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明細書 :被覆銅微粒子の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5858374号 (P5858374)
公開番号 特開2012-072418 (P2012-072418A)
登録日 平成27年12月25日(2015.12.25)
発行日 平成28年2月10日(2016.2.10)
公開日 平成24年4月12日(2012.4.12)
発明の名称または考案の名称 被覆銅微粒子の製造方法
国際特許分類 B22F   9/30        (2006.01)
B22F   1/02        (2006.01)
FI B22F 9/30
B22F 1/02 B
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2010-215910 (P2010-215910)
出願日 平成22年9月27日(2010.9.27)
審査請求日 平成25年9月27日(2013.9.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
発明者または考案者 【氏名】栗原 正人
個別代理人の代理人 【識別番号】100129425、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 護晃
【識別番号】100087505、【弁理士】、【氏名又は名称】西山 春之
【識別番号】100168642、【弁理士】、【氏名又は名称】関谷 充司
【識別番号】100099623、【弁理士】、【氏名又は名称】奥山 尚一
【識別番号】100096769、【弁理士】、【氏名又は名称】有原 幸一
【識別番号】100107319、【弁理士】、【氏名又は名称】松島 鉄男
【識別番号】100114591、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 英文
【識別番号】100125380、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 綾子
【識別番号】100142996、【弁理士】、【氏名又は名称】森本 聡二
【識別番号】100166268、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 祐
【識別番号】100170379、【弁理士】、【氏名又は名称】徳本 浩一
【識別番号】100179154、【弁理士】、【氏名又は名称】児玉 真衣
【識別番号】100180231、【弁理士】、【氏名又は名称】水島 亜希子
【識別番号】100184424、【弁理士】、【氏名又は名称】増屋 徹
審査官 【審査官】静野 朋季
参考文献・文献 特開2009-144241(JP,A)
特開昭63-125605(JP,A)
特開2008-214695(JP,A)
特開2007-321215(JP,A)
特開2007-084879(JP,A)
特開平05-156325(JP,A)
D.GAJAPATHY, S. GOVINDARAJAN, K. C. PATIL, and H. MANOHAR,SYNTHESIS, CHARACTERISATION AND THERMAL PROPERTIES OF HYDRAZINIUM METAL OXALATE HYDRATES. CRYSTAL AND MOLECULAR STRUCTURE OF HYDRAZIUM COPPER OXALATE MONOHYDRATE,Polyhedron,英国,1983年,Vol.2, No.9,p.865-873
調査した分野 B22F 1/00-9/30
特許請求の範囲 【請求項1】
銅を含む化合物と還元性化合物を混合して、アルキルアミン中で熱分解して銅を生成可能な複合化合物を生成する工程と、
当該複合化合物をアルキルアミン中で加熱してアルキルアミンで被覆された銅微粒子を生成する工程とを有することを特徴とする被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記銅微粒子を生成する工程は、220℃以下の温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元性化合物は、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、またはその誘導体を含むことを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記銅を含む化合物は、酸素系の配位子により銅が結合している化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記酸素系の配位子により銅が結合している化合物は、シュウ酸銅であることを特徴とする請求項4に記載の被覆銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アルキルアミンには、炭素数が12以上の長鎖のアルキルアミンを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の被覆銅微粒子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤への分散性に優れ、フレキシブルプリント基板上等で低温焼結により良好な導電性を発現するナノメートルサイズの被覆銅微粒子とその製造方法、並びにこれを用いた焼結銅被着物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の目覚ましい進歩の背景には半導体デバイスなどの電子部品の進展とともに、これら電子部品を実装するプリント配線板の大きな発展がある。そして、電子機器の多くが小型・薄型・軽量化され、しかも生産性の向上が求められていることから、プリント配線板についてもこれに対応する様々な工夫、改善がさらに必要とされている。特に、そのために電子部品の導電性配線形成用材料の実装の高速度化及び高密度化が要求されている。
【0003】
このような状況において、現在ではナノサイズの金属微粒子がそのような材料の一つとして期待され、その検討が進められている(例えば非特許文献1)。
【0004】
配線材料として使用される金属微粒子としては、エレクトロマイグレーションが小さな点で、主に銅から構成されるものが望まれる。このため、従来よりナノサイズの銅微粒子を提供する手段が検討されており、例えば、特許文献1には、銅微粒子の製造方法として、水中において銅微粒子前駆体にヒドラジン誘導体を作用させて還元し、銅微粉末を製造したことが記載されている。しかしながら、当該製造された銅微粉末の低温焼結により銅の被膜を形成するに至っていない。また、特許文献2には、銅微粒子の製造方法として、有機酸金属塩とアミンを含む溶液に還元剤を作用させることで、金属塩を還元することにより金属ナノ粒子を得る技術が開示されている。当該方法で製造された銅微粒子は、300℃程度で焼結を生じて導通性を生じることが記載されている。
【0005】
特許文献1,2に記載の方法により銅微粒子を製造する方法においては、予め銅を含む化合物を液体中に存在させ、これに対して外部から還元剤を注入して還元反応を生じさせることで金属銅を生じさせるため、当該還元反応の進行は還元剤等の物質の供給により律速されることが避けられない。そのため、実際に銅微粒子を製造する場合には、反応容器内での原料物質の濃度ムラ等に起因して、均一な銅微粒子の生成反応を生じさせることが困難であり、特に工業的生産過程において大量の銅微粒子を均一に製造することが非常に困難になるという問題を有する。
【0006】
他方、特許文献3においては、シュウ酸銀を過剰量のオレイルアミンと混合して反応させることで錯化合物を生成し、その後に当該錯化合物を加熱して錯化合物に含まれるシュウ酸イオンを分解することにより原子状の銀を生成させることで、オレイルアミンの保護膜に保護された銀微粒子を製造する技術が開示され、当該方法によれば、非常に微細で粒度分布が狭く、保存安定性に優れた銀微粒子が得られることが記載されている。
【0007】
当該方法によれば、オレイルアミン中でシュウ酸銀を熱的に分解して原子状の銀を生成させ、その凝集により銀微粒子が製造できる。当該製造法では、単一の分子の分解により銀原子を生じるため、物質の供給に反応が律速されることがなく、反応系内に均一に原子状の銀を生成させることができ、また、オレイルアミンの働きにより、当該原子状の銀の凝集をコントロールして非常に微細で粒度分布が狭いと共に、保存安定性に優れる表面の清浄な銀微粒子を製造することが可能である。この結果、当該方法で製造される銀微粒子を用いることで樹脂の表面で焼結して配線を形成可能な配線形成用インクを提供することを可能としている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2010-24526号公報
【特許文献2】特開2007-321215号公報
【特許文献3】特開2008-214695号公報
【0009】

