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明細書 :ホウネンカメムシを用いた生物農薬およびホウネンカメムシを用いた貯蔵食品害虫の生物的防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4993536号 (P4993536)
公開番号 特開2005-200361 (P2005-200361A)
登録日 平成24年5月18日(2012.5.18)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
公開日 平成17年7月28日(2005.7.28)
発明の名称または考案の名称 ホウネンカメムシを用いた生物農薬およびホウネンカメムシを用いた貯蔵食品害虫の生物的防除方法
国際特許分類 A01N  63/00        (2006.01)
A01P   7/04        (2006.01)
A01M  17/00        (2006.01)
FI A01N 63/00 Z
A01P 7/04
A01M 17/00 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2004-008882 (P2004-008882)
出願日 平成16年1月16日(2004.1.16)
審査請求日 平成18年12月27日(2006.12.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】独立行政法人国際農林水産業研究センター
【識別番号】504020382
【氏名又は名称】タイ王国
発明者または考案者 【氏名】宮ノ下 明大
【氏名】今村 太郎
【氏名】林 徹
【氏名】ポンティップ・ビザラタノン
【氏名】チュウイット・スクプラカン
個別代理人の代理人 【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
【識別番号】100102842、【弁理士】、【氏名又は名称】葛和 清司
審査官 【審査官】今井 周一郎
参考文献・文献 Norman T. DAVIS and Robert L. USINGER,The biology and relationships of the Joppeicidae (Heteroptera),Annals of the Entomological Society of America,1970年,Vol.63, No.2,p.577-587
調査した分野 A01N 63/00
CA/REGISTRY(STN)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
鞘翅目および/または鱗翅目の貯蔵食品害虫が生息する閉鎖環境施設に、ホウネンカメムシ(Joppeicus paradoxus Puton)を0.5~5頭/mとなるように放つ、貯蔵食品害虫の防除方法。
【請求項2】
貯蔵食品害虫が、コクヌストモドキ、ヒラタコクヌストモドキ、カシミールコクヌストモドキ、ノコギリヒラタムシ、チャマダラメイガ、スジコナマダラメイガ、スジマダラメイガ、ガイマイツヅリガおよびノシメマダラメイガから選択される1または2以上の貯蔵食品害虫である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホウネンカメムシが、閉鎖環境施設に放つ前に絶食させられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
寄生蜂をさらに用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は天敵として捕食性カメムシ類のホウネンカメムシ(Joppeicus paradoxus Puton)を使用する貯蔵食品害虫用の生物農薬およびそれを使用する貯蔵食品害虫の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貯蔵食品害虫は、その幼虫あるいは成虫が貯蔵中の穀類や食品を食害する昆虫である。食害による食品の量的な損耗の他にも、異物として害虫が食品に混入した場合、食品メーカーや流通産業関係者の衛生的責任が問われるなど大きな問題になっている。
【0003】
上記のような貯蔵食品害虫を防除するために、くん蒸剤の臭化メチルとリン化水素や接触殺虫剤(マラチオン、フェニトロチオン等)を用いた化学的防除が長年行われている。しかし、臭化メチルには地球のオゾン層破壊作用があることが判明し、先進国では2005年には検疫用等一部を除き使用禁止になる。さらに、リン化水素や接触殺虫剤には、それらに抵抗性を持つ貯蔵食品害虫が出現し、該害虫の防除が困難になりつつある。
