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明細書 :展伸用マグネシウム合金、同合金より成るプレス成形用板材およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4852754号 (P4852754)
公開番号 特開2008-069421 (P2008-069421A)
登録日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
公開日 平成20年3月27日(2008.3.27)
発明の名称または考案の名称 展伸用マグネシウム合金、同合金より成るプレス成形用板材およびその製造方法
国際特許分類 C22C  23/02        (2006.01)
C22F   1/06        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
B21B   3/00        (2006.01)
FI C22C 23/02
C22F 1/06
C22F 1/00 604
C22F 1/00 623
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 681
C22F 1/00 682
C22F 1/00 683
C22F 1/00 685A
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 694A
C22F 1/00 694
C22F 1/00 694B
B21B 3/00 L
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2006-250252 (P2006-250252)
出願日 平成18年9月15日(2006.9.15)
審査請求日 平成21年9月11日(2009.9.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】吉本 隆志
【氏名】松永 卓
【氏名】和田 敏秋
【氏名】松木 賢司
【氏名】会田 哲夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100066692、【弁理士】、【氏名又は名称】浅村 皓
【識別番号】100072040、【弁理士】、【氏名又は名称】浅村 肇
【識別番号】100072822、【弁理士】、【氏名又は名称】森 徹
【識別番号】100087217、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 裕
審査官 【審査官】河野 一夫
参考文献・文献 特開2003-328063(JP,A)
特開2001-170735(JP,A)
特開2004-068110(JP,A)
特開2006-144059(JP,A)
調査した分野 C22C 1/00 - 49/14
C22F 1/00 - 3/02
B21B 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
展伸用のマグネシウム合金であって、1.5~4.0質量%のアルミニウムと、0.5~1.5質量%の亜鉛と、0.05~1.0質量%のマンガンと、0.1~0.6質量%のジルコニウムとを含み、残部がマグネシウムであるマグネシウム合金。
【請求項2】
請求項1に記載の合金であって、アルミニウムの含有量が3.0質量%、亜鉛の含有量が0.4質量%、マンガンの含有量が0.4質量%、そしてジルコニウムの含有量が0.6質量%であるマグネシウム合金。
【請求項3】
請求項1のマグネシウム合金より成り、平均結晶粒径が10μm以下の合金組織を有するプレス成形用板材。
【請求項4】
請求項3に記載の板材であって、厚みが1mm以下で、幅が150mm以上である、プレス成形用板材。
【請求項5】
請求項3に記載のプレス成形用板材を製造する方法であって、
請求項1のマグネシウム合金を溶解し、連続鋳造または押出によってスラブまたはシートバーを形成し、
このスラブまたはシートバーを300~400°Cに加熱して均質化処理し、
次いで、該スラブまたはシートバーを300~400°Cに加熱し、総圧下率90~95%で熱間粗圧延して、厚さ4~7mmの圧延板を形成し、
その後、この圧延板を、250~320°Cの加熱温度で、1回の加熱当たり圧下率10~30%で1パス-1ヒートの温間圧延して、厚さ4mm以下の板材に成形する、プレス成形用板材を製造する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記温間圧延により、板材を1mm以下の厚み、150mm以上の幅に形成する、プレス成形用板材を製造する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形用薄板材に用いるためのマグネシウム合金に関する。さらに、本発明は、このマグネシウム合金より成るプレス成形用板材と、その製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家電、OA機器産業などにおいて部品素材の軽量化が求められ、その中でマグネシウム合金が部品素材として注目されている。
