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明細書 :走査型プローブ顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5283089号 (P5283089)
登録日 平成25年6月7日(2013.6.7)
発行日 平成25年9月4日(2013.9.4)
発明の名称または考案の名称 走査型プローブ顕微鏡
国際特許分類 G01Q  60/32        (2010.01)
G01Q  10/06        (2010.01)
FI G01Q 60/32
G01Q 10/06
請求項の数または発明の数 13
全頁数 25
出願番号 特願2010-548389 (P2010-548389)
出願日 平成22年1月14日(2010.1.14)
国際出願番号 PCT/JP2010/000164
国際公開番号 WO2010/087114
国際公開日 平成22年8月5日(2010.8.5)
優先権出願番号 2009021675
優先日 平成21年2月2日(2009.2.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年12月28日(2012.12.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】福間 剛士
【氏名】植田 泰仁
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100106840、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 耕司
【識別番号】100105991、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100131451、【弁理士】、【氏名又は名称】津田 理
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特開平11-44698(JP,A)
特開2001-108601(JP,A)
特開2000-329675(JP,A)
特開平5-187864(JP,A)
特開2005-283538(JP,A)
木村建次郎 他,液中ダイナミックモード原子間力顕微鏡による局所溶媒和構造計測,2008年(平成20年)春季第55回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2008年 3月27日,第2分冊,p692, 29p-Q-12
調査した分野 G01Q 10/00 ~ 90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
探針と、
前記探針と試料との相対的な走査を行うスキャナと、
前記探針の変位を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された信号に基づいて、前記探針と前記試料の相互作用により生じ前記相互作用の大きさを表す相互作用量を検出する相互作用検出部と、
前記相互作用検出部により検出される前記相互作用量を一定に保つように、前記探針と前記試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行うフィードバック制御部と、
前記探針-試料距離を、前記フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行う距離変調制御部と、
前記探針と前記試料の相対的な走査を行いながら前記距離変調制御により前記探針-試料距離が変動する間に検出される前記相互作用量から、走査範囲内の広さと前記探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における前記相互作用量の分布を検出する3次元分布検出部と、
を有することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記距離変調制御部は、時間軸に対する前記探針-試料距離を正弦波に沿って変動させることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記フィードバック制御部は、前記スキャナを駆動するための駆動信号を生成し、
前記距離変調制御部は、前記距離変調周波数を有する距離変調信号を生成し、
前記距離変調信号が前記駆動信号に加算されることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記3次元分布検出部が、前記距離変調制御により前記探針が前記試料に近づくときの前記相互作用量の分布と、前記距離変調制御により前記探針が前記試料から遠ざかるときの前記相互作用量の分布とを別々に取得することを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記走査型プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡であり、前記探針を含むカンチレバーを有することを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記原子間力顕微鏡は、周波数変調型の原子間力顕微鏡であり、前記相互作用検出部は、前記カンチレバーの共振周波数シフトを前記相互作用量として検出することを特徴とする請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記距離変調制御による前記探針-試料距離の前記変動範囲内に定められており前記探針-試料距離が増大する所定のドリフト監視位置にて検出される前記相互作用量を、前記相互作用量のドリフトの指標として監視するドリフト監視部と、
前記ドリフト監視部により監視される前記ドリフト監視位置での前記相互作用量に基づいて、前記相互作用量のドリフトをキャンセルするドリフトキャンセル部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記3次元分布検出部により得られる前記3次元空間における前記相互作用量の分布のデータを処理する分布データ処理部を有し、
前記分布データ処理部は、前記探針-試料距離が一定である面上での前記相互作用量の分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記3次元分布検出部により得られる前記3次元空間における前記相互作用量の分布のデータを処理する分布データ処理部を有し、
前記分布データ処理部は、前記探針-試料距離が異なる複数の面の各々における前記相互作用量の複数の代表値を求めて、前記探針を試料に近づけたときの前記代表値の変化を求めることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
前記3次元分布検出部により得られる前記3次元空間における前記相互作用量の分布のデータを処理する分布データ処理部を有し、
前記分布データ処理部は、前記試料表面に交差する面で前記3次元空間を切断したときの切断面上での前記相互作用量の分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
前記3次元分布検出部により得られる前記3次元空間における前記相互作用量の分布のデータを処理する分布データ処理部を有し、
前記分布データ処理部は、前記試料上の異なる複数の位置で、前記試料の表面に交差する線に沿った前記相互作用量の変化を求めることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項12】
走査型プローブ顕微鏡のための観察方法であって、
探針と試料を近づけて、前記探針と前記試料との相対的な走査を行い、
前記探針の変位を検出し、
検出された信号に基づいて、前記探針と前記試料の相互作用により生じ前記相互作用の大きさを表す相互作用量を検出し、
前記相互作用量を一定に保つように、前記探針と前記試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行い、
前記探針-試料距離を、前記フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行い、
前記探針と前記試料の相対的な走査を行いながら前記距離変調制御により前記探針-試料距離が変動する間に検出される前記相互作用量から、走査範囲内の広さと前記探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における前記相互作用量の分布を検出することを特徴とする、
走査型プローブ顕微鏡のための観察方法。
【請求項13】
走査型プローブ顕微鏡のための観察プログラムであって、
コンピュータに、
探針と試料を近づけて、前記探針と前記試料との相対的な走査を行う処理と、
前記探針の変位を検出する処理と、
検出された信号に基づいて、前記探針と前記試料の相互作用により生じ前記相互作用の大きさを表す相互作用量を検出する処理と、
前記相互作用量を一定に保つように、前記探針と前記試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行う処理と、
前記探針-試料距離を、前記フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行う処理と、
前記探針と前記試料の相対的な走査を行いながら前記距離変調制御により前記探針-試料距離が変動する間に検出される前記相互作用量から、走査範囲内の広さと前記探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における前記相互作用量の分布を検出する処理と、
を実行させることを特徴とする、
走査型プローブ顕微鏡のための観察プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡に関し、特に、3次元空間における探針と試料の相互作用の分布の計測を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、鋭くとがった探針(プローブ)を試料に対して近づけて、探針と試料の間に働く相互作用(トンネル電流や相互作用力など)を検出し、相互作用を一定に保つように探針と試料の間の距離をフィードバック制御する(以下、探針と試料の間の距離を探針-試料距離という)。さらに、SPMは、フィードバック制御を維持しながら、探針(または試料)を水平方向に走査する。これにより、探針(または試料)は、試料の凹凸をなぞるように上下する。そして、フィードバック走査の軌跡を水平位置に対して記録することにより、試料表面の凹凸像を得ることができる。
【0003】
走査型トンネル顕微鏡(STM)は、SPM技術の一つである。図1に示されるように、STMでは、探針-試料間の相互作用がトンネル電流である。STMは、探針と試料間にバイアス電圧をかけて、探針-試料間に流れるトンネル電流を検出し、トンネル電流を一定に保つように探針の垂直位置を制御する。
【0004】
図2は、探針位置とトンネル電流の関係を示している。図示のように、探針-試料間に流れるトンネル電流は、探針-試料距離の減少に対して単調に指数関数的に増加する。したがって、トンネル電流を一定に保つように試料に対する探針の垂直位置を制御することにより、探針-試料間隔を一定に保つことができる。
【0005】
次に、原子間力顕微鏡(AFM)について説明する。AFMもSPMの一種である。AFMでは、探針と試料の間に働く相互作用力によって生じる相互作用量を検出する。相互作用量は、カンチレバーの変位量や振動振幅変化量、位相変化量、振動周波数変化量などである。そして、AFMは、検出される相互作用量を一定に保つように試料に対する探針の垂直位置をフィードバック制御する。AFMは、鋭くとがった探針を先端に備えたカンチレバー(片持ち梁)を力検出器として用いる。
【0006】
図3は、AFMにおける探針位置と相互作用力の関係を示しており、フォースカーブと呼ばれる。図3は、大気中及び真空中で測定されるフォースカーブの典型例である。
【0007】
図3に示されるように、通常、大気中及び真空中では、探針を試料に近づけたとき、まずはファンデアワールス力と静電気力に起因して引力的相互作用力が働く。さらに探針が試料に近づくと、化学的相互作用力に起因して強い斥力が働き、斥力が引力を上回る。したがって、相互作用力は、探針-試料距離に対して単調には変化しない。
【0008】
STMとAFMを比べると、STMでは図2に示したようにトンネル電流が探針-試料距離に対して単調に変化する。一方、AFMでは、図3に示したように、相互作用力が探針-試料距離に対して単調には変化しない。そのため、相互作用力によって生じる相互作用量も探針-試料距離に対して単調には変化せず、すべての距離範囲で探針位置を安定にフィードバック制御することは難しい。たとえば、引力的相互作用が支配的な距離領域では、探針が試料に近づくにしたがって引力が強くなることを前提に、探針-試料距離が制御される。このような制御下で、探針が試料に近づきすぎて、斥力が支配的な領域に入ったとする。その場合、相互作用力は距離の変化に対して逆向きの応答を示す。そのため、フィードバック制御が安定に行われず、探針が試料に強く衝突してしまう。
【0009】
そこで、通常のAFM観察では、安定な制御のために、相互作用量が探針-試料距離に対して単調に変化する距離領域からフィードバックの目標点が選択される。このことは、相互作用量が一定の値をとる等相互作用量面の位置情報しか得られず、その他の相互作用量をとる位置の情報は得られないことを意味する。すなわち、フィードバック目標点以外の情報は得られず、たとえば、図3のフォースカーブの最下点及びその付近の情報は得られない。そのため、従来の一般的なAFM観察では、3次元空間における相互作用力の情報を得るといったこともできない。
【0010】
図3は、大気中及び真空中の例を示している。しかし、上記の問題は、液中でのAFM観察時により深刻になる。固液界面においては、溶媒分子が層状構造を形成することが頻繁にある。そのため、界面が試料に対して水平な方向だけでなく、垂直な方向にも広がりを持つ。しかしながら、従来のAFM技術は、相互作用量が一定の値をとる等相互作用量面の位置情報しか得ることができない。そのため、界面(より詳細には、界面及びその近傍を含む界面空間)の構造及び物性を十分に理解することはできない。
【0011】
また、液中観察では、探針の位置制御も容易でないことがある。図4は、水和層などの層状構造が形成された界面におけるフォースカーブの例である。図4は、リン酸緩衝生理食塩水での測定結果であり、探針-試料距離に対する相互作用力の依存性を示している。図4に示されるように、探針が水和層を貫く際に斥力が発生する。また探針が水和層を貫いた後に引力が発生する。このような斥力及び引力などに起因して、フォースカーブが振動的なプロファイルを示す。したがって、一つの相互作用力に対応して、フィードバックに使用可能な複数の探針位置が存在する。安定なフィードバック制御のためには、それら複数の探針位置の一つを制御性よく選択しなければならない。しかし、そのような制御は容易でなく、探針位置の制御性が大きく損なわれてしまう。
【0012】
上記のように、通常のAFM観察技術では、探針の位置制御の問題があり、そして3次元的な広がりを持つ界面の情報を十分理解できないといった問題があった。これらの問題を解決するために、従来、以下に説明するように、フォースカーブ計測を応用した3次元空間の計測技術が提案されている。
【0013】
図5を参照すると、従来提案されている3次元計測技術は、XY平面上にアレイ状に配置された多数の測定点でフォースカーブを取得して、3次元空間の相互作用力の分布を測定している。たとえば、図5の左側に示すように、同一のY位置に対して、X位置を少しずつ移動しながら、フォースカーブが測定される。この操作は、XZ平面の相互作用力の分布を反映したXY像を提供できる。さらに、同様の操作が、少しずつY位置をずらしながら行われる。これにより、XYZの3次元の相互作用力分布を計測することができる。
【0014】
しかしながら、このような従来技術では、2つの動作(各点でフォースカーブを取得する動作と、探針のXY位置を移動する動作)を断続的に組み合わせる必要があり、時間がかかるという問題がある。
【0015】
また、探針が試料に最も近づく瞬間及び最も離れる瞬間に、大きな撃力が発生する。そのため、様々な機械部品の振動を誘起してしまうという問題がある。
【0016】
また、フォースカーブの取得時には、表面の凹凸に関係なく、探針が一定のZ位置から一定距離だけ試料に近づけられる。そのため、探針の凹凸や試料の傾きなどによっては、探針が試料に強く衝突してしまい、大きな損傷を与える可能性がある。
【0017】
上記のような衝突を避けるために、相互作用力が一定の値を超えた瞬間に、探針を試料から引き離すことも考えられる。しかし、そのような引離し制御を組み込むためには、探針移動中に相互作用力を監視し続けなければならない。このような測定中の監視制御は、測定完了後にデータを処理する通常の単純なフォースカーブ測定と比べて複雑である。そのため、測定時間が増大し、その結果、測定中の試料のドリフトの影響が大きくなる。更に、上記の引離し制御は、探針の移動方向が急峻に変わる瞬間に大きな撃力を発生するという問題をも招く。
【0018】
以上のような問題を避けるため、図5の従来の3次元計測技術の適用範囲は相当に制限されてしまう。実際、従来の3次元計測技術は、非常に長時間かけてフォースカーブを測定してもドリフトの影響を無視することのできる超高真空中の極低温環境下でのAFM観察でのみ利用されてきた。したがって、大気及び液中環境での利用は非常に困難であり、また、室温環境での利用も非常に困難である。
【0019】
上記のフォースカーブを利用する従来の3次元計測技術は、たとえば、非特許文献1に開示されている。
【0020】
なお、上述では、AFMを取り上げて、本発明の背景技術を説明した。しかし、同様の要求は、他の種類のSPMでも生じ得る。
【先行技術文献】
【0021】

