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明細書 :皮膚線維化抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5928787号 (P5928787)
公開番号 特開2012-193165 (P2012-193165A)
登録日 平成28年5月13日(2016.5.13)
発行日 平成28年6月1日(2016.6.1)
公開日 平成24年10月11日(2012.10.11)
発明の名称または考案の名称 皮膚線維化抑制剤
国際特許分類 A61K  31/19        (2006.01)
A61K  31/202       (2006.01)
A61P  17/02        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/19
A61K 31/202
A61P 17/02
A61P 43/00 111
A61P 43/00 121
A61P 43/00 ZNA
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2012-034793 (P2012-034793)
出願日 平成24年2月21日(2012.2.21)
優先権出願番号 2011041687
優先日 平成23年2月28日(2011.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年2月3日(2015.2.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】宇佐美 眞
【氏名】前重 伯壮
【氏名】鳥井 一宏
【氏名】寺師 浩人
【氏名】濱田 康弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】上條 のぶよ
参考文献・文献 特開2005-132823(JP,A)
特開2003-063942(JP,A)
特開2001-192328(JP,A)
特開平05-279240(JP,A)
Cosmet Toiletries,2004年,Vol.119, No.3,p.75-76,78-80
調査した分野 A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
酪酸および/またはその薬学的に許容される塩と、ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む、皮膚線維化抑制剤。
【請求項2】
有効成分の組成が、ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはその薬学的に許容される塩0.1 mMに対して、酪酸および/またはその薬学的に許容される塩が0.1~50mMである、請求項に記載の皮膚線維化抑制剤。
【請求項3】
酪酸および/またはその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01~500mMである請求項1又は2に記載の皮膚線維化抑制剤。
【請求項4】
ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01~10mMである請求項1~のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
【請求項5】
皮膚線維化抑制剤が肥厚性瘢痕、ケロイド、および/または翼状片から選択される皮膚疾患の治療用および/または予防用に用いられる、請求項1~のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
【請求項6】
皮膚線維化抑制剤が外用剤である、請求項1~のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
【請求項7】
酪酸および/またはその薬学的に許容される塩と、ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む、ストレスファイバー形成抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚線維化抑制剤に関するものであり、さらに当該皮膚線維化抑制剤を用いた皮膚疾患の治療および/または予防に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚や眼球の線維芽細胞は、ケロイド、肥厚性瘢痕、翼状片等の線維増殖性病変を引き起こすことが知られている。ケロイド等の線維増殖性病変の患者は、強い痒み、痛み、突っ張り感および引き連れ感などがあるため大いに悩まされており、かつ、関節可動域に制限があるため、患者のクオリティ・オブ・ライフは低下する。さらに線維増殖性病変は、美容上また精神面でも患者に多大な苦痛を与える。
【0003】
従来、ケロイドの薬物療法として、ステロイド剤の塗布あるいはステロイド剤のケロイド内注入が行われている。しかしながら、前者には明らかな効果が認められず、後者には一定の効果は認められるものの、数十回注入を繰り返す必要があり、注入時に患者に多大の苦痛を与える。また、1回の注入で多量のステロイド剤を注入することは困難であるので、大きなケロイドには適用され得ないという欠点がある。一方、ホームラバーのようなスポンジで直接ケロイドを圧迫する圧迫療法も行われているが、治療期間が数ヶ月から数年と長期間を要する。
【0004】
またケロイドや翼状片の治療として、外科的治療も行われているが、手術後の再発が起こりやすく、外科的治療でも確実な治療法とは言い難い。病変を切除した後の再発を完全に抑制する治療薬は未だ存在しない。皮膚線維化の機構・病態を明らかにし、創傷治癒過程の正常化やケロイド等の新たな治療・予防戦略を構築することが望まれている。
【0005】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物である酪酸は、膵臓の膵星細胞への抗線維化作用を発揮すること(非特許文献1)、肝硬変の抗線維化療法に使用可能であること(非特許文献2)が報告されている。また酪酸ナトリウムの単独添加が、翼状片やケロイドの治療に用いられ得ることが開示されている(特許文献1)。
【0006】
多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は、肝臓組織の線維化を抑制すること、腹膜由来の線維芽細胞に対して、線維化マーカーを抑制することが報告されている(非特許文献3、4)。
【0007】
しかしながら、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸との併用により皮膚線維化が効率的に抑制されることは報告されていない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2005-281150号公開公報
【0009】

