TOP > 国内特許検索 > 酸化アルミニウム蛍光体の製造方法 > 明細書

明細書 :酸化アルミニウム蛍光体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5739203号 (P5739203)
公開番号 特開2012-201714 (P2012-201714A)
登録日 平成27年5月1日(2015.5.1)
発行日 平成27年6月24日(2015.6.24)
公開日 平成24年10月22日(2012.10.22)
発明の名称または考案の名称 酸化アルミニウム蛍光体の製造方法
国際特許分類 C09K  11/64        (2006.01)
C09K  11/08        (2006.01)
FI C09K 11/64 CPB
C09K 11/08 B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2011-065187 (P2011-065187)
出願日 平成23年3月24日(2011.3.24)
審査請求日 平成26年3月13日(2014.3.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
発明者または考案者 【氏名】単 躍進
【氏名】川畑 綾也
【氏名】高橋 佳那子
【氏名】手塚 慶太郎
【氏名】井本 英夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査官 【審査官】内藤 康彰
参考文献・文献 国際公開第2010/114002(WO,A1)
特開2010-047742(JP,A)
国際公開第2010/079779(WO,A1)
特開平11-322308(JP,A)
特開2004-244581(JP,A)
特開2005-132861(JP,A)
調査した分野 C09K11/00-11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルミニウム塩、水及びジエチレングリコールを混合した原料溶液を準備する工程と、
前記原料溶液を濃縮処理して該原料溶液中の水を除去し、高粘性溶液を得る工程と、
前記高粘性溶液を加熱処理して前記水溶性溶剤を除去し、非晶質の仮焼粉末を得る工程と、
前記仮焼粉末を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で加熱処理し、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得る工程と、を含むことを特徴とする酸化アルミニウム蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼工程での加熱処理温度を300℃~400℃とし、前記焼成工程での加熱処理温度を650℃~750℃とする、請求項に記載の酸化アルミニウム蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム蛍光体のスピン密度が1×1012/cm~1×1014/cmの範囲内である、請求項1又は2に記載の酸化アルミニウム蛍光体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウム蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、一般に絶縁性の母体材料に希土類元素やガリウム等の希少元素を発光メカニズムの中心として添加してなる発光材料であり、照明デバイス、ディスプレイデバイス又は発光ダイオード(LED)等の広い分野で利用されている。
【0003】
蛍光体のなかでも酸化アルミニウム蛍光体(アルミナ蛍光体ともいう。)は、蛍光灯に使用されるBaMgAl1627:Eu2+や、蓄光蛍光体としてのSrAl1425:Dy3+、Eu2+等として知られている。これらの酸化アルミニウム蛍光体は、酸化アルミニウム塩からなる蛍光体又は酸化アルミニウムを含む蛍光体であり、希土類元素等の添加によって安定で効率的な蛍光を示す。これまで絶縁性が高く、化学的に安定な酸化アルミニウム蛍光体がいくつか報告されている。
【0004】
非特許文献1~3には、ゾルゲル法を使用した酸化アルミニウム蛍光体の調製方法が提案されている。具体的には、非特許文献1では、硝酸アルミニウム水溶液に重合剤とキレート剤を添加し、空気中で500℃~900℃に加熱して酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。非特許文献2では、塩化アルミニウム及び酢酸からなる透明ゲル膜を、空気中で300℃~700℃に加熱して酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。非特許文献3では、Sec-Al(OCを空気雰囲気下、700℃で加熱して酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。
【0005】
非特許文献4には、気相法を使用した酸化アルミニウム蛍光体の調製方法が提案されている。具体的には、高周波の電磁波を用い、金属アルミニウムを加熱、溶融し、発生した金属蒸気を酸化して酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。非特許文献5には、レーザー法を使用した酸化アルミニウム蛍光体の調製方法が提案されている。具体的には、金属アルミニウムをレーザー溶融してなる金属アルミニウムのコロイド溶液を、空気中での酸化によって酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。非特許文献6には、ヨウ素を触媒にしてアルミニウム箔と無水イソプロピルアルコールとを反応させ、得られたアルミニウムイソプロポキサイドを減圧下で蒸留し、その後、空気中で800℃に加熱して酸化アルミニウム蛍光体を調製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Cuikun Lin, et.al., Inorg.Chem., 47, 49-55(2008).
【非特許文献2】Y.Kurokawa,, Journal of Materials Science Letters, 17, 275-278(1998).
【非特許文献3】Bulent E.Yoldas, Journal of Non-Crystalline Solids, 147&148, 614-620(1992).
【非特許文献4】V.S.Kortov, A.F.Zatsepi, M.A.Uimin, Physics of the Solid State, Vol.50, No.5, 957-961(2008).