【非特許文献1】H. Holscher et al. Measurement of three-dimensional force fields with atomic resolution using dynamic force spectroscopy, APPLIED PHYSICS LETTERS, 2002 Amercan Institute of Physics, 2 December 2002, Volume 81, Number 23,pp. 4428-4430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記背景の下でなされたものである。本発明の目的は、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一の態様は、走査型プローブ顕微鏡であり、この走査型プローブ顕微鏡は、探針と、探針と試料との相対的な走査を行うスキャナと、探針の変位を検出する変位センサと、変位センサにより検出された信号に基づいて、探針と試料の相互作用により生じ相互作用の大きさを表す相互作用量を検出する相互作用検出部と、相互作用検出部により検出される相互作用量を一定に保つように、探針と試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行うフィードバック制御部と、探針-試料距離を、フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行う距離変調制御部と、探針と試料の相対的な走査を行いながら距離変調制御により探針-試料距離が変動する間に検出される相互作用量から、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出する3次元分布検出部と、を有している。
【0024】
本発明の別の態様は、走査型プローブ顕微鏡のための観察方法であり、この方法は、探針と試料を近づけて、探針と試料との相対的な走査を行い、探針の変位を検出し、検出された信号に基づいて、探針と試料の相互作用により生じ相互作用の大きさを表す相互作用量を検出し、相互作用量を一定に保つように、探針と試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行い、探針-試料距離を、フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行い、探針と試料の相対的な走査を行いながら距離変調制御により探針-試料距離が変動する間に検出される相互作用量から、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出する。
【0025】
本発明の別の態様は、走査型プローブ顕微鏡のための観察プログラムであり、このプログラムは、コンピュータに、探針と試料を近づけて、探針と試料との相対的な走査を行う処理と、探針の変位を検出する処理と、検出された信号に基づいて、探針と試料の相互作用により生じ相互作用の大きさを表す相互作用量を検出する処理と、相互作用量を一定に保つように、探針と試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行う処理と、探針-試料距離を、フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行う処理と、探針と試料の相対的な走査を行いながら距離変調制御により探針-試料距離が変動する間に検出される相互作用量から、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出する処理と、を実行させる。
【0026】
以下に説明するように、本発明には他の態様が存在する。したがって、この発明の開示は、本発明の一部の態様の提供を意図しており、ここで記述され請求される発明の範囲を制限することは意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、走査型トンネル顕微鏡(STM)の原理を示す図である。
【図2】図2は、STMにおける探針位置とトンネル電流の関係を示す図である。
【図3】図3は、原子間力顕微鏡(AFM)における大気中及び真空中での探針位置と相互作用力の関係を示す図である。
【図4】図4は、AFMにおける液中での探針位置と相互作用力の関係であって、水和層などの層状構造が形成された界面での測定結果を示す図である。
【図5】図5は、従来技術の相互作用力の3次元計測技術であって、フォースカーブ測定を利用した測定技術を示す図である。
【図6】図6は、本発明による相互作用力の3次元計測技術の原理を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係るAFMの構成を示す図である。
【図8】図8は、従来の通常のAFM観察と、本発明の3次元AFM観察(3次元計測)におけるxyz走査信号の変化を示す図である。
【図9】図9は、本実施の形態による3次元計測における距離変調信号zmと共振周波数シフトΔfの検出信号の時間変化を示す図である。
【図10】図10は、本発明の3次元計測技術を利用するドリフトキャンセル機能を備えたAFMを示す図である。
【図11】図11は、本発明のAFMを用いた観察例におけるマイカの結晶構造を示す図である。
【図12】図12は、3次元空間の周波数シフトデータをXY平面でスライスすることによって得られる像及びデータを示す図である。
【図13】図13は、3次元空間の周波数シフトデータをXZ平面でスライスすることによって得られる像を示す図である。
【図14】図14は、複数の異なるXY位置でのZ方向の周波数シフト変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の詳細な説明を述べる。ただし、以下の詳細な説明と添付の図面は発明を限定するものではない。代わりに、発明の範囲は添付の請求の範囲により規定される。

