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明細書 :定量的運動機能評価システム及び運動機能評価用プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5154558号 (P5154558)
登録日 平成24年12月14日(2012.12.14)
発行日 平成25年2月27日(2013.2.27)
発明の名称または考案の名称 定量的運動機能評価システム及び運動機能評価用プログラム
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 5/10 310G
請求項の数または発明の数 18
全頁数 35
出願番号 特願2009-530003 (P2009-530003)
出願日 平成20年2月26日(2008.2.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成19年3月2日東京都神経科学総合研究所において開催された平成18年度病院等連携研究発表会で発表
特許法第30条第1項適用 平成19年6月28日OCC Okazakiにおいて開催された生理学研究所第1回Motor Control研究会で発表
国際出願番号 PCT/JP2008/053735
国際公開番号 WO2009/028221
国際公開日 平成21年3月5日(2009.3.5)
優先権出願番号 2007226596
優先日 平成19年8月31日(2007.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年2月16日(2011.2.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
【識別番号】591043581
【氏名又は名称】東京都
発明者または考案者 【氏名】筧 慎治
【氏名】李 鍾昊
【氏名】鏡原 康裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100153693、【弁理士】、【氏名又は名称】岩田 耕一
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】門田 宏
参考文献・文献 特開2005-185557(JP,A)
特開2002-514939(JP,A)
特開2000-279463(JP,A)
特開2002-369818(JP,A)
調査した分野 A61B 5/11
A61B 5/0488
A61B 10/00
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者の手首運動の運動機能を評価する運動機能評価システムであって、以下の手段:
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示するための表示画面を有する手段、
(b)被験者の手首運動により前記カーソル画像を移動するために使用される手段、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出する手段、
(d)前記(b)の手段を使用する被験者の手首運動に関係する筋肉の筋活動状況を検出する手段、
(e)前記(c)の手段により検出される追跡状況と、前記(d)の手段により検出される筋活動状況とを解析する手段、及び
(f)前記(e)の手段により得られる解析結果を指標として被験者の手首運動の運動機能を評価する手段
を備えた前記システム。
【請求項2】
前記ターゲット画像が、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1記載のシステム。
(i) 所定の軌道に沿って移動する又は任意の方向に移動する画像
(ii) 互いに所定の間隔をとって固定された少なくとも2つの画像
(iii) 直線及び/又は曲線で構成され、所定の長さ及び太さを有する線状の画像
(iv) 始点及び終点のみからなる画像
【請求項3】
前記所定の軌道が、直線、曲線、円及び多角形からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んで構成されたものである、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記(i)及び(ii)のターゲット画像が、円、楕円、多角形及び星形からなる群より選ばれる少なくとも1つの形状を含むものである、請求項2又は3記載のシステム。
【請求項5】
前記(ii)のターゲット画像は、1つのターゲット画像を中心にして、その同心円上に2つ以上のターゲット画像が配置されてなるものである、請求項2又は4記載のシステム。
【請求項6】
前記(b)の手段が、前記(a)の手段とは別に設けられたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記(b)の手段が、被験者により任意の方向に操作される可動部と、該可動部の動作情報を前記カーソル画像を移動させるための情報として前記(a)の手段に伝達する出力部とを備えたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記(b)の手段が、さらに前記可動部の動作情報を所定のパラメータについて検出するセンサ部を備えたものである、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記所定のパラメータが、前記(b)の手段の操作に関わる被験者の体の一部の位置、角速度及びトルクからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記(c)の手段が、前記ターゲット画像の追跡状況として前記カーソル画像の移動の軌跡を検出するものである、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記(d)の手段が、被験者の筋活動状況として筋電信号を検出するものである、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記筋電信号が表面筋電信号である、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
前記(c)~(f)のうちの少なくとも1つの手段がコンピュータである、請求項1~12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記手首運動の運動機能が、手首関節の2自由度の運動機能である、請求項1~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記(b)の手段が手首関節マニピュランダムである、請求項1~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記手首関節マニピュランダムが、被験者の手首関節の位置、角速度及びトルクからなる群より選ばれる少なくとも1つを検出し得るものである、請求項15記載のシステム。
【請求項17】
前記(d)の手段が、被験者の筋活動状況として、短橈側手根伸筋及び長橈側手根伸筋(ECR)、尺側手根伸筋(ECU)、尺側手根屈筋(FCU)並びに橈側手根屈筋(FCR)の筋電信号を検出するものである、請求項1~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
被験者の手首運動の運動機能を評価するために使用されるプログラムであって、コンピュータに、以下の手順:
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を、表示画面を有する手段に表示し、
(b)被験者が、前記カーソル画像を移動するための手段を使用して、前記ターゲット画像を前記カーソル画像により追跡した軌跡を記録し、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出し、
(d)前記ターゲット画像の追跡を行う被験者の手首運動に関係する筋肉の筋活動状況を検出し、
(e)前記(c)で検出される追跡状況と、前記(d)で検出される筋活動状況とを解析し、
(f)前記(e)の解析により得られる解析結果を指標として被験者の手首運動の運動機能を評価する手順
を実行させるための前記プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の運動機能を評価する運動機能評価システムに関する。詳しくは、パーキンソン病や小脳変性疾患等の脳変性疾患を含む各種神経疾患患者の運動機能に関する病態を、定量的かつ客観的に評価する運動機能評価システム(具体的には、上記各種神経疾患の診断又は治療用の運動機能評価システム)に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的神経学的手法の問題点
