TOP > 国内特許検索 > 移植片対宿主疾患の検査および治療方法 > 明細書

明細書 :移植片対宿主疾患の検査および治療方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5403752号 (P5403752)
登録日 平成25年11月8日(2013.11.8)
発行日 平成26年1月29日(2014.1.29)
発明の名称または考案の名称 移植片対宿主疾患の検査および治療方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  30/72        (2006.01)
G01N  30/88        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
FI G01N 33/53 D
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
G01N 30/72 C
G01N 30/88 J
G01N 27/62 V
A61K 39/395 U
A61P 37/06
請求項の数または発明の数 7
全頁数 22
出願番号 特願2009-520345 (P2009-520345)
出願日 平成20年6月23日(2008.6.23)
国際出願番号 PCT/JP2008/001625
国際公開番号 WO2009/001545
国際公開日 平成20年12月31日(2008.12.31)
優先権出願番号 2007165547
優先日 平成19年6月22日(2007.6.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月15日(2011.6.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
発明者または考案者 【氏名】堀 司
【氏名】小海 康夫
【氏名】苗代 康可
【氏名】堤 裕幸
【氏名】今井 浩三
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100106840、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 耕司
【識別番号】100105991、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 特表2003-521927(JP,A)
Blood, 2008.04.15,Vol.111, No.8, Page.4403-12
Journal of immunology, 2004, Vol.172,No.2, Page.767-775
Blood, 2006,Vol.108, No.11, Part 1, Page.910A
Blood, 2006, Vol. 108, No. 11, Part 1,Page.814A-815A
Transplant Immunology, Vol.15, No.4, 2006, Page.247-253
日本免疫学会総会・学術集会記録, 1998, Vol.28, Page.152 3-A4-111
Journal of Urology, 2004, Vol.171,No.4 Supplement, Page.490 1854
American Journal of Pathology (2004), 164(6), 2189-2202
Journal of Bacteriology and Virology,2003年,Vol.33, No,4, Page.317-327
調査した分野 G01N 33/53
A61K 39/395
A61P 37/06
G01N 27/62
G01N 30/72
G01N 30/88
G01N 33/15
G01N 33/50
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
移植片対宿主疾患を検査するための方法であって,被験者または被検動物から得た試料中のCCL8蛋白質の量を測定し,得られた測定値を移植片対宿主疾患の診断または経過の指標とすることを特徴とする方法。
【請求項2】
移植片対宿主疾患の診断が移植片対宿主疾患の臨床症状の発症前に行われる,請求項1記載の方法。
【請求項3】
CCL8蛋白質の量が抗CCL8抗体を用いて測定される,請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
CCL8蛋白質の量が,質量分析計,高速液体クロマトグラフィーおよび2次元電気泳動からなる群より選択される方法を用いて測定される,請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
抗CCL8抗体を含む移植片対宿主疾患の検査薬。
【請求項6】
移植片対宿主疾患の治療薬の候補物質を選択する方法であって,
移植片対宿主疾患のモデル動物に試験物質を投与し,
前記モデル動物から得た試料中のCCL8蛋白質の量を測定し,そして,
試験物質を投与したときに投与していないときと比較してCCL8蛋白質の量が低い場合に,その試験物質を移植片対宿主疾患の治療薬の候補物質として選択する,
の各工程を含む方法。
【請求項7】
抗CCL8抗体を有効成分として含む,移植片対宿主疾患を治療するための医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は,日本特許出願2007-165547(2007年6月22日出願)に基づく優先権を主張しており,この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は,移植片対宿主疾患を検査するための方法および試薬,ならびに治療方法および治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation:HSCT)は,他人の造血幹細胞を患者に移植してその造血機能および免疫機能を再構築させる療法であり,広範な種類の血液,腫瘍,代謝および免疫疾患の治療法として確立している。最近20年間に移植後免疫抑制療法は著しく進歩したが,移植片対宿主疾患(Graft Versus Host Disease;GVHD)は依然として生命にかかわる重大な移植後合併症である。HSCTのレシピエント(患者)の30-80%は,免疫抑制剤を用いた予防法にもかかわらず,GVHDを発症する。したがって,GVHDを早期に診断し,早期に治療を開始し,治療効果を客観的にモニターすることが望ましい。また現在の治療法では完治しないことがあり,新たな治療方法の開発が望まれる。GVHDの発症率,診断,治療については,Sullivanら(Sullivan KM. Graft vs. host disease. In: Blume KG, Forman SJ, Appelbaum FR, eds. Thomas’ Hematopoietic Cell Transplantation. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell Publishing; 2004:635-664)を参照されたい。
【0004】
