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明細書 :新規な部位特異的組換え酵素とその認識配列を用いた部位特異的組換え方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5336592号 (P5336592)
登録日 平成25年8月9日(2013.8.9)
発行日 平成25年11月6日(2013.11.6)
発明の名称または考案の名称 新規な部位特異的組換え酵素とその認識配列を用いた部位特異的組換え方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
C12N   9/12        (2006.01)
C07K  16/40        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
A01K 67/027
C12Q 1/48 Z
C12N 9/12
C07K 16/40
請求項の数または発明の数 14
全頁数 42
出願番号 特願2011-518529 (P2011-518529)
出願日 平成22年6月7日(2010.6.7)
国際出願番号 PCT/JP2010/059620
国際公開番号 WO2010/143606
国際公開日 平成22年12月16日(2010.12.16)
優先権出願番号 2009136830
2009248439
優先日 平成21年6月8日(2009.6.8)
平成21年10月29日(2009.10.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成25年5月17日(2013.5.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
発明者または考案者 【氏名】中山 学
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】野村 英雄
参考文献・文献 "phage integrase family protein [Vibrio sp. 0908].",[online],NCBI,2008年 7月30日,ACCESSION: YP_001595719,[検索日:平成22年8月4日],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?val=161789179&sat=NCBI&satkey=23482244
"Phage integrase family protein.",[online],UniProt,2008年 7月22日,AC: A9M500,[検索日:平成22年8月4日],URL,http://www.uniprot.org/uniprot/A9M500.txt?version=5
SAUER, B. et al.,"DNA recombination with a heterospecific Cre homolog identified from comparison of the pac-c1 regions of P1-related phages.",NUCLEIC ACIDS RES.,2004年11月18日,Vol.32, No.20,P.6086-6095
RAJEEV, L. et al.,"Challenging a paradigm: the role of DNA homology in tyrosine recombinase reactions.",MICROBIOL. MOL. BIOL. REV.,2009年 6月,Vol.73, No.2,P.300-309
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のポリペプチド:
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチド;
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(3)配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド、
から成る部位特異的組換え酵素によって認識される配列であって、配列番号3~5、又は13~15のいずれかに示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1記載の2つのオリゴヌクレオチドの間に標的DNA領域を含むベクター。
【請求項3】
請求項2記載のベクターによって形質転換された細胞。
【請求項4】
幹細胞である、請求項3記載の細胞。
【請求項5】
染色体の標的DNA領域を挟むように請求項1記載の2つのオリゴヌクレオチドが導入された、ヒト以外のターゲッティング動物。
【請求項6】
齧歯類である、請求項5記載のターゲッティング動物。
【請求項7】
請求項5又は6記載のターゲッティング動物、及び、請求項1記載の部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチドが染色体に導入されたヒト以外のトランスジェニック動物の交配によって作製された条件付ノックイン又はノックアウト実験動物。
【請求項8】
齧歯類である、請求項7記載の条件付ノックイン又はノックアウト実験動物。
【請求項9】
標的DNA領域を含むヌクレオチド配列における部位特異的組換え方法であって、
(1)標的DNA領域を挟むように請求項1記載の塩基配列からなる2つのオリゴヌクレオチドを該ヌクレオチド配列に導入し、
(2)該標的DNA領域を請求項1記載の部位特異的組換え酵素と接触させて、該オリゴヌクレオチド部位において部位特異的組換えを生起させる、ことから成る前記方法。
【請求項10】
請求項2記載のベクターが導入された形質転換細胞において生起する、請求項9記載の部位特異的組換え方法。
【請求項11】
請求項7又は8記載の条件付ノックイン又はノックアウト実験動物において行なわれる、請求項10記載の部位特異的組換え方法。
【請求項12】
標的DNA領域が蛋白質又はその一部をコードする、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の部位特異的組換え方法。
【請求項13】
部位特異的な標的DNA領域の欠損、置換、又は逆向きが起こる、請求項9ないし12のいずれか一項に記載の部位特異的組換え方法。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれか一項に記載の部位特異的組換え方法を行なうための部位特異的組換え用キットであって、
(1)請求項1記載の部位特異的組換え酵素又は該酵素をコードするポリヌクレオチド、及び
(2)請求項1記載のオリゴヌクレオチド、を含む該キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な部位特異的組換え酵素とその認識配列を用いた部位特異的組換え方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
部位特異的組換えとは、数百塩基対にも及ぶ長い塩基配列によって起こる相同的組換えとは異なり、特定の短い相同的な塩基配列によってDNAが組換えをする現象である。
【0003】
部位特異的組換え酵素による部位特異的組換えとしては、ファージ由来のCre/loxP系が有名で、大腸菌からマウスまで広く使用されている。
【0004】
Cre酵素はP1ファージ由来の343個のアミノ酸から成る蛋白質でloxP部位と呼ばれる34bpの特異的な塩基配列を認識し、部位特異的組換えを行うことができる。Cre/loxPの特異的組み換えシステムに関しては多くの知見が蓄積されている(特許文献1及び特許文献2)。loxP部位は13塩基、8塩基、及び13塩基の3つの部分に分けることができ、13塩基の配列は相補的なインバーテッドリピート構造となっている一方、8塩基はloxP部位の向きを決める役割を果たす。Lox511やlox2272と呼ばれる変異型のloxPも多く報告されており、変異型のloxP部位を含めて2個のloxPにはさまれたDNA領域の欠損や置換、逆向きにする等の染色体DNA上の遺伝子構造の改変に幅広く利用されている。
【0005】
更に、部位特異的組換え酵素による部位特異的組換えシステムの他の例として、酵母プラスミド2μ由来のFlp/FRT系(非特許文献1)及び腸内細菌ファージD6由来のDre/rox系(特許文献3)を挙げることが出来る。
【0006】
このような部位特異的組換えシステムにおいて、部位特異的組換え酵素を組織特異的、細胞特異的、発現時期特異的、又は誘導型等の各種のプロモーターの制御下で発現させることによって、様々な条件付きノックアウト又はノックイン実験動物を作製することが可能である。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第2721666号公報
【特許文献2】米国特許4959317号明細書
【特許文献3】米国特許7422889号明細書
【0008】

