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明細書 :酸化マグネシウム薄膜の作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第5246900号 (P5246900)
登録日 平成25年4月19日(2013.4.19)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
発明の名称または考案の名称 酸化マグネシウム薄膜の作成方法
国際特許分類 C30B  29/16        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
C23C  14/24        (2006.01)
B01J  37/02        (2006.01)
B01J  21/10        (2006.01)
FI C30B 29/16
C23C 14/08 J
C23C 14/24 N
B01J 37/02 301P
B01J 21/10 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2012-139897 (P2012-139897)
出願日 平成24年6月21日(2012.6.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 Physical Review B,Vol.84,Issue 23,(2011年12月29日),第235448頁,インターネット<http://prb.aps.org/abstract/PRB/v84/i23/e235448>に発表
審査請求日 平成24年11月13日(2012.11.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】須崎 友文
【氏名】細野 秀雄
【氏名】藤橋 忠弘
【氏名】戸田 喜丈
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100124291、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 悟
【識別番号】100161425、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 鉄平
審査官 【審査官】鮎沢 輝万
参考文献・文献 特開2012-017236(JP,A)
T. FUJIHASHI et al.,MgO(111) surface characterized by CO2 adsorption,Joint Conference of The 5th International Conference on the Science and Technology for Advanced Ceramics and The 2nd International Conference on Advanced Materials Development and Integration of Novel Structured Metallic and Inorganic Materials,2011年 6月22日,23pP123
藤橋忠弘、他3名, CO2をプローブとしたMgO/Nb:SrTiO3(111)表面特性の観察,応用物理学関係連合講演会 講演予稿集,2011年 3月24日,Vol. 58,24p-BC-2
調査した分野 C30B 1/00-35/00
B01J 21/10
B01J 37/02
C23C 14/00-14/58
要約 【課題】平坦なMgO(111)面を簡易な手法で作成できる作成方法及び平坦なMgO(111)面を有する処理板を提供する。
【解決手段】レーザアブレーション法により酸化マグネシウムの焼結体又は単結晶をターゲットとして用いて酸化マグネシウム薄膜3を基板2上に堆積する方法である。この方法では、(111)面を主面2aとするチタン酸ストロンチウムまたは(111)面を主面2aとするイットリア安定化ジルコニアからなる基板2を用い、前記基板2の前記主面2a上に膜を直接堆積しエピタキシャル成長させることによって(111)面を表面3aとする酸化マグネシウムからなる平坦な処理膜3を作成する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザアブレーション法により酸化マグネシウムの焼結体又は単結晶をターゲットとして用いて酸化マグネシウム薄膜を基板上に堆積する方法において、
(111)面を主面とするチタン酸ストロンチウムまたは(111)面を主面とするイットリア安定化ジルコニアからなる基板を用い、前記基板の前記主面上に膜を直接堆積しエピタキシャル成長させることによって(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる平坦な処理膜を作成し、
前記レーザアブレーション法におけるレーザエネルギー量は、50mJ以上であり、
前記処理膜は、膜厚が50nmを超えない膜であって、酸化マグネシウム(111)面の二乗平均平方根粗さRqが0.5nmを超えない膜である酸化マグネシウム薄膜の作成方法。
【請求項2】
前記処理膜は、膜厚が5~20nmの膜である請求項1に記載の酸化マグネシウム薄膜の作成方法。
【請求項3】
前記処理膜の成膜時の基板温度は、600~650℃である請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム薄膜の作成方法。
【請求項4】
前記処理膜の成膜時の酸素分圧は、0.5×10-3~2.0×10-3Paである請求項1~の何れか一項に記載の酸化マグネシウム薄膜の作成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明の種々の側面及び実施形態は、酸化マグネシウム薄膜の作成方法及び処理板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム(MgO)は、サファイア(Al)と同様にワイドギャップを有する代表的な酸化物絶縁体である。このため、MgOは、薄膜成長のための基板として用いられることがある。成長基板としてMgOを用いる場合には、成長薄膜の格子定数に対するMgO基板の格子定数のマッチングが考慮される。薄膜を成長させるMgOの結晶面として、例えば面方位が(100)である面が用いられる場合がある(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、TMR効果を奏する構成として、Fe(100)/MgO(100)/Fe(100)が記載されている。MgOとFeとの格子ミスマッチは1%以下であり、Feの成長基板としてMgOが好適であることが示唆されている。
【0003】
