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明細書 :脳梗塞の判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5130628号 (P5130628)
公開番号 特開2007-189935 (P2007-189935A)
登録日 平成24年11月16日(2012.11.16)
発行日 平成25年1月30日(2013.1.30)
公開日 平成19年8月2日(2007.8.2)
発明の名称または考案の名称 脳梗塞の判定方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 18
出願番号 特願2006-010431 (P2006-010431)
出願日 平成18年1月18日(2006.1.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年11月19日日本大学において開催された学校法人日本大学第465回日大医学会例会で発表
特許法第30条第1項適用 Stroke,Vol.37,No.1(平成17年12月1日にインターネットに掲載)p.69-76に発表
審査請求日 平成20年12月25日(2008.12.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】中山 智祥
【氏名】浅井 聰
【氏名】相馬 正義
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 国際公開第2004/028341(WO,A1)
日本高血圧学会総会プログラム・抄録集, 2005 Sep 01, Vol.28th, p.119, BP-094
調査した分野 C12N 15/00
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
STRK1領域内の遺伝子多型により構成されるハプロタイプの検出結果と、個体の脳梗塞症状の有無とを関連づける、脳梗塞の遺伝的要因の有無の判定方法であって、
前記遺伝子多型が表1又は表2に示されるものであり、かつ前記ハプロタイプが表3及び表4に示されるものから選ばれる少なくとも1つであり、
検出されたハプロタイプが、表3及び表4中のNo. 1、3又は4のハプロタイプであるときは遺伝的に脳梗塞が発症しにくいと判定し、表3及び表4中のNo. 2、5又は6のハプロタイプであるときは遺伝的に脳梗塞が発症しやすいと判定することを特徴とする、
前記判定方法。
【請求項2】
STRK1領域内の遺伝子多型により構成されるハプロタイプの検出結果に基づいて、脳梗塞の遺伝的要因の有無を判定する方法であって、
前記遺伝子多型が表1又は表2に示されるものであり、かつ前記ハプロタイプが表3及び表4に示されるものから選ばれる少なくとも1つであり、
検出されたハプロタイプが、表3及び表4中のNo. 1、3又は4のハプロタイプであるときは遺伝的に脳梗塞が発症しにくいと判定し、表3及び表4中のNo. 2、5又は6のハプロタイプであるときは遺伝的に脳梗塞が発症しやすいと判定することを特徴とする、
前記判定方法。
【請求項3】
前記脳梗塞が脳血栓である、請求項1又は2記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳梗塞であることを判定する方法に関する。詳しくは、遺伝子多型を利用した脳梗塞の遺伝的要因の有無を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞(CI;Cerebral Infarction)は、いくつかの環境要因と遺伝的背景によって発症する他因子遺伝性疾患であると考えられており、従来よりその原因遺伝子や疾患感受性遺伝子の決定は極めて困難であった。
【0003】
近年、罹患同胞対法による全染色体ゲノムスキャンにより、CIの疾患感受性遺伝子領域が染色体5q12であることが報告され(非特許文献1参照)、この領域(locus)は「STRK1」と名付けられた。
【0004】
その後、STRK1領域内のPDE4D遺伝子が解析され、PDE4D遺伝子が感受性遺伝子であることが報告された(非特許文献2参照)。
【0005】
しかし、罹患同胞対法による連鎖解析では、ピークを示した遺伝子マーカーの部位に限らず、同じ領域内の異なる場所にも、疾患感受性や疾患原因に関係する変異及び多型が存在することがあるにも関わらず、上記遺伝子解析では、STRK1領域内のPDE4D以外の遺伝子については検討されていない。また、上記遺伝子解析は白人を被験者としたものであり、他の遺伝的背景を有する被験者でも同様の解析結果となるかは全く不明である。