【非特許文献1】Buelow R, Fitzner B, Sparmann G, et al., Biochem Pharmacol 74: 1747-1757, 2007
【非特許文献2】畢 微ら、第40 回日本栄養・食糧学会中国・四国支部大会講演要旨集、A2-4(2007)
【非特許文献3】石倉ら、ジャパンフードサイエンス 49(1) 45-52(2010)
【非特許文献4】Rahi Victoryら、Fertility and Sterility 88(6) 1657-1662(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、皮膚の線維化を有効に抑制し得る新規の皮膚線維化抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討した結果、ヒストン脱アセチル化酵素阻機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸を併用することにより、効果的に皮膚線維芽細胞の線維化を抑制し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩と、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む、皮膚線維化抑制剤。
2.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が短鎖脂肪酸である、前項1に記載の皮膚線維化抑制剤。
3.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が酪酸である、前項1または2に記載の皮膚線維化抑制剤。
4.多価不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)である、前項1~3のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
5.有効成分の組成が、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩0.1 mMに対して、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩が0.1~50mMである、前項1~4のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
6.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01~500mMである前項1~5に記載の皮膚線維化抑制剤。
7.多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩の濃度が、0.01~10mMである前項1~6のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
8.皮膚線維化抑制剤が肥厚性瘢痕、ケロイド、および/または翼状片から選択される皮膚疾患の治療用および/または予防用に用いられる、前項1~7のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
9.皮膚線維化抑制剤が外用剤である、前項1~8のいずれか1に記載の皮膚線維化抑制剤。
10.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩と、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む、皮膚線維化抑制機能を発揮する組成物を含む、化粧品。
11.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が酪酸であり、かつ、多価不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)である、前項10に記載の化粧品。
12.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩と、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む、ストレスファイバー形成抑制剤。
13.ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が酪酸であり、かつ、多価不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)である、前項12に記載のストレスファイバー形成抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皮膚線維化抑制剤では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸の2種の有効成分を組み合わせて使用することにより、これらの有効成分を単独で使用した場合と比較して、皮膚線維芽細胞における線維化マーカーの発現抑制を有意に増強することができ、ストレスファイバーの形成抑制、アポトーシスの促進を増強することができる。このため本発明の皮膚線維化抑制剤は、ケロイド、肥厚性瘢痕、翼状片などの皮膚増殖性病変を含む皮膚疾患に対する効果の高い、治療剤および/または予防剤として使用し得るものと考えられる。また本発明の皮膚線維化抑制剤では、細胞毒性が認められないため、生体に投与した際にも副作用の低い薬剤であることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、正常線維芽細胞のα-SMAのmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図2】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、正常線維芽細胞のCollagen I型のmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図3】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、正常線維芽細胞のCollagen III型のmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図4】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、正常線維芽細胞のTGF-β1のmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図5】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、正常線維芽細胞内のストレスファイバーの発現に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例1)
【図6】酪酸ナトリウムの、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量、および細胞生存率に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(参考例1)
【図7】ドコサヘキサエン酸の、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(参考例2)
【図8】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、ケロイド由来線維芽細胞の各種線維化マーカーのmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図9】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、ケロイド由来線維芽細胞内のストレスファイバーの発現に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図10】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、ケロイド由来線維芽細胞のアポトーシス誘導に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【図11】酪酸ナトリウムとドコサヘキサエン酸との併用が、翼状片由来線維芽細胞の各種線維化マーカーのmRNA発現量に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の皮膚線維化抑制剤には、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩と、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む。すなわち、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩と、多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩とを有効成分として含む組成物は、皮膚線維化抑制機能を発揮するものである。

