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明細書 :薬物と高分子化合物相互作用確認用試薬及び相互作用の検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5930286号 (P5930286)
公開番号 特開2013-164323 (P2013-164323A)
登録日 平成28年5月13日(2016.5.13)
発行日 平成28年6月8日(2016.6.8)
公開日 平成25年8月22日(2013.8.22)
発明の名称または考案の名称 薬物と高分子化合物相互作用確認用試薬及び相互作用の検査方法
国際特許分類 G01N  33/58        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI G01N 33/58 Z
G01N 33/566
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2012-027242 (P2012-027242)
出願日 平成24年2月10日(2012.2.10)
審査請求日 平成27年1月23日(2015.1.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】國嶋 崇隆
【氏名】山田 耕平
【氏名】木野 徹平
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】大瀧 真理
参考文献・文献 特開2009-175139(JP,A)
特開2002-253240(JP,A)
松尾和哉,浜地格,生細胞でのタンパク質選択的なケミカルラベリングの新手法,生化学,2011年10月25日,Vol.83, No.10,p.920-929
調査した分野 G01N 33/48 - 33/98
特許請求の範囲 【請求項1】
相互作用確認用試薬(C)用いることを特徴とする、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用検査方法であって、
リガンド化合物(L)が、高分子化合物(A)と結合しうる物質であり、
相互作用確認用試薬(C)が、高分子化合物(A)におけるリガンド化合物(L)の結合する部位の近傍に、標識化合物(P)が光照射を行うことなくアミド結合により結合された標識化高分子化合物(P+A)を含み、リガンド化合物(L)を含まない試薬であり、
以下の1)~3)の工程を含む、薬物(X)と高分子化合物(A)の相互作用検査方法:
1)前記相互作用確認用試薬(C)と、薬物(X)とを相互作用させる工程;
2)前記工程1)の反応溶液について、標識シグナル(I)を検出する工程;
3)相互作用確認用試薬(C)単独での標識シグナル(I)を対照として、標識シグナル(I)と標識シグナル(I)の差異を検出する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の標識化高分子化合物(P+A)が、以下の方法により作製された化合物である、請求項1に記載の相互作用検査方法
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記高分子化合物(A)と、前記修飾リガンド化合物(L')を混合する工程;
3)前記修飾リガンド化合物(L')と相互作用した高分子化合物(A)に、1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。
【請求項3】
請求項1に記載の標識化高分子化合物(P+A)が、以下の方法により作製された化合物である、請求項1に記載の相互作用検査方法
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記修飾リガンド化合物(L')と1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、脱水縮合剤(L'+T)を合成する工程;
3)前項2)の脱水縮合剤(L'+T)と高分子化合物(A)を相互作用させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。
【請求項4】
高分子化合物(A)が、タンパク質又はペプチドである、請求項1~3のいずれか1に記載の相互作用検査方法
【請求項5】
高分子化合物(A)が、血清アルブミン又はα1-酸性糖タンパクである、請求項4に記載の相互作用検査方法
【請求項6】
血清アルブミン(A)の結合site1~3のいずれか1ヶ所の近傍に、標識化合物(P)がアミド結合により結合した標識化血清アルブミン(P+A)を含むことを特徴とする、請求項5に記載の相互作用検査方法に使用する、相互作用確認用試薬(C)。
【請求項7】
請求項6に記載の相互作用確認用試薬(C)を少なくとも2種以上含み、当該2種以上含まれる各相互作用確認用試薬(C)が、血清アルブミン(A)について各々異なる結合site特異的に相互作用を確認しうる試薬である、薬物(X)と血清アルブミン(A)との相互作用確認用試薬キット(D)。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物と高分子化合物との相互作用確認用試薬及び相互作用確認のための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿タンパク質(以下、本明細書において、血漿タンパク質を単に「タンパク質」ともいう。)は様々な薬物と結合し、その動態や薬効に影響を与える。薬物は血中でタンパク質と相互作用して結合している状態のものと、タンパク質と結合していない遊離型が存在する。どのタンパク質に結合するか、またタンパク質との結合率は、薬物によって異なっている。そして、これらのうちタンパク質と結合したタンパク質結合型薬物は細胞膜を通過することができず、タンパク質と結合していない遊離型の薬物だけが組織へ移行することができる。つまり、遊離型だけが、細胞膜を透過することができ、組織に分布して薬効や毒性を発現し、代謝や排泄を受けて体内から除去される。従って、血中でのタンパク質結合は薬物の体内動態や、薬効、毒性に多大な影響を及ぼす。タンパク質結合には種差があり、体内動態や薬効、毒性の種差の原因となる。また、タンパク質結合は、病態の薬物間相互作用によっても変動し、薬効の減弱や副作用の増強など臨床上好ましくない現象を引き起こす場合がある。
【0003】
薬物は血清アルブミンやα1-酸性糖タンパクなどのタンパク質と結合している。血清アルブミンは脂溶性の高い酸性化合物、α1-酸性糖タンパクは塩基性化合物に対し高い親和性を示す。薬物が結合するタンパク質のうち、最も重要なものは血清アルブミンであり、血清アルブミンの薬物結合部位(以下、「結合部位」を「結合site」という。)はX線結晶解析から結合site1~3(site 1~3)など複数存在するとされており、薬物ごとに部位親和性が異なる。
【0004】
上記のように、薬効や毒性にとって重要な血中での遊離型薬物濃度を知るためには、タンパク質結合に関する評価を別途行う必要がある。薬物とタンパク質との結合評価方法としては、例えば、(1)平衡透析法、(2)限外濾過法、(3)超遠心法、(4)表面プラズモン共鳴法などが挙げられる。(1)平衡透析法は、透析膜を介した平衡状態における水溶液中の遊離型薬物の割合を測定する方法であり、(2)限外濾過方法は、限外濾過によってタンパク質と分離された溶液(濾液)中の遊離型薬物の割合を測定する方法であり、(3)超遠心法は、超遠心によってタンパク質を沈殿除去した後の上清中の遊離型薬物の割合を測定する方法であり、(4)表面プラズモン共鳴法については、装置が市販されており、高感度で迅速に測定することができる。しかしながら、これらの方法は、測定操作が煩雑であったり、時間を要したりするなどの欠点や、高感度であっても装置が高価であるために容易に実用化できないなどの問題点がある。さらには、いずれの方法においても、薬物のタンパク質結合siteまでは特定することができないという欠点がある(非特許文献1)。
【0005】
結合タンパク質の結合siteを同定する場合には、各結合siteのプローブリガンドを用いた結合阻害試験を行う。血清アルブミンの場合、一般にsite 1のプローブリガンドとしてワルファリン、フェニトイン、site 2のプローブとしてイブプロフェン、ジアゼパム、site 3のプローブとしてジギトキシンが利用される。α1-酸性糖タンパクの場合、プロプラノール、ワルファリン及びプロゲステロンがそれぞれ塩基性化合物、酸性化合物及びステロイドホルモン結合siteのプローブリガンドとして用いられる(非特許文献1)。
【0006】
触媒的縮合反応を用いた簡便アフィニティーラベル化法(特許文献1)や、同様のMoAL method(modular method for affinity labeling)(非特許文献2、3)について報告がある。これらでは、リガンド化合物、標識化合物、トリアジン型脱水縮合剤前駆体を、標的高分子化合物とともに反応させてリガンド化合物と相互作用しうる標的高分子化合物が、特異的にかつ効果的にラベル化(標識化)できることが報告されている。また、標識化される部位はリガンド化合物の結合する部位の近傍のアミノ酸に対して選択的に起きていることも記されている。係る方法により、標的高分子化合物と反応しうるリガンド化合物をスクリーニングできることが期待されることが記載されている。しかしながら、タンパク質と薬物との結合や、タンパク質の結合siteについての記載は一切ない。
【0007】
薬物の血中でのタンパク質との結合率や、タンパク質の結合siteについて、簡便に検出できる方法があれば、例えば医薬組成物の血中でのタンパク質との結合状態を容易に確認することができ、薬物の血中動態を把握することができ、薬効や毒性評価を容易にできるものと考えられる。従って、そのような簡便な検出方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】日本薬理学雑誌, Vol. 134 (2009) No. 2, p.78-81
【非特許文献2】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 20 (2010) p.7050-7053
【非特許文献3】Chem. Comm., (2009) p.5597-5599
【0009】

