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明細書 :分子量マーカー及び分子量マーカーの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5645155号 (P5645155)
公開番号 特開2011-050272 (P2011-050272A)
登録日 平成26年11月14日(2014.11.14)
発行日 平成26年12月24日(2014.12.24)
公開日 平成23年3月17日(2011.3.17)
発明の名称または考案の名称 分子量マーカー及び分子量マーカーの作製方法
国際特許分類 C07K  14/195       (2006.01)
C07K  14/31        (2006.01)
C07K  14/315       (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C07K 14/195
C07K 14/31
C07K 14/315
C07K 19/00
C12N 15/00 ZNAA
G01N 33/50 F
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 13
出願番号 特願2009-200164 (P2009-200164)
出願日 平成21年8月31日(2009.8.31)
審査請求日 平成24年5月29日(2012.5.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
発明者または考案者 【氏名】新川 武
【氏名】宮田 健
【氏名】松▲崎▼ 吾郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100104411、【弁理士】、【氏名又は名称】矢口 太郎
【識別番号】100142789、【弁理士】、【氏名又は名称】柳 順一郎
審査官 【審査官】西村 亜希子
参考文献・文献 特開平05-032699(JP,A)
特開平02-025745(JP,A)
特表2003-502022(JP,A)
国際公開第98/001560(WO,A1)
国際公開第2007/088882(WO,A1)
特表2008-538926(JP,A)
特表2008-521442(JP,A)
特表2002-523047(JP,A)
特開平08-187094(JP,A)
Anal. Biochem.,2001年,Vol.292, No.2,pp.296-297
調査した分野 C07K 14/195
C07K 14/31
C07K 14/315
C07K 19/00
C12N 15/09
C12P 21/02
G01N 33/50
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
分子量マーカーであって、イムノグロブリン結合ドメインを有する一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子がリンカーを介して複数個連結されたポリプロテインと、該ポリプロテインの発現宿主が前記リンカーを切断した分解生成物とを含有し、前記ポリプロテインはそのC末端にCys残基が導入され、該Cys残基同士がジスルフィド結合を介して結合していることを特徴とする分子量マーカー。
【請求項2】
請求項に記載の分子量マーカーであって、前記ポリプロテインは前記一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子が2乃至7個連結していることを特徴とする分子量マーカー。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の分子量マーカーであって、前記イムノグロブリン結合ドメイン分子が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメイン、GroupGストレプトコッカス(Streptococcus)G148のGタンパク質(SpG)由来のB1ドメイン、ファインゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)由来のLタンパク質よりなる群から選ばれたものである分子量マーカー。
【請求項4】
請求項に記載の分子量マーカーであって、前記スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメインが、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする分子量マーカー。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【請求項5】
請求項に記載の分子量マーカーであって、前記GroupGストレプトコッカス(Streptococcus)G148のGタンパク質(SpG)由来のB1ドメインが、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする分子量マーカー。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【請求項6】
請求項に記載の分子量マーカーであって、前記ファインゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)由来のLタンパク質が、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とする分子量マーカー。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【請求項7】
