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明細書 :腎障害の新規マーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5830329号 (P5830329)
公開番号 特開2012-093351 (P2012-093351A)
登録日 平成27年10月30日(2015.10.30)
発行日 平成27年12月9日(2015.12.9)
公開日 平成24年5月17日(2012.5.17)
発明の名称または考案の名称 腎障害の新規マーカー
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAD
C12Q 1/68 A
C12Q 1/02
C07K 14/47
C07K 19/00
G01N 33/48 P
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
G01N 33/53 Y
A61P 43/00 111
A61K 48/00
A61K 37/02
A61P 13/12
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2011-210489 (P2011-210489)
出願日 平成23年9月27日(2011.9.27)
優先権出願番号 2010216786
優先日 平成22年9月28日(2010.9.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年7月15日(2014.7.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】綾 邦彦
【氏名】大内田 守
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査官 【審査官】櫃本 研太郎
参考文献・文献 特表2004-521611(JP,A)
特表2010-522871(JP,A)
特開2008-185536(JP,A)
特開2005-229834(JP,A)
特開2008-167759(JP,A)
特開2010-166930(JP,A)
調査した分野 G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ポドシンと相互作用するEG5をマーカーとする、腎障害の検査方法。
【請求項2】
EG5の発現量、EG5の糸球体上皮細胞における局在、EG5のポドシンへの結合能、EG5へのポドシンの結合能、およびEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体の量からなる群から選択されるいずれか1の指標を検出することにより、EG5のポドシンとの相互作用が確認される、請求項1に記載の腎障害の検査方法。
【請求項3】
EG5の糸球体上皮細胞における局在を検出することによる、請求項2に記載の腎障害の検査方法。
【請求項4】
EG5とポドシンとが結合してなる結合複合体をマーカーとする、腎障害の検査方法。
【請求項5】
以下の工程を含む、被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法:
被検物質の存在下で、EG5とポドシンを接触させる工程、
被検物質の非存在下と比べて、被検物質の存在下において、EG5の発現量が変化している場合、EG5の局在が変化している場合、もしくはEG5とポドシンとの結合複合体の量が変化している場合に、被検物質が腎障害に作用を有するものと判定される工程。
【請求項6】
EG5とポドシンとの相互作用を変化させる物質を選択することによる、腎障害治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項7】
以下の工程を含む、請求項に記載の腎障害治療剤をスクリーニングする方法:
被検物質の存在下において、EG5とポドシンを接触させる工程、
被検物質の非存在下よりも被検物質の存在下で、EG5の発現量が増加している被検物質、EG5の局在が回復傾向を示している被検物質、もしくはEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体量が変化している被検物質を、選択する工程。
【請求項8】
EG5発現増強剤からなる、ポドシンの機能調節剤。
【請求項9】
EG5発現増強剤が、EG5をコードする遺伝子を含む核酸である、請求項に記載のポドシンの機能調節剤。
【請求項10】
EG5からなる、ポドシンの機能調節剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、腎障害の新規マーカーに関するものであり、当該新規マーカーを用いて腎障害を検査する方法、当該マーカーを指標として腎障害のための治療剤等をスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国において腎疾患の患者数は年々増加しており、国民の死因の第8位を占めている。例えば慢性腎臓病患者数は1300万人と推測され、26万人以上が透析を受けるなど、国民の健康に重大な影響を及ぼしている。腎疾患の予防・診断・治療法の確立は、国民の健康推進活動において極めて重要な課題である。
【0003】
腎疾患では、蛋白尿などの腎障害の存在を示す所見が得られる。慢性腎臓病患者においては、蛋白尿が多いほど心血管合併症の発症率が高く、逆に薬剤等により蛋白尿を減少させると、末期腎不全や心血管合併症の発症率が下がることが分かってきた。蛋白尿の制御が、腎疾患進行や心血管合併症の制御につながると考えられる。
【0004】
血液は、腎糸球体中に入った後、糸球体内皮細胞、基底膜、上皮細胞を通って濾過され、尿となる。糸球体上皮細胞の足突起と足突起の間には、スリット膜という網の目構造がある。スリット膜は血漿蛋白の通過を最小限に抑えて、蛋白の尿への漏出を防ぐのに重要であると近年考えられるようになってきた。
【0005】
