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明細書 :光磁気記録媒体及び光磁気記録方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5574294号 (P5574294)
公開番号 特開2012-099190 (P2012-099190A)
登録日 平成26年7月11日(2014.7.11)
発行日 平成26年8月20日(2014.8.20)
公開日 平成24年5月24日(2012.5.24)
発明の名称または考案の名称 光磁気記録媒体及び光磁気記録方法
国際特許分類 G11B  11/12        (2006.01)
G11B  11/105       (2006.01)
G11B   7/244       (2006.01)
G11B   7/004       (2006.01)
G11B  11/14        (2006.01)
FI G11B 11/12
G11B 11/105 506Z
G11B 11/105 511A
G11B 7/24 516
G11B 7/004 Z
G11B 11/14
請求項の数または発明の数 8
全頁数 26
出願番号 特願2010-247562 (P2010-247562)
出願日 平成22年11月4日(2010.11.4)
審査請求日 平成25年10月28日(2013.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
発明者または考案者 【氏名】大越 慎一
【氏名】所 裕子
【氏名】尾崎 仁亮
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
審査官 【審査官】中野 和彦
参考文献・文献 特開平10-134431(JP,A)
特開2009-080887(JP,A)
特表2011-509924(JP,A)
特表2011-526910(JP,A)
調査した分野 G11B 11/12
G11B 7/004
G11B 7/244
G11B 11/105
G11B 11/14
特許請求の範囲 【請求項1】
記録用の記録光が記録層に集光されることで、前記記録層に情報が記録される光磁気記録媒体において、
前記記録層は、コバルトイオンとタングステンイオンとがシアノ基で架橋され、ピリミジンを含むCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成され、前記記録光により光照射箇所が常磁性状態から強磁性状態に相転移する
ことを特徴とする光磁気記録媒体。
【請求項2】
前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される
ことを特徴とする請求項1記載の光磁気記録媒体。
【請求項3】
前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、前記強磁性状態のとき、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表され、保磁力Hcが1.2Tを超える
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光磁気記録媒体。
【請求項4】
昇温処理により、前記強磁性状態から前記常磁性状態に転移する
ことを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項記載の光磁気記録媒体。
【請求項5】
前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される
ことを特徴とする請求項1記載の光磁気記録媒体。
【請求項6】
前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、前記強磁性状態のとき、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表され、保磁力Hcが1.2Tに達する
ことを特徴とする請求項1又は5記載の光磁気記録媒体。
【請求項7】
前記記録光の波長と異なる光が前記記録層に照射されると、前記強磁性状態から前記常磁性状態に相転移する
ことを特徴とする請求項1、5及び6のうちいずれか1項記載の光磁気記録媒体。
【請求項8】
光磁気記録媒体の磁化を変化させ情報を記録する光磁気記録方法において、
コバルトイオンとタングステンイオンとがシアノ基で架橋され、ピリミジンを含むCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成された記録層に、記録用の記録光を集光させることで、前記記録層の光照射箇所を常磁性状態から強磁性状態に相転移させ、該光照射箇所の磁化を変化させる
ことを特徴とする光磁気記録方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光磁気記録媒体及び光磁気記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光磁気記録媒体としては、磁化の方向が一方向に予め揃えられ、初期化された記録層に記録用の記録光を照射しながら、外部磁場発生手段により外部磁場を一定方向に印加し、記録層の光照射箇所のみ磁化を反転させて磁気記録を行い、情報が記録される光磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにして記録層に記録された情報を再生する際には、再生用の再生光を記録層に照射して得られた反射光の偏光面の方向変化を検出したり、或いは記録層からの漏れ磁界を磁気ヘッドにより検出したりする等、信号レベルが変化する再生信号を得、この再生信号を所定の信号処理回路で処理させることにより所望の情報を再生させ得るようになされている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平6-251443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような光磁気記録方法では、記録光を記録層に照射させながら、これと同時に外部磁場発生手段により所定方向に印加した外部磁場によって記録層の磁化方向を反転させていることから、無磁場では磁気記録が行うことができなかった。
【0006】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、無磁場下でも磁気記録を行え得る光磁気記録媒体及び光磁気記録方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、記録用の記録光が記録層に集光されることで、前記記録層に情報が記録される光磁気記録媒体において、前記記録層は、コバルトイオンとタングステンイオンとがシアノ基で架橋され、ピリミジンを含むCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成され、前記記録光により光照射箇所が常磁性状態から強磁性状態に相転移することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2は、前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3は、前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、前記強磁性状態のとき、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表され、保磁力Hcが1.2Tを超えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4は、昇温処理により、前記強磁性状態から前記常磁性状態に転移することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5は、前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6は、前記CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、前記強磁性状態のとき、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表され、保磁力Hcが1.2Tに達することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項7は、前記記録光の波長と異なる光が前記記録層に照射されると、前記強磁性状態から前記常磁性状態に相転移することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項8は、光磁気記録媒体の磁化を変化させ情報を記録する光磁気記録方法において、コバルトイオンとタングステンイオンとがシアノ基で架橋され、ピリミジンを含むCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成された記録層に、記録用の記録光を集光させることで、前記記録層の光照射箇所を常磁性状態から強磁性状態に相転移させ、該光照射箇所の磁化を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外部磁場を用いることなく、記録層への記録光の照射によって記録層の光照射箇所に磁化を発生させることができ、無磁場下でも磁気記録を行え得る光磁気記録媒体及び光磁気記録方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態による光磁気記録媒体の全体構成を示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態による記録層へ記録光を照射した際の説明に供する概略図である。
【図3】第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の温度依存性を示すグラフである。
【図4】第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光照射前後における磁化及び温度の関係を示すグラフである。
【図5】第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルを示すグラフである。
【図6】第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光照射前後における磁化及び磁場の関係を示すグラフである。
【図7】光誘起相転移のメカニズムの説明に供する概略図である。
【図8】第2の実施の形態による光磁気記録媒体の全体構成を示す概略図である。
【図9】第2の実施の形態による記録層へ記録光を照射した際の説明に供する概略図である。
【図10】第2の実施の形態による記録層へ初期化光を照射した際の説明に供する概略図である。
【図11】第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に記録光及び初期化光を照射した際の磁化の変化を示すグラフである。
【図12】第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の温度依存性を示すグラフである。
【図13】第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光照射前後における磁化及び温度の関係を示すグラフである。
【図14】第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルを示すグラフである。
【図15】第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光照射前後における磁化及び磁場の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。

