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明細書 :プラスチックの基材にセラミック膜を形成する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5924615号 (P5924615)
公開番号 特開2013-132614 (P2013-132614A)
登録日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発行日 平成28年5月25日(2016.5.25)
公開日 平成25年7月8日(2013.7.8)
発明の名称または考案の名称 プラスチックの基材にセラミック膜を形成する方法
国際特許分類 B05D   7/24        (2006.01)
C23C  18/12        (2006.01)
B32B  18/00        (2006.01)
B05D   1/28        (2006.01)
FI B05D 7/24 302A
C23C 18/12
B32B 18/00 C
B05D 1/28
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2011-285428 (P2011-285428)
出願日 平成23年12月27日(2011.12.27)
審査請求日 平成26年12月26日(2014.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】幸塚 広光
【氏名】内山 弘章
【氏名】福井 隆文
【氏名】高橋 充
個別代理人の代理人 【識別番号】100098969、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 正行
審査官 【審査官】横島 隆裕
参考文献・文献 特開2008-114448(JP,A)
特開平04-344236(JP,A)
特開平11-207846(JP,A)
特開2004-058049(JP,A)
特開平11-024081(JP,A)
調査した分野 B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C23C 18/12
特許請求の範囲 【請求項1】
支持体上にポリイミド膜又はポリイミドとポリビニルピロリドンとの混合膜を形成する工程と、
その上に金属塩の溶液を塗布した後、500℃以上に加熱することにより、前記有機高分子膜上にセラミック膜を形成する工程と、
前記セラミック膜を熱可塑性プラスチックの基材と合わせた状態でセラミック膜と基材との界面を前記プラスチックのガラス転移温度以上に加熱することにより、基材上にセラミック膜を転写する工程と
を備えることを特徴とする、プラスチックの基材にセラミック膜を形成する方法。
【請求項2】
前記金属塩が金属アルコキシド、金属硝酸塩、金属塩化物塩、金属カルボン酸塩又はそれらの組み合わせであって、前記溶液が加水分解溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
界面を加熱する手段が、近赤外集光加熱である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記転写工程における加熱温度が前記プラスチックのガラス転移温度より10~30℃高い請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プラスチックがポリカーボネート、アクリル樹脂又はポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記セラミック膜が、10~1000nmの厚さを有する請求項1に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、プラスチックの基材にセラミック膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックなどの低耐熱性の基材に酸化チタンや酸化インジウムスズなどのセラミックの膜を形成することができれば、プラスチックには無くてセラミックが有する種々の優れた性質、例えば、高い反射率、光反射防止機能、電気伝導性などを基材表面に付与することができる。
【0003】
一般に、セラミック膜を作製する技術は、気相法(非特許文献1及び2)と液相法(非特許文献3及び4)に大別される。気相法では、膜形成雰囲気を真空に保つための特殊な装置を要するため、製造コストが高いのに対して、液相法は常圧で成膜されるため、コストパフォーマンスに優れる。
【0004】
液相法は、焼成工程を経ることから、プラスチックスなどの低耐熱性基材上に直接的にセラミック膜を形成することは原理的に不可能である。このため、シリコン基板などの支持体上にポリビニルピロリドンやポリイミドなどの有機高分子膜を形成し、その上にゾル-ゲル法によってセラミック膜を形成し、このセラミック膜を接着剤を介してプラスチック基材に転写することが提案されている(非特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Izumi H, Ishihara T, Yoshioka H, Motoyama M, "Electrical properties of crystalline ITO films prepared at room temperature by pulsed laser deposition on plastic substrates," Thin Solid Films, 411, 32-35 (2002).
【非特許文献2】Kim DH, Park MR, Lee HJ, Lee GH, "Thickness dependence of electrical properties of ITO film deposited on a plastic substrate by RF magnetron sputtering," Appl. Surface Sci., 253, 409-411 (2006).