ネフローゼ症候群または腎症の原因遺伝子として、NPHS1遺伝子(遺伝子産物はネフリン)およびNPHS2遺伝子(遺伝子産物はポドシン)などが報告されている(特許文献1,2)。ネフリンとポドシンは、細胞の膜表面に存在して、スリット膜の形成や細胞機能の維持に役割を果たしていると考えられている。ネフリン分子は、スリット膜のバリアー構造維持に直接関与している分子と考えられている。ポドシンはネフリンと結合性を持つことが報告されており、ネフリンを細胞質側から支えて、ネフリンの機能を維持する分子であると考えられている。しかしながら、これらの分子が細胞膜、特にスリット膜にどのようにして運搬されるのかは全く分かっていない。
【0006】
スリット膜の構成における、ネフリンやポドシンの細胞膜への運搬機序が明らかになれば、蛋白尿などの腎障害の発症機序の解明につながり、その早期発見もしくは予防、症状軽減化が可能になると期待される。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2008-167759号公報
【特許文献2】特表2002-506883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、腎障害の新規マーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、生体分子を運搬する機能を持つEG5が正常ポドシンと結合し得ることに着目し、当該EG5が腎障害の新規マーカーとなり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.ポドシンと相互作用するEG5をマーカーとする、腎障害の検査方法。
2.EG5の発現量、EG5の糸球体上皮細胞における局在、EG5のポドシンへの結合能、EG5へのポドシンの結合能、およびEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体の量からなる群から選択されるいずれか1の指標を検出することにより、EG5のポドシンとの相互作用が確認される、請求項1に記載の腎障害の検査方法。
3.EG5の糸球体上皮細胞における局在を検出することによる、請求項2に記載の腎障害の検査方法。
4.EG5とポドシンとが結合してなる、結合複合体。
5.EG5とポドシンとが結合してなる結合複合体をマーカーとする、腎障害の検査方法。
6.以下の工程を含む、被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法:
被検物質の存在下で、EG5とポドシンを接触させる工程、
被検物質の非存在下と比べて、被検物質の存在下において、EG5の発現量が変化している場合、EG5の局在が変化している場合、もしくはEG5とポドシンとの結合複合体の量が変化している場合に、被検物質が腎障害に作用を有するものと判定される工程。
7.EG5とポドシンとの相互作用を変化させる物質を選択することによる、腎障害治療剤をスクリーニングする方法。
8.以下の工程を含む、請求項7に記載の腎障害治療剤をスクリーニングする方法:
被検物質の存在下において、EG5とポドシンを接触させる工程、
被検物質の非存在下よりも被検物質の存在下で、EG5の発現量が増加している被検物質、EG5の局在が回復傾向を示している被検物質、もしくはEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体量が変化している被検物質を、選択する工程。
9.EG5発現増強剤からなる、ポドシンの機能調節剤。
10.EG5発現増強剤が、EG5をコードする遺伝子を含む核酸である、請求項9に記載のポドシンの機能調節剤。
11.EG5からなる、ポドシンの機能調節剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、腎障害についての新規マーカーEG5が提供されるため、腎障害を早期に診断することが可能となり、また腎障害の重症度等の腎障害についての情報を取得することが可能となる。また、EG5とポドシンとの相互作用に着目することにより、腎障害の治療剤をスクリーニングすることが可能となる。さらにEG5とポドシンとの相互作用について研究を進めることにより、腎障害の発症や進展のメカニズムを明らかにし、より有効な診断や、治療・予防等が可能になるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ステロイド剤抵抗性ネフローゼ症候群患者のNPHS2(ポドシン)遺伝子について変異解析した結果を示す図である。(実施例1)
【図2】変異ポドシンには結合せず、正常ポドシンにのみ結合する蛋白質の同定過程を示す写真である。(実施例1)
【図3】EG5がポドシンに結合することを確認した結果を示す写真である。(実施例1)
【図4】マウス腎糸球体における、EG5の局在を免疫組織染色により確認した結果を示す写真である。(実施例2)
【図5】ヒト腎組織におけるEG5の免疫組織染色の結果を示す写真である。(実施例3)
【図6】腎糸球体におけるスリット膜の構造の模式図である。
【図7】腎細胞の培養系におけるEG5発現抑制のポドシンへの影響を確認した写真である。(実施例4)
【図8】腎細胞の培養系におけるEG5過剰発現のポドシンへの影響を確認した写真である。(実施例5)
【図9】腎細胞の培養系におけるEG5過剰発現のポドシンへの影響を確認した写真である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0013】
腎糸球体において血漿蛋白が通過して尿中に漏出するのを防ぐバリアーとして、糸球体上皮細胞と糸球体上皮細胞との間のスリット膜が重要であると考えられている(図6、Nat Genet. 2000 Apr;24(4):333-5. Getting a foothold in nephrotic syndrome. Somlo S, Mundel P.)。スリット膜の構成分子として、ネフリンとポドシンが知られている。ポドシンはNPHS2遺伝子によりコードされる蛋白質であり、ネフリンと結合性を持つことが明らかにされている。ポドシンは、ネフリンを細胞質側から支え、ネフリンのバリアー機能を維持すると考えられている。