一方、薄膜を成長させるMgOの結晶面として、例えば面方位が(111)である面が用いられる場合がある(例えば、非特許文献2,3参照)。非特許文献2には、MgO(111)面上にスピネル構造を持つ強磁性体を形成することにより、保磁力及び残留磁気が増大することが記載されている。非特許文献3には、代表的な強誘電薄膜である(Ba,Sr)TiO薄膜をMgO基板の(111)面上又は(100)面上に形成することが記載されている。そして、(Ba,Sr)TiO薄膜をMgO基板の(111)面上に形成した方が(100)面上に形成する場合に比べて高周波領域での特性が良好となることが記載されている。
【0004】
上述したように、MgOの(100)面及び(111)面は、成長基板として様々な膜に適用できる。そして、MgOの(111)面は、(100)面に比べて有利な効果を奏する場合がある。なお、非特許文献4には、(111)面を主面とするイットリア安定化ジルコニア(YSZ)上に、NiO(111)を形成し、該NiO(111)上にMgOを成長させることで、二乗平均粗さRRMSが0.21~0.23nmとなるMgOの(111)面が得られるとの記載がある。ここで、二乗平均粗さRRMSは、二乗平均平方根粗さRと同義である(JIS B0601)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】X.W. Li, A. Gupta, Gang Xiao, W. Qian, and V. P. Dravid, Appl. Phys. Lett. 73,3282 (1998).
【非特許文献2】S.D. Yoon, S. A. Oliver, and C. Vittoria, J. Appl. Phys. 91, 7379 (2002).
【非特許文献3】M.Noda, T. Yamada, K. Seki, T. Kamo, K. Yamashita, H. Funakubo and M. Okuyama:IEEE Trans. on UFFC, 57(10) (2010) 2221-2227.
【非特許文献4】K.Matsuzaki, H.Hosono, T.Susaki. Layer-by-layer epitaxial growth of polarMgO(111) thin films, PHYSICAL REVIEW B, vol. 82, 3, p. 033408, Jul. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MgOの(100)面は、陽イオンであるMg2+及び陰イオンであるO2-が等量露出しており、静電的に安定している。一方、MgOの(111)面は、陽イオンであるMg2+及び陰イオンであるO2-の何れかが露出することになるため、静電的に不安定であり、天然には存在しない。すなわち、MgOの(111)面は、特異な化学的・電気的表面特性を有することになる。この特性は、MgOの(111)面が平坦であればあるほど顕著になると考えられる。よって、平坦なMgOの(111)面を得ることができれば、格子マッチングによる成長面の制御以外の価値を付加することができる基板として、新しいデバイスを作成できる可能性がある。
【0007】
ここで、MgOの(111)面は、通常、単結晶からMgO(111)面を切り出し、機械的に研磨する方法により得られる。しかしながらこのような手法では、二乗平均平方根粗さRが3ナノメートル程度以上となり、静電的に不安定なMgO(111)の平坦面を得るのは困難である。従って、MgO(111)は、上記のような特異な特性を有する反面、ナノメートルオーダーで成長膜を制御する基板として採用することは困難である。また、非特許文献4に記載の手法では、基板との間にNiO膜を形成する必要があるため、手間がかかり効率的ではない上にNiO膜の分だけ厚い膜となる。当技術分野では、平坦なMgO(111)面を簡易な手法で作成できる作成方法及び平坦なMgO(111)面を有する処理板が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る酸化マグネシウム薄膜の作成方法は、レーザアブレーション法により酸化マグネシウム焼結体又は単結晶をターゲットとして用いて酸化マグネシウム薄膜を基板上に堆積する方法である。この方法では、基板上に酸化マグネシウムからなる処理膜を作成する。基板は、(111)面を主面とするチタン酸ストロンチウムまたは(111)面を主面とするイットリア安定化ジルコニアからなる。該基板の主面上に膜を直接堆積しエピタキシャル成長させることによって、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる平坦な処理膜を作成する。処理膜は、膜厚が50nmを超えない膜であって、酸化マグネシウム(111)面の二乗平均平方根粗さRqが0.5nmを超えない膜である。レーザアブレーション法におけるレーザエネルギー量は、50mJ以上である。
【0009】
この作成方法では、チタン酸ストロンチウム(111)またはイットリア安定化ジルコニア(111)からなる基板の(111)面上に、(111)面を表面とする酸化マグネシウムが直接形成されている。すなわち、チタン酸ストロンチウム(111)またはイットリア安定化ジルコニア(111)からなる基板の(111)面をMgOの成長基板として採用し、レーザアブレーション法により堆積させてエピタキシャル成長させることで、平坦なMgOの(111)面を得ることができる。処理膜の膜厚が50nmを超えない範囲とすることで、酸化マグネシウム(111)面の二乗平均平方根粗さRqが0.5nmを超えない範囲の平坦さを実現することができる。そして、成膜時のエネルギーを従来手法に比べて大きくすることで、MgO(111)面を形成することができる。
【0010】
一実施形態では、処理膜は、膜厚が5~20nmの膜であってもよい。処理膜の膜厚を5~20nmとすることで、平坦なMgOの(111)面を確実に得ることができる。
【0011】
た、処理膜の成膜時の基板温度は、600~650℃であってもよい。さらに、処理膜の成膜時の酸素分圧は、0.5×10-3~2.0×10-3Paであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の種々の側面及び実施形態によれば、簡易な手法で平坦なMgOの(111)面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】処理板の構成を説明するための図である。
【図2】MgOの結晶構造を模式的に示す図である。
【図3】製造装置の主な構成を説明するための図である。
【図4】実施例に係る処理板のXRD回折パターンである。
【図5】実施例に係る処理膜のAFM像である。(a)は膜厚5nm、(b)は膜厚10nm、(c)は膜厚20nm、(d)は膜厚50nmである。
【図6】(a)は実施例に係る処理膜の特性を説明するための図であり、(b)は比較例に係る処理膜の特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。