【0004】
このような背景から、近年、化学合成殺虫剤でない害虫防除資材として、アメリカでは寄生蜂3種、捕食性カメムシ1種の天敵が、貯蔵食品害虫防除用生物農薬として市販されるに至っている。該生物農薬は従来の化学合成殺虫剤とは異なり、化合物を用いないため、前記のような問題を回避されている。そのため、これらの外国産の天敵を日本に導入すれば、前記のような問題は解消される可能性がある。
【0005】
しかし、外国産の天敵を国内に導入した場合、国内生態系が影響を受ける可能性がある。また、外国産の天敵が、我が国に生息している多種の害虫に対して、必ずしも有効であるとは限らない。すなわち、外国産の天敵を導入することによって、化学合成殺虫剤で問題になっている問題は解消されるが、環境への安全性および効果の面においてはなお問題が残る可能性がある。
以上のとおり、貯蔵食品害虫の防除に大きな効果をもったくん蒸剤は、地球環境に与える悪影響、食品の安全性向上、農薬抵抗性害虫の出現により、将来その使用が制限されていくと考えられる。そのため、くん蒸剤に代わる食品および環境等への安全性を有する貯蔵食品害虫防除剤および防除方法が希求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような、従来の化学的防除における問題点および外国産天敵を導入した場合の問題をいずれも解消する、安全かつ効果的な、貯蔵食品害虫の防除資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み鋭意研究を行う中で、本発明者らは、実際の食品貯蔵庫等に生息する外国産捕食性昆虫であるホウネンカメムシに着目し、該昆虫を用いることによって、驚くべきことに、極めて効果的かつ安全に貯蔵食品害虫を防除することができることを見出し、さらに研究を進めて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、捕食性カメムシ類のホウネンカメムシ(Joppeicus paradoxus Puton)を主成分として含む、貯蔵食品害虫防除用の生物農薬に関する。
また、本発明は、ホウネンカメムシが、卵、幼虫および成虫から選択される一種または二種以上である前記生物農薬に関する。
さらに、本発明は、貯蔵食品害虫が生息する施設(精米所、貯蔵倉庫、製粉工場)に、ホウネンカメムシを放つことを特徴とする、貯蔵食品害虫の防除方法に関する。
【0008】
ホウネンカメムシは、コクヌストモドキなどの貯蔵食品害虫を補食する、これらの害虫の天敵である。本発明の生物農薬においては、貯蔵食品害虫の防除を行うために、ホウネンカメムシが主成分として用いられる。
ホウネンカメムシは、タイ国における土着昆虫であり、我が国における生息は確認されていない。その生態等については未知の部分もあるが、極めて原始的なカメムシであり、また、世界各国において近縁種さえ見出されていないという特性を有する。したがって、ホウネンカメムシを我が国に導入しても、国内の天敵種との競争や交配が起こるとは考えられない。
また、貯蔵食品害虫の防除を対象とした生物農薬の処理は、貯蔵施設や工場内等に限定されるため、用いられた天敵は外部に拡散しにくい。しかも、ホウネンカメムシは熱帯性であるため、その生育最適温度は30℃程度である。したがって、仮にホウネンカメムシが防除施設外に出たとしても、我が国における生態系に影響を与えるほどにその密度を増加することは、生育最適温度の面からも不可能である。
以上のことから、ホウネンカメムシの我が国の生態系への影響は極めて小さいと考えられる。
【0009】
米国産カメムシについては、既に貯蔵食品害虫防除用生物農薬として用いられていることは上記の通りである。また、野外や施設野菜の農作害虫については、我が国においてもカメムシ類を用いて防除する試みがなされている。しかしながら、貯蔵食品害虫に対しては、野外に生息する害虫と比較して、天敵昆虫の種類が顕著に少ないこと、穀物や加工食品の低温貯蔵が外国より普及している等の理由により、これまでにカメムシ類は勿論、他の天敵昆虫類も、貯蔵食品害虫防除用生物農薬として利用されるには至らなかった。
一方、本願発明の生物農薬の主成分であるホウネンカメムシは、捕食量が多く、かつ寿命が長いため、より少ない処理回数によって、より長期の防除効果を発揮することができる。例えば、ホウネンカメムシ成虫の寿命は、米国において市販されているミナミハシブトハナカメムシ成虫より約3倍長い。
【0010】
