TOP > 国内特許検索 > ナノ空間を利用した有機化合物の製造方法 > 明細書

明細書 :ナノ空間を利用した有機化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-237635 (P2013-237635A)
公開日 平成25年11月28日(2013.11.28)
発明の名称または考案の名称 ナノ空間を利用した有機化合物の製造方法
国際特許分類 C07C  29/10        (2006.01)
C07C  35/14        (2006.01)
C07F   1/08        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 29/10
C07C 35/14
C07F 1/08 C
C07D 487/22
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 8
出願番号 特願2012-111022 (P2012-111022)
出願日 平成24年5月14日(2012.5.14)
発明者または考案者 【氏名】金子 克美
【氏名】阿部 梢
【氏名】伊藤 努武
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100093665、【弁理士】、【氏名又は名称】蛯谷 厚志
【識別番号】100128495、【弁理士】、【氏名又は名称】出野 知
【識別番号】100147142、【弁理士】、【氏名又は名称】石森 昭慶
審査請求 未請求
テーマコード 4C050
4H006
4H039
4H048
Fターム 4C050PA12
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA32
4H006BB31
4H006BD20
4H006BE60
4H006FC22
4H006FE12
4H039CA42
4H039CA60
4H039CF90
4H039CH30
4H048AA02
4H048AC28
4H048BA32
4H048BB20
4H048BD20
4H048VA56
4H048VB10
要約 【課題】高圧有機合成反応の高圧条件を、効率的、かつ、省エネルギー的に常圧下で再現できる、有機化合物を製造する方法を提供し、さらに、本発明は、その有機化合物を製造する方法を使用して製造された、収率性が良好な有機化合物を提供すること。
【解決手段】本発明による有機化合物を製造する方法、ナノ空間の反応場を有する物質を用いて有機合成反応を行うことを特徴とする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ナノ空間の反応場を有する物質を用いて有機合成反応を行うことを特徴とする、有機化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記有機合成反応が擬高圧有機合成反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機化合物の結晶核が、前記ナノ空間の反応場内に存在する反応液中で生成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機化合物の前記結晶核が、前記ナノ空間の反応場内に存在する前記反応液から溶出して、前記ナノ空間の反応場外に存在する反応液中で成長する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ空間の反応場を有する物質が、ナノ細孔空間の反応場を有する物質である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ細孔空間の反応場を有する物質が結晶性ナノ細孔体又は非晶性ナノ細孔体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノ細孔空間の反応場を有する物質が炭素材料である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ細孔空間の反応場を有する物質がカーボンナノチューブ又は細孔性カーボンである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された有機化合物。
【請求項10】
光学活性な化合物である、請求項9に記載の有機化合物。
【請求項11】
ジオール化合物である、請求項9に記載の有機化合物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ空間を用いた有機化合物の製造方法、及びその方法を使用して製造された有機化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化が重視される中、有用な有機合成反応をいかに効率良く、低エネルギーで行うかが注目を集めている。有用な有機合成反応の一つである高圧有機合成反応は、反応速度、収率の増大等の観点から、医薬品等の製造で利用されているものの、高圧条件を生み出すこと自体に膨大なエネルギーを必要とするので、実用化又は製造化に対しては、クリアーすべき問題が多いのが現状である。
【0003】