【非特許文献5】Bhupesh Kumar, et.al., Phys.Status Solidi C7, No.5, 1409-1412(2010).
【非特許文献6】Z-Q.Yu, et.al., J.Mater.Res., Vol.16, No.7, 1890-1893(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来提案されている酸化アルミニウム蛍光体の調製方法では、高価な希土類元素等を用いたり、気相法やレーザー法を用いたりするので、調製プロセスが複雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。また、従来の酸化アルミニウム蛍光体は、発光強度が低く、再現性が乏しいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、安価な原料を用いることができ、簡単な製造プロセスで製造でき、発光強度が高く再現性のよい酸化アルミニウム蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を添加しない酸化アルミニウム蛍光体を作製するための研究を行っている。そして、焼成温度や焼成雰囲気等の条件を変化させて発光メカニズムについて検討してきた。その過程で、発光強度が高く且つ再現性のよい酸化アルミニウム蛍光体の製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法は、アルミニウム塩、水及び水溶性溶剤を混合した原料溶液を準備する工程(原料溶液準備工程)と、前記原料溶液を濃縮処理して該原料溶液中の水を除去し、高粘性溶液を得る工程(濃縮工程)と、前記高粘性溶液を加熱処理して前記水溶性溶剤を除去し、非晶質の仮焼粉末を得る工程(仮焼工程)と、前記仮焼粉末を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で加熱処理し、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得る工程(焼成工程)と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、準備した原料溶液から、濃縮工程、仮焼工程及び焼成工程を順次経て酸化アルミニウム蛍光体を製造するので、簡単な製造プロセスで大型設備も不要となることから、生産性に優れたものとなり、製造コストを低減できる。また、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としないので、安価な蛍光体を製造できるとともに、蛍光と燐光を示す蛍光体を製造できる。また、水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、仮焼粉末を非晶質とすると考えられる。さらに焼成工程により、非晶質の仮焼粉末を非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末としたので、発光強度の高い酸化アルミニウム蛍光体を製造できる。
【0012】
本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法において、前記仮焼工程での加熱処理温度を300℃~400℃とし、前記焼成工程での加熱処理温度を650℃~750℃とすることが好ましい。
【0013】
この発明によれば、仮焼工程での加熱処理温度を300℃~400℃としたので、水溶性溶剤を除去するとともに、その水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、仮焼粉末を非晶質とすることができる。また、焼成工程での加熱処理温度を結晶化温度未満の650℃~750℃としたので、非晶質の仮焼粉末を結晶化させることなく、非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末を製造できる。また、比較的低温で加熱処理するので、大型の加熱処理設備を必要としない。その結果、製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体において、前記酸化アルミニウム蛍光体のスピン密度が1×1012/cm~1×1014/cmの範囲内であることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、酸化アルミニウム蛍光体のスピン密度が1×1012/cm~1×1014/cmの範囲内で、高い発光強度の酸化アルミニウム蛍光体を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法によれば、簡単な製造プロセスで大型設備も不要となることから、生産性に優れたものとなり、製造コストを低減できる。また、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としないので、安価な蛍光体を製造できるとともに、蛍光と燐光を示す蛍光体を製造できる。また、水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害でき、さらに焼成工程により、非晶質の仮焼粉末を非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末としたので、発光強度の高い酸化アルミニウム蛍光体を製造できる。
【0017】
こうして得られた酸化アルミニウム蛍光体は、発光強度が高く、再現性がよく、蛍光と燐光を示すので、蛍光灯やプラズマディスプレイ等のディスプレイ用の蛍光材料として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体にブラックライト(254nm)を照射したときの写真である。
【図2】発光試料のX線回折パターン(A)と非発光試料のX線回折パターン(B)である。
【図3】焼成雰囲気を変化させて焼成して得られた試料について、励起スペクトルの測定結果(A)と、励起波長280nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果(B)である。
【図4】大気雰囲気中で異なる焼成温度で焼成して得られた試料について、励起波長280nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果である。
【図5】大気雰囲気中で得られた発光試料のTG-DTA測定結果である。
【図6】発光試料とZnSiO:Mnの蛍光スペクトルの比較結果(A)と、発光試料とCaWOの蛍光スペクトルの比較結果(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体について詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。

