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明細書 :ガスハイドレート反応生成物生成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6032527号 (P6032527)
公開番号 特開2013-184891 (P2013-184891A)
登録日 平成28年11月4日(2016.11.4)
発行日 平成28年11月30日(2016.11.30)
公開日 平成25年9月19日(2013.9.19)
発明の名称または考案の名称 ガスハイドレート反応生成物生成方法
国際特許分類 C07C  29/00        (2006.01)
C07C  31/04        (2006.01)
C07C  31/08        (2006.01)
C07C  31/10        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 29/00
C07C 31/04
C07C 31/08
C07C 31/10
C07B 61/00 D
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2012-048718 (P2012-048718)
出願日 平成24年3月6日(2012.3.6)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 研究集会 :氷の物理と化学研究の新展開・2011 主催者名 :国立大学法人北海道大学低温科学研究所 開催日 :2011年9月6日 文書の種類:スライド
審査請求日 平成27年3月2日(2015.3.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】谷 篤史
【氏名】菅原 武
【氏名】大垣 一成
【氏名】井上 達也
個別代理人の代理人 【識別番号】100168583、【弁理士】、【氏名又は名称】前井 宏之
審査官 【審査官】土橋 敬介
参考文献・文献 米国特許第06267849(US,B1)
Dirk D. Link et al.,PHYSICAL PROPERTIES AND CONVERSION OF METHANE HYDRATES,Preprints of Papers- American Chemical Society, Division of Fuel Chemistry,2002年,47 (1),341-343
調査した分野 C07C 29/00
C07C 31/04
C07C 31/08
C07C 31/10
C07B 61/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
水分子がゲスト分子を包接する結晶構造を有するガスハイドレートを用意する工程と、
光源から出射された紫外光を前記ガスハイドレートに照射することにより、前記ガスハイドレートの反応生成物を生成する工程と
を包含
前記紫外光の波長は150nm以上200nm以下であり、
前記紫外光に対する前記ゲスト分子の吸収断面積は、前記水分子よりも小さい、ガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項2】
前記反応生成物を生成する工程において、前記紫外光は、波長変換されることなく前記光源から前記ガスハイドレートまで伝搬する、請求項1に記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項3】
前記反応生成物を生成する工程において、前記光源はエキシマランプまたは発光ダイオードを含む、請求項2に記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項4】
前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記ゲスト分子は炭化水素である、請求項1から3のいずれかに記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項5】
前記反応生成物を生成する工程において、前記反応生成物はアルコールを含む、請求項1から4のいずれかに記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項6】
前記反応生成物を生成する工程において、前記アルコールは、メタノール、エタノールおよびプロパノールの少なくとも1つを含む、請求項5に記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項7】
前記反応生成物を生成する工程において、前記反応生成物は水素を含む、請求項1から6のいずれかに記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項8】
前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記ガスハイドレートは、粉砕、または、水のミスト化によって調製された微粒子を含む、請求項1から7のいずれかに記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項9】
前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記微粒子の平均粒径は1mm以下である、請求項8に記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
【請求項10】
前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記ガスハイドレートに過酸化水素を添加し、
