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明細書 :乾燥羊膜からなる眼表面の再建用医療材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5092119号 (P5092119)
公開番号 特開2008-036345 (P2008-036345A)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月5日(2012.12.5)
公開日 平成20年2月21日(2008.2.21)
発明の名称または考案の名称 乾燥羊膜からなる眼表面の再建用医療材料
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
A61F   9/007       (2006.01)
A61F   2/14        (2006.01)
FI A61L 27/00 D
A61F 9/00 550
A61F 2/14
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2006-218297 (P2006-218297)
出願日 平成18年8月10日(2006.8.10)
審査請求日 平成21年7月21日(2009.7.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】二階堂 敏雄
【氏名】北川 清隆
【氏名】岡部 素典
審査官 【審査官】小森 潔
参考文献・文献 特表2004-532675(JP,A)
国際公開第04/078225(WO,A1)
特開2003-190192(JP,A)
特表2006-507851(JP,A)
調査した分野 A61L 27/00
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜が、無菌状態の乾燥大気中で保存できるように脱水乾燥されており、かつ水又は緩衝液に浸漬して再水和した羊膜には、前記生羊膜を構成する上皮細胞、基底膜、及び結合組織が保持されていることを特徴とする乾燥羊膜からなる眼表面再建用医療材料。
【請求項2】
人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜が、無菌状態の乾燥大気中で保存できるように脱水乾燥されており、かつ水又は緩衝液に浸漬して再水和した羊膜には、前記生羊膜を構成する上皮細胞、基底膜、及び結合組織が保持されていることを特徴とする乾燥羊膜の眼表面を再建するための医療材料としての使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、眼表面の疾患を治療するための医療材料に関し、さらに詳しくは、眼表面を再建するための医療材料としての乾燥羊膜および特定の乾燥方法で製造される乾燥羊膜を用いる眼表面の再建方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼表面を再建するために羊膜を利用した手術が行われているおり(非特許文献1)、眼表面再建用の凍結保存ヒト羊膜が知られている(非特許文献2)。また、羊膜由来のコラーゲン層上に角膜内皮細胞由来の細胞層を形成させた角膜内皮用シート(特許文献1)、さらに、基底膜の少なくとも一部を残存し、上皮層を除去し、残存する基底膜が、使用時にその上で細胞の接着及び増殖が可能な構造を保持して乾燥させた角膜上皮様シート(特許文献2)が知られている。また、羊膜を保存するために、凍結乾燥させ、使用時に緩衝液等に浸漬し、再水和した凍結乾燥羊膜を使用した角膜疾患の治療が試みられている。

【非特許文献1】Curr. Opin. Ophthalmol., 2001; 12: 261-81
【非特許文献2】Graefe’s Arch. Clin. Exp. Ophthalmol., 2000; 238: 68-75
【特許文献1】特開2004-24852
【特許文献2】WO2004/078225
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
眼表面の再建のために使用される医療材料としての羊膜は、無菌状態で得た人を含む動物胎児を包む生羊膜、特に人の帝王切開分娩で得られた胎盤から採取された生羊膜を、直ちに使用することが最も好ましい。しかし、好適な生羊膜は使用したいときに常に入手できるとは限らず、予め入手した好適な生羊膜を保存することが必要である。
かかる羊膜の保存としては、生羊膜を保存液に浸漬して-80℃で冷凍保存し、使用の際に、冷凍された羊膜を室温で解凍して使用すること挙げられるが、冷凍保存された羊膜の保存期間は3ヶ月程度であり、保存期間を経過した羊膜は焼却処分される。
また、生羊膜を冷凍する際に、羊膜を構成する細胞内の水が凍って大きな氷結晶が生成されると、生成された氷結晶によって細胞膜が破壊されることがあるため、細胞中に細胞膜を破壊するような大きな氷結晶を生成させることなく冷凍することを要し、生羊膜が冷凍するまでの降温速度等に格別の注意が必要である。凍結時に羊膜組織が破壊される点では、乾燥方法として凍結乾燥が採用された場合も、同様の問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