【0020】
本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法は、アルミニウム塩、水及び水溶性溶剤(水溶性の有機系溶媒のこと)を混合した原料溶液を準備する工程(原料溶液準備工程)と、前記原料溶液を濃縮処理して該原料溶液中の水を除去し、高粘性溶液を得る工程(濃縮工程)と、前記高粘性溶液を加熱処理して前記水溶性溶剤を除去し、非晶質の仮焼粉末を得る工程(仮焼工程)と、前記仮焼粉末を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で加熱処理し、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得る工程(焼成工程)と、を含む。以下、各工程について順に説明する。

【0021】
(原料溶液準備工程)
原料溶液準備工程は、アルミニウム塩、水及び水溶性溶剤を混合した原料溶液を準備する工程である。アルミニウム塩は、酸化アルミニウム蛍光体のアルミニウム源として供給されるものであり、例えば、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩酸アルミニウム等の種々のアルミニウム塩を挙げることができる。アルミニウム塩は、水溶性のものが好ましく、通常は水和物として入手できる。

【0022】
具体的には、例えば後述の実験例で示すように、硝酸アルミニウム等が好ましく用いられる。硝酸アルミニウムを用いる場合は、硝酸アルミニウムを0.1mol/L~2.8mol/Lの範囲で水と水溶性溶剤を混合した硝酸アルミニウム水溶液が用いられる。なお、硝酸アルミニウムとしては、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸アルミニウム六水和物、硝酸アルミニウム八水和物又は硝酸アルミニウム無水塩等を用いることができる。

【0023】
水溶性溶剤は、後述する濃縮工程で得られる高粘性溶液の構成溶媒として作用するとともに、仮焼工程で非晶質の仮焼粉末を得るための構成溶媒として作用する。こうした作用を奏する水溶性溶剤であれば各種の水溶性溶剤を適用できるが、例えば、多価アルコール、単糖、二糖等を挙げることができ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、トリメチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも一種又は二種以上を用いることができる。これら材料のうち、水溶性溶剤としてジエチレングリコールは、仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を有効に阻害することができ、仮焼粉末を非晶質粉末とすることができる点で好ましい。

【0024】
水溶性溶剤の沸点又は分解温度は、水の沸点よりも高いものを用いることが好ましい。これは、後述するように、濃縮工程で水が除去されるためである。これを上記の水溶性溶剤を例にとって説明すれば、1気圧下で、水の沸点は100℃であり、エチレングリコール(C2)は197.6℃であり、ジエチレングリコール(C4)は244.3℃であり、プロピレングリコール(C3)は188.2℃であり、1,2-ブチレングリコール(C4)は192℃~194℃であり、2,3-ブチレングリコール(C3)は177℃であり、トリメチレングリコール(C3)は210℃~211℃であり、グリセリン(C3)は290℃であり、エリスリトール(C4)は330℃であり、キシリトール(C5)は216℃であり、ソルビトール(C6)は296℃である。すなわち、好ましいとされる水溶性溶剤はいずれも水よりも高い沸点を有している。

【0025】
水溶性溶剤は、アルミニウム塩と配位結合する物質であることが好ましい。すなわち、ここでいう水溶性溶剤は、アルミニウム塩を主に溶解する水よりも高い沸点を持つとともに、アルミニウム塩に配位することができる水溶性の溶剤であるということができる。こうした特性を有する水溶性溶剤であれば、上記のエチレングリコールやプロピレングリコール等と同種の有機化合物や他の有機化合物であってもよいが、本発明では、後述する実験例で示すようにジエチレングリコールを用いることが好ましい。

【0026】
原料溶液は、アルミニウム塩と水とでアルミニウム塩水溶液とした後に水溶性溶剤を混合して調製してもよいし、アルミニウム塩と水溶性溶剤とでアルミニウム塩溶液とした後に水を混合して調製してもよい。

【0027】
原料溶液中のアルミニウム濃度と水溶性溶剤との混合比は、アルミニウム塩の水への溶解度、後述する濃縮工程での加熱処理温度、減圧条件及び処理時間、及び、後述する仮焼工程での処理雰囲気、加熱処理温度及び処理時間、得られた蛍光体の蛍光特性等を考慮して適宜決定される。例えばジエチレングリコール等の水溶性溶剤を用いた場合、水溶性溶剤のモル数は、原料溶液中のアルミニウムイオン(Al3+)のモル数の2倍~8倍のモル数であることが好ましい。この範囲のモル数となるようにアルミニウム塩と水溶性溶剤とを混合することにより、水溶性溶剤を高粘性溶液の構成溶媒として及び非晶質の仮焼粉末を得るための構成溶媒として作用させることができる。アルミニウムイオンのモル数に対する水溶性溶剤のモル数が2倍未満では、ジエチレングリコール等の水溶性溶剤の量が少なく、前記した作用を奏することができない。一方、アルミニウムイオンのモル数に対する水溶性溶剤のモル数が8倍を超えると、ジエチレングリコール等の水溶性溶剤の量が多くなりすぎ、前記した作用を奏することができない。