【0014】
蛋白尿発症時のポドシンの動態について、抗ポドシン抗体を用いた二重染色蛍光抗体法により観察されている。正常な糸球体ではポドシンが係蹄にそった線状のパターンで観察され、ネフリンの近傍に存在することが明らかにされている。本発明の発明者らが、ステロイド剤抵抗性ネフローゼ症候群患者(症例1)の腎組織を抗ポドシン抗体で免疫組織染色したところ、係蹄に沿った染色は全く観察されず、糸球体上皮細胞体部にのみ限局して染色が観察された。係蹄とは、糸球体内皮細胞と基底膜と糸球体上皮細胞をまとめて指すものである。

【0015】
症例1に関し、ポドシンをコードするNPHS2遺伝子を解析したところ、R168H変異(アミノ酸配列の168番目のアルギニンがヒスチジンに変異)とR168C変異(アミノ酸配列の168番目のアルギニンがシステインに変異)の複合へテロ変異を有していた。

【0016】
Zhang et al. Kidney Int (2004) 66:945-954には、ポドシン遺伝子の塩基配列の467番と468番の間にチミジンが挿入されてフレームシフトがおこり、166番のアミノ酸がストップコドンにかわる変異と、R168Sの複合へテロ変異を持つ患者(症例2)について記載されている。症例2の腎組織では、症例1と同様に糸球体上皮細胞体部のみ限局して抗ポドシン抗体の染色が観察されている。ポドシン遺伝子の塩基配列の419番のグアニンが欠失してフレームシフトがおこり、164、173、178番にアルギニン、170番にリジンが出現し、180番のアミノ酸がストップコドンに変わる変異を持つ患者(症例3)についても記載されているが、症例3の腎組織では、ある程度係蹄に沿って抗ポドシン抗体の染色が観察されている。症例2と症例3は、ポドシンの染色性がかなり違うにもかかわらず、臨床経過は似ており重篤である。Zhangらによると、V180M変異とR138Q変異の複合ヘテロ変異を持つ患者(症例4)の腎組織では、少しだけ(症例2と症例3の間程度)係蹄に沿って抗ポドシン抗体の染色が観察されたことが報告されており、症例4は、ネフローゼ症候群発症が7歳で、末期腎不全が17歳と進行がかなり遅かった。

【0017】
症例1~4から、ポドシンの係蹄における染色性の程度と臨床の重症度は相関していないことが分かった。症例1は、168番アルギニンしか変異が起こっていないにもかかわらず、ポドシンの係蹄における染色性が非常に悪く、少なくとも1歳半までにネフローゼ症候群を発症しており重篤である。これらのことから、168番アルギニンの異常により、ポドシンが糸球体上皮細胞の表面に運ばれる機構が非常に障害される可能性が高いと考えた。

【0018】
そこで本発明者らは、168番アルギニンが変異したポドシンには結合しないが、正常ポドシンに結合する蛋白質を探索したところ、運搬蛋白として知られているキネシンのファミリーであるEG5を同定した。また免疫組織染色により、EG5が腎糸球体に発現・局在していることを確認した。さらに症例1の腎組織を用いてEG5について免疫組織染色を行ったところ、EG5の染色強度が均一ではなくむらがあることが分かった。これに対して、現時点では蛋白尿の症状がない症例の腎組織については、EG5が比較的均一な線状のパターンで染色されることがわかった。従って、EG5がポドシンの糸球体上皮細胞の表面への運搬に関与していることが示唆され、EG5が腎障害の新規マーカーとなり得ることが明らかになった。

【0019】
腎障害の新規マーカーであるEG5は、腎障害に関する種々の用途に利用することができる。例えば、腎障害の診断・検査方法、腎障害の治療・予防剤のスクリーニング方法に利用可能であり、腎障害の新規マーカーEG5は腎障害についての研究ツールとしても利用可能である。EG5は、ポドシンの糸球体上皮細胞の表面への運搬に関与していると考えられることから、EG5の機能の異常を検出することにより、早期に腎障害を診断したり、腎障害の重症度や進行を予測することが可能となる。また、ポドシンの糸球体上皮細胞の表面への運搬異常を改善することにより、根本的に腎障害を改善できる可能性がある。さらに、EG5が関与するような腎障害の発症・進行のメカニズムを新たに明らかにすることにより、より有効な診断方法や治療方法を確立することができると考えられる。

【0020】
(腎障害の検査方法)
本発明は、EG5をマーカーとする、腎障害の検査方法に関する。EG5は、進化上保存されたサブファミリーを形成するM期キネシンの1つであり、ヒト正常組織におけるEG5の発現は、精巣や胸腺などに限定されると考えられていた。EG5は新規M期作用薬の標的分子とされ、EG5阻害剤は癌などの細胞増殖制御の異常が原因となる疾患の治療剤として有望と考えられてきた。本発明では、糸球体上皮細胞にEG5が局在していること、および、EG5がスリット膜構成分子であるポドシンと結合して相互作用していることが明らかにされ、EG5がポドシンと相互作用していることが示唆された。

【0021】
ポドシンと相互作用するEG5のアミノ酸配列、または該アミノ酸配列をコードする塩基配列についての情報は、例えば、公共の遺伝子データベースを利用して適宜取得することができる。本発明においてマーカーとしては、蛋白質であっても、核酸であってもよい。例えば、本発明のマーカーとして利用可能なEG5の塩基配列、アミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号 NM_004523(Homo sapiens kinesin family member 11 (KIF11), mRNA)(配列番号1,3)、NM_010615(XM_129251)(Mus musculus kinesin family member 11 (Kif11), mRNA)(配列番号2,4)である。

【0022】
本発明におけるEG5として、上記のEG5に相当するホモログ蛋白質を適宜利用することができる。該ホモログ蛋白質として、例えば、配列表に記載された配列番号1または2と高い相同性(通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上)を有し、かつ、上記EG5が有する機能(例えば、ポドシンとの結合性等)を持つ蛋白質が、本発明におけるEG5として利用可能である。上記ホモログ蛋白質とは、例えば、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなる蛋白質であって、通常変化するアミノ酸数が30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内である。

【0023】
本発明におけるEG5をコードする遺伝子には、例えば、配列番号3または4の塩基配列自体、あるいは、配列番号3または4のいずれかに記載の塩基配列からなる核酸に対応する他の生物における内在性の遺伝子(ホモログ等)が含まれる。

【0024】
また、配列番号3または4のいずれかに記載の塩基配列に対応する他の生物の内在性の核酸は、一般的に、それぞれ配列番号3または4のいずれかに記載の塩基配列からなる核酸と高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性は、mBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。

