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明細書 :低濃度ガスの検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5305393号 (P5305393)
公開番号 特開2010-271224 (P2010-271224A)
登録日 平成25年7月5日(2013.7.5)
発行日 平成25年10月2日(2013.10.2)
公開日 平成22年12月2日(2010.12.2)
発明の名称または考案の名称 低濃度ガスの検出方法
国際特許分類 G01N   5/02        (2006.01)
FI G01N 5/02 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2009-124040 (P2009-124040)
出願日 平成21年5月22日(2009.5.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 ゼオライト学会発行、「第24回ゼオライト研究発表会 講演予稿集」、平成20年11月25日発行
審査請求日 平成24年5月10日(2012.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】増田 秀樹
【氏名】猪股 智彦
【氏名】澤木 琢
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
【識別番号】100115510、【弁理士】、【氏名又は名称】手島 勝
審査官 【審査官】秋田 将行
参考文献・文献 特表平06-502837(JP,A)
特開2001-242057(JP,A)
特開2002-321912(JP,A)
特開2004-083375(JP,A)
特開2006-076875(JP,A)
特開2007-196104(JP,A)
特開2007-197341(JP,A)
特開2008-170154(JP,A)
特開2009-068974(JP,A)
Honghu Huang, Jia Zhou, Shengyu Chen, Lei Zeng, Yiping Huang,A highly sensitive QCM sensor coated with Ag+-ZSM-5 film for medical diagnosis,Sensors and Actuators B,2004年,Vol.101,pp.316-321
調査した分野 G01N 5/00-5/04
特許請求の範囲 【請求項1】
被測定ガス中に含まれる低濃度の検出対象ガスを検出する方法であって、
水晶振動子上に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子に、前記検出対象ガスの濃度が50ppm以下である被測定ガスを供給し、前記検出対象ガスが前記金属錯体内包ゼオライトに吸着することによる前記水晶振動子の共振周波数の変化を通じて該検出対象ガスを検出し、
ここで、前記振動素子として、前記金属錯体内包ゼオライトの粉末が前記水晶振動子上に、バインダを使用することなく保持されたものを使用する、低濃度ガスの検出方法。
【請求項2】
前記振動素子として、前記金属錯体内包ゼオライトの粉末が前記水晶振動子の電極上のみに保持されたものを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属錯体内包ゼオライトは、金属フタロシアニン錯体をユニットセルに内包したゼオライトである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属錯体内包ゼオライトは、コバルトフタロシアニン錯体をユニットセルに内包したX型ゼオライトである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法に用いられるガスセンサであって:
水晶振動子上に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子;
前記振動素子に前記被測定ガスを供給する被測定ガス供給部;および、
前記水晶振動子の共振周波数を測定する周波数カウンタ;
を備え、
ここで、前記振動素子は、前記金属錯体内包ゼオライトの粉末が前記水晶振動子上に、バインダを使用することなく保持されたものである、ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のガス検出方法に用いられる振動素子を製造する方法であって、該振動素子は、前記金属錯体内包ゼオライトの粉末が前記水晶振動子上に、バインダを使用することなく保持された構成を有し、前記方法は:
ゼオライトのユニットセルの入口よりも大きな金属錯体が該ユニットセルに内包された金属錯体内包ゼオライトの粉末を用意すること;
前記金属錯体内包ゼオライト粉末を溶媒に投入し、該溶媒中において前記粉末を超音波破砕して均質化すること;および、
前記均質化を経て調製された懸濁液であってバインダを実質的に含有しない懸濁液を、水晶振動子の電極表面に付与して乾燥させること;
を包含する、振動素子製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度(具体的には50ppm以下)の検出対象ガス(例えば、揮発性有機化合物)を検出する技術に関する。詳しくは、かかる低濃度のガスを検出する方法、該検出方法に用いられるセンサおよびその構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance;QCM)法に基づくセンサが知られている。この種のセンサは、水晶振動子の表面に物質が付着すると水晶振動子の共振周波数が変化し、その周波数の変化量と付着物の質量との間に一定の関係があることを利用している。
【0003】
本発明者の先願に係る特許文献1には、金属錯体を内包するゼオライト(例えば、特許文献2に記載されるようなゼオライト)の粉末を含有する組成物層を形成した水晶振動子(錯体内包ゼオライト含有層付加水晶振動子)、該水晶振動子の製造方法、ならびに上記水晶振動子を備えたセンサが記載されている。この文献1では、トルエンを0.1体積%(1000ppm)の濃度で含む空気を、錯体内包ゼオライト含有層付加水晶振動子に供給し、上記層が付加されていない水晶振動子(ブランク)との間で周波数の変化量を比較することによってセンサ応答を評価している。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-68974号公報
【特許文献2】特開2006-76875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、水晶振動子に付加する材料として、金属錯体内包ゼオライトを用いた場合と、通常のゼオライト(すなわち、金属錯体が内包されていないゼオライト)を用いた場合とのセンサ応答の比較は行われていない。水晶振動子に付加する材料として、通常のゼオライトではなく金属錯体内包ゼオライトを用いることによる効果をよりよく発揮し得る技術が提供されれば有用である。
【0006】
本発明の一つの目的は、水晶振動子上に保持された金属錯体内包ゼオライトの特性をより効果的に利用して低濃度ガスを検出する方法を提供することである。本発明の他の目的は、該検出方法に用いられるセンサおよびその構成要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、水晶振動子に保持させる材料として通常のゼオライトを用いた場合と金属錯体内包ゼオライトを用いた場合との差異につき詳細に検討し、特許文献1の構成において使用した被測定ガス(トルエンを1000ppmの濃度で含む空気)では上記差異が必ずしも明確ではないことを見出した。そして、特定のガス検出条件下では、金属錯体内包ゼオライトを保持した水晶振動子において、通常のゼオライトを保持した水晶振動子とは明らかに異なる特有のガス吸着挙動が発現することを見出して、本発明を完成した。
【0008】
この明細書によると、被測定ガス中に含まれる低濃度の検出対象ガス(典型的には、有機化合物のガス)を検出する方法が提供される。その検出方法は、水晶振動子上(典型的には、該振動子の電極上)に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子に、被測定ガスを供給することを含む。ここで、前記被測定ガスにおける前記検出対象ガスの濃度は50ppm以下(典型的には0.1ppm以上)とする。そして、上記被測定ガス中に含まれる検出対象ガスが前記金属錯体内包ゼオライトに吸着することによる前記水晶振動子の共振周波数の変化を通じて前記検出対象ガスを検出する。
【0009】