【0006】
そのため、上記遺伝子解析により決定した多型を利用するCIの判定は、まだ十分に信頼性の高いものとは言えず、またこのことは、日本人を被験者とする場合により顕著なものになると考えられる。

【非特許文献1】Solveig Gretarsdottir et al., Am. J. Hum. Genet., 70, p.593-603, 2002
【非特許文献2】Solveig Gretarsdottir et al., Nature Genetics, 35, p.131-138, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、脳梗塞(CI)の遺伝的要因の有無について信頼性の高い判定結果が得られる方法、特に日本人を被験対象とする上記判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。具体的には、本発明者は、STRK1領域を網羅するような遺伝子マーカーを用いて、この領域がCIの感受性領域となるかを日本人で検討した。詳しくは、ハプロタイプを用いた関連解析により、PDE4D遺伝子及びそれ以外の領域について検討した。その結果、STRK1領域内のPDE4D遺伝子は日本人においても感受性遺伝子であること、さらにはPDE4D遺伝子とは別の領域にCIに関連している領域が存在することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
(1) STRK1領域内の遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の脳梗塞症状の有無とを関連づけることを特徴とする、脳梗塞の判定方法。
【0011】
本発明の判定方法において、前記遺伝子多型としては、例えば、後に示す表1又は表2に示されるものが挙げられる。また、前記ハプロタイプとしては、例えば、後に示す表3及び表4に示されるものから選ばれる少なくとも1つが挙げられる。さらに、前記脳梗塞としては、例えば脳血栓が挙げられる。
【0012】
(2) STRK1領域に内在する遺伝子の遺伝子配列又はその相補配列中に存在する遺伝子多型部位を含むように作製されたオリゴヌクレオチド。
【0013】
(3) 上記(2)に記載のオリゴヌクレオチドが支持体に固定されたマイクロアレイ。
【0014】
(4) 上記(2)に記載のオリゴヌクレオチド及び/又は上記(3)に記載のマイクロアレイを含む、脳梗塞判定用キット。
【0015】
本発明のキットにおいて、前記脳梗塞としては、例えば脳血栓が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、脳梗塞(CI)の遺伝的要因の有無を判定するにあたり、非常に信頼性の高い新規判定方法、特に日本人を被験対象とする場合に優れた判定方法を提供することができる。また、上記判定方法に用い得るオリゴヌクレオチド、マイクロアレイ及び判定用キットを提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の概要
本発明は、脳梗塞(CI;Cerebral Infarction)の遺伝的要因の有無を判定するための方法であり、特定のハプロタイプが、CIの遺伝子マーカーとして非常に有用であるとの新規な知見に基づき完成されたものである。詳しくは、本方法は、ヒト染色体5q12に存在するSTRK1領域(図1参照)における遺伝子多型(SNP等)から構成される特定のハプロタイプに着目し、当該ハプロタイプの検出結果と、CIの症状の有無との関連づけを行うことにより、CIの遺伝的要因の有無の判定を行うというものである。なお、本発明においては、CIの中でも脳血栓を対象とすることが特に好ましい。
【0018】
本発明者は、STRK1領域を網羅するような遺伝子マーカーを用いて、このSTRK1領域がCIの感受性領域となるか否かを検討した。なお、従来は被験対象を白人のみとしていたが、本発明者は日本人を被験対象として検討を行った。
【0019】
具体的には、年齢層を統一させたCI群(case)及び非CI群(control)について、末梢血からゲノムDNAを抽出し、STRK1領域内に存在する各種多型の遺伝子型を決定した。連鎖不平衡解析によってハプロタイプブロック及びTag SNPを検討し、個々のSNPあるいはハプロタイプを用いた関連解析を施行した。
