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明細書 :新規マイコウイルス、植物病害真菌弱毒菌株、植物病害防除剤、マイコウイルス生産方法、植物病害真菌弱毒化方法、並びに植物病害防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5605896号 (P5605896)
登録日 平成26年9月5日(2014.9.5)
発行日 平成26年10月15日(2014.10.15)
発明の名称または考案の名称 新規マイコウイルス、植物病害真菌弱毒菌株、植物病害防除剤、マイコウイルス生産方法、植物病害真菌弱毒化方法、並びに植物病害防除方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
C07K  14/08        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 7/00
C07K 14/08
A01P 3/00
A01N 63/00 F
請求項の数または発明の数 10
微生物の受託番号 DSMZ DSM 21334
ATCC PTA-9137
全頁数 19
出願番号 特願2009-550445 (P2009-550445)
出願日 平成21年1月5日(2009.1.5)
国際出願番号 PCT/JP2009/000003
国際公開番号 WO2009/093409
国際公開日 平成21年7月30日(2009.7.30)
優先権出願番号 2008011012
2008035405
2008104181
優先日 平成20年1月21日(2008.1.21)
平成20年2月18日(2008.2.18)
平成20年4月13日(2008.4.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成23年12月20日(2011.12.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】森山 裕充
【氏名】福原 敏行
【氏名】有江 力
【氏名】寺岡 徹
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 米国特許第05665581(US,A)
Mycoscience,2003年,vol.44,pp.139-147
SCIENCE,1992年,vol.257,pp.800-803
Journal of General Virology,2000年,vol.81,pp.3107-3114
Journal of General Virology,2010年,vol.91,pp.3085-3094
Virology,2013年,vol.448,pp.265-273
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
植物病害真菌抑制作用を有し、配列番号1~4においてチミンをウラシルとした四種類の二本鎖RNAを有するマイコウイルス。
【請求項2】
前記植物病害真菌の分生子形成を抑制する請求項1記載のマイコウイルス。
【請求項3】
イネ科植物に対する植物病害真菌を抑制する請求項1記載のマイコウイルス。
【請求項4】
イネいもち病菌を抑制する請求項1記載のマイコウイルス。
【請求項5】
配列番号1~4においてチミンをウラシルとした四種類の二本鎖RNAを有するマイコウイルスゲノム
【請求項6】
配列番号1~4のいずれかに示す塩基配列からなる核酸。
【請求項7】
請求項1~4いずれか一項記載のマイコウイルスを含有する植物病害真菌の弱毒菌株。
【請求項8】
受託番号DSM21334の菌株である請求項7記載の弱毒菌株。
【請求項9】
請求項1~4いずれか一項記載のマイコウイルス、及び/又は、請求項7又は8記載の植物病害真菌の弱毒菌株を含有する植物病害防除剤。
【請求項10】
請求項1~4いずれか一項記載のマイコウイルスを含有する植物病害真菌を液体培地で培養し、その培養上清から前記マイコウイルスを回収する手順を少なくとも含む植物病害真菌抑制性マイコウイルス生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害真菌を抑制する新規なマイコウイルス、それに関わる遺伝子・核酸・タンパク質、そのマイコウイルスを内在する植物病害真菌弱毒菌株、それらを含有する植物病害防除剤、マイコウイルス生産方法、植物病害真菌弱毒化方法、植物病害防除方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
植物病害には、気象・土壌など環境的要因で発生するもの、ウイルス・細菌・真菌(糸状菌)などの感染性要因で発生するもの、生理的障害により発生するもの、それらの複合的な要因で発生するものなどが存在する。現在においても、植物病害の中には食糧、花き、花木、樹木などの生産に阻害要因となるものが数多く含まれ、経済的影響が大きいものも多い。
【0003】
植物病害のうち、真菌は、最も重要な病害因子の一つである。植物病害の約8割は真菌によって引き起こされるといわれている。
【0004】
例えば、いもち病は、世界各地で発生している最も重要な植物病害の一つである。病原菌は、カビ(糸状菌)の一種であるイネいもち病菌(学名「Magnaporthe oryzae」)である。イネいもち病菌は、25℃前後が発育・胞子形成・感染の適温であり、また、湿潤な環境を好む。そのため、夏季の低温、多雨、日照不足などの気象要因により大発生し、イネの不作・品質低下をもたらし、経済的に大きな打撃を与える。
【0005】
その他、紋枯病、さび病、うどんこ病、炭疸病、菌核病、べと病、灰色かび病など、真菌が原因で経済的影響も大きい植物病害は数多く存在する。そのため、現在においても、新しい農薬の開発や、品種改良などが試みられている(いもち病の防除に関して、例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
ここで、本発明に関連する事項であるマイコウイルスについて、以下説明する。
【0007】
真菌類(Fungi、以下同じ)に感染するウイルスをマイコウイルスという。その中で、二本鎖RNAをゲノムとするマイコウイルスが報告されている。それらのマイコウイルスは、宿主菌に潜在的に感染し、宿主の形質にほとんど影響を与えないものが多い。
【0008】
二本鎖RNAをゲノムとするマイコウイルスは、現在、パルチチウイルス科(学名「Partitiviridae」、以下同じ)、トチウイルス科(学名「Totiviridae」、以下同じ)、クリソウイルス科(学名「Chrysoviridae」、以下同じ)など、5科に分類されている。パルチチウイルス科ウイルスは、ウイルス粒子中に、二つのほぼ同じ大きさの直鎖状二本鎖RNAを有し、全遺伝子量は4~6kbpである。トチウイルス科ウイルスは、ウイルス粒子中に4~7kbpの一本の直鎖状二本鎖RNAを有する。その他、クリ胴枯れ病菌(学名「Cryphonectria parasitica」)では、菌内在性に存在し、9~13kbpの二本鎖RNAを有するウイルスが発見されている(ハイポウイルスなど)。