検出対象ガスを比較的高濃度で(典型的には500ppm以上、例えば1000ppm程度)含む被測定ガスでは、水晶振動子上に保持された材料が金属錯体内包ゼオライトである振動素子(QCMセンサ素子)と、通常の(すなわち、上記金属錯体を内包しない)ゼオライトである振動素子との間で、該水晶振動子の周波数変化において明確な差異は生じない。ところが、検出対象ガスの濃度が著しく低くなると(典型的には50ppm以下、さらには30ppm以下、例えば20ppm以下になると)、水晶振動子上に保持された材料が金属錯体内包ゼオライトである場合と通常のゼオライトである場合とで、検出対象ガスの吸着挙動に顕著な差異が現れる。すなわち、通常のゼオライトを保持した振動素子では周波数低下が殆どあるいは全くみられないのに対して、金属錯体内包ゼオライトを保持した振動素子では大きな周波数低下が観測される。したがって、ここに開示されるガス検出方法によると、金属錯体内包ゼオライトに特有のガス吸着挙動(例えば、金属錯体を内包しないゼオライトとは異なる)を効果的に利用して、低濃度の検出対象ガスを感度良く検出することができる。換言すれば、ゼオライトに金属錯体を内包させることによって、ガスの検出感度を飛躍的に高めることができる。
【0010】
なお、ここで「金属錯体内包ゼオライト」とは、ゼオライトを構成するユニットセル(細孔)の少なくとも一部個数に金属錯体が収容されているゼオライト(該金属錯体が部分的にユニットセルからはみ出していてもよい。)をいう。
【0011】
この明細書によると、また、水晶振動子(典型的には、該振動子の電極上)上に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子を使用する方法が提供される。その方法は、当該振動素子に、検出対象ガスの濃度が50ppm以下である被測定ガスを供給し、前記検出対象ガスが前記金属錯体内包ゼオライトに吸着することによる前記水晶振動子の共振周波数の変化を通じて該検出対象ガスを検出することを特徴とする。かかる方法によると、金属錯体内包ゼオライトに特有のガス吸着挙動を効果的に利用して、低濃度の検出対象ガスを感度良く検出することができる。換言すれば、上記振動素子は、低濃度(典型的には50ppm以下)の検出対象ガスを検出するための素子として好適に使用され得る。
【0012】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記振動素子として、前記金属錯体内包ゼオライトの粉末が、前記水晶振動子上(典型的には、該振動子の電極上)に、バインダを使用することなく保持されたものを使用する。一般に、所定の部材に粉末材料を保持させるにあたっては、該粉末材料を構成する粒子を相互に、あるいは該粒子を部材表面に結着させる目的で、有機質(熱可塑性ポリマー等)および/または無機質(セラミック微粒子等)のバインダが用いられることが多い。しかし、このようなバインダの使用は、水晶振動子の振動(典型的には、厚みすべり振動)におけるノイズを増加させ得る。また、金属錯体内包ゼオライト粉末にバインダ(特に、有機質のバインダ)が付着すると、該粉末の表面積(ひいてはガス吸着挙動)が変動し得る。これらの事象は、ガスの検出感度を低下させ、あるいは検出誤差を大きくする要因となり得る。したがって、ここに開示されるような低濃度ガスの検出においては、少なくとも有機質のバインダを不使用とすることが好ましく、有機質および無機質のいずれのバインダについても不使用とすることが特に好ましい。かかる構成の振動素子によると、低濃度の検出対象ガスをより精度よく検出することができる。
【0013】
なお、バインダを使用することなく金属錯体内包ゼオライトの粉末を水晶振動子に保持させる方法としては、上記粉末が適当な溶媒(例えば、水と低沸点有機溶媒との混合溶媒)に高度に分散された懸濁液を調製し、その懸濁液を水晶振動子の表面に付与して自然乾燥させる方法が例示される。上記懸濁液の好ましい調製方法については後述する。
【0014】
前記金属錯体内包ゼオライトとしては、金属フタロシアニン錯体(例えば、コバルトフタロシアニン錯体)をユニットセルに内包したゼオライトを好ましく採用し得る。金属フタロシアニン錯体は、上記ユニットセルに内包されていない状態において概ね平面状の形状を有するため、複数の錯体分子がスタック(積層)した状態となりやすい。かかる金属フタロシアニン錯体をゼオライトのユニットセルに内包させる(典型的には、該錯体を一分子毎に異なるユニットセルに内包させる)ことにより、上記錯体のスタックを回避して、検出対象ガスをより効果的に吸着することができる。また、金属フタロシアニン錯体は、いくつかの典型的な検出対象ガス(例えば、トルエン、ピリジン、アセトアルデヒド等)に対して良好な親和性を示すので好ましい。なお、ここに開示される技術における金属錯体として採用可能であって、ゼオライトのユニットセル外ではスタックし易い(したがってユニットセルに内包させる意義が大きい)金属錯体の他の例として、金属サロフェン錯体が挙げられる。
【0015】
ここに開示される技術にとり好適なゼオライトとして、X型ゼオライトおよびY型ゼオライトが例示される。例えば、コバルトフタロシアニン錯体をユニットセルに内包したX型ゼオライトを好ましく採用し得る。
【0016】
この明細書によると、また、被測定ガス中に含まれる低濃度(典型的には50ppm以下、さらには30ppm以下、例えば20ppm以下)の検出対象ガスを検出するためのガスセンサが提供される。そのガスセンサは、水晶振動子上に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子を備える。上記センサは、また、前記振動素子に前記被測定ガスを供給する被測定ガス供給部(被測定ガス供給手段としても把握され得る。)を備えることができる。また、前記水晶振動子の共振周波数を測定する周波数カウンタ(周波数計測手段としても把握され得る。)を備えることができる。
【0017】
かかる構成のガスセンサは、ここに開示されるいずれかの低濃度ガス検出方法を実施するためのセンサとして好適である。換言すれば、ここに開示されるいずれかの低濃度ガス検出方法は、上記構成のガスセンサを用いて好ましく実施され得る。
【0018】
この明細書によると、また、水晶振動子上(典型的には、該振動子の電極上)に金属錯体内包ゼオライトを有する振動素子を製造する方法が提供される。その製造方法は、ゼオライトのユニットセルに金属錯体(典型的には、該セルの入口よりも大きな金属錯体)が内包された金属錯体内包ゼオライトの粉末を用意することを包含する。また、前記金属錯体内包ゼオライト粉末を溶媒に投入し、該溶媒中において前記粉末を超音波破砕して均質化(homogenization)することを包含し得る。また、前記均質化を経て調製された懸濁液を水晶振動子の電極表面に付与して乾燥(例えば自然乾燥)させることを包含し得る。ここで、上記電極表面に付与される懸濁液は、バインダを実質的に含有しない(有機質および/または無機質のバインダを少なくとも意図的には配合していないことをいう。)ことが好ましい。例えば、不揮発分が実質的に前記金属錯体内包ゼオライト粉末のみである懸濁液を上記電極表面に付与することが好ましい。
【0019】
かかる方法で製造された振動素子は、ここに開示されるいずれかのガス検出方法に用いられる振動素子として好適である。また、かかる方法で製造された振動素子は、ここに開示されるいずれかのガスセンサ(典型的には、50ppm以下の低濃度ガス専用のガスセンサ)の構成要素として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施形態に係るガスセンサの概略構成を示す模式図である。
【図2】金属錯体内包ゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子E-1と、金属錯体を内包しないゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子F-1とに、11ppmのトルエンを含む被測定ガスG-1をそれぞれ供給したときの周波数変化を示すチャートである。
【図3】金属錯体内包ゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子E-2と、金属錯体を内包しないゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子F-2とに、12ppmのピリジンを含む被測定ガスG-2をそれぞれ供給したときの周波数変化を示すチャートである。
【図4】金属錯体内包ゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子E-3と、金属錯体を内包しないゼオライトを水晶振動子上に有する振動素子F-3とに、2ppmのアセトアルデヒドを含む被測定ガスG-3をそれぞれ供給したときの周波数変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。