運動機能障害を伴う神経疾患、特に脳変性疾患の、進行程度並びに投薬及び術後の効果測定には、これまで1世紀以上の間、口頭指示をして被験者の運動を観察することによる定性的方法が用いられてきた。この検査は、長い歴史の中で磨かれ確立した手技であり、特別な器具を使わずにどこでも手軽に実施できる簡便さも兼ね備えるものである。その反面、定量性に欠けると共に、医師等の経験及び力量にも左右されるため、異なる被験者間の比較、あるいは同一被験者における術前術後又は投薬前後の病態を定量的及び経時的に比較することは困難であった。
時代的要請
上述したような定性的方法が1世紀以上もの間継続され、例えば血糖値やコレステロール値のような客観的指標が必要とされなかったことには理由がある。すなわち、パーキンソン病及び脊髄小脳変性症等の神経学的疾患(神経疾患)はいずれも難病であり、その原因も根本的治療法も不明であった。伝統的手法は診断を下すのに十分であり、このような疾患であると診断されれば、あとは対症療法を行うしかなかった。仮にさらなるコストをかけて新しい診断法を開発しても、治療には何ら貢献できないことから、その必要性は低いと考えられていた。
ところが、ここ10年ほどで時代の潮流に大きな変化が見え始め、上述の難病の原因となる遺伝子が次々と発見され、幹細胞や遺伝子治療等による根本的な治療の可能性が視野に入り始めた。そこで、新しい治療法を客観的に評価するために、異常運動の客観的指標の必要性が高まってきた。
社会的要請
パーキンソン病とその関連疾患や脊髄小脳変性症等の神経変性疾患は、いずれも国あるいは地方自治体の難病に指定され、公的医療費補助制度の対象となっている。医療費の助成を受けられるか否かは、患者およびその家族にとって切実な問題である。他方、高齢化の進行に伴い脳卒中患者は増加の一途であるが、要介護認定および重症度の判定は、限りある財源を有効に活用するためにも、病態に応じて適切に行われなければならない。いずれの場合も、その判断は公平かつ客観的に行われるべきであり、そのためには運動障害の客観的評価が不可欠である。
新しい流れ
近年のコンピュータ技術の革命的発展により、運動機能を定量的に計測するための技術水準は劇的に高まり、逆にコストは劇的に低下した。例えば、CGのキャラクターが人間と全く同じように生き生きと動き回ることができるのは、モーション・キャプチャーと呼ばれる人間の全身の動きを計測しデジタルデータとして利用する技術が開発されたためである。このような技術背景から、運動機能、なかでも身体の「動き」を定量的に記述し評価する試みが増えてきた。村山らによる運動機能評価システム(特許第3777480号公報、特許第3785554号公報参照)はその一例である。
「動き」の限界
従来の手法は本質的に「動き」の記述に過ぎないものである。また、「動き」、を記録したとしても、神経疾患の運動機能の指標としては十分ではない。異常運動は「動き」の異常として現れるものであるが、同じ「動き」であっても、それらは無限に異なる運動指令(すなわち筋活動の組み合わせ)で生じ得るものである。すなわち、「動き」と運動指令の間には、不良設定性という根本的問題が内在しており、同じような異常運動(結果)が全く異なる運動指令(原因)により生成されている可能性がある。そのため、「動き」という結果のみに基づいて、脳における異常がどのようなものであるかという原因に遡ることは、原理的に不可能である。
【発明の開示】
【0003】
現在又は将来における神経難病の根本的治療法は、どのようなものであれ、中枢神経系に作用して運動指令の正常化として現れるものである。そのため、その治療法の効果は、「動き」としての定性的な間接評価をするよりも、その「動き」の原因である運動指令そのものを定量的かつ客観的に直接評価する必要がある。
さらに、その評価を日常の臨床現場における診療の中に組み込んでいくためには、患者および医療スタッフ双方への負担を最小限に抑えることが必須である。すなわちその手段は非侵襲的かつ簡便でなければならない。
そこで、本発明者は、被験者の運動機能を定量的かつ客観的に評価し、しかも非侵襲的かつ簡便に評価することができる、運動機能評価システムを提供することを課題とした。そして、本発明者は、このようなシステムを確立するために、具体的には、第1に、被験者の主要な筋活動を網羅して運動指令を十分な精度で検出できること;第2に、被験者の動きの情報も十分な精度で検出できること;第3に、人間にとって重要と思われる運動機能を評価対象とすること;第4に、被験者への負担をできる限り小さくすること、という少なくとも4つの要件をバランス良く満たすための手段を備えた運動機能評価システム等を提供することを課題とした。また、パーキンソン病や小脳変性疾患等の脳変性疾患を含む各種神経疾患の診断又は治療用の運動機能評価システム等を提供することを課題とした。
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、「動き」をたった4種の筋肉の活動というシンプルな運動指令の形に置き換えて表現することに成功した(実施例1参照)。さらに、その4種の筋肉の筋活動を記録する手段として表面電極という非侵襲的な技術を用いた。その結果、人間にとって重要と思われる運動機能を評価対象にしながら、被験者の最小限の筋活動から運動指令を十分な精度で検出し、同時に被験者の動きの情報も十分な精度で検出することができる、客観的かつ定量的な運動機能評価システムを実現した。さらに、このシステムによる解析及び評価を、非侵襲的かつ簡便に行うことのできるように周辺要素を整え、全ての要件をバランス良く満たすシステムを構築し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)被験者の運動機能を評価する運動機能評価システムであって、以下の手段:
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示する手段、
(b)被験者により前記カーソル画像を移動するために使用される手段、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出する手段、
(d)前記(b)の手段を使用する被験者の筋活動状況を検出する手段、
(e)前記(c)の手段により検出される追跡状況と、前記(d)の手段により検出される筋活動状況とを解析する手段、及び
(f)前記(e)の手段により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する手段
を備えた前記システム。
本発明のシステムにおいて、前記(a)の手段は、例えば、前記画像情報を表示するための表示画面を有するものが挙げられる。
前記ターゲット画像としては、例えば、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
(i)所定の軌道に沿って移動する又は任意の方向に移動する画像
(ii)互いに所定の間隔をとって固定された少なくとも2つの画像
(iii)直線及び/又は曲線で構成され、所定の長さ及び太さを有する線状の画像
(iv)始点及び終点のみからなる画像
ここで、(i)のターゲット画像において、前記所定の軌道は、例えば、直線、曲線、円及び多角形からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んで構成されたものが挙げられる。また、(i)及び(ii)のターゲット画像は、例えば、円、楕円、多角形及び星形からなる群より選ばれる少なくとも1つの形状を含むものが挙げられる。さらに、(ii)のターゲット画像は、例えば、1つのターゲット画像を中心にして、その同心円上に2つ以上のターゲット画像が配置されてなるものが挙げられる。
本発明のシステムにおいて、前記(b)の手段は、例えば、前記(a)の手段とは別に設けられたものであってもよい。
前記(b)の手段は、例えば、被験者により任意の方向に操作される可動部と、該可動部の動作情報を前記カーソル画像を移動させるための情報として前記(a)の手段に伝達する出力部とを備えたものが挙げられる。
また前記(b)の手段は、例えば、前記可動部の動作情報を所定のパラメータについて検出するセンサ部をさらに備えたものが挙げられる。ここで、当該所定のパラメータは、例えば、前記(b)の手段の操作に関わる被験者の体の一部の位置、角速度及びトルクからなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
本発明のシステムにおいて、前記(c)の手段は、例えば、前記ターゲット画像の追跡状況として前記カーソル画像の移動の軌跡を検出するものが挙げられる。
本発明のシステムにおいて、前記(d)の手段は、例えば、被験者の筋活動状況として筋電信号を検出するものが挙げられる。ここで、当該筋電信号は表面筋電信号であってもよい。
本発明のシステムにおいて、前記(c)~(f)のうちの少なくとも1つの手段は、コンピュータであってもよい。
本発明のシステムは、例えば、被験者の手首運動の運動機能を評価するものが挙げられる。ここで、当該手首運動の運動機能は、例えば、手首関節の2自由度の運動機能が挙げられる。
本発明のシステムが、被験者の手首運動の運動機能を評価するものである場合、前記(b)の手段は、例えば、手首関節マニピュランダムが挙げられる。また前記(d)の手段は、例えば、被験者の筋活動状況として、短橈側手根伸筋及び長橈側手根伸筋(ECR)、尺側手根伸筋(ECU)、尺側手根屈筋(FCU)並びに橈側手根屈筋(FCR)の筋電信号を検出するものが挙げられる。ここで、上記手首関節マニピュランダムは、例えば、被験者の手首関節の位置、角速度及びトルクからなる群より選ばれる少なくとも1つを検出し得るものが挙げられる。
