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明細書 :凍結保存可能な小型肝細胞の調製方法、およびその凍結保存方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4998969号 (P4998969)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月15日(2012.8.15)
発明の名称または考案の名称 凍結保存可能な小型肝細胞の調製方法、およびその凍結保存方法
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12R   1/91        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12N 5/00 202A
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2002-500674 (P2002-500674)
出願日 平成13年5月30日(2001.5.30)
国際出願番号 PCT/JP2001/004555
国際公開番号 WO2001/092481
国際公開日 平成13年12月6日(2001.12.6)
優先権出願番号 2000164158
優先日 平成12年6月1日(2000.6.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月29日(2008.5.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
発明者または考案者 【氏名】三高 俊広
個別代理人の代理人 【識別番号】100082005、【弁理士】、【氏名又は名称】熊倉 禎男
【識別番号】100084009、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 信夫
【識別番号】100084663、【弁理士】、【氏名又は名称】箱田 篤
【識別番号】100093300、【弁理士】、【氏名又は名称】浅井 賢治
【識別番号】100114007、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 孝二
【識別番号】100111501、【弁理士】、【氏名又は名称】滝澤 敏雄
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 LIVER,1999年,Vol.19, No.6,p.481-488
Hepatology,1999年,Vol.29,p.111-125
Xenobiotica,1989年,Vol.19, No.5,p.489-498
応用細胞生物学研究,1991年,Vol.9, No.2,p.44-51
調査した分野 C12N 5/00-28
C12R 1/91
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
(i)採取された肝臓組織より肝細胞を分離すること、
(ii)分離された前記肝細胞を、実質細胞をより多く含む重量画分と、非実質細胞をより多く含み実質細胞をより少なく含む軽量画分とに分画し、前記軽量画分を回収すること、および、
(iii)前記軽量画分中の細胞をニコチンアミドを添加した培養液を用いて培養し、非実質細胞に包囲された小型肝細胞コロニーを形成させること、
(iv)(iii)で得られる非実質細胞に包囲されたコロニーを形成している小型肝細胞を、酵素を作用させ、または、作用させずに培養皿から剥離し、小型肝細胞の周囲を非実質細胞が取り囲んだ小型肝細胞塊として回収すること、
を含む、凍結保存用小型肝細胞の調製方法。
【請求項2】
請求項1の(iii)で得られる非実質細胞に包囲されたコロニーを形成している小型肝細胞および非実質細胞をニコチンアミドを添加した培養液を用いて継代培養し、非実質細胞に包囲された小型肝細胞コロニーを形成させること、および、