【特許文献1】特開2009-175139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、薬物と高分子化合物との相互作用を容易に確認しうる確認用試薬を提供することを課題とする。また、相互作用確認のための簡便な検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)と高分子化合物(A)が、リガンド化合物(L)を介して、アミド結合により結合された標識化高分子化合物(P+A)を含む相互作用確認用試薬(C)を用いることで、容易に薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用確認しうることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、すなわち以下よりなる。
1.標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)と高分子化合物(A)が、アミド結合により結合された標識化高分子化合物(P+A)を含む、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用確認用試薬(C)。
2.前項1に記載の標識化高分子化合物(P+A)が、以下の方法により作製された化合物である、前項1に記載の相互作用確認用試薬:
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記高分子化合物(A)と、前記修飾リガンド化合物(L')を混合する工程;
3)前記修飾リガンド化合物(L')と相互作用した高分子化合物(A)に、1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。
3.前項1に記載の標識化高分子化合物(P+A)が、以下の方法により作製された化合物である、前項1に記載の相互作用確認用試薬:
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記修飾リガンド化合物(L')と1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、脱水縮合剤(L'+T)を合成する工程;
3)前項2)の脱水縮合剤(L'+T)と高分子化合物(A)を相互作用させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。
4.高分子化合物(A)が、タンパク質又はペプチドである、前項1~3のいずれか1に記載の相互作用確認用試薬(C)。
5.高分子化合物(A)が、血清アルブミン又はα1-酸性糖タンパクである、前項4に記載の相互作用確認用試薬(C)。
6.以下の工程を含む、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用検査方法:
1)前項1~5のいずれか1に記載の相互作用確認用試薬(C)と、薬物(X)とを相互作用させる工程;
2)前記工程1)の反応溶液について、標識シグナル(I)を検出する工程;
3)相互作用確認用試薬(C)単独での標識シグナル(I)を対照として、標識シグナル(I)と標識シグナル(I)の差異を検出する工程。
7.前項1~6のいずれか1に記載の相互作用確認用試薬(C)を少なくとも2種以上含み、当該2種以上含まれる各相互作用確認用試薬(C)が、高分子化合物(A)について各々異なる結合site特異的に相互作用を確認しうる試薬である、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用確認用試薬キット(D)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高分子化合物(A)との相互作用確認用試薬(C)を用いて検査を行うことで、薬物(X)の高分子化合物(A)に対する相互作用、例えば結合能や結合siteを簡便、高感度に評価することができる。これにより、例えば医薬組成物の血中でのタンパク質との結合状態を容易に確認することができ、薬物の血中動態を把握することができ、薬効や毒性評価を容易にできるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の標識化高分子化合物(P+A)、いい換えれば、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用確認用試薬(C)の作製方法、及び本発明の検査方法の概念を示す図である(上段)。また、高分子化合物(A)の特定の結合siteに薬物(X)が相互作用する場合としない場合の作用概念を示す図である(下段)。(実施例1)
【図2】本発明の相互作用確認用試薬(C)について、高分子化合物(A)と標識化合物(P)の結合siteを示す図である。(実験例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、薬物と高分子化合物との相互作用を容易に確認しうる確認用試薬及び相互作用確認のための容易な検査方法を提供することを課題とする。本明細書において、薬物を(X)とし、高分子化合物を(A)として以下説明する。さらに、本発明の標識化合物は、標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物であり、標識化合物(P)として説明する。また、本発明のリガンド化合物(L)は、高分子化合物(A)と相互作用しうる化合物をいう。本発明の相互作用確認用試薬は、高分子化合物(A)にリガンド化合物(L)を介してアミド結合により結合された標識化合物(P)により構成される標識化高分子化合物(A+P)を含む相互作用確認用試薬(C)として説明する。

