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明細書 :粒子法における界面粒子の判定方法および装置、ならびに界面粒子の判定用プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5429886号 (P5429886)
登録日 平成25年12月13日(2013.12.13)
発行日 平成26年2月26日(2014.2.26)
発明の名称または考案の名称 粒子法における界面粒子の判定方法および装置、ならびに界面粒子の判定用プログラム
国際特許分類 G06F  19/00        (2011.01)
FI G06F 19/00 110
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2010-529721 (P2010-529721)
出願日 平成21年9月8日(2009.9.8)
国際出願番号 PCT/JP2009/065655
国際公開番号 WO2010/032656
国際公開日 平成22年3月25日(2010.3.25)
優先権出願番号 2008239690
優先日 平成20年9月18日(2008.9.18)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年9月3日(2012.9.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】後藤 仁志
【氏名】カイヤー アバス
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】宮地 匡人
参考文献・文献 特開2008-111675(JP,A)
後藤 仁志,MPS法による砕波解析のための自由表面境界条件の改良,海岸工学論文集,2003年10月10日,Vol.50,pp.21-25
越塚 誠一,粒子法による流れの数値解析,ながれ,2002年 6月25日,Vol.21 No.3,pp.230-239
調査した分野 G06F 19/00
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算によって解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための界面粒子判定方法であって、
判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得ステップと、
前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別ステップと、
前記判定対象の粒子を基準とする所定の単一の範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別ステップと、
前記第1の判別ステップによって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別ステップによって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定ステップと、を含み、
前記第2の判別ステップは、
前記判定対象の粒子の座標と、前記所定の単一の範囲内における他の粒子の座標との差の総和が所定の閾値を超える場合に、前記他の粒子の配置が非対称であると判別することを特徴とする粒子法における界面粒子の判定方法。
【請求項2】
解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算により解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための界面粒子の判定装置であって、
判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得手段と、
前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別手段と、
前記判定対象の粒子を基準とする所定の単一の範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別手段と、
前記第1の判別手段によって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別手段によって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定手段と、を含み、
前記第2の判別手段は、前記判定対象の粒子の座標と、前記所定の単一の範囲内における他の粒子の座標との差の総和が所定の閾値を超える場合に、前記他の粒子の配置が非対称であると判別することを特徴とする粒子法における界面粒子の判定装置。
【請求項3】
解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算により解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための処理を行うコンピュータを、
判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得手段、
前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別手段、
前記判定対象の粒子を基準とする所定の単一の範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別手段、および、
前記第1の判別手段によって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別手段によって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定手段、として機能させ、
前記第2の判別手段が、前記判定対象の粒子の座標と、前記所定の単一の範囲内における他の粒子の座標との差の総和が所定の閾値を超える場合に、前記他の粒子の配置が非対称であると判別するものである界面粒子の判定用プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子法を用いて流体や粉体(以下、「流体等」という)の挙動を解析するにあたり、流体等の界面に位置する粒子を判定するために用いられる界面粒子の判定方法および装置、ならびに界面粒子の判定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体等の挙動を解析する手法として格子法と粒子法とが知られている。このうち格子法は解析対象の領域を格子で覆い、各格子位置における流体等の速度、圧力等を求めていく手法であり、差分法、有限要素法、有限体積法等の数々の手法が存在している。しかし、格子法は、自由表面(界面)の飛散のような大変形を扱うことが困難であり、対象領域に格子を作成する煩雑な作業が必要であるという欠点を包含している。
【0003】
これに対して、粒子法は、流体等を複数の粒子の集まりとして表現し、これら粒子間の相互作用の計算によって流体等の挙動を解析する。したがって、粒子法は、格子法で行われているような格子の生成が不要であり、自由表面の大変形にも比較的容易に対応できるという利点がある。
なお、粒子法としては、圧縮性流体の挙動を陽解法で計算するSPH法や、非圧縮性流体の挙動を半陰解法で計算するMPS法が知られている。後者に関する技術は、下記特許文献1,2により公知である。また、SPH法に半陰解法のアルゴリズムを導入し、人工粘性の導入なしに非圧縮性流体の解析を可能にしたISPH法等も知られている。
【0004】
