TOP > 国内特許検索 > アロディニアの惹起方法および評価方法 > 明細書

明細書 :アロディニアの惹起方法および評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2008-073001 (P2008-073001A)
公開日 平成20年4月3日(2008.4.3)
発明の名称または考案の名称 アロディニアの惹起方法および評価方法
国際特許分類 A01K  67/00        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/00 Z
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 2
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2006-258159 (P2006-258159)
出願日 平成18年9月25日(2006.9.25)
発明者または考案者 【氏名】倉石 泰
【氏名】佐々木 淳
出願人 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA29
2G045AA40
2G045CB17
2G045FA18
2G045JA01
要約 【課題】
本発明は、臨床により即した帯状疱疹関連疼痛を動物で評価する方法を確立することである。
【解決手段】
げっ歯類の特定部位にヘルペスウイルスを感染させて帯状疱疹を生じさせる工程と、生じた帯状疱疹部位を絵画用筆で撫でる工程によりアロデェニアを惹起させることができる。該方法により、臨床により即した帯状疱疹関連疼痛をげっ歯類で再現することができる。従って、本発明方法を利用する化合物の評価方法は、帯状疱疹関連疼痛の予防薬・治療薬を開発するためのツールとして有用である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
げっ歯類の後肢足蹠を含む皮膚節の中央部にヘルペスウイルスを感染させて帯状疱疹を生じさせる工程と、後肢足蹠に生じた帯状疱疹部位を絵画用筆で撫でる工程からなるアロディニアを惹起させる方法。
【請求項2】
後肢足蹠を含む皮膚節の中央部にヘルペスウイルスを感染させて帯状疱疹を生じさせる工程と、後肢足蹠に生じた帯状疱疹部位を絵画用筆で撫でる工程によりアロディニアが惹起されたげっ歯類を用いることを特徴とする帯状疱疹関連疼痛の治療薬または予防薬の評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
動物モデルにおける新規な動的アロディニアの惹起方法および当該方法を用いる帯状疱疹痛・帯状疱疹後神経痛の治療薬・予防薬の新規な評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
帯状疱疹は、ヒトの小児期に感染した水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus)が再活性化して発症した有痛性の疾患であり、帯状疱疹の発症に先行、あるいはその発症と同時に、アロディニア(allodynia:異痛症)を含む疼痛(以下、帯状疱疹痛と称する)。一部の症例では、皮膚症状が治癒した後も痛覚過敏、痛覚異常およびアロディニア反応が長期にわたって残存することがあり、このような症状は帯状疱疹後神経痛と呼ばれている。
アロディニアは、衣服の着脱など通常なんでもない刺激で耐えがたい痛みを生じるため,社会活動が阻害され,鬱状態に陥りQOL(quality of life)が著しく低下する。
帯状疱疹患者では、帯状疱疹周辺部にもアロディニアを生じることがあるが、ほとんどは帯状疱疹部で強い疼痛を訴える(非特許文献1)。
一方、von Frey繊維などにより誘発される静的アロディニアと綿花などで皮膚をこすることで誘発される動的アロディニアに関して神経損傷ラットを用いた実験の報告がある(非特許文献1)。また、ヘルペスウイルスをマウスに感染させて皮疹を生じさせ、ついで生じた皮疹を消失させたマウスについてvon Frey繊維を用いる試験法でアロディニアを発現した個体を選択する方法が知られている。該方法で選択されたマウスは帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛などの帯状疱疹関連疼痛の動物として有用であることが知られている(非特許文献3)。

