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明細書 :信号検出装置、信号検出方法及び信号検出装置の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5354505号 (P5354505)
登録日 平成25年9月6日(2013.9.6)
発行日 平成25年11月27日(2013.11.27)
発明の名称または考案の名称 信号検出装置、信号検出方法及び信号検出装置の製造方法
国際特許分類 G01H  17/00        (2006.01)
G01S   7/32        (2006.01)
FI G01H 17/00 Z
G01S 7/32 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2010-532862 (P2010-532862)
出願日 平成21年8月27日(2009.8.27)
国際出願番号 PCT/JP2009/064929
国際公開番号 WO2010/041526
国際公開日 平成22年4月15日(2010.4.15)
優先権出願番号 2008262688
優先日 平成20年10月9日(2008.10.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年8月14日(2012.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】章 忠
【氏名】三宅 哲夫
【氏名】今村 孝
個別代理人の代理人 【識別番号】100095577、【弁理士】、【氏名又は名称】小西 富雅
審査官 【審査官】▲高▼見 重雄
参考文献・文献 特開2007-205885(JP,A)
特開2007-205886(JP,A)
ZHANG Z., 池内宏樹, 斉木典保, 今村孝, 三宅哲夫, 戸田浩,寄生的離散ウェーブレット変換およびその異常信号検出への応用,評価・診断に関するシンポジウム講演論文集,日本,2007年12月 4日,Vol.6th,Page.95-100
ZHANG Zhong, 池内宏樹, 今村孝, 三宅哲夫, 石井秀明,堀畑聡,実信号マザーウェーブレットおよびその異常信号検出への応用(平均的複素数実信号マザーウェーブレットの設,日本機械学会論文集 C,日本,2007年 6月25日,Vol.73, No.730,Page.1676-1683
ZHANG Zhong, 池内宏樹, 今村孝, 三宅哲夫, 石井秀明, 堀畑聡,実信号ウェーブレットによる異常信号検出に関する研究,電気学会産業計測制御研究会資料,日本,2006年12月 6日,Vol.IIC-06, No.144-149,Page.31-36
ZHANG Z , 戸田浩, 川畑洋昭,実信号マザーウェーブレットおよびその異常信号抽出への応用,日本機械学会論文集 C,日本,2004年 8月25日,Vol.70, No.696,Page.2360-2367
調査した分野 G01H 1/00-17/00
G01S 7/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の分解フィルタを連結してなり、対象信号を分解する対象信号分解部であって、前記分解フィルタの連結体は離散ウェーブレット変換ツリーの一部又は全部を構成する対象信号分解部と、
該対象信号分解部の所望の分解フィルタへ連結される寄生フィルタであって、前記対象信号分解部へ実信号マザーウェーブレットを入力して汎用的な離散ウェーブレット変換を実行したとき前記入力された実信号マザーウェーブレットを実質的に再現して出力する寄生フィルタと、ここに、前記実信号マザーウェーブレットは前記対象信号から構成されたものであり、
前記対象信号を前記対象信号分解部へ入力し、前記実信号マザーウェーブレットを用いて離散ウェーブレット変換を実行する手段と、
前記寄生フィルタの出力に基づきウェーブレット瞬時相関を演算する手段と、を備えてなる信号検出装置であって、
前記寄生フィルタは実数部と虚数部とを備え、下記条件を満足するように前記分解フィルタへ連結される、
(1) 前記実信号マザーウェーブレットを前記離散ウェーブレット変換ツリーへ入力して汎用的な離散ウェーブレット変換を実行し、前記寄生フィルタが連結された分解フィルタにおける前記実信号マザーウェーブレットのエネルギー損失が15dB以下である、
(2) 上記(1)の条件を満足しつつ計算量を最小化する、
信号検出装置。
【請求項2】
前記離ウェーブレット変換ツリーはリフティングスキーム構造である、ことを特徴とする請求項1に記載の信号検出装置。
【請求項3】