【0022】
ここに開示される技術における金属錯体内包ゼオライトは、ゼオライトと、該ゼオライトのユニットセルに収容(内包)されている金属錯体とを含む。かかる金属錯体内包ゼオライトを構成するゼオライトは、従来より知られている多孔質結晶性アルミノケイ酸塩に限定されず、同様の結晶構造(骨格構造)を有する多孔質結晶性メタロケイ酸塩、リン酸塩系多孔質結晶等の無機材料であり得る。これら多孔質結晶性アルミノケイ酸塩と類似結晶構造(以下、「ゼオライト型の結晶構造」ということもある。)を有する無機材料については、2000年7月発行の書籍「ゼオライトの科学と工学」(小野嘉夫、八嶋建明著、講談社刊)に詳細な説明がされている。ここでいう「ゼオライト」の概念には、これらゼオライト型の結晶構造を有する種々の無機材料が包含され得る。また、ここに開示される技術において、ゼオライトの「ユニットセル」とは、該ゼオライトの結晶構造(骨格構造)における構造単位をいう。この「ユニットセル」は、また、該ゼオライトにおいて一つの細孔を構成する単位ともなっている。

【0023】
上記ゼオライトの具体的な構造としては、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、グメリナイト、β型ゼオライト、モルデナイト、オフレタイト、EMT、SAPO-37、ベリロリン酸塩X等のように細孔の入口部が12個の原子により形成されている大細孔のもの;クローバライト等のように細孔の入口部が14個以上の原子により形成されている超大細孔のもの;フェリエライト、ヒューランダイト、ウェイネベアイト等のように細孔の入口部が10個の原子により形成されている中細孔のもの;アナルシム、チャバサイト、エリオナイト、A型ゼオライト等のように細孔の入口部が8個以下の原子により形成されている小細孔のもの;等を例示することができる。これらのうち好ましいゼオライトとして、例えば、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、EMT、SAPO-37およびベリロリン酸塩Xが挙げられる。これらのゼオライトは、細孔の内部のサイズが概ね直径1.3nmであり、該細孔の入口部のサイズが概ね直径0.7nmであって、一つのユニットセルに一分子の金属錯体(例えば、金属フタロシアニン錯体)が内包された構成の金属錯体内包ゼオライトを構築するのに適している。X型ゼオライトおよび/またはY型ゼオライトの使用が特に好ましい。