マグネシウム合金部品の主な製造方法として、ダイカストによる溶湯鋳造法がある。しかし、この製造方式では、製品の薄肉軽量化に伴って、欠肉、ガス欠陥、ピンホールなどが残留する。
そのため、薄肉部品の製造には、マグネシウム合金圧延材を使用したプレス成形が有望視されている。
【0003】
マグネシウム合金圧延材の中では、MP-1(ASTM規格:AZ31B(Mg、3重量%Al、0.7重量%Zn、0.3重量%Mn))合金が、深絞りや張出し加工でカバーやケース、筐体などに製品化されている。しかし、圧延材の組織が不均一かつ粗大な場合には、割れが発生しやすく、製品を安定して供給可能な加工が出来ないという問題がある。
【0004】
そこで、マグネシウム合金をプレス成形用板材として用いるために、成形性などの機械的性質を向上させる研究が種々行われている。これら研究の主眼は、マグネシウム合金の結晶粒を微細にすることにより、すべり変形を容易にし、塑性加工性の向上を図ろうとするものである。
その一つに、0.1~0.6重量%のジルコニウムと2.0~4.0重量%の亜鉛とを含むマグネシウム合金に、0.5~1.5重量%の希土類金属を添加し、一定条件で圧延することにより、結晶粒を微細化してプレス成形性を向上する方法がある。(特許文献1参照)

【特許文献1】特開平6-293944号公報
【0005】
別の試みは、アルミニウム含有量が多く、本来圧延加工に適さないマグネシウム合金を、ダイカスト機やチクソモールド成形機によって、或いは溶湯状態から凝固させながら圧縮して板材に成形して、この板材に圧縮変形を加え、さらに加熱処理することにより、結晶粒径の小さい薄板に形成するものである。(特許文献2参照)
また、Alを含んだAZ31合金にZrを0.09~0.99%添加することによって、結晶粒を微細化させる効果のあることも知られている。(非特許文献1参照)

【特許文献2】特開2001-294966号公報
【非特許文献1】「特殊加工用マグネシウム合金の研究(第2報)」、寺井士郎、住友金属工業(株)伸銅所
【0006】
マグネシウム薄板の強度、延性の向上に対応すべき要因は、金属組織学的にみると、結晶粒子径の大きさ、化合物などとして分散する化合物粒子の大きさ、そしてそれらの分散などにみることができる。
上記の試みを含めて、従来の圧延法によるマグネシウム合金薄板は、平均結晶粒子径が10~50μm程度であり(本願発明者達の調査による)、例えば、肉厚が1mm以下と薄く、しかも幅150mm以上を要する筐体等の比較的大型形状の部品には対応が困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、プレス成形性を向上したマグネシウム合金板材と、それを形成する展伸用マグネシウム合金の提供である。
本発明の別の目的は、上記プレス成型用板材を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者達は、マグネシウム合金薄板のプレス成形性に関して、Alを含むマグネシウム合金において、MnとZrの同時添加による相乗効果で結晶粒の微細化が実現し、特に、板圧延後の加熱における結晶粒の粗大化防止に効果のあることを見出した。
本発明はこの知見に基づいており、本発明の展伸用のマグネシウム合金は、1.5~4.0質量%のアルミニウムと、0.5~1.5質量%の亜鉛と、0.05~1.0質量%のマンガンと、0.1~0.6質量%のジルコニウムとを含み、残部がマグネシウムである。
この様な組成のマグネシウム合金により、例えば肉厚1mm以下で幅150mm以上の、プレス成形性に優れた薄板材を形成できる。
【0009】
上記展伸用マグネシウム合金は、アルミニウムの含有量が3.0質量%、亜鉛の含有量が0.4質量%、マンガンの含有量が0.4質量%、そしてジルコニウムの含有量が0.6質量%であることが好ましい。
この組成によると、市販のAZ31B合金(JIS規格)の素材にZrを添加して、本発明のマグネシウム合金を得ることが可能である。
このマグネシウム合金より成るプレス成形用板材は、平均結晶粒径が10μm以下の合金組織を有することができ、また、厚みが1mm以下で、幅が150mm以上であっても良い。
【0010】
また、本発明による、上記プレス成形用板材を製造する方法は、前述の本発明のマグネシウム合金を溶解し、連続鋳造または押出によってスラブまたはシートバーを形成し、このスラブまたはシートバーを300~400°Cに加熱して均質化処理する。その後、該スラブまたはシートバーを300~400°Cに加熱し、総圧下率90~95%にて熱間粗圧延して、厚さ4~7mmの圧延板を形成する。次いで、この圧延板を、250~320°Cの加熱温度で、1回の加熱当たり圧下率10~30%の1パス-1ヒートの温間圧延して、厚さ4mm以下の板材に成形するものである。