しかしながら,現在のところ,GVHDの診断は,主として皮膚発疹,高ビリルビン血症,下痢などの臨床徴候に基づいて行われており,GVHDを他の類似する合併症(静脈閉塞病,ウイルスの再活性化,毒性に関連する治療計画など)から区別しうる決定的なバイオマーカーは存在しない。このため,GVHDの鑑別診断には臓器生検などの侵襲的方法が必要である。しかし,生検は侵襲的でしかも主観的な診断方法である。したがって,生検に頼ることなく,初期に正確・客観的で定量的な診断を与え,GVHDの適切な治療およびHSCTの転帰の改善を可能とする新たな方法の開発が求められている。
【0005】
最近のプロテオミクスの進歩は,生物学的液体中における蛋白質の広範囲な発現を調べ,疾病または病的状態における新規なバイオマーカーを同定するいくつかの手法を提供する。これらの手法の1つは表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析器(SELDI-TOF MS)であり,これは,血漿等の複雑な組成の体液から蛋白質を分離して比較蛋白質プロファイルを生成するための,ハイスループットでありかつ感度の高いプロテオミクス的アプローチである。Petricoinら(Petricoin EF, Ardekani AM, Hitt BA, et al. Use of proteomic patterns in serum to identify ovarian cancer. Lancet. 2002;359:572-577)は,SELDIを用いたプロテオミクス解析による卵巣癌バイオマーカーについて報告している。SELDIにおいては,生物学的サンプルから得た蛋白質を,プロテインチップ(Ciphergen Biosystems,Fremont CA)上の化学的に修飾したアフィニティー表面に選択的に結合させ,非特異的に結合した不純物を洗い流す。次に,捕捉された蛋白質をTOF-MSにより分析して,各蛋白質の分子量(m/z)および相対濃度(強度)のスペクトルを生成する。最近の研究では,この技術を癌および他の疾病の診断に適用して,成功している。
【0006】
GVHDにおけるヒトの体液のプロテオミクス分析についても報告がある。しかし,ヒトの臨床試料を用いた実験では,遺伝的背景および環境により影響されるアーチファクトを回避することができず,このことが新規のバイオマーカーの発見を困難にしている。特にHSCT後の患者においては,広範な種類の既存疾病,調整的養生計画,GVHD予防法などが存在するため,これまでのところ,プロテオミクス分析を含めた生化学的方法に基づいて有用なマーカーが見いだされたという報告はない。例えば,Kaiserら(Kaiser T, KamalH, Rank A, et al. Proteomics applied to the clinical follow-up of patients after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Blood. 2004;104:340-349)は,尿を材料としてプロテオミクス解析によるGVHDのマーカーの検討を報告している。2つのタンパク質(リューコトリエン;炎症メディエーター,血清アルブミン;血清でもっとも多いタンパク質)が同定されたが,GVHD特異的なタンパク質は見つからなかった。
【0007】
本明細書において引用される参考文献は以下のとおりである。これらの文献に記載される内容はすべて本明細書に参照として取り込まれる。これらの文献のいずれかが,本明細書に対する先行技術であると認めるものではない。

【非特許文献1】Sullivan KM. Graft vs. host disease. In: Blume KG, Forman SJ, Appelbaum FR, eds. Thomas’ Hematopoietic Cell Transplantation. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell Publishing; 2004:635-664
【非特許文献2】Petricoin EF, Ardekani AM, Hitt BA, et al. Use of proteomic patterns in serum to identify ovarian cancer. Lancet. 2002;359:572-577
【非特許文献3】Kaiser T, KamalH, Rank A, et al. Proteomics applied to the clinical follow-up of patients after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. Blood. 2004;104:340-349
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,移植片対宿主疾患を検査する方法,かかる方法に用いる検査薬,ならびに治療方法および治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,移植片対宿主疾患を発症しているモデル動物と対照との間で異なるように発現されている蛋白質を広範囲に調べたところ,移植片対宿主疾患ではCCL8の発現量が有意に上昇していることを発見し,さらに移植片対宿主疾患の臨床症状の発症および経過とCCL8の発現量とが相関することを見い出して,本発明を完成した。
【0010】
すなわち,本発明は,移植片対宿主疾患を検査するための方法であって,被験者または被検動物から得た試料中のCCL8蛋白質の量を測定し,得られた測定値を移植片対宿主疾患の診断または経過の指標とすることを特徴とする方法を提供する。好ましくは,移植片対宿主疾患の診断は移植片対宿主疾患の臨床症状の発症前に行われる。
【0011】
本発明の方法においては,好ましくは,CCL8蛋白質の量は抗CCL8抗体を用いて測定する。また好ましくは,CCL8蛋白質の量は,質量分析計(MS),高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および2次元電気泳動からなる群より選択される方法を用いて測定される。
【0012】
本発明はまた,抗CCL8抗体を含む移植片対宿主疾患の検査薬を提供する。
【0013】
本発明はさらに,移植片対宿主疾患の治療薬の候補物質を選択する方法を提供する。この方法は,移植片対宿主疾患のモデル動物に試験物質を投与し,前記モデル動物から得た試料中のCCL8蛋白質の量を測定し,そして,試験物質を投与したときに投与していないときと比較してCCL8蛋白質の量が低い場合に,その試験物質を移植片対宿主疾患の治療薬の候補物質として選択する,の各工程を含む。
【0014】
本発明はまた,抗CCL8抗体を有効成分として含む,移植片対宿主疾患を治療するための医薬組成物を提供する。本発明はさらに,移植片対宿主疾患を治療する方法であって,移植片対宿主疾患を有する被験者に抗CCL8抗体を投与することを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にしたがえば,移植片対宿主疾患の発症および経過を高い信頼性をもって診断することができ,本発明の方法により従来主観的であった診断が客観的定量的で,より正確な診断が可能となる。さらに,本発明にしたがえば,移植片対宿主疾患を治療すること,特に既存の治療方法に抵抗性の患者において移植片対宿主疾患を治療することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は,マウスGVHDモデルの臨床症状と病理学的スコアの経時変化を示す。