【0018】
(1)第1の実施の形態
(1-1)第1の実施の形態による光磁気記録媒体の構成
図1において、1は本発明による光磁気記録媒体を示し、光磁気記録媒体1は、板状でなる基板2上に記録層3が形成されており、この記録層3に情報を記録し得るようになされている。因みに、この光磁気記録媒体1の形状に特に制限はなく、BD(Blu-ray Disc、登録商標)やDVD(Digital Versatile Disc)等の一般的な光ディスクのように円盤状に形成し、中央部分にチャッキング用の孔を形成することも可能である。

【0019】
実際上、光磁気記録媒体1は、50K未満の温度領域で、図2(A)に示すように、光源5から発する記録光hνが記録層3に局所的に集光されることで、当該記録層3に情報の記録を行え得るようになされている。このような記録層3は、後述するCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を基板2上に配向付着させることにより形成されており、50K未満の温度領域で記録光hνが照射されると、常磁性状態から強磁性状態に相転移し、外部から外部磁場が印加されなくても、図2(B)に示すように、光照射箇所4に磁化が発生し得るようになされている。

【0020】
ここで、第1の実施の形態におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、コバルト(Co)イオンとタングステン(W)イオンとがシアノ基(CN)で架橋された3次元構造体を有し、ピリミジン及び4-メチルピリジンを含んだCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oからなる。

【0021】
このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、50K未満の温度領域においてCoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される常磁性状態になり得、このとき例えば785~840nmの光が照射されることにより、常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、強磁性状態のとき、保磁力Hcが2.3Tに達していることから、記録層3に用いることで、一段と大きな高保磁力Hcを実現した記録層3を形成し得る。

【0022】
ここで、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、50K未満の温度領域で光照射により強磁性状態になった後、昇温処理が行われ、50K未満の温度領域から120K未満まで温度を上げてゆくと、50K以上で強磁性状態から常磁性状態となり、その後、冷却処理により温度を下げてゆくと、50K未満で光照射により生じた強磁性状態に再び戻り得る。

【0023】
さらに、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、50K未満の温度領域で光照射により強磁性状態になった後、昇温処理が行われ、50K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げると、常磁性状態に転移し、その後、冷却処理により再び50K未満としても、光照射により生じた強磁性状態に戻ることなく、そのまま常磁性状態を維持し得るようになされている。このようなCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成された記録層3を有する光磁気記録媒体1は、以下「(1-2)光磁気記録媒体の初期化、記録及び再生」のようにして情報の初期化と、記録と、再生を実行し得る。

【0024】
因みに、図3はCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体における磁化率の温度依存性を示すグラフであり、図3に示すように、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、温度変化に応じて電荷移動相転移し得るようになされている。実際上、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、約300Kから150K以下まで温度を下げてゆくと、冷却過程で、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2O状態から、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2O状態に電荷移動相転移し得る。

【0025】
また、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、この状態から昇温処理が行われると、約210K以下まではCoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2O状態にあるものの、さらに約247K以上まで温度を上げてゆくと、昇温過程で、再びCoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される状態に電荷移動相転移し得る。

【0026】
(1-2)光磁気記録媒体の初期化、記録及び再生
(1-2-1)光磁気記録媒体の初期化
光磁気記録媒体1は、情報を記録する前準備として、当該光磁気記録媒体1の記録層3全体又はその一部を初期化する。ここで、上述したようにCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、50K未満の温度領域で強磁性状態になっても、昇温処理によって、50K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げると、常磁性状態に転移し、その後、冷却処理により再び50K未満としても、強磁性状態に戻ることなく、そのまま常磁性状態を維持し得る。

【0027】
従って、光磁気記録媒体1では、先ず初めに、昇温処理によって、50K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げて、記録層3を一律に常磁性状態とする初期化が行われる。この際、光磁気記録媒体1では、記録層3の常磁性状態に対して、例えば符号「0」又は「1」を対応付ける。これにより、初期化のときには、光磁気記録媒体1のいずれの箇所においても一様の符号「0」(又は符号「1」)となり、情報が一切記録されていないことになる。

【0028】
(1-2-2)情報の記録
ここで、記録層3となるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、図4に示すように、50K未満の温度領域で常磁性状態にあるとき、785~840nmの記録光hνが照射されると、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。これにより、記録層3は、50K未満の温度領域で記録光hνが照射され、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が常磁性状態から強磁性状態に相転移した際、保磁力Hcが2.3Tまで達しており、高保磁力Hcを発現し得る。

【0029】
しかしながら、記録層3は、50K以上の温度領域のとき記録光hνが照射されても、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が強磁性状態に変わることなく、常磁性状態を維持したままとなる。従って、光磁気記録媒体1に情報を記録する際には、50K未満の温度領域において、記録再生装置の光源5から所定の光強度からなる785~840nmの記録光hνを、常磁性状態の記録層3に集光させる(図2(A))。これにより、光磁気記録媒体1では、記録光hνが照射された目標位置を中心として局所的な範囲(光照射箇所4)で、記録層3におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。

