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明細書 :金含有物への糖鎖の導入法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5597903号 (P5597903)
公開番号 特開2011-236140 (P2011-236140A)
登録日 平成26年8月22日(2014.8.22)
発行日 平成26年10月1日(2014.10.1)
公開日 平成23年11月24日(2011.11.24)
発明の名称または考案の名称 金含有物への糖鎖の導入法
国際特許分類 C07H  23/00        (2006.01)
FI C07H 23/00 CSP
請求項の数または発明の数 5
全頁数 8
出願番号 特願2010-107135 (P2010-107135)
出願日 平成22年5月7日(2010.5.7)
審査請求日 平成25年3月4日(2013.3.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】小山 哲夫
【氏名】松岡 浩司
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
【識別番号】100149294、【弁理士】、【氏名又は名称】内田 直人
審査官 【審査官】早川 裕之
参考文献・文献 特開昭61-178999(JP,A)
特開昭54-014929(JP,A)
特開昭54-005908(JP,A)
特開2006-112980(JP,A)
米国特許出願公開第2005/0130240(US,A1)
米国特許出願公開第2005/0287552(US,A1)
J. Am. Chem. Soc.,2002年,124,3508-3509
Chem. Eur. J.,2009年,15,9874-9888
Langmuir,2006年,22,1156-1163
調査した分野 C07H 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
金属アルコキシド及びアルコールの存在下で、式(I)で示されるチオアセチル基を有する糖鎖を、エステル交換反応により金原子に結合させることを特徴とする、金含有物への糖鎖結合方法。
【化1】
JP0005597903B2_000005t.gif
(式(I)中、Xは糖鎖、Rは炭素数~12の炭化水素鎖、Sは硫黄、Acはアセチル基を表す)
【請求項2】
前記金属アルコキシドの金属が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記金含有物が、粒子状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金含有物が、平板状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載の方法により製造される、糖鎖が結合した金含有物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金原子を金含有物に糖鎖を結合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金ナノ微粒子は光学材料・導電材料への応用など幅広い分野において利用されており、例えば、表面に糖鎖が導入された金ナノ微粒子はバイオセンシングの分野での利用が期待されている。その理由の1つは、金ナノ微粒子表面に局所的に糖ペプチドや糖鎖を高密度で導入すると「クラスター効果」が発現され、より実用的な糖鎖結合金ナノ微粒子の開発が可能となるからである。さらに、金ナノ微粒子は発色性に優れており、凝集などで色調が変化するため、さまざまな用途への応用が検討されている。特に、医療分野においては、妊娠判定キット、糖尿病検査キットなどへの利用の他、インフルエンザウィルスなどと特異的に結合する糖鎖を担持させた金ナノ微粒子を、ウィルス感染の診断薬などに応用する技術なども開発されつつある。とりわけ、金原子は人体に対する毒性が低いと考えられることから、薬剤の担体などとしての使用も検討されている点において他の金属担体とは異なる特徴を有している(例えば、非特許文献1など)。
【0003】
