TOP > 国内特許検索 > 回折像取得方法、及び荷電粒子線装置 > 明細書

明細書 :回折像取得方法、及び荷電粒子線装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5106627号 (P5106627)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
発明の名称または考案の名称 回折像取得方法、及び荷電粒子線装置
国際特許分類 H01J  37/153       (2006.01)
H01J  37/22        (2006.01)
FI H01J 37/153 A
H01J 37/22 501A
H01J 37/22 501Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 15
出願番号 特願2010-505998 (P2010-505998)
出願日 平成21年4月3日(2009.4.3)
国際出願番号 PCT/JP2009/056960
国際公開番号 WO2009/123311
国際公開日 平成21年10月8日(2009.10.8)
優先権出願番号 2008098562
優先日 平成20年4月4日(2008.4.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月1日(2010.10.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】土橋 高志
【氏名】高口 雅成
【氏名】上村 理
【氏名】太田 洋也
【氏名】郷原 一寿
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
審査官 【審査官】佐藤 仁美
参考文献・文献 特開2008-014850(JP,A)
特開2007-109509(JP,A)
特開2002-367551(JP,A)
特開平10-247468(JP,A)
特開昭61-110953(JP,A)
国際公開第2005/114693(WO,A1)
調査した分野 G01N 23/00-23/227、
H01J 37/00-37/02、37/05、37/09-37/18、
37/21、37/24-37/244、
37/252-37/295
特許請求の範囲 【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、試料から発生する荷電粒子線を検出して試料の回折像を取得する回折像取得方法であって、
所定の測定条件で第1の試料の回折像を取得し、前記第1の試料における離散的な回折スポットを検出する工程と、
前記第1の試料における回折像の歪みを補正するため、前記離散的な回折スポットから補正パラメータを算出する工程と、
前記所定の測定条件で第2の試料の回折像を取得する工程と、
前記第1の試料に関する前記補正パラメータを用いて、前記第2の試料の回折像の歪みを補正する工程と、
を備えることを特徴とする回折像取得方法。
【請求項2】
前記第1の試料が既知の構造の試料であることを特徴とする請求項1に記載の回折像取得方法。
【請求項3】
前記回折像の歪みは回折像の像面の曲がりを含み、
前記補正パラメータを算出する工程は、回折角度と、前記第1の試料と前記第1の試料の回折像の検出面との間の距離で定義されるカメラ長とに基づいて、前記像面の曲がりを補正するパラメータを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の回折像取得方法。
【請求項4】
前記回折像の歪みは歪曲収差を含み、
前記補正パラメータを算出する工程は、前記第1の試料の構造から得られる回折像と歪み係数を考慮した回折像との差分を求める工程と、前記差分を最小にする前記歪み係数のフィッティングを行う工程と、前記フィッティングを行って得られた前記歪み係数を用いて歪み量を算出して前記歪曲収差を補正するための補正量とする工程と、を有し、前記歪み係数及び前記歪曲収差を補正するための補正量を前記補正パラメータとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の回折像取得方法。
【請求項5】
前記回折像の歪みは歪曲収差であり、
前記補正パラメータを算出する工程は、前記第1の試料の構造から得られる回折像と前記第1の試料の歪んだ回折像との間の歪みベクトルを算出して、この歪みベクトルを前記補正パラメータとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の回折像取得方法。