【非特許文献1】河染 満 他、粉砕、No.50、27-31(2006/2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
銅を含む化合物についても、特許文献3に記載されるように所定のアルキルアミン中での自己分解により原子状の銅の生成が可能であれば、銀微粒子と同様にアルキルアミンにより被覆された銅微粒子が生成すると期待される。
【0011】
しかしながら、一般に銅を含む化合物においては、その生成の際の自由エネルギー変化が大きいため、単に加熱を行っただけでは必ずしも当該化合物の自己分解により原子状の銅を生成させることができない。そして、仮に当該化合物とアルキルアミンを含む混合物を強加熱した場合には、原子状の銅が生成する以前にアルキルアミンの蒸発や変性を生じたり、当該化合物とアルキルアミンとが銅の還元反応以外の化学反応を生じる等、良好な銅微粒子を生成することが困難である。このため、特許文献3に記載される方法が適用可能な対象は主に銀を含有する化合物に限定されていた。
本発明においては、そのような問題点を解決するために、アルキルアミン中において自己分解が可能な銅化合物を提供すると共に、当該銅化合物をアルキルアミン中で自己分解させて原子状銅を生成させることで、アルキルアミンからなる保護膜を有する被覆銅微粒子を製造する方法を提供することを課題とする。同時に、粒径分布が狭く微細であり、保存性に優れると共に低温での焼結が可能な被覆銅微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、以下のことを特徴としている。
【0013】
すなわち、銅を含む化合物と還元性化合物を混合して、アルキルアミン中で熱分解して銅を生成可能な複合化合物を生成する工程と、当該複合化合物をアルキルアミン中で加熱してアルキルアミンで被覆された銅微粒子を生成する工程とを有することにより、反応に関与する物質の供給に律速されることなく被覆銅微粒子の製造をすることができる。
また、前記銅微粒子を生成する工程は、220℃以下の温度で行われることを特徴としている。
また、前記還元性化合物は、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、またはその誘導体を含むことを特徴としている。
また、前記銅を含む化合物は、酸素系の配位子により銅が結合している化合物であることにより、良好に被覆銅微粒子を製造することを特徴としている。
また、前記酸素系の配位子により銅が結合している化合物は、シュウ酸銅であることを特徴としている。
また、前記アルキルアミンには、炭素数が12以上の長鎖のアルキルアミンを含むことを特徴としている。
【0014】
更に、銅を含む化合物に対して還元性化合物が配位結合してなる複合化合物であって、アルキルアミン中において220℃以下の温度で熱分解して銅を生成可能である複合化合物を用いることにより、アルキルアミン中において反応に関与する物質の供給に律速されることなく、良好に被覆銅微粒子の製造をすることができる。
また、前記還元性化合物は、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、またはその誘導体を含むことを特徴としている。
また、前記銅を含む化合物は、酸素系の配位子により銅が結合している化合物であることを特徴としている。
また、前記酸素系の配位子により銅が結合している化合物は、シュウ酸銅であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自発的な分解を生じることが困難な銅化合物についても、予め還元性の化合物との複合化合物を形成させておくことで、アルキルアミンとの共存状態において自発的な分解を生じることが可能になり、アルキルアミンの保護膜により被覆された被覆銅微粒子を製造することが可能となる。更に、本発明において、銅微粒子の被覆を形成するためのアルキルアミンとして所定のものを適切に選択することによって、大気中でも長期保存が可能な被覆銅微粒子を提供することができると共に、還元ガスを用いなくとも、不活性ガス雰囲気下、300℃以下の加熱で良好な導電性を示す導電膜、導電配線を形成させることが可能となる。更に、室温においても、機械的に圧力等により保護皮膜を排除することで焼結を生じて、銅の金属被膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた被覆銅微粒子のトルエン希釈分散液をマイクログリッドに滴下し、乾燥後、観察した透過電子顕微鏡像である。
【図2】実施例1で得られた被覆銅微粒子のトルエン希釈分散液をマイクログリッドに滴下し、乾燥後、観察した高分解透過電子顕微鏡像である。格子縞の間隔、0.21nmは金属銅の結晶格子と一致している。
【図3】シュウ酸銅・ヒドラジン錯体の熱重量示差熱同時分析結果である。熱重量減少(重量%)からシュウ酸銅・ヒドラジン錯体に含まれヒドラジンとシュウ酸イオンの銅原子に対する結合分子数が求められる(銅:ヒドラジン:シュウ酸イオン=1:2:1(モル比))。
【図4】実施例1~4で得られた被覆銅微粒子の粉末X線回折パターンである。シグナルがブロードであり、その半値幅から計算した単結晶子サイズは5~7nmである。
【図5】実施例1~4で得られた被覆銅微粒子のトルエン希釈分散液の紫外可視吸収スペクトルである。570~590nmにナノメートルサイズの金属銅微粒子に特徴の表面プラズモンバンドが観察される。
【図6】実施例1で得られた被覆銅微粒子にテルピネオールとオクチルアミンを加えて作製したペースト(被覆銅微粒子含有率:40wt%)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る被覆銅微粒子、及びその製造方法について説明する。
<銅原子の供給源である銅化合物について>
本発明に係る被覆銅微粒子の製造方法においては、銅とその他の原子(又は、原子群)が結合して構成される含銅化合物を銅原子の供給源として被覆銅微粒子を製造する。本発明において使用される含銅化合物としては、後述する還元性化合物との間で錯体等の複合化合物を生成可能な化合物であれば被覆銅微粒子の金属源として使用することができる。本発明においては、使用する還元性化合物の還元力等を勘案して、当該含銅化合物から銅原子を還元分離するために必要なエネルギーが小さい化合物を適宜選択して用いることが、被覆銅微粒子を製造する際の温度を低下し、製造のための時間を短縮できる点で望ましい。また、製造する被覆銅微粒子に含まれる不純物を軽減するために、銅以外の金属元素を含有しない含銅化合物を用いることが望ましい。