本発明のシステムとしては、例えば、神経疾患の診断に使用されるものが挙げられる。ここで、当該診断としては、例えば、神経疾患の治療前後の病態の評価が含まれ、当該神経疾患の治療は、例えば、脳深部刺激療法、脳定位手術、遺伝子治療法、薬物療法又はリハビリテーションにより行われるものが挙げられる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明のシステムとしては、例えば、神経疾患の治療に使用されるものが挙げられる。ここで、当該治療としては、例えば、神経疾患患者における運動機能のリハビリテーションが含まれる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(小脳疾患、脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、なかでも特に、パーキンソン病、パーキンソン症候群、小脳・脊髄萎縮症、脳卒中が好ましい。
(2)被験者の運動機能を評価する運動機能評価方法であって、以下の工程:
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示手段に表示する工程、
(b)被験者が、前記カーソル画像を移動するための手段を使用して、前記ターゲット画像を前記カーソル画像により追跡する工程、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出する工程、
(d)前記(b)の工程を行う被験者の筋活動状況を検出する工程、
(e)前記(c)の工程により検出される追跡状況と、前記(d)の工程により検出される筋活動状況とを解析する工程、及び
(f)前記(e)の工程により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する工程
を含む、前記方法。
本発明の方法としては、例えば、神経疾患の診断に使用されるものが挙げられる。ここで、当該診断としては、例えば、神経疾患の治療前後の病態の評価が含まれ、当該神経疾患の治療は、例えば、脳深部刺激療法、脳定位手術、遺伝子治療法、薬物療法又はリハビリテーションにより行われるものが挙げられる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明の方法としては、例えば、神経疾患の治療に使用されるものが挙げられる。ここで、当該治療としては、例えば、神経疾患患者における運動機能のリハビリテーションが含まれる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(小脳疾患、脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、なかでも特に、パーキンソン病、パーキンソン症候群、小脳・脊髄萎縮症、脳卒中が好ましい。
(3)被験者の運動機能を評価するために使用されるプログラムであって、コンピュータに、以下の手順:
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示手段に表示し、
(b)被験者が、前記カーソル画像を移動するための手段を使用して、前記ターゲット画像を前記カーソル画像により追跡した軌跡を記録し、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出し、
(d)前記ターゲット画像の追跡を行う被験者の筋活動状況を検出し、
(e)前記(c)で検出される追跡状況と、前記(d)で検出される筋活動状況とを解析し、
(f)前記(e)の解析により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する手順
を実行させるための前記プログラム。
本発明のプログラムとしては、例えば、神経疾患の診断に使用されるものが挙げられる。ここで、当該診断としては、例えば、神経疾患の治療前後の病態の評価が含まれ、当該神経疾患の治療は、例えば、脳深部刺激療法、脳定位手術、遺伝子治療法、薬物療法又はリハビリテーションにより行われるものが挙げられる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明のプログラムとしては、例えば、神経疾患の治療に使用されるものが挙げられる。ここで、当該治療としては、例えば、神経疾患患者における運動機能のリハビリテーションが含まれる。また前記神経疾患は、例えば、運動障害を伴う神経疾患が挙げられ、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(小脳疾患、脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、なかでも特に、パーキンソン病、パーキンソン症候群、小脳・脊髄萎縮症、脳卒中が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1Aは、運動機能評価システムの概要図である。
図1Bは、運動機能評価システムの概要を示すブロック構成図である。なお、図中、▲1▼~▲3▼は一体化した手段であってもよい。
図2Aは、手首運動に関係する筋肉を示す図である。なお、図中、ECRは橈側手根伸筋、ECUは尺側手根伸筋、FCU尺側手根屈筋、FCR橈側手根屈筋を表す。
図2Bは、手首運動に関係する筋肉の機械的作用(詳しくは、各筋肉の機械的作用の方向)を示す図である。
図3は、手首運動の機能評価のための8方向運動の概略図である。
図4は、8方向運動における手首の動きと運動指令である筋活動の同定結果を示す図である。
図5は、小脳疾患患者における運動指令の解析結果を示す図である。
図6は、手首運動の機能評価のための、動くターゲット画像の追跡運動(視覚性追跡運動)一例を示す概略図である。
図7は、小脳疾患患者のカーソル画像の軌跡(ターゲット画像追跡状況の検出結果)を示す図である。
図8は、健常被験者及び小脳疾患患者における、手首関節の動きの検出結果(ターゲット画像追跡状況;上2段)と4種の筋肉の表面筋電信号の検出結果(筋活動状況;下4段)とを示す図である。
図9は、総筋活動変動率(VTC)を示す図である。
図10は、筋活動の方向成分(DMA)を示すである。
図11Aは、各疾患の位置づけを示す図である。詳しくは、筋活動の方向成分(DMA)と追跡の成功率(SRV)との関係を示す図である。
図11Bは、各疾患の位置づけを示す図である。詳しくは、筋活動のバランス成分(BMA)と総筋活動変動率(VTC)との関係を示す図である。
図11Cは、各疾患の位置づけを示す図である。詳しくは、筋活動のバランス成分(BMA)及び総筋活動変動率(VTC)と、追跡の成功率(SRV)との関係を示す図である。
図11Dは、各疾患の位置づけを示す図である。詳しくは、総筋活動変動率(VTC)と筋活動の方向成分(DMA)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0005】
1:ターゲット画像およびカーソル画像を表示する表示画面
2:手首関節マニピュランダム
3:表面筋電信号測定装置
4:手首関節の2自由度の動き
5:筋電信号
6:A/D変換インターフェース
7:データ解析及び評価用コンピュータ
8:表示画面
9:被験者が、手首関節マニピュランダムを操作して表示画面上のカーソル画像を動かしている様子を表した写真
10:ターゲット画像(円形の輪)
11:カーソル画像(黒く塗りつぶした点)
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2007-226596号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
本発明は、様々な運動機能、例えば手首運動の運動機能において、被験者の運動指令を解析する運動機能評価方法、およびこの方法を実施するために用いられる運動機能評価システムに関するものである。
従来、神経疾患における随意運動機能検査は、口頭指示による運動の観察などもっぱら定性的方法が使われてきた。最近になって、上肢運動機能評価システム(例えば、特開2004-16336号公報等)が村山により提案され、「動き」の評価については定量性の向上が図られた。しかしながら、神経疾患の病態をより根本的に評価するには、「動き」の原因である脳からの運動指令の異常を直接捉える必要がある。なぜなら、「動き」に対する運動指令の不良設定性のため、「動き」の異常から運動指令の異常を特定することは原理的に不可能であり、神経疾患の病態の評価は「動き」のレベルで間接的に行うよりも運動指令のレベルで直接的に行うことがより本質的だからである。そこで、本発明者は、手首運動を用いて神経疾患における異常運動とその原因である脳からの運動指令の異常を筋活動として同時に分析できる運動機能評価システムを開発した。
