すピーク119は、他の試料と比して高い発光強度を示している。この結果から、第1の実施の形態では、第1工程において、混合体に対して0.10~0.35wt%の範囲内の割合で酸化銅(II)を添加することによって、製造する熱蛍光体の熱蛍光の発光強度を高めることができることが確認された。

【0161】
次に、発明者らは、この第1の実施の形態において製造される熱蛍光体の温度特性及び波長特性を確認する実験を行った。

【0162】
以下、この実験につき図13及び図14を参照して説明する。

【0163】
この実験では、第1工程において四ホウ酸リチウムと酸化ホウ素とを四ホウ酸リチウム:酸化ホウ素=3:1のモル比で、かつ混合体に対する酸化銅(II)を0.35wt%の割合で、それぞれ混合し、第2工程において混合体に対して850℃の熱処理を行って作成した熱蛍光体を試料として用いた。そして、温度に対する熱蛍光の発光強度を確認するために、熱蛍光体に対して、RIGAKU社製のRINT2000型X線分析装置によって20GyのX線を照射した後、0.5℃/secで加熱しながら熱蛍光の発光強度を測定した。また、蛍光の発光の波長を確認するために、熱蛍光体に対して、RIGAKU社製のSZX型X線分析装置によって20GyのX線を照射した後、1℃/secで加熱しながら、浜松ホトニクス社PMA-11型マルチチャンネル検出器を用いて熱蛍光の発光の波長を測定した。

【0164】
図13は、この実験の結果を示す図であり、第1の実施の形態において製造される熱蛍光体の温度特性を示す図である。図13において、縦軸は発光強度の相対値を示し、また、横軸は熱蛍光体の温度を℃単位で目盛ってある。

【0165】
また、図14(A)及び(B)は、この実験の結果を示す図であり、第1の実施の形態において製造される熱蛍光体と、従来技術による熱蛍光体、すなわち上述した特許文献1に開示されているマンガン含有四ホウ酸リチウムによって構成された熱蛍光体との波長特性及び温度特性を比較する図である。そして、図14(A)は第1の実施の形態による熱蛍光体の波長特性及び温度特性を、また、図14(B)は特許文献1による熱蛍光体の波長特性及び温度特性をそれぞれ示している。図14(A)及び(B)において、x軸は熱蛍光の波長をnm単位で、また、y軸は熱蛍光体の温度を℃単位で目盛ってある。そして、z軸は発光強度の相対値を示している。

【0166】
なお、図14(B)に係るマンガン含有四ホウ酸リチウムは、特許文献1に開示されている通り、発光強度を向上する目的でアルミニウム(III)が添加されている。

【0167】
図13及び図14(A)から明らかなように、第1の実施の形態による熱蛍光体の熱蛍光の発光強度は、45~130℃の温度範囲内に単峰の発光強度分布を有し、かつ98℃付近にピークが一つ存在することが確認された。なお、これらの測定には浜松ホトニクス社PMA-11型マルチチャンネル検出器を用いた。

【0168】
そして、この熱蛍光の発光強度分布が存在する45~130℃の温度範囲は、上述したバインダとして用いるに当たり好適な、実効原子番号が人体と同程度のエポキシ樹脂、すなわち例えばブレニー技研のGM-9005が光学的に耐熱可能な、すなわち変色しない温度である。

【0169】
そのため、第1の実施の形態による熱蛍光体は、3次元線量分布を測定するための線量計を作成するために、このGM-9005をバインダとして用いて板状体を形成することができる。従って、第1の実施の形態による熱蛍光体は、3次元線量分布を測定するための線量計であって、かつ人体と組織等価な線量計の材料として使用することが可能である。

【0170】
また、第1の実施の形態による熱蛍光体では、熱蛍光の熱蛍光の発光強度分布が唯一かつ単峰型である。

【0171】
そのため、被曝線量と熱蛍光の発光強度との関係が単純であり、その結果、測定された熱蛍光の発光強度から被曝線量を算出する際に複雑な補正を行う必要がない。なお、この詳細は図15を参照して後述する。

【0172】
また、図14(A)から、第1の実施の形態による熱蛍光体の熱蛍光の発光強度では、熱蛍光の波長に対する熱蛍光の発光強度分布が、可視領域でありかつ600nmよりも短波長である範囲内、より具体的には、400~550nmの範囲内の波長領域に存在することが確認された。

【0173】
これに対して、図14(B)から、特許文献1による熱蛍光体では、熱蛍光の熱蛍光の発光強度分布が550~750nmの範囲内の波長領域に存在することが確認された。

【0174】
背景技術の項において既に説明したように、加熱に起因するマンガン含有四ホウ酸リチウム自体の発光強度分布は、短波長側のボトムが600nm付近の波長領域に存在する。従って、特許文献1による熱蛍光体では、加熱に起因する発光が生じる温度まで温度を上昇させた場合、例えば近赤外線カットフィルタを用いて熱蛍光による発光と加熱に起因する発光とを分離する必要がある。

【0175】
これに対して、第1の実施の形態による熱蛍光体の熱蛍光では、熱蛍光の発光強度分布が600nmよりも短波長である波長領域に存在するため、上述した加熱に起因する発光を考慮する必要がなく、そのため例えば近赤外線カットフィルタを用いる必要がない。

【0176】
また、第1の実施の形態による熱蛍光体の熱蛍光では、熱蛍光の発光強度分布が可視領域の範囲内の波長領域に存在するため、例えばエポキシ樹脂をバインダとして板状体を形成した場合においても、熱蛍光が樹脂に吸収されることなく、従って、熱蛍光の発光強度が低下することがない。

【0177】
次に、発明者らは、この第1の実施の形態において製造される熱蛍光体における、熱蛍光の発光強度と被曝線量との関係を確認するための実験を行った。

【0178】
この実験では、上述した図13と図14(A)に係るのと同様の熱蛍光体に対して、X線管電圧を6MVとした照射装置を用いて異なる線量のX線(0.25Gy、0.5Gy、1Gy、2Gy)を照射し、各々の被曝線量に対応する熱蛍光の発光強度を観測した。なお、発光強度を観測するに当たり、X線照射後の熱蛍光体を暗箱中において0.5℃/secで135℃まで加熱した。

【0179】
図15は、この実験の結果を示す図であり、第1の実施の形態において製造される熱蛍光体における、熱蛍光の発光強度と被曝線量との関係を示す図である。図15において、縦軸は発光強度の相対値を示し、また、横軸は照射したX線の線量、すなわち熱蛍光体の被曝線量をGy単位で目盛ってある。なお、この実験では、X線照射装置としてElekta社製のSYNERGY型リニアックを、また、発光強度の測定には冷却CCDカメラ(ATIK Instruments社製のATK-314L)を用いた。

【0180】
図15から、第1の実施の形態による熱蛍光体では、被曝線量が0.25Gyのとき相対値7、被曝線量が0.50Gyのとき相対値15、被曝線量が1.0Gyのとき相対値30、及び被曝線量が2.0Gyのとき相対値60であるので、被曝線量の増加に対して、直線的に熱蛍光の発光強度が増大することが確認できる。

【0181】
従って、この結果から、第1の実施の形態による熱蛍光体を材料とした線量計では、測定された熱蛍光の発光強度を用いて複雑な補正を行うことなく被曝線量を算出できることが確認された。
図面
【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図12】
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