【0025】
当業者は、上記の高い相同性を持つ蛋白質から、EG5に機能的に同等な蛋白質を、ポドシンとの結合性の有無を指標として適宜選択し、本発明におけるEG5として利用することができる。

【0026】
なお本発明においては、EG5とポドシンの結合複合体も、本発明のマーカーとして利用可能である。EG5については上述の通りである。ポドシンのアミノ酸配列、または該アミノ酸配列をコードするDNA配列についての情報は、例えば、公共の遺伝子データベースを利用して適宜取得することができる。本発明においてポドシンは、蛋白質であっても、核酸であってもよい。例えば、本発明において利用可能なポドシンの塩基配列、アミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号 NM_014625(Homo sapiens nephrosis 2, idiopathic, steroid-resistant (podocin) (NPHS2), mRNA)(配列番号5,7)またはNM_130456(Mus musculus nephrosis 2 homolog, podocin (human) (Nphs2), mRNA)(配列番号6,8)である。本発明においてEG5と結合複合体をなすポドシンとして、上記のポドシンに相当するホモログ蛋白質も適宜利用することができる。該ホモログ蛋白質として、例えば、配列番号5または6に記載されたアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなる蛋白質であってもよい。

【0027】
本発明におけるポドシンをコードする遺伝子には、例えば、配列番号7または8の塩基配列自体あるいは、配列番号7または8のいずれかに記載の塩基配列からなる核酸に対応する他の生物における内在性の遺伝子(ホモログ等)が含まれる。配列番号7または8のいずれかに記載の核酸に対応する他の生物の内在性の遺伝子は、一般的に、それぞれ配列番号7または8のいずれかに記載の核酸と高い相同性を有する。

【0028】
当業者は、上記の高い相同性を持つ蛋白質から、ポドシンに機能的に同等な蛋白質を、EG5との結合性の有無を指標として適宜選択し、EG5と当該蛋白質との結合複合体を、本発明のマーカーとして利用することが可能である。

【0029】
本発明の検査方法において、EG5またはEG5とポドシンとの結合複合体をマーカーとするとは、個体から採取された被検試料について、EG5に関する指標、例えば、EG5の発現量、EG5の糸球体上皮細胞における局在、EG5のポドシンへの結合能、EG5へのポドシンの結合能、およびEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体の量からなる群から選択されるいずれか1の指標を検出することにより、EG5のポドシンとの相互作用を確認することを意味する。

【0030】
腎障害とは、腎臓に疾病・外傷等で何らかの異常が生じ、腎臓としての機能に障害が出た状態であり、主に蛋白尿などの尿異常の状態を意味する。腎障害を呈する疾患としては、慢性腎臓病(CKD)、急性腎不全など様々な疾患があり、糖尿病性腎症、膜性腎症、巣状糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎、IgA腎症、糸球体腎炎、糸球体に病的な物質が沈着して起こるアミロイド腎症、糖尿病性糸球体腎症、ネフローゼ症候群、抗生物質を含む薬剤などによる間質性腎炎や腎障害などの腎疾患が挙げられる。また腎障害は、糖尿病、高血圧、痛風、肝疾患、SLEや慢性関節リウマチ、膠原病などの腎疾患以外の疾患に伴って起こる場合もある。

【0031】
本発明において検査の対象となる「個体」とは、通常ヒトであるが、本発明の検査方法は必ずしもヒトのみを被検対象とする方法に限定されない。ヒト以外の生物(好ましくは、哺乳動物であり、より好ましくはマウス、ラット、サル、イヌ、ネコ等の脊椎動物や実験動物)を検査対象とすることもできる。

【0032】
本発明における個体は、既に何らかの疾患に罹患している患者であってもよいし、疾患についての診断がなされていない個体であってもよい。

【0033】
本発明において個体から採取される被検試料としては、例えば、血液、尿、代謝物、手術等により採取あるいは切除した組織(好ましくは腎組織)または細胞(例えば、腎由来細胞)、検査等の目的で採取された体液等を例示することができる。

【0034】
本発明の検査方法において、EG5の発現量、EG5の糸球体上皮細胞における局在、EG5のポドシンへの結合能、EG5へのポドシンの結合能、およびEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体の量等の指標の測定は、当業者に公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。

【0035】
例えば、上記指標は、EG5を認識する抗体、EG5とポドシンとの結合複合体を認識する抗体、もしくはポドシンを認識する抗体等を用いて測定することができる。これらの抗体を用いて、例えば、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、免疫組織染色法等を実施して、上記指標を測定することが可能である。
当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、免疫組織染色法が挙げられるが、これらに限定されない。

【0036】
本発明の検査方法に用いる抗体としては、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。本発明のマーカーに結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明の検査方法に用いることが可能であれば、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。また市販されている抗体を適宜使用することも可能である。

【0037】
本発明の検査方法に用いられる抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。また、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、GST、緑色蛍光蛋白質(GFP)等との融合蛋白質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることも可能である。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。

【0038】
被検試料中の上記指標の測定方法の別の態様としては、EG5やEG5とポドシンとの結合複合体に対して特異的に結合する物質(核酸、ペプチド、蛋白質、化合物等)に化学標識させ、その標識された複合体を検出することによっても行うことができる。

【0039】
上記指標は、蛋白質以外にEG5やポドシンをコードする遺伝子を対象として解析することにより検出することも可能である。遺伝子の解析は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。

