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明細書 :アレルギー性疾患のバイオマーカーおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5297389号 (P5297389)
登録日 平成25年6月21日(2013.6.21)
発行日 平成25年9月25日(2013.9.25)
発明の名称または考案の名称 アレルギー性疾患のバイオマーカーおよびその利用
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/573       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C07K  16/40        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
G01N 33/573 A
G01N 33/53 Q
C07K 16/40
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2009-547074 (P2009-547074)
出願日 平成20年12月19日(2008.12.19)
国際出願番号 PCT/JP2008/073175
国際公開番号 WO2009/081854
国際公開日 平成21年7月2日(2009.7.2)
優先権出願番号 2007330025
優先日 平成19年12月21日(2007.12.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年11月21日(2011.11.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】安東 嗣修
【氏名】倉石 泰
【氏名】中野 祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100099623、【弁理士】、【氏名又は名称】奥山 尚一
【識別番号】100096769、【弁理士】、【氏名又は名称】有原 幸一
【識別番号】100107319、【弁理士】、【氏名又は名称】松島 鉄男
【識別番号】100114591、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 英文
【識別番号】100118407、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 尚美
【識別番号】100125380、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 綾子
【識別番号】100125036、【弁理士】、【氏名又は名称】深川 英里
【識別番号】100142996、【弁理士】、【氏名又は名称】森本 聡二
【識別番号】100154298、【弁理士】、【氏名又は名称】角田 恭子
【識別番号】100162330、【弁理士】、【氏名又は名称】広瀬 幹規
審査官 【審査官】藤井 美穂
参考文献・文献 特表平11-501807(JP,A)
日本薬理学雑誌,2008年 9月 1日,Vol.132, No.3,p.23P, #C-05
American Journal of Pathology,1988年,Vol.133, No.2,pp.218-225
鹿取信,薬の有害反応,標準薬理学,医学書院,2003年11月15日,第6版第3刷,p.40-41
川崎医療福祉学会誌,2007年,Vol.17, No.1,pp.71-79
調査した分野 C12N 15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アトピー性皮膚炎による掻痒を示唆するグランザイム遺伝子の発現量の測定方法であって、
被験者の生体試料中のグランザイム遺伝子の発現量を測定する工程を含み、
ここで、グランザイム遺伝子の発現量の測定結果が、対照試料と比較して高い場合にアトピー性皮膚炎による掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項2】
虫刺されによる掻痒を示唆するグランザイム遺伝子の発現量の測定方法であって、
被験者の生体試料中のグランザイム遺伝子の発現量を測定する工程を含み、
ここで、グランザイム遺伝子の発現量の測定結果が、対照試料と比較して高い場合に虫刺されによる掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項3】
アトピー性皮膚炎による掻痒を示唆するRNA又はその相補的ポリヌクレオチドの量の測定方法であって、
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと、グランザイムA遺伝子の一部の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるバイオマーカーとを結合させる工程と、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記バイオマーカーを指標として測定する工程と
を含み、ここで、前記バイオマーカーに結合したRNA又はその相補的ポリヌクレオチドの量が、対照試料と比較して高い場合にアトピー性皮膚炎による掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項4】
虫刺されによる掻痒を示唆するRNA又はその相補的ポリヌクレオチドの量の測定方法であって、
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと、グランザイムA遺伝子の一部の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるバイオマーカーとを結合させる工程と、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記バイオマーカーを指標として測定する工程と
を含み、ここで、前記バイオマーカーに結合したRNA又はその相補的ポリヌクレオチドの量が、対照試料と比較して高い場合に虫刺されによる掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項5】
アトピー性皮膚炎による掻痒を示唆するグランザイムAの生成量の測定方法であって、
被験者の生体試料中のグランザイムAの生成量を測定する工程を含み、
ここで、グランザイムAの生成量の測定結果が、対照試料と比較して高い場合にアトピー性皮膚炎による掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項6】
虫刺されによる掻痒を示唆するグランザイムAの生成量の測定方法であって、
被験者の生体試料中のグランザイムAの生成量を測定する工程を含み、
ここで、グランザイムAの生成量の測定結果が、対照試料と比較して高い場合に虫刺されによる掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項7】
アトピー性皮膚炎による掻痒を示唆するグランザイムAの生成量の測定方法であって、
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と、グランザイムAを認識する抗体を含有してなるバイオマーカーとを結合させる工程と、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、前記バイオマーカーを指標として測定する工程と
を含み、ここで、前記バイオマーカーに結合したタンパク質量が、対照試料と比較して高い場合にアトピー性皮膚炎による掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
【請求項8】
虫刺されによる掻痒を示唆するグランザイムAの生成量の測定方法であって、
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と、グランザイムAを認識する抗体を含有してなるバイオマーカーとを結合させる工程と、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、前記バイオマーカーを指標として測定する工程と
を含み、ここで、前記バイオマーカーに結合したタンパク質量が、対照試料と比較して高い場合に虫刺されによる掻痒に罹患している可能性が高いことが示唆される、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