粒子法、特にMPS法を用いて非圧縮性流体の挙動を解析する場合、非圧縮性の条件から、流体中の一の粒子を基準とする所定の基準半径内(基準範囲内)における粒子数密度は一定値をとる。このため、MPS法では、粒子数密度が常に一定値をとるように粒子の速度や位置を修正することによって流体の挙動を解析している。
また、MPS法では、粒子が流体の上面(自由表面;界面)に位置するか否かを判定するために、当該粒子の位置における粒子数密度niが一定値n0に対して次式(1)の条件を満たすか否かを判定する。
i<βn0 ・・・(1)
(ただし、βはモデル定数(推奨値β=0.97))
【0005】
一方、SPH法では、粒子数密度niではなく流体の密度ρiが一定値ρ0に対して次式(2)の条件を満たす場合に、その粒子が自由表面に位置する粒子であると判定する。
ρi<βρ0 ・・・(2)
(ただし、βはモデル定数(推奨値β=0.99))
【0006】
非圧縮性流体の場合、基準範囲の粒子数密度は流体の密度と比例するため、上記(1)式と(2)式とはほぼ同様の判定をしていることになる。
【0007】
しかしながら、上記の判定だけでは、自由表面に位置する粒子以外の粒子(流体内部の粒子)についても自由表面粒子として判定される場合があった。図7は、MPS法によって容器中の流体を解析した結果を示しており、上記手法によって自由表面の粒子と判定された粒子が●で示され、自由表面の粒子ではないと判定された粒子が○で示されている。この結果から明らかなように、従来の界面判定方法では、流体内部においても自由表面粒子が出現するという誤判定が見られる。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平7-334484号公報
【特許文献2】特開2008-111675号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、流体等の自由表面(界面)に位置する粒子を正確に判定することを目的とする。
【0010】
本発明の界面粒子の判定方法は、解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算により解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための界面粒子判定方法であって、判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得ステップと、前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別ステップと、前記判定対象の粒子を基準とする所定範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別ステップと、前記第1の判別ステップによって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別ステップによって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記の判定方法において、前記第2の判別ステップは、前記判定対象の粒子の座標と、前記所定範囲内における他の粒子の座標との差の総和が所定の閾値を超える場合に、前記他の粒子の配置が非対称であると判別することができる。
【0012】
本発明の界面粒子の判定装置は、解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算により解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための界面粒子の判定装置であって、判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得手段と、前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別手段と、前記判定対象の粒子を基準とする所定範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別手段と、前記第1の判別手段によって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別手段によって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定手段と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の界面粒子の判定用プログラムは、解析対象を粒子の集まりとして表現し、この粒子の動きを計算により解析する粒子法において、前記解析対象の界面に位置する粒子を判定するための処理を行うコンピュータを、判定対象の粒子を基準とする所定範囲の密度を取得する密度取得手段、前記密度を所定の閾値と比較する第1の判別手段、前記判定対象の粒子を基準とする所定範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する第2の判別手段、および、前記第1の判別手段によって前記密度が所定の閾値よりも小さいと判別され、かつ、前記第2の判別手段によって前記他の粒子の配置が非対称であると判別された場合に、前記判定対象の粒子を界面粒子であると判定する判定手段、として機能させることを特徴とする。
【0014】
以上の各構成によれば、まず、判定対象の粒子を基準とする所定範囲内の密度を取得し、この密度を所定の閾値と比較する。さらに、判定対象の粒子を基準とする所定範囲内における他の粒子の配置の対称性を判別する。そして、判定対象の粒子を基準とする所定範囲内の密度が所定の閾値よりも小さく、かつ、判定対象の粒子を基準とする所定範囲内における他の粒子の配置が非対称である場合には、その粒子を界面に位置するものとして判定する。このような2段階の判別を行うことにより、より正確に界面粒子の判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る流体解析装置(自由表面粒子の判定装置)を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る自由表面の判定方法による判定結果を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る自由表面粒子の判定方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る自由表面粒子の判定方法を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係る自由表面粒子の判定方法の手順を示すフローチャートである。
【図6】(a)は、本発明の実施形態に係る自由表面粒子の判定方法の動的状態の流体への適用性を示すシミュレーションモデルを示す図であり、(b)は、その解析結果を示すグラフである。
【図7】従来の自由表面粒子の判定方法による判定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、粒子法を用いて流体を解析する流体解析装置の概略図である。流体解析装置は、処理装置2と、入力装置3と、出力装置4とから構成されている。処理装置2は、CPU、RAM,ROM及びHDD等からなる記憶装置、及びI/Oインターフェース等を備えたパーソナルコンピュータ等からなる。また、入力装置3は、キーボードやポインティングデバイス等からなり、処理装置2に対して計算条件や粒子の初期条件等の各種データを入力するために使用される。入力されたデータは、処理装置2の記憶装置に記憶される。出力装置4はディスプレイやプリンタ等からなり、処理装置2の処理結果を出力するために使用される。

