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明細書 :遮音構造ユニット及び同ユニットを用いた遮音構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6010747号 (P6010747)
公開番号 特開2013-195729 (P2013-195729A)
登録日 平成28年9月30日(2016.9.30)
発行日 平成28年10月19日(2016.10.19)
公開日 平成25年9月30日(2013.9.30)
発明の名称または考案の名称 遮音構造ユニット及び同ユニットを用いた遮音構造体
国際特許分類 G10K  11/16        (2006.01)
FI G10K 11/16 D
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2012-063129 (P2012-063129)
出願日 平成24年3月21日(2012.3.21)
審査請求日 平成27年3月3日(2015.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
発明者または考案者 【氏名】西村 正治
個別代理人の代理人 【識別番号】100078204、【弁理士】、【氏名又は名称】滝本 智之
審査官 【審査官】渡邊 正宏
参考文献・文献 実開昭60-036408(JP,U)
特公昭49-035441(JP,B1)
国際公開第2004/107313(WO,A1)
特開2003-041681(JP,A)
調査した分野 E04B 1/62- 1/99
G10K 11/00-13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
可撓性を有する薄いフイルム状素材により袋状に形成された密閉袋部と線条体により多数の開口部を有する形状に形成され前記密閉袋部の袋面に一体化された規制線条部とを有する遮音部材と、前記密閉袋部および前記規制線条部の各々の周端部を接合する形で前記遮音部材と一体化された保形枠体と前記密閉袋部に設けられた通気口が前記保形枠体の外部に連通するように設けられた気体供給バルブとを備え、前記線条体は前記密閉袋部に気体が封入されたとき前記密閉袋部の膨出を規制できる剛性を有する材料で形成され、前記気体供給バルブを介して前記密閉袋部内に供給された気体の圧力増により前記密閉袋部の剛性を高めることによって遮音することを特徴とする遮音構造ユニット。
【請求項2】
記気体供給バルブは、気体の供給後に止栓が圧入される逆止バルブである請求項1に記載の遮音構造ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の遮音構造ユニットを所要個数備え、保持枠体を構成する一対の枠部材が、各々の複数の開口部に前記各遮音構造ユニットの前記保形枠体をそれぞれ両側から嵌まり込ませた配置で互いに合体されてなることを特徴とする遮音構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の仕切り壁、窓口、遮音壁体、遮音扉または航空機や車両の遮音胴体として用いる遮音構造体を構成できる遮音構造ユニットおよびこの遮音構造ユニットを複数組み合わせて構成される遮音構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、遮音構造体として、遮音材として機能する鋼板の内側に吸音材を貼着したものや、2枚の鋼板の間に吸音材や水を充填したものが一般的に用いられており、いずれの遮音構造体も全体として平板状の外観を呈している。この平板状の遮音構造体の遮音性能は、一般に、その平板の一次固有振動数以下の周波数領域において、自体の剛性に対応して遮音効果が律則される剛性則と称される法則に依存するとともに、一次固有振動数以上の周波数領域において、遮音構造体の質量に対応して遮音効果が律則される質量則と称される法則に依存する。ところで、一般的な遮音構造体では、その一次固有振動数が数十Hz以下であるため、大部分の可聴音周波数領域において、遮音効果が質量則に依存する。この質量則によると、遮音構造体の面密度(単位面積当たりの質量)が大きいほど遮音構造体が振動し難いことから、遮音構造体に対する入射音波の透過損失が大きくなって遮音効果が高くなる。ところが、遮音構造体の面密度を大きくするためには、遮音構造体の厚みを大きく設定する必要があり、厚みが大きくなるのに伴って重量が増大し、遮音構造体を取り付け又は取り外すなどの取扱いが困難となる。
【0003】
上述した問題の解消を図るものとして、軽量化を図りながらも従来の平板状の遮音構造体よりも優れた遮音効果が得られる遮音構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この遮音構造体は、半球状の内部に空気を封入した気泡体が可撓性シートの片面に多数形成されてなる遮音シートを、気泡体を内側とした配置で渦巻き状に巻回することにより、全体として円柱形状としたシートロールを複数備え、これらシートロールを、一面が開口し、且つ他面が格子形状となった保持枠の内部に並べて収容し、格子状の押え枠を、前記各シートロールに圧縮力を付与しながら保持枠の他面に固定した構成になっている。この遮音構造体では、遮音シートを透過して各気泡体の内部にそれぞれ入射した音波が、気泡体の内面で多重反射して減衰するとともに互いに干渉することで音響エネルギが低減され、あるいは遮音シート自体を振動させる音響エネルギに変換されて、各気泡体が互いに密着していることから振動が減衰するとともに、互いに干渉して打ち消され、さらに、遮音シートの互いに隣接する部分の間でも入射音波が多重反射して減衰し、互いに干渉して音響エネルキが低減されるように機能する。このように、この遮音構造体は、空気を封入した気泡体を多数有するシートロールにより遮音効果を得るようになっているので、軽量化と所要の遮音効果とを共に得られるように図られている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2002-138591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の遮音構造体は、空気が封入された小さな気泡体を多数有するシートロールを、保持枠と押え枠との間で各気泡体間に隙間が殆ど無くなる状態にまで圧力を付与して収納する構成となっているから、構成が複雑であり、それに伴って製造コストが高くつく。また、保持枠と押え枠は、複数のシートロールを変形させて各気泡体が互いに密着状態となる圧力を付与するように合体させるものであるから、剛性の高い