【0040】
例えば、遺伝子の発現量を、該遺伝子の転写産物(mRNA)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からRNA試料を調製し、該RNA試料に含まれるEG5やポドシンをコードするRNAの量を測定する。また、被検試料からcDNA試料を調製し、該cDNA試料に含まれる本発明のマーカーをコードするcDNAの量を測定することによって、発現量を評価することも可能である。被検試料からのRNA試料やcDNA試料は、個体から採取された被検試料から、当業者に周知の方法で調製することができる。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT-PCR法、DNAアレイ法、in situ ハイブリダイゼーション等を挙げることができる。

【0041】
本発明の検査方法の一態様として、例えば、腎障害の存在を判定する方法が例示される。腎障害の存在を判定する方法は、以下の工程を含むものである。
(a)個体から採取された被検試料について、EG5に関する指標を測定する工程。
(b)EG5に関する指標が異常を示す場合には、腎障害が存在すると判定する工程。

【0042】
「EG5に関する指標が異常を示す」とは正常な個体から採取された被検試料と比較して異常であることを意味し、例えばEG5の発現量が変化している(低い、もしくは、高い)、EG5が係蹄に沿ってではなく、糸球体上皮細胞の内部に局在している割合が高い、EG5のポドシンへの結合能が変化(低下もしくは昂進)している、EG5へのポドシンの結合能が変化(低下もしくは昂進)している、あるいはEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体の量が変化(低下もしくは増加)している、等が例示される。

【0043】
また、本発明の検査方法を、例えば、腎障害の進行度を判定する方法に用いることも可能である。腎障害の進行度を判定する方法は例えば、間隔をおいて個体から採取された被検試料について、EG5に関する指標を測定し、前に採取した被検試料と後に採取した被検試料のEG5に関する指標の変化を検出することにより、腎障害の進行を判定することが可能と考えられる。

【0044】
後に採取した被検試料におけるEG5に関する指標が、前に採取した被検試料と比較して異常な方向へ変化している場合には、腎障害が進行することが可能と考えられる。腎障害が進行しているとは、例えば、軽微な状態から重篤な状態へ進行していることを意味する。逆に、後に採取した被検試料におけるEG5に関する指標が、前に採取した被検試料と比較して正常な方向へ変化している場合には、腎障害が回復に向かっている、つまり軽微な状態へと向かっていると判定される。またこの場合は、EG5の代償機構の破綻等により、EG5の指標自体は正常化するものの腎障害自体は悪化しているというような状態も想定し得る。

【0045】
腎障害の進行度を判定する方法においては、複数回個体から被検試料を採取せずとも、採取した被検試料におけるEG5に関する指標を、対照と比較することによって、腎障害の進行度を判定することも可能である。即ち、一回の測定によって、進行度の判定を行うこともできる。例えば、健常者に由来する試料を対照とした際には、取得した試料におけるEG5に関する指標が異常である場合に、疾患が進行しているものと判定される。他方、EG5に関する指標が対照と比較して変わらない、もしくは異常ではない場合に、疾患から回復している、もしくは快方に向かっているものと判定される。

【0046】
抗EG5抗体を用いて腎組織を免疫組織染色することにより、EG5の糸球体上皮細胞における局在を確認することが可能である。係蹄に沿って比較的均一な線状のパターンで染色が確認された場合は、正常な腎組織と判定され、染色強度が均一ではなく、むらがある場合は、EG5の局在が異常であり、腎障害である、もしくは、腎障害進行していると判定することが可能である。

【0047】
本発明の検査方法を用いることで、腎障害の存在の有無や、進行度について検査することが可能となる。本発明の検査方法は、腎障害の予防や治療におけるより効率的な戦略、治療方針を決める手助けとなる。

【0048】
(被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法、および腎障害治療剤をスクリーニングする方法)
さらに本発明には、EG5とポドシンの結合を指標として、被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法が含まれる。被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法としては、以下の工程(a)および(b)を含む方法が例示される。
(a)被検物質の存在下で、EG5とポドシンを接触させる工程。
(b)被検物質の非存在下と比べて、EG5の発現量が変化している場合、EG5の局在が変化している場合もしくは被検物質の存在下においてEG5とポドシンとの結合複合体の量を変化させる場合に、被検物質が腎障害に作用を有するものと判定される工程。
好ましくは工程(b)は、被検物質の非存在下と比べて、被検物質の存在下において、EG5の発現量が増加している、EG5の局在が回復傾向を示している、または、EG5とポドシンとの結合複合体量が正常化している場合に、被検物質が腎障害に治療効果を有するものと判定される工程である。

【0049】
なお上記(b)の工程において、被検物質の存在下におけるEG5の局在の観察もしくはEG5とポドシンとの結合複合体量の測定は、観察時もしくは測定時には被検物質が存在しない状況を含むことを意味する。例えば、腎由来細胞に被検物質を接触させた後にEG5の発現量を測定する場合や、モデルマウスに被検物質を投与して、腎組織を免疫染色する場合などを含み得る。

【0050】
本発明における被検物質としては、既存の種々の薬物であってもよいし、新たに合成される薬物や化合物であってもよい。本発明の被検物質の腎障害に対する作用を評価する方法では、種々の化合物について、腎疾患の治療効果の程度を評価したり、被検物質の副作用の確認をすることが可能である。また、本発明の方法に供する被検物質は、例えば、DNAもしくはRNA等の核酸、または、核酸を内包したリポソーム(リン脂質小胞体)等であってもよい。本発明の方法によって、例えば、核酸を成分とする遺伝子治療剤について、腎障害の治療効果を検査することができる。

