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明細書 :トウガラシマイルドモットルウイルスの弱毒ウイルス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5709203号 (P5709203)
公開番号 特開2012-105586 (P2012-105586A)
登録日 平成27年3月13日(2015.3.13)
発行日 平成27年4月30日(2015.4.30)
公開日 平成24年6月7日(2012.6.7)
発明の名称または考案の名称 トウガラシマイルドモットルウイルスの弱毒ウイルス
国際特許分類 C12N   7/04        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01P   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 7/04 ZNA
A01N 63/00 F
A01P 1/00
A01H 5/00 Z
A01H 1/00 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2010-256846 (P2010-256846)
出願日 平成22年11月17日(2010.11.17)
審査請求日 平成25年10月2日(2013.10.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】津田 新哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】藤井 美穂
参考文献・文献 Virus Research,2006年,Vol.118,pp.23-30
Arch. Virol.,2009年,Vol.154,pp.489-493
Definition: Pepper mild mottle virus, complete genome.,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No.NC_003630, 08-DEC-2008 uploaded, [retrieved on 2014-12-03],<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_003630>
調査した分野 C12N 1/00 - 7/08
C12N 15/00 - 15/90
UniProt/GeneSeq
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAとして、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAを、ゲノムRNA中に有することを特徴とする、トウガラシマイルドモットルウイルスの弱毒ウイルス。
【請求項2】
前記ゲノムRNAが、配列番号1に記載の塩基配列からなるRNAである、請求項1に記載の弱毒ウイルス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の弱毒ウイルスを接種して得られる、トウガラシマイルドモットルウイルスの感染に対して抵抗性を有するトウガラシ属植物。
【請求項4】
前記トウガラシ属植物がCapsicum annuumである、請求項3に記載のトウガラシマイルドモットルウイルスの感染に対して抵抗性を有するトウガラシ属植物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の弱毒ウイルスを、トウガラシ属植物に接種することを特徴とする、トウガラシ属植物におけるトウガラシマイルドモットルウイルスのモザイク病の防除方法。
【請求項6】
前記トウガラシ属植物がCapsicum annuumである、請求項5に記載のトウガラシマイルドモットルウイルスのモザイク病の防除方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、130KDaウイルス複製酵素に特定の変異を有するアミノ酸配列をコードするRNAを、ゲノムRNA中に有することを特徴とする、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)の弱毒ウイルスに関する。
また、本発明は、前記弱毒ウイルスを接種して得られるPMMoVの感染に対して抵抗性を有するトウガラシ属植物に関する。また、本発明は、前記弱毒ウイルスをトウガラシ属植物に接種することを特徴とする、PMMoVモザイク病の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)によるトウガラシ属植物のモザイク病は、種子伝染に加え土壌伝染でも起こる。そのため、その防除には土壌燻蒸剤の一種である臭化メチル剤が最も広く使われてきた。
しかし、臭化メチルは、オゾン層破壊物質であるため2012年末日をもって全廃される。現在、PMMoVが引き起こすモザイク病対策は、臭化メチル剤による土壌消毒に頼り切っているため、同剤に代わる防除対策の確立が急務となっている。
【0003】
一方、植物病原性を示さない微生物を農業生産に利用する技術は、病害虫防除技術のひとつとして研究・開発されてきた。これまでに、その様な観点から多数の有用微生物や弱毒ウイルスが開発されている。
しかし、それら弱毒ウイルスを、トウガラシ属植物に接種して病害防除を達成する試みは、これまでのところキュウリモザイクウイルス(CMV:ククモウイルス属)を利用した方法しか報告されていない(特許文献1~3参照)。
なお、それらの方法では、PMMoV(トバモウイルス属)によるモザイク病は防除することはできないものであった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2006-050902号公報
【特許文献2】特開2006-320309号公報
【特許文献3】特開2009-232737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、上記従来の課題を解決し、臭化メチル(2012年末日で使用が禁止されるオゾン層破壊物質)を土壌燻蒸剤として用いることなく、トウガラシ属植物のおけるトウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)のモザイク病を防除できる安全性の高い方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、PMMoVの弱毒ウイルスに注目して、鋭意研究を重ねた結果、激しいモザイク症状を示す野生型トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)から、新規の弱毒系統のウイルス株を分離した。
当該弱毒ウイルスは、野生型ウイルスと比較して、130KDaウイルス複製酵素の特定のアミノ酸3残基に変異を有するものであり、このアミノ酸変異により、当該弱毒ウイルスを接種したトウガラシ属植物は、モザイク病の病徴を示さないか、もしくは極めて軽微な病徴しか示さないものであった。
そして、当該弱毒ウイルスは、他のPMMoV系統のウイルス間で起こる干渉作用の働きにより野生型PMMoV(強毒ウイルス)の感染に抵抗性を示すものであった。また、当該弱毒ウイルスを接種した植物は、その後の植物の生育や収穫量等に全く影響がないか、もしくはほとんど影響がないものであった。
【0007】
なお、これまでに知られているPMMoVの弱毒ウイルス(例えば、特開2009-124965号公報、参照)では、接種したトウガラシ植物でのモザイク病の病徴(奇形果等)の除去が不十分であり、農産物への応用の点では不十分なものであった。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAとして、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAを、ゲノムRNA中に有することを特徴とする、トウガラシマイルドモットルウイルスの弱毒ウイルス、に関するものである。
また、〔請求項2〕に係る本発明は、前記ゲノムRNAが、配列番号1に記載の塩基配列からなるRNAである、請求項1に記載の弱毒ウイルス、に関するものである。
また、〔請求項3〕に係る本発明は、請求項1又は2に記載の弱毒ウイルスを接種して得られる、トウガラシマイルドモットルウイルスの感染に対して抵抗性を有するトウガラシ属植物、に関するものである。
また、〔請求項4〕に係る本発明は、前記トウガラシ属植物がCapsicum annuumである、請求項3に記載のトウガラシマイルドモットルウイルスの感染に対して抵抗性を有するトウガラシ属植物、に関するものである。
また、〔請求項5〕に係る本発明は、請求項1又は2に記載の弱毒ウイルスを、トウガラシ属植物に接種することを特徴とする、トウガラシ属植物におけるトウガラシマイルドモットルウイルスのモザイク病の防除方法、に関するものである。
また、〔請求項6〕に係る本発明は、前記トウガラシ属植物がCapsicum annuumである、請求項5に記載のトウガラシマイルドモットルウイルスのモザイク病の防除方法、に関するものである。