【非特許文献1】Broach JR, Guarascio VR, Jayaram M., Cell, 1982 May, 29(1):227-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
異なる配列を認識する制限酵素がそれぞれ利用価値があるように、異なる特異配列を認識する部位特異的組換え酵素を互いに他と組み合わせることにより、様々な実験系を構成することが可能となる。従って、新たな部位特異的組換え酵素を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく研究の結果、新規の部位特異的組換え酵素とその認識配列を同定し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、以下の各態様に係るものである。
[態様1]
以下のポリペプチドから成る部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチド:
(1)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチド;
(2)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(3)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列と70%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(4)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチドを特異的に認識する抗体によって認識されるポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド。
[態様2]
以下の塩基配列を含むポリヌクレオチド:
(1)配列番号1又は7で示される塩基配列;
(2)塩基配列(1)と相補的な塩基配列から成るポリヌクレオチドとストリンジェントなハイブリダイズする塩基配列であって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列;又は、
(3)塩基配列(1)と70%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列であって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
[態様3]合成ポリヌクレオチドである、請求1又は2記載のポリヌクレオチド。
[態様4]
態様1ないし3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[態様5]
態様4記載のベクターによって形質転換された細胞。
[態様6]
幹細胞である、態様5記載の細胞。
[態様7]
態様1ないし3のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドが染色体に導入された、ヒト以外のトランスジェニック動物。
[態様8]
齧歯類である、態様7記載のトランスジェニック動物。
[態様9]
以下のポリペプチドから成る部位特異的組換え酵素:
(1)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチド;
(2)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(3)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(4)配列番号2又は8に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチドを特異的に認識する抗体によって認識されるポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド。
[態様10]
組換え型酵素である、態様9記載の部位特異的組換え酵素。
[態様11]
態様9又は10記載の部位特異的組換え酵素を特異的に認識する抗体。
[態様12]
態様9又は10記載の部位特異的組換え酵素によって認識される配列であって、以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド:
(1)配列番号3~5、9~11又は13~18のいずれかに示される塩基配列;又は
(2)塩基配列(1)において一個又は数個の塩基が欠失、置換又は挿入された塩基配列。
[態様13]
態様12記載の2つのオリゴヌクレオチドの間に標的DNA領域を含むベクター。
[態様14]
態様13記載のベクターによって形質転換された細胞。
[態様15]
幹細胞である、態様14記載の細胞。
[態様16]
染色体の標的DNA領域を挟むように態様12記載の2つのオリゴヌクレオチドが導入された、ヒト以外のターゲッティング動物。
[態様17]
齧歯類である、態様16記載のターゲッティング動物。
[態様18]
態様7又は8記載のトランスジェニック動物、態様16又は17記載のターゲッティング動物の交配によって作製された条件付ノックイン又はノックアウト実験動物。
[態様19]
齧歯類である、態様18記載の条件付ノックイン又はノックアウト動物。
[態様20]
標的DNA領域を含むヌクレオチド配列において部位特異的組換え方法であって、
(1)標的DNA領域を挟むように態様12記載の塩基配列からなる2つのオリゴヌクレオチドを該ヌクレオチド配列に導入し、
(2)該標的DNA領域を態様9記載の部位特異的組換え酵素と接触させて、該オリゴヌクレオチド部位において部位特異的組換えを生起させる、ことから成る前記方法。
[態様21]
態様4記載のベクター及び態様13記載のベクターが導入された形質転換細胞において生起する、態様20記載の部位特異的組換え方法。
[態様22]
態様18又は19記載の条件付ノックアウト又は実験動物において行なわれる、態様21記載の部位特異的組換え方法。
[態様23]
標的DNA領域が蛋白質又はその一部をコードする、態様21又は22記載の部位特異的組換え方法。
[態様24]
部位特異的な標的DNA領域の欠損、置換、又は逆向きが起こる、態様21ないし23のいずれか一項に記載の部位特異的組換え方法。
[態様25]
態様21ないし24のいずれか一項に記載の部位特異的組換え方法を行なうための部位特異的組換え用キットであって、
(1)態様9記載の部位特異的組換え酵素又は該酵素をコードするポリヌクレオチド、
(2)態様12記載のオリゴヌクレオチド、を含む該キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、新規な部位特異的組換え酵素(VCre蛋白質及びSCre蛋白質)及びそれらの認識配列から成る特異的組換えシステム等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のVCre酵素及びVloxP部位から成る部位特異的組換えシステムの応用例の概要を示す。
【図2】発明のVCre酵素及びVloxP部位から成る部位特異的組換えシステムの応用例の概要を示す。
【図3】本発明のVCre蛋白質(Sbjct)とCre蛋白質(Query)とのアミノ酸配列の比較を示す。
【図4】実施例1においてプロモーター下流に挿入したアミノ酸配列を示す。ここで、下線部(8アミノ酸)は核移行シグナル、及び、四角枠で囲まれた部分はFLAGタグ(抗体認識用ペプチド)を示す。
【図5】本発明のVCre酵素及びVloxP部位から成る部位特異的組換えシステムによる部位特異的組換えの結果を示す電気泳動の写真である。
【図6】本発明のVCre酵素はCre酵素の認識配列であるloxP部位を認識しないことを示す電気泳動の写真である。
【図7】VloxP、VloxM1、及びVloxM2、並びに、loxP及び各種の変異lox部位の塩基配列を比較したものである。
【図8】本発明のSCre酵素及びSloxP部位から成る部位特異的組換えシステムの応用例の概要を示す。
【図9】発明のSCre酵素及びSloxP部位から成る部位特異的組換えシステムの応用例の概要を示す。
【図10】本発明のSCre蛋白質とCre蛋白質とのアミノ酸配列の比較を示す。
【図11】本発明のSCre蛋白質とVCre蛋白質とのアミノ酸配列の比較を示す。
【図12】本発明のSCre酵素は、Cre酵素の認識配列であるloxP部位、又は、VCre酵素の認識配列であるVloxP部位のいずれをも認識しないことを示す電気泳動の写真である。
【図13】本発明のSCre酵素及びSloxP部位から成る部位特異的組換えシステムによる部位特異的組換えの結果を示す電気泳動の写真である。
【図14】SloxP部位及びSlox2272部位の検定用プラスミドの構造を示す。
【図15】本発明のSCre酵素、並びに、SloxP部位及び及びSlox2272部位を含む検定用プラスミドから成る部位特異的組換えシステムによる部位特異的組換えの結果を示す電気泳動の写真である。
【図16】SloxP, loxP, 及びVloxPの塩基配列を比較したものを示す。
【図17】予測した組み換え部位をプロモーターとEGFPの遺伝子の間に2カ所配置したプラスミドを示す。
【図18】VCre発現細胞で組み換え後に大腸菌に導入し、それらの大腸菌コロニーからプラスミドを精製して元のプラスミドと大きさを比較した電気泳動の写真である。
【図19】VCre依存的に発現したEGFPを示す写真である。
【図20】Vlox2272部位を2ヶ所もつ検定用のプラスミドを示す。
【図21】VloxP同士、Vlox2272同士は組み換えを起こし、VloxPとVlox2272が組み換わるものは検出されないことを示す電気泳動の写真である。
【図22】EGFPとDsRedのカセットの両端に2つの変異部位Vlox43 L 及びVlox43Rを配置した検定用のプラスミドの様子を示す。更に、検定用のプラスミドがVCreと同時に導入された細胞はEGFPからDsRedに発現が変わっていること示す写真(下)である。
【図23】EGFPとDsRedのカセットの両端に2つの変異部位SloxV1L及びSloxV1Rを配置した検定用のプラスミドの様子を示す。更に、検定用のプラスミドがVCreと同時に導入された細胞はEGFPからDsRedに発現が変わっていること示す写真(下)である。
【図24】ES細胞のゲノム上に導入したVloxPサイトで組み換えを起こすことができるかを調べた実験の結果を示す。
【図25】大腸菌でのVCreとSCre部位特異的組み換え酵素の発現プラスミドと組み換えテスト用のプラスミドの模式図。
【図26】VCreとCreの大腸菌内での組み換え効率と特異性を示す。
【図27】SCreとCreの大腸菌内での組み換え効率と特異性を示す。
【図28】ClustalW法により並べたCre, VCre, SCreのアミノ酸配列を示す。アスタリスクはアミノ酸が一致していることを示し、「:」は類似アミノ酸を示す。四角で囲まれているアミノ酸はCreの活性中心のアミノ酸を示す。実線の四角はVCreに導入されたアミノ酸変異部位を示している。A-NはCreで明らかになっているアルファへリックスの領域を示す。DNAに接触していると考えられているアミノ酸は上部に丸を描いてある。
【図29】VCreの予想活性中心に変異を導入した場合の組み換え効率を測定した結果を示す。
【図30】VCre/VloxPシステムを用いたRMCEの模式図。
【図31】VCre/VloxPシステムを用いたRMCEの解析の結果を示す電気泳動の写真(1:コントロールのRMCE反応前のプラスミド。2~11:RMCE反応後の各プラスミド)。
【図32】VCre/VloxPシステムを用いるBAC改変の模式図。
【図33】VCre/VloxPシステムによるBAC改変の結果を示す電気泳動の写真である。
【図34】発明のVCre/VloxPシステム及びSCre/SloxPシステムを利用した応用例の概要を示す。
【図35】発明のVCre/VloxPシステム及びSCre/SloxPシステムを利用した応用例の概要を示す。
【図36】発明のVCre/VloxPシステム及びSCre/SloxPシステムを利用した応用例の概要を示す。
【図37】発明のVCre/VloxPシステム及びSCre/SloxPシステムを利用した応用例の概要を示す。
【図38】発明のVCre/VloxPシステム及びSCre/SloxPシステムを利用した応用例の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の部位特異的組換え酵素(VCre蛋白質又はSCre蛋白質)は、Cre蛋白質の認識部位であるloxP部位とは異なる塩基配列から成るオリゴヌクレオチドを認識し、以下のポリペプチドからなる。
(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列(380個のアミノ酸)又は配列番号8に示されるアミノ酸配列(371個のアミノ酸)から成るポリペプチド;
(2)配列番号2又は配列番号8に示されるアミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が、欠失、置換又は挿入されたアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(3)配列番号2又は配列番号8に示されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列から成るポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド;又は、
(4)配列番号2又は配列番号8に示されるアミノ酸配列から成るポリペプチドを特異的に認識する抗体によって認識されるポリペプチドであって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチド。