【0017】
〔粒子法の概要〕
本実施形態では、処理装置2によって、図2に示すようなモデルを想定して粒子法(MPS法)による流体の解析を実行する。図2において、略矩形状の容器10の内部には水等の非圧縮性の流体Fが収容され、この流体Fは、多数の粒子iの集まりとして表現される。また、図示はしていないが、容器10についても多数の粒子の集まりとして表現される。

【0018】
MPS法では、粒子の密度、動粘度係数等の物性に関するデータや、重力加速度等の外力に関するデータ、初期配置における粒子間距離に関するデータ、後述する粒子数密度を求めるための基準半径(基準範囲)等のデータが初期値として処理装置2に入力される。そして、処理装置2は、記憶装置にインストールされたプログラムをCPUが実行することによって各種入力データを用いて所定の計算を行い、粒子の流速及び位置を所定の時間ステップ毎に更新していく。

【0019】
具体的に、粒子の流速は、粒子に直接及ぼされる重力等の外力や粘性による流速の拡散の条件により計算される。また、この計算によって得られた粒子の流速を用いて粒子の位置が計算される(第1段階の計算)。この段階で得られる流速や位置は仮のものであり、次の第2段階の計算で修正される。

【0020】
非圧縮性流体の場合、所定の基準範囲内の粒子数密度は一定となる。しかし、上記第1段階の計算で得られた仮の流速に応じて個々の粒子が移動すると、粒子数密度にばらつきが生じる場合がある。そのため、MPS法では、粒子配列を均質な状態にするために、粒子数密度が一定となる条件を課すことによって仮の流速及び位置の修正を行う(第2段階の計算)。具体的に、処理装置2は、各粒子の粒子数密度と粒子数密度の一定値との差に基づいて粒子の圧力修正値を求め、この圧力修正値を用いて粒子の流速を修正し、その修正された流速によって粒子の位置を修正する。また、図2に示すように、流体Fの上面に位置する粒子(自由表面粒子;界面粒子)に対しては圧力ゼロの条件を付与する。

【0021】
MPS法は、以上のプロセスを繰り返し行うことによって、時間発展的に流体の挙動を追跡するのである。このようなMPS法による流体の解析方法については前述の特許文献1,2や関連文献等によって詳しく説明されている。

【0022】
〔自由表面粒子の判定方法〕
次に、流体Fの上面に位置する自由表面粒子を判定するための方法について説明する。
図1に示すように、処理装置2は、記憶装置にインストールされたプログラムをCPUが実行することによって、粒子数密度取得手段21、第1の判別手段22、第2の判別手段23、及び判定手段24として機能するように構成されている。
なお、図1においては、処理装置2の自由表面の判定に係る機能部分のみを示しており、前述の流体の挙動解析に係る機能は省いている。