【請求項6】
荷電粒子線を試料に照射し、試料から発生する荷電粒子線を検出して試料の回折像を取得する荷電粒子線装置であって、
荷電粒子線を発生する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生した荷電粒子線を検出する検出器と、
所定の測定条件で第1の試料の回折像を取得し、前記第1の試料における離散的な回折スポットを検出し、前記第1の試料における回折像の歪みを測定する歪み測定手段と、
前記第1の試料における回折像の歪みを補正するため、前記離散的な回折スポットから補正パラメータを算出するパラメータ算出手段と、
前記補正パラメータを用いて、回折像を歪みを補正する歪み補正手段と、を備え、
前記歪み測定手段は、前記所定の測定条件で第2の試料の回折像を取得して、前記第2の試料における回折像の歪みを測定し、
前記歪み補正手段は、前記第1の試料に関する前記補正パラメータを用いて、前記第2の試料の回折像の歪みを補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記第1の試料が既知の構造の試料であることを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記回折像の歪みは回折像の像面の曲がりを含み、
前記パラメータ算出手段は、回折角度と、前記第1の試料と前記第1の試料の回折像の検出面との間の距離で定義されるカメラ長とに基づいて、前記像面の曲がりを補正するパラメータを算出することを特徴とする請求項6又は7に記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記回折像の歪みは歪曲収差を含み、
前記パラメータ算出手段は、前記第1の試料の構造から得られる回折像と歪み係数を考慮した回折像との差分を求める手段と、前記差分を最小にする前記歪み係数のフィッティングを行う手段と、前記フィッティングを行って得られた前記歪み係数を用いて歪み量を算出して前記歪曲収差を補正するための補正量とする手段と、を有し、前記歪み係数及び前記歪曲収差を補正するための補正量を前記補正パラメータとすることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記回折像の歪みは歪曲収差であり、
前記パラメータ算出手段は、前記第1の試料の構造から得られる回折像と前記第1の試料の歪んだ回折像との間の歪みベクトルを算出して、この歪みベクトルを前記補正パラメータとすることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の荷電粒子線装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、回折像取得方法、及び荷電粒子線装置に関し、例えば、荷電粒子線を試料に照射し、この試料から発生する荷電粒子線を検出して試料の回折像を取得する回折像取得方法、及び荷電粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線を用いて結晶構造を分析するために回折像を観察する手法として、TED(Transmission Electron Diffraction:透過電子回折)、LEED(Low Energy Electron Diffraction:低速電子回折)、RHEED(Reflected High Energy Electron Diffraction)などがある。そのうち、LEED、RHEEDともに試料表面に入射させた電子線の反射を観察するのに対し、TEDでは試料内部を透過した電子線を観察する。
【0003】
そのため、TEDの装置構成は、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)に近く、併用して用いられることが多い。また、TEMは、平行な電子線を試料に照射し、試料を透過した電子を電磁レンズによって蛍光板やカメラ、フィルム、イメージングプレートなどの検出器に投影して観察する装置である。
【0004】
一般に、200kVで電子を加速するTEMの分解能は、電子線本来の波長である0.025Åよりも約100倍低いものである。この主要因は、レンズに本質的に含まれる収差の影響であることがわかっている。分解能に影響する収差には、球面収差、色収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、回折収差がある。これら収差による電子顕微鏡の分解能の低下を避ける方法の1つとして、位相回復法がある。
