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明細書 :花き用香り抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5062704号 (P5062704)
登録日 平成24年8月17日(2012.8.17)
発行日 平成24年10月31日(2012.10.31)
発明の名称または考案の名称 花き用香り抑制剤
国際特許分類 A01G   7/06        (2006.01)
A01N   3/02        (2006.01)
FI A01G 7/06 A
A01N 3/02
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2010-540297 (P2010-540297)
出願日 平成21年8月27日(2009.8.27)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 (1)平成21年2月27日 日本農薬学会発行の「日本農薬学会第34回大会講演要旨集平成21年度」に発表(2)2009年3月19日 園芸学会発行の「園芸学研究第8巻別冊1-2009-園芸学会平成21年度春季大会研究発表要旨」に発表(3)2009年6月24日「http://flower.naro.affrc.go.jp/press/20090624/lily20090624.html」等に電気通信回線を通じて発表、その他各種新聞等に発表
国際出願番号 PCT/JP2009/004167
国際公開番号 WO2010/061502
国際公開日 平成22年6月3日(2010.6.3)
優先権出願番号 2008300353
優先日 平成20年11月26日(2008.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月16日(2011.6.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】大久保 直美
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
【識別番号】100068700、【弁理士】、【氏名又は名称】有賀 三幸
【識別番号】100077562、【弁理士】、【氏名又は名称】高野 登志雄
【識別番号】100096736、【弁理士】、【氏名又は名称】中嶋 俊夫
【識別番号】100117156、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 正樹
【識別番号】100111028、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 博人
審査官 【審査官】木村 隆一
参考文献・文献 特開2000-169302(JP,A)
特開平10-273402(JP,A)
特開平10-033647(JP,A)
特開2006-129707(JP,A)
調査した分野 A01G 7/06
A01N 3/02
A61L 9/01
特許請求の範囲 【請求項1】
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤を有効成分とし、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤の濃度が0.01~5mMである水溶液として使用される花き用香り抑制剤。
【請求項2】
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤が、アミノオキシ酢酸ヘミ塩酸塩である請求項1記載の花き用香り抑制剤。
【請求項3】
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤を0.01~5mM含有する水溶液である請求項1又は2記載の花き用香り抑制剤。
【請求項4】
花きが、ユリ類である請求項1~3のいずれかに記載の花き用香り抑制剤。
【請求項5】
花きの切り花の切り口を、請求項3記載の花き用香り抑制剤に浸漬させることによる花きの香り抑制方法。
【請求項6】
花きが、ユリ類である請求項5記載の花きの香り抑制方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の方法により香り抑制処理された花き。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、花きの香りを簡単に抑制することができる花き用香り抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
花きにおいて、「香り」はその重要な品質の一つであり、消費者の購買意欲に多大な影響をもたらす。例えば、ユリ科ユリ属の‘カサブランカ’(ユリ‘カサブランカ’)は、甘く華やかで濃厚な芳香を有し、結婚式や贈り物用の花束などとして好んで用いられる一方で、その香りの濃厚さ故に、飲食店など食事の場では用いられにくい。また、一般家庭では、締め切った狭い室内にカサブランカが一輪でもあると、匂いでむせるようになることから、匂いに敏感な人には不快臭として嫌われる傾向にある。
【0003】
従って、時・場所・場合に応じて、花きの香りの強さを簡単に抑制できる技術が望まれている。また、花きの香り以外の品質、例えば形、大きさ、色などには影響しないことも求められる。
【0004】
植物を対象とし、その匂いを調節する技術としては、例えば、2価アルコール、更には香気成分配糖体を有効成分として含有し、カスミソウ等の植物の不快臭を低減する植物用消臭剤(特許文献1)、チタンと有機酸からなる無機-有機ハイブリッド化合物、又は有機酸及びその金属塩類を主成分とする鮮度保持用又は消臭用組成物(特許文献2)が提案されている。
【0005】
しかし、前者の技術は、カスミソウの不快臭成分であるイソ吉草酸に対する効果が確認されているに留まり、他の不快臭成分に対する効果は不明であるという問題を有している。また後者の技術における消臭の対象は、鮮度保持のためエチレンガスを酸化する際に発生する「ホルムアルデヒド」であって、植物が本来持っている香りとは全く異なるものであった。
【0006】
一方、アミノオキシ酢酸ヘミ塩酸塩(AOA)は、エチレン生合成阻害能を有し、植物鮮度保持剤として知られている(例えば、特許文献3)。しかし、AOAが植物の有する香りに及ぼす影響については、何も知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平10-33647号公報
【特許文献2】特開2006-129707号公報
【特許文献3】特開2000-169302号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明は、入手の容易な物質を有効成分とし、花きの有する濃厚な香りを簡便に抑制ないし消臭することができる花き用香り抑制剤を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者は、ユリ‘カサブランカ’の発散する香気成分を分析し、後述の表1に示すような20種前後の化合物を同定した。その結果、主要香気成分としてのリナロール、シス-オシメン、イソオイゲノール等のほか、特徴のある微量成分としてクレゾール、クレオソールが検出され、後者2成分は特に不快臭の原因物質と考えられた。これら不快臭の原因物質を含む芳香族香気成分は、シキミ酸、フェニルアラニン、ケイ皮酸等を経由して生合成されることから、本発明者は、この間の生合成を阻害する物質を利用して、その生成を抑制することを発想した。そして更に、そのような生合成阻害剤の一つであるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤によって、芳香族香気成分のみならずテルペノイド香気成分も生合成が阻害され、これによって香気成分量を著しく減少させることができることを確認し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤を有効成分とする花き用香り抑制剤を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、切り花の切り口を、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤を0.01~5mM含有する水溶液に浸漬させることによる花きの香り抑制方法を提供するものである。
【0012】
さらに本発明は、上記方法により香り抑制処理された花きを提供するものである。
【0013】
本発明によれば、花きの有する芳香族香気成分及びテルペノイドの生合成を阻害して、これら香気成分量を著しく減少させることができることから、時・場所・場合に応じて、花きの香りの強さを簡単に抑制することができる。また、有効成分として使用するフェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤は、試薬として市販されており、容易かつ廉価に入手可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において有効成分として使用するフェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤としては、アミノオキシ酢酸ヘミ塩酸塩(AOA)、2-アミノオキシ-3-フェニルプロピオン酸(AOPP)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。