【0009】
クリソウイルス科ウイルスは、球形のウイルス様粒子を有し、四成分の二本鎖RNAを有する。また、パルチチウイルス科及びトチウイルス科のウイルスと同様、RdRP(RNA-directed RNA polymerase;RNA依存性RNAポリメラーゼ、以下同じ)をコードする領域を有することが知られている。クリソウイルス科に属するウイルスとして、例えば、Hv145SV(「Helminthosprium victoriae 145S virus」、以下同じ)、PcV(「Pencillium chrysogenum virus」、以下同じ)、AbV1(「Agaricus bisporus virus 1」、以下同じ)などが知られている(非特許文献1など参照)。
【0010】
近年、特定の植物病害に対し、その病原菌をマイコウイルスなどで弱毒化し、その弱毒菌を用いてその病害を防除する方法が検討され、一部実用化されている。例えば、クリ胴枯れ病菌の毒性を抑制するウイルス性二本鎖RNAの完全長cDNAを用いてその菌を弱毒化し、クリ胴枯れ病の防除に応用する方法(非特許文献2など参照)や、紫紋羽病菌(学名「Helicobasidium mompa」)を抑制する二本鎖RNAウイルスを発見し、その二本鎖RNAを内在する紫紋羽病菌弱毒菌株を用いて紫紋羽病を防除する方法(非特許文献3、特許文献3など参照)などが開示されている。

【特許文献1】特開2004-143045号公報
【特許文献2】特開2003-250370号公報
【特許文献3】特開2001-78752号公報
【非特許文献1】C. M. Fauquet, Mary Ann Mayo, J. Maniloff, U. Desselberger, L. A.Ball, “Virus Taxonomy: Classification and Nomenclature of Viruses; EighthReport Of The International Committee On Taxonomy Of Viruses”, ElsevierAcademic Press: p591-595
【非特許文献2】Gil H.Choi and Donald L.Nuss, “Hypovirulence of chestnut blightfungus conferred by an infectious viral cDNA.” Science. 1992 Aug7;257(5071):800-3
【非特許文献3】H.Osaki et al, “Detection of Double-Stranded RNA Virus from a Strainof the Violet Root Rot Fungus Helicobasidium mompa Tanaka” Virus Genes25:2,139-145, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、植物病害真菌は植物・作物の品質や収穫量などに重大な影響を与える。一方、植物病原真菌を抑制するマイコウイルスの発見は少なく、そのようなマイコウイルスを用いた植物病害防除の試みもほとんど行われていない。そこで、本発明は、植物病害真菌を抑制する新規なマイコウイルス、及び、植物病害の新規な防除手段を提供することなどを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、天然に存在する植物病害真菌を独自に採取し、それらの真菌に対して抑制性に作用するマイコウイルスの探索を行った。その結果、植物病害真菌抑制作用を有し、2.8~3.6kbの四種類の二本鎖RNAを有する新規マイコウイルスを単離・同定し、かつその全長配列を得た。
【0013】
そこで、本発明では、植物病害真菌抑制作用を有し、2.8~3.6kbの四種類の二本鎖RNAを有し、天然に存在し、発明者らによって単離された新規マイコウイルス、それらの遺伝子、その塩基配列、その配列中、所定機能を有する特定部分の配列を少なくとも有する核酸、その配列がコードする一又は複数のタンパク質などを提供する。
【0014】
このマイコウイルスは、二本鎖RNAの配列中に、RdRp(RNA依存性RNA合成酵素)の保存モチーフを含み、かつその領域をコードするRNAの塩基配列が既知のクリソウイルス科ウイルスと相同性を有する。従って、このマイコウイルスは、クリソウイルス科に分類される新種のウイルスであると推測する。
【0015】
上記の通り、このマイコウイルスは、植物病害真菌の生育などを抑制する作用を有する。従って、例えば、このマイコウイルスを宿主菌に感染などさせ、宿主菌に内在させることにより、植物病害真菌の弱毒菌株を作製することができる。
【0016】
また、例えば、本発明に係るマイコウイルス、及び/又は、作製した植物病害真菌の弱毒菌株を少なくとも含有する植物病害防除剤を、植物(イネなど)に付加(散布、塗布など)することにより、その植物病害を防除できる可能性がある。
【0017】
その他、本発明に係るマイコウイルスには、次のような特徴がある。
【0018】
従来、マイコウイルスは、菌糸融合により、宿主菌の細胞から細胞へ垂直伝播されるとされており、マイコウイルスの生活環の中に、宿主菌の細胞外に存在する段階は存在しないと考えられている。それに対し、本発明者らの研究により、本発明に係るマイコウイルスは細胞外にも存在しうることが分かった。
【0019】
従って、菌糸融合に依存せずに細胞外から宿主菌に感染させることができるため、本発明に係るマイコウイルスを、接合型の異なる菌主・菌株間でも幅広く感染させることができ、かつ、宿主菌に対し高効率で感染させることができる。即ち、これにより、植物病害真菌の弱毒化や植物病害の防除を、簡易かつ高効率に行うことができる可能性が高い。
【0020】
また、本発明に係るマイコウイルスは細胞外にも存在するため、例えば、宿主菌を液体培地で培養し、その培養上清からマイコウイルスを回収することにより、簡易かつ比較的大量にマイコウイルスを生産することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、簡易かつ高効率に植物病害を防除できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<本発明に係るウイルスについて>
本発明は、植物病害真菌抑制作用を有し、2.8~3.6kbの四種類の二本鎖RNAを有するマイコウイルス全てを包含する。
【0023】
このマイコウイルスは、各ウイルス粒子が2.8~3.6kbの四種類の二本鎖RNAのいずれかを有し、かつ、その四種類のウイルス粒子が同時に存在する状態で生存・継代する。なお、上述のクリ胴枯れ病菌マイコウイルス及び紫紋羽病菌マイコウイルスは、いずれも12kb以上の単一成分の二本鎖RNAで構成されており、本発明に係るマイコウイルスとは構造が大きく異なる。従って、全く異なるウイルス種である可能性が高く、また、宿主菌に対する弱毒化作用のメカニズムも大きく異なる可能性が高い。