【0020】
その結果、連鎖不平衡解析からは、STRK1領域が7つのハプロタイプブロックからなるものであることが分かり、ハプロタイプを用いた関連解析からは、PDE4D遺伝子を含むブロックだけでなくPDE4D遺伝子を含まない別のブロックも全体での頻度分布(overall distribution)において有意差を示すことが分かった。そして、PDE4D遺伝子を含むブロックには2個の、PDE4D遺伝子を含まない別のブロックには4個の特定のハプロタイプ(計6個)が、頻度分布において有意差を示すものであることが明らかとなった。
【0021】
今回、本発明者は、PDE4D遺伝子が日本人においても感受性遺伝子であること、及び、STRK1領域内のPDE4D遺伝子とは別の領域もCIに関連し得ることを明確に示した。そして、STRK1領域内の各ハプロタイプとCIとの関連性について明らかにし、特定の複数ハプロタイプ(計6個)がCIの遺伝的要因の有無を判定するために非常に有用であることを見出した。

2.STRK1領域内の遺伝子多型
本発明におけるSTRK1領域内の遺伝子多型(STRK1多型)は、一塩基多型(SNP又はSNPs)、及び塩基繰り返し多型などの各種多型を含むものである。
【0022】
SNPとは、遺伝子配列中の特定の1塩基が他の塩基に置換することによる多型を意味する。また、塩基繰り返し多型とは、塩基配列の繰り返し数が異なることにより生じる多型を意味し、繰り返す塩基数の違いによりマイクロサテライト多型(塩基数:2~4塩基程度)とVNTR (variable number of tandem repeat)多型(塩基数:数塩基~数十塩基)とがある。
【0023】
本発明でいうSTRK1多型としては、限定はされないが、下記の表1及び表2の配列番号1~7に示される多型情報のものが好ましい。なお、後述する実施例で示すように、表1及び表2に示す多型情報は、STRK1領域の7つのハプロタイプブロックのうち全体での頻度分布において有意差を示した2つのブロックにおける多型の情報である。表1では、PDE4D遺伝子を含む方のブロックにおける多型情報が示され、表2では、PDE4D遺伝子を含まない方のブロックにおける多型情報が示されている。なお、表1の配列番号1~2及び表2の配列番号4~7に示される塩基配列は、一塩基多型(SNP)に関する多型情報を示すものであり、表1の配列番号3に示される塩基配列は、VNTR多型に関する多型情報を示すものである。
【0024】
【表1】
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【0025】
【表2】
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【0026】
ここで、表1及び表2の各欄の表記について以下に説明する。
【0027】
「Public ID (Celera ID)」は、遺伝子多型名、すなわち上記ヒトゲノム上の位置におけるSNP名又はVNTR名を表し、いずれも、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、あるいはセレラ・ディスカバリーSystem-Applied Biosystems社(Applied Biosystems-Celera Discovery System)のウェブサイト(http://www.appliedbiosystems.com/)を用いて確認されるアクセッション番号(accession number)で示している。なお、後者のウェブサイトにより確認されるアクセッション番号は括弧内に示した。
【0028】
「遺伝子名」は、STRK1領域内の、多型が存在する遺伝子の名前を表す。
【0029】
「配列」は、多型部位の塩基とその前後の塩基(前後25塩基ずつ)を含む計51塩基の塩基配列を表す。ただし、多型部位の塩基(26番目)は、VNTRのように複数の塩基が存在する多型であっても、この複数の塩基をまとめて第26番目の塩基として表記する。多型がSNPの場合(配列番号1,2,4~7)、多型部位は「 / 」を用いて表記し、例えば「A/G」は、アレルがA/A若しくはG/Gのホモ、又はA/Gのヘテロであることを意味する。また、多型がVNTRの場合(配列番号3)、多型部位は括弧「( )」と数字を用いて表記する。