【発明の効果】
【0009】
本発明は、次の特徴を有するPMMoVの弱毒ウイルスを提供することを可能とする。
(i)トウガラシ属植物に感染した際に、PMMoVのモザイク病の病徴を示さないか、もしくは極めて軽微な病徴しか示さない。(ii)感染した植物体に、他のPMMoV系統の感染に対する抵抗性を付与する。(iii)感染した植物体の生育や果実の品質収量に影響を与えない(経済生産性に全く影響を与えない)。
【0010】
これにより本発明は、トウガラシ属植物におけるPMMoVのモザイク病の防除において、従来の臭化メチル(有害物質)を用いた方法の代替技術となる上に、安全性が高い方法を提供することを可能とする。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明におけるPMMoV弱毒ウイルス(AVP08株)のゲノムRNA構造を示す模式図である。
【図2】実施例3において、PMMoV弱毒ウイルス(AVP08株)を接種したピーマンに、野生型PMMoV(強毒ウイルス)汚染処理を行った場合のモザイク病の発病率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、130KDaウイルス複製酵素に特定の変異を有するアミノ酸配列をコードするRNAを、ゲノムRNA中に有することを特徴とする、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)の弱毒ウイルスに関する。

【0013】
〔一般的なPMMoVについて〕
トウガラシマイルドモットルウイルス(Pepper milde mottle virus、略名:PMMoV)とは、トバモウイルス属(Tobamovirus)に属するRNAウイルスを指すものである。
PMMoVの感染対象の植物としては、トウガラシ属植物(およびタバコ等の一部のナス科植物)にしか感染しない植物ウイルスであり、ヒト、家畜、野生動物に対して全く無害なウイルスである。
なお、トバモウイルス属のウイルスとしては、他に、タバコモザイクウイルス(TMV)、トマトモザイクウイルス(ToMV)などを挙げることができるが、PMMoVとは、感染植物の種類、植物側の抵抗性遺伝子、感染後の病徴発現に関わる応答反応、などが大きく異なる。また、ククモウイルス属に分類されるキュウリモザイクウイルス(CMV)とは、ウイルス学的に完全に異なるものであり、基本的な感染メカニズム自体が異なる。