【0024】
上述の通り、このマイコウイルスは、二本鎖RNAの配列中に、RdRp(RNA依存性RNA合成酵素)の保存モチーフを含み、かつその領域をコードするRNAの塩基配列がクリソウイルス科ウイルスと相同性を有する。従って、このマイコウイルスは、クリソウイルス科に分類される新種のウイルスであると推測する。
【0025】
このマイコウイルスの四種類の二本鎖RNAの塩基配列を配列番号1~4に、その塩基配列がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号5~8に、それぞれ示す。
【0026】
なお、配列表記載の塩基配列は全てDNA配列として記載されているが、本発明に係る配列は、これらの配列を含め、全て、RNAの場合の配列(チミンがウラシルに置換したもの)も包含する(以下同じ)。
【0027】
シークエンス解析の結果、RdRp(RNA依存性RNA合成酵素)をコードする領域の塩基配列について、このマイコウイルスとHv145SVとの相同性は22%、類似性は39%、このマイコウイルスとPcVとの相同性は23%、類似性は38%、このマイコウイルスとAbV1との相同性は28%、類似性は45%であった。
【0028】
従って、本発明に係るマイコウイルスは、クリソウイルス科ウイルス(例えば、Hv145SV、PcV、AbV1のいずれか)のゲノム中におけるRdRp(RNA依存性RNA合成酵素)をコードする領域との相同性が20~100%のもの、又は、類似性が40~100%のものを全て包含する。ここで、「相同性」とは塩基配列が完全に一致していることを、「類似性」とは、アデニンとグアニンとを、又は、チミン(ウラシル)とシトシンとを置換することにより塩基配列が完全に一致することをいう。
【0029】
本発明に係るマイコウイルスは、所定のイネいもち病菌に内在性に存在する。従って、例えば、このマイコウイルスが潜在的に感染しているイネいもち病菌株からウイルスを分離・回収などすることにより、このマイコウイルスを取得できる。なお、本発明に係るマイコウイルスを内在するイネいもち病菌については、通常のイネいもち病菌と同様の培地・培養条件で培養できる。
【0030】
本発明に係るマイコウイルスとして、例えば、本発明者らが同定・命名したMoCV1(Magnaporthe oryzae chrysovirus 1)が挙げられる。このウイルスは、少なくとも、イネいもち病菌(学名「Magnaporthe oryzae」)の「S-0412-II 1a」株に内在する。このイネいもち病菌の菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター及び独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託を依頼したが、ウイルスを内在することを理由に受託を拒否された。本菌株は、国立大学法人東京農工大学農学部植物病理学研究室において保存されており、各法令の遵守を条件に、第三者に分譲可能である。
【0031】
また、イネいもち病菌(学名「Magnaporthe oryzae」)の「S-0412-II 1a」株は、ドイツの国際寄託機関・DSMZ(Deutsche Sammlung con Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、所在地:
Inhoffenstr. 7B D-38124 Braunschweig GERMANY)に国際寄託された(寄託日:2008年3月25日、受託番号:DSM21334)。同株は、アメリカ合衆国の国際寄託機関・ATCC(American Type Culture Collection、所在地: 10801
University Boulevard Manassas, VA 20110-2209 USA)にも国際寄託された(寄託日:2008年5月15日、受託番号:PTA-9137)。なお、本菌株の原産地はベトナムである。
【0032】
ウイルスの分離・回収手段として、公知の方法を採用できる。例えば、菌体を液体窒素などで冷凍・破砕し、所定の緩衝液で懸濁した後、超遠心分離などでウイルスを分離することにより、ウイルスを回収できる。
【0033】
また、上述の通り、このウイルスは細胞外にも存在しうる。従って、例えば、マイコウイルスを含有する植物病害真菌(所定のイネいもち病菌など)を液体培地で培養し、その培養上清からウイルスを分離・回収してもよい。このウイルス自体も国立大学法人東京農工大学農学部植物病理学研究室において常時調製可能であり、常時第三者に分譲可能である。
【0034】
<本発明に係る遺伝子、核酸、タンパク質などについて>
本発明者らは、本発明に係るマイコウイルスの一つについてシークエンス解析を行い、全長の塩基配列を得た(配列番号1~4)。従って、本発明は、そのマイコウイルス遺伝子、その塩基配列又はその一部を有する核酸、それらの塩基配列がコードするタンパク質などを全て包含する。
【0035】
本発明は、配列番号1~4の四種類の配列を有するマイコウイルス遺伝子を包含する。
【0036】
本発明は、また、それらの塩基配列の全部又は一部を有する核酸も全て包含する。核酸は、二本鎖・一本鎖のどちらでもよく、また、DNA、cDNA、RNAなどを全て包含する。
【0037】
例えば、配列番号1~4の全て又はいずれかの配列、該配列中、所定機能を有する特定部分の配列、それらと同等の塩基配列を有するcDNA、それらと同等の塩基配列を組み込んだ組換えベクター(プラスミド、ウイルスなど)なども、本発明に包含される。
【0038】
シークエンス解析の結果、配列番号1の配列部分にはRdRp(RNA依存性RNA合成酵素)の保存モチーフが存在すること、及び、配列番号3の配列部分にはラ・フランス病ウイルスの二本鎖RNA断片と相同性を有することが分かった。従って、目的・用途に応じ、例えば、所定機能を有する特定部分としてこれらの配列部分を少なくとも有する核酸、組換えベクターなどを作製し、用いてもよい。
【0039】
なお、本発明に係る核酸(又は遺伝子)には、上記塩基配列と相同性を有する核酸、例えば、その塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、イネいもち病菌抑制作用を有するものも広く包含される。ここで、ストリンジェントな条件は、二本鎖核酸のTm値など、公知技術により取得できる。
【0040】
本発明は、また、上述のマイコウイルス遺伝子及び核酸がコードする全てのタンパク質も包含する。本発明に係るタンパク質のアミノ酸配列を配列番号5~8に示す。
【0041】