アレルギー性疾患のバイオマーカーおよびその利用に関する。詳しくは掻痒等の、ヒスタミン遊離のみを原因とするものではないアレルギー反応に起因するアレルギー疾患に対するバイオマーカーとしてのグランザイムAとその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
痒みは、ヒトに掻きたいとの衝動を引き起こす感覚として容易に理解される。しかし、「古典的な起痒物質のヒスタミン(histamine)がマウスなどの動物に掻き動作を起こさない」、「慢性痛モデル動物のアジュバント関節炎ラットの掻き動作が鎮痛薬で抑制される」などから,動物の掻き動作が必ずしもヒトの痒みの指標とはならないとされてきた。
マウスの背中(首に近い吻側部)の皮膚に起痒物質と発痛物質を注射すると、起痒物質のみが後肢による掻き動作を引き起こし、掻き動作が痒みの指標となる(非特許文献1)。ヒトは、身体のほとんどの部位を手で掻くことができる。しかし、マウスは後肢を掻くことが出来ない。マウスは、後肢に痒み刺激を加えると噛む反応を示し、痛み刺激では舐める反応を示す(非特許文献2)。
【0003】
蚊に刺されると多くのヒトが強い痒みを感じる。蚊刺しによる皮膚反応と痒みは、アレルギー性反応だと考えられている。初回の蚊刺しはマウスに掻き動作をほとんど起こさないが、1週間に2回の頻度で蚊刺しを繰返すと、次第に掻き動作が増加する。蚊唾液腺抽出物の反復注射でも掻き動作が次第に増加する。この掻き動作の増加は、肥満細胞(マスト細胞)欠損マウスでも観察される。また、感作マウスでは、蚊刺による血漿血管漏出がH1ヒスタミン受容体遮断薬によって抑制されるが、掻き動作は抑制されない。すなわち、皮膚の即時型アレルギーによる痒みには、マスト細胞-ヒスタミン系以外の機序が重要である(非特許文献3)。
蚊唾液腺抽出物の反復注射で増加するマウスの掻き動作は、各種の抗アレルギー作用を有するアレルギー治療薬であるアゼラスチンにより抑制されるが、H1ヒスタミン受容体遮断薬のテルフェナジンやステロイドのデキサメタゾンでは抑制されない。また、感作マウスに蚊唾液腺抽出物を注射すると、一次求心線維の活動が増加する。この反応をアゼラスチンは抑制するが、テルフェナジンは抑制しない(非特許文献4)。

【非特許文献1】Eur. J. Pharmacol., 275: 229-233 (1995)
【非特許文献2】Pain Res., 14: 53-59 (1999)
【非特許文献3】Jpn. J. Pharmacol., 86: 97-105 (2001)
【非特許文献4】J. Pharmacol. Sci., 91: 263-266 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、アレルギーの診断としては、マスト細胞からのヒスタミン遊離に基づいた抗原抗体反応を応用したものが多い。しかし、抗原抗体反応系に依存したものでないIV型アレルギーの様な反応が存在する。また、これまでの抗アレルギー薬は、マスト細胞の膜安定化及びその遊離物質に対する拮抗薬を中心に開発されてきた。しかし,難治性の掻痒性皮膚疾患の痒みには、第一選択薬として使用されている抗ヒスタミン薬が無効である場合が多く、新規な鎮痒薬の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、痒み等のアレルギー疾患のモデル動物として、蚊唾液腺抽出物を用い感作したマウスを用いて蚊抽出物によりアレルギー反応を惹起し、アレルギー性の痒みを検討した結果、(1)感作マウスを蚊唾液腺抽出物で惹起すると、セリンプロテアーゼが遊離すること、(2)蚊アレルギー性掻痒がプロテアーゼ阻害剤で抑制されることを見出していた。
また、本発明者らは、感作マウス皮膚と非感作マウス皮膚に対しては、マスト細胞の数の変化はみられないか、少ない一方で、感作マウス皮膚において、CD4陽性(CD4)T細胞の数は、非感作マウス皮膚より増加することをも見出していた。
本発明者らは、さらに鋭意検討を加え、感作マウス皮膚でプロテアーゼ活性が非感作マウスに比べて増加することから、感作マウスを蚊唾液腺抽出物で惹起すると、セリンプロテアーゼが遊離し、またリンパ球で発現するグランザイムA、BおよびCの全てが感作マウス皮膚で増加するが、CD4T細胞においてはグランザイムAのみ発現していることを見出した。さらに抗原刺激により誘発されるアレルギー性掻痒反応とグランザイムAの遊離の時間経過が一致し、CD4T細胞は、非感作マウス皮膚には認められず、感作マウス皮膚でのみ認められた。さらに、グランザイムAを皮内注射したマウスが、痒み反応を生じたことから、グランザイムAを介したアレルギー反応の存在が示唆された。グランザイムAの遊離がアレルギー疾患特異的であることから、グランザイムAをアレルギーの診断のバイオマーカーとして使用する方法を考案し、本発明を完成するに至った。本願発明は、以下に示す通りである。
【0006】
[1]グランザイムA遺伝子の一部の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるアレルギー性疾患のバイオマーカー。
[2]アレルギー性疾患が、ヒスタミン遊離のみを原因とするものではないアレルギー反応に起因し、当該疾患の検査においてプローブまたはプライマーとして使用される上記[1]記載のバイオマーカー。
[3]アレルギー性疾患が掻痒を伴うアレルギー性疾患である上記[1]または[2]に記載のバイオマーカー。
[4]下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のグランザイム遺伝子の発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
[5]下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと上記[1]~[3]いずれかに記載のバイオマーカーとを結合させる工程、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記バイオマーカーを指標として測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
[6]グランザイムAを認識する抗体を含有してなるアレルギー性疾患のバイオマーカー。
[7]アレルギー性疾患が、ヒスタミン遊離のみを原因とするものではないアレルギー反応に起因し、当該疾患の検査においてグランザイムA検出用抗体として使用される上記[6]記載のバイオマーカー。
[8]アレルギー性疾患が掻痒を伴うアレルギー性疾患である上記[6]または[7]に記載のバイオマーカー。
[9]下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のグランザイムAの発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
[10]下記の工程(a)、(b)および(c)を含むアレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と上記[6]~[8]いずれかに記載のバイオマーカーとを結合させる工程、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、前記バイオマーカーを指標として測定する工程、および
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
[11]下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、グランザイムAの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とグランザイムAの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるグランザイムAの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるグランザイムAの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、グランザイムAの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
[12]下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、掻痒を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をグランザイムAに接触させる工程、
(b)被験物質によるグランザイムA活性の阻害を測定する工程、および
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、掻痒を抑制する被験物質を選択する工程。
[13]前記掻痒がアレルギー性疾患に伴うものである、上記[12]に記載のスクリーニング方法。