【非特許文献3】赤瀬貴俊、幸塚広光、「ゾル-ゲル法を利用した有機高分子材料上へのセラミックス膜の作製技術の開発」、日本ゾル-ゲル学会第7回討論会(2009年7月30日~31日)予稿集p.58
【非特許文献4】福井隆文、山野晃裕、内山弘章、幸塚広光、「プラスチック基材上へのZnO配向セラミック薄膜の作製」、日本セラミックス協会第24回秋季シンポジウム(2011年9月7日~9日)予稿集p.27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、液相法においては、セラミック膜の厚さが数十nm~数百nmであるのに対して接着剤層の厚さは千数百nmもある。そのため、セラミック膜の表面硬度がプラスチック基材よりも低くなってしまう。また、プラスチック基材からなる透明基板上にセラミック膜であるITO膜からなる透明電極を形成した光学部材にあっては、接着剤の濁りが光学部材全体の透過率を下げてしまう。
それ故、この発明の課題は、接着剤を介することなく液相法による種々のセラミック膜をプラスチック基材上に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明の方法は、
支持体上に500℃以上の耐熱性を有する有機高分子膜を形成する工程と、
その上に金属塩の溶液を塗布した後、500℃以上に加熱することにより、前記有機高分子膜上にセラミック膜を形成する工程と、
前記セラミック膜を熱可塑性プラスチックの基材と合わせた状態でセラミック膜と基材との界面を前記プラスチックのガラス転移温度以上に加熱することにより、基材上にセラミック膜を転写する工程と
を備えることを特徴とする。
【0008】
500℃以上の耐熱性を有する有機高分子膜は、一般的にはポリイミド膜である。その他、ポリイミドとポリビニルピロリドンとの混合膜であってもよい。ポリイミド膜は600℃程度の耐熱性を有する。最初に有機高分子膜を形成するための支持体は、ポリイミドなどの耐熱性の有機高分子の膜を形成可能な表面を有するものであればよく、限定されない。ポリイミドは通常、ポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液を200℃以上に熱することにより、生成されることから、有機高分子膜がポリイミド膜であるときは200℃以上の耐熱性と平坦な表面を有するものであれば十分である。好ましい支持体としては例えばシリコン基板が挙げられる。
【0009】
前記金属塩として、好ましい一つは金属アルコキシドであり、他の一つは金属硝酸塩、金属塩化物塩、酢酸塩等のカルボン酸塩又はそれらの組み合わせである。いずれも低温加熱による熱分解又は加水分解により容易に酸化物に変化し、結晶化してセラミック化するからである。対象となる低耐熱性の基材は限定されず、例えばアクリル板、ポリカーボネート板、PET板などが挙げられる。
【0010】
金属塩が金属アルコキシドであるときは、その加水分解溶液の塗布膜を500℃以上に加熱することにより、溶媒が蒸発して加水分解生成物が非晶質金属酸化物となる。更に加熱し続けると、非晶質金属酸化物が結晶化してセラミック化する。その他の金属塩の場合は、金属塩溶液の塗布膜を500℃以上に加熱することにより、溶剤が蒸発するとともに金属塩が熱分解して金属酸化物となる。更に加熱し続けると、金属酸化物が結晶化してセラミック化する。
【0011】
この一連の過程は常圧下で進行する。前記有機高分子膜は前記の耐熱性を有するので、加水分解生成物の結晶化温度下や金属塩の熱分解温度下であっても焼失することはない。従って、得られたセラミック膜を前記有機高分子膜よりも耐熱性の低い熱可塑性プラスチックの基材に転写する際、有機高分子膜が剥離剤として機能し、セラミック膜が有機高分子膜を伴って基材に転写される。
【0012】
前記基材上にセラミック膜を転写するには、セラミック膜の表面を基材の表面と合わせた状態でセラミック膜と基材との界面を加熱する。これにより、界面付近の基材が溶融し、セラミック膜に密着する。界面を加熱する手段としては、近赤外集光加熱が好ましい。近赤外線を吸収する物質はシリコン(100)基板など限られているため、これを支持体に適用することにより、前記界面のみを狙って加熱することができるからである。また、支持体材料が熱伝導に優れたものであるときは、支持体を加熱し、その熱を有機高分子膜及びセラミック膜を介して界面に伝達してもよい。このような支持体材料としては、銅、ステンレス鋼、チタン合金、サファイア、ダイヤモンドが挙げられる。
