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明細書 :乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4977345号 (P4977345)
公開番号 特開2007-054015 (P2007-054015A)
登録日 平成24年4月20日(2012.4.20)
発行日 平成24年7月18日(2012.7.18)
公開日 平成19年3月8日(2007.3.8)
発明の名称または考案の名称 乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
FI A61L 27/00 C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2005-245964 (P2005-245964)
出願日 平成17年8月26日(2005.8.26)
審査請求日 平成20年7月30日(2008.7.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
【識別番号】000148025
【氏名又は名称】サクラ精機株式会社
発明者または考案者 【氏名】二階堂 敏雄
【氏名】吉田 淑子
【氏名】岡部 素典
【氏名】戸田 文香
【氏名】荒川 雅彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100077621、【弁理士】、【氏名又は名称】綿貫 隆夫
【識別番号】100092819、【弁理士】、【氏名又は名称】堀米 和春
審査官 【審査官】小森 潔
参考文献・文献 特表2004-532675(JP,A)
国際公開第04/078225(WO,A1)
特開2003-190192(JP,A)
国際公開第03/082201(WO,A1)
調査した分野 A61L 27/00
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
人を含む動物の胎児を包む生羊膜を、生羊膜の細胞組織を破壊することなく乾燥処理して得た乾燥羊膜であって、
無菌状態の乾燥大気中で保存できるように脱水乾燥されていると共に、
水又は緩衝液に浸漬して再水和した際、生羊膜と同様の、上皮細胞、基底膜及び結合組織が保持されていることを特徴とする乾燥羊膜。
【請求項2】
乾燥羊膜が、人由来の乾燥羊膜である請求項1記載の乾燥羊膜。
【請求項3】
乾燥羊膜の保存が、滅菌パック中に密閉保存される請求項1又は請求項2記載の乾燥羊膜。
【請求項4】
人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理する羊膜の乾燥処理方法において
該生羊膜を乾燥する乾燥装置として、羊膜を載置した処理槽内を減圧状態とする減圧手段と、減圧状態の前記処理槽内に載置した羊膜を加温する加温手段と、前記処理槽内の減圧状態を大気圧方向に復圧する復圧手段とを具備する乾燥装置を用い、
前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記処理槽内を前記減圧手段により減圧する減圧工程と、前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記復圧手段により前記処理槽内を大気圧もしくは大気圧に近い圧力まで上昇させる復圧工程とを交互に複数回繰り返して、羊膜をその構成する上皮細胞、基底膜及び結合組織を破壊することなく脱水・乾燥することを特徴とする羊膜の乾燥処理方法。
【請求項5】
加温手段として、遠赤外線ヒータ及びマイクロ波照射装置の少なくとも一方を用いる請求項4記載の羊膜の乾燥処理方法。
【請求項6】
生羊膜として、人由来の生羊膜を用いる請求項4又は請求項5記載の羊膜の乾燥処理方法。
【請求項7】
生羊膜を、処理槽内にシート状に広げて載置する請求項4~6のいずれか一項記載の羊膜の乾燥処理方法。
【請求項8】
加温手段の設定温度を50℃以下とする請求項4~7のいずれか一項記載の羊膜の乾燥処理方法。
【請求項9】
復圧操作によって復圧した処理槽内の圧力を、大気圧よりも低圧とする請求項4~8のいずれか一項記載の羊膜の乾燥処理方法。