【0015】
上記の(2)~(4)に記載されたポリペプチドは配列番号2又は配列番号8で示される本発明の部位特異的組換え酵素蛋白質の変異体(以下、これら変異体も含めて、「部位特異的組換え酵素」ともいう)であり、例えば、以下の配列番号1又は配列番号7に示される塩基配列に基づき、当業者に公知の任意の方法、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作成することが可能である。

【0016】
尚、上記の部位特異的組換え酵素のペプチドを適当な場所で分断し、不活性な2個の蛋白質とそれら再構成され活性を持つようになるスプリット蛋白質ができることは当事者であれば推定できる。

【0017】
上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの好適例は以下の塩基配列を含むものである。
(1)配列番号1又は配列番号7で示される塩基配列;
(2)塩基配列(1)と相補的な塩基配列から成るポリヌクレオチドとストリンジェントなハイブリダイズする塩基配列であって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列;又は、
(3)塩基配列(1)と70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列であって、(1)のポリペプチドの部位特異的組換え酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列。

【0018】
ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab. Press,2001)又はCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)等の当業者に公知の文献に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。

【0019】
本明細書において、ポリヌクレオチド間のハイブリダイズに際しての「ストリンジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。従って、「ストリンジェントな条件下」とは、具体的には、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度150~900mM、好ましくは600~900mM、pH6~8であるような条件を挙げることが出来る。

【0020】
尚、配列番号1又は配列番号7に示されたコード領域を含むポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で、70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上である塩基配列を含有するポリヌクレオチド等を挙げることができる。

【0021】
本発明のポリヌクレオチド(配列番号1)はビブリオ菌プラスミドp0908中に含まれる機能未知の遺伝子(配列番号6)に由来するものである(Hazen et al., Appl. Environ. Microboil., Dec. 2007, p.7703-7710)。又、本発明のポリヌクレオチド(配列番号7)は低温菌であるシュワネラ菌のプラスミドであるShewanella sp. ANA-3 plasmid 1中に含まれる機能未知の遺伝子(配列番号12)に由来するものである(LOCUS CP000470, 278942bp DNA circular BCT 29-NOV-2007 DEFINITION Shewanella sp. ANA-3 plasmid 1, complete sequence. ACCESSION CP000470 AALH01000000 AALH01000001-AALH01000116)。該ポリヌクレオチドは本明細書に記載された配列情報等に基づき作成可能な適当なプローブ又はプライマーPCRを用いて、コロニーハイブリダイズにより取得したり、プライマーPCRにより増幅して調製することが出来る。尚、PCRは、例えば、サーマルサイクラーとしてPerkin Elmer社製9600など一般のサーマルサイクラー、及び、耐熱性DNAポリメラーゼとしては、ExTaq DNA Polymerase(宝酒造製)などの一般の市販品を用いて当業者に公知の適当な反応条件を適宜選択して実施することができる。

【0022】
従って、このような菌株から調製されたポリヌクレオチドは、ゲノムDNA又はそのmRNAからの逆転写によって調製されたcDNAであり得る。

【0023】
更に、本発明のポリヌクレオチドは人工遺伝子として当業者に公知の任意の方法で合成することもできる。例えば、配列番号1又は配列番号7で示される塩基配列を含む本発明のポリヌクレオチドは、本明細書の実施例に記載されているように、上記のビブリオ菌プラスミドp0908又はシュワネラ菌のプラスミドであるShewanella sp. ANA-3 plasmid 1中に含まれている遺伝子の塩基配列(配列番号6又は配列番号12)に基づき、コドン使用頻度をマウスやヒトの哺乳類型に変更し、かつ遺伝子中から発現抑制に関与すると考えられているCpG配列を除いて人工的にデザインし合成した塩基配列である。

【0024】
尚、塩基配列間及びアミノ酸配列間の相同性(同一性)は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268,1990及びProc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877,1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブ部位において利用可能である。

【0025】
本発明の部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターはプラスミド又はウイルス性ベクター等の当業者に公知の任意の形態であり、当業者に公知の任意の方法で容易に調製することが出来る。こうして得られたベクターには、本発明の部位特異的組換え酵素のコード領域以外に、5’および3’に非コード配列(核移行シグナル、タグ配列、非転写配列、非翻訳配列、プロモーター、エンハンサー、サプレッサー、転写因子結合配列、スプライシング配列、ポリA付加配列、IRES、mRNA安定化・不安定化配列等を含む)が適宜含まれており、発現ベクターとして機能する。

