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明細書 :ケラチンフィルムを用いたパーマ剤による毛髪損傷度測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5448182号 (P5448182)
公開番号 特開2011-237244 (P2011-237244A)
登録日 平成26年1月10日(2014.1.10)
発行日 平成26年3月19日(2014.3.19)
公開日 平成23年11月24日(2011.11.24)
発明の名称または考案の名称 ケラチンフィルムを用いたパーマ剤による毛髪損傷度測定方法
国際特許分類 G01N  27/447       (2006.01)
G01Q  80/00        (2010.01)
FI G01N 27/26 315F
G01N 13/10 L
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2010-108079 (P2010-108079)
出願日 平成22年5月10日(2010.5.10)
審査請求日 平成25年5月7日(2013.5.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】川副 智行
【氏名】渡辺 智子
【氏名】藤井 敏弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100092901、【弁理士】、【氏名又は名称】岩橋 祐司
審査官 【審査官】柏木 一浩
参考文献・文献 特開2009-300191(JP,A)
特開2010-078503(JP,A)
特開2001-356125(JP,A)
特開2004-286738(JP,A)
調査した分野 G01N 27/447
特許請求の範囲 【請求項1】
ケラチンフィルムを処理したパーマ剤に含まれる毛髪蛋白質をSDS-PAGEにより分析することを特徴とするパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法。
【請求項2】
前記パーマ剤が、チオグリコール酸を主成分とするものであることを特徴とする請求項1に記載のパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法。
【請求項3】
パーマ剤により処理されたケラチンフィルムをSEM及び/又はSPMによる顕微鏡観察により分析することを特徴とするパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法。
【請求項4】
パーマ剤により処理されたケラチンフィルムを該ケラチンフィルムの透明性の評価により分析することを特徴とするパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチンフィルムを用いたパーマ剤による毛髪損傷度測定方法、特にその診断能の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪を損傷させる要因として、紫外線照射、大気中の埃、ドライヤーの熱、コーミングによる摩擦、過度の洗髪、パーマ、染色・染毛剤の使用等が挙げられる。近年、種々の要因によって引き起こされる毛髪の損傷に関する研究が盛んに行われており、その損傷度を測定することが求められている。
毛髪は簡単に採取できる生体試料であり、加工・処理も容易であることから、毛髪損傷度を測定する手法としては、毛髪の損傷に伴う毛髪の物理特性の変化を測定するものが多い。中でも毛軸方向への伸長応力は、損傷により低下する毛髪強度の指標として有効であり、引っ張り強度試験として汎用されている(例えば特許文献1を参照)。この手法を用いて、損傷度を測定するためには、初期値もしくは比較対象となる損傷の少ない健常毛髪を入手し、この毛髪に対し損傷処理を行い、引っ張り強度にて損傷度を定量化するものである。さらに改善した手法としては、毛髪を長手方向に沿って引き裂いて引き裂き強度を求め、該引き裂き強度の基づいて毛髪の損傷度を評価する手法も開発されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、これらの測定法は毛髪の物理特性変化を測定することから、大きな物理特性変化を伴う損傷に限定されてしまい、物理特性変化を伴わない微細な初期損傷を検出することができないという課題があった。
【0003】
これらを解決するために本発明者等は、毛髪の物理特性以外の指標として、毛髪損傷に伴い溶出していく蛋白質の量の変化を測定する手法(例えば、特許文献3を参照)を開発している。本手法は物理特性変化に反映しない毛髪の初期ダメージを検出するのに有効である。しかしながら、本手法は毛髪構成蛋白質の変性によって起こる二次的な現象を検出するものであるため、より直接的な損傷検出が望まれていた。
【0004】
そここで本発明者等は、毛髪内部で発生する蛋白質変性を直接的に検出する手法として、毛髪損傷に伴い発生する毛髪内のカルボニル基の定量を蛍光色素を用いて測定する方法を提案している(例えば、特許文献4を参照)。この手法は、毛髪物理特性に反映しないような初期損傷を定量でき、蛍光色素を用いることで高感度な損傷度の定量法であった。
【0005】
しかしながら、これらの手法はいずれも初期値もしくは比較対象となる健常毛髪が必要であることから、測定法の感度以前に、初期値もしくは比較対象となる健常毛髪のダメージ履歴や個体差に依存したばらつきが問題となっていた。毛髪は外観でダメージをどれくらい受けているかを判別する方法が無く、検出感度が上がれば上がるほど損傷程度の同じ毛髪を準備する必要がある。しかしながら、実際のところこれを制御する処方はなく、毛髪構成蛋白質を維持しながら、ダメージ履歴や個体差を均一化する処理方法の開発が課題となっていた。
【0006】
前述の問題を解決するものとして、既に本発明者等は、効率性がよく、ありのままに近い状態で解析に適したケラチン蛋白質の抽出法に関し報告している(例えば、特許文献5を参照)。すなわち、還元剤共存下で特定の尿素系の化合物で毛髪を処理し、毛髪コルテックス部位を構成するミクロフィブリルと細胞間充物質のあるマトリックスのケラチンとその関連蛋白質を溶出させて採取し、この溶出後の残渣から形状を維持したキューティクル部位を採取するものである。さらに本発明者等は、この方法をさらに改良して採取したケラチンとその関連蛋白質から構成されたフィルム、ゲル等の成形品の製造方法をも提供している(例えば、特許文献6を参照)。ケラチンとその関連蛋白質から構成されたフィルム、すなわちケラチンフィルムは、毛髪構成蛋白質を変性させることなく保持していることが既に判明している(例えば、非特許文献1を参照)。さらに本発明者等は、前記ケラチンフィルムの界面活性剤及びヘアカラー剤処理による溶出蛋白質の測定から毛髪処理剤によるダメージを評価している(特許文献7)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特公平3-10899号公報
【特許文献2】特開2002-282240号公報
【特許文献3】特許第3862665号公報
【特許文献4】WO2005/057211号公報
【特許文献5】特開2002-114798号公報
【特許文献6】特開2002-332357号公報
【特許文献7】特開2009-300191号公報
【0008】