【0030】
このように、光磁気記録媒体1では、50K未満の温度領域において、記録光hνを照射した記録層3の光照射箇所4に磁化が発生し(図2(B))、当該光照射箇所4(強磁性状態)と、その周囲(常磁性状態)との磁化が異なることとなり、その結果、常磁性状態から強磁性状態に相転移してなる記録マークが記録層3に形成される。

【0031】
因みに、光磁気記録媒体1では、昇温処理により、50K未満の温度領域から150K以上になると、記録層3となるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が強磁性状態から再び常磁性状態に転移し、その後、冷却処理により50K未満に温度を下げても、そのまま常磁性状態を維持し得ることから、昇温処理により、50K未満の温度領域から150K以上にすることにより、記録層3の記録マークを消失させ、再び初期化することもできる(図4中、「△」は昇温処理による転移を示す)。

【0032】
(1-2-3)情報の再生
光磁気記録媒体1に記録された情報を読み出す際には、50K未満の温度領域において、例えば記録層3の記録マーク(強磁性状態部分)からの漏れ磁界を、記録再生装置の磁気ヘッド(図示せず)を介して検出し、この漏れ磁界の検出結果から、記録層3に記録された情報を再生させることができる。因みに、ここでは、記録層3が強磁性状態となった状態を記録マークが形成された状態とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録層3が常磁性状態となった状態を記録マークが形成された状態としてもよい。

【0033】
また、この実施の形態の場合、50K未満の温度領域において記録層3の記録マークからの漏れ磁界を、磁気ヘッドを介して検出し、この漏れ磁界の検出結果を基に記録層3に記録された情報を再生するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、50K未満の温度領域において記録再生装置から記録光hνと異なる波長の読出用の読出光を記録層3に集光させ、記録層3から戻ってくる反射光を、記録再生装置の受光素子により検出し、記録層3の磁化の相違(記録マークの有無)により生じる光学定数の違いから、記録層に記録された情報を再生するようにしてもよい。なお、この場合、読出光は、記録層3に照射した際に、当該記録層3が常磁性状態から強磁性状態に相転移されない光強度や波長となる。

【0034】
(1-3)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の製造方法
次に、このような記録層3の形成に用いるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の製造方法について以下説明する。先ず初めに、塩化コバルト(II)6水和物(CoIICl2・6H2O)と、下記化学式(1)で表されるピリミジン(pyrimidine = prm)と、下記化学式(2)で表される4-メチルピリジン(4-methylpyridine = 4-Mepy)とを混合させた塩化コバルト溶液を作製する。

【0035】
【化1】
JP0005574294B2_000002t.gif

【0036】
【化2】
JP0005574294B2_000003t.gif

【0037】
次いで、オクタシアノタングステン(V)酸トリセシウム2水和物(Cs3[WV(CN)8]・2H2O)を含む水溶液を、この塩化コバルト溶液に滴下して攪拌し、混合溶液を作製する。最後に、混合溶液内で合成された合成物を溶媒から分離し回収して洗浄・乾燥させることにより、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2OからなるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を得ることができる。ここで、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を合成する際の反応式は、下記化学式(3)のように示すことができる(なお、IIは2価を示し、Vは5価を示す)。

【0038】
【化3】
JP0005574294B2_000004t.gif

【0039】
このようにして得られたCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、基板2上に配向付着され膜状に形成させることで、所定の膜厚でなる記録層3となり得る。

【0040】
(1-4)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の検証試験
(1-4-1)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の合成
次に、上述した製造方法に基づいて実際にCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を合成し、光磁気記録媒体1の記録層3の形成材料として適しているか検証した。具体的には、塩化コバルト(II)6水和物(CoIICl2・6H2O) 216mg(0.91mmol)を、蒸留水(H2O) 10.0mlに溶解させた後、この蒸留水に対し、ピリミジン(pyrimidine=prm) 50μl(0.625mmol)及び4-メチルピリジン(4-methylpyridine=4-Mepy) 59μl(0.60mmol)を加え、室温中で30分間攪拌して、塩化コバルト溶液を作製した。

【0041】
次に、オクタシアノタングステン(V)酸トリセシウム2水和物(Cs3[WV(CN)8]2・2H2O) 500mg(0.60mmol)を蒸留水 10.0mlに溶解させた水溶液を、上述した塩化コバルト溶液へゆっくりと滴下して混合溶液を作製した。次いで、この混合溶液を一晩攪拌した後、吸引濾過を施して合成物を採取し、この採取した合成物を3℃の冷水(蒸留水)で洗浄して一晩乾燥させた。これにより赤褐色粉末のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が約415mg得られた。このときCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の収率は97%であった。

【0042】
(1-4-2)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成式及び電荷状態の検証結果
次に、上述した製造方法により得られたCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成分析を行った。金属元素Co,Wの元素分析には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用い、C,H,Nの元素分析には燃焼法を用いた。その結果、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成はCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oであった。因みに、元素分析結果として得られた実測値は、Co, 12.62% ; W, 25.37% ; C, 30.48% ; H, 2.40% ; N, 21.80%であった。また計算値は、Co, 12.50% ; W, 25.99% ; C, 30.53% ; H, 2.40% ; N, 21.77%であった。

【0043】
次に、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の金属イオンの価数を決定するため、300Kにて赤外(Infrared= IR)吸収スペクトルを測定したところ、図5に示すような結果が得られた。図5の結果から、2200-2100cm-1の範囲にWV-CN-CoIIのCN伸縮振動に由来するピークが観測され、Coは2価、Wは5価になっていることが分かった。従って、電荷状態を考慮した組成式は、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oであることが分かった。

