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明細書 :ホタテの白干し製品の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4378747号 (P4378747)
公開番号 特開2005-137340 (P2005-137340A)
登録日 平成21年10月2日(2009.10.2)
発行日 平成21年12月9日(2009.12.9)
公開日 平成17年6月2日(2005.6.2)
発明の名称または考案の名称 ホタテの白干し製品の製造法
国際特許分類 A23L   1/33        (2006.01)
FI A23L 1/33 C
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2003-410982 (P2003-410982)
出願日 平成15年11月6日(2003.11.6)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本食品科学工学会創立50周年記念第50回大会講演集(2003年9月11日発行)第63頁に発表
審査請求日 平成18年11月2日(2006.11.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
発明者または考案者 【氏名】山▲崎▼ 雅夫
【氏名】西岡 不二男
【氏名】浅岡 大介
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 特開昭56-109544(JP,A)
特開平11-178545(JP,A)
特開平02-207772(JP,A)
特開平04-252155(JP,A)
特開昭62-248448(JP,A)
特開2003-092981(JP,A)
ニューフードインダストリー, 1998, Vol. 40, No. 8, p. 61-69
調査した分野 A23L 1/33
G-Search
食品関連文献情報(食ネット)
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ホタテの貝柱に水晒処理及び塩水煮処理を行った後、過熱水蒸気で焙焼処理し、該焙焼処理に引き続いて減圧乾燥及び/又は通風乾燥を行い、貝柱の水分率を20%以下に減少させてホタテ白干し製品を製造する方法において、上記水晒処理及び/又は塩水煮処理においてアルカリ水又はアルカリ土類金属塩を含む水溶液を使用することを特徴とするホタテ白干し製品の製造法。
【請求項2】
焙焼処理を温度120℃~400℃の過熱水蒸気で行うことを特徴とする請求項1に記載のホタテ白干し製品の製造法。
【請求項3】
水晒処理を1分~6時間行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のホタテ白干し製品の製造法。
【請求項4】
原料の貝柱としてホタテの生貝から摘出した貝柱を使用することを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のホタテ白干し製品の製造法。
【請求項5】
原料の貝柱として冷凍した貝柱を使用することを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のホタテ白干し製品の製造法。
【請求項6】
貝柱を塩水煮処理と減圧乾燥との間の任意の段階で一たん冷凍し、所望期間冷凍保存した後に解凍し、次の処理を行うことを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のホタテ白干し製品の製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテの貝柱を乾燥させて白干し製品を製造する方法に関するものである。さらに詳しくは、ホタテの貝柱を乾燥させて白干し製品を製造する方法において、製造に要する期間を短縮するとともに製品の品質(色調、食味など)を向上させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテ乾燥品の歴史は古く、貝柱だけを乾燥させた白乾品が明治30年頃に開発されたと伝えられる。