前記実信号マザーウェーブレットは複素数マザーウェーブレットである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
前記実信号マザーウェーブレットは、平均的実信号マザーウェーブレットである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号検出装置。
【請求項5】
対象信号から実信号マザーウェーブレットを構成するステップと、
複数の分解フィルタを連結してなる離散ウェーブレット変換ツリーを準備するステップと、
前記分解フィルタの一つに寄生フィルタを連結するステップと、前記離散ウェーブレット変換ツリーへ前記実信号マザーウェーブレットを入力し汎用的な離散ウェーブレット変換を実行したときに前記寄生フィルタから該実信号マザーウェーブレットが実質的に再現されるように、前記寄生フィルタを最適化するステップと、を含んでなる信号検出装置の製造方法であって、
前記寄生フィルタは実数部と虚数部とを備え、
下記条件を満足するように前記分解フィルタへ連結される、
(1) 前記実信号マザーウェーブレットを前記離散ウェーブレット変換ツリーへ入力して汎用的な離散ウェーブレット変換を実行し、前記寄生フィルタが連結された分解フィルタにおける前記実信号マザーウェーブレットのエネルギー損失が15dB以下である、
(2) 上記(1)の条件を満足しつつ計算量を最小化する、信号検出装置の製造方法。
【請求項6】
前記実信号マザーウェーブレットは複素数実信号マザーウェーブレットである、ことを特徴とする請求項5に記載の信号検出装置の製造方法。
【請求項7】
前記実信号マザーウェーブレットは平均的マザーウェーブレットである、ことを特徴とする請求項5に記載の信号検出装置の製造方法。
【請求項8】
前記実信号マザーウェーブレットのエネルギー損失Leは下記数式
【数14】
JP0005354505B2_000019t.gif
ここに、関数Ψ(t)は前記実信号マザーウェーブレットを示し、dはウェーブレット係数、j及びkは寄生フィルタが連結される前記分解フィルタのレベル及び離散時間を示す、ことを特徴とする請求項5~7の何れかに記載の信号検出装置の製造方法。
【請求項9】
前記計算量Qjは下記数式
【数15】
JP0005354505B2_000020t.gif
ここに、i及びjは寄生フィルタが連結される前記分解フィルタのレベルを示す、ことを特徴とする請求項8に記載の信号検出装置の製造方法。
【請求項10】
前記離散ウェーブレット変換ツリーはリフティングスキーム構造である、ことを特徴とする請求項5~9のいずれかに記載の信号検出装置の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はウェーブレット変換を利用した信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、信号検出のために、相互相関法[非特許文献1]やバンドパスフィルタ[非特許文献2]、パターンマッチング[非特許文献3]がある。しかし相互相関法では平均的な結果しか得られないので非定常信号には不向きである。バンドパスフィルタ法では、多数の特徴成分を含む対象信号を検出する場合に、多数の異なるバンドパスフィルタを並列に配置する必要があり、その実現は困難である。パターンマッチング法は対象信号の発生時刻に敏感であるが、対象信号の強さを検出することはできない。
【0003】
これらの欠点を克服するために、連続ウェーブレット変換(CWT)を用いたウェーブレット瞬時相関(WIC)が提案された[非特許文献4、特許文献1及び特許文献2参照]。ウェーブレット瞬時相関法は、対象信号の発生時刻と強さを同時に検出することが可能であり、非定常信号の検出や設備の状況監視などに有効である。
解析信号f(t)の連続ウェーブレット変換(CWT)は式(1)で表現される。
【数1】
JP0005354505B2_000002t.gif
関数Ψ(t)はマザーウェーブレット(MW)と呼ばれ、式(2)に示すのアドミッシブル条件(admissibility condition)を満たさなければならない。

【数2】
JP0005354505B2_000003t.gif
また, Ψ(t)が遠方で充分速く零になる関数であれば,式(2)は次式(3)のようにかなり緩やかな条件に簡単化できる。

【数3】
JP0005354505B2_000004t.gif
この意味で、MWの選択範囲は広く、その構成も簡単である。
【0004】
さらに、対象信号からマザーウェーブレットを構成し(以下,実信号マザーウェーブレット、RMWと呼ぶ),それを用いたCWTにより得られたスケールa=1における|w(1,b)|をRMWと解析信号とのウェーブレット瞬時相関(WIC) R(b)と定義し、

