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明細書 :制振合金の処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2013-221191 (P2013-221191A)
公開日 平成25年10月28日(2013.10.28)
発明の名称または考案の名称 制振合金の処理方法
国際特許分類 C21D   6/00        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
C21D   8/00        (2006.01)
FI C21D 6/00 101B
C22C 38/00 302T
C21D 8/00 D
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2012-094311 (P2012-094311)
出願日 平成24年4月18日(2012.4.18)
発明者または考案者 【氏名】渡辺 義見
【氏名】須賀 裕介
【氏名】佐藤 尚
出願人 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
審査請求 未請求
テーマコード 4K032
Fターム 4K032AA17
4K032AA18
要約 【課題】制振合金に対し、材料組成を変化させずに制振特性と強度とを同時に向上する方法を提供する。
【解決手段】材料に加工と熱処理を繰り返し施すことによって、制振特性を支配するεマルテンサイト相を微細化し、そのマルテンサイト相の数密度(単位体積あたりの個数)を増加させる。この加工時において、振動と同一の変形モードで加工を行うことにより、振動中に移動しやすい制振源を優先的に発生させ、高い減衰能を発現させる。
【選択図】図8
特許請求の範囲 【請求項1】
制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、加工によりマルテンサイト相が生じる温度まで冷却し、その温度以下にて塑性加工を施すという操作を繰り返すことによりマルテンサイト相のバリアントを制御した制振合金の処理方法。
【請求項2】
前記塑性加工が振動と同一の変形モードによる塑性加工である請求項1に記載の制振合金の処理方法。
【請求項3】
前記制振合金がFe-Mn系の制振合金である請求項1または2に記載の制振合金の処理方法。
【請求項4】
前記マルテンサイト相がεマルテンサイト相である請求項1~3のいずれかに記載の制振合金の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、強度とともに高い振動減衰能(制振能)を有する制振合金を得る処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制振合金とは、金属材料でありながら高い振動減衰能(制振能)を有している材料のことである。制振合金は、従来制振材料として使用されていたプラスチックや高分子材料に比べて強度や耐熱性といった点で優れているが、制振能の面では劣っている。
【0003】
制振合金の強度と内部摩擦の値(Q-1)との関係を図1に示す。ここで、内部摩擦の値(Q-1)は制振能をあらわす指標であり、内部摩擦の値が大きいほど制振能が高い。図1のように、制振合金は非常に高い内部摩擦を示すグループ、鋳鉄やステンレス鋼や鋼のグループ、およびアルミや銅合金の3つの分類に分けられるが、何れのグループにおいても、強度と制振能とは二律背反の関係にあり、強度を兼ね備えた高性能制振合金の開発が求められている。
【0004】
制振能と強度とを同時に向上させる技術として、特許文献1や非特許文献1に示されているトレーニング処理や加工レーニング処理がある。ここで、トレーニング処理や加工トレーニング処理は、通常、形状記憶合金の形状記憶効果向上を目的として施される処理であり、マルテンサイト変態と逆変態とを繰り返すことにより、組織の微細化と均一化を生じせしめ、形状記憶効果向上を達成させる技術である。形状記憶効果向上の要因として、オーステナイト母相強化によるすべり変形の抑制、εマルテンサイトの核となる積層欠陥の導入、同じバーガースベクトルを持った部分転位の密度増加、トレーニング後の組織では低倍率では1枚に見えるε板がナノスケールのオーステナイト/ε積層状態になっていることなどが報告されている。
【0005】
特許文献1記載のFe‐Mn系制振合金の制振特性を向上させるトレーニング処理として、Fe‐Mn系制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、水冷し、その後、液体窒素やドライアイスなどを用いたサブゼロ処理にて、より低い温度まで急冷し、この熱処理を繰り返すことによって行う方法が示されている。また、特許文献1において加工トレーニング処理として、Fe‐Mn系制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、水冷し、その後、液体窒素やドライアイスなどを用いたサブゼロ処理にて、より低い温度まで急冷し、制振特性をさらに向上させるために、この熱処理プロセスの間に圧延や鍛造などにより材料へ加工を加え、この熱処理と加工を繰り返すことによって、前記合金の制振特性を向上させる方法が示されている。この加工トレーニング処理では、前記トレーニング処理に加工プロセスを加えた処理に相当し、トレーニング処理と比較して大きな制振能向上が認められている。
【0006】
ここで、Fe-Mn系制振合金の制振能発現の要因は、 積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界の振動(移動)であることが報告されている(非特許文献2)。積層欠陥とは面状に形成された2次元的格子欠陥であり、ABCABCABCという面心立方格子の最密面積層の一部がABCABABCAのごとく乱れた部分をさす。また、εマルテンサイトとはhcp構造のマルテンサイト相であり、バリアント境界とはこのεマルテンサイト内の兄弟晶の境界を指す。上記のトレーニング処理では、制振能発現の要因を増加することが可能な技術であるが、単に積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界の密度を増加するだけで、実際に制振能向上に関わらない方位を持つ要因の密度も増加させていたことになる。また、特許文献1記載の発明の加工トレーニング処理は圧延あるいは鍛造を行うものとしており、この加工によって優先的に発生した積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界が振動減衰に有効に寄与する保証はない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2008-196022号公報
【0008】

【非特許文献1】Yoshimi Watanabe, Hisashi Sato, Yoichi Nishino and Ick Soo Kim; Mater. Sci. Eng. A, 490, Nos. 1-2, (2008) 138-145.
