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明細書 :金属内包フラーレンの回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5540388号 (P5540388)
公開番号 特開2013-180939 (P2013-180939A)
登録日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発行日 平成26年7月2日(2014.7.2)
公開日 平成25年9月12日(2013.9.12)
発明の名称または考案の名称 金属内包フラーレンの回収方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
FI C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 12
全頁数 19
出願番号 特願2012-047496 (P2012-047496)
出願日 平成24年3月5日(2012.3.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 2011年9月5日フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会発行「第41回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム講演要旨集」第120頁 2011年9月20日日本放射化学会発行「日本放射化学会誌 第12巻 別冊 (2011 日本放射化学会年会・第55回放射化学討論会 研究発表要旨)」第127頁 平成23年11月27日掲載 http://www.comp.tmu.ac.jp/cfc2011/PostTMU.html 平成24年2月9日に首都大学東京大学院理工学研究科分子物質化学専攻発行「
審査請求日 平成25年12月3日(2013.12.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】秋山 和彦
【氏名】濱野 達行
【氏名】篠原 久典
【氏名】中西 勇介
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100081776、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 宏
審査官 【審査官】小野 久子
参考文献・文献 濱野達行他,ルイス酸による金属フラーレン分離の効率化,日本放射化学会誌 第12巻別冊(2011 日本放射化学会年会・第55回放射化学討論会 研究発表要旨),2011年 9月20日,Vol.2011-55th,p.127
HAMANO Tatsuyuki, et al.,Improvement of Metallofullerene separation using Lewis acid.,フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム講演要旨集,2011年 9月 5日,Vol.41st,p.120
濱野達行他,ルイス酸を用いた金属フラーレン分離法の検討,日本放射化学会誌 第11巻別冊(2010 日本放射化学会年会・第54回放射化学討論会 研究発表要旨),2010年 9月27日,Vol.2010-54th,p.81
調査した分野 C01B 31/00-31/36
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
粗フラーレン類から、金属を内包する金属内包フラーレンを回収する方法であって、
前記粗フラーレン類を溶媒に溶解させてなる反応液に、ハロゲン化チタン又はハロゲン化スズからなるルイス酸を加えることで、前記金属内包フラーレンと前記ルイス酸との複合体を生成させる複合化工程と、
前記反応液から前記複合体を濾別する濾過工程と、
前記複合体から前記ルイス酸を除去して前記金属内包フラーレンを取得する洗浄工程と、を行い、
前記複合化工程での前記金属内包フラーレンと前記ルイス酸との反応時間は、12時間以内であることを特徴とする金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化チタン又はハロゲン化スズは、塩化チタン又は塩化スズである請求項1記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項3】
前記複合化工程で用いる前記溶媒は、CS及びベンゼン系溶媒の群から選ばれる1種以上からなる請求項1又は2に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項4】
前記複合化工程での前記金属内包フラーレンと前記ルイス酸との反応時間は、0.2秒間以上1時間以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項5】
前記複合体は、1の金属内包フラーレンと複数の前記ルイス酸とから構成されている請求項1~4のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項6】
前記洗浄工程では、前記複合体を洗浄液で洗浄することで前記ルイス酸を除去する請求項1~5のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項7】
前記洗浄液は、水である請求項6記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項8】
前記粗フラーレン類は、前記金属内包フラーレン及び、金属を内包していない未内包フラーレンを含み、前記複合化工程、前記濾過工程及び前記洗浄工程を行うことで前記粗フラーレン類から前記金属内包フラーレンを分離する請求項1~7のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項9】
前記洗浄工程の後には、前記金属内包フラーレンを溶媒に溶解させる溶解工程を行う請求項1~8のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項10】
前記溶解工程で用いる前記溶媒は、CS及びベンゼン系溶媒の群から選ばれる1種以上からなる請求項9に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項11】
前記溶解工程で用いる前記溶媒は、前記複合化工程で用いる前記溶媒と異なる種類の溶媒である請求項9又は10に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
【請求項12】
前記粗フラーレン類は、炭素と金属の混合ロッドに熱処理して生成された煤から抽出される請求項1~11のいずれか1項に記載の金属内包フラーレンの回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属内包フラーレンの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属内包フラーレンは、金属原子をフラーレン殻に内包した物質である。金属内包フラーレンは、金属原子からフラーレンへの電子移動で、フラーレンの電気特性や電子輸送特性が変化する。このため、医療分野や電子機器など幅広い分野で使用が可能とされている。例えば、ガドリニウムを内包した金属内包フラーレン(Gd@C82)は、核磁気共鳴診断(MRI)で用いる造影剤、ルテチウム(Lu)を内包した金属内包フラーレン(LuN@C80)はβ線治療薬、リチウムを内包した金属内包フラーレン(Li@C60)はn型半導体、テルビウムを内包した金属内包フラーレン(Tb@C82)は単一分子ナノデバイスへの使用が検討されている。
【0003】
金属内包フラーレンを製造する方法としては、特開2000-159514号公報(特許文献1)に開示されているように、グラファイト粉末と金属酸化物粉末とを混合して作成した混合ロッドを原材料とし、アーク放電法などを用いて金属内包フラーレン含有煤を生成させる。
【0004】
金属内包フラーレン含有煤には、その0.1%程度の金属内包フラーレンが含まれている。このため、金属内包フラーレン含有煤から金属内包フラーレンを高速多段階クロマトグラフィー(HPLC)により単離していた。
【0005】
しかし、HPLCによる金属内包フラーレンの分離方法では、金属内包フラーレン含有煤の約半分程度がカラム内の固定相に吸着してしまう。このため、金属内包フラーレンの損失量が多い。固定相に吸着した金属内包フラーレンをすべて回収しようとすると、何回もカラムに展開溶媒を流通させなければならない。このため、金属内包フラーレンの回収効率が低い。カラムの寿命も比較的短く、定期的に新品に取り替える必要がある。
【0006】
また、HPLCでは、展開溶媒を多量に必要とし、分離に長時間を要する。例えば、金属内包フラーレンを10mg分離するには、HPLCでは1~2ヶ月又はそれ以上の期間を要する。半減期の短い元素や不安定な物質を内包した金属内包フラーレンは、特にすばやく分離する必要がある。また、金属内包フラーレンの分離に用いるHPLCは、特殊なカラムやハードウェア等が必要である。
【0007】
そこで、Steven Stevensonら(非特許文献1)が、ScN@C78、Sc@C80などを含むフラーレン溶液を、AlCl又はFeClと選択的に反応させて沈殿させることで、ScN@C78、Sc@C80の抽出に成功した。しかし、Steven Stevensonらの方法では、金属内包フラーレンの回収率が十分に高いとはいえない。
【0008】
また、Imre Bucsiら(非特許文献2)は、フラーレンC60及びC70をAlClと反応させると、C70が高い反応性で錯体を形成し、C60が分離されることを報告している。しかし、Imre Bucsiらの方法では、反応に2-6日の期間を要する。このため、Imre Bucsiらの方法を金属内包フラーレンの分離に適用しても、短時間で金属内包フラーレンを分離することは期待できない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2000-159514号
【0010】