【0016】
本発明において、「薬物(X)」とは、医薬品や製剤などに含有される有効成分としての物質をいう。薬物の体内動態は、吸収、分布、代謝、排泄の段階からなると考えられている。薬物動態学的相互作用とは、これらの過程に影響を及ぼし、作用部位(site)における薬物濃度の変化を生じさせる形式の相互作用をいう。吸収とは、血中に薬物が取り込まれる過程をいい、小腸をはじめ、胃や大腸、皮膚、目、鼻等において生じる。上記背景技術の欄でも説明したように、タンパク質は様々な薬物と結合し、その動態や薬効に影響を与える。

【0017】
薬物が、どのタンパク質に結合するか、またタンパク質のどの部位(site)に結合するか、結合率はどの程度かを把握することにより、有効成分としての薬物の効力を最大限に生かすことができるものと考えられる。タンパク質と結合していない遊離型の薬物だけが組織へ移行することができる。つまり、遊離型だけが、細胞膜を透過することができ、組織に分布して薬効や毒性を発現し、代謝や排泄を受けて体内から除去される。従って、タンパク質結合は薬物の体内動態や、薬効、毒性に多大な影響を及ぼす。

【0018】
相互作用確認用試薬(C)について
本発明の「相互作用確認用試薬(C)」は、少なくとも、標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)と高分子化合物(A)が、アミド結合により結合された標識化高分子化合物(P+A)を含む。

【0019】
本発明の相互作用確認用試薬(C)の構成要素である「高分子化合物(A)」とは、薬物が血漿中で結合しうる高分子化合物をいい、カルボキシル基を有しているか、又はカルボキシル基で修飾されている化合物であればよい。例えばタンパク質や、ペプチドが挙げられ、特に好適にはタンパク質が挙げられる。上記説明したように、薬物とタンパク質との結合態様により、薬物の体内動態や、薬効、毒性に多大な影響を及ぼすので、薬物とタンパク質との結合状態を把握することは重要である。また、血中に複数種類の薬物が存在することにより、薬物の作用に対して影響を与えることも考えられる。複数の薬物が、高分子化合物との結合において、どのように影響を受けるかを把握することも、薬物の体内動態を把握するうえで重要である。

【0020】
本明細書において、高分子化合物(A)は、カルボキシル基で修飾されているか、又はタンパク質やペプチドのようにアスパラギン酸やグルタミン酸残基のようなカルボキシル基を有する酸性アミノ酸側鎖や、又はカルボキシル末端を有する化合物であることが必要である。具体的には血清アルブミン又はα1-酸性糖タンパクが挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬物が結合するタンパク質で最も重要なものは血清アルブミンといわれている(非特許文献1)。血清アルブミンの分子量は66.5kDaであり、ヒトの血漿中には約600μMの濃度で存在する。背景技術の欄でも示したように3つのドメインで構成されており、主に3つの薬物結合site(site 1~3)が存在する。血清アルブミンの次に重要な結合タンパク質は、α1-酸性糖タンパクである。α1-酸性糖タンパクの分子量は41~43kDaであり、シアル酸含量の多い5つのN-結合型糖鎖を有する。健常人の血漿中には約20μMの濃度で存在するが、病態によって大きく変化する。α1-酸性糖タンパクの薬剤結合siteについても、非特許文献1において言及されている。

【0021】
本明細書において相互作用確認用試薬(C)を作製する過程で必要とする「リガンド化合物(L)」とは、高分子化合物(A)と相互作用しうる物質であればよく、特に限定されない。例えば高分子化合物(A)が血清アルブミンの場合には、イブプロフェン、ジアゼパム、ワルファリン、フェニトイン、ジギトキシンより選択されるいずれかが挙げられる。特に、血清アルブミンに対しては、上述の3つの結合site1~3(site 1~3)のいずれのsiteに結合しうるリガンド化合物(L)であるか予め判明しているのが好適である。例えば、血清アルブミンのsite 1には、ワルファリン、フェニトイン、フェニルブタゾン、ブコローム、アセチルサリチル酸、site 2にはイブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、N-アセチル-L-トリプトファン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ジアゼパム、site 3にはジギトキシンなどが結合することが知られている。しかしながら、これらのsiteに結合するといわれているリガンド化合物に関して、高分子化合物濃度とリガンド化合物の濃度割合による結合態様や、複数のリガンド化合物が存在する場合の、結合態様、例えば競合により結合態様にどのような変化が生じるか、などについては十分には明らかにされていない。