具体的には「(ATGA)-4~+2」という表記は、括弧内に示したATGAという塩基の並びが複数回繰り返して構成される配列であることを意味する。そして、括弧の後の数字は、最も頻度が高い繰り返し配列アレルの繰り返し数を「0」と規定したときに、実際に検出し得たアレルの繰り返し数がこの「0」を基準として何個多いか少ないかを(+又は-を用いて)示したものであり、「-4~+2」という表記は、「-4」の繰り返し数のアレルから「+2」の繰り返し数のアレルまでを包括的に示したものである。多型がVNTRの場合は、個々のVNTRが個人差を有するか否かが重要であるため、実際の繰り返し数自体を塩基配列決定法などで確認することはそれほど重要ではない(因みに、前記非特許文献2においてもVNTRの繰り返し数は確認されていない。)。なお、繰り返し数を0と規定したもの(最も頻度が高いもの)が、疾患(CI)との関連性が有意に高いアレル(at-risk allele)となるが、ここでは(配列番号3)、このat-risk allele(以下「O」と表記)及びそれ以外の全てのアレル(以下「X」と表記)を共に包含する表記となっている。
【0030】
「存在位置」は、多型部位のゲノム上(遺伝子上)の位置を示す。具体的には、NCBIのBuild 35.1バージョンでのヒト5番染色体上の位置を示す。
【0031】
STRK1多型の情報を得る方法としては、公知の各種方法が採用できる。例えば、新規な多型情報を得ようとする場合は、ヒトから採取した血液検体等からゲノムDNAを精製し、目的の領域について、PCR法及びシークエンス法を用いて塩基配列を解読する方法等が用いられるが、公知の多型情報を得る場合は、例えばGenBankのdbSNP等の各種データベースで検索する方法を用いればよい。
【0032】
本発明においては、STRK1領域に内在する遺伝子の遺伝子配列又はその相補配列中に存在する遺伝子多型部位(STRK1多型)を含むオリゴヌクレオチドを提供することができる。なかでも、表1及び表2の配列番号1~7のいずれかに示される塩基配列中の多型部位(第26番目の塩基)を含む少なくとも10塩基(好ましくは10~100塩基、より好ましくは10~60塩基)の塩基配列又はこれに相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが好ましく、より好ましくは、配列番号1~7のいずれかに示される塩基配列又はこれに相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。

3.STRK1領域内のハプロタイプ
ハプロタイプとは、一方の親に由来する1つの染色体において、比較的近隣に存在する遺伝子や多型(SNP等)の組合せのこと、つまり同一染色体上に存在する複数の遺伝子座におけるアレルの並び方のことである。例えば、数個の多型が特定の疾患の発生に関与している場合、その関連多型のハプロタイプ解析が疾患原因を解明する鍵となることがある。通常、非翻訳領域外に存在する未知の遺伝子多型を新たに明らかにするのは非常に困難であるため、ハプロタイプは、遺伝子多型と疾患との関連性を見出すために非常に有用である。なお、ハプロタイプ解析の対象となる多型(ハプロタイプの構成要素となる多型)は、通常、その多型頻度が10%以上のものを選択することが好ましい。
【0033】
本発明でいうハプロタイプは、前記STRK1多型により構成されるものであればよく、限定はされないが、例えば、下記の表3及び表4に示されるNo.1~6のハプロタイプから選ばれるものが好ましい。本発明でいうハプロタイプは、脳梗塞(CI)の遺伝的要因の有無を判定する方法に利用することができ、詳しくは、ハプロタイプと個体のCIの症状の有無とを関連づけることを特徴とするCIの判定方法に利用することができる。
【0034】
【表3】
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【0035】
【表4】
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【0036】
表3に示されるハプロタイプ(No.1~2)は、前記表1に示された3個の多型(SNP:2個,VNTR:1個)から構成されるものであり、表4に示されるハプロタイプ(No.3~6)は、前記表2に示された4個の多型(全てSNP)から構成されるものである。なお、ハプロタイプを構成する多型がSNPの場合、大文字表記したもの(例えば「A」)はメジャーアレルを示し、小文字表記したもの(例えば「g」)はマイナーアレルを示す。また、ハプロタイプを構成する多型がVNTRの場合は、前記の通り、「O」と表記したものは疾患(CI)との関連性の高いアレルを示し(表3,4には無し)、「X」と表記したものはそれ以外の全てのアレルを示す。