【0014】
野生型のPMMoV(強毒ウイルス)は、感染した植物に対して激しいモザイク病の病徴を発病させる。
PMMoVモザイク病の病徴として、具体的には、感染した植物体の生長点近傍の本葉に、奇形を伴うモザイクを発生させたり、;果実には奇形の緑色の条斑モザイクを縦方向に発生させたり、;萎縮化により生育が抑えられるため一作を通した収量を激減させる、;などの病徴を指すものである。

【0015】
〔本発明のPMMoV弱毒ウイルスについて〕
・130KDaウイルス複製酵素の変異
本発明におけるPMMoVの弱毒ウイルスは、野生型のPMMoVの130KDaウイルス複製酵素のアミノ酸配列(配列番号3)に比べて、特定のアミノ酸残基の3箇所に特定の変異を有するものである。具体的には、配列番号2からなるアミノ酸配列を挙げることができる。
配列番号2は、配列番号3に比べて、アミノ酸番号347番目に相当するアミノ酸が「チロシン」であり、アミノ酸番号549番目に相当するアミノ酸が「メチオニン」であり、且つ、アミノ酸番号761番目に相当するアミノ酸が「アスパラギン酸」となった変異を有する、アミノ酸配列である。

【0016】
また、当該アミノ酸変異を有する130KDaウイルス複製酵素としては、当該特定のアミノ酸残基の3箇所の変異を有し、且つ、ウイルスが感染したトウガラシ属植物に、モザイク病の病徴を示さないか、もしくは極めて軽微な病徴しか示さないように機能するものであれば、さらなるアミノ酸変異(置換、欠失、付加もしくは挿入)を有するものであってもよい。
例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上(好ましくは98%以上、さらには99%以上)の相同性を有するアミノ酸配列のものであれば、1~50個(具体的には1~20個、好ましくは1~10個、さらには1~5個)のアミノ酸残基の置換を有するものも含むことができる。
また、数残基(1~10個、好ましくは1~5個)であれば、欠失、付加もしくは挿入を有するものも含むことができる。

【0017】
従って、本発明におけるPMMoVの弱毒ウイルスは、130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAとして、上記のようなアミノ酸変異を有する130KDaウイルス複製酵素をコードするRNA(CDS領域)を、ゲノムRNA中に有するものである。
具体的には、配列番号2に記載の130KDaウイルス複製酵素をコードするRNA(CDS領域)である、配列番号1の塩基番号70~3423に記載の塩基配列からなるRNAを挙げることができる。
なお、130KDaウイルス複製酵素の成熟体では、翻訳後に最初のメチオニンが脱落する。従って、配列番号2からなるアミノ酸配列と厳密に対応するRNA配列としては、配列番号1の塩基番号73~3420(最初のメチオニンを指定するコドンと最後のストップコドンを除いた領域)に記載の塩基配列を挙げることができる。

【0018】
・本発明のPMMoV弱毒ウイルスの特徴
本発明のPMMoVの弱毒ウイルスの特徴としては、i) トウガラシ属植物に感染した際に、モザイク病の病徴を示さない、もしくは、極めて軽微な病徴しか示さないウイルスを指すものである。
また、ii) 他のPMMoV系統との間で起こる干渉作用の働きにより、感染後のトウガラシ属植物に対して、野生型PMMoVの感染に抵抗性を付与するものである。
そして、iii) 感染後のトウガラシ属植物に対して、植物の生育、果実の品質や収穫量等に、全く影響がないか、もしくはほとんど影響がないものである。
また、当該弱毒ウイルスは、感染植物体内における増殖量が強毒ウイルスと比較して20~30%程度であるため、野外の植物や他の農作物への影響も心配されない。