前記反応生成物を生成する工程において、前記紫外光の波長は150nm以上250nm以下である、請求項1から9のいずれかに記載のガスハイドレート反応生成物生成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレート反応生成物生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、代表的なアルコール化合物の1つであり、他の化学物質の材料、溶媒、燃料および燃料電池の材料等の様々な用途で広く用いられている。一般に、メタノールは、触媒の存在下においてCOおよびH2を加熱して生成されている。典型的には、メタノールの生成は50気圧~100気圧および200℃~300℃の低圧条件下、または、150気圧~200気圧および300℃~400℃の高圧条件下で行われる。
【0003】
近年、石油や天然ガスに代わる新たな資源として、メタンハイドレートを代表とするガスハイドレートが注目されている。メタンハイドレートはメタンを内包しており、メタンハイドレートをメタノールに変換する研究が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、光触媒の存在下で、メタンハイドレートに、光源からの光を波長310nm以下の成分をブロックして照射することにより、メタンハイドレートからメタノールに変換することが開示されている。
【0004】
また、大量のメタンハイドレートが海底に存在することが広く知られており、現在、海底のメタンハイドレートを採掘するための研究が進められている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の採掘方法では、レーザから出射された波長300nm~700nmの光は、レンズを介して集光される過程で水中を進行した後、レンズを介してメタンハイドレートの内部で集光し、集光時に生成した高次光により、メタンハイドレートからメタノールが生成される。特許文献2の採掘方法において、このメタノールは分解促進剤として利用される。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】米国特許第6267849号明細書
【特許文献2】特開2009-46882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2の方法では、ガスハイドレートにおける反応効率が低く、反応生成物を効率的に生成できないことがある。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、ガスハイドレートにおける反応を効率的に行うガスハイドレート反応生成物生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるガスハイドレート反応生成物生成方法は、水分子がゲスト分子を包接する結晶構造を有するガスハイドレートを用意する工程と、光源から出射された紫外光を前記ガスハイドレートに照射することにより、前記ガスハイドレートの反応生成物を生成する工程とを包含する。
【0009】
ある実施形態では、前記反応生成物を生成する工程において、前記紫外光は、波長変換されることなく前記光源から前記ガスハイドレートまで伝搬する。
【0010】
ある実施形態では、前記反応生成物を生成する工程において、前記光源はエキシマランプまたは発光ダイオードを含む。
【0011】
ある実施形態では、前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記ゲスト分子は炭化水素であり、前記反応生成物を生成する工程において、前記紫外光の波長は150nm以上200nm以下である。
【0012】
ある実施形態では、前記反応生成物を生成する工程において、前記反応生成物はアルコールを含む。
【0013】
ある実施形態では、前記反応生成物を生成する工程において、前記アルコールは、メタノール、エタノールおよびプロパノールの少なくとも1つを含む。
【0014】
ある実施形態では、前記反応生成物を生成する工程において、前記反応生成物は水素を含む。
【0015】
ある実施形態では、前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記ガスハイドレートは、粉砕、または、水のミスト化によって調製された微粒子を含む。
【0016】
ある実施形態では、前記ガスハイドレートを用意する工程において、前記微粒子の平均粒径は1mm以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスハイドレートにおける反応を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)および(b)は、本発明によるガスハイドレート反応生成物生成方法の実施形態を説明するための模式図である。
【図2】本実施形態におけるガスハイドレートを生成するガスハイドレート生成装置の一例を示す模式図である。
【図3】水およびメタンの吸収断面積の波長依存性を示すグラフである。
【図4】メタンハイドレートに紫外光およびγ線を照射した場合、ならびに、これらを照射しなかった場合のガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を示すグラフである。
【図5】本実施形態のガスハイドレート反応生成物生成方法におけるガスハイドレート半径に対するメタノール濃度の変化を示すグラフである。
【図6】(a)~(c)はガスハイドレートの反応領域とガスハイドレートの粒径との関係を説明するための模式図である。
【図7】ガスハイドレート半径に対する反応体積比の変化を示すグラフである。
【図8】紫外光の照射時間に対するメタノール濃度の変化を示すグラフである。
【図9】本実施形態のガスハイドレート反応生成物生成方法にしたがって反応生成物を生成するガスハイドレート反応生成物生成装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明によるガスハイドレート反応生成物生成方法の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。