【0016】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩は、ヒストンアセチル化における改変状態を介してクロマチン構造をリモデリングすることにより、遺伝子のサブセットを活性化する。本発明において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩としては、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する短鎖脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩を使用することが好ましい。短鎖脂肪酸とは炭素数が6個以下のカルボン酸を意味し、難消化性糖類の腸内細菌叢による代謝産物であり、大腸粘膜上皮細胞の主要なエネルギー基質として、様々な生理作用を有する。ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する短鎖脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩としては、例えば、酪酸ナトリウム、イソバレレート、バルプロ酸、4-フェニルブチレート(4-PBA)、フェニルブチレート(PB)、プロピオネート、ブチルアミド、イソブチルアミド、フェニルアセテート、3-ブロモプロピオネート、トリブチリン、アルギニンブチレート、イソブチルアミドおよびバルプロエートが挙げられる。本発明においてヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する短鎖脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩としては、炭素数が4個の直鎖カルボン酸である酪酸および/またはその薬学的に許容される塩を用いることが、より好ましい。

【0017】
多価不飽和脂肪酸とは、不飽和結合を2つ以上持つ不飽和脂肪酸のことである。本発明において多価不飽和脂肪酸としては、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが例示されるが、ドコサヘキサエン酸(DHA)を用いることが好ましい。多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)とは、6つの二重結合を含む、炭素数が22個の直鎖をもつカルボン酸 (22:6) を意味する。好ましくは本発明のドコサヘキサエン酸は、4,7,10,13,16,19位に全てシス型の二重結合を持つ、ω-3脂肪酸に分類される化合物である。ヒトにおいてドコサヘキサエン酸は、魚類等の食品から摂取される以外に、代謝生産されることが知られている。

【0018】
本発明において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物または多価不飽和脂肪酸の薬学的に許容される塩とは、薬理学的及び製剤学的に許容される一般的な塩が挙げられる。そのような塩として、塩基性付加塩が例示され、塩基性付加塩として具体的には以下が例示される。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。

【0019】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物の薬学的に許容される塩は、上記に例示したいかなる塩であってもよいが、ナトリウム塩(酪酸ナトリウム)であることが好ましい。
また、多価不飽和脂肪酸の薬学的に許容される塩は、上記に例示したいかなる塩であってもよい。
なお本明細書においては、「ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および/またはその薬学的に許容される塩」を単に「ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物」または「ヒストン脱アセチル化阻害剤(HDAC inhibitor)」と称し、「短鎖脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩」を「短鎖脂肪酸」、「酪酸および/またはその薬学的に許容される塩」を単に「酪酸」と称し、「多価不飽和脂肪酸および/またはその薬学的に許容される塩」を「多価不飽和脂肪酸」、「ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはその薬学的に許容される塩」を単に「ドコサヘキサエン酸」もしくは「DHA」と称することもある。

【0020】
本発明において、有効成分であるヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸との組成比は、特に限定されず、皮膚線維芽細胞の線維化を抑制し得る比率であればよい。好ましくはヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸との組成比は、多価不飽和脂肪酸 0.1 mMに対してヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が0.1~50mMである、より好ましくは多価不飽和脂肪酸 0.1 mMに対してヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が0.5~30mMである、さらに好ましくは多価不飽和脂肪酸 0.1 mMに対してヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が1~16mMである。なお「多価不飽和脂肪酸 0.1 mMに対してヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が0.1~50mMである」とは、「多価不飽和脂肪酸 0.1 molに対してヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物が0.1~50molである」と同義である。

【0021】
本発明において、有効成分であるヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物または多価不飽和脂肪酸の濃度は、特に限定されず、皮膚線維芽細胞の線維化を抑制し得る量であればよい。好ましくはヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物の濃度は、0.01~500mMであり、より好ましくは0.1~50mMであり、さらに好ましくは1~16mMである。好ましくは多価不飽和脂肪酸の濃度は、0.01~10mMであり、より好ましくは0.05~5mMであり、さらに好ましくは0.05~1mMである。