【非特許文献2】K.-K. Lee, K. Ito, M.-C. Shin, ISIJ Int. 34 (1994) 912-916.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、制振合金において強度とともに高い減衰能(制振能)を発現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、加工方法を工夫することにより、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の製造方法が提供される。
【0011】
[1]制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、加工によりマルテンサイト相が生じる温度まで冷却し、その温度以下で塑性加工を施すという操作を繰り返すことによりマルテンサイト相のバリアントを制御した制振合金の処理方法。
【0012】
[2]前記塑性加工が振動と同一の変形モードによる塑性加工である前記[1]に記載の制振合金の処理方法。
【0013】
[3]前記制振合金がFe-Mn系の制振合金である前記[1]または[2]に記載の制振合金の処理方法。
【0014】
[4]前記マルテンサイト相がεマルテンサイト相である前記[1]~[3]のいずれかに記載の制振合金の処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】制振合金における引張強度と内部摩擦の値(Q-1)との関係を表す図である。
【図2】内部摩擦測定に用いた装置を示す図である。
【図3】Fe‐Mn合金の状態図である。
【図4】本発明で行った加工トレーニング処理の熱処理と加工のフローを示す図である。
【図5】本発明の曲げ加工で使用した金型を示す図である。
【図6】加工トレーニング処理を施こす前の試料の光学顕微鏡で観察した図である。
【図7a】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。LD(長手)方向に2サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図7b】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。LD(長手)方向に4サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図7c】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。LD(長手)方向に6サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図7d】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。WD(巾)方向に2サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図7e】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。WD(巾)方向に4サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図7f】加工方向および加工サイクル数を変えて加工トレーニングを行った後の試料を光学顕微鏡で観察した図である。WD(巾)方向に6サイクルの加工トレーニングが施されている。
【図8】加工トレーニング処理を施した試料および未処理試料の内部摩擦の値を示す図である。
【図9】加工トレーニング処理を施した試料および未処理試料のビッカース硬さ測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。

【0017】
本発明の合金はオーステナイトからマルテンサイトへと変態する合金であり、特に加工によって誘起されるεマルテンサイト相を含むことを特徴とする。より具体的にはFe‐Mn系の合金であり、FeとMnの合計が97質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、加工によりマルテンサイト変態が生じる温度まで、望ましくは冷却ではマルテンサイト変態が生じないが加工によりマルテンサイト変態が生じる温度まで冷却し、その温度以下で塑性加工を施すという操作を繰り返すことによりマルテンサイト相のバリアントを制御した制振合金の処理方法である。

【0018】
その塑性加工は振動と異なる変形モードで加工を行うのではなく、振動と同一の変形モードで加工を行うことにより、積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界を発生させる。これにより、優先的に発生した格子欠陥は振動中に移動しやすくなり、高い減衰能を発現させることが可能となる。

【0019】
振動と同一の変形モードである曲げ加工を有する加工トレーニング処理を行う。図2に本発明で内部摩擦測定に用いた装置を示す。図2に示すように、加振コイルにより試料に曲げのたわみを与えて振動させたのち、自由減衰させ、そのときの振動現象を検出コイルで測定する。このように、測定時、試料には曲げ変形が加わっている。そこで、この変形モードに注目し、加工トレーニング処理を行う。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例で使用した合金はFe‐17Mn(質量%)であり、試料のサイズは長さ81.0mm×幅10.5mm×厚み1.5mm(LD(長手)方向測定用)、及び長さ81mm×幅60.0mm×厚み1.5mm((WD(巾)方向測定用))である。図3にこの合金系の状態図を示す。約150℃以上でオーステナイト相安定、150℃以下でεマルテンサイト相安定となっている。このことを念頭に置き、以下の加工トレーニング処理法を行った。