それぞれ、配列番号5は配列番号1記載の塩基配列中のオープンリーディングフレームのアミノ酸配列、配列番号6は配列番号2記載の塩基配列中のオープンリーディングフレームのアミノ酸配列、配列番号7は配列番号3記載の塩基配列中のオープンリーディングフレームのアミノ酸配列、配列番号8は配列番号4記載の塩基配列中のオープンリーディングフレームのアミノ酸配列である。
【0042】
なお、本発明に係るタンパク質は、配列番号5~8のいずれかのアミノ酸配列を有するもののほか、それらと相同性を有しかつその機能を保持しているものを全て包含する。
【0043】
例えば、組換えベクターに上述の核酸を組み込み、その宿主に強制発現させることにより、それらのタンパク質を大量調製できる可能性がある。宿主には大腸菌類、酵母類、培養細胞など公知のものを利用可能であると考えられる。マイコウイルスが真菌に対して感染すること、酵母類が高増殖性を有しかつ利用も比較的簡便なことなどを考慮すると、宿主としては酵母類が最適である可能性がある。組換えベクターについても、公知のものを利用可能であると考える。
【0044】
また、例えば、配列番号1~4のいずれかを組み込んだベクターを複数用いて、その四種類の遺伝子の複数を共発現させることにより、マイコウイルスを再構成できる可能性がある。その場合も、公知の宿主及び公知の組換えベクターを利用可能であると考えるが、複数のベクターを同時に導入できる点で、酵母類が最適な可能性がある。
【0045】
<植物病害真菌弱毒菌株について>
本発明に係る植物病害真菌弱毒菌株は、本発明に係るマイコウイルスを内在するものを全て包含する。即ち、例えば、そのマイコウイルスを既に内在するイネいもち病菌などの菌株、及び、そのマイコウイルスを感染させた植物病害真菌の菌株の両方を包含する。
【0046】
植物病害真菌にマイコウイルスを感染などさせる手段として、例えば、従来通り、菌糸融合の際に宿主菌に感染させる方法がある。また、上述の通り、本発明に係るマイコウイルスは細胞外でも存在しうるため、例えば、細胞外から直接的に宿主菌に感染させることもできる。
【0047】
この植物病害真菌弱毒菌株の例として、上述のS-0412-II 1a株が挙げられる。この菌株は、本発明に係るマイコウイルスが感染したイネいもち病菌の菌株である。従って、形態的性質、培養的性質、胞子形成、生理学的・化学分類学的性質は、基本的に公知のイネいもち病菌と同様である。但し、通常のイネいもち病菌よりも成長が遅く、菌糸が非同心円状に成長し、色素沈着も不均一である。また、気中菌糸の異常な発達が見られ、セクター形成や溶菌が観察される。
【0048】
<植物病害防除剤について>
本発明に係る植物病害防除剤は、本発明に係るマイコウイルス又は本発明に係る植物病害真菌弱毒菌株のいずれか一方を少なくとも含有するものを全て包含する。また、そのマイコウイルスとその植物病害真菌弱毒菌株の両方を含有していてもよく、その他の成分を含有していてもよい。
【0049】
その他の成分として、例えば、所定の担体、粘結剤、増粘剤、固着剤、防腐防かび剤、溶剤、安定化剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、着色剤などを含有していてもよい。また、他の農薬成分、例えば、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、誘引剤、除草剤、植物生長調整剤、共力剤などを含有していてもよい。
【0050】
担体としては、例えば、固体担体・液体担体のいずれかまたは両方を用いることができる。固体担体として、例えば、澱粉、活性炭、大豆粉、小麦粉、木粉、魚粉、粉乳などの動植物性粉末、タルク、カオリン、ベントナイト、ゼオライト、珪藻土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、炭酸カルシウム、塩化カリウム、硫安などの鉱物性粉末が挙げられる。液体担体として、例えば、水、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどのエーテル類、ケロシン、軽油などの脂肪族炭化水素類、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、メチルナフタリン、ソルベントナフサなどの芳香族炭化水素類、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、脂肪酸のグリセリンエステルなどのエステル類、大豆油、ナタネ油などの植物油が挙げられる。
【0051】
粘結剤、増粘剤、固着剤として、例えば、澱粉、デキストリン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0052】
本防除剤の剤型は、特に限定されない。例えば、乳剤、懸濁剤、粉剤、粒剤、錠剤、水和剤、水溶剤、液剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、エアゾール剤、ペースト剤、油剤、乳濁剤などの形態を適用できる。
【0053】
<植物病害真菌抑制性マイコウイルス生産方法について>
本発明に係る植物病害真菌抑制性マイコウイルス生産方法は、マイコウイルスを含有する植物病害真菌を液体培地などで培養し、その培養上清からマイコウイルスを回収する手順を少なくとも含むものを全て包含する。
【0054】
上述の通り、本発明に係るマイコウイルスは、宿主菌の細胞外にも存在しうる。従って、例えば、マイコウイルスが感染した植物病害真菌を液体培地などで培養し、遠心分離により菌体を分離した後、その培養上清からウイルスを分離・回収することにより、簡易かつ比較的大量にウイルスを回収できる。
【0055】
但し、本発明に係るマイコウイルスは、この生産方法により得られたものに狭く限定されない。即ち、例えば、マイコウイルスを内在するイネいもち病菌から分離・回収して取得したものも、本発明に広く包含される。
【0056】
<植物病害真菌弱毒化方法について>
上述の通り、例えば、本発明に係るマイコウイルスを特定の植物病害真菌に感染などさせることにより、その宿主菌の生育などを抑制し、その菌を弱毒化させることができる。マイコウイルスの感染手段については、上述と同様の方法を採用できる。
【0057】
<植物病害防除方法について>
本発明に係る植物病害防除方法は、上述のイネいもち病防除剤を特定の植物(イネなど)に付加する工程を少なくとも含むものを全て包含する。
【0058】
植物に防除剤を付加させる手段として、例えば、防除剤を葉の表面又は裏面に塗布する方法、所定の担体などを用いて防除剤を葉の表面又は裏面に付着させる方法、防除剤を葉に散布又は供給する方法などが挙げられる。
【0059】
防除剤の塗布量又は散布量は、有効成分の濃度、製剤の形態、対象病害や作物の種類、病害による被害の程度、施用場所、施用方法、施用時期、混用・併用する薬剤や肥料などの使用量、種類などの種々の条件に応じて、適宜選択すればよい。
【0060】
例えば、1×10~1×1010個/mLに調整したイネいもち病菌弱毒菌株の分生子含有液を一葉当たり1~1,000mL噴霧又は供給することにより、また、葉1mm当たり1×10~1×1010個、イネいもち病菌弱毒菌株の分生子を葉表面又は裏面に塗布する又は付着させることにより、植物病害を抑制できる可能性がある。