【数4】
JP0005354505B2_000005t.gif
それにより解析信号中の対象信号を検出,評価を行う方法が提案された。
【0005】
一方、ウェーブレット変換のパラメータ、スケールをa=2j、時間をb=k2jとしたとき、ウェーブレット変換を離散ウェーブレット変換と呼ぶ。連続ウェーブレット変換と異なり、離散ウェーブレット変換(DWT)にはMallatの多重解像度解析(MRA)に基づく高速アルゴリズム[非特許文献5]、またはSweldensのリフティングスキーム(Lifting Scheme)による高速アルゴリズム[非特許文献6]が提案されている。
図1はMallatの多重解像度解析による多重解析構造である。図1(a)は分解アルゴリズム、(b)は再構成アルゴリズムである。このようなDWTは周波数領域においてオクターブ分析により時系列信号の解析を行う。ナイキスト周波数からの各オクターブは、レベル-1、レベル-2、・・・、と呼ばれる。このアルゴリズムは、まずスケーリング関数により得られた解析信号f(t)の離散データc0、kをもとにしてレベル-1でのウェーブレット係数(高周波成分) d-1、kとスケーリング係数(低周波成分) c-1、kを、双対ツースケール数列{ak}と双対ウェーブレット数列{bk}のみを用いて式(5)と式(6)により高速に計算する。
【数5】
JP0005354505B2_000006t.gif
【数6】
JP0005354505B2_000007t.gif
この計算は次に図1(a)に示した分解アルゴリズムに沿って、式(5)と式(6)によりレベル-1のc-1、kからレベル-2でのc-2、kとd-2、kを計算でき、そして、すべてのウェーブレット係数dj、kを漸進的に求めることができる。
また、ツースケール数列{pk}とウェーブレット数列{qk}を用いて式(7)により、 dj、kとcj、kからもとのcj+1、kを高速に計算できる。
【数7】
JP0005354505B2_000008t.gif
さらに、図1(b)に示した再構成アルゴリズムをたどって、式(7)によりdj+1、kとcj+1、kから原信号の離散データc0、kに漸進的に戻ることができる。
【0006】
図2にリフティングスキームの構造を示す。図2(a)は分解アルゴリズムで、(b)は再構成アルゴリズムである。図2の各要素は以下の処理を行う。
1) Split:入力された解析信号を奇数列,偶数列に分解する。
【数8】
JP0005354505B2_000009t.gif
2) Predict:偶数列を用いて奇数列から高周波数成分を求める。
【数9】
JP0005354505B2_000010t.gif
【数10】
JP0005354505B2_000011t.gif
ただし、P とU はマザーウェーブレット(MW)(以下ではベースマザーウェーブレット(BMW)と呼ぶ)により定めた関数(フィルタ)である。
リフティングスキームは様々な特徴を持つが、その1つとして,従来のDWTに用いられている多重解像度解析(MRA)と異なり、ダウンサンプリングを先に行いその後にフィルタ処理を行うため、計算量が比較的少ないという利点がある。
本発明の実施例においては、DWTの計算をリフティングスキームにより行っている。勿論、多重解像度解析による高速アルゴリズムにより行うこともできる。
実信号マザーウェーブレットにつき、非特許文献7を参照されたい。
【0007】

【特許文献1】特開2007-205885号公報
【特許文献2】特開2007-205886号公報
【非特許文献1】Manolakis, D. G., V. K. Ingle and S. M. Kogon, {\it Statistical and adaptive Signal Processing}, Artech House, p.237, 2005.
【非特許文献2】Lee, J. H., et al., A new knocking-detection method using cylinder pressure, block vibration and sound pressure signal from a SI engine, SAE paper no.981436, 1998.
【非特許文献3】Zhang Z. and E. Tomita, A new diagnostic method of knocking in a spark-ignition engine using the wavelet transform, SAE paper no.2000-01-1801, 2000.