【請求項10】
乾燥の終了を、羊膜が載置されている処理槽内の最高減圧到達圧力と羊膜が載置されていない処理槽を減圧したときの最高減圧到達圧力とが等しくなったときとする請求項4~8のいずれか一項記載の乾燥処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法に関し、更に詳細には人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜内皮の移植に必要な角膜内皮様シートを得るために、採取した角膜幹細胞を羊膜上に播種し培養することが行なわれている(例えば、下記特許文献1)。
かかる羊膜としては、無菌状態で得た人を含む動物の胎児を包む生羊膜、特に人の帝王切開分娩で得られた胎盤から採取された生羊膜を、直ちに使用することが最も好ましい。
しかし、好適な生羊膜は使用したいときに常に入手できるとは限らず、予め入手した好適な生羊膜を保存することが必要である。
かかる羊膜の保存としては、特許文献1の段落番号[0026]及び[0027]には、生羊膜を保存液に浸漬して-80℃で冷凍保存し、使用の際に、冷凍された羊膜を室温で解凍して使用することが記載されている。

【特許文献1】特開2004-24852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載された羊膜の冷凍保存方法によれば、生羊膜を簡便に保存することができる。
しかしながら、冷凍保存された羊膜の保存期間は3月程度であり、保存期間を経過した羊膜は焼却処分される。
しかも、生羊膜を冷凍する際に、羊膜を構成する細胞内の水が凍って大きな氷結晶が生成されると、生成された氷結晶によって細胞膜が破壊されることがあるため、細胞中に細胞膜を破壊するような大きな氷結晶を生成させることなく冷凍することを要し、生羊膜が冷凍するまでの降温速度等に格別の注意が必要である。
また、冷凍羊膜を-80℃もの冷凍温度に常に維持することは、所定の設備を必要とするため、冷凍羊膜の保存及び運搬は容易ではない。
これに対し、生羊膜の組織を維持して乾燥した乾燥羊膜を得ることができれば、その管理維持及び運搬には特別の注意を払うことなく容易に行なうことができる。
そこで、本発明の課題は、生羊膜の組織を維持して乾燥され且つ長時間の保存を容易に行なうことができる乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決すべく、先ず、生羊膜を冷凍乾燥することを試みたところ、得られた乾燥羊膜を緩衝液に浸漬して再水和しても、細胞の萎縮が著しくて細胞培養には到底使用できないことが判明した。
本発明者は、生羊膜の細胞組織を保持しつつ乾燥処理すべく種々検討を重ねた結果、処理槽内に載置した生羊膜を、処理槽内に設けた遠赤外線ヒータによって連続して加温して、処理槽内を減圧状態とする減圧操作と、この生羊膜に処理槽外に設けたマイクロ波加熱装置からもマイクロ波を照射して羊膜を加温しつつ、減圧状態の処理槽内を復圧する復圧操作とを、複数回繰り返すことによって、生羊膜の細胞組織を保持しつつ乾燥できることを見出し、本発明に到達した。
【0005】
すなわち、本発明は、人を含む動物の胎児を包む生羊膜を、生羊膜の細胞組織を破壊することなく乾燥処理して得た乾燥羊膜であって、無菌状態の乾燥大気中で保存できるように脱水乾燥されていると共に、水又は緩衝液に浸漬して再水和した際、生羊膜と同様の、上皮細胞、基底膜及び結合組織が保持されていることを特徴とする乾燥羊膜にある。
また、本発明は、人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理する羊膜の乾燥処理方法において、該生羊膜を乾燥する乾燥装置として、羊膜を載置した処理槽内を減圧状態とする減圧手段と、減圧状態の前記処理槽内に載置した羊膜を加温する加温手段と、前記処理槽内の減圧状態を大気圧方向に復圧する復圧手段とを具備する乾燥装置を用い、前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記処理槽内を前記減圧手段により減圧する減圧工程と、前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記復圧手段により前記処理槽内を大気圧もしくは大気圧に近い圧力まで上昇させる復圧工程とを交互に複数回繰り返して、羊膜をその構成する上皮細胞、基底膜及び結合組織を破壊することなく脱水・乾燥することを特徴とする羊膜の乾燥処理方法でもある。