素材(特許文献1では鉄)で形成する必要があり、剛性の高い素材は一般に重量も大きいことから、この遮音構造体は、既存のものに比較して格段の軽量化を達成できるものではない。さらに、この遮音構造体は、入射音波を各気泡体の内部で散乱させるのに加えて、入射音波により発生する各気泡体の振動が互いに干渉して打ち消しあうようになっているが、振動を完全に打ち消すことが困難であるため、残存する振動によって遮音構造体の透過側の空気粒子が振動して音波を放射してしまう。特許文献1に図示された測定結果のグラフによると、この遮音構造体により十分に遮音効果が得られるのは、入射音波の周波数が63Hz以下の周波数領域だけである。
【0006】
そこで、本願と同一出願人は、格段の軽量化と、入射音波の広範な周波数領域に対して優れた遮音効果を得ることができる遮音構造体(以下、先願の遮音構造体という)を案出し、特願2010-273130として既に出願している。この先願の遮音構造体は、可撓性を有する薄いフィルム状素材により密閉袋状に形成されて、内部に空気のような気体が所定の圧力で封入された遮音部材と、多数の開口部を有する格子状の壁面により所定の内部体積を有する偏平な箱状に形成されて、前記遮音部材が内包された保形枠体と、格子状の一対の枠部材の間に前記保形枠体を挟み込んで支持する支持枠体とを備えて構成されている。
【0007】
先願の遮音構造体は、可撓性を有する薄い密閉袋状の遮音部材が、内部に封入された気体の高い圧力により膨張して保形枠体に強く押し付けられることにより、保形枠体の各開口部に対向する部分がそれぞれ開口部の内部にまで入り込む状態に保形枠体に張り付き状態となる。その結果、遮音部材は、大きな張力が付与されて入射音波に対する剛性が格段に増大するから、剛性則に基づいて極めて振動し難い状態となり、入射音波が殆ど透過しない状態にまで透過損失が高まり、入射音波の広範な周波数領域に対して優れた遮音効果が得られる。しかも、先願の遮音構造体は、薄いフィルム状素材により密閉袋状となった遮音部材に空気などの気体を所定圧力で封入することで剛性の増大を図っているので、格段の軽量化を達成できる。
【0008】
ところが、先願の遮音構造体は、上述したような極めて顕著な効果を奏するものであるが、実用化して量産するに際しては、解決すべき課題が残存している。すなわち、遮音構造体の主体が遮音部材と保形枠体との二部材により構成されており、遮音部材を保形枠体内に内包した状態で遮音部材内に気体を封入する構造とする場合には、遮音部材として、遮音構造体に必要な大きさに対応するものを単一設ける必要があり、ユニット化することができない。一方、予め気体を封入した遮音部材を保形枠体内に内包する構造とする場合には、複数に分割したユニット化が可能であるが、何ら保持されていない遮音部材に気体を所要圧力に封入するのが困難であるうえに、気体が封入済みの遮音部材を保形枠体により所要圧力を加えながら保形枠体の内部に保持するように組み立てるための煩雑な製造工程を要するので、製造コストが高くつく。しかも、この構造では、ユニット化するに際し、何ら保持されていない遮音部材に気体を所要圧力に封入する必要から、大きな形状にすることができないので、所要の大きさの遮音構造体を構成するに際して比較的多くのユニットを組み立てる必要があり、この点からもさらに製造コストが高くつく。
【0009】
本発明は、薄い袋状の遮音部材に気体を所定圧力で封入して格段の軽量化と高い遮音効果が得られる構造としながらも、簡単な工程を経て容易、且つ安価に製造できる遮音構造ユニット及びこれを用いた遮音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の遮音構造ユニットは、可撓性を有する薄いフイルム状素材により袋状に形成された密閉袋部と線条体により多数の開口部を有する形状に形成され前記密閉袋部の袋面に一体化された規制線条部とを有する遮音部材と、前記密閉袋部および前記規制線条部の各々の周端部を接合する形で前記遮音部材と一体化された保形枠体と前記密閉袋部に設けられた通気口が前記保形枠体の外部に連通するように設けられた気体供給バルブとを備え、前記線条体は前記密閉袋部に気体が封入されたとき前記密閉袋部の膨出を規制できる剛性を有する材料で形成され、前記気体供給バルブを介して前記密閉袋部内に供給された気体の圧力増により前記密閉袋部の剛性を高めることによって遮音することを特徴としている。
【0011】
請求項2に係る発明の遮音構造ユニットは、請求項1の遮音構造ユニットにおいて、前記気体供給バルブは、気体の供給後に止栓が圧入される逆止バルブであることを特徴としている。
【0012】
請求項3に係る発明の遮音構造体は、本発明の遮音構造ユニットを所要個数備え、保持枠体を構成する一対の枠部材が、各々の複数の開口部に前記各遮音構造ユニットの前記保形枠体をそれぞれ両側から嵌まり込ませた配置で互いに合体されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る遮音構造ユニットによれば、遮音部材は、これの密閉袋部が、規制線条部により空気のような気体の供給時における膨出を規制された状態で、規制線条部と共に各々の周縁部が保形枠体に一体化されて、一部品として取り扱いできるので、部品点数の低減と容易な工程とにより安価に量産できる。また、遮音部材における薄いフィルム状素材からなる密閉袋部は、内部に供給された気体の圧力が高くなるのに伴って外方に向け膨出していくのに対し、遮音部材における規制線条部は、周縁部が保形枠体に固定されているから、外方に膨れ出る密閉袋部の膨張力を受けて延ばされることがなく、密閉袋部の膨出を所定量に規制する。その結果、密閉袋部における規制線条部の各開口部にそれぞれ囲まれる各部分は、大きな張力が付与されて入射音波に対する剛性が格段に増大し、極めて振動しがたい状態に保持される。
【0014】
これにより、遮音部材における密閉袋部に気体により大きな張力が付与される結果、遮音部材は、入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によって極めて振動し難い状態となる。これにより、この遮音構造ユニットは、入射音波が透過しない状態にまで透過損失が高まり、優れた遮音効果が得られる。また、遮音部材の密閉袋部は、規制線条部の多数の開口部で仕切られた小さな膜状体の集合と見做すことができ、この小さな膜状体の共振周波数は非常に高いものとなるから、騒音発生が問題となる広い周波数領域において剛性則に基づく高い遮音効果が得られる。更にまた、密閉袋部の膨出を規制線条部により確実に規制して、密閉袋部を、十分な張力が付与された状態として剛性を増大させることにより、振動の発生を確実に阻止して十分な遮音効果を得ることができる。
【0015】
請求項2に係る遮音構造ユニットによれば、逆止バルブを通じて気体を所定の圧力に容易に封入することができるとともに、気体の封入後に逆止バルブに止栓を圧入して閉止することにより、密閉袋部の内部を長期間にわたり所定の圧力に維持することができる。