前記コロニーを形成している小型肝細胞を、酵素を作用させ、または、作用させずに培養皿から剥離し、小型肝細胞の周囲を非実質細胞が取り囲んだ小型肝細胞塊として回収すること、
更に含む、請求項1記載の凍結保存用小型肝細胞の調製方法。
【請求項3】
(i)請求項1の(iii)で得られる非実質細胞に包囲されたコロニーを形成している小型肝細胞、または、請求項1の(iii)で得られる非実質細胞に包囲されたコロニーを形成している小型肝細胞および非実質細胞をニコチンアミドを添加した培養液を用いて継代培養して得られる非実質細胞に包囲された小型肝細胞を、小型肝細胞の周囲を非実質細胞が取り囲んだ小型肝細胞塊として培養皿から剥離すること、
(ii)前記小型肝細胞塊を凍結保存用溶液中に懸濁すること、
(iii)前記懸濁された小型肝細胞塊を凍結チューブに移し、凍結させること、
(iv)前記凍結小型肝細胞塊細胞を、凍結保存すること、
を含む、小型肝細胞の凍結保存方法。
【請求項4】
凍結が、(i)-10℃~-30℃における凍結、および、(ii)-50℃~-90℃または液体窒素中における凍結、の2段階で行なわれ、凍結保存が-50℃~-90℃または液体窒素中で行なわれることを特徴とする、請求項3に記載の、小型肝細胞の凍結保存方法。
【請求項5】
培養皿からの小型肝細胞塊の剥離が非酵素的に行なわれること特徴とする、請求項3または4に記載の小型肝細胞の凍結保存方法。
【請求項6】
小型肝細胞がヒト小型肝細胞である、請求項1または2に記載の、小型肝細胞の調製方法。
【請求項7】
小型肝細胞がヒト小型肝細胞である、請求項3~5いずれか1項に記載の、凍結保存方法。
【請求項8】
請求項3~5または7のいずれか1項に記載の保存方法によって凍結保存された、小型肝細胞の周囲を非実質細胞が取り囲んだ小型肝細胞塊。
発明の詳細な説明 発明の背景
本発明は、凍結保存用小型肝細胞の調製方法および、小型肝細胞の凍結保存方法に関する。
肝臓および肝細胞は体内における化学工場と言われるほど多様な機能を持っている。例えば、血清タンパク質の90%以上は肝細胞が産生しており、体内に取り込まれたり産生された有害物質を代謝する解毒機能を有している。そのため、肝細胞を培養し、その持っている機能を使って有害物資の検出(バイオセンサー)、ヒトに必要な物質の体外生産を可能にしようと様々な研究機関で研究がなされている。それらの研究に用いる肝細胞を供給するためには、現在のところ分化した肝細胞機能を保持している細胞株は存在していないため、実験毎に成熟肝細胞を単離しなければならない。このような場合には、得られる細胞数は個々の個体の肝細胞数に依存する。なぜなら、肝細胞の機能を維持したまま、成熟細胞を増殖させる方法が十分に確立しているわけではないからである。
また、細胞組込み型の人工肝臓の開発においても成熟肝細胞機能の多くを有する細胞の恒常的な大量供給が望まれている。従って、ヒトを含めて動物の肝細胞を冷凍し、長期保存し、再び使用する方法の開発は非常に重要な課題であって、世界中でなされているが、これまでに冷凍保存後、解凍した肝細胞が培養皿上に生着し、肝細胞としての機能の70~80%程度を短期間保持できることが報告されているのみである。しかも、これらの報告においては、解凍された肝細胞はほとんど増殖能を有せず、短期間に死滅した。
一方、発明者らは、肝臓組織内に、アルブミン、トランスフェリン、サイトケラチン(CK)8、CK18などのマーカーについて成熟肝細胞とほぼ同様の表現型を示し、超微構造的にも肝細胞としての特徴を有するが、増殖能の高い小型の細胞からなる細胞集団があることを報告し、これを「小型肝細胞」(small hepatocyte)と命名した(Mitaka T.ら、Hepatology,16,440-447,(1992))。
このような研究が行なわれる中で、簡便な方法により冷凍保存可能で、かつ、解凍後に増殖し、長期間肝細胞としての機能が保持され、または増強される細胞の調製方法、および、そのような細胞の冷凍保存方法は依然として報告されていなかった。