【0015】
本発明の花き用香り抑制剤の使用濃度は、対象となる花きの種類や処理時間により異なるが、水溶液として用いる場合は、一般的にフェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤の濃度として0.01~5mM、更には0.05~1.5mM、特に0.1~1mMの範囲が好ましい。

【0016】
本発明の花き用香り抑制剤には、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ阻害剤のほかに、イソ吉草酸に消臭効果を有するエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の2価アルコール(特許文献1)など、芳香族香気成分やテルペノイド香気成分以外の香気成分を抑制できる化合物を併用することもできる。

【0017】
更に本発明の花き用香り抑制剤には、必要に応じて、クリザール(ポコン&クリザール・ジャパン社製)、アルゴフラッシュ切り花延命剤(アルパティオ社製)、コートーフレッシュ(甲東社製)等の公知の切り花延命剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、スルホコハク酸塩、アミノ酸系アニオン界面活性剤等のアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、脂肪酸グリコシドエステルケファリン等の非イオン界面活性剤、レシチン、フォスファチジン酸等のリン脂質、ソフォロリピッド等のグリコリピドなどの界面活性剤;窒素、リン酸、カリウム、シュークロース、ビタミンC等の栄養源;鉄、亜鉛、マンガン、銅、ほう素等の微量栄養素分;オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、ブラシノリド等の植物ホルモンなどを含有させることもできる。

【0018】
本発明の花き用香り抑制剤は、芳香族香気成分やテルペノイド香気成分を有する花きに対して広く使用することができ、特に、ユリ科ユリ属、特に‘カサブランカ’、‘ソルボンヌ’等のオリエンタルハイブリッド、‘イエローウィン’等のOTハイブリッド(オリエンタルとトランペットとの交雑種)、テッポウユリなどの香りの強いユリ類のほか、ストック等、その臭いが嫌われる場合がある花きの香り抑制に好適に使用することができる。ここでいう花きとしては、切り花を指す。