【0028】
(濃縮工程)
濃縮工程は、原料溶液準備工程で得られた原料溶液を濃縮処理してその原料溶液中の水を除去し、高粘性溶液を得る工程である。濃縮処理としては、加熱濃縮又は加熱減圧濃縮のいずれを用いてもよい。加熱濃縮は、30℃~100℃の処理温度と、水を除去できるまでの処理時間とで処理する。一方、加熱減圧濃縮は、処理温度を下げることができ且つ処理時間も短くすることができるので好ましい。ここでは、50℃~95℃の処理温度と、10kPa~0.1kPaの減圧条件と、水を除去できるまでの処理時間とで処理する。これらの条件で処理することにより、原料溶液中の水を除去できる。

【0029】
「水を除去する」とは、原料溶液中の水を除去することをいうが、完全に除去できなくても、その後の工程や得られる酸化アルミニウム蛍光体の発光特性を阻害しない程度であれば、原料溶液中に僅かに水分が残留していてもよい。水分の残留割合としては、得られた高粘性溶液に対して約20質量%以下であればよい。

【0030】
濃縮工程の処理雰囲気は特に限定されないが、大気雰囲気、窒素雰囲気又はアルゴン等の不活性雰囲気のいずれであってもよい。通常は、大気雰囲気が好ましい。

【0031】
得られた高粘性溶液はゲル状溶液であり、その粘度としては、1.5Pa・s~6.5Pa・sの範囲内であることが好ましい。このときの高粘性溶媒は、原料溶液を構成する水溶性溶剤であり、この範囲の粘度とするには、上記のように、例えばジエチレングリコールのモル数を硝酸アルミニウム水溶液中のアルミニウムイオン(Al3+)の2倍~8倍のモル数とすることで実現できる。

【0032】
(仮焼工程)
仮焼工程は、高粘性溶液を加熱処理してその高粘性溶液中の水溶性溶剤を除去し、非晶質の仮焼粉末を得る工程である。加熱処理は、高粘性溶液中の水溶性溶剤を除去するとともに、その水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、仮焼粉末を非晶質とするための処理である。その条件は、水溶性溶剤の種類によって異なるが、例えば水溶性溶剤として沸点が約244℃のジエチレングリコールを用いた場合、300℃~400℃の加熱処理温度でジエチレングリコールを高粘性溶液中から除去できる。また、それ以外の水溶性溶剤の場合も、用いた水溶性溶剤の沸点よりも50℃~150℃程度高い加熱処理温度で処理することにより、高粘性溶液中から水溶性溶剤を除去できる。

【0033】
加熱雰囲気は特に限定されないが、大気雰囲気、窒素雰囲気、又はアルゴン等の不活性雰囲気のいずれであってもよい。大気雰囲気は、低コスト化の観点から好ましい。加熱処理時間としては、加熱処理温度によっても異なるが、処理効率を考慮すれば、0.5時間~4時間程度であることが好ましい。また、減圧処理は加熱処理温度を下げ且つ水溶性溶剤の揮発速度を高めることができるので、必要に応じて採用できる。減圧処理する場合の条件は、10kPa~0.1kPaとすることができる。

【0034】
「水溶性溶剤を除去する」とは、高粘性溶液中の水溶性溶剤を除去することをいう。しかし、得られる仮焼粉末は表面積が大きく、OH基や炭素原子等が粉末表面に残留しやすい。得られた仮焼粉末を元素分析装置(パーキンエルマージャパン社製、2400II型全自動元素分析装置)で測定した結果、炭素原子、水素原子等が確認された。水溶性溶剤に由来する元素(C,O,H)の残留は、酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、非晶質の仮焼粉末(酸化アルミニウム粉末)を得るのに作用していると考えられる。

【0035】
(焼成工程)
焼成工程は、仮焼粉末を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で加熱処理し、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得る工程である。本発明は、仮焼粉末の焼成を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で、且つ非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得ることができる条件で焼成することに特徴がある。そうした条件としては、処理温度が650℃~750℃の範囲内であることが好ましい。その温度範囲内で、発光強度が高い酸化アルミニウム蛍光体粉末を得ることができる。

【0036】
大気雰囲気としては、1atom(約1×10Pa)の圧力(大気圧)下で、酸素を約21容量%程度含む空気の雰囲気であればよい。また、酸素雰囲気としては、酸素ガスのみであってもよいが、例えば不活性ガスを含む酸素雰囲気であればよい。なお、酸素雰囲気では、圧力は特に限定されないが、大気圧とあまり変わらない圧力であることが、設備コストの観点から好ましい。