【非特許文献2】Clinical Journal of Pain 15: 78-84, 1999
【非特許文献1】Pain 80: 391-398, 1999
【非特許文献3】Pain 86: 95-101, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の帯状疱疹関連疼痛の動物モデルは、von Frey繊維を用いて帯状疱疹周辺部のアロディニアを評価することができる。しかし、帯状疱疹患者では帯状疱疹部で強い疼痛が生じることから、帯状疱疹部のアロディニアを評価する実験系が必要である。すなわち、本発明の目的は、臨床により即した帯状疱疹関連疼痛を動物で再現する方法を確立し、帯状疱疹関連疼痛の予防・治療に用いられる化合物をスクリーニングする方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、ヘルペスウイルスをマウスの特定の部位に感染させ、生じた帯状疱疹部位を絵画用筆で撫でる刺激により動的アロディニアが顕著に発現することを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明を詳細に説明する。
【0005】
本発明は、げっ歯類の後肢足蹠を含む皮膚節の中央部にヘルペスウイルスを感染させて皮疹を生じさせる工程と、後肢足蹠に生じた皮疹を絵画用筆で撫でる工程からなる帯状疱疹関連痛を惹起させる方法を提供する。また、本発明は、後肢足蹠を含む皮膚節の中央部にヘルペスウイルスを感染させて皮疹を生じさせる工程と、後肢足蹠に生じた皮疹を絵画用筆で撫でる工程により帯状疱疹関連痛が惹起されたげっ歯類を用いることを特徴とする帯状疱疹関連痛の治療薬または予防薬の評価方法を提供する。
【0006】
本発明の方法の第1工程では、げっ歯類にヘルペスウイルスを感染させて皮疹を生じさせる。ここで用いられるげっ歯類としては、特に限定されず、マウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどが挙げられる、好ましくはマウスである。
【0007】
げっ歯類に感染させるウイルスとしては、ヘルペスウイルス科に属するウイルスを用いることができる。特に単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(Herpes simplexvirustype 2、HSV-2)、帯状疱疹ウイルス(VZV)を用いることが好ましい。
【0008】
本発明において、ウイルス感染方法は、脱毛、創傷したげっ歯類の後肢足蹠を含む皮膚節の中央部にウイルスを滴下して感染させる方法である。滴下するウイルス量としては、1×10~1×10PFUを用いることが好ましく、さらに好ましくは、1×10から1×10PFUである。
【0009】
ウイルスの感染により、後肢足蹠に皮疹が生じる。皮疹は、通常、ウイルス感染後5日~7日程度で生じる。
【0010】
上記、後肢足蹠に生じた帯状疱疹部位を絵画用筆で撫でる刺激により動的アロディニアが顕著に発現する。ここで用いる絵画用筆は、毛の長さが1~3センチ、幅が1~5ミリであれば、ナイロン毛などの人工繊維;セーブル毛、豚毛など獣毛のいずれも使用できる。好ましいものとして、例えば、ナイロン毛で、毛の長さは約2センチ、幅は約2ミリのものが挙げられる。
【0011】
本発明の方法を用いて帯状疱疹関連痛に対する化合物(合成物、天然物またはその抽出物等)の鎮痛効果の測定および帯状疱疹関連痛を予防または治療するための医薬品の評価を行うことができる。具体的には、化合物を経口、皮下、静脈内、局所などに投与あるいは塗布した後、本発明の方法に使用されるげっ歯類において痛み反応に対する化合物の影響を判定することで評価を実施することができる。化合物の投与や塗布は単回的でも慢性的でもよい。評価において痛み反応を軽減した化合物は帯状疱疹関連痛の予防または治療薬の候補とすることができる。
【0012】
評価により得られた帯状疱疹に伴う痛みの予防または治療に有効な化合物を薬剤として使用する場合、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容されうる担体、賦形剤などと混合した医薬組成物として使用に供される。投与は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤などの経口投与、注射剤、シロップ剤、軟膏剤、坐剤などの非経口投与のいずれであっても良い。投与量は、投与対象、投与ルート、症状などによって異なるが、1日0.001mg~5g程度、好ましくは0.01mg~2g程度であり、これを1日1~数回に分けて投与することができる。