【0026】
ここで、部位特異的組換え酵素は組織特異的、細胞特異的、発現時期特異的、又は誘導型等の各種のプロモーターの制御下で発現させることができる。

【0027】
このようなベクターを用いた当業者に公知の任意の方法、例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、並びに、エレクトロポレーション及びパーティクルガン等の各種物理的方法によって、適当な宿主細胞を容易に形質転換させることが出来る。

【0028】
宿主細胞に特に制限はなく、例えば、ヒト、サル及びマウス等を含む哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、及び、大腸菌等の細菌類を用いることができる。こうして作製された形質転換細胞は当業者に公知の任意の条件で培養し、培養した菌体又はその培養上清等の適当な画分から目的とする本発明の部位特異的組換え酵素を組換え型酵素として容易に調製することが出来る。

【0029】
従って、本発明は、こうして調製された部位特異的組換え酵素を特異的に認識する抗体にも係るものである。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、Fab断片抗体、及びFab’断片抗体等の当業者に公知の任意の形態を有するものを挙げることが出来る。これらは当業者に公知の任意の方法によって容易に製造することができる。

【0030】
更に、宿主細胞として、受精卵、胚性幹細胞(ES細胞)、各種組織性幹細胞、及び、人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cell; iPS)等の様々な種類の未分化の多能性細胞を挙げることが出来る。

【0031】
本発明の部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、マイクロインジェクション等の当業者に公知の任意の方法によってマウス等の齧歯類である実験動物である宿主動物の受精卵に導入した後、仮親の子宮に移植して、該酵素を発現するトランスジェニック動物を作製することが出来る。

【0032】
本発明の部位特異的組換え酵素は、以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(認識配列:VloxP部位又はSloxP部位)を認識して部位特異的組換えを起こす活性を有する。
(1)配列番号3~5、9~11又は13~18のいずれかに示される塩基配列;又は
(2)塩基配列(1)において一個又は数個の塩基が欠失、置換又は挿入された塩基配列。

【0033】
上記の認識配列は、Cre酵素に対するloxP部位と同様に、13塩基、8塩基、及び13塩基の3つの部分を有しており、13塩基の配列は相補的なインバーテッドリピート構造となっていることが好ましく、一方、8塩基は認識配列の向きを決める役割を果たしていると考えられる。

【0034】
具体的には例えば、当業者であれば、Cre/loxPシステムの変異lox部位である、lox511, lox2272, lox2372, lox66、及びlox71に準じて容易に変異VloxP部位又は変異SloxP部位を作製し、部位特異的なDNAの欠損、置換、逆向きにするシステムを構築することができる。従って、このような変異VloxP部位又は変異SloxP部位においては13塩基の配列は必ずしも相補的なインバーテッドリピート構造となっている必要はない。本発明の認識配列の具体例として、実施例に示された配列番号3~5、9~11、又は13~18に示される塩基配列を挙げることが出来る。

【0035】
従って、上記の適当なベクター内に、少なくとも2つのこのようなオリゴヌクレオチド(認識配列)で挟まれる標的DNA領域を有するベクターを作製し、該ベクターを用いて上記の適当な宿主細胞を形質転換して、少なくとも2つの認識配列に挟まれた標的DNA領域が、例えば、細胞質内に導入された該ベクター又は染色体DNA内に導入された形質転換細胞を得ることができる。このような宿主細胞に特に制限はなく、例えば、ヒト、サル及びマウス等を含む哺乳動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、及び、大腸菌等の細菌類を用いることができる。

【0036】
更に、このような2つのオリゴヌクレオチドの間に標的DNA領域を含むベクターに加えて、上記の部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチドを有するベクターが同じ宿主細胞に導入され、これらによって二重に形質転換された形質転換細胞も本発明に含まれる。このような形質転換細胞においては、部位特異的組換え酵素が特定の条件下で発現すると、部位特異的組換え反応が起こり標的DNA領域を特異的に除去することができる。

【0037】
本発明の少なくとも2つの認識配列で挟まれた標的DNA領域を当業者に公知の遺伝子ターゲッティングによって、例えば、ES細胞に導入してキメラ動物を得、更に、これと野生型動物を交配することによって、該認識配列で挟まれた標的DNA領域が導入された、例えば、マウス等の齧歯類であるターゲッティング動物を作製することが出来る。

【0038】
以上の部位特異的組換え酵素及び該酵素の認識配列から成る部位特異的組換えシステムにおいて、部位特異的組換え酵素を組織特異的、細胞特異的、発現時期特異的、又は誘導型等の各種のプロモーターの制御下で発現させるトランスジェニック動物及びターゲッティング動物を交配することによって、例えば、マウス等の齧歯類である、様々な条件付きノックアウト又はノックイン実験動物を作製することが可能である。

【0039】
従って、本発明は、標的DNA領域を含むヌクレオチド配列における部位特異的組換え方法であって、
(1)本発明の部位特異的組換え酵素の認識配列である塩基配列からなる2つのオリゴヌクレオチドを標的DNA領域を挟むように該ヌクレオチド配列に導入し、
(2)該標的DNA領域を本発明の部位特異的組換え酵素と接触させて、該オリゴヌクレオチド部位において部位特異的組換えを生起させる、ことから成る前記方法に係る。

【0040】
この方法は、2つの認識配列の間に標的DNA領域を含むベクターに加えて、部位特異的組換え酵素をコードするポリヌクレオチドを有するベクターが導入されて二重に形質転換された上記の形質転換細胞、又は、上記の条件付きノックアウト又はノックイン実験動物内において行なうことが可能である。

【0041】
既に記載したように、部位特異的組換え酵素の認識配列の向き、又は、変異VloxP部位又は変異SloxP部位等を用いることにより、標的DNA領域の欠損、置換、及び逆向きを部位特異的に行うことが出来る。

【0042】
更に、部位特異的組換え用キットであって、
(1)本発明の部位特異的組換え酵素又は該酵素をコードするポリヌクレオチド、及び、
(2)該酵素の認識配列であるオリゴヌクレオチド、を含む該キットも本発明に含まれる。尚、上記のポリヌクレオチド及び/又はオリゴヌクレオチドは適当なベクター等に挿入された形態でキットに含まれていても良い。

【0043】
係るキットには、その構成・使用目的などに応じて、更に当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、本発明の部位特異的組換え酵素に対する抗体、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等を適宜含むことが出来る。

【0044】
既に記載したように、細胞特異的発現のプロモーターと組み合わせることにより、細胞特異的で部位特異的な遺伝子改変を行うことができる。例えば、A細胞とB細胞で発現するプロモーターの下でCre蛋白質を発現させ、B細胞とC細胞で発現するプロモーターのもとで本発明の部位特異的組換え酵素を発現させるようにする。このシステムを用いて、Cre蛋白質が存在しているときにだけ本発明の部位特異的組換え酵素が正常な蛋白質ができるようしておくと、最終的にB細胞だけで本発明の部位特異的組換え酵素の組み換えを生じさせることができる。

【0045】
更に、以下に本発明に係る部位特異的組換え酵素及び該酵素の認識配列から成る部位特異的組換えシステムの応用例を挙げ、これらの概要を図1、図2、図8及び図9、更に、図34~38に示す。