【0020】
まず、図1を参照して、本実施形態のガスハイドレート反応生成物生成方法を説明する。図1(a)に示すように、ガスハイドレートGを用意する。図1(a)では、粒子状のガスハイドレートGが反応容器110内に配置されている。典型的には、反応容器110内は低温高圧に維持されている。例えば、反応容器110内の温度および圧力は、ガスハイドレートGが熱力学的に安定に存在しうる温度・圧力境界より低温かつ高圧である。

【0021】
ガスハイドレートGは、水分子がゲスト分子を包接する結晶構造を有している。ゲスト分子は、水分子の水素結合で形成された籠状のハイドレートの中に位置している。ゲスト分子は、メタン、エタンまたはプロパンであってもよい。また、ゲスト分子は、他の炭化水素であってもよい。あるいは、ゲスト分子は、炭化水素に限定されず、窒素または二酸化炭素であってもよく、さらには、ケトン、エーテルまたはアミンであってもよい。このように、ゲスト分子は、常温常圧下でガス状の分子に限られず、ゲスト分子は、ハイドレートに包接される分子である。このようなガスハイドレートGはクラスレートハイドレートとも呼ばれる。また、水分子は、軽水(H2O)だけでなく重水(D2O)であってもよい。

【0022】
次に、図1(b)に示すように、光源120から出射された紫外光LをガスハイドレートGに照射する。紫外光Lの照射により、ガスハイドレートGの反応生成物が生成される。光源120はランプまたはレーザである。あるいは、光源120として発光ダイオードを利用してもよい。紫外光Lの波長は、波長150nm以上200nm以下であることが好ましい。本実施形態では、光源120から出射された紫外光Lは、多重励起で波長変換されることなく光源120からガスハイドレートGまで伝搬する。

【0023】
図1(b)では、光源120は反応容器110の外側に配置されており、光源120から出射された紫外光は気中を伝搬してガスハイドレートGに到達する。ただし、光源120は反応容器110内に配置されてもよい。

【0024】
紫外光Lは、ゲスト分子にほとんど吸収されない一方、水分子に高い割合で吸収される。このため、ガスハイドレートGのゲスト分子のラジカル化はほとんど起こらない一方で、ホスト分子である水分子が紫外光Lを選択的に吸収することにより、水分子はラジカル化し、水分子由来のラジカル種(ヒドロキシルラジカル)が生成される。このように、ガスハイドレートGの水分子が選択的にラジカル化することにより、ガスハイドレートGにおける反応が進行し、反応生成物が効率的に生成される。本明細書において、ガスハイドレートGに紫外光Lを照射して得られる反応生成物をガスハイドレート反応生成物とも記載する。

【0025】
本実施形態のガスハイドレート反応生成物生成方法では、光源120から出射された紫外光LをガスハイドレートGに照射するため、高次光への変換を必要とせず、ガスハイドレートGにおける反応に伴う反応生成物を効率的に生成することができる。また、このように、紫外光LをガスハイドレートGに直接照射する場合、光源からガスハイドレートまでの経路を簡易に構成できるため、コストの低減を図ることができる。

【0026】
また、本実施形態では、1つの光源から出射される紫外光を比較的広い面積でガスハイドレートに当てることができるため、ガスハイドレートにおける反応を効率的に行うことができる。さらに、ガスハイドレートの周囲に1つまたは複数の光源を設置することにより、ガスハイドレートにおける反応を容易に行うことができる。

【0027】
ガスハイドレートでは、ゲスト分子が、水分子の籠に包まれている。このため、ゲスト分子自体が水に溶けにくく疎水性を示しても、分子レベルでみた場合に互いに近くに位置するゲスト分子と水分子の数を増大させることができ、結果として、ゲスト分子と水分子の接触面積を増大させることができる。このため、本実施形態によれば、ゲスト分子単体では比較的水と反応しにくい化合物であっても、ゲスト分子と水分子とを簡便に反応させることができる。

【0028】
例えば、ゲスト分子が炭化水素である場合、紫外光によって適量のヒドロキシルラジカルが生成されると、ゲスト分子はある程度酸化され、アルコールが好適に生成される。このような酸化は部分酸化とも呼ばれる。また、紫外光によって生成されるヒドロキシルラジカルの量が比較的多いと、ゲスト分子の酸化がさらに進行し、カルボン酸またはアルデヒドが生成される。例えば、紫外光の強度および/または照射時間を増大させることにより、カルボン酸またはアルデヒドを好適に生成できる。なお、ゲスト分子が炭化水素である場合、ゲスト分子と水分子とが反応した反応生成物として水素も生成されることがある。