【0018】
還元性化合物との間で錯体等の複合化合物を生成可能な含銅化合物としては、化合物中において銅原子に配位子が配位可能なものであればよいが、特に酸素系の配位子により銅が結合しているものが好ましい。つまり、銅原子に対して窒素による配位結合を生じる還元性化合物を用いた際に、酸素系の配位子により銅が結合している化合物であれば配位結合の強度の点で銅の還元が生じやすく好ましい。

【0019】
このような含銅化合物としては、例えば、シュウ酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、イソ酪酸銅、吉草酸銅、イソ吉草酸銅、ピバリン酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、マレイン酸銅、安息香酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅、硝酸銅、亜硝酸銅、亜硫酸銅、硫酸銅、リン酸銅のような銅の有機酸塩や無機酸塩等が例示される他、アセチルアセトンが配位結合したアセチルアセトナト銅に代表される錯化合物が例示される。

【0020】
上記含銅化合物のうちで、本発明においては、シュウ酸銅が配位高分子を形成する性質を有し、銅イオンとシュウ酸イオンが交互に連結した鎖状の高分子構造を有している点で特に好ましく用いられる。高分子構造を有するシュウ酸銅を使用することで、以下に説明するように、所定の反応媒中で被覆銅微粒子を形成する際に、銅の収率を向上できると共に、被覆銅微粒子の粒径分布をより均一にすることができる。これは、高分子構造を形成しない含銅化合物を用いた場合には、反応媒中での銅原子の分布が均一になるのに対し、高分子構造を有するシュウ酸銅の場合には、還元反応で生成する銅原子が反応媒中で偏在して局所的に高密度で存在するために、大気中合成でも銅原子の酸化が抑制され、生成した銅原子が効率よく銅粒子を形成するためと考えられる。

【0021】
<還元性化合物と、複合化合物の生成について>
本発明に係る被覆銅微粒子の製造方法においては、まず上記含銅化合物に対して、還元作用を有する還元性化合物を混合して、金属化合物と還元性化合物との複合化合物を生成させる。このような複合化合物においては、還元性化合物が含銅化合物中の銅イオンに対する電子のドナーとなり銅イオンの還元を生じ易いため、使用した含銅化合物と比較して自発的な熱分解による銅原子の遊離を生じ易い。このため、このような複合化合物を銅原子の供給のための直接の原料とすることで、反応に関与する物質の供給に律速されることがなく、温度や圧力などの条件の設定により複合化合物の自発的な分解反応を生じさせることで銅原子が供給され、銅微粒子を製造することが可能となる。

【0022】
この際に使用される還元性化合物としては、アミノ基を有するものが好ましい。アミノ基を有する還元剤は含銅化合物中の銅原子等に対して配位結合を形成し易く、含銅化合物の構造を維持した状態で容易に含銅化合物との複合化合物を生成すると共に、銅の還元反応を生じるためである。

【0023】
このような還元性化合物としては、反応媒とするアルキルアミンの蒸発や分解を生じない温度範囲において、自発的な分解反応により銅原子の還元・遊離を生じる複合化合物を形成するものであれば特に限定されない。還元性化合物と含銅化合物とから生成する複合化合物の熱的な安定性が高い場合には、その分解に高い温度が必要となり、反応媒とするアルキルアミン自体の蒸発や分解を生じるため、本発明の課題の解決が困難となる。

【0024】
複合化合物の分解温度としては、望ましくは220℃以下の温度が好ましい。複合化合物の分解に伴う銅原子の還元生成のために220℃以上の温度が必要な場合には、ドデシルアミンのように炭素数が12のアルキルアミンを反応媒に用いた場合に蒸発速度が高くなるため、実際的には反応媒として用いるアルキルアミンが炭素数18以上の長鎖のものに限定され、各種の機能を有する被覆銅微粒子の製造が困難となる。特に200℃以下の温度で銅原子を生じる複合化合物を形成する還元性化合物であれば、炭素数が12程度のアルキルアミンを安定して使用できる点で好ましい。また、複合化合物のアルキルアミン中での分解温度を180℃以下にすることで、炭素数が8程度の中鎖のアルキルアミンが安定して使用できると共に、比較的穏和な条件で銅微粒子の生成が行われるため、粒子径が微細であり、粒径分布の狭い銅微粒子を製造することが可能となる。また、比較的沸点の低い低分子のアルキルアミンが使用可能となることで、保護被膜が外れ易く低温焼結が可能な銅微粒子の製造が容易になる点においても好ましい。

【0025】
220℃以下の低温で分解して銅原子を生成する複合化合物を形成するための還元性化合物として、典型的には、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる化合物を特に好ましく挙げられる。これらの化合物は、骨格を成す窒素原子が配位結合により含銅化合物中の銅原子に結合して複合化合物を生成する。また、一般にアルキルアミンと比較して還元力が強いため、生成した複合化合物が比較的穏和な条件で自発的な分解を生じて銅原子を還元・遊離して、アルキルアミンで被覆された銅微粒子を生成することができる。

【0026】
ここで、ヒドラジンの誘導体とは、ヒドラジンに含まれる水素の1~3個を所定のアルキル基等で置換したものをいう。また、ヒドロキシルアミンの誘導体とは、ヒドロキシルアミンに含まれる水素の1個を所定のアルキル基等で置換したものをいう。ヒドラジン、ヒドロキシルアミンの使用に代えてその誘導体を適宜選択して使用することで、含銅化合物との反応性を調整することが可能であり、使用する含銅化合物に応じて適切な条件で自発分解を生じる複合化合物を生成することができる。特にヒドラジンと混合した際に複合化合物を生じることなく還元反応を生じやすい含銅化合物を用いる際には、適宜選択されるヒドラジン誘導体を使用して複合化合物の生成を促進することが有効である。