【図2】図2は,GVHDモデルマウスから得たサンプルの代表的なSELDIスペクトル,および各時点におけるサンプル中の8972Daピークの平均正規化強度値を示す。
【図3】図3は,CsA投与モデルマウスから得たサンプルの代表的なSELDIスペクトル,および各時点におけるサンプル中の8972Daピークの平均正規化強度値を示す。
【図4】図4は,同種移植モデルマウスから得たサンプルの代表的なSELDIスペクトル,および各時点におけるサンプル中の8972Daピークの平均正規化強度値を示す。
【図5】図5は,8972Daの蛋白質を含むHPLC画分のSELDIスペクトルおよび2D電気泳動の結果を示す。
【図6】図6は,8972Daの蛋白質から分離されたペプチドの代表的MS/MSスペクトルおよび同定されたアミノ酸配列を示す。
【図7】図7は,イムノアッセイによるCCL8蛋白質の検出を示す。
【図8】図8は,ヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質レベルの経時変化を示す。
【図9】図9は,ヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質レベルの経時変化を示す。
【図10】図10は,ヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質の検出を示す。
【図11】図11は,複数のヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質の検出を示す。
【図12】図12は,ヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質レベルの経時変化を示す。
【図13】図13は,ヒト臨床サンプルにおけるCCL8蛋白質レベルの経時変化を示す。
【図14】図14は,TLRリガンドを投与したマウスとGVHDマウスにおけるCCL8の蛋白質レベルを示す。
【図15】図15は,マウスGVHDモデルの臨床症状とCCL8蛋白質レベルの経時変化を示す。
【図16】図16は,抗CCL8抗体を投与したマウスGVHDモデルの組織染色を示す。
【図17】図17は,マウスGVHDモデルにおける抗CCL8抗体の治療効果の病理学的評価を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は,被験者の血液などの被検試料におけるCCL8の発現量を測定することにより,移植片対宿主疾患を診断し,経過をモニタリングする方法を特徴とする。下記の実施例に具体的に示されるように,骨髄移植や臍帯血移植を受けた患者のうち,移植片対宿主疾患を発症している患者ではCCL8の発現量が有意に高いこと,および移植片対宿主疾患の臨床症状の発症とCCL8の発現との間に相関があることが認められた。
【0018】
CCL8とは,ケモカイン・ファミリーに属する塩基性ヘパリン結合性分泌蛋白質であり,MCP-2とも称される(GenBank Accession No. NP_005614)。この蛋白質は,単球,線維芽細胞,上皮細胞などで産生され,レセプターとして,CCR2,CCR3,CCR5およびCCR11に結合することが知られている。CCL8は,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,単球,NK細胞,好酸球,好塩基球などを標的細胞とすることが明らかにされている。移植片対宿主疾患は,造血幹細胞移植後3つの段階を経て発症すると考えられている。第1段階は,造血幹細胞移植のための宿主(患者)の準備としての放射線照射を含むプレコンディショニング,第2段階は移植T細胞の活性化,増殖,分化,第3段階は,細胞性または炎症性エフェクターの出現である(この機構については,以下の2編の総説を参照;Reddy P. Pathophysiology of acute graft-versus-host disease. Hematol Oncol. 2003;21:149-161., Ferrara JL, Reddy P. Pathophysiology of graft-versus-host disease. Semin Hematol. 2006;43:3-10.)。第2段階では,移植T細胞の活性化に樹状細胞が抗原提示することが必須である。この樹状細胞の分化増殖活性化にCCL8を含むケモカインが重要な働きをする(第2段階におけるケモカインの重要性については,以下を参照;Wysocki CA, Panoskaltsis-MortariA, Blazar BR, Serody JS. Leukocyte migration and graft-versus-host disease. Blood. 2005;105:4191-4199.)。しかしながら,生体内におけるCCL8の役割や免疫系の調節におけるその意義は十分に解明されていない。したがって,本発明において見いだされたCCL8の発現と移植片対宿主疾患との相関のメカニズムは現在のところ不明である。
【0019】
CCL8蛋白質の量を測定すべき被検試料としては,被験者または被検動物から得た体液,血液,血清,血漿などを用いることができる。また,被験者から採取された組織や細胞を用いてもよい。
【0020】
被験者から得た試料におけるCCL8蛋白質の量は,抗CCL8抗体を用いて,当該技術分野においてよく知られる免疫学的測定法を用いて測定することができる。抗CCL8抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。各種の抗CCL8ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が市販されており,それらのいずれの抗体も本発明において用いることができる。
【0021】
あるいは,抗体は当該技術分野においてよく知られる方法により作成してもよい。CCL8に結合するポリクローナル抗体は,CCL8またはそのペプチド断片を感作抗原として用いて動物を免疫し,免疫した動物から抗体を含有する抗血清を単離し,ELISAアッセイ,ウエスタンブロット分析,またはラジオイムノアッセイ等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて,所望の特異性を有する抗体の存在を確認することにより得ることができる。
【0022】
CCL8に結合するモノクローナル抗体は,当該技術分野においてよく知られる方法にしたがって,CCL8またはそのペプチド断片を感作抗原として用いて動物を免疫し,得られる免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞と融合させ,抗体を産生するハイブリドーマを選択してクローニングし,このハイブリドーマを培養することにより得ることができる。
【0023】
本発明において用いられる抗CCL8モノクローナル抗体には,ハイブリドーマにより産生される抗体に加えて,抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換え抗体が含まれる。遺伝子組み換え抗体は,CCL8に結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマから抗体をコードするcDNAをクローニングし,これを発現ベクター中に挿入して,動物細胞,植物細胞などを形質転換し,この形質転換体を培養することにより製造することができる。また,トランスジェニック動物に抗CCL8抗体をコードする遺伝子を導入して,トランスジェニック動物で抗CCL8抗体を産生させることができる。