【0037】
処理温度を650℃~750℃の範囲内とすることにより、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得ることができる。この温度範囲は、従来の非特許文献での焼成温度と比較しても、比較的低温であり、大型の加熱処理設備を必要とせず、製造コストを低減することができる。800℃以上の処理温度で焼成を行った場合は、非晶質の仮焼粉末が結晶化して、発光しないγ体の酸化アルミニウム蛍光体粉末になる。一方、650℃未満の処理温度で焼成した場合は、十分に高い発光強度を得ることができないことがある。

【0038】
大気雰囲気下で安定した発光強度を得るための好ましい温度範囲は700℃~750℃であり、一方、酸素(約100%)雰囲気下で安定した発光強度を得るための好ましい温度範囲は650℃~700℃である。なお、窒素雰囲気で焼成することもできるが、窒素雰囲気で800℃~900℃で焼成した後に大気雰囲気下で焼成しなければならず、有効な手段であるとは言えない。

【0039】
焼成時間は、焼成温度によっても異なるが、通常は1時間~10時間程度であり、2時間~6時間程度であることが好ましい。

【0040】
(製造された酸化アルミニウム蛍光体)
得られた酸化アルミニウム蛍光体粉末は、非結晶の白色又は略白色の粉末となる。非結晶であるか否かは、X線回折装置で測定した結果が結晶性のピークを示さず、ブロードパターンを示すことによって同定できる。なお、本願において「非晶質」とは、非晶質状態又は微結晶状態の両方を含むものとする。

【0041】
酸化アルミニウム蛍光体のスピン密度は、1×1012/cm~1×1014/cmの範囲内であった。この範囲の酸化アルミニウム蛍光体は高い発光強度を示した。なお、スピン密度は、電子スピン共鳴(ESR)装置(JES-TE100)で測定した結果を用いた。スピン数の分かった標準物質(TEMPOL、2.5×10-8mol/L、濃度スピン数:3.78×1012spin)を用いて測定し、酸化アルミニウム蛍光体のESRスペクトルの面積と、標準物質のESRスペクトルの面積との比からスピン密度を計算した。高いスピン密度ほど、高い発光強度を示した。

【0042】
こうして得られた酸化アルミニウム蛍光体は、発光強度が高く、再現性がよく、蛍光と燐光を示すので、蛍光灯やプラズマディスプレイ等のディスプレイ用の蛍光材料として利用可能である。