【0029】
また、波長200nmよりも長い波長の光に対して水分子の吸収断面積はそれほど大きくない。この場合、例えば、ガスハイドレートGの生成時に過酸化水素(H22)を添加すると、紫外光の波長が約250nmであっても、ヒドロキシルラジカルを容易に生成することができ、反応生成物の生成効率を増大させることができる。

【0030】
なお、図1では、光源から出射された紫外光はレンズ等の光学系を介することなくガスハイドレートに照射されたが、本発明はこれに限定されない。紫外光はレンズ等によって進行方向を変化した後、ガスハイドレートに照射されてもよい。

【0031】
なお、紫外光はガスハイドレートに吸収されやすく、ガスハイドレートの表層において反応が進行する。このため、反応生成物を効率よく生成するためには、紫外光を照射するガスハイドレートの粒径が比較的小さいことが好ましい。例えば、ガスハイドレートの粒径は、10mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、数十μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。

【0032】
ガスハイドレートの粒径は、ガスハイドレートを粉砕することによって小さくできる。例えば、粒径の比較的大きいガスハイドレートを乳棒および乳鉢を用いて粉砕した後、ふるいを用いて粒径を選別したガスハイドレートを調製することができる。あるいは、高圧低温下で水分子をミスト状に噴出してゲスト分子と反応させることにより、粒径の小さいガスハイドレートを生成することができる。

【0033】
ガスハイドレートは、例えば、水の封入された反応容器内にゲスト分子ガスを供給して低温下で加圧することによって生成される。ここで、図2を参照してガスハイドレートを生成する装置の一例を説明する。

【0034】
図2に、ガスハイドレート生成装置200の模式図を示す。ガスハイドレート生成装置200は、反応容器210と、ガス供給部220と、撹拌部230とを備えている。反応容器210内には水が封入されており、ガス供給部220はゲスト分子ガスを反応容器210内に供給する。例えば、ガス供給部220は反応容器210内にメタンガスを供給する。

【0035】
反応容器210の内部が低温かつ加圧状態であると、気液界面においてガスハイドレートが生成される。ただし、気液界面の全面がガスハイドレートで覆われると、ガスハイドレートの生成反応が停止してしまう。このため、撹拌部230は、気液界面を撹拌するための撹拌棒を有している。撹拌棒によって撹拌を行うと、ガスハイドレートは粉砕され、水中に懸濁する。ここでは、撹拌棒が上下方向に移動することにより、ガスハイドレートで覆われていない界面を露出させ、ガスハイドレートの生成反応を進行させる。例えば、撹拌部230は、永久磁石およびモータにより、撹拌棒の上下移動を行う。

【0036】
所定の量のガスハイドレートを生成した後、または、撹拌棒による撹拌が不可能になった後、反応容器210から水を抜き、ガスハイドレートを取り出す。以上のようにしてガスハイドレートを生成できる。

【0037】
以下に、ガスハイドレートの一例としてメタンハイドレートを説明する。ここでは、メタンハイドレートに紫外光を照射し、メタノールを生成する。なお、上述したように、本発明において反応生成物はメタノールに限定されず、ガスハイドレートはメタンハイドレートに限定されないことに留意されたい。

【0038】
一般に、メタンは、水に溶けにくく疎水性を示すが、メタンハイドレートでは、メタン分子が、水分子の籠の中に位置している。例えば、典型的なメタンハイドレートでは、メタン分子と水分子との割合は約1:6である。

【0039】
上述したように、特許文献1には、メタンハイドレードをメタノールに変換する際に光触媒を利用することが記載されている。これに対して、本実施形態では、触媒を必須とすることなく、メタノールを簡便に生成することができる。例えば、本実施形態において、海底から採掘した天然のガスハイドレートを用いてもよい。あるいは、ガスハイドレートは、人工的に(工業的に)生成したものを用いてもよい。