上記背景の下、本発明は、ホウネンカメムシによる防除効果を確認し、さらに大量飼育法も確立することによって完成された、既存のカメムシ類を用いた方法の効果を上回る効果を有する、ホウネンカメムシを用いた新たな生物農薬である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ホウネンカメムシを主成分として用いるため、化学農薬を用いた場合に比して、食品への農薬残留がなく消費者に対して安全である。また、勿論オゾン層への影響もないため、環境に対しても安全である。
また、本発明の生物農薬は、ホウネンカメムシを主成分として用いるため、他の外国産カメムシを用いた場合に比して、貯蔵施設内外の生態系に対しても安全である。さらに、本発明の生物農薬は、貯蔵施設という閉鎖環境に適用されるため、野外の生態系に与える影響も極めて少ない。また、本発明の生物農薬は、多種の害虫に対して、より長期にわたり有効である。
すなわち、本発明の生物農薬によれば、貯蔵食品害虫の防除を、従来実施または考えられていた方法より、安全に、かつ効果的に行うことができる。
【0012】
また、本発明の生物農薬うち、ホウネンカメムシが、卵、幼虫および成虫から選択される一種または二種以上であるものを用いれば、貯蔵食品害虫の防除の時期を任意に制御することができるため、より効果的な防除を行うことができる。
【0013】
さらに、本発明の貯蔵食品害虫の防除方法によれば、貯蔵食品害虫が生息する施設(精米所、貯蔵倉庫、製粉工場)に、ホウネンカメムシを放つという極めて簡便な方法によって貯蔵食品害虫の防除を行うことができる。かかる方法は、前記のとおり食品および生態系に対して安全であるばかりでなく、使用者に対しても極めて安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による生物農薬は主成分としてホウネンカメムシを含むものであれば、その形状、他の成分は限定されない。
本発明による生物農薬の剤型は制限されず、卵、幼虫、成虫をそのまま生物農薬として用い得る。これらは総体積が小さいため、運搬、保存時の省スペースの観点から好ましい。
また、ホウネンカメムシを入れた瓶、またはホウネンカメムシを貼付した小紙片などは、流通面および使用面のいずれにおいても好適である。
瓶を用いる場合には、ホウネンカメムシの生育ステージは限定されない。また、小紙片を用いる場合には、ホウネンカメムシの生育ステージは卵が好適である。
【0015】
本発明による生物農薬の他の成分としては、ホウネンカメムシの生存および/または生育に影響しないものを、増量剤、保温剤、保湿剤、衝撃吸収剤などとして用いることができる。
これらの他の成分の例としては、籾殻、小麦粉、おから、小紙片、繊維、タルク、バーミキュライト、ベントナイト、発泡スチロールなどが挙げられる。
【0016】
ホウネンカメムシは半翅目に属する昆虫であるため、その生育ステージは卵、幼虫および成虫から構成される。本発明の生物農薬において、用いられるホウネンカメムシの生育ステージは制限されないが、幼虫および/または成虫を用いた場合には、防除効果はより速効的に表れる。成虫は摂食量が大きいため、その効果はとくに速効的である。
一方、卵については、孵化後に初めて防除効果が現れるため、速効性を要しない、予防的な防除を必要とする場面において好適に用いられる。また、卵と幼虫および/または成虫とを併用すれば、速効性に加えて、より長期の残効性も得られる。
すなわち、本発明の生物農薬うち、ホウネンカメムシの生育ステージが、卵、幼虫および成虫から選択される一種または二種以上であるものを用いれば、貯蔵食品害虫の防除の時期を任意に制御することができるため、より効果的な防除を行うことができる。
【0017】
本発明の生物農薬を用いて貯蔵食品害虫の防除を行うためには、防除を要する食物貯蔵施設(精米所、貯蔵倉庫、製粉工場など)に前記の瓶または小紙片を設置するという極めて簡便な方法によって行うことができる。
防除に必要なホウネンカメムシの個体密度は、施設の規模、貯蔵食物の量、ホウネンカメムシの生育ステージによって適宜調節することができる。例えば、成虫を用いる場合、その密度は0.5~5頭/mであればよく、コストの面からは0.5~2頭/mが好ましく、効果の面からは2~5頭/mが好ましい。
なお、本発明における「施設」の語は、施設の内部および外部のいずれをも包含する。
また、貯蔵食品害虫には、穀粒の内部を食害する種と、その外部を食害する種類が存在するところ、ホウネンカメムシは、後者に属するコクヌストモドキ、ノシメマダラメイガ等のみを捕食する。一方、前者を捕食する天敵として、寄生蜂の類が知られている。したがって、本発明の生物農薬のうち、寄生蜂をさらに含むものは、防除対象害虫の範囲が広がるため好ましい。