【0019】
本実施形態に係る処理板の構成について説明する。図1は、処理板1の構成を説明するための図である。処理板1は、基板2と処理膜3とを備えている。

【0020】
基板2は、無機材料により形成される板状物であり、好ましくはチタン酸ストロンチウム又はイットリア安定化ジルコニア等の1種以上で形成される結晶、又は非結晶構造物である。この基板2の好ましい結晶構造は、主面2aの法線に沿った方向に関して3回対称性又は6回対称性を有する。基板2として、例えば、(111)面を表面とするチタン酸ストロンチウム(SrTiO)又は(111)面を表面とするイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などが用いられる。

【0021】
SrTiOは、三酸化チタン(IV)ストロンチウムとも呼ばれ、複合酸化物でありペロブスカイト型の結晶構造を有する。さらに、基板2を構成するSrTiO等には不純物がドープされてもよい。不純物がドープされた基板2に電圧を印加すると、基板2に電流が流れるため、抵抗発熱により基板2が加熱される。よって、基板2に印加する電圧を制御することにより処理膜3の温度を制御することが可能となる。すなわち、処理膜3の加熱を容易に行うことができる。不純物としては、例えばニオブ(Nb)が用いられる。不純物であるNbのドープ量は、例えば0.01~0.5重量パーセントである。また、基板2は、例えば、面方位が(111)に配向された主面2aを有する。