【0013】
転写のための前記加熱温度は、前記プラスチックの転移温度より10~30℃高いのが好ましい。加熱温度がこの範囲より低いと界面におけるプラスチックの溶融が不十分となり、セラミック膜が完全に転写し難い。また、逆に加熱温度が高すぎると、基材全体が変形する可能性が高くなるからである。
前記セラミック膜の厚さは、通常10~1000nmである。この発明の方法においては、セラミック膜が接着剤を介することなく直接基材の表面に形成されるので、100nmに満たない程度に薄くても実用に耐える表面硬度が得られるからである。
【0014】
この発明の方法に用いられてセラミック膜を転写するための適切な複合体は、
支持体と、
前記支持体上に形成されたポリイミド膜と、
前記ポリイミド膜上に形成されたセラミック膜と
を備えることを特徴とする。
【0015】
ポリイミド膜もセラミック膜も通常の保存環境に対して耐性を有することから、この複合体は保存性に優れる。従って、予め複合体を準備しておき、必要に応じてプラスチックの基材にセラミック膜を転写することができる。適用可能なセラミックは、例えばチタニア、イットリア安定化ジルコニア、ITOである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、プラスチックの基材の表面に常圧でセラミック膜が作製されるので、高価な装置を要しない。従って例えば、プラスチック材料の表面に、反射率の高いセラミック膜、反射率の低いセラミック薄膜、電気伝導性に優れたセラミック膜、あるいは圧電性をもつセラミック膜を作製することによって、プラスチック材料表面に高い反射率、反射防止能、電気伝導性、圧電性を低コストで付与することができる。しかもセラミック膜が接着剤を介さずに基材に直接形成されているので、セラミック膜の表面硬度が高く、力学的耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1でチタニア膜を転写したポリカーボネート板と、転写していないポリカーボネート板の光吸収スペクトルである。
【図2】実施例1でチタニア膜を転写したポリカーボネート板と、転写していないポリカーボネート板の光反射スペクトルである。
【図3】実施例1で鉛筆硬度を評価したポリカーボネート板の光学顕微鏡写真である。

【実施例】
【0018】
-実施例1-
この実施例は、ポリカーボネート板にチタニア膜を形成する実験例である。
平坦な主面を有するSi(100)基板にポリアミック酸のN-メチル-2-ピロリドン溶液(濃度20重量%)を回転速度8000rpmで60秒間スピンコーティングした後、段階的に昇温し、450℃で10分間保持することによって、Si基板上にポリイミド膜を形成した。
【0019】
別途、エタノールにチタンテトライソプロポキシドを溶解し、これにエタノール、水及び濃硝酸の混合溶液を滴下しながら撹拌することによって、モル比がTi(O-iC374:H2O:HNO3:C25OH=1:1:0.2:20となるように原料溶液を調製した。
【0020】
次に、前記ポリイミド膜上に原料溶液を回転速度8000rpmで60秒間スピンコーティングし、蒸気で満たされたプラスチック密閉容器内で1時間放置した後、昇温し600℃で10分間保持することにより、Si基板上にポリイミド膜及びチタニア膜が順に形成された複合体を得た。この複合体をX線回折装置で分析したところ、アナタースに帰属する回折ピークが観測された。
【0021】
複合体上のチタニア膜の表面に、無色透明の厚さ5mmのポリカーボネート板を当て、その上にシリカガラス板を重ねた状態で近赤外集光加熱炉(真空理工株式会社製MILA 3000)にセットした。そして、Si基板のポリイミド膜を形成していない方の面に熱電対を固定し、昇温速度75℃/分で温度170℃まで昇温し、冷却することにより、チタニア膜にポリカーボネート板を接着させた。その後、ポリカーボネート板を剥がすことにより、ポリカーボネート板にチタニア膜を転写した。そして、転写したチタニア膜の表面に付着したポリイミドを粘着テープで除去した。
【0022】
ポリカーボネート板への転写を済ませた複合体と、チタニア膜を転写したポリカーボネート板をX線回折装置で分析したところ、アナタースに帰属する回折ピークはどちらにも検出されなかった。前者でアナタースが検出されなかった理由は、チタニア膜が転写されたことの故であると認められる。一方、後者で検出されなかった理由は、ポリカーボネート板によるX線の散乱強度が大きいことの故であると推測される。