「14」グランザイムAに結合する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の治療剤。
[15]グランザイムAの発現量を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
[16]前記物質がグランザイムAに対する抗体または当該抗体をコードする核酸分子を含む発現ベクターである上記[15]に記載の治療剤。
[17]セリンプロテアーゼ阻害作用を有するものである上記[15]または[16]のいずれかに記載の治療剤。
[18]グランザイムA遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
[19]前記物質が、グランザイムA遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸またはsiRNAである上記[18]に記載の治療剤。
[20]セリンプロテアーゼ阻害作用を有するものである上記[18]または[19]に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のバイオマーカーによると、従来の抗アレルギー薬が効きにくい難治性の掻痒性皮膚疾患の指標を提供することが可能となり、当該疾患の容易かつ的確な診断をすることができる。本発明のアレルギー性疾患の診断方法によると、抗原抗体反応系に依存したものでないIV型アレルギー様な反応が存在するアレルギー疾患の診断等が可能となる。
特に、抗ヒスタミン薬を投与しても効果がない又は効果が低いアレルギー疾患の患者を、本発明のバイオマーカーにより同定することができる。アレルギー治療において第一選択薬として抗ヒスタミン薬が処方されることが多い現状の下では、上記患者を治療前に同定して、別の治療計画を取ることにより、無駄な治療を避け、より効果的な治療方針を選択でき、患者の経済的及び精神的な負担が軽減できるとともに、医療費の削減を図ることができる。
本発明のスクリーニング方法によると、グランザイムAの作用機序に基づく新規なアレルギー性疾患の治療剤の開発が可能となる。本発明の治療剤によると、グランザイムAの作用を特異的に調節することができ、副作用の少ないアレルギー性疾患の治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、蚊唾液腺抽出物で感作したマウス皮膚と非感作マウスの皮膚のプロテアーゼ活性を示した図である。縦軸は、非感作マウスにおけるプロテアーゼ活性を100としたときの相対値である。
【図2】図2は、蚊唾液腺抽出物で感作したマウスに蚊唾液腺抽出物を投与すると、セリンプロテアーゼが遊離することを示す図である。
【図3】図3は、蚊唾液腺抽出で感作したマウス皮膚と非感作マウス皮膚について、マスト細胞数を比べた写真である。
【図4】図4は、蚊唾液腺抽出で感作したマウス皮膚と非感作マウス皮膚について、CD4T細胞数を比べた写真である。
【図5】図5は、皮膚で発現しているグランザイムのサブタイプについて、リアルタイムPCR法で調べた結果を示す図である。
【図6】図6は、皮膚から単離したCD4T細胞に発現しているグランザイムのサブタイプについて、リアルタイムPCR法で調べた結果を示す図である。
【図7】図7は、健常マウスにグランザイムAを皮内注射した場合における掻き動作の誘発を示す図である。
【図8】図8は、グランザイムAの皮内注射で誘発された掻き動作が、ナルトレキソンで抑制されることを示す図である。
【図9】図9は、アトピー性皮膚炎マウスであるNCマウスについて、痒みや皮膚炎の発生していない(SPF飼育)マウス皮膚より、痒みや皮膚炎の発生しているマウス(コンベンショナル飼育)でグランザイムAのmRNAの発現が増加することを示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0010】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖となどの各1本鎖DNAを意味する。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に断らない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログ、スプライスバリアントなど)、変異体および誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が含まれる。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号1で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0011】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつ Identityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http: //www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0012】
本明細書において「グランザイムA遺伝子」または「グランザイムAのDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトグランザイムA遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体および誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を含む。具体的には、配列番号:1に記載のヒトグランザイムA遺伝子(GenBank Accession No. NM_006144)や、そのマウスホモログ(例えば、GenBank Accession No. NM_010370, XM_906760)などが挙げられる。
【0013】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」とは、特定のアミノ酸配列(配列番号2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを意味する。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらは HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体を含み、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0014】
本明細書において「グランザイムAタンパク質」または単に「グランザイムA(以下、GZMAと略することもある)」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトグランザイムAやその同族体、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを意味する。具体的には、配列番号2(GenBank Accession No. NP_006135.1)に記載のアミノ酸配列を有するヒトグランザイムAや、そのマウスホモログ(例えば、GenBank Accession No. NP_034500.1)などが挙げられる。
【0015】
本明細書において「抗体」とは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部を意味する。
【0016】
本明細書において「バイオマーカー」とは、アレルギー性疾患の罹患の有無、罹患の程度もしくは改善の有無や改善の程度を診断するために、またアレルギー性疾患の予防、治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、アレルギー性疾患の罹患に関連して生体内において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が含まれる。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子およびタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0017】
本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、抗原刺激によるアレルギー性疾患に伴い本発明のグランザイムA遺伝子が発現上昇する組織または細胞をいう。具体的には、皮膚、CD4T細胞などが挙げられる。
【0018】