【0043】
以上説明したように、本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法によれば、(1)準備した原料溶液から、濃縮工程、仮焼工程及び焼成工程を順次経て酸化アルミニウム蛍光体を製造するので、簡単な製造プロセスで大型設備も不要となることから、生産性に優れたものとなり、製造コストを低減できる。(2)また、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としないので、安価な蛍光体を製造できるとともに、蛍光と燐光を示す蛍光体を製造できる。(3)また、水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、仮焼粉末を非晶質とすると考えられる。(4)さらに焼成工程により、非晶質の仮焼粉末を非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末としたので、発光強度の高い酸化アルミニウム蛍光体を製造できる。(5)また、仮焼工程によって原料溶液中の水溶性溶剤を除去することができるので、従来のような面倒な水溶性溶剤の取扱いを省くことができる。
【実施例】
【0044】
以下の実験例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実験例の記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実験例1:試料の作製]
原料として硝酸アルミニウム九水和物[Al(NO・9HO]を用い、硝酸アルミニウム水溶液(0.48mol/L)を調製し、その水溶液に水溶性溶剤としてジエチレングリコール(1.92mol/L)を加えて原料溶液を準備した(原料溶液準備工程)。準備した原料溶液をエバポレーターでの減圧下で80℃で濃縮し、原料溶液中の水を除去した。こうしてゲル状の高粘性溶液を得た(加熱濃縮工程)。
【実施例】
【0046】
得られた高粘性溶液を、排気口がついた箱型電気炉中で、大気雰囲気(1気圧、空気中)下、350℃で3時間仮焼した。こうして茶色の仮焼粉末を得た(仮焼工程)。得られた仮焼粉末を、大気雰囲気(1気圧、空気中)下、710℃で3時間焼成して、白色の焼成粉末(試料1)を得た(焼成工程)。
【実施例】
【0047】
得られた試料1に254nmのブラックライトを照射したところ、図1に示すように、強い発光を示していた。なお、仮焼粉末をX線回折測定した結果、結晶性ピークを示さないブロードパターンが見られたことから、仮焼粉末が非晶質又は微結晶であることが確認された。また、焼成粉末をX線回折測定した結果、図2(A)に示すように、結晶性ピークを示さないブロードパターンが見られたことから、焼成粉末が非晶質又は微結晶の酸化アルミニウム蛍光体であることが確認された。
【実施例】
【0048】
[実験例2:焼成温度と結晶構造の検討]
実験例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を、大気雰囲気下、1000℃で3時間焼成して焼成粉末(試料2)を得た。試料2に波長254nmのブラックライトを照射した結果、発光しなかった。
【実施例】
【0049】
実験例1で得られた試料1と本実験例2で得られた試料2をX線回折(XRD)測定した。XRD測定は、粉末X線回折装置(理学電機株式会社製、RINT2200型)を用い、CuKα線(λ=1.54178Å)、管電圧:40kV、管電流:20mA、走査速度:4°/min、ステップ幅:0.02°の条件で測定した。
【実施例】
【0050】
図2に示す試料1と試料2のX線回折測定結果より、試料1の焼成粉末はブロードパターン(A)が見られたことから、非晶質又は微結晶になっていることがわかる。一方、試料2の焼成粉末は、γ-Al粉末の回折ピークである19°、32°、37°、39°、62°、67°(2θ)に回折ピーク(B)が見られ、結晶性のγ-Alであることが同定された。
【実施例】
【0051】
[実験例3:焼成雰囲気の検討]
実験例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を、酸素雰囲気下、675℃で3時間焼成して焼成粉末(試料3)を得た。また、実験例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を、窒素雰囲気下、850℃で5時間焼成した後、さらに大気雰囲気下、810℃で2時間焼成して焼成粉末(試料4)を得た。
【実施例】
【0052】
実験例1で得られた試料1と本実験例3で得られた試料3及び試料4を蛍光及び励起スペクトル測定した。蛍光及び励起スペクトル測定は、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP-6300型)を用い、フィルターとしてシャープカットフィルターL-37(HOYAガラス社製、370nm以下の波長を遮断し、370nmでは50%遮断する。)を用いた。粉末測定用のフォルダーに各試料を詰め、分光蛍光光度計にセットして測定した。なお、分光蛍光光度計にフィルターを装着することで倍波の検出をなくすようにした。励起スペクトルは、蛍光側の波長を極大波長に固定して、励起側の波長をスキャンさせ、励起光波長に対して蛍光強度をプロットしたものである。蛍光スペクトルは、励起側の波長を固定し、蛍光側の波長をスキャンさせて得られた結果である。具体的には、励起側の波長(λex)を280nmに固定し、蛍光側の波長をスキャンさせたものである。
【実施例】
【0053】