【0016】
請求項3に係る遮音構造体によれば、単一部品として取り扱いできる所要個数の遮音構造ユニットの保形枠体を保持枠体の一対の枠部材の間に挟み込んで固定するだけの極めて簡単な工程を経て容易に製作することができ、安価に量産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る遮音構造ユニットを示す斜視図である。
【図2】(a),(b)および(c)はそれぞれ図1のA-A線拡大断面図、B-B線拡大断面図およびC-C線拡大断面図である。
【図3】図2の遮音構造ユニットの使用状態における縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る遮音構造ユニットを示す横断面図である。
【図5】同上の各遮音構造ユニットの内圧を変えたときの入射音波の周波数と挿入損失との関係を示す特性図である。
【図6】図5の特性を入射音波の周波数と透過損失との関係に変換した特性図である。
【図7】(a),(b)は本発明の第1実施形態に係る遮音構造体を示す正面図および縦断面図である。
【図8】一般的な遮音構造体における入射音波と透過損失との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳述する。図1は、本発明の第1実施形態に係る遮音構造ユニット1Aを示す斜視図である。この遮音構造ユニット1Aは、矩形の薄い袋状となった遮音部材2の周縁部が矩形状の保形枠体3の内周面部分に溶着されて、遮音部材2と保形枠体3とが一体化された構成を有している。この遮音構造ユニット1Aは、後述の遮音構造体を構成するための一構成要素としてり扱われるが、使用に際しては、保形枠体3の通気口4に嵌着された逆止バルブ(気体供給バルブ)7を介して遮音部材2の密閉袋部8内に空気を所定の圧力に予め封入される。これの詳細については後述する。