請求項1に記載の分子量マーカーであって、以下の表に記載される分子量の単量体および二量体を有するものである、分子量マーカー。
JP0005645155B2_000003t.gif
【請求項8】
分子量マーカーを作製する方法であって、
イムノグロブリン結合ドメインを有する一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子リンカーを介して複数個連結されたポリプロテインを作成する工程と、
該ポリプロテインの発現宿主が前記リンカーを切断することにより複数の分子量を有する分子量マーカーを作製する工程と
を有し、前記ポリプロテインはそのC末端にCys残基が導入され、該Cys残基同士がジスルフィド結合を介して結合していることを特徴とする分子量マーカー作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノグロブリン結合ドメインを有するタンパク質を含有する分子量マーカー及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のタンパク質の電気泳動には、SDS-PAGEやnative-PAGEなどがある。SDS-PAGEは、タンパク質を変性剤で処理することにより、非天然の状態で分子量に依存した分離を行う方法である。この方法によれば、分子量マーカーは正確な分子移動度を示すことができる。一方、native-PAGEは、タンパク質を変性剤で処理せず、天然の状態で分離を行う方法である。この方法によれば、タンパク質を天然の状態で分離できるが、等電点により移動度が異なるため、正確な分子量に依存した移動度を示すことができないという欠点がある。
また、タンパク質の機能分析の主要な方法にウェスタンブロット法がある。これは、目的タンパク質に特異的な抗体(1次抗体)と1次抗体に対する化学標識がされた抗体(2次抗体)を用いる手法である。しかし、ウェスタンブロット法では分子量マーカーの検出にも各々の多様な抗体が必要であり、有用な分子量マーカーが少ないのが現状である。
【0003】
下記の特許文献1には、プロテインAのABドメインの遺伝子を1~6個挿入したプラスミドをそれぞれ作製し、それらのプラスミドで形質転換した大腸菌JM109から得られるタンパク質を同量ずつ混合してウェスタンブロット用分子量マーカーを作製することが開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、サルモネラ菌鞭毛線維タンパク質にギ酸を加えて溶解し、BrCN(ブロモシアン)のギ酸の溶液を加えて断片化反応を行い、この断片化反応によって得られた反応混合物から種々の分子量をもつタンパク質を得る分子量マーカー作製方法が開示されている。これは、一つの分子量を有するタンパク質が化学的又は酵素的に断片化されて得られる断片を、異なる分子量を持つマーカータンパク質として利用するものである。これによれば、複数のマーカータンパク質を個別に生成して混合する手間を省略することができ、コスト的にも優位性があるものである。
【0005】
さらに、下記の特許文献3には、精製したTypeI CATをスルホヒドリル基を有する化合物が存在しない酸化状態で約30日間放置して、TypeI CATの会合体からなる分子量マーカーを作製することが開示されている。これは、同一サブユニットから構成される多量体タンパク質を用いることにより、サブユニット間の等電点を同一にし、天然の状態においても分子量に依存した移動度を示すことができるものである。

【特許文献1】特開平5-32699
【特許文献2】特開平2-25745
【特許文献3】特開平7-53589
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1乃至3に開示されている分子量マーカー作製方法では、タンパク質をそれぞれ精製することや精製後に種々の処理をしなければならず、調製のための設備や多くの時間と費用を必要とするという問題点がある。すなわち、上記特許文献1に開示された分子量マーカー作製方法では、6種類の分子量をもつタンパク質をそれぞれ精製することが必要であり、またそれらのタンパク質を混合することも必要となる。また、上記特許文献2に開示された分子量マーカー作製方法では、タンパク質の精製後にそのタンパク質を化学的又は酵素的に切断することが必要となる。さらに、上記特許文献3に開示された分子量マーカー作製方法では、タンパク質の精製後にサブユニットを会合させることが必要であり、それには約30日間も要してしまう。
【0007】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は短時間で簡便に低コストで作製することが可能な分子量マーカー及びその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による分子量マーカー及びその作製方法は、上記の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段をとった。
【0009】
本発明の分子量マーカーは、イムノグロブリン結合ドメインを有する一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子がリンカーを介して複数個連結されたポリプロテインと、該ポリプロテインの発現宿主が前記リンカーを切断した分解生成物とを含有する、ことを要旨とする。