【0046】
A ウイルスベクターと同時に使用
コンデショナルノックアウトを作製するために、2種類の部位特異的組み換え酵素を用いることが通常であるが、ウイルスベクターで導入する場合にもう1種類必要になる。例えば、ヘルパー依存型アデノウイルスベクターやレトロウイルスはパッケージングやウイルスゲノムへ移すためにCre/loxPのシステムが既に使用されているが、本発明の部位特異的組換えシステムも同様に使用することができる。

【0047】
B 一つの遺伝子の2本の染色体のそれぞれをコンデショナルノックアウト
ヒト細胞を扱う場合に、マウスのように交配はできないので2本の染色体をそれぞれ改変する必要が生じる。同じ遺伝子の片側のアレルをそれぞれにコンデショナルノックアウトする場合に使用できる。片側のアレルに突然変異をノックインすることにより、突然変異の効果を調べることも可能となる。

【0048】
C ダブルコンデショナルノックアウト
遺伝子のファミリーが存在する場合、1つの遺伝子の欠損では効果の出ないことがある。その場合に2つの遺伝子を欠損させることにより遺伝子機能を調べる方法が行われる。このような場合にそれぞれの遺伝子を別の部位特異的組み換え酵素の認識部位でははさむと、片方ずつ順番に欠損させることができる。遺伝子重複により遺伝子ファミリーが生じた場合、遺伝子が近傍に存在することが多いので特に複数種類の組み換え部位を用いられることは有効である。

【0049】
D RMCE法とコンデショナルKOとの組み合わせ
変異の入ったエクソンをハイスループットで導入するためにRMCE法を用いる一方、もう片側のアレルはコンデショナルノックアウトにする。このようなシステムにすることで、片側のアレルをコンデショナルにノックアウトを行い、もう片側のアレルの変異の効果を調べることができる。

【0050】
E スプライシングのアクセプターをもつ発現カセットを順次使用するシステム
スプライシングのアクセプターをもつ4種類の発現を並べて、必要に応じて組み換え反応で取り除くことができる。スプライシングドナー部位に最も近いスプライシングアクセプター部位が使用されることから、カセットA,B,C,Dを組み換え酵素依存的に発現させることができる。例えば、このシステムを用いると4種類の突然変異を順次発現させることができる。

【0051】
F タグの交換
蛋白質のC末端部分のタグを順次変えることができる。薬剤抵抗性遺伝子、蛍光蛋白質、酵素などのタグを組み換え酵素依存的に入れ換えることができる。

【0052】
G BACやプラスミドのモノマー化
Red/ET組み換え法を用いた時にBACやプラスミドがヘテロなマルチマーになってしまうことが知られている。部位特異的な組み換え酵素を用いて、モノマーに変換することができる。

【0053】
H 2種類のプロモーターを用いてCre発現の細胞特異性を高める
特異性をコンデショナルノックアウトは細胞特異的なプロモーター制御下のCre蛋白質と組み合わせて行うことが多い。2段階でCre蛋白質が発現するようにすることによりプロモーターAとプロモーターBの両方で働く細胞のみでCre蛋白質を発現させることができる。