【0023】
比較のために、近赤外集光加熱炉にセットして加熱することに代えて、複合体上のチタニア膜の表面に接着剤(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製2液タイプエポキシ系)を塗布し、これに前記ポリカーボネート板と同形同質の板を当てた状態で常温で24時間保持したこと以外は、前記手順と同じ手順でポリカーボネート板にチタニア膜を転写し、ポリイミドを除去した。
【0024】
接着剤を介さずにチタニア膜を転写したポリカーボネート板(a)と、接着剤を介してチタニア膜を転写したポリカーボネート板(b)と、何も被覆していないポリカーボネート板(c)について光吸収スペクトルを測定したところ、図1に示すように接着剤を介さずにチタニア膜を転写したポリカーボネート板の透過率が接着剤を介して転写したものよりも高かった。
【0025】
また、これら3つのポリカーボネート板(a)、(b)、(c)について光反射スペクトルを測定したところ、図2に示すようにチタニア膜を転写したポリカーボネート板(a)、(b)は、何も被覆していないポリカーボネート板よりも著しく高い反射率を有していた。
【0026】
次に、これら3つのポリカーボネート板(a)、(b)、(c)の表面に6Bの鉛筆の芯を当てて日本工業規格K5600-5-4に準拠して、表面を鉛筆の芯で引っかいたところ、接着剤を介さずにチタニア膜を転写したポリカーボネート板(a)と、何も被覆していないポリカーボネート板(c)とは、図3に示すように僅かな傷しか生じなかった。これに対して接着剤を介してチタニア膜を転写したポリカーボネート板(b)には大きい傷が生じた。
【0027】
更に、接着剤を介さずにチタニア膜を転写したポリカーボネート板について、日本工業規格K5400-8.5に従って碁盤目テープ試験を行ったところ、剥離率は0%であった。
【0028】
-実施例2-
この実施例は、ポリカーボネート板にITO膜を形成する実験例である。
実施例1と同一条件でSi基板上にポリイミド膜を形成した。
【0029】
別途、エチレングリコールに、アセチルアセトン、硝酸インジウム三水和物In(NO33・3H2O、メタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、塩化スズ二水和物SnCl2・2H2O、及びポリエチレングリコール2000をモル比が1.8:0.4545:0.9:17.352:6.174:0.1:8.532となるように撹拌しながら加えることにより、原料溶液を調製した。撹拌中、溶液はホットプレート上で90℃に保たれた。
【0030】
次に、前記ポリイミド膜上に原料溶液を回転速度8000rpmで60秒間スピンコーティングした後、500℃で10分間加熱する操作を8回繰り返すことにより、Si基板上にポリイミド膜及びITO膜が順に形成された複合体を得た。このITO膜は0.72μmの厚さを有する緻密で平滑な多結晶膜であると認められた。
【0031】
実施例1のチタニア膜と同様にITO膜をポリカーボネート板に転写した。このITO膜が導電性を有することをテスターで確認した。
【0032】
-実施例3-
この実施例は、ポリカーボネート板に酸化亜鉛膜を形成する実験例である。
平坦な主面を有するSi(100)基板にポリアミック酸とポリビニルピロリドンの1-メチル-2-ピロリドン混合溶液(ポリアミック酸濃度:15.4重量%、ポリビニルピロリドン濃度:7.7重量%)を回転速度8000rpmで60秒間スピンコーティングした後、段階的に昇温し、450℃で10分間保持することによって、Si基板上にポリイミド/ポリビニルピロリドン混合膜を形成した。
【0033】
別途、1-メトキシ-1-エタノール47.7mlに、モノエタノールアミン2.26ml、及び酢酸亜鉛二水和物Zn(CH3COO)2・2H2O8.23gを60℃で撹拌しながら加えることにより、原料溶液を調製した。
【0034】
次に、前記ポリイミド/ポリビニルピロリドン混合膜を形成したSi基板を原料溶液に浸け、速度3.5cm/分で引き上げ、300℃で10分間加熱する操作を3回繰り返した後、600℃で5分間加熱することにより、Si基板上にポリイミド/ポリビニルピロリドン混合膜及び酸化亜鉛膜が順に形成された複合体を得た。そして、実施例1のチタニア膜と同様に酸化亜鉛膜をポリカーボネート板に転写した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2