【0019】
図2(a),(b),(c)はそれぞれ図1のA-A線拡大断面図、B-B線拡大断面図およびC-C線拡大断面図である。これらの図において、遮音部材2は、可撓性を有する薄い樹脂製フィルム状素材により形成された偏平な矩形状の密閉袋部8と、図1に明示するように格子状を形作る小径の線状体が密閉袋部8の全面にわたり配置されて溶着により密閉袋部8に一体化された規制線条部9と、この規制線条部9よりも大径の線状体が互いに交差して縦横に各2本ずつ配置された状態で溶着により密閉袋部8に一体化された補強線条部10とを有した一体物である。したがって、規制線条部9および補強線条部10は、密閉袋部8に対しこれの全面にわたり溶着されて、位置ずれしない状態で一体化されている。

【0020】
上述した構成を有する遮音部材2は、例えば、以下のような製作過程を経て容易に製造することができる。すなわち、規制線条部9および補強線条部10は、密閉袋部8の成形加工に先立って、密閉袋部8の加工素材の樹脂に比べて硬質の樹脂を用いた成形加工を行うことにより、所要の径の線状体が格子状を形作る形状に予め製作する。この規制線条部9および補強線条部10を密閉袋部8を成形加工するための成形金型の内部に所要の配置で挿入して、その成形金型に例えば軟質樹脂を注入して密閉袋部8のインサート成形を行うことにより、密閉袋部8、規制線条部9および補強線条部10が溶着により互いに一体化される。但し、この製造段階での遮音部材は、規制線条部9および補強線条部10を一体に有する密閉袋部8が矩形の単なるシート状である。

【0021】
上述のシート状の遮音部材は、密閉袋部8を二つ折りにして折り重ねた状態、または同一の密閉袋部8を二枚重ねにした状態で、この遮音部材の矩形の周縁部を、保形枠体3を成形加工するための成形金型の内部に挿入して、その成形金型に溶融樹脂を注入して保形枠体3のインサート成形を行う。これにより、遮音部材2は、矩形の二枚重ねの周縁部が互いに溶着して密閉袋部8が形成され、且つ当該周縁部が保形枠体3に溶着により一体化される。尚、逆止バルブ7は、図2に示すように、遮音部材2の二枚重ねの周縁部の間に挟み込んだ状態で保形枠体3の成形金型内に挿入して保形枠体3のインサート成形を行うことにより、保形枠体3に一体化される。