【非特許文献1】日本香粧品学会誌 Vol.30、No.1、pp.5-9(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、毛髪ケラチンフィルムを用いたパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法に関する具体的な報告は未だされていない。特に、パーマ剤による毛髪損傷度の評価は、現在のところ、毛髪ストランドを用いた前記毛髪の物理特性の変化に依るところが大きく、パーマ剤のむらや検体の髪質によるデータのばらつきの少ない精度の優れた測定手法の要求が高い。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、測定値のばらつきが少なく、パーマ剤による毛髪への影響を簡便に測定することができ、しかも精度に優れた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するため、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ケラチンフィルムがパーマ剤の適用によって毛髪と同様の影響を示し、また、該フィルムをパーマ剤の適用対象として用いることによって、同剤による毛髪の損傷度を明瞭に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかるパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法は、ケラチンフィルムを処理したパーマ剤に含まれる毛髪蛋白質を分析することを特徴とする。
【0011】
また、前記測定方法において、前記毛髪蛋白質の分析が、蛋白質の定量分析であることが好適である。
また、前記測定方法において、前記毛髪蛋白質の分析が、SDS-PAGE分析であることが好適である。
また、前記測定方法において、前記パーマ剤が、チオグリコール酸を主成分とするものであることが好適である。
【0012】
また、前記測定方法において、パーマ剤により処理されたケラチンフィルムを分析することが好適である。
また、前記測定方法において、前記ケラチンフィルムの分析が、SEM及び/又はSPMによる顕微鏡観察であることが好適である。

また、前記測定方法において、前記ケラチンフィルムの分析が、ケラチンフィルムの透明性の評価であることが好適である。
また、前記測定方法において、前記ケラチンフィルムの分析が、ケラチンフィルムの重量測定であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる方法によれば、測定値にばらつきを生じることなく、簡便にパーマ剤による毛髪損傷度を測定することができる。これにより、パーマ剤使用時の毛髪の耐久性等を高精度で試験することが可能となるため、関連の化粧品、医薬品、医薬部外品等の開発及び研究において著しい貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】測定例1のケラチンフィルムと反応させた後の各種パーマ剤に含まれる成分のTricine/SDS-PAGE展開像である。
【図2】測定例2のパーマ剤処理前後におけるケラチンフィルムの外観写真、SEM画像、SPM画像である。
【図3】測定例3のパーマ剤濃度の変化に対する溶出蛋白質量を示すグラフである。
【図4】測定例3のケラチンフィルムと反応させた各濃度のパーマ剤に関するTricine/SDS-PAGE展開像である。
【図5】測定例3のパーマ剤処理前後におけるケラチンフィルムの重量変化をパーマ剤濃度に対して示したグラフである。
【図6】測定例3の各濃度のパーマ剤処理後のケラチンフィルムの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明にかかるパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法は、パーマ剤を適用した毛髪の損傷度を評価するために用いられる。
また、本発明において、「毛髪」は、ヒトの毛髪以外に、動物の体毛、羽毛を含むものとする。また、ケラチン蛋白質を含む爪や皮膚等に本発明にかかる測定方法を適用することも可能である。
まず最初に、本発明にかかる測定方法に用いるケラチンフィルムについて説明する。