【0044】
(1-4-3)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の温度誘起相転移現象
次に、上述した製造方法により合成したCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体について、5000 Oeの外部磁場を印加したときの磁化率の温度依存性を、超電導量子干渉素子磁束計(SQUID)を用いて測定したところ、図3に示したような結果が得られた。図3の結果から、室温(300K)におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の値は、10.85cm3 K mol-1であった(以下、第1の実施の形態においてこの相を高温相と呼ぶ)。

【0045】
次に、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却しながら、当該CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の測定を行ったところ、192K付近で磁化率は急激に減少し、154Kで3.80cm3 K mol-1であった(以下、第1の実施の形態においてこの相を低温相と呼ぶ)。続いて、再び昇温しながら、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の測定を行ったところ、240K付近で磁化率は急激に増加し、263Kで冷却開始時の値と一致していた。

【0046】
また、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、高温相から低温相への相転移温度(T1/2↓)が188Kであり、低温相から高温相への相転移温度(T1/2↑)が247Kであることが観測でき、温度ヒステリシス幅(△T=T1/2↑-T1/2↓)が59Kの相転移現象を観測できた。このことから、記録層となるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、温度変化に応じて磁化率が変化し、温度ヒステリシスがあることが確認できた。

【0047】
(1-4-4)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の高温相と低温相の電荷状態について
次に、高温相のときのCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルと、低温相のときのCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルとを測定したところ、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oであり、2価のS= 3/2(HS ハイスピン状態)のCoと、5価のS= 1/2(LS ロースピン状態)のWがCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体中に3:2で存在することが分かる。

【0048】
また、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oであり、2価のS= 3/2(HS ハイスピン状態)のCoと、3価のS= 0(LS ロースピン状態)のCoと、4価のS= 0(LS ロースピン状態)のWが、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体中に1:2:2で存在することが分かる。このことから観測された温度誘起の相転移現象は、Co-W間の電荷移動に基づいて発現したものと考えられる。

【0049】
また、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体から低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体へ移る際、この電荷移動に付随してCoIIIのスピン転移(HS,S=2 → LS,S=0)が起こっていると考えられる。CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、CoとWの組成比が3:2であるため、完全に電子移動が起こっても、低温相の電子状態がCoII-CoIII2-WIV2となっているため、残留したCoII(HS,S=3/2)が常磁性的に振舞うと考えられる。

【0050】
(1-4-5)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の高温相と低温相の電子遷移について
次に、室温時におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルと、低温時におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルとを測定し、その結果から、高温相と低温相における吸収帯の帰属をそれぞれ行ったところ、下記表1に示すような結果が得られた。

【0051】
【表1】
JP0005574294B2_000005t.gif

【0052】
表1に示すように、高温相(HT相と表記)では、364nmにシアノ基からWVへの配位子金属間電荷移動吸収帯(LMCT(Ligand to Metal Charge Transfer),2B12A2, 2E)が確認された。また、高温相では、476nmにCoIIからWVへの金属間電荷移動吸収帯(MMCT(Metal to Metal Charge Transfer))が確認され、さらに、514nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4T1g)、562nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4A2g)、1170nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4T2g)がそれぞれ確認された。

【0053】
一方、表1に示すように、低温相(LT相と表記)では、406nmにWIVのd-d遷移(1A11E)が確認され、454nmにWIVのd-d遷移(1A13E)が確認された。また、低温相では、496nm、515nm、551nm、577nm及び1170 nmにそれぞれCoII又はCoIIIのd-d遷移(順に、1A1g1T2g4T1g4T1g4T1g4A2g1A1g1T1g4T1g4T2g)が確認され、742nmにWIVからCoIIIのMMCTが確認された。

【0054】
(1-4-6)第1の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光磁性現象について
次に、室温にて作製した高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却し、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体とした後、この低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対して、温度3Kで波長785nm、強度86mWcm-2の光を60分照射し、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化を計測したところ、図4に示したような結果が得られた。ここで、図4は光照射前後の磁化温度曲線(10 Oe)を示し、この図4から、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、光照射前、温度3Kから60Kの間で磁化が発生しなかったものの、上述した光を照射したところ、照射時間とともに磁化が増加した。続いて、光照射後のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を150Kまでアニーリングしていったところ、光誘起磁化が消失して光照射前の元の常磁性状態へと回復した。

【0055】
従って、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により記録層3を形成した光磁気記録媒体1では、50K以上の温度となると、強磁性状態にある記録層3が常磁性状態になり、さらに150K以上の温度になると、記録マークが完全に消失することから、記録層3に形成された強磁性状態の記録マークをそのままの状態で維持するには、記録層3への情報の記録と、記録層3からの情報の再生とが、50K未満の温度領域で行われることが好ましいことが分かる。

【0056】
次に、温度2Kのもと、光照射前と光照射後のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対し外部磁場を与え、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁気ヒステリシス曲線を測定したところ、図6に示すような結果が得られた。図6から、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、光照射後に23000 Oeという大きな保磁力Hcを持つヒステリシスが観測された。これにより、光磁気記録媒体1では、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により記録層3を形成することで、2.3Tの高い保磁力Hcを発現し得る記録層3を実現できることが確認できた。

【0057】
因みに、このような光誘起磁化のメカニズムは、図7に示すように、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に光を照射した際、Co-W間の光誘起電荷移動(WからCoへの電子移動)と、CoIIのスピン転移(LS(ロースピン状態)S =1/2からHS(ハイスピン状態)S =3/2への転移)との2段階の反応によって、2×CoIII(S=0)-2×WIV(S=0)-CoII(S=3/2)から、最終的に3×CoII(S=3/2)-2×WV(S=1/2)の光誘起相へ相転移し、それぞれの相での磁気状態をとっていると考えられる。