本明細書において「アレルギー疾患」とは、いわゆる即時型アレルギーと呼ばれるI型アレルギー及び非I型アレルギー(非即時型アレルギー)の両者を含み、好ましくは、「アレルギー疾患」とは、即時型アレルギー反応および非即時型アレルギー反応に起因するアレルギー疾患であって、ヒスタミン遊離のみに依存しないアレルギー疾患をいう。ヒスタミン遊離のみに依存しないアレルギー疾患とは、ヒスタミン遊離を伴うアレルギー疾患又はヒスタミンの遊離を伴わないアレルギー疾患であって、グランザイムAのような他の因子が介在するアレルギーをいう。すなわち、ヒスタミンの遊離を伴うアレルギー疾患の場合には、少なくともヒスタミン及びグランザイムAを介してアレルギー反応が生じる場合をいい、ヒスタミンの遊離を伴わないアレルギー疾患の場合には、少なくともグランザイムAを介してアレルギー反応が生じる場合をいう。具体的なアレルギー疾患の例として、例えば、アトピー性皮膚炎、掻痒症、蚊・ブヨ・毛虫などの虫刺されによるかゆみなどが挙げられる。
【0019】
本発明のバイオマーカーは、グランザイムA遺伝子の塩基配列において、一部の塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドを含有することを特徴とするものである。具体的には、本発明のバイオマーカーは、配列番号1に記載のグランザイムA遺伝子の塩基配列において、一部、例えば、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドを含有するものを挙げることができる。
【0020】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、グランザイムA遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において、例えば、連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体またはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0021】
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記グランザイムA遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0022】
さらに上記正鎖のポリヌクレオチドおよび相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態でバイオマーカーとして使用されても、また二本鎖の形態でバイオマーカーとして使用されてもよい。
【0023】
本発明のアレルギー性疾患のバイオマーカーは、具体的には、グランザイムA遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれらグランザイムA遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される例えば、15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0024】
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、グランザイムA遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、グランザイムA遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0025】
本発明のバイオマーカーは、例えば、配列番号1に記載のヒトグランザイムA遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)またはベクターNTI (Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、もしくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0026】
本発明バイオマーカーをアレルギー性疾患の検出においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp~100bp、好ましくは15bp~50bp、より好ましくは15bp~35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp~全配列の塩基数、好ましくは 15bp~1kb、より好ましくは100bp~1kbの塩基長を有するものが例示できる。
【0027】
本発明のバイオマーカーは、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダーゼーション法などの特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってアレルギー性疾患におけるグランザイムA遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
【0028】
本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(A)および(B)を含むことを特徴とする:
(A)被験者の生体試料中のグランザイム遺伝子の発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0029】
例えば、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明バイオマーカーとを結合させる工程、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記バイオマーカーを指標として測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0030】
測定対象物としてRNAを利用する場合、具体的には、本発明の診断方法は、本発明のバイオマーカーをプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などにより前記バイオマーカーへのRNAまたはその転写物の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0031】
測定対象の生体試料としては、使用する検出手段の種類に応じて、被験者の生体組織、例えば、皮膚や粘膜の一部をバイオプシ(生検)等で採取するか、または血液などの体液中に存在する細胞を回収して得られた検体から常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0032】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記バイオマーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のグランザイムA遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明のバイオマーカー(相補鎖)を放射性同位元素(RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成されたバイオマーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、バイオマーカーの標識物(RIもしくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。
【0033】
RT-PCR法を利用する場合は、本発明の上記バイオマーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のグランザイムA遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のグランザイムA遺伝子の領域が増幅できるように、本発明のバイオマーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識したバイオマーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はバイオアナライザーなどで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0034】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記バイオマーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、例えば、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製し、ビオチンで標識されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、蛍光標識されたアビジンで検出する方法を挙げることができる。