生羊膜の組織を維持して乾燥した乾燥羊膜を得ることができれば、その管理維持及び運搬には特別の注意を払うことなく容易に行うことができ、眼表面の再建のために使用される医療材料として格段に使いやすいものとなる。また、新鮮な羊膜を使用した場合と同様の治癒促進作用等の薬理作用を期待できる。
本発明者らは、処理槽内に載置した生羊膜を、処理槽内に設けた遠赤外線ヒータによって連続して加温して、処理槽内を減圧状態とする減圧操作と、この生羊膜に処理槽外に設けたマイクロ波加熱装置からもマイクロ波を照射して羊膜を加温しつつ、減圧状態の処理槽内を復圧する復圧操作とを、複数回繰り返すことによって、生羊膜の細胞組織を保持しつつ乾燥させた羊膜が、眼表面の再建のために使用される医療材料として適したものであることを見出し、本発明に到達した。
【0005】
本発明は、人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理して得た乾燥羊膜が、無菌状態の乾燥大気中で保存できるように脱水乾燥されていると共に、前記乾燥羊膜を水又は緩衝液に浸漬して再水和した羊膜には、前記生羊膜を構成する上皮細胞、基底膜及び結合組織が保持されていることを特徴とする乾燥羊膜からなる眼疾患治療用医療材料、該乾燥羊膜の眼疾患治療用医療材料としての使用方法及び該乾燥羊膜を利用した眼疾患の治療方法を提供する。
【0006】
本発明の乾燥羊膜からなる眼表面の再建用医療材料が用いられる眼表面の治療としては、例えば、緑内障手術における結膜ブレブ形成の補強および瘢痕抑制;角膜潰瘍における角膜上皮細胞の再生促進および穿孔部からの眼房水流出の抑制;角膜移植時における血管新生抑制、拒絶反応抑制;翼状片組織切除後の結膜欠損部の充填などが挙げられる。
【0007】
本発明に使用する乾燥羊膜は、以下の方法により製造される。
人を含む動物の胎児を包む生羊膜を乾燥処理する際に、該生羊膜を乾燥する乾燥装置として、羊膜を載置した処理槽内を減圧状態とする減圧手段と、減圧状態の前記処理槽内に載置した羊膜を加温する加温手段と、前記処理槽内の減圧状態を大気圧方向に復圧する復圧手段とを具備する乾燥装置を用い、前記減圧手段によって減圧状態の処理槽内に載置した羊膜を、前記加温手段によって加温しつつ、その構成する基底膜及び結合組織が破壊されることのない温度に保持すべく、前記減圧手段によって処理槽内を減圧状態とする減圧操作と、前記復圧手段によって減圧状態の処理槽内を大気圧方向に復圧する復圧操作とを、交互に複数回繰り返して、前記処理槽内に載置した生羊膜を脱水乾燥する。
【0008】
本発明に使用する乾燥羊膜の製造おいて、加温手段としては、遠赤外線ヒータおよびマイクロ波照射装置の少なくとも一方を好適に用いることができる。かかる加温手段の設定温度を50℃以下とすることによって、羊膜を構成する細胞組織の破壊を可及的に少なくできる。
さらに、乾燥に処する生羊膜として、人由来の生羊膜を好適に用いることができ、生羊膜を処理槽内にシート状に広げて載置することによって、生羊膜の脱水を容易に行うことができる。
かかる処理槽内を復圧操作によって復圧したとき、処理槽内の圧力を大気圧よりも低圧とすることによって、次の減圧操作によって処理槽内を早期に最高減圧到達圧力とすることができる。
【0009】
上記の方法で製造された乾燥羊膜は、乾燥剤が封入された滅菌パック中に滅菌・密閉することによって長期間の保存が可能である。また、該乾燥羊膜は、生羊膜の細胞組織が実質的に破壊されることなく保持できるため、水又は緩衝液に浸漬して再水和することによって、ほぼ生羊膜様の羊膜を得ることができる。
【0010】
上記の方法で製造された乾燥羊膜を医療材料として使用するには、適宜な大きさに切断した乾燥した状態のものを患部に貼付、被覆および埋込、あるいは欠損部への充填等を行えばよい。また、使用する前に蒸留水、生理食塩液、人工房水、緩衝液などで水和させたものを用いることもできる。
【発明の効果】
【0011】
処理槽内に載置した生羊膜を、処理槽内に設けた遠赤外線ヒータによって連続して加温して、処理槽内を減圧状態とする減圧操作と、この生羊膜に処理槽外に設けたマイクロ波加熱装置からもマイクロ波を照射して羊膜を加温しつつ、減圧状態の処理槽内を復圧する復圧操作とを、複数回繰り返すことによって、生羊膜の細胞組織を保持しつつ乾燥させた羊膜は、緑内障手術における結膜ブレブ再建、角膜移植時における血管新生および/または拒絶反応の抑制、翼状片組織切除後の結膜欠損部の充填などに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を参考例、実施例で説明するが、本発明はそれらに限定されない。
参考例
(1)生羊膜の採取
予め同意を得た妊婦の帝王切開分娩で排出された胎盤を、直ちに無菌生理食塩水によって漿膜や血塊等を除去洗浄して生羊膜を採取した。採取した生羊膜は直ちに生理食塩水と共にスピッツ内に密閉して冷蔵保存した。
【0013】
(2)生羊膜の乾燥