【0058】
(1-5)動作及び効果
以上の構成において、光磁気記録媒体1では、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表されるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により記録層3を形成する。これにより、光磁気記録媒体1では、50K未満の温度領域において、記録再生装置の光源から785~840nmの記録光hνが、常磁性状態の記録層3に照射されることで、記録層3における光照射箇所4のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を、常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oで表される強磁性状態に相転移させることができる。

【0059】
このように光磁気記録媒体1では、50K未満の温度領域において、記録層3の光照射箇所4に磁化が発生し、その周囲(常磁性状態)との磁化が異なる光照射箇所4(強磁性状態部分)を記録マークとすることで、記録層3に情報を記録できる。かくして、本発明では、外部磁場を用いることなく、記録層3への記録光hνの照射によって当該記録層3の光照射箇所4に磁化を発生させることができ、無磁場下でも磁気記録を行え得る光磁気記録媒体1及び光磁気記録方法を提供できる。

【0060】
この場合、光磁気記録媒体1では、50K未満の温度領域において、記録層3の記録マークからの漏れ磁界を、記録再生装置の磁気ヘッドを介して検出させ、この漏れ磁界の検出結果から、記録層3に記録された情報を再生させることができる。また、その他、光磁気記録媒体1では、記録再生装置から記録光hνと異なる波長の読出用の読出光を記録層3に集光させることで、記録層3から戻ってくる反射光を、記録再生装置の受光素子により検出させ、記録層3の磁化の相違(記録マークの有無)により生じる光学定数の違いから、記録層3に記録された情報を再生させることもできる。

【0061】
因みに、この光磁気記録媒体1では、記録層3に記録マークが形成されても、昇温処理により、50K未満の温度領域から150K以上に温度を上げることで、記録層3のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を強磁性状態から再び常磁性状態に転移させ、記録層3に記録された記録マークを消失させて初期化することもできる。

【0062】
(2)第2の実施の形態
(2-1)第2の実施の形態による光磁気記録媒体の構成
図1との対応部分に同一符号を付して示す図8において、21は第2の実施の形態による光磁気記録媒体を示し、上述した第1の実施の形態とは異なるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により記録層23が形成されている点で相違している。

【0063】
実際上、第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、コバルト(Co)イオンとタングステン(W)イオンとがシアノ基(CN)で架橋された3次元構造体を有し、ピリミジンを含んだCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oからなる。

【0064】
このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域でCoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される常磁性状態になり得、このとき785~840 nmの光が照射されることにより、常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。

【0065】
従って、記録層23は、このCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2OからなるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成されていることにより、40K未満の温度領域で、図9(A)に示すように、光源5から発する785~840 nmの記録光hν1が局所的に集光されると、常磁性状態から強磁性状態に相転移し、外部から外部磁場が印加されなくても、図9(B)に示すように、光照射箇所4に磁化が発生し得るようになされている。

【0066】
ここで、この第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、強磁性状態のとき、保磁力Hcが1.2Tに達していることから、記録層23の形成に用いることで、大きな高保磁力Hcを実現した記録層23を形成し得る。また、図10に示すように、この記録層23では、40K未満の温度領域で強磁性状態にある光照射箇所4に対して、記録光hν1とは波長が異なる532 nmの初期化光hν2が照射されることにより、光照射箇所4が強磁性状態から再び常磁性状態に相転移し得る。

【0067】
すなわち、第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、図11(A)及び(B)に示すように、40K未満の温度領域において、所定の記録光hν1が照射されることにより常磁性状態から強磁性状態に相転移し、続けて当該記録光hν1とは異なる波長の初期化光hν2が照射されることにより強磁性状態から再び常磁性状態に相転移する。かくして、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成された記録層23では、記録光hν1及び初期化光hν2が照射されるたびに、常磁性状態から強磁性状態、強磁性状態から常磁性状態に繰り返し相転移し得、光照射によって情報の記録と初期化とを繰り返すことができる。

【0068】
ここで、第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域で光照射により強磁性状態になった後、昇温処理が行われ、40K未満の温度領域から120K未満まで温度を上げてゆくと、40K以上で強磁性状態から常磁性状態となり、その後、冷却処理により温度を下げてゆくと、40K未満で光照射により生じた強磁性状態に再び戻り得る。

【0069】
さらに、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域で光照射により強磁性状態になった後、昇温処理が行われ、40K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げると、常磁性状態に転移し、その後、冷却処理により再び40K未満としても、光照射により生じた強磁性状態に戻ることなく、そのまま常磁性状態を維持し得るようになされている。このようなCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により形成された記録層23を有する光磁気記録媒体21は、以下「(2-2)光磁気記録媒体の初期化、記録及び再生」のようにして情報の初期化と、記録と、再生を実行し得る。

【0070】
因みに、図12は第2の実施の形態におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体における磁化率の温度依存性を示すグラフであり、図12に示すように、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体も、温度変化に応じて電荷移動相転移し得るようになされている。実際上、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、320Kを超えるとき、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2O状態にあり、320Kから150K以下に温度を下げてゆくと、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2O状態に電荷移動相転移し得る。

【0071】
また、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、この状態から昇温処理が行われると、約250K以下まではCoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2O状態にあるものの、さらに約320K以上まで温度を上げてゆくと、昇温過程で、再び、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2O状態に電荷移動相転移し得る。

【0072】
(2-2)光磁気記録媒体の初期化、記録及び再生
(2-2-1)光磁気記録媒体の初期化
光磁気記録媒体21は、情報を記録する前準備として、当該光磁気記録媒体21の記録層23全体又はその一部を初期化する。この場合、第2の実施の形態による光磁気記録媒体21では、温度処理により初期化する手法と、初期化光hν2により初期化する手法のいずれかにより、記録層23を初期化し得る。