金粒子に糖鎖を導入する方法は、すでにいくつか報告されている。その代表的な方法として、水素化ホウ素ナトリウム還元法、グリコシル化法を挙げることができる。水素化ホウ素ナトリウム還元法は、2分子の糖鎖がS-S結合した2量体を塩化金酸と共に反応系に加え、そこへ水素化ホウ素ナトリウム水溶液を滴下することで塩化金酸および糖鎖を還元して、所定の微粒子を得る方法である(非特許文献2)。また、グリコシル化法は、金微粒子表面にスペーサーを導入させた後、スペーサー末端の水酸基と糖鎖分子を結合させる方法である(非特許文献3)。これらの方法は、従来法として当該分野で使用されているが、水素化ホウ素ナトリウム還元法は、糖鎖2量体を合成する必要があるため、目的の金粒子を製造するまでに複数の工程を要し、時間と手間が掛かかってしまう。また、グリコシル化法は、水酸基を持つスペーサーを金粒子に予め導入しておく必要があり、煩雑な工程が必要とされる。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Martinez-Avilaら、Chem.Eur.J.,15(2009)9874-9888
【非特許文献2】de la Fuenteら、Angew.Chem.Int.Ed.40(2001)2257-2261
【非特許文献3】Shimizuら、Tetrahedron 63(2007) 2418-2425
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のごとく、従来法により金粒子に糖鎖を導入する場合、煩雑な工程が必要とされていたため、より簡便に金粒子への糖鎖導入を可能にする技術が望まれていた。さらに、従来法の水素化ホウ素ナトリウム還元法は、金粒子の合成と糖鎖の導入が同時に起こるため、導入する糖鎖の分子量によって合成される糖鎖結合金粒子の大きさが影響を受けてしまい、所望のサイズの糖鎖結合金粒子の作製が困難であった。また、金粒子の合成と糖鎖の導入が同時に起こることから、金粒子の内部に糖鎖が入り込んでしまい、金粒子表面上へ効率的に糖鎖を導入する事が困難であった。一方、グリコシル化法においては、金粒子上のスペーサーに糖鎖を結合させる際に、嵩高い糖鎖の導入が立体障害により難しい場合があった。
本発明はこのような従来法の問題点を解決するために行われたものである。
そこで、本発明は、金原子(Au)に糖鎖を導入し、金(Au)含有物を製造する方法、並びに、糖鎖が導入された金含有物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金粒子への糖鎖導入法に関し、鋭意研究を行ったところ、チオアセチル基を有する糖鎖をアルコールとアルコキシドの存在下で金粒子と反応させると、一段階で金粒子へ糖鎖を結合させることに成功した。
すなわち、本発明は、式(I)で示されるチオアセチル基を有する糖鎖を、エステル交換反応により金原子に結合させることを特徴とする、金含有物への糖鎖結合方法である。
【化1】
JP0005597903B2_000002t.gif
(式(I)中、Xは糖鎖、Rは炭素数0~12の炭化水素鎖又はエチレングリコール鎖、Sは硫黄、Acはアセチル基を表す)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所望の糖鎖を所望の金含有物に、一段階で、簡易かつ迅速に結合させることが可能である。
【0008】
本発明によれば、金含有物の表面に所望の糖鎖を結合させることができる。すなわち、従来法である水素化ホウ素ナトリウム法は、金粒子を合成しながら、糖鎖を結合させる方法であるため、金粒子の内部にも糖鎖が入り込んでしまい、金粒子表面への所望の糖鎖結合率を達成することができなかった。これに対し、本発明による方法は、予め作製した金含有物(粒子状、平板状など)に糖鎖を結合させる方法であるため、その表面に効率よく糖鎖を結合させることができる。
【0009】
また、本発明によれば、所望のサイズの金含有物に糖鎖を結合させることができる。従来法の水素化ホウ素ナトリウム法は、結合させる糖鎖のサイズによって作製される金粒子のサイズがある程度制限されていたが、本発明の方法によれば、所望のサイズの金含有物に糖鎖を結合させることができる。
【0010】
本発明によれば、金含有物側にスペーサーを結合させる必要がないため、結合させる糖鎖のサイズによる制限を回避し、所望のサイズの糖鎖を結合させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の方法により、ラクトースを金微粒子に結合させる場合の反応スキームである。
【図2】図2は、ラクトースを結合させた金微粒子のH-NMRによる観測結果(A)及び合成された糖鎖結合金微粒子の走査顕微鏡像(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の1つは、式(I)で示されるチオアセチル基を有する糖鎖を、エステル交換反応により金原子にスルフィド結合させることを特徴とする、金含有物への糖鎖結合方法である。
【化2】
JP0005597903B2_000003t.gif