【0006】
かかる本発明において、乾燥羊膜として、人由来の乾燥羊膜とすることによって、再生医療に用いられる細胞シート状態の細胞培養に好適に用いることができる。この乾燥羊膜を、乾燥剤が封入された滅菌パック中に密閉保存することによって長期間の保存を可能にできる。
また、本発明において、加温手段としては、遠赤外線ヒータ及びマイクロ波照射装置の少なくとも一方を好適に用いることができる。遠赤外線ヒータから発せられる遠赤外線及びマイクロ波照射装置から発せられるマイクロ波は、減圧雰囲気中に載置されている羊膜を昇温できるからである。かかる加温手段の設定温度を50℃以下とすることによって、羊膜を構成する細胞組織の破壊を可及的に少なくできる。
更に、乾燥に処する生羊膜としては、人由来の生羊膜を好適に用いることができ、生羊膜を処理槽内にシート状に広げて載置するによって、生羊膜の脱水を容易に行なうことができる。
かかる処理槽内を復圧操作によって復圧したとき、処理槽内の圧力を大気圧よりも低圧とすることによって、次の減圧操作によって処理槽内を早期に最高減圧到達圧力とすることができる。
尚、乾燥の終了を、羊膜が載置された処理槽内の最高減圧到達圧力と羊膜が載置されていない処理槽を減圧したときの最高減圧到達圧力とが等しくなったときとすることにより、乾燥処理の終了を一定とすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る乾燥羊膜は、無菌状態の乾燥大気中で保存でき、凍結羊膜に比較して、その保存性及び取扱性を向上できると共に、長期間の保存を可能にできる。また、乾燥羊膜は、生羊膜の細胞組織が実質的に破壊されることなく保持できるため、水又は緩衝液に浸漬して再水和することによって、ほぼ生羊膜様の羊膜を得ることができ、細胞の培養や、皮膚欠損損傷の治療等に用いることができる。
また本発明に係る羊膜の乾燥処理方法によれば、人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理する羊膜の乾燥処理方法において、該生羊膜を乾燥する乾燥装置として、羊膜を載置した処理槽内を減圧状態とする減圧手段と、減圧状態の前記処理槽内に載置した羊膜を加温する加温手段と、前記処理槽内の減圧状態を大気圧方向に復圧する復圧手段とを具備する乾燥装置を用い、前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記処理槽内を前記減圧手段により減圧する減圧工程と、前記加温手段により、羊膜を、羊膜の細胞組織を破壊することのない温度に加温しつつ、前記復圧手段により前記処理槽内を大気圧もしくは大気圧に近い圧力まで上昇させる復圧工程とを交互に複数回繰り返すようにしたので、羊膜をその構成する上皮細胞、基底膜及び結合組織を破壊することなく脱水・乾燥させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る羊膜の乾燥処理方法に用いる乾燥装置の一例の概略図を図1に示す。図1に示す乾燥装置では、処理槽10内に回転テーブル12が配設されており、回転テーブル12は処理槽10外に載置されたモータ16によって回転する。
かかる処理槽10の減圧手段として、真空ポンプ18が処理槽10外に配設されており、処理槽10と真空ポンプ18とを接続する減圧配管22の途中に電磁弁20が設けられている。
更に、処理槽10の復圧手段として、減圧状態の処理槽10内に外気を吸引して復圧すべく、吸込む外気を濾過するフィルター24と電磁弁26とが設けられた復圧配管28が処理槽10に接続されている。
また、処理槽10の回転テーブル12上に載置された羊膜の加温手段として、処理槽10内に遠赤外線ヒータ14が配設されていると共に、回転テーブル12上に載置された羊膜にマイクロ波を照射できるように、処理槽10の外側にマイクロ波照射装置30が設けられている。かかる加温手段の設置温度は生羊膜を構成する細胞組織を破壊することのない温度、好ましくは50℃以下とする。