4.STRK1領域の遺伝子多型と脳梗塞(CI)との相関
STRK1領域の塩基配列に多型が生じると、この領域に内在する各種遺伝子の発現量や機能が変化する可能性がある。これが原因となり、STRK1多型と、CIに関する様々な表現型とが相関関係を有する場合が考えられる。ここで、表現型とは、疾患(CI)の発症や症状に関する表現型を挙げることができ、例えば、片麻痺、知覚障害、運動障害、構音障害、コンピュータートモグラフィーによる低吸収域等が挙げられる。
【0037】
STRK1多型と表現型との関連づけ(相関)は、以下のように調べることができる。まずSTRK1多型として、健常人における連鎖不平衡解析及びハプロタイプ解析の結果から推定された、連鎖ブロック内の代表的な多型を選択する。次に、被験者(患者)の個体におけるこの多型についての多型頻度を解析し、健常人の多型頻度との比較を行う。当該比較においてはχ2乗検定(カイ二乗検定:chi-square)などの統計手法を用いることが有効である。その結果、対照群と多型頻度に有意差のあった多型は、疾患(CI)の発症のしやすさ等の評価に利用でき、当該疾患の遺伝的要因の有無を判定するのに用いることができる。例えば、at-risk alleleがCI群において有意に高頻度のときは、CIが発症しやすいと判定することができ、at-risk allele以外のalleleがnon-CI群において有意に高頻度のときは、CIが発症しにくいと判定することができる。ただし、遺伝子多型の傾向は、人種や出身地等に影響されることが示唆されているため、関連する多型を見出すのに用いた母集団と同様の遺伝子多型を示す集団内において、上記評価及び判定を行うことが望ましい。

5.サンプル調製および遺伝子多型の検出法
被験対象者からのゲノムサンプルは、血液、唾液、皮膚等のいずれから抽出することもでき、ゲノムサンプルを採取できるものであれば、これらに限定されない。ゲノムDNAの抽出及び精製法は周知である。例えば、ヒトから採取した血液、唾液、皮膚等の検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。検出しようとする遺伝子多型(SNP等)がオープンリーディングフレーム中にある場合は、ゲノムDNAの代わりにmRNAやtotal RNAを抽出してもよい。以下に、上記被験サンプルからの遺伝子多型の検出法(概略)を例示する。
【0038】
(1) PCR法を用いた検出
PCRにより被験サンプルを増幅するには、Fidelityの高いDNAポリメラーゼ、例えば、KOD Dashポリメラーゼ(TOYOBO社)等を用いることが好ましい。用いるプライマーは、被験サンプル中の対象SNPを増幅できるようにプライマーの任意の位置に遺伝子多型が含まれるように設計し合成する。
【0039】
増幅反応終了後は、増幅産物の検出を行い、多型の有無を判定する。
【0040】
(2) 塩基配列決定法による検出
本発明においては、ジデオキシ法に基づく塩基配列決定法により本発明の多型を検出することもできる。塩基配列決定に用いるシークエンサーには、市販のABIシリーズ(アマシャムバイオサイエンス)等を用いることができる。
【0041】
(3) DNAマイクロアレイによる検出
DNAマイクロアレイは、支持体上にヌクレオチドプローブが固定されたものであり、DNAチップ、Gene チップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。
【0042】
まず、被験サンプルのポリヌクレオチドを単離し、PCRにより増幅し、蛍光レポーター基により標識する。続いて、標識化DNA/mRNA, total RNAをアレイと共にインキュベートする。次にこのアレイをスキャナーに差し込み、ハイブリダイゼーションパターンを検出する。ハイブリダイゼーションのデータは、プローブアレイに結合した(すなわち標的配列に取り込まれた)蛍光レポーター基からの発光として採集する。標的配列と完全に一致したプローブは、標的配列と一致していない部分を有するものよりも強いシグナルを生じる。アレイ上の各プローブの配列及び位置は分かっているため、塩基配列の相補配列情報によって、プローブアレイと反応させた標的ポリヌクレオチドの配列を決定することができる。
【0043】
(4) TaqMan PCR法による検出