【0022】
本発明において皮膚線維化抑制剤とは、皮膚の線維化を抑制する機能を発揮する薬剤であり、皮膚線維化抑制とは、線維芽細胞の増殖の抑制や、線維芽細胞の活性化による線維形成の抑制、線維芽細胞のアポトーシスの促進を意味する。線維芽細胞の増殖の抑制または線維芽細胞の活性化による線維形成の抑制は、公知の線維化マーカーおよび今後見出される線維化マーカーのmRNA発現量やタンパク質発現量を測定すること、線維芽細胞におけるストレスファイバーの形成を観察することによって確認することができる。線維芽細胞の増殖の抑制または線維芽細胞の活性化による線維形成の抑制とは、各種線維化マーカーのmRNA等の発現量を低減させること、ストレスファイバーの形成を抑制することを意味する。
線維化マーカーとしては、例えばα-SMA、TGF-β1(Transforming growth factor-β1)、Collagen I型、Collagen III型等が公知である。α-SMAは、組織収縮の評価に用いられ、Collagen I型、Collagen III型は、コラーゲン生成の評価に用いられる。TGF-β1は線維化促進因子である。組織収縮およびコラーゲン生成の経路の1つに関連する、最も主要な線維化促進因子である。線維化にはTGF-β1が関連する経路以外に、TGF-β2、TGF-β3等が関連する経路が存在すると考えられている。また、ストレスファイバーはF-actinで構成される細胞質内の線維束であり、細胞に張力をもたらす。線維芽細胞で発現したα-SMAがストレスファイバー内に取り込まれると細胞にさらなる張力がもたらされ、線維芽細胞の張力増加により線維芽細胞が活性化され、コラーゲン合成が促進されると考えられている。本発明の皮膚線維化抑制剤は、ストレスファイバー形成抑制剤としても使用することが可能である。
なお、各種線維化マーカーのmRNA発現量の測定、ストレスファイバー形成の確認、アポトーシスの観察は、具体的には後述する実施例に記載の方法によって行うことができる。

【0023】
本発明の皮膚線維化抑制剤は、線維増殖性病変を呈する皮膚疾患の治療用および/または予防用に使用することができる。線維増殖性病変を呈する皮膚疾患は、特に良性の線維性腫瘍を呈する。かかる線維増殖性病変を呈する皮膚疾患は、ケロイド、翼状片、肥厚性瘢痕等の、線維化に関連する皮膚疾患が例示される。ケロイドは、異常な創傷治癒過程で生じる。正常な創傷治癒では線維芽細胞がアポトーシスし、線維形成が収束することにより治癒が完了するが、ケロイドでは治癒が完了しても線維芽細胞がアポトーシスせず、線維形成が維持・亢進する。本発明の皮膚線維化抑制剤は、線維増殖性病変を呈する皮膚疾患において、病変が生じた後、例えばケロイドが進行した後に治療剤として使用されてもよいし、皮膚病変が生じる前に予防剤として、例えば創傷の治癒直後、手術中や手術直後などに使用されてもよい。

【0024】
皮膚疾患は、火傷、熱傷、熱傷性潰瘍、凍傷などの温度障害、裂創、擦過創、切創、刺創、挫創、咬創などの外傷、バージャー病、リンパ浮腫、下腿潰瘍などの血管およびリンパ管障害、採皮創、縫合創などの術後創、褥瘡、圧迫性潰瘍、糖尿病性潰瘍・脱疽、ストーマ、放射性障害、化学的障害などの皮膚創傷並びに水疱、糜爛など皮膚傷害を有する疾患などに起因して発生する瘢痕ケロイド、肥厚性瘢痕、真性ケロイド、翼状片を呈する皮膚疾患などが例示される。なお真性ケロイドは傷跡のないところにも発生するケロイドを含むものである。

【0025】
本発明の皮膚線維化抑制剤の投与方法は、本発明の皮膚線維化抑制剤の作用が発揮される限りにおいて特に限定されないが、例えば注射(静脈内、皮下、皮内等)による投与、経口および吸入・塗布等の経口的投与並びに経皮等の非経口的投与経路が挙げられる。その投与方法は、適用される疾患や部位等によって適宜選択される。本発明の皮膚線維化抑制剤は、経皮投与されることが好ましく、局所適用されることが好ましい。

【0026】
このような投与経路や投与方法に応じて、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および多価不飽和脂肪酸を、薬学的に許容される塩や担体と適宜製剤化して医薬組成物とし、上記皮膚疾患の治療剤および/または予防剤として使用され得る。剤型としては、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、リポ化剤、吸入散剤や、軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、ローション剤、クリーム剤、エアゾール剤、スプレー剤(噴霧剤)、パスタ剤、ゲル剤、外用散剤、点眼剤等の外用剤が例示される。本発明の皮膚線維化抑制剤は、好ましくは皮膚に適用される外用剤である。