【0022】
本明細書において相互作用確認用試薬(C)の構成要素である「標識化合物(P)」とは、標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物をいう。標識化合物(P)に含まれる標識物質としては、アミン化合物の分子構造中に含まれ得、高分子化合物(A)と薬物(X)との相互作用によって標識シグナルが変化しうる物質であれば良く、自体公知のものを使用することができる。例えば、蛍光性化合物、紫外可視吸収を有する化合物、核磁気共鳴によって検出できる核種を有する化合物、発光性化合物や放射性化合物などが挙げられる。標識物質は感度及び取扱いの観点から蛍光性物質であるのが最も好適である。蛍光性物質としては、具体的にはDansyl Hydrazine、Dansyl Chloride、DBD、NDB、Alexa Fluor、BODIPY FL、Cascade Blue、FITC、Oregon Green、RITC、Texas Red、TRITC、Coumarin Maleimide、Cy Dyeなどが挙げられ、紫外可視吸収を有する化合物は上記の蛍光性化合物に加え、蛍光を発しない色素やベンゼン環やナフタレン環などをはじめとする芳香族性の化合物などが挙げられる。核磁気共鳴によって検出できる核種として、1H、13C、15N、19F、29Si、31Pなどが挙げられる。 放射性物質として、3H、14C、11C、123I、201TI、67Gaなどが挙げられる。特に好適にはダンシル(Dansyl)やDBD等の1級アミンが挙げられる。

【0023】
標識化合物(P)は、個々の高分子化合物(A)に1種ずつ特異的に導入してもよいし、高分子化合物(A)の薬物結合siteに応じて、複数の異なるものを導入してもよい。標識化合物(P)に含まれる標識物質は、例えば疎水場や親水場に応じて標識シグナルが変化しうるものが好適である。例えばダンシルやDBDタイプの蛍光色素を有する色素は疎水場で強い標識シグナルを発し、親水場で標識シグナルが減少する。つまり、評価する薬物(X)が存在しないときは標識化合物(P)が高分子化合物(A)の結合siteに取り込まれ、疎水場において強い標識シグナルを発するが、薬物(X)が高分子化合物(A)の結合siteに取り込まれる場合は標識化合物(P)が結合siteから外れることで、親水場に放出されることになり、標識シグナルが減少する。結合site毎に位置特異的に標識化合物(P)を導入すれば結合site毎の薬物結合性を評価することができる。また、全ての結合site毎に、例えば異なる波長の色素をそれぞれ導入することで、どの結合siteにどの比率で結合するかを評価することができる。

【0024】
本発明の相互作用確認用試薬(C)は、高分子化合物(A)を標識化合物(P)で標識化する、所謂アフィニティーラベル化法(特許文献1参照)などにより作製される。

【0025】
相互作用確認用試薬(C)の作製方法
本発明の相互作用確認用試薬(C)は、以下の1)~4)の工程を含む方法により作製される標識化高分子化合物(P+A)により作製することができる(図1上参照)。
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記高分子化合物(A)と、前記修飾リガンド化合物(L')を混合する工程;
3)前記修飾リガンド化合物(L')と相互作用した高分子化合物(A)に、1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。

【0026】
あるいは、以下の1)~4)の工程を含む方法によって標識化高分子化合物(P+A)を作製することもできる。
標識化高分子化合物(P+A)が、以下の方法により作製された化合物である、相互作用確認用試薬:
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製する工程;
2)前記修飾リガンド化合物(L')と1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させ、脱水縮合剤(L'+T)を合成する工程;
3)前項2)の脱水縮合剤(L'+T)と高分子化合物(A)を相互作用させ、複合体(A+L'+T)を合成する工程;
4)さらに標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を反応させ、標識化高分子化合物(P+A)を合成する工程。

【0027】
本発明の相互作用確認用試薬(C)は、上記方法により作製された標識化高分子化合物(P+A)を含み、適当な溶媒とともに作製することができる。溶媒としては水又は適切なpHに設定された緩衝液が挙げられる。
修飾リガンド化合物(L')や1,3,5-トリアジン化合物(T)、又は脱水縮合剤(L'+T)及び標識部位を分子構造中に含むアミン化合物からなる標識化合物(P)を溶かすための溶媒としては、少量のメタノール、エタノールあるいはアセトニトリル、アセトンなどの水と混和する溶媒を用いてもよいが、高分子化合物(A)がタンパク質の場合には、タンパク質が変性しない溶媒であることが必要である。有機溶媒を用いる場合であっても、5%(容量パーセント)未満の濃度が好適である。

【0028】
本発明において、「1,3,5-トリアジン化合物(T)」は以下の式(I)で表される化合物である。1,3,5-トリアジン化合物(T)は、水溶性であることが好ましいが、両親媒性や脂溶性であってもよい。
【化1】
JP0005930286B2_000002t.gif
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホ基、ホスホ基、又は-R3R4(ここで、R3は、-(CmH2mO)nであり、R4は、水素原子、スルホ基、ホスホ基、又はアミノ基、アンモニオ基、スルホ基若しくはホスホ基を有するアルキル基である。また、mは1~30の整数であり、nは1~120の整数である。)からなる群より選ばれる置換基であり、Xは塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基、置換基があってもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換基があってもよいアリールスルホニルオキシ基、又はN-メチルモルホリン(NMM)で表される。]1,3,5-トリアジン化合物は、最も好適には、2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)である。