これにより、ポリプロテインとその分解生成物を同時に得ることができる。その結果、特別な精製方法を経ずに一回のクロマト精製を行うだけで異なった分子量をもつマーカータンパク質から構成された分子量マーカーを作製することができるので、短時間で簡便に低コストで分子量マーカーを作製することができる。また、分子量マーカーは一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子からなるので、SDS-PAGEのように変性剤を用いるときだけでなく、native-PAGEのように変性剤を用いないときでも分子量に依存した移動度を示すことができる。さらに、マーカータンパク質はイムノグロブリン結合ドメインを有するので、ウェスタンブロット法において検出が可能である。また、分解されていないポリプロテインの濃度は大きいので太いバンドとして現れ、分解生成物の濃度は小さいので細いバンドとして現れるため、目的タンパク質の分子量が一見して分かるような分子量マーカーとしての優れた視認性を備えることができる。
【0010】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、ポリプロテインのC末端にCys残基が導入され、そのCys残基同士がジスルフィド結合を介して結合した多量体を含有することを特徴とすることもできる。
これにより、ポリプロテイン同士をジスルフィド結合を介して結合させて、イムノグロブリン結合ドメインを倍数保有させた多量体を作製することができる。その結果、大きい分子量のマーカータンパク質を直接的に作製する必要をなくすことができる。ここで、Cys残基をポリプロテインのC末端に導入することで、ポリプロテイン同士をジスルフィド結合を介して結合させやすくすることができる。
【0011】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、ポリプロテインは一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子が2乃至7個連結していることを特徴とすることもできる。
これにより、多くの目的タンパク質に対して分子量マーカーとして利用することができる。
【0012】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、イムノグロブリン結合ドメイン分子が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメイン、GroupGストレプトコッカス(Streptococcus)G148のGタンパク質(SpG)由来のB1ドメイン、ファインゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)由来のLタンパク質よりなる群から選ばれたものであるものとすることもできる。
【0013】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメインが、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とすることもできる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【0014】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、GroupGストレプトコッカス(Streptococcus)G148のGタンパク質(SpG)由来のB1ドメインが、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とすることもできる。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【0015】
また、本発明の分子量マーカーにおいて、ファインゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)由来のLタンパク質が、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドであることを特徴とすることもできる。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【0016】
本発明の分子量マーカー作製方法は、イムノグロブリン結合ドメインを有する一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子をリンカーを介して複数個連結されたポリプロテインを作成し、ついで、該ポリプロテインの発現宿主が前記リンカーを切断することにより複数の分子量を有する分子量マーカーを作製する、ことを要旨とする。
これにより、ポリプロテインとその分解生成物を同時に得ることができる。その結果、特別な精製方法を経ずに一回のクロマト精製を行うだけで異なった分子量をもつマーカータンパク質から構成された分子量マーカーを作製することができるので、短時間で簡便に低コストで分子量マーカーを作製することができる。また、分子量マーカーは一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子からなるので、SDS-PAGEのように変性剤を用いるときだけでなく、native-PAGEのように変性剤を用いないときでも分子量に依存した移動度を示すことができる。さらに、マーカータンパク質はイムノグロブリン結合ドメインを有するので、ウェスタンブロット法において検出が可能である。