【0022】
また、遮音部材2は、同一の成形樹脂による一回の成形加工により密閉袋部8、規制線
条部9および補強線条部10を一体成形することもできる。その場合、規制線条部9および補強線条部10は、後述するように密閉袋部8に空気が所定圧力に封入される際に密閉袋部8の膨出を十分に阻止できる剛性が得られる径を有する線条体とする必要があり、それに対応した形状の成形金型を用いて成形加工する。

【0023】
つぎに、この実施形態の遮音構造ユニット1Aの遮音作用の説明に先立って、この遮音構造ユニット1Aを案出するに至った着眼点について説明する。有限の大きさを有するパネル体における音の透過は、パネル体への入射音波によってパネル体自体が振動し、その振動によってパネル体の透過側の空気粒子が振動することにより、透過側に音波を放射することによって生じる。ここで、入射音の音響インテンシティをIi、透過音の音響インテンシティをIoとすると、音の透過率τは、τ=Io/Iiとなり、音の透過損失TLは、TL=10log(1/τ)で定義される。透過損失TLが大きいほど大きな遮音効果が得られることから、パネル体の遮音効果を増大させるには、入射音波に対してパネル体が振動し難い状態とすればよいことになり、この点に着目した。

【0024】
一般に、有限の大きさを有するパネル体の透過損失は、前述の質量則の法則に依存し、図8に二点鎖線で示すように、パネル体の面密度(単位面積当たりの質量)が大きくなるのに伴ってパネル体が振動し難くなることから、図8の周波数領域Bに示すように、高い周波数ほど透過損失が大きくなる。有限の大きさを有するパネル体は必ずその一次共振周波数fr1を持ち、その一次共振周波数fr1で非常に振動し易くなって透過損失が小さくなる。その一次共振周波数fr1以下である図8の周波数領域Aでは、パネル体の振動し易さがパネル体自体の剛性に依存し、入射音波の周波数が小さくなるにしたがって透過損失が大きくなる。この現象は剛性則と称される法則である。したがって、重量の増大を招く面密度を大きくすることなしに、換言すれば、質量則に依存せずに大きな透過損失を得るには、剛性を高めて振動し難くすればよいことになり、この技術思想を具現化したのが第1実施形態の遮音構造ユニット1Aである。

【0025】
つぎに、この第1実施形態の遮音構造ユニット1Aの遮音作用について詳述する。図2に示す未使用の遮音構造ユニット1Aは、使用に際して、供給ホース(図示せず)を逆止バルブ7に嵌入した状態でポンプ(図示せず)を駆動して、遮音部材2の密閉袋部8内に空気を封入する。この空気を封入する際には、密閉袋部8内の空気の圧力を圧力計で計測して、所定の圧力に調整する。この遮音構造ユニット1Aは、遮音部材2の密閉袋部8が規制線条部9により空気の供給時の膨出を規制された状態で保形枠体3に一体化され、且つ逆止バルブ7を備えている。そのため、この遮音構造ユニット1Aは、空気を所定の圧力に容易に封入することができるとともに、空気の封入後に逆止バルブ7に止栓(図示せず)を圧入することにより密閉袋部8の内部を長期間にわたり所定の空気圧に維持することができる。

【0026】
このとき、図3に示すように、遮音部材2における薄いフィルム状素材からなる密閉袋部8は、内部に供給された空気11の圧力が高くなるのに伴って外方に向け膨出していく。これに対し、遮音部材2における規制線条部9は、密閉袋部8よりも格段に高い剛性を有して、格子形状を形作る周端部が保形枠体3に固定されているから、外方に膨れ出る密閉袋部8の膨張力を受けて延ばされることがなく、密閉袋部8の膨出を所定量に規制する。そのため、密閉袋部8は、規制線条部9における線条体により格子形状を形作る多数の開口部に対向する部分がそれぞれ開口部の内部に入り込む変形状態で規制線条部9に規制される。また、密閉袋部8は、空気11による最も大きな圧力を受ける中央部分が外方へ膨れ出ようとするのが補強線条部10によって確実に阻止されている。