【非特許文献1】Steven Stevenson,etc., Inorg. Chem. 2009, 48, 11685-11690
【非特許文献2】Imre Bucsi,etc., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.91, 9019-9021(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明者は更に研究を重ね、回収率の高い金属内包フラーレンの回収方法を開発した。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、回収率の高い金属内包フラーレンの回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属内包フラーレンの回収方法は、粗フラーレン類から、金属を内包する金属内包フラーレンを回収する方法であって、
前記粗フラーレン類を溶媒に溶解させてなる反応液に、ハロゲン化チタン又はハロゲン化スズからなるルイス酸を加えることで、前記金属内包フラーレンと前記ルイス酸との複合体を生成させる複合化工程と、
前記反応液から前記複合体を濾別する濾過工程と、
前記複合体から前記ルイス酸を除去して前記金属内包フラーレンを取得する洗浄工程と、を行い、
前記複合化工程での前記金属内包フラーレンと前記ルイス酸との反応時間は、12時間以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属内包フラーレンの回収方法によれば、金属内包フラーレンを含む粗フラーレン類を溶媒に溶解させてなる反応液に、ハロゲン化チタン又はハロゲン化スズからなる液体状のルイス酸を加えて、金属内包フラーレンとルイス酸とを反応させることで、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体からなる残渣を生成させている。このため、高い回収率で金属内包フラーレンを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金属内包フラーレンの回収方法の原理を示す説明図。
【図2】実施例1の反応液(1)の中のフラーレンの分析結果であって、上段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【図3】実施例1の濾液(2)の中のフラーレンの分析結果であって、上段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【図4】実施例1の残渣(3)の中のフラーレンの分析結果を示し、上段は、残渣(3)のHPLCによる分離結果を示すクロマトグラムを示し、中段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【図5】実施例2の残渣(3)の中のフラーレンの質量分析結果であって、上段は、TOF-MSにおいて、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【図6】実施例3の残渣(3)の中のフラーレンの質量分析結果であって、上段は、TOF-MSにおいて、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【図7】実施例4の、分離前の反応液の中のフラーレンと、分離後の残渣の中のフラーレンのHPLCプロファイルを示す。
【図8】実験例1の条件1~8で金属内包フラーレンの分離を行った場合の、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率を示す棒グラフである。
【図9】実験例2の条件9~19で金属内包フラーレンの分離を行った場合の、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率を示す棒グラフである。
【図10】実験例3の条件20~28で金属内包フラーレンの分離を行った場合の、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率を示す棒グラフである。
【図11】実験例4の条件29~31で金属内包フラーレンの分離を行った場合の、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る金属内包フラーレンの回収方法について説明する。本実施形態の金属内包フラーレンの回収方法は、粗フラーレン類から金属内包フラーレンを回収する方法である。粗フラーレン類から金属内包フラーレンを回収するために、複合化工程と、濾過工程と、洗浄工程と、溶解工程とを行う。図1に示すように、複合化工程では、金属内包フラーレン及び未内包フラーレンからなる粗フラーレン類を溶媒に溶解させてなる反応液に所定のルイス酸を添加して、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体を生成させる。濾過工程では、複合体を濾過して、残渣と濾液に分離する。洗浄工程では、残渣を水などで洗浄する。洗浄工程の後には、金属内包フラーレンを溶媒に溶解させる溶解工程を行ってもよい。以下、粗フラーレン類及び各工程について詳細に説明する。

【0017】
(粗フラーレン類)
粗フラーレン類は、フラーレン殻を有するさまざまな物質をいい、フラーレン殻の中に金属を内包した金属内包フラーレンを含んでいる。粗フラーレン類は、少なくとも金属内包フラーレンを含む。粗フラーレン類は、金属内包フラーレンの他に、金属を内包していない未内包フラーレンを含んでいてもよい。金属を内包していない未内包フラーレンは、何も内包していない空フラーレンだけでなく、金属は内包していないが金属以外の非金属元素を内包する非金属内包フラーレンも含まれる。本発明の金属内包フラーレンの回収方法は、例えば、粗フラーレン類は、前記金属内包フラーレン及び、金属を内包していない未内包フラーレンを含み、前記複合化工程、前記濾過工程及び前記洗浄工程を行うことで前記粗フラーレン類から前記金属内包フラーレンを分離する方法に適用できる。また、金属内包フラーレンの溶媒置換方法にも適用できる。そのほか、本発明の金属内包フラーレンの回収方法の適用は、これらに限らない。