また、分解されていないポリプロテインの濃度は大きいので太いバンドとして現れ、分解生成物の濃度は小さいので細いバンドとして現れるため、目的タンパク質の分子量が一見して分かるような分子量マーカーとしての優れた視認性を備えることができる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明の分子量マーカー及びその作製方法によれば、ポリプロテインとその分解生成物を同時に得ることができるので、複雑な設備・プロセスを用いることなく短時間で簡便に低コストで分子量マーカーを作製することができる。また、分子量マーカーは一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子からなるので、SDS-PAGEのように変性剤を用いるときだけでなく、native-PAGEのように変性剤を用いないときでも分子量に依存した移動度を示すことができる。さらに、マーカータンパク質はイムノグロブリン結合ドメインを有するので、ウェスタンブロット法において検出が可能である。また、分解されていないポリプロテインの濃度は大きいので太いバンドとして現れ、分解生成物の濃度は小さいので細いバンドとして現れるため、目的タンパク質の分子量が一見して分かるような分子量マーカーとしての優れた視認性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の分子量マーカーの単量体のマーカータンパク質を示した図である。
【図2】本発明の分子量マーカーの二量体のマーカータンパク質を示した図である。
【図3】本発明の分子量マーカーをSDS-PAGEにかけ、そのゲルをCBB染色した図である。
【図4】本発明の分子量マーカーのうち特に汎用性が高いと思われるZh(5)Cys、Zh(6)Cys、Zh(7)Cysを用いてウエスタンブロット法を行った図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の分子量マーカーは、異なる分子量をもつマーカータンパク質から構成させるものである。そして、それぞれのマーカータンパク質は、イムノグロブリン結合ドメインを有するイムノグロブリン結合ドメイン分子を複数タンデムに連結させたポリプロテイン、そのポリプロテインの分解生成物、又はそれらがジスルフィド結合を介して結合した多量体である。さらに、イムノグロブリン結合ドメイン分子同士はリンカーを介して連結されている。なお、ポロプロテインには倍数体を形成する為のCysを導入することができる。

【0020】
イムノグロブリン結合ドメイン分子とは、イムノグロブリンを結合することができる領域を含む分子をいう。たとえば、スタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメイン、Group G ストレプトコッカス(Streptococcus)G148由来Gタンパク質(SpG)のB1ドメイン(SpG-B)、ファインゴルディア・マグナ(ペプトストレプトコッカス・マグナス)(Finegoldia magna(Peptostreptococcus magnus))由来のLタンパク質等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
配列番号1はプロテインA由来の抗体結合ドメイン(Zドメイン)、配列番号2はストレプトコッカスG148由来Gタンパク質のB1ドメイン、配列番号3はファインゴルディア・マグナ(ペプトストレプトコッカス・マグナス)由来のLタンパク質を示す。本明細書において、イムノグロブリン結合ドメイン分子には、上記特定のアミノ酸配列で示されるタンパク質だけでなく、これらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが包含される。すなわち、上記アミノ酸配列との相同性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドも包含される。
図1に、一個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(1)Cys)、二個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(2)Cys)、三個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(3)Cys)、四個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(4)Cys)、五個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(5)Cys)、六個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(6)Cys)、ポリプロテインすなわち七個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質(Zh(7Cys))を示す。
図2に、Zh(1)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(2)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(3)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(4)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(5)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(6)Cys二量体のマーカータンパク質、Zh(7)Cys二量体のマーカータンパク質を示す。なお、ここでは、二量体を示すが、二量体に限定されず三量体以上の多量体でもよい。