【0061】
本発明は、真菌を主な病因とする全ての植物病害に適用できる可能性がある。適用可能性のある植物病害として、例えば、以下のものが挙げられる(それらに限定されない)。
【0062】
イネ科植物に対する植物病害として、例えば、イネいもち病(原因菌「Magnaporthe oryzae」)、イネごま葉枯病(原因菌「Cochliobolus miyabeanus」)、紋枯病(原因菌「Thanatephorus cucumeris」)、ばか苗(原因菌「Gibberella fujikuroi」)、苗立枯病(原因菌「Fusarium菌」、「Rhizopus菌」、「Pythium菌」、「Trichoderma viride」)、イネこうじ病(原因菌「Claviceps virens」)、ムギ類の赤かび病(原因菌「Gibberella zeae」、「Fusarium avenaceum」、「Fusarium culmorum」、「Monographella nivale」)、雪腐病(原因菌「Pythium菌」、「Typhula菌」、「Monographella nivalis」、「Myriosclerotinia borealis」)、裸黒穂病(原因菌「Ustilago nuda」)、なまぐさ黒穂病(原因菌「Tilletia controversa」)、眼紋病(原因菌「Pseudocercosporella herpotrichoides」)、葉枯病(原因菌「Septoria tritici」)、ふ枯病(原因菌「Phaeosphaeria nodorum」)、うどんこ病(原因菌「Blumeria graminis」)。
【0063】
その他の植物病害として、例えば、カンキツ類の黒点病(原因菌「Diaporthe citri」)、小黒点病(原因菌「Diaporthe medusa、Alternaria citri」)、そうか病(原因菌「Elsinoe fawcettii」)、褐色腐敗病(原因菌「Phytophthora citrophthra」)、緑かび病(原因菌「Penicillium digitatum」)、青かび病(原因菌「Penicillium italicum」)、リンゴのモニリア病(原因菌「Monilinia mali」)、黒星病(原因菌「Venturia inaequalis」)、斑点落葉病(原因菌「Alternaria mali」)、黒点病(原因菌「Mycosphaerella pomi」)、すす斑病(原因菌「Gloeodes pomigena」)、すす点病(原因菌「Zygophiala jamaicensis」)、輪紋病(原因菌「Botryosphaeria berengeriana」)、褐斑病(原因菌「Diplocarpon mali」)、赤星病(原因菌「Gymnosporangium yamadae」)、腐らん病(原因菌「Valsa ceratosperma」)、ナシの黒星病(原因菌「Venturia nashicola」)、赤星病(原因菌「Gymnosporangium asiaticum」)、輪紋病(原因菌「Botryosphaeria berengeriana」)、胴枯病(原因菌「Phomopsis fukushii」)、モモの縮葉病(原因菌「Taphrina deformans」)、灰星病(原因菌「Monilinia fructicola、Monilinia fructigena」)、黒星病(原因菌「Cladosporium carpophilum」)、ホモプシス腐敗病(原因菌「Phomopsis sp.」)、オウトウの灰星病(原因菌「Monilinia fructicola」、「Monilinia fructigena」)、幼果菌核病(原因菌「Monilinia kusanoi」)、ウメの黒星病(原因菌「Cladosporium carpophilum」)、ブドウの黒とう病(原因菌「Elsinoe ampelina」)、晩腐病(原因菌「Colletotrichum acutatum」、「Glomerella cingulata」)、褐斑病(原因菌「Pseudocercospora vitis」)、つる割病(原因菌「Phomopsis viticola」)、カキの角斑落葉病(原因菌「Cercospora kaki」)、円星落葉病(原因菌「Mycosphaerella nawae」)、茶の輪斑病(原因菌「Pestalotiopsis longiseta」、「Pestalotiopsis theae」)、褐色円星病(原因菌「Pseudocercospora ocellata」、「Cercospora chaae」)、もち病(原因菌「Exobasidium vexans」)、網もち病(原因菌「Exobasidium reticulatum」)、ウリ類のつる枯病(原因菌「Mycosphaerella melonis」)、つる割病(原因菌「Fusarium oxysporum」)、黒星病(原因菌「Cladosporium cucumerinum」)、褐斑病(原因菌「Corynespora cassiicola」)、トマトの葉かび病(原因菌「Fulvia fulva」)、輪紋病(原因菌「Alternaria solani」)、ナスの褐紋病(原因菌「Phomopsis vexans」)、すすかび病(原因菌「Mycovellosiella nattrassii」)、アブラナ科野菜の白さび病(原因菌「Albugo macrospora」)、白斑病(原因菌「Cercosporella brassicae」、「Pseudocercosporella capsellae」)、タマネギの灰色腐敗病(原因菌「Botrytis allii」)、イチゴの蛇の目病(原因菌「Mycosphaerella fragariae」)、ジャガイモの夏疫病(原因菌「Alternaria solani」)、ダイズの茎疫病(原因菌「Phytophthora sojae」)、紫斑病(原因菌「Cercospora kikuchii」)、アズキの茎疫病(原因菌「Phytophthora vignae」)、ラッカセイの褐斑病(原因菌「Mycosphaerella arachidis」)、テンサイの褐斑病(原因菌「Cercospora beticola」)、葉腐病(原因菌「Thanatephorus cucumeris」)、シバのカーブラリア葉枯病(原因菌「Curvularia菌」)、ダラースポット病(原因菌「Sclerotinia homoeocarpa」)、ヘルミントスポリウム葉枯病(原因菌「Cochliobolus菌」)、バラの黒星病(原因菌「Diplocarpon rosae」)、キクの白さび病(原因菌「Puccinia