この様な工程により、結晶粒の粗大化を抑制して、アルミニウムとジルコニウム或いはマンガンからなる化合物が100nm以下に均一微細に分散して、プレス成形性に優れたマグネシウム合金薄板材を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマグネシウム合金、プレス成形用板材および製造方法は、(1)圧延後の加熱処理により、粒成長させることなく、せん断帯(後述)の消滅、均粒化が可能である、(2)成形の形態、目的に合わせた焼きなまし条件(硬さ)の選択が、粒成長させることなく可能となる、(3)プレス成形前の加熱による粒成長を抑制することによる成形性の向上がある、また(4)圧延中の加熱による結晶粗成長も抑制する、という効果がある。そのため、マグネシウム合金のプレス成形による薄肉大型形状の部品製造を可能にし、適用製品の小型軽量化に大きく寄与し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による展伸用のマグネシウム合金は、1.5~4.0質量%のアルミニウムと、0.5~1.5質量%の亜鉛と、0.05~1.0質量%のマンガンと、0.1~0.6質量%のジルコニウムとを含み、合金の残部はマグネシウムである。
上記組成において、アルミニウムは、この合金からなる成形用薄板の機械的性質を改善する効果があるが、その効果を発揮するには1.5質量%以上の含有量が必要である。一方、アルミニウムが4.0質量%以上になると、マグネシウム合金薄板の強度は増加するものの、伸びが低下し成形性が劣化する。従って、アルミニウムの含有量は1.5~4.0質量%としている。
【0013】
マンガンは、耐食性を向上させる効果があり、その効果を得るには0.05質量%以上の含有量が必要である。一方、含有量が1.0質量%を越えると、均質化処理後においてもマンガンがマグネシウム中に全量固溶せず、マンガンもしくはマンガン化合物が析出して、マグネシウム合金薄板の伸びが低下し成形性が劣化する。従って、マンガンの含有量は0.05~1.0質量%としている。
また、亜鉛は耐食性および機械的性質を改善する効果があり、その効果を得るためには0.5質量%以上の含有量が必要である。含有量が1.5質量%を越えると、マグネシウム合金薄板の強度は増加するが、伸びが低下して成形性が劣化する。したがって、亜鉛の含有量は0.5~1.5質量%としている。
【0014】
ジルコニウムの添加には、鋳塊の結晶粒を微細化する作用がある。鋳塊の結晶粒が細かいほど圧延後の結晶粒も細かくなり、プレス成形性が向上する。さらに、結晶粒が微細化すると、マグネシウム合金薄板の機械的強度および靭性は向上する。その効果を得るには、ジルコニウムを0.1質量%以上含有させる必要がある。一方、含有量が0.6質量%を越えると、合金中に溶解せずに沈殿してしまい、マグネシウム合金薄板の機械的強度、成形性が劣化する。したがって、ジルコニウムの添加は、質量%で0.1~0.6としている。
【0015】
こうした効果は、鋳造用マグネシウム合金に関して知られており、また、展仲用合金に関しても、前述の特許文献1に述べられている。しかしながら、これらは、いずれもAlを含まないマグネシウム合金についての知識であり、Alを含む合金では、ジルコニウム添加による鋳造結晶粒組織の微細化効果が得られず、プレス成形性の向上には寄与しないと、従来考えられてきた。
【0016】
例えば、この技術分野の参考図書は、一般的な知識として、Al元素を含まないMg-Zn-Zr合金には十分な強度と伸びを引き出すためにZrによる結晶粒微細化が必須であり、0.6%以上のZr添加を必要すると記している。
また、ジルコニウムの結晶粒微細化を阻害する元素としてアルミニウムがあることや、アルミニウムを含まない合金系においてジルコニウムを微量添加すると結晶粒の微細化が可能となること、Zr添加による結晶粒微細化効果はAl、Mnを含む合金系では見られないことなどが記され、一般的な常識となっている。
【0017】
本発明者達は、マグネシウム合金の成形性を向上すべく鋭意研究し、実験を重ねた結果、前述の通り、Alを含むマグネシウム合金においても、MnとZrの同時添加による結晶粒微細化効果が得られ、特に、板圧延後の加熱における結晶粒の粗大化防止に効果のあることを見出した。
すなわち、急速冷却可能なマグネシュム合金溶製装置(特開2004-181475号公報による方法を実施する装置)を用いて、最適な条件でZrを所定量含み、同時に100nm以下の微細なAl-Mn系の金属間化合物を合金中に分散させることに成功したのである。この合金による圧延材では、図1の結晶写真図に見られるように、100nm以下の熱的に安定な微細粒子、例えばAlMn、AlZr、AlMn等がピン止め効果となり、従来に例のない結晶粒成長の抑制が得られる。その為、この圧延材は、図2の線図に示すように、圧延時における加熱、例えば260℃で10分間の焼鈍を経過した場合でも、4~6μm程度の微細な平均結晶粒子径となる。