【0023】
図1に示す処理装置2の各機能部21~24の動作について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
図5のステップS1において、処理装置2の一機能部である粒子数密度取得手段21は、粒子数密度を計算するために使用するデータを取得する。このデータは、例えば粒子の密度、動粘性係数、粒子数密度の基準範囲を定めるための基準半径等である。図3に示すように、基準半径reは、一の粒子iが他の粒子に対して相互作用を及ぼす範囲として設定されており、標準的に粒子径の約2~4倍とされる。この基準半径re内に含まれる円形の範囲を基準範囲Rとする。

【0024】
図5のステップS2において、粒子数密度取得手段21は、式(3-1)又は(3-2)の重み関数wを用いて、式(4)により粒子iの位置における粒子数密度niを求める。粒子数密度niは、粒子iに対する他の粒子jの重み関数wの総和とされる。
w(r)=(re/r)-1 (ただし、0≦r<re) ・・・(3-1)
w(r)=0 (ただし、re≦r) ・・・(3-2)
ここで、rは粒子間距離、reは基準半径である(図3参照)。

【0025】
【数1】
JP0005429886B2_000002t.gif
ここで、riは判定対象の粒子iの位置ベクトル、rjは基準範囲R内における粒子i以外の他の粒子jの位置ベクトルである。

【0026】
次いで、ステップS3において第1の判別手段22による処理が行われる。この第1の判別手段22は、図2に示すモデルにおいて、判定対象となる粒子が、流体Fの上面に位置する粒子、すなわち自由表面粒子であるか否かの第1段階目の判別を行うものである。
非圧縮性流体の場合、流体中に位置する粒子を基準とする粒子数密度は一定値n0をとるが、自由表面粒子の上方には他の粒子が存在しないので、自由表面粒子を基準とする粒子数密度niは一定値n0よりも低下する。したがって、第1の判別手段22は、粒子数密度niと一定値n0とを比較し、粒子数密度niが所定の閾値よりも小さい場合に、当該粒子iが自由表面粒子であると仮定する。具体的には、粒子数密度niに対して次式(5)の条件を課す。
i<βn0 ・・・(5)
なお、βは、自由表面粒子を判定するためのモデル定数であり、設定値として例えばβ=0.97が与えられる。

【0027】
第1の判別手段22は、粒子iの位置における粒子数密度niが、式(5)の条件を満たす場合には当該粒子iを自由表面粒子と仮定し、ステップS4に処理を進め、式(5)の条件を満たさない場合にはステップS7に処理を進め、処理装置2の判定手段24(図1参照)が、当該粒子iを自由表面に位置しない粒子(流体中の粒子)と判定する。

【0028】
ステップS4~S6は、第2の判別手段23による処理である。第2の判別手段23は、第1の判別手段22によって自由表面粒子であると仮定された粒子iに対して更なる判定条件を課すものであり、具体的には、判定対象の粒子iを基準とする基準範囲R内に含まれた他の粒子が対称性をもって配置されているか否かを判別する。

【0029】
前述の第1の判別手段22は、単に粒子数密度niと一定値n0とを比較しているだけであるため、例えば、基準範囲R内で粒子が疎らな状態で均等に配置されることによって粒子数密度niが低下している場合も、判定対象の粒子を自由表面粒子と判別してしまう可能性がある。しかしながら、自由表面粒子は、上方に他の粒子が存在しないことによって粒子数密度niが低下しているので、この自由表面粒子を基準とする基準範囲R内の他の粒子は、均等ではなく偏りもって配置される。したがって、第2の判別手段23は、このような基準範囲R内の他の粒子の偏りを見出すために、粒子iを基準とする他の粒子の対称性を判別するのである。