【0035】
In situハイブリダイゼーション法を利用する場合は、前述の被験者の生体組織を生検によって採取し、切片を調製する。本発明のバイオマーカー遺伝子の特異的アンチセンスプローブまたはセンスプローブを作製する。前記プローブは、RI標識または非RI標識(例えば、DIG標識)でラベリングする。前記切片を脱パラフィン(パラフィン切片の場合)および前処理した後、エタノール等で固定する。固定した切片をプレハイブリダイズし、前記プローブとハイブリダイズした後、洗浄およびRNase処理を行い、標識に応じた検出方法(例えば、RI標識の場合は現像、非RI標識の場合は免疫学的検出と検鏡)により生体組織におけるグランザイムA遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。
【0036】
本発明の診断方法において、前記工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、バイオマーカーへの結合量が増大していることを指標として行われることが好ましい。
【0037】
別の態様として、本発明のバイオマーカーは、グランザイムAを認識する抗体を含有することを特徴とするものである。
【0038】
前記抗体は、被験者の生体試料におけるグランザイムAタンパク質の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がアレルギー性疾患に罹患しているか否かまたはその程度を測定することのできるツール(バイオマーカー)として有用である。
【0039】
また前記抗体は、後述するアレルギー性疾患の症状の予防、予想において、グランザイムAタンパク質の発現変動を検出するためのツール(バイオマーカー)としても有用である。
【0040】
前記抗体は、その形態に特に制限はなく、グランザイムAタンパク質を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらに、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子に基づいて作製されたキメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントであってもよい。
【0041】
これらの抗体の製造方法は公知であり、前記抗体も常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12~11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したグランザイムAタンパク質を用いて、あるいは常法に従ってこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、ウサギ、ヤギなどの非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したグランザイムAタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウスなどの非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubelet al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0042】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるグランザイムAタンパク質は、本発明などにより提供される遺伝子の配列情報(配列番号1等)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0043】
具体的には、グランザイムAタンパク質をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また、これらグランザイムAタンパク質の部分ペプチドは、本発明等により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号2等)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0044】
これらのバイオマーカーは、キットの形状とすることもできる。キットは、例えば、グランザイムA遺伝子の一部の塩基配列からなるポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドや、抗グランザイムA抗体を含む。ポリヌクレオチドを含むキットの場合には、dNTP、逆転写酵素、DNA合成酵素、緩衝液などをさらに含むが、これらに限定されることなく、当業者は必要に応じてキットに含まれる他の構成を選択することができる。抗グランザイムA抗体を含むキットの場合には、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、免疫組織染色法に応じて、緩衝液、2次抗体、マーカー等を含むことができ、当業者は必要に応じてキットに含まれる他の構成を選択することができる。
また、抗グランザイムA抗体及び基質ペプチドを用いて、グランザイムAの活性を直接又は間接的に測定するキットとすることもできる。
【0045】
本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(A)および(B)を含むことを特徴とする:
(A)被験者の生体試料中のグランザイムAの発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0046】
1つの態様において、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、本発明のバイオマーカーを用いることを特徴とする。前記バイオマーカーは、グランザイムAタンパク質に特異的に結合する性質を有することから、動物の組織内に発現したグランザイムAタンパク質を特異的に検出することができる。
【0047】
例えば、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と本発明のバイオマーカー(抗体)とを結合させる工程、
(b)該バイオマーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記バイオマーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の罹患を判断する工程。
【0048】
測定対象物としてタンパク質を利用する場合、具体的には、本発明の診断方法は、本発明のバイオマーカー(抗体)をグランザイムA検出用抗体として用いて、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法、蛍光抗体法、免疫組織染色法などの検出手段により前記バイオマーカーへのタンパク質の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0049】
測定対象試料としては、使用する検出手段の種類に応じて、皮膚など被験者の組織の一部をバイオプシー等で採取するか、または血液など体液中に存在する細胞等を回収して得られた検体から常法に従って調製したタンパク質または体液中に溶解しているタンパク質を用いることができる。
【0050】
より具体的には、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、本発明のバイオマーカー(抗体)を用いて、ウェスタンブロット法などにより当該マーカーへのグランザイムAタンパク質の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0051】
ウェスタンブロット法を利用する場合は、一次抗体として本発明バイオマーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した二次抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。
【0052】
免疫組織染色法を利用する場合は、例えば、グランザイムAが発現している細胞を酵素標識抗体とその発色基質を用いて測定することができる。
【0053】
アレルギー性疾患の診断は、被験者の皮膚生検組織中、血液中、CD4T細胞などのグランザイムA遺伝子の発現レベル、またはグランザイムAタンパク質の量、機能もしくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、測定することによって行うことができる。
【0054】