【0073】
ここで、上述したようにCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域で強磁性状態になっても、昇温処理によって、40K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げると、常磁性状態に転移し、その後、冷却処理により再び40K未満としても、強磁性状態に戻ることなく、そのまま常磁性状態を維持し得る。従って、光磁気記録媒体21では、温度処理による初期化する手法として、先ず初めに、昇温処理によって、40K未満の温度領域から150K以上まで温度を上げて、記録層23を一律に常磁性状態とする初期化が行われる。

【0074】
また、光磁気記録媒体21は、初期化光hν2により初期化する手法として、記録層23の形成に用いたCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が、図11(B)に示すように、40K未満の温度領域で初期化光hν2が照射されることにより強磁性状態から常磁性状態に相転移することを利用し、当該初期化光hν2を照射することで、記録層23を一律に常磁性状態とする。

【0075】
この際、光磁気記録媒体21では、例えば記録層23の常磁性状態に対して、符号「0」又は「1」を対応付ける。これにより、初期化のときには、光磁気記録媒体21のいずれの箇所においても一様の符号「0」(又は符号「1」)となり、情報が一切記録されていないことになる。

【0076】
(2-2-2)情報の記録
ここで、記録層23となるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、図11(B)に示すように、40K未満の温度領域で常磁性状態にあるとき、785~840 nm の記録光hν1が照射されると、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。ここで、このCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域で所定の記録光hν1が照射され、常磁性状態から強磁性状態に相転移した際、保磁力Hcが1.2Tまで達しており、高保磁力Hcを発現し得る。

【0077】
しかしながら、記録層23は、図11(B)及び図13に示すように、40K以上の温度領域のとき記録光hν1が照射されても、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が強磁性状態に変わることなく、常磁性状態を維持したままとなる。従って、光磁気記録媒体21に情報を記録する際には、40K未満の温度領域において、図9(A)に示すように、記録再生装置の光源5から所定の光強度からなる785~840 nmの記録用の記録光hν1を、常磁性状態の記録層23に集光させる。これにより、光磁気記録媒体21では、記録光hν1が照射された目標位置を中心として局所的な範囲(光照射箇所4)で、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される強磁性状態に相転移し得る。

【0078】
かくして、光磁気記録媒体21では、40K未満の温度領域において、図9(B)に示すように、記録光hν1を照射した記録層23の光照射箇所4に磁化が発生し、光照射箇所4(強磁性状態)と、その周囲(常磁性状態)との磁化が異なることとなり、その結果、常磁性状態から強磁性状態に相転移してなる記録マークが記録層23に形成される。

【0079】
因みに、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、図11(A)及び(B)に示すように、40K未満の温度領域において記録光hν1の照射により強磁性状態になっても、初期化光hν2の照射により再び常磁性状態に相転移する。従って、光磁気記録媒体21では、記録マークに初期化光hν2が照射されることで、記録層23を常磁性状態に変えて再び初期化することもできる。

【0080】
また、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、40K未満の温度領域で光照射により強磁性状態になっても、その後、昇温処理により、40K未満の温度領域から150K以上になると、再び常磁性状態に転移する。従って、光磁気記録媒体21では、昇温処理によっても、強磁性状態の記録層23を常磁性状態に変えて初期化することもできる。

【0081】
(2-2-3)情報の再生
光磁気記録媒体21に記録された情報を読み出す際には、40K未満の温度領域において、例えば記録層23の記録マーク(強磁性状態部分)からの漏れ磁界を、記録再生装置の磁気ヘッドを介して検出し、この漏れ磁界の検出結果から、記録層23に記録された情報を再生させることができる。因みに、ここでは、記録層23が強磁性状態となった状態を記録マークが形成された状態とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、記録層23が常磁性状態となった状態を記録マークが形成された状態としてもよい。

【0082】
また、この実施の形態の場合、40K未満の温度領域において記録層23の記録マークからの漏れ磁界を、磁気ヘッドを介して検出し、この漏れ磁界の検出結果を基に記録層23に記録された情報を再生するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、40K未満の温度領域において記録再生装置から記録光hν1及び初期化光hν2と異なる波長の読出用の読出光を記録層23に集光させ、記録層23から戻ってくる反射光を、記録再生装置の受光素子により検出し、記録層23の磁化の相違(記録マークの有無)により生じる光学定数の違いから、記録層23に記録された情報を再生するようにしてもよい。なお、この場合、読出光は、記録層23に照射した際に、当該記録層23のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が常磁性状態から強磁性状態、或いは強磁性状態から常磁性状態に相転移されない光強度や波長となる。

【0083】
(2-3)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の製造方法
次に、このような記録層23の形成に用いるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の製造方法について以下説明する。先ず初めに、塩化コバルト(II)6水和物(CoIICl2・6H2O)と、上記化学式(1)で表されるピリミジン(pyrimidine = prm)とを混合させた塩化コバルト溶液を作製する。

【0084】
次いで、オクタシアノタングステン(V)酸トリセシウム2水和物(Cs3[WV(CN)8]・2H2O)を含む水溶液を、この塩化コバルト溶液に滴下して攪拌し、混合溶液を作製する。最後に、混合溶液内で合成された合成物を溶媒から分離し回収して洗浄・乾燥させることにより、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2OからなるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を得ることができる。このようにして得られたCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、基板2上に配向付着されて膜状に形成されることで、所定の膜厚でなる記録層23となり得る。

【0085】
(2-4)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の検証試験
(2-4-1)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の合成
次に、上述した製造方法に基づいて実際にCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を合成し、光磁気記録媒体21の記録層23の形成材料として適しているか検証した。具体的には、塩化コバルト(II)6水和物(CoIICl2・6H2O) 113mg(0.48mmol)を、蒸留水(H2O) 2.5mlに溶解させた後、この蒸留水に対し、ピリミジン(pyrimidine=prm) 50μl(0.63mmol)を加え、室温中で30分間攪拌して、塩化コバルト溶液を作製した。