【非特許文献4】章 忠,池内宏樹,石井秀明,堀畑聡,今村孝,三宅哲夫,実信号マザーウェーブレットおよびその異常信号検出への応用 (平均的複素数実信号マザーウェーブレットの設計とその応用),日本機械学会論文集(C編),73-730(2007.6),pp.1676-1683.
【非特許文献5】Mallat, S. G., A wavelet tour of signal processing, Academic Press, 1999.
【非特許文献6】Wim Sweldens, The lifting scheme: A custom-design construction of bi-orthogonal wavelets, Appl. Comput. Harmon. Anal, vol.3, no.2, pp.186-200, 1996
【非特許文献7】日本機械学会論文集、73巻、730号 C編 平成19年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現有の連続ウェーブレット変換を用いたウェーブレット瞬時相関WICによる対象信号検出手法では、対象信号の発生時刻と強さを同時に検出する利点があるが、連続ウェーブレット変換を用いるため計算量が大きく、リアルタイムでの信号検出は困難である。
一方、リフティングスキームを用いるDWTでは、使用されているMWが双直交条件を満たさなければならなく、限られた数のMWしか使えない。そして実測された対象信号から構成されたRMWは双直交条件を満たせず、離散ウェーブレット変換には使えない。
【0009】
さらに、DWTにはMallatの高速アルゴリズムによる高速アルゴリズムが提案されているが、リフティングスキームと同様に、使用されているMWが双直交条件を満たさなければならなく、限られた数のMWしか使用できない。特に、実測された対象信号から構成されたRMWは双直交条件を満たせず、離散ウェーブレット変換には使えない。
以上に鑑み、この発明は実信号マザーウェーブレットを用いてリアルタイムで対象信号のウェーブレット変換を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その構成は次のように規定される。即ち、
複数の分解フィルタを連結してなり、対象信号を分解する対象信号分解部であって、前記分解フィルタの連結体は離散ウェーブレット変換ツリーの一部又は全部を構成する対象信号分解部と、
該対象信号分解部の所望の分解フィルタへ連結される寄生フィルタであって、前記対象信号分解部へ実信号マザーウェーブレットを入力して汎用的な離散ウェーブレット変換を実行したとき前記入力された実信号マザーウェーブレットを実質的に再現して出力する寄生フィルタと、ここに、前記実信号マザーウェーブレットは前記対象信号から構成されたものであり、
前記対象信号を前記対象信号分解部へ入力し、前記実信号マザーウェーブレットを用いて離散ウェーブレット変換を実行する手段と、
前記寄生フィルタの出力に基づきウェーブレット瞬時相関を演算する手段と、
を備えてなる信号検出装置。
このように規定される第1の局面の発明によれば、実信号マザーウェーブレットを用いて対象信号をリアルタイムで離散ウェーブレット変換可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はMallatの高速アルゴリズムの構造を示すブロック図である。
【図2】図2はリフティングスキームの構造を示すブロック図である。
【図3】図3は離散ウェーブレットのツリー構造に寄生フィルタを連結した構成を示すブロック図である。
【図4】図4は寄生フィルタの設計思想を説明するためのブロック図である。
【図5】図5は寄生レベルを特定する手法を示すフローチャートである。
【図6】図6はエネルギー損失の周波数依存性を示すグラフである。
【図7】図7はパワースペクトル比の周波数依存性を示すグラフである。
【図8】図8は実施例の寄生的離散ウェーブレット変換を実行して得られた高速ウェーブレット瞬時相関と比較例の連続ウェーブレット変換を時刻して得られたウェーブレット瞬時相関との比較を示すチャートである。
【図9】図9は実施例の寄生フィルタの特性を示す。
