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明細書 :導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3731054号 (P3731054)
公開番号 特開2004-283067 (P2004-283067A)
登録日 平成17年10月21日(2005.10.21)
発行日 平成18年1月5日(2006.1.5)
公開日 平成16年10月14日(2004.10.14)
発明の名称または考案の名称 導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2003-078202 (P2003-078202)
出願日 平成15年3月20日(2003.3.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成14年10月16~18日札幌メディアパーク・スピカにおいて開催された第50回日本ウイルス学会学術集会・総会において発表
特許法第30条第1項適用 平成15年1月15~16日大阪大学において開催された大阪大学蛋白質研究所セミナー ゲノムの境界とインスレーターにおいて発表
特許法第30条第1項適用 PROGRAM OF THE 44th ANNUAL MEETING OF THE AMERICAN SOCIETY OF HEMATOLOGY(平成14年12月6日配布)第484b頁に発表
審査請求日 平成15年3月20日(2003.3.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】松岡 雅雄
【氏名】赤坂 甲治
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100124280、【弁理士】、【氏名又は名称】大山 健次郎
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】森井 隆信
参考文献・文献 特開2000-116378(JP,A)
特開2000-228925(JP,A)
特開平10-191975(JP,A)
BELL A. C. et al.,Stopped at the border: boundaries and insulators,Curr. Opin. Genet. Dev.,1999年 4月,Vol.9, No.2,191-198
CHUNG J. H. et al.,Characterization of the chicken β-globin insulator,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,米国,1997年 1月,Vol.94,575-580
調査した分野 C12N 15/00
A61K 48/00
CA(STN)
JICSTファイル(JOIS)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
導入遺伝子と共に、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターをヒトの生体以外に導入することを特徴とする、導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法。
【請求項2】
ウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行なうことを特徴とする、請求項1記載のサイレンシングを回避する方法。
【請求項3】
前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターである、請求項2記載のサイレンシングを回避する方法。
【請求項4】
前記ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターが、アンチセンスの方向で導入されている、請求項1ないし請求項3のいずれか一つの請求項記載のサイレンシングを回避する方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導入遺伝子と共に、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターを導入することを特徴とする、導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法に関する。更に本発明は、導入遺伝子のサイレンシングを回避するために、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターを当該導入遺伝子と共に導入することを特徴とする、遺伝子の導入方法に関する。更に本発明は、ベクターのサイレンシングを回避するために、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターを当該ベクターに導入することを特徴とする、ベクターの作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子治療は遺伝子を導入することによって病気を治すという治療方法であって、将来の医療技術として注目を集めている。