TOP > 国内特許検索 > ハイブリッド糖鎖の製造方法 > 明細書

明細書 :ハイブリッド糖鎖の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5610428号 (P5610428)
公開番号 特開2011-252115 (P2011-252115A)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
公開日 平成23年12月15日(2011.12.15)
発明の名称または考案の名称 ハイブリッド糖鎖の製造方法
国際特許分類 C08B  37/08        (2006.01)
C12P  19/26        (2006.01)
FI C08B 37/08 Z
C12P 19/26
請求項の数または発明の数 1
全頁数 7
出願番号 特願2010-128075 (P2010-128075)
出願日 平成22年6月3日(2010.6.3)
審査請求日 平成25年3月28日(2013.3.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
発明者または考案者 【氏名】遠藤 正彦
【氏名】柿崎 育子
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】井上 典之
参考文献・文献 特開2009-278907(JP,A)
特許第5470612(JP,B2)
調査した分野 C08B 37/
C12P 19/
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸のいずれかの糖鎖の構成糖からなる6糖のオリゴ糖の還元末端をピリジルアミノ化したピリジルアミノ化オリゴ糖を、これらの糖鎖のうちの他の糖鎖とともに溶媒に溶解してヒアルロニダーゼ固定化カラムに通液し、カラム内でヒアルロニダーゼの作用による糖鎖の糖転移反応によってピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に他方の糖鎖の構成糖を2糖単位で転移させることによるハイブリッド糖鎖の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド糖鎖の製造方法に関する。より詳細には、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される複数種類の糖鎖の構成糖からなるハイブリッド糖鎖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は、核酸、タンパク質に次ぐ第三の“鎖”であり、近年、生体内におけるその役割や機能が注目されていることは当業者に周知の通りである。中でも、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸は、動物組織中に存在する糖鎖であり、生命現象に深く関与していることがこれまでの研究成果によって明らかにされていることから、医薬品や飲食品などへの応用に期待が寄せられている。しかしながら、その実態については未だ不明な点も多く、よりいっそうの研究の進展が待たれているところである。また、生体内では、例えばヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸といった異なる糖鎖の相互作用によってある種の生理作用が導き出されている可能性が示唆されている。このような状況において、ヒアルロン酸の構成糖とコンドロイチン硫酸の構成糖からなる糖鎖のような、起源を異にする構成糖からなり、自然界には見出されていないハイブリッド糖鎖に関心が集まっている。
【0003】
ハイブリッド糖鎖の研究を進めるためには、糖鎖を計画的に構築してデザインする方法の確立が望まれる。本発明者らは、糖鎖をデザインする方法に関し、特許文献1において、ヒアルロニダーゼ固体化カラムを利用した酵素学的手法による糖鎖改変方法を提案している。しかしながら、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される複数種類の糖鎖の構成糖からなるハイブリッド糖鎖については、特許文献1で言及していない。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-278907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、計画的なデザインのもとで行う、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される複数種類の糖鎖の構成糖からなるハイブリッド糖鎖の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の点に鑑みてなされた本発明のハイブリッド糖鎖の製造方法は、請求項1記載の通り、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸のいずれかの糖鎖の構成糖からなる6糖のオリゴ糖の還元末端をピリジルアミノ化したピリジルアミノ化オリゴ糖を、これらの糖鎖のうちの他の糖鎖とともに溶媒に溶解してヒアルロニダーゼ固定化カラムに通液し、カラム内でヒアルロニダーゼの作用による糖鎖の糖転移反応によってピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に他方の糖鎖の構成糖を2糖単位で転移させることによる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、計画的なデザインのもとで行う、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される複数種類の糖鎖の構成糖からなるハイブリッド糖鎖の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のハイブリッド糖鎖の製造方法は、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸のいずれかの糖鎖の構成糖からなる6糖のオリゴ糖の還元末端をピリジルアミノ化したピリジルアミノ化オリゴ糖を、これらの糖鎖のうちの他の糖鎖とともに溶媒に溶解してヒアルロニダーゼ固定化カラムに通液し、カラム内でヒアルロニダーゼの作用による糖鎖の糖転移反応によってピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に他方の糖鎖の構成糖を2糖単位で転移させることによるものである。

【0009】
即ち、本発明のハイブリッド糖鎖の製造方法は、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される糖鎖を起源とするピリジルアミノ化オリゴ糖をヒアルロニダーゼの作用による糖鎖の糖転移反応における受容体(アクセプター)、これらの糖鎖のうちの他の糖鎖を供与体(ドナー)とし、カラム内でピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に他方の糖鎖の構成糖を2糖単位で転移させることで、起源を異にする構成糖からなるハイブリッド糖鎖を製造するものである。受容体とするピリジルアミノ化オリゴ糖は、構成糖の数が6糖であるので、供与体として機能せず、他方の糖鎖のみが供与体として機能するので、還元末端側の6糖が受容体由来の構成糖であってその非還元末端に供与体由来の構成糖が結合したハイブリッド糖鎖の製造を計画的に行うことができる。また、生成物であるハイブリッド糖鎖は、その還元末端に結合している2-ピリジルアミノ基を蛍光標識として液体クロマトグラフィーなどにより容易に分取や精製することができる。糖鎖の糖転移反応に用いるヒアルロニダーゼはカラム内に固定化されているので、ハイブリッド糖鎖にヒアルロニダーゼが混入することはない。よって両者を分離する工程は必要がない。