【0051】
本方法におけるEG5の発現量、EG5の局在の観察もしくはEG5とポドシンの結合複合体の量の測定は、上述のとおりに実施することができる。例えば、EG5とポドシンとを接触させた試料について、EG5に対する抗体で免疫沈降を行い、その後沈降画分についてSDS-PAGEを行い、ポドシンと反応する抗体を用いて、ポドシンを検出するシステムなどを使用することができる。この際、ポドシンにはFLAGタグ(FLAG-tag)等が融合されていてもよく、ポドシンと反応する抗体として、FLAGタグに反応する抗FLAG抗体を使用して、間接的に結合複合体を検出してもよい。

【0052】
EG5の発現量、EG5の局在の観察もしくはEG5とポドシンの結合複合体の量を測定するその他の方法として、例えば、腎由来細胞を用いた培養系や腎障害のモデル動物を利用して行うことも可能である。即ち、腎障害モデル動物に対して被検物質を投与し、該動物から取得された試料について、EG5の局在を観察する方法もしくはEG5とポドシンとの結合複合体の量を測定する方法が例示される。対照あるいは投与前と比べて、EG5の局在が回復傾向を示している場合(例えば、係蹄に沿って比較的均一な線状のパターンでEG5の染色が確認された場合)もしくは結合複合体の量が正常化している(例えば有意に増加している)場合には、該物質は腎障害に対して治療効果があるものと判定される。

【0053】
本発明において「治療」とは、腎障害に対して、必ずしも完全な治療効果を有する場合に限定せず、部分的な効果あるいは改善効果、または疾患進行を止める効果を有する場合も含まれる。また、該治療効果には、予防効果も含まれる。本発明の方法を用いることで、薬物の腎障害治療効果を効率的に判定することが可能となる。本発明の方法により、腎障害に有効な治療剤を効率的に選択することが可能となり、腎障害の治療におけるより効率的な戦略、治療を進める手助けになる。

【0054】
また本発明には、EG5とポドシンとの相互作用を変化させる物質を選択することによる、腎障害治療剤をスクリーニングする方法も含まれる。腎障害治療剤のスクリーニング方法は、上記評価方法を利用することにより行うことができる。本スクリーニング方法は、上記評価方法における工程(a)および(b)を含むことが好ましい。上記工程(b)は、被検物質の非存在下よりも被検物質の存在下で、EG5の発現量が増加している被検物質、EG5の局在が回復傾向を示している被検物質もしくはEG5とポドシンとが結合してなる結合複合体量が変化している被検物質を選択することを意味する。

【0055】
また本発明は、EG5を検出する各種抗体や、EG5とポドシンの結合複合体を検出する各種抗体を、腎障害の診断用、治療効果判定用または進行度判定用試薬として使用することにも及ぶ。

【0056】
(ポドシンの機能調節剤)
さらに本発明は、EG5発現増強剤からなる、ポドシンの機能調節剤にも及ぶ。EG5発現増強剤は、EG5の発現量を増加させ得る物質であればいかなるものであってもよいが、好ましくはEG5をコードする遺伝子を含む核酸である。EG5をコードする遺伝子を含む核酸は、EG5をコードする遺伝子を含むものであればいかなるものであってもよい。当該EG5をコードする遺伝子を含む核酸は、EG5をコードする遺伝子を細胞等に導入するために使用され、例えばベクターに担持されていてもよい。また本発明は、EG5のタンパク質自体からなる、ポドシンの機能調節剤にも及ぶ。
本発明におけるポドシンの機能調節剤とは、ポドシンの細胞膜における発現を調節する薬剤であり、好ましくはポドシンの細胞膜における発現を増大させる薬剤である。生体内においては、ポドシンの糸球体上皮細胞の表面に局在することにより腎糸球体の機能が維持されていると考えられている。本発明のポドシンの機能調節剤は、腎糸球体の機能調節に作用し得るものと考えられ、腎障害の予防または治療剤として利用することが期待される。