【0005】
位相回復法では、対象の回折像を用いて実像を復元する。その為、より正しい回折像を得る必要である。しかし、回折像は、回折像面の曲りによる歪み、歪曲収差による歪み、装置の外的環境により通常歪みを生じる。そこで、実像を精度よく復元するために、歪みの補正が必要となる。
【0006】
一方、これまで結晶構造解析でも、回折スポットの位置の補正は行なわれてきた。しかし、位相回復法では、回折像全面の情報が必要となるため、回折像全面に渡る補正が必要である。また、電子顕微鏡の検出器は平面であることが多く、回折像面の曲りに対する補正が不十分であるという問題がある。高次の回折点における回折スポットは低次の回折点に比べて大きく歪み、例えばカメラ長0.4mとし中心ビームから25mm離れた部分では検出器上で32.5マイクロメートルの歪みとなる。そのため、検出器が平面であることによる回折像面の曲りの解決に関して、特許文献1ではエバルト球に沿った球面状の検出器を提案している。

【特許文献1】WO2005/114693A1国際公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の球面状の検出器では、球面の曲率が固定となっているので、カメラ長Lを可変にすることができない。よって、特許文献1では様々な観察条件による観察を実現することができない。
【0008】
また、電子顕微鏡で用いられるレンズには、回折像面の曲がりとは別に、光軸からの離軸距離により変化する歪曲収差の問題があった。さらに、イオンポンプの磁場等の外的環境によって、回折像が歪む問題もある。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、回折像面に生じる曲がり、及び/又は歪曲収差の問題を解決できる回折像取得の方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、荷電粒子線を試料に照射し、試料から発生する荷電粒子線を検出して試料の回折像を取得する。回折像には回折像面の曲がりや歪曲収差(両者を併せて歪み)が含まれているため、これを補正しなければ、回折像から正確な実像を再構成することができない。そこで、本発明では、まず、所定の測定条件で第1の試料(例えば、構造が既知の試料)の回折像を取得し、第1の試料における回折像の歪みを測定する。そして、第1の試料における回折像の歪みを補正するための補正パラメータを算出する。一方、同じ所定の測定条件で第2の試料(例えば、構造が未知の試料)の回折像を取得し、第1の試料における補正パラメータを用いて、第2の試料の回折像の歪みを補正する。
【0011】
回折像の歪みが回折像の像面の曲がりであった場合には、回折角度とカメラ長とに基づいて(例えば、後述の式(1)を用いて)、像面の曲がりを補正するパラメータを算出する。
【0012】
回折像の歪みが歪曲収差であった場合には、第1の試料の構造から得られる回折像と歪み係数を考慮した回折像との差分を求め、この差分を最小にする歪み係数のフィッティング(例えば、後述の式(3)を用いる)を行う。フィッティングを行って得られた歪み係数を用いて歪み量を算出して歪曲収差を補正するための補正量とする。そして、これら歪み係数及び歪曲収差を補正するための補正量を補正パラメータとする。
【0013】
また、回折像の歪みが歪曲収差であった場合、第1の試料の構造から得られる回折像と第1の試料の歪んだ回折像との間の歪みベクトルを算出して、この歪みベクトルを補正パラメータとするようにしてもよい。
【0014】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、取得された回折像の歪み(回折像面に生じる曲がり、及び/又は歪曲収差)を補正し、これにより、未知試料の正確な構造の解析を回折像の精密な解析から行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による電子顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図2】TEM回折像から画素検出器を用いて歪み補正を行なう処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】回折像面の曲りを説明するための図である。
【図4】回折像面の曲りを補正する方法を説明するための図である。
【図5】歪曲収差による歪みを説明するための図である。
【図6】1つの歪みの中心点を用いて歪みの補正を行なう方法を説明するための図である。