遺伝子治療の技術によれば、例えばある遺伝子の異常によってその遺伝子の機能が損なわれるために疾患が生じている場合において、患者に正常な遺伝子を導入することにより、その疾患を治療することが可能であると考えられる。遺伝子治療の方法の一つとして、患者の細胞を採取して体外で目的の遺伝子を導入した後、再移植する手法(ex vivo法)がある。この方法を用いてアデノシン・デアミネース欠損症の遺伝子治療が行われて社会的にも大きな注目を集めた。遺伝子治療のもう一つの方法は遺伝子直接導入法(in vivo法)であり、例えばHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の殻蛋白質(env)とgag遺伝子の一部を組み込んだベクターをHIV感染者に投与することなどが試みられている。
【0003】
ところで、遺伝子治療の実用化において最も鍵となる技術は遺伝子の導入方法である。遺伝子を導入するための手段は、ウイルスベクターを用いたものと非ウイルスベクターを用いたものに大別することができる。ウイルスベクターを用いた方法はウイルスの感染性を利用したもので、導入効率という点で優れているために、実際の遺伝子治療ではウイルスベクターがより多く用いられている。なお、ウイルスベクターにはいくつかの種類があって必要に応じて使い分けられている。現在使用されているウイルスベクターの例として、具体的には、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターやレンチウイルスベクターなどを挙げることができる。
【0004】
レトロウイルスのゲノムDNAは宿主染色体に組み込まれるために、組み込まれたDNAは安定して次世代へ伝えられる。よって、レトロウイルスベクターは遺伝子を運ぶ運搬体として信頼性が高く、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入系は疾患の永続的な治療法を与える可能性がある。なお、代表的なレトロウイルスベクターにはマウス白血病ウイルスのような単純レトロウイルスがある。また、アデノウイルスベクターは、DNAウイルスであるアデノウイルスに由来するベクターであり、これまでの遺伝子治療で2番目に汎用されている遺伝子導入系である。アデノウイルスベクターは、受容体を介したエンドサイトーシスによって細胞に侵入するために導入効率が高く、かなり大きな遺伝子を導入できるという利点も有する。また、HIVはレンチウイルスに含まれるが、レンチウイルスはマクロファージやリンパ球が感染する複雑なレトロウイルスである。レンチウイルスは上記のレトロウイルスとは異なって、神経細胞、筋肉細胞、幹細胞等の非分裂細胞に導入することができるという利点を有する。また、レンチウイルスは発現がレトロウイルスより安定しているという特徴を有し、遺伝子疾患の長期にわたる治療において使用するのに適していると考えられている。
【0005】
一方非ウイルスベクターによる方法は感染の危険がないために、安全性という点でウイルスベクターより優れている。ウイルスベクターにおいては、典型的にはウイルスの複製に必要とされるいくつかの遺伝子を欠損させて、その場所に治療のための遺伝子を挿入する。そのために、投与されるウイルスベクターは感染性を失っているが、内因性のレトロウイルスと組み換えを起こした結果として、ウイルスが増殖能を取り戻す可能性を否定することはできない。よって、ウイルスベクターを用いない導入方法が検討されており、そのような試みの例としては、リポソームを用いた方法、粒子照射による直接注入や受容体を介したエンドサイトーシスを用いた方法などを挙げることができるが、まだ実用の段階には至っていない。
【0006】
ところで、ウイルスベクターを用いた遺伝子治療において導入された遺伝子の発現効率に関与する因子としては、発現効率が宿主内における導入された位置に関係するポジション効果や、後生的(epigenetic)変化によって発現効率が低下するといういわゆるサイレンシングなどが挙げられる。サイレンシングの現象のために、宿主体内に治療の目的で遺伝子を導入しても長期的には遺伝子の発現が抑制されてしまう。遺伝的な疾患については生涯にわたっての治療が必要であることを考えると、上記のサイレンシングは遺伝子治療の大きな障害となっていた。この遺伝子サイレンシングが起こる機構はまだ解明されていないが、DNAのメチル化やヒストン修飾のような現象が関係している可能性が示唆されている。
【0007】
ところで近年、異なった制御を受ける遺伝子の間の仕切りとして働くDNA配列である、クロマチンインスレーターの存在が明らかとなってきた。種々のインスレーターがショウジョウバエや、ニワトリ、マウス、ヒトなどの脊椎動物において見出されているが、これらのインスレーターには共通した2つの作用があると言われている。その一つはエンハンサーとプロモーター間に置かれた際に、エンハンサーの作用を阻害する活性である。なお、エンハンサーとはプロモーターの転写活性を強める働きを有する特異的な配列であるが、インスレーターはその様なエンハンサーの機能を遮断すると言われている。