【0024】
一般にゼオライトは、その骨格構造(典型的には、ケイ素とアルミニウムとが酸素を介して結合した骨格構造)の有する電荷を中和する陽イオンを含有する。該陽イオン(カチオン)は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;等から選択される一種または二種以上であり得る。また、銀、銅、亜鉛、白金、パラジウム、アルミニウム、インジウム、スズ、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、金、モリブデン、タングステン等の、周期表4~13族に属する金属;ランタン、セリウム等の希土類金属(例えばランタノイド);等から選択される一種または二種以上の金属の陽イオンであり得る。このような陽イオンは、例えばイオン交換によって、その一部または実質的に全部を他の陽イオン(二次イオン)に置き換えることができる。

【0025】
このようなゼオライトに内包される金属錯体は、検出対象ガスの種類に応じて、少なくともゼオライトに内包された状態において上記検出対象ガスに対して親和性を示す種々の金属錯体であり得る。例えば、代表的な揮発性有機化合物(VOC)であるトルエン、ピリジンおよびアセトアルデヒドの検出に適した金属錯体として、金属フタロシアニン錯体を例示することができる。なお、ゼオライトに内包される金属錯体は、単独(ゼオライトに内包されていない状態)では検出対象ガスの吸着性を示さない金属錯体であってもよい。例えば、検出対象ガスがトルエン、ピリジンまたはアセトアルデヒドである場合、コバルトフタロシアニン錯体は、単独ではこれらの検出対象ガスを吸着しないが、X型ゼオライトのユニットセルに内包されたコバルトフタロシアニン錯体は上記検出対象ガスを吸着可能である。

【0026】
なお、ここでいう「金属フタロシアニン錯体」は、該金属錯体を構成する配位子が置換基を有しない(すなわち、無置換の)ものに加えて、該配位子が置換基を有するものをも包含する概念であり、他の錯体についても同様である。ここに開示される金属錯体内包ゼオライトの一好適例として、下記式(A)で表わされる無置換の金属フタロシアニン錯体を内包するゼオライトが挙げられる(式中のMは中心金属を表す。)。このような金属フタロシアニン錯体は、比較的安価な原料を用いたship-in-bottle法により、ユニットセル内で容易に合成し得るので好ましい。

【0027】
【化1】
JP0005305393B2_000002t.gif

【0028】
ここに開示される技術において好ましく採用し得る金属錯体の他の例として、ビス(サリチリデン)-オルト-フェニレンジアミナト金属錯体(以下、「金属サロフェン錯体」ということもある。)、環状テトラピロール化合物(例えば、ポルフィリン、ポルフィセン)を配位子とする金属錯体、ポリピリジル化合物(例えば,ピリジン,ターピリジン)を配位子とする金属錯体、等が挙げられる。

【0029】
かかる金属錯体を構成する中心金属は、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、バナジウム(V)およびセリウム(Ce)等であり得る。これらのうち、錯体合成の容易性(特に、ship-in-bottle法による合成に適していること)、ゼオライトに内包された状態において上記代表的なVOCを吸着する性能、原料コスト等の観点から、好ましい中心金属として、コバルト、鉄、マンガン、銅、ニッケル、チタンおよびルテニウムが挙げられる。