【図7】複数(2つ)の歪みの中心点を用いて歪みの補正を行なう方法を説明するための図である。
【図8】歪みマップの作成方法を説明するための図である。
【図9】回折像面の曲りを補正する操作画面の一例を示した図である。
【図10】フィッティングを用いて歪みを補正する操作画面の一例を示した図である。
【図11】歪みマップを用いた歪みを補正する操作画面の一例を示した図である。
【図12】任意の試料に対して歪みの補正を行なう操作画面の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0017】
11:電子銃、12:照射レンズ、13:コンデンサ絞り、14:軸ずれ補正用偏光器、15:スティグメータ、16:イメージシフト用偏光器、17:対物レンズ、18:中間レンズ、19:投射レンズ、20:イメージングプレート、21:CCDカメラ、22:試料、23:試料ステージ、24:電子銃制御回路、25:照射レンズ制御回路、26:コンデンサ絞り制御回路、27:軸ずれ補正用偏光器制御回路、28:スティグメータ制御回路、29:イメージシフト用偏光器制御装置、30:対物レンズ制御回路、31:中間レンズ制御回路、32:投射レンズ制御回路、33:カメラ室制御回路、34:CCDカメラ制御回路、35:試料ステージ制御回路、36:計算機、50:入射電子線、51:試料、52:電子線検出器、54:電子線照射位置、55:透過スポット、61:試料、62:電子線検出器、64:透過スポット、65:回折スポット、66:距離、70:歪みのない回折像、73:歪みのある回折像、80:歪みのある回折像、81:歪み中心、82:回折点間の距離、83:歪みのない回折像、84:歪みのある回折スポット、85:歪みのない回折スポット、86:電子線検出器、87:歪み中心からの距離、90:1つ目の歪み中心、91:2つ目の歪み中心、100:歪みのある回折像の回折スポット、101:歪みのない回折像の回折スポット、102:歪みの大きさ、110:補正前回折像、111:補正後回折像、112:カメラ長計算結果表示領域、113:透過スポット座標表示領域、115:補正ボタン、116:カメラ長計算誤差表示領域、117:回折像面の曲り補正操作画面例、119:レンズ電流表示領域、120:次へボタン、121:ステージ位置デジタル制御値表示領域、130:歪み補正前回折像表示領域、131:歪み補正後回折像表示領域、132:歪み係数表示領域、133:歪み中心座標表示領域、134:倍率・回転表示領域、135:データ保存ボタン、136:フィッティング誤差表示領域、137:歪み補正操作画面、138:データ表示領域、139:レンズ電流表示領域、140:歪みマップを用いた補正操作画面例、141:補正前回折像表示領域、142:歪みマップ表示領域、143:歪みのある回折像の回折スポット、144:歪みのない回折像の回折スポット、145:対応スポット微動部、146:補正関数プルダウンメニュー、147:レンズ電流表示領域、148:ステージ位置デジタル制御値表示領域、149:データ保存ボタン、150:任意試料に対する歪み補正操作画面例、151:補正前回折像表示領域、152:補正後回折像表示領域、153:歪みファイル選択プルダウンメニュー、154:計算開始ボタン、155:保存ボタン
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、既知の試料から取得した回折像の歪み(回折像面の曲がり及び歪曲収差を含む概念)を補正するための補正量を算出し、これを未知の試料に適用して未知の試料の回折像をより正確に取得するためのものである。
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。なお、本実施形態では、回折像を取得するシステムとしてTEMを用いている。
【0020】
<TEMの構成>
本実施形態はTEMで得られた回折像の補正技術に係り、図1は、本実施形態によるTEMの概略構成を示す図である。
【0021】