【0029】
上記において、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基は各々炭素数1~30とすることができ、より好適には1~20であり、特に好適には1~6である。

【0030】
好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数2~5のヒドロキシアルキル基、-(CH2CH2O)nR12(ここで、nは1~120の整数であり、そしてR12は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、スルホ基、ホスホ基又はアミノ基、アンモニオ基、スルホ基、若しくはホスホ基等を有するアルキル基である)、-(CH2CH2NR13)nH(ここで、nは1~120の整数であり、そしてR13は、炭素数が2~5のアルキル基、N,N-ジアルキルアミノエチル基、又は-(CH2CH2N+(CH3)3である)、-CH2CH2SO3-、-CH2CH2N+(CH3)3であり、Xは塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基、置換基があってもよいアルキルスルホニルオキシ基、置換基があってもよいアリールスルホニルオキシ基、又はNMMで表される。例えば1,3,5-トリアジン化合物として、CDMTや第4級アンモニウム塩4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド (DMT-MM)が挙げられ、最も好ましくはCDMTである。

【0031】
上記において、1,3,5-トリアジン化合物(T)は、自体公知の方法により合成することができ、例えば国際公開WO2000/053544号パンフレット、国際公開WO2005/075442号パンフレット等に記載の方法により合成することができる。得られた1,3,5-トリアジン化合物(T)は、当業者が通常用いる手段によって、分離・精製することができる。例えば、反応終了後、反応液に有機溶媒を加え、得られた1,3,5-トリアジン化合物(T)を有機層に抽出したり、自体公知のクロマトグラフィーなどの分画法により精製することができる。

【0032】
本発明において、「第3級アミン」はリガンド化合物(L)を修飾し、修飾リガンド化合物(L')を作製するために用いられる。第3級アミンの構造は、リガンド化合物(L)と結合を形成するための官能基を有するものであればよく特に限定されない。修飾は、該リガンド化合物(L)の分子構造の適切な部位に共有結合を介して第3級アミンを導入することによる。修飾リガンド化合物(L')が、高分子化合物(A)と相互作用する際に、さらに修飾リガンド化合物(L')中の第3級アミンと結合した1,3,5-トリアジン化合物(T)が近傍に存在する高分子化合物(A)のカルボキシル基と反応することで、1,3,5-トリアジン化合物(T)による高分子化合物(A)とアミン化合物の脱水縮合反応が効果的に進められる。

【0033】
第3級アミンの具体例としては、以下の式(II)で示される化合物が挙げられる。
【化2】
JP0005930286B2_000003t.gif
式中、R5、R6及びR7のうち1つ又は2つは、高分子化合物(A)と相互作用しうるリガンド化合物(L)に対して結合を形成し、これを修飾することが可能な官能基を含む置換基であり、リガンド化合物(L)はその官能基を介して直接結合していてもよいし、アルキル基やエチレングリコール等からなる適当な長さのリンカーと呼ばれる鎖を挟んでいてもよい。前記官能基を介してリガンド化合物(L)と第3級アミンとの間に形成される結合として、例えば炭素鎖、エステル基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、芳香環、カルバミン酸エステル基、カルバミド基などが挙げられる。従ってこれらの結合を形成するための前記官能基として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、ハロアルキル基、メルカプト基等の含硫官能基、アジド基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、ホスフィン等の含リン官能基、酸性度の高い炭素-水素結合などが挙げられる。そして残りのR5、R6及びR7は、それぞれ独立してアルキル基、アリールメチル基、-CH2COOR8、CH2CONR9R10(ここで、R8、R9、R10はそれぞれ独立して水素原子、又はアルキル基、アリール基、又は-(CyH2yO)zであり、yは1~30の整数であり、zは1~120の整数である)である。
ここで、アルキル基は、飽和であってもよいし、2重結合や3重結合を幾つか有する不飽和であってもよく、ハロゲン、酸素官能基、窒素官能基、アリール基等で置換されていても良い。アリール基とは芳香属性を有する官能基で、フェニル基のように炭化水素だけで構成されていても、酸素や窒素や硫黄のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、環のサイズは5員環でも6員環でも、7員環でもそれ以外の大きさでもよい。置換基を有していてもよいしまたいくつかの環が縮環していてもよい。

【0034】
第3級アミンの別の例として、式(III)に示すように塩基性の低いモルホリン環を有する化合物が挙げられる。ここでR11はリガンド化合物(L)と結合を形成し、これを修飾するための前記官能基を含む置換基である。
【化3】
JP0005930286B2_000004t.gif

【0035】
本発明において、「アミン化合物」はR14R15NHで表される化合物をいう。R14及びR15のうち1つ又は2つは、標識性の官能基を含む置換基であり、標識化合物は直接結合してもよいし、アルキル基やエチレングリコール等からなる適当な長さのリンカーと呼ばれる鎖を挟んでいてもよく、炭素鎖、エステル基、アミド基、エーテル基、チオエーテル基、芳香環、カルバミン酸エステル基、カルバミド基などを介して置換基に結合する。残りはそれぞれ独立して水素又は炭素数1~6のアルキル基、アリール基、又はアンモニオ基、スルホ基、硫酸基若しくはリン酸基等を有するアルキル基である。好ましくは、R14は標識化合物を含む置換基であり、R15は水素である。