【0030】
以下、図3及び図4を参照して第2の判別手段23の処理を詳細に説明する。
基準範囲R内の他の粒子が対称性をもって配置されているとは、基準範囲R内で判定対象の粒子を中心として他の粒子がほぼ均等に配置されていることを意味する。例えば図3において、粒子iの左右両側に隣接する他の粒子j-,j+に注目すると、この両側の他の粒子j-,j+は粒子iに対してほぼ均等な距離で互いに反対側に配置されている。この場合、これらの他の粒子j-,j+は粒子iを基準として対称性をもって配置されているということができる。これに対して、図4に示すように、粒子iの左右一方側には他の粒子j-が隣接するが他方側には他の粒子がなく、空隙が生じている。このような場合、当該他の粒子j-は粒子iを基準として非対称の状態で配置されているということができる。このような判断を基準範囲R内の全ての他の粒子jについて行うことによって、当該他の粒子jの対称性を判別する。

【0031】
具体的な判別方法は次の通りである。
まず、図3及び図4に示すように、判定対象となる粒子iを基準とする基準範囲RにX軸を設定する。ここでは、X軸を粒子iの中心を左右方向に通る軸とする。そして、基準範囲R内の全ての粒子についてX軸に関する座標を求め、判定対象の粒子iの座標xiと他の粒子jの座標xjとの差xijを式(6)により求める。
ij=xj-xi ・・・(6)
判定対象の粒子iの座標xiと他の粒子jの座標xjとの差xijは、両者のX軸に関する距離を+,-の符号付きで表現したものとなる。

【0032】
次いで、式(7)によって、基準範囲R内における判定対象の粒子iと全ての他の粒子jとの座標の差xijの総和(絶対値)を所定の閾値αと比較する。
【数2】
JP0005429886B2_000003t.gif

【0033】
式(7)を満たさない場合、判定対象の粒子iを基準として他の粒子jがX軸に関して対称性をもって配置されているといえる。例えば、図3において、粒子iを基準に互いに対称に配置された他の粒子j-,j+の座標を、粒子iを原点として-a,+aとすると、当該他の粒子j-,j+の符号付き距離xijはそれぞれ-a,+aとなり、その和は、相互に打ち消しあうことによってゼロになり、閾値αよりも小さくなるからである。
逆に、判定対象の粒子iを基準として他の粒子jがX軸に関して非対称に配置されていると、判定対象の粒子iに対する他の粒子jの距離xijは相互に打ち消しあわず、残差が生じる。そして、この残差がαよりも大きければ式(7)を満たし、他の粒子jの配置が非対称であると判別される。

【0034】
図5のステップS4において、第2の判別手段23は、基準範囲R内における判定対象の粒子iと全ての他の粒子jとの座標の差xijの総和が閾値αよりも小さいと判断した場合にはステップS5へ処理を進め、当該差xijの総和が閾値αよりも大きい場合にはステップS8へ処理を進める。
そして、ステップS8において、基準範囲R内の他の粒子jはX軸に関して対称性をもって配置されていない(非対称である)ので、処理装置2の判定手段24(図1参照)は、判定対象の粒子iを自由表面に位置する粒子であると正式に判定する。

【0035】
一方、ステップS5では、基準範囲Rに対してY軸を設定するとともに、粒子iと他の粒子jとの座標yi,yjについて上記と同様の計算を行う。これは、ステップS4において、基準範囲R内の他の粒子jがX軸に関して対称性をもって配置されていると判別されたが、X軸以外の方向に関して対称性をもって配置されているとは限らないからである。このため、ステップS5において、X軸と交差するY軸に関して上記と同様の判別を行い、さらに、後述のステップS6において、X,Y軸に交差するZ軸に関しても上記と同様の判別を行う。

【0036】
ステップS5において、まず、式(8)により判定対象の粒子iの座標yiと他の各粒子jの座標yjとの差yijを求め、さらに式(9)によって粒子iと全ての他の粒子jとの座標の差yijの総和(絶対値)を所定の閾値αと比較する。
【数3】
JP0005429886B2_000004t.gif

【0037】
第2の判別手段23は、当該差yijの総和が閾値αよりも小さいと判断した場合にはステップS6へ処理を進め、当該差yijの総和が閾値αよりも大きい場合にはステップS8へ処理を進める。そして、ステップS8において、処理装置2の判定手段24は、当該粒子iを自由表面に位置する粒子であると正式に判定する。