【0022】
処理膜3は、基板2の主面2a上に直接形成されている。すなわち、処理膜3の裏面と基板2の主面2aとは接合されている。処理膜3は、(111)面を表面とする酸化マグネシウムからなる表面3aを有している。処理膜3の厚さ(膜厚)は、例えば0.5~100nmである。なお、処理膜3の厚さは、50nmを超えない厚さであってもよい。また、処理膜3の厚さは5~20nmであってもよく、7~15nmであってもよい。

【0023】
ここで、一般的なMgOの結晶構造を説明する。図2は、MgOの結晶構造を模式的に示す図である。MgOは、立方晶系である塩化ナトリウム型の結晶構造を有し、天然に存在するMgOの表面の面方位は(100)である。原子スケールで平坦化されたMgOの(100)面は、陽イオンであるMg2+と、陰イオンであるO2-とが等量露出した面であり、電気的に中性であるために安定な面である。

【0024】
一方、本実施形態に係る処理膜3は、面方位が(111)である結晶面CFからなる表面3aを有する。この結晶面CFには、陽イオンであるMg2+のみが露出した面、又は陰イオンであるO2-のみが露出した面が露出している。このために、結晶面CFは、電気的にプラス又はマイナスに帯電しており、静電的に不安定な面である。このような結晶面CFは、特異な化学的・電気的表面特性を有する。例えば、結晶面CFは、強い塩基性、電子供給性又は触媒能を有する。触媒能の具体的な事例としては、二酸化炭素(CO)を吸着する能力又は還元する能力である。

【0025】
処理膜3の表面3aは原子スケールで平坦化されている。「原子スケールで平坦」とは、結晶面が完全に平坦な場合のみに限定されない。実際に原子レベルで平坦化された結晶面を作成した場合、原子レベルで見ると結晶の表面は微小に傾いている。このとき、結晶の表面には原子層に相当するステップ構造が形成されている。このような場合も結晶面が「原子スケールで平坦」である場合に含まれる。具体的には、処理膜3の表面3aの二乗平均平方根粗さRが、例えば1.0nmを超えない範囲とされる。また、二乗平均平方根粗さRが0.5nmを超えない範囲であってもよい。Rは、原子間力顕微鏡を用いることにより、例えば、一辺が1~2μmの領域を走査することにより算出される。

【0026】
次に、処理板1の製造方法について説明する。処理板1の製造には、例えばレーザアブレーション法を用いることができる。レーザアブレーション法によれば、比較的広い成膜条件下において処理板1を製造することができる。

【0027】
図3は、製造装置10の構成を説明するための図である。製造装置10は、チャンバ11、基板2及びターゲット12を備えている。

【0028】
チャンバ11は、その内部に、基板2及びターゲット12を収容する処理空間11aを画成する。基板2は例えば処理空間11aの上方に配置されている。ターゲット12は、処理空間11aの下方に配置されている。すなわち、ターゲット12は、基板2に対して鉛直下向きの方向に、基板2から離間して配置されている。ターゲット12と基板2との距離は任意であり、製造装置10の規模に応じて適宜選択すればよい。ターゲット12は、基板2の主面2a上に形成される処理膜3の原料である。

【0029】
チャンバ11の側壁には、光学的に透明に構成された窓13が設けられている。レーザ光源15は、チャンバ11の外部に配置され、ターゲット12に照射されるレーザ光Lを発生する。レーザ光源15は、窓13を介してターゲット12へレーザ光Lを出射する。

【0030】
チャンバ11には、排気装置14が接続されている。排気装置14は、チャンバ11内の処理空間11aを減圧する。排気装置14は、所定の真空ポンプである。例えばターボ分子ポンプや油拡散ポンプ等を用いることができる。このように、チャンバ11は真空排気可能に構成されている。さらに、チャンバ11には、ガス導入装置18が接続されている。ガス導入装置18は、ガス源19、及び弁20を含んでおり、チャンバ11の処理空間11aへ所定のガスを導入する。