【0008】
もう一つのインスレーターの働きはポジション効果を抑制する効果である。ポジション効果とは、その遺伝子が導入された染色体上の位置によって転写効率が変化するという現象であるが、そのポジション効果の原因となっている周囲の転写環境の影響をインスレーターは抑制する。上記の理由により一対のインスレーターによって挟まれた領域は宿主の染色体の環境から単離されることになり、それによって導入された遺伝子はポジション効果から防御され、その遺伝子が発現する際の独立性を保証するといわれている。よって、これまで述べてきたインスレーターの特性を考えると、ウイルスベクターにインスレーターを導入することにより、効率的かつ安定な遺伝子発現を達成できる可能性がある。
【0009】
これまでに最も検討がなされてきた脊椎動物のインスレーターは、ニワトリβグロビン遺伝子座の制御部位から得られたcHS4インスレーターである。モロニーマウス白血病ウイルス(moloney-murine leukemia virus : MoMLV)に由来するレトロウイルスベクターに導入されると、cHS4インスレーターは、導入した遺伝子をポジション効果から保護するという知見がRivellaらにより報告されている(非特許文献1)。しかし、遺伝子を送達するウイルスベクターとしての実用性を考えると、cHS4インスレーターが活性を有する細胞の型は限られるという欠点があった。よってウイルスベクターの有効性を高めるための新たな手段が、更に必要とされていた。
【0010】
【非特許文献1】
Rivella S et al.,“The cSH4 insulator increases the probability of retroviral expression at random chromosomal integration sites.” J.Virol. 2000; 4679-4687
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、ウイルスベクターの発現を安定化させるための新たな方法を提供することが本発明の課題である。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターに注目して検討を行った。ウニアリルスルファターゼの遺伝子座から得られた575遺伝子対の断片は、インスレーターとしての典型的な特徴を示し、エンハンサー/プロモーター間の相互作用を遮断してポジション効果を防ぐ作用を有する。また、ウニアリルスルファターゼインスレーター(Ars insulator : ArsI)は種を超えて種々の型の細胞において働くことが知られているために、ヒトの組織においても一般的なインスレーターとして機能することが予想される。ArsIの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
【0013】
これまでの検討において、ArsIはエンハンサー機能を遮断することやポジション効果を抑制することは知られていたが、サイレンシングを抑制できるかについては知られていなかった。言い換えると、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターの存在は知られていたが、ArsIの抗サイレンシング活性については不明であったために、遺伝子治療において有用であるかどうかは判らなかった。そこで本発明者は、ヒト白血病由来のHL-60細胞などにおいてArsIがサイレンシングを防ぐ活性を有しているかについて検討を行った、その結果、ArsIはサイレンシングを防ぐことができるという知見が得られ、ArsIが遺伝子治療においてウイルスベクタ-の発現を安定化させるのに有効であることが示唆された。また、ArsIは作製できるウイルス量を減らすということもないことを考えると、遺伝子治療におけるArsIの有用性は高い。更に現在発生工学の分野で胚性幹細胞(embryo stem cell:ES細胞)が注目されているが、そのES細胞にも効果があるインスレーターはArsIのみである。
【0014】
よって本発明は、導入遺伝子と共に、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターを導入することを特徴とする、導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
下記の実施例において本発明者らは、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーター(ArsI)が、レンチウイルスベクターにおいてサイレンシングとポジション効果に及ぼす影響を検討した。その検討のために、ArsIを3’-U3領域に、センス方向とアンチセンス方向に有するレンチウイルスベクター(それぞれ、HR/A+、HR/A-)をそれぞれ構築した。更にコントロールベクター(HR/cHG)も構築した。レポーター遺伝子としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子と促進緑色蛍光蛋白質(Enhanced green fluorescence protein :EGFP)との融合遺伝子(HygEGFP)を使用した。