【発明の効果】
【0013】
これまでは帯状疱疹部でのアロディニアを動物で評価する方法はなかった。本発明方法により、ヒト帯状疱疹痛、帯状疱疹後神経痛に対する有効な医薬品の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施例1
[HSV-1接種部位と皮膚病変部位の対応]
マウス(日本SLC、C57BL/6j系、雌性、体重15-20 g)にペントバルビタール麻酔(60 mg/kg, 腹腔内投与)を施し、右側の後肢、腰部をバリカンと除毛クリーム(エピラット除毛ミルキークリーム、カネボウ)を用いて除毛処置を行った。ウイルスは、右後肢足蹠全体(マウスA)、右後肢足蹠を含む皮膚節の中央部表皮5 mm×5 mmの範囲(マウスB)、右後肢関節下部(マウスC)に経皮接種した。角質層を10本に束ねた27G皮内針で乱切し、1×106 pfuのHSV-1(7401H株)を滴下、塗布することによりHSV-1接種を行った。図1に接種後7-8日目の皮膚病変の写真を示した。マウスBは、マウスAと同じ皮膚節に疱疹が観察され、マウスCではマウスAおよびマウスBで疱疹が観察された皮膚節の隣の皮膚節で疱疹が観察された。
アロディニアは後肢足蹠で測定する。よって、マウスBを用いることにより、帯状疱疹部位でのアロディニアを;マウスCを用いることにより、帯状疱疹周辺部位でのアロディニアを評価できる。なお、マウスCは、von Frey繊維に対するアロディニアが発症するマウスであり、既に報告されている。以後、マウスBを用いて、帯状疱疹部でアロディニアを評価した。
【0015】
実施例2
[皮膚病変の進展]
皮膚病変のスコア化は報告されている方法(Takasaki et al., Pain 86: 95-101, 2000)で行った。皮膚病変発現のタイムコースは図2に示した。皮膚病変はHSV-1接種後5日目から出現し、7~8日目で病変スコアは最大となった。その後、皮膚病変は治癒に向かい、接種後20日目には全例の皮膚病変が完全に治癒した。
【0016】
実施例3
[帯状疱疹マウスの静的アロディニアおよび動的アロディニア]
(1)静的アロディニアの測定
マウスを測定ケージに入れ、30分以上測定環境に慣れさせた後、後肢足蹠に1.6 mNのvon Frey繊維を軽く曲がる程度適用し、その時の反応性を次のようにスコア化した。
スコア0;反応なし
スコア1;後肢の引き上げ行動
スコア2;後肢の振り行動または舐め行動。
6回の測定結果の平均値を測定値とした。
(2)動的アロディニアの測定
マウスを30分以上測定環境に慣れさせた後、後肢足蹠をペイントブラシで軽く撫で、そのときの反応性を以下のようにスコア化した。
スコア0;反応なし、軽度の後肢の引き上げ行動
スコア1;すばやく明確な後肢の引き上げ行動
スコア2;後肢の振り行動あるいは舐め行動、持続的な後肢の引き上げ行動、これら行動の反復。
スコア0には、通常のマウスでも観察される軽度の後肢の引き上げ行動を含め、通常は観察されない行動をさらに1、2と2段階にスコア化した。結果は図3に示した。
(3)結果
帯状疱疹部では静的アロディニアはほとんど発現しなかったが、動的アロディニアは顕著に発現した。帯状疱疹患者の多くは疱疹の出現前から疼痛を訴える(Haanpaa et al., Clinical Journal of Pain 15: 78-84, 1999)。マウスにおいても動的アロディニアは皮膚病変の出現前から発現したことから、本実験のマウスにおけるアロディニアは、ヒトのアロディニアと特徴が類似していることが示された。
【0017】
実施例4
[帯状疱疹マウスの動的アロディニアに対する薬物効果]
ペイントブラシ刺激に対する動的アロディニアに対して、薬物の効果を評価した。
薬物には、カルバマゼピン(carbamazepine)、メキシレチン(mexiletine)、ギャバペンチン(gabapentine)、ケタミン(ketamine、KET)、ジクロフェナク(diclofenac、DIC)を用いた。溶媒にはいずれも0.5%カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose)を使用し、カルバマゼピン (40 mg/kg)、メキシレチン (30 mg/kg)、ギャバペンチン (10, 30 mg/kg)は経口投与、ケタミン(25, 50 mg/kg)、ジクロフェナク (25, 50 mg/kg)は腹腔内投与した。薬物評価は接種後8日目に行った。その結果、ギャバペンチンは10 mg/kgで40%抑制, 30 mg/kgで85%抑制と、いずれも動的アロディニアを有意にしかも強力に抑制したが、その他の薬物は無効であった。