【図10】図10は実施例で用いた平均的実信号マザーウェーブレットの周波数特性を示す。
【符号の説明】
【0012】
10 対象信号分解部(リフティングスキーム構造)
20 寄生フィルタ
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
離散ウェーブレット変換の方式としてリフティングスキーム構造と多重解像度解析が知られているが、演算速度を向上させる見地から、前者の方式を採用することが好ましい。
リフティングスキーム構造の分解アルゴリズムは図2に示した通りである。この分解アルゴリズムを、図3の破線で示すように、ツリー構造に連結して対象信号分解部10としている。この明細書では、各分解アルゴリズムを「分解フィルタ」と名付けている。また、多重解像度解析による分解アルゴリズムも分解フィルタに該当する。
【0014】
図3において、対象信号分解部10としてのリフティングスキーム構造のツリーは汎用的なものをそのまま利用できる。寄生フィルタ20の連結された分解フィルタより深いレベルの分解フィルタはこれを省略可能である。
【0015】
次に、実信号マザーウェーブレット(この明細書において「RMW」と記載することがある)について説明する。
この発明で利用する実信号マザーウェーブレットは次の手順に従って構成され、対称型複素数実信号マザーウェーブレット(SC-RMW)と名付けられる。
(1) 対象信号から特徴的な部分の最低周波数fminとサンプリング周波数fsを取得し、次式でRMWの長さを決定する。
【数11】
JP0005354505B2_000012t.gif
(2) 対象信号から特徴的な部分をLの長さで切り出して,遠方で充分速く零になるような窓関数(たとえばハンニング窓)を掛け平均値を取り除くことにより、実数実信号マザーウェーブレットを構成する。
【数12】
JP0005354505B2_000013t.gif
【数13】
JP0005354505B2_000014t.gif

【0016】
上記において、(5)のステップにおいて位相情報がキャンセルされているので、得られた対称型複素数実信号マザーウェーブレット(SC-RMW)はそれ同士を加算可能である。
したがって、対象信号の複数の領域(特徴部分)に基づきそれぞれ対称型複素数実信号マザーウェーブレット(SC-RMW)を構成し、それらを加算し、かつ正規化(平均化)することができる。これを平均的実信号マザーウェーブレット(A-RMW)と名付ける。この平均的実信号マザーウェーブレット(A-RMW)は対象信号の特徴を広く反映しているので、対象信号において単一の対称型複素数実信号マザーウェーブレット(SC-RMW)では検出できなかった成分をも検出可能とする。よって、より正確なウェーブレット変換が実行できる。
【0017】
上で説明した実信号マザーウェーブレットを構成する手法において、(4)のステップで複素数実信号マザーウェーブレットが得られる。この複素数実信号マザーウェーブレットは位相情報を含んでいるので、それら同士を加算する等の処理は困難であるが、単独であれば本発明に利用可能である。
すなわち、この発明で利用できる実信号マザーウェーブレット(RMW)には、対称型複素数実信号マザーウェーブレット(SC-RMW)、平均的実信号マザーウェーブレット(A-RMW)及び複素数実信号マザーウェーブレット(C-RMW)が含まれ、この明細書において、実信号マザーウェーブレット(RMW)はそれらの総称として使用されることがある。
【0018】
次に、寄生フィルタの設計方法について説明する。
RMWから寄生フィルタを設計するツリーを図4に示す。図中の斜線部は図2の(a)の部分(分解アルゴリズム)に相当する、(b)は再構成の部分である。
(1)図4の(a)に従って実信号マザーウェーブレットRMWを対象信号として通常のDWTにより寄生レベルまで分解する。このとき使用されるマザーウェーブレットはベースマザーウェーブレット(BMW)であり、離散ウェーブレット変換時に汎用的に使用される。
(2)得られた係数cjkを寄生フィルタ{u}の初期値としてセットする。
(3)図4の(b)の再構成アルゴリズムを利用し,cjk=0,djk =0,Xkk, (ただし δk=1 (k=0), δk=0 (k≠0))として再構成を行いxoutを求める。