【0027】
また、ヒドラジン等の誘導体のうちで、特に疎油性のものを還元性化合物として用いることで、後述するように複合化合物をアルキルアミン中に分散した際に、還元性化合物がアルキルアミン中に溶出することが防止され、複合化合物が保持されやすい点で望ましい。

【0028】
含銅化合物分子に対して還元性化合物の分子を結合させ、加熱による自発分解が可能な複合化合物とすることで、粒径分布が狭く均質な銅微粒子を製造することができる。つまり、特許文献1,2に記載されるように、所定の金属化合物を含む系に対して還元剤を混合することで金属化合物の還元反応による分解を行う場合、金属化合物と還元剤の混合比率等に局所的な揺らぎを生じることが避けられない。このため、当該方法では必ずしも均一な還元反応を生じることができないと共に、還元反応により生じる原子状金属の状態も均質にすることが困難である。

【0029】
これに対し、本発明に係る方法においては、還元により分解される含銅化合物の分子に対して、予め還元性化合物を所定の割合で結合させて均質な複合化合物としたものを温度等の条件を調整することで自発的な反応を生じさせるものであって、還元剤の供給などにより律速や、還元剤の濃度などに起因する反応の不均一を生じることを防止することができる。

【0030】
また、本発明に係る方法においては、還元性化合物を予め含銅化合物に結合して用いるために、銅の還元反応を行う際の反応媒との相性によらず、適宜の還元性化合物を選択して使用可能である。つまり、従来のように、反応媒中で銅の化合物に対して還元剤を作用させて銅の還元を行う場合、還元剤は使用する反応媒と相溶性を有する必要があった。このため、例えば、有機系保護分子中、あるいは、これを含有した非水系の有機溶媒を反応媒とした場合、疎油性のヒドラジンを還元剤として使用すると、お互いが均一に混ざらないため還元反応を均一に行うことが困難である。これに対し、本発明では還元性化合物を予め含銅化合物に結合させた複合化合物を用いるため、反応媒と還元性化合物との相性に制限されることなく、適宜の物質を用いることが可能である。

【0031】
本発明において、含銅化合物と還元性化合物との混合は、固体状態の含銅化合物と液体状態の還元性化合物を混合して、固体状態の複合化合物を形成する条件において行うことが好ましい。例えば、含銅化合物としてシュウ酸銅、還元性化合物としてヒドラジンを用いる場合には、室温において両者を混合することでも複合化合物を形成することができる。

【0032】
また、含銅化合物と還元性化合物とを混合した際に直接的に還元反応を生じて複合化合物を形成することが困難な場合には、冷却した環境で混合することで還元反応を抑制することが望ましい。その他、使用する還元性化合物の還元力などの強さ等に応じて、混合の際の温度や圧力等の条件を適宜決定することができる。

【0033】
複合化合物の生成のために含銅化合物に混合される還元性化合物の比率は、含銅化合物と還元性化合物から生成する複合化合物における両者のモル比率(以下、「定比」という。)と等しい比率か、それ以上に還元性化合物を富化した比率とすることが好ましい。還元性化合物の比率が複合化合物における定比以下であると、複合化合物を形成しない含銅化合物が生じて遊離しない金属原子を生じる結果、金属微粒子の収率が低下する。また、複合化合物を形成しない過剰の還元性化合物は銅原子の還元遊離に関与しないため、好ましい還元性化合物の混合比率は複合化合物における定比の4倍以下であり、現実的には定比の1~2倍となるように還元性化合物を含銅化合物に混合することで良好な複合化合物を形成することができる。

【0034】
使用する還元性化合物は、その性質に応じて2種以上の還元性化合物を混合して用いることが可能である。また、生成する複合化合物の性質を阻害しない範囲内で、複合化合物の生成を助けること等を目的に、適宜の添加成分を含む還元性化合物を使用することが可能である。特に、含銅化合物と還元性化合物を混合する際に、系内の物質と反応を生じないメタノールや水のような極性分子を反応媒として存在させることで、複合化合物の生成が促進されて均一な複合化合物を速やかに生成することができる。

【0035】
また、以下に説明するように、本発明においては上記で得られた複合化合物をアルキルアミンの存在下で分解して銅微粒子が製造されるが、その際にアルキルアミン中で複合化合物が固体状態を保てるように、含銅化合物と還元性化合物の組合せを選択することが望ましい。

【0036】
<複合化合物の分解と被覆銅微粒子の製造について>
次に、本発明に係る被覆銅微粒子の製造方法においては、上記で生成した複合化合物を過剰量の還元性化合物から分離した後、十分な量のアルキルアミンの存在下で加熱して複合化合物の自発的分解反応により銅原子が生成して凝集することで、使用したアルキルアミンからなる保護膜で被覆された銅微粒子を得ることができる。

【0037】
使用する複合化合物により、銅原子を生成する反応は相違するが、例えば、含銅化合物としてシュウ酸銅を使用し、還元性化合物としてヒドラジン(又は、その誘導体)を用いた場合には、シュウ酸銅とヒドラジンからなる錯体を複合化合物として被覆銅微粒子が製造される。この複合化合物は、アルキルアミン中で加熱することで、150℃程度の低温においても窒素ガスを発生しながら被覆銅微粒子が生成すると共に、アルキルアミン中にシュウ酸が生成する。これは、複合化合物中のヒドラジン部分の分解により近接する銅が還元されて原子状の銅が生成すると共に、シュウ酸銅をシュウ酸とする反応が進展するためと推察される。当該複合化合物の熱分解においては、発生する窒素ガスにより反応雰囲気が不活性に維持されるため、大気中で熱分解を行った場合においても生成する被覆銅微粒子の酸化が効果的に抑制され、安定した被覆銅微粒子の製造が可能である。

【0038】
また、シュウ酸銅とヒドラジンからなる錯体を、被覆銅微粒子を製造するための複合化合物として用いることで、極めて低温である150℃付近で被覆銅微粒子の製造が可能となるため、反応媒として使用するアルキルアミンの選択肢が広がると共に、銅微粒子の粒径をより微細にすることが可能となる。