前記寄生蜂の例としては、コクゾウホソバチ、コクゾウコバチおよびゾウムシコガネコバチが挙げられる。
【0018】
生物農薬の普及においては、目的とする生物個体の大量による安定供給システムの確立が不可欠である。ホウネンカメムシの大量飼育は、例えば下記のようにして行うことができる。
〔ホウネンカメムシの飼育法〕
餌として用いたのはヒラタコクヌストモドキの生卵と冷凍さなぎであるが、卵、幼虫、さなぎそれぞれ生でも冷凍でも餌として使用可能である。ヒラタコクヌストモドキは小麦全粒粉で累代飼育し、卵とさなぎを確保する必要がある。直径12cm、高さ6cmのプラスチック容器の底面に足場としてメッシュ(1×1mm)を敷く。ふたには直径4cmの穴を開け、300メッシュの金属網を溶接し上面からろ紙をテープで貼って通気性をもたせる。容器内にホウネンカメムシ成虫の雌雄をそれぞれ20頭放し、1週間に2度の間隔でコクヌストモドキの生卵100個および冷凍さなぎ20頭を与える。カメムシの雌成虫は容器内に産卵し次世代が増殖する。飼育は温度30℃、湿度 70%、全明条件で行う。
【0019】
以下に、本発明を例を用いてさらに詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1 捕食性天敵の探索
日本やタイ国の穀物や飼料など食品が貯蔵されている施設(精米所、貯蔵倉庫、製粉工場など)を調査し、捕食性カメムシを探索した結果、表1に示す4種の捕食性カメムシ類を採集した。その結果、タイ国の食物貯蔵施設から、新たな天敵昆虫として、ホウネンカメムシが見出された(表1)。
【0021】
【表1】
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【0022】
実施例2 ホウネンカメムシの捕食範囲
上記の方法で発見された貯蔵食品害虫の天敵であるホウネンカメムシについて、代表的な害虫(鞘翅目および鱗翅目)に対する捕食範囲を調べた。
天敵として利用するためには、貯蔵施設において捕食可能な害虫の種類を調べる必要がある。貯蔵食品害虫の2目9種に対して、ホウネンカメムシ成虫が捕食可能か否かを調べた結果、害虫種に関わらず、卵や幼虫をよく捕食することが明らかになった。具体的な種と捕食可能な害虫の発育ステージを表2に示した。
【0023】
【表2】
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【0024】
実施例3 ホウネンカメムシの防除効果(捕食量)
貯蔵食品害虫の代表的な種類として、製粉工場や精米所に発生するコクヌストモドキ(甲虫類:鞘翅目)と、食品の貯蔵倉庫に発生するノシメマダラメイガ(蛾類:鱗翅目)について、24時間でホウネンカメムシ1頭が捕食できる量(頭数)を調べた。すなわち、コクヌストモドキ終齢幼虫を4、8、12、16、20、24、28頭入れた丸型シールケース(直径5.5cm, 高さ3cm)を用意し、異なる餌密度条件を6段階に設定した。ホウネンカメムシの雄、雌成虫について、48時間絶食させたのち、前記各ケースに1個体ずつ投入し温度30℃、湿度70%の条件に24時間放置してその捕食数を数えた。
また、ノシメマダラメイガ2齢幼虫を餌に用いて、同様の実験を行った。
その結果を表3-1および2に示した。特に、コクヌストモドキ終齢幼虫に対して、平均捕食数が約6頭であり、既にアメリカで天敵として販売されているミナミアシブトハナカメムシ(Xylocoris flavipes)の平均捕食数(約2頭)より有意に多かった。したがって、ホウネンカメムシが天敵として極めて有効であることが明らかになった。
【0025】
【表3】
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【0026】
実施例4 ホウネンカメムシの発育速度
温度条件25、28、30、32、34、35℃で、ヒラタコクヌストモドキの卵を餌に用いてホウネンカメムシを飼育し卵から成虫までの発育日数を調べた。 その結果、平均発育日数は32.0℃で最も短く60.2日であった(表4)。
【0027】
【表4】
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【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の生物農薬または貯蔵食物害虫の防除方法によれば、多種の貯蔵食物害虫を安全に、簡便、かつ効果的に防除することができる。したがって、本発明は、食物貯蔵産業・供給産業およびその関連産業の発展に寄与するところ大である。