図1において、電子源11から放出された電子線は、第1及び第2のコンデンサレンズ12で縮小され、コンデンサ絞り13で放射角を制限され、軸ずれ補正用偏向器14、スティグメータ15、イメージシフト用偏向器16での軸調整を経て、対物レンズ17前磁場で平行に試料22に照射される。試料22は、試料ステージ23で保持される。試料に照射された電子線は、透過するものと回折されるものに分けられる。格子定数d、電子線の波長λとするとブラッグ条件2d×sinθ=nλ(n=1,2,・・・)が成り立つ方向に回折される。試料から十分離れた位置であればレンズを用いずに回折像は取得でき、試料から検出面までの距離をカメラ長と呼ぶ。通常TEMでは、対物レンズ17の後磁場の影響により、回折像は対物レンズ17と中間レンズ18の間に位置する後ろ焦点面に形成され、中間レンズ18、投射レンズ19で拡大されイメージングプレート、フィルム20もしくはCCDカメラ21によって検出される。この場合のカメラ長は、得られた回折パターンをレンズなしで得た場合に換算して定義される。装置制御は、電子銃制御回路24、照射レンズ制御回路25、コンデンサ絞り制御回路26、軸ずれ補正用偏向器制御回路27、スティグメータ制御回路28、イメージシフト用偏向器制御回路29、対物レンズ制御回路30、中間レンズ制御回路31、投射レンズ制御回路32、カメラ室制御回路33、CCDカメラ制御回路34、試料ステージ制御回路35で行い、それぞれ制御部の値を制御回路を通して計算機36に取り込むこと、また、それぞれの値を計算機36から制御回路を通して送ることで任意の電子光学条件(測定条件)を作り出す機能を有する。
【0022】
<回折像歪み補正処理の概略>
次に、回折像歪み補正処理について説明する。図2は、TEMを用いた場合の回折像補正処理について説明するためのフローチャートである。本発明では、既知の構造を持つ既知試料に対して、実際に回折像を取得し本来の回折点からの差分を補正パラメータとして保存することで任意の試料に対する回折像面の曲り、歪みを原因とした歪みの無い回折像を得ることを可能にしている。
【0023】
ステップS1では、電子顕微鏡の試料ステージに構造が既知の試料をセットし、電子線を入射し、回折像を撮像し、計算機36の処理部が回折像を取得する。取得した回折像は計算機36の図示しないメモリ内に格納される。ステップS2では、上記処理部は、透過電子線スポット及び回折電子線スポットの検出器上における位置(座標)を検出する。
【0024】
ステップS3では、上記処理部は、得られた座標位置からカメラ長の導出及び回折像面の曲りを補正するための補正関数を導出する。次にステップS4において、上記処理部は、回折像面の曲りに関する補正を行なう。そして、処理は、回折像面の曲りを補正した回折像に対して、解析を行なうことで歪みの補正を行なう工程に移る。
【0025】
続いて、ステップS5において、上記処理部は、既知試料から考えられる理想的な回折像を計算機内に理想系として用意し、この回折像に歪みを入れることで、ステップS4で得られた回折像を再現する。これにより、歪み係数を求めることができる。また、ステップS6では、上記処理部は、ステップS5で求めた歪み係数を用いて、ステップS4で得られた回折像を歪みの無い状態にする。つまり、歪みの補正が実行される。ステップS7では、回折像面の曲り補正及び歪み補正係数が図示しないメモリ内に保存さ
れる。
【0026】
ステップS8では、既知の試料を、構造が未知の試料(任意の試料)に交換して、未知の試料の回折像取得の準備がなされる。そして、ステップS9で、任意の試料に対する回折像を取得後、回折像面の曲り補正及び歪み補正を行い、ステップS10において上記処理部は、保存された曲がり補正及び歪み補正の係数を用いて、任意の試料の回折像の歪み補正を実行する。
【0027】
なお、以下において、像面の曲がり補正及び歪曲収差補正について詳細に説明する。
【0028】
<回折像面の曲がり補正>
まず、図3を用いて、回折像面の曲りが生じ、補正を行なう必要があることを説明する。入射電子線50が試料51に入射すると、回折スポットが現れる。その際、回折像面は、電子線照射位置54から等しい距離であることが知られている。しかしながら、電子線検出器52は一般に平面であるため、回折像面と検出面との間に回折角度θに依存したずれが生じることとなる。透過電子線が作るスポット55と角度θで回折した電子線が作るスポット57との距離をrとすると、補正される距離をr’、カメラ長をLとして、式(1)のようになる。
【数1】
JP0005106627B2_000002t.gif

【0029】
電子線検出器52が平面であると、回折像におけるスポットの位置を情報として用いる位相回復法では歪みの測定を行なう際に問題となりうる。従って、式(1)による像面の曲がりの補正が必要となる。
【0030】
回折像面の曲りを具体的に補正する方法について図4を用いて説明する。回折像面の曲りを補正する方法には、構造が既知の試料61を用意し、回折像を取得する方法である。試料を透過した電子線の作るスポット64と回折角度θで回折した電子線の作るスポット65との間の距離rを回折像から測定する。試料61と検出器62との距離Lは、式(2)であることがわかっている。