発明の開示
本発明の目的は、肝細胞の機能および増殖能を保持したまま、小型肝細胞を長期間保存する方法を提供することである。より具体的には、本発明の目的は、肝細胞の機能および増殖能を保持し得る、小型肝細胞の凍結保存方法を提供することである。
また、本発明の別の目的は、小型肝細胞の有する肝細胞の機能および増殖能を維持させ得る凍結保存方法に適した、小型肝細胞の調製方法を提供することである。
さらに、本発明は、そのように調製され凍結保存された小型肝細胞自体を提供することも目的としている。
上述したように、本発明者らは既に、強い増殖能を有し、成熟肝細胞としての機能の多くを有する小型肝細胞を見出している。本発明者らは、この小型肝細胞を一定条件の下で培養すると、凍結保存可能で、かつ解凍後にも強い増殖能、および、肝細胞機能を保持し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(i)肝臓より肝細胞を分離すること、
(ii)分離された前記肝細胞を、実質細胞をより多く含む重量画分と、非実質細胞をより多く含み実質細胞をより少なく含む軽量画分とに分画し、前記軽量画分を回収すること、および、
(iii)前記軽量画分中の細胞をニコチンアミドを添加した培養液を用いて培養し、非実質細胞に包囲された小型肝細胞コロニーを形成させること、
を含む、凍結保存用小型肝細胞の調製方法である。
また、本発明は、
(i)非実質細胞に包囲されたコロニーを形成している小型肝細胞を酵素を作用させ、または、作用させずに培養皿から剥がし、回収すること、および、
(ii)回収された前記小型肝細胞および非実質細胞をニコチンアミドを添加した培養液を用いて継代培養し、非実質細胞に包囲された小型肝細胞コロニーを形成させること、
を含む、凍結保存用小型肝細胞の調製方法である。
また、本発明は、
(i)非実質細胞に包囲されたコロニーを形成するまで培養した小型肝細胞を小型肝細胞塊として培養皿から剥離すること、
(ii) 必要に応じて培養皿から剥がされた前記小型肝細胞塊を培地または緩衝液で洗浄すること、
(iii)洗浄された前記小型肝細胞塊を凍結保存用溶液中に懸濁すること、
(iv)前記懸濁された小型肝細胞塊を凍結チューブに移し、凍結させること、
(v)前記凍結小型肝細胞塊を凍結保存すること、
を含む、小型肝細胞の凍結保存方法である。
特に、本発明の凍結保存方法は、小型培養細胞の凍結を約-10℃~約-30℃、続いて、約-50℃~約-90℃または液体窒素中の2段階で行なうこと、および細胞をを約-50℃~約-90℃または液体窒素中で凍結保存することを含む。
発明を実施するための最良の形態
本発明の方法には小型肝細胞を使用する。本明細書において、「小型肝細胞」とは、単に肝臓に由来する小型の細胞を意味するものではなく、以下に記載する方法、あるいはこれに準じた方法を用いて肝臓から単離される細胞であって、強い増殖能を有し、アルブミン、トランスフェリン、サイトケラチン(CK)8、CK18などのマーカーについて成熟肝細胞とほぼ同様の表現型を示し、超微構造的にも肝細胞としての特徴を有する、肝臓由来の特別な種類の小型の細胞を意味する。この細胞は発明者らによって見出されたものであり、より詳しくはMitaka T.ら、Hepatology,16,440-447,(1992)、Mitaka,T,Sato F,Mizuguchi Tら、Hepatology,29,111-135(1999)に記載されている。
また、本明細書において、「小型肝細胞塊」とは、単に多数の細胞が緩く結合した状態、例えば、いわゆるスフェロイドを意味するものではなく、本発明の方法によって形成される一定の構造を有する細胞の塊を言う。即ち、培養皿上に接着して増殖した小型肝細胞が平面的にコロニーを形成し、そのコロニーの回りを肝上皮様細胞、星細胞、類洞内皮細胞等の非実質細胞が取り囲む状態、または、小型肝細胞コロニーの培養容器側の全部または一部が非実質細胞に被覆されている状態(図1BおよびC参照)のときに、本発明に従って培養皿からこのコロニーを剥離する際に形成される特別な構造体を言う。すなわち、「小型肝細胞塊」とは小型肝細胞コロニーおよびその周辺の細胞が一緒に剥離される際に形成される、小型肝細胞のコロニーを中心として、その周囲に肝上皮様細胞、星細胞、類洞内皮細胞などの非実質細胞が取り囲むという特殊な構造を有した細胞の塊である(図2)。また、本明細書において文脈上明らかな場合は、「小型肝細胞塊」は単に「細胞塊」と表記することがある。