【0029】
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、探針と、探針と試料との相対的な走査を行うスキャナと、探針の変位を検出する変位センサと、変位センサにより検出された信号に基づいて、探針と試料の相互作用により生じ相互作用の大きさを表す相互作用量を検出する相互作用検出部と、相互作用検出部により検出される相互作用量を一定に保つように、探針と試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行うフィードバック制御部と、探針-試料距離を、フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行う距離変調制御部と、探針と試料の相対的な走査を行いながら距離変調制御により探針-試料距離が変動する間に検出される相互作用量から、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出する3次元分布検出部とを有する。

【0030】
上記のように、本発明によれば、フィードバック制御を行いながら、距離変調制御が行われる。距離変調制御は、探針-試料距離をフィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる制御である。本発明によれば、フィードバック制御により、安定な位置制御が確保される。更に、距離変調制御を行うことにより、上記のように、3次元空間における相互作用量の分布を検出することができる。こうして、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測できる。

【0031】
なお、本発明において、探針位置制御は、探針と試料の相対位置の制御を意味する。したがって、探針位置制御は、探針の移動によって実現されても、試料の移動によって実現されても、両方の移動によって実現されてもよい。

【0032】
距離変調制御部は、時間軸に対する探針-試料距離を正弦波に沿って変動させてよい。

【0033】
フィードバック制御部は、スキャナを駆動するための駆動信号を生成してよく、距離変調制御部は、距離変調周波数を有する距離変調信号を生成してよく、距離変調信号が駆動信号に加算されてよい。

【0034】
3次元分布検出部が、距離変調制御により探針が試料に近づくときの相互作用量の分布と、距離変調制御により探針が試料から遠ざかるときの相互作用量の分布とを別々に取得してよい。

【0035】
走査型プローブ顕微鏡は原子間力顕微鏡でよく、探針を含むカンチレバーを有してよい。

【0036】
原子間力顕微鏡は、周波数変調型の原子間力顕微鏡でよく、相互作用検出部は、カンチレバーの共振周波数シフトを相互作用量として検出してよい。

【0037】
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、距離変調制御による探針-試料距離の変動範囲内に定められており探針-試料距離が増大する所定のドリフト監視位置にて検出される相互作用量を、相互作用量のドリフトの指標として監視するドリフト監視部と、ドリフト監視部により監視されるドリフト監視位置での相互作用量に基づいて、相互作用量のドリフトをキャンセルするドリフトキャンセル部とを有してよい。

【0038】
本発明の走査型プローブ顕微鏡は、3次元分布検出部により得られる3次元空間における相互作用量の分布のデータを処理する分布データ処理部を有してよい。分布データ処理部は、探針-試料距離が一定である面上での相互作用量の分布を求めてよい。分布データ処理部は、探針-試料距離が異なる複数の面の各々における相互作用量の複数の代表値を求めて、探針を試料に近づけたときの代表値の変化を求めてよい。分布データ処理部は、試料表面に交差する面で3次元空間を切断したときの切断面上での相互作用量の分布を求めてよい。分布データ処理部は、試料上の異なる複数の位置で、試料の表面に交差する線に沿った相互作用量の変化を求めてよい。

【0039】
本発明の別の態様は、走査型プローブ顕微鏡のための観察方法であって、探針と試料を近づけて、探針と試料との相対的な走査を行い、探針の変位を検出し、検出された信号に基づいて、探針と試料の相互作用により生じ相互作用の大きさを表す相互作用量を検出し、相互作用量を一定に保つように、探針と試料の間の距離である探針-試料距離のフィードバック制御を行い、探針-試料距離を、フィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる距離変調制御を行い、探針と試料の相対的な走査を行いながら距離変調制御により探針-試料距離が変動する間に検出される相互作用量から、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出する。この態様にも、上述の各種の構成が適用されてよい。

【0040】
上記のように、本発明は、フィードバック制御を行いながら、距離変調制御を行う。これにより、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測できる。

【0041】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。本実施の形態では、本発明が原子間力顕微鏡(AFM)に適用される。しかし、本発明はAFMに限定されない。本発明は、AFM以外の走査型プローブ顕微鏡(SPM)に適用されてよい。たとえば、本発明は走査型トンネル顕微鏡(STM)に適用されてよい。また、たとえば、本発明は近接場光学顕微鏡(SNOM)に適用されてよい。なお、本発明は、SPM(例えばAFM)のメモリやHDDなど(図示せず)に格納されたプログラムによって、実現されてもよい。

【0042】
図6は、本発明による相互作用力の3次元計測技術の原理を示している。前出の図5の従来技術はフォースカーブ測定を応用する技術であり、測定点を移動しながらフォースカーブ測定を繰り返して、相互作用力の3次元分布を求めている。このような従来技術と異なり、図6の本発明は、従来のAFM観察技術を応用し、3次元計測技術へと拡張する。図6では、従来のAFM観察が左側に示されており、本発明のAFM観察が右側に示されている。