(4)汎用的な最適化アルゴリズムを用い、||xout- RMW||が最小になるように{u}の最適化を行う。
すなわち、図3において、実信号マザーウェーブレットRMWを対象信号として離散ウェーブレット変換ツリーへ入力したときの、寄生フィルタの出力xoutを実信号マザーウェーブレットと比較し、両者が実質的に一致したときの{u}を寄生フィルタとする。
(5)実信号マザーウェーブレットRMWが複素数である場合、RMW の実数部と虚数部に対応する寄生するフィルタ{uR,k}{uI,k} をそれぞれ設計することが必要である。すなわち、RMW の実数部と虚数部を用いて、以上の手順をそれぞれ実行すればよい。
【0019】
このよう設計された寄生フィルタは、実信号マザーウェーブレットを入力したとき当該実信号マザーウェーブレットを再生するものであるから、検査すべき対象信号が入力されたときには、当該対象信号と実信号マザーウェーブレットとの相関性を出力することとなる。
また、離散ウェーブレット変換を行うに際し、マザーウェーブレットに双直交条件などが要求されず、任意に構成した実信号マザーウェーブレットをそのまま使用することができる。
離散ウェーブレット変換ツリーのいずれの分解フィルタへ連結させても、連続ウェーブレットに比べるとその計算量が低減し、処理の高速化、ひいてはリアルタイム性を実現化できる。
【0020】
次に、寄生フィルタを連結すべき分解フィルタ、換言すれば、寄生フィルタの寄生レベルの特定方法を説明する。
通常、寄生フィルタが付随している寄生レベルがある程度高くなると計算速度が速くなるが、寄生レベルが高すぎると計算量が増えるため逆に計算速度が落ちる。それと同時にフィルタの係数が少なくなるため、形が崩れて検出精度が落ちることがある。検出の信憑性を維持するために、寄生レベルの評価パラメータ、RMWのエネルギー損失Leを式(14)にて定義する。
【数14】
JP0005354505B2_000015t.gif
図3に示した寄生的離散ウェーブレット変換の場合、条件:Le≦-15[dB]を満足する寄生レベルでは充分な検出精度が得られる。これに対して、条件:-15[dB]<Le≦-10[dB] を満足する寄生レベルでは検出精度が多少落ちるが、高速な計算が可能である。【数15】
JP0005354505B2_000016t.gif
RMWのエネルギー損失Leと計算量Qjを用いて、寄生レベルを決定する流れを図5に示した次の手順で行う。
(1)ステップ1で構成されたRMWを解析信号としてDWTに入力し、レベルj=-1まで解析する。
(2)レベルjまでの計算量Qjを計算する。
(3)レベルjまでのRMWのエネルギー損失Leを計算する。
条件:Le≦-15[dB]を満足するかどうかを検証する。この条件を満たす場合には、さらに計算量の差Qj-Qj+1を求める。計算量が減少すれば、レベルjを1つ深く(j=j -1)進め、2)に戻って2)-4)を繰り返して行う。計算量が増加すれば、レベルjを1つ浅く(j=j +1)戻り、そのレベルを寄生レベルとして出力する。条件:Le≦-15[dB]を満さない場合には、レベルjを1つ浅く(j=j +1)戻り、そのレベルを寄生レベルとして出力する。
【0021】
f(x)=sin(2π50t)+0.7sin(2π100t)+0.7sin(2π200t)の3項目が持つ最大周波数を200Hzから600Hzまで50Hz間隔で変化させたものをモデル信号として、サンプリング周波数を3500Hz、RMWの長さL=512として実信号マザーウェーブレットを構成する。この実信号マザーウェーブレットを対象信号として離散ウェーブレット変換を行い、レベル‐2におけるエネルギー損失Leを演算した。結果を図6に示す。
他方、レベル-2の高周波側に寄生フィルタを連結し、パワースペクトル比Prを演算した。結果を図7に示す。
ここに、
【数16】
JP0005354505B2_000017t.gif
このパワースペクトル比Prは、「寄生フィルタの出力のもつ周波数成分がどのくらいの対象信号として入力したRMWの周波数成分を保持しているか」を表す。即ち、このPrが小さくなると寄生フィルタによるRMWの再現性が低下する。本発明者らの検討によれば、パワースペクトル比Prが95%以上であるとき、寄生フィルタの出力の周波数成分は入力されたRMWの周波数成分をほぼ全部を持っていると判断される。換言すれば、パワースペクトル比Prが95%以上のとき、入力されたRMWが寄生フィルタの出力としてほぼ完全に再生される。