本発明の運動機能評価システムの例示として、手首運動を利用した運動機能評価システムの概要図を図1Aに、当該システムのブロック構成図を図1Bに示す。
本発明の運動機能評価システムは、被験者の様々な手首運動における運動指令を筋活動として評価する方法である。8方向運動及び数字追跡運動などの様々な手首運動を誘導するターゲット画像と、ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示手段に表示し、この画像情報に基づいて、被験者が手首関節マニピュランダムを用いてその可動部を操作することによりカーソル画像を移動させる。この際、手首の2自由度(X軸方向及びY軸方向)の動きは、手首関節の位置として検出され、その検出データは(例えば2kHzのsampling rateで)コンピュータ等の解析手段に記録される。さらに、この手首関節の位置情報は、ターゲット画像を追跡するカーソル画像の軌道(軌跡)情報として(すなわちカーソル画像によるターゲット画像の追跡状況として)、及び2自由度の動作情報として、前記表示手段の表示画面上や前記解析手段に備えられた表示画面上にリアルタイムで表示される。一方、手首運動に関係する4つの筋肉の筋活動状況が、筋電信号(筋電図信号)として検出され、その検出データは(例えば2kHzのsampling rateで)手首関節の位置情報と同時にコンピュータ等の解析手段に記録される。このようにして同時に記録された手首関節位置のデータ(ターゲット画像の追跡状況のデータ)と筋活動状況データとは、データ解析手段で筋張力や関節トルクへの変換など様々な分析が行われる。このように、本発明の運動機能評価システムは、手首関節マニピュランダムを、いわばマウスとして用いて多様な手首運動を行い、その際の異常運動とその原因となる運動指令の異常との対応関係を分析することができるものである。
2.運動機能評価システム
本発明の運動機能評価システム(以下、本発明のシステムと言うことがある。)は、被験者の運動機能を評価する運動機能評価システムであって、以下の(a)~(f)の手段を備えた評価システムである。
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示する手段(表示手段)
(b)被験者により前記カーソル画像を移動するために使用される手段(追跡手段)
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出する手段(追跡状況検出手段)
(d)前記(b)の手段を使用する被験者の筋活動状況を検出する手段(筋活動状況検出手段)
(e)前記(c)の手段により検出される追跡状況と、前記(d)の手段により検出される筋活動状況とを解析する手段(解析手段)
(f)前記(e)の手段により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する手段(評価手段)
本発明のシステムは、被験者の運動機能を評価するものであればよく、限定はされないが、様々な運動機能の中でも、特に手首運動の運動機能を評価するものであることが好ましい。評価する手首運動の運動機能は、手首関節の2自由度の運動機能、すなわち手首関節の水平方向(X軸方向;右/左)及び垂直方向(Y軸方向;上/下)並びにこれらを組み合わせた方向に動く運動機能(以下同様)であることが好ましい。
以下、本発明のシステムについて詳細に説明する。
なお、当業者は、被験者の手首運動以外の運動機能についても、手首運動の運動機能に関する説明及び当該技術分野の技術常識等を考慮して、本発明のシステムを構築し且つ実施することができる。
(1)表示手段
本発明のシステムにおける表示手段は、ターゲット画像とカーソル画像とを含む画像情報を表示する手段である。表示手段は、当該画像情報を表示するための表示画面を有するものであることが好ましい。表示画面は、例えば、フルカラー若しくはモノクロ表示方式の液晶モニター又はブラウン管モニター等が挙げられる。
ターゲット画像とは、カーソル画像の追跡対象となる画像を意味し、その形状、大きさ、色調及び動作性などは特に限定はされないが、例えば、下記の(i)~(iv)からなる群より選ばれる少なくとも1つの画像が好ましく挙げられる。中でも、(i)~(iii)の画像であることがより好ましい。
(i)所定の軌道に沿って移動する又は任意の方向に移動する画像
(ii)互いに所定の間隔をとって固定された少なくとも2つの画像
(iii)直線及び/又は曲線で構成され、所定の長さ及び太さを有する線状の画像
(iv)始点及び終点のみからなる画像
上記(i)の画像における、前記所定の軌道は、例えば、直線、曲線、円及び多角形からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んで構成されたものが挙げられる。上記(i)の画像のうち、所定の軌道に沿って移動するターゲット画像としては、例えば何らかの文字(数字等)を表示する線を所定の軌道とし、この軌道の上をなぞるようにしてターゲット画像を移動させる態様が好ましく挙げられる。
上記(ii)の画像におけるターゲット画像は、例えば、1つのターゲット画像を中心にして、その同心円上に2つ以上のターゲット画像が配置されてなるものであることが好ましい。詳しくは、中心に位置するターゲット画像は常に表示されているのに対し、その同心円上のターゲット画像については、ある1つの画像が表示されているときは残りの画像は表示されないものとし、表示されていた画像が非表示になると残りの画像のうちのある1つの画像が表示されるというように、1つずつ順番に表示されるものであることが好ましい。このようなターゲット画像の態様としては、後述の実施例で記載する8方向運動の機能評価に使用するターゲット画像が好ましく挙げられる。
上記(i)及び(ii)の画像におけるターゲット画像は、例えば、円、楕円、多角形及び星形からなる群より選ばれる少なくとも1つの形状を含むものであることが好ましい。
上記(iii)の画像としては、例えば何らかの文字(数字等)を表示する線そのものに、所定の長さ及び太さを持たせたものが好ましく挙げられる。
上記(iv)の画像としては、始点及び終点以外は特に決まったものは無いため、被験者が考えたイメージの通りに(頭の中のイメージをなぞる様に)カーソル画像を動かせばよい。
(2)追跡手段
本発明のシステムにおける追跡手段は、前記表示手段に表示されたカーソル画像を移動するために被験者自身により使用される手段である。追跡手段は、前記表示手段とは別に設けられたものであってもよい。
追跡手段は、具体的には、被験者により任意の方向に操作される可動部と、該可動部の動作情報を、前記カーソル画像を移動させるための情報として前記表示手段に伝達する出力部とを備えたものであることが好ましい。出力部より伝達される情報は、アナログ出力によるものでもデジタル出力によるものでもよい。
追跡手段は、さらに前記可動部の動作情報を所定のパラメータについて検出するセンサ部を備えたものであることが好ましい。ここで、所定のパラメータとは、追跡手段の操作に関わる被験者の体の一部の位置、角速度及びトルク等が挙げられる。
本発明のシステムが、被験者の手首運動の運動機能を評価するものである場合、当該追跡手段としては、手首関節マニピュランダムが好ましく使用される。手首関節マニピュランダムは、被験者の手首関節の位置、角速度及びトルク等を検出することができるものが好ましい。このような手首関節マニピュランダムは、市販のものを用いることができ、例えば、有限会社豊洋電子精機製の『手首関節「位置・角速度・トルク」測定装置』などが使用される。
(3)追跡状況検出手段
本発明のシステムにおける追跡状況検出手段は、前記追跡手段の使用により移動させた前記カーソル画像による、前記ターゲット画像の追跡状況を検出する手段である。当該手段で検出される追跡状況は、被験者の「動き」を示すものであり、後述する被験者の筋活動状況と対応させて分析されるものである。
検出する追跡状況としては、限定はされないが、例えば、(i)ターゲット画像を追跡したカーソル画像の移動の軌跡(連続的な軌道)を表したものや、(ii)ターゲット画像を追跡するカーソル画像の位置、移動方向及び移動速度を単位時間毎にベクトルで表したものが挙げられ、その他、(iii)前記追跡手段を使用する被験者の体の一部の動きそのものを表したものであってもよい。上記(iii)のような追跡状況としては、例えば、本発明のシステムが手首運動の運動機能を評価するものである場合は、被験者が操作する手首関節マニピュランダムの可動部の動作状況や該可動部を操作する手首関節の動作角度を、水平方向及び垂直方向の2つのパラメータでそれぞれ記録したものであってもよい。
追跡状況検出手段はコンピュータを用いた手段であってもよい。また、当該手段は、本発明のシステムを構成する他の手段、特に、表示手段、解析手段及び評価手段のうちの少なくとも1つと一体化してなるものであってもよい。
(4)筋活動状況検出手段
本発明のシステムにおける筋活動状況検出手段は、追跡手段を使用する被験者(詳しくは被験者の体の一部)の筋活動状況を検出する手段である。
検出する筋活動状況としては、筋電信号(筋電図信号)が好ましく、特に簡便性及び被験者への負担軽減の点から表面筋電信号がより好ましい。