したがって、高圧有機合成反応等の有用な有機合成反応を実用的に問題ないように改良すべく、現在、研究開発が盛んに行われている。例えば、非特許文献1は、SWCNH(Single Wall Carbon Nanohorn)において、1.9GPaでないと固体相転移が起こらない物質が、固体相転移を起こすことを述べている。すなわち、非特許文献1を参照すると、SWCNH先端から2~3nmくらいにKIを入れ、このKIがどういう結晶形であるかを調べると、多くのものは基本的には常圧相の強いピークであるが、弱いピークも見られ、これが1.9GPaでなければできない相であり、非常に小さい空間の中に入ったものは極めて高圧の効果を受けていることを見出している。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Confinement in Carbon Nanospace-Induced Production of KI Nanocrystals of High Pressure Phase, K. Urita, Y. Shiga, T. Fujimori, Y. Hattori, H, Kanoh, T. Ohba, H. Tanaka, M. Yudasaka, S. Iijima, I, Moriguchi, F. Okino, M. Endo, K. Kaneko, J. Amer. Chem. Soc. 133, 10344-10347 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高圧有機合成反応の高圧条件を、効率的、かつ、省エネルギー的に常圧下で再現できる、有機化合物を製造する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、その有機化合物を製造する方法を使用して製造された、収率性が良好な有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、ナノ空間を有する物質を用いて有機合成反応を行うことによって、驚くべきことに、高圧有機合成反応の高圧条件を、効率的、かつ、省エネルギー的に常圧下で再現できる、有機化合物を製造する方法を得ることができることを見出し、さらには、その有機化合物を製造する方法を使用することによって製造された有機化合物を、高収率で得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記目的を達成するための具体的な手段は、以下の第(1)項~第(11)項である。
(1)ナノ空間の反応場を有する物質を用いて有機合成反応を行うことを特徴とする、有機化合物を製造する方法。
(2)その有機合成反応が擬高圧有機合成反応である、第(1)項に記載の方法。
(3)その有機化合物の結晶核が、前記ナノ空間の反応場内に存在する反応液中で生成される、第(1)項又は第(2)項に記載の方法。
(4)その有機化合物のその結晶核が、そのナノ空間の反応場内に存在するその反応液から溶出して、そのナノ空間の反応場外に存在する反応液中で成長する、第(3)項に記載の方法。
(5)そのナノ空間の反応場を有する物質が、ナノ細孔空間の反応場を有する物質である、第(1)項から第(4)項のいずれか1項に記載の方法。
(6)そのナノ細孔空間の反応場を有する物質が結晶性ナノ細孔体又は非晶性ナノ細孔体である、第(5)項に記載の方法。
(7)そのナノ細孔空間の反応場を有する物質が炭素材料である、第(5)項に記載の方法。
(8)そのナノ細孔空間の反応場を有する物質がカーボンナノチューブ又は細孔性カーボンである、第(5)項に記載の方法。
(9)第(1)項~第(8)項のいずれか1項に記載の方法を使用して製造された有機化合物。
(10)光学活性な化合物である、第(9)項に記載の有機化合物。
(11)ジオール化合物である、第(9)項に記載の有機化合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高圧有機合成反応の高圧条件を、効率的、かつ、省エネルギー的に常圧下で再現できる、有機化合物を製造する方法が提供される。さらに、本発明によれば、その有機化合物を製造する方法を使用して製造される、収率性が良好な有機化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明による有機化合物(反応生成物)及び市販品トランス-1,2-ヘキサンジオールのフーリエ変換赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、本発明による有機化合物(反応生成物)及び市販品銅フタロシアニンの光吸収スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、加熱時間(反応時間)に対する、本発明による方法によって製造された銅フタロシアニン、及び本発明による方法によって製造されていない銅フタロシアニンの収率変化の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)有機化合物を製造する方法
本発明による有機化合物を製造する方法は、ナノ空間の反応場を有する物質を用いて有機合成反応を行うことを特徴とする。本発明による方法は、ナノ空間の反応場を有する物質を用いて有機合成反応が実行されるので、高圧有機合成反応の高圧条件を、効率的、かつ、省エネルギー的に常圧下で再現することが可能となる。ここで、常圧とは、特別に減圧も加圧もしないときの圧力をいい、通常、大気圧に等しい圧力であって、約一気圧である。本発明による方法は、高圧有機合成反応で通常使用されるオートクレーブを必要としないので、安全性の確保、設置に必要なスペースの確保、消費される膨大なエネルギー量の確保等が不要である。また、本発明による方法は、消費される膨大なエネルギー量の確保等が不要であるためエネルギーコストがかからない。さらに、オートクレーブの設置は、安全性の観点から法的な規制を受けるため多大なコストがかかるが、本発明による方法はそのようなコストはかからない。したがって、本発明による方法は、従来の高圧有機合成反応による有機化合物を製造する方法と比較して低コストを実現することができる。ここで、ナノ空間の反応場とは、ナノ空間内で有機合成反応が実行されるところをいう。そして、ナノ空間の反応場は化学的に安定でありながら、反応物質の分子に対して強い求引力があるので、反応場は求引場とも称されることがある。ナノ空間の大きさが、反応物質の分子サイズに近いほど、ナノ空間の反応場を有する物質と反応物質との相互作用ポテンシャル井戸は深くなり、ナノ空間の反応場を有する物質と反応物質との吸着が強くなる。ナノ空間の大きさ(孔径)は0.5nm~20nmであることが好ましく、1nm~5nmであることがより好ましい。