【0021】
ここで、リンカーとは、イムノグロブリン結合ドメイン分子同士を連結させるペプチドであり、発現宿主に存在するプロテアーゼによって切断可能なペプチドであり、5~30個のアミノ酸残基好ましくは5~10個のアミノ酸残基を有するペプチドである。たとえば、GPGPを含んだ配列にGGGGS(GS)を組み合わせた配列や、(GS)が1~4回繰り返された配列((GS)~(GS))や、GPGPが繰り返された配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、リンカーは切断認識部位以外は特に限定されない。切断部位は、通常GPGPと考えられるが、その他の部位が少量混在していても良い。また、連結されるイムノグロブリン結合ドメイン分子は好ましくは7個であり、これにより分子量の範囲を7.2kDa~102.0kDaまでカバーすることができる。さらに、連結されるイムノグロブリン結合ドメイン分子を増やすことで、より広い分子量の範囲をカバーすることができる。

【0022】
ここで、発現宿主とは導入された遺伝子に基づいてタンパク質を発現するものをいう。たとえば、大腸菌BL21(DE3)株、DH5アルファ株、JM109株、XL-1Blue株などのタンパク質発現が可能な原核生物(枯草菌、乳酸菌など)や、酵母などのタンパク質発現系が確立できている真核生物(酵母、培養細胞)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、化学的又は酵素的にもポリプロテインを低分子量化できるのはもちろんであるが、発現宿主を利用すれば、発現宿主に遺伝子を導入するだけで発現宿主がポリプロテインを様々なリンカーで切断することができる
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1:
イムノグロブリン結合ドメイン分子をタンデムに繋いだ遺伝子の構築
下記の方法により、イムノグロブリン結合ドメイン分子としてスタフィロコッカス(Staphylococcus)プロテインA由来の抗体結合ドメインであるZドメイン(Zh)を採用し、それをクローニングした。具体的にはタンパク質のC末端にCysを導入する為に、大腸菌のCysのコドンに最適化するようにTGCの塩基配列を含んだオリゴヌクレオチドプライマーを用いてZドメインにCysを導入した。用いたプライマーは配列番号4のセンスプライマーおよび配列番号5のアンチセンスプライマーであり、これらの合成オリゴを作製し、アニールさせた後にpCR2.1ベクターに導入し、大腸菌DH5アルファに一般的なリン酸カルシウム法によって形質転換させた。さらにベクターに存在する薬剤耐性マーカーであるアンピシリンによってスクリーニングを行い、目的の遺伝子導入クローンを選択し、Zドメインのクローニングを完了した。塩基配列を確認後、配列番号6のセンスプライマーおよび配列番号7のアンチセンスプライマーの合成オリゴを作製し、PCRで増幅し、制限酵素NcoI、XhoIで処理した後にpET-21dベクターのNcoI、XhoI部位に再度クローニング(サブクローニング)を行い、一個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(1)Cys)の構築を完了した。
次に、配列番号8のアンチセンスプライマーの合成オリゴを作製し、先に合成した配列番号6のセンスプライマーとの組み合わせで、複数個遺伝子的に連結した形(タンデム)に挿入するZドメイン遺伝子をPCRで増幅し、NcoI、PciIで処理した後に、pET-21d-Zh(1)CysのNcoI部位にクローニングし、塩基配列を確認して、二個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(2)Cys)の構築を完了させた。このようにZドメインの挿入を繰り返すことで、三個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(3)Cys)、四個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(4)Cys)、五個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(5)Cys)、六個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(6)Cys)、七個のZドメインを有しそのC末端にCys残基が導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子(pET-21d-Zh(7)Cys)を構築した。
これらのイムノグロブリン結合ドメイン分子の連結を担っているリンカーはGPGPGHからなるアミノ酸配列であり、本配列が大腸菌に存在するプロテアーゼによって特異的に認識され、部分分解を起こすことができる。
【実施例】
【0025】
実施例2:
Zh(7)Cysの製造