【数2】
JP0005106627B2_000003t.gif

【0031】
角度θは、試料61の格子定数dと入射電子線の波長λが既知であることから求められる。従って、距離rを測定することで試料61と検出器62との距離Lを求めることができる。そして、式(1)を用いることにより、回折像面の曲がりを補正することが可能となる。つまり、r-r’分だけ、得られた回折像を動かして像の曲がりを補正する。
【0032】
<回折像の歪み補正>
回折像の歪み(歪曲収差)補正には複数の方法がある。以下、そのうちの3つの方法について例示する。
【0033】
(1)方法1
続いて、TEMを用いた場合の、回折像の歪みの補正を行なう必要について説明する。図5は、既知の試料について、歪曲収差のある回折像73と歪曲収差のない回折像70の比較の一例を示す。レンズ倍率は光軸からの離軸距離で変わるため、電磁レンズの使用には歪曲収差による歪みを伴う。また、歪みには外部環境にともなう歪みもある。外部環境とは、非対称磁場や非対称電場といったものがある。歪曲収差による歪みや外部環境にともなう歪みは、回折像を基に実像を復元する位相回復法の適用には大きな問題となりうる。従って、これらの歪みの補正が必要となる。
【0034】
次に、図6を用いて歪みを測定する方法の一例を説明する。歪みの測定には、構造が既知の試料を用いる。ここでは、歪み量Drを、歪みの中心(任意の点)81からの距離87をrとして、式(3)のように定義する。
【数3】
JP0005106627B2_000004t.gif

【0035】
既知試料の構造から求められる回折像83から、実験的に取得した歪みを含む回折像80に対し、歪み中心81、歪みの係数C,C,C,Cをパラメータとしてフィッティング(例えば、最小2乗法を用いて)を行なう。その際、回折像83の回折点85と回折像80の回折点84のように対応する回折点間の距離82を最小にする歪みの係数及び歪みの中心を決定する。従って、回折像から歪みの係数及び歪みの中心を測定することができる。
【0036】
任意の試料の回折像の歪みを補正するには、既知試料において、式(3)を用いて歪みの中心座標及び歪みの係数を求めた後に、同一の電子光学条件で任意の試料(未知の試料)の回折像を取得する。同一の電子光学条件とは、既知試料の回折像を取得する際に得られる、各部のレンズ電流値とする。各部のレンズ電流値は、既知試料の回折像を取得する際に、計算機に記憶される。そして、任意の試料の回折像を取得する際には、計算機側から装置にレンズ電流値が送られ、同一の電子光学条件が実現できる。その結果、得られた電子光学条件下で、任意の試料の回折像を取得し、すでに得られている歪みの中心座標及び歪みの係数を用いて、補正を行なう。具体的には、歪みの係数及び歪みの中心が決定すると、式(3)を用いることで、図6の電子線検出器86上の任意の点に対する歪みの量がわかる。従って、検出器上の任意の点における歪み中心81からの距離rを用いて歪み量Δrを求め、中心81からの補正後の点の距離をRとすると、R=r-Δrとして歪みの影響を除くことができる。
【0037】
(2)方法2
上記方法1では、歪みの測定方法として、中心点を1つだけ設定して既知試料の回折像に近い形にするための歪みの係数、歪み中心を求める方法を説明した。
【0038】
方法2は、より精密に歪みの量を測定するために、回折像内に複数の歪みの中心を仮定する方法を提供する。そこで、ここでは、歪みの中心が2つある場合を、図7を用いて説明する。
【0039】
1つ目の歪みの中心90と2つ目の歪みの中心91と、2つの歪みの中心を仮定し、各々の中心から測定点までの距離をr、rとした時、歪み量を式(4)及び式(5)として定義する。そして、2つの歪み中心と、歪みの係数C31,C32,C21,C22,C11,C12,C01,C02をパラメータとして、既知試料の歪みのない回折像から、実験的に取得した歪みのある回折像に対してフィッティングすることにより、1つの歪みの中心とした時よりも精密に歪み量を測定することができるようになる。
【数4】
JP0005106627B2_000005t.gif
【数5】
JP0005106627B2_000006t.gif

【0040】
(3)方法3
さらに回折像の歪みの補正する別の方法について説明する。まず、既知試料の回折像を取得する。図8Aに、歪んだ回折像と、既知試料の構造から求められる歪みのない回折像を重ねた図を示す。既知試料の回折像は、格子定数d、入射電子線の波長λ、撮影時のカメラ長Lから分かる。歪みのある回折像の回折スポット100と、歪みのない回折像の回折スポット101との間の距離102を各々の回折スポットに関して歪みベクトルとして求める。距離102は、歪みベクトルとしてピクセルの方向に合わせ2次元的に求める。そして、各々の歪みのある回折像の回折スポット位置から、各々の歪みベクトルを引くことにより、歪みのない回折像を得ることができる。