その後、製品の白色化と身割れ防止などの技術改良を続けながら今日のホタテの白干し製品(ホタテの貝柱だけを乾燥させた食品)の製造法が確立された。しかしながら、現在の製造法でも、原料が生鮮貝に限られるため工場の稼働がホタテの漁期に限定されてしまうことや、呈味成分の損失と製造に長時間を要すると言う問題が残されている。また、ホタテ貝柱はグリコーゲン含量が高いため、加熱乾燥では褐変が容易に起こるだけでなく、身割れが多くなり、商品価値を著しく低下するという問題もある。後者の対処策として一般に行われているのが、貝柱の水晒しと二番煮液の換水及び天日乾燥又は機械乾燥である。かくして、現在では、原料貝を洗浄後、一番煮(水煮)して開殻し、摘出した貝柱を水晒し-二番煮(塩水煮)-水切り-通風乾燥(焙乾)-天日乾燥又は機械乾燥という工程で製造されている(非特許文献1参照)。
ところが、水晒しと二番煮液の換水は呈味成分の流出を余儀なくするし、天日乾燥法は長時間(約20日以上)を要し全体として製造に20日~40日を要するだけでなく、衛生面を含めたHACCP(食品の危素分析と重要管理監視)の導入を困難にしている。また、機械乾燥も長時間を要するばかりでなく製品の褐変が避けられない。
【0003】

【非特許文献1】 大田静行ほか3名著「珍味その製法と流通技術」 第100~101頁 (恒星社厚生閣 1990年10月25日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、上述のような従来法の問題を解消し、ホタテ白干し製品の製造において、製造時間の短縮を図りかつ褐変や身割れを抑制し食味・食感も良好な高品質の製品を得ることのできる新規な製造法を提供することにある。本発明の他の目的はホタテの漁期に関係なく、最も旨味のある時期の貝を原料とすることが可能なホタテ白干し製品を通年製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、上述の課題は、下記の各方法により達成される。
(1) ホタテの貝柱に水晒処理及び塩水煮処理を行った後、過熱水蒸気で焙焼処理し、該焙焼処理に引き続いて減圧乾燥及び/又は通風乾燥を行い、貝柱の水分率を20%以下に減少させてホタテ白干し製品を製造する方法において、上記水晒処理及び/又は塩水煮処理においてアルカリ水又はアルカリ土類金属塩を含む水溶液を使用することを特徴とするホタテ白干し製品の製造法。
(2)焙焼処理を、温度120℃~400℃の過熱水蒸気で行うことを特徴とする上記(1)のホタテ白干し製品の製造法。
(3)水晒処理を、1分~6時間行うことを特徴とする上記(1)又は(2)のホタテ白干し製品の製造法。
(4)原料の貝柱としてホタテの生貝から摘出した貝柱を使用することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかのホタテ白干し製品の製造法。
(5)原料の貝柱として冷凍した貝柱を使用することを特徴とする上記(1)~(3)のホタテ白干し製品の製造法。
(6)貝柱を塩水煮処理と減圧乾燥との間の任意の段階で一たん冷凍し、所望期間冷凍保存した後に解凍し、次の処理を行うことを特徴とする上記(1)~(5)のいずれかに記載のホタテ白干し製品の製造法。
【発明の効果】
【0006】
以上のごとき本発明の製造法によれば、ホタテ白干し製造の期間の短縮と高品質化とを実現することができる。具体的には、1)製造期間を4日程度に短縮することができる、2)白干しの品質を左右する褐変度については一等品以上のものを製造することができる、3)製造した白干しにはグリコーゲンや旨味核酸が多く残存する、4)身割れについては、水晒処理を15分間以上行うことで抑制できる、5)天日乾燥を行わないため衛生管理面も向上される、などの効果があり、白干し製品の製造において過熱水蒸気を用いる本発明の製造法によって多くの効果を発現することができる。