(式(I)中、Xは糖鎖、Rは炭素数0~12の炭化水素鎖又はエチレングリコール鎖、Sは硫黄、Acはアセチル基を表す)
本発明は、金含有物の表面上に糖鎖を効率よく結合させる技術である。本発明の方法が適用可能な糖鎖は少なくとも1つのチオアセチル基を含むものであれば、特に限定されるものではなく、単糖及び多糖のいずれも含まれる。また、本発明で使用する糖鎖に含まれる水酸基は、エステル系保護基(アセチル基など)によって保護されていてもよい。例えば、本発明によって製造される金含有物、特に、金微粒子を感染症などの診断に使用する場合は、感染微生物又はその毒素と特異的に結合する糖鎖、例えば、腸管出血性大腸菌O-157が産生するベロ毒素と特異的に結合するグロボ3糖(Gb3、Galα1-4Galβ1-4Glcβ1-)、インフルエンザウィルス等のウィルス表面に存在するヘマグルチニンと特異的に結合するシアリルラクトース、デング熱ウィルスのスパイク糖タンパク質と特異的に結合するラクトネオテトラオース、他には癌細胞の転移に関与しているガングリオシドGM1やアレルギーエピトープの1種であるフコシルキトビオースの等の導入を挙げることができる。
また、式(I)のRの部分は、炭化水素鎖あるいはエチレングリコール鎖を表し、その長さは特に限定しないが、例えば、炭素数0~20、好ましくは、0~15、より好ましくは、0~12程度である。また、式(I)のRの部分の炭化水素鎖及びエチレングリコール鎖は、直鎖でも枝分かれしていてもよく、また、飽和結合又は不飽和結合のいずれを含んでいてもよい。
金原子に結合させる糖鎖は、限定はしないが、例えば、金原子1に対し、0.1等量~20等量、好ましくは、1等量~5等量である。

【0013】
本発明において、使用される金含有物とは、金原子がその表面上に存在している物のことであり、金原子のみからなるものでもよく、その他の原子(例えば、Ag、Cu、Feなど)、分子を含む化合物であってもよい。金含有物の形状は、特に限定されず、平板状、粒子状などいかなる形状でもよい。また、金含有物の大きさについても、特に限定されず、その用途によって自由に選択することが可能である。例えば、金含有物が金微粒子の場合、細胞に内包させる用途では、1~10nm、好ましくは3nm以下である。
糖鎖を結合させる反応混合物中から糖鎖が結合した金含有物を分離する方法は、使用する金含有物の大きさ、形状に依存して異なるが、当業者であれば、最適な方法を容易に選択することができる。例えば、金微粒子の場合、反応系の混合物を適当な×gで遠心分離して金微粒子のみを取得してもよく、あるいは、ゲル濾過カラムなどで精製してもよい。また、金含有物が平板状であれば、その表面を洗浄することで反応夾雑物と金微粒子を分離することが可能である。さらに、金含有物が金と鉄などとの合金である場合には、磁力により金含有物のみを分離することも可能である。

【0014】
本発明では、エステル交換反応を利用して、チオアセチル基を有する糖鎖を金原子に結合させることができる。エステル交換反応とは、エステルとアルコールを反応させた場合、各々のアシル基部分が入れ替わる反応である。例えば、ツェンプレン (Zemplen) 法を使用する場合、メタノール中、ナトリウムメトキシドの存在下で反応を行い、アシル基がメタノールへ転移するため、エステル化されていた化合物はアルコールとなる。
ここで使用する金属アルコキシドのカチオンは、特に限定はしないが、例えば、Li、K、Naなどのアルカリ金属、Mg、Caなどのアルカリ土類金属などが好ましい。また、アルコールとしては、反応条件下で液体であるものであればいかなるものも使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが好適に使用可能である。
エステル交換反応を行う温度条件としては、例えば、10℃~40℃、好ましくは、15℃~35℃、より好ましくは、20℃~25℃である。なお、使用する糖鎖の溶解性及び溶媒である各アルコールの沸点・粘度との関係を考慮し、液体条件下で反応が進行する温度条件を予備的な実験などにより適宜選択することは、当業者であれば容易である。

【0015】
また、反応時間は、例えば、3時間~12時間、好ましくは、1時間~2時間、より好ましくは、10分~30分である。糖鎖がすでに完全に溶解している場合、反応そのものはナトリウムメトキシドなど金属アルコキシド投入後、ごく短時間で終了することが予想されるが、反応開始時に糖鎖が完全に溶解していない場合などは、より長い反応時間が必要とされ、使用する糖鎖、アルコール及びアルコキシドに応じて、最も適した反応時間を予備的な実験により設定することが望ましく、当業者であれば容易に実施可能である。