【0019】
・AVP08株について
なお、本発明のPMMoVの弱毒ウイルスとしては、上記ウイルスの特徴 i)において、トウガラシ属植物に感染した際に、モザイク病の病徴を‘全く’示さないものであることが望ましい。また、上記ウイルスの特徴 iii)において、植物の生育、果実の品質や収穫量等に、‘全く’影響がないものであることが望ましい。
このような弱毒ウイルスとしては、130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAとして、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる130KDaウイルス複製酵素をコードするRNAを、ゲノムRNA中に有するものを挙げることができる。
また、さらには、ウイルスのゲノムRNAが、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムRNAであるものを挙げることができる。

【0020】
なお、このような弱毒ウイルスとして、具体的には、下記に詳述した実施例において作出されたAVP08株を挙げることができる。なお、「AVP08」株は、植物ウイルスであることから、日本国特許庁長官の指定する寄託機関である、独立法人産業総合研究所の特許生物寄託センターと、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターのいずれにも寄託の受け入れが認められないものであった。
このため、「AVP08」株は、本出願人自らが保管し、特許法施行規則第27条の3に掲げた分譲については、本出願人がその分譲申請に応ずる用意がある。

【0021】
・作出方法
本発明のPMMoVの弱毒ウイルスは、下記の実施例に詳述した方法に準じて行うことで、作出することができる。
具体的には、PMMoVの強毒ウイルス(具体的には、PMMoV-Kj株)をトウガラシ属植物(具体的にはピーマン)に接種し、;高温ストレス条件下(約40℃)での育成し、;えそ斑点選抜を行い、;生育形態への影響が皆無や軽微なものを選抜することによって、;得ることができる。

【0022】
〔PMMoVモザイク病の防除への応用〕
本発明のPMMoV弱毒ウイルスは、トウガラシ属植物に接種して予め感染させることで、上記ウイルスの特徴 ii)による、同種ウイルス間での干渉作用が発揮される。
これによって、当該PMMoV弱毒ウイルスを接種した(感染させた)トウガラシ属植物は、他のPMMoVの如何なる系統のウイルスに対して、極めて高い抵抗性を有するものとなり、トウガラシ属植物のPMMoVモザイク病を防除することが可能となる。

【0023】
・感染防止可能なウイルス系統
本発明のPMMoV弱毒ウイルスによって‘感染防止可能なウイルス’としては、PMMoVに属する系統のものであれば、如何なる強毒ウイルスの系統に対しても適用することができる。
なお、本発明のPMMoV弱毒ウイルスを用いて、他のトバモウイルス属のウイルス(ToMV、TMVなど)やククモウイルス属のウイルス(CMVなど)の感染を防ぐことはできない。また逆に、他のウイルス種の弱毒ウイルスの系統を用いて、PMMoVの感染を防ぐこともできない。これは、他種に属するウイルス間では、干渉作用が働かないためと考えられる。

【0024】
・適用植物
また、本発明のPMMoV弱毒ウイルスによるモザイク病防除が適用できる植物としては、‘トウガラシ属’に属する植物であれば、如何なるものであっても適用が可能である。
具体的には、Capsicum annuum(ピーマン、トウガラシ)、Capsicum baccatum(アヒ・アマーリジョ)、Capsicum cardenasii(ウルピカ)、Capsicum chinense Jacq.Heser&Smith(ハバネロの仲間)、Capsicum frutescens(キダチトウガラシ:タバスコの材料)、Capsicum pubescens Ruiz&Rav.(ロコト)、などを挙げることができる。

【0025】
なお、本発明は、特にCapsicum annuumに好適に適用することができる。ここでCapsicum annuumとしては、例えばピーマン、トウガラシ、パプリカ、シシトウガラシ、ホンタカ、ハラペーニョ、タカノツメなどの主要な農作物の品種が挙げられ、重要な食材である。なお、これらの農作物品種は、生物学的に(生殖的隔離がなく交配が可能な)全く同一の種であり、遺伝的に極めて近い関係にあるものである。
本発明では、これらの中でも、ピーマン、トウガラシ、パプリカに好適に適用することができる。