【0039】
また、上記反応を生じる際に、十分な量のアルキルアミンが存在することにより、生じた銅原子に対して速やかにアルキルアミン分子のアミノ基が配位結合を生じるものと推察される。このため、生成した銅原子が凝集して銅粒子を形成する際、一定数の銅原子が凝集することで銅粒子の表面にアルキルアミンの保護被膜が形成され、それ以上の銅原子が凝集することを妨げる結果、大きさが揃った被覆超銅微粒子が製造されるものと推察される。

【0040】
また、当該機構により粗大な銅粒子の生成が抑制されるため、本発明においては銅原子の供給源である複合化合物が高密度で存在する状態においても被覆超銅微粒子の製造が可能である。このため、銅微粒子の製造の際に一般に行われるような過剰量の溶媒を用いて銅粒子の粗大化を防止する必要がなく、必須成分のみを含む反応系内において被覆銅微粒子の製造が可能であり、生成する銅原子を高い収率で被覆超銅微粒子とすることが可能となる。

【0041】
更に、分解により金属原子を供給する複合化合物として、例えば、相互に配位結合を生じて配位高分子を形成する物質などを選択することで、アルキルアミンに対して混合された際に銅原子の局所的な密度を高く保つことが可能となるため、生成する銅原子を被覆超銅微粒子として回収する収率を高めることが可能となる。

【0042】
<アルキルアミンについて>
複合化合物の熱分解の際に複合化合物と混合されるアルキルアミンは、上記のように、主に複合化合物の分解反応の反応媒として機能すると共に、製造される銅微粒子表面に主にアルキルアミンから構成される保護膜を形成するために使用される。このため、本発明において使用されるアルキルアミンは、使用する複合化合物の熱分解の条件、製造される被覆銅微粒子に期待される特性等に応じて、公知のアルキルアミンから適宜選択して用いることができる。

【0043】
アルキルアミンはアルキル基の一部にアミノ基の結合した構造を有している。アルキルアミンにおいては、一般にアルキル基の分子量が大きくなり長鎖になるに従い沸点が上昇する傾向が見られる。一方、アルキル基の分子量が小さく短鎖であるものは蒸気圧が高いと共に、極性が強くなる傾向が見られる。また、アルキルアミンのうちで複数のアミノ基を有するアルキルジアミンでは、より極性が強くなる傾向が見られる。

【0044】
また、銅原子に対して配位結合を形成するために、使用するアルキルアミンに含まれるアミノ基の少なくとも1つが一級アミノ基であるRNH(Rは炭化水素鎖)または二級アミノ基であるRNH(R、Rは炭化水素鎖で同じであっても異なっていてもよい)であることが望ましい。また、炭化水素鎖には酸素、珪素、窒素、硫黄、リンなどの炭素以外の原子が含有されても良い。

【0045】
複合化合物の熱分解の際に用いるアルキルアミンとして、極性の強いものを用いた場合には、一般に被覆銅微粒子の生成反応が円滑であり、粒子径が小さく粒径分布がシャープになる傾向が見られる。この点においては、複合化合物の熱分解の際に蒸発や分解を生じない範囲内において、分子量が小さなアルキルアミンを用いることが好ましい。また、分子量が小さなアルキルアミンを用いて製造された被覆銅微粒子においては、保護皮膜の蒸気圧が高く皮膜が除去され易いため、より低温で焼結が可能となる傾向が見られる一方、保存中に銅粒子が酸化されやすい傾向が見られる。

【0046】
他方、分子量が大きい長鎖のアルキルアミンを使用した場合には、非極性溶媒への分散性が高くなるため、銅微粒子を高い重量比率で有機溶媒に分散させてインクとして用いる際に有利となる。また、長期間の保存を行っても銅粒子の酸化が防止可能な、強固な保護皮膜を有する被覆銅微粒子が得られる傾向が見られる。特に、十分に有効な保護被膜を有しない銅微粒子が大気中などの酸素の存在下に晒された場合、非常に容易に酸化が進行し、粒子表面に酸化被膜が生成したり、粒子全体が酸化される問題が生じる。このため、大気中で製造・使用される被覆銅微粒子の製造においては炭素数が12以上である長鎖のアルキルアミンを主成分とした反応媒中で複合化合物の熱分解を行うことが、実用的な被覆銅微粒子を製造する点で好ましい。

【0047】
複合化合物の熱分解の際に用いるアルキルアミンは、上記のように、製造する被覆銅微粒子の目的等に応じて適宜選択される。分子内に一つのアミノ基を有するアルキルアミン(モノアミン)としては、例えば、2-エトキシエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等のアルキルアミンは工業的に生産され入手が容易な点で実用的である。

【0048】
特に、主に被覆銅微粒子の有機溶媒への分散性の向上や、耐酸化性の向上を目的として長鎖のアルキルアミンを用いる場合は、自然界に存在する脂肪酸をアミノ基で置換して得られる長鎖のアルキルアミンが入手容易であり、工業的に望ましく使用される。特にオレイルアミンは、炭素数が18であるにも関わらず、室温でも液状のため、反応媒とする際の取扱いが容易である。

【0049】
一方、分子内に二つのアミノ基を有するアルキルジアミンとして、例えば、エチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0050】
複合化合物の熱分解の際に用いるアルキルアミンは、1種のアルキルアミンを使用しても良いが、複数のアルキルアミンを混合して使用してもよい。特に、反応媒として使用するアルキルアミンは、室温において液体であることが取扱いの容易な点で好ましいため、分子量が大きく室温では固体であるアルキルアミンを用いる場合には、分子量が小さなものと混合して液状にして用いることが好ましい。特に、長鎖のアルキルアミンのうちで、オレイルアミンが室温で液状であることを利用して、オレイルアミンを主成分として各種のアルキルアミンを混合して用いることが、製造時の取扱いと、製造された被覆銅微粒子の耐酸化性を両立する点で好ましい。また、複数のアルキルアミンを混合して使用することで各アルキルアミンの蒸気圧が減少するため、分子量の小さいアルキルアミンを適宜混合して使用することは好ましい保護膜を得るために有効である。