本発明に使用する小型肝細胞は、例えば以下のように調製することができる。ヒトその他の動物から採取した肝臓組織をコラゲナーゼ等を含む溶液で処理すると肝臓由来の細胞を得ることができる。この場合、通常のコラゲナーゼ肝灌流法を利用することができる。得られた細胞懸濁液は必要に応じて適当な大きさのメッシュ等を通し、未消化の組織残渣その他の組織破砕片等を除去してもよい。この細胞懸濁液をそのまま培養しても小型肝細胞コロニーを得ることもできるが、実質細胞および不要な組織破砕物等をある程度除去してから培養することが好ましい。実質細胞の除去は、以下のように低速遠心によって行なうことができる。低速遠心とは、実質細胞および不要な組織破砕物等を多く含む画分と、非実質細胞を多く含む軽画分とを分離するために十分な条件をいい、好ましくは、実質細胞および不要な組織破砕物等を主として含む画分と、小型肝細胞および非実質細胞を多く含み実質細胞をほとんど含まない軽画分とを分離するために十分な条件をいう。このような条件で上述したような方法で得られる肝臓由来の細胞を分画すると、小型肝細胞は前述の軽画分により多く得られる。しかしながら、小型肝細胞と非実質細胞は、両者を混合培養する必要があるため完全に分離しなくてよい。より具体的には、例えば、この細胞懸濁液を低速遠心、例えば50xgで1分間遠心することにより、主として実質細胞を含む重い画分と、星細胞、クッパー細胞、類洞内皮細胞等の非実質細胞を主として含む比較的軽い細胞を含む軽い上清画分とに分画することができる。小型肝細胞はこの遠心条件下で上清画分に多く得られる。
加速度が大きくなるほど、また、遠心時間が長くなるほど上清画分中の実質細胞の割合は減るが、沈殿する小型肝細胞の割合も増加するため、遠心は約50xgにて約1分間以下とするのが好ましい。上清画分は更に遠心、沈殿、懸濁を繰り返して実質細胞および不要な組織破砕物等を除去することもできる。より具体的には、例えば、上清画分を、50xgで5分間遠心し、沈殿を適当な培地に懸濁し、更に50xgで5分間遠心する。沈殿を同様な培地に懸濁し、再び50xgで5分間遠心する。得られた沈殿を同様な培地に懸濁し、150xgで5分間遠心して、沈殿した細胞を新鮮な培地に懸濁する。細胞懸濁液中の細胞数を数え、その後の培養、あるいは処理のために必要な細胞密度となるように調製することができる。通常、1x10~5x10細胞/mlの密度に調製される。
このようにして調製した細胞は、血清、ニコチンアミド、ビタミンC、抗生物質、増殖因子、その他の細胞培養に一般的に使用される添加物を更に含む基本培地、例えば、これらを添加したダルベッコ改変イーグル培地等で37℃にて培養することができる。本発明の目的に使用する培地は、ニコチンアミドを含み、更にコロニー形成促進のためにビタミンC、増殖因子、DMSO等を含むことが好ましい。ビタミンCは通常、アスコルビン酸2リン酸として添加し、その濃度は、好ましくは0.1~1.0mM、より好ましくは、0.5~1.0mMであり、ニコチンアミドは比較的高濃度で使用され、好ましくは1~20mM、より好ましくは5~10mMで使用する。増殖因子としては、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)等が利用でき、TGFαが特に好ましい。TGFαを添加する場合には、好ましくは1μg/l~100μg/l、より好ましくは5μg/l~50μg/lの濃度で使用する。また、DMSOは培養開始4日目から好ましくは約0.1~約2%(v/v)、より好ましくは約0.5%~約1.5%(v/v)の濃度で添加する。培地はほぼ1日おき、通常、週に3回交換する。