【0054】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、以下の実施例における各遺伝子操作の手段・条件等は、特に断わりがない限り、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている、当業者に公知の標準的な遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い実施することが出来る。又、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示、及び、内容の一部を構成するものである。
【実施例1】
【0055】
Cre蛋白質のアミノ酸配列を用いて、公共のDNAデータベース(Genbank/EMBL/DDBJ)に対してBlastプログラムを用いて相同性検索を行った結果、98%以上の相同性を示すごく近縁のファージ由来の蛋白質の他に、30%程度の弱い相同性を示す蛋白質が見出された。その中の1つは塩堆積物中で見つかったビブリオ菌のプラスミドであるp0908上に存在し、該遺伝子がコードする該蛋白質をVCre蛋白質と名づけた。このVCre蛋白質はCre蛋白質とは29%の相同性を示した(図3)。尚、VCre蛋白質のアミノ酸配列を配列番号2で示す。
【実施例1】
【0056】
部位特異的組換え酵素システムを実行するにあたり、もうひとつ重要なことはこの推定上の組み換え酵素が認識する特異的な塩基配列を決定することである。本発明のVCre蛋白質とCre蛋白質との相同性は29%と低いことから考えて、認識配列も類似性が低いと推測できる。loxP部位が13塩基、8塩基、13塩基の3つの部分に分かれていることから、このような構造をとりうる配列をp0908で予測した。その結果、配列番号5で示される塩基配列を見出し、これを「VloxP部位」と名づけた。VCre蛋白質が新規部位特異的組換え酵素であり、その認識配列がVloxPであることを証明するために、コドンユーセージをマウスやヒトの哺乳類型に変更し、かつ遺伝子中から発現抑制に関与すると考えられているCpG配列を除いたものを人工遺伝子(配列番号1)として合成し、更に、VCre蛋白質のN末端部分に核移行シグナル等を付加し、ヒトHEK293細胞で発現するプロモーター(CAGプロモーター)の下に挿入した。尚、このプロモーター下流に挿入したアミノ酸配列を図4に示す。
【実施例1】
【0057】
一方、VloxP部位を完全なインバーテッドリピート構造とするために、VloxPとそれぞれ一塩基の変異を導入したVloxM1(配列番号3)とVloxM2(配列番号4)を認識配列として検定するためのプラスミドとして、これらの配列を約1kbpの塩基配列の両端に配置したプラスミドを作製した。VCre蛋白質を発現する上記のプラスミドと2個のVloxPを含む検定用のプラスミドを同時にヒトHEK293細胞へFugene6を用いて形質転換し、1日後に細胞からDNAを抽出した。検定用のプラスミドDNAを大腸菌に形質転換することにより回収し、電気泳動によりサイズを比較した(図5)。レーン1は現時点で3種類のVloxの中で組み換え効率が良いと予備的な結果が得られたVloxM1を含む検定用のプラスミドを用いた結果を示している。図5から、VCre蛋白質で欠損させていないレーン2のプラスミドのサイズより約1kbp短くなっていることが明らかである。このプラスミドのVloxM1付近をDNAシーケンサーで塩基配列を決定した結果、予想通りにVloxM1部位で部位特異的に組み変わっていることが明らかになった。
【実施例2】
【0058】
更に、認識配列であるVloxP, VloxM1, VloxM2又はloxP部位を夫々2個持っている検定用のプラスミドと、VCre酵素又はCre酵素を発現させるプラスミドを組み合わせて、実施例1と同様に同時にヒト HEK293に導入後、一日経った時点でDNAを回収し、夫々の認識配列の外側に位置するプラ イマーでPCRを行なった。その結果、VCreとVloxP, VloxM1又はVloxM2 、及び、 CreとloxPのみで(矢印のように)明確な短いバンドが検出できた(図6)。これは、これらの間でのみ、部位特異的な組み換えが起こったことを意味しており、本発明のVCre酵素はCre酵素の認識配列であるloxP部位は認識しないことが確認された。
【実施例2】
【0059】
尚、VloxP, VloxM1, 及びVloxM2、並びに、loxP及び各種の変異lox部位の塩基配列を図7に示す。
【実施例3】
【0060】
Cre蛋白質のアミノ酸配列を用いて、公共のDNAデーターベース(Genbank/EMBL/DDBJ)に対してBlastプログラムを用いて相同性検索を行った結果、98%以上の相同性を示すごく近縁のファージ由来の蛋白質の他に、30%程度の弱い相同性を示す蛋白質が見出された。その中の1つは塩堆積物中で見つかった低温菌であるシュワネラ菌のプラスミドであるShewanella sp. ANA-3 plasmid 1上に存在し、該遺伝子がコードする該蛋白質をSCre蛋白質と名づけた。尚、SCre蛋白質のアミノ酸配列を配列番号8で示す。このSCre蛋白質はCre蛋白質とは31%の相同性を示した(図10)。又、SCre蛋白質はVCre蛋白質とは40%の相同性を示した(図11)。
【実施例3】
【0061】
部位特異的組換え酵素システムを実行するにあたり、もうひとつ重要なことはこの推定上の組み換え酵素が認識する特異的な塩基配列を決定することである。本発明のSCre蛋白質とCre蛋白質との相同性は31%と低いことから考えて、認識配列も類似性が低いと推測できる。loxP部位が13塩基、8塩基、13塩基の3つの部分に分かれていることから、このような構造をとりうる配列を上記のシュワネラ菌のプラスミドであるShewanella sp. ANA-3 plasmid 1中で予測した。その結果、配列番号5で示される塩基配列を見出し、これを「SloxC2部位(40塩基)」と名づけた。更に、元のプラスミドに含まれているSloxC2の配列の両末端から夫々3塩基を除いたものがSloxP部位(配列番号9:34塩基)、及び、SloxP配列の中央に含まれる8塩基の中の2塩基を変異させたSlox2272部位(配列番号10)を作製した。
【実施例3】
【0062】
まず、新規部位特異的組換え酵素であるSCre蛋白質と、上記のCre蛋白質及びVCre蛋白質との間の反応特異性(交差反応の有無)に関して検討した。
上記のSCre蛋白質のコドンユーセージをマウスやヒトの哺乳類型に変更し、かつ遺伝子中から発現抑制に関与すると考えられているCpG配列を除いたものを人工遺伝子(配列番号1)として合成し、更に、SCre蛋白質のN末端部分に核移行シグナル(MVPKKKRK)及び抗体認識用FLAGタグ(DYKDDDK)を付加し、ヒトHEK293細胞で発現するプロモーター(CAGプロモーター)の下に挿入した。同様にしてCre蛋白質及びVCre蛋白質を夫々発現するプラスミドを作成した。
【実施例3】
【0063】
一方、SloxP部位、loxP部位、及びVloxP部位を夫々認識配列として検定するためのプラスミドとして、これらの配列を約1kbpの塩基配列の両端に配置したプラスミドを作製した。以上の各部位特異的組換え酵素蛋白質を発現する上記のプラスミドと夫々2個の各認識配列を含む検定用のプラスミドを同時にヒトHEK293細胞へFugene6を用いて形質転換し、1日後に細胞からDNAを回収し、夫々の認識配列の外側に位置するプラ イマーでPCRを行なった。この結果、その結果、SCreとSloxPのみで(矢印のように)明確な短いバンドが検出でき、SCre蛋白質は、Cre/loxP系又は Vcre/VloxP系のいずれの部位特異的組換え系とも交差反応を起こさないことが確認された(図12)。
【実施例3】
【0064】
更に、検定用のプラスミドDNAを形質転換した大腸菌から抽出し、電気泳動によりサイズを比較した結果、SCreを作用させた場合(レーン2)では、作用させない場合(レーン1)と比べて検定用プラスミドのサイズが予想通り小さくなったことが確認された(図13)。
【実施例4】
【0065】
次に、SloxP部位及びSlox2272部位を認識配列として検定するためのプラスミドとして、Bsd (ブラストサイジンS不活化酵素)、EGFP(変異型GFP)及び Cm(クロラムフェニコールアセチルトランセフェラーゼ)の各遺伝子を各2か所のSloxP部位及びSlox2272部位で挟むようなに配置した検定用のプラスミドを作製した(図14)。SCre蛋白質を発現する上記のプラスミドとこの検定用のプラスミドを同時にヒトHEK293細胞へFugene6を用いて形質転換し、1日後に細胞からDNAを抽出した。検定用のプラスミドDNAを大腸菌に形質転換することにより回収し、電気泳動によりサイズを比較した(図15)。レーン1は検定用のプラスミドのみを形質転換した場合、レーン2~4は夫々、独立した大腸菌コロニーから精製したプラスミドを用いた結果を示している。図15から、SCre蛋白質によって、SloxP部位同士及びSlox2272部位同士では部位特異的組み換えが起こるが、SloxP部位及びSlox2272部位の間では部位特異的組み換えが起こらないことが明らかとなった。
【実施例4】
【0066】
尚、SloxP, SloxC2, Slox2272, loxP, 及びVloxPの塩基配列を比較したものを図16に示す。ここで、比較した2つの塩基配列の間で同じ塩基は下線で示し、又、相補的になっていない塩基はボールド(太い字体)で示した。
【実施例5】
【0067】
更に、VCre/VloxP系に関する追加の実験を行った。
まず、予測した組み換え部位をプロモーターとEGFPの遺伝子の間に2カ所配置したプラスミドを作製した(図17)。この組み換え部位の間にはストップコドンとポリA付加部位があり、VloxP部位で組み換えが起きると、ストップカセットがぬけてEGFPが発現する。これを用いて、実施例1と同様に、ヒトHEK293細胞に導入して、1日後の細胞からDNAを回収して、組み換えが起こっているかどうかを調べた。
【実施例5】
【0068】
回収したDNAを大腸菌に形質転換した後、コロニーからプラスミドを精製して元のプラスミドと大きさを比較した(図18)。この結果、VloxP部位で組み換わって、サイズが小さくなっているのがわかる。更にこのプラスミドのVloxP付近をシーケンスで調べてみると、VloxPの部分で組み換えが行われていることが確認できた。更に、予想通りにVCre依存的にEGFPの発現が観察された(図19)。
【実施例6】
【0069】
Cre/loxP系は、色々な変異部位があることで利便性が向上している。そこで、今回の VCre/VloxPシステムでも更に変異型の認識配列を同定することを試みた。loxP部位の有用な変異部位の一つにlox2272がある。この変異部位はコアの8塩基の2ヶ所に変異が導入されており、lox2272同士では組み換えが起きるが、loxPとlox2272の間では組み換えは起きないことが知られている。lox2272で塩基を置換している部分は偶然にもloxPとVloxPでは共通している。そこでこのように変化させたものをVlox2272(配列番号13)と名付けて変異部位として使用できるかどうかを確認した。
【実施例6】
【0070】
即ち、この部分にVlox2272部位を2ヶ所もつ検定用のプラスミド(図20)を作製し、実施例1と同様にVCreで反応をさせてみるとVloxP同士、Vlox2272同士は組み換えを起こし、このようなタイプは検出されるが、VloxPとVlox2272が組み換わるものは検出されないことがわかった(図21)。この結果から、Vlox2272はlox2272と同様のことができる変異部位であることが明らかになった。
【実施例6】
【0071】