【0051】
複合化合物の熱分解の際に用いるアルキルアミンの量は、生成する金属原子の全てにアルキルアミンが配位結合を生じることが望ましいことから、生成する銅原子と等モル量以上であることが望ましい。他方、混合されるアルキルアミンが多すぎる場合には、反応系内で生成する金属原子の密度が低下する結果、製造される銅微粒子の粒径のばらつきが大きくなると共に、銅微粒子として回収される銅原子の歩留まりが低下する傾向が見られる。このため、複合化合物と混合されるアルキルアミンの量は、生成する銅原子を基準として、1~10倍のモル数となるようにすることが適当である。また、確実に生成する銅原子に確実にアルキルアミンを配位させるためには、生成する銅原子の2倍以上のモル数とすることが好ましい。また、アルキルアミンの分子量が小さい等の理由で移動度が充分に期待できる場合には、生成する銅原子の6倍以下のモル数とすることで、充分にほぼ全ての銅原子に対してアルキルアミンを配位結合させることができる。

【0052】
複合化合物の熱分解を行う際には、アルキルアミンの作用を害しない範囲において適宜の添加成分を混合して用いることが可能である。この際、含銅化合物として銅の有機酸塩や無機酸塩を用いる場合には、複合化合物の熱分解により生成する酸の電離を抑制することが望ましい。

【0053】
<被覆銅微粒子>
本発明に係る被覆銅微粒子は、平均粒径が50nm以下であり、さらには平均粒径が20nm以下であるため、その表面に設けられた保護膜が脱離することで、通常の銅粉末と比較して極めて低い温度においても焼結して銅皮膜を形成することが可能である。特に、複合化合物の熱分解の際に蒸気圧の高いアルキルアミンを使用することで脱離が容易な保護膜が形成され、より低温での焼結が可能になる。また、比較的分子量の大きなアルキルアミンを使用した場合には、強固な保護膜が形成されることによって製造した被覆銅微粒子の酸化が防止されて、大気中においても長期間の保存が可能となる。

【0054】
この性質を利用して、種々の手法により、主に所望の形態の銅皮膜を形成するために使用することが可能であり、特に、耐熱性の低い基板上に銅配線を形成するために有効である。つまり、有機溶媒に分散させてインク状にしたものをインクジェットプリント等の各種の方法で所望の形状に印刷し、不活性雰囲気内で所定の温度に加熱して保護皮膜を脱離させることで、露出した銅微粉末同士が焼結を生じるため、容易に金属配線等を印刷により形成することができる。また、被覆金属微粒子をペースト状や粉末状のままで塗布した後に焼結を行うことも可能である。

【0055】
その他、被覆金属微粒子の焼結を生じさせる方法としては、紫外線などの電磁波によって保護皮膜を脱離させる方法、機械的に圧力を加える方法で保護皮膜を脱離させる方法等により保護皮膜を脱離させて金属微粒子同士を接触させることで、通常の焼結温度よりも非常に低い温度で焼結を生じさせることができる。また、電気回路を印刷で形成する以外に、本発明に係る被覆金属微粒子を使用して従来の無電解メッキ等に代えて不導体表面に導体層を形成したり、金属間に挟んで押圧することで金属同士を機械的・電気的に接合する接着層とする用途に用いることができる。

【0056】
以下に、本発明に係る製造方法により被覆銅微粒子を製造する方法について、含銅化合物としてシュウ酸銅、還元性化合物としてヒドラジンの一水和物を用いた場合を例として、更に具体的に説明する。なお、本発明に係る製造方法により被覆超銅微粒子を製造する際に用いられる原料は上記化合物、及び、その組合せに限定されることなく、本発明の技術的思想が適用できる範囲内において適宜選択された原料化合物が使用できることはいうまでもない。

【0057】
(1)シュウ酸銅・ヒドラジン錯体(複合化合物)の合成
室温において、過剰量のヒドラジン一水和物(液体)に対して、青白色のシュウ酸銅粉末を混合して撹拌することにより、両化合物が錯体を形成して紫色のシュウ酸銅・ヒドラジン錯体(複合化合物)が得られる。これは、ヒドラジンを構成する窒素が、その非共有電子対を介してシュウ酸銅に含まれる銅原子に配位結合をして生じた錯体であると考えられる。

【0058】
シュウ酸銅・ヒドラジン錯体の形成においては、予めヒドラジン一水和物に対して適当量のメタノール等の希釈溶媒を混合して希釈することで、錯体の形成を円滑に行うことができる。希釈溶媒としては、ヒドラジンと相溶性を有することでその流動性を向上すると共に、シュウ酸銅やヒドラジンと反応を生じないものであれば特に限定されることなく任意のものを使用することができる。
十分に撹拌してシュウ酸銅・ヒドラジン錯体を生成させた後、遠心分離等により、未反応のヒドラジンや希釈溶媒を除去することで、粉末状のシュウ酸銅・ヒドラジン錯体が得られる。

【0059】
(2)シュウ酸銅・ヒドラジン錯体の熱分解による被覆銅微粒子の製造
上記シュウ酸銅・ヒドラジン錯体を過剰量のアルキルアミンと混合して加熱することで、アルキルアミン中でシュウ酸銅・ヒドラジン錯体が分解反応を生じて、窒素ガスを放出すると共に、アルキルアミン中に銅光沢を示す被覆銅微粒子とシュウ酸(或いは、アルキルアミンシュウ酸塩)が生成する。

【0060】
この反応においては、シュウ酸銅と錯体を形成していたヒドラジンが分解し、発生した水素原子がシュウ酸銅における銅原子と置換してシュウ酸を生成すると共に、還元されて生成した原子状の銅が凝集して銅微粒子を形成しているものと推察される。また、ヒドラジンの分解により発生した窒素ガスが系外に放出されたものと推察される。