さらに、本発明の製造法では、冷凍品を利用することができるので、ホタテの漁期に関係なく製品の製造が可能になるため工場の周年稼動が可能となる。すなわち、ホタテの旨味成分は季節変動するだけでなく、その貝毒により漁期が制限されているが、本発明では原貝又は貝柱の段階で冷凍した原料を使用することも可能であり、また一連の製造工程中に冷凍保存-解凍工程を組み込むことも可能なため、冷凍品を利用することで白干しの需要期に合わせて製造を行うことや旨味の多い時期の貝を原料とすることが可能となる。また、製造する国や地域についても制約を受けずに産地から離れたところでの製造も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、ホタテから摘出した貝柱は、まずアルカリ水又はアルカリ土類金属塩を含む水溶液を用いて水晒処理が施される。次に、塩水煮処理(従来の二番煮に相当)を行った後、過熱水蒸気で焙焼(乾燥)処理した後、減圧乾燥もしくは通風乾燥が実施され、貝柱中の水分を所望の水分率まで減少させることで白干し製品が製造される。
以下、それぞれの工程の好適な条件について説明する。ただし、本発明の範囲は以下に述べる一連の工程及び条件に限定されるものではない。
【0008】
1)ホタテ貝柱の準備
原材料となるホタテは生貝でも冷凍貝でもよい。ホタテの冷凍貝は従来使用されていないが本発明では冷凍貝も使用可能である。開殻には熱湯中に数分間浸漬する方法(一番煮)、水蒸気で処理する方法などが好適に採用される。貝殻から分離した軟体部はできるだけ低温に維持しつつ外套膜と内臓を分離し、さらに貝柱表面の皮膜を取り除いて貝柱を分離摘出する。貝柱は新鮮なものが望ましいが、生貝から摘出した直後のものだけでなく、冷凍品も使用可能である。
【0009】
2)水晒処理
摘出された貝柱は、まず、水で晒す処理を行うのが製品の褐変を防止する上で望ましい。処理水としてはpH8~10のアルカリ水よい。アルカリ水を使用すると後述するように製造期間が大幅に短縮され、かつ通常の白干しに比べて柔らかい独特の食感の製品が得られる。また、貝柱として冷凍品を使用するときは、この水晒処理にカルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、例えば、CaCl、MgClなどを含む希薄水溶液を使用するのが好ましい。水晒処理においてこのようなアルカリ土類金属塩を含む希薄水溶液を使用すると、冷凍品使用時に発生しやすい白干し製品の身割れを効果的に抑制することができる。
いずれも水晒処理時の水温は20℃以下が適当であり、0℃~15℃が好ましい。水晒処理時間は1分から6時間の範囲で適宜選択できるが、製品の品質及び生産性の観点から1分~40分が適当であり、5分~30分が特に好ましい。処理時間が長くなりすぎると貝柱中に旨味成分が溶出して食味性が低下する。この水晒処理は貝柱を静水中に浸漬する方法で実施してもよいが、流水あるいは攪拌水中で行うこともできる。
【0010】
3)塩水煮(二番煮)
次に、高温の塩水中に貝柱を浸漬する塩水煮処理(二番煮)が行われる。この処理では、例えば、温度が80℃~100℃でNaCl濃度が0.5(重量)%以上、好適には濃度5%~15%の塩水が使用される。処理時間は5分~30分程度が適当である。この塩水煮(二番煮)では、通常の水に代えて上記のアルカリ水を使用することもできる。この塩水煮処理(二番煮)及び/又は前述の水晒処理において、水としてアルカリ水を使用すると過熱水蒸気による焙焼(乾燥)処理と減圧乾燥の時間を短縮でき、したがって製造に要する期間を短縮することが可能となる。
また、貝柱として冷凍品を使用する場合は、水晒処理においてアルカリ土類金属塩を含む希薄水溶液を使用するのに代え、或いはこれに加えて、塩水煮処理でNaClの他にアルカリ土類金属塩を含む希薄水溶液を使用することもできる。
【0011】
4)過熱水蒸気による焙焼(乾燥)処理
本発明の最大の特徴は、過熱水蒸気を使用して貝柱を焙焼(乾燥)する点にある。過熱水蒸気の温度は120℃~400℃、特に130℃~250℃、が適当である。この工程では過熱水蒸気の高温を利用して一気に乾燥を行うため、温度が100℃程度の通常の水蒸気では本発明の効果が発現しない。過熱水蒸気による焙焼(乾燥)処理を実施するには、一般に、適当な処理室、処理槽、処理容器などの中に貝柱を入れ、これに所定温度の過熱水蒸気を供給/流通する方法が採用される。なお、ここでいう処理時の過熱水蒸気温度は、上記の処理室、処理槽、処理容器などの内温として計測される。
【0012】
5)減圧乾燥/通風乾燥
過熱水蒸気による焙焼処理に続いて、減圧乾燥及び/又は通風乾燥が行われる。このときの温度は通常0℃~常温が適当である。減圧乾燥の場合における減圧の程度は100Pa~1000Pa程度に保つのが適当である。この減圧乾燥処理も大気圧より低い圧力に維持できる乾燥室、乾燥器などの中で行われる。一方、通風乾燥は30℃~70℃の空気を流通させて乾燥する。いずれの場合も、乾燥時の温度が高すぎると製品の褐変が大きくなりまた製品の旨味も低下する。