【0018】
金属内包フラーレンには、様々な金属が内包され得る。フラーレンに内包されやすい金属としては、周期表の1A族、2A族、3A族、4A族に含まれる元素があげられる。フラーレンに内包されやすい金属としては、例えば、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)、Fr(フランシウム)、Be(ベリリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)、Ra(ラジウム)、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド、アクチノイドが挙げられる。中でも、Li、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、Hfがよい。ランタノイドの中では、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)がよい。アクチノイドの中では、Ac(アクチニウム)、Th(トリウム)、Pa(プロトアクチニウム)、U(ウラン)、Np(ネプツニウム)、Pu(プルトニウム),Am(アメリシウム)がよい。

【0019】
金属内包フラーレンには、金属以外の非金属元素を含んでいてもよい。例えば、金属内包フラーレンの中に金属とともに内包され得る非金属元素としては、水素,炭素,窒素,酸素,硫黄などが挙げられる。

【0020】
金属を内包しやすいフラーレンは比較的サイズの大きな(例えば炭素数が70以上の)高次フラーレンである。高次フラーレンは、粗フラーレン類の中でも存在比率が少ない。このため、高次フラーレンに金属を内包させた金属内包フラーレンの存在比率は、粗フラーレン類の中の数%程度である。

【0021】
フラーレンは、複数の炭素により形成された多面体構造をもつ。フラーレンの中には、空間部が形成されており、この空間部には、種々の金属を内包させることができる。金属を内包させ得るフラーレンとしては、炭素数が60以上200以下のフラーレンがよく、更には60以上96以下の炭素数のフラーレンがよい。本フラーレンの中には、1つ又は2つ以上の金属元素を内包させ得る。

【0022】
本発明の金属内包フラーレンの回収方法によれば、上記の種々の金属を内包する金属内包フラーレンを高い回収率で回収することができる。

【0023】
粗フラーレン類は、どのような方法で生成したものでもよいが、例えば、炭素と金属の混合ロッドに熱処理して生成された煤から抽出されるとよい。その他、粗フラーレン類を調製するには、イオンインプランテーション法がある。

【0024】
煤は、炭素と金属の混合ロッドに熱処理を施すことにより生成される。混合ロッドは、炭素と金属の混合物を高温(例えば、1600~2000℃)で熱処理して形成されたものであるとよい。混合ロッドは、市販されているものを用いることができる。混合ロッドの熱処理は、アーク放電、レーザー蒸発などが挙げられる。

【0025】
混合ロッドに熱処理を行って生成される煤は、10~20%程度の割合で、粗フラーレン類を含む。煤の中には、粗フラーレン類の他に、オープンフラーレン、グラフェンなどのアモルファスカーボンなどが含まれる。

【0026】
煤には、粗フラーレン類以外の成分が含まれる。このため、煤から粗フラーレン類を抽出することが必要とされる。煤から粗フラーレン類を抽出するために、煤に溶媒を加えて溶媒に煤中の粗フラーレン類を溶解させる。煤に溶媒を加えた溶液を、メンブレンなどの濾過体により濾過する。

【0027】
煤に加えられる溶媒は、粗フラーレン類が溶解可能な液体である。煤に加えられる溶媒は、ルイス酸との複合化反応の反応液中の溶媒として用いることができるものがよい。例えば、CS,ベンゼン系溶媒などを用いるとよい。ベンゼン系溶媒は、例えば、トルエン、o-ジクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、o-キシレンを用いるとよい。濾過体には、溶媒に溶解しなかった成分(例えば、アモルファスカーボンなど)が残渣として残り、濾液には、溶媒に溶解した粗フラーレン類が含まれる。溶媒の添加量は煤1gに対して50ml以下、更には20~30mlであるとよい。溶媒量が過少の場合には、煤からの粗フラーレン類の抽出量が低下するおそれがある。溶媒量が過剰である場合には、粗フラーレン類の抽出に必要量以上の溶媒を使用することになり、溶媒の無駄になる。

【0028】
(複合化工程)
複合化工程では、粗フラーレン類を含有する反応液に、ハロゲン化チタン又はハロゲン化スズからなるルイス酸を加えることで、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体を生成させる。

【0029】
粗フラーレン類と溶媒とからなる反応液に、ハロゲン化チタン及びハロゲン化スズの群から選ばれる少なくとも1種からなるルイス酸を加える。これにより、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体からなる沈殿物が生成される。フラーレンの中の金属はプラスに帯電し、フラーレンはマイナスに帯電する傾向がある。このため、フラーレンにルイス酸が引き寄せられて、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体が形成されると考えられる。金属内包フラーレンとルイス酸との複合体は、溶媒に溶けず、反応液中で沈殿する。一方、金属を内包していない未内包フラーレンは、電荷を帯びていない。このため、未内包フラーレンにはルイス酸が引き寄せられない。このため、未内包フラーレンは、反応液に溶解した状態を維持する。

【0030】
本発明の金属内包フラーレンの回収方法によれば、フラーレンのサイズ、内包金属の種類、内包金属の価数、内包金属の個数にかかわらず、金属内包フラーレンを高い回収率で分離することができる。また、金属内包フラーレンが、金属元素とともに、金属元素以外の元素を内包する場合にも、高い回収率で金属内包フラーレンを分離することができる。

【0031】
金属内包フラーレンとルイス酸との複合体は、1つの金属内包フラーレンと複数のルイス酸とから構成されているとよい。後述の実験でも述べるように、金属内包フラーレンの周りに複数のルイス酸が取り囲んでいるとよい。1つの金属内包フラーレンには、5~30、更には10~20のルイス酸が取り囲んでいるとよい。