【0016】
<ケラチンフィルムの調製>
毛髪から、それを構成するケラチン蛋白質群を抽出するために、蛋白質変性剤を用いる。蛋白質変性剤としては、尿素系の化合物が好ましく、例えば、尿素、チオ尿素、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの尿素系蛋白質変性剤の1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。より好ましくは、尿素とチオ尿素を混合して用いることである。尿素とチオ尿素を混合して用いる場合には、混合質量比が5:1~1:2(尿素:チオ尿素)であることが好ましい。チオ尿素の混合比が前記範囲より少ないと、蛋白質の変成作用が劣る場合があり、また前記範囲を超えると、ケラチン蛋白質群の抽出率が低下する傾向がある。

【0017】
前記蛋白質変性剤は、毛髪サンプル処理液中の濃度が30~70質量%であることが好ましい。30質量%未満であると、ケラチン蛋白質群の抽出率が低下する傾向があり、また、70質量%を超えて用いても増量による抽出率向上の効果は認められないばかりか、毛髪サンプル処理液の粘性が高くなり作業性が悪くなる場合がある。ここで、「毛髪サンプル処理液」とは、毛髪サンプルと蛋白質変性剤からなる毛髪ケラチン蛋白質溶解液、及び後述する還元剤等を含み、ケラチン蛋白質群を抽出する製造過程での混合溶液を意味する。
前述のように蛋白質変性剤を用いることにより、温和な条件で効率よくケラチン蛋白質群を毛髪から溶解させて抽出することが可能となる。

【0018】
また、本発明に用いるケラチンフィルムを調製するにあたり、前記蛋白質変性剤と共に還元剤を併用する。還元剤としては、例えば2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトールチオグリコール酸等のチオアルコール類が挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
還元剤を前記蛋白質変性剤と併用することにより、ケラチン蛋白質群の抽出率をさらに向上させることができる。これは、強固なケラチン線維構造を蛋白質変性剤が変性させ、続いて還元剤がケラチン蛋白質間の強固なS-S結合を効率よく解離させ、さらに毛髪サンプル処理液中での再結合が起こり難くするためと考えられる。

【0019】
前記還元剤を蛋白質変性剤と併用する場合、毛髪サンプル処理液中0.5~40質量%の濃度で含有させることが好ましく、より好ましくは1~20質量%である。ただし、用いる還元剤の毛髪サンプル処理液中における溶解性により適宜決定されることが好ましい。
還元剤の濃度が0.5質量%未満であると、ケラチン蛋白質間の強固なS-S結合の還元切断が十分に行われない傾向があり、また、40質量%の濃度を超えて使用すると毛髪処理液中でのケラチン蛋白質群の溶解性が悪くなる場合がある。

【0020】
毛髪ケラチン蛋白質溶液を得るための処理時間は、処理温度にも左右されるが、1~4日間であることが好ましい。また、処理温度は、20~60℃であることが好ましい。20℃未満であると反応の進行が遅くなり効率が悪く、60℃を超えると、毛髪サンプル処理液がアルカリ性を呈しているため、ペプチド結合の切断や置換基変換、架橋等の副反応を伴う場合がある。
また、毛髪サンプルと毛髪サンプル処理液の比は、1~100mg毛髪サンプル/ml毛髪サンプル処理液であることが好ましい。
毛髪サンプル処理液は、ケラチン蛋白質が十分に抽出された後、ろ過により末抽出毛髪を除き、毛髪ケラチン蛋白質溶液を得ることができる。