【0024】
ヒト患者を治療する目的で用いる場合には,本発明にしたがう抗CCL8抗体はヒト型キメラ抗体またはヒト化抗体であることが好ましい。ヒト型キメラ抗体は,ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域と,ヒト抗体の重鎖定常領域および軽鎖定常領域から構成される抗体である。ヒト化抗体は,ヒト以外の動物由来抗体の相補性決定領域(CDR)と,ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)およびC領域から構成される。ヒト型キメラ抗体およびヒト化抗体は,ヒト体内における抗原性が低下しているため,本発明の医薬組成物の有効成分として有用である。ヒト型キメラ抗体およびヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法ならびにこれらの抗体の結合活性を評価する方法は,当該技術分野においてよく知られている。あるいは,ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物にCCL8を投与することによって,抗CCL8ヒト抗体を得ることもできる。
【0025】
さらに,本発明においては,抗体断片を用いることもできる。抗体断片とは,全長の抗CCL8抗体の一部が欠失しているがCCL8に対する結合能を有するペプチドをいう。抗体断片の例としては,例えば,Fab,Fab',F(ab')2,Fvなどを挙げることができる。抗体断片は,抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。さらに,本発明の抗体断片には,抗CCL8抗体のVL鎖とVH鎖をリンカー等で連結することにより構築される抗体断片やその二量体,例えば,scFv,ダイアボディー,sc(Fv)2なども含まれる。
【0026】
このようにして得られた抗体を用いて,免疫学的方法により,被験者または被検動物から得た試料中のCCL8蛋白質を測定する。測定は,定性的であっても定量的であってもよい。被験者から得たCCL8の発現の免疫学的測定は,例えば,ラジオイムノアッセイ,ELISA,免疫沈降法,免疫凝集法,ウエスタンブロット等を用いて行うことができる。
【0027】
例えば,典型的な例として,以下のようにしてサンドイッチELISAを行うことができる。被験者の末梢血を採血して血漿を調製し,これを抗CCL8抗体を固定化したプレートまたはチップに加え,適当な時間インキュベートする。プレートまたはチップを洗浄して未結合成分を除去した後,別の抗CCL8抗体を加える。この抗体は,酵素,蛍光色素,化学発光物質,ビオチン,放射線化合物等により検出可能なように標識することができる。適当な時間インキュベートした後,プレートまたはチップを洗浄し,蛍光,発光,放射活性等を測定することにより,標識を検出する。あるいは,抗CCL8抗体を結合させた後,二次抗体(例えばヤギ抗マウス抗体)を加えてシグナルを増強してもよい。二次抗体は,酵素,蛍光色素,化学発光物質,ビオチン,放射線化合物等により検出可能なように標識することができる。このようにして,被験者から得た血漿におけるCCL8蛋白質の量を測定することができる。
【0028】
別の態様においては,凝集反応を利用した検出方法を用いてCCL8蛋白質を検出することができる。この方法においては,抗CCL8抗体を結合させた担体,例えばラテックス粒子を用いてCCL8を検出することができる。抗CCL8抗体を結合させたラテックス粒子を試料と混合して一定時間インキュベートすると,試料中にCCL8が含まれる場合には粒子が凝集する。この凝集の程度を肉眼で観察するか,または分光光度計を用いて定量することにより,試料中のCCL8を検出することができる。
【0029】
別の態様においては,表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いてCCL8蛋白質を検出することができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは,蛋白質-蛋白質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてモニターすることが可能である。例えば,BIAcore(Pharmacia製)等のバイオセンサーを用いることにより,CCL8蛋白質と抗CCL8抗体の結合を検出することができる。具体的には,抗CCL8抗体を固定化したセンサーチップに,被検試料を接触させ,抗CCL8抗体に結合するCCL8蛋白質を共鳴シグナルの変化として検出することができる。
【0030】
あるいは,CCL8蛋白質は,実施例2に示されるように,被検試料を金属キレート剤やヘパリン等のアフィニティー担体を用いて粗精製(濃縮)した後に,MSにより検出および定量してもよい。また,実施例3に示されるように,HPLCにより検出および定量してもよく,2次元電気泳動をした後に銀染色により検出および定量してもよい。
【0031】
本発明はまた,抗CCL8抗体を含む移植片対宿主疾患検査薬を提供する。本発明の移植片対宿主疾患検査薬は,検査キットの形で提供することができる。検査キットは,CCL8の検出のための試薬,例えば,抗CCL8抗体を有効成分として含む。また,このキットは,測定に必要な適当な試薬類,例えば緩衝液,希釈液,反応停止液,洗浄液,コントロール標品などをさらに含んでいてもよい。
【0032】
本発明においては,このようにして測定されたCCL8蛋白質の量を指標として,移植片対宿主疾患の検査を行うことができる。本発明の方法にしたがえば,目視や下痢量の観察ではなく,CCL8蛋白質をマーカーとして,移植片対宿主疾患を客観的に診断することができ,移植片対宿主疾患の発症および経過をモニタリングすることができる。本発明の検査方法は,例えば,移植片対宿主疾患の発症前の診断(早期診断),発症の確定診断,重篤度の判定,疾患の経過のモニタリング,治療効果の判定,および予後の予測に有用である。特に,図14において示されるように,CCL8蛋白質の発現量はTLR(Toll-like receptor)を介した経路によっては上昇しないため,CCL8蛋白質をマーカーとして用いることにより,移植片対宿主疾患と細菌やウイルス感染とを鑑別診断することが可能である。
【0033】
下記の実施例において示されるように,移植片対宿主疾患を発症している患者におけるCCL8の発現量は,発症前と対比して有意に上昇している。実施例8においては,骨髄移植モデルマウスにおいて,CCL8の発現量は移植片対宿主疾患の臨床徴候が認められる2日前から上昇し始めたことが示された。さらに,図8および9に示されるように,CCL8の発現量は,ヒト患者においても,移植片対宿主疾患の臨床徴候が観察される前から上昇し始めており,このことは,本発明の方法にしたがって移植片対宿主疾患の早期診断が可能であることを示す。また,本発明の方法は,治療効果の判定にも有用である。図8および9に示されるように,治療によって移植片対宿主疾患の臨床徴候が改善されるとともに,CCL8の発現量が低下することが観察された。治療抵抗性GVHDにおいては通常のメチルプレドニゾロン治療では効果がなく,さらに厳しい治療を施す必要があるが,そのような治療は副作用が強いため,本発明の方法によって治療効果を適切にモニタリングしながら,投与量を調節したり処置を施すことは有益である。