本発明で使用する小型肝細胞の培養容器としては、通常の細胞培養に使用される培養皿を使用することができる。一般には接着細胞の培養はコラーゲン被覆をした培養皿が使用され、例えば、ウシ真皮、ラットの尾部由来のコラーゲンを被覆した種々の大きさの培養皿が商業的に入手可能であり、また必要であればそのような培養皿を調製することもできる。本発明で使用する小型肝細胞の培養にもそのような培養皿を使用することができるが、凍結保存用の細胞を調製するためにはコラーゲンを被覆しない培養皿を使用することが好ましい。なぜならば、細胞外基質が少ないほどより温和な条件で細胞が剥がれやすいからである。本発明においては、培養は60mmの培養皿あたり、比較的高密度、具体的には約4x10~9x10個の細胞密度で開始するのが好ましい。培養には、通常の5%炭酸ガスインキュベーターを使用することができる。炭酸ガス濃度および培養温度は、通常の培養細胞に許容される範囲であれば本質的ではない。
このような条件で培養すると、4~5日で小型肝細胞はコロニーを形成し始め、約1週間~約2週間で非実質細胞に囲まれた明確なコロニーを形成する。このコロニーはそのまま培養を続けることができるが、本発明の凍結小型肝細胞の調製のためには、小型肝細胞が形成する細胞集団の回りを非実質細胞が取り囲むようになる時期、または、非実質細胞およびECM(細胞外基質)が小型肝細胞の培養容器側に入り込み小型肝細胞の培養器側の全部または一部を被覆する構造が形成される時期のコロニー(図1BおよびC参照)を使用するのが好ましい。本明細書においては、非実質細胞が小型肝細胞の形成する細胞集団の回りを取り囲むこと、および、非実質細胞が小型肝細胞の培養容器側に入り込み小型肝細胞の培養器側の全部又は一部を被覆することを併せて、非実質細胞が小型肝細胞を「包囲する」という(図1BおよびC参照)。この時期の細胞はコロニーを形成するということのため容易に肉眼で確認することができる。過度に長期間培養すると、培養皿から剥がれにくくなり、凍結保存後に解凍した場合の増殖能が低下する傾向がある。また、小型肝細胞コロニー中に大型の成熟肝細胞が出現し始める時期(図1D参照)から類肝組織形成が顕著になる時期(図1E参照)より以前の時期、すなわち、培養開始から約1ヶ月を経過する前の小型肝細胞を使用することが好ましい。具体的には、培養開始後約7日~20日が好ましく、特に培養開始後10日~14日後のコロニーを凍結保存用に使用するのが好ましい。
形成されたコロニーは、金属キレート剤および/または酵素の存在下で個々の細胞に分離し、継代培養して再びコロニーを形成させることもできるが、この場合、細胞への損傷が大きいため、本発明の凍結保存方法に適切な状態のコロニーを再度形成するまでには上述したよりも一般に長期間を要する。従って、継代培養に際しては、後述するような非酵素的方法によってコロニーを培養容器から剥がすのが好ましい。いずれの場合においても使用する培地は、肝臓から直接小型肝細胞を得る場合と同様にニコチンアミド、ビタミンC、増殖因子、DMSO等を含む培地を用いることができ、ニコチンアミド、ビタミンC、増殖因子、DMSO等の濃度も同様である。
本発明の方法により凍結保存する場合には、上述した細胞塊の構造が破壊されないように温和な条件で剥離する。例えば、金属キレート剤および種々の非酵素的剥離剤を使用して非酵素的に細胞を培養皿から剥がすのが好ましい。使用し得る金属キレート剤としては、細胞毒性の少ないものであればよく、接着細胞の剥離処理に一般的に使用されるもの、例えばEDTA、EGTA及び/またはその塩を、それぞれについて一般的な濃度で使用することができる。EDTAのナトリウム塩が特に好ましく、好ましくは0.01~0.05%(w/v)、より好ましくは0.01~0.02%(w/v)の濃度で使用される。EGTAナトリウム塩の場合は、約0.5mMで使用するのが好ましい。処理時間は、細胞をリンスする程度(数秒間)に短くてもよいが、好ましくは約30秒~約10分間、より好ましくは約1分間~約5分間である。長時間の処理は細胞に与える損傷が大きいため、可能な限り短くすることが好ましい。