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴ(TaqManプローブ)とTaq DNAポリメラーゼによるPCR反応とを利用した方法である。詳しくは、まず、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイゼーションし、その後、PCRプライマーからの伸長反応が起こる。そうすると、Taq DNAポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性により蛍光色素結合部分が切断されて、蛍光色素が遊離し、クエンチャーの影響を受けなくなり発色するので、この蛍光を検出することで特定の多型(SNP等)を同定し、ゲノムタイプを判定することができる。TaqMan PCR法で用いるアレル特異的オリゴ(TaqManプローブという)は、前記遺伝子多型情報に基づいて設計することができる。
【0044】
(5) インベーダー法による検出
インベーダー法は、アレル特異的オリゴと鋳型とをハイブリダイゼーションすることにより遺伝子多型を検出する方法である。詳しくは、インベーダー・オリゴがターゲットDNAとプローブ間の二重鎖に少なくとも1塩基の浸入(インベージョン)を起こして部分的な三重鎖構造を形成すると、構造特異的な5'-ヌクレアーゼがプローブ5'末端部分を切断する。そして、目標とする多型(SNP等)箇所の核酸配列に対応してインベージョンを発生させるインベーダー・オリゴを利用することで特定の多型(SNP等)を同定し、ゲノムタイプを判定することができる。インベーダー法を行うためのキットは市販されており、この方法により容易に遺伝子多型を検出することが可能である。

6.キット
本発明において、STRK1多型部位を含むオリゴヌクレオチドは、脳梗塞(CI)判定用キットに含めることができる。
【0045】
本発明のキットは、本発明を実施するために必要な1種以上の成分を含むものである。例えば、本発明のキットは、酵素を保存若しくは供給するためのもの、及び/又は遺伝子多型検出を実施するために必要な反応成分を含むことができる。そのような成分としては、限定されるものではないが、本発明のオリゴヌクレオチド、酵素緩衝液、dNTP、コントロール用試薬(例えば、組織サンプル、ポジティブ及びネガティブコントロール用標的オリゴヌクレオチドなど)、標識用及び/又は検出用試薬、固相支持体、説明書などが挙げられる。また本発明のキットは、必要な成分のうちの一部のみを含む部分的キットであってもよく、その場合には、ユーザーが他の成分を用意することができる。
【0046】
本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドを支持体に固定したマイクロアレイとして提供することもできる。マイクロアレイは、支持体上に本発明のオリゴヌクレオチドが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。当該マイクロアレイは、上記オリゴヌクレオチドと共に本発明のキットに含まれていてもよい。
【0047】
本発明のキットは、前述のごとく、STRK1多型を含むオリゴヌクレオチドを含む。従って、治療用の薬物を患者等に使用する前、又は使用後の段階で、採血してSTRK1領域又は当該領域に内在する各種遺伝子を単離し、キット中のオリゴヌクレオチドと反応させて遺伝子型を同定する。同定された遺伝子型と、CIの症状の有無とを関連づけることにより、CIの遺伝的要因の有無を高い信頼性をもって判定することができる。

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
1.疾患(CI)群及び非疾患(non-CI)群の遺伝子多型のタイピング
(1) 被験対象
表5に示すように、年齢層を統一した「CI群208名(平均66.0歳)」及び「non-CI群270名(平均66.1歳)」を被験対象とした。
【0049】
なお、CI群に含める条件は、コンピュータートモグラフィーやMRIで脳梗塞と診断され、1ヶ月以上方片麻痺などの脳梗塞症状が持続していることとした(但し、心房細動などの心原性梗塞を除く)。また、non-CI群に含める条件は、50歳以上で過去に脳梗塞を発症しておらず、不整脈がないこととした。
【0050】
【表5】
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【0051】
(2) DNA抽出
CI群及びnon-CI群からのDNA抽出は、フェノール・クロロホルム法とそれに続くエタノール沈殿法により行った(Nakayama T, et al., Med. Sci. Monit., 7, 345-349 (2001) 参照)。以下にその概略を示す。