horiana」)、各種作物のべと病(原因菌「Peronospora菌」、「Pseudoperonospora菌」、「Plasmopara菌」、「Bremia菌」)、疫病(原因菌「Phytophthora菌」)、うどんこ病(原因菌「Erysiphe菌」、「Blumeria菌」、「Sphaerotheca菌」、「Podosphaerea菌」、「Phyllactinia菌」、「Uncinula菌」、Oidiopsis菌」)、さび病(原因菌「Puccinia菌」、「Uromyces菌」、「Physopella菌」)、黒斑病(原因菌「Alternaria菌」)、灰色かび病(原因菌「Botrytis cinerea」)、菌核病(原因菌「Sclerotinia sclerotiorum」)、白紋羽病(原因菌「Rosellinia necatrix」)、紫紋羽病(原因菌「Helicobasidium mompa」)、白絹病(原因菌「Sclerotium rolfsii」)、その他各種土壌病害(原因菌「Fusarium菌」、「Rhizoctonia菌」、「Pythium菌」、「Aphanomyces菌」、「Phoma菌」、「Verticillium菌」、「Plasmodiophora brassicaeなど」)。
【実施例1】
【0064】
実施例1では、イネいもち病菌57株から内在性二本鎖RNAの検出を試みた。
【0065】
まず、独自に採取したイネいもち病菌57株の各菌体を摩砕し、フェノールSDS法で核酸を抽出した後、DNase 1及びS1 NucleaseによりDNAと一本鎖核酸を選択的に分解し、菌体内在性の二本鎖RNA液を得た。そして、1%アガロースゲルで、20V、18時間、電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。
【0066】
その結果、57株のうち、11株で二本鎖RNAのバンドを検出した。そのうち、7株では2.8~3.6kbに4成分のバンドを、3株では1.0~2.6kbに3成分のバンドを、1株では1.0~3.6kbに8成分のバンドを、それぞれ検出した。
【0067】
なお、図1はイネいもち病菌57株のうち9株についての二本鎖RNA検出結果を表す電気泳動写真である。図1中、レーン1はDNAマーカーをアプライしたもの、レーン2からレーン10は菌体から調製したサンプルをアプライしたものである。図1において、レーン6及びレーン8では二本鎖RNAのバンドを検出しなかったのに対し、レーン2、レーン3、レーン4、レーン5、及びレーン10では2.8~3.6kbに4成分のバンドを、レーン7では1.0~2.6kbに3成分のバンドを、レーン9では1.0~3.6kbに8成分のバンドを、それぞれ検出した。
【0068】
上述の実験結果において、一つの株から複数のバンドが検出された点、及び、二本鎖RNAの長さを考慮すると、イネいもち病菌11株から検出された二本鎖RNAは、マイコウイルスを構成する二本鎖RNAである可能性が高い。即ち、本実施例の結果は、これらのイネいもち病菌株に、新規なマイコウイルスが内在することを示唆する。
【実施例2】
【0069】
実施例2では、実施例1の結果に基づき、二本鎖RNAを内在する菌株と内在しない菌株の成長速度を比較した。
【0070】
実施例1において、内在性二本鎖RNAを検出しなかった菌株と検出した菌株について、それぞれ、PDA培地で培養し、培養開始から6日後及び10日後にコロニーを観察した。
【0071】
その結果、内在性二本鎖RNAを検出しなかった菌株では、菌糸が同心円状に成長し、色素沈着も均一であった。一方、内在性二本鎖RNAを検出した菌株では、検出しなかった菌株よりも成長が遅く、菌糸が非同心円状に成長し、色素沈着も不均一であった。また、気中菌糸の異常な発達が見られ、セクター形成や溶菌も観察された。
【0072】
即ち、二本鎖RNAを内在する菌株では、内在しない菌株と比較して生育抑制が見られた。これらの実験結果は、実施例1で得られた二本鎖RNA(マイコウイルス)が、イネいもち病菌の生育抑制因子(弱毒化因子)であることを示唆する。
【実施例3】
【0073】
実施例3では、二本鎖RNAを内在する菌株を低濃度のサイクロヘキシミド(タンパク質合成阻害剤)で処理し、マイコウイルス治癒株の作製を試みた。
【0074】
サイクロヘキシミドを0.25~0.50μg/ml加えたYGプレートを作製し、そこに実施例2で培養した菌株(内在性二本鎖RNAを検出した菌株)を移植した。そして、形成されたコロニーのうち、正常な生育に回復した部位を、さらに、別のYGプレートに移植し、サイクロヘキシミド処理菌株を得た。その結果、サイクロヘキシミド処理菌株は、通常のイネいもち病菌株よりも良好な生育を示した。
【0075】
次に、得られたサイクロヘキシミド処理菌株から、実施例1と同様の方法で二本鎖RNAを抽出し、電気泳動により、二本鎖RNAのバンドの検出を試みた。その結果、サイクロヘキシミド処理菌株から二本鎖RNAのバンドが検出されなかった。
【0076】
また、別手法でも、マイコウイルス治癒菌株を作製し、同様の実験を行った。
【0077】
実施例2で培養した菌株をPDA培地又はオートミール培地上で約1~3週間生育させた後、分生子を単離し、その分生子を一つずつ新しいPDA培地に移植し、マイコウイルスが脱落した菌コロニーを選抜し、マイコウイルス治癒菌株とした。
【0078】
その結果、その治癒菌株でも、ウイルス保持菌株よりも明らかに生育が良好となった。また、上記と同様、電気泳動により、二本鎖RNAのバンドの検出を試みた結果、治癒菌株からは二本鎖RNAのバンドが検出されなかった。
【0079】
これらの結果は、イネいもち病菌に内在した二本鎖RNAがマイコウイルスであること、及び、このマイコウイルスがイネいもち病菌の生育抑制因子であることを示す。
【実施例4】
【0080】
実施例4では、本発明に係るマイコウイルスがイネいもち病菌の菌体外にも存在するかどうかを調べた。
【0081】
実施例1において2.8~3.6kbに4成分の内在性二本鎖RNAのバンドを検出した菌株のうち、3株を液体培地に移植・培養した後、培養液を遠心し、その培養上清を回収した。次に、得られた培養上清を1%アガロースゲルで、20V、18時間、電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。
【0082】
その結果、これらの菌株の培養上清中にも、菌内在性二本鎖RNAと同じ位置に、二本鎖RNAのバンドを検出した。
【0083】
この結果は、本発明に係るマイコウイルスが、イネいもち病菌の菌体内だけでなく、菌体外にも存在しうることを示す。
【実施例5】
【0084】
実施例5では、菌体外に存在するマイコウイルスに、正常の菌株(マイコウイルスを保持しない菌株)に対する感染能力があるかどうかについて調べた。
【0085】
まず、実施例1において2.8~3.6kbに4成分以上の内在性二本鎖RNAのバンドを検出した菌株を液体培地に移植し、4週間培養した後、培養液を遠心し、その培養上清を回収した。この培養上清について、実施例4と同様の手順で、1%アガロースゲルで電気泳動した結果、二本鎖RNAのバンドを確認できた。得られた培養上清については、0.22μLのフィルターを用いてろ過滅菌を行った。