非酵素的細胞剥離剤としては、Ca、Mgを含まないHanksの緩衝液(pH7.3~7.5)にEDTA、グリセロール、クエン酸ナトリム等を添加した溶液が利用でき、例えばSigma社からCell dissociation solutionの名で調製済みの非酵素的細胞剥離剤を商業的に入手することができる。より具体的には、例えば約0.02%のEDTAを含むリン酸緩衝液を細胞上に注ぐ。数分間静置し、EDTA溶液を除いた後、Cell dissociation solutionのような非酵素的細胞剥離剤を注ぎ、例えば37℃にて約5~約30分間、好ましくは約10~15分間静置する。細胞に与える損傷を最小限にするため、非酵素的剥離剤による処理も金属キレート剤処理と同様、可能な限り短くするのが好ましい。次に、細胞に与える損傷を最小限にすべく、静かにピペッティングすることにより培養皿から小型肝細胞を含むコロニーを剥がす。コロニーは前述したような細胞塊として分離される。必要に応じてこの細胞塊を遠心、懸濁を繰り返すことにより洗浄し、最後に適切な培地等に懸濁する。凍結保存のために細胞を懸濁する凍結保存用溶液は、一般の培養細胞の凍結保存に用いることのできる溶液を使用することができ、培地、以下に述べるようなDMSO、および、種々の凍結保存用試薬等を含んでいてよい。
この細胞塊は、上述したように、小型肝細胞のコロニーを中心として、その周囲に肝上皮様細胞、星細胞、類洞内皮細胞などの非実質細胞が取り囲むという特殊な構造を有した細胞の塊である。特に、培養皿から剥離されると、前述の非実質細胞が小型肝細胞コロニーを内側に包み込むような構造をとる。言い換えれば、本発明の方法によって調製される小型肝細胞は、周囲の非実質細胞及び細胞外基質によって凍結剤や外的刺激から保護される構造体を形成している(図2)。本発明の小型肝細胞調製方法によれば、このような構造体を形成させることができ、またそのことが本発明の凍結保存方法に本質的である。
このようにして調製した細胞懸濁液に、例えば、5~10%の濃度となるようDMSOを添加して、凍結保存細胞懸濁液とする。DMSOの添加後、細胞をDMSOになじませるため、約10分間~約20分間程度、室温で静置するのが好ましい。この細胞懸濁液を、適当量、例えば0.2ml~2mlずつ凍結チューブに入れ、凍結保存する。凍結は、直ちに液体窒素中にチューブを置いて急速に行なうこともできる。セルバンカー、カイノス等の保存用試薬を用いる場合には、更に簡便に、約-80℃の冷凍庫等で凍結し、そのまま凍結保存することもできる。しかしながら、解凍後の増殖能をよりよく維持させるためには、より緩やかに、培養細胞の凍結保存に使用する一般的な温度シフトあるいは温度勾配に従って行なうことが好ましい。例えば、約-20℃~約-30℃にて約1時間静置し、次に-50℃~-90℃、好ましくは-70℃~-90℃、あるいは液体窒素中に置き凍結保存することができる。細胞凍結保存に適した温度シフトを行なうためのプログラムフリーザーも商業的に入手可能である。特に、セルバンカー、カイノス等の凍結保存用試薬を追加的に用いる場合には-50℃~-90℃、好ましくは-70~-90℃で長期間保存することができる。そのような追加の保存試薬を用いない場合には、一般に凍結小型肝細胞は液体窒素中で保存するのが好ましい。