【0061】
なお、被覆銅微粒子を得るための複合化合物として、不活性雰囲気を形成するために十分な量の窒素ガス等を発生しないものを用いる場合には、生成する被覆銅微粒子が熱分解を行う雰囲気との反応により汚染されたり、保護膜が分解されたりすることを防止するため、一般的にはアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気内で加熱を行うことが好ましいことはいうまでもない。また、複合化合物をアルキルアミン中で加熱する温度は、アルキルアミンの脱離を防止する観点から概ね使用するアミンの沸点以下の温度が好ましい。

【0062】
シュウ酸銅・ヒドラジン錯体の分解反応が終了した後、アルキルアミンとシュウ酸、あるいは、それらが反応したアルキルアミンシュウ酸塩を分離することで、被覆銅微粒子を粉状物として単離できる。当該処理においては、アルキルアミンと相溶性を示す適宜の溶媒を混合したものに対して、遠心分離等の手段を用いることで被覆銅微粒子を単離することができる。

【0063】
(3)被覆銅微粒子
図1には、上記のようにして、アルキルアミンとしてオレイルアミンを用いて製造された被覆銅微粒子の透過電子顕微鏡像(日本電子JEM-4000EX)を示す。図1に示される被覆銅微粒子では、平均粒子径が15.8nmであると共に、ほぼ均一な粒子径を有していた。また、図1から明らかなように、本発明により製造された銅微粒子は、その保護皮膜により相互に分離して存在するため、適宜の溶媒に容易にナノスケールで分散させることが可能である。

【0064】
このように微細、且つ均一な粒子径を有し、且つ、保護膜に覆われた銅微粒子を生成する理由は、シュウ酸銅・ヒドラジン錯体の熱分解をアルキルアミン中で行う点にあると推察される。つまり、錯体の熱分解により還元されて生成した銅原子に対してアルキルアミン分子が配位結合を形成し、その状態で銅原子が凝集して銅微粒子を形成するため、一定量の銅原子が凝集した段階で銅微粒子の周囲にアルキルアミンの保護膜が生成して、それ以上の成長を生じないためと推察される。

【0065】
図2には、図1に示す被覆銅微粒子の高分解透過電子顕微鏡像を示す。図2から明らかなように、本発明により製造された被覆銅微粒子においては、金属銅に一致する格子間隔が観察されている。また、ナノメートルサイズの微細な銅は大気中で酸化され易いにも関わらず、図2に示す被覆銅微粒子は、大気中で製造された後、粉末の状態で500時間程度、大気に晒されたものであるにも関わらず、銅粒子表面まで銅の結晶格子が明確に観察され、酸化物等を生じていないことが分かる。

【0066】
また、図1,2に示した被覆銅微粒子においては、製造後に大気に晒した場合においても、有意な重量変化が見られず、粉末X線回折でも酸化銅に由来する顕著なシグナルが観測されない。このことから、本発明に係る被覆銅微粒子においては、使用するアルキルアミンとして比較的長鎖のものを選択することで、非常に有効に銅の酸化を防止可能な保護被膜が形成できるものと推察され、大気中においても良好な耐酸化性を有するため取扱いが容易であり、長期間の保存が可能となる。また、そのように長鎖のアルキルアミンを用いて製造した被覆銅微粒子では、トルエンのような非極性の分散媒に対して被覆銅微粒子を30重量%以上の高密度で分散させることが可能である。

【0067】
その他、本発明における被覆銅微粒子は、製造の際に用いるアルキルアミンを選択することにより、極性溶剤、あるいは極性と非極性の混合溶剤に対して良好に分散可能となる。また、粉体の状態で被処理物に対して適用することも可能である。これらの特徴を利用することで、本発明に係る被覆銅微粒子は、その用途に応じて分散媒の種類、その組み合わせ及び混合比等の選択が広い範囲で可能となり、その揮発性や粘度の調整などが容易であって、インクジェットなど様々な印刷技術で利用可能なインクの製造に好適である。

【0068】
また、上記のとおり、本発明に係る被覆銅微粒子においては、保護皮膜を形成するアルキルアミンが銅原子に配位結合による比較的弱い力で結合しており、比較的小さな駆動力により離脱可能である。このため、被覆銅微粒子を適宣の揮発性の分散媒に分散させた分散液を用いて、スピンコート法やインクジェット法によって所望の基体上に塗布を行い、その後に熱や電磁波の他、機械的なエネルギー等により保護被膜を除去することで、低温で焼結を生じて良好な導電性や熱伝導性を有する銅皮膜を形成可能である。これらの特徴により、低温において基板上への電気回路の形成や導電性付与、各種部材の熱的な接合を容易に行うことができる。