【0026】
・ウイルス接種(感染)方法
本発明では、PMMoV弱毒ウイルスが感染した植物(例えばトウガラシ属植物、タバコ植物)などの葉に、水分を加えて、擂潰,磨砕,粉砕などの処理を行ったものを、ウイルス接種源として、用いることができる。
例えば、約1gの葉に対して、これを0.01~10L程度、好ましくは1L程度のリン酸緩衝液(具体的には、0.05M程度、pH7.0程度)の磨砕液を、接種源とすることができる。
また、当該ウイルス感染した葉の粉末や、単離したウイルス粒子そのものなどを、水等で懸濁したものを、ウイルス接種源として用いることもできる。

【0027】
本発明のPMMoV弱毒ウイルスの接種は、基本的には如何なる時期や植物体の部位に対して行うことができるが、好ましくは苗に対して行うことが望ましい。また、感染性の点から、幼苗期が好ましい。また、葉に対して行うことが好適である。
具体的には、トウガラシ属植物の播種後、10~20日後、好ましくは14日程度経過後の、完全に双子葉が展開した苗に、行うことが望ましい。
接種方法としては、双子葉に研磨剤(例えば、400~600メッシュ程度の粒子のもの)を振りかけ、そこに前記ウイルス接種源を含む液を染みこませた脱脂綿等で軽くこすりつけることで、ウイルスを接種することができる。
また、前記ウイルス接種源を含む液で汚染したハサミやナイフ等で、苗に傷をつけることでも、ウイルス接種することもできる。

【0028】
その後、当該ウイルス感染後のトウガラシ植物は、常法によって栽培を行うことが可能である。例えば、本葉が10枚程度になるまで温室内で育成した後、野外の農場、ハウス内、圃場、プランター等に定植させて栽培することができる。

【0029】
・ウイルス感染した植物体
得られたPMMoV弱毒ウイルスを接種した(感染させた)トウガラシ属植物は、他のPMMoV系統の感染に対して、極めて抵抗性が高い植物体となる。このため、PMMoVモザイク病が防除された植物体となる。
また、当該トウガラシ属植物は、植物の生育、果実の品質や収穫量等に、全く影響がないか、もしくはほとんど影響がないものである。

【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
〔実施例1〕 PMMoVの弱毒系統ウイルス株(AVP08株)の作出
以下の手順により、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)の弱毒ウイルスを選抜して単離した。
(1)強毒ウイルスの高温ストレス処理
まず、PMMoV強毒ウイルスとして、京都府内のトウガラシ栽培圃場から分離したPMMoV-Kj株を用いた。
当該PMMoV-Kj株が感染したピーマンの感染植物組織を、50倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕して磨砕液を調製した。
なお、PMMoV-Kj株は、感染したピーマン植物体の生長点近傍の本葉に、奇形を伴うモザイク病徴を発症させ、果実には奇形の緑色の条斑モザイクを縦方向に発生させ、生育が抑えられるため一作を通した収量を激減させる強毒系統のウイルス株である。
【実施例】
【0032】
その後、本葉8~10枚期程度にまで生育したピーマン(品種:ニュー土佐ひかり(南国種苗))の苗の主茎に、研磨剤(400~600メッシュ程度のカーボランダム)を振りかけた。そして、前記磨砕液を脱脂綿に染み込ませて軽くこすりつけることにより、ウイルス接種を行った。
その後、苗は40℃の高温ストレス条件下において、約3週間陽光恒温器で育成した。
育成後、前記ウイルス接種を行った部位を切り出し、100倍量のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えて磨砕して磨砕液を調製した。
【実施例】
【0033】
(2)弱毒ウイルスの単離
次に、上記磨砕液を用いて、本葉10枚期程度に生育したタバコ属の植物(Nicotiana tabacum cv. Xanthi nc)の本葉第5~8葉に対して、ウイルス接種を行った。ウイルス接種は前記(1)の記載と同様にして行った。
ウイルス接種後、3~4日目の接種葉上にウイルス感染によって形成された多数のえそ斑点を一個ずつ分離した。そして、50μL程度のリン酸緩衝液(中性付近の0.1Mリン酸緩衝液)を加えてそれぞれ粗汁液とした。
【実施例】
【0034】
得られた各粗汁液は、子葉期のピーマン苗に接種した。当該ウイルスの接種処理は、研磨剤(400~600メッシュ程度のカーボランダム)を苗に振りかけ、前記の粗汁液をガラスベラで軽くこすりつけることにより行った。
ウイルス接種後、23~25℃にて一定のガラス温室で約1ヶ月間育成した。その後、育成した各ピーマン植物体について病徴調査を行った。
生育に異常が認められたピーマン植物体(強毒ウイルスの感染体)、ウイルス感染していないピーマン植物体(未感染体)を取り除き、モザイク病徴が起こらないピーマン植物体(弱毒ウイルス感染体)を選抜した。
【実施例】
【0035】
(3)AVP08株の選抜
上記のようにして得られたウイルス病徴を全く示さない(弱毒ウイルスが感染している)各ピーマンの葉について、上記(1)と同様にして磨砕液を調製した。
この磨砕液について、上記(2)と同様にしてタバコ属の植物(Nicotiana benthamiana)の本葉に対してウイルス接種を行い、ウイルス接種後5日目の接種葉を回収することで、弱毒ウイルスの増殖を行った。
そして、当該接種葉1gを0.05Mのリン酸緩衝液(pH7.0)1L中で乳鉢と乳棒を用いて磨砕し、「AVP08」株の磨砕液(接種源のストック)を調製した。
【実施例】
【0036】
(4)寄託について
なお、「AVP08」株は、植物ウイルスであることから、日本国特許庁長官の指定する寄託機関である、独立法人産業総合研究所の特許生物寄託センターと、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターのいずれにも寄託の受け入れが認められないものであった。
このため、「AVP08」株は、本出願人自らが保管し、特許法施行規則第27条の3に掲げた分譲については、本出願人がその分譲申請に応ずる用意がある。