【0021】
蛋白質変性剤と還元剤とを併用して毛髪サンプルを処理し、ろ過した後に得られる毛髪ケラチン蛋白質溶液の固体化又はゲル化のため、展開用溶液を接触させる。この固体化又はゲル化により、本発明にかかる測定方法に適した形態であるフィルムとして成形される。
展開用溶液としては、例えば、トリクロロ酢酸、グアニジン塩酸、過塩素酸、及びそれらの誘導体等の変性剤と、水、生理食塩水、低級アルコール等の溶媒を混合して得られる変性剤溶液、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸及びそれらの塩等の酸性物質からなる酸性溶液が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。本発明で用いるケラチンフィルムの調製においては、展開用溶液としてグアニジン塩酸、過塩素酸の変性剤又は酢酸と水を混合して得られる過塩素酸溶液、グアニジン塩酸溶液、酢酸緩衝液、酢酸溶液から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。特に好ましくは、酢酸緩衝液(pH4.0)及び/又は酢酸溶液である。

【0022】
前記展開用溶液として用いる前記変性剤溶液の濃度は、10~60質量%であることが好ましい。また、前記展開用溶液として用いる酸性溶液の濃度は、10~500mMであることが好ましい。
前記展開用溶液は、前記毛髪ケラチン蛋白質溶液のイオン強度を下げる作用を有し、これにより、毛髪サンプル処理液中蛋白質変性剤、還元剤の溶解性の低下を招く。その結果、ケラチン蛋白質群の溶解性が低下し、それに伴いケラチン蛋白質間のS-S結合が解離して-SH状態であったものがS-S結合を再形成し、短時間にケラチン蛋白質の固体化が進行することになる。

【0023】
本発明で用いるケラチンフィルムを調製する場合、Post-cast法またはPre-cast法を適用することができる。
Post-cast法としては、シャーレ等の容器に予め前記展開用溶液を満たしておき、これに毛髪ケラチン蛋白質溶液をキャストする方法(フォワード法)、または毛髪ケラチン蛋白質溶液を予め添加したシャーレ等の容器に、展開用溶液をキャストする方法(リバース法)が挙げられる。
Pre-cast法とは、予め毛髪ケラチン蛋白質に展開用溶液を混合し、水を張ったシャーレ等の容器へ前記混合溶液をキャストする方法である。
本発明においては、前記Post-cast法及びPre-cast法のいずれの適用によっても、パーマ剤による毛髪損傷度の測定に適した均一性に優れたケラチンフィルムを調製することができる。
特に、Pre-cast法に用いる展開用溶液としては、酢酸溶液が好適に使用され得る。Post-cast法においては、酢酸緩衝液が展開用溶液として好適である。
また、還元剤としては、2-メルカプトエタノールがPost-cast法での使用に適し、ジチオスレイトールがPre-cast法での使用に適している。
また、展開用溶液は毛髪ケラチン蛋白質溶液に対し、10~10000倍の質量比で用いることが好ましい。前記範囲内で展開用溶液を毛髪ケラチン蛋白質溶液に接触させることにより、適度な薄さを呈する薄膜を調製することができる。

【0024】
シャーレ内に形成された薄膜状の毛髪ケラチン蛋白質成形品を前記展開用溶液で洗浄する。洗浄の回数は特に限定されないが、1~5回程度であることが好ましい。洗浄後、溶液を取り除き、シャーレ上の毛髪ケラチン蛋白質成形品を乾燥させ、ケラチンフィルムを得ることができる。乾燥の方法は特に限定されないが、埃が付かない室温下で静置することなどが挙げられる。

【0025】
ケラチンフィルムの調製に用いる毛髪サンプルは、油分が多く含まれているものもあり、処理前に予め脱脂しておいてもよい。脱脂の方法に限定はないが、例えばクロロホルムとメタノールの混合溶媒での処理すること等が挙げられる。

【0026】
<パーマ剤による毛髪損傷度の測定方法>
続いて、本発明にかかるパーマ剤による毛髪損傷度の測定方法について説明する。
本発明にかかる方法は、上記したケラチンフィルムをパーマ剤で処理したものを測定対象として使用し、該処理によってフィルムより溶出した毛髪蛋白質の定量分析や、該処理前後におけるケラチンフィルムの重量変化などによって毛髪損傷度を測定しようとするものである。本発明の方法としては、前記以外にも、フィルムの透過性の変化や、顕微鏡等によるフィルムの構造変化を直接的に観察することなども挙げられる。また、フィルムを洗浄・乾燥後、その重量変化や形態変化からも毛髪損傷度を測定することができる。