【0040】
上述の説明から理解されるように、メタンハイドレートに紫外光を照射すると、ヒドロキシルラジカルが効率的に生成される。図3は、水(H2O)およびメタン(CH4)の吸収断面積の波長依存性を示すグラフである。水(H2O)の吸収断面積の波長依存性は、K.Watanabe & M.Zelikoff (1953) J. Opt. Soc. Am., 43, 753?755 および、B.A.Thompson et al.(1963) J. Geophys. Res., 68, 6431?6436 に示されており、メタン(CH4)の吸収断面積の波長依存性は、A. Y. T.Lee et al.(2001) Astrophys. J., 551, L93-L96 に示されている。

【0041】
図3に示すように、水の吸収断面積は波長150nm以上200nm以下の範囲にわたって比較的高いのに対して、メタンの吸収断面積は波長150nm以上200nm以下の範囲では比較的低い。ここでは、この波長範囲内の各波長においてメタンの吸収断面積に対する水の吸収断面積の割合は103以上である。したがって、メタンがラジカル化したメチルラジカルをそれほど生成することなく、水がラジカル化したヒドロキシルラジカルを効率よく生成できる。

【0042】
図4は、ガスクロマトグラフ質量分析の測定結果を示すグラフである。図4の横軸は、ガスクロマトグラフ質量分析器における保持時間を示している。図4において、領域4aはメタノール由来の成分を示す領域であり、領域4bは空気由来の成分を示す領域である。図4には、メタンハイドレートに紫外光およびγ線を照射した場合のそれぞれの測定結果を示すとともに、メタンハイドレートに照射を行わなかった場合の測定結果およびメタノール標準溶液を測定した結果を併せて示している。

【0043】
図4に示すように、非照射の場合、空気由来の成分が検出される一方で、メタノール由来の成分はほとんど検出されない。また、γ線を照射した場合、空気由来の成分の強度が高い一方で、メタノール由来の成分の強度は低い。

【0044】
一方、紫外光を照射した場合、空気由来の成分だけでなくメタノール由来の成分の強度も高い。以上から、紫外光の照射により、メタンハイドレートからメタノールが効率的に生成されていることが理解される。

【0045】
なお、紫外光はメタンハイドレートに吸収されやすい。例えば、波長172nmの光はメタンハイドレードを165nm進むと、光の強度はほぼ1/100になり、ほぼ99%の光が吸収される。この波長では、紫外光がメタンハイドレートに波長程度の深さだけ浸透すると、紫外光の強度はほぼ1/100に低減する。このため、反応生成物を効率よく生成するためには、紫外光を照射するメタンハイドレートの粒径が比較的小さいことが好ましい。

【0046】
メタンハイドレートの粒径は、メタンハイドレートを粉砕することによって小さくできる。例えば、粒径の比較的大きいメタンハイドレートを乳棒および乳鉢を用いて粉砕した後、ふるいを用いて粒径を選別したガスハイドレートを調製することができる。

【0047】
例えば、メタンハイドレートは、図2に示したガスハイドレート生成装置200においてガス供給部220からメタンガスを供給し、10℃および100気圧に加圧することによって生成される。その後、ガスハイドレート生成装置200からメタンハイドレートを取り出し、乳棒および乳鉢で粉砕した後、ふるいをかけ、平均粒径2~4mmのメタンハイドレートを選別する。

【0048】
その後、このメタンハイドレートに、低温下において紫外光が照射される。例えば、77Kの窒素雰囲気下において、Xeエキシマランプから出射された紫外光を照射する。この場合、紫外光の波長は172nmである。

【0049】
図5に、ガスハイドレート半径に対するメタノール濃度の測定結果を示す。ここでは、粒径の異なるガスハイドレートを用いてメタノール濃度を測定している。図5から理解されるように、ガスハイドレート半径が小さくなるほど、メタノール濃度が増大する。

【0050】
上述したように、紫外光は、ガスハイドレート内に浸透し、反応を進行させる。例えば、紫外光の波長を一定とした場合、ガスハイドレートの粒径に応じて単位体積当たりの反応領域の比が変化する。

【0051】
ここで、図6を参照して、ガスハイドレートの粒径と反応領域との関係を説明する。ここでは、紫外光の照射によってガスハイドレートGの反応する領域を反応領域R1と示し、未反応の領域を未反応領域R2と示している。