【0043】
従来のAFM観察は、探針-試料間の相互作用力を一定に保つように探針位置をフィードバック制御する(探針位置の制御とは、探針と試料の相対位置の制御を意味する。実際のAFMでは、試料を移動することにより探針位置が制御されてよい。本明細書において同じ)。この制御により、探針-試料距離が一定に保たれる。その結果、探針は、試料から一定距離だけ離れた「面」上で走査される。

【0044】
本発明のAFM観察も、従来技術と同様のフィードバック制御を行う。従来技術との相違点として、本発明は、フィードバック制御を行いながら、探針-試料距離を変動させる制御を行う。この制御を、本発明では距離変調制御といい、そして、距離変調の周波数を距離変調周波数と呼ぶ。距離変調周波数は、フィードバック制御の応答速度より十分に速く設定される。より詳細には、距離変調周波数は、フィードバック制御の応答速度と、カンチレバーの共振周波数の間の適当な値である。たとえば、カンチレバーの共振周波数が1kHz以上であるのに対して、距離変調周波数が200Hz程度に設定される。また、距離変調の振幅は、微小な値(通常1nm以下)に好適に設定される。更に、距離変調制御では、探針-試料距離を正弦波状に変動させることが好適である。

【0045】
本発明は、上記のフィードバック制御と距離変調制御を行うことにより、図6の右側に示されるようにZ方向(垂直方向)に厚みを持った「空間」において探針を走査することができる。したがって、3次元空間における相互作用量の分布を検出することができる。

【0046】
ここで、図6において、従来のAFM観察は、試料からの距離が一定の面の情報を得ており、2次元観察と呼ぶことができる。これに対して、本発明のAFM制御は、Z方向の厚みを持った3次元空間の情報を得ており、3次元観察又は3次元計測と呼ぶことができる。

【0047】
次に、本発明が適用されるAFMの好適な例を説明する。ここでは、本発明が周波数変調型のAFM(FM-AFM)に適用される。ただし、本発明はFM-AFMに限定されない。本発明がFM-AFM以外のAFMに適用されてよい。さらに、前出したように、本発明はAFM以外のSPMに適用されてよい。

【0048】
図7は、本実施の形態のAFMを示している。FM-AFMでは、相互作用量がカンチレバーの共振周波数シフトΔf(共振周波数のシフト量)である。

【0049】
概略的には、AFM1は、カンチレバー3を共振周波数で機械的に振動させ、カンチレバー3を試料に近づけた際に生じる共振周波数シフトΔfを検出し、共振周波数シフトΔfを一定に保つように探針-試料距離をフィードバック制御する。

【0050】
フィードバック制御では、探針-試料距離を制御するZ走査のための走査信号z0が生成される。この点は、従来のAFM観察技術と同様である。従来技術との主な違いとして、本実施の形態のAFM1は、フィードバック制御の応答速度より十分速い周波数を持つ距離変調信号zmを生成する。距離変調信号zmは固定正弦波信号である。距離変調信号zmが走査信号z0に加算されて、変調走査信号zが生成され、この変調走査信号zによって探針-試料間距離が制御される。距離変調信号zmの加算により、探針のZ位置が高速変調される。

【0051】
このように、本発明では、試料表面の凹凸に応じて探針位置を調節するフィードバック制御の走査信号z0が、探針位置を一定振幅の正弦波によりZ方向に細かく変動させる距離変調信号zmと加算される。探針は試料の凹凸に沿って移動しながら上下に細かく動き、その結果、図6に示した本発明の探針の動きが実現される。以下、図7のAFM1について、より詳細に説明する。

【0052】
図7に示すように、AFM1は、試料に近接して配置されるカンチレバー3と、試料を保持する試料ステージ5とを有する。また、通常のFM-AFMと同様に、AFM1は、スキャナ7、レバーアクチュエータ9、変位センサ11、移相回路13、アンプ15、周波数シフト検出器17、フィードバック回路19及びXY走査信号生成回路21を有する。更に、AFM1は、本発明に特徴的な構成として、距離変調信号生成回路23及び信号加算部25を有する。更に、AFM1は、AFM全体を制御するコンピュータ27と、表示部29とを有する。このコンピュータ27には、本発明を実現するためのプログラムがインストールされていてもよい。

【0053】
試料ステージ5は、スキャナ7に取り付けられている。スキャナ7は、アクチュエータとしてピエゾ素子(圧電素子)を有するピエゾスキャナであり、試料ステージ5をX、Y、Z方向に動かして、試料をカンチレバー3に対して相対的に走査する。XY方向は、水平面上で直交する方向である。Z方向は鉛直方向であり、試料の凹凸方向(高さ方向)である。カンチレバー3は、シリコン製であり、自由端に探針(プローブ)を有している。カンチレバー3は、レバーアクチュエータ9により励振される。レバーアクチュエータ9は、ピエゾ素子で構成され、励振部として機能する。ただし、スキャナ7及び励振部9はピエゾアクチュエータに限定されない。たとえば、磁気又は光を用いた構成も走査及び励振に適用可能である。

【0054】
変位センサ11は、カンチレバー3の変位を検出する。典型的には、変位センサ11は、レーザユニットと共に光てこ式の変位センサとして機能する。レーザ光は、レーザユニットから照射され、カンチレバー3で反射して変位センサ11に到達する。変位センサ11は、フォトダイオードで構成された分割ダイオードセンサであり、カンチレバー3の変位を表す変位信号を出力する。レーザ光の受光位置が変位信号として好適に検出される。変位信号は、移相回路13及び周波数シフト検出器17に入力される。図では、センサに関連したレンズ等の光学系の構成は省略されている。

【0055】
移相回路13は、変位センサ11からの変位信号を処理して、カンチレバー3を共振周波数で振動させるための励振信号を生成する。カンチレバー3が共振周波数で振動するとき、励振信号と変位信号の位相差が90度である。そこで、移相回路13は、励振信号と変位信号の位相差が90度になるように励振信号を生成する。この励振信号がアンプ15で増幅されて、レバーアクチュエータ9に供給される。これにより、レバーアクチュエータ9はカンチレバー3を共振周波数で振動させる。

【0056】
周波数シフト検出器17は、変位センサ11からの変位信号を処理して、共振周波数シフトΔfを検出する。周波数シフト検出器17は位相ロックループ(PLL)回路で構成されてよい。周波数シフト検出器17及び移相回路13は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)等のデジタル回路であってよい。

【0057】
周波数シフト検出器17は、本発明の相互作用検出部の一例である。そして、共振周波数シフトΔfは探針試料間の相互作用力により生じ、相互作用力の大きさを表すパラメータであり、本発明の相互作用量の一例である。

【0058】
共振周波数シフトΔfは、周波数シフト検出器17からフィードバック回路19に供給される。フィードバック回路19は、共振周波数シフトΔfに基づいて、共振周波数シフトΔfを一定に保つための走査信号z0を生成する。フィードバック回路19は、たとえばPID回路で構成される。フィードバック回路19は、本発明のフィードバック制御部に相当する。

【0059】
XY走査信号生成回路21は、カンチレバー3を試料に対してXY方向に走査するための走査信号x、yを生成する。XY走査信号生成回路21は、走査信号x、yをスキャナ7に供給し、これによりスキャナ7が試料ステージ5をXY方向に移動する。

【0060】
距離変調信号生成回路23は、距離変調信号zmを生成する。距離変調信号zmは、フィードバック回路19の応答速度よりも十分に速い周波数を有する正弦波信号である。距離変調周波数はたとえば200Hz程度であり、カンチレバー3の共振周波数よりは大幅に小さい。また、距離変調信号zmの振幅は非常に小さく、たとえば1nm以下である。距離変調信号生成回路23は、波形生成回路により構成されてよい。距離変調信号生成回路23は、本発明の距離変調制御部に相当する。