【0027】
本発明の皮膚線維化抑制剤の製剤化には公知の方法を用いることができる。製剤化にあたり、有効成分および/または薬学的に許容される塩に悪影響を与えず、かつ本発明の効果に影響を与えない限りにおいて、他の医薬活性成分(ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、免疫抑制剤、抗菌剤、抗生物質、非ステロイド系抗炎症剤等の薬剤)や、医薬として許容される通常の安定剤、乳化剤、溶解剤、増粘剤、界面活性剤、浸透圧調整剤、pH調節剤等の補助剤を適宜配合することができる。

【0028】
例えば、本発明の皮膚線維化抑制剤を、外用剤として用いる場合は、通常はヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および多価不飽和脂肪酸を適当な基剤に混合、溶解、分散等して外用剤を形成し、当該外用剤を塗布、貼付、噴霧等により損傷のある皮膚に経皮的に投与する。当該外用剤の剤型は特に限定されないが、上記のように軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、液剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、エアゾール剤、スプレー剤(噴霧剤)、パスタ剤、外用散剤、点眼剤等が挙げられる。

【0029】
外用剤の基剤としては外用剤に通常使用される基剤を用いることができるが、パラベン、ラノリンなどの刺激性のある表示指定成分を含まないものを使用すれば、刺激に対して敏感な患者にも本発明の皮膚線維化抑制剤を適用でき、好ましい。
通常使用される基剤としては、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ミツロウ、白色ワセリン、プラスチベース、高級脂肪酸または高級アルコール、親水軟膏、バニシングクリーム、親水ワセリン、オイセリン、ネオセリン、吸水軟膏、親水プラスチベース、流動パラフィン、アイソパー、シリコン油、脂肪酸エステル、植物油、スクワラン、多価アルコール脂肪酸エステル、多塩基エステル、アルキルグリセリルエーテル、大豆レシチン、ステアリン酸等が挙げられる。

【0030】
例えば、本発明の皮膚線維化抑制剤を、注射剤として用いる場合は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましく、希釈剤としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。なお、この場合に等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを医薬製剤中に含有してもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。さらに必要に応じて着色料、保存料、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を医薬製剤中に含有してもよい。

【0031】
本発明の適用対象動物としては、ヒトを含む哺乳動物(ヒト等の霊長類、犬、猫等の愛玩動物、牛、豚、馬等の家畜等)、鶏等の鳥類が挙げられ、これらの動物の上記のような皮膚疾患の予防、治療あるいは症状の軽減化に使用することができる。