【0031】
また、処理空間11aには、加熱装置16が配置されている。加熱装置16は、ランプ光源17を備えている。このランプ光源17からの光は、基板2に集光され、所定の温度に基板を加熱し得る。

【0032】
続いて、処理板1を製造する工程について説明する。まず、チャンバ11内に基板2及びターゲット12を配置する。なお、基板2の材料の一例として、SrTiO又はYSZを用い、その主面2aが(111)面である場合を説明する。また、ターゲット12の一例として、MgO焼結体又はMgO単結晶を用いた場合を説明する。

【0033】
チャンバ11内に基板2及びターゲット12を配置した後に、チャンバ11の内部を10-5~10-7Pa程度に減圧する。続いて、ガス導入装置18を用いて外部から酸素ガスを注入し、酸素分圧を例えば10-2~10-5Pa程度に設定する。酸素分圧は、0.5×10-3~2.0×10-3Paであってもよい。次に、ランプ光源17からランプ光を基板2に集光させて、基板2を所定の基板温度まで加熱する。所定の基板温度は、例えば400~700℃である。所定の基板温度は、600~650℃であってもよい。

【0034】
次に、チャンバ11の窓13からレーザ光Lをチャンバ11内に照射する。このレーザ光Lはパルスレーザ光であって、高いエネルギー密度を有し、ターゲット12に照射される。例えば、このレーザ光Lは波長が248nmであるKrFエキシマレーザ(フッ化クリプトンエキシマレーザ)である。チャンバ11内に導入されるレーザ光Lの総エネルギー(レーザエネルギー量)は、50mJ以上である。また、レーザ光Lの総エネルギーは、50~150mJであってもよい。ターゲット12の表面12aにレーザ光Lが照射されると、ターゲット12の表面12aにあるMgOが剥離される。剥離されたMgOは、基板2の主面2aに堆積し、エピタキシャル成長する。これにより、処理膜3が形成される。

【0035】
以上、SrTiOの(111)面又はYSZの(111)面に処理膜3を直接堆積させてエピタキシャル成長させることにより、(111)面の処理膜3が形成され、処理板1が製造される。レーザアブレーション法により成膜する場合には、分子線ビームエピタキシー法等により成膜する場合と比べて成膜時のエネルギーが大きいものとなる。成膜時のエネルギーが大きいことが、MgO(111)面の形成に寄与しているものと考えられる。

【0036】
なお、上述した実施形態は本発明に係る処理板及び作成方法の一例を示すものである。本発明に係る処理板及び作成方法は、上述した実施形態に限られるものではない。請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施形態に係る処理板及び作成方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。

【0037】
例えば、上述した実施形態では、不純物がドープされている基板2を例に説明したが、これに限定されることはない。基板2として、不純物がドープされていないSrTiO等を用いてもよい。