【0034】
また,図11に示されるように,CCL8の発現量は移植片対宿主疾患の重篤度や予後と相関するため,本発明の方法にしたがって,重篤な患者を早期に発見して適切に対処した治療を行うことが可能になる。
【0035】
さらに,本発明の方法は,移植片対宿主疾患の治療法の開発および改良にも有用である。図11に示されるように,CCL8の発現量の検査によって治療抵抗性GVHD症例を持った患者が明確化される。これらの患者には未だ治療法が確立されていない。従って,これらの症例に対して上述のようなモニタリングを行いながら多剤併用等の効果を検討することにより,適切な治療法の開発が期待できる。
【0036】
さらに,移植片対宿主疾患には一般に特効薬がないことから,本発明にしたがって,CCL8の発現量を指標として,移植片対宿主疾患の治療薬の有力な候補物質をスクリーニングすることが可能である。スクリーニングは,移植片対宿主疾患のモデル動物に試験物質を投与し,モデル動物から得た試料中のCCL8蛋白質の量を測定することにより行う。試験物質としては,例えば,抗CCL8抗体を用いることができる。あるいは,試験物質は,種々の合成又は天然の化合物ライブラリー,コンビナトリアルライブラリー,オリゴヌクレオチドライブラリー,ペプチドライブラリー等のライブラリーから取得してもよい。また,細菌,真菌類,藻類,植物,動物等の天然物からの抽出物やその部分精製物を試験物質として用いてもよい。試験物質を投与したときに投与していないときと比較してCCL8蛋白質の量が低い場合には,その試験物質を移植片対宿主疾患の治療薬の候補物質として選択することができる。すなわち,本発明の検査方法は,移植片対宿主疾患の新規治療法開発におけるプラットフォームを提供するものである。
【0037】
本発明はまた,抗CCL8抗体を有効成分として含む,移植片対宿主疾患を治療するための医薬組成物,および抗CCL8抗体を投与することにより,移植片対宿主疾患を治療する方法を提供する。下記の実施例9に示されるように,移植片対宿主疾患モデル動物に抗CCL8抗体を投与して病理学的に評価したところ,皮膚における表皮真皮接合部への炎症細胞浸潤の減少,毛胞部および皮脂腺の障害の軽減が認められ,抗CCL8抗体の投与がGVHDの治療に有効であることが明らかになった。
【0038】
本発明の医薬組成物は,当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば,薬学的に許容しうる担体もしくは媒体,具体的には,滅菌水や生理食塩水,植物油,乳化剤,懸濁剤,界面活性剤,安定剤,香味剤,賦形剤,ベヒクル,防腐剤,結合剤などと適宜組み合わせて,一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0039】
経口投与用には,本発明の抽出物または化合物またはその塩を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより,錠剤,丸薬,糖衣剤,カプセル,液体,ゲル,シロップ,スラリー,懸濁液等として処方することができる。
【0040】
非経口投与用には,本発明の抽出物または化合物またはその塩を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうるベヒクルを用いて,注射用製剤,噴霧投与用製剤,経皮投与用製剤などの形態に製剤することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物は,経口投与または非経口投与により患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。投与経路としては,例えば,静脈内注射,筋肉内注射,腹腔内注射,皮下注射,直腸内投与,経鼻投与,経肺投与,経皮投与などが挙げられる。投与量としては,例えば,一回の投与につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選択することができる。投与経路および投与量は,患者の年齢,症状の重篤度,投与中の他の薬剤などを考慮して,担当医師が適宜選択することができる。
【0042】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
【0043】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
骨髄移植(BMT)
マウスに異種骨髄移植を行うことにより急性GVHDを誘導した。レシピエントマウスとしてはBALB/c(H-2)を用い,ドナーマウスとしては,異種BMT用にC57BL/6(H-2)を,同種BMT用にBALB/c(H-2)を用いた。マウスはいずれも7-12週齢であった(Sankyo Labo Service Corporation)。
【0045】
BMTの日に,ドナーマウスを頸椎脱臼により犠牲死させた。大腿骨および脛骨の軸をフラッシングすることにより,ドナーの骨髄細胞を集め,2%ウシ胎児血清/1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地に入れて,単一細胞懸濁液を調製した。細胞をRPMI1640培地で洗浄し,同じ培地に再懸濁した。骨髄細胞接種物は,異種BMT用には200μL中2x10個の骨髄細胞,同種BMT用には100μL中1x10個の骨髄細胞を含むよう調製した。
【0046】
レシピエントBALB/cマウスはBMTの前に少なくとも7日間酸性水で飼育して,致死線量照射後の敗血症を防止した。レシピエントマウスに0.34Gy/分間の割合で合計8.5Gyの体照射を行い,3時間以内にドナー骨髄細胞を尾静脈から静脈内注射した。
【0047】
GVHDのモニタリング
レシピエントマウスを,GVHDの臨床徴候,すなわち,体重減少,猫背の姿勢,皮膚紅斑,脱毛および下痢について毎日観察した。異種BMTマウスにおいては,移植後7日以内に急性GVHDの臨床症状,例えば下痢およびひだ状の白苔が,21日以内に皮膚紅斑および脱毛が認められた。第14日と第21日の間に死亡例がみられた。
【0048】
組織病理学的分析
レシピエントマウスを,移植後第7日,第14日,第21日および第28日に犠牲死させた。皮膚,肝臓および小腸を取り出し,10%ホルマリン緩衝液中で固定した。固定した組織をパラフィンに包埋し,切片を作成し,ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し,顕微鏡下で調べた。代表的臓器における,GVHDと対応すると考えられる組織学的変化は,以下のとおりである:皮膚(表皮真皮接合部への単核球の浸潤および毛包または皮脂腺の傷害);肝臓(単核球の門脈への浸潤および肝細胞壊死);および小腸(クリプト細胞のアポトーシスおよび絨毛の拡張または平坦化)。評点システムは,これらの臓器のそれぞれについてネガティブを0とし,ポジティブを1とした(1匹のマウスについて最大スコアは6である)。図1に,各時点における平均の病理学的スコアを臨床症状とともに示す。この結果は5回の独立した実験の代表例である。レシピエントマウスは移植後のすべての時点でGVHDの病理学的兆候を有しており,病理学スコアは第14日で最大であった。また,各時点において,病理学スコアはGVHDの臨床所見と一致していた。
【0049】
血漿のサンプリング