【0010】
本発明において製造対象とするハイブリッド糖鎖の起源とするヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸は、それぞれ自然界に存在する自体公知の糖鎖である。従って、これらの糖鎖は自然界から取得することができるものであるが、コンドロイチンは自然界から大量に取得することが困難なものであるので、コンドロイチン硫酸を化学的に脱硫酸化することによって取得するのが一般的である。コンドロイチン硫酸としてはコンドロイチン4-硫酸(コンドロイチンA)やコンドロイチン6-硫酸(コンドロイチンC)を具体例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。

【0011】
本発明のハイブリッド糖鎖の製造方法において用いることができるヒアルロニダーゼとしては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸を供与体として、これらの糖鎖の構成糖を2糖単位で受容体の非還元末端に転移させる活性を有するものであればどのようなものであってもよく、ウシ精巣性ヒアルロニダーゼ(Endo-β-N-acetylhexosaminidase,EC3.2.1.35:必要であればBiochemistry,33(21),6503-6507,1994などを参照のこと)をその具体例として挙げることができる。

【0012】
ヒアルロニダーゼ固定化カラムは、酵素固定化カラムの一般的な作製方法に従って作製することができる。その一例としては、CNBr(臭化シアン)活性化セファロースなどのCNBrによって活性化させたビーズ状のアガロースゲルにヒアルロニダーゼをカップリングさせてガラス製のカラムに充填する方法が挙げられる(ヒアルロニダーゼを固定する担体はビニルポリマーなどの合成樹脂からなるビーズなどであってもよい)。ヒアルロニダーゼをカラム内に固定化することで、その酵素活性の安定化が図られるため、カラムを繰り返し利用できる。また、作製したカラムは3~5℃で保存することにより、少なくとも12ヶ月はヒアルロニダーゼの酵素活性を維持しておくことができる(16ヶ月経過後においても約70%の酵素活性の維持が可能)。

【0013】
ヒアルロニダーゼ固定化カラム内での糖鎖の糖転移反応は、受容体とするピリジルアミノ化オリゴ糖と供与体とする糖鎖を緩衝液などの溶媒に溶解し、予め緩衝液で緩衝化したカラムに通液して行うことが望ましい。カラム内を所定の反応条件、例えば、ウシ精巣性ヒアルロニダーゼを用いる場合、2~40℃、pH6.5~8.5の条件とすることで、反応系内に存在する供与体とした糖鎖が加水分解され、その非還元末端から構成糖が2糖単位で遊離されるとともに、遊離した構成糖が2糖単位で受容体としたピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に次々に転移されて糖鎖が伸長する。糖鎖をより長く伸長させるためには反応温度は低い方が望ましく、例えば2~26℃の反応温度では10個以上の2糖単位を、16℃以下の反応温度では20個以上の2糖単位を効率的に転移させることができる(全長として構成糖の数が140糖の糖鎖の製造も可能である)。所定の反応時間(例えば10分間~3日間)が経過した後、カラムに洗浄液として例えば水や塩化ナトリウム水溶液や酢酸アンモニウム水溶液などを通液して反応液を流出させ、糖鎖の還元末端に結合している2-ピリジルアミノ基を蛍光標識として液体クロマトグラフィーなどを用いて分取と精製を行うことで、ヒアルロニダーゼの混入がないハイブリッド糖鎖を得ることができる。

【0014】
なお、糖鎖の糖転移反応における受容体とするヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸を起源とするピリジルアミノ化オリゴ糖は、自体公知の方法、例えば、これらの糖鎖を上記のウシ精巣性ヒアルロニダーゼを用いて加水分解することで構成糖の数が6糖のオリゴ糖(構成2糖が3つ結合したもの)を得た後、その還元末端を2-アミノピリジンを用いた還元アミノ化法によってピリジルアミノ化する方法で調製することができる(必要であればJ.Biochem.,110,132-135,1991などを参照のこと)。