【0019】
これらの花きに対する香り抑制処理は、より優れた香り抑制効果を得る観点から、花きが、開花前のつぼみの段階で行うことが好ましい。

【0020】
本発明の花き用香り抑制剤によって花きの香りを抑制するには、切り花の切り口を本発明の花き用香り抑制剤に浸漬して吸収させればよい。これにより、切り口から本発明の花き用香り抑制剤が花きに吸収され、芳香族香気成分やテルペノイド香気成分の生合成を阻害することで、不快臭を抑制することができる。
【実施例】
【0021】
実施例1 カサブランカ(オリエンタル・ハイブリット)に対するAOAの香り抑制効果
本発明者らは、ユリ‘カサブランカ’の開花後1日目における発散する香気成分を以下のように分析した。花(つぼみ)を4~5輪付けたユリ‘カサブランカ’を蒸留水に浸し、23℃一定、12時間日長(8時~20時明/20時~8時暗)のインキュベーター中に置いた。開花後1日経った花の部分のみを、出入り口のある3Lのテドラーパックで密封し、入り口から活性炭で浄化した無臭空気を入れながら出口のテナックスカラムに10時~11時の1時間分の香気成分を採取した。香気成分は加熱脱着装置(Gerstel)を用いてGC-MS(GC: Agilent 6890N, MS: Agilent 5973N)に導入し、分析を行った。その結果、表1に示す20種の化合物を同定した。
【実施例】
【0022】
【表1】
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【実施例】
【0023】
次いで、アミノオキシ酢酸ヘミ塩酸塩(AOA)の0.1mM水溶液及び1mM水溶液を調製し、精製水をコントロールとして、これらにユリ‘カサブランカ’の切り花(つぼみ)を生け、そのまま24時間放置した。24時間後における香りの変化を観察すると共に、香気成分を分析した。各香気成分について、コントロールの値を1としたときの24時間後の割合を表2に示す。
【実施例】
【0024】
【表2】
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【実施例】
【0025】
その結果、24時間後には投与区(0.1mM水溶液及び1mM水溶液)はほとんど香らなくなり、発散香気成分量はコントロールに比べ著しく減少した。また、高濃度区(1mM水溶液)では花の開き方がコントロールと比較して若干小さめであったが、低濃度区(0.1mM水溶液)は、花の形態等はコントロールと変わりなかった。
【実施例】
【0026】
実施例2 ソルボンヌ(オリエンタル・ハイブリッド)に対するAOAの香り抑制効果
ユリ‘ソルボンヌ’の開花後1日目における発散香気成分を以下のように分析した。花(つぼみ)を3-4輪付けたソルボンヌを蒸留水に浸し、23℃一定、12時間日長(8~20時明/20~8時暗)のインキュベータ中に置いた。開花後1日経った花の部分のみを、出入り口のある3Lのテドラーパックで密封し、入り口から活性炭で浄化した無臭空気を入れながら出口のテナックスカラムに10~11時の1時間分の香気成分を採取した。香気成分の分析方法はカサブランカと同様である。その結果、表3に示す19種の化合物を同定した。
【実施例】
【0027】
【表3】
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【実施例】
【0028】
次に、AOAの0.1mM、1mM水溶液を調製し、精製水をコントロールとしてこれらにつぼみのソルボンヌ切り花を生け、そのまま24時間放置した。24時間後における香りの変化を観察するとともに、香気成分を分析した。各香気成分について、24時間後の割合を表4に示す。その結果、24時間後には投与区はほとんど香らなくなり、発散香気成分量はコントロールに比べ著しく減少した。また、高濃度区ではピンクの花の色がコントロールと比較して薄くなったが、低濃度区では花の色、形態等はコントロールと変わりなかった。
【実施例】
【0029】
【表4】
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【実施例】
【0030】
実施例3 イエローウィン(OTハイブリッド)に対するAOAの香り抑制効果
イエローウィンの花の発散香気成分の分析については、香りの強くなる開花後2日目の花を用いた。花(つぼみ)を3~4輪付けたイエローウィンを蒸留水に浸し、23℃一定、12時間日長(8~20時明/20~8時暗)のインキュベータ中に置いた。開花後2日経った花の部分のみを出入り口のある3Lのテドラーパックで密封し、入り口から活性炭で浄化した無臭空気を入れながら出口のテナックスカラムに10~11時の1時間分の香気成分を採取した。分析方法はカサブランカと同様である。その結果、表5に示す20種の化合物を同定した。
【実施例】
【0031】
【表5】
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【実施例】
【0032】
次に、AOAの0.1mM水溶液を調製し、精製水をコントロールとしてこれにつぼみのイエローウィン切り花を生け、そのまま48時間放置した。48時間後における香りの変化を観察するとともに、香気成分を分析した。各香気成分について、コントロールの値を1としたときの48時間後の割合を表6に示す。その結果、48時間後には投与区は香りが弱くなり、発散香気成分量はコントロールに比べ半分程度となった。AOAの濃度を上げると、下葉が黄色くなる傾向が見られた。
【実施例】
【0033】
【表6】
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【実施例】
【0034】
実施例4 テッポウユリに対するAOAの香り抑制効果
テッポウユリの花の発散香気成分の分析については、香りの強くなる開花後3日目の花を用いた。花(つぼみ)を2~3輪付けたテッポウユリを蒸留水に浸し、23℃一定、12時間日長(8~20時明/20~8時暗)のインキュベータ中に置いた。開花後3日経った花の部分のみを出入り口のある3Lのテドラーパックで密封し、入り口から活性炭で浄化した無臭空気を入れながら出口のテナックスカラムに10~11時の1時間分の香気成分を採取した。分析方法はカサブランカと同様である。その結果、表7に示す10種の化合物を同定した。
【実施例】
【0035】
【表7】
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【実施例】
【0036】
次に、AOAの0.3mM水溶液を調製し、精製水をコントロールとしてこれにつぼみのテッポウユリを生け、そのまま72時間放置した。72時間後における香りの変化を観察するとともに、香気成分を分析した。各香気成分について、コントロールの値を1としたときの72時間後の割合を表8に示す。その結果、72時間後には投与区は香りはかなり弱くなり、発散香気成分量はコントロールと比較して5分の1程度となった。投与区は、投与後1週間あたりから、下葉が黄色くなる傾向が見られた。
【実施例】
【0037】
【表8】
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【実施例】
【0038】
実施例5 カサブランカに対するAOPPの香り抑制効果
AOPP(2-アミノオキシ-3-フェニルプロピオン酸)の0.1mM水溶液及び1mM水溶液を調製し、精製水をコントロールとしてこれらにつぼみのカサブランカ切り花を生け、そのまま24時間放置した。24時間後における香りの変化を観察するとともに、香気成分を分析した。各香気成分について、24時間後の割合を表9に示す。その結果、24時間後には投与区はほとんど香らなくなり、発散香気成分量はコントロールに比べ著しく減少した。
【実施例】
【0039】
【表9】
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