【0086】
次に、100mlコルベンにYG培地50mlを入れ、そこにイネいもち病菌の正常菌株(マイコウイルスを保持しない菌株)を接種し、3日間培養した後、得られた培養上清を500μL添加し、菌体の生育を観察した。
【0087】
その結果、観察3日目において、培養上清を添加していない菌株では、菌糸の先端がまっすぐに伸び、正常の生育を示したのに対し、培養上清を添加した菌株では、菌糸の先端があまり伸びずに絡まった状態になった。
【0088】
この結果は、培養上清中に存在するマイコウイルスがイネいもち病菌正常菌株に感染し、その生育を抑制したためであると考える。即ち、本実験結果は、菌体外に存在するマイコウイルスに、正常の菌株に対する感染能力があることを示唆する。
【実施例6】
【0089】
実施例6では、マイコウイルスが感染したイネいもち病菌株について、その分生子数を測定した。
【0090】
実施例1において2.8~3.6kbに4成分以上の内在性二本鎖RNAのバンドを検出した菌株をYGプレートに移植し、2週間培養した後、直径4mmのコルクボーラーで菌体を抜き取り、採取した。
【0091】
次に、1.5mlチューブに、5%グリセロールを入れ、採取した菌体を入れ、5分間混和・懸濁した。そして、血球計算盤を用いて、懸濁液中に存在する分生子数を計測した。
【0092】
その結果、イネいもち病菌の正常菌株(コントロール、マイコウイルスを保持しない菌株)では分生子数が33×10個/mLであったのに対し、マイコウイルスを内在するイネいもち病菌株では分生子数が1×10個/mL以下であった。
【0093】
この結果は、本発明に係るマイコウイルスが、宿主菌の分生子形成を抑制することを示す。即ち、本発明が、植物病害菌の増殖を抑制するとともに、その伝播・感染拡大なども抑制できる可能性を示唆する。
【実施例7】
【0094】
実施例7では、イネいもち病菌から抽出された二本鎖RNAの塩基配列を解析した。
【0095】
(1)二本鎖RNAの抽出・精製
はじめに、二本鎖RNAの抽出・精製を以下の手順で行った。
【0096】
実施例1において二本鎖RNAが検出された一つの菌株について、液体窒素で凍結後摩砕し、抽出バッファー(2×STE、1%SDS、10mMβ-メルカプトエタノール)を菌体0.1gに対し1ml添加した。該溶液に、PCI(50%フェノール、48%クロロホルム、2%イソアミルアルコール)を抽出バッファーと等量加え、室温で30分間よく攪拌し、遠心分離(8,000rpm、20分間、室温)し、その上清(水相)を採取した。次に、採取した上清に等量の100%エタノールを加え(最終濃度で、50%エタノール/1×STE溶液)、エタノール沈殿を行った。
【0097】
得られた沈殿物(核酸)を17.5%エタノール/1×STE溶液に溶解し、65℃、10分間、加熱処理後氷中で急冷し、遠心分離(8,000rpm、10分間、4℃)し、その上清を採取した。その上清に繊維性セルロース充填剤(商品名「CF11」、ワットマン社製)を加え、30~60分間、4℃条件下で攪拌した後、カラム(直径1.5cm、高さ12cm)に充填した。
【0098】
次に、カラムに17.5%エタノール/1×STE溶液を供給し、非吸着画分を除去した後、1×STE溶液を供給し、吸着画分を溶出・回収した。溶出画分中の混入DNAを除去するため、DNaseI(タカラバイオ株式会社製)を25U加え、37℃、30分間反応させた後、エタノール沈殿を行い、目的の二本鎖RNAを得た。
【0099】
(2)cDNAクローニング
続いて、得られた二本鎖RNAを鋳型としてcDNAを合成した後、cDNAクローニングを行った。
【0100】
得られた二本鎖RNAについて、ランダムプライマー、SuperScriptIII逆転写酵素(インビトロジェン社製、以下同じ)を用いて、First strand cDNAを合成した。次に、RNase Hで処理した後、DNAポリメラーゼIを用いてSecond strand cDNAを合成した。合成した二本鎖cDNAをT4DNAポリメラーゼで末端平滑化した後、QIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製、以下同じ)で精製した。
【0101】
次に、その末端をリン酸化修飾した後、pUC19プラスミドベクター(タカラバイオ株式会社製、以下同じ)にそのcDNAを組み込み、その組換えベクターを大腸菌に形質転換させ、各cDNAのクローンを得た。そして、各cDNAクローンについてシークエンス測定を行った。
【0102】
得られた各塩基配列情報に基づきコンティグシークエンスを作成した結果、菌体中に存在した四種類の二本鎖RNAについて、いずれについても、ほぼ全長の塩基配列を取得できた。
【0103】
(3)5’RACE法による両末端配列の解析
続いて、それらの配列情報に基づき、遺伝子特異的なアンチセンスプライマーを合成し、上記と同様の手順で菌体から二本鎖RNAを抽出・精製し、SuperScriptIII逆転写酵素及びそのプライマーを用いてcDNAを合成し、RNase Hで処理し、一本鎖のFirst strand cDNAを得た。
【0104】
次に、Terminal Deoxynucleotidyl Transferase(タカラバイオ株式会社製)を用いてその一本鎖cDNAにデオキシシトシンホモポリマーをアンカー配列として付加した。次に、デオキシグアニンホモポリマーの付いたアダプタープライマーを合成し、遺伝子特異的なアンチセンスプライマーを合成し、両プライマーに挟まれた部分をPCR法により増幅してcDNAを合成した。
【0105】
次に、そのcDNAをT4DNAポリメラーゼで末端平滑化し、QIAquick PCR Purification Kitで精製し、その末端をリン酸化修飾した後、pUC19プラスミドベクターにそのcDNAを組み込み、その組換えベクターを大腸菌に形質転換させ、各cDNAのクローンを得た。そして、各cDNAクローンについてシークエンス測定を行った。
【0106】
以上の手順により、新規マイコウイルスの遺伝子情報の全長配列を得た。このマイコウイルスは、四種類の二本鎖RNAから構成されている。各二本鎖RNAの配列を配列番号1~4に示す。なお、二本鎖RNAをcDNAに置換してシークエンス測定を行っているため、配列表では「ウラシル」が「チミン」に置換されている。
【0107】
なお、得られた塩基配列について解析を行った結果、配列番号1に示すRNA配列には、トチウイルス及びその近縁ウイルスなどに存在するRdRp(RNA依存性RNA合成酵素)の保存モチーフが含まれていた。また、配列番号3に示すRNA配列には、ラ・フランス病ウイルスのL3二本鎖RNA断片と相同性を有する領域が含まれていた。
【0108】
この結果は、本発明に係る四種類の二本鎖RNAが、新規マイコウイルスの遺伝子情報であることを示す。
【実施例8】
【0109】
実施例8では、本発明に係るマイコウイルスのウイルス粒子について、生化学的特性の解析を行った。