【0041】
さらに、全ピクセルに対して補正を行なうために、各回折スポットから求めた離散的な歪みベクトルを各ピクセル単位まで分割する。その方法の一例としては、フィッティング関数として1次関数を用いた最小2乗法を用いる方法がある。フィッティング関数としては、多項式関数、指数関数、対数関数、三角関数、双曲線関数及びこれらの関数の組み合わせが考えられる。ピクセル単位まで細かく歪みベクトルを分割することで、図8Bが得られる。これより、既知試料の回折像内の歪みを決定でき、歪んだ回折像からこれらの歪み量の差分をとることによって、より歪みのない回折像を得ることで可能となる。
【0042】
<補正の操作画面>
(1)曲がり補正の操作画面
次に、回折像面の曲りを補正する際の操作画面(GUI)の操作例について説明する。図9は、回折像面の曲りを補正する際の、回折像面の曲り補正操作画面例117を示している。計算機36の表示画面117上には、CCDカメラ21で取得された回折像データが補正前回折像110と補正後回折像111として表示されている。補正に用いたパラメータは、それぞれ、カメラ長計算結果表示領域112、透過スポット座標表示領域113、透過スポットのフィッティング誤差表示領域116及び上記データが取得された電子光学系の電流値表示領域119に表示される。
【0043】
補正前回折像110を取得した後、ユーザは補正前回折像110を目視し、補正を行なうか否かについて、回折像面の曲り補正ボタン115において決定することができる。回折像面の曲り補正ボタンを押すと、上述の曲がり補正計算が自動的に行なわれる。補正計算によって得られた補正値や電子光学系の電流値、ステージを制御するモーターの電圧もしくはステージ位置についてのデジタル制御値は、表示画面117の各表示領域に表示される。そして、ユーザは、透過スポットのフィッティング誤差やカメラ長計算結果の妥当性を確認できるようになっている。
【0044】
また、ユーザが保存ボタン100を押すことにより、補正前回折像110、補正後回折像111、回折像取得時に本体側から取得する電子光学系の電流値119、ステージ位置についてのデジタル制御値101を計算機36内部のメモリに保存することができる。なお、補正計算後、自動的に計算機36内部のメモリに保存されるようにしてもよい。
【0045】
(2)回折像内の歪み補正の操作画面
続いて、回折像内歪み補正の操作画面(GUI)の操作例について説明する。既知試料を用いて測定して得た歪みの係数及び歪みの中心は、電子光学系の条件を変えることで変化してしまう。従って、電子光学系の条件を変えずに任意の試料の回折像を取得する必要がある。電子光学系の条件を変えなければ、既知試料において求めた歪みの係数及び歪みの中心を用いて、任意の回折像に対する回折像内の歪みの補正を行なうことができるのである。
【0046】
図10は、歪み補正操作画面の具体例を示している。歪み補正操作画面137は、歪み補正前回折像領域130及び歪み補正後回折像領域131の2つの画像領域を含んでいる。また、歪み補正操作画面137は、歪み係数表示領域132及び歪み中心座標表示領域133、既知試料の構造から求められる回折像を実験的に得た回折像にフィッティングさせるために用いる倍率、回転角度を表示する領域134及びフィッティング誤差表示領域136を有している。なお、歪み係数(領域132)及び歪み中心座標(領域133)に関して、2つ以上の歪み中心に対してフィッティングを行う際は、歪みに対する各々の歪み係数及び歪み中心座標が表示される。
【0047】
図10の保存ボタン135を押すと、歪み補正前回折像、歪み補正後回折像、回折像取得時に本体側から取得する電子光学系の電流値、ステージ位置が計算機内部のメモリに保存されるようになっている。
【0048】
結果の表示手順に関しては他の例も考えられる。例えば、図1のイメージングプレート・フィルム20を用いた場合、計算機36の処理部は、カメラ室駆動制御部33の動作と同期して電子光学系の電流値、ステージ位置を写真毎に記録する。この際、イメージングプレート・フィルム20に付けられる通し番号と保存データの番号とを同期させることにより、実験条件の保存を容易にすることができる。イメージングプレート・フィルム20は実験後に計算機36に取り込まれ、上述の方法で歪みの測定及び保存を行なうことが可能となる。