【0038】
ステップS6では、基準範囲Rに対してZ軸を設定するとともに、粒子iと他の粒子jとの座標zi,zjについて上記と同様の計算を行う。
すなわち、判定対象の粒子iの座標ziと他の各粒子jの座標zjとの差zijを式(10)により求め、式(11)によって粒子iと他の各粒子jとの座標の差zijの総和(絶対値)を所定の閾値αと比較する。
【数4】
JP0005429886B2_000005t.gif

【0039】
処理装置2は、第2の判別手段23によって、当該差zijの総和が閾値αよりも小さいと判断された場合にはステップS7へ処理を進め、当該差zijの総和が閾値αよりも大きいと判断された場合にはステップS8へ処理を進める。
そして、処理装置2の判定手段24は、ステップS7において、当該粒子iを自由表面に位置しない粒子であると判定し、ステップS8において、当該粒子iを自由表面に位置する粒子であると正式に判定する。

【0040】
次いで、ステップS9において、処理装置2は、流体Fの全ての粒子について判定が終了したかを判断し、終了していない場合にはステップS2に処理を戻し、終了している場合には自由表面粒子の判定処理を終了する。なお、自由表面粒子の判定結果を反映した流体Fの挙動の解析結果は、通信手段26を介してモニタ等の出力装置4に出力することができる。
なお、上記では流体を三次元場(XYZ座標)で解析する場合を示しているが、二次元場(XY座標)で解析する場合は図5のステップS6を省略することができる。

【0041】
以上のように本実施形態では、自由表面粒子であるか否かを判定するために2段階の判別手法を用いており、これによって正確に自由表面粒子を判定することを可能にしている。図2において●で示した自由表面粒子は、流体Fの上面のみに現れ、流体F内には現れていない。従って、従来のMPS法による判定結果(図7)と比べ、より正確に自由表面粒子を判定できていることが分かる。

【0042】
図2は、静的な状態の流体に対する解析結果であるが、動的な状態の流体に対する適用性を示すため、以下のような条件で解析を行った。
図6(a)に示すように、容器51内に支え板52を立て、容器51と支え板52で囲まれた空間に流体Fを収容するモデルを想定する。そして支え板52を取り除いたときの流体Fの挙動を解析し、流体Fが衝突する容器51の壁面における固定観測点Pでの圧力を時系列に求めた。なお、当該モデルの設定寸法は、L1=3.22m、L2=1.20m、H=0.60m、h=0.16mである。流体Fは水とした。

【0043】
本解析では、運動量保存性を保証する高精度粒子法であるCMPS法(例えば、Coastal Engineering Journal,Vol.50,No.2(2008)参照)と同様の改良を施したSPH法(Modified ISPH法)に対して本発明の自由表面判定方法を適用した。解析結果を図6(b)のグラフに示す。
図6(b)において、横軸は時間tであり、縦軸は圧力pである。グラフ中の○は既往の実験値(Experiment)であり、破線は本発明の判定方法を適用しない場合の解析結果、実線は本発明の判定方法を適用した場合の解析結果である。

【0044】
破線で示すように本発明の判定方法を適用しない場合は、圧力値が0に低下するスパイク的なノイズが頻繁に発生している。これに対して、本発明の判定方法を適用した場合(実線)は、圧力値が0に低下するようなノイズは発生しなくなった。また、若干の上下の大きな変動は見られるものの、実験値にほぼ対応するように圧力値が推移していることが分かる。

【0045】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、上述の第1の判別手段22で用いる基準範囲Rと、第2の判別手段23で用いる基準範囲Rとは必ずしも同一でなくてもよい。また、第1の判別ステップと第2の判別ステップとの順序を逆にすることも可能である。
本発明の自由表面粒子の判定方法は、MPS法に限らず、流体等の界面の判定を要する他の手法(例えば、SPH法や粉体の挙動解析に用いられるDEM法等)に対しても適用することができる。また、本発明は単相の流体等に限らず、2相、3相等の多相の流体等の界面判定方法として使用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
6