【0069】
以下に、実施例として、被覆銅微粒子の製造法の一例、及び製造された被覆銅微粒子の一例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
1,含銅化合物と還元性化合物からなる複合化合物の合成
含銅化合物としてシュウ酸銅と、還元性化合物としてヒドラジン一水和物を使用し、表1に示す割合(実施例1~4)で、室温でヒドラジン一水和物と反応媒としてのメタノールを予め混合した混合溶液にシュウ酸銅を投入して10分間の撹拌することで、シュウ酸銅・ヒドラジン錯体(複合化合物)を生成させた。ヒドラジンと混合することで、シュウ酸銅は速やかに青白色から紫色に変色した。その後、遠心分離により未反応のヒドラジンとメタノールを分離し、乾燥させることで紫色の粉体を得た。
【実施例】
【0071】
得られた紫色の粉体を熱重量示差熱同時分析(島津DTG-60)した結果を図3に示す。130℃と300℃付近に重量減少が観測された。130℃付近の重量減少は銅原子に対して配位結合していたヒドラジン分子の脱離に対応するものと推察された。また、その重量減少比から、上記処理で得られた紫色の粉体はシュウ酸銅の1分子に対してヒドラジンの2分子が配位結合してなるシュウ酸銅・ヒドラジン錯体であると推察された。また、300℃付近の重量減少は、その重量減少比から、シュウ酸イオンの銅原子からの脱離に対応するものと推察された。
【実施例】
【0072】
2,被覆銅微粒子の合成
各実施例で得られたシュウ酸銅・ヒドラジン錯体の全量に対し、表1に示す混合比率・量のアルキルアミンを加え、室温で10分間撹拌し、懸濁液とした。撹拌後、混合液の入った容器を150℃のオイルバス中で加熱を行った。加熱に伴い混合液から発泡を生じて赤化し、その後1時間加熱撹拌することで銅光沢のある懸濁液を得た。
【実施例】
【0073】
以下に記載するとおり、得られた懸濁液中にはアルキルアミンの保護膜で被覆された銅微粒子が懸濁しており、予めシュウ酸銅とヒドラジンの錯体を形成しておくことで、加熱による自発的な分解反応により銅微粒子を製造することが可能となった。
【実施例】
【0074】
比較のために、表1中の比較例の条件で、ヒドラジンを用いることなくシュウ酸銅をアルキルアミン中で加熱する実験を行った。実験は、ヒドラジン一水和物を使用しないこと以外は、実施例1~4と同様に行った。
その結果、オレイルアミン中でシュウ酸銅を150℃に加熱することで、シュウ酸銅が緑色に変色を呈して錯化合物を形成することが観察されたが、当該錯化合物をオレイルアミンの沸点である350℃程度まで加熱しても金属銅粒子は生成しなかった。
【実施例】
【0075】
なお、上記で使用したアルキルアミンは、実験上の取扱いを簡便にする目的で、長鎖のアルキルアミンの内で、室温で液状であるオレイルアミン(炭素数18)を基本にして、それぞれ固体のオクタデシルアミン(炭素数18)、ヘキサデシルアミン(炭素数16)を適宜混合・溶解して使用した。また、適宜、中鎖・短鎖のアルキルアミンであるドデシルアミン(炭素数12)、オクチルアミン(炭素数8)を混合し、いずれも室温で流動性を有する状態としたものを使用した。
【実施例】
【0076】
上記で得られた懸濁液をヘキサンで希釈した後、遠心分離を行うことで未反応のアルキルアミンと生成したシュウ酸及びそれらが反応したアルキルアミンシュウ酸塩を除去して、被覆銅微粒子を沈殿物として得た。
各実施例において使用したシュウ酸銅中の銅に対して、被覆銅微粒子として得られた銅の収率(表1)を示す。被覆銅微粒子を得るための複合化合物としてシュウ酸銅・ヒドラジン錯体を用いる場合には、アルキルアミンの種類によらず、大気中でも概ね60~65%程度の銅の収率が得られた。尚、上記銅の収率は、得られた被覆銅微粒子の質量から保護膜として被着しているアルキルアミンの質量を差し引いて得た銅の質量を基準として求めたものである。
【実施例】
【0077】
3,被覆銅微粒子の評価
図4には、得られた被覆銅微粒子(実施例1~4)についての粉末X線回折パターン(理学MiniFlex II)を示す。粉末X線回折パターンから、被覆銅微粒子は平均の単結晶子サイズが5~7nm程度の金属銅から構成されることが示される。
【実施例】
【0078】
実施例1~4で得られた被覆銅微粒子のFT-IRスペクトルを測定した結果、いずれの被覆銅微粒子においても2900cm-1付近にアルキルアミンのアルキル鎖に由来する吸収が見られ、本発明で得られた被覆銅微粒子にはアルキルアミンが含有されていることが確認された。
【実施例】
【0079】
図5に被覆銅微粒子(実施例1~4)トルエン希釈分散液の紫外可視吸収スペクトル(島津MultiSpec-1500)を示す。いずれも570~590nmに銅微粒子特有の表面プラズモンバンドが観察された。分散液中においても銅微粒子の表面が酸化されることなく安定に存在していることが分かる。
【実施例】
【0080】
4,銅インクによる銅薄膜の作製
以下に説明する方法で、実施例2~4で得られた被覆銅微粒子をそれぞれ銅インクとして用いてガラス基板上に銅薄膜を形成させた。上記で作製された各被覆銅微粒子0.15gに対して、分散媒としてのトルエン173μLを加えて、被覆銅微粒子の50wt%の分散液を調製して、これを銅インクとした。各銅インクの100μLをスピンコートによりガラス板に塗布した。その後、アルゴン雰囲気中で60℃/minで300℃まで加熱して30分間保持し、銅薄膜を得た。
【実施例】
【0081】
表1には、各被覆銅微粒子を用いて得た銅薄膜の抵抗値を示す。各抵抗値は、四探針法(共和理研K-705RS)により測定した。実施例1~4で製造された被覆銅微粒子を使用することで、いずれの銅薄膜も銅配線として機能するのに十分な低抵抗を示した。
【表1】
JP0005858374B2_000002t.gif
【実施例】
【0082】
5,銅ペーストによる銅薄膜の作成
以下に説明する方法で、実施例1で得られた被覆銅微粒子を用いて銅ペーストを作製し、ガラス基板上に銅薄膜を形成させた。被覆銅微粒子を含むペーストを作製するために、実施例1で得られた被覆銅微粒子0.40gに対してテルピネオール0.30gとオクチルアミン0.30gを加えて、一晩撹拌してペーストとした。図6には、作製したペースト(被覆銅微粒子含有率:40wt%)の写真を示す。
【実施例】
【0083】
作製したペーストをスピンコートによりガラス基板に塗布した後、アルゴン雰囲気中で10℃/minで300℃まで加熱して60分間保持し、銅薄膜を得た。
得られた銅薄膜は銅光沢を示し、抵抗値が27.7Ω/□程度であり、十分に導体膜として機能するものであった。
【実施例】
【0084】
6,被覆銅微粒子の圧着による銅薄膜(ペレット)の作製
以下に説明する方法で、実施例1で得られた被覆銅微粒子を室温で圧縮してペレットを作製した。実施例1で得られた被覆銅微粒子0.18gを、室温で錠剤成形器(8mmφ)に充填し、減圧した状態で40kNの力で10分間加圧して銅薄膜(ペレット)を作製した。作製したペレットは銅光沢を示し、13.2Ω/□のシート抵抗を示した。
【実施例】
【0085】
当該結果から明らかなように、本発明に係る被覆銅微粒子は、機械的圧力で保護膜が排除されて銅粒子同士が接触することで、室温においても焼結が生じて、十分な導通を生じることが明らかになった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5