図3は、焼成雰囲気を変化させて焼成して得られた試料について、励起スペクトルの測定結果と、励起波長280nmで測定した蛍光スペクトルの測定結果である。図3中、実線で示されるスペクトル(符号a)は大気雰囲気下での焼成であり、点線で示されるスペクトル(符号b)は酸素雰囲気下での焼成であり、実線で示されるスペクトル(符号c)は窒素雰囲気下での焼成である。図3(B)の結果より、発光波長は大気雰囲気下で389.2nm、酸素雰囲気下で390.1nm、窒素雰囲気下で415.1nmであった。また、発光強度(単位:相対強度)は、大気雰囲気下で612.0、酸素雰囲気下で565.5、窒素雰囲気下で231.2であった。
【実施例】
【0054】
図3の測定結果から、いずれの雰囲気で作製された試料でも、励起スペクトルの幅が広く、数箇所でピークがみられた。大気雰囲気下で焼成された試料(符号a)が最も発光強度が高いことがわかった。具体的には、試料1の発光強度は、試料4の発光強度の約13倍であった。
【実施例】
【0055】
[実験例4:大気雰囲気下での焼成温度の検討]
実験例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を、大気雰囲気下で、焼成時間を3時間に固定し、異なる焼成温度(690℃~750℃)で焼成した。
【実施例】
【0056】
図4は得られた試料の蛍光スペクトルである。図4中、実線で示されるスペクトル(符号a)は焼成温度が710℃の場合であり、実線で示されるスペクトル(符号b)は焼成温度が720℃の場合であり、実線で示されるスペクトル(符号c)は焼成温度が700℃の場合であり、実線で示されるスペクトル(符号d)は焼成温度が690℃の場合であり、実線で示されるスペクトル(符号e)は焼成温度が750℃の場合である。なお、点線で示されるスペクトル(符号f)は、実施例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を、窒素雰囲気下で焼成温度が850℃、焼成時間が5時間で焼成した後、大気中810℃、2時間再加熱した試料である。
【実施例】
【0057】
図4から分かるように、焼成温度を710℃として得た焼成粉末は、発光波長が391.8nmで発光強度が579.0(単位:相対強度。以下同じ。)であり、焼成温度を720℃として得た焼成粉末は、発光波長が387.0nmで発光強度が525.8であり、焼成温度を700℃として得た焼成粉末は、発光波長が394.8nmで発光強度が510.1であり、焼成温度を690℃として得た焼成粉末は、発光波長が402.5nmで発光強度が181.0であり、焼成温度を750℃として得た焼成粉末は、発光波長が376.0nmで発光強度が26.5であった。
【実施例】
【0058】
この実験例では、窒素雰囲気下で焼成した試料(図4中の符号f)と比べ、発光強度が大幅に向上した。しかし、焼成温度が高すぎると発光強度が低くなる傾向がみられ、720℃と750℃で焼成したとき、発光波長が短波長側にブルーシフトしていた。また、焼成温度が低すぎても発光強度が低くなる傾向がみられ、700℃と690℃で焼成したとき、発光波長が長波長側にレッドシフトしていた。
【実施例】
【0059】
[実験例5:比表面積の測定]
実験例1で得られた試料1と、実施例1における仮焼工程後に得られた仮焼粉末を大気雰囲気下で焼成温度が750℃、焼成時間が3時間で焼成したときの試料5である。試料1と試料5について、比表面積の測定を行った。
【実施例】
【0060】
比表面積は、BET法による比表面積測定器(ベックマン・コールター社製、SA3100)を用いて測定した。試料1は発光試料であり、その質量は0.10169gであり、比表面積は119.01m/gであった。その値は、報告されている比較的低温で調製されるアモルファスAl、η-Al、γ-Alの比表面積である130m/g~300m/gに近いものであった。一方、試料5は非発光試料であり、その比表面積は78m/gであった。この測定結果から、発光試料が大きい比表面積を有している物質であるということがいえる。
【実施例】
【0061】
[実験例6:熱重量分析(TG-DTA)測定]
実験例1で得られた試料1について熱重量分析測定を行った。熱重量分析は、ブルカー・エイエックスエス株式会社製のTG-DTA2000Sを用いた。熱重量分析は、大気雰囲気とアルゴン雰囲気で行った。熱重量分析の加熱条件は、20℃/minの速度で昇温し、1000℃で5時間保持した。図5は、大気雰囲気中で得られた発光試料のTG-DTA測定結果ある。グラフの横軸は温度(T/℃)であり、縦軸は重量変化ΔW/W(%)と熱量変化DTA(μV)である。
【実施例】
【0062】
試料中に酸素欠陥が存在するならば、大気雰囲気中での加熱によって試料の重量が増えるはずであるが、図5の重量分析の結果は減量を示した。このことから、微量の酸素欠陥より、大きな重量変化をもたらす成分があることがわかった。
【実施例】
【0063】
図5の測定結果から、150℃付近には吸熱ピークが、850℃付近には発熱ピークがみられ、これらのDTAのピークに伴って質量の減少が観測された。この150℃付近の吸熱ピークは、大きな表面積に吸着されたHOが脱離したためであると考えられる。また、850℃付近の発熱ピークは、非晶質の焼成粉末が結晶化する際の発熱ピークであると考えられる。非晶質は局所的に分子が不規則に配列しており、エネルギー的に最も安定な状態ではないため、結晶化した際に安定化した分のエネルギーが放出され、DTAに観測されたと考えられる。
【実施例】
【0064】
[実験例7:熱重量-質量分析(TG-DTA-MASS)測定]
実施例1で得られた試料1(焼成条件:大気雰囲気下、710℃で3時間)を用いた。TG-DTA-MASSは、株式会社リガク製、Thermo Mass/Photoを用い、Pt製の深皿容器に試料1を10.010mg入れ、昇温速度20℃/minで1000℃まで測定を行った。測定に用いた雰囲気はヘリウムである。