【0022】
図6及び図7より、エネルギー損失Leとパワースペクトル比Prとの間に高い関連性のあることがわかる。図6及び図7の関係より、パワースペクトル比Pr=95%はエネルギー損失=-15dBに相当することがわかる。
これにより、寄生フィルタはエネルギー損失Leが-15dB以上のレベルに寄生させることが好ましいことがわかる。このエネルギー損失Leは寄生フィルタの設計前に演算できる。したがって、離散ウェーブレット変換ツリーの各レベルにおけるエネルギー損失Leを演算し、寄生フィルタの寄生レベルを特定することができる。
計算量Qjについては、これを小さくすることにより演算速度が速くなる。エネルギー損失が-15dBを割り込まない条件の下、計算量が最も小さくなる寄生レベルを探索することが好ましい。
【0023】
対象信号の検出
図3に示した寄生的離散ウェーブレット変換の分解ツリーに沿って、次の手順で寄生的離散ウェーブレット変換による高速ウェーブレット瞬時相関を求め対象信号を検出する。
(1)解析信号をDWTにより寄生レベルまで分解してcjk、djkが得られる。
(2)cjkの持つ周波数成分の中から寄生フィルタ{uR,k}と{uI,k}によりRMWの持つ周波数成分を抜き出し、xjR,k、xjI,kが得られる。
下記式(17)により定義されるウェーブレット瞬時相関を求め、ウェーブレット瞬時相関値の大きさ|R(k)|または時刻(k)を用いて、対象信号を検出する。
【数17】
JP0005354505B2_000018t.gif
このR(k)を高速ウェーブレット瞬時相関と呼ぶ。
【0024】
この高速ウェーブレット瞬時相関と、連続ウェーブレット変換(CWT)により得られるウェーブレット瞬時相関R(t)との比較を行った。
本発明者らは、パワーステアリング装置の騒音源探索として、8つのラトル音から平均的実信号マザーウェーブレットを構成し、それを用いた連続ウェーブレット変換(CWT)のウェーブレット瞬時相関を得ている(JSME C, 73-730, pp.1676-1683 (2007))。
同一の音源に対して本発明を適用して高速ウェーブレット瞬時相関を求めたところ、図8に示すように、両者は完全に一致した。ちなみに、同一の計算機を用いて処理を行ったとき、本発明の実施例の演算時間は前者(CWT)の演算時間の約35%であった。
なお、本発明を適用するにあたり、8つのラトル音の最大周波数は2000Hzであり、サンプリング周波数が12000Hzであったため、RMWの長さは128とし、8つのラトル音からそれぞれSC-RMWを構成し、各SC-RMWを加算・正規化(平均化)して、平均的実信号マザーウェーブレット(A-RMW)を構成した。このA-RMWへ図5に示した手法を適用したとき、寄生レベル-2が適当であることが判明した。
設計した寄生フィルタを図9に示す。図9(A)は実部の寄生フィルタ、図9(B)は虚部の寄生フィルタ、図10は平均的実信号マザーウェーブレットの周波数特性を示す。
【0025】
以上の例では、寄生フィルタを高周波成分側へ接続させているが、これを低周波成分側へ接続することも可能である。
検査対象となる対象信号も音に限定されるばかりでなく、振動、温度変化など全ての物理現象の時間的変化、その他アナログの波形としてあらわされる現象の変化を検査対象とすることができる。
寄生フィルタは「補助フィルタ」または「異常検出フィルタ」と呼ぶこともできる。
【0026】
以上、対象信号分解部や寄生フィルタをブロック図で表してきたが、これらは汎用のコンピュータ装置に所定のプログラムを導入することにより実行される。このコンピュータ装置には対象信号を導入するためのインターフェース(マイク等)が備えられている。ウェーブレット瞬時相関を出力するためのディスプレイやプリンタも備えられるものとする。
【0027】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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