更に、lox66/lox71タイプの変異部位を同定することを試みた。このタイプの変異部位は向かい合った認識部位で反転するが、一度反転すると2重の変異部位ができてしまい、再度反転する効率は著しく下がることが知られている。外側の5塩基がランダムな配列になるようにしたオリゴを用いて、ランダムライブラリーから望ましい変異部位を下記のようにスクリーニングした。外側の5塩基にランダム塩基を含んだ認識部位の間にカナマイシン抵抗性遺伝子を逆向きに配置し、VCre発現プラスミドと同時に実施例1と同様に細胞に導入した後に、プラスミドを回収して大腸菌に形質転換して、カナマイシン抵抗性遺伝子が反転してGSTと融合し、カナマイシン抵抗性を示すプラスミドを選択した。得られたプラスミドのシーケンスを行い配列を確認した。次に、再度反転しにくいクローンを選ぶために、こうして選択したカナマイシン抵抗性プラスミドを何個か混ぜてもう一度VCre発現プラスミドと同時に導入した。再度反転したものはカナマイシン感受性になるため、このようにしてスクリーニングしたクローンをシーケンスして反転しにくい配列を選んだ。
【実施例6】
【0072】
その結果、2つの変異部位Vlox43R(配列番号14)及びVlox43 L(配列番号15)が選択された。これらが反転することを確認するために、EGFPとDsRedのカセットの両端に変異部位を配置した(図22)。この部分のカセットが反転すると発現がEGFPからDsRedに換わることが期待される。VCre発現プラスミドとVlox43Lと Vlox43Rを含む検定用のプラスミドを実施例1と同様に同時にHEK293細胞に発現させた。図22に示すパネルaとb、cとdは同視野の写真であり、検定用のプラスミドがVCreと同時に導入された細胞はEGFPからDsRedに発現が変わっていることが明確に示されている。
【実施例7】
【0073】
同様に、SloxP部位に関してもlox66/lox71タイプの変異部位を同定した。SloxPの場合は、 Vlox43L及びVlox43Rの時のようなスクリーニングを行わずlox66とlox71の配列に導入されている塩基置換と似た変異を導入した。反転することを確認するために、EGFPとDsRedのカセットの両端に変異サイトを配置した(図23)。この部分のカセットが反転すると発現がEGFPからDsRedに換わることが期待される。SCre発現プラスミドとSloxV1R(配列番号16)及びSloxV1L(配列番号17)を含む検定用のプラスミドを実施例1と同様に同時にHEK293細胞に発現させた。図23に示すパネルaとb、cとdは同視野の写真であり、検定用のプラスミドがSCreと同時に導入された細胞はEGFPからDsRedに発現が変わっていることが明確に示されている。
【実施例7】
【0074】
以上のVCre/VloxP系及びSCre/SloxP系における変異部位(下線が変異箇所を示す)の代表例の塩基配列を以下の表1に示す。又、VCre及びSCre蛋白質の間のアミノ酸配列の比較を表2に示す。
【実施例7】
【0075】
【表1】
JP0005336592B2_000002t.gif