【0032】
ルイス酸は、ハロゲン化チタン及びハロゲン化スズの群から選ばれる少なくとも1種からなる。ハロゲン化チタン及びハロゲン化スズは、金属内包フラーレンと複合体を形成しやすい。後述の実験からも明らかなように、ハロゲン化チタン及びハロゲン化スズは、他のルイス酸に比べて、金属内包フラーレンと複合化しやすいため、金属内包フラーレンの回収率がよい。

【0033】
複合化工程でルイス酸として用いられるハロゲン化チタンは、TiF、TiCl、TiBr、TiIが挙げられる。中でも、TiClがよい。複合化工程でルイス酸として用いられるハロゲン化スズは、SnF、SnCl、SnBr、SnIが挙げられる。中でも、SnClがよい。TiCl、SnClは、反応性の高いルイス酸であり、また常温で液体であるため、金属内包フラーレンとすばやく接触して、複合化することができる。このため、高い回収率で金属内包フラーレンを分離することができる。

【0034】
炭素と金属とからなる混合ロッドを加熱処理して生成した煤から粗フラーレン類を抽出した場合には、粗フラーレン類に含まれる金属内包フラーレンだけでなく金属を内包していない未内包フラーレンを含むことが多い。この場合、反応液中の粗フラーレン類1mgに対する、ルイス酸の添加量は、0.3~30mgであることが好ましく、更には0.5~15mgであり、望ましくは1~12mgであることが望ましい。ルイス酸の添加量が過少であると、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体が生成しにくくなり、金属内包フラーレンの回収率が低下するおそれがある。ルイス酸の添加量が過剰であると、必要以上のルイス酸を使用することになり、ルイス酸の無駄になる。

【0035】
粗フラーレン類がほぼ100%金属内包フラーレンからなる場合には、粗フラーレン類のほぼ100%がルイス酸と複合化反応をする。このため、反応液中の粗フラーレン類に対するルイス酸の添加量は、上記の煤から抽出した粗フラーレン類の場合よりも多くすることが好ましい。例えば、反応液中の粗フラーレン類1mgに対する、ルイス酸の添加量は、6~1000mgであることが好ましく、更には14~300mgであり、望ましくは20~120mgであることが望ましい。ルイス酸の添加量が過少であると、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体が生成しにくくなり、金属内包フラーレンの回収率が低下するおそれがある。ルイス酸の添加量が過剰であると、必要以上のルイス酸を使用することになり、ルイス酸の無駄になる。

【0036】
粗フラーレン類が煤から抽出された場合及び粗フラーレン類がほぼ100%金属内包フラーレンからなる場合のいずれも、反応液1mlに対するルイス酸の添加量は3~100mgであることが好ましく、更には7~15mgであり、望ましくは10~12mgであることが望ましい。

【0037】
反応液にルイス酸を加えると、金属内包フラーレンとルイス酸との間で複合化反応が生じる。この複合化反応の時間は、短い方がよい。複合化の反応時間は、0.2秒間以上1時間以下であることが好ましい。反応時間が0.2秒間未満の場合には、複合体の生成が不十分となるおそれがある。反応時間が24時間以上である場合には、金属内包フラーレン同士が重合体を生成して、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体の生成率が低下するおそれがある。このため、金属内包フラーレンの回収率が低下するおそれがある。更には、反応時間は、1秒間以上12時間以内、更には、5秒間以上1時間以内であることが望ましい。この場合には、複合体が高い割合で生成するため、金属内包フラーレンの回収率が更に向上する。

【0038】
なお、反応時の温度は、常温であるとよい。また、反応時の環境は、ルイス酸の活性を低下、及び酸性ガスの発生を防ぐために、乾燥雰囲気下で行うことが好ましい。また、反応は、酸性ガスの吸引等に注意すれば空気下で行うこともできる。

【0039】
(濾過工程)
複合化工程の後には、濾過工程を行う。濾過工程では、反応後の反応液から、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体を濾別する。反応後の反応液には、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体を含有する残渣を含む。反応後の反応液から残渣を濾別することで、金属内包フラーレンとルイス酸との反応が停止する。濾別された残渣は、金属内包フラーレンとルイス酸との複合体からなる。

【0040】
金属内包フラーレンとルイス酸との複合体を反応液から濾別する方法としては、例えば、メンブレンなどを用いる。メンブレンの細孔の大きさは、複合体の大きさよりも小さく、且つフラーレンよりも大きいことがよい。複合体やフラーレンのサイズにもよるが、メンブレンの細孔の大きさは、一般に、0.20~0.45μmであることがよい。

【0041】
(洗浄工程)
濾過工程の後には、洗浄工程を行う。洗浄工程では、複合体を洗浄して、複合体からルイス酸を除去する。これにより、金属内包フラーレンが精製される。複合体からルイス酸を除去するには、複合体からルイス酸を溶出させ得る洗浄液を用いる。洗浄液としては、水、または弱酸塩の水溶液などがよい。これらの中でも、水がよい。

【0042】
残渣の洗浄方法は、例えば、メンブレン上に残っている複合体からなる残渣に、洗浄液を流下させる。残渣の中のルイス酸が、洗浄液とともに流下する。メンブレン上には、金属内包フラーレンが残る。この金属内包フラーレン1mgに対して用いる洗浄液の量は、2ml以上10ml以下であることが好ましく、更には3ml以上5ml以下であることが望ましい。洗浄液が過少である場合には、残渣の中に金属内包フラーレンと複合化したルイス酸が残り、金属内包フラーレンの回収率が低下するおそれがある。洗浄液は、金属内包フラーレンが溶解可能な溶媒と混ざり合いにくいため、洗浄液が過剰である場合には、残渣の中に洗浄液が残り、金属内包フラーレンが溶解可能な溶媒に溶解しにくくなるおそれがある。