筋電信号の検出は、通常、追跡手段を使用に関わる2種以上の筋肉について行うことが好ましく、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上である。本発明のシステムが、被験者の手首運動の運動機能を評価するものである場合、筋電信号の検出は、例えば、前腕(上肢のうち肘から先の部分)に存在する数多くの筋肉の種類のうち、橈側手根伸筋(短橈側手根伸筋+長橈側手根伸筋(ECR))、尺側手根伸筋(ECU)、尺側手根屈筋(FCU)、並びに橈側手根屈筋(FCR)という手首運動に関わる4種の筋肉について行うことが好ましい(図2A参照)。この4種の筋肉(ECR、ECU、FCU及びFCR)は、手首関節の2自由度の動きをバランスよくカバーできる配置で体内(上肢前腕)に備わっているため(図2B参照)、様々な手首運動において、被験者の「動き」と筋活動(運動指令)との対応関係を、効果的かつ容易に、高い信頼性をもって分析することができる。ここで、上記図2Bについて説明する。図2Bは、地面(水平面)に対して垂直に立てた棒を右手で握った状態に相当する手首の方向配置において、各筋肉の手首関節に対して与える機械的作用の方向(手首関節の動作方向)を矢印として示したものである。具体的には、図2B中の矢印は、前記4種の各筋肉をそれぞれ単独で人工的に電気刺激した際に手首関節が動いた方向を、実測し表示したものである。例えば、ECRを単独刺激した場合、手首は上方向のやや右側よりに動き、FCUを刺激した場合、手首は下方向のやや左側よりに動くことが、図2Bから理解できる。このような、前記4種の各筋肉の機械的作用は、人工的な電気刺激の代わりに運動指令で筋肉が活動した場合でも同じ作用が認められる。従って、所定の運動課題の実行中に、例えばECRが活動していれば、ECRは手首を上方向のやや右側よりに、筋活動の大きさ(筋電信号の大きさ)に比例した力で引っ張っていることとなる。手首関節が動く方向は、4種の筋肉それぞれの矢印の方向(図2B)への引っ張り合い(機械的作用)のバランスにより決定される。
筋活動状況検出手段はコンピュータを用いた手段であってもよい。また、当該手段は、本発明のシステムを構成する他の手段、特に、表示手段、解析手段及び評価手段と一体化してなるものであってもよい。
(5)解析手段
本発明のシステムにおける解析手段は、上述した各検出手段により検出される追跡状況と筋活動状況とを解析する手段である。すなわち、解析手段は、追跡状況に関する検出データ、及び筋活動状況に関する検出データを、それぞれ数値化又は図式化(グラフ化も含む)し、必要に応じて両検出データの対応を分析する手段である。例えば、上述の筋活動状況検出手段で得られたデータから、所望のパラメータの値について解析することができる。当該パラメータとしては、例えば、総筋活動変動率(Variability of Total Contraction,VTC)、筋活動の方向成分(Directionality of Muscle Activity,DMA)、筋活動のバランス成分(Balance component of Muscle Activity,BMA)及び追跡の成功率(Success Rate of Visually-guided tracking,SRV)等が好ましく挙げられる。これらパラメータの具体的な定義(値の算出方法)については、後述する実施例の記載を参照することができる。
なお、解析手段は、各検出手段により得られたデータの信号の種類を所望の種類に変換する手段、例えばA/Dインターフェース等を備えたものであってもよい。
解析手段はコンピュータを用いた手段であってもよい。また、当該手段は、本発明のシステムを構成する他の手段、特に、表示手段、追跡状況検出手段及び評価手段のうちの少なくとも1つ(中でも評価手段)と一体化してなるものであってもよい。
(6)評価手段
本発明のシステムにおける評価手段は、前記解析手段により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する手段である。評価手段における評価の仕方は、得られた解析結果を指標とするものであれば、限定はされないが、特に、被験者の筋活動状況の検出データの解析結果を重視した評価が好ましい。筋活動状況の検出データは、被験者の「動き」の検出データ(すなわち追跡状況の検出データ)のみでは原理的に評価が不可能であった、運動障害を伴う神経疾患と異常運動との関連性を、客観的かつ定量的に評価できる極めて有用な指標となるものである。具体的には、後述の実施例(特に図11A~11D)にも示しているように、前述した総筋活動変動率(VTC)、筋活動の方向成分(DMA)、筋活動のバランス成分(BMA)及び追跡の成功率(SRV)についての解析結果のうち、2種以上を組み合わせて評価することが好ましい。例えば、DMAとSRV、BMAとVTC、BMAとVTCとSRV、DMAとVTC等の組み合わせが例示できる。このようなパラメータの組み合わせによる運動機能の評価は、2次元的又は3次元的(あるいはそれ以上)に各パラメータの値に基づいてプロットし、被験者が、どのような領域(クラスター)に含まれる(属する)かを確認することで、各種神経疾患群のいずれに該当するか、又はコントロールとなる正常(健常)被験者であるかを、容易に、客観的かつ定量的に評価することができる。よって、このような評価は、後述するように、本発明の運動機能評価システムを神経疾患の診断又は治療用システムとして用いる場合の評価として特に有用である。
評価手段は、予め取得された多数の解析結果(追跡状況及び筋活動状況の検出データの解析結果)を備えたデータベース等を備えたものであってもよい。得られた解析結果をこのようなデータベースの情報と比較することにより、例えば、運動障害を伴う神経疾患の可能性及びその病態などを容易に評価することができる。
評価手段はコンピュータを用いた手段であってもよい。また、当該手段は、本発明のシステムを構成する他の手段、特に、表示手段、追跡状況検出手段及び解析手段のうちの少なくとも1つ(中でも解析手段)と一体化してなるものであってもよい。
(7)運動機能評価システムの用途
本発明のシステムの用途としては、限定はされないが、例えば、神経疾患の診断(又は神経疾患の検出)が好ましく挙げられる。神経疾患としては、運動障害を伴う神経疾患が好適であり、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(小脳疾患、脊髄小脳変性症を含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中等が挙げられる。なかでも特に、パーキンソン病、パーキンソン症候群、小脳・脊髄萎縮症、脳卒中が好ましい。
ここで、上記診断(又は検出)とは、神経疾患であるか否かを判断することのほか、神経疾患の治療の前後又は治療中の経時的な病態(すなわち病状の程度、変化の度合い等)を評価することも含む意味である。ここで、治療中の経時的な病態の評価としては、治療中にリアルタイムに治療方法や治療方針を決定するための評価(ナビゲートするための評価)も含まれる。治療の前後又は治療中の経時的な病態が評価される神経疾患の治療としては、例えば、脳深部刺激療法(DBS)、脳定位手術、遺伝子治療法、薬物療法又はリハビリテーション等が挙げられる。特に、DBSにおいては、最適な刺激部位及び刺激強度を判断することができ、薬物療法(例えばメネシット)においては、最適な薬物容量を判断することができる。
また、本発明のシステムの用途としては、神経疾患の治療も好ましく挙げられる。神経疾患としては、運動障害を伴う神経疾患が好適であり、具体的には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、アテトーゼ、ジストニー、小脳・脊髄萎縮症(小脳疾患、脊髄小脳変性症も含む)、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、大脳基底核石灰化症、パーキンソニズム痴呆症候群、びまん性レヴィ小体症、アルツハイマー病、ピック病、ウィルソン病、多発性硬化症、末梢神経疾患、脳腫瘍及び脳卒中等が挙げられる。なかでも特に、パーキンソン病、パーキンソン症候群、小脳・脊髄萎縮症、脳卒中が好ましい。
ここで言う神経疾患の治療とは、神経疾患患者における運動機能のリハビリテーション等を含む意味である。
上述のように、本発明のシステムを神経疾患の診断や治療に使用することにより、被験者の「動き」のみに基づいて行っていた従来の評価では不可能であった、運動指令レベルでの客観的かつ定量的な運動機能評価を行うことができる。そのため、神経疾患の診断や治療の正確性及び効率等を飛躍的に向上させることができ、患者への時間的、体力的及び経済的な負担を大いに低減することができる。