【0027】
一般的なパーマ剤は、還元剤(チオグリコール酸、システイン、アセチルシステイン、チオ乳酸等)が配合された第1剤を毛髪に適用することにより、毛髪ケラチンのポリペプチド鎖を繋ぐジスルフィド結合(S-S結合)を切断してその網目構造を解き、次いで酸化剤(臭素酸塩、過酸化水素など)を主成分とする第2剤を適用することにより、切断したジスルフィド結合を新たな位置に形成させるものである。この一連の処理を施すことで、毛髪を所望の状態に固定することができる。

【0028】
ケラチン等の毛髪の蛋白質は、主に前記ジスルフィド結合による架橋によって構造化されていることから、パーマ剤に含まれる還元剤が適用されて該結合が切断されると、相互作用が極めて低下して溶出し易くなることが知られている。また、助剤として還元剤と共に配合されるアルカリ剤によって加水分解された毛髪蛋白質が溶出してしまうこともある。このような毛髪蛋白質の溶出は、パーマ剤による毛髪損傷の一因であり、その度合いを測定することで各種パーマ剤の毛髪への影響を評価する指標となり得ると考えられる。

【0029】
以下、具体的な測定方法について説明する。
まず、検体となるケラチンフィルムにパーマ剤を適用する。
使用するパーマ剤は、その剤形を含め、特に成分等に制限はないが、上記した還元剤によって溶出する毛髪蛋白質を指標とするという観点から、還元剤を含むものを用いることが好ましい。これはすなわち、パーマ剤に含まれる還元剤成分のみの使用、及び、多剤型のパーマ剤の還元剤を含む剤のみの使用も含む。パーマ剤としては、損傷度の検出し易さから、還元剤として特にチオグリコール酸を使用したものが好ましい。
一方で、還元剤を含まないパーマ剤又はパーマ剤成分を使用し、還元剤以外による毛髪損傷度を測定することも可能である。また、もちろん、各種パーマ剤組成物をそのまま使用してもよい。

【0030】
パーマ剤のケラチンフィルムへの使用量や方法は、基本的には毛髪に適用する場合と同様とすることができるが、パーマ剤を評価する内容に応じ、その成分濃度や使用条件・方法などは適宜変更することが好ましい。例えば、適用するパーマ剤中の還元剤の濃度を変化させたケラチンフィルムのサンプルの測定結果を比較することで、還元剤濃度による毛髪損傷度を検討することができる。また、パーマ剤の適用時間や温度を変化させれば、該条件による毛髪損傷度を検討することができる。

【0031】
ケラチンフィルムのパーマ剤による処理は、毛髪の場合と同様に、シャーレ等の容器に収まったケラチンフィルムへパーマ剤を接触させる、すなわち、パーマ剤を容器へ直接添加する(キャスティングする)ことによって行うことができる。使用するパーマ剤に設定された、又は毛髪損傷測定試験のために設定した時間・温度他の条件でパーマ剤をフィルムと反応させた後、容器からパーマ剤を回収する。回収されたパーマ剤には、パーマ剤の影響によりケラチンフィルム、すなわち毛髪から溶出した毛髪蛋白質が含まれている。したがって、回収したパーマ剤中の蛋白質を分析することにより、その影響たる毛髪損傷度を測定することができるのである。

【0032】
回収したパーマ剤中の毛髪蛋白質の分析は、公知の蛋白質分析法から適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、パーマ剤中の毛髪蛋白質を定量分析し、得られる溶出蛋白質量に基づいて髪損傷度を評価する場合、紫外線吸収法、Bradford法、Lowry法、BCA法などの分光光度計を用いた公知の比色定量法の使用が挙げられる。本発明においては、特に、Bradford法に準じ、回収したパーマ剤又はその上清の595nmにおける吸光度を測定し、予め作成しておいた検量線にて蛋白質量に換算することが好ましい。