【実施例】
【0037】
〔実施例2〕 AVP08株のゲノムRNAの構造
AVP08株のゲノムRNAを解析し、野生型のものとのゲノムRNAの相違を検討した。
実施例1により得られた純化精製したAVP08株についてRNA抽出を行った。そして、GenBank に登録されている野生型のPMMoV-Jの全長RNA配列(accession no. AB000709)を参考に、RT-PCR法で本ゲノムの全長が連続した4断片となるようcDNAを合成した。
次いで、上記の野生型であるPMMoV-J株のRNA配列を基に、その全長の双方向に対して300塩基ごとに20塩基長となる合成オリゴDNAプライマーを作成し、上記でRT-PCRで合成したcDNA断片の塩基配列をシークエンサーを用いて解析し、その結果を取りまとめ全ゲノムRNAの配列を決定した。配列番号1にゲノムの全RNA配列を、図1にゲノム構造の模式図を示す。
【実施例】
【0038】
その結果、AVP08株は、6356塩基からなるゲノムRNAを有するものであった。
そして、図1に示すように、AVP08株のゲノムRNAは、野生型PMMoVのゲノムRNAと比べて、130KDaウイルス複製酵素の特定のアミノ酸3残基に変異を生じさせるRNA変異を、有するものであった。
詳しくは、AVP08株の130KDaウイルス複製酵素(配列番号2)は、野生型PMMoVの130KDaウイルス複製酵素(配列番号3)におけるアミノ酸番号347番目が‘メチオニン(M)’から「チロシン(Y)」に変異し、アミノ酸番号549番目が‘セリン(S)’から「メチオニン(M)」に変異し、アミノ酸番号761番目が‘グリシン(G)’から「アスパラギン酸(D)」に変異したものであった。
【実施例】
【0039】
なお、130KDaウイルス複製酵素をコードするCDS領域(具体的には、配列番号1の塩基番号70~3423)において、塩基番号70~72は最初のメチオニンを指定するコドンであるが、タンパク質成熟時に脱落するため、塩基番号73~75が指定するアラニンがN末端のアミノ酸(具体的には、配列番号2,3のアミノ酸番号1番目)となる。