【0027】
このようにして、遮音部材2における密閉袋部8に大きな張力が付与される結果、遮音部材2は、図3に矢印で示す入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によっ
て極めて振動し難い状態となる。これにより、この遮音構造ユニット1Aは、入射音波が透過しない状態にまで透過損失が高まり、優れた遮音効果が得られる。また、遮音部材2の密閉袋部8は、格子状を形作る多数の開口部で仕切られた小さな矩形状の膜状体の集合と見做すことができ、この小さな膜状体の共振周波数は非常に高いものとなるから、騒音発生が問題となる広い周波数領域において剛性則に基づく高い遮音効果が得られる。また、保形枠体3の共振周波数に相当する音波が入射した場合には、その共振周波数による透過損失が若干落ち込むが、保形枠体3による振動減衰も大きいため、透過損失の大きな落ち込みが生じない。

【0028】
図4は本発明の第2実施形態に係る遮音構造ユニット1Bを示す横断面図である。この遮音構造ユニット1Bが第1実施形態のものに対する主な相違点は、遮音部材12の規制線条部19が、針金のような金属製の線状体により格子状に形成されていることである。この規制線条部19を、密閉袋部18を成形加工するための成形金型内に挿入した状態で、インサート成形を行って矩形シート状のユニット素体を製作する。このユニット素体を、密閉袋部18となる部分が互いに内側となる配置で2枚重ねとし、その周縁部を溶着することにより遮音部材12が形成されている。この遮音部材12は、これの周縁部が保形枠体13の一対の枠部材13A,13Bの間に挟み込まれた状態で両枠部材13A,13Bが互いに接合されることにより、保形枠体13に一体化されている。この遮音構造ユニット1Bでは、高い剛性を有する金属製の規制線条部19を備えていることから、第1実施形態の補強線条部10が割愛できるとともに、規制線条部19を、大きな開口面積の開口部を有する格子形状とすることができる。この遮音構造ユニット1Bにおいても、第1実施形態のものとほぼ同等の遮音効果を得ることができる。

【0029】
第1実施形態の遮音構造ユニット1Aの遮音効果を確認するための実験を行い、図5に示すような測定結果を得た。その実験は、実験用の遮音構造ユニット1Aとして、遮音部材1の密閉袋部8内に空気を互いに異なる圧力、具体的には250Pa、100Pa、25Paの圧力でそれぞれ封入した3種類のものを予め用意し、これらの遮音構造ユニット1Aを、同一径の二つのパイプの間に順次挟み込むように配置した。各々の遮音構造ユニット1Aを二つのパイプの間に挟み込む毎に、音源から一定の出力で発生音を一方のパイプに入射し、他方のパイプから出力する放射音を測定した。図5は、実験の測定結果に基づいて、遮音構造ユニット1Aを配置しないときの放射音と、順次変更して配置した互いに異なる空気圧の各遮音構造ユニット1Aの各々の放射音との音圧スペクトルの差を挿入損失として算出し、入射音波の周波数に対する挿入損失の関係を表したものである。図5のH、M、Lの各特性曲線は、空気圧がそれぞれ250Pa、100Pa、25Paに設定された各遮音構造ユニット1Aに対する測定結果である。この挿入損失は、遮音構造ユニット1Aを配置しない場合に対して遮音構造ユニット1Aを配置することで得られる遮音量に相当するから、遮音部材2の空気圧が高くなるのに伴って密閉袋部8の剛性が高くなり、遮音量が増大することが判明した。

【0030】
図6は、図5の入射音波の周波数と挿入損失の関係を入射音波の周波数と透過損失との関係に変換して遮音部材2の空気圧による遮音効果を定性的に表したものである。図6のh、m、lの各特性曲線は、空気圧がそれぞれ250Pa、100Pa、25Paに設定された各遮音部材2に対する測定結果であり、zの特性曲線は空気圧が0に設定された遮音部材2に対する測定結果である。図6から明らかなように、遮音部材2の空気圧が高く設定されるのに伴って遮音部材2の密閉袋部8の剛性が高くなっていき、それに対応して遮音効果が確実に増大することが確認できた。特に、この遮音構造ユニット1Aは、既存の遮音構造体において大きな遮音効果が得られ難い低周波領域での入射音波に対して大きな遮音効果が得られることも確認できた。この遮音構造ユニット1Aでは、遮音部材2を任意の空気圧に設定することにより、図6に示すような所望の周波数特性を持つ透過損失が得られるように設定することができる。尚、第2実施形態の遮音構造ユニット1Bを用
いた実験においても図5および図6に示す特性曲線とほぼ同等の遮音効果を得ることができた。