【0052】
すなわち、末梢血をEDTA2Na採血管(7ml又は5ml)に採血し、遠心して血漿を除いた後、SDSバッファーとNonidet P40 (NP40)によって白血球膜及び核膜を破壊した。蛋白分解酵素としてProreinase Kを使用し、その後、フェノール・クロロホルム法により蛋白を除去して、エタノール沈殿法によりDNAを抽出した。
【0053】
(3) 遺伝子型の決定(Genotyping)
STRK1領域内に存在する31個の一塩基多型(SNP)、3個のマイクロサテライト多型、及び1個の4塩基対繰り返し配列多型(VNTR)の遺伝子型決定(genotyping)を以下のようにして行った。
【0054】
NCBIおよびCelera Discovery System(Applied Biosystems社)のウェブサイト(順に、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ ; http://www.appliedbiosystems.com/)から得られる情報に基づいて、STRK1領域内に存在する遺伝子多型を検索し、マイナーアレル頻度(発生頻度が小さい方の対立遺伝子の頻度)が18%より大きい多型を選択した。
【0055】
個々の遺伝子型の決定は、SNP Assays-on-Demandキット(Applied Biosystems社製)を使用してTaqMan PCR法により行った。各々の多型のGenotypingに用いるPCRプライマー及びTaqManプローブは、ミックスされた状態(primer mix)で上記キットに備えられている。なお、いずれのTaqManプローブも、5'末端がレポーター色素となる蛍光色素VIC又はFAMで標識され、3'末端がクエンチャー色素となるNFQで標識されている。
【0056】
TaqMan PCRは、以下の反応液組成で、Gene Amp PCR 9600 thermocycler(Applied Biosystems社)を使用し、初期ステップ:95℃(12分)、「熱変性:95℃(10分)→アニーリング:92℃(15秒)→伸長:60℃(1分)」を計40サイクル、最終ステップ:72℃(10分)を行った。

PCR 反応液組成
鋳型DNA: 15ng (dry upのため0μL)
primer mix: 0.33μL
True Allele PCR Premix: 3μL
(PCRバッファー,MgCl2,dNTP,AmpliTaq Goldを含む)
滅菌水: 適当量(1.6μL程度)
合計: 5μL

PCR産物の蛍光強度の検出及び解析は、ABI 3700 DNA analyzer(Applied Biosystems社)及びGeneScan software version 2.1(Applied Biosystems社)を使用して行い、その結果に基づきCI群及びnon-CI群に属する個々の遺伝子型を決定した。
【0057】
遺伝子型と対立遺伝子のoverall distributionは、CI群及びnon-CI群間の2×3か2×2個の分割表を使用しχ二乗検定で分析した。統計的な分析は、Dr. SPSS II(SPSS株式会社製)を使用した。以上の結果を図2に示す。
2.連鎖不平衡解析によるハプロタイプブロックの検討
上記1.のSTRK1多型の検出及び解析結果に基づき、連鎖不平衡(LD)解析によってハプロタイプブロック及びTag SNPを検討した。LD解析は、SNPAlyze software limited version 4.1 (DYNACOM社製)を使用して行った。この解析結果を図3に示した。またこの結果から、図2の右端欄(Haplotypeの欄)に示すように、STRK1領域は7個のハプロタイプブロック(SNP1-2, SNP5-6, SNP83-VNTR, SNP9-13, SNP14-17, SNP18-22, SNP23-28からなるものであることが分かった。
【0058】
なお、連鎖不平衡の尺度を示す値である|D'|値及びr2値(図3中)について以下に説明する。
【0059】
<|D'|値>
連鎖不平衡を表す指標として連鎖不平衡係数(D)がある。連鎖不平衡が無いとき、D = 0であり、D > 0のとき、正の連鎖不平衡という。例えばSNP1とSNP2とで形成されるハプロタイプは1-1, 1-2, 2-1, 2-2の4種類でありそれぞれの頻度をp11, p12, p21, p22とすると、D値は以下の式で表される。