本発明では、減圧乾燥、通風乾燥のいずれか一方を実施してもよく、両方を実施してもよい。
【0013】
過熱水蒸気による焙焼処理及び減圧乾燥・通風乾燥は、これらを貝柱の水分率が20%以下、好ましくは一般の白干し製品の基準とされている16%以下、さらに好ましくは10~16%に減少するまで何回か繰り返して実施する。
例えば、過熱水蒸気による焙焼処理-減圧乾燥/通風乾燥をこの順で各1回実施するだけでは所定の水分率まで低下しないときは、これらを複数回繰り返すのが適当である。通常、上記の2工程の組合せをセットで繰り返し実施するが、場合によっては焙焼処理あるいは減圧乾燥/通風乾燥だけを繰り返してもよい。要は貝柱の水分率が所定の値まで減少するまで実施すればよい。
アルカリ水を使用した場合は、過熱水蒸気による焙焼及び減圧乾燥を1回実施するだけで水分率が16%以下になることが多く、この場合は上記処理を繰り返す必要はない。
【0014】
6)冷凍及び解凍工程の導入
現在、白干し製品の製造に使用するホタテ原料は生貝に限定されているため、ホタテ漁に大きく支配される産業であり、年間を通じてコンスタントに製造することができないのが現状である。本発明の製造法では、既に述べたように、必要に応じ凍結原料を使用することができるので、ホタテの漁期や天候とは無関係に工場の周年稼働が可能になる。また、冷凍により最も旨味成分の多い時期の貝を、適宜、原料に使用することができる。このように冷凍を利用することにより、製造する国や地域についても制約を受けずに産地から離れた所での製造が可能となる。
原料貝をそのまま冷凍して使用したり、原料貝から貝柱を摘出後冷凍した凍結品を使用することも可能であるが、本発明者らの研究によれば、旨味を活かした白干し製品を得るには、塩水煮(二番煮)以降のいずれかの工程の直後に冷凍処理し、凍結状態で所望期間保存後、緩慢解凍又は急速解凍して、続きの工程を実施するのが好適である。それ以前の工程で冷凍処理する場合は、解凍時に急速解凍を実施すれば旨味が損なわれない。
【0015】
例えば、塩水煮(二番煮)の直後に冷凍処理した貝柱を、所望期間だけ冷凍保存した後、これを解凍して、次工程の焙焼処理に供することにより、工場の周年稼動が可能になりかつ食味の良好な製品を製造することができる。この際、解凍に過熱水蒸気を使用することもでき、解凍と焙焼処理とを連続工程で実施することも可能である。
本発明者らの研究によれば、冷凍原料を白干し製造に用いる場合、生鮮原料を用いる場合に比べて製品に身割れが起き易い傾向が見られるが、水晒液及び/又は塩水煮(二番煮)の溶媒としてMgClやCaClなどのアルカリ土類金属塩を含む水溶液を使用すれば、製品の身割れ防止に役立つことが判明した。水晒液及び/又は塩水煮(二番煮)の溶媒におけるアルカリ土類金属塩の濃度は0.01~10重量%が好ましい。
【0016】
7)製品化
上述の工程を実施することにより製造されたホタテの白干しは、必要に応じて包装され最終製品(商品)となる。なお、この包装に先立ち、スライス、粉砕、圧延などの加工を付加してもよい。なお、製品は出荷されるまで低温室で保管するのが望ましい。
【実施例1】
【0017】
1.試料及び試薬
供試したホタテは北海道産の生きた貝をスーパーで購入した。貝殻の口を開き軟体部を貝殻から離す作業は業界で一般的な93℃の湯中に3分間浸漬する方法(一番煮)で行った。分離した軟体部は直ちに冷水で冷やしてから外套膜と内臓を分離し、さらに注意しながら貝柱表面の皮膜を取り除いてから試験に用いた。一方、アルカリ水処理に用いた試料も生むき身をスーパーで購入したが、貝柱表面の皮膜を完全に除いてから供試した。分析試薬は全て特級グレードのものを使用した。
【0018】
2.ホタテ白干しの製造