【0016】
HL-60細胞を用いてArsIがサイレンシングに及ぼす影響を検討したところ、HR/cHG(コントロールベクター)とHR/A+(センス方向ベクター)においてはEGFPの発現は経時的に低下したが、一方、HR/A-(アンチセンス方向ベクター)においてはEGFPの発現は試験期間を通じて維持されていた。よってArsIの抗サイレンシング効果はアンチセンス方向の場合にのみ認められ、よって方向依存性を有していた。更にArsIをセンス方向及びアンチセンス方向に有するレトロウイルスベクター(モロニーマウス白血病ウイルスベクター)においても、ArsIがサイレンシングに及ぼす影響を検討した。その結果、レンチウイルスベクターの場合と同様にアンチセンス方向特異的に抗サイレンシング効果が認められた。
【0017】
ArsIのポジション効果に対する影響を検討するために、EGFPの発現レベルのバラツキを検討しところ、HR/cHG(コントロールベクター)においては発現レベルにバラツキがあり、変動係数(CV)は39.8であった。一方HR/A+(センス方向ベクター)とHR/A-(アンチセンス方向ベクター)ではクローン間の発現差は小さく、CV値はそれぞれ8.3 及び23.3であった。この結果は、ArsIのポジション効果抑制には方向依存性がないことを示している。この知見から、ArsIの抗サイレンシング効果とポジション効果の抑制には直接的な関係はないものと考えられる。長期的なサイレンシングはポジション効果から保護された結果であるという説もあったが、この結果から、両者の現象に関与するメカニズムは異なっていると考えられる。
【0018】
これまでArsIのポジション効果抑制作用やエンハンサー機能遮断作用は知られていたが、抗サイレンシング効果は知られていなかった。よって本発明は、ArsIが優れた抗サイレンシング効果を有することを初めて見出したものである。その抗サイレンシング効果のために、ArsIをアンチセンス方向に組み込んだウイルスベクターを用いると、サイレンシングによって導入遺伝子の発現効率が低下することを防ぐことができると考えられる。またArsIはウイルス産生を減少させることもなかった。よってArsIを導入したウイルスベクターの効果は長期に渡って安定であって遺伝子治療に適した特性を有している。
【0019】
本発明を実施するにあたり、導入しようとする外来遺伝子の5’上流にプロモーターを配置した遺伝子カセットを作製する。外来遺伝子の発現効率は一般的には高くないので、その外来遺伝子の発現量を増加させる目的で、プロモーター・エンハンサーを外来遺伝子の上流領域に配置する。そのために例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを使用することができるが、それに限定されるものではなく、本技術分野で通常使用されている種々のプロモーターを適宜使用することができる。そして好ましい態様においては、その遺伝子カセットを挟むようにして、5’上流と3’下流にArsIをアンチセンスの方向で導入する。しかし、本発明はその態様に限定されるものではなく、ArsIが抗サイレンシング効果を有する限り、ArsIを5’上流と3’下流にセンスの方向で導入する態様や、5’上流又は3’下流の片方にのみArsIを導入する態様も本発明の範囲内である。
【0020】
なお、本発明において導入する外来遺伝子の範囲は特に限定されるものではなく、目的に応じて最も適切な遺伝子を選択する。本発明の好適な態様の一例として、ある特定の遺伝子の発現が欠損することによって疾患が生じる場合に、ArsIを含むウイルスベクターを用いてその欠損遺伝子を患者に導入することにより、疾患の根本的な治療を行うことができる。その場合には、導入する外来遺伝子として、上記の疾患の原因となっている遺伝子を選択することになるであろう。
【0021】
そしてArsIを含むウイルスベクターを用いて、生体、生体の器官又は生体に由来する細胞に遺伝子を導入することができる。ここで生体とは任意の動物又は植物であって、特に限定されるものではない。そして、生体自身に目的とする遺伝子を導入する態様のみならず、その生体の器官やその生体に由来する細胞などを採取して、それらに目的とする遺伝子を導入するという態様も本発明の範囲内である。例えば、生体に由来する血球細胞などを採取し、ArsIを含むウイルスベクターにより外来遺伝子をその血球細胞に導入し、遺伝子治療の目的で提供するという方法も本発明の範囲内に含まれるものである。更に各組織又は各臓器から幹細胞を採取し、ArsIを含むウイルスベクターにより外来遺伝子を導入することで、安定的に導入遺伝子を発現する細胞を構築することができる。具体的には、血液幹細胞のみならず、神経幹細胞、肝臓幹細胞などにおいて、ArsIを含むウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行うことができる。
以下において本発明を更に詳細に説明するが、下記の実施例はいかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
【実施例】