【0060】
D = p11×p22 - p12×p21
次に、D値の取り得る最大値をDmax、取り得る最小値をDminとすると、D値を標準化した値として、D'値が以下の式で表される。
【0061】
D' = D/Dmax (D値が正の場合)
D' = D/Dmin (D値が負の場合)
一般に|D'|値が1に近い場合、連鎖不平衡があるため各々の多型は一つのハプロタイプブロックに位置する(入っている)と言える。|D'|値がどれくらい1に近ければ、各々の多型が一つのハプロタイプブロックに位置すると言えるかについては、決まった基準はないが、本発明においては|D'|>0.3という基準を用いることができる。
【0062】
<r2値>
r2値も連鎖不平衡の指標の一つである。r2値の算出式やD'値との違いについては、下記文献“Devlin, B. and Risch, N.,"A comparison of linkage disequilibrium measures for fine-scale mapping.", Genomics, vol.29, p.311-322 (1995)”が参照できる。
【0063】
一般にペアの多型どうしが1.0に近いr2値を取るとき、それら2つを同時に、ハプロタイプを用いた関連解析に用いることは不向きであるので、片方を用いてハプロタイプを推定することが好ましい。r2値がどれくらい1.0に近ければ不利となるかについては、決まった基準はないが、本発明においてはr2 <0.5という基準を用いることができる。3.ハプロタイプを用いた関連解析
上記2.で見出した7個のハプロタイプブロック、及び、これらブロックに含まれる個々のハプロタイプを用いた関連解析を行った。関連解析は、SNPAlyze software version 3.2 (DYNACOM社製)を使用して行った。
【0064】
解析結果から、まず、図2の右端欄(Haplotypeの欄)に示すように、7個のハプロタイプブロックのうちの2個(SNP83-VNTR, SNP18-22)が、全体での頻度分布(overall distribution)において有意差を示した(*印)。これらハプロタイプブロックのうち、SNP83-VNTRは、PDE4D遺伝子を含むブロックであり、SNP18-22は、PDE4D遺伝子を含まない別のブロックであった。
【0065】
さらに、個々のハプロタイプの頻度分布については、SNP83-VNTRのブロックでは4個のハプロタイプにおいて有意差が認められ(表6:*印)、SNP18-22のブロックでは2個のハプロタイプにおいて有意差が認められた(表7:*印)。
【0066】
なお、表6に示すハプロタイプ(例えば「T-g-X」)は、表3に示すハプロタイプと同様に、左から順にSNP83(rs966221)、SNP8(rs153031)、VNTR(AC008818-1)の3個の多型の並びからなるものであり、表7に示すハプロタイプ(例えば「C-C-A-A」)は、表4に示すハプロタイプと同様に、左から順にSNP18(rs878567)、SNP19(rs3756739)、SNP20(rs6875372)、SNP21(rs1423351)の4個の多型の並びからなるものである。また、各多型表記の大文字・小文字の別、並びにVNTRの各アレルを示す「O」及び「X」については、前記の通りである。
【0067】
【表6】
JP0005130628B2_000007t.gif

【0068】
【表7】
JP0005130628B2_000008t.gif

【0069】
4.考察
以上の結果から、日本人においてもPDE4D遺伝子がCIの感受性遺伝子となることが分かった。そしてSTRK1領域内におけるPDE4D遺伝子とは別領域にもCIに関連している領域が存在することが分かった。
【0070】
さらに、有意差が認められた計6個のハプロタイプ(表6,7:*印)は、CIの遺伝的要因の有無を判定するための方法に有効に使用可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】ヒト染色体5q12に存在するSTRK1領域、及びSTRK1領域中の遺伝子(一部)の存在位置を表す概略図である。
【図2】STRK1領域中の遺伝子多型の検出及び解析結果、並びに各ハプロタイプブロックを表す一覧表及び図である。
【図3】STRK1領域中の遺伝子多型の連鎖不平衡解析の結果を表す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2