【0061】
距離変調信号生成回路23は、距離変調信号zmを信号加算部25に出力する。また、信号加算部25には、フィードバック回路19から走査信号z0が入力される。信号加算部25は、走査信号z0と距離変調信号zmを加算して、変調走査信号zを生成する。変調走査信号zがスキャナ7に供給され、スキャナ7は変調走査信号zに従って試料ステージ5をZ方向に移動させる。

【0062】
コンピュータ27は、AFM1の全体を制御する。コンピュータ27は、たとえばパーソナルコンピュータであってよく、AFM制御用のボードがコンピュータ27に搭載されてよい。

【0063】
コンピュータ27は、XY走査信号生成回路21を制御し、XY方向の走査を行わせる。また、コンピュータ27は、フィードバック制御の目標値をフィードバック回路19に供給する。また、コンピュータ27は、距離変調信号生成回路23を制御し、周波数及び振幅を指示して、距離変調信号zmを生成させる。また、コンピュータ27は、周波数シフト検出器17に中心周波数f0を供給する。中心周波数f0は、カンチレバー3の自由振動の共振周波数、すなわち、カンチレバー3が試料から遠くに位置するときの共振周波数に相当する。中心周波数f0は、共振周波数シフトΔfの検出処理において基準値として用いられる。

【0064】
また、コンピュータ27には、フィードバック回路19から走査信号z0が入力される。コンピュータ27は、走査信号z0を処理して、試料の凹凸形状のデータを生成する。

【0065】
また、コンピュータ27には、周波数シフト検出器17から共振周波数シフトΔfが入力される。コンピュータ27では、3次元分布検出部31が、入力される共振周波数シフトΔfのデータを処理することにより、3次元空間における共振周波数シフトの分布を検出する。3次元分布検出部31は、3次元分布計測部又は単に3次元計測部と呼んでもよい。

【0066】
また、コンピュータ27には、分布データ処理部33が設けられている。分布データ処理部33は、3次元分布検出部31により得られる3次元空間における共振周波数シフトの分布のデータを処理し、後述するように有用な情報を提供する。

【0067】
コンピュータ27は、上述のようにして得られる各種の測定結果の情報を表示部29に出力する。また、コンピュータ27は、ユーザインターフェース機能も提供し、ユーザの各種の指示がコンピュータ27に入力され、コンピュータ27はユーザの入力に従ってAFM1を制御する。

【0068】
次に、AFM1の全体的な動作を説明する。XY走査信号生成回路21は、コンピュータ27により制御されて、スキャナ7にXY方向の走査を行わせる。XY方向の走査中、カンチレバー3の変位が変位センサ11により検出され、変位信号が移相回路13及び周波数シフト検出器17に出力される。移相回路13は、変位信号を処理して励振信号を生成し、アンプ15を介してレバーアクチュエータ9に励振信号を供給することにより、カンチレバー3を共振周波数で振動させる。

【0069】
また、周波数シフト検出器17は、変位センサ11からの変位信号を処理して、共振周波数シフトΔfを検出し、フィードバック回路19に供給する。フィードバック回路19は、共振周波数シフトΔfを一定に保つようにスキャナ7をZ方向に駆動するための走査信号z0を生成する。フィードバック回路19は、コンピュータ27から供給されるフィードバック目標値に共振周波数シフトΔfを一致させるように動作する。

【0070】
一方、距離変調信号生成回路23は、コンピュータ27の制御下で、距離変調信号zmを生成する。信号加算部25は、走査信号z0と距離変調信号zmを加算することにより、変調走査信号zを生成し、スキャナ7に出力する。スキャナ7は、変調走査信号zに従って試料ステージ5をZ方向に駆動する。

【0071】
このようにして、変調走査信号zによってZ方向の走査を行いながら、XY方向の走査が行われる。すなわち、フィードバック制御と距離変調制御を行いながら、XY方向の走査が行われる。

【0072】
フィードバック回路19は、通常のFM-AFMと同様に走査信号z0をコンピュータ27に供給する。走査信号z0は、試料のZ方向の高さに対応している。また、試料上のXY方向の位置は、コンピュータ27により制御されている。コンピュータ27は、XY走査の制御データと、入力される走査信号z0とに基づいて、試料表面の画像を生成して表示部29に表示する。

【0073】
また、周波数シフト検出器17は、共振周波数シフトΔfのデータをコンピュータ27に供給する。上記のように、本実施の形態では、フィードバック制御の過程で、探針-試料距離が距離変調信号zmに従って変動する。3次元分布検出部31は、距離変動過程で逐次得られる共振周波数シフトΔfを蓄積及び記録する。XY方向の走査を行いながらZ方向の距離変動範囲の共振周波数シフトΔfを蓄積及び記録することにより、3次元空間における共振周波数シフトΔfの分布を得ることができる。分布データ処理部33は、3次元分布検出部31により得られる3次元空間における共振周波数シフトの分布のデータを処理する。表示部29はディスプレイ装置であり、3次元分布のデータ及び分布データ処理部33により生成されるデータを表示する。

【0074】
以上に本実施の形態のAFM1の動作の概要を説明した。次に、本実施の形態のAFM1について更なる詳細を説明する。

【0075】
図8は、従来の通常のAFM観察(左側)と、本発明の3次元AFM観察(右側)のxyz走査信号の変化を模式的に示している。従来の通常のAFM観察では、三角波がX方向の走査信号xとして入力される。走査信号yは、Y方向の位置を少しずつ動かすランプ信号である。そして、XY走査の間、走査信号z0が表面の凹凸に応じて変化する。走査信号z0がxy座標に対して記録され、これにより表面の凹凸像を得ることができる。

【0076】
一方、本発明の3次元観察(図8右側)では、距離変調信号zmが入力され、探針は常にZ方向に正弦波状に走査される。ただし、Z走査の平均位置は、フィードバック信号である走査信号z0により制御される。このようなZ方向の制御により、距離変調信号zmの振幅の範囲で共振周波数シフトΔfが検出される。すなわち、XY方向の走査範囲内で、Z方向に厚みを持った空間にて、共振周波数シフトΔfが検出される。共振周波数シフトΔfはxyz座標に対して記録される。こうして、共振周波数シフトΔfの3次元分布を計測できる。

【0077】
ここで、距離変調信号zmとして、三角波を用いることも可能である。しかし、三角波を用いた場合には、Z方向に大きな撃力が発生し、試料(または探針)を走査するスキャナの共振振動を励起してしまう可能性があり、観察像にひずみが生じるなどの問題が生じる可能性がある。したがって、正弦波を用いる方がよい。

【0078】
また、本実施の形態では、探針のXY位置は、通常のAFM観察時と同様に表面上を水平方向に走査される。ただし、図示のように、通常のAFM観察の走査信号xが三角波であるのに対して、本実施の形態の走査信号xは「のこぎり波」である。本実施の形態の3次元計測は、共振周波数シフトの検出をZ方向に幅を持つ変調範囲内で行っている。そのため、X方向の走査速度は、Z方向の走査速度より十分に遅く設定される。この場合、X方向の往復過程で検出を行う必要がない。往復時に生じるスキャナのヒステリシスにより、往路と復路が一致しない可能性も考慮すると、一方向に進むときにのみ検出が好適に行われる。この場合、のこぎり波を用いることにより、復路の時間を短縮でき、画像取得速度を向上できる。したがって、三角波よりものこぎり波を用いる方が実用的である。

【0079】
図9は、本実施の形態による3次元計測時の距離変調信号zmと共振周波数シフトΔfの検出信号の時間変化の一例を示す。図示のように、探針-試料距離が小さいときに、共振周波数Δfが大きく変化している。本実施の形態では、距離変調信号zmとして正弦波を用いるので、試料へ最も近接する位置でのZ走査速度が遅くなる。したがって、共振周波数シフトΔfが急激に変化するときに、より多くの情報が得られる。この点でも、正弦波が好適に用いられる。