【0043】
(溶解工程)
洗浄工程の後には、溶解工程を行ってもよい。溶解工程では、複合化工程前の粗フラーレン類を溶解していた溶媒とは異なる溶媒に置換することも可能であり、熱処理を行う通常の溶媒置換方法と異なり全く熱処理を行わずに溶媒置換が行える。このため、本発明の金属内包フラーレンの回収方法は、熱に対して不安定な金属内包フラーレンの溶媒置換方法としても有効である。もちろん、溶解工程では、複合化工程前の粗フラーレン類を溶解していた溶媒と同じ溶媒に再溶解させることも可能である。また、粗フラーレン類が金属内包フラーレンの他に未内包フラーレンを含む場合には、このような粗フラーレン類から金属内包フラーレンを分離する方法で、洗浄工程で取得した金属内包フラーレンを溶媒に再溶解させることも有用である。

【0044】
溶解工程ではルイス酸を除去した金属内包フラーレンを、溶媒に再溶解させて取得する。金属内包フラーレンを再溶解させる溶媒はCSやベンゼン系溶媒などがよい。これらの中でもCSや1,2,4-トリクロロベンゼンがよい。金属内包フラーレンを溶媒に再溶解させる方法は、例えば、メンブレン上に残っている金属内包フラーレンに溶媒を流下させる。溶媒としては金属内包フラーレンを溶解するものであれば何でもよく、CSやベンゼン系溶媒がもっともよい。これにより、金属内包フラーレンが得られる。溶媒の添加量は、金属内包フラーレン1mgに対して0.1ml以上10ml以下であることが好ましく、更には1ml以上5ml以下であることが望ましい。溶媒が過少である場合には、十分に金属内包フラーレンを溶解することができず、金属内包フラーレンの回収率が低下する恐れがある。また、溶媒が過剰である場合には、必要量以上の溶媒を使用することになり、溶媒の無駄になる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
本実施例では、煤の抽出物である粗フラーレン類からガドリウム内包フラーレンを分離した。
【実施例】
【0046】
炭素とガドリニウム(Gd)とから作成した混合ロッド(東洋炭素株式会社製、商品名クラスターメイト)を準備した。混合ロッドは、グラファイト粉末90.4質量%と、Gd粉末9.6質量%との混合体に熱処理を施したものである。前処理として、混合ロッドに電流値320A(アンペア)で30分ベーキングした。
【実施例】
【0047】
前処理後の混合ロッドに、アーク放電装置を用いてアーク放電を行った。アーク放電装置は、MS20/15MA(旧アルバックマテリアル株式会社、現アルバック株式会社製)であり、放電チャンバー内に、陰極ブロックと、陽極ブロックとなる混合ロッドを保持する陽極保持部とを配設させている。陰極ブロックと陽極ブロックとの間のギャップは1~2mmとし、両者間で放電させた。放電電流は500A、放電電圧は28~32Vとし、転極回数は8回とした。放電中のチャンバー内の条件は、気圧7.7~7.8kPa、ヘリウム1.6kPaの嫌気雰囲気とした。放電時間は、110分とした。混合ロッド105.4gに上記のアーク放電を行ったところ、チャンバー内で煤が発生した。50.3gの煤が回収された。煤にCSを加えて攪拌し、メンブレン(孔径0.45μm)により濾過した。メンブレン上の残渣には、溶媒の不溶分が残り、メンブレンを通過した抽出液(濾液)には、粗フラーレン類が溶解している。抽出液1ml中に、10mgの粗フラーレン類が溶解していた。
【実施例】
【0048】
複合化工程で、メンブレンを通過した上記抽出液を反応液として用い、反応液にルイス酸TiClを添加し攪拌して、金属内包フラーレンとTiClを反応させた。反応は、グローブボックス内で、乾燥、不活性ガス(アルゴン、窒素など)雰囲気下で常温で行った。反応液1mlに対するTiClの添加量は11mgとした。反応液中の粗フラーレン類1mgに対するTiClの添加量は、1.1mgとした。反応時間は30秒間とした。反応前のCS溶液は薄い茶色であった。CS溶液にTiClを滴下するとすぐに反応して、沈殿物が発生した。反応時間が10分経過すると、反応液は黄色に変わっていた。
【実施例】
【0049】
濾過工程で、濾過器を用いて反応液を濾過した。濾過器は、注射器の先端にフィルターを取り付けたものである。フィルターはMillex—LG(Millipore株式会社製)であり、フィルター内に形成された流体通路には、メンブレン(孔径0.20μm~0.45μm)が配置されている。注射器に反応液を入れ、フィルターを通過させた。フィルター内のメンブレン上には、沈殿物の残渣が堆積した。
【実施例】
【0050】
洗浄工程では、注射器の中に水を入れて、フィルター内のメンブレン上の残渣を水で洗浄した。水の量は、残渣10mgに対して5mlとした。
【実施例】
【0051】
溶解工程では、フィルターにCSを通過させて、フィルター内の上記メンブレン上の残渣を再溶解させた。フィルター上の残渣1mgに対するCSの添加量は2~6mlとした。
【実施例】
【0052】
複合化工程での反応液(1)、濾過工程での濾液(2)、溶解工程で溶媒に再溶解させた残渣(3)を、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)により分画した。HPLCの条件は、LC-9104HS(日本分析工業株式会社製)、カラム:Buckyprep(ナカライテスク株式会社製)、移動相溶媒:トルエン、移動相の流速:21ml/分とした。各試料について溶出時間32~38分のフラクションに強いピークが検出されたので、このフラクションを分取し、乾燥させて粉末とした。粉末について、飛行時間型質量分析(TOF-MS)を行った。各試料の分析結果から、フラーレンのサイズ及びフラーレンに内包されている金属元素(Gd)の個数をもとめた。
【実施例】
【0053】