一般に、貝柱の汚れの除去とグリコーゲン溶出による褐変防止の他に身割れ防止のために30分間の水晒しが行われている。そこで本実験では、呈味成分の流出防止を考慮して、5分間、15分間、30分間の3水準で水道水による水晒処理を行った。水晒処理後の貝柱は、さらにNaCl濃度10%の塩水による二番煮(90℃、16分間)を行った。これを水切りした後、それぞれ150℃と170℃の過熱水蒸気(中国メンテナンス製「SDAHW-002」)にて焙焼し、焙焼後に真空デシケータ内で減圧乾燥を行った。すなわち、過熱水蒸気による焙焼は、過熱水蒸気が供給されるオーブンの内部が上記の所定温度になったのを確認後、貝柱をセラミックの網の上に乗せ、直ちにオーブン内に入れ所定の時間、加熱を行うことで実施した。減圧乾燥は、焙焼の終了した貝柱を直ちにデシケータ内に入れ、約800Paの減圧下で24時間減圧乾燥を行った。この焙焼と減圧乾燥の操作を1組として、ホタテ貝柱の水分が16%以下に達するまで繰り返した。
【0019】
一方、アルカリ水には貝柱試料の脱水に伴って成分の流出を促進する作用のあるので、本実験に用いれば褐変の抑制や乾燥時間の短縮が可能になると考え、水晒処理及び塩水煮(二番煮)の両工程にpH9のアルカリ水(ホシザキ電気(株)製の電解水精製装置「HOX-50A」にて調製)を用い、同様の実験を行った。この場合は、1回の焙焼と減圧乾燥のみでホタテ貝柱の水分が16%以下に減少した。
【0020】
以上より、ホタテ白干し製品の製造において乾燥工程に過熱水蒸気による焙焼と減圧乾燥とを組み合わせることにより4日間で製品を製造することができ、従来法に比べて製造期間の大幅な短縮を実現することが出来た。さらに過熱水蒸気による焙焼の導入によって、白干しの褐変や身割れが有意に抑制され、かつグリコーゲン、粗タンパクなどの含量が高い高品質の白干し製品の製造が可能となった。
【0021】
3.製品の評価項目
本実験で得られた白干し製品の品質評価のため、以下の測定及び観察を実施した。
1)褐変度測定
褐変度は中心部表面の色調(a、L)をミノルタ製色彩色差計「CR-2000」にて測定した。
2)身割れの観察
身割れの観察は、日本電子製の走査型電子顕微鏡「JSM-5600LV」(以下、SEMと略称)を用いて、白干し表面中心と芯部の切断面をそれぞれ直接観察した。
3)一般成分
白干しのグリコーゲン含量は、フェノール硫酸法によりグルコース相当量として求めた。また、粗タンパク質量はセミミクロケルダール法によって測定した。
4)物性
白干しの物性としてインストロン破断試験機にて圧縮破断測定を行った。
5)核酸関連物質の定量
貝柱1gに氷水16mlを加えホモジネートした4mlに氷冷した10%過塩素酸10mlを加え、遠心分離(3000G、25分、2℃)を行い、得られる沈殿物をさらに5%氷冷過塩素酸5mlで洗浄した。再び遠心分離(3000G、20分、2℃)を行い、得られた上清を合わせてアンモニア水でpH6~7に調整し、200mMリン酸緩衝液pH5.0で25mlに定容した。この分析試料を以下のHPLC分析に供した。装置には島津製作所製のHPLCシステム(CLASS-VP)を利用した。カラムには「Shodex Asahipak GS-320 7E」(7.6mm×250mm)、ガードカラムには「Hodex Asahipak GS-2G-7B」を用い、検出器には紫外可視検出器(島津製作所製SPD-10AVP)を用い、波長260nmの吸収を検出した。移動相として100mMリン酸緩衝液(pH3)を流速1mL/分で流し、40分間のアイソクラチック分析を行った。カラムオーブン温度を30℃で行った。
【0022】
4.評価結果
1)白干しの褐変
過熱水蒸気による焙焼にて白干しを製造したところ、3回の焙焼で白干し水分が16%以下となった。一方、水晒処理及び塩水煮においてアルカリ水を用いた場合(以下、「アルカリ水処理」という)は1回の焙焼で水分6%以下に乾燥することができた。
白干し製造工程の一番煮、二番煮、焙焼それぞれにおける褐変は、工程が進むに従い増大した。しかし、本発明により過熱水蒸気を用いて製造した白干しの褐変度は、図1に示すように、水晒処理の時間(5分,15分、30分)、過熱水蒸気温度(150℃、170℃)の違いに関係なく、全ての製品について北海道水産試験場が一等品の基準としているa値4.5以下を示した。
本発明の製造法による白干しのa値及びL値を実測した値を図2にプロットしたが、いずれも北海道水産試験場が一等品とする色調の領域(図2中の網掛部分)に比べて同等又はそれ以上であることが判る。
(なお、各図表中に「過熱」とあるのは過熱水蒸気を意味する)。
2)身割れの観察
SEMを用いてホタテ白干しの表面と芯部の構造を観察したところ、芯部の構造は加熱温度による差異は見られず滑らかであったが、表面の構造では、170℃の過熱水蒸気処理で身割れが観察された。表面の構造からは、過熱水蒸気温度150℃で水晒し時間15分間以上の処理が最も滑らかであった。その評価結果を表1に示す。