【0086】
次に、オクタシアノタングステン(V)酸トリセシウム2水和物(Cs3[WV(CN)8]2・2H2O) 250mgを蒸留水に溶解させた水溶液 2.5mlを、上述した塩化コバルト溶液へゆっくりと滴下して混合溶液を作製した。次いで、この混合溶液を一晩攪拌した後、吸引濾過を施して合成物を採取し、この採取した合成物を蒸留水で洗浄して一晩乾燥させた。これにより粉末のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体が得られた。

【0087】
(2-4-2)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成式及び電荷状態の検証結果
次に、上述した製造方法により得られたCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成分析を行った。金属元素Co,Wの元素分析には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用い、C,H,Nの元素分析には燃焼法を用いた。その結果、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の組成はCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oであった。因みに、元素分析結果として得られた実測値は、Co, 12.55% ; W, 26.44% ; C, 27.75% ; H, 1.92% ; N, 24.48%であった。また計算値は、Co, 12.73% ; W, 26.46% ; C, 27.67% ; H, 2.03% ; N, 24.20%であった。

【0088】
次に、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の金属イオンの価数を決定するため、300K、210K、200K、190K、150Kにて赤外(Infrared= IR)吸収スペクトルを測定したところ、図14に示すような結果が得られた。図14の結果から、300Kでは、2185、2171、2160cm-1においてWV-CN-CoIIのCN伸縮振動に由来するピークが観測され、Coは2価、Wは5価になっていることが分かった。従って、電荷状態を考慮した組成式は、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oであることが分かった。

【0089】
一方、150Kでは、2196、2166、2143、2128、2119cm-1においてWIV-CN-CoIIIのCN伸縮振動に由来するピークが観測され、Coは3価、Wは4価になっていることが分かった。従って、電荷状態を考慮した組成式は、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oであることが分かった。

【0090】
(2-4-3)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の温度誘起相転移現象
次に、上述した製造方法により合成したCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体について、5000 Oeの外部磁場を印加したときの磁化率の温度依存性を、超電導量子干渉素子磁束計(SQUID)を用いて測定したところ、図12に示したような結果が得られた。図12の結果から、室温(320K)におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の値は、10.26 cm3 K mol-1であった(以下、第2の実施の形態においてこの相を高温相と呼ぶ)。

【0091】
次に、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却しながら、当該CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の測定を行ったところ、220K付近から磁化率は急激に減少し、150Kで 3.01 cm3 K mol-1であった(以下、第2の実施の形態においてこの相を低温相と呼ぶ)。続いて、再び昇温しながら、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化率の測定を行ったところ、磁化率は急激に増加し、最終的には冷却開始時の値と一致していた。

【0092】
また、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、高温相から低温相への相転移温度(T1/2↓)が208Kであり、低温相から高温相への相転移温度(T1/2↑)が298Kであることが観測でき、温度ヒステリシス幅(△T=T1/2↑-T1/2↓)が90Kの相転移現象を観測できた。このことから、記録層23となる第2実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体も、温度変化に応じて磁化率が変化し、温度ヒステリシスがあることが確認できた。

【0093】
(2-4-4)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の高温相と低温相の電荷状態について
次に、高温相のときのCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルと、低温相のときのCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体のIRスペクトルとを測定したところ、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oであり、2価のS= 3/2(HS ハイスピン状態)のCoと、5価のS= 1/2(LS ロースピン状態)のWがCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体中に3:2で存在することが分かる。

【0094】
また、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、CoIICoIII2[WIV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oであり、2価のS= 3/2(HS ハイスピン状態)のCoと、3価のS= 0(LS ロースピン状態)のCoと、4価のS= 0(LS ロースピン状態)のWが、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体中に1:2:2で存在することが分かる。このことから観測された温度誘起の相転移現象は、Co-W間の電荷移動に基づいて発現したものと考えられる。

【0095】
また、高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体から低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体へ移る際、この電荷移動に付随してCoIIIのスピン転移(HS,S=2 → LS,S=0)が起こっていると考えられる。第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体でも、CoとWの組成比が3:2であるため、完全に電子移動が起こっても、低温相の電子状態がCoII-CoIII2-WIV2となっているため、残留したCoII(HS,S=3/2)が常磁性的に振舞うと考えられる。

【0096】
(2-4-5)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の高温相と低温相の電子遷移について
次に、室温時におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルと、低温時におけるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルとを測定し、その結果から、高温相と低温相における吸収帯の帰属をそれぞれ行ったところ、下記表2に示すような結果が得られた。

【0097】
【表2】
JP0005574294B2_000006t.gif

【0098】
表2に示すように、高温相(HT相と表記)では、343nmにシアノ基からWVへの配位子金属間電荷移動吸収帯(LMCT(Ligand to Metal Charge Transfer),2B12A2, 2E)が確認された。また、高温相では、473nmにCoIIからWVへの金属間電荷移動吸収帯(MMCT(Metal to Metal Charge Transfer))が確認され、さらに、514nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4T1g)、551nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4A2g)、1170nmにCoIIのd-d遷移(4T1g4T2g)がそれぞれ確認された。

【0099】
一方、表2に示すように、低温相(LT相と表記)では、369nmにWIVのd-d遷移(1A11E)が確認され、430nmにWIVのd-d遷移(1A13E)が確認された。また、低温相では、496nm、514nm、551nm、608nm及び1170nmにそれぞれCoII又はCoIIIのd-d遷移(順に、1A1g1T2g4T1g4T1g4T1g4A2g1A1g1T1g4T1g4T2g)が確認され、772nmにWIVからCoIIIのMMCTが確認された。