【0031】
上述した実施形態の遮音構造ユニット1A,1Bは、密閉袋部8,18を有する遮音部材2,12が保形枠体3,13内に嵌め込む配置で一体化されただけのものであるから、上述した特許文献1の遮音構造体のように、空気を封入した気泡体が多数形成された可撓性の遮音シートを渦巻き状に巻回して円柱状としたシートロールを保持枠と押え枠とで挟み込んで圧縮力を付与する構造に比較して、構成が格段に簡素化されているのに伴って安価なものになっている。また、この遮音構造ユニット1A,1Bは、先願の遮音構造体のように別体の遮音部材を保形枠体に内包した状態を支持部材で挟み込むことにより固定する構造に比較して、遮音部材2,12と保形枠体3,13とが一体化された単一部品として取り扱いできることから、後述の遮音構造体を、部品点数の低減と製造工程の簡略化とに伴って安価な製造コストで量産化することが可能となる。尚、遮音部材2の規制線条部9,19は、実施形態で例示した格子形状に限らず、三角形や六角形が連続した形状としてもよく、要は多数の開口部を有する形状であればよい。この遮音構造ユニット1A,1Bは、規制線条部9,19における開口部の開口面積や全体の大きさを種々に変えることにより、効果的に遮音できる周波数をチューニングすることができる。

【0032】
図7(a),(b)は、遮音構造ユニット1Aを複数用いて構成された本発明の1実施形態の遮音構造体20を示す正面図および縦断面図である。この遮音構造体20は、空気が所定の圧力に封入された複数の遮音構造ユニット1Aが、保持枠体21を構成する一対の保持枠21a,21bの間に挟み込まれて保持された状態で、一対の保持枠21a,21bが合体された構造になっている。一対の保持枠21a,21bは、各々の対向内面の外周縁から一体に突設された連結突部21c,21dが互いに当接して連結具22で連結されているとともに、各枠部材21a,21bの格子状を形作る桟部21e,21fも互いに当接している。したがって、この保持枠体21は、桟部21e,21fにより正方形に区画された複数の開口部が形成されており、その開口部にそれぞれ、空気が所定圧力に封入された複数の遮音構造ユニット1Aが嵌め込まれた状態で固定されている。なお、前記開口部は正方形に限らず遮音構造ユニットの形状に合わせることはいうまでもない。各遮音構造ユニット1Aは、保持枠体21の両枠部材21a,21bの連結突部21c,21dの内面および各桟部21e,21fの先端面近傍の両側部からそれぞれ一体に突設された固定突部21g,21hにより、自体の外周縁部が両側から挟み込まれる状態で固定化されている。

【0033】
この遮音構造体20は、単一部品として取り扱いできる所要個数の遮音構造ユニット1Aを保持枠体21の一対の枠部材21a,21bの間に挟み込んで固定するだけの極めて簡単な工程を経て容易に製作することができるから、安価に量産化することが可能である。なお、第1実施形態の遮音構造体20は、保持枠体21の一対の枠部材21a,21bを合体する構造になっているが、この構造に代えて、複数の保持孔を有する一体構成の保持枠体を設け、この保持枠体の各保持孔にそれぞれ遮音構造ユニット1Aを嵌め込んで固定する構成とすることもできる。

【0034】
なお、本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのような形態も本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の遮音構造ユニットを用いて構成する遮音構造体は、部屋の仕切り壁や窓口の遮蔽体として好適に用いられる他に、軽量で高い遮音効果が要求される航空機や車両の胴体部分にも好適に採用することができ、さらに、住宅の壁や天井などの構成にも用いること
ができる。
【符号の説明】
【0036】
1A,1B 遮音構造ユニット
2,12 遮音部材
3,13 保形枠体
7 逆止バルブ(気体供給バルブ)
8,18 密閉袋部
9,19 規制線条部
11 空気(気体)
20 遮音構造体
21a,21b 枠部材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
7