【0038】
また、上述した実施形態では、処理板1の製造工程において基板2をランプ光源17からの光により加熱する方法を例に説明したが、これに限定されることはない。基板2の加熱には種々の方法を用いることができる。例えば、ランプ光源17からの光に代えて、赤外線レーザを用いてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、上記効果を説明すべく本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。
【実施例】
【0040】
(実施例)
図3に示す製造装置10を用いて実施例に係る処理板を作成した。実施例として、基板の主面に(111)面を表面とするMgOからなる処理膜を形成した。製造装置10の具体的構成及び作成条件は以下の通りである。
ターゲット:MgO単結晶ターゲット
基板:Nbがドープされた(111)面を表面に持つSrTiO(Nbのドープ量は0.5重量パーセント)
レーザ光源:コヒーレント社製 エキシマレーザ COMPexPro201
レーザ波長:248nm
レーザエネルギー量:100mJ
レーザーパルスの周波数:10Hz
(比較例)
図3に示す製造装置10を用いて比較例に係る処理板を作成した。基板の主面に(100)面を表面とするMgOからなる処理膜を形成した。製造装置10の具体的構成及び作成条件は、基板以外は実施例と同様である。
基板:Nbがドープされた(100)面を表面に持つSrTiO(Nbのドープ量は0.5重量パーセント)
【実施例】
【0041】
(構造評価)
実施例に係る処理膜3の構造評価を行った。図4は、実施例に係る処理板のX線回折パターンを示す。図4において、グラフG1は基板の温度が400℃であるときに形成された処理板のパターン、グラフG2は基板の温度が500℃であるときに形成された処理板のパターン、グラフG3は基板の温度が600℃であるときに形成された処理板のパターン、グラフG4は基板の温度が700℃であるときに形成された処理板のパターンである。また、これらの処理板の処理膜は、酸素分圧が1×10-3Paの環境下において形成された。グラフG1~グラフG4に示すように、いずれの温度条件下においても、MgOの(111)面を示す箇所D1、及び(222)面を示す箇所D2にピークが現れることが確認された。これにより、基板の温度が400~700℃の範囲において、(111)面を表面とするMgOからなる処理膜が形成されることが確認された。また、レーザエネルギー量が100mJの時に、(111)面を表面とするMgOからなる処理膜が形成されることが確認された。成膜時のエネルギーが大きいことが、MgO(111)面の形成に寄与していることを考慮すると、少なくとも100mJ以上のレーザエネルギー量であれば、(111)面を表面とするMgOが形成されることが示唆されたといえる。
【実施例】
【0042】
(表面観察結果)
原子間力顕微鏡を用いて実施例に係る処理板1の処理膜の表面を観察した。観察対象の実施例のサンプルとして、処理膜成膜時の基板温度が600~650℃、酸素分圧が1.5×10-3Paで作成されたものとした。原子間力顕微鏡として、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPI3800Nプローブステーションを用いた。測定条件として、サンプル表面の2マイクロメートル四方を大気下において観察した。結果を図5に示す。図5の(a)が実施例に係る処理板の処理膜の膜厚が5nmのAFM像、(b)が膜厚10nmのAFM像、(c)が膜厚20nmのAFM像、(d)が膜厚50nmのAFM像である。図5の(a)では、最も黒い部分が0.81nmを表示し、最も白い部分が1.36nmを表示している。図5の(b)では、最も黒い部分が0.00nmを表示し、最も白い部分が1.89nmを表示している。図5の(c)では、最も黒い部分が0.00nmを表示し、最も白い部分が2.98nmを表示している。図5の(d)では、最も黒い部分が0.00nmを表示し、最も白い部分が13.31nmを表示している。図5の(a)~(c)に示すAFM像に示すとおり、膜厚が5~20nmのMgO(111)の表面は、凹凸の少ない膜として成長していることが確認できた。一方、膜厚が50nmのMgO(111)の表面は、凹凸が比較的多い膜として成長していることが確認できた。また、AFM像の測定と合わせて二乗平均平方根粗さRを計測した。膜厚5nmのとき二乗平均平方根粗さRは0.3037nm、膜厚10nmのとき二乗平均平方根粗さRは0.2992nm、膜厚20nmのとき二乗平均平方根粗さRは0.4702nm、膜厚20nmのとき二乗平均平方根粗さRは1.580nmとなった。二乗平均平方根粗さRの測定結果の通り、実施例に係る処理板1の処理膜は、膜厚が50nmを超えない範囲で二乗平均平方根粗さRが0.5nm以下であり、平坦面であることが確認された。具体的には膜厚が5~20nmの場合に、二乗平均平方根粗さRが0.5nm以下であり、平坦面であることが確認された。