【0100】
(2-4-6)第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の光磁性現象について
次に、室温にて作製した高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却し、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体とした後、この低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対して、温度5Kで波長840nm、強度50mWcm-2の記録光hν1を180分照射し、第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化を計測したところ、図13に示したような結果が得られた。ここで、図13は光照射前後の磁化温度曲線(10 Oe)を示し、この図13から、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、光照射前、温度5Kから60Kの間で磁化が発生しなかったものの、上述した光を照射したところ、照射時間とともに磁化の増加が確認された。続いて、光照射後のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を150Kまでアニーリングしていったところ、光誘起磁化が消失して光照射前の元の常磁性状態へと回復した。

【0101】
次に、室温にて作製した高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却し、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体とした後、この低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対して、温度10Kで波長840nm、強度100mWcm-2の記録光hν1と、波長532nm、強度50mWcm-2の初期化光hν2とを交互に照射し、第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁化を計測したところ、図11(A)に示したような結果が得られた(10 Oe)。この図11(A)から、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体では、波長840nmの記録光hν1が照射されると、強磁性状態になり、次いで波長532nmの初期化光hν2が照射されると、強磁性状態から常磁性状態に相転移し、記録光hν1及び初期化光hν2の照射に応じて、常磁性状態から強磁性状態、或いは強磁性状態から常磁性状態に相転移することが確認できた。

【0102】
次に、室温にて作製した高温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を冷却し、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体とした後、昇温処理により温度を3Kから50Kまで上げてゆき、そのときの磁化を計測した。次いで、温度10Kで波長840nm、強度100mWcm-2の記録光hν1を照射し3Kから50Kまでの磁化を計測し、続けて、記録光hν1を照射したCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対し温度10Kで波長532nm、強度50mWcm-2の初期化光hν2を照射し3Kから50Kまでの磁化をそれぞれ測定した。その結果、図11(B)に示すような結果が得られた。

【0103】
図11(B)では、記録光hν1及び初期化光hν2の照射前の3Kから50Kまでの磁化を□で示し、記録光hν1の照射後の磁化を●で示し、初期化光hν2の照射後の磁化を○で示す。図11(B)から、初期化光hν2の照射後のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、記録光hν1及び初期化光hν2の照射前の磁化と同様に、常磁性状態になっていることが確認できた。

【0104】
次に、温度2Kのもと、記録光hν1及び初期化光hν2の照射前と、これら記録光hν1及び初期化光hν2の照射後のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に対し、それぞれ外部磁場を与え、CoWオクタシアノピリミジン系金属錯体の磁気ヒステリシス曲線を測定したところ、図15に示すような結果が得られた。図15から、この第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体は、記録光hν1の照射後に12000 Oeという大きな保磁力Hcを持つヒステリシスが観測された。

【0105】
このような第2の実施の形態によるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体でも、光誘起磁化のメカニズムは、低温相のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体に光を照射した際、Co-W間の光誘起電荷移動(WからCoへの電子移動)と、CoIIのスピン転移(LS(ロースピン状態)S =1/2からHS(ハイスピン状態)S =3/2への転移)との2段階の反応によって、2×CoIII(S=0)-2×WIV(S=0)-CoII(S=3/2)から、最終的に3×CoII(S=3/2)-2×WV(S=1/2)の光誘起相へ相転移し、それぞれの相での磁気状態をとっていると考えられる。

【0106】
(2-5)動作及び効果
以上の構成において、光磁気記録媒体21では、Co3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表されるCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体により記録層23を形成する。これにより、光磁気記録媒体21では、40K未満の温度領域において、記録再生装置の光源5から785~840 nmの記録光hν1が、常磁性状態の記録層23に照射されることで、記録層23における光照射箇所4のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を、常磁性状態から、CoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oで表される強磁性状態に相転移させることができる。

【0107】
このようにして光磁気記録媒体21では、40K未満の温度領域において、記録層23の光照射箇所4に磁化が発生し、その周囲(常磁性状態)との磁化が異なる光照射箇所4(強磁性状態)を記録マークとすることで、記録層23に情報を記録できる。かくして、本発明では、外部磁場を用いることなく、記録層23への記録光hν1の照射によって当該記録層23の光照射箇所4に磁化を発生させることができ、無磁場下でも磁気記録を行え得る光磁気記録媒体21及び光磁気記録方法を提供できる。

【0108】
この場合、光磁気記録媒体21では、40K未満の温度領域において、記録層23の記録マーク(強磁性状態部分)からの漏れ磁界を、記録再生装置の磁気ヘッドを介して検出させることで、この漏れ磁界の検出結果から、記録層23に記録された情報を再生させることができる。また、その他、光磁気記録媒体21では、記録再生装置から所定の光強度でなる読出用の読出光を記録層23に集光させることで、記録層23から戻ってくる反射光を、記録再生装置の受光素子により検出させ、記録層23の磁化の相違(記録マークの有無)により生じる光学定数の違いから、記録層23に記録された情報を再生させることもできる。

【0109】
因みに、この光磁気記録媒体21では、40K未満の温度領域において光照射により記録マークが形成されても、その後、初期化光hν2を照射したり、或いは昇温処理により150K以上にすることで、記録層23のCoWオクタシアノピリミジン系金属錯体を強磁性状態から再び常磁性状態に転移させ、記録層23に記録された記録マークを消失させて初期化することもできる。

【0110】
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した第1の実施の形態による記録層3となるCoII3[WV(CN)8]2(ピリミジン)2(4-メチルピリジン)2・6H2Oや、第2の実施の形態による記録層23となるCo3[W(CN)8]2(ピリミジン)4・6H2Oについては、上述した製造方法の他、その他種々の製造方法により製造してもよく、記録層に記録された記録マークの読み出し方も種々の方法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0111】
1、21 光磁気記録媒体
3、23 記録層
4 光照射箇所
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図11】
5
【図12】
6
【図13】
7
【図14】
8
【図15】
9
【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
14