また、アルカリ水処理を行った白干しの芯部と表面の構造観察では、全てのサンプルにおいて大きな身割れは確認されなかった。これは過熱水蒸気による培焼が1回で製造できたために熱による身割れへの影響が他と比べ少なかったためと考えられる。身割れの状態と褐変の程度を考慮し、さらに製造時間の短縮という観点からすると、過熱水蒸気温度は150℃付近とし水晒時間を15分程度とする条件で白干し製造を行えば、特に効率よく高品位な製品を製造できることが判った。
なお、表1に示す白干し製品の身割れ状態は、製品のSEM写真から、◎:身割れ無し、○:表面に浅い身割れあり(一等品相当)、△:表面に深い身割れあり(二等品相当)、×:反対側に貫通した身割れあり(三等品相当)の4ランクに区分して評価した。
【0023】
【表1】
JP0004378747B2_000002t.gif

【0024】
3)一般成分
粗タンパク質含量には過熱水蒸気温度や水晒処理時間による違いは見られなかった。しかし、アルカリ水処理では、水道水を用いたときに比べ約1.4倍の高いタンパク質が貝柱に残存した(図3参照)。これはアルカリ水によって筋肉タンパク質が不溶化したことに起因すると考えられる。
また、グリコーゲン含量はアルカリ水処理したものの含有量は水道水使用時に比べ約1/10と溶出が少なかった(図4参照)。グリコーゲンは水晒によって含有量が減るものの、グリコーゲン含有量と褐変の指標となるa値との相関は低く、白干しのa値を増加させる要因としてグリコーゲン以外の因子の存在が考えられる。
4)物性
水晒処理を30分間実施する実験において、水道水を使用した製品と水晒液と二番煮液に水道水に代えてアルカリ水を使用した製品について物性を比較検討した。それぞれ、インストロン破断試験機を用いて、製品の食感に影響する圧縮破断特性を測定した結果を図5に示す。図5中の曲線1は、水道水を使用し、過熱水蒸気温度を170℃とした場合、曲線2は、水道水を使用し、過熱水蒸気温度を150℃とした場合、曲線3はアルカリ水を使用し、過熱水蒸気温度を150℃とした場合である。図6よりアルカリ水処理の場合は、水道水処理に比べて小さな圧縮荷重で変形が生じ、噛んだときに柔らかな従来にない食感の白干しが得られることが確認された。
5)核酸関連物質
水晒処理で水道水使用の白干しにおけるATP(アデノシン酸リン酸)関連物質は、生鮮貝柱で見られるほどの高ATP含量は見られず、ATPは核酸関連物質の3~8%と低い含有率を示し、81~91%がAMP(アデノシン1-リン酸)であった(図6参照)。これは、製造工程中にATPaseが働き、筋肉中のATPを分解してAMPが産生したと考えられる。HxR(イノシン)、Hx(ヒポキサンチン)については、合わせて3%未満と低い含有率を示した。水晒処理時間が長いほど、核酸関連物質の総量は減少する傾向が見られるものの、過熱水蒸気温度による差は認められなかった。また、核酸系旨味の主要成分であるAMP含量は、市販一等品に比べ同程度の高い含有量を示した。
一方、水晒処理でアルカリ水使用の場合は、核酸関連物質の総量は同じ条件(150℃、15分)で製造したものと比較すると、水道水の値の36%程度と大きく低下した。特に、AMPの含有率が22~30%と大きく低下する一方で、HxRが38~50%の高い含有率を示すとともに、水道水で製造したものではほとんど見られなかったHxが11~18%の含有率を示した。これは、アルカリ水を水晒処理や二番煮に用いることで、焙焼-減圧乾燥の回数を減らせる反面、アルカリ性側で反応しやすいATPの分解反応が進み、HxRやHxなどに分解された可能性が考えられる。すなわち、アルカリ水の使用によって、真水を使用したときに比べて白干しの製造期間が大幅に短縮されるが、食味は多少異なったものとなる。
【実施例2】
【0025】
さらに、焙乾工程に過熱水蒸気を用いて白干し製品を製造する本発明の白干し製造工程に冷凍-解凍工程を組み込み、その品質評価としてホタテ貝柱の呈味成分の一つである核酸関連物質を指標に試み、解凍方法の違いによる含量変化について検討を行った。