【0018】
実施例5
[帯状疱疹後の静的アロディニアおよび動的アロディニアの発現]
ウイルス接種後21、35日目の帯状疱疹後マウスでは、静的アロディニアおよび動的アロディニアの両方が発現した。また、動的アロディニアは顕著に発現したが、静的アロディニアの発現程度は弱かった。ヒトでは帯状疱疹の治癒後も長期に渡って神経痛を残すことがある(Kost and Straus, The New England Journal of Medicine 335: 32, 1996)。本実験のマウスでの帯状疱疹後のアロディニアは、ヒトの帯状疱疹後神経痛に相当すると考えられる。
【0019】
実施例6
[帯状疱疹後マウスの静的アロディニアおよび動的アロディニアに対する薬物効果]
帯状疱疹後マウスの静的アロディニアと動的アロディニアに対して、薬物の効果を評価した。
薬物には、カルバマゼピン(carbamazepine)、メキシレチン(mexiletine)、ギャバペンチン(gabapentine)、ケタミン(ketamine)、ジクロフェナク(diclofenac)を用いた。溶媒にはいずれも0.5%カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose)を使用し、カルバマゼピン (40 mg/kg)、メキシレチン (30 mg/kg)、ギャバペンチン (30 mg/kg)は経口投与、ケタミン (50 mg/kg)、ジクロフェナク (50 mg/kg)は腹腔内投与した。
薬物評価は皮膚病変治癒後の接種後30日目以降に行った。その結果、静的アロディニアはメキシレチン、ギャバペンチン、ケタミンに感受性であったが、動的アロディニアはギャバペンチンのみ感受性であった。
また、ギャバペンチンは静的アロディニアをほぼ完全に抑制し、動的アロディニアも60%程度抑制した。しかし、カルバマゼピン、ジクロフェナクは無効であり、メキシレチン、ケタミンも静的アロディニアのみ50%程度抑制がみられた程度であった。
【0020】
神経因性疼痛には、カルバマゼピンやギャバペンチンといった抗痙攣薬、NMDA受容体遮断作用のあるケタミンやデキストロメトルファン、リドカインやメキシレチンといった抗不整脈などが疼痛軽減の目的で使用される。しかし、これら薬物の効果は神経因性疼痛の種類によっては異なることや、有効性自体がはっきりしていないものも多くある。ギャバペンチンは帯状疱疹後神経痛への有効性が多く報告されているが、カルバマゼピンは帯状疱疹後神経痛にはほとんど効果がない(Kost and Straus, The New England Journal of Medicine 335: 32, 1996, Douglas et al., Drug Safty 27: 1217, 2004)。また、メキシレチン、ケタミンは、一部有効であるという報告があるが、帯状疱疹後神経痛への有効性を明確に示した報告はなく(Douglas et al., Drug Safty 27: 1217, 2004)、ジクロフェナクのような非ステロイド性抗炎症薬はほとんど効果がないと考えられている(Kost and Straus, The New England Journal of Medicine 335: 32, 1996)。帯状疱疹後マウスのアロディニアでも同様の結果が得られたことから、帯状疱疹後マウスのアロディニアが薬理学的特徴もヒトの帯状疱疹後神経痛と類似していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の動的アロデェニアの惹起方法により、臨床により即した帯状疱疹関連疼痛を動物で再現することができる。従って、本発明方法を利用する化合物の評価方法は、帯状疱疹関連疼痛の予防薬・治療薬を開発するためのツールとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】HSV-1接種部位と皮膚病変部位の対応
【図2】皮膚病変の進展
【図3】帯状疱疹マウスの静的・動的アロディニア
【図4】帯状疱疹後の静的・動的アロディニア
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図1】
3