【0011】
本発明による有機化合物を製造する方法において行われる有機合成反応は、擬高圧有機合成反応であることが好ましい。本発明における擬高圧有機合成反応とは、ナノ空間内の分子・細孔間の強い相互作用由来の擬高圧効果によって事実上高圧にする必要がないにもかかわらず、数百~数万気圧という高圧相当のナノ空間中での有機合成反応をいう。

【0012】
本発明による有機化合物を製造する方法で製造される有機化合物の結晶核は、本発明による方法で用いられるナノ空間の反応場を有する物質のナノ空間の反応場内に存在する反応液中で生成されることが好ましい。ナノ空間の高圧分子場(擬高圧下の反応場)の求引作用によって、ナノ空間内に安定な結晶核が生成される。結晶核の大きさは0.5nm~2nmであることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。

【0013】
有機化合物の結晶核は、ナノ空間の反応場内に存在する反応液から溶出して、ナノ空間の反応場外に存在する反応液中(バルク反応液中)に拡散して、結晶核にバルク反応液中に存在する反応物質の分子が拡散反応することが好ましく、結晶核は、ナノ空間の反応場外に存在する反応液中で成長して生成物となることができる。

【0014】
本発明による有機化合物を製造する方法で用いられるナノ空間の反応場を有する物質はナノ細孔空間の反応場を有する物質であることが好ましい。ナノ細孔空間の大きさ(細孔径)は100nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。ナノ細孔空間の反応場を有する物質は、結晶性ナノ細孔体又は非晶性ナノ細孔体であることが好ましい。結晶性ナノ細孔体は、結晶性ナノ細孔体であれば特に限定されることはないが、例えば、ゼオライト、多孔性高分子錯体、金属有機構造体等が挙げられる。非晶性ナノ細孔体は、非晶性ナノ細孔体であれば特に限定されることはないが、例えば、活性炭、メソ細孔性シリカ等が挙げられる。

【0015】
また、ナノ細孔空間の反応場を有する物質は炭素材料であることが好ましい。炭素材料は、炭素材料であれば特に限定されることはないが、例えば、活性炭、カーボン、カーボンナノチューブ、細孔性カーボン等が挙げられる。炭素材料が、カーボンナノチューブ又は細孔性カーボンであることがより好ましい。

【0016】
さらに、ナノ細孔空間の反応場を有する物質は、壁細孔体又は柱細孔体でもよい。

【0017】
本発明による有機化合物は、本発明による有機化合物を製造する方法を使用して製造された有機化合物である。本発明による有機化合物は、本発明による有機化合物を製造する方法を使用して製造された有機化合物であれば、特に限定されることはないが、光学活性な化合物であることが好ましい。ナノ空間又はナノ細孔空間の反応場を有する物質を用いて、本発明による方法の有機合成反応を行うと、立体選択的な反応となる場合があり、医薬等に有用な光学活性な化合物が生成される場合がある。このことは、製造される有機化合物が立体異性体を有する場合、ナノ空間又はナノ細孔空間は、反応場として利用できる空間が制限されているため、製造される有機化合物の立体異性体の少なくとも1つの分子サイズが非常に大きいものである場合、分子サイズが小さい、少なくも1つの立体異性体が、優先的に立体選択的に合成されて製造される場合があるからである。