pET-21d-Zh(7)Cysの構築完了後、タンパク質発現大腸菌株であるBL21(DE3)に再度、リン酸カルシウム法によって形質転換させ、アンピシリンによってスクリーニング後、ポリプロテインであるZh(7)Cysの発現コンストラクトを構築した。Zh(7)Cysの発現としてはpET-21d-Zh(7)Cysを含有するBL21(DE3)株のフリーズストックから10μlを一般的なLB-アンピシリン含有培地100mlに植菌し、37℃一昼夜、前培養した。つづいて250mlのLB-アンピシリン培地4本に植えつぎ(Total 1L)、37℃で1.5時間培養した。この時点で吸光度測定装置を使って濁度OD 600 nmを測定し、OD = 0.4から0.6であることを確認し、最終濃度が1mMになるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて、37℃で一昼夜培養し、タンパク質の発現誘導を行なった。これにより、ポリプロテインに導入されているCys残基同士がジスルフィド結合を介して結合した多量体のマーカータンパク質を得ることができた。ここで、BL21(DE3)株にタンパク質の発現を誘導し、またポリプロテインに導入されているCys残基同士がジスルフィド結合を介して結合するためには、実験温度を30℃~37℃好ましくは37℃にすることが必要である。発現誘導後、菌体と培養上清を8000rpmで20分間遠心分離し、培養上清を0.45μmのフィルターで濾過したものを粗精製サンプルとした。
精製法としてはIgGセファロース樹脂(GEヘルスケア社)10mlをオープンカラムに詰めて精製カラムを用意した。カラムの平衡化溶液としてカラム容量の2~3倍量のTST緩衝液(pH 8.0)でpHが8.0になるまで平衡化し、次にカラム容量の2~3倍量の0.5M酢酸溶液(pH 3.5)を流し、pHが3.5になるまで平衡化し、このステップを二回繰り返し、最終的にTST緩衝液(pH8.0)でpHが8.0になるまで平衡化した(TST→酢酸→TST→酢酸→TST)。粗精製サンプルを自然落下、もしくはペリスタポンプ等でカラムに通し、アフィニティークロマトグラフィーを実施した。
粗精製サンプルのクロマト展開後、10倍量のTST緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、次に2倍量の0.5M酢酸アンモニウム溶液(pH 5.5)で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(0.5 M酢酸溶液(pH 3.5)を用いて50mlで溶出した。精製過程で各々分取している培養上清、素通り画分、洗浄画分、溶出画分を15%アクリルアミド濃度SDS-PAGEで解析した。電気泳動後のCBB染色によって、タンパク質の発現様相を確認し、溶出画分にZh(7)Cysの発現が確認出来た後で限外濾過膜(Amicon Ultra-4、30K)にて濃縮し、PBSで置換した。PIERCE社のBCA Protein Assay Reagent (bicinchoninic acid)試薬を用いたBCA法により定量したところ、Zh(7)Cys融合タンパク質の濃度は8.18mg/mlであり、1Lの培養から回収できる総タンパク質量は8.18mgとなった。
【実施例】
【0026】
実施例3:Zh(7)Cysの分子量の確認
発現精製したポリプロテインであるZh(7)CysをSDS-PAGE解析を行った結果、Zh(1)CysからZh(7)Cys、及びそれらのCys残基がジスルフィド結合により結合した各二量体が存在していることを確認した。具体的には、15%アクリルアミド濃度SDS-PAGEにZh(7)Cysを2μg/レーンの濃度でアプライし、電気泳動後CBB染色を行った結果、下記の表1に示す分子量をもつタンパク質の存在が確認できた。
【実施例】
【0027】
【表1】
JP0005645155B2_000002t.gif

【実施例】
【0028】
上記の表1から分かるように、単量体については、Zh(1)Cysの分子量である7.2kDa、Zh(2)Cysの分子量である14.5kDa、Zh(3)Cysの分子量である21.7kDa、Zh(4)Cysの分子量である29.0kDa、Zh(5)Cysの分子量である36.3kDa、Zh(6)Cysの分子量である43.5kDa、Zh(7)Cysの分子量である50.8kDaのタンパク質の存在が確認できた。さらに、Zh(1)CysからZh(7)CysのCys残基がジスルフィド結合により結合した各二量体については、Zh(1)Cys二量体の分子量である14.5kDa、Zh(2)Cys二量体の分子量である29.0kDa、Zh(3)Cys二量体の分子量である43.5kDa、Zh(4)Cys二量体の分子量である58.0kDa、Zh(5)Cys二量体の分子量である72.6kDa、Zh(6)Cys二量体の分子量である87.0kDa、Zh(7)Cys二量体の分子量である102.0kDaのタンパク質の存在が確認できた。
【実施例】
【0029】
図3は、同様にして作製したZh(1)CysからZh(7)Cysまでの分子量マーカーをSDS-PAGEにかけ、そのゲルをCBB染色した図面である。ここでは、Zh(1)CysからZh(7)Cysまでの分子量マーカーを2μgずつ12.5%アクリルアミドゲルに供与して電気泳動を行った後、染色している。各レーンはそれぞれ次のものを示す。すなわち、レーンMはBio-Rad社の分子量マーカーを、レーン1はZh(1)Cysを、レーン2はZh(2)Cysを、レーン3はZh(3)Cysを、レーン4はZh(4)Cysを、レーン5はZh(5)Cysを、レーン6はZh(6)Cysを、レーン7はZh(7)Cysをそれぞれ示す。各レーンにおける実線で囲まれたバンドは、単量体のマーカータンパク質を示す。また、各レーンにおける点線で囲まれたバンドは、二量体のマーカータンパク質を示す。そして、単量体と二量体のマーカータンパク質を示すバンド以外のバンドは、単量体又は二量体のマーカータンパク質に存在するリンカーに部分切断が起きることにより生じた分解生成物を示す。また、図面の左側に指標となる分子量を示す。
【実施例】