(インスレーターを含むレンチウイルスベクターの作製)
2つのインスレーターによって挟まれた導入遺伝子はポジション効果とサイレンシングから保護されることが、過去の研究よって示されている。そこで、プロモーター/レポーターカセットをインスレーターで挟み込むために、3’-U3領域のEcoRV- EcoRV断片をインスレーターで置き換えることによって、インスレーター断片をレンチウイルスベクター(pHR’)に導入した(図1)。
【0023】
なお図1Aはレンチウイルスベクターの模式図である。図1の最上段はコントロールベクターであるpHR/cHGの図である。pHR/cHGはサイトメガウイルス前初期プロモーターによって駆動されるHygEGFPレポーターを含んでおり、3’-U3領域において79塩基が欠損している(▽)。中段と下段は、pHR/cHGの3’-U3領域にArsIを含んでいるベクターである。pHR/A+においてはArsIを本来の遺伝子座のセンス方向で有しており、一方、pHR/A-はアンチセンス方向で有している。点線は挿入後に5’-U3領域へコピーされたArsIを示す。矢印はインスレーターの挿入部位を示す。また、pHR/H+とpHR/H-は、pHR/Aと同様にして作製したcHS4インスレーターを含むベクターであって、cHS4インスレーターをそれぞれセンスとアンチセンスの方向で有している。
【0024】
この戦略により、挿入されたArsIは逆転写の間に5’-long terminal repeat(LTR)にコピーされ、それにより5‘と3’-U3領域内のArsIは、レポーターカセット全体を挟むことになる。ここでのレポーターカセットは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターとその制御下にあるHygEGFPからなるものである。ポリメラーゼ鎖伸長反応(PCR)による5’-LTRの増幅により、予想どおりに、ArsIはうまく5’-U3領域にコピーされていることが示された(図2)。図2において、3’-U3領域中に導入されたArsIは、逆転写の間に5’-U3領域にコピーされた。レンチウイルスを導入したHL-60細胞由来のプロウイルスの配列を、5’-LTRに特異的なプライマーを用いて増幅した。インスレーターなしにおける予期されるLTRの大きさはおよそ0.7kbであり、一方、無傷のArsIのサイズは1.3kbであった。
【0025】
HR/A+とHR/A-のベクタータイターはコントロールベクターHR/cHGと類似であり、それは、ArsIはレンチウイルスベクターのパッケージングとトランスダクションに干渉しないことを示している(表1)。cHS4インスレーターをLTRのU3領域へ挿入するとウイルスの産生が減少し、5’-LTR中のcHS4配列はプロウイルス中で部分的に除去された(図2)。そこで、HIV型のベクターのコンテクスト中でcHS4インスレーターの能力を試験することはできなかった。
【0026】
【表1】
JP0003731054B2_000002t.gif【0027】
(レンチウイルスベクターのサイレンシングへのArsIの作用)
サイレンシング保護のアッセイのために、HL-60細胞にレンチウイルスベクターを導入した。HR/cHG, HR/A+又はHR/A-のレンチウイルスベクターによって細胞を形質転換し、ハイグロマイシン耐性細胞を選択した。促進緑色蛍光蛋白質(Enhanced green fluorescence protein :EGFP)の発現についてほとんど全ての細胞がポジティブであることを確認した後、そのような細胞を選択してハイグロマイシン存在下で更に2週間培養し、形質転換していない細胞を除いた。その後に細胞をハイグロマイシン非存在下で培養し、EGFPの発現について定期的に試験したところ、HL-60細胞について長期サイレンシングが観察された。
【0028】
EGFPの発現の蛍光発色セルソーター(fluorescence activated cell sorter : FACS)解析を行ったヒストグラムを図3に示す。ハイグロマイシン耐性の形質転換したHL-60細胞を4週間選択し、ハイグロマイシンなしで培養した。ヒストグラムは、ハイグロマイシンを除去して27週目のデータを図3に示す。なお、図3において、線aは遺伝子導入なし、線bはハイグロマイシン選択下で培養した細胞、黒塗りのヒストグラムcはハイグロマイシンなしで培養された細胞を示す。ハイグロマイシン除去後における一連のEGFP発現の変化を、EGFP陽性細胞のパーセンテージ(図4)と、平均蛍光強度(図5)により示す。
【0029】
HL-60細胞において、HR/cHG(黒丸)とHR/A+(白三角)由来のEGFPの発現は、ハイグロマイシンを除去してすぐに減少しはじめ、EGFP 陽性細胞の割合と平均蛍光強度(MFl)は、ハイグロマイシンで選抜した対応物のおよそ30%まで減少した(図4、図5)。しかし、HR/A-(黒四角)由来のEGFPの発現はアッセイ期間中にわたって維持された(図4、図5)。ArsIがこのような方向特異的な活性を有していることは、アンチセンス方向のみがウニにおいてエンハンサーとプロモーターの相互作用を阻害し、HeLa細胞において導入遺伝子をポジション効果から保護したという過去の報告と一致している。