このように凍結された小型肝細胞は、少なくとも1年以上にわたって、増殖能および肝細胞としての機能を維持する。凍結小型肝細胞の解凍は任意の時に、所望の量の細胞が得られるように解凍することができる。凍結小型肝細胞の解凍は急速に解凍することが好ましく、そのような方法は当業者によく知られたものである。例えば、37℃の恒温槽にて急速に解凍することができる。解凍した細胞は前述したような培養条件にて培養する。培養に先立って、必要に応じて遠心、懸濁を繰り返すことによって細胞を洗浄してもよい。培養された小型肝細胞が肝細胞としての機能の一部を有していることは、種々のマーカーを用いて確認することができる。そのようなマーカーとしては、培地中に分泌されるアルブミンの他、トランスフェリン、尿素の産生、グリコーゲン量、チトクロームP450等が利用できる。これらは、培地または細胞抽出液のELISA、Westernブロット解析等によって、あるいは直接細胞を免疫染色することによって確認することができる。小型肝細胞は、成熟肝細胞のマーカーであるアルブミン、CK8、CK18、グリコーゲン、ペルオキシゾーム等のマーカーを有しており、一方胆管上皮細胞のマーカーであるCK7、CK19等を有していない等の点で、他の細胞と区別し得る。例えば、肝幹細胞の一種として知られるoval cellはCK7、CK19等の胆管上皮細胞のマーカーを有し、グリコーゲン、ペルオキシゾーム等の成熟肝細胞マーカーを有しない。
凍結保存された小型肝細胞は、任意の時に必要量を解凍し、種々の目的に使用することができ、例えば種々の細胞埋込型人工肝臓装置に使用することができる。本発明の方法によって調製され、凍結保存された小型肝細胞は解凍後も旺盛な増殖力を示し、約3週間で細胞数が約100倍にまで達する。また、小型肝細胞は長期培養(1ヶ月以上)、又は細胞外基質の被覆操作などにより、肝類似組織を形成するため、肝臓再生のモデル系としても有用である。そのように成熟化させた小型肝細胞は実験動物の代替えとして肝機能に関する研究のために使用することもできる。更には、培養された小型肝細胞を直接生体内の肝臓に移植して、肝組織を形成させることも可能であり、特にヒト由来の小型肝細胞を利用することができる。また、凍結保存可能な小型肝細胞が、肝細胞機能に関する分子生物学的研究、細胞生物学的研究のための実験材料として有用なことは言うまでもない。
実施例
実施例1.小型肝細胞の分離方法
成熟ラット(10~15週齢)の肝臓をSeglenの方法に準じて、0.2mM EGTAを加えたCa、Mgを含まないハンクス液で門脈から灌流する。40ml/分の流速で前述のハンクス液を4分間流した後、0.02%コラゲナーゼ(ヤクルト)を含むハンクス液を20ml/分の流速で10分間流した。消化された肝臓から常法に従って肝細胞をビーカー内にふるい落とした。細胞懸濁液を70μmのメッシュフィルターで濾過し、50xgで1分間遠心した。上清を集め、再び50xgで5分間遠心した。沈殿した細胞を培養液(Leibovitz L-15、10%ウシ胎仔血清、10-7Mデキサメタゾン、0.5μg/mlインスリンおよび抗生物質)で洗浄し、50xgで5分間遠心した。同様の操作をもう一度繰り返した後、再び50xgで5分間遠心した。沈殿した細胞を新しい培養液で懸濁し、小型肝細胞とした。生細胞数を数え、細胞密度を1.0~2.0x10個/mlに調整した。
実施例2.小型肝細胞の培養法
実施例1のように調製した細胞を60mm培養皿に約6x10個/培養皿の割合で播いた。空気培養基で3時間静置した後、培養液を取り替えた。培養液としては、以下に示す、ダルベッコ改変イーグル培地を基本とした培地を用いた。細胞は5%炭酸ガス培養器で37℃にて培養し、約2日に1回(週に3回)の割合で培地交換を行なった。培養後約2週間経過後に小型肝細胞のコロニーが多数見られるようになった。
小型肝細胞培養培地
ダルベッコ改変イーグル培地 (GIBCO Laboratories)
+20mM HEPES (Dojindo)
+25mM NaHCO (Katayama Chemical Co.

+30mg/l プロリン (Sigma Chemical Co.)
+0.5mg/l インスリン(Sigma Chemical Co.)
+10-7Mデキサメタゾン (Sigma Chemical Co.)
+10%FBS (Hyclone Laboratories,
Inc.)
+10mMニコチンアミド (Katayama Chemical Co.

+1mM L-アスコルビン酸ホスフェート (Wako PUre Che
mical Inc.)