【0030】
好ましい一態様では、ゼオライトを構成するユニットセルの細孔入口部のサイズ(例えば、X型およびY型のゼオライトでは約0.7nm)に対し、該入口部のサイズよりも大きなサイズの金属錯体が内包された金属錯体内包ゼオライトを使用する。すなわち、前記入口部を実質的に通過できない(該入口部を経由してユニットセルの細孔に出入りすることができない)サイズの金属錯体が内包されていることが好ましい。このようなサイズの関係を満たすゼオライトと金属錯体との組み合わせは、該金属錯体がユニットセルの内部(細孔内)に保持された状態を安定して維持するのに適している。例えば、該金属錯体内包ゼオライトに施され得る種々の処理および/または該ゼオライト材料の種々の使用状況において、ユニットセルに内包された金属錯体が該ユニットセルの細孔から抜け出す(ユニットセルから失われる)事象が起こり難い。例えば超音波破砕による均質化等を行ってもその組成が損なわれにくいので、該金属錯体内包ゼオライトの粉末が溶媒中に高度に分散された懸濁液を調製するのに適している。したがって、このような金属錯体内包ゼオライト粉末は、該粉末が実質的にバインダを使用することなく水晶振動子上に保持された振動素子を形成するのに適している。

【0031】
ゼオライトのユニットセル内に金属錯体を内包させる方法としては、ゼオライトと金属錯体形成用原料(該錯体を構成する配位子の前駆体等)とを含む混合物を封管中で加熱する方法、該混合物を加熱還流する方法等を適宜採用することができる。上記混合物としては、目的とする(すなわち、ユニットセルに内包させようとする)金属錯体の中心金属たる金属元素が担持されているゼオライトと、その金属元素に配位して上記金属錯体を構築し得る配位子前駆体とを含む混合物を好ましく使用することができる。かかる配位子前駆体としては、ユニットセルの入口部よりもサイズの小さな化合物を好ましく使用することができる。上記ユニットセルへの金属錯体の内包は、このような配位子前駆体がユニットセル内において金属元素に配位することによって該ユニットセル内で金属錯体が合成(構築)されるように行われることが好ましい。ユニットセルの入口部のサイズよりも分子サイズの大きな金属錯体を該ユニットセルに内包させる場合には、二分子以上の配位子前駆体(一種類の化合物であってもよく、二種以上の化合物であってもよい。)から一分子の錯体が合成されるように、該錯体およびそれに対応する配位子前駆体(好ましくは、さらに該錯体の中心金属たる金属元素)を選定することが好ましい。このようにユニットセル内で金属錯体を合成する手法(特に、該ユニットセルの入口部よりもサイズの大きな錯体を合成する手法)は、いわゆるship-in-bottle法として把握され得る。かかる合成法によると、ユニットセルの入口部よりも大きな金属錯体であっても、該錯体を該ユニットセルに効率よく内包させることができる。なお、かかる合成法は、ユニットセルの入口部よりも小さなサイズの金属錯体の合成にも好ましく適用され得る。

【0032】
ここに開示される技術における水晶振動子としては、一般的なQCM法における水晶振動子と同様のものを使用することができる。通常は、ATカットの水晶振動子が好ましく用いられる。例えば、基本振動周波数Fが概ね9MHz以上(典型的には9MHz~30MHz程度)であって、電極面積Aが0.1cm~0.5cm程度の水晶振動子を好ましく用いることができる。

【0033】
かかる水晶振動子に金属錯体内包ゼオライト(典型的には粉末状。例えば、平均粒径が0.1μm~0.5μmの金属錯体内包ゼオライト粉末)を保持させて振動素子を作製する操作は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、金属錯体内包ゼオライトの粉末が適当な溶媒に分散した懸濁液を調製する。この懸濁液は、上記溶媒(揮発成分)および金属錯体内包ゼオライト以外に有機質および/または無機質のバインダを含有してもよく、かかるバインダを実質的に含有しなくてもよい。その懸濁液を水晶振動子の電極面上に付与(例えば滴下)して上記溶媒を除去する(乾燥させる)ことにより、水晶振動子上に金属錯体内包ゼオライトが保持された振動素子を得ることができる。上記溶媒の除去は、自然乾燥により行ってもよく、乾燥を促進するために加熱してもよい。

【0034】
好ましい一態様では、実質的にバインダを含有しない懸濁液を水晶振動子に付与する。かかる態様によると、特に高精度なガスセンサを構築し得る振動素子が作製され得る。このようにバインダを使用することなく水晶振動子に金属錯体内包ゼオライト粉末を保持させるにあたっては、上記懸濁液において金属錯体内包ゼオライト粉末を高度に分散させておくことが有利である。かかる高度な分散を実現する方法として、金属錯体内包ゼオライト粉末を溶媒に投入し、該溶媒中において上記粉末に超音波破砕処理を施すことによって系を均質化する(粉末を微細化する)ことを含む方法を好ましく採用することができる。この超音波破砕処理には、市販の超音波発生機(例えば、トミー精工の超音波発生機、商品名「TOMY UD-201」)を使用することができる。上記超音波破砕処理に加えて、系に超音波振動を付与する処理(超音波処理)を施してもよい。この超音波処理によって、金属錯体内包ゼオライト粉末を溶媒中に均一に分散(懸濁)させることができる。かかる超音波処理は、例えば、一般的な超音波洗浄器を使用して好適に実施することができる。上記超音波処理は、超音波破砕処理と同時に行ってもよく、その前に行ってもよく、後に行ってもよく、これらのうち二以上の時期に行ってもよい。