この結果から分かるのは、Alを含むMg合金とりわけ展伸用Mg合金によってつくられる圧延薄板の結晶粒の微細化には、Zrだけではなく、MnとZrの同時添加による相乗効果で微細なAl-Mn系の金属間化合物の生成と分散が必要であるということである。
【0018】
本発明はこの新規な知見に基づいており、本発明による展伸用マグネシウム合金は、市販のAZ31B合金鋳造時にZrを0.1~0.6質量%添加することによって得ることができる。
また、本発明によるプレス成形用板材を製造する方法は、上記マグネシウム合金の薄板圧延中の加工度および加工後の熱処理条件を限定することにより、板圧延後の焼きなまし処理あるいは温間成形プレスによる加熱によっても、結晶粒子が粗大化せず、微細な結晶粒組織を有し、プレス成形性に優れたマグネシウム合金薄板を製造することを可能にする。
【0019】
一般に、マグネシウム合金薄板は、常温でプレス成形すると割れてしまうため、200~300℃に加熱した状態でプレス成形を行っている。この温度は、マグネシウムの再結晶温度以上であるため、従来のマグネシウム合金では、たとえ板圧延後に微細な結晶組織となっていても、加熱によって結晶粒が粗大化してしまい、プレス成形性を阻害していると考えられる。
【0020】
これに対して、本発明のマグネシウム合金では、ジルコニウムとマンガンの同時添加による相乗効果により、100nm以下のA1-Mn系化合物が均一に分散し、このピン止め効果により、プレス成形時の加熱による結晶粒粗大化が抑制される。そのため、図3の線図に示すように、従来のAZ31B合金にくらべて高いプレス成形件が得られる。
また、板圧延後、圧延中に生じた加工ひずみを低減しプレス成形性を高める目的で、焼きなまし処理を行うことがあるが、この場合でも、本発明のマグネシウム合金では、Zr添加によって、図4に示すように焼きなまし処理中の結晶粒粗大化が防止され、プレス成形性の向上が阻害されない。
【0021】
本発明者達は、マグネシウム合金を板形状に圧延したままの状態では、板内部に、せん断帯と呼ばれる微細粒と双晶が混在した部分が、板厚方向に対して約45°の角度で帯状に存在し、これがプレス成形性を阻害していることを見出した。
このせん断帯は、圧延加工による双晶変形により生じた微細結晶粒の集まりである。板内部のせん断帯以外の部分は、より粗い結晶粒組織となっていて、この結晶粒の不均一がプレス成形性を劣化させるのである。
【0022】
上述の焼きなまし処理をすれば、このせん断帯を消滅させで結晶粒径を均一化し、プレス成形性を向上させることができるが、このとき、Zr無添加の合金では、同時に結晶粒が粗大化してしまい、プレス成形性を劣化させてしまう。
本発明によりZrを添加したAZ31合金では、焼きなまし処理により結晶粒を成長させないまません断帯を消滅させることが可能となる。そのため、微細で均一な結晶粒組織を得ることができ、プレス成形性にすぐれたマグネシウム合金薄板を製造することができる。
【0023】
また、本発明によるプレス成形用板材を製造する方法は、圧延の条件を、1パス-1ヒートの温間圧延で、加熱温度を250℃以上320℃以下の範囲、1回の加熱当たり圧下率を10%以上30%以下に限定することによって、平均結晶粒径10nm以下のマグネシウム合金薄板を製造することが可能である。
本発明の方法は、Zrを添加したAZ31マグネシウム合金と、上記圧延条件とを組み合わせることにより、表1に見られるように、従来の技術に比べて一層プレス成形性にすぐれたマグネシウム合金薄板を提供することができる。表1は、本発明によるマグネシウム合金がひずみ速度10-1~10-1でも良好な伸びを有することを示している。
【0024】
【表1】
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【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の展伸用マグネシウム合金における化合物粒子を示す写真図である。
【図2】本発明のプレス成形用マグネシウム合金板材における焼きなまし処理と結晶粒径の関係を、従来のマグネシウム合金板材と比較して示した線図である。
【図3】本発明のプレス成形用マグネシウム合金板材におけるひずみ速度と伸びの関係を、従来のマグネシウム合金板材と比較して示した線図である。
【図4】本発明のプレス成形用マグネシウム合金板材における焼きなまし温度と結晶粒径の関係を、従来のマグネシウム合金板材と比較して示した線図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3