【0036】
以下、本発明の相互作用確認用試薬(C)の作製方法における、各工程について詳述する。上記において、各工程の前後に、更に必要な処理工程を設けてもよい。また、工程3)及び4)は、必要に応じて順序を逆にしても良いし、同時に行ってもよい。

【0037】
1)リガンド化合物(L)を第3級アミンで修飾し、修飾リガンド化合物(L’)を作製する工程
リガンド化合物(L)の第3級アミンによる修飾は、化学構造により導入部位、導入方法が適宜決定される。

【0038】
2)前記高分子化合物(A)及び修飾リガンド化合物(L’)を混合する工程
本発明において、高分子化合物(A)と修飾リガンド化合物(L’)を混合する工程は、高分子化合物(A)を含む水溶液に修飾リガンド化合物(L’)を混ぜ、両化合物が結合又は結合解離の平衡状態になるまでの間、攪拌、放置、インキュベーションなどにより一定時間おき、相互作用させることによる。水溶液の溶媒、高分子化合物(A)と修飾リガンド化合物(L’)の濃度の割合、温度、及び時間は、各々の化合物について適宜決定することができる。

【0039】
3)1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させる工程
本発明において、1,3,5-トリアジン化合物(T)を上記反応させる工程により、1,3,5-トリアジン化合物(T)が該修飾リガンド化合物(L')中の第3級アミンに結合して脱水縮合剤となる。高分子化合物(A)中のカルボン酸がこの1,3,5-トリアジンの近傍に存在することでトリアジン環を攻撃し、トリアジンが第3級アミンからカルボン酸へ移る。その結果カルボン酸が活性エステル(アシルオキシトリアジン又はトリアジニルエステルという。)の形で活性化され、最後に後述する4)の工程で、標識化合物(P)のアミノ基がこの活性エステルを攻撃し、カルボン酸とアミド結合により結合する。

【0040】
1,3,5-トリアジン化合物(T)は、高分子化合物(A)と修飾リガンド化合物(L')を相互作用させたのちに加えることができ、複合体(A+L'+T)を合成することができる。また、修飾リガンド化合物(L')に1,3,5-トリアジン化合物(T)を反応させて脱水縮合剤(L'+T)を合成したのちに高分子化合物(A)と相互作用させ、複合体(A+L'+T)を合成することもできる。

【0041】
上記3)の工程は、得られた水溶液に1,3,5-トリアジン化合物(T)水溶液又は1,3,5-トリアジン化合物を含むメタノールなど有機溶媒の溶液を加えることによることができる。トリアジン化合物の濃度、反応温度、及び反応時間は、適宜決定することができる。反応終了後、反応溶液に含まれる修飾リガンド化合物(L')、未反応の1,3,5-トリアジン化合物(T)や標識化合物(P)、さらに反応に伴って1,3,5-トリアジン化合物(T)から生じる化合物、その他の副生成物等、低分子化合物は、透析、限外ろ過、超遠心、ゲルろ過クロマトグラフィー等の精製過程を繰り返すことによって、(A)から分離除去することができる。

【0042】
4)標識部位を分子構造中に含む標識化合物(P)を反応させる工程。
本発明において、標識化合物(P)を反応させる工程は、上記2)又は3)の工程により得られた水溶液に、前記標識化合物(P)水溶液を加えることによることができる。標識化合物(P)の濃度、反応温度、及び反応時間は、適宜決定することができる。本工程は、必要に応じて上記2)又は3)の工程の後に行ってもよいし、3)の工程と本工程を同時に行ってもよい。

【0043】
前記高分子化合物(A)は、上記修飾リガンド化合物(L')が相互作用した場合に、修飾リガンド化合物(L')上のアミンと1,3,5-トリアジン化合物(T)から生じる脱水縮合剤を用いて、高分子化合物(A)上のカルボキシル基、及び標識化合物(P)上の1級または2級アミノ基を、脱水縮合反応させることで、高分子化合物(A)上のカルボキシル基と標識化合物(P)が結合し、高分子化合物(A)が標識化される。上記一連の反応により、本発明の高分子化合物(A)のアフィニティーラベル化が達成され、標識化高分子化合物(P+A)を作製することができる。
本発明の相互作用確認用試薬(C)は、上記方法により作製された標識化高分子化合物(P+A)を含み、適当な溶媒とともに作製することができる。溶媒としては水又は適切なpHに設定された緩衝液が挙げられる。
高分子化合物(A)についての標識化高分子化合物(P+A)は、製造過程で使用したリガンド化合物の種類に応じて、高分子化合物(A)に対する結合site特異的な標識化高分子化合物(P+A)を作製することができる。結合site特異的な標識化高分子化合物(P+A)毎に、各々異なる標識物質を含ませることもできる。相互作用確認用試薬(C)には、結合site特異的な標識化高分子化合物(P+A)で、各々異なる標識物質を含むものを複数種含めてもよいが、相互作用確認用試薬(C)には、1種の標識化高分子化合物(P+A)を含めるのがより好適と考えられる。