【0032】
また本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物および多価不飽和脂肪酸を含む皮膚線維化抑制機能を発揮する組成物を含む化粧品にも及ぶ。本発明において化粧品とは、例えば、ファンデーション、化粧水、化粧用クリーム、乳液、化粧用ジェル、パック剤、歯磨き、整髪料、石鹸、洗剤、シャンプー、リンスなどの化粧料を含む。また、化粧料は液体、固体、ゲル状などの種々の形態で容器に入って製品として提供されるが、本発明においては、かかる製品も化粧品に含まれる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の理解を深めるために実施例および参考例により発明内容を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、皮膚線維化抑制効果
(1)ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS) 、ペニシリン(50 U/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO2、37℃の条件下で培養した。実験には8継代以下の細胞を使用した。
【実施例】
【0035】
(2)6穴プレートに28×104 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、1、4、16、64 mMの濃度で、およびドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加24時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【実施例】
【0036】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、Collagen III型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、以下の表1に示すプライマーとSYBR Green RealTime PCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ (BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
【表1】
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【実施例】
【0037】
さらに、酪酸16 mMおよびDHA100 μM添加24時間後の検体に対して、免疫蛍光抗体法にてF-actin を染色することにより、線維芽細胞内のストレスファイバーの発現を解析した。
【実施例】
【0038】
(3)統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法) を行った。
【実施例】
【0039】
各種線維化マーカーの発現量の解析結果を、図1~4に示す。酪酸単独およびDHA単独と比較して、酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量が低く、これら遺伝子のmRNA発現が抑制されることがわかった。特に、酪酸が1~16mMの場合に高い抑制効果が見られた。
【実施例】
【0040】
蛍光顕微鏡を用いて200倍で観察した、免疫蛍光抗体法の結果を図5に示す。コントロールでは、核周囲の細胞質内にF-actinが発現しており、ストレスファイバーが形成されているが、DHAの添加によりストレスファイバーが減少し、酪酸の添加ではさらに減少した。酪酸とDHAの混合添加では、ストレスファイバーが消退していた。線維状の蛍光(緑色: Molecular Probes社のAlexa Fluor(登録商標) 488 phalloidin)がF-actinを示し、球状の蛍光(青色:DAPI)が核を示す。非添加および単独添加と比較して、酪酸とDHAの併用は、細胞質内でのストレスファイバー形成を抑制することがわかった。
【実施例】
【0041】
(参考例1)酪酸の皮膚線維化抑制効果
(1)実施例1と同様にして、ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用して実験を行った。
【実施例】
【0042】
(2)6穴プレートに28×104 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウムを0 mM(コントロール)、1、4、16、64 mMの濃度で添加した。添加24もしくは48時間後にmRNAを抽出して、実施例1と同様にして線維化マーカーについての解析を行った。
【実施例】
【0043】
(3)6穴プレートに28×104 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に酪酸ナトリウムを0 mM(コントロール)、1、4、16、64、256 mM の濃度で添加し、添加24時間後にTrypan blue-exclusion test法(Gibco社のTrypan blue染色液)にて細胞数及び細胞生存率(viability)を評価した。
【実施例】
【0044】
結果を図6に示す。酪酸はα-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現を抑制することがわかった。また細胞生存率は、1、4、16、64mMの酪酸で処理した場合は、コントロールの場合と有意差がなく、細胞毒性を有さないことがわかった。
【実施例】
【0045】
(参考例2)ドコサヘキサエン酸の皮膚線維化への影響の確認
(1)実施例1と同様にして、ヒト皮膚由来線維芽細胞 CC-2511(Clonetics)を使用した。ドコサヘキサエン酸が0 mMである場合をコントロールとした。
【実施例】
【0046】
(2)6穴プレートに28×104 cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後にドコサヘキサエン酸を0 mM(コントロール)、25、50、100 mMの濃度で添加した。添加24時間後にmRNA抽出して、実施例1と同様にして線維化マーカーについての解析を行った。
【実施例】
【0047】
結果を図7に示す。ドコサヘキサエン酸はα-SMA、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現を抑制することがわかった。
【実施例】
【0048】
(実施例2)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、ケロイド由来線維芽細胞における皮膚線維化抑制効果
ヒト前胸部ケロイド由来線維芽細胞を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO2、37℃の条件下で培養した。実験には4継代以下の細胞を使用した。
【実施例】
【0049】
6穴プレートに28×104cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に短鎖脂肪酸である酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、4、16 mMの濃度で、および多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加48時間後にBrdU assay(Roche)にて細胞増殖性を評価した。添加48時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【実施例】