使用する金属アルコキシドの糖鎖(より具体的には糖鎖に存在する-SAc)に対する比率は、限定はしないが、例えば、糖鎖分子1に対し、0.1等量~2等量、好ましくは1等量~1.1等量である。使用する金属アルコキシドのアルコールに対する濃度は、例えば、0.01M~0.10M、好ましくは、0.02M~0.05Mである。

【0016】
本発明の他の実施形態には、上記実施形態により製造された金含有物、及び、上記実施形態を実施するためのキットが含まれる。
本発明のキットには、所望の糖鎖及び所望の金含有物の他、反応に必要な試薬類(例えば、金属アルコキシド、アルコールなど)などが含まれていてもよい。また、所望の糖鎖の代わりに、該糖鎖を合成するための出発原料となる化合物などが含まれていてもよい。本発明のキットの作製にあたり、糖鎖及び試薬類の安定性を保持し、キット輸送時における安全性を確保するために必要な保存方法及び保存容器が適宜選択される。また、キットに使用説明書が添付される場合、その使用説明は、紙又は他の材質上に印刷されて供給されてもよく、フロッピー(登録商標)ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。あるいは、キットの製造者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。

【0017】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
本実施例は、糖鎖の1例としてラクトース誘導体を金ナノ微粒子に結合させる方法を示すものである(図1)。
1.試薬類
(a)HAuCl・4HO(分子量411.85)(キシダ化学株式会社製 特級)
10.5mg (2.56×10-5mol)
この内元素としての金が占める重量は、5.02 mg(100mgのHAuCl・4HO(黄色固体)を10mlのHOに溶解させた溶液を1.05 ml使用した)
(b)NaBH(分子量37.83)(東京化成工業株式会社製 純度>93.0%)
21.3mg (5.63×10-4mol)
対Au比22等量
(c)ラクトース誘導体(下記化学式を参照のこと)
334819S (分子量 780.79)
100mg (1.28×10-4 mol)
対Au比5等量
【化3】
JP0005597903B2_000004t.gif
(d)NaOMe(分子量54.02)
1.30×10-4mol(1MのNaOMe/MeOH溶液を0.13ml使用)
ラクトース誘導体比は等モル。
【実施例】
【0019】
2.合成法
20mlのガラス製サンプル管中のHAuCl・4HO水溶液1.05ml溶液に対し、マグネティックスターラー攪拌下、NaBH水溶液(NaBH 21.3mg/HO 0.50ml)を滴下した。金微粒子が生成すると、黄色溶液が瞬時に黒色の溶液へと変化する。そのまま20分間攪拌を行なった後、ラクトース誘導体100mgを2mlのMeOHに溶解させた溶液を滴下した。滴下した直後に、1MNaOMe溶液0.13mlを滴下。そのまま室温(約20℃)で14時間攪拌した。
生成した金ナノ微粒子を含む溶液をメタノール10mlに滴下し、エッペンドルフチューブ中・遠心分離で沈殿させた。遠心分離後の上澄みを廃棄した後、さらにメタノールを加えて超音波をかけ微粒子を分散させた。当該エッペンドルフチューブを再度遠心分離にかけた。このメタノール洗浄の操作を5回繰り返して得られた黒色の金ナノ微粒子に、水1mlを加えて凍結乾燥を行い、4.04mgの糖鎖含有金ナノ微粒子を得た。
金微粒子への糖鎖の導入状態は、重水中のH-NMRで確認し(図2A)、微粒子のサイズ・形状は走査型電子顕微鏡にて観測した(図2B)。
H-NMRによる観測では、糖鎖(ラクトース)由来の非常にシャープなシグナルが得られ、本発明の方法により金ナノ微粒子上に糖鎖導入が可能であることが確認された。
なお、上記ラクトース誘導体の他、N-アセチルグルコサミン誘導体も同様の手法で金ナノ微粒子上へ導入可能であることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、所望の糖鎖を所望の形状及びサイズを有する金含有物上へ結合させることが可能となる。本発明の方法で製造された糖鎖結合金含有物は様々な分野において利用が期待される。特に、本発明により製造された糖鎖結合金ナノ微粒子は、感染症の診断や治療など医療分野における技術開発に対し大きく貢献することが期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
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