【0015】
本発明のハイブリッド糖鎖の製造方法によれば、通常、構成糖の数が2糖単位で異なる一連のハイブリッド糖鎖を高い純度でかつ高収量で得ることができるので、ハイブリッド糖鎖のライブラリー化が可能となる。ハイブリッド糖鎖の還元末端に結合している2-ピリジルアミノ基は除去せずにそのまま蛍光標識として利用してもよいし、自体公知の方法で除去してもよい(必要であればJ.Biochem.,134,51-55,2003などを参照のこと)。また、本発明の方法によって製造したハイブリッド糖鎖を受容体、本発明の方法において供与体とした糖鎖と異なる糖鎖を供与体とし、ヒアルロニダーゼ固定化カラムを利用して新たな供与体とした糖鎖を起源とする構成糖をハイブリッド糖鎖の非還元末端に2糖単位で転移させることで、多種多様のハイブリッド糖鎖を製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例では、ヒアルロン酸は市販のStreptococcus zooepidemicus由来の平均分子量80000のものを用いた(フードケミファ社製)。コンドロイチン硫酸は市販のコンドロイチン4-硫酸(クジラ軟骨由来、平均分子量34000)と市販のコンドロイチン6-硫酸(サメ軟骨由来、平均分子量64000)を用いた(いずれも生化学バイオビジネス社製)。コンドロイチンは上記のコンドロイチン4-硫酸またはコンドロイチン6-硫酸をJ.Biochem.,86,1323-1329,1979に記載の方法に従って化学的に脱硫酸化したものを用いた。
【実施例】
【0017】
(1)ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸を起源とするピリジルアミノ化オリゴ糖の調製
J.Biochem.,110,132-135,1991に記載の方法に従って、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸を起源とする6糖のピリジルアミノ化オリゴ糖をそれぞれ調製した。
【実施例】
【0018】
(2)ヒアルロニダーゼ固定化カラムの作製
1.2gのウシ精巣性ヒアルロニダーゼ(Type1-S、シグマ社製)と、膨潤させる前の乾燥重量で30g(膨潤させた後におけるタンパク質濃度が10mg/mL)のGEヘルスケア社製のCNBr活性化セファロース4FFを、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中、室温で2時間または4℃で18時間かけてカップリングさせ、直径が15mmで長さが10cmのガラス製のカラムに充填することで作製した(充填した担体のベッドボリュームは3.6mLで高さは2cm)。カップリング効率は11.86%で、担体1mL(ベッドボリューム)あたりのヒアルロニダーゼのタンパク質量と力価はそれぞれ1.2mgと534U程度であった。このようにして作製したカラムは使用時まで4℃で保存した。
【実施例】
【0019】
(3)ハイブリッド糖鎖の製造
(2)で作製したウシ精巣性ヒアルロニダーゼ固定化カラムを平衡化緩衝液(0.1M Tris-HCl緩衝液,pH7.0)で平衡化した後、受容体として(1)で調製したピリジルアミノ化オリゴ糖から選択される1種類、供与体としてヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸から選択される1種類をカラムに同時にアプライした。それぞれのアプライ量は、酵素固定化担体1mL(ベッドボリューム)あたり約0.04mgと約1.25mgとした(平衡化緩衝液を溶媒として使用)。供与体がヒアルロン酸およびコンドロイチンの場合には37℃で1時間、コンドロイチン4-硫酸の場合には4℃で1晩、コンドロイチン6-硫酸の場合には4℃で3晩、カラム内に受容体と供与体を保持し、糖鎖の糖転移反応を行って受容体としたピリジルアミノ化オリゴ糖の非還元末端に供与体とした糖鎖の構成糖を2糖単位で転移させた。反応後、カラムに洗浄液として水を通液して反応液を流出させ、脱塩してから濃縮することでハイブリッド糖鎖の混合物を得た。このハイブリッド糖鎖の混合物を高速液体クロマトグラフィーにかけ、糖鎖の還元末端に結合している2-ピリジルアミノ基の蛍光を指標として(励起波長320nm、蛍光波長400nm)、それぞれのハイブリッド糖鎖を分取した。なお、高速液体クロマトグラフィーは以下の2種類の条件を適宜採用して行った。
(条件1)
・カラム:YMC-Pack Polyamine II(YMC社製)
※ 分析用:4.6×250mm、分取用:10×250mm
・溶出液:A液(16mM NaHPO)、B液(500mM NaHPO
・直線的濃度勾配:B液0-100%(0-60分)
・流速:1mL/分(分析時)または3mL/分(分取時)
・カラム温度:40℃
(条件2)
・カラム:TSK-gel Amide-80(4.6×250mm、東ソー社製)
・溶出液:A液(3%酢酸:アセトニトリル=10:90、pH7.3)
B液(3%酢酸:アセトニトリル=50:50、pH7.3)
・直線的濃度勾配:B液0-100%(0-60分)
・流速:1mL/分
・カラム温度:40℃
【実施例】
【0020】
(4)結果
構成糖の数が6糖のピリジルアミノ化オリゴ糖を受容体として得られたハイブリッド糖鎖の種類を表1に示す。なお、表1において、Hはヒアルロン酸の構成2糖(-GlcUAβ1-3GlcNAc-)、0はコンドロイチンの構成2糖(-GlcUAβ1-3GalNAc-)、4はコンドロイチン4-硫酸の構成2糖(-GlcUAβ1-3GalNAc(4S)-)、6はコンドロイチン6-硫酸の構成2糖(-GlcUAβ1-3GalNAc(6S)-)、PAは2-ピリジルアミノ基を意味する。
【実施例】
【0021】
【表1】
JP0005610428B2_000002t.gif
【実施例】
【0022】
表1から明らかなように、本発明の方法によれば、構成糖の数が2糖単位で異なる一連のハイブリッド糖鎖を計画的に製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、計画的なデザインのもとで行う、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸から選択される複数種類の糖鎖の構成糖からなるハイブリッド糖鎖の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。