反応液(1)の中のフラーレンの分析結果を図2に示し、濾液(2)の中のフラーレンの分析結果を図3に示し、残渣(3)の中のフラーレンの分析結果を図4に示した。図2、図3において、上段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。図4においては、上段は、残渣(3)のHPLCによる分離結果を示すクロマトグラムを示し、中段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。プラスイオンのフラーレンでは、金属内包フラーレンが未内包フラーレンに比べて強調して検出される傾向がある。マイナスイオンのフラーレンの質量分析スペクトルでは、未内包フラーレンが金属内包フラーレンに比べて強調して検出される傾向にある。このため、まず、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルで金属内包フラーレンが存在していることを確認し、マイナスイオンの質量分析スペクトルで、未内包フラーレンが存在していないことを確認する。
【実施例】
【0054】
本明細書及び図面では、金属元素を内包した金属内包フラーレンは、M@C(Mは金属元素、Cはフラーレン、nはフラーレンを構成している炭素の数)と示し、金属元素を内包していない未内包フラーレンはC(Cはフラーレン、nはフラーレンを構成している炭素の数)で表示する。
【実施例】
【0055】
図2に示すように、複合化工程での反応液(1)では、1つのGdを内包したフラーレンGd@C82の存在が確認された。また、金属を内包していない未内包フラーレンについても、C60、C70、C84などの種々の大きさのもので確認された。
【実施例】
【0056】
図3に示すように、濾液(2)では、金属内包フラーレンは存在しなかった。未内包フラーレンについては、種々の大きさのものが存在した。
【実施例】
【0057】
図4に示すように、残渣(3)では、金属内包フラーレンGd@C82が確認され、未内包フラーレンは確認されなかった。
【実施例】
【0058】
以上のことより、煤から抽出された抽出液には金属内包フラーレン及び未内包フラーレンが存在していること、TiClとの複合化により金属内包フラーレンを沈殿させ濾過することで、未内包フラーレンは濾液に、金属内包フラーレンは残渣に残ったことがわかった。
【実施例】
【0059】
本例の金属内包フラーレンの回収方法により、粗フラーレン類1.0g当たり、59.9mgのガドリニウム内包フラーレンが回収された。これは、粗フラーレン類全体を100質量%としたときに、ガドリニウム内包フラーレンが6.0質量%回収されたことになる。
【実施例】
【0060】
濾過工程でメンブレン上に残った残渣の中の金属(TiとGd)について、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて定量分析を行った。その結果、TiとGdの比率がTi:Gd=18:1であった。Gdはフラーレンの中に1つ内包されていることから、Gdの比率は金属内包フラ-レンの比率に等しい。1つの金属内包フラーレンには18個のルイス酸が存在していることになる。
【実施例】
【0061】
金属内包フラーレンでは、金属元素がプラスに帯電することでフラーレン殻がマイナスに帯電している。ルイス酸TiClのTi4+が、マイナスに帯電しているフラーレン殻に引き寄せられる。10~20程度のルイス酸が1つの金属内包フラーレンの周りを取り囲んでいると考えられる。
【実施例】
【0062】
(実施例2)
次に、ツリウム(Tm)をフラーレンに内包させて、実施例1と同様に金属内包フラーレンを分離した。
【実施例】
【0063】
Tmと炭素とからなる混合ロッド(東洋炭素株式会社製、商品名クラスターメイト)を準備した。混合ロッドの組成は、グラファイト粉末89.8質量%と、Tm粉末10.2質量%である。
【実施例】
【0064】
混合ロッドに、実施例1と同様にベーキング及びアーク放電を行うことで煤を回収し、煤から粗フラーレン類を抽出した。粗フラーレン類に、実施例1と同様に複合化工程、濾過工程、洗浄工程、及び溶解工程を行った。各工程で用いる溶媒はCS、複合化工程で用いるルイス酸はTiClとした。反応液1mlに対するTiClの添加量は11mgとした。反応液中の粗フラーレン類1mgに対するTiClの添加量は、1.1mgとした。反応時間は60秒間とした。
【実施例】
【0065】
溶解工程で溶媒に再溶解させた残渣(3)の中のフラーレンについてHPLCとTOF-MS質量分析を行い、その結果を図5に示した。図5において、上段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【実施例】
【0066】
図5に示すように、種々の分子量の金属内包フラーレンが検出された。分子量からフラーレンの大きさや内包された金属元素の数を推定すると、炭素数が72~110のフラーレンにTmが内包されていた。
【実施例】
【0067】
また、1つのフラーレンには1つ又は2つのTmが入っていた。1つのTmを内包した金属内包フラーレンでは、炭素数が72以上110以下の偶数の炭素で形成されていた。即ち、Tm@C2n(72≦2n≦110)が検出された。また、2つのTmを内包した金属内包フラーレンでは、炭素数が80以上96以下の偶数の炭素で形成されていた。即ち、Tm@C2n(80≦2n≦96)が検出された。
【実施例】
【0068】
1つのTmがフラーレンに内包される場合には、Tmの価数は2価となっている。また、2つのTmがフラーレンに内包される場合には、Tmの価数は3価となっている。
【実施例】
【0069】
以上のことから、フラーレンのサイズ、内包される金属元素の数、金属元素の価数を問わず、様々な金属内包フラーレンを高い回収率で回収することができることがわかった。
【実施例】
【0070】
(実施例3)
本例では、ルテチウム(Lu)を内包した金属内包フラーレンを、実施例1と同様に分離した。
【実施例】
【0071】