【0033】
また、他の毛髪蛋白質の分析法としては、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)等の電気泳動によるものが挙げられる。SDS-PAGEの場合、例えば、回収したパーマ剤又はその上清を必要に応じて還元剤処理し、これをSDSを添加した緩衝液を用いてポリアクリルアミドゲルに展開し、さらにニトロセルロースやPVDF等のメンブレンに転写し、メンブレン上に捕捉された蛋白質を免疫染色等によって検出する。検出された蛋白質の検出バンドによって、パーマ剤から溶出した毛髪蛋白質の同定や、その溶出量を評価することができる。
なお、本発明においては、上記した以外にも、ESI-MSやMALDI-MS等のイオン化法を用いた蛋白質の同定・質量分析等、パーマ剤による溶出蛋白質を評価するためのあらゆる分析方法を評価する目的に応じて適用することができる。

【0034】
また、本発明においては、ケラチンフィルムとの反応後に回収されたパーマ剤だけでなく、同処理後のケラチンフィルムを毛髪損傷度の測定に用いることもできる。前述のように、パーマ剤で処理を行うと、毛髪に相当するケラチンフィルムからは、適用するパーマ剤の種類や使用条件に応じて毛髪蛋白質の溶出が認められる場合がある。このような蛋白質の溶出は、パーマ剤に含まれる成分の影響によって、毛髪(すなわち、ケラチンフィルム)を構成する蛋白質の網目構造が崩れることが一因であると考えられる。したがって、パーマ剤適用前後のケラチンフィルムにおける蛋白質の網目構造の変化を分析することで、パーマ剤の毛髪への影響を評価することができる。

【0035】
ケラチンフィルムの構造の分析方法には、例えば、顕微鏡等によるケラチンフィルムの構造観察データを用いたものが挙げられる。ここで使用する顕微鏡は特に限定されないが、例えば、3次元構造の観察に対しては走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、ナノスケールでの表面観察に対しては走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いるなど、所望する情報に応じて選択することが好ましい。顕微鏡観察によって得られたデータは、そのまま毛髪損傷度の検討に用いても、さらに詳細に分析を行っても構わない。

【0036】
また、別の分析方法としては、ケラチンフィルムの透明性の評価が挙げられる。
本発明において使用される前述のケラチンフィルムは、正常な毛髪と同様にS-S結合による網目構造を形成している。そのため、通常の状態では、半透明~不透明の外観を有している。しかし、該フィルムをパーマ剤で処理すると、パーマ剤によってS-S結合が切断されて網目構造が崩壊し、その程度によってフィルムの透明性が上昇する傾向が認められる。このケラチンフィルムの性質を利用し、パーマ剤による毛髪損傷度を評価することができるのである。透明性の測定は、パーマ剤処理前後や各条件でのケラチンフィルムの外観変化を目視で観察する他、屈折率や吸光スペクトル等の光学的測定といった公知の分析方法を評価する目的に応じて適用してもよい。

【0037】
さらに、ケラチンフィルムを用いた別のアプローチとしては、パーマ剤処理前後のフィルム重量の分析が挙げられる。
前述のように、パーマ剤で処理したケラチンフィルムからは、毛髪蛋白質が溶出する。そのため、パーマ剤処理後のケラチンフィルム重量は、処理前に比べ、蛋白質溶出分軽くなる傾向にある。すなわち、溶出した毛髪蛋白質の量が大きい程、ケラチンフィルムの重量は軽くなり、毛髪損傷の度合いが高いと評価することができる。
したがって、パーマ剤処理前後や、パーマ剤成分の種類や使用条件による重量変化を比較することによって、パーマ剤による毛髪損傷度の測定が可能となる。
なお、パーマ剤処理後のケラチンフィルム重量を測定する際は、フィルムを十分に洗浄してパーマ剤を除去し、処理前と同様に乾燥した状態にしておくことが好ましい。