【実施例7】
【0076】
【表2】
JP0005336592B2_000003t.gif
【実施例8】
【0077】
更に、ES細胞のゲノム上に導入したVloxPサイトは組み換えを起こすことができるかを調べた(図24)。loxPサイトとlox2272サイトを用いたRMCE法でLin28発現マウスES細胞の片側の染色体のC末端のEGFPタグをDsRedタグと交換した。蛍光顕微鏡によって、細胞内のEGFPの分布(B,b,e)及びDsRedの分布(B,c,f)を示した(スケールバー10μm)。更にもう片側の染色体のLin28遺伝子のエクソン3をVloxPサイト挟んだES細胞を作製した (C)。エレクトロポレーション法でVCre発現プラスミドを導入し、シングルコロニー化したES細胞をPCRで検定した。PCR分析(D)、サザンハイブリダイゼーション(E)及びイムノブロット(F)の結果から、VloxPで挟まれた部分が欠損され、断片が短くなっていることと、その結果として 内在性のLin28蛋白質が消失したことがわかる。
【実施例9】
【0078】
更に、大腸菌でもVCre/VloxPとSCre/SloxPが使用できるかどうかを確認し、変異タンパク質の効率を測定した。更に、BAC改変にも利用できるかどうかを調べた。
【実施例9】
【0079】
heat shockで誘導ができ、32度でプラスミドが維持できるが37度でプラスミドが不安定になりプラスミドを除去できるpSIMシステムのプラスミドにVCreとSCreを導入し、発現をさせた。VCreとSCre のDNAは各菌のプラスミドのオリジナルなものではなく、実施例1及び実施例3で作製したマウスとヒトのコドン使用頻度に最適化したDNAを用いた。BACや高コピーのプラスミドと共存できるように、ori101のオリジンを使用した。このプラスミドは温度感受性のオリジンであり、熱ショックにより除去することができる。また、温度感受性のcI857のリプレッサーにより制御されており、42度で発現誘導がかかる。
【実施例9】
【0080】
図25で示すように、カナマイシン抵抗性のプラスミド上にアンピシリン抵抗性の遺伝子をVloxPサイトではさみ、同じプラスミド上でクロラムフェニコール抵抗性の遺伝子の両端にloxPサイトを挟んだプラスミドを42℃で15分間の誘導後にエレクトロポレーション法で形質転換し、2時間のインキュベート後に各薬剤耐性のプレートにまき、翌日コロニーの増殖の有無を調べた。さらに、確認するためにカナマイシンプレートのコロニーをランダムに100個選び、アンピシリンとクロラムフェニコールのプレートで育てた。
【実施例9】
【0081】
その結果、アンピシリンのプレートではVCreを発現させた大腸菌は生えてこないが、Cmではすべて生えてくることから、VloxPサイトでは組み換えが起こるがloxPサイトでは全く組み換えが起こらなかったが確認された(図26)。又、VCreではほぼ99%組み換えが起こったプラスミドのシーケンスを確認してみると、同じ向きに並べた2個のVloxP間で期待通りに正確に組み換えが起こっていることが明らかになった。一方、VCre等の組み換え酵素を発現しない空ベクターでは全く組み換えが起こらなかった。このように、BAC等を含めたプラスミドで部位特異的な組み換えを起こさせる便利なプラスミドを作製した。
【実施例9】
【0082】
SCreも同様に大腸菌内で活性を示すことが明らかになった(図27)。今回は13ベースのインバーティッドリピートをパーファクトマッチに戻したSloxM1を用いた。99%は組み換わっていた。シーケンスでも確認ができた。
【実施例9】
【0083】
CreとSCreとCreのアミノ酸配列を比較してみると、30%程度しか相同性がないにも関わらず、Creで活性中心と考えられているアミノ酸は良く一致していた(図28)。3次元予測の結果もCreの構造と一致していた。そこで、VCre酵素もCreと同様のアミノ酸を用いて活性中心を作り出しているかどうかを調べるために、VCreの変異の効果を調べた。
【実施例9】
【0084】
Flpの変異実験の結果から認識サイトのDNAにニックを入れ、ニックの部位でDNAとタンパク質の結合が起こるが、その後の組み換えの反応が起こらない変異が知られている。Cre, VCre, SCreの相同性は非常に低いが一部分で似ている部分が存在するのであるが、Flpの上記の変異の部位はこの相同領域に存在する。そこで、Creから推定される活性中心のチロシン残基とFlpから推定されるヒスチジン残基の変異がVCreでも同様の効果があるかを知るためにH314LとY349Fの変異を導入し、組み換えの活性を調べた。H314LとY349FともにVloxPで組み換えを起こす活性は見いだせなかった(図29)。Creから推定された活性中心の変異(Y349F)と Flpから推定された認識サイトでニックを入れDNAと共有結合したまま離れない変異(H314L)がVCreでも同様の変異体であることが明らかになった。以上のことから、Creと構造的にも良く似た酵素であることが明らかになった。
【実施例10】
【0085】
loxPの変異と同様の効果があるVloxPとSloxPサイトの変異を見出している。その中の一つのVlox2272はVlox2272同士では組み換えが起きるが、Vlox2272とVloxPとの間では組み換えが起きない。このことを利用して、RMCE法をできるかどうかを確認してみた。
【実施例10】
【0086】
VCre発現大腸菌にpVloxP-Bsn-VloxP-Vlox2272-Cm-Vlox2272のプラスミドとVloxP-amp-Vlox2272のカセットを形質転換した結果(図30)、amp耐性の大腸菌が得られた。得られたプラスミドをシングルサイトであるSnaBIで切断後、電気泳動を行った(図31)。シーケンスの結果から正しく組み変っていることがわかった。その結果、RMCE法でカセットは導入できることが明らかになった。更に精製VCre蛋白質を用いても組み換えが起こることが明らかになった。このように、大腸菌の中でRMCE法により、プラスミドとカセットのVloxP間の組み換えが起こり、カセット導入が可能であることが明らかになった。
【実施例10】
【0087】
VloxPとVlox2272が2ヶ所あることから、6816bp, 6029bp, 5707bp、4920bpとなる可能性があるが、シーケンスの結果よりすべて小さいタイプであることが確認された。このことは例え最初に内側のVloxPサイトやVlox2272サイトに挿入されたとしても、2回目のVloxP同士やVlox2272同士の組み換えが起こり、最終的には最も短い形になるものと思われる。大腸菌のヒートショックのこの系はタンパク質の誘導とオリ101の不安定化が同時に起こるので、一過的にVCreタンパク質が誘導されて、タンパク質の一回のターンオーバーと大腸菌の分裂によるタンパク濃度の希釈される短い時間の間に複数回の部位特異的な組み換えが起こるのだと考えられる。
【実施例11】
【0088】
次にBACの改変には制限酵素サイトを用いないRed組み換えシステムをしばしば使用するが、導入した薬剤カセットを除去する用途のためにVCre/VloxPシステムを使用できることを確認した。
pBACe3.6は非常によく使われるBACであるがloxPサイトとlox511サイトをベクター内に持っている。NanogはiPS化の指標として用いられる遺伝子であり、Nanogプロモーターの制御下でマーカー蛋白質や薬剤耐性マーカーを発現させて、iPS化のマーカーとして使用する用途がある。このことからヒトゲノムDNAを含むBACを改変して、Nanogの開始ATGの直下にピューロマイシン抵抗性遺伝子をRed組み換えを用いて改変した後に、Red組み換えのために使用したBsd薬剤耐性カセットをVCre/VloxPを取り除くことにした(図32)。得られたBACクローンを図32のPCRプライマー(F,R)で増幅した結果、VloxPで挟まれたBsd薬剤選択マーカー遺伝子部分が除かれていることがわかる(図33)。BACをRed組み換え法を用いて改変するためは薬剤選択マーカー遺伝子部分が必要であるが、細胞やマウス受精卵に導入する時には、薬剤選択マーカー遺伝子部分が邪魔する可能性があるので、取り除く必要が生じる。このように不要となった薬剤選択マーカー遺伝子部分を取り除くために、VCre/VloxPシステムは有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る部位特異的組換え酵素及び該酵素認識配列から成る部位特異的組換えシステムを、既に知られているCre/loxP及び Flp/FRTシステムと組み合わせることにより、様々な実験を行うことができる。例えば、幅広い生物種の培養細胞およびマウスES細胞やヒトiPS細胞でVCre/VloxP又はSCre/SloxPシステムで利用することができる。
【0090】
本発明の上記システムの応用例として、既に記載した例のほかに、更に、例えば、図34~38に示されるような以下の例を挙げることが出来る。例えば、図37において示されるように、人工染色体を作製する時に分解用の部位としてSloxP部位を数十カ所導入しておく。また、興味ある遺伝子を人工染色体へ導入部位として使用するために、Cre/loxPの系のlox66/lox71に相当する変異部位を図のようにNeoとPuro遺伝子の直前に VloxP 又はSloxPの変異部位を入れた交換用のプラスミドに導入しておく。これらのことによりVCre又はSCre依存的に興味ある遺伝子を人工染色体に導入することができる。また、人工染色体が不要になった場合には、VCre又はSCre蛋白質を発現させることにより人工染色体を分解、除去するシステムを構築することができる。尚、組み換え酵素依存的に人工染色体を消失させる系は、これらの部位特異的組換え酵素以外の他の組み換え酵素システムでも可能であるので、特にVCre/VloxP及びSCre/SloxPに限定されるものではない。
【0091】
本発明は大腸菌を含む産業上有用な微生物の染色体DNAの改変に用いられるだけでなく、大腸菌内で維持されるBACクローンの改変に用いることができる。コドンユーセージを大腸菌型に換えることで効率が上がることは、当事者であれば容易に想像できる。更に、コファクターの存在が必要ないことは本明細書の実施例から証明されているので、大腸菌で本発明のVCre蛋白質を発現させ、試験管内で組み換えを起こすことは可能である。
【0092】
iPSから導入したiPS化因子の遺伝子を特異的に除去することが可能となる。更に、病態モデル動物にも使用することができる。ヒトおよびマウスの人工染色体上の改変や遺伝子導入にも用いることができる。
【0093】
更に、本発明において、VCreとSCreの活性中心やDNA認識ドメインはCre蛋白質と同じであり、同じ機構を使用していることが明らかになった。このことからCreで得られている多くの実験結果がVCreやSCreにも使用できるであろう。特にCreの構造解析でえられた、Creのどのアミノ酸が認識サイトのDNA配列と直接相互作用を及ぼすかが分かっているので、その部分のアミノ酸がVCreとSCreのではどのように変化しているかという知見と、認識サイトはどのように変わっているかの知見を検討することは非常に有益であろう。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図25】
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【図28】
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【図30】
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【図32】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図27】
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【図29】
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【図31】
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【図33】
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