【0052】
図6(a)に示すように、ガスハイドレートの粒径が比較的大きい場合、紫外光はガスハイドレートの表層に浸透するのみであり、反応はガスハイドレートの表層のみで起こる。このため、ガスハイドレートの全体体積に対する反応領域R1の体積の比は比較的小さい。

【0053】
これに対して、図6(b)に示すように、ガスハイドレートの粒径が比較的小さい場合、紫外光はガスハイドレートの比較的内部まで浸透するため、ガスハイドレートの全体体積に対する反応領域R1の体積の比は増大する。また、図6(c)に示すように、紫外光の浸透距離がガスハイドレートの半径とほぼ等しい場合、ガスハイドレート全体が反応領域となる。このように、ガスハイドレートの粒子の半径が紫外光の浸透距離と同じまたはそれ以下となる場合、ガスハイドレートの全体体積に対する反応領域R1の体積の比を増大させることができる。

【0054】
図7に、ガスハイドレートの半径に対する反応体積比の計算結果を示す。反応体積比は、ガスハイドレートの全体体積(すなわち、反応領域R1および未反応領域R2の体積の和)に対する反応領域R1の体積の比を示す。図7に示すように、ガスハイドレート粒子の半径が比較的大きいと、反応体積比は小さい。ガスハイドレート粒子の半径が小さくなるほど、反応体積比は1に近づく。

【0055】
図8に、照射時間に対するメタノール濃度の変化を示す。図8から理解されるように、照射時間が長くなるほど、メタノール濃度が増加する。図8において、メタンハイドレート固体中のメタンのモル濃度は8.1mol/lである。なお、例えば、紫外光の照射を4時間行った場合の反応系全体のメタノールのモル濃度は400μmol/lである。

【0056】
ここで、図6(a)を参照して上述したように反応領域R1においてのみメタノールが存在すると仮定した場合、反応領域R1の濃度は1.6mol/lとなり、転換効率は20%である。なお、液体窒素で冷却した条件下において、メタノールはガスハイドレート粒子の表層に存在したままである。

【0057】
上述したように、ガスハイドレートの粒径は、粉砕して低減させることができる。ただし、ガスハイドレートを粉砕する場合、摩擦熱等により、意図しないガスハイドレートの分解が進行することがある。このような分解を抑制するためには、粒径の小さいガスハイドレートを直接生成することが好ましい。

【0058】
図9に、ガスハイドレート反応生成物生成装置300の模式図を示す。ガスハイドレート反応生成物生成装置300は、本実施形態のガスハイドレート反応生成物生成方法に従って反応生成物を生成する。ガスハイドレート反応生成物生成装置300は、反応容器310と、ガス供給口312と、水供給口314と、光源320と、反応物精製容器330とを備えている。

【0059】
反応容器310は鉛直方向に延びており、ガス供給口312および水供給口314は反応容器310の上方に設けられている。反応容器310内には、ガス供給口312からゲスト分子ガス(例えば、メタンガス)が供給され、水供給口314から水が供給される。光源320は、反応容器310の中央部分に紫外光を照射可能なように反応容器310の外部に設けられている。反応物精製容器330は、反応容器310の下方と連絡している。

【0060】
反応容器310内は高圧および低温に設定されている。反応容器310内にガス供給口312からゲスト分子ガスを供給するとともに水供給口314から水を供給する。例えば、反応容器310内の圧力は100気圧程度であり、反応容器310内の温度は10℃程度である。この場合、微粒子状のガスハイドレートGが生成される。ガスハイドレート反応生成物生成装置300において、粒径数十から数百nmの水(ナノミストとも呼ばれる)を噴霧することにより、同程度の粒径サイズのガスハイドレートを好適に生成することができる。

【0061】
生成された微粒子状のガスハイドレートGは、重力の影響によって下方に落下する。ただし、粒子状のガスハイドレートGの質量は極めて小さいため、ガスハイドレートGはゆっくりと落下する。ガスハイドレートGが反応容器310内において落下している最中に光源320から紫外光が照射されると、ガスハイドレートGにおいて反応が進行する。