【実施例】
【0021】
図4に本発明で実施した加工トレーニング処理法を示す。700℃に加熱し、2時間保持によりオーステナイト化した後に水冷し、室温で曲げ加工、その後の平面化加工を行った。この曲げ加工で用いた金型を図5に示す。曲げ加工により、試料長手方向中央31.4mmの位置において曲率半径10mmの曲げが導入される。なお、700℃での加熱によるオーステナイト化、室温での曲げ加工およびその後の平面化加工を1サイクルとし、最大6サイクルまでの加工トレーニング処理を施した。
【実施例】
【0022】
未処理材の光学顕微鏡による組織写真を図6に示す。図6から分かるように、εマルテンサイト相が観察される。しかしながらバリアントの配列は無秩序であり、様々な方向を向いている。これに対し、図7に加工トレーニング処理を施した試料の光学顕微鏡による組織写真を示す。上列は左から順に図7(a)、 図7(b)、図7(c)、下列は左から順に図7(d)、図7(e)、図7(f)である。ここで、図7(a)、図7(b)、図7(c)は、LD(長手)方向にそれぞれ2サイクル、 4サイクル、6サイクルの加工トレーニングを施したものであり、図7(d)、図7(e)、図7(f)は、WD(巾)方向にそれぞれ2サイクル、 4サイクル、6サイクルの加工トレーニングを施したものである。
【実施例】
【0023】
これらの図から分かるように、すべての組織写真からεマルテンサイト相が確認される。内部摩擦測定試料の長手方向(LD方向)へ曲げ加工を施した試料では、εマルテンサイトのバリアントが試料の長手方向へ配列している。一方、幅方向へ曲げ加工を施した試料では、εマルテンサイトのバリアントが試料の幅方向へ配列している。これらのことから、加工トレーニング処理をFe-Mn合金に施すことで、バリアントの配列が可能であり、その配列方向は曲げ加工方向に依存することが分かった。
【実施例】
【0024】
作製した試料の内部摩擦を図2に示した装置にて計測した。内部摩擦測定での振動は試料長手方向である。本発明の優位性を調査する目的で、加工トレーニング処理中の曲げが内部摩擦測定での振動と同じ方向になる測定(LD方向)、および加工トレーニング処理中の曲げが内部摩擦測定での振動と直交する方向(WD方向)においての測定を行った。WD方向測定材としては、長さ81.0mm×幅60.0mm×厚み1.5mmの状態で加工トレーニングを施した後、被加工部分を長さ81.0mm×幅10.5mm×厚み1.5mmとなるように切り出し、測定に供した。作製した試料の振動減衰能(内部摩擦の値)を図8に示す。トレーニング未処理材に比べて、加工トレーニングを行った材料の内部摩擦の値が大きい。このように、加工トレーニングを行うことにより制振能の向上が認められた。また、加工トレーニング処理中の曲げが内部摩擦測定での振動と同じ方向になる測定値、すなわちLD方向加工の測定値の方が、加工トレーニング処理中の曲げが内部摩擦測定での振動と直交する方向での測定値、すなわちWD方向加工での測定値に比べて大きいことが分かる。この結果、振動のモードと同一の変形モードで加工トレーニングを行えば、導入される積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界が、そのモードでの振動中に移動しやすいことを見いだした。
【実施例】
【0025】
このことは、未加工材のEBSD測定結果およびLD方向に2サイクリングの加工トレーニング処理を行った試料のEBSD測定結果からも説明できる。ここで、EBSDとは後方散乱電子回折を利用して結晶性試料の方位解析をする方法であり、電子回折パターンの方位解析を行いながら、電子プローブで試料表面を走査すると各位置での方位情報が得られ、これを利用して方位分布や相分布などの結晶方位解析を行うことができる。EBSD測定を行った結果、未加工材の結晶方位はランダムであり、集合組織は認められなかった。これに対し、LD方向に2サイクリングの加工トレーニング処理を行った試料では、特定のバリアントのεマルテンサイト相が優先的に形成していることがわかった。このように、振動モードと同一の変形モードで加工トレーニングを行うことにより、発生バリアントの制御が可能となり、必要な方向において優れた制振特性を示すようになる。さらに、加工トレーニング処理を施すことでεマルテンサイトの体積分率の増加および結晶粒微細化といった効果も同時に得られる。
【実施例】
【0026】
作製した試料のビッカース硬さを図9に示す。加工トレーニング処理を施すことで、ビッカース硬さが向上していることが分かる。さらに、トレーニング回数の増加に伴いビッカース硬さが向上している。このように、加工トレーニングを施すことにより、従来は二律背反の関係にあった強度と制振能を同時に改善できることが見いだされた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の処理方法は、強度とともに制振能がともに優れた制振材に利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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