【0030】
実施例4:
Zh(7)Cysのイムノグロブリン結合ドメインの機能確認
発現精製したポリプロテインであるZh(7)CysをSDS-PAGEを行い、アクリルアミドゲルをPolyVinylidene DiFluoride(PVDF)膜に転写後にウエスタンブロットによってZh(7)Cysのイムノグロブリン結合ドメインの機能を確認した。すなわち、15%アクリルアミド濃度SDS-PAGEにZh(7)Cysを2μg/レーンの濃度でアプライし、電気泳動後、PVDF膜に泳動ゲルを電気的に転写させた。転写の条件としてはATTO社のEzBlot試薬を用いて100mA一定、1時間で反応させた。転写後のPVDF膜をPBST(0.05% Tween-20含有PBS)で10分間の洗浄を三回繰り返し、さらにPBSで10分間の洗浄を三回行う。引き続いて10%のスキンミルクを室温で1時間反応させることでブロッキング反応を行う。この作業により非特異的な抗体の結合を押さえる。ブロッキング反応後、PVDF膜をPBSTで10分間の洗浄を三回繰り返し、さらにPBSで10分間の洗浄を三回行う。続いてHRP標識イムノグロブリンを適切な希釈倍率(例えば4000倍)に3%スキンミルク溶液を用いて調製を行い、室温で30分間浸透させて反応させる。その後、PBSTで10分間の洗浄を三回繰り返し、さらにPBSで10分間の洗浄を三回行う。化学発光HRP基質を用いてX線フィルムに適切な時間で感光させる。イムノグロブリン結合能があれば、各種分子量のバンドがシグナルとして検出され、ウエスタンブロット法におけるマーカーとして機能することが分かる。
【実施例】
【0031】
図4は、本発明の分子量マーカーのうち特に汎用性が高いと思われるZh(5)Cys、Zh(6)Cys、Zh(7)Cysを用いてウエスタンブロット法を行った図面である。ここでは、Zh(5)CysからZh(7)Cysまでのタンパク質を2μgずつ12.5%アクリルアミドゲルに供与し、電気泳動を行った後、アクリルアミドゲルをPVDF膜に転写後、10%スキンミルクで非特異的な検出を抑えるためのブロッキング反応を行った後、検出抗体としてHRP標識GoatIgG
またはHRP標識mouseIgGを用いて室温で約30分間反応させた。その後、余分な抗体を洗浄後、化学蛍光基質と反応させ、X線フィルムに適切な時間露光させたものである。各レーンはそれぞれ次のものを示す。すなわち、レーンMはBio-Rad社の分子量マーカーを、レーン1はZh(5)Cysを、レーン2はZh(6)Cysを、レーン3はZh(7)Cys、レーンDはオリエンタル酵母社の分子量マーカーをそれぞれ示す。また、図面の左側及び右側に指標となる分子量を示す。
【実施例】
【0032】
また、上記実施例では一種類の遺伝子(pET-21d-Zh(7)Cys)を発現宿主に導入しているが、複数種類の遺伝子(たとえば、pET-21d-Zh(3)CysとpET-21d-Zh(7)Cys)を発現宿主に導入することもできる。
【実施例】
【0033】
上記結果から分かるように、本発明の分子量マーカー及びその作製方法によれば、ポリプロテインとその分解生成物を同時に得ることができるので、複雑な設備・プロセスを用いることなく短時間で簡便に低コストで分子量マーカーを作製することができる。また、分子量マーカーは一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子からなるので、SDS-PAGEのように変性剤を用いるときだけでなく、native-PAGEのように変性剤を用いないときでも分子量に依存した移動度を示すことができる。さらに、マーカータンパク質はイムノグロブリン結合ドメインを有するので、ウェスタンブロット法において検出が可能である。また、分解されていないポリプロテインの濃度は大きいので太いバンドとして現れ、分解生成物の濃度は小さいので細いバンドとして現れるため、目的タンパク質の分子量が一見して分かるような分子量マーカーとしての優れた視認性を備えることができる。
なお、本発明の分子量マーカーにおいてポリプロテインにCys残基を導入すれば、ポリプロテイン同士をジスルフィド結合を介して結合させて、イムノグロブリン結合ドメインを倍数保有させた多量体を作製することができ、大きい分子量のタンパク質を直接的に作製する必要をなくすこともできる。ここで、Cys残基をポリプロテインのC末端に導入すれば、ポリプロテイン同士をジスルフィド結合を介して結合させやすくすることができる。
さらに、本発明の分子量マーカーにおいてポリプロテインを一種類のイムノグロブリン結合ドメイン分子が2乃至7個連結しているものとすれば、多くの目的タンパク質に対して分子量マーカーとして利用することもできる。
また、複数種類の遺伝子(たとえば、pET-21d-Zh(6)CysとpET-21d-Zh(7)Cys)を発現宿主に導入すれば、マーカータンパク質の濃度、すなわちバンドの太さを調節することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の分子量マーカーの用途としては、たとえば、タンパク質の電気泳動(SDS-PAGE、native-PAGE)やウエスタンブロット解析としての用途等が挙げられる。等電点に影響されずに分子量に依存した移動度が実現できるので、SDS等の変性在中では崩壊してしまうようなタンパク質及び多量体形成タンパク質の正確な分子量解析にも適用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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