【0062】
反応容器310の下方には水およびガスハイドレートGが存在しており、ガスハイドレートGの表層に反応物(例えば、メタノール)が存在している。必要に応じて、反応容器310内の下方においてガスハイドレートGを適度に加熱することによって分解し、反応生成物(例えば、メタノール)を含む水が生成される。

【0063】
反応物精製容器330は、反応容器310の下方と連絡しており、反応容器310の下方の水は反応物精製容器330に流れる。反応物精製容器330は、水に溶解している反応生成物の精製を行う。なお、反応物精製容器330から、所定の反応生成物を取り出すとともに、溶解物のほとんどない水を分離し、この水を、水供給口314から反応容器310に再度利用してもよい。このようなガスハイドレート反応生成物生成装置300によれば、粒径の小さいガスハイドレートGを直接生成するため、反応生成物を効率的に生成することができる。

【0064】
図9に示したガスハイドレート反応生成物生成装置300では、反応容器310内に水を供給したが、本発明はこれに限定されない。ガスハイドレート反応生成物生成装置300において微粒子状の氷を供給してもよい。この場合、微粒子状の氷とゲスト分子ガスとの反応によってガスハイドレートを生成してもよい。

【0065】
なお、上述した説明では、光源から出射された紫外光を、反応容器内のガスハイドレートに照射したが、本発明はこれに限定されない。例えば、光源から出射された紫外光を、海底のガスハイドレートに照射してもよい。ただし、この場合、紫外光は、水を介することなくガスハイドレートに照射させることが好ましい。

【0066】
また、上述した説明では、ガスハイドレートは粒子状であったが、本発明はこれに限定されない。ガスハイドレートは粒子状でなくてもよい。ガスハイドレートを生成した後、粉末状のガスハイドレートを成型器で、例えば、バームクーヘン状に成形してもよい。例えば、成形されたガスハイドレートの断面はドーナツ状である。

【0067】
このガスハイドレートに紫外光を照射すると、ガスハイドレートの表層に高濃度の反応生成物が生成される。紫外光の照射後、表層に形成された反応生成物を剥離し、未反応表面を露出することにより、反応生成物を取得してもよい。また、ガスハイドレートへの紫外光の照射および反応生成物の剥離を繰り返すことにより、反応生成物を連続的に取得してもよい。

【0068】
なお、上述した説明では、ガスハイドレートの一例としてメタンハイドレートを例示し、反応生成物の一例としてメタノールについて説明したが、本発明はこれに限定されない。ガスハイドレートはエタンハイドレートまたはプロパンハイドレートであり、反応生成物としてエタノールまたはプロパノールが生成されてもよい。

【0069】
また、上述した説明では、反応生成物として主にアルコールについて説明したが、本発明はこれに限定されない。反応生成物は、アルコールよりも酸化の進行したカルボン酸またはアルデヒドであってもよい。例えば、紫外光の強度および/または照射時間を増加させることにより、ガスハイドレートからカルボン酸またはアルデヒドを簡便に生成できる。

【0070】
また、上述した説明では、ゲスト分子の一例として、主に炭化水素、特にメタンについて説明したが、本発明はこれに限定されない。ゲスト分子は、炭化水素以外の化合物であってもよい。例えば、ゲスト分子は、窒素を含み、一例として、アミン系化合物であってもよい。あるいは、ゲスト分子は二酸化炭素であり、ガスハイドレートは二酸化炭素ハイドレートであってもよい。なお、この場合、照射する紫外光の波長において、ゲスト分子の吸収断面積は低いことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、ガスハイドレートにおける反応を効率的に行うことができる。例えば、本発明の実施形態は、メタンハイドレートを用いたメタノールの生成に好適に適用される。このようなメタノールは、他の化学物質の材料、溶媒、燃料および燃料電池の材料等の様々な用途で広く利用される。
【符号の説明】
【0072】
110 反応容器
120 光源
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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