【0038】
上記の如く得られた毛髪蛋白質又はケラチンフィルムの測定データは、美容、薬学、医学、食品等の分野における開発及び研究において、パーマ剤による毛髪損傷度を測定するために用いることができる。毛髪損傷度の測定結果の評価やその利用は、それぞれの開発及び研究内容に応じて行われるものであり、本発明の目的を損ねるものでない限り特に限定されない。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の数値は、特に記載のない限り質量%を示す。
まず、本実施例に用いたケラチンフィルムの調製方法を示す。
(ケラチンフィルムの調製例)
15歳女性の毛髪600gを、尿素30質量%、チオ尿素20質量%、ジチオスレイトール5質量%、25mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)8mlを含む混合液に浸漬して毛髪サンプル処理液とし、これを50℃にて1~4日間保持して、毛髪ケラチン蛋白質を溶解させた。この液からろ過により末抽出毛髪を取り除き、毛髪ケラチン蛋白質溶解液とした。この蛋白質溶液3.5mgへ100mM酢酸水溶液6mlを添加、混合し、この混合溶液を水を満たしたシャーレ(直径35mm)へ静かにキャストした。毛髪ケラチン蛋白質が固体化した後、蒸留水を含む展開用溶液を数回交換して、ゲル中の溶液を蒸留水に置換した。最後に蒸留水を除き、シリカゲルを含む箱内で十分に乾燥し、シャーレに固定された形態のケラチンフィルムを得た。
【実施例】
【0040】
<測定例1:溶出蛋白質の特定>
上記調製例によるケラチンフィルム(シャーレに固定されたもの)に対し、下記処方のパーマ剤の1剤のみをそれぞれ1mlずつキャスティングし、25℃にて10分間放置した。その後、各シャーレ内のパーマ剤を回収し、それぞれ12000gにて10分間室温で遠心分離し、上清を回収した。得られた上清について、Tricine/SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル濃度15%)で展開し、クマシーブリリアントブルーで染色後、ゲル上に分離された蛋白質のバンドを解析した。結果を図1に示す。
【実施例】
【0041】
(パーマ剤の処方)
試験例1:チオグリコール酸系パーマ剤(第1剤)
(質量%)
チオグリコール酸アンモニウム(50%)[還元剤] 10.0
ジチオジグリコール酸ジアンモニウム液(40%)[反応調整剤] 8.0
モノエタノールアミン[アルカリ] 1.0
強アンモニア水[アルカリ] 2.0
重炭酸アンモニウム[アルカリ] 1.2
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(80%)[感触付与] 0.5
ヒドロキシエタンジホスホン酸[金属イオン封鎖剤] 0.1
POE・POPデシルテトラデシルエーテル[可溶化剤] 0.3
香料[香料] 0.1
ポリ塩化ジメチルメチレンピペリニジウム液[弾力付与] 0.5
精製水[精製水] 適量
【実施例】
【0042】
試験例2:チオグリコール酸系パーマ剤(第1剤)
(質量%)
チオグリコール酸アンモニウム(50%)[還元剤] 12.0
モノエタノールアミン[アルカリ] 1.0
強アンモニア水[アルカリ] 1.5
重炭酸アンモニウム[アルカリ] 1.5
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(80%)[感触付与] 0.5
ヒドロキシエタンジホスホン酸[金属イオン封鎖剤] 0.1
POE・POPデシルテトラデシルエーテル[可溶化剤] 0.3
香料[香料] 0.1
ポリ塩化ジメチルメチレンピペリニジウム液[弾力付与] 0.5
精製水[精製水] 適量