【0110】
イネいもち病菌S-0412-II 1a株を液体窒素で凍結させ、乳鉢で摩砕した。そのサンプルに4~6倍容量の0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、ミキサーで攪拌した。次に、リン酸緩衝液に対して40%容積のブタノール・クロロホルム(容積比1:1)を加え、30分間攪拌し、遠心(8,000×g、10分間)してその上清を回収し、この操作を数回繰り返した。
【0111】
次に、その上清にポリエチレングリコール(平均分子量6,000)を終濃度8%、塩化ナトリウムを終濃度1%になるように加えて溶解させ、4℃で3時間放置してウイルス同士を凝集させ、遠心(12,000×g、20分間)し、ポリエチレングリコールにより凝集されたウイルス沈殿物を得た。
【0112】
このウイルス沈殿物を適量の0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、溶け残った不純物を遠心(6,000×g、5分間)して除去し、その上清を回収した。
【0113】
次に、クッションとして遠心チューブの底から約1cm程度の高さになるように20%ショ糖を分注し、回収した上清を重層させ、超遠心(100,000×g、2時間)し、その沈殿物を少量の0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)に溶かし、これを部分純化ウイルス標品とした。
【0114】
このウイルス標品の一部をSDS-PAGE(7.5%ゲル、トリスーグリシンバッファー(pH8.8)、20mA、90分間)し、CBB(クーマシーブリリアントブルー)で染色し、ウイルスタンパク質の主な成分(外皮タンパク質)の分子量解析を行った。
【0115】
その結果、約70kDaのサイズにウイルス粒子由来のタンパク質のバンドを検出した。
【0116】
そこで、SDS-フェノール法で、この70kDaのタンパク質が検出される成分から核酸抽出を行った。その結果、2.8~3.6kbpの4成分の2本鎖RNAが検出された。
【0117】
以上、本実施例により、本発明に係るマイコウイルスのウイルス粒子の存在を確認できた。
【実施例9】
【0118】
実施例9では、本発明が植物病害真菌の防除に有効であるかどうかを、噴霧接種法で検討した。
【0119】
イネいもち病菌S-0412-II 1a株をオートミール培地プレートに接種し、25℃の室内で培養した。接種後15日目に分生子が充分できていない場合は、プレートに滅菌蒸留水を2mL程度注ぎ、筆で培地表面をこすって気菌糸を取り除き、このプレートを3日間ブラックライト下に置いて分生子形成を誘導し、滅菌蒸留水を1mL程度注ぎ、再び筆で培地表面をこすって気菌糸ごと分生子を回収し、分生子含有液を得た。接種後15日目に分生子が充分できている場合は、プレートに滅菌蒸留水を2mL程度注ぎ、筆で培地表面をこすって気菌糸ごと分生子を回収し、分生子含有液を得た。また、対照として、イネいもち病菌のマイコウイルス完全治癒株を実施例3と同様の手順で作製し、その菌から同様の手順で分生子含有液を得た。
【0120】
次に、それらの分生子含有液をキムワイプ又はガーゼでろ過し、分生子濃度を2×10個/mLに調整し、0.02%(v/v)のTween20を加え、分生子懸濁液とした。
【0121】
次に、イネ苗(いもち病真性抵抗性遺伝子型と菌のレースを考慮して適宜選択した品種、播種後2~3週間目のもの)に、ノズルを用いて分生子懸濁液をまんべんなく噴霧し、植物体を26℃、相対湿度100%の接種箱で24時間静置した後、ポットを温室に移して室温を23~30℃に維持し、噴霧接種後7日間培養した。そして、噴霧接種後7日目に一定葉面積あたりの3~4mmとなった罹病性病斑の数を計測した。
【0122】
結果を図2に示す。図2は、イネいもち病菌を接種した葉における病斑数を示すグラフである。図中、縦軸はイネいもち病菌を接種した葉における病斑数を表す。図中、「混合感染株」は本発明に係るマイコウイルスに感染したイネいもち病菌から調製した分生子懸濁液を噴霧した場合の病斑数を、「完全治癒株」はイネいもち病菌のマイコウイルス完全治癒株から調製した分生子懸濁液を噴霧した場合の病斑数(対照)を、それぞれ表す。
【0123】
図2に示す通り、本発明に係るマイコウイルスに感染したイネいもち病菌から調製した分生子懸濁液を噴霧した場合、対照と比較し、病斑数が顕著に減少した。この結果は、本発明が植物病害真菌の防除に有効であることを示す。
【実施例10】
【0124】
実施例10では、本発明が植物病害真菌の防除に有効であるかどうかを、パンチ付傷接種法で検討した。
【0125】
実施例9と同様の手順で分生子懸濁液を調製し、3%素寒天膜に同液を付着させ,寒天膜を約2mm角に切り取り、寒天片を作製した。23~30℃の温室で栽培したイネの第4葉を接種用パンチではさみ、浸潤状の傷をつけ、その付傷部分に寒天片を乗せ、植物体を26℃、相対湿度100%の接種箱で24時間静置した後、ポットを温室に移して室温を23~30℃に維持し、接種後14日間培養した。そして、接種後14日目に病斑の大きさを計測した。
【0126】
その結果、本発明に係るマイコウイルスに感染したイネいもち病菌から調製した分生子懸濁液を接種した場合、対照と比較し、病斑の大きさが顕著に小さかった。この結果は、実施例9と同様、本発明が植物病害真菌の防除に有効であることを示す。
【実施例11】
【0127】
実施例11では、菌体外に存在したウイルス粒子を電子顕微鏡により同定した。
【0128】
イネいもち病菌S-0412-II 1a株を、YG培地(Yeast Extract0.5%、グルコース2%)中で培養し、その培養上清からウイルス粒子を単離した。その培養上清を遠心(10,000×g、5分間)し、その上清を超遠心(100,000×g、30分間)し、ウイルス粒子を含む沈殿物を得た。その沈殿物を0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解し、リンタングステン酸又は酢酸ウランを用いてネガティブ染色し、電子顕微鏡(倍率:×20,000~40,000)で観察した。
【0129】
結果を図3に示す。図3は、イネいもち病菌S-0412-II 1a株の培養上清から得られたウイルス粒子の電子顕微鏡写真である。図3に示す通り、電子顕微鏡により、本発明に係るマイコウイルスのウイルス粒子を同定できた。このウイルス粒子は、約30~40nmの正6角形様であり、エンベロープ様の構造に包まれていた。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】実施例1において、イネいもち病菌57株のうち9株についての二本鎖RNA検出結果を表す電気泳動写真。
【図2】実施例9において、イネいもち病菌を接種した葉における病斑数を示すグラフ。
【図3】実施例11において、本発明に係るウイルス粒子の電子顕微鏡写真。
図面
【図2】
0
【図1】
1
【図3】
2