本実験では実施例1で用いたと同様の貝柱を準備した。凍結原料を想定し、実施例1と同様の条件で水煮(一番煮)、水晒し、塩水煮(二番煮)、焙焼のそれぞれの工程を実施し、上記各工程を経た後に、急速凍結を行い、グレーズ処理後-35℃で27日間凍結状態で貯蔵し、解凍(5℃にて48時間で緩慢解凍)後再び、白干し製造を続けて冷凍工程の導入段階が異なる4種類の白干し製品を得た。過熱水蒸気による焙乾は4回繰り返し、市販白干し製品の水分に達するまで乾燥させた。核酸関連物質は冷過塩素酸溶液にて抽出し、HPLC分析により定量した。
【0026】
その結果、図7に示すように、旨味を活かした白干しの製造には塩水煮(二番煮)以降の工程で冷凍処理をすると旨味が損なわれないことが判った。
貝柱中のATP分解関連酵素は一番煮程度の加熱では失活せず、低温貯蔵であってもATPを分解し、HxR(イノシン)やHx(ヒポキサンチン)を産生する。HxRやHxを産生する酵素は、100℃15分程度の加熱により容易に失活するので二番煮以降の段階で冷凍すれば旨味の減少が起きない。すなわち、ホタテ貝柱の呈味成分の一つである核酸は冷蔵中に漸減し、その代謝産物とされるアデノシン(AdR)、HxR、Hx等が増加し、鮮度の指標であるk値の上昇を惹起するが、上述のように冷凍すれば核酸の変化がなく旨味が保持される。
二番煮以前の工程で冷凍する場合は、急速解凍を実施すれば旨味が損なわれない。
【実施例3】
【0027】
本実験では、実施例2のように工程の中間で凍結保存後、解凍して続きの工程を実施する場合の水晒処理の条件による影響を検討した。この際、水晒処理(15分浸漬)において水道水を使用した場合と30mMのCaCl又は30mMのMgClを含む40℃の水溶液を使用した場合について検討した。
水晒し後に凍結して-35℃で7日間保管後、冷蔵庫内にて5℃中で緩慢解凍した場合、40℃中で急速解凍した場合の白干し製品について、水晒し液と身割れ割れ防止効果の関係について調べた。その結果を次の表2に示す。なお、表2でも、製品のSEM写真から、白干し製品の身割れ状態の評価結果を、◎:身割れ無し、○:表面に浅い身割れ(一等品相当)、△:表面に深い身割れ(二等品相当)、×:反対側に貫通した身割れ(三等品相当)の4ランクに区分した。
表2に示すように、カルシウム塩又はマグネシウム塩の水溶液を使用することにより、冷凍原料を使用しても身割れのない製品を得ることができた。
【0028】
【表2】
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【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造法によれば、ホタテ白干し製造の期間の短縮と高品質化とを実現することができるので、ホタテの白干し製品やその加工品の製造における利用価値が大きい。また、冷凍品の使用や冷凍工程の導入により、ホタテの漁期に関係なく白干し製品の生産が可能となるとともに最も旨味の多い時期の貝を冷凍しておき原料として供給することが可能となる。さらには、製造する国や地域についても制約を受けずに産地から離れたところでの製造が可能となる。
本発明により得られた白干し製品は中華料理やその他の分野の食材ととして使用することができる。さらに、水晒処理でアルカリ水溶液を使用した場合は、従来の白干し製品よりも食感が柔らかく珍味として好適な製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】 白干し製品の褐変度(色調a値)に及ぼす水晒時間と過熱水蒸気温度(過熱温度)の影響を示すグラフ。
【図2】 白干し製品の色調(a値、L値)の分布を従来の一等品と対比して表示するグラフ。
【図3】 過熱水蒸気温度(過熱温度)150℃,170℃のときの白干し製品の粗タンパク含量と水晒時間との関係を示すグラフ。
【図4】 過熱水蒸気温度(過熱温度)150℃のときの白干し製品のグリコーゲン含量と水晒時間との関係を示すグラフ。
【図5】 白干し製品の物性を測定した結果を示すグラフ。
【図6】 白干し製品の核酸関連物質含量に及ぼす水晒時間と過熱水蒸気温度(過熱温度)の影響を示すグラフ。
【図7】 各製造工程後に冷凍処理した場合における白干し製品中の核酸関連物質含量を示すグラフ。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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