【0080】
3次元計測の分布データは、図9のデータをXY方向の走査データと共に処理することにより得られる。この処理は既に述べたようにコンピュータ27の3次元分布検出部31により行われる。縦軸が距離変調信号zmに設定され、横軸が走査信号xに設定され、共振周波数シフトΔfが記録される。これにより、X方向への1ラインの走査で、XZ像が得られる。ここで、表面の凹凸によるZ方向位置の変化は、走査信号z0に含まれ、XZ像には含まれない。したがって、XZ像は、表面のZ方向の相互作用力の変化を反映したものとなり、試料表面近傍の微細な力場変化を画像化するのに非常に都合がよい。たとえば、試料の表面に10nm以上の大きな凹凸があったとする。このような場合、従来技術では、画像中でピコメートルオーダーの凹凸を視認性よく表現することは困難である。しかし、本発明の3次元計測技術を用いれば、試料表面の大きな凹凸にかかわらず、微細な力場分布を可視化できる。そして、ピコメートルオーダーの凹凸も表現可能である。

【0081】
好ましくは、X方向への1ラインの走査で、探針が試料に近づくときの相互作用量を記録した一つのXZ像と、探針が試料から遠ざかるときの相互作用量を記録した一つのXZ像が得られる。これらの二つのXZ像の距離変調周波数が、その距離変調によって生じる相互作用量の変化よりも高速な場合には、それら二つのXZ像が一致しない。そこで、それら二つのXZ像の差異から、探針試料間の相互作用ポテンシャルの動力学的物性を知ることができる。たとえば、水和層の場合は、水の粘性や拡散速度に依存してこのような行きと帰りの非対称性が生じると考えられ、したがって二つのXZ像から動力学的物性を知ることができると考えられる。一方、距離変調周波数が十分低速な場合には、上記二つのXZ像は一致する。以下では、その場合を仮定して、一つのXZ像が得られるものとして説明する。

【0082】
上述のようにしてX方向の走査ライン毎にXZ像が得られ、更に、XZ像が、走査信号yに対して記録される。これにより、3次元空間にて共振周波数シフトを記録でき、共振周波数シフトの3次元の像を得ることができる。

【0083】
共振周波数シフトΔfの値は、相互作用力に起因して生じており、実際定量的な相互作用力の値に変換することも可能である。したがって、試料表面近傍の力分布の3次元計測を行うことが可能となる。

【0084】
なお、上記の図8及び図9を用いた説明では、X方向の走査が、Y位置をずらしながら繰り返された。しかし、X方向とY方向の走査が入れ替えられてよいことはもちろんである。図8の走査信号x、yも入れ替えられてよい。

【0085】
「ドリフトキャンセル」
次に、本発明のSPMに好適に組み込まれるドリフトキャンセル機能を説明する。このドリフトキャンセル機能は、本発明の3次元計測技術を活用して、相互作用量のドリフトをキャンセルする。ここでは、ドリフトキャンセル機能が、これまで説明してきたFM-AFMに組み込まれ、共振周波数シフトのドリフトをキャンセルする。

【0086】
液中観察時には、液中に存在する粒子がカンチレバーに付着したり、あるいは、温度が変動するために、カンチレバーの共振周波数がドリフトし、共振周波数シフトもドリフトすることがある。共振周波数シフトを一定に保つ従来のフィードバックが適用された状態では、共振周波数のドリフトに気づかない。その結果、大きな相互作用力が試料に対して加えられたり、あるいは、探針-試料距離が一定に保たれず、データの信頼性が損なわれる可能性がある。

【0087】
本発明のドリフトキャンセル機能は、上記の問題を解決することができる。図9を参照すると、探針が試料から遠くに位置するときは、相互作用力が小さく、共振周波数シフトも小さい。しかし、共振周波数シフトのドリフトが生じると、探針が試料から離れたときにも共振周波数シフトが検出される。本発明の3次元計測データを利用することにより、探針が試料から離れたときの共振周波数シフトをイメージング中に監視することができる。そして、共振周波数シフトのドリフトをリアルタイムにキャンセルすることができ、データの信頼性を向上できる。

【0088】
図10は、上記のドリフトキャンセル機能を備えたAFMを示している。図10のAFM51は、図7のAFM1と同様の構成を有する。さらに、図10のAFM51には、ドリフト監視部53及び加算部55が設けられている。以下に説明するように、ドリフト監視部53が共振周波数シフトのドリフトを監視し、そして加算部55にてドリフトがキャンセルされる。

【0089】
ドリフト監視部53には、周波数シフト検出器17から共振周波数シフトΔfの検出信号が入力され、また、距離変調信号生成回路23から距離変調信号zmが入力される。ドリフト監視部53は、所定のドリフト監視位置にて検出される共振周波数シフトΔfを監視する。ドリフト監視位置は、距離変調制御による探針-試料距離の変動範囲内であって、探針-試料距離が増大する位置に定められている。本実施の形態では、ドリフト監視位置は、図9の正弦波上でzmが最大になる位置に好適に設定され、ドリフト監視部53は、zmが最大になるときの共振周波数シフトΔfを取得する。

【0090】
ドリフト監視部53はサンプルホールド回路で構成されてよい。ドリフト監視部53は、距離変調制御部23から入力される距離変調信号zmに基づき、ドリフト監視位置に対応するドリフト監視タイミングでサンプルホールドのトリガーを生成する。上記の例では、ドリフト監視タイミングは、zmが最大になるタイミングであり、正弦波の頂点である。これにより、ドリフト監視タイミングで共振周波数シフトΔfが取得される。

【0091】
ドリフト監視位置(ドリフト監視タイミング)の共振周波数シフトΔfは、共振周波数シフトのドリフト量δf0として、加算部55に出力される。加算部55には、コンピュータ27から中心周波数f0が入力される。加算部55は、中心周波数f0にドリフト量δf0を加算する。加算後の中心周波数f0’が周波数シフト検出器17に供給される。これにより、共振周波数シフトΔfのドリフトがキャンセルされる。

【0092】
上記のドリフトキャンセルの仕組みをより詳細に説明する。中心周波数f0は、カンチレバー3の自由振動の共振周波数である。周波数シフト検出器17は基準値として用いて、減算を行って共振周波数シフトΔfを検出する。したがって、カンチレバー3が自由振動状態にあるとき、すなわち、カンチレバー3が試料から遠く離れているときは、共振周波数シフトΔfが0となる。

【0093】
ドリフト監視位置では、カンチレバー3が試料から離れる。したがって、ドリフトが生じていなければ、ドリフト監視位置の共振周波数シフトΔはほぼ0になるはずである。しかしながら、ドリフトが生じると、ドリフト監視位置で共振周波数シフトΔfが検出される。したがって、ドリフト監視位置の共振周波数シフトΔfは、ドリフト量δf0として利用可能である。

【0094】
ドリフト量δf0は、周波数シフト検出器17の前段にて、加算部55により中心周波数f0に加算される。したがって、共振周波数シフトΔfの検出結果は、ドリフト量δf0が減算された値になる。こうしてドリフトキャンセルが実現される。

【0095】
上記のように、図10の構成では、ドリフト監視部53が、所定のドリフト監視位置にて検出される相互作用量(共振周波数シフト)をドリフトの指標として監視しており、本発明のドリフト監視部として機能している。また、加算部55は、ドリフト監視部53により監視されるドリフト監視位置での相互作用量(共振周波数シフト)に基づいてドリフトをキャンセルしており、本発明のドリフトキャンセル部として機能している。そして、このような構成により、計測中にリアルタイムにドリフトキャンセルを行うことができ、データの信頼性を向上できる。