【0009】
図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜を乾燥処理する際に、回転テーブル12上に載置する羊膜としては、人を含む動物の胎児を包む生羊膜を載置する。この生羊膜としては、人由来の生羊膜、特に帝王切開分娩した胎盤等から無菌状態で分離した生羊膜を好適に用いることができる。
かかる生羊膜は、処理槽10内の回転テーブル12上にシート状に広げて載置する。特に、生羊膜を、処理槽10内の回転テーブル12上に広げた吸水紙上にシート状に広げて載置することが好ましい。生羊膜の脱水を容易に行なうことができるからである。
この様に、生羊膜を載置した回転テーブル12をモータ16によって連続回転しつつ、加温手段としての遠赤外線ヒータ14によって生羊膜を連続的に加温する。
【0010】
遠赤外線ヒータ14によって処理槽10内の羊膜を連続的に加温しつつ、減圧手段としての真空ポンプ18を駆動し且つ電磁弁20を開放にして、処理槽10内を減圧状態とする。この際に、復圧手段としての電磁弁26は閉じている。
処理槽10内が減圧状態となると、処理槽10内が生羊膜を構成する細胞組織を破壊することのない温度、好ましくは50℃以下であっても、水の沸点低下によって、羊膜内の水を蒸発除去できる。
かかる処理槽10内の減圧曲線を図2に示す。図2に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は処理槽10内の圧力を示す。
図2では、減圧曲線Aが、生羊膜を載置した処理槽10内を大気圧から減圧を開始した減圧曲線である。かかる減圧曲線Aから明らかな様に、処理槽10内の圧力は、減圧開始直後では、その減圧速度が速いものの、減圧開始から暫く経過すると、処理槽10内の減圧速度が低下する。この現象は、羊膜内の水の蒸発によって、水の蒸発潜熱によって羊膜温度が低下して、羊膜内の水の蒸発速度が著しく低下することによる。
【0011】
この羊膜の温度低下を、図1に示す乾燥装置では、遠赤外線ヒータ14からの遠赤外線の照射のみによって防止できず、マイクロ波照射装置30から回転テーブル12上に載置された、未乾燥状態の羊膜にマイクロ波を所定時間照射して加温する。
かかる遠赤外線の照射とマイクロ波の照射との際に、減圧手段としての真空ポンプ18の駆動を停止すると共に、電磁弁20を閉じ、復圧手段としての電磁弁26を開放し、処理槽10内に外気を吸引して、図2の減圧曲線Aに示す様に、処理槽10内を復圧する。かかる復圧によって、減圧雰囲気中に載置されている羊膜に、マイクロ波照射装置30からのマイクロ波のエネルギーが集中することに起因する羊膜温度の過剰昇温を防止できる。
この復圧は、羊膜温度が過剰昇温されることを防止するためのものであり、減圧曲線Aに示す様に、大気圧まで復圧することは必要ではなく、羊膜の温度を所定温度に昇温できれば、大気圧以下であってもよい。この場合の羊膜温度も、羊膜を構成する細胞組織を破壊することのない温度とすることは勿論のことである。
かかるマイクロ波の照射時間は、予め実験的に好適な照射時間を求めておくことが好ましい。
処理槽10内の羊膜にマイクロ波を所定時間照射して加温した後、復圧手段としての電磁弁26を閉じ、減圧手段としての真空ポンプ18を再駆動し且つ電磁弁20を開放して処理槽10内を、再度、加温された羊膜温度で羊膜中の水分を更に蒸発除去できる減圧状態とする。
【0012】
かかる処理槽10内の羊膜に遠赤外線を照射しつつ減圧する減圧操作と、羊膜に遠赤外線の照射とマイクロ波の照射とを含む処理槽10内を復圧する復圧操作とを、図2に示す様に、複数回繰り返すことによって、処理槽10内に載置された生羊膜を、その細胞組織を破壊することなく乾燥できる。
かかる乾燥が進行すると、羊膜が載置された処理槽10内の最高減圧到達圧力が、羊膜が載置されていない処理槽10を減圧したときの最高減圧到達圧力に近づく。このため、羊膜が載置された処理槽10内の最高減圧到達圧力と、羊膜が載置されていない処理槽10を減圧したときの最高減圧到達圧力とが等しくなったとき、経験的に羊膜の乾燥が終了したものと判断できる。この様に、最高減圧到達力によって羊膜の乾燥終了を判断することにより、乾燥程度の略等しい乾燥羊膜を得ることができる。