以上のことから、本発明の運動機能評価システムは、例えば、神経疾患の診断(又は検出)用システム、神経疾患の治療用システムとしても提供され得るものである。これら神経疾患の治療用又は診断用システムは、前述したように、総筋活動変動率(VTC)、筋活動の方向成分(DMA)、筋活動のバランス成分(BMA)及び追跡の成功率(SRV)についての解析結果のうち、2種以上を組み合わせて評価した結果に基づいて治療又は診断を行うことができるものが好ましく、例えば、DMAとSRV、BMAとVTC、BMAとVTCとSRV、DMAとVTC等の組み合わせを利用するものが例示できる。ここで、神経疾患の診断用システムとしては、例えば、神経疾患の治療の前後又は治療中の経時的なの病態を判断するシステムも含まれ、特に治療中の経時的なの病態を判断するシステムとしては、治療中にリアルタイムに治療方法や治療方針を決定するための、いわゆるナビゲーションシステムも含まれる。また、神経疾患の治療用システムとしては、例えば、具体的な治療後の運動機能の回復状況を判断するシステム、いわゆる運動機能のリハビリテーションシステムも含まれる。
3.運動機能評価方法
本発明の運動機能評価方法(以下、本発明の方法と言うことがある。)は、被験者の運動機能を評価する運動機能評価方法であって、以下の(a)~(f)の工程を含む評価方法である。
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示手段に表示する工程
(b)被験者が、前記カーソル画像を移動するための手段を使用して、前記ターゲット画像を前記カーソル画像により追跡する工程
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出する工程
(d)前記(b)の工程を行う被験者の筋活動状況を検出する工程
(e)前記(c)の工程により検出される追跡状況と、前記(d)の工程により検出される筋活動状況とを解析する工程
(f)前記(e)の工程により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する工程
本発明の方法は、被験者の運動機能を評価する方法であればよく、限定はされないが、様々な運動機能の中でも、特に手首運動の運動機能を評価する方法であることが好ましい。評価する手首運動の運動機能は、手首関節の2自由度の運動機能であることが好ましい。
なお、本発明の方法の詳細については、当業者は、前述した本発明のシステムに関する説明(特に、前記2.項の(1)~(6)に記載の説明)を参照することにより十分に理解し実施することができる。また、当業者は、被験者の手首運動以外の運動機能についても、手首運動の運動機能に関する説明及び当該技術分野の技術常識等を考慮して、本発明の方法を実施することができる。
本発明の方法の用途としては、限定はされないが、例えば、神経疾患の診断(又は神経疾患の検出)が好ましく挙げられる。すなわち、本発明は、前記本発明のシステムを用いた神経疾患の診断(又は検出)方法を提供するものであり、より具体的には、例えば、前記本発明のシステムを用いた神経疾患の治療前後の病態(すなわち病状の程度、変化の度合い等)の評価方法を提供するものである。また、本発明は、神経疾患を診断(又は検出)するための本発明の運動機能評価システムの使用や、神経疾患の診断(又は検出)用の当該運動機能評価システムも提供し得るものである。
さらに、本発明の方法の用途としては、神経疾患の治療も好ましく挙げられる。すなわち、本発明は、前記本発明のシステムを用いた神経疾患の治療方法を提供するものであり、より具体的には、例えば、前記本発明のシステムを用いた神経疾患患者における運動機能のリハビリテーション方法を提供するものである。また、本発明は、神経疾患を治療するための本発明の運動機能評価システムの使用や、神経疾患の治療用の当該運動機能評価システムも提供し得るものである。
なお、本発明の方法の用途に関する他の具体的な記載については、前記2.項の(7)に記載の説明を同様に適用することができる。
4.運動機能評価に使用されるプログラム
上述した運動機能評価方法における各工程(各ステップ)を実行させるためには、前述した運動機能評価システムにおける表示手段、追跡手段、追跡状況検出手段、筋活動状況検出手段、解析手段及び評価手段等の各手段を、上記ステップの実行のために相互に協調させて働かせることができるコンピュータ用プログラムが必要となる。このプログラムは、例えば、データ解析及び評価用コンピュータに内蔵又は接続された情報記憶手段(ROM、RAM等)に格納され、必要な機能又は処理を実行させる。
従って、本発明は、コンピュータを、本発明の運動機能評価システムとして実行させるためのコンピュータプログラムをも提供する。
具体的には、本発明のプログラムは、被験者の運動機能を評価するために使用されるプログラムであって、コンピュータに、以下の(a)~(f)で示した手順を実行させるためのプログラムである。
(a)ターゲット画像と当該ターゲット画像を追跡するためのカーソル画像とを含む画像情報を表示手段に表示し、
(b)被験者が、前記カーソル画像を移動するための手段を使用して、前記ターゲット画像を前記カーソル画像により追跡した軌跡を記録し、
(c)前記カーソル画像による前記ターゲット画像の追跡状況を検出し、
(d)前記ターゲット画像の追跡を行う被験者の筋活動状況を検出し、
(e)前記(c)で検出される追跡状況と、前記(d)で検出される筋活動状況とを解析し、
(f)前記(e)の解析により得られる解析結果を指標として被験者の運動機能を評価する手順。
本発明のコンピュータプログラムは、本発明のシステムにおいて使用するコンピュータ上で、又はネットワーク上で機能し得る公知のプログラム言語(限定はされないが、例えばPerl、C++、Java、Visual Basic等)で記載することができる。なお、本発明のシステムを稼動させるためには、本発明のプログラムの他に、通常のコンピュータネットワークに必要なプログラム、例えば周知のオペレーティングシステム(OS)やインターネットブラウザプログラム等も使用される。
本発明のプログラムは、被験者の運動機能の評価に使用されるものであればよく、限定はされないが、様々な運動機能の中でも、特に手首運動の運動機能の評価に使用されるものであることが好ましい。評価する手首運動の運動機能は、手首関節の2自由度の運動機能であることが好ましい。
なお、本発明のプログラムの詳細については、当業者は、前述した本発明のシステムに関する説明(特に、前記2.項の(1)~(6)に記載の説明)を参照することにより十分に理解し実施することができる。また、当業者は、被験者の手首運動以外の運動機能についても、手首運動の運動機能に関する説明及び当該技術分野の技術常識等を考慮して、本発明のプログラムを設計し且つ実施することができる。
本発明のプログラムの用途としては、限定はされないが、例えば、神経疾患の診断(又は神経疾患の検出)及び神経疾患の治療が好ましく挙げられる。すなわち、本発明は、神経疾患の診断用又は検出用プログラムも提供し得るものである。なお、本発明のプログラムの用途に関する他の具体的な記載については、前記2.項の(7)に記載の説明を同様に適用することができる。
本発明のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体又はコンピュータに接続しうる記憶手段に保存することができる。本発明のプログラムを含有するコンピュータ用記録媒体又は記憶手段も本発明に包含される。このような記録媒体又は記憶手段には、磁気的媒体(フレキシブルディスク、ハードディスク等)、光学的媒体(CD、DVD等)、磁気光学的媒体(MO、MD等)などがある。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0007】
本実施例では、手首関節マニピュランダムを用いた、手首関節の8方向の直線運動(Step-Tracking Wrist Movement)を運動課題とした(図3参照)。
<方法>
手首運動の運動機能評価システムとして、図1A及び図1Bに示される運動機能評価システムと同様のものを使用した。手首関節マニピュランダムは、有限会社豊洋電子精機製の『手首関節「位置・角速度・トルク」測定装置』を用いた。
被験者は、健常被験者8名(平均年齢:51.5歳)及び小脳疾患患者8名(平均年齢:54.4歳)とした。
具体的には、図3に示すように、中心のターゲット画像からその周辺の8方向のターゲット画像へカーソル画像を移動させる運動について、各方向への運動において脳が各筋肉に適切な運動指令を送っているかどうかを確認した。
具体的な方法は、以下の通りである。
(i)まず、被験者は、モニター画面の真ん中に直径1cmの丸いターゲット画像が表示されると、手首を動かしてカーソル画像を当該ターゲット画像内に入れ保持する。
(ii)次に、モニターの画面上で、手首の関節角度が20度に相当する位置に新しいターゲット画像が表示されたら、素早く手首を動かしてカーソル画像を当該新しいターゲット画像の中に入れる。
(iii)この際、2自由度の手首関節の位置と手首運動に関わる4種の主動筋(短橈側手根伸筋+長橈側手根伸筋(ECR)、尺側手根伸筋(ECU)、尺側手根屈筋(FCU)、橈側手根屈筋(FCR))の筋電信号を測定し記録する。なお、測定した筋肉及び電極のおおよその位置は図2Aに示す通りであり、各筋肉の機械的作用の方向は図2Bに示す通りである。各筋肉の機械的作用の方向については、4種の筋肉が手首関節の2自由度の動きをバランス良くカバーできる配置になっているため、様々な手首運動において、異常運動とその原因である筋活動との対応関係を分析することができる。