【0057】
本発明のポドシンの機能調節剤は、経口、皮下注射、静脈注射、局所投与等のいずれの経路で投与してもよい。また、製剤としては、通常、製薬的に許容される担体や賦形剤、その他添加剤を用いて製造した散剤、錠剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤等の経口剤、点眼剤、注射剤、坐剤等の非経口剤とすることができる。製薬的に許容される担体や賦形剤、その他添加剤としては、グルコース、ラクトース、ゼラチン、マンニトール、でんぷんペースト、トリケイ酸マグネシウム、コーンスターチ、ケラチン、コロイド状シリカ等があり、さらには、安定剤、増量剤、着色剤及び芳香剤の様な補助剤が挙げられる。これらの製剤は、各々当業者に公知慣用の製造方法により製造できる。本発明のポドシンの機能調節剤中に含まれる有効成分の配合量としては、適宜設定することができるが、0.1~100重量%が好適である。また、1日当たりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概に決定できないが、通常成人1日当り0.1~1000mg、好ましくは1~600mgを1回または2~4回程度に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を完成するに至る経緯と本発明の内容を実施例に示して、具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(実施例1)ポドシンに結合する分子の同定
ポドシンが糸球体上皮細胞体部に限局している、ステロイド剤抵抗性ネフローゼ症候群患者(症例1)について、ポドシンをコードする遺伝子(NPHS2遺伝子)を解析した。その結果、患者はR168H(168番目のアルギニン(コドン:CGT)がヒスチジン(コドン:CAT)へ変異)とR168C(168番目のアルギニン(コドン:CGT)がシステイン(コドン:TGT)へ変異)の複合へテロ変異を持っていること、R168Hは父親から、R168Cは母親から遺伝したことがわかった(図1)。このことより、168番のアルギニンの異常により、ポドシンの細胞表面への運搬が障害されると考えられた。そこで、正常ポドシンには結合するが、168番のアルギニン異常のあるポドシンには結合しない蛋白質を同定した。
【実施例】
【0060】
FLAGtagのついたpCMV-tag2 vectorにNPHS2(ポドシン)cDNAを挿入したベクター、R168HもしくはR168Cの変異を持つ変異NPHS2(ポドシン)cDNAを挿入したベクター、または、pCMV-tag2 vectorそのもの(空ベクター)を、HEK293細胞にリポフェクタミンでトランスフェクションした。その後、Anti-FLAG M2 Agarose beads(SIGMA社)を使用して、FLAG結合蛋白質を抽出し、SDS-PAGEで、蛋白質を分離した。正常ポドシンを発現させた細胞にのみ確認されるバンドを切り出した(図2)。切り出したバンド(図2、バンド11)に含まれる蛋白質について、Agilent 社製のLC/MS(岡山大学医学部共同実験室内にある)で、質量分析を行い、蛋白質を同定したところ、EG5(KIF11)が同定された。この分子は、キネシンの仲間で、細胞骨格を伝って、分子を運搬する役割があることが知られている。
【実施例】
【0061】
次に、EG5を認識する2種の抗体(ウサギ抗EG5抗体:AKINO03-A Cytoskeleton、ヤギ抗EG抗体:EG5(K-20):sc-31643 santa cruz )を使って、免疫沈降を行った。免疫沈降で利用する抗体のサイズとポドシンのサイズが重なり、判別が難しかったため、NPHS2(ポドシン)cDNAの後ろにGFPtag、FLAG-tag、S-tagをつけ、発現する蛋白質のサイズを大きくした正常ポドシン遺伝子発現ベクターを以下の様に作製した。
ヒトのポドシン遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_014625;配列番号5)を基に、以下に示す蛋白合成開始領域に設定したセンスプライマー(配列番号9、制限酵素EcoRI認識配列を含む)、および、終止コドンを含まないように設定したアンチセンスプライマー(配列番号10、制限酵素XhoI認識配列を含む)を用いて、ヒトcDNAライブラリーを用いたPCRによりポドシン遺伝子領域を増幅した。PCR産物は、制限酵素EcoRVにより平滑末端処理されたpBluescriptKSにクローニングされ、シークエンシング解析により正しいDNA配列であることが確認された。その後、制限酵素EcoRIとXhoIによりポドシン遺伝子は切り出され、EcoRIとXhoIにより切断されたpCMVscript-GFPベクターに挿入された。シークエンシング解析により、挿入されたポドシン遺伝子領域は蛍光蛋白GFP、FLAG-tag、S-tagにアミノ酸フレームが一致していること、すなわち、融合蛋白として正しく発現されることが確認された。ここで、正常ポドシン遺伝子の発現ベクターをpCMVscript-GFP-野生型Podocinとした。
<使用したプライマー>
配列番号9;GAATTCGCCACCATGGAGAGGAGGGCGCGGAGCT
配列番号10;CTCGAGTAACATGGGAGAGTCTTTCTT