【0050】
さらに、酪酸16 mMおよびDHA100 μM添加48時間後の検体に対して、実施例1に記載の同様にして、免疫蛍光抗体法にてF-actin を染色することにより、線維芽細胞内のストレスファイバーの発現を解析した。また、添加96時間後の検体に対して、免疫蛍光抗体法のDAPI(核)染色により、線維芽細胞のapoptosis動態を解析した。
【実施例】
【0051】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、CollagenIII型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、実施例1と同様に、表1に示すプライマーとSYBR Green RealTimePCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ(BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法)を行った。
【実施例】
【0052】
各種線維化マーカーの発現量の解析結果を図8に示す。酪酸はα-SMA、TGF-β1、Collagen III型のmRNA発現、および細胞増殖性を有意に抑制することがわかった。DHAはα-SMA、Collagen III型のmRNA発現を有意に抑制することがわかった。酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量、および細胞増殖性を有意に抑制し、特に線維化マーカーの発現において、酪酸単独およびDHA単独と比較して強い抑制効果が認められた。
【実施例】
【0053】
免疫蛍光抗体法の結果を図9および10に示す。図9において、コントロールでは、核周囲の細胞質内にF-actinが発現しており、ストレスファイバーが形成されているが、DHAの添加によりストレスファイバーが減少し、酪酸の添加ではさらに減少していた。酪酸とDHAの混合添加では、ストレスファイバーが消退していた。また図10では、矢印で示す細胞において、核が断片化し、apoptosisが観察された。コントロールでは、apoptosis細胞は観察されないが、DHAの添加ではapoptosis細胞が観察された。酪酸の添加では細胞増殖を抑制した上でapoptosis細胞が観察された。酪酸とDHAの混合添加では、細胞増殖を抑制した上で、単独添加より多くのapoptosis細胞が観察され、さらに核の断片化が単独添加よりも進行していた。図9および図10の画像は蛍光顕微鏡を用いて200倍で観察されたものである。
以上の結果から非添加および単独添加と比較して、酪酸とDHAの併用は、細胞質内でのストレスファイバー形成を抑制し、さらにapoptosis促進効果を有することがわかった。
【実施例】
【0054】
(実施例3)酪酸とドコサヘキサエン酸の併用の、翼状片由来線維芽細胞における皮膚線維化抑制効果
【実施例】
【0055】
ヒト再発翼状片由来線維芽細胞を使用し、10% ウシ胎児血清(FBS)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM) を用いて、5% CO2、37℃の条件下で培養した。実験には4継代以下の細胞を使用した。
【実施例】
【0056】
6穴プレートに28×104cells/wellの濃度で細胞を播種し、24時間後に短鎖脂肪酸である酪酸ナトリウム(Sigma)を、0、4、16 mMの濃度で、および多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)(Sigma)を100μM添加した。酪酸ナトリウムおよびDHAのいずれも添加していないものをコントロールとした。添加48時間後にTrypan blue-exclusion test法(Gibco社のTrypan blue染色液)、BrdU assay(Roche)にて細胞数、細胞生存率(viability)及び細胞増殖性を評価した。添加48時間後にmRNA抽出して各種線維化マーカーについての解析を行った。
【実施例】
【0057】
各種線維化マーカー(α-SMA、Collagen I型、CollagenIII型、TGF-β1)の発現量の解析は、以下のようにして行った。
TRIzol(invitrogen) を用いて線維芽細胞からmRNAを抽出し、iScript cDNA synthesis kit (BioRad) を用いて逆転写を行った。得られたcDNAについて、実施例1と同様に表1に示すプライマーとSYBR Green RealTimePCR Master Mix2 (TaKaRa) を用いて、MyiQ(BioRad) により、リアルタイム定量PCR(real-time PCR)を行った。リアルタイム定量PCRの条件は、95℃30秒、アニーリング(温度はプライマーに依存する:表1参照)30秒、72℃30秒を、40サイクルで行った。リファレンス遺伝子としてGAPDH遺伝子のmRNA発現量を解析した。GAPDH遺伝子の相対発現量に基づき、試料ごとのmRNA発現量を補正した。ΔΔCt法にて目的遺伝子の相対的発現量を求めた。
【実施例】
【0058】
統計学的解析は、多重比較検定 (Turkey-Kramer法)を行った。
【実施例】
【0059】
結果を図11に示す。酪酸はα-SMA、TGF-β1、Collagen III型のmRNA発現、および細胞増殖性を有意に抑制することがわかった。DHAはα-SMA、Collagen III型のmRNA発現を有意に抑制することがわかった。酪酸およびDHAを併用した場合は、α-SMA、TGF-β1、Collagen I型、Collagen III型のmRNA発現量、および細胞増殖性を有意に抑制し、特に線維化マーカーの発現において、酪酸単独およびDHA単独と比較して強い抑制効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の皮膚線維化抑制剤では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物または多価不飽和脂肪酸を単独で使用した場合と比較して、皮膚線維芽細胞における線維化マーカー発現抑制を有意に増強することができ、ストレスファイバーの形成抑制、アポトーシスの促進を増強することができる。ヒストン脱アセチル化酵素阻害機能を有する化合物と多価不飽和脂肪酸は、異なる経路により線維化マーカーの発現抑制、ストレスファイバーの形成抑制、アポトーシスの促進の増強に寄与していると考えられる。従って本発明の皮膚線維化抑制剤は、ケロイド、肥厚性瘢痕、翼状片などを呈する皮膚疾患に対して有効な治療剤および/または予防剤として使用し得るものと考えられる。また本発明の皮膚線維化抑制剤では、細胞毒性が認められないため、生体に投与した際にも副作用の低い薬剤であることが期待され、有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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