【実施例】
【0043】
(表面特性評価)
実施例に係る処理板1、及び比較例に係る処理板の表面特性を評価した。基板表面の化学的性質(酸性・塩基性)を評価する吸着実験の被吸着剤として、COやNHが最も標準的に採用されている。ここではCOを用いて吸着特性及び還元特性を評価した。この評価では、COのガス昇温脱離特性を測定することにより、COの吸着特性、すなわち表面の塩基性を評価した。また、COのガス昇温脱離特性を測定することにより、COの還元特性、すなわち化学的活性の度合いを評価した。ガス昇温脱離特性は、四重極質量分析法を用いて測定した。四重極質量分析法は、高周波電圧が印加された4つの電極管にイオンを通過させることによりイオンに摂動を付加し、所望のイオンのみを通過させて、通過したイオンの質量を測定する方法である。この評価では、実施例として基板の温度が650℃の状態において作成された厚さが50nmの処理膜を備える処理板を用いた。また、比較例として、基板の温度が650℃の状態において作成されたMgOの(100)面からなる表面を有する、厚さが5nmの処理膜を備える処理板を用いた。
【実施例】
【0044】
図6(a)は、実施例に係る処理板のCO及びCOのガス昇温脱離特性を示す。図6(a)において、グラフG5は、COのガス昇温脱離特性を示し、グラフG6はCOのガス昇温脱離特性を示す。グラフG5に示すように、50℃付近から表面3aからCOの脱離が生じていることが確認された。また、グラフG6に示すように、50℃付近から表面3aにおけるCOが還元されてCOが発生し、さらに、100℃付近から多量のCOが生じていることが確認された。従って、処理膜3を用いたCOの還元方法では、紫外線などを照射することなく、COの還元が表面3aにおいて進行することが確認された。すなわち、50℃~100℃という比較的低温において二酸化炭素の還元が生じていることから、実施例に係る処理板の処理膜は強い化学的活性を有することが確認された。
【実施例】
【0045】
図6(b)は、比較例に係る処理板のCO及びCOのガス昇温脱離特性を示す。図6(b)において、グラフG7は、COのガス昇温脱離特性を示し、グラフG8はCOのガス昇温脱離特性を示す。グラフG7に示すように、50℃付近から表面からCOの脱離が生じていることが確認された。一方、グラフG8に示すように、COの発生量はほぼゼロであり、処理膜を加熱してもCOが還元されないため、COが生じないことが確認された。
【実施例】
【0046】
そして、グラフG5とグラフG7とを比較すると、実施例に係る処理膜からのCOの脱離量は、比較例に係る処理膜からのCOの脱離量よりも多いことが確認された。従って、MgOの(111)面からなる表面を有する処理膜は、MgOの(100)面からなる表面を有する処理膜に比べて、効率よくCOを吸着することができることが確認された。すなわち、実施例に係る処理板の処理膜は比較例に係る処理板の処理膜に比べて表面の塩基性が強いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
従来、薄膜基板として、天然に存在する(100)面を表面とするMgO基板が用いられている。一方、MgOの(111)面の格子定数は、現在市販されている三角格子が表面に形成される基板の格子定数とは異なる。従って、本実施形態に係る処理板1は新たなエレクトロニクス薄膜成長用の基板として有用である。
【0048】
さらに、従来、薄膜成長の基板を選ぶときは、主に格子定数の整合が重視され基板表面における触媒能等は重視されていない。一方、本実施形態に係る処理板1は、基板表面垂直方向の分極に起因した強い塩基性及び化学的活性を有する。このため、薄膜等の結晶成長のための基板として、付加価値を有することが可能である。例えば、本実施形態に係る処理板1は、ソフト溶液プロセスによる薄膜成長用の基板として、又は、CVD用の基板として採用されてもよい。また、本実施形態に係る処理板1上に薄膜を作成後、該処理板1の処理膜の分極を利用して薄膜の電子状態を変調させることもできる。また、非特許文献1記載のマグネタイトFeの自然成長面は(100)面ではなく(111)面または(110)面である。