次に、pcDNA3.1 にNPHS1(ネフリン)cDNAを挿入したベクターとpCMVscript-GFP-野生型Podocinを一緒に、HEK293細胞にトランスフェクションした。これらの細胞から、2種の抗体とプロテインGに吸着させて、蛋白質を抽出した。Negative controlとして、2種の抗体と同じウサギIgG、ヤギIgGを使用した。Positive controlとして、すでにポドシンに結合することが知られているネフリンに対する抗体(抗ネフリン抗体)を使用した。
【実施例】
【0062】
図3に示すように、2種の抗EG5抗体で免疫沈降した蛋白を泳動したレーンに、抗EG5抗体を反応させたところ、EG5のサイズと一致するバンドが認められ、2種の抗EG5抗体がEG5を認識すること、EG5が免疫沈降されていることが明らかになった(図3下段:レーン2,3)。そこで、この2種の抗EG5抗体で免疫沈降した蛋白質を泳動したレーンに抗FLAG-HRP抗体を反応させたところ、FLAG-ポドシンにサイズが一致するバンドが認められた(図3上段:レーン2,3)
以上の結果より、ヒトポドシンがヒトEG5と結合することが明らかになった。
【実施例】
【0063】
(実施例2)マウス組織におけるEG5の局在の確認
EG5の局在を、Balbcマウスの組織を用いて検討した。6週齢のマウスの腎臓組織を用いて、抗EG5抗体((K-20):sc-31643 santa cruz)で、定法により免疫組織染色した。また同じ組織について、糸球体内皮細胞マーカーである抗PECAM1抗体(PECAM-1 (M-20): sc-1506 -R santa cruz)を用いて、定法により二重染色を行った。
【実施例】
【0064】
図4に示したように、EG5は、抗PECAM1抗体(赤色)により染色された部分から離れてボウマン腔側に染色され、糸球体上皮細胞(ポドサイト)に存在することが明らかになった。緑色は、抗EG5抗体で染色した部分である。
【実施例】
【0065】
(実施例3)症例1の組織におけるEG5の局在
実施例1において解析を行った症例1の腎組織について、EG5の局在を実施例2と同様に定法により検出した。対照として、過去に大量の蛋白尿を呈していたが、現時点では蛋白尿を呈していない2例についてEG5の局在を確認した。抗EG5抗体としては(K-20):sc-31643 santa cruzを使用した。
【実施例】
【0066】
図5に示すとおり、蛋白尿を呈していない2例のEG5の局在は、係蹄に沿って比較的均一な線状のパターンを示したが、症例1では、均一ではなくむらのある局在を示した。
【実施例】
【0067】
(実施例4)EG5発現抑制による腎細胞への影響
腎細胞の培養系において、EG5の発現を抑制した場合の腎細胞への影響を確認した。コラーゲン上でHEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞)を培養し、実験を行った。培養を開始した日を0日目とする。0日目にHEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞)に、EG5に対するsiRNA(Dharmacon)をLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて導入した。培養2日目に、再びsiRNAを導入した。培養3日目にpCMVscript-GFP-野生型Podocinを、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて導入した。培養4日目に細胞を観察した。コントロールとして、non targeting RNAを導入した。
【実施例】
【0068】
細胞を観察した結果を、図7に示す。写真の上段はコントロールの実験結果を示し、下段はEG5のsiRNAを導入した結果を示す。右側の写真は左側の写真の拡大像を示す。siRNAによりEG5の発現を抑制した場合、腎細胞の形態が変化していた。またEG5の発現を抑制した場合は、GFP -野生型Podocin蛋白の細胞膜への発現が減少していた。
【実施例】
【0069】
(実施例5)EG5過剰発現による腎細胞への影響
まず、ヒトの変異型ポドシンcDNA発現ベクターを以下の様に作製した。正常ポドシン遺伝子の168番目のコドンcgtのアルギニンが、catのシステインに変異している変異型(R168C)と、 tgtのヒスチジンに変異している変異型(R168H)のcDNAを用いて、実施例1に従い、変異型ポドシンcDNA発現ベクターを作製した。シークエンシング解析により、正しいDNA配列であること、挿入されたポドシン遺伝子領域は蛍光蛋白GFP、FLAG-tag、S-tagにアミノ酸フレームが一致していること、すなわち、融合蛋白として正しく発現されることが確認された。ここで、変異型ポドシン遺伝子の発現ベクターをpCMVscript-GFP-変異型Podocin(R168C、および、R168H)とした。
次に、EG5の塩基配列(Genbankアクセッション番号 NM_004523;配列番号1)に基づき、ヒトcDNAライブラリーを用いたPCRにてEG5 cDNAを増幅後、pEBGベクターの Glutathione-S-transferase (GST)tagの下流に挿入した。シークエンシング解析により、正しいDNA配列であること、挿入されたEG5遺伝子領域はGST-tagにアミノ酸フレームが一致していること、すなわち、融合蛋白として正しく発現されることが確認された。ここで、正常型EG5遺伝子の発現ベクターをpGST-EG5とした。
次に腎細胞の培養系において、EG5を過剰に発現させた場合の腎細胞への影響を確認した。コラーゲン上でHEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞)を培養し、実験を行った。培養を開始した日を0日目とする。1日目にHEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞)に、GFPとFLAGペプチドの融合した野生型ポドシン(pCMVscript-GFP-野生型Podocin)か、GFPとFLAGペプチドの融合した変異型ポドシン(pCMVscript-GFP-変異型Podocin)を、GSTで標識したEG5(pGST-EG5)とともに、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて導入した。培養3日目に細胞を観察した。
【実施例】
【0070】
細胞を観察した結果を、図8に示す。写真の上段はEG5を導入しなかった場合の実験結果を示し、下段はEG5を導入した場合の結果を示す。左側は野生型ポドシンを導入した結果、中央は変異型ポドシン(R168C)を導入した結果、右側は変異型ポドシン(R168H)を導入した結果を示す。図9は、変異型ポドシンを導入した結果の拡大像を示す。EG5の過剰発現により、細胞膜における野生型ポドシンの発現の増加が認められた。また、EG5を導入していない場合は、変異型ポドシンの細胞膜での発現が高度に低下していたが、EG5の過剰発現により、細胞膜での発現の増加傾向が認められた。これらの結果は変異型ポドシンの細胞膜発現における異常を、EG5の過剰発現が改善したことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0071】
実施例より、キネシン(運搬蛋白)の仲間であるEG5がポドシンと結合すること、EG5がポドシンが発現している糸球体上皮細胞に発現していることが判明した。これらのことから、EG5はポドシンを運搬する機能を有すると考えられ、EG5によるポドシンの運搬が、蛋白尿発症機序に関与していると考えられた。
【0072】
EG5とポドシンとの結合を研究することにより、蛋白尿発症について新たな知見が得られる可能性がある。また、EG5をマーカーとすることにより、蛋白尿等の腎障害の発症や重症度、進行を検査したり、新規または既存の物質の蛋白尿に対する影響を確認することが可能となり、蛋白尿を治療したり、軽減することが可能な新たな薬剤などをスクリーニングすることが可能になると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
8