かかる乾燥羊膜の保存は、無菌状態の乾燥大気中で保存でき、具体的には乾燥剤が封入された滅菌パック中に密閉して保存できる。その有効保存期間は、保存条件によって1年以上とすることは可能である。
尚、図1に示す乾燥装置には、加温手段として、遠赤外線ヒータ14とマイクロ波照射装置30とを具備しているが、その出力によっては遠赤外線ヒータ14及びマイクロ波照射装置30の一方を設けることができる。
【0013】
図1に示す乾燥装置を用いて得られた乾燥羊膜の表面についての走査電子顕微鏡写真を図3に示す。図3(a)~(c)は、乾燥羊膜表面の異なる部分の走査電子顕微鏡写真であり、平坦で起伏、断裂に乏しく一定の構造を保持していた。図3(b)には、線で囲んだ部分が1個の細胞と考えられる部分であり、鱗状に細胞が存在することが観察される。 但し、図3(b)の反対側面である図3(a)(c)では、明瞭な構造が観察されず、上皮下に存在する結合組織が基質成分を含めきちんと保持されているためと考えられる。
これに対し、生羊膜を凍結乾燥した乾燥羊膜の表面についての走査電子顕微鏡写真を図4に示す。図4(a)~(d)は、生羊膜をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄した後に凍結乾燥して得た乾燥羊膜についてのものであり、図4(a)(b)は乾燥羊膜の一面側のものであり、その反対面側を図4(c)(d)に示す。
図4(a)(b)からは、細胞が鱗状に配列しているようにも見えるが、皺が多いために明確に区別できない。
更に、図4(c)(d)からは、膠原繊維(CF)がシート状に存在していることが観察される。
また、図4(e)(f)は、生羊膜を蒸留水で洗浄した後に凍結乾燥して得た乾燥羊膜についてのものであり、図4(e)は乾燥羊膜の一面側のものであり、その反対側面を図4(f)に示す。
図4(e)からは細胞に大小の穴が開いていることが観察され、図4(f)からは細胞及び基質成分のすべてが洗い流され、膠原繊維のみが残存していることが観察される。
この様に、生羊膜を凍結乾燥して得た乾燥羊膜は、図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜に比較して、上皮、結合組織とも保存が不完全である。
【0014】
図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和した羊膜の顕微鏡写真を図5(a)に示す。この顕微鏡写真は、乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和した羊膜を、通常の光学顕微鏡標本作成方法に準拠して作成した標本を、光学顕微鏡を用いて組織像を撮影したものである。かかる標本は、再水和した羊膜を10%ホルマリン固定液で固定し、アルコール脱水、キシレン透徹、パラフィン包埋した後、1~2μmの切片標本を作成し、その後、切片標本をヘマトキシリン-エオジン染色(H-E染色)を施して得たものである。
更に、参照のために、図5(d)に、生羊膜の顕微鏡写真を示す。この顕微鏡写真も、図5(a)に示す顕微鏡写真と同様にして撮影したものである。
図5(a)の顕微鏡写真と図5(d)の顕微鏡写真とを比較すると、両者には、上皮細胞(En)、結合組織(Ct)及び間葉系の細胞(矢印M)が認められ、両者は略同様の組織像である。
【0015】
これに対し、生羊膜を凍結乾燥して得た乾燥羊膜の組織像を図5(b)(c)に示す。この顕微鏡写真も、図5(a)に示す顕微鏡写真と同様にして撮影したものである。図5(b)は、採取した生羊膜を蒸留水で洗浄してから凍結乾燥して得た乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和したものである。また、図5(c)は、採取した生羊膜をそのまま凍結乾燥して得た乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和したものである。
図5(b)に示す組織像では、図5(a)(d)に示す組織像に比較して、著しく萎縮しており、上皮組織(En)は濃縮し、結合組織内には細胞がほとんど認められない。また、図5(c)に示す組織像では、図5(b)に示す組織像よりも更に細胞が萎縮している。