【0035】
より具体的には、例えば以下のようにして金属錯体内包ゼオライトを水晶振動子に好適に保持させることができる。すなわち、平均粒径0.1μm~0.5μmの金属錯体内包ゼオライト粉末を用意(合成、購入など)する。その金属錯体内包ゼオライト粉末50mg~200mgを水(超純水またはイオン交換水の使用が好ましい。)100mLに投入し、まず超音波振動を付与して分散させ(超音波処理)、さらに超音波発生機を用いて均質化する(超音波破砕処理)。この超音波破砕処理は、金属錯体内包ゼオライト粉末の平均粒径が処理前よりも小さくなるように(換言すれば、粒子をより細かく砕くために)行われ得る。

【0036】
このようにして得られた金属錯体内包ゼオライト粉末の水懸濁液に、水と均一に混合可能な揮発性有機溶媒を添加して混合する。好ましくは、上記揮発性有機溶媒を添加した後に超音波処理を施す。上記揮発性有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メタノール等を用いることができ、例えばTHFを好ましく使用することができる。水と揮発性有機溶媒との体積比は、通常、1:0.2~1:5(例えば1:0.5~1:2)程度とすることが適当である。このようにして、水と揮発性有機溶媒との混合溶媒に金属錯体内包ゼオライト粉末が分散した懸濁液を調製する。この懸濁液を水晶振動子に付与して自然乾燥させるとよい。

【0037】
ここに開示される技術を適用してなるガスセンサの一実施形態を図1に模式的に示す。このガスセンサ10は、水晶振動子14上に金属錯体内包ゼオライトが保持された振動素子12と、その振動素子12を収容するセル(ガス検出部)20と、振動素子12に電気的に接続されて水晶振動子14の周波数を計測する周波数カウンタ30とを備える。符号32はオシレータである。セル20の上端からは二つのチューブ22,24が引き出されている。それらのうち一方のチューブ22は、検出対象ガスの濃度が50ppmの被測定ガスGを被測定ガス供給部34からセル20に案内する被測定ガス導入管として用いられる。他方のチューブ24は排気管として用いられる。セル20は恒温槽40の内部に配置されており、これによりセル20の温度を一定に保ち得るようになっている。ガス検出の際には、セル20を一定温度(例えば、20℃~80℃の範囲から選択される温度)に保つことが好ましい。被測定ガスGに含まれる検出対象ガスが振動素子12の金属錯体内包ゼオライトに吸着されると、水晶振動子14の振動数が低下する。その振動数の変化ΔFを周波数カウンタ30を通じて把握することにより、検出対象ガスの存在を検知することができる。

【0038】
なお、ここに開示されるガスセンサは、任意の構成要素として、周波数カウンタ30による計測値および必要なパラメータをQCMの分野において一般的なSauerbreyの式に代入することにより具体的な質量増加量を算出する機能を備えた演算装置、検出対象ガスの存在を検知したことを知らせる機能を備えた表示装置等を含み得る。

【0039】
ここに開示される技術は、50ppm以下(好ましくは30ppm以下、例えば20ppm以下)の低濃度ガスの検出に好ましく適用され得る。検出可能な濃度の下限は、検出対象ガスと金属錯体との組み合わせや水晶振動子の形状等によっても異なり得るが、典型的には0.1ppm以上(例えば0.5ppm以上)である。ここに開示される技術は、低濃度の有機化合物ガスを検出する技術として特に有用である。例えば、トルエン、ピリジン、アセトアルデヒド、ベンゼン、キシレン等の揮発性有機化合物の検出に好ましく適用され得る。

【0040】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。

【0041】
<コバルトフタロシアニン錯体内包ゼオライトの調製>
以下の手順により、Co2+フタロシアニン錯体(CoPc)を内包したX型ゼオライト粉末を調製した。すなわち、ナトリウムイオンを含むX型ゼオライト(NaX)の粉末(東ソー株式会社製品)を用意し、該ゼオライトに含まれるナトリウムイオン(Na)の一部をコバルトイオン(Co2+)とイオン交換することにより、0.95wt%のCo2+イオンを含むNaX(Co-NaX)を得た。このCo-NaX108.96g(18mmolのCo2+を含む。)と、o-フタロニトリル0.127molとをアセトン中で1時間攪拌した後、反応混合物から揮発物を除去し、これをエチレングリコール250mLに懸濁させた。ここにトリ-n-ブチルアミン((n-Bu)N)15mLを添加した後、混合物を210℃で5時間攪拌した。得られた固体に含まれる未反応の配位子やゼオライト粒の外部に生成したフタロシアニン等を除去するため、ソックスレー抽出器を用いて該固体をメタノール、アセトン、およびピリジンで抽出して精製した。その精製物を飽和硝酸ナトリウム水溶液400mLに懸濁させて24時間攪拌することにより、未反応の(錯体を構成しない)コバルトイオンをナトリウムイオンと交換して除去した。結果物を水洗して60℃で乾燥させ、薄青色の粉末を得た。エネルギー分散型蛍光X線分光分析(EDX)、紫外線/可視光(UV/vis)吸収スペクトルおよび拡散反射スペクトルから、NaXのユニットセルにコバルトフタロシアニンが内包された目的物(CoPc@NaX)が得られたことを確認した。