Luと炭素とからなる混合ロッド(東洋炭素株式会社製、商品名クラスターメイト)を準備した。混合ロッドの組成は、グラファイト粉末80.8質量%と、Lu粉末19.2質量%である。混合ロッドに実施例1と同様の条件でベーキング及びアーク放電を行うことにより煤を回収し、煤から粗フラーレン類を抽出した。粗フラーレン類の抽出液を反応液として用い、実施例1と同様に複合化工程、濾過工程、洗浄工程、及び溶解工程を行った。複合化工程で用いる溶媒はCS、ルイス酸はTiClとした。反応液1mlに対するTiClの添加量は11mgとした。反応液中の粗フラーレン類1mgに対するTiClの添加量は、1.1mgとした。反応時間は60秒間とした。
【実施例】
【0072】
溶解工程で溶媒に再溶解させた残渣(3)の中のフラーレンについてHPLC分離とTOF-MS質量分析を行い、その結果を図6に示した。図6において、上段は、フラーレンのプラスイオンの質量分析スペクトルを示し、下段は、フラーレンのマイナスイオンの質量分析スペクトルを示す。
【実施例】
【0073】
図6に示すように、種々の分子量の金属内包フラーレンが検出された。分子量からフラーレンの大きさや内包された金属元素の数を推定すると、炭素数が72以上94以下のフラーレンにLuが内包されていた。
【実施例】
【0074】
また、1つのフラーレンには1つ又は2つのLuが入っていた。1つのLuが内包された金属内包フラーレンでは、炭素数が72以上82以下の偶数の炭素でフラーレン殻が形成されていた。即ち、Lu@C2n(72≦2n≦96)が検出された。また、2つのLuが内包された金属内包フラーレンでは、炭素数が76以上94以下の偶数の炭素でフラーレン殻が形成されていた。即ち、Lu@C2n(76≦2n≦94)が検出された。1つ又は2つのLuがフラーレンに内包される場合には、Luの価数は3価である。
【実施例】
【0075】
以上のことから、内包金属がLuである場合にも、フラーレンのサイズ、内包される金属元素の数、金属元素の価数を問わず、様々な金属内包フラーレンを高い回収率で回収することができることがわかった。
【実施例】
【0076】
なお、分子量が1100以上の場合には、図6のXに例示されるように、未内包フラーレンも微量ではあるが検出された。未内包フラーレンに由来するピークは、図6のXに例示される2つのピークの他に、この2つのピークと等間隔で繰り返されるピークである。これは、フラーレンのサイズが大きくなるとフラーレンのバンドギャップが小さくなり、複合化工程で未内包フラーレンがTiClと相互作用しやすくなるためであると考えられる。
【実施例】
【0077】
(実施例4)
本例では、ランタン(La)を内包した金属内包フラーレンを、実施例1と同様に分離した。
【実施例】
【0078】
Laと炭素とからなる混合ロッド(東洋炭素株式会社製、商品名クラスターメイト)を準備した。混合ロッドの組成は、グラファイト粉末91.7質量%と、La酸化物粉末8.3質量%である。混合ロッドに実施例1と同様の条件でベーキング及びアーク放電を行うことで煤を回収し、煤から粗フラーレン類を抽出した。粗フラーレン類の抽出液を反応液として用い、実施例1と同様に複合化工程、濾過工程、洗浄工程、及び溶解工程からなる金属内包フラーレンの回収方法を行った。反応液の溶媒はCS(2ml)、ルイス酸はTiCl(23.3mg)とした。反応液1mlに対するTiClの添加量は11.7mgとした。反応液中の粗フラーレン類1mgに対するTiClの添加量は、10mgとした。反応時間は1分間とした。
【実施例】
【0079】
溶解工程で溶媒に再溶解させた残渣(3)の中のフラーレンについてHPLC分画を行い、その結果を図7に示した。図7に示すように、複合化工程を行う前の反応液には、金属内包フラーレン(La@C82)だけでなく、多量の未内包フラーレン(C60、C70)が存在していた。回収方法を行って得られた残渣には、複合化工程を行う前の各フラーレンのHPLC溶出成分量を100質量%としたときに、6質量%未満のC60、2質量%未満のC70、100質量%未満のLa@C82が検出された。本例の分離により、未内包フラーレンのほとんどが除去されることがわかった。
【実施例】
【0080】
上記の実施例1~4では、Gd、Tm、Lu、Laのいずれかを内包させた金属内包フラーレンを分離することができた。このことから、本発明の金属内包フラーレンの回収方法によれば、内包金属の種類にかかわらず、金属内包フラーレンを分離することができることがわかった。また、実施例2、3から、フラーレンのサイズ、内包される金属元素の数、金属元素の価数を問わず、様々な金属内包フラーレンを高い回収率で回収することができることがわかった。
【実施例】
【0081】
<実験例1>
金属内包フラーレンの回収方法の条件を変えて、金属内包フラーレン(La@C82)の分離を行った。複合化工程で用いるルイス酸、溶媒、反応時間を条件1~8に示した通り変化させ、金属内包フラーレンを分離した。ルイス酸、溶媒及び反応時間が異なる他は、実施例4と同様に回収を行った。本例では、内包金属はLaとし、ルイス酸はAlClを、溶媒はCS、トルエン、o-ジクロロベンゼン(ODCB)、又は1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を用い、反応時間は10分又は24時間とした。
【実施例】
【0082】
各分離条件で金属内包フラーレンを分離した場合の金属内包フラーレンの動向を調べた。濾過工程で濾液中に残った金属内包フラーレン(未反応分)、溶解工程で溶媒に再溶解させた溶解液中の金属内包フラーレン(回収分)、溶解工程で溶媒に再溶解せずにメンブレン上に残った金属内包フラーレン(不溶分)の比率を測定した。
【実施例】
【0083】