【0016】
図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜は、生羊膜の基本的組織である、基底膜及び結合組織が保持されているため、水又は緩衝液に浸漬して再水和した羊膜は、角膜内皮細胞の培養に用いることができる。更に、かかる羊膜は、火傷や創傷等による皮膚欠損の治療にも用いることができる。
【実施例1】
【0017】
(1)生羊膜の採取
予め同意を得た妊婦の帝王切開分娩で排出された胎盤を、直ちに無菌生理食塩水によって脱落膜や血餅等を除去洗浄して生羊膜を採取した。採取した生羊膜は直ちに生理食塩水と共にスピッツ内に密閉して冷蔵保存した。
【0018】
(2)生羊膜の乾燥
図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜の乾燥を行なった。この乾燥装置では、マイクロ波照射装置30としては、出力1.5KWのマグネトロンを用いた。また、遠赤外線ヒータ14の温度設定を50℃とし、遠赤外線を羊膜に対して乾燥開始から終了まで連続照射した。更に、処理槽10内に羊膜を載置していないとき、真空ポンプ18による最高減圧到達圧力を0.4kPaとなるように設定した。
かかる図1に示す乾燥装置によって先に採取した羊膜を乾燥する際に、シワにならないように広げた吸水紙としてのクッキングペーパ上に、スピッツから取り出した生羊膜(50g)をシワのないように広げ、これらをトレイ上に載置した。更に、このトレイを処理槽10内の回転テーブル12上に載置した後、回転テーブル12を回転した。この回転テーブル12は、乾燥開始から終了まで連続回転した。
次いで、遠赤外線ヒータ14をONとして、真空ポンプ18を駆動すると共に電磁弁20を開けて処理槽10内を減圧する減圧操作を開始した。減圧開始から暫くすると減圧速度が低下してきたため、最高減圧到達圧力が0.90kPaに到達したとき、真空ポンプ18を停止すると共に電磁弁20を閉じ、電磁弁26を開いて、フィルター24によってゴミや細菌が濾過された空気を処理槽10内に導入する復圧操作を開始し、処理槽10内の圧力を4.53kPaに復圧した。
かかる復圧操作の開始と同時に、マイクロ波照射装置30としてのマグネトロンをONとしてマイクロ波を回転テーブル12上の羊膜に照射する加温操作を施した。
【0019】
かかる遠赤外線ヒータ14とマグネトロンとによる加温操作を3分間施した後、マグネトロンをOFFにして、遠赤外線ヒータ14をONとしつつ減圧操作を再開した。再開した減圧操作によって処理槽10内を0.62kPaまで減圧状態とした後、処理槽10内を4.63kPaに復圧する復圧操作と、遠赤外線ヒータ14とマグネトロンとによる3分間の加温操作とを施した。かかる減圧操作、加温操作及び復圧操作を合計で6回施して羊膜の乾燥を終了した。
この乾燥終了は、第5回目の減圧操作による処理槽10内の最高減圧到達圧力と、処理槽10内に羊膜を載置していないときの最高減圧到達圧力とによって判断した。すなわち、第6回目の減圧操作の最高減圧到達圧力が0.40kPaに到達し、処理槽10内に羊膜を載置していないときの最高減圧到達圧力と等しくなったため、乾燥終了と判断した。
乾燥を終了した乾燥羊膜は、処理槽10に載置した生羊膜50gに対して1gに脱水乾燥されており、乾燥剤が封入された滅菌パック中に密閉して保存した。
【0020】
(3)乾燥羊膜の状態
得られた乾燥羊膜の両面を走査電子顕微鏡によって観察したところ、図3(a)~(c)に示す様に、平坦で起伏、断裂に乏しく一定の構造を保持していた。
また、この乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和した羊膜を、通常の光学顕微鏡標本作成方法に準拠して作成した標本を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、図5(a)に示す様に、生羊膜と略同様に、上皮細胞(En)、結合組織(Ct)及び間葉系の細胞(矢印M)が認められた。
【実施例2】
【0021】
実施例1で得られた乾燥羊膜を用いた欠損損傷治癒に対する効果を検討した。
(1)欠損損傷の作成及び治療