このため、本実施形態に係る処理板1上にFeを形成することで、より良質なFe膜を形成することができると予想される。また、非特許文献2,3記載のMgOの(111)面は、何れも平坦でないと推認されるため、本実施形態に係る処理板1の平坦なMgOの(111)を用いることで、非特許文献2,3記載の作用効果がより顕著になると想定される。すなわち、本実施形態に係る処理板1は、非特許文献2に記載のスピネル構造を持つ強磁性体の薄膜用基板として有用である。また、平坦面であることを利用して、磁気トンネル接合等、界面粗さを押さえる必要のあるデバイスに好適に採用することができる。さらに、本実施形態に係る処理板1は、非特許文献3に記載の強誘電薄膜用の基板としても有用である。また、MgOの(111)面であること、平坦面であることを利用して、所望の特性を持つ誘電体薄膜の膜厚を確実に薄くすることができる。さらに、処理板1は、例えば、MOCVD等のように分子を反応させつつ基板に堆積させるプロセスを有する処理に用いることができる。
【0049】
さらに、触媒として、プラチナ、パラジウムなどの貴金属或いは貴金属と酸化物のハイブリッドが用いられている。しかし、これらの物質は希少であり毒性を有する場合もある。一方、本実施形態に係る処理板1はMgOを用いている。MgOはありふれた物質であると共に毒性を有していない。従って、本実施形態に係る処理板1は環境汚染を心配する必要がない。さらに、MgOが生体に対して毒性を持たないため、本実施形態に係る処理板1は生体内の酸性分子の選択的吸着に利用することができる。例えば、本実施形態に係る処理板1を、生体分子(蛋白質、ウィルス、アミノ酸)の検出素子である、いわゆるバイオセンサーとして応用することができる。具体的には、生体分子の吸着前後における処理板1の電気伝導度の変化から、生体分子を検出することができる。よって、診断薬、検査薬として使用することができる。
【0050】
そして、化石燃料の使用によりCOが増加し続けている。このCOは化学的に極めて安定であるため、大気圧、室温条件下では他の化学種へ改変することは容易ではない。このため、COを集めて閉じ込めたり、有効に利用する方法が研究されている。本実施形態に係る処理板1によれば、MgO(111)を表面(吸着面)とすることで、COを効率よく吸着することができる。従って、COを容易に貯蔵することが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る処理板1によれば、COを処理膜に吸着させた後に処理膜を加熱することによりCOをCOに還元することが可能である。従って、容易にCOを還元することができるため、COを出発原料とした反応工程を実現することが可能となる。従って、COを有効に利用することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る処理板1の処理膜は基板の上に形成されている。このため、処理板の取り回しを容易にすることができる。さらに基板を介して別の部材と結合させることができる。その上、例えば、不純物がドープされ導電性を有する基板であるとき、基板に印加する電圧を制御することにより処理膜の温度を容易に制御することが可能である。処理膜の温度制御により、処理膜におけるCOの吸着又は還元(脱離)を容易に制御することができる。また、例えば、黒みを帯びた色の基板等、光の透過率が低い基板であるとき、基板に太陽光が照射されると50℃程度まで基板の温度が上昇することが考えられる。これによれば、人為的にエネルギーを注入することなく、処理板においてCOの吸着、還元(脱離)が行われる。そのため、処理板を用いて植物が夜間に吐き出したCOを吸着して蓄え、昼間に処理板からCOを脱離させて光合成の原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…処理板、2…基板、3…処理膜、5…処理装置、10…製造装置、11,21…チャンバ、12…ターゲット、13…窓、14…排気装置、15…レーザ光源、16、25…加熱装置、17…ランプ光源、18…ガス導入装置、G1~G8…グラフ、L…レーザ光。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図6】
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【図5】
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