本発明のグランザイムAの発現を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とグランザイムAの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるグランザイムの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるグランザイムAの発現量と比較する工程、
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、グランザイムAの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0055】
工程(a)において、被験物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などが挙げられる。
【0056】
工程(a)において、グランザイムAの発現を測定可能な細胞としては、内在性および外来性を問わずグランザイムAを発現する培養細胞全般、レポーター遺伝子を含む細胞などを挙げることができる。培養細胞においてこれら遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT-PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。
【0057】
具体的には、例えば、アレルギー性疾患の動物より単離、調製したCD4T細胞またはその細胞株;本発明遺伝子のいずれかを導入した細胞;レポーター(ルシフェラーゼ、GFP等)遺伝子を導入した細胞などを挙げることができる。
【0058】
動物モデルとしては、アレルギー性疾患の動物モデルとして周知である如何なる動物モデルをも用いることができ、具体的には、通常環境下で飼育したNC系マウスなどを挙げることができる。
【0059】
遺伝子導入用の細胞としては、CHO、MCF-7Mammary carcinoma cell、H295R adrenal cellなどをあげることができる。
【0060】
工程(a)において、被験物質は、グランザイムAの発現を測定可能な細胞と培養培地中で接触される。前記細胞としては、掻痒を伴うアレルギー性疾患の動物より単離、調製したCD4T細胞が好ましく用いられ得る。前記培養培地は、グランザイムAの発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5~20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが挙げられる。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6~8であり、培養温度は通常約30~40℃であり、培養時間は約12~72時間である。
【0061】
工程(b)において、発現量の測定は、mRNAまたはタンパク質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノーザンブロッティングなどにより測定される。タンパク質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法、蛍光抗体法などを用いることができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞(例、グランザイムAのプロモーターの下流に機能可能にレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、GFP)が連結されたベクターが導入された細胞)が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
【0062】
工程(b)において、発現量の比較は、被験物質の存在下、非存在下において、グランザイムAの発現量における有意差の有無に基づいて行なわれる。なお、被験物質を接触させない対照細胞におけるグランザイムAの発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるグランザイムAの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0063】
工程(c)において、グランザイムAの発現量を減少させる被験物質が選択される。このように選択された被験物質には、本スクリーニング方法の性質上、グランザイムAの発現量を変動させ得る物質をも含まれる。選択された被験物質は、掻痒を伴うアレルギー性疾患の治療剤(例えば、アトピー性皮膚炎の治療薬、特に、ヒスタミン抵抗性の掻痒に対する治療剤)の候補のみならず、研究用試薬としても有用である。
【0064】
また、本発明の掻痒を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質をグランザイムAに接触させる工程、
(b)被験物質によるグランザイムAの活性阻害を測定する工程、および
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、掻痒を抑制する被験物質を選択する工程。
【0065】
工程(a)において、被験物質としては、前記したとおりである。
【0066】
工程(a)において、被験物質を、グランザイムAと接触させるが、これは、通常の酵素阻害を測定する工程に準じて行えばよい。
【0067】
工程(b)において、グランザイムAの活性阻害の測定は、特異的基質ペプチドに結合したニトロアニリドから酵素により切断され遊離した特定の吸収波長を持つ遊離ニトロアニリドの量を測定する。
【0068】
工程(c)において、グランザイムAの活性を阻害する被験物質が選択される。このように選択された被験物質は、掻痒を伴うアレルギー性疾患の治療剤(例えば、アトピー性皮膚炎の治療薬、特に、ヒスタミン抵抗性の掻痒に対する治療剤)の候補のみならず、研究用試薬としても有用である。
【0069】
本発明のバイオマーカーのうち、上記抗体を含有するバイオマーカーは、動物に適用することによって、アレルギー性疾患の状態の変動を予防または治療することができ、本発明はかかる方法を提供する。上記抗体の中でも、特に、中和抗体が好ましい。
【0070】
前記動物は、ヒトおよびヒトを除く脊椎動物であることが好ましく、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、イヌ、ネコなどの家畜または愛玩動物が好ましい。
【0071】
本発明は、前記バイオマーカーの量または作用を阻害する物質を有効成分として含有するアレルギー性疾患の治療剤を提供する。
【0072】
本発明の治療剤は、グランザイムAの量または作用を阻害するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、前記各種抗体、公知のセリンプロテアーゼ阻害剤などが挙げられる。
【0073】
本発明の治療剤は、アレルギー性疾患の治療剤、好ましく掻痒を伴うアレルギー疾患の治療剤として用いられる。
【0074】
本発明の治療剤は、前記有効成分そのままであってもよく、公知の薬学的に許容される担体などを含んでもよい。前記担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプンなどの結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウムなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウムなどの滑剤;クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉などの芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベンなどの保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸などの安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウムなどの懸濁剤;界面活性剤などの分散剤;水、生理食塩水などの希釈剤;カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油などのベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0075】
別の態様として、本発明の治療剤は、グランザイムA遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含有するものである。
【0076】
前記物質は、グランザイムA遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸またはsiRNAであることが好ましい。