【0042】
<QCMチップの前処理>
明電舎製のQCMチップ(ATカット、10MHz、電極面積0.159cm)を用意し、その電極部を濃硝酸に数時間浸漬した後、水で超音波洗浄した。次いで、金電極をピランハ溶液(HSO:HO=7:3)に30分間浸漬した。その後、QCMチップを取り出して水洗し、直ちに実験に使用した。

【0043】
<CoPc@NaX担持QCMチップの作製>
QCMチップにCoPc@NaXが担持された構成の振動素子(CoPc@NaX/QCM)を作製した。すなわち、100mgのCoPc@NaXを100mLの超純水(ミリQ水)に投入し、東京理化器械株式会社の超音波洗浄器、商品名「EYELA MUS=20D」(38kHz、250W)を用いて2時間の超音波処理を行った。さらに、株式会社トミー精工の超音波発生機、商品名「TOMY UD-201」(20kHz、200W)を用いて30分間の均質化処理を行った。このようにして、1mg/mLのCoPc@NaXが水に分散した懸濁液A-1を得た。この懸濁液1mLにテトラヒドロフラン(THF)1mLを加え、上記超音波洗浄器により10分間の超音波処理を行った。このようにして、HOとTHFとの1:1(体積比)混合溶媒にCoPc@NaXが分散した懸濁液A-2を調製した。

【0044】
上記前処理が施されたQCMチップの電極面に、20μLの懸濁液A-2を滴下して自然乾燥させた。この操作を1回もしくは複数回繰り返して行うことにより、QCMチップの電極上に40.28μgのCoPc@NaXが保持された振動素子サンプルを2個(E-1,E-2)、13.33μgのCoPc@NaXが保持された振動素子サンプルを1個(E-3)作製した。なお、上記懸濁液A-2は、上記混合溶媒およびCoPc@NaXのみを含有し、バインダを含有しない。すなわち、これらの振動素子サンプルにおいて、CoPc@NaXは、バインダを用いることなくQCMに保持されている。また、懸濁液A-2の滴下量とCoPc@NaXの保持量との間には良好な直線性が認められた。

【0045】
上記超音波処理および均質化処理を行う前と後とで、CoPc@NaXのUV/vis吸収スペクトル(HSO中)および拡散反射スペクトルを比較したところ、いずれのスペクトルおいても処理の前後で目立った差異は認められなかった。この結果は、上記超音波処理および均質化処理後にも、CoPcがNaXに内包された構造が適切に保たれていることを支持している。

【0046】
<NaX担持QCMチップの作製>
対照として、QCMにNaXが担持された構成の振動素子(NaX/QCM)を作製した。このNaX/QCMの作製は、CoPc@NaXの代わりにNaXを使用した点以外はCoPc@NaX/QCMの作製と同様の手順により行った。すなわち、HOとTHFとの1:1(体積比)混合溶媒にNaXが分散した懸濁液B-2を調製し、これをQCMチップの電極面に滴下して自然乾燥させる操作を1回もしくは複数回繰り返して行うことにより、QCMチップの電極上に23.14μgのNaXが保持された振動素子サンプルを2個(F-1,F-2)、10.64μgのNaXが保持された振動素子サンプルを1個(F-3)作製した。

【0047】
<ガス検出試験>
振動素子としてCoPc@NaX/QCMを備えるガスセンサ、および、振動素子としてNaX/QCMを備えるガスセンサを用いて、被測定ガス中に50ppm以下(ここでは1ppm~20ppm、具体的には2ppm~12ppm)の濃度で含まれる検出対象ガスを検出する試験を行った。この試験には、図1に示す概略構成のガスセンサ10を使用した。このガスセンサ10は、上記で作製した振動素子12を収容するセル20(ここではガラス製)と、振動素子12に電気的に接続されて水晶振動子14の周波数を計測する周波数カウンタ30(Agilent社製、分解能0.1Hzのユニバーサルカウンタ、型式5313Aを使用した。)とを備える。符号32はオシレータである。セル20の上端からは二つのチューブ22,24が引き出されている。それらのうち一方のチューブ22は被測定ガス導入管として用いられる。本実験例においては、振動素子12のガス組成に対する応答を評価するために、所定の組成に調製された被測定ガスGを送り出すガス発生器34(ガステック社製のパーミエータ、商品名「GASTEC PD-1B-2」)が被測定ガス導入管22に接続されている。他方のチューブ24は排気管として用いられる。セル20は、恒温槽40(日本ブロアー株式会社の型式LS-5を使用した。)の内部に配置されている。

【0048】
振動素子12に吸着した湿気の影響を除くため、測定開始直前に振動素子12を100℃で真空乾燥した。恒温槽40内を60℃に保ち、ガス発生器34から40℃の被測定ガスGを所定のフローレートでセル20内に供給した。被測定ガスとしては、検出対象ガスとしてのトルエンを乾燥空気(キャリアガス)中に11ppmの濃度で含むガス(G-1)、検出対象ガスとしてのピリジンを乾燥空気中に12ppmの濃度で含むガス(G-2)、および、検出対象ガスとしてのアセトアルデヒドを乾燥空気中に2ppmの濃度で含むガス(G-3)、の3種類を使用した。被測定ガスG-1の検出試験には、振動素子サンプルE-1,F-1を使用し、G-1のフローレートは0.5リットル/分とした。被測定ガスG-2の検出試験には振動素子サンプルE-2,F-2を使用し、G-2のフローレートは0.5リットル/分とした。被測定ガスG-3の検出試験には振動素子サンプルE-3,F-3を使用し、G-3のフローレートは0.8リットル/分とした。各振動素子サンプルを備えたガスセンサに、各被測定ガスを1時間供給し、その間の周波数変化を記録した。得られた結果を図2~4に示す。図の縦軸は、各振動素子の測定開始時における周波数を基準(ゼロ点)として、その周波数に対する変化量を表している。