+抗生物質
(+1% ジメチルスルホキシド(DMSO) (Aldrich)
DMSOは培養4日目の培地交換から添加する。
実施例3.細胞の凍結保存操作
培養後約2週間経過後、小型肝細胞のコロニーが多数見られるようになった時期に、以下のように細胞を培養皿から剥がし凍結保存した。
滅菌したリン酸緩衝液で細胞を2回洗浄した。その後、0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液に細胞を浸した。数分間静置した後、リン酸緩衝液を吸引した。酵素を含まない細胞剥離液(Cell dissociation solution(Sigma))1mlを培養皿に入れ、37℃にて15分間静置した。
細胞に損傷を与えないように、細胞を静かにピペッティングすることによって培養皿から細胞を慎重に剥がした。細胞を遠心管に集め、50xgで5分間遠心した。上清を吸引した後10%血清を含む培養液で洗い、再び遠心した。上清を吸引後、セルバンカーを2培養皿/mlになるように加え、細胞を静かに懸濁した。
このようにして調製した細胞懸濁液を1mlずつ凍結チューブにいれ、-30℃の冷凍庫に1時間静置後、-80℃の冷凍庫に移した。
実施例4.解凍した小型肝細胞の培養
実施例3のような方法によって凍結し、6か月間凍結保存した小型肝細胞を解凍し、凍結防止剤を除去した後、培養を続けた。
凍結細胞の入った凍結チューブを37℃の湯煎にて急速に解凍した。凍結チューブ1本分の細胞を10mlの培養液の入った遠心管に移した。チューブを50xgで5分間遠心し、細胞を沈殿させた。上清を吸引除去後、培養液を18ml加え、3mlずつ60mmの培養皿に分注した。この細胞を5%炭酸ガス培養器で37℃にて24時間培養後培地交換をした。以後、1日おきに培地交換を行ない、形成されるコロニーの面積を増殖能の指標として以下のように計測した(図3)。
培養開始から図3に示した各日数経過後に3枚の培養皿を使用し、各培養皿毎に30個のコロニーの面積を計測し、3つの培養皿から得られた値を平均して測定値とした。培養1日めのコロニー面積の平均を100%として各測定値を図3に示した。図3に示されるように、本発明によって凍結保存された小型肝細胞は解凍後も強い増殖能を有していることが明らかになった
実施例5.解凍後の小型培養細胞の機能評価
6か月間凍結保存しておいた小型肝細胞を実施例4のように解凍、培養し、培養再開始後3日~30日のアルブミン産生能を調べた。培地中に分秘されたアルブミン量はELISA法によって測定し、3枚の培養皿から得られた結果を平均し、また標準偏差(SD)を計算してグラフ化した。その結果を図4に示した。図4から明らかなように、本発明によって培養、調製された凍結小型肝細胞は解凍後にも顕著なアルブミン産生能を有しており、凍結保存によって肝細胞としての機能を失わないことが示された。
本発明により、肝細胞機能を有し、かつ、増殖可能な小型肝細胞を任意の時に、所望の量を提供することができる。また、本発明により、肝細胞機能および増殖能を維持したまま小型肝細胞を長期間凍結保存することができる。本発明によって調製された小型肝細胞は、人工肝臓に使用することができ、かつ脂肪組織や肝臓に移植することにより肝組織を形成させることができる。また、凍結保存した小型肝細胞を任意のときに解凍して培養皿中で成熟化させた後、動物実験の代替えとして肝毒性、肝機能モニター等に使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は、小型肝細胞がコロニーを形成するに伴って、その回りを肝上皮様細胞、星細胞、類洞内皮細胞等が囲む様子を模式的に表したものである。
図2は、小型肝細胞のコロニーの回りを肝上皮様細胞、星細胞、類洞内皮細胞等が囲むことによって形成される細胞塊を培養皿から剥離した後、凍結保存系中に存在する状態を模式的に表したものである。
図3は、6か月間-80度にて凍結保存し、解凍した小型肝細胞コロニーを培養した際の小型肝細胞コロニーの面積を経時的に測定したものである。縦軸の各値は培養1日めのコロニー面積の平均を100%として相対的に示した。横軸は解凍後,培養を開始してからの日数を表す。また、バーは標準偏差(SD)を示す。
図4は、6か月間凍結保存しておいた小型肝細胞コロニーのアルブミン産生能を示したものである。横軸は解凍後,培養を開始してからの日数を表す。バーは標準偏差(SD)を表す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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