【0030】
(ArsIとcHS4インスレーターの抗サイレンシング能力の比較)
ArsIとcHS4の抗サイレンシング能力を比較するために、モロニーマウス白血病ウイルス(moloney-murine leukemia virus : MoMLV)ベクターを使用し、インスレーター断片を3’-U3へ挿入した。RCV/A+とRCV/A-は、ArsIをセンス方向とアンチセンス方向で含むMoMLVベクターである。また、RCV/H+とRCV/H-は、cHS4インスレーターをセンス方向とアンチセンス方向で含むMoMLVベクターである。なお、RCV/HGはインスレーターを含まない、MoMLVのコントロールベクターである。
【0031】
図6に、ArsIとcHS4の抗サイレンシング能力の比較を示す。MoMLVベクター(RCV)をHL-60細胞に導入した。ArsI又はcHS4を含んでいるRCVをHL-60に導入し、そしてEGFP発現を定期的にモニターした。図6はハイグロマイシンを除去して14週間後のEGFP発現のヒストグラムであって、図6において、線aは遺伝子導入なし、線bはハイグロマイシン選択下で培養した細胞、黒塗りのヒストグラムcはハイグロマイシンなしで培養された細胞を示す。また、図7はEGFP発現の経時変化を示す。
【0032】
ArsIとcHS4の両者を5’-U3へコピーし、組み込んだ後もインタクトの状態に保った。インスレーターの有り無しにおいてRCVベクターをHL-60細胞に導入し、それらにおけるEGFPの発現を追跡した。インスレーターなしのコントロールベクター(RCV/HG)(黒丸)からのEGFPの発現は、HIV型のベクター(レンチウイルスベクター)よりやや速く、アッセイ期間中に消滅した(図4、図7)。RCV/A+(白三角)もまたサイレントであったが、一方、RCV/A-(黒四角)はサイレンシングから保護された(図7)。同様の方向依存性がcHS4含有ベクター(RCV/H+, RCV/H-)においても観察され、cHS4の抗サイレンシング能力はHL-60細胞におけるArsIと同等であった。
【0033】
(HL-60細胞におけるポジション効果に対するARSインスレーターの効果)
次に、ポジション効果に対するArsIの効果を試験した。インスレーターによって位置に依存しない発現が保証されることは、サイレンシングに対する保護において重要な役割を果たすかもしれないからである。HL-60細胞をHR/cHG, HR/A+又はHR/A-によって形質転換し、ハイグロマイシン耐性細胞を選択し、次いで限界希釈によってクローニングした。各細胞プールから10クローンを選択し、EGFP発現を試験した。図8は、遺伝子導入したHL-60細胞のクローン解析の結果である。ハイグロマイシン耐性細胞プールの限界希釈によりクローンを選択し、ハイグロマイシン存在下で維持した。点は各クローンの平均蛍光強度を示す。変動係数(CV)をベクター名の下に示す。
【0034】
HR/cHGクローンの平均蛍光強度(MFl)は9.6から30.1まで変化し、変動係数(CV)は39.8であった(図8)。驚いたことに、HR/A+とHR/A-のクローンは両者とも単一の発現を示した。HR/A+クローンはHR/A-よりもより単一的な発現を示し、それぞれの変動係数(CV)は8.3と23.3であった(図8)。これらの結果は、ArsIは、レンチウイルスベクターを、その方向に関わらずポジション効果から保護し、この活性はサイレンシング保護からは独立であることを示唆している。
【0035】
【発明の効果】
本発明により、導入遺伝子と共に、ウニアリルスルファターゼ由来のインスレーターを導入することを特徴とする、導入遺伝子のサイレンシングを回避する方法が提供された。
【0036】
【配列表】
JP0003731054B2_000003t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、ArsIを含むウイルスベクターの構造を示した模式図である。
【図2】 図2は、導入されたArsIのPCR による検出を示した写真である。
【図3】 図3は、ArsIを含むレンチウイルスベクターを導入したHL-60細胞におけるEGFP発現を示したFACS解析のヒストグラムである。
【図4】 図4は、ArsIを含むレンチウイルスベクターを導入したHL-60細胞における抗サイレンシング活性の経時変化をEGFP発現%で示したグラフである。
【図5】 図5は、ArsIを含むレンチウイルスベクターを導入したHL-60細胞における抗サイレンシング活性の経時変化を平均蛍光強度で示したグラフである。
【図6】 図6は、ArsI又はcHS4を含むMoMLVベクターを導入したHL-60細胞におけるEGFP発現を示したFACS解析のヒストグラムである。
【図7】 図7は、ArsI又はcHS4を含むMoMLVベクターを導入したHL-60細胞における抗サイレンシング活性の経時変化をEGFP発現%で示したグラフである。
【図8】 図8は、形質転換したHL-60細胞のクローン解析を行ったグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7