【0096】
なお、本発明の範囲内で、ドリフト監視部及びドリフトキャンセル部は上記構成に限定されず、適当に変形されてよい。例えば、加算部55は、ドリフトキャンセルを、相互作用検出部である周波数シフト検出器17の入力側にて行っている。しかし、ドリフトキャンセルは他の段階で行われてもよい。例えば、ドリフトキャンセルは、相互作用量の検出後に行われてもよい。

【0097】
「観察例」
次に、本実施の形態のAFM1による観察例を説明する。ここでは、分布データ処理部33による3次元計測データの好適な加工の例も説明される。

【0098】
この観察例では、試料がマイカである。そして、リン酸緩衝生理食塩水とマイカの界面における3次元力分布計測の結果を示す。

【0099】
マイカは図11に示すような結晶構造を持っている。アルミニウム、シリコン、酸素、OH基がシートを形成しており、そして、複数のシートが静電気力によりカリウムイオンを介して積層されている。これらの層間は静電気力で結合されており、容易にへき開することができる。マイカのへき開表面は、図11に示すように、ハニカム状のメッシュ構造を有している。

【0100】
このマイカのへき開表面上にリン酸緩衝生理食塩水を滴下し、その固液界面において3次元周波数シフト像を取得した。観察条件を以下に示す。
(1) イメージサイズ:64×64×256 pixels in XYZ
(2) 走査範囲:4×4×1 nm (ドリフト補正前)
(3) 走査速度:53 sec/3D xyz image,
0.82 sec/2D xz image,
5 ms/ 1D z profile

【0101】
ここで、走査範囲において、1nmは、距離変調の振幅である。また、上記のように、走査範囲は、XY走査中におけるX方向の試料のドリフト補正の前の範囲である。このドリフトは、以降の測定結果の処理にて補正される。

【0102】
3次元空間内で得た周波数シフトデータは、任意の平面でスライスして表示することが可能である。たとえば、図12では、周波数シフトデータがXY平面でスライスされている。図12のデータは、探針のZ位置に対する依存性を示している。

【0103】
図12では、原子スケールの分解能が得られているのがわかる。特に、最も近接した位置Z=0.0nmにおけるXY像では、2つの隣り合うSi原子に相当する凸構造のペアが、周期的に観察されている(Z=0.0nmは変調範囲の最下点である。測定データのZ位置は、絶対的な位置ではなく、変調範囲内の位置である)。

【0104】
さらに、図12は、各XY面における周波数シフト量の平均値を探針のZ位置に対してプロットした周波数シフト距離曲線を示している。このデータは、斥力のピークをZ=0.2nm付近に有している。このピークは、固液界面に形成された水和層を貫くときに生じる斥力のピークに相当する。このような斥力のピークが図12のデータにより明確に確認できる。

【0105】
次に、図13は、3次元周波数シフトデータをマイカのXZ平面でスライスした像を示している。スライスのY位置は、マイカのへき開表面のモデル図上に、番号(1)、(2)、(3)を付して示されている。このXZイメージによっても、隣り合うSi原子に相当する2つのピークが明瞭に観察されているのがわかる(画像(3)内の矢印のペア)。

【0106】
また、それらのピークの中間点にて明るいコントラスト(斥力)が観察されている。この中間点は、ハニカム状のメッシュ構造のくぼみ部分中央に相当する。このような斥力は、従来のXYイメージングでは観察されたことのない構造であり、本発明の技術を用いてはじめて観察可能となった。従来のXYイメージングでは、図のXZイメージ中で黒いコントラストで表されている強い引力の働くXY位置で探針が吸着してしまう。そのため、探針のZ方向位置を十分な精度で制御することは困難であった。一方、本発明では、局所的に不安定点があっても、他のXY位置においては安定に探針位置を制御し、周波数シフト量を測定することが可能である。その結果として、通常のイメージングでは観察不可能な構造を可視化することができた。

【0107】
また、図14に示すように、3次元周波数シフトデータからは、各XY位置でのZ方向の周波数シフト変化を表す周波数シフト距離曲線を抽出することができる。図14の例は、4つのXY位置におけるZ方向の周波数シフトプロファイル(周波数シフト距離曲線)を示している。これらの曲線から、マイカ表面上では、周波数シフト距離曲線の形状が原子スケールの位置に依存して大きく異なることがわかる。たとえば、Si原子の直上で計測されたプロファイルでは、原子近傍で強い斥力が示されている。一方、Si原子の中間の酸素原子の上で計測されたプロファイルでは、原子近傍で弱い斥力が示されている。このような測定を精度良く液中環境下で行った例はこれまでにない。このような測定は、本発明の技術を用いることにより、世界で初めて可能になった。

【0108】
次に、本発明の範囲内の変形例について説明する。上記の実施の形態では、本発明がAFMに適用された。しかし、既に説明したように、本発明は、AFMに限定されない。本発明は、AFM以外のSPMに適用されてよい。たとえば、本発明は、STM又はSNOMに適用されてよい。図1及び図2を用いて説明したように、STMでは、探針-試料距離に対してトンネル電流が単調に変化するので、制御は比較的安定している。しかし、3次元計測については、改良が望まれる。本発明によれば、STMにおいても、安定した制御を行いつつ、3次元空間のトンネル電流の分布を好適に計測できる。

【0109】
また、本発明がAFMに適用される場合において、本発明はFM-AFMに限定されない。AFMの種類に応じて、カンチレバーの変位量、振動振幅変化量、位相変化量、振動周波数変化量などが、探針-試料間の相互作用量として用いられる。たとえば、本発明が、AM-AFMに適用されてよく、この場合、変位センサの検出信号から振動振幅が検出される。また、本発明がPM-AFMに適用されてよく、この場合、変位センサの検出信号から位相差が検出される。

【0110】
ただし、本発明の効果は、FM-AFMにおいて非常に顕著に得られる。図11~図14の観察例では、非常に高い分解能のデータが得られている。このような高い分解能はFM-AFMで好適に実現される。すなわち、本発明は、FM-AFMの高い分解能を活かし、3次元の新たな観察を可能にできる。

【0111】
また、コンタクトモードのAFMでは、比較的柔らかいカンチレバーが用いられる。この場合、探針を試料に近づけると、試料に吸着してしまう。これに対して、FM-AFMでは、探針を試料に近づけることができる。したがって、FM-AFMは、図11~図14を用いて説明したような表面の微細構造の測定に適しており、本発明の効果を顕著に得られる。

【0112】
次に、距離変調制御の変形例を説明する。上記の実施の形態では、距離変調信号zmがスキャナのフィードバック制御の走査信号z0に加算され、これにより走査信号z0が変調された。この構成は、距離変調制御を試料(スキャナ)に対して行っており、簡単な構成で距離変調制御を実現できるので有利である。しかし、本発明の範囲内で、距離変調制御は探針に対して行われてもよい。上記の実施の形態はAFMであり、探針がカンチレバーに設けられている。したがって、カンチレバーに対して距離変調制御が行われ、カンチレバーが距離変調周波数で駆動されてよい。具体的には、カンチレバーの励振信号に、距離変調信号が加算されてよい。この場合、カンチレバーの共振周波数より距離変調周波数が小さいので、励振信号は、小さい周波数の信号と加算される。また別の例では、カンチレバーを距離変調周波数で駆動するために、別のアクチュエータが設けられてよい。距離変調の振幅は非常に小さいので、別のアクチュエータは通常のスキャナと比べて小型でよい。このようにして、探針を距離変調周波数で駆動することによっても、本発明の3次元計測を実現できる。