【実施例】
【0065】
TG-DTA-MASSの測定結果は、図5と同様、150℃付近には吸熱ピークが、850℃付近には発熱ピークがみられた。150℃付近の吸熱ピークは、HOのみの脱離でなく、COやOの脱離も関与していることがわかった。800℃での発熱ピークは、非晶質の焼成粉末が結晶化する際の発熱ピークと同温度で、COとHOの放出が観測された。このことから、試料中には不純物(水溶性溶剤由来のC,O,H)が含まれており、それが酸化アルミニウムの結晶化を阻害し、非晶質状態になったと考えられる。
【実施例】
【0066】
[実験例8:有機微量元素分析測定]
実施例1で得られた試料1(焼成条件:大気雰囲気下、710℃で3時間)について、有機微量元素分析を行った。有機微量元素分析は、発光試料を完全燃焼させ、発生したガスの中に含まれる微量の有機物を同定して行った。有機微量元素分析は、パーキンエルマージャパン社製、全自動元素分析装置2400IIを用いた。
【実施例】
【0067】
元素分析測定結果より、試料に炭素と水素が含まれていることがわかった。本実験例は、硝酸アルミニウム水溶液と水溶性溶剤とを混合させた溶液法を用いており、分子レベルで原料を均一に混合できる。一方、試料にOH基や炭素等の不純物が残留しやすいという特徴を有する。また、大きな比表面積を持っている発光材料である試料1の表面には、HOが吸着しているため、上記の測定結果になったと考えられる。
【実施例】
【0068】
[実験例9:異なる雰囲気での再現性]
実験例1における試料1、実験例3における試料3及び試料4をそれぞれ6つ得た。得られた試料について、蛍光スペクトルを測定し、発光強度のばらつきにより再現性を評価した。試料1の発光強度の平均値は547.2(単位:相対強度。以下同じ。)、標準偏差は5.9であった。試料2の発光強度の平均値は525.7、標準偏差は15であった。試料3の発光強度の平均値は210.4、標準偏差は8.8であった。これらの測定結果から、大気雰囲気で焼成した試料1は、ばらつきが小さく発光強度の再現性が極めて高く、工業的に有用であることがわかる。
【実施例】
【0069】
[実験例10:他の蛍光体との発光強度の比較]
図6(A)は、実験例1で得られた試料1(λex=280nm)と、緑色発光を示すZnSiO:Mn(λex=250nm)との発光強度の比較を示す。図6(A)中、実線(符号a)で示されるスペクトルは試料1であり、実線(符号b)で示されるスペクトルはZnSiO:Mnである。これらから、得られた試料1の発光強度はおよそZnSiO:Mnの半分であることがわかる。
【実施例】
【0070】
図6(B)は、実験例1で得られた試料1(λex=280nm)と、青色発光を示すCaWO(λex=250nm)の比較を示す。図6(B)中、実線(符号a)で示されるスペクトルは試料1であり、実線(符号b)で示されるスペクトルはCaWOである。これらから、得られた試料1の発光強度はおよそZnSiO:MnCaWOの半分であることがわかる。
【実施例】
【0071】
[考察:発光メカニズムの検討]
以上、各実験例で得られた結果から、以下のように考察した。酸化アルミニウムは大きなバンドギャップを持つ絶縁体であり、発光を示すことはない物質である。上記した各実験例で作製した酸化アルミニウム蛍光体は、酸化アルミニウムの大きいバンドギャップ中に何らかのエネルギー準位が存在しており、それらの準位からのエネルギー遷移によって発光していると考えられる。
【実施例】
【0072】
新しいエネルギー準位を作り出す過程を考えたとき、低めの温度で水溶性溶剤由来の集団基(C,O,H)とアルミニウムとが結合し、その集団基は酸化アルミニウムの結晶化を阻害する働きを果たし、酸化アルミニウムは結晶化せずに非晶質状態になったと考えられる。試料には、酸化アルミニウムとなる本来のアルミニウムイオンと酸化物イオンとの結合が不足しており、アルミニウムイオンと水溶性溶剤由来の集団基との結合が増えていると考えられる。
【実施例】
【0073】
したがって、酸化アルミニウムのバンドギャップ中に様々なエネルギー準位が作られ、電子はこれらの新しいエネルギー準位を介して励起され、キャリアの再結合を経て発光を示したと考えられる。ラジカル密度が高い場合、水溶性溶剤由来の集団基によるエネルギー準位が増えるために、トラップされる電子又はエネルギーの遷移幅(赤外光と対応)の小さい電子も増え、発光強度が低下してしまったと考えられる。
【実施例】
【0074】
図4の結果より、実験例1よりも低い焼成温度のとき、発光強度が低くレッドシフトしている。試料の色は焼成温度が低いほど黄白色であり、遊離状態の有機物が抜け切れていなかったと考えられる。つまり、試料中のラジカル密度が高いほど、酸化アルミニウムのバンドギャップに新たなエネルギー準位が多く生じ、電子の遷移はかなり小幅になり、目に見える放出される光のエネルギーが小さくなったためレッドシフトしたと考えられる。
【実施例】
【0075】
一方、図4の結果より、実験例1よりも高い温度で焼成された試料の発光波長は、ブルーシフトし、発光強度が低くなっていることが観察できる。710℃よりも焼成温度が高いと、水溶性溶剤由来のC,O,Hが試料から放出され、ラジカル密度が減少してしまうと考えられる。ラジカル密度が減少したことにより、酸化アルミニウムのバンドギャップ中に生じた不純物由来のエネルギー準位が減少し、そのため電子遷移のエネルギー幅が広くなったためにブルーシフトしたと考えられる。発光強度が下がってしまったのは、電子遷移のエネルギーが広がったことで電子が励起される割合が小さくなったためであると考えられる。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図1】
5