【0077】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。
【0078】
「リボザイム」とは、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。
【0079】
「デコイ核酸」とは、転写調節因子が結合する領域を模倣する核酸分子をいい、グランザイムAの発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、グランザイムAに対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子であり得る。本発明では、デコイ核酸としては、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S-オリゴ)、又はリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチドなど、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチドなどが含まれる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、グランザイムAに対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
【0080】
「siRNA」とは、グランザイムAのmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNAである。siRNAを細胞に導入することによって、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象が起こり、前記リボザイムと同様の効果が期待される。
【0081】
前記アンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸、およびsiRNAは、公知の方法にしたがって作製することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0083】
[蚊の飼育]
実験に用いた蚊は、富山大学医学部感染予防医学教室から提供されたヒトスジシマカ (Aedes albopictus) 雌成虫を使用した。成虫は、布製のケージ (30×30×30 cm) で飼育し、3%スクロース水溶液を自由摂取させた。幼虫はプラスチックケージ (25×35×12 cm) にイオン交換水を入れ、エアーポンプで空気を循環させ飼育し、餌として乾燥酵母とベビーフードを1:1の割合で混ぜたものを与えた。蛹はイオン交換水を入れた容器に集めた後、布製のケージに入れ孵化させた。
【0084】
[蚊の唾液腺抽出物(ESGM) の調製と感作マウスの作製]
雌性ヒトスジシマカを凍死させ、顕微鏡下で足、翅、頭部、腹部を切除し、胸部のみを単離し、エッペンドルフチューブに集めた。少量の蒸留水を加え、ホモジナイズ (1,500rpm, 4℃, 5分間)した後、遠心 (約9,000×g, 30分間) し、上清をフィルター (セルロースアセテート0.45μm、アドバンテック東洋社)に通した。Bio-Rad Dye ReagentとLyophilized Bovine Serum Albumin (Bio-Red Laboratories, 米国) を用いて590 nmでの吸光度からタンパク量を求め、エッペンドルフチューブ1本あたり100μgになるように分注し、凍結乾燥後、-80℃で保存した。
ESGMを50μL中のタンパク量が10μgになるように生理食塩水に溶解した。これをマウスの尾側背部に週2回,計8回皮内注射することにより,感作マウスを作製した。感作後、ESGM (10μg /site)をマウスの吻側背部に皮内注射し、掻き動作を惹起した。
【0085】
[皮膚内トリプターゼ(tryptase)様セリンプロテアーゼ活性測定]
Wolter et al. (2001) の手法を参考に、トリプターゼの合成基質を用いて皮膚内トリプターゼ様セリンプロテアーゼ活性を測定した。N-p-Tosyl-Gly-Pro-Arg-p-nitroanilideacetate salt (シグマ・アルドリッチ社) を合成基質として用いた。酵素の活性は,遊離ニトロアニリド量を分光光度計 (ImmunoMini NJ-2300) で測定することによって求めた。
実験前日にマウスの吻側背部を除毛し、実験当日に皮膚 (直径17mm) を採取した。採取後の皮膚は1.5mLの10mMトリス溶液 (pH6.1; 2M塩化ナトリウム含有) 中でホモジナイズした。10分間の超音波処理後、4℃、5000rpmで5分間遠心し上清を採取した。0.06Mトリス溶液(pH7.8; 0.4%ジメチルスルホキシド, 30μg/mLヘパリン含有) を反応用溶液Aとした。合成基質をジメチルスルホキシドで10mg/mLに調整し、さらに反応用溶液Aを用いて480μg/mLに希釈したものを基質溶液とした。反応用溶液49μLとサンプル1μL、基質溶液50μLを37℃で1時間反応させた後、420nmにおける吸光度を測定した。
【0086】
[皮膚内遊離トリプターゼ様セリンプロテアーゼ活性測定]
実験前々日にマウスの背部を除毛した。実験当日、マウスをウレタン(1.8g/kg) 麻酔下で腹這いの状態で保温板上に固定した。その後、23Gの注射針を2本、約1cm間隔でマウスの吻側背部の皮内に通し、ステンレス針金を通した透析チューブを皮内中の針の中に通し、透析チューブを傷つけないよう針だけを抜き取った。透析チューブを乾燥させないよう注意しながら、塩化ビニルチューブ(p-10 tube) を、透析チューブが皮膚から出ている部分に接着剤で接着させた。その後,EICOM EP-60 MICRO SYRINGE PUMP (エイコム社)を用い、酵素用溶液(pH7.3; 0.5mMトリス、0.1M塩化ナトリウム含有) を1μl/minの流速で1時間皮膚内に灌流させた。これを予備処理とし、その後の皮膚灌流液を氷浴中で5分毎に採取し
た。予備処理後15分間のサンプルを採取した後、灌流を一時止めてESGMまたは生理食塩水を透析チューブ周辺に4回、特定の箇所に50μLの容量で透析チューブを傷つけないように皮内注射した。注射直後に灌流を再開し、注射後40分まで皮膚灌流液を採取した。反応用溶液B(pH7.77; 85.74mMトリス, 0.572%ジメチルスルホキシド, 42.87μg/mLヘパリン含有)を30μLに、合成基質をジメチルスルホキシドで10mg/mLに調製し、さらに反応用溶液Bで480μg/mLに希釈した基質溶液50μL、マウス2匹から採取したサンプルを20μLの容量で37℃で2日間反応させ、420nmにおける吸光度を測定した。
【0087】
[CD4T細胞の単離]
前日にマウスの吻側背部の皮膚を除毛した。当日、マウスをエチルカーボネート(1.8 g/kg) 麻酔下で、0.1Mリン酸緩衝食塩液(PBS; pH7.4)を用いて脱血し、エタノールで消毒した皮膚を摘出した。摘出皮膚を10mLのRPMI1640 (0.25%colagenaseA含有)に漬けて、37℃で30分間攪拌した。最終濃度10mMになるようにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加え、直ちに氷浴で冷やした。5分後、浮いている細胞を集め、残留皮膚をPBS (10mM EDTA含有)で2回洗浄し、洗浄に用いた液を集めた。集めた液を70μmおよび40μmのナイロンメッシュに通過させた。通過した液を4℃、2000rpmで20分間遠心した。上清を捨て、5mLのRPMI1640で再度懸濁し、懸濁液からLympholyte-M (CEDARLANE社,カナダ)を用いてリンパ球を単離した。引き続きCD4カラム(RD systems社,米国)を用いて、CD4T細胞を単離した。
【0088】
[切片標本作製]
マウスをエチルカーボネート(1.8g/kg) 麻酔下で、0.1Mリン酸緩衝食塩液(PBS; pH7.4)を用いて脱血し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定した。皮膚を摘出後、4% PFAで4時間後固定し、その後30%スクロース(含0.1Mリン酸緩衝液)で置換した。24時間後,OTC compound (サクラファインテクニカル社) で包埋し凍結した。トルイジンブルー染色用サンプルはクリオスタットにて20μmに薄切し、ゼラチンコーティングしてあるスライドグラスに貼り付け、染色時まで-80℃で遮光保存した。免疫染色用サンプルはクリオスタットにて40μmに薄切し,染色時まで0.1M PBS (0.02%アジ化ナトリウム含有) 中にて、4℃で遮光保存した。