BMT前,およびBMT後第7日,第14日,第21日および第28日に血液をサンプリングした。血液サンプルは,生きたマウスの尾静脈からヘパリン被覆キャピラリーチューブを用いて採取し,30分以内に10,000rpmで5分間遠心分離して,血漿を調製した。これはアッセイするまで-80℃で保存した。
【実施例2】
【0050】
SELDIプロテインチップアレイ分析
各血漿サンプル10μLに,Tris-HCl(pH7.4)中に9mol/L尿素および10g/L CHAPSを含む20μLの溶液を加えた。混合物を4℃で15分間ボルテックスし,Tris-HClで1:40に希釈した。8スポット固定化金属アフィニティー捕捉アレイ(IMAC-30)を50mmol/L CuSOで活性化した。希釈したサンプル(50μL)をプロテインチップアレイの各スポットに加え,振盪器で1時間インキュベートした。同じTris-HClで洗浄した後,水で軽くすすぎ,各スポットに0.5μlの飽和シナピン酸(sinapinic acid;SPA)を2回加え,風乾した。キレートされた金属に結合した蛋白質の質量/電荷(m/z)スペクトルを,Ciphergen Protein Biology System II飛行時間質量分析器(PBS II,Ciphergen Biosystems,Inc)を用いて測定した。データは,レーザー強度200および検出器感度8で得られた65個のレーザーショットを平均することにより求めた。
【0051】
SELDI-TOF質量分析スペクトルの統計学的分析
すべてのスペクトルをコンパイルし,Ciphergen Protein Chip Software 3.2.0.を用いてデータの予備的分析を行った。血漿サンプルとしては,GVHD群(移植後第7日,第14日,第21日および第28日)50サンプルおよび対照群(BMT前)28サンプルの合計78サンプルを用いた。その結果,m/z=2k~200kの範囲で,異なるように発現されている計169本のピークが検出された。これらのピークについて,Biomarker Pattern’s Softwareを用いて2群間を比較することにより,ピーク強度の変化が5倍以上でかつp<0.05のピークを抽出したところ,GVHD群で上昇したものは10本,低下したものは9本認められた。
【0052】
SELDI-TOF MSによる蛋白質プロファイリング
上述の2.0-200kDaの質量範囲の169個のピークについて,ピーク強度の値を用いてさらに分析を行った。Biomarker Pattern’s Software(BPS,Ciphergen Biosystems,Inc)を用いて,クロスバリデーション法により169個のピークすべてを用いて分類ツリーを作成した。簡単には,分類ツリーは1回に1つの規則を質問の形で用いてデータを2つのノードに分割する。この実験では,分割の決定はSELDI蛋白質発現プロファイルから同定されたピークまたはクラスターの正規化強度レベルに基づいて行った。すなわち,SELDIプロファイルから同定された各ピークまたはクラスターは分類プロセス中の変数である。末端ノードに達して,データ分類からさらなる分割が得られなくなるまで分割のプロセスを続けた。
【0053】
この方法を用いて複数の分類ツリーを作成し,分類ツリー分析に基づいて,最も優良なツリーを選択した。その結果,GVHD群で対照群と比較して有意に上昇したピークの1つとして,8972Daのピークが選択された。8972Daのピークを用いることにより,GVHD群と対照群を,感度および特異度ともに100%で分類することができた。
【0054】
8972Daピークの発現例を図2に示す。図2Aは,同じ個体のマウスから得た正常コントロールサンプル(preBMT;移植前)およびGVHDサンプル(移植後第7日,第14日,第21日および第28日)の代表的なSELDIスペクトルを6000-10000Da範囲で示す。線で囲まれた部分は平均質量8972Daのピークを示す。このピークは,正常血漿と比較してGVHDで過剰発現されており,第7日以降にピーク強度の有意な上昇が認められる。組織スコアとピーク強度はともに第28日では低下していた。図2Bは,各時点におけるサンプル中の8972Daピークの平均正規化強度値を示す(それぞれn=9)。GVHDサンプルのピークの平均発現は,コントロールサンプル(preBMT;移植前)の平均発現と比較して有意に高かった。
【0055】
CsA投与モデル
GVHDの治療薬であるシクロスポリンA(CsA)(Novartis Pharma)を0.9%NaClで1.67mg/mLに希釈した。異種移植マウスに,移植後第8日から第13日まで,CsAを毎日20mg/kgの用量で腹腔内投与した。図3にCsA投与例の同一個体における8972Daピークの推移,および各時点におけるサンプル中の8972Daピークの平均正規化強度値(それぞれn=4)を示す。CsA処置GVHDマウスにおいては,8972Daのピーク強度は第7日に上昇し,CsA投与後に低下した。
【0056】
同種移植モデル
BALB/cマウスから移植された骨髄グラフトを有するBALB/cマウスを用いた同種移植モデルでは,GVHDは誘発されず,移植前サンプルと移植後サンプルにおいて,ピークの平均発現には有意な差が認められなかった(図4A,B)。
【実施例3】
【0057】
蛋白質の分離
プールされた血漿サンプルから,最も量の多い3種類の血漿蛋白質(アルブミン,IgG,トランスフェリン)を免疫除去クロマトグラフィー(Multiple Affinity Removal Column MS-3,4.6mmID x 50mm;Agilent)により除去した。50μLの血漿をバッファA(Agilent)で5倍に希釈し,免疫除去カラムに注入した。フロースルー画分を回収し,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに分離した。HPLCで用いた分離カラムはInertsil(登録商標)Phカラム(5μm,4.6mmID x 150mm;GL Sciences)であった。溶出勾配プロファイルは以下のとおりである:(1)溶出溶媒:A 2%ACN/0.1%TFA,B 80%ACN/0.1%TFA;(2)直線勾配:0-100%B/50分間;流速1.0ml/分間。
【0058】
画分は30秒ごとに集め,2μLの画分をAuチップ(Ciphergen)に負荷し,SPAマトリクスで処理して,各画分の組成をSELDI-TOF MSでモニターした。SELDI-TOF MSモニタリングにしたがって,溶出時間31.0-31.5分(約38%アセトニトリル)のHPLC画分を回収した。GVHDサンプルにおいては大量の8972Da蛋白質が含まれていたが,コントロールサンプルにはほとんど含まれていなかった(図5A)。この画分を凍結乾燥し,200μLの溶解バッファ(7M尿素,2Mチオ尿素,50mMDTT,2%アンフォリン,3%CHAPS,1%TritonX-100)に溶解した。
【0059】
次に,このようにして濃縮したサンプルを2D電気泳動で分離した。超音波処理の後,サンプル溶液をIPGゲルストリップ(pH3-11,NL,長さ11cm,Amersham Bioscience)に負荷し,ストリップを30Vで10時間再水和させた。1次元目の分離である等電点電気泳動法(IEF)は,IPGphorシステム(Amersham Bioscience)を用いて,20℃で合計12kVhrで行った。IEFの後,IPGストリップを,6M尿素,2%SDS,30%グリセロール,0.002%ブロモフェノールブルー,および1%ジチオスレイトールを含む50mM Tris-HCl(pH8.8)中で15分間平衡化し,次にジチオスレイトールの代わりに2.5%ヨードアセトアミドを含む同じバッファ中で15分間再び平衡化した。2次元目の分離であるSDS-PAGEは,8-20%勾配ポリアクリルアミドゲルを用いて行い,40mA/ゲルの定電流で電気泳動した。2D電気泳動の後,蛋白質を硝酸銀染色により可視化した。GVHDおよびコントロールサンプルの2つのゲルの画像を比較することにより,6,500Da-12,300Daに位置する,GVHDサンプルで高度に発現されているスポットが同定された(図5B,C)。