【実施例】
【0043】
試験例3:システイン系パーマ剤(第1剤)
(質量%)
チオグリコール酸アンモニウム(50%)[還元剤] 1.5
DL-システイン[還元剤] 3.5
モノエタノールアミン[アルカリ] 1.0
強アンモニア水[アルカリ] 1.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(80%)[感触付与] 0.4
ヒドロキシエタンジホスホン酸[金属イオン封鎖剤] 0.1
POE・POPデシルテトラデシルエーテル[可溶化剤] 0.3
香料[香料] 0.1
1,3-ブチレングリコール[保湿剤] 1.5
ポリ塩化ジメチルメチレンピペリニジウム液[弾力付与] 0.25
精製水[精製水] 適量
【実施例】
【0044】
試験例4:システイン系パーマ剤(第1剤)
(質量%)
チオグリコール酸アンモニウム(50%)[還元剤] 1.8
DL-システイン[還元剤] 3.0
L-システイン[還元剤] 2.0
モノエタノールアミン[アルカリ] 1.0
強アンモニア水[アルカリ] 2.0
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(80%)[感触付与] 0.4
ヒドロキシエタンジホスホン酸[金属イオン封鎖剤] 0.1
POE・POPデシルテトラデシルエーテル[可溶化剤] 0.3
香料[香料] 0.1
1,3-ブチレングリコール[保湿剤] 1.5
ポリ塩化ジメチルメチレンピペリニジウム液[弾力付与] 0.25
精製水[精製水] 適量
【実施例】
【0045】
図1に示すように、試験例1のパーマ剤には、7kD、14kDa及び20kDaの位置に、ケラチン関連蛋白質(KAPs)と推定されるバンドが認められた。
したがって、本発明によれば、毛髪に由来するケラチンフィルムを用いることにより、パーマ剤による特定の毛髪蛋白質の溶出を確認することが可能である。
【実施例】
【0046】
<測定例2:ケラチンフィルムの構造変化>
上記調製例によるケラチンフィルム(シャーレに固定されたもの)に対し、上記試験例1のパーマ剤を1mlキャスティングし、25℃にて0.5分間又は10分間放置した。各放置時間後、シャーレ内のパーマ剤をその一部を回収した後に洗い流し、ケラチンフィルムを数回洗浄して乾燥し、その外観から透過性を評価した。評価は、ケラチンフィルムが収まる透明シャーレの下に記された文字の認識可否による。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及び走査型プローブ顕微鏡(SPM)にて、フィルムの蛋白質構造の観察も行った。なお、コントロールとして、パーマ剤の代わりに蒸留水で処理したケラチンフィルムについても同様の測定を行った。結果を図2に示す。
【実施例】
【0047】
図2に示すように、ケラチンフィルムは未処理では不透明な外観であったが、パーマ剤の適用により徐々に透明性が高まった。すなわち、フィルムの透明性の変化はパーマ剤を0.5分間添加した時点で既に認められ、10分間の添加ではほぼ完全に透明となった。
また、SEM及びSPMの結果から、パーマ剤で処理されたケラチンフィルムは、処理時間が進むほど毛髪蛋白質の網目構造が崩れ、表面が滑らかになることが分かった。パーマ剤添加によるフィルムの透明性の増加も、この毛髪蛋白質の立体構造の変化に伴うものであると考えられる。
したがって、本発明によれば、ケラチンフィルムの構造変化から毛髪損傷度を確認することが可能である。
【実施例】
【0048】
<測定例3:パーマ剤濃度における毛髪損傷度の測定>
上記調製例によるケラチンフィルム(シャーレに固定されたもの)に対し、チオグリコール酸ナトリウム溶液(pH9.4)を、チオグリコール酸ナトリウムの濃度を変えて各1mlキャスティングし、25℃にて10分間放置した。なお、チオグリコール酸ナトリウムの濃度は、0、50、100、150、200、250、300、350、400mMとした。
放置後、各シャーレ内のチオグリコール酸ナトリウム溶液を回収し、それぞれ12000gにて10分間室温で遠心分離し、上清を回収した。得られた各上清については、Bradford法にて蛋白質量を定量すると共に(図3)、測定例1と同様にしてTricine/SDS-PAGEを行った(図4)。
一方、チオグリコール酸ナトリウム溶液を回収した後のケラチンフィルムについては、洗浄及び乾燥を行った後でそれぞれのフィルム重量を測定し、パーマ剤処理を行う前に予め測定しておいたフィルム重量との差を算出した(処理前重量-処理後重量)(図5)。また、各ケラチンフィルムのパーマ剤処理後の透明性についても、測定例2と同様にして評価した(図6)。結果を図3~6に示す。
【実施例】
【0049】
図3に示すとおり、チオグリコール酸ナトリウム濃度が高くなるにしたがい、溶液中に溶出する毛髪蛋白質の量は増加傾向にあることが明らかとなった。また、図4の電気泳動の結果においても、チオグリコール酸ナトリウム濃度150mM以上のサンプルにケラチン関連蛋白質(7kDaから20kDa)に相当すると考えられるバンドが認められた。また、チオグリコール酸ナトリウム濃度250mM以上のサンプルに、100kDa以上の高分子量蛋白質のバンドが出現した。
【実施例】
【0050】
また、図5に示す処理前後のフィルムの重量変化では、チオグリコール酸ナトリウム濃度が高くなるにつれ、処理後のフィルム重量が減少傾向にあった。この結果は、チオグリコール酸ナトリウム濃度に比例して溶出する蛋白質が増加することを示す図3の結果と調和している。さらに、図6に示す処理後のケラチンフィルムの外観もまた、チオグリコール酸ナトリウム濃度と共に、ケラチンの網目構造の崩壊が顕著になり、透明性が高くなることを示した。
したがって、本発明によれば、ケラチンフィルムを用い、パーマ剤による毛髪損傷度を様々な手段でばらつきなく評価できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5