【0049】
(3)外的環境による歪み補正の操作画面
図11は、外的環境による歪みの操作画面の具体例を示す図である。計算機36の画面140は、CCDカメラで取得された回折像データに関して、補正前の回折像を表示するための補正前回折像表示領域141、及び歪みをマップ形式で表示するための歪みマップ表示領域142を備えている。
【0050】
また、歪みの含まれる回折像の回折スポット143は、回折像内のどの位置に対応するのかを確認するために、構造既知の試料から求められる回折スポット144の位置が重ね合わされている。なお、装置画面上において構造既知の試料から求められる回折スポット144は、対応スポット微動145を用いて、歪みの含まれる回折像の回折スポット143に重ね合わせることができるようになっている。
【0051】
また、対応するスポット間の歪みベクトル決定後のフィッティング補正関数については、補正関数プルダウンメニュー146によって選択が可能である。そして、回折像取得時に本体側から取得する電子光学系の電流値147、ステージ位置148は、計算機36内部のメモリに保存される。また、歪みマップ142を表示させるための条件は、保存ボタン149を押すことにより保存される。
【0052】
(4)任意の試料の歪み補正の操作画面
図12は、任意の試料に対して歪みの補正を行なう操作画面の具体例について示す図である。図12の操作画面150には、歪み補正前回折像151及び歪み補正後回折像152が表示されている。ユーザが、歪みファイル名プルダウンメニュー153から、既知試料において歪みの測定を行ったファイルを選択する。また、ユーザが計算ボタン154を押すことにより、任意試料の回折像に対して補正が実行された歪み補正後回折像152が画面150上に表示される。ユーザは、表示された回折像を確認した上で、保存ボタン155を押すことにより、計算機36内のメモリに歪みの補正された回折像を保存することができる。
【0053】
<実施形態のまとめ>
以上のように、本発明の実施形態では、回折像面の曲がり及び歪曲収差を補正して実像を再構成するのに適した回折像を取得する。
【0054】
回折像面の曲がり補正については、まず、観察試料の回折像に対する参照として、構造が既知である試料の回折像を用いる。そして、構造が既知である試料の回折像のスポット間隔と散乱角を用いてカメラ長を求め、回折像面の曲がりに対する補正関数に、カメラ長を代入する。観察試料の回折像に対して、補正関数から各ピクセルにおける補正値を導き出し、回折像面の曲りを補正する。なお、回折像面の曲りの補正には、他の方法で求めたカメラ長を用いて補正してもよい。このようにすることにより、演算量も少なく、回折像面の曲がりがなく、より正確な回折像を取得することができる。
【0055】
また、歪曲収差の補正については、回折像面の曲がり補正と同様、構造が既知である試料を用いる。実験的に得た回折スポット位置には、光軸からの離軸距離に依存する歪みや、外的環境の影響によって現れる歪みが存在する。そこで、構造から導かれる回折像に対し、歪み量の式を仮定する。歪みの係数、歪みの中心、を変数として実験的に得た回折像に近づけるようにフィッティングを行なう。それにより、歪み中心、歪み係数を決定する。これにより、比較的簡単に歪みのない回折像を取得することができる。
【0056】
なお、別の方法で歪み量を決定することも可能である。この場合、構造が既知である試料の回折像を取得し、歪みのない回折像は構造から既知であるから、歪みの大きさを2次元歪みマップとして求める。これにより2次元回折像内の歪み量を決定する。
【0057】
そして、任意の試料の歪みを補正した回折像を得るためには、前記の歪みの係数、歪みの中心、及び2次元歪みマップを測定し、電子光学系の条件を記録し、同じ観察条件で試料の回折像を取得し、補正を行なう。これにより、歪みのない回折像を取得することができる。
【0058】
そして、歪みのない回折像から消えている位相情報を引き出して実像を再構成する(回折顕微法)。回折像(逆空間)と実像(実空間)はフーリエ変換/逆フーリエ変換の関係にあり、逆空間で任意の位相情報を与えて、逆フーリエ変換をして実空間を構成し、再度フーリエ変換をして逆空間に戻す。これを繰り返し計算することにより、正確な位相情報を回復することができる。位相情報を回復することができると、実空間では本来見えないもの、例えば波の位相を乱す要因等を発見することができるようになる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11