【0018】
光学活性な化合物は、光学活性を有する化合物であれば、特に限定されることはないが、例えば、マダンガミンA、ロタキサン、カテナン等の医薬用途の化合物等が挙げられる。

【0019】
また、本発明による有機化合物は、ジオール化合物であることが好ましい。ジオール化合物は、特に限定されることはないが、例えば、トランス-1,2-シクロヘキサンジオール等が挙げられる。

【0020】
さらに、本発明による有機化合物は、フタロシアニン及びジオール化合物であることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。なお、本発明は、その目的及び主旨を逸脱しない範囲で以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
以下、ナノ細孔空間を用いた常圧下における擬高圧有機合成反応が進行したことを確認するため、実際にナノ細孔空間を用いてエポキシド開環反応と銅フタロシアニン合成反応を実施した。
【実施例】
【0023】
【化1】
JP2013237635A_000002t.gif
【実施例】
【0024】
まず、上記のエポキシド開環反応について説明する。1,2-エポキシシクロヘキサン・水にあらかじめ真空にひいた細孔のあるカーボンを、アセトンを混合した溶液に含浸して(真空にひかなくても溶液に含浸するだけでもよい。)カーボンナノ細孔空間に導入し、60℃で長時間加熱し続けた。また、比較のために耐圧容器を用いて同様の反応をカーボン無しで行った。
【実施例】
【0025】
図1にカーボンナノ細孔空間を用いた時に得られた反応生成物と市販品のトランス-1,2-ヘキサンジオールのフーリエ変換赤外線吸収スペクトルを示す。この結果より反応生成物がエポキシド開環反応によって得られたトランス-1,2-ヘキサンジオールであることを確認した。一方、カーボン無しの場合は反応生成物が得られなかったため、ナノ細孔空間を用いた常圧下における高圧有機合成反応が進行していることが明らかになった。
【実施例】
【0026】
反応機構を検討するために、カーボンナノ細孔空間を用いた上記の反応を短時間で行った後、カーボンを除去し、残存液でさらに反応が進行するかどうかを検討した。その結果、残存液を用いてもカーボンナノ細孔空間を使用し続けた場合とほぼ同じ収率を示したため、ナノ細孔空間を用いたトランス-1,2-ヘキサンジオール合成反応のメカニズムが推定された。それは、反応の初期過程において、まず反応中間体を経て生成物の結晶核がナノ細孔空間で生成され、それらがナノ細孔空間からバルクに拡散して反応を促進させるというものである。
【実施例】
【0027】
【化2】
JP2013237635A_000003t.gif
【実施例】
【0028】
次に、上記の銅フタロシアニン合成反応について説明する。フタロニトリルと塩化銅(II)を溶解したジメチルホルムアミド溶液をカーボンナノ細孔空間に導入し、100℃で長時間加熱し続けた。また、比較のために耐圧容器を用いて同様の反応をカーボン無しで行った。
【実施例】
【0029】
図2にカーボンナノ細孔空間を用いた時に得られた反応生成物と市販品の銅フタロシアニンの光吸収スペクトルを示す。この結果より反応生成物が目的のものであることを確認した。
【実施例】
【0030】
続いて、図3に加熱時間に対する銅フタロシアニンの収率変化を示す。カーボンナノ細孔空間を使用した場合は、反応開始10時間後より収率が劇的に増加する。これに対してカーボン無しの場合は、加熱時間に対する収率の変化が認められず、長時間反応後の最終的な収率はカーボンナノ細孔空間を使用したものよりも低下している。これは、カーボンナノ細孔空間が銅フタロシアニン合成反応を促進していることを示している。
【実施例】
【0031】
実施例により、本発明の効果を確認することができた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2