金属内包フラーレンの未反応分、回収分及び不溶分の比率の測定にあたっては、分離前に、中性子照射により放射化を行った金属(La)内包フラーレンをトレーサーとして反応液に添加して、各成分中でのLaに由来する放射能量を測定することで、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の割合を決定した。この中、回収分が本回収方法で回収される金属内包フラーレンとなる。また、未反応分、回収分及び不溶分の合計に対する回収分の比率を金属内包フラーレンの回収率とする。図8には、各条件で分離を行った場合の、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の合計量を100%としたときの各成分の割合を示した。図8には、各条件をルイス酸/溶媒/反応時間で示した。なお、図8以降の図面においても同様の表記をする。
【実施例】
【0084】
図8に示すように、ルイス酸としてAlClを用いた場合(条件1~8)には、金属内包フラーレン全体に対する回収分の割合が約63%以下であった。
【実施例】
【0085】
<実験例2>
複合化工程で用いるルイス酸及び反応時間を変えた条件9~19で、金属内包フラーレン(La@C82)の分離を行った。ルイス酸としては、AlBr、FeCl、TiCl、又はSnClを用い、反応時間は10分又は24時間として溶媒はCSを用いた。また、その他は実験例1と同様に金属内包フラーレンを分離し、比較のためAlFに対しても同様の実験を行った。
【実施例】
【0086】
実験例1と同様に、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率を測定した。この比率の測定にあたっては、AlF、AlBr、及びFeClのいずれかを用いて分離を行った場合は実験例1と同様に放射能を用い、ルイス酸としてTiCl又はSnClを用いて分離を行った場合には、HPLCを用いる方法で行った。HPLCを用いる方法では、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の量をそれぞれHPLCの溶出ピーク強度から決定し、各成分の検出量からそれぞれの比率をもとめた。HPLCの使用条件は、実施例1と同様である。
【実施例】
【0087】
図9に示すように、TiCl、SnClを用いて分離した場合(条件17~19)には、金属内包フラーレンの全体量に対する回収分が70%以上であり、高い回収率であった。特に、反応時間が10分の場合(条件17,19)には、回収率がほぼ100%であった。一方、AlBr、FeClを用いて金属内包フラーレンを分離した場合(条件11~条件16)には、回収率は63%以下と低かった。特に、反応時間が24時間の場合(条件14、16)には、不溶分が増え、回収分が極めて少なくなった。比較対象として用いたAlFの場合(条件9、10)には金属内包フラーレンの殆どが未反応分であった。
【実施例】
【0088】
このことから、ルイス酸として作用するハロゲン化物が金属内包フラーレンの分離には重要であり、特にTiCl、SnClを用いて分離した場合には、格段に金属内包フラーレンの回収率が高いことがわかった。
【実施例】
【0089】
<実験例3>
複合化工程で用いる溶媒及び反応時間を変えて、条件20~28で金属内包フラーレン(La@C82)の分離を行った。ルイス酸としては、TiClを用いた。溶媒は1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)、CS、o—キシレン、又はトルエンを用いた。反応時間は1分、5分、10分、100分、又は24時間とし、その他は、実験例1と同様にして金属内包フラーレンを分離した。実験例1と同様に、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率をHPLCによって決定した。この比率の測定にあたっては、HPLCを用いた。
【実施例】
【0090】
図10に示すように、いずれの溶媒を用いた場合(条件20~28)にも、金属内包フラーレンの回収率は高かった。中でも、反応時間が10分以下の場合(条件21,24~28)には、回収率がほぼ100%に近かった。一方で反応時間が24時間の場合(条件20、22)には、不溶分が増え、回収率が低くなった。特に、溶媒としてTCBを用いて反応時間が24時間である場合(条件20)には、回収率が40%前後にまで低下した。また、溶媒がCSである場合(条件22~26)でも、反応時間が100分以下の場合には回収率が高く、24時間と長くなると回収率が低下した。このことから、反応時間は短い方がよい回収率であることがわかった。
【実施例】
【0091】
<実験例4>
複合化工程での反応時間を変えた条件29~31で、金属内包フラーレン(La@C82)の分離を行った。ルイス酸としては、TiClを、溶媒はCSを用い、反応時間は10分、100分、又は1000分とした。その他は、実験例1と同様に金属内包フラーレンを分離した。実験例1と同様に、金属内包フラーレンの未反応分、回収分、不溶分の比率をHPLCを用いて決定した。
【実施例】
【0092】
図11に示すように、反応時間が100分以下(条件29,30)の場合には、金属内包フラーレンの回収率は極めて高かったが、反応時間が1000分の場合(条件31)には、不溶分が増え、回収率がかなり低くなった。
【実施例】
【0093】
実験1~4の結果から、金属内包フラーレンの回収方法で用いるルイス酸は、TiCl又はSnClがよく、溶媒はフラーレンが溶解すればよく、例えば、CSやベンゼン系溶媒が好ましいこと、反応時間は短い方がよいこと、できれば100分以下更には10分以下がよいことがわかった。反応時間が長くなると金属内包フラーレンの回収率が低下するのは、ルイス酸により金属内包フラーレンが重合化され不溶分が増えるためであると考えられる。
【実施例】
【0094】
本例では、ルイス酸としてTiClを添加することにより金属内包フラーレンとTiClとの複合体を形成し、これを濾過して残渣を取得し、水で洗浄後、CSやベンゼン系溶媒を通すことで、金属内包フラーレンのほぼ100%を回収することができる。分離に要する時間は、複合化工程、濾過工程、洗浄工程、及び溶解工程を合わせて、約20分程度であった。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図1】
10