【0089】
・トルイジンブルー染色
切片を0.1%トルイジンブルーに15-20分間浸した。組織が青く染まったら、切片を水で洗浄し、ポリマウントで封入した。組織標本は光学顕微鏡 (AX80, オリンパス光学工業)を用いて観察した。
【0090】
・免疫染色
切片を1.5%ウシ胎仔血清(FCS)でブロッキング後、ラット抗マウスCD4モノクローナル抗体(1:100, BD Pharmingen社,米国) と4℃で一晩反応させた。PBST (0.2%Tween20含有PBS)で2回洗浄後、Cy3標識抗ラットIgGポリクローナル抗体 (1:1000, Chemicon社,米国)と室温で2時間反応させた。PBSTで洗浄後、スライドグラスに貼り付け、乾燥後にDABCO(1,4-diazabicyclo[2,2,2] octane)で封入した。組織標本は共焦点/多光子レーザー走査顕微鏡 (Radeance 2100 MP; Bio-Rad社,米国) を用いて観察した。
【0091】
[RNA抽出]
マウスをエチルカーボネート(1.8g/kg) 麻酔下で、0.1Mリン酸緩衝食塩液(PBS; pH7.4)を用いて脱血し、皮膚および脾臓を摘出し断片化した。サンプルは液体窒素により凍結し、-80℃で使用するまで保管した。Trizol reagent (インビトロゲン社)にサンプルを入れ、ホモジナイズした。室温で5分静置後、クロロホルム:イソアミルアルコール(CIA)を加え、15秒撹拌した後、14,000rpm、4℃で15分間遠心した。上清を集め、等量の100%エタノールを加え、撹拌し、カラム (シグマ・アルドリッチ社) に入れた。15,000rpmで15秒間遠心し、遺伝子をカラムに吸着させた。カラムをWash solution Iで洗浄後,DNase I処理 (室温, 15分)し、再度Wash solution Iで洗浄した。さらにWash solution IIで二度洗浄後に,elution solutionを用いて、RNAをカラムから溶出させた。RNA量はNanoDrop(LMS社)で測定した。
【0092】
[逆転写反応]
サンプルRNA1μg、oligo dT16 primer 25 pmolをPCRチューブに入れ、RNase free waterで全量が5μLになるように調製し、これを70℃で5分間反応させ、その後4℃で5分間急冷した。下記の組成Aの反応液を1サンプルに15μLずつ加え、25℃で5分間、37℃で1時間、72℃で15分間の順で反応させた。
<組成A(全量15μL)>
・5×Reaction buffer (和光純薬) 4μL
・MgCl2 (25mM) (和光純薬) 最終濃度3mM 2.4μL
・dNTP (2mM each dNTP)(ABI,USA)最終濃度0.5mM 5μL
・RNase inhibitor(東洋紡積) 最終濃度1U/μL 0.5μL
・ReverScript III(和光純薬)1μL
・RNase free water 2.1μL
【0093】
[PCR反応]
逆転写(RT)産物を下記の組成Bで混合し、サーマルサイクラー (タカラバイオ) にて反応した。混合液は95℃で2分間反応させ、続いて95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で50秒間のサイクルで繰り返し30回反応させた。最後に72℃で5分間反応させた後、4℃で反応を終了させた。PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動により分離した後、アガロースゲルをエチジウムブロマイド溶液に漬けた。20分後、UVをゲルに照射した状態でゲルを撮影した。
<組成B(全量50μL)>
・5×Green GoTaq Flexi Buffer(Promega,米国)10μL
・MgCl2(25mM)(和光純薬)最終濃度1.5mM 3μL
・dNTP (2mM each dNTP)(ABI,米国)最終濃度0.2mM 5μL
・Sens primer*1(北海道システムサイエンス)最終濃度1μM 1μL
・Anti-sens primer*1(北海道システムサイエンス)最終濃度1μM 1μL
・GoTaq DNA polymerase (5 u/μL)(Promega,米国) 最終濃度1.25u 0.25μL
・Template DNA 1μL
・滅菌水 28.75μL
*1:Sens primerおよび・Anti-sens primerを表1に示す
【0094】
[リアルタイムPCR]
RT産物を下記の組成Cで混合しMx3000P & Mx3005P Real-Time PCR System (STRATAGENE,米国)にて反応した。混合液は95℃で1分間反応させ、続いて95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で50秒間のサイクルで繰り返し40回反応させた。最後に72℃で5分間反応させた後、4℃で反応を終了させた。MxPro QPCR Software (STRATAGENE,米国) によりPCR産物の増幅を解析した。
<組成C(全量25μL)>
・2×SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ)12.5μL
・Sens primer*1(北海道システムサイエンス)最終濃度1μM 1μL
・Anti-sens primer*1(北海道システムサイエンス)最終濃度1μM 1μL
・GoTaq DNA polymerase (5 u/μl)(Promega, USA) 最終濃度1.25u 0.25μL
・Template DNA 1μL
・滅菌水 10.5μL
*1:Sens primerおよび・Anti-sens primerを表1に示す
【0095】
【表1】
JP0005297389B2_000002t.gif

【0096】
[行動実験]
実験前日にマウスの吻側背部を除毛し、実験当日、マウスを環境に慣れさせるため、1時間、観察用ケージに入れて放置した。慣らし後、グランザイムA(0.1-100μg/site) またはESGM (10μg/50μL) をマウスの吻側背部に皮内注射した。投与後、直ちにマウスを観察用ケージ(13×9×30 cm) に戻し、無人環境下での行動を8ミリビデオカメラで撮影した。プロテアーゼインヒビターは、マウスの体重10gあたり0.05mLの用量で、ESGM投与の30秒前に尾静脈内注射した。ナルトレキソンは、マウスの体重10 gあたり0.1mLの用量で、グランザイムA投与の15分前に皮下注射した。注射後の行動をビデオの再生により観察した。掻き動作は後肢による注射部位及びその近傍への掻き動作の回数を数えた。マウスは,通常約1秒間に数回の掻き動作を行うが,この一連の動作を1回の掻き動作として測定した。
【0097】
実験結果
(1)蚊唾液腺抽出物で感作したマウス皮膚のプロテアーゼ活性は、非感作マウスと比べて有意に増加している(図1)。
(2)皮膚灌流法を用いて採取した灌流液を用い、セリンプロテアーゼ特異的基質を利用して活性化試験を行った結果、蚊唾液腺抽出物で感作したマウスに蚊唾液腺抽出物を投与すると、セリンプロテアーゼが遊離する(図2)。
(3)蚊唾液腺抽出で感作したマウス皮膚と非感作マウス皮膚では、マスト細胞の数は変化しない(図3)。
(4)蚊唾液腺抽出で感作したマウス皮膚では、CD4+T細胞の数が非感作マウス皮膚と比べ増加している(図4)。
(5)リンパ球で発現が報告されているグランザイムについて、どのサブタイプが皮膚で発現しているかをリアルタイムPCR法で調べた。グランザイムA、BおよびCが蚊唾液腺抽出で感作したマウス皮膚で増加していた(図5)。
(6)皮膚から単離したCD4T細胞には、グランザイムAのみ発現していた(図6)。
(7)健常マウスへのグランザイムAの皮内注射により10μg/siteをピークとして掻き動作が誘発された (図7)。
(8)グランザイムAを皮内注射すると掻き動作を誘発されるが(図7)、掻き動作は、ナルトレキソンで抑制される(図8)。痒み反応と推測される。
(9)アトピー性皮膚炎マウスであるNCマウスでは、痒みや皮膚炎の発生していない(SPF飼育)マウス皮膚より、痒みや皮膚炎の発生しているマウス(コンベンショナル飼育)でグランザイムAのmRNAの発現が増加していた(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、従来の抗アレルギー薬が効きにくい難治性の掻痒性皮膚疾患の指標を提供することが可能となり、当該疾患の容易かつ的確な診断をすることができるとともに、グランザイムAの作用機序に基づく新規なアレルギー性疾患の治療剤の開発が可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8