<異常運動と異常運動指令との関係>
(1)筋電信号の正規化
測定した筋電信号は、皮膚抵抗や電極位置により記録される信号の大きさが異なるため、筋電信号の大きさを手首関節トルクの値に換算する筋電信号の正規化を行った。各筋肉の機械的作用の方向に基づいて等尺性収縮時の手首関節トルクが1Nmのときの筋電信号が1になるように正規化した。さらに、正規化された筋電信号は、神経インパルスに対する筋収縮の遅れを補正するためにローパスフィルタを通した。このフィルタは神経生理学的な研究から,2次のローパスフィルタで十分なことが知られており、実施例においてはCut-off 4Hz、2次のButterworth filterを用いた。このとき、ローパスフィルタリングされた筋電信
JP0005154558B2_000002t.gif関係があるため、このフィルタリングされた筋電信号を脳から筋肉へ送られた運動指令としてみなして解析を行った。
(2)手首の動きと運動指令である筋活動との同定
JP0005154558B2_000003t.gif号の検出データ)から手首運動をどの程度よく説明できるかを、手首関節トルクレベルで確認した。まず、下記式(1)の運動方程式を用いて、手首運動の軌道から手首関節トルクを求め、4種の筋肉の筋活動からこのトルクを説明できるかどうか調べた。
JP0005154558B2_000004t.gifJP0005154558B2_000005t.gifは慣性モーメントであり、手を鋼体と見なして求めた。B及びKは、それぞれ粘性係数及び弾性係数であり、これまでに報告された値に基づいて、8方向運動ではB=0.03Nms/rad、K=0.2Nm/radとした(なお、実施例2のような数字の追跡運動ではB=0.2Nms/rad、K=0.2Nm/radとする。)。
このように、手首運動の軌道から求めた手首関節トルクに対し、下記式(2-1)
JP0005154558B2_000006t.gif関節トルクと最も合うように最適化し、各筋肉の作用ベクトル(Pulling
JP0005154558B2_000007t.gifJP0005154558B2_000008t.gif 図4に、8方向運動における手首の動きから求めたトルクと筋活動から求めたトルクとの一致具合を示した。青い線は、手首の動きから運動方程式を用いて求めた手首のトルクであり、赤い線は、4種の筋電信号の線形和である。図4に示すように、健常被験者だけではなく小脳疾患患者においても、手首のトルクと4種の筋肉の筋活動との間に極めて高い相関(相関係数R=0.82~0.91)があることが明らかとなった。
つまり、この結果は、4種の筋肉の筋活動パターンの中に、異常運動を十分に説明できる情報が含まれていることを意味するものである。わずか4種の筋肉の筋活動で運動指令を十分な精度で記録できることは、本発明の運動機能評価システムの開発において新たに見出されたことであり、実用上特筆すべき利点である。手首運動に関与し得る前腕の筋肉は、24種も存在するが、仮にその全ての活動を記録しなければ手首の動きが説明できないとすれば、本発明のシステムのように表面筋電信号を検出することだけでは済まず、苦痛を伴う針電極の使用が不可避となる。そうなれば、筋肉を同定しながら電極を設置するだけで数時間を要し、実用的な検査には到底なり得ず、繰り返し検査することも不可能と考えられる。
<神経疾患(小脳疾患)における異常運動機能の解析評価>
(1)異常運動指令解析の一例:小脳疾患
最適化によって決定した、前記式(2-1)及び式(2-2)中の各筋肉の作用ベクトル
JP0005154558B2_000009t.gif様々な手首運動において、個々の筋肉の寄与の仕方も詳細に分析でき、神経疾患における異常運動の中枢メカニズムの推定も可能になった。一例として、小脳疾患患者における手首運動の運動機能の解析結果(運動指令の解析結果)を図5に示した。
図5の上図(上段の5つの図)では、100ミリ秒毎の手首関節の動きをベクトルで表した。図5の下図(下段の5つの図)では、対応する上図の瞬間の各筋肉(ECR、ECU、FCU、FCR)の寄与の程度を矢印の長さで示した。図5の上図を見ると、小脳疾患患者では手首関節が最初から意図しているターゲットと反対の方向へ動いたり、途中で止まって別の方向へ逸れたりする異常運動が生じていた。本発明の運動機能評価システムにより、図5の下図に示すように、各瞬間の手首運動を生じさせている原因となる運動指令を各筋肉の寄与度として分析することができた。例えば、運動の最初に、本来抑制されるべき手首を上に引っ張るECRに異常な運動指令が送られ、手首が上に動いてしまったことが分かった。その後、正しい運動指令がFCUへ送られ、本来の下向きの軌道に復帰したが、その後、FCRに異常な運動指令が送られて手首が左に引っ張られ、軌道が左に逸れつつあることが明確に認められた。
すなわち、従来の神経疾患患者における運動機能評価は、図5の上図のような「動き」についての特徴のみを抽出して数値化していたが、本発明の運動機能評価システムを使用することによって、異常運動の原因である運動指令そのものの異常までも詳細に分析できるようになった。
本発明の運動機能評価システムは、神経疾患患者における異常運動の中枢メカニズムの解明に役立つと共に、運動指令(筋活動状況の検出及び解析結果)を指標とするリハビリテーションという、全く新しい応用分野の開拓に極めて重要な貢献をするものである。
【実施例2】
【0008】
本実施例では、手首関節マニピュランダムを用いて、所定の軌道で動くターゲット画像の追跡運動(Visually-Guided Tracking Movement)を運動課題とした(図6参照)。
<方法>
手首運動の運動機能評価システムとして、図1A及び図1Bに示される運動機能評価システムと同様のものを使用した。手首関節マニピュランダムは、有限会社豊洋電子精機製の『手首関節「位置・角速度・トルク」測定装置』を用いた。
被験者は、健常被験者10名、小脳疾患患者5名、及びパーキンソン病患者13名とした。
図6に示すように、動くターゲット画像の追跡運動では、直径1cmの丸いターゲット画像がほぼ等速で数字の2の形状の軌道で動き、被験者は黒い点で示されるカーソル画像を、手首関節マニピュランダムを手首で操作することにより移動させて、ターゲット画像の丸の中に保持するようにした。
<異常運動と異常運動指令との関係>
図7に示すように、小脳疾患患者はターゲット画像の動きに合わせてカーソル画像で追跡することができず、異常運動を示した。特に、図7中、点線で囲まれた4箇所において数字の2の形状の軌道を大きく外れる結果となった。なお、この4箇所における運動は、図8の右図の小脳疾患患者のデータ中の4箇所の点線の位置に、経時的に対応している。
健常被験者及び小脳疾患患者について、追跡運動中の、手首関節の動き(ターゲット画像追跡状況)と4種の筋肉(ECR、ECU、FCU、FCR)の表面筋電信号(筋活動状況)を検出した。その結果を図8に示した。
【実施例3】
【0009】
実施例1の結果から、手首運動に関係する4つの筋活動パターンの中に異常運動を十分に説明できる情報が含まれていることを確認することができたので、その知見に基づき、筋活動および運動指令レベルから、小脳疾患(Cerebellar disease)及びパーキンソン病(Parkinson disease)などの各種神経疾患の位置づけ(判定、評価、診断)を行うことを目的とした。
まず、各種神経疾患の位置づけを行うためのパラメータ(VTC,DMA,BMA,SRV)を以下に示した。
<総筋活動変動率(Variability of Total Contraction,VTC)>
総筋活動変動率(VTC)は、図9に示す各筋肉が出しているトルクの大きさ
JP0005154558B2_000010t.gifのように定義した。
JP0005154558B2_000011t.gifJP0005154558B2_000012t.gif似張力を関節トルクに変換する作用ベクトル(Pulling Vector)とした。
JP0005154558B2_000013t.gifるため、その絶対値は下記式(4)のように定義した。
JP0005154558B2_000014t.gif 機能的には、総筋活動変動率(VTC)は、運動指令(筋活動)の変化の激しさを表す。従って、筋活動が突発的に大きく変動する場合に大きくなる。例えば、小脳障害による運動失調(小脳疾患患者;Cerebellar disease)では、運動の間中、4つの筋肉の活動が規則性なく突発的に大きく変動し続け、そのためVTCが非常に高くなった(図11B)。これに対し、パーキンソン病(Parkinson disease)では、どの筋活動も変化に乏しく、メリハリ(articulation)のない筋活動になるため、VTCは非常に低くなった(図11B)。また、正常(健常)被験者(正常コントロール;Normal control)では、メリハリのある活発な筋活動を示す場合には高めのVTCとなり、非常に滑らかな筋活動の変化を示す場合には低めのVTCとなり、その分布に幅があるのが特徴的であった(図11B)。なお、VTCは同じ被験者でも、運動課題の特徴によりシステマチックに変動するので注意が必要なものである。例えば、スピードの急激な変化が多い課題では高く、滑らかな運動では低くなる。従って、その比較は共通の運動課題(軌道・スピード)で行う必要がある。生理的に正常な運動は筋活動(運動指令)を滑らかに変化させることにより、目標到達時の誤差が小さくなることが知られており(Harris and Wolpert,Nature,vol.394,p.780-784,1998)、運動指令の変動を小さく保つことはその意味からも合目的的である。VTCは運動指令の変化の滑らかさとは逆相関を持つパラメータであるが、その評価には運動生理学的な観点からも重要な意味がある。VTC以外にも、総筋活動変動率の分散、総筋活動度、総筋活動度の分散、各筋肉の変動率等のパラメータがVTCとの相関が非常に高く、運動指令の変動の激しさを表現するパラメータとして有用であると考えられた。