【0060】
蛋白質の同定
候補蛋白質である8972Daのスポットをゲル内消化した。簡単には,切り出したゲルスポットを100%ACNおよび100mM NHHCOで洗浄し,次に真空乾燥し,5μLのトリプシン溶液(50mMNHHCOおよび5mMCaCl中12.5ng/μL)中で37℃で16時間インキュベートした。得られたペプチドを20μLの20mMNHHCOで1回,20μLの50%ACN中5%ギ酸で3回抽出した。回収した抽出物を真空乾燥して約40μLとし,次にナノフローHPLC-ESI-MS/MSで分析した。HPLCはDiNaシステム(KYA)を用いて行い,トリプシン消化したサンプルをHi Qsil(登録商標)C18カラム(75μmIDx50mm;KYA)で分離した。分離条件は以下のとおりである。溶出溶媒A:0.1%ギ酸,溶媒B:0.1%ギ酸中70%ACN,勾配:0-100%B/40分間,流速:200nL/分間。分離したペプチドは,QSTAR XL Q-TOF質量分析器(Applied Biosystems)を用いて特性決定した。得られた質量分析データを用いて,MASCOTソフトウエア(Matrix Science Inc.)によりNCBI蛋白質データベースを検索した。
【0061】
その結果,8972Daの蛋白質の部分アミノ酸配列は,CCL8前駆体の配列と一致した。8972Daの蛋白質から分離されたペプチドの代表的MS/MSスペクトルを図6に示す。このペプチドは,ナノLC-MS/MSによりCCL8ペプチド68-79(QGMSLCVDPTQK)であると同定された。同様にして,理論的質量にマッチした11種類のペプチドが同定された。これらのペプチドの配列を合わせると,CCL8前駆体のアミノ酸配列の52%がカバーされた(下線)。
1 MKIYAVLLCL LLIAVPVSPE KLTGPDKAPV TCCFHVLKLK IPLRVLKSYE
51 RINNIQCPME AVVFQTKQGM SLCVDPTQKW VSEYMEILDQ KSQILQP(配列番号1)
【0062】
CCL8前駆体の推定質量は11,017Daであり,推定pIは8.64である。CCL8前駆体は,19アミノ酸のシグナルペプチドおよびそれに続く78アミノ酸残基の成熟CCL8配列を含む。成熟CCL8の推定質量は8972Daであり,推定pIは8.45であり,これは,SELDI-TOF MSおよび2D-PAGEにより得られたデータと一致する。
【実施例4】
【0063】
イムノアッセイによるCCL8発現の確認
特異的ウサギ抗マウスCCL8抗体を用いるSELDIイムノアッセイにより,8972DaマーカーがCCL8であることをさらに確認した。PS20(Preactivated Surface)プロテインチップ(Ciphergen)の各スポットに0.1μgの抗マウスCCL8抗体を加え,加湿チャンバ中で室温で2時間インキュベートした。残留活性部位を5μlの1Mエタノールアミン(pH8.0)で30分間ブロッキングした後,スポットをPBS中0.5%TritonX100で3回,PBSで2回洗浄した。血漿サンプルをPBSで1:75に希釈し,PS20チップの抗体固定化スポットに加え,バイオプロセッサを用いて室温で穏やかに混合しながら2時間インキュベートした。各スポットをPBS中0.5%TritonX100で2回,PBSで2回洗浄した。5mMHEPESで軽く洗浄した後,SPAマトリクスを加え,PBS II Protein ChipリーダーでMS分析を行った。その結果,GVHD血漿サンプルからはCCL8が検出されたが,コントロールサンプルからはほとんど検出されなかった(図7)。
【実施例5】
【0064】
ヒト臨床サンプルにおけるCCL8発現
ヒト臨床サンプルとしては,骨髄移植を受けたヒト患者から得た血漿をPBS中に1:25で希釈したものを用いた。実施例4と同様にして,PS20プロテインチップを用い,抗ヒトCCL8抗体を用いて,SELDIイムノアッセイによりヒト患者におけるCCL8の発現を調べた。
【0065】
患者1(図8)
5歳男子
診断:ファンコーニ貧血
処置:非血縁者間臍帯血移植(CBSCT(UR))
予防薬:CsA+MMF
経過:移植後第13日に皮膚GVHDに発症,同日よりメチルプレドニゾロン治療(mPSL)開始した。CCL8は臨床的にGVHDが発症する前の移植後10日に出現した。これは治療によりいったん低下した。しかし,その後GVHDが再発するとともにCCL8の発現量も再び増加した。患児は,いったんは治療に反応したが,最終的に治療抵抗性GVHDにより死亡した。CCL8の発現量が,GVHDの発症および治療効果に相関していた。また,治療抵抗性に陥るとCCL8は低下しなくなった。
【0066】
患者2(図9)
10歳男子
診断:慢性骨髄性白血病(CML)
処置:非血縁者間骨髄移植(BMT(UR))
予防薬:FK+MTX
経過:移植後第19日に皮膚GVHDに発症,同日よりメチルプレドニゾロン治療(mPSL)開始した。同日CCL8は,あきらかな増加を示した。GVHDは,いったん第2段階から第3段階へと進行したが,その後治療により改善し,CCL8も再び高い発現は見られなかった。
【0067】
患者3(図10)
3歳女子
診断:急性リンパ性白血病(ALL)
処置:適合同胞間骨髄移植(BMT(matched-sib.))
予防薬:MTX
経過:GVHD発症なし。経過中一度もCCL8の高発現は見られなかった。
【0068】
患者4(図12)
11歳女子
診断:急性リンパ性白血病(ALL)
処置:適合同胞間骨髄移植(MSD-BMT)
予防薬:短期MTX
経過:移植後第11日にGVHD発症。CCL8の発現の増加を示した。同日よりシクロスポリンAをCIV投与した。第14日にはGVHDの症状は改善し,CCL8の発現も低下した。
【0069】
患者5(図13)
重症の再生不良性貧血を有する19歳女性が,HLA 1 抗原がマッチしていない父親から骨髄幹細胞移植を受けた。患者は150mg/m2のフルダラビン(Flu)および120mg/kgのシクロホスファミド(CY),および24mg/kgの抗胸腺細胞グロブリン(ATG)から構成される移植前調整を受け,タクロリムスでGVHDを予防した。移植後第10日に,患者は高熱を発症し,第16日に四肢および胴体に非定型皮膚発疹を発症した。下痢は認められなかった。第20日にはCCL8はあきらかな増加を示した。第23日に皮膚生検を実施し,メチルプレドニゾロン(mPSL)治療を開始した。第31日にはGVHDの症状は改善し,CCL8の発現も低下した。
【実施例6】
【0070】
移植片対宿主疾患患者と正常人におけるCCL8の血漿濃度定量結果