【0044】
薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用検査方法
本発明において、薬物(X)と高分子化合物(A)との相互作用は、以下の検査方法により行うことができる。
1)相互作用確認用試薬(C)と、薬物(X)とを反応させる工程;
2)前記工程1)の反応溶液について、標識シグナル(I)を検出する工程;
3)相互作用確認用試薬(C)単独での標識シグナル(I)を対照として、標識シグナル(I)と標識シグナル(I)の差異を検出する工程。

【0045】
確認検査方法は、特に限定されないが、例えば以下の手順によることができる。
標識化高分子化合物(A+P)を水又は緩衝液に溶かした溶液に、薬物(X)の溶液(溶媒は水又は緩衝液。溶解させるために少量の有機溶媒を用いてもよい)を加える。混合後の溶液において、標識化合物(P)の標識シグナルが十分に感知できるように高分子化合物(A)の濃度を予め調整し、薬物(X)の量は標識化高分子化合物(A+P)の物質量に対して1~1000当量になるように予め濃度を調整する。標識化高分子化合物(A+P)と薬物(X)との相互作用が安定するまで、混合した溶液を一定時間インキュベーションした後、各種測定機器を用いて標識シグナル(I)を検出する。例えば標識物質が蛍光性物質の場合は蛍光光度計でその発光強度を測定する。薬物(X)を加えない時の標識化高分子化合物(A+P)の溶液の標識シグナルをIとする。標識化高分子化合物(A+P)に薬物(X)が相互作用すると、標識物質の周りの環境に変化が生じ、標識シグナル(I)の変化として現れる。その変化を数値として適切に評価することができる。例えば蛍光性物質による標識化の場合の評価法の一例としてI/Iで評価することができる。蛍光性物質として例えばダンシルを用いた場合、IはIよりは小さくなるためI/Iが1より小さくなる。これにより、この数値が小さいほど標識化高分子化合物(A+P)と薬物(X)の間の親和性が高いと評価することができる。NMRで検出できるものであればNMRの化学シフト値について、標識化高分子化合物(A+P)と薬物(X)との相互作用したときの標識シグナル(I)を検出し、薬物(X)を加えない時の標識化高分子化合物(A+P)の溶液の標識シグナルをIとし、シグナルの変化に基づいて相互作用を評価してもよい。

【0046】
本発明において、標識化高分子化合物(A+P)の検出方法は特に限定されないが、例えば反応容器毎に、標識シグナル(例えば、蛍光標識の場合は蛍光強度)を測定することにより、検出することができる。また、同一試料中に複数種の高分子化合物(A)が存在する場合は、高分子化合物(A)を自体公知の手段、例えばゲルろ過などの方法により分析し、得られた各画分の標識シグナルを測定することにより、検出することができる。

【0047】
相互作用確認用試薬キット(D)
本発明は、相互作用確認用試薬キット(D)にも及ぶ。試薬キット(D)の構成としては、少なくとも相互作用確認用試薬(C)を含み、さらに必要な溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水のような緩衝溶液もしくはその濃縮液や測定装置に応じた試験用セル等を加えることができる。必要な溶液は、検査に供する薬物等によっても異なるため、適宜選択することができる。