【実施例】
【0040】
〔実施例3〕 ピーマンにおけるAVP08株のPMMoVモザイク病防除効果
(1)防除効果の検討
上記PMMoV弱毒ウイルス「AVP08」株を苗に感染させたピーマンの各品種において、PMMoVモザイク病の防除効果を検討した。
ピーマンの各品種、「みはた2号」((財)日本園芸生産研究所)、「みおぎ」((財)日本園芸生産研究所)、「京鈴」(タキイ種苗(株))、「TM鈴波」(タキイ種苗(株))、の種子を播種した。そして、播種から14日経過後に完全展開した双子葉に対して、研磨剤(400~600メッシュ程度のカーボランダム)を振りかけ、そこに実施例1(3)で得られたAVP08の接種源のストック(葉の磨砕液)を、脱脂綿に染み込ませて軽くこすりつけることで、各苗にウイルス接種を行った。
その後、本葉が10枚程度になるまで温室内で育成した後、パイプハウス圃場に定植して栽培した。
【実施例】
【0041】
そして、野生型のPMMoV(PMMoV-Ij株:強毒ウイルス)で汚染させた採果バサミを用いて収穫及び管理作業(強毒ウイルス汚染処理)を12週間連続で行うことによって、人為的にモザイク病を誘発させた。
なお、比較対照として、AVP08の接種を行わなかった各品種の苗に対しても、同様に人為的にモザイク病を誘発させた。
収穫及び管理作業の開始から60日後の各処理区における、モザイク病が発病した株の割合(発病率(%))を表1と図2に示す。
【実施例】
【0042】
その結果、AVP08の接種を行うことなく、収穫の際に強毒ウイルス汚染処理を行った場合(比較対照)、調べた全てのピーマン品種の株100%において、モザイク病の発病が見られた。
それに対して、苗の段階でAVP08の接種を行った場合(本発明)では、強毒ウイルス汚染処理行っても、モザイク病の発病がほとんど起こらないことが示された。特に、「みはた2号」と「京鈴」では、発病率がほぼ0%であった。
【実施例】
【0043】
【表1】
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【実施例】
【0044】
(2)収穫への影響
AVP08株を苗に感染させたピーマンにおいて、果実の収穫量への影響を検討した。
ピーマン(品種:みおぎ、(財)日本園芸生産研究所)の苗に対して、上記(1)と同様にしてAVP08株の接種を行った。そして、茨城県神栖市のパイプハウス圃場に定植し、半促成栽培を行った。
そして、4ヶ月間(3~6月)にわたり果実の品質規格に応じて、「A品」、「B品」、「出荷不可品」に分別して収穫を行った。また、栽培と収穫は、平成20年度と平成21年度の2回行った。
なお、対照として、AVP08の接種を行わなかった苗に対しても、同様に栽培を行い、果実の品質規格に応じて分別収穫した。
平成20年度における各処理区における収穫量の結果を表2に示す。また、平成21年度における結果を表3に示す。
【実施例】
【0045】
その結果、AVP08の接種を行った場合においても、果実の収穫量および品質規格の割合について、未接種の場合とほぼ同じ割合になることが示された。
このことから、AVP08の感染は、ピーマン植物体における果実の結実量や形成に影響を与えないことが示された。
【実施例】
【0046】
【表2】
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【実施例】
【0047】
【表3】
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【実施例】
【0048】
〔実施例4〕 パプリカにおけるAVP08株のPMMoVモザイク病の防除効果
(1)防除効果の検討
上記PMMoV弱毒ウイルス「AVP08」株を苗に感染させたパプリカにおいて、PMMoVモザイク病の防除効果を検討した。
パプリカ(品種:レッドホルン)の苗について、実施例3に記載の方法と同様にして、AVP08の接種を行い、パイプハウス圃場に定植して栽培した。
そして、野生型のPMMoV(PMMoV-Ij株:強毒ウイルス)で汚染させた採果バサミを用いて収穫及び管理作業(強毒ウイルス汚染処理)を、12週間連続で行うことによって、人為的にモザイク病を誘発させた。
なお、比較対照として、AVP08の接種を行わなかった苗に対しても、同様に人為的にモザイク病を誘発させた。また、対照として、AVP08の接種を行わなかった苗を同様に栽培し、通常の(強毒ウイルスで汚染されてない)採果バサミを用いて栽培収穫及び管理作業を行った。