【0113】
以上に本発明のSPMについて説明した。次に、本発明の各種の利点についてまとめて説明する。

【0114】
上記のように、本発明によれば、フィードバック制御を行いながら、距離変調制御が行われる。距離変調制御は、探針-試料距離をフィードバック制御の応答速度より速い距離変調周波数にて変動させる。本発明によれば、フィードバック制御により、安定な位置制御が確保される。更に、距離変調制御を行うことにより、上記のように、3次元空間における相互作用量の分布を検出することができる。すなわち、本発明は、走査範囲内の広さと探針-試料距離の変動範囲内の厚みを有する3次元空間における相互作用量の分布を検出することができる。こうして、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測できる技術を提供することができる。

【0115】
また、上述したように、本発明において、距離変調制御は、時間軸に対する探針-試料距離を正弦波に沿って変動させてよい。図8を用いて説明したように、正弦波を用いることにより、距離変調制御にて大きな撃力が生じるのを防ぐことができる。また、図9を用いて説明したように、正弦波を用いることにより、探針-試料距離が小さくなって相互作用量が増大するときに、距離変化が遅くなり、より多くの検出信号を得ることができる。

【0116】
また、上記の実施の形態では、フィードバック制御によって、スキャナを駆動するための駆動信号が生成され、距離変調制御により、距離変調周波数を有する距離変調信号が生成される。そして、距離変調信号が駆動信号に加算される。この構成は、フィードバック制御の駆動信号を変調しており、簡単な構成で探針-試料距離の変調を実現できる。

【0117】
また、本発明では、距離変調制御により探針が試料に近づくときの相互作用量の分布と、距離変調制御により探針が試料から遠ざかるときの相互作用量の分布とを別々に取得してよい。上記の例では、X方向への走査で、探針が試料に近づくときの相互作用量を記録した一つのXZ像と、探針が試料から遠ざかるときの相互作用量を記録した一つのXZ像が取得された。これらの二つのXZ像の距離変調周波数が、その距離変調によって生じる相互作用量の変化よりも高速な場合には、それら二つのXZ像が一致しない。そこで、本発明の走査型プローブ顕微鏡では、上記の二つの分布(像)が比較され、それらの差異から探針試料間の相互作用ポテンシャルの動力学的物性を好適に知ることができる。

【0118】
また、本発明は上記のようにAFMに好適に適用される。これにより、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測できるという本発明の効果を顕著に得られる。

【0119】
本発明は特にFM-AFMに好適に適用される。これにより、図11~図14を用いて説明したように高い分解能を有する有用な観察結果を得ることができ、本発明の効果を顕著に得られる。

【0120】
また、本発明では、SPMが、距離変調制御による探針-試料距離の変動範囲内に定められており探針-試料距離が増大する所定のドリフト監視位置にて検出される相互作用量を監視し、監視される相互作用量に基づいて相互作用量のドリフトをキャンセルする。この構成は、図10のAFM51のドリフトキャンセル機能に相当する。このようにして、本発明の3次元計測データを利用して相互作用量のドリフトをキャンセルすることにより、データの信頼性を更に向上できる。

【0121】
また、本発明のSPMは、3次元計測により得られる3次元空間における相互作用量の分布のデータを更に処理する。このデータ処理は、上記の実施の形態ではコンピュータの分布データ処理部により行われる。このデータ処理により、観察のための有用な情報が得られる。

【0122】
たとえば、分布データ処理部は、図12に示されるように、探針-試料距離が一定である面上での相互作用量の分布を求めてよい。図12では、互いに距離が異なる複数の面の分布が観察された。

【0123】
また、分布データ処理部は、図12に示されるように、探針-試料距離が異なる複数の面の各々における相互作用量の複数の代表値を求めて、探針を試料に近づけたときの代表値の変化を求める。この構成により、相互作用量-距離曲線(プロファイル)が得られる。このデータは、図12の周波数シフト距離曲線に相当する。代表値は図12では平均値であったが、平均値以外の値も使用されてよい。

【0124】
また、分布データ処理部は、図13に示されるように、試料表面に交差する面で3次元空間を切断したときの切断面上での相互作用量の分布を求めてよい。図13では、試料表面に垂直な面の像が観察された。

【0125】
また、分布データ処理部は、図14に示されるように、試料上の異なる複数の位置で、試料の表面に交差する線に沿った相互作用量の変化を求めてよい。図14では、試料表面に垂直な線に沿った相互作用量-距離曲線が得られた。

【0126】
このように、本発明の3次元計測データを処理することで有用な観察情報が得られる。そして、本発明は、図11~図14を用いて説明したように、これまで不可能であった観察も実現できる。

【0127】
本発明のさらなる長所を説明する。本発明は、フィードバック制御を行いつつ、距離変調制御を行っている。これにより、試料表面の極近傍の3次元の力場計測が、試料表面の凹凸にかかわらず可能である。したがって、試料表面に大きな凹凸があっても、探針や試料の損傷を防止できる。

【0128】
また、従来、凹凸の大きな表面の微細な構造を観察したり、可視化したりすることは困難だった。しかし、本発明は、フィードバック制御にて試料の凹凸に沿って探針を移動しながら、距離変調により微細構造を観察できる。したがって、凹凸の大きな表面の微細な構造を観察し、可視化できる(たとえば前出の図12、図13)。

【0129】
また、従来技術は、図5に示したように、フォースカーブ測定技術を拡張した3次元計測を行っていた。このような従来技術に比べ、本発明では、計測時の無駄時間が少なく、記録方式が単純である。これにより、高速化が容易に実現でき、実用的な速度で3次元計測が可能である。たとえば、従来技術は、計測に1日以上かかることがある。これに対して、上記の観察例では、計測が1分以内で行われている。

【0130】
また、本発明の3次元イメージングは、探針のZ位置を一定振幅の固定信号で変調して、それに対する周波数シフトの応答を記録している。この記録処理は、探針の平均位置を制御しているフィードバック制御とは独立であるため、フィードバックノイズを含まない。したがって、信号対雑音比が通常のXYイメージングよりも高い。

【0131】
また、本発明は、距離変調制御を行うので、試料上の各点で必ず探針-試料距離がZ方向に増減する(探針位置が上下する)。したがって、探針の吸着が局所的に起きるXY位置があったとしても、他の測定点に吸着の影響が及ばない。したがって、従来のXYイメージングでは見ることのできなかった構造が、探針のXY走査の影響を受けずにイメージングできる(たとえば前出の図13)。

【0132】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明した。しかし、本発明は上述の実施の形態に限定されず、当業者が本発明の範囲内で上述の実施の形態を変形可能なことはもちろんである。

【0133】
以上に現時点で考えられる本発明の好適な実施の形態を説明したが、本実施の形態に対して多様な変形が可能なことが理解され、そして、本発明の真実の精神と範囲内にあるそのようなすべての変形を添付の請求の範囲が含むことが意図されている。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上のように、本発明にかかるSPMは、安定した探針位置制御を行いながら、3次元空間における探針試料間の相互作用の分布を好適に計測でき、たとえば、液中の試料の観察技術として非常に有用である。
【符号の説明】
【0135】
1、51 AFM
3 カンチレバー
5 試料ステージ
7 スキャナ
9 レバーアクチュエータ
11 変位センサ
13 移相回路
15 アンプ
17 周波数シフト検出器
19 フィードバック回路
21 XY走査信号生成回路
23 距離変調信号生成回路
25 信号加算部
27 コンピュータ
29 表示部
31 3次元分布検出部
33 分布データ処理部
53 ドリフト監視部
55 加算部

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
13