7匹のマウス(C57BL/6 ♂、体重42~46g)の各々の背部を剃毛したのち、径3mm のデルマパンチで円形の欠損損傷を4個作成した。いずれの損傷も真皮が完全に消失し、皮下組織にまで達するものであって、Shea及びNPUAPの分類によるStage IIからStage IIIに相当する。
各個体の背部に形成した4個の欠損損傷のうち、1個の欠損損傷にはフィルム(ドレッシング剤)に貼着した乾燥羊膜による被覆を行ない、他の1個の欠損損傷にはフィルム(ドレッシング剤)に貼着した止血剤含有ガーゼによる被覆を行った。残りの2個の欠損損傷のうち、1個の欠損損傷にはフィルム(ドレッシング剤)のみの被覆を行ない、他の1個の欠損損傷は無処置とした。
ここで用いた乾燥羊膜は、実施例1で得た乾燥羊膜を、乾燥剤が封入された滅菌パック中に密閉して1月間保管した乾燥羊膜であって、乾燥状態のままで用いた。
欠損損傷を被覆した水準は、いずれも被覆物の付着は良好であった。特に、乾燥羊膜を用いた水準では、乾燥羊膜が平坦で吸着性がよく、付着が容易であったため、創傷部位全域を完全に被覆することができた。
治療開始後7日目に創傷治癒の状態を観察すべく材料の採取を行った。
尚、この間、被覆物の交換は一切行わず、消失した場合はそのままの状態とした。
【0022】
(2)欠損損傷治癒の肉眼及び触診による観察
乾燥羊膜、止血剤含有ガーゼ、フィルムのみの水準のいずれについても、体表面からの観察では概ね順調に治癒しているように見受けられた。
しかし、フィルムのみの水準及び止血剤含有ガーゼの水準では、創傷治癒の状態は個体差が大きく、7日目でも出血がみられるものがある一方、完全に完治したものも観察された。更に、フィルムや止血剤含有ガーゼが付着した部位近傍には、強い掻痒感のためと考えられる、新たに擦過傷が生じているものが見られた。
他方、乾燥羊膜の水準では、いずれの個体も創傷面が乾燥し、開口部が縮小していた。
【0023】
次に、各水準について、創傷開口部の径および創傷周囲の硬結の範囲を測定し、その結果を図6に示した。図6において、創傷開口部の径を1)に示し、創傷周囲の硬結の範囲を2)に示した。
図6に示す様に、創傷開口部の径は、乾燥羊膜、止血剤含有ガーゼ、フィルムのみの各水準は、無処置の水準に比較して、いずれも縮小している。
しかし、触診したところ、止血剤含有ガーゼ、フィルムのみ、及び無処置の水準のすべてにおいて、創傷部位では開口部周囲を取り巻くように硬結部位が存在するのが確認された。
これに対し、乾燥羊膜の水準では、すべての個体において硬結を触知することができなかった。
【0024】
この様に、乾燥羊膜は、止血剤含有ガーゼに比較して、欠損損傷に対する付着性が良好で、損傷に対する刺激性も少なく、瘢痕形成を起こし難く、且つ過度の組織収縮を引き起こさない。このため、乾燥羊膜は、欠損損傷の治療にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】生羊膜の乾燥に用いる乾燥装置の一例の概略を示す概略図である。
【図2】図1に示す乾燥装置を用いた生羊膜を乾燥する際に、羊膜が載置された処理槽内の圧力についての経時変化を示すグラフである。
【図3】得られた乾燥羊膜の表面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図4】凍結乾燥した乾燥羊膜の表面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図5】乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和した羊膜及び生羊膜の光学顕微鏡写真を示す。
【図6】欠損損傷の治療状況を調査した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
10 処理槽
12 回転テーブル
14 遠赤外線ヒータ
16 モータ
18 真空ポンプ
20,26 電磁弁
22 減圧配管
24 フィルター
28 復圧配管
30 マイクロ波照射装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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