【0049】
図2~4に示されるように、CoPc@NaX/QCMを用いた振動素子サンプルE-1~E-3では、いずれも、被測定ガスの供給開始から2分以内に周波数が大きく(100Hz以上)低下した。したがって、この周波数変化を通じて、被測定ガス中に検出対象ガスが含まれることを容易かつ確実に把握することができる。すなわち、これら振動素子サンプルE-1~E-3は、低濃度(50ppm以下)用のガスセンサとして十分に実用的な応答性能を示すことが確認された。

【0050】
一方、NaX/QCMを用いた振動素子サンプルF-1~F-3では、被測定ガスの供給開始から1時間経過後に至るまで、周波数の低下は殆ど観測されなかった。この結果は、金属錯体を内包しないゼオライトには、ここで使用したような低濃度(2~12ppm)の検出対象ガスが殆ど吸着されないことを示している。

【0051】
なお、より高濃度(1000ppm、10000ppm)の検出対象ガスを含む被測定ガスでは、金属錯体を内包しないゼオライトにおいてもガスの吸着が起こり、むしろ単位質量当たりのガス吸着量は金属錯体内包ゼオライトよりも多いことが認められた。この結果は、金属錯体内包ゼオライトでは、ゼオライトの細孔の一部が金属錯体で埋まっていることにより、金属錯体を内包しないゼオライトよりも比表面積が低いことに関連するものと考えられる。すなわち、ガスの濃度によって、金属錯体内包ゼオライトと金属錯体を内包しないゼオライトとのガス吸着挙動が逆転した。

【0052】
以上のように、金属錯体内包ゼオライトを水晶振動子に保持した振動素子によると、検出対象ガスの濃度が低い(50ppm以下)条件下において特異的に、金属錯体を内包しないゼオライトでは実現し得ない高感度なガス検出能が発揮されることが確認された。

【0053】
さらに、一般的なSauerbreyの式(下記式(1))を適用して検出対象ガスの合計吸収量を求めた。

【0054】
【数1】
JP0005305393B2_000003t.gif

【0055】
上記式(1)において、ΔFは周波数の変化量、Fは水晶振動子の基本振動周波数、Aは電極面積、μは水晶の剪断応力、ρは水晶の密度、Δmは質量変化量(ガス吸着量)を示す。ここで使用したQCMチップでは、F=10MHz、A=0.159cm、μ=2.947×1010kgm-1-2、ρ=2648kgm-3である。これらの値を上記式(1)に代入すると、下記式(2)が得られる。

【0056】
【数2】
JP0005305393B2_000004t.gif

【0057】
この式(2)を用いて、被測定ガスの供給開始から1時間後における周波数変化を、各振動素子サンプルの質量変化量(wt%)に換算した。さらに、その換算値と各検出対象ガスの分子量から、各振動素子サンプルにおける検出対象ガス分子の吸着モル数(nmol)を算出した。それらの結果を表1に示す。

【0058】
【表1】
JP0005305393B2_000005t.gif

【0059】
表1に示されるように、低濃度(20ppm以下、具体的には2ppm~12ppm)では、CoPc@NaX/QCMとNaX/QCMとで各検出対象ガスに対する吸着挙動が著しく異なることが具体的数値からも確認された。すなわち、ここで実験した検出対象ガス濃度においては、CoPc@NaX/QCMによると、NaX/QCMの概ね10倍以上(10~700倍)のモル数の検出対象ガスが吸着された。

【0060】
なお、CoPc@NaX/QCMを用いた振動素子サンプルについて、上記吸着モル数をCoPc1分子当たりに吸着された分子数に換算した。その結果、サンプルE-1(CoPcの保持量=2.68×10-9)ではCoPc1分子当たり0.57分子のトルエンが吸着され、サンプルE-2(CoPcの保持量=0.89×10-9)ではCoPc1分子当たり2.59分子のピリジンが吸着され、サンプルE-3(CoPcの保持量=2.68×10-9)ではCoPc1分子当たり2.70分子のアセトアルデヒドが吸着されたことがわかった。このように、ここに開示される技術によると、水晶振動子上の金属錯体内包ゼオライトが低濃度(20ppm以下、具体的には2ppm~12ppm)においても検出対象ガスを効果的に吸着し得ることを利用して、上記検出対象ガスを感度良く検出し、さらにその吸着量を分子単位で求めることができた。
【符号の説明】
【0061】
10 ガスセンサ
12 振動素子
14 水晶振動子
20 セル
22 被測定ガス導入管
24 排気管
30 周波数カウンタ
32 オシレータ
34 ガス発生器(被測定ガス供給部)
40 恒温槽
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3