【0048】
相互作用確認用試薬キット(D)には、相互作用確認用試薬(C)を少なくとも2種以上含ませることができる。少なくとも2種以上の相互作用確認用試薬(C)には、各々異なる結合site特異的な標識化高分子化合物(P+A)を含ませることができる。これにより、当該少なくとも2種以上の相互作用確認用試薬(C)が、高分子化合物(A)の各々異なる結合site特異的に相互作用を確認しうる試薬として利用することができる。かかる相互作用確認用試薬キット(D)を用いることにより、薬物(X)が、高分子化合物(A)のどのsiteと相互作用しうるかを確認することができる。
この場合において、少なくとも2種以の相互作用確認用試薬(C)は、個別に使用してもよいし、試薬を混合して使用してもよいが、個別に使用して検査をするのがより好適である。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)ヒト血清アルブミン(HSA)の化学修飾による薬物の評価
本実施例では、高分子化合物(A)であるヒト血清アルブミン(以下、「HSA」という。)のsite 2に親和性があるイブプロフェン誘導体(式IV参照)を修飾リガンド化合物(L')として用い、HSAを特異的に化学修飾した。1,3,5-トリアジン化合物(T)として、2-クロロ-4,6-ジメトキシ1,3,5-トリアジン(CDMT)を用いた。導入した標識化合物(P)はダンシルアミン(式V参照)で、標識率約は90%であった。標識物質の標識率は文献記載(Kunishima, M.; Nakanishi, S.; Nishida, J.; Tanaka, H.; Morisaki, D.; Hioki, K.; Nomoto, H., Chem. Commun. 2009, 5597)の方法により求めた。
【実施例】
【0051】
【化4】
JP0005930286B2_000005t.gif
【化5】
JP0005930286B2_000006t.gif
【実施例】
【0052】
1)材料と方法
使用した各溶液の組成と使用量は次の通りである。
(A)HSA溶液:500 μL(HSA 66.5 mg, 1μmol: 2 mM stock solution)
(L')イブプロフェン誘導体溶液:25μL (MeOH溶液, 25μmol; 1 M stock solution)
(T)CDMT懸濁液:25μL (MeOH溶液, 25 μmol; 1 M stock solution)
(P)ダンシルアミン溶液:100μL (5% MeOH, 2μmol; 20 mM stock solution)
(その他溶液)
N,N-ジメチルエチレンジアミン(DEDA)溶液:375μL (187.5 mmol; 500 mM stock solution)、
PBS緩衝液:(pH7.4 リン酸ナトリウム緩衝溶液50 mM, NaCl 150 mM)
【実施例】
【0053】
CDMT懸濁液25 μL (25 μmol)にイブプロフェン誘導体溶液25 μL(25 μmol)を加えて30分間振とうさせて縮合剤を合成した。この溶液に450μLのPBSを加えて縮合剤溶液(10% MeOH; 50 mM stock solution)とした。HSA溶液500 μL(1 μmol)、ダンシルアミン溶液100μL (2μmol)、PBS 緩衝液 300μL、及び作製した縮合剤溶液 100μL (5μmol)を加え、振とうさせて、4℃で8時間反応させた(最終濃度はHSA: 1 mM、CDMT: 5 mM、ダンシルアミン: 2 mM)。反応後、DEDA溶液 375μL (187.5 mmol)を加えて反応を停止させ、外液に酢酸アンモニア緩衝溶液 (pH7.4、50mM)を用いて3時間透析(透析用セルロースチューブ, size: 30/32)して緩衝溶液の置換を行なった。溶液を凍結乾燥させて、ゲルろ過(SephadexTM G-15)クロマトグラフィーを行なった後、再度凍結乾燥し、標識化高分子化合物(P+A)であるダンシル標識化HSA39.14 mg(収率59%)を得た。
【実施例】
【0054】
2)薬物結合の評価
上記1)で作製したダンシル標識化HSAと各種薬物(X)との相互作用を確認した。PBS溶液にダンシル標識化HSAを含む試薬(C)(200μL, 4.8 nmol,: 24μM stock solution)に、薬物(X)含有PBS溶液(480μL, 100 eq., 480 nmol: 1 mM stock solution, 5%以下のMeOHを含む)を加えたのち、PBSで全量を800μLに合わせた(反応溶液の終濃度:標識化HSA: 6μM, 薬物: 600μM)。4 ℃で30分間振とうし、その後蛍光光度計(JASCO: FP6500)により4℃で蛍光を測定した(励起波長: 410nm, 検出蛍光波長: 510 nm, 蛍光バンド幅: 10 nm, 励起バンド幅: 5 nm, レスポンス: 0.01sec, 感度: High, 走査速度: 2000 nm/min)。
【実施例】
【0055】
各薬物(X)を加えた時のダンシル標識化HSA溶液の蛍光強度(薬物600μM のPBS溶液の蛍光強度を引いた値)を標識シグナル(I)、薬物を加えない時のダンシル標識化HSA溶液の蛍光強度(PBSの蛍光強度を引いた値)を標識シグナル(I)とした時のI/Iを評価した(表1)。5%のMeOHが蛍光強度に影響しないことは測定済みである。HSAに標識物質として付加するダンシル基は、HSAと結合している場合は疎水場の環境にあり、強い蛍光度を示す。しかしながら、薬物(X)が、当該HSAと相互作用するsiteに置き換わってHSAと相互作用した場合、ダンシル基とHSAとの結合が離れ、ダンシル基は親水場におかれることとなり標識シグナル(I)が低下する(図1参照)。その結果、I/Iが1より小さくなる。
【実施例】
【0056】
【表1】
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【実施例】
【0057】
HSAのsite 2に親和性があるイブプロフェン誘導体(式IV参照)を修飾リガンド化合物(L')として作製したダンシル標識化HSAを含む試薬(C)を用いて、各薬物(X)を加えた時のダンシル標識化HSA溶液の蛍光強度を調べた結果、表1に示すように、site 2に親和性のある化合物については、I/Iが小さくなる傾向が確認された。なお、表1はI/Iを百分率で表示してある。この結果より、ダンシル標識化HSAを含む試薬(C)に含まれるHSAのうち、site 2に親和性のある薬物(X)を確認することができた。
【実施例】
【0058】
(実験例1)
実施例1で作製したダンシル標識化HSAをキモトリプシンで消化し、LC-MALDI (ABI 4800 Plus MALDI TOF/TOF Analyzer)を用いて標識部位の探索を行なった。その結果、site 2の近傍に位置する417E(Glu)の標識化が進行していることがわかった。417E(Glu)は修飾リガンド化合物(L')であるイブプロフェン誘導体(式IV参照)を介してダンシル基がsite 2に入り込むのに十分近く、実施例1の相互作用検査でHSAのsite 2に結合する薬物(X)が蛍光減少を示した結果と一致する。このことから417E(Glu)が修飾リガンド化合物(L')による部位(site)選択的な標識部位(site 2)と考えられた(図2参照)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明の高分子化合物(A)との相互作用確認用試薬(C)を用いて検査を行うことで、薬物(X)の高分子化合物(A)に対する相互作用、例えば結合能や結合siteを簡便、高感度に評価することができる。本発明の方法によれば、(1)平衡透析法、(2)限外濾過法や(3)超遠心法のような時間を要したり、煩雑な操作を必要とせず、表面プラズモン共鳴法のような高価な機器を必要とせず、簡易型の蛍光光度計だけで測定が可能である。
さらに、複数の結合siteにすべて標識を導入した場合、薬物併用によって結合siteが変化する場合の解析が可能となり、従来達し得なかった薬物と高分子化合物、例えばタンパク質との結合解析の有力なツールとなり得る。このような標識化高分子化合物を安定に合成することができれば、相互作用確認用試薬やキットとして市販も可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
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