正常人の血漿および造血幹細胞移植を受けた患者で,移植片対宿主疾患を発症したものおよび発症しなかったものの血漿CCL8を定量した。結果を図11に示す。数値の単位はpg/mLである。造血幹細胞移植を受けた患者で,移植片対宿主疾患を発症しなかったものの血漿CCL8濃度は,6.92-48.0pg/mL平均23.3pg/Lであった。しかし,移植片対宿主疾患を発症したものの血漿CCL8濃度は,52.0-333.6pg/mL平均133.3pg/mLと明らかに高濃度であった。さらに,治療抵抗性GVHDの2例では,333.6pg/mLおよび290.4pg/mLと極めて高い濃度を示した。この2症例は,GVHDの治療に対して抵抗性であり死亡した。正常人では血漿CCL8濃度は,0-32.6pg/mL,平均18.9pg/mLと極めて低値であった。これらの結果から,移植片対宿主疾患を発症した患者では血漿CCL8量が正常人より有意に高く,さらに,治療抵抗性GVHDの患者では極めて高いことがわかる。
【0071】
以上の結果から,ヒト患者におけるGVHDの発症および経過とCCL8の発現量との間には強い相関があることが明らかになった。
【実施例7】
【0072】
感染症との鑑別診断
マウスにTLRリガンドを投与したときのCCL8の発現レベルを測定した。
雌BALB/c(H-2d)マウスは,Sankyo Labo Service Corporation(Tokyo,Japan)から購入した。マウスは実験開始時に8-10週齢であった。試薬は,特に示さないかぎり,すべてSIGMA/ALDRICH(Tokyo,Japan)から購入した。
【0073】
野生型BALB/cマウスの腹腔内に,500μlのPBS中の,5μgのリポ多糖類(LPS)(Eschrichia coli),5μgのポリ(I:C)(GE Health care BioScience,Tokyo,Japan)および20mgのD-GalN,100mgのペプチドグリカン(PGN)(staphylococcus aureus)(Invitorogen,CA,USA),20mgのZymosan-A(Invitorogen,CA,USA)または20nmolのCpG-ODN(Invitorogen,CA,USA)を注射した。対照マウスには,500μLのPBSを腹腔内に注射した。注射の4時間後,血漿サンプルを回収した。LPS,ポリ(I:C),PGN,Zymosan-A,またはCpG-ODNの投与量は予備実験により決定した。
【0074】
注射の4時間後,ヘパリン処理シリンジを用いてマウス血漿をサンプリングし,30分以内に5,000rpmで7分間遠心分離した。分注した血漿はアッセイするまで-80℃で保存した。ボランティアおよび患者から採血を行って血漿サンプルを調製し,分注してアッセイするまで-80℃で保存した。
【0075】
ヒトCCL8は酵素免疫アッセイ(ELISA)を用いて測定した。ヒトCCL8 ELISAキットは,RayBiotech(Norcross,GA)から購入し,製造元のプロトコルにしたがって使用した。プレートはプレートリーダーで450nmで読んだ(Multiskan JX,Thermo Labsystems,Helsinki, Finland)。
【0076】
結果は平均+/-SEで表した。統計学的有意性分析は,両側または片側t-テストのいずれかにより実施した。有意差はp<0.05に設定した。多重比較用にボンフェローニ補正を適用した。結果は一連の実験の代表的データである。図14に示されるように,CCL8のレベルはTLRリガンドの投与によっては上昇しないことが明らかとなった。このことは,細菌やウイルスの感染によってはCCL8の発現レベルは上昇しないことを示しており,CCL8の発現を指標としてGVHDと感染症との鑑別診断が可能であることを示唆する。
【実施例8】
【0078】
GVHD発症前診断
実施例1と同様にして,マウス同種BMTを行い,第1,3,5,および7日において採血を行い,ヘパリン血漿サンプルを得た。これらをMouse CCL8 ELISAを用いて血漿中CCL8の濃度を定量した。
【0079】
一方で,同種BMT後第0日から第7日までの体重の変化,および第7日における体重減少,猫背の姿勢,毛並,皮膚,下痢をスコアリングし,0,1,2の3段階評価を行った。体重減少については10%未満の減少を0,10-25%未満の減少を1,25%以上の減少を2点とした。猫背の姿勢については正常であるものを0,やや見られるものを1,ほとんど猫背である場合を2点とした。毛並については,正常を0,やや毛羽立っているものを1,ほとんど毛づくろいをせず,全身が毛羽立っているものを2点とした。皮膚については,正常であるものを0,尾や足に硬化が見られるものを1,有毛箇所に無毛部分が現れてきたものを2点とした。下痢については,正常を0,やや下痢のものを1,完全な下痢を2点とした。臨床的GVHD評価は各クライテリアの合計点を示しており,最高点は10点である。
【0080】
血漿中CCL8の濃度の経時変化を図15に示す。血漿中CCL8の濃度は,骨髄移植後早期から上昇し第5日から著増した。これに対し,第6日まではGVHDの臨床徴候は認められなかった。臨床的GVHD評価では,第7日において約2.5点であり,GVHD初期の状態であった。この後,すべてのマウスにおいて第7日以降,GVHD症状が進行し,第28日でのスコアは6.3であった。
【0081】
これらの結果から,血中CCL8蛋白質の定量は,マウスにおけるGVHD発症前診断,あるいはGVHD早期診断に有用であると考えられる。
【実施例9】
【0082】
抗CCL8抗体を用いるGVHDの治療
抗マウスCCL8ウサギ抗体は,合成CCL8ペプチドをウサギに投与し,得られた抗血清から,アフィニティーカラムを用いて抗CCL8IgG画分を精製することにより調製した。対照の正常ウサギ抗体としては,正常ウサギ血清のIgG画分を用いた。
【0083】
実施例1と同様にしてマウスに骨髄移植を行った。異種骨髄移植前日より3日間連続して,抗マウスCCL8ウサギ抗体または正常ウサギ抗体をレシピエントマウス尾静脈より100μgずつ投与した。抗マウスCCL8抗体(治療群)と正常ウサギ抗体(対照群)は各3匹ずつ治療を行った。骨髄移植14日後に頸椎脱臼により犠牲死させた。皮膚,肝臓および小腸を取り出し,10%ホルマリン緩衝液中で固定した。固定した組織をパラフィンに包埋し,切片を作成し,ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し,顕微鏡下でGVHDと考えられる病理学的症状を調べた。評価方法は以下のとおりである:皮膚(表皮真皮接合部への単核球の浸潤および毛包または皮脂腺の傷害);肝臓(単核球の門脈への浸潤および肝細胞壊死);および小腸(クリプト細胞のアポトーシスおよび絨毛の拡張または平坦化)。陽性(+),陽性と陰性の中間(+/-),陰性(-)の三段階で評価した。
【0084】
図16に皮膚組織染色結果の代表例を示す。(a)抗マウスCCL8抗体投与,(b)正常ウサギ抗体投与(対照)。皮膚におけるGVHD症状である皮脂腺の傷害(矢頭)および,表皮真皮接合部へのリンパ球の浸潤(矢印)が正常ウサギ投与群に見られるが,抗マウスCCL8抗体投与群では認められない。
【0085】
図17に上述の評点システムを用いた結果を示す。皮膚における表皮真皮接合部への炎症細胞浸潤の減少,毛胞部および皮脂腺の障害の軽減が抗CCL8抗体処理マウスにのみ認められた。このことは,抗CCL8抗体処理がGVHDの治療に効果があることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は,移植片対宿主疾患の診断および経過のモニタリング,ならびに治療に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16