<筋活動の方向成分(Directionality of Muscle Activity,DMA)>
筋活動の方向成分(DMA)は、図10に示すように筋活動から求めた手首関
JP0005154558B2_000015t.gif量化を行った。
JP0005154558B2_000016t.gifJP0005154558B2_000017t.gifJP0005154558B2_000018t.gifJP0005154558B2_000019t.gifJP0005154558B2_000020t.gif この筋活動の方向成分(DMA)は、筋活動の方向性の鋭さを表しており、主動筋(agonist)を選択的に活性化し、拮抗筋を選択的に抑制した状態、つまり主動筋と拮抗筋の活動のコントラストがはっきりしている時に高くなった。逆に、主動筋も拮抗筋も両方とも強い活動を示し、かつその差が小さい場合には低くなった。例えば、4つの筋肉の活動が手首を動かすトルクに反映されて動きに貢献している時は、DMAは高くなり、逆に、同時活性化(co-contraction)として関節の硬さ、姿勢の保持に貢献しているときは、DMAは低くなった。エネルギー消費の観点から言えば、DMAが大きいときは筋活動が効率的に運動エネルギーに変換されている状態であり、その運動は高効率であると考えられた。小脳性の運動失調では、突発的な筋活動の変動による軌道のブレを防ぐために、患者は運動前も運動中も、全ての筋肉の活動を高く保って(すなわち力みながら)関節を硬くしている状態が認められた。このため、前記式(5)の積分記号の中の分母が大きくなり、その結果、DMAが非常に小さくなった(図11A)。一方、パーキンソン病でもDMAは小さいが、その原因は異なるものであった。パーキンソン病の場合は、患者がいくら努力しても主動筋にも拮抗筋にも微弱な筋活動しか生じないため、両者の活動に差がつかず、トルク、つまり前記式(5)の積分記号中の分子が非常に小さくなる結果、DMAが小さくなった。これらは、原因は全く異なるが、両疾患群ともに正常被験者に見られるようなメリハリのある運動指令が生成できない点で共通していた。このように、DMAは、筋活動が無駄なくトルクに変換され、意図した運動が効率的に行われているかを鋭く反映する有用なパラメータであることが分かった。なお、DMAは4つの筋活動が平衡して静止状態(トルクゼロ)の時に最小値0をとり、一つの筋のみが活動して他の筋の活動が0の時(実際にはあり得ない状況であるが)に最大値1をとる。
<筋活動のバランス成分(Balance component of Muscle Activity,BMA)>
上述したDMAと双対をなすパラメータである筋活動のバランス成分(BMA)も、有用なパラメータであり、具体的には、下記式(8)のように定義した。
JP0005154558B2_000021t.gif DMAが、筋活動がトルクに反映される効率の良さを表現するものであるのに対し、BMAは逆に筋活動が同時活性化に消費され、トルクに現れない部分を評価するものである。この部分の筋活動は手首周りで釣り合い、関節トーヌスとして現れ、姿勢の保持に貢献していると考えられた。BMAは筋活動が平衡してトルクがゼロの時に最大値1をとり、逆に1個の筋のみが活動して他の筋の活動がゼロの時(実際にはあり得ない状況であるが)に最小値0をとる。前記式(8)から明らかなように、BMAの大小はDMAの大小とちょうど逆になる。図11Bに示すように小脳疾患及びパーキンソン病ではDMAが小さいため、BMAは大きく、正常被験者ではDMAが大きいため、BMAは小さくなった。
関節トーヌスという概念は、神経疾患の病態を評価するパラメータとして臨床の現場で極めて重要な役割を果たしてきた。ただし、ここでいう関節トーヌスは受動的な運動によるものであり、具体的には患者が脱力した状態で医師が患者の手足の関節を動かす際の主観的な抵抗として、半定量的に評価された。これに対して、BMAは運動中の関節トーヌスを反映する定量的パラメータであり、これまで臨床の現場では得られなかった全く新しい情報を提供することができた。さらに、運動中の関節トーヌスの推定は、実験室内で極めて高価で大がかりな計測器具と長い時間と極めて複雑な方法(Gomi & Kawato,Science,vol.272,p.117-120,1996)によるしかなかったため、ほとんど行われていなかった。本発明の運動機能評価システムによるBMAの計算は、運動中の関節トーヌスを極めて簡便に推定する方法を確立したことになり、その臨床的な意義は特筆すべきものと考えられた。
<追跡の成功率(Success Rate of Visually-guided tracking,SRV)>
上述したような筋活動(VTC、DMA、BMA)に関係するパラメータには含まれないが、追跡の成功率(SRV)は、視覚性追跡運動(実施例2で示した図6参照)の正確さを評価するパラメータであり、全運動時間の何パーセントの間、カーソルをターゲットの「○」の中に保持できたかを示すものである。正常被験者と神経疾患患者との間で極めて差がつきやすく、筋活動の特徴と組み合わせたときに病態の評価に非常に有用であるため(図11A、図11C(後述))、本発明のシステムにおいて計測される重要なパラメータとして使用した。
<運動指令レベルから見た小脳疾患及びパーキンソン病の位置づけ>
以上のように、本発明のシステムでは、運動のダイナミクスを十分に説明できる4個の筋活動から、各種神経疾患の診断及びそれらの病態の評価に有用な、ユニークで多様なパラメータを抽出することができた。これらのパラメータは単独でも筋活動のパターンを特徴付ける固有の機能的意味を有するが、組み合わせて評価することにより、さらにその評価の意義及び精度が向上することが示された。
例えば、筋活動のバランス成分だけで評価すると、小脳疾患とパーキンソン病との区別は明らかではないが、筋活動のバランス成分と総筋活動変動率とを組み合わせて評価することにより、正常被験者(Normal control)、パーキンソン病患者、小脳疾患患者を、それぞれ明瞭に異なるクラスターとして分類することができた(図11B)。さらに、図11Bでは、正常被験者(Normal control)と、2つの疾患群(パーキンソン病患者及び小脳疾患患者)とのクラスター間の距離が一見小さく見えるが、図11Cに示すように、さらに運動の正確さの指標(追跡の成功率:SRV)を加えて評価すれば、正常被験者と2つの疾患群との間には大きなギャップが存在することを明確化することができた。なお、図11Dに、総筋活動変動率と筋活動の方向成分とを組み合わせて評価した結果も示した。
また、正常被験者と各疾患群とのクラスターの位置関係から、治療の目指すべき方向(治療方針、治療方法)を明確化することができた。さらには、正常域への接近の程度を経時的に評価することで、治療効果の評価も行い得ることが示された。つまり、前述した各種パラメータを適切に組み合わせれば、神経疾患の診断や治療のためのナビゲーションシステムを構築することが可能と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明によれば、被験者の運動機能、例えば手首関節の2自由度の運動機能を、定量的かつ客観的に評価することができ、しかも非侵襲的かつ簡便に評価することができる、運動機能評価システムを提供することができる。
本発明の運動機能評価システムは、パーキンソン病、脊髄小脳変性症及び脳卒中といった神経疾患の診断(特に治療前後の病態の評価)や治療(特に運動機能のリハビリテーション効果の評価)において、客観的かつ定量的な評価結果を得ることができる点で極めて有用性の高いものである。また、本発明の運動機能評価システムは、上述のような神経疾患患者に対して、時間的、体力的及び経済的負担が小さく、かつ臨床現場等において簡便に使用することができる点で、極めて実用性に優れたものである。
図面
【図1B】
0
【図3】
1
【図5】
2
【図9】
3
【図10】
4
【図1A】
5
【図2A】
6
【図2B】
7
【図4】
8
【図6】
9
【図7】
10
【図8】
11
【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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