管理作業の開始から60日後と72日後の各処理区における、モザイク病が発病した株の割合(発病率(%))を測定した。結果を表4に示す。
【実施例】
【0049】
その結果、AVP08の接種を行うことなく、強毒ウイルス汚染処理を行った場合(比較対照)、管理作業(強毒ウイルス汚染処理)開始から60日後には、調べた全て(100%)のパプリカの株において、モザイク病の発病が見られた。また、通常の栽培と収穫を行った場合(対照)でも、管理作業(強毒ウイルス汚染処理なし)開始から72日後には、全ての株100%でモザイク病の発病が見られた。
それに対して、苗の段階でAVP08の接種を行った場合(本発明)では、強毒ウイルス汚染処理を行っても、モザイク病の発病が全く見られなかった。
【実施例】
【0050】
【表4】
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【実施例】
【0051】
(2)収穫への影響
上記(1)の各処理区で栽培したパプリカにおいて、モザイク病によって萎縮した株の割合(萎縮株率)を集計した。また、各処理区のパプリカから果実を収穫し、モザイク病の病徴が表れた果実の割合(発病果率)と、商品として出荷可能な果実の割合(商品果率)を集計した。結果を表5に示す。
【実施例】
【0052】
その結果、AVP08の接種を行うことなく、収穫の際に強毒ウイルス汚染処理を行った場合(比較対照)、調べた全ての株で萎縮が見られた。そして、92.3%の果実でモザイク病の病徴が見られ、出荷可能な割合は24%であった。
また、通常の栽培と収穫を行った場合(対照)でも、調べた28.6%の株で萎縮が見られた。そして、58.3%の果実でモザイク病の病徴が見られ、出荷可能な割合は77.4%であった。
それに対して、苗の段階でAVP08の接種を行った場合(本発明)では、強毒ウイルス汚染処理を行っても、萎縮株やモザイク病の病徴が全く見られなかった。また、ほとんど全ての果実(97.1%)が出荷可能な品質であった。
【実施例】
【0053】
【表5】
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【実施例】
【0054】
〔実施例5〕 トウガラシにおけるAVP08株のPMMoVモザイク病の防除効果
(1)防除効果の検討
上記PMMoV弱毒ウイルス「AVP08」株を苗に感染させたトウガラシにおいて、PMMoVモザイク病の防除効果を検討した。
トウガラシ(品種:伏見甘長トウガラシ)の苗について、実施例3に記載の方法と同様にして、AVP08の接種を行い、パイプハウス圃場に定植して栽培した。
そして、野生型のPMMoV(PMMoV-Ij株:強毒ウイルス)で汚染させた採果バサミを用いて収穫及び管理作業(強毒ウイルス汚染処理)を、12週間連続で行うことによって、人為的にモザイク病を誘発させた。
なお、比較対照として、AVP08の接種を行わなかった苗に対しても、同様に人為的にモザイク病を誘発させた。
管理作業の開始から60日後の各処理区における、モザイク病が発病した株の割合(発病率(%))を測定した。結果を表6に示す。
【実施例】
【0055】
その結果、AVP08の接種を行うことなく、強毒ウイルス汚染処理を行った場合(比較対照)、管理作業(強毒ウイルス汚染処理)開始から60日後には、調べた12株中の全て(100%)のトウガラシの株において、モザイク病の発病が見られた。
それに対して、苗の段階でAVP08の接種を行った場合(本発明)では、強毒ウイルス汚染処理を行ってモザイク病の発病したのは、12株中の2株(16.7%)であった。
【実施例】
【0056】
【表6】
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【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、これまで臭化メチル剤に依存してきたトウガラシ属植物のおけるPMMoVのモザイク病の防除(特に、ピーマン、パプリカ、トウガラシ生産)において、有効な代替技術となることが期待される。
さらに本発明は、人や家畜に無害な生物資源のみを用いる技術であることから、環境保全型のウイルス病害生物防除技術として、安全性の高い農業生産に貢献することが期待される。
図面
【図1】
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【図2】
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