図1に示す乾燥装置を用いて生羊膜の乾燥を行った。この乾燥装置では、マイクロ波照射装置30としては、出力1.5KWのマグネトロンを用いた。また、遠赤外線ヒータ14の温度設定を50℃とし、遠赤外線を羊膜に対して乾燥開始から終了まで連続照射した。更に、処理槽10内に羊膜を載置していないとき、真空ポンプ18による最高減圧到達圧力を0.4kPaとなるように設定した。
かかる図1に示す乾燥装置によって先に採取した羊膜を乾燥する際に、シワにならないように広げた吸水紙としてのクッキングペーパー上に、スピッツから取り出した生羊膜(50g)をシワのないように広げ、これらをトレイ上に載置した。更に、このトレイを処理槽10内の回転テーブル12上に載置した後、回転テーブル12を回転した。この回転テーブル12は、乾燥開始から終了まで連続回転した。
次いで、遠赤外線ヒータ14をONとして、真空ポンプ18を駆動すると共に電磁弁20を開けて処理槽10内を減圧する減圧操作を開始した。減圧開始から暫くすると減圧速度が低下してきたため、最高減圧到達圧力が0.90kPaに到達したとき、真空ポンプ18を停止すると共に電磁弁20を閉じ、電磁弁26を開いて、フィルター24によってゴミや細菌が濾過された空気を処理槽10内に導入する復圧操作を開始し、処理槽10内の圧力を4.53kPaに復圧した。
かかる復圧操作の開始と同時に、マイクロ波照射装置30としてのマグネトロンをONとしてマイクロ波を回転テーブル12上の羊膜に照射する加温操作を施した。
【0014】
かかる遠赤外線ヒータ14とマグネトロンとによる加温操作を3分間照射した後、マグネトロンをOFFにして、遠赤外線ヒータ14をONとしつつ減圧操作を再開した。再開した減圧操作によって処理槽10内を0.62kPaまで減圧状態とした後、処理槽10内を4.63kPaに復圧する復圧操作と、遠赤外線ヒータ14とマグネトロンとによる3分間の加温操作とを施した。かかる減圧操作、加温操作及び復圧操作を合計で6回施して羊膜の乾燥を終了した。
この乾燥終了は、第5回目の減圧操作による処理槽10内の最高減圧到達圧力と、処理槽10内に羊膜を載置していないときの最高減圧到達圧力とによって判断した。すなわち、第6回目の減圧操作の最高減圧到達圧力が0.40kPaに到達し、処理槽10内に羊膜を載置していないときの最高減圧到達圧力と等しくなったため、乾燥終了と判断した。
乾燥を終了した乾燥羊膜は、処理槽10に載置した生羊膜50gに対して1gに脱水乾燥されており、乾燥剤が封入された滅菌パック中に滅菌・密閉して保存した。
【0015】
(3)乾燥羊膜の状態
得られた乾燥羊膜の両面を走査電子顕微鏡によって観察したところ、図2(a)~(c)に示す様に、平坦で起伏、断裂に乏しく一定の構造を保持していた。
また、この乾燥羊膜をリン酸緩衝液(PBS)に浸漬して再水和した羊膜を、通常の光学顕微鏡標本作成方法に準拠して作成した標本を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、図3に示す様に、生羊膜と略同様に、上皮細胞(En)、結合組織(Ct)及び間葉系の細胞(矢印M)が認められた。
【0016】
実施例1
参考例で得られた乾燥羊膜を緑内障手術後の再手術および結膜のブレブからの漏出に使用した。
(方法)
生理食塩液で水和した乾燥羊膜を、結膜ブレブ再建強膜フラップ下に埋め込んだ。また、結膜のブレブからの漏出に対して、生理食塩液で水和した乾燥羊膜をシアノアクリレート系生体接着剤で貼り付けた。
(経過)
眼圧低下が得られ、結膜の瘢痕抑制が認められた。貼り付けた羊膜は翌日に脱落し創は自然治癒した。
【0017】
実施例2
参考例で得られた乾燥羊膜を角膜潰瘍による角膜穿孔の治療に使用した。
(方法)
乾燥羊膜をシアノアクリレート系生体接着剤で貼り付けた。
(経過)
穿孔部は羊膜で覆われ、穿孔部は治癒した。
【0018】
実施例3
参考例で得られた乾燥羊膜を翼状片の治療に使用した。
(方法)
翼状片組織を切除し、結膜欠損部に生理食塩液で水和した乾燥羊膜を縫合した。
(経過)
欠損部分に生着していた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
特定の乾燥方法で製造された乾燥羊膜は、眼球表面の組織に対する付着性が良好で、損傷に対する刺激性も少なく、瘢痕形成を起こし難く、且つ過度の組織収縮を引き起こさない。このため、眼表面を再建するための医療材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】生羊膜の乾燥に用いる乾燥装置の一例の概略を示す概略図である。
【図2】得られた乾燥羊膜の表面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図3】乾燥羊膜をリン酸緩衝液に浸漬して再水和した羊膜(a)、生羊膜(d)及び採取した生羊膜をそのまま凍結乾燥したものをリン酸緩衝液に浸漬して再水和した羊膜(c)の光学顕微鏡写真を示す。
【符号の説明】
【0021】
10 処理槽
12 回転テーブル
14 遠赤外線ヒータ
16 モータ
18 真空ポンプ
20 